(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165637
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】磁場制御機構を有するマイクロ流体チップ、マイクロ流体処理システム、およびマイクロ流体処理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20231109BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072028
(22)【出願日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】63/338,185
(32)【優先日】2022-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522054178
【氏名又は名称】國立陽明交通大學
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【弁理士】
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100129263
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 洋之
(72)【発明者】
【氏名】李 鎮宜
(72)【発明者】
【氏名】▲ヂァン▼ 耘昇
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058BA08
2G058DA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】同じ機器で標的抽出と生物医学検査とを行うことが可能なマイクロ流体チップ。
【解決手段】マイクロ流体チップが備えるマイクロ電極デバイス1の各々は、上部プレートの下のマイクロ流体電極11と、マイクロ流体電極11の下の多機能電極13と、多機能電極13の下の制御回路とを備える。制御回路の各々は、第1の記憶回路と、第2の記憶回路と、マイクロ流体制御および位置検出回路151と、温度および磁気制御回路153とを備える。第1の記憶回路の各々は、サンプル操作設定を読み込む。第2の記憶回路の各々は、磁場制御設定を読み込む。マイクロ流体制御および位置検出回路の各々は、サンプル操作設定に対応したサンプル制御状態となる。温度および磁気制御回路の各々は、磁場制御設定に対応した磁気制御状態となる。
【選択図】
図1D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部プレートと、
前記上部プレートの下に配置され、直列に接続された複数のマイクロ電極デバイスを備えるマイクロ電極ドットアレイと
を備えるマイクロ流体チップであって、
前記マイクロ電極デバイスの各々は、
前記上部プレートの下に配置されたマイクロ流体電極と、
前記マイクロ流体電極の下に配置された多機能電極と、
前記多機能電極の下に配置された制御回路とを備え、
前記制御回路は、
第1のクロック信号に従って、第1の時間間隔の分割時間間隔中に、サンプル操作設定を読み込むように構成される第1の記憶回路と、
第2のクロック信号に従って、第2の時間間隔の分割時間間隔中に、磁場制御設定を読み込むように構成される第2の記憶回路と、
前記マイクロ流体電極に結合され、サンプル制御信号に従って、第3の時間間隔中に、前記サンプル操作設定に対応したサンプル制御状態となるように構成されるマイクロ流体制御および位置検出回路と、
前記多機能電極に結合され、磁場制御信号に従って、第4の時間間隔中に、前記磁場制御設定に対応した磁気制御状態となるように構成される温度および磁気制御回路とを備える、
マイクロ流体チップ。
【請求項2】
前記マイクロ電極デバイスの各々について、
前記第2の記憶回路は、更に、前記第2のクロック信号に従って、第5の時間間隔の分割時間間隔中に、加熱制御設定を読み込むように構成され、
前記温度および磁気制御回路は、加熱制御信号に従って、第6の時間間隔中に、前記加熱制御設定に対応した加熱制御状態となるように構成される、
請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項3】
前記マイクロ電極デバイスの各々は、入力端子と出力端子とを有し、
最初のマイクロ電極デバイスを除く前記マイクロ電極デバイスの各々について、前記入力端子は、直前の前記マイクロ電極デバイスの前記出力端子に結合され、
前記マイクロ電極デバイスの各々について、
前記マイクロ流体制御および位置検出回路は、更に、位置検出信号に従って、第7の時間間隔中に、前記上部プレートと前記マイクロ流体電極との間の静電容量値を検出し、前記静電容量値を前記第1の記憶回路に記憶するように構成され、
前記第1の記憶回路は、更に、前記第1のクロック信号に従って、第8の時間間隔の分割時間間隔中に、前記静電容量値を出力するように更に構成される、
請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項4】
前記上部プレートと前記マイクロ電極ドットアレイとの間の空間内に液滴があり、前記液滴は、複数の磁気ビーズを含有した緩衝液であり、
前記磁場制御設定は、前記磁気ビーズを引き付けて、前記空間内の第1の領域内にとどめるために使用され、前記サンプル操作設定は、前記緩衝液の一部を、前記空間内の第2の領域に移動させるために使用される、
請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項5】
前記上部プレートと前記マイクロ電極ドットアレイとの間の空間内に、第1の液滴と、第2の液滴とがあり、前記第1の液滴は、複数の磁気ビーズを含有した第1の緩衝液であり、前記第2の液滴は、第2の緩衝液であり、
前記サンプル操作設定は、前記第1の液滴と前記第2の液滴とを混合するために使用され、前記磁場制御設定は、前記磁気ビーズを引き付けるために使用される、
請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項6】
制御装置と、
マイクロ流体チップと
を備えるマイクロ流体処理システムであって、
前記マイクロ流体チップは、
上部プレートと、
前記上部プレートの下に配置され、直列に接続された複数のマイクロ電極デバイスを備えるマイクロ電極ドットアレイとを備え、
前記マイクロ電極デバイスの各々は、
前記上部プレートの下に配置されたマイクロ流体電極と、
前記マイクロ流体電極の下に配置された多機能電極と、
前記多機能電極の下に配置された制御回路とを備え、
前記制御回路は、
第1の記憶回路と、第2の記憶回路と、前記マイクロ流体電極に結合されたマイクロ流体制御および位置検出回路と、前記多機能電極に結合された温度および磁気制御回路とを備え、
前記制御装置は、第1のクロック信号と、第2のクロック信号と、複数のサンプル操作設定と、複数の磁場制御設定と、サンプル制御信号と、磁場制御信号とを供給するように構成され、
前記第1の記憶回路の各々は、前記第1のクロック信号に従って、第1の時間間隔の分割時間間隔中に、前記サンプル操作設定のうちの1つを読み込むように構成され、
前記第2の記憶回路の各々は、前記第2のクロック信号に従って、第2の時間間隔の分割時間間隔中に、前記磁場制御設定のうちの1つを読み込むように構成され、
前記マイクロ流体制御および位置検出回路の各々は、前記サンプル制御信号に従って、第3の時間間隔中に、前記サンプル操作設定のうちの1つに対応したサンプル制御状態となるように構成され、
前記温度および磁気制御回路の各々は、前記磁場制御信号に従って、第4の時間間隔中に、前記磁場制御設定のうちの1つに対応した磁気制御状態となるように構成される、
マイクロ流体処理システム。
【請求項7】
前記制御装置は、更に、複数の加熱制御設定と加熱制御信号とを供給するように構成され、
前記第2の記憶回路の各々は、更に、前記第2のクロック信号に従って、第5の時間間隔の分割時間間隔中に、前記加熱制御設定のうちの1つを読み込むように構成され、
前記温度および磁気制御回路の各々は、前記加熱制御信号に従って、第6の時間間隔中に、前記加熱制御設定のうちの1つに対応した加熱制御状態となるように構成される、
請求項6に記載のマイクロ流体処理システム。
【請求項8】
前記マイクロ電極デバイスの各々は、入力端子と出力端子とを有し、
最初の前記マイクロ電極デバイスを除く前記マイクロ電極デバイスの各々について、前記入力端子は、直前の前記マイクロ電極デバイスの前記出力端子に結合され、
前記制御装置は、更に、位置検出信号を供給するように構成され、
前記マイクロ流体制御および位置検出回路の各々は、更に、前記位置検出信号に従って、第7の時間間隔中に、前記上部プレートと、対応する前記マイクロ流体電極との間の静電容量値を検出し、前記静電容量値を、対応する前記第1の記憶回路に記憶するように構成され、
前記第1の記憶回路の各々は、更に、前記第1のクロック信号に従って、第8の時間間隔の分割時間間隔中に、対応する前記静電容量値を出力するように構成される、
請求項6に記載のマイクロ流体処理システム。
【請求項9】
前記制御装置は、更に、前記静電容量値を受信し、前記静電容量値に従って、前記上部プレートと前記マイクロ電極ドットアレイとの間にある少なくとも1つの液滴の各々のサイズおよび位置を判定するように構成される、請求項8に記載のマイクロ流体処理システム。
【請求項10】
前記制御装置は、更に、サンプル操作要件と、前記少なくとも1つのサイズのうちの1つと、前記少なくとも1つの位置のうちの1つとに応じて、前記サンプル操作設定を生成するように構成され、前記制御装置は、更に、磁場要件と、前記少なくとも1つのサイズのうちの1つと、前記少なくとも1つの位置のうちの1つとに応じて、前記磁場制御設定を生成するように構成される、請求項9に記載のマイクロ流体処理システム。
【請求項11】
前記制御装置は、更に、検査プロトコルを記憶するように構成され、前記サンプル操作設定および前記磁場制御設定は、前記検査プロトコルに基づいて生成される、請求項6に記載のマイクロ流体処理システム。
【請求項12】
前記上部プレートと前記マイクロ電極ドットアレイとの間の空間内に液滴があり、前記液滴は、複数の磁気ビーズを含有した緩衝液であり、
前記磁場制御設定は、前記磁気ビーズと、前記緩衝液の第1の部分とを引き付けて、前記空間内の第1の領域にとどめるために使用され、
前記サンプル操作設定は、前記緩衝液の第2の部分を、前記空間内の第2の領域に移動させるために使用される、
請求項6に記載のマイクロ流体処理システム。
【請求項13】
前記上部プレートと前記マイクロ電極ドットアレイとの間の空間内に、第1の液滴と、第2の液滴とがあり、前記第1の液滴は、複数の磁気ビーズを含有した第1の緩衝液であり、前記第2の液滴は、第2の緩衝液であり、
前記サンプル操作設定は、前記第1の液滴と前記第2の液滴とを混合するために使用され、前記磁場制御設定は、前記磁気ビーズを引き付けるために使用される、
請求項6に記載のマイクロ流体処理システム。
【請求項14】
マイクロ流体チップを制御するためにマイクロ流体処理システムの制御装置において用いられるマイクロ流体処理方法であって、前記マイクロ流体チップは、上部プレートと、マイクロ電極ドットアレイとを備え、前記マイクロ電極ドットアレイは、前記上部プレートの下に配置され、直列に接続された複数のマイクロ電極デバイスを備え、前記マイクロ電極デバイスの各々は、前記上部プレートの下に配置されたマイクロ流体電極と、前記マイクロ流体電極の下に配置された多機能電極と、前記多機能電極の下に配置された制御回路とを備え、前記制御回路の各々は、第1の記憶回路と、第2の記憶回路と、対応する前記マイクロ流体電極に結合されたマイクロ流体制御および位置検出回路と、対応する前記多機能電極に結合された温度および磁気制御回路とを備え、
前記マイクロ流体処理方法は、
第1のクロック信号を前記マイクロ流体チップに供給するステップと、
第2のクロック信号を前記マイクロ流体チップに供給するステップと、
複数のサンプル操作設定を前記マイクロ流体チップに供給するステップと、
複数の磁場制御設定を前記マイクロ流体チップに供給するステップと、
サンプル制御信号を前記マイクロ流体チップに供給するステップと、
磁場制御信号を前記マイクロ流体チップに供給するステップとを備え、
前記第1の記憶回路の各々は、前記第1のクロック信号に従って、第1の時間間隔の分割時間間隔中に、前記サンプル操作設定のうちの1つを読み込むように構成され、
前記第2の記憶回路の各々は、前記第2のクロック信号に従って、第2の時間間隔の分割時間間隔中に、前記磁場制御設定のうちの1つを読み込むように構成され、
前記マイクロ流体制御および位置検出回路の各々は、前記サンプル制御信号に従って、第3の時間間隔中に、前記サンプル操作設定のうちの1つに対応したサンプル制御状態となるように構成され、
前記温度および磁気制御回路の各々は、前記磁場制御信号に従って、第4の時間間隔中に、前記磁場制御設定のうちの1つに対応した磁気制御状態となるように構成される、
マイクロ流体処理方法。
【請求項15】
複数の加熱制御設定を前記マイクロ流体チップに供給するステップと、
加熱制御信号を前記マイクロ流体チップに供給するステップとを更に備え、
前記第2の記憶回路の各々は、更に、前記第2のクロック信号に従って、第5の時間間隔の分割時間間隔中に、前記加熱制御設定のうちの1つを読み込むように構成され、
前記温度および磁気制御回路の各々は、前記加熱制御信号に従って、第6の時間間隔中に、前記加熱制御設定のうちの1つに対応した加熱制御状態となるように構成される、
請求項14に記載のマイクロ流体処理方法。
【請求項16】
前記マイクロ電極デバイスの各々は、入力端子と出力端子とを有し、
最初の前記マイクロ電極デバイスを除く前記マイクロ電極デバイスのそれぞれについて、前記入力端子は、直前の前記マイクロ電極デバイスの前記出力端子に結合され、
前記マイクロ流体処理方法は、
位置検出信号を前記マイクロ流体チップに供給するステップを更に備え、
前記マイクロ流体制御および位置検出回路の各々は、更に、前記位置検出信号に従って、第7の時間間隔中に、前記上部プレートと、対応する前記マイクロ流体電極との間の静電容量値を検出し、前記静電容量値を、対応する前記第1の記憶回路に記憶するように構成され、
前記第1の記憶回路の各々は、更に、前記第1のクロック信号に従って、第8の時間間隔の分割時間間隔中に、対応する前記静電容量値を出力するように構成される、
請求項14に記載のマイクロ流体処理方法。
【請求項17】
前記マイクロ流体チップから前記静電容量値を受信するステップと、
前記静電容量値に基づいて、前記上部プレートと前記マイクロ電極ドットアレイとの間にある少なくとも1つの液滴の各々のサイズおよび位置を判定するステップとを更に備える、
請求項16に記載のマイクロ流体処理方法。
【請求項18】
サンプル操作要件と、前記少なくとも1つのサイズのうちの1つと、前記少なくとも1つの位置のうちの1つとに応じて、前記サンプル操作設定を生成するステップと、
磁場要件と、前記少なくとも1つのサイズのうちの1つと、前記少なくとも1つの位置のうちの1つとに応じて、前記磁場制御設定を生成するステップとを更に備える、
請求項17に記載のマイクロ流体処理方法。
【請求項19】
前記上部プレートと前記マイクロ電極ドットアレイとの間の空間内に液滴があり、前記液滴は、複数の磁気ビーズを含有した緩衝液であり、
前記磁場制御設定は、前記磁気ビーズと前記緩衝液の第1の部分とを引き付けて、前記空間内の第1の領域にとどめるために使用され、前記サンプル操作設定は、前記緩衝液の第2の部分を、前記空間内の第2の領域に移動させるために使用される、
請求項14に記載のマイクロ流体処理方法。
【請求項20】
前記上部プレートと前記マイクロ電極ドットアレイとの間の空間内に、第1の液滴と、第2の液滴とがあり、前記第1の液滴は、複数の磁気ビーズを含有した第1の緩衝液であり、前記第2の液滴は、第2の緩衝液であり、
前記サンプル操作設定は、前記第1の液滴と前記第2の液滴とを混合するために使用され、前記磁場制御設定は、前記磁気ビーズを引き付けるために使用される、
請求項14に記載のマイクロ流体処理方法。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、2022年5月4日に出願された米国特許仮出願第63/338,185号に基づく優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
[技術分野]
本発明は、マイクロ流体チップ、マイクロ流体処理システム、およびマイクロ流体処理方法に関する。より具体的には、本発明は、磁場制御機構を有するマイクロ流体チップ、マイクロ流体処理システム、およびマイクロ流体処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の生物医学機器と比較して、生物医学検査(例えば、タンパク質分析、疾患診断)におけるデジタルマイクロ流体バイオチップ(DMFB)の採用は、機器の小型化、反応量の削減、サンプルおよび試薬の消費量削減、低コスト、ならびに臨床検査室の自動化を含むいくつかの利点をもたらす。具体的には、電極アレイを有したDMFBは、核酸ベースの検査や薬物スクリーニング用途などの生物医学検査のための強力な分析プラットフォームである。
【0003】
従来のDMFBは、一般的に、誘電体上エレクトロウェッティング(Electro Wetting on Dielectric(EWOD))技術を使用して、マイクロ流体処理を実施し、臨床検査室の自動化の機会を提供する。しかしながら、従来のDMFBの電極は、特定標的の生物医学検査のための特定のパターンで配列されるので、一旦構成されると、他の生物医学検査に使用することができない。従って、様々な生物医学検査に適応するデジタルマイクロ流体検査装置、および様々な生物医学検査に対応して適応した制御を提供するマイクロ流体検査技術が、依然として早急に必要とされている。
【0004】
更に、微量の標的(例えば、核酸)を含有したサンプルの、より正確な検査結果を得るには、通常、生物医学検査を行う前に、サンプルから標的を抽出する必要がある。標的を抽出するための従来の方法は、磁気ビーズを使用し、標的を、それ以外のものから分離するものであり、そのような方法の一例は、以下の主要なステップを備える。即ち、(1)元のサンプルを、容器内で溶解緩衝液と混合し、元のサンプル中の細胞を破壊することにより、所望の標的を露出および/または浮遊させるステップと、(2)磁気ビーズ(所望の標的を捕捉するための特定の材料で表面がコーティングされている)と、特定の結合緩衝液とを容器内に加えることにより、所望の標的を磁気ビーズによって捕捉するステップと、(3)外部磁場を容器の外縁に印加して、磁気ビーズを引き付け(即ち、磁気ビーズを固定化し)、洗浄緩衝液を添加して、不要な部分を洗い流すステップと、(4)溶出緩衝液を容器内に加えて、所望の標的を有した磁気ビーズを分離するステップと、(5)外部磁場を容器の外縁に印加して、磁気ビーズを引き付け(即ち、磁気ビーズを固定化し)、所望の標的を取り出すステップとである。次に、抽出した標的に生物医学検査を適用する。
【0005】
抽出された標的に対する生物医学検査の適用によって、より正確な検査結果が得られることになるが、前述の標的抽出は面倒である。また、標的抽出と生物医学検査とを異なる機器で行う場合、抽出された標的を一方の機器から他方の機器に移動させることにより、抽出された標的が汚染される可能性がある。従って、より簡便に標的を抽出し、同じ機器で標的抽出と生物医学検査とを行うことが可能な技術が求められている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、マイクロ流体チップを提供することである。マイクロ流体チップは、上部プレートと、上部プレートの下に配置されたマイクロ電極ドットアレイとを備える。マイクロ電極ドットアレイは、直列に接続された複数のマイクロ電極デバイスを備える。マイクロ電極デバイスの各々は、上部プレートの下に配置されたマイクロ流体電極と、マイクロ流体電極の下に配置された多機能電極と、多機能電極の下に配置された制御回路とを備える。制御回路の各々は、第1の記憶回路と、第2の記憶回路と、対応するマイクロ流体電極に結合されたマイクロ流体制御および位置検出回路と、対応する多機能電極に結合された温度および磁気制御回路とを備える。第1の記憶回路の各々は、第1のクロック信号に従って、第1の時間間隔の分割時間間隔中に、サンプル操作設定を読み込むように構成される。第2の記憶回路の各々は、第2のクロック信号に従って、第2の時間間隔の分割時間間隔中に、磁場制御設定を読み込むように構成される。マイクロ流体制御および位置検出回路の各々は、サンプル制御信号に従って、第3の時間中に、対応するサンプル操作設定に対応したサンプル制御状態となるように構成される。温度および磁気制御回路の各々は、磁場制御信号に従って、第4の時間間隔中に、対応する磁場制御設定に対応した磁気制御状態となるように構成される。
【0007】
いくつかの態様では、マイクロ電極デバイスの各々について、第2の記憶回路が、更に、第2のクロック信号に従って、第5の時間間隔の分割時間間隔中に、加熱制御設定を読み込むように構成される。温度および磁気制御回路は、加熱制御信号に従って、第6の時間間隔中に、加熱制御設定に対応した加熱制御状態となるように構成される。
【0008】
本発明のもう1つの目的は、マイクロ流体処理システムを提供することである。マイクロ流体処理システムは、制御装置と、マイクロ流体チップとを備え、マイクロ流体チップは、上部プレートと、上部プレートの下に配置されたマイクロ電極ドットアレイとを備える。マイクロ電極ドットアレイは、直列に接続された複数のマイクロ電極デバイスを備える。マイクロ電極デバイスの各々は、上部プレートの下に配置されたマイクロ流体電極と、マイクロ流体電極の下に配置された多機能電極と、多機能電極の下に配置された制御回路とを備える。制御回路の各々は、第1の記憶回路と、第2の記憶回路と、対応するマイクロ流体電極に結合されたマイクロ流体制御および位置検出回路と、対応する多機能電極に結合された温度および磁気制御回路とを備える。
【0009】
制御装置は、第1のクロック信号と、第2のクロック信号と、複数のサンプル操作設定と、複数の磁場制御設定と、サンプル制御信号と、磁場制御信号とを供給するように構成される。第1の記憶回路の各々は、第1のクロック信号に従って、第1の時間間隔の分割時間間隔中に、サンプル操作設定のうちの1つを読み込むように構成される。第2の記憶回路の各々は、第2のクロック信号に従って、第2の時間間隔の分割時間間隔中に、磁場制御設定のうちの1つを読み込むように構成される。マイクロ流体制御および位置検出回路の各々は、サンプル制御信号に従って、第3の時間間隔中に、サンプル操作設定のうちの1つに対応したサンプル制御状態となるように構成される。温度および磁気制御回路の各々は、磁場制御信号に従って、第4の時間間隔中に、磁場制御設定のうちの1つに対応した磁気制御状態となるように構成される。
【0010】
いくつかの態様において、制御装置は、更に、複数の加熱制御設定と、加熱制御信号とを供給するように構成される。第2の記憶回路の各々は、更に、第2のクロック信号に従って、第5の時間間隔の分割時間間隔中に、加熱制御設定のうちの1つを読み込むように構成される。温度および磁気制御回路の各々は、加熱制御信号に従って、第6の時間隔間中に、加熱制御設定のうちの1つに対応した加熱制御状態となるように構成される。
【0011】
本発明のもう1つの目的は、マイクロ流体チップを制御するためにマイクロ流体処理システムの制御装置において用いられるマイクロ流体処理方法を提供することである。マイクロ流体チップは、上部プレートと、上部プレートの下に配置されたマイクロ電極ドットアレイとを備え、マイクロ電極ドットアレイは、直列に接続された複数のマイクロ電極デバイスを備える。マイクロ電極デバイスの各々は、上部プレートの下に配置されたマイクロ流体電極と、マイクロ流体電極の下に配置された多機能電極と、多機能電極の下に配置された制御回路とを備える。制御回路の各々は、第1の記憶回路と、第2の記憶回路と、対応するマイクロ流体電極に結合されたマイクロ流体制御および位置検出回路と、対応する多機能電極に結合された温度および磁気制御回路とを備える。マイクロ流体処理方法は、(a)マイクロ流体チップに第1のクロック信号を供給するステップと、(b)マイクロ流体チップに第2のクロック信号を供給するステップと、(c)マイクロ流体チップに複数のサンプル操作設定を供給するステップと、(d)マイクロ流体チップに複数の磁場制御設定を供給するステップと、(e)マイクロ流体チップにサンプル制御信号を供給するステップと、(f)マイクロ流体チップに磁場制御信号を供給するステップとを備える。
【0012】
第1の記憶回路の各々は、第1のクロック信号に従って、第1の時間間隔の分割時間間隔中に、サンプル操作設定のうちの1つを読み込むように構成される。第2の記憶回路の各々は、第2のクロック信号に従って、第2の時間間隔の分割時間間隔中に、磁場制御設定のうちの1つを読み込むように構成される。マイクロ流体制御および位置検出回路の各々は、サンプル制御信号に従って、第3の時間間隔中に、サンプル操作設定のうちの1つに対応したサンプル制御状態となるように構成される。温度および磁気制御回路の各々は、磁場制御信号に従って、第4の時間間隔中に、磁場制御設定のうちの1つに対応した磁気制御状態となるように構成される。
【0013】
いくつかの態様において、マイクロ流体処理方法は、更に、マイクロ流体チップに複数の加熱制御設定を供給するステップと、マイクロ流体チップに加熱制御信号を供給するステップとを備える。第2の記憶回路の各々は、更に、第2のクロック信号に従って、第5の時間間隔の分割時間間隔中に、加熱制御設定のうちの1つを読み込むように構成される。温度および磁気制御回路の各々は、加熱制御信号に従って、第6の時間間隔中に、加熱制御設定のうちの1つに対応した加熱制御状態となるように構成される。
【0014】
本発明のために実施される詳細な技術、および好ましい実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の特徴を当業者が理解するために、添付図面に付随する以下の段落において説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、いくつかの実施形態におけるマイクロ流体処理システムのシステム構成の概略図である。
【0016】
【0017】
【0018】
【
図1D】
図1Dは、マイクロ電極デバイスの回路ブロック図である。
【0019】
【
図1E】
図1Eは、4つの金属層を有する半導体構造の概略図である。
【0020】
【
図1F】
図1Fは、いくつかの実施形態において採用される渦巻き状の多機能電極を示す。
【0021】
【
図2A】
図2Aは、液滴の位置を判定し、1つまたは複数のサンプル操作を液滴に適用するための例示的なタイミング図である。
【0022】
【
図2B】
図2Bは、静電容量値に基づく液滴のサイズおよび位置の判定に関する例を示す。
【0023】
【0024】
【
図3A】
図3Aは、液滴の位置を判定し、磁場を液滴に印加するための例示的なタイミング図である。
【0025】
【0026】
【
図4A】
図4Aは、液滴の位置を判定し、液滴を加熱するための例示的なタイミング図である。
【0027】
【0028】
【0029】
【
図5】
図5は、サンプル操作および磁場を一緒に液滴に適用するための例示的なタイミング図である。
【0030】
【
図6A-6F】
図6A~
図6Fは、DNA抽出の様々な段階を実行後の、マイクロ流体チップ2内の液滴を示す。
【0031】
【
図7】
図7は、制御回路の具体例を示す回路図である。
【0032】
【
図8】
図8は、本発明のいくつかの実施形態におけるマイクロ流体処理方法の主要なフローチャートを示す。
【0033】
【
図9】
図9は、本発明のいくつかの実施形態におけるマイクロ流体処理方法の主要なフローチャートを示す。
【0034】
【
図10】
図10は、本発明のいくつかの実施形態におけるマイクロ流体処理方法の主要なフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下の説明では、本発明の、磁場制御機構を有するマイクロ流体チップ、マイクロ流体処理システム、およびマイクロ流体処理方法を、その特定の実施形態に関して説明する。但し、これらの実施形態は、本発明を、これらの実施形態に記載されるいずれかの特定の環境、用途、または実施に限定することを意図するものではない。従って、これらの実施形態の説明は、本発明の範囲を限定するものではなく、例示を目的とするものである。なお、以下の実施形態および添付図面においては、本発明とは関係のない要素の図示を省略している。また、添付図面において、各要素の寸法や各要素間の寸法は、図示および説明を容易にするために設けられるものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
図1Aは、本発明のいくつかの実施形態におけるマイクロ流体処理システム100の概略図である。マイクロ流体処理システム100は、マイクロ流体チップ2と制御装置3とを備え、マイクロ流体チップ2および制御装置3は、1つまたは複数の生物医学処理(例えば、標的抽出、生物医学検査)を実行するように協働する。以下の説明では、先ず、マイクロ流体チップ2および制御装置3のハードウェア構成について説明し、マイクロ流体チップ2および制御装置3の動作については後述する。
【0037】
マイクロ流体チップの構成
【0038】
図1Bおよび
図1Cは、それぞれマイクロ流体チップ2の側面図および上面図である。マイクロ流体チップ2は、上部プレート10と、マイクロ電極ドットアレイ21とを備えており、マイクロ電極ドットアレイ21は、上部プレート10の下に配置される。上部プレート10は、導電性材料、例えば酸化インジウムスズ(ITO)ガラスによって形成することができる。上部プレート10の下でマイクロ電極ドットアレイ21の上方には、空間SPが形成されており、制御装置3の制御により、少なくとも1つの液滴LOを、空間SP内に配置して移動させることができる(詳細は後述する)。いくつかの実施形態において、液滴は、検査サンプル(即ち、検査されるサンプル)、試薬、または緩衝液(例えば、DNA抽出で使用される溶解緩衝液、結合緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液)としてもよい。
【0039】
いくつかの実施形態において、マイクロ流体チップ2は、更に、2つの疎水性層22,24を備えていてもよい。疎水性層22は、上部プレート10の下に配置され、上部プレート10と直に接する一方、疎水性層24は、マイクロ電極ドットアレイ21の上方に配置される。内部で移動させる液滴のための空間SPは、疎水性層22,24によって画定することができる。疎水性層22,24の各々は、疎水性材料によって形成することができる。
【0040】
マイクロ電極ドットアレイ21は、直列に接続された複数のマイクロ電極デバイス1を備える。マイクロ電極デバイス1は、サイズp×qの2次元アレイに配置され、このときpおよびqは、いずれも1より大きい正の整数である。また、制御装置3は、マイクロ電極デバイス1がサイズp×qの2次元配列で配置されていることを認識している。マイクロ電極デバイス1の各々は、マイクロ流体電極11と、多機能電極13(実施される操作に応じ、加熱電極、絶縁層、または磁場供給層として使用可能であるが、後に詳述する)と、制御回路15とを備える。マイクロ流体電極11の各々は、上部プレート10の下に配置され、多機能電極13の各々は、対応するマイクロ流体電極11(即ち、同じマイクロ電極デバイス1に属するマイクロ流体電極11)の下に配置され、制御回路15の各々は、対応する多機能電極13(即ち、同じマイクロ電極デバイス1に属する多機能電極13)の下に配置される。いくつかの実施形態において、マイクロ電極ドットアレイ21は、更に、マイクロ電極デバイス1の上方で疎水性層24の下に配置されたマイクロ電極接合層20を備えていてもよい。マイクロ電極接合層20は、疎水性層24との接合に使用され、SiO2絶縁層とすることができる。
【0041】
各マイクロ電極デバイス1のサイズは、本発明において、いかなる特定のサイズにも限定されない。しかしながら、いくつかの実施形態において、それぞれのマイクロ電極デバイス1の上面の面積は、2500μm2とすることができる。更に、いずれか2つの隣接するマイクロ電極デバイス1間の距離は、本発明において、いかなる特定の距離にも限定されない。いくつかの実施形態において、1つのマイクロ電極デバイス1と、その隣接するマイクロ電極デバイス1との間の距離は、1μmとすることができる。
【0042】
図1Cにおいて、正方形のそれぞれは、マイクロ電極デバイス1を表し、これらマイクロ電極デバイス1の各々は、2つの入力端子(即ち、第1の入力端子および第2の入力端子)と、2つの出力端子(即ち、第1の出力端子および第2の出力端子)とを有する。マイクロ電極デバイス1は、第1の入力/出力連鎖および第2の入力/出力連鎖を有することによって、直列に接続される。最初のマイクロ電極デバイス1を除くマイクロ電極デバイス1の各々について、第1の入力端子は、直前のマイクロ電極デバイス1の第1の出力端子に結合されて、第1の入力/出力連鎖を形成する。このようにして、最初のマイクロ電極デバイス1を除くマイクロ電極デバイス1の各々は、手前に配置されたマイクロ電極デバイス1を介して入力信号DI1(例えば、サンプル操作設定)を受信し、最後のマイクロ電極デバイス1を除くマイクロ電極デバイス1の各々は、その先に配置されたマイクロ電極デバイス1を介して出力信号DO1(例えば、記憶された静電容量値)を供給する。同様に、最初のマイクロ電極デバイス1を除くマイクロ電極デバイス1の各々について、第2の入力端子は、直前のマイクロ電極デバイス1の第2の出力端子に結合されて、第2の入力/出力連鎖を形成する。このようにして、最初のマイクロ電極デバイス1を除くマイクロ電極デバイス1の各々は、手前に配置されたマイクロ電極デバイス1を介して入力信号DI2(例えば、加熱制御設定、磁場制御設定)を受信し、最後のマイクロ電極デバイス1を除くマイクロ電極デバイス1の各々は、その先に配置されたマイクロ電極デバイス1を介して出力信号DO2(例えば、記憶された静電容量値)を供給する。
【0043】
図1Dは、マイクロ電極ドットアレイ21の各マイクロ電極デバイス1の回路ブロック図である。マイクロ電極デバイス1の各々は、マイクロ流体電極11と、多機能電極13と、制御回路15とを備え、各マイクロ電極デバイス1の制御回路15は、マイクロ流体制御および位置検出回路151と、温度および磁気制御回路153と、2つの記憶回路155,157とを備える。マイクロ電極デバイス1の各々において、マイクロ流体制御および位置検出回路151は、マイクロ流体電極11と記憶回路155とに結合され、温度および磁気制御回路153は、多機能電極13と記憶回路157とに結合される。マイクロ電極デバイス1の各々について、前述の第1の入力端子および前述の第1の出力端子は、記憶回路155のものであり、前述の第2の入力端子および前述の第2の出力端子は、記憶回路157のものである。即ち、前述の第1の入力/出力連鎖は、記憶回路155を接続することにより形成され、前述の第2の入力/出力連鎖は、記憶回路157を接続することにより形成される。
【0044】
マイクロ流体制御および位置検出回路151の各々は、サンプル制御信号EN_Fおよび位置検出信号EN_Sを受信することができる。記憶回路155の各々は、クロック信号CLK1を受信し、入力信号DI1(例えば、サンプル操作設定)を受信して記憶し、出力信号DO1(例えば、記憶された静電容量値)を供給することができる。温度および磁気制御回路153の各々は、加熱制御信号EN_Tおよび磁場制御信号EN_Mを受信することができる。記憶回路157の各々は、クロック信号CLK2を受信し、入力信号DI2(例えば、加熱制御設定、磁場制御設定)を受信して記憶し、出力信号DO2(例えば、記憶された静電容量値)を供給することができる。更に、上部プレート10とマイクロ電極ドットアレイ21との間の空間SP内で液滴を移動させるためのEWOD技術による十分な駆動力を生成するために、電圧信号VS(例えば、1kHz、50Vp-pの方形波)を、上部プレート10の上面に供給することができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、
図1Eに示すような半導体構造を形成可能な半導体プロセス(例えば、台湾積体電路製造(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)が提供する0.35μmの2P4M相補型金属酸化膜半導体(CMOS)の技術)を採用して、マイクロ電極デバイス1を作成することができる。
図1Eに示す半導体構造は、基板Sと、当該基板Sの上面上の4つの金属層とを備え、これら4つの金属層は、底部から頂部に向けて、第1の金属層M1、第2の金属層M2、第3の金属層M3、および第4の金属層M4を備えている。これらの実施形態において、マイクロ電極デバイス1の制御回路15は、第1の金属層M1および第2の金属層M2に形成することが可能であり、マイクロ電極デバイス1の多機能電極13は、第3の金属層M3に形成することが可能であり、マイクロ電極デバイス1のマイクロ流体電極11は、第4の金属層M4に形成することが可能である。いくつかの実施形態では、多機能電極13が磁場を供給するようにするために、
図1Fに示すように、多機能電極13の各々の形状が渦巻き状となっている。
【0046】
制御装置の構成
【0047】
図1Aは、制御装置3のハードウェア構成も示している。制御装置3は、記憶デバイス31と、少なくとも1つの伝送インターフェース33と、プロセッサ35とを備え、プロセッサ35は、記憶デバイス31と少なくとも1つの伝送インターフェース33とに電気的に接続される。記憶デバイス31は、メモリ、USB(Universal Serial Bus)ディスク、ポータブルディスク、HDD(Hard Disk Drive)、またはそれ以外で同じ機能を有して当業者に公知の任意の非一時的な記憶媒体、装置、または回路とすることができる。伝送インターフェース33の各々は、バイオチップと通信可能で当業者に公知のデジタル入出力インターフェースカードとすることができる。プロセッサ35は、様々なプロセッサ、中央処理ユニット(CPU)、マイクロプロセッサユニット(MPU)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、またはそれ以外で当業者に公知の演算処理装置のうちの1つとすることができる。いくつかの実施形態において、制御装置3は、デスクトップコンピュータ、ノートブックコンピュータ、またはモバイルデバイス(例えば、タブレットコンピュータ、またはスマートフォン)とすることができる。プロセッサ35は、マイクロ流体チップ2を制御するための様々な制御信号および設定を生成するように構成され、少なくとも1つの伝送インターフェース33は、これらの制御信号および設定をマイクロ流体チップ2に送信するように構成される。
【0048】
マイクロ流体チップと制御装置とによって実行される操作
【0049】
マイクロ流体チップ2と制御装置3とによって実行可能な操作には、1つまたは複数の液滴の位置を正確に判定すること、1つまたは複数の液滴にサンプル操作を適用すること(例えば、1つまたは複数の液滴を移動させること、液滴を切断すること、液滴を混合すること)、1つまたは複数の液滴に磁場を印加すること、1つまたは複数の液滴を加熱することなどが含まれる。上述の操作は、個別に、または組み合わせて実行することができる。いくつかの実施形態において、上述の操作は、別の生物医学処理を実行するように様々に編成することができる。マイクロ流体チップ2および制御装置3によって実行可能な操作について、以下に詳述する。
【0050】
液滴の位置判定
【0051】
マイクロ流体処理システム100は、マイクロ流体チップ2内(具体的にはマイクロ流体チップ2の空間SP内)の全ての液滴を検出し、マイクロ流体チップ2内の全ての液滴の位置を判定する(即ち、マイクロ流体チップ2内の全ての液滴のサイズおよび位置を判定する)ことができる。
【0052】
図2Aの例示的なタイミング図を参照されたい。なお、これは、本発明の範囲の限定を意図するものではない。制御装置3は、伝送インターフェース33を介し、マイクロ流体チップ2に位置検出信号EN_Sを供給し、このとき、位置検出信号EN_Sは、時間間隔T1内においてイネーブルとされる(例えば、位置検出信号EN_Sの電圧レベルを、時間隔間T1内においてハイとすることができる)。位置検出信号EN_Sが、時間間隔T1内においてイネーブルとされるので、各マイクロ電極デバイス1のマイクロ流体制御および位置検出回路151は、時間間隔T1中に、上部プレート10と、対応するマイクロ流体電極11との間の静電容量値を検出し、この静電容量値を、対応する記憶回路155に記憶する。静電容量値C1の各々は、上部プレート10と、対応するマイクロ流体電極11との間になんらかの液体が存在するか否かを反映している。検出された静電容量値を示すのに、数値の「0」および「1」を使用するとすれば、上部プレート10とマイクロ流体電極11との間に液体があることを示すのに、数値「1」を使用し、上部プレート10とマイクロ流体電極11との間に液体がないことを示すのに、数値「0」を使用することができる。
【0053】
更に、制御装置3は、伝送インターフェース33を介し、マイクロ流体チップ2にクロック信号CLK1を供給し、このとき、クロック信号CLK1は、時間間隔T2の複数の分割時間間隔内においてイネーブルとされる(例えば、クロック信号CLK1の電圧レベルを、時間間隔T2の分割時間間隔内においてハイとすることができる)。時間間隔T2は、時間間隔T1の後となる。時間間隔T2の分割時間間隔は、マイクロ電極デバイス1の記憶回路155と1対1で対応する。マイクロ電極ドットアレイ21がN個のマイクロ電極デバイス1を備える場合、時間間隔T2は、N個の分割時間間隔を有し、Nは正の整数である。クロック信号CLK1が、時間間隔T2の分割時間間隔内においてイネーブルとされるので、記憶回路155は、時間間隔T2の分割時間間隔中に、それぞれ静電容量値C1を出力する。本発明は、クロック信号CLK1のクロックレートを特定のレートに限定するものではない。例えば、記憶回路155は、クロック信号CLK1のクロックレートを100kHzとして、静電容量値C1を出力するようにしてもよい。
【0054】
制御装置3は、伝送インターフェース33を介し、マイクロ流体チップ2から静電容量値C1を受信する。制御装置3は、マイクロ電極デバイス1がサイズp×qの2次元アレイに配置され、静電容量値C1がマイクロ電極デバイス1と1対1で対応することを認識している。従って、制御装置3のプロセッサ35は、静電容量値C1に基づき、マイクロ流体チップ2内の全ての液滴を検出し、静電容量値C1に基づき、全ての液滴のサイズおよび位置を判定することができる。
【0055】
より良く理解するために、
図2Bに示す具体例を参照されたい。なお、これは、本発明の範囲の限定を意図するものではない。
図2Bは、サイズp×qの2次元アレイに配置された静電容量値C1を示している。
図2Bにおいて、N個の正方形は、N個のマイクロ電極デバイス1の静電容量値C1をそれぞれ表しており、白色の正方形の各々は、対応する静電容量値が数値「0」であることを示し、灰色の正方形の各々は、対応する静電容量値が数値「1」であることを示す。マイクロ電極デバイス1がサイズp×qの2次元アレイに配置されていることを認識していることで、制御装置3のプロセッサ35は、静電容量値C1に基づき、マイクロ流体チップ2内に1つの液滴LOがあると判定し、静電容量値C1に基づき、マイクロ流体チップ2内の液滴LOのサイズおよび位置を判定することができる。
【0056】
なお、制御装置3が、処理対象の液滴のサイズおよび位置を認識している場合、液滴の位置判定に関する前述の操作は、省略することが可能であることに留意されたい。
【0057】
サンプル操作の適用
【0058】
制御装置3は、液滴のサイズおよび位置を既に認識しているものとする(例えば、制御装置3は、時間間隔T1,T2において、マイクロ流体チップ2内における液滴の位置を判定している)。制御装置3は、マイクロ流体チップ2を制御して、マイクロ流体チップ2内の1つまたは複数の液滴に、サンプル操作を適用することができる(例えば、1つまたは複数の液滴の移動、液滴の切断、液滴の混合)。
【0059】
制御装置3は、サンプル操作要件(例えば、指定された位置への液滴の移動、液滴の切断、液滴の混合)と、マイクロ流体チップ2内の少なくとも1つの液滴のサイズおよび位置とに応じて、複数のサンプル操作設定を生成し、このとき、サンプル操作設定は、マイクロ電極デバイス1と1対1で対応している。サンプル操作設定の各々は、サンプル操作時間間隔中にサンプル操作設定に対応したサンプル制御状態(即ち、作動または非作動)となるように、対応するマイクロ流体制御および位置検出回路151に指示するために使用される。
【0060】
いくつかの実施形態において、制御装置3のプロセッサ35は、サンプル操作要件と、少なくとも1つの液滴のサイズおよび位置とに応じてサンプル制御パターンを生成し、次に、このサンプル制御パターンに従ってサンプル操作設定を生成することができる。
図2Cに示す例示的なサンプル制御パターンCPを参照されたい。なお、これは、本発明の範囲の限定を意図するものではない。サンプル制御パターンCPは、液滴LOを2つの小さな液滴に切断するために使用される。
図2Cにおいて、N個の正方形は、N個の記憶回路155によって読み込まれるN個のサンプル操作設定にそれぞれ対応しており、灰色の正方形の各々は「作動」を表し、白色の正方形の各々は「非作動」を表す。制御装置3のプロセッサ35は、サンプル制御パターンCPに従ってサンプル操作設定を生成する。例えば、白色の正方形に対応するサンプル操作設定を数値「0」として、灰色の正方形に対応するサンプル操作設定を数値「1」としてもよい。
【0061】
制御装置3は、伝送インターフェース33を介し、サンプル操作設定S2をマイクロ流体チップ2に供給する。
図2Aの例示的なタイミング図を参照されたい。制御装置3によってマイクロ流体チップ2に供給されるクロック信号CLK1は、時間間隔T3の複数の分割時間間隔内においてイネーブルとされる(例えば、クロック信号CLK1の電圧レベルを、時間間隔T3の分割時間間隔内においてハイとすることができる)。時間間隔T3は、時間間隔T2の後となる。時間間隔T3の分割時間間隔は、マイクロ電極デバイス1の記憶回路155と1対1で対応する。こうして、記憶回路155は、時間間隔T3の分割時間間隔中に、サンプル操作設定S2をそれぞれ読み込む。
【0062】
制御装置3は、伝送インターフェースを介し、マイクロ流体チップ2にサンプル制御信号EN_Fを供給し、このサンプル制御信号EN_Fは、時間間隔T4内においてイネーブルとされる(例えば、サンプル制御信号EN_Fの電圧レベルを、時間間隔T4内においてハイとすることができる)。また、時間間隔T4中には、上部プレート10の上面に供給される電圧信号VSの電圧レベルがハイとなり、それ以外の時間間隔中には、上部プレート10の上面に供給される電圧信号VSの電圧レベルがローとなる。時間間隔T4は、前述のサンプル操作時間間隔である。時間隔間T4中、サンプル制御信号EN_Fがイネーブルとされ、電圧信号VSの電圧レベルがハイとなる。従って、各マイクロ電極デバイス1のマイクロ流体制御および位置検出回路155は、時間間隔T4中、対応するサンプル操作設定に従って、サンプル制御状態(即ち、作動または非作動)となる。このようにして、所要のサンプル操作(例えば、液滴の移動、液滴の切断、液滴の混合)が、時間間隔T4内において達成される。なお、サンプル操作時間間隔(例えば、時間間隔T4)中、多機能電極13の各々は、絶縁層(例えば、ローの電圧レベルに接続される)となることに留意されたい。
【0063】
液滴への磁場の印加
【0064】
制御装置3は、液滴のサイズおよび位置を既に認識しているものとする(例えば、制御装置3は、時間間隔T1,T2において、マイクロ流体チップ2内における液滴の位置を判定している)。制御装置3は、マイクロ流体チップ2を制御して、マイクロ流体チップ2内の液滴に磁場を印加することができる。以下の説明については、
図3Aに示す例示的なタイミング図、および
図3Bに示す例示的な磁場パターンを参照されたい。
【0065】
制御装置3は、磁場要件(例えば、磁場の強度)と、マイクロ流体チップ2内の少なくとも1つの液滴のサイズおよび位置とに応じて、複数の磁場制御設定を生成し、このとき、磁場制御設定は、マイクロ電極デバイス1と1対1で対応している。磁場制御設定の各々は、磁気制御時間間隔中に磁場制御設定に対応した磁気制御状態(即ち、磁気制御を行うか否か)となるように、対応する温度および磁気制御回路153に指示するために使用される。いくつかの実施形態において、磁気制御を行うことは、温度および磁気制御回路153に設けられるスイッチをオンにし、温度および磁気制御回路153に交流電圧を供給することである。
【0066】
いくつかの実施形態において、制御装置3のプロセッサ35は、磁場要件と、少なくとも1つの液滴のサイズおよび位置とに応じて磁場パターンを生成し、次に、この磁場パターンに従って磁場制御設定を生成することができる。
図3Bに示す例示的な磁場パターンMPでは、N個の正方形が、N個の記憶回路157によって読み込まれるN個の磁場制御設定にそれぞれ対応しており、灰色の正方形の各々は「磁気制御を行うこと」を表し、白色の正方形の各々は「磁気制御を行わないこと」を表す。次に、制御装置3のプロセッサ35は、磁場パターンMPに従って磁場制御設定を生成する。例えば、白い正方形に対応する磁場制御設定を数値「0」として、灰色の正方形に対応する磁場制御設定を数値「1」としてもよい。
【0067】
制御装置3は、伝送インターフェース33を介し、マイクロ流体チップ2に磁場制御設定S3を供給して、対応する磁場を印加する。具体的には、制御装置3が、伝送インターフェース33を介してマイクロ流体チップ2にクロック信号CLK2を供給し、このとき、クロック信号CLK2は、時間間隔T5の複数の分割時間間隔内においてイネーブルとされる(例えば、クロック信号CLK2の電圧レベルを、時間間隔T5の分割時間間隔内においてハイとすることができる)。時間間隔T5は、時間間隔T2の後となる。時間間隔T5の分割時間間隔は、マイクロ電極デバイス1の記憶回路157と1対1で対応する。こうして、記憶回路157は、時間間隔T5の分割時間間隔中に、磁場制御設定S3をそれぞれ読み込む。
【0068】
制御装置3は、伝送インターフェースを介し、マイクロ流体チップ2に磁場制御信号EN_Mを供給し、この磁場制御信号EN_Mは、時間間隔T6内においてイネーブルとされる(例えば、磁場制御信号EN_Mの電圧レベルを、時間間隔T6内においてハイとすることができる)。時間間隔T6は、時間間隔T5の後となる。時間間隔T6は、前述の磁気制御時間間隔である。磁場制御信号EN_Mが、時間間隔T6内においてイネーブルとされるので、各マイクロ電極デバイス1の温度および磁気制御回路153は、時間間隔T6中、対応する磁場制御設定に従って、磁気制御状態(即ち、磁気制御を行うか否か)となる。
【0069】
いくつかの実施形態において、磁気制御を行うことは、温度および磁気制御回路153に設けられるスイッチをオンにし、温度および磁気制御回路153に交流電圧を供給することである。これらの実施形態では、磁場制御設定が、対応する温度および磁気制御回路153に、磁気制御を行うように指示していると(例えば、磁場制御設定が、数値「1」であると)、温度および磁気制御回路153が、時間間隔T6中に、そのスイッチをオンにして、交流電圧が、時間間隔T6中に、温度および磁気制御回路153に供給されることによって、対応する多機能電極13が、磁場を供給する(即ち、多機能電極13は、使用中の磁場とみなすことができる)。一方、磁場制御設定が、対応する温度および磁気制御回路153に、磁気制御を行わないように指示していると(例えば、磁場制御設定が、数値「0」であると)、温度および磁気制御回路153は、時間間隔T16中に、そのスイッチをオフにして、対応する多機能電極13が磁気制御を行わないようにする(即ち、多機能電極13は、使用中でない磁場とみなすことができる)。このようにして、所要の磁場が、時間間隔T6中に、マイクロ流体チップ2内の液滴に印加される。
【0070】
液滴の加熱
【0071】
制御装置3は、液滴のサイズおよび位置を既に認識しているものとする(例えば、制御装置3は、時間間隔T1,T2において、マイクロ流体チップ2内における液滴の位置を判定している)。制御装置3は、マイクロ流体チップ2を制御して、マイクロ流体チップ2内の液滴を加熱することができる。以下の説明については、
図4Aに示す例示的なタイミング図と、
図4Bおよび
図4Cに示す2つの例示的な加熱制御パターンとを参照されたい。
【0072】
制御装置3は、温度要件(例えば、検査環境が、95℃でなければならないこと)と、マイクロ流体チップ2内の少なくとも1つの液滴のサイズおよび位置とに応じて、複数の加熱制御設定を生成し、このとき、加熱制御設定は、マイクロ電極デバイス1と1対1で対応する。加熱制御設定の各々は、加熱時間間隔中に、加熱制御設定に対応した加熱制御状態(即ち、加熱を実行するか否か)となるように、対応する温度および磁気制御回路153に指示するために使用される。いくつかの実施形態において、加熱の実行とは、温度および磁気制御回路153に設けられるスイッチをオンにし、温度および磁気制御回路153に直流電圧を供給して加熱を実行することである。
【0073】
いくつかの実施形態において、制御装置3のプロセッサ35は、温度要件と、少なくとも1つの液滴のサイズおよび位置とに応じて加熱制御パターンを生成し、次に、この加熱制御パターンに従って加熱制御設定を生成することができる。
図4Bに示す例示的な加熱制御パターンHP1に関し、N個の正方形は、N個の記憶回路157によって読み込まれるN個の加熱制御設定にそれぞれ対応しており、灰色の正方形の各々は、「加熱を実行すること」を表し、白色の正方形の各々は「加熱を実行しないこと」を表す。制御装置3のプロセッサ35は、加熱制御パターンHP1に従って加熱制御設定を生成する。例えば、白色の正方形に対応する加熱制御設定を数値「0」として、灰色の正方形に対応する加熱制御設定を数値「1」としてもよい。
【0074】
いくつかの実施形態において、制御装置3が生成する加熱制御パターンは、加熱領域と、環状の非加熱領域とを備えていてもよく、このとき、環状の非加熱領域は、加熱領域を取り囲み、液滴LOの位置は、加熱領域の中心に相当する。環状の非加熱領域は、ガードリングと称することができる。加熱領域を取り囲むガードリングを有することによって、加熱領域内の加熱効果が、外部の環境温度の影響を受けることはない。従って、より良好な温度変化率、およびより少ないエネルギー消費で、目標温度に達する。
【0075】
図4Bに示す加熱制御パターンHP1は、ガードリングを有している。より具体的には、加熱制御パターンHP1が、加熱領域A1(即ち、
図4Bにおいて、液滴LOを覆う灰色の正方形)と、環状の非加熱領域A2(即ち、
図4Bにおいて、上述の灰色の正方形を取り囲む白色の正方形)と、もう1つの加熱領域A3(即ち、
図4Bにおいて、上述の白色の正方形を取り囲む灰色の正方形)と、もう1つの非加熱領域A6とを備える。液滴LOの位置は、加熱領域A1の中心に相当する。環状の非加熱領域A2は、加熱領域A1を取り囲み、もう1つの加熱領域A3は、環状の非加熱領域A2を取り囲み、残りの領域が、非加熱領域A6となっている。加熱領域A1および加熱領域A3内の多機能電極(加熱電極として使用される)の数は、検査プロトコルで指定される温度要件(即ち、到達すべき特定の温度)に依存する。要求される温度が高いほど、加熱領域A1および加熱領域A3内の多機能電極の数が多くなる。本発明は、加熱制御パターン内の環状の非加熱領域の数(即ち、ガードリングの数)を、いかなる特定の数にも限定しない。
図4Cの別の具体例は、2つのガードリング(即ち、環状の非加熱領域A4,A5)を有した加熱制御パターンHP2を示している。
【0076】
制御装置3は、伝送インターフェース33を介し、マイクロ流体チップ2に加熱制御設定S1を供給する。具体的には、制御装置3によってマイクロ流体チップ2に供給されるクロック信号CLK2が、時間間隔T7の複数の分割時間間隔内においてイネーブルとされる(例えば、クロック信号CLK2の電圧レベルを、時間間隔T7の分割時間間隔内においてハイとすることができる)。時間間隔T7は、時間間隔T2の後となる。時間間隔T7の分割時間間隔は、マイクロ電極デバイス1の記憶回路157と1対1で対応する。こうして、記憶回路157は、時間間隔T7の分割時間間隔中に、加熱制御設定S1をそれぞれ読み込む。
【0077】
制御装置3は、伝送インターフェースを介し、マイクロ流体チップ2に加熱制御信号EN_Tを供給し、この加熱制御信号EN_Tは、時間間隔T8内においてイネーブルとされる(例えば、加熱制御信号EN_Tの電圧レベルを、時間間隔T8内においてハイとすることができる)。時間間隔T8は、時間間隔T7の後となる。時間間隔T8は、前述の加熱時間間隔である。時間間隔T8内において加熱制御信号EN_Tがイネーブルとされるので、各マイクロ電極デバイス1の温度および磁気制御回路153は、時間間隔T8中、対応する加熱制御設定に従って加熱制御状態(即ち、加熱を実行するか否か)となる。
【0078】
いくつかの実施形態において、加熱の実行とは、温度および磁気制御回路153に設けられるスイッチをオンにし、温度および磁気制御回路153に直流電圧を供給することである。これらの実施形態では、加熱制御設定が、対応する温度および磁気制御回路153に、加熱を実行するように指示していると(例えば、加熱制御設定が、数値「1」であると)、温度および磁気制御回路153が、時間間隔T8(即ち、加熱時間間隔)中に、そのスイッチをオンにして、直流電圧が、温度および磁気制御回路153に供給されることによって、対応する多機能電極13が加熱を実行する(即ち、多機能電極13は、使用中の加熱電極とみなすことができる)。一方、加熱制御設定が、対応する温度および磁気制御回路153に、加熱を実行しないように指示していると(例えば、加熱制御設定が、数値「0」であると)、温度および磁気制御回路153は、時間間隔T8(即ち、加熱時間間隔)中に、そのスイッチをオフにして、対応する多機能電極13が機能しないようにする(即ち、加熱を実行せず、多機能電極13は、使用中ではない加熱電極とみなすことができる)。このようにして、マイクロ流体チップ2内の液滴は、時間間隔T8中に、所要の温度となるまで加熱することができる。
【0079】
サンプル操作および磁場を共に液滴に適用
【0080】
制御装置3は、液滴のサイズおよび位置を既に認識しているものとする(例えば、制御装置3は、時間隔T1,T2において、マイクロ流体チップ2内における液滴の位置を判定している)。制御装置3は、マイクロ流体チップ2を制御して、サンプル操作を適用すると共に、マイクロ流体チップ2内の1つ以上の液滴に磁場を印加することができる。以下の説明については、
図5に示す例示的なタイミング図を参照されたい。
【0081】
制御装置3は、「サンプル操作の適用」の項に記載するように、サンプル操作要件と、マイクロ流体チップ2内の少なくとも1つの液滴のサイズおよび位置とに応じて、複数のサンプル操作設定を生成する。更に、制御装置3は、「液滴への磁場の印加」の項に記載するように、磁場要件と、マイクロ流体チップ2内の少なくとも1つの液滴のサイズおよび位置とに応じて、複数の磁場制御設定を生成する。
【0082】
制御装置3は、伝送インターフェース33を介し、マイクロ流体チップ2にサンプル操作設定S2および磁場制御設定S3を供給する。
図5に示すように、クロック信号CLK1およびクロック信号CLK2は、時間間隔T9の複数の分割時間間隔内においてイネーブルとされる(例えば、クロック信号CLK1の電圧レベルおよびクロック信号CLK2の電圧レベルを、時間間隔T9の分割時間間隔内においてハイとすることができる)。時間間隔T9は、時間間隔T2の後となる。時間間隔T9の分割時間間隔は、マイクロ電極デバイス1の記憶回路155と1対1で対応し、マイクロ電極デバイス1の記憶回路157と1対1で対応する。クロック信号CLK1が、時間間隔T9の分割時間間隔内においてイネーブルとされ、時間間隔T9の分割時間間隔が、記憶回路155と1対1で対応するので、記憶回路155は、時間間隔T9の分割時間間隔中に、サンプル操作設定S2をそれぞれ読み込む。同様に、クロック信号CLK2が、時間間隔T9の分割時間間隔内においてイネーブルとされ、時間間隔T9の分割時間間隔が記憶回路157と1対1で対応するので、記憶回路157は、時間間隔T9の分割時間間隔中に、磁場制御設定S3をそれぞれ読み込む。
【0083】
時間間隔T10(時間間隔T9の後の時間間隔)において、サンプル制御信号EN_Fがイネーブルとされ、磁場制御信号EN_Mがイネーブルとされ、上部プレート10の上面に供給される電圧信号VSの電圧レベルがハイとなる。時間間隔T10中、サンプル制御信号EN_Fがイネーブルとされ、電圧信号VSの電圧レベルがハイとなるので、各マイクロ電極デバイス1のマイクロ流体制御および位置検出回路155は、時間間隔T10中、対応するサンプル操作設定に従って、サンプル制御状態となる。更に、磁場制御信号EN_Mが、時間隔T10内においてイネーブルとされるので、各マイクロ電極デバイス1の温度および磁気制御回路153は、時間間隔T10中、対応する磁場制御設定に従って、磁気制御状態となる。このようにして、時間間隔T10内において、所要のサンプル操作および所要の磁場の両方を、液滴に適用することができる。
【0084】
マイクロ流体処理システムによる標的抽出
【0085】
上述のように、マイクロ流体処理システム100によって実行可能な操作(1つまたは複数の液滴の正確な位置判定、1つまたは複数の液滴へのサンプル操作の適用、1つまたは複数の液滴への磁場の印加、1つまたは複数の液滴の加熱などを含む)は、様々な生物医学処理を実行するために、様々に編成することができる。
【0086】
いくつかの実施形態では、サンプル操作要件および磁場要件を適切に調整することによって、マイクロ流体処理システム100は、標的(例えば、核酸)抽出を達成するための特定の操作を実行することができる。以下、
図6A~
図6Fを参照して具体例を示すが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0087】
この具体例において、マイクロ電極デバイス1は、6つのグループに分割され、マイクロ流体チップ2が、6つの領域G1,G2,G3,G4,G5,G6に分割されている。更に、標的抽出は、開始段階、溶解段階、結合段階、洗浄段階、溶出段階、および取出し段階を含んだ6つの段階を備える。
【0088】
開始段階における目的は、マイクロ流体チップ2内に、所要の液滴を配置することである。具体的には、検査サンプルTSを、領域G4の中央に移動させ、領域G1の中央に溶解緩衝液LBを移動させ、領域G1の中央に磁気ビーズ含有結合緩衝液BMBを移動させ、領域G5の中央に溶出緩衝液EBを移動させるためのサンプル操作要件がある。なお、検査サンプルTS、溶解緩衝液LB、磁気ビーズ含有結合緩衝液BMB、および溶出緩衝液EBは、それぞれ液滴である。制御装置3は、上述のサンプル操作要件に従って複数のサンプル操作設定を生成し、これらのサンプル操作設定を、マイクロ流体チップ2に送信する。記憶回路155は、それぞれサンプル操作設定を読み込み、次に、各マイクロ電極デバイス1のマイクロ流体制御および位置検出回路151は、対応するサンプル操作設定に従ってサンプル制御状態となる。「サンプル操作の適用」の項の説明に基づき、当業者は、開始段階を達成するためにマイクロ流体処理システム100が実行する操作を理解するはずである。開始段階の後、検査サンプルTS、溶解緩衝液LB、磁気ビーズ含有結合緩衝液BMB、および溶出緩衝液EBのサイズおよび位置は、
図6Aに示す通りとなる。
【0089】
溶解段階における目的は、検査サンプルTS中の細胞を破壊することにより、所望の標的が露出および/または浮遊するようにすることである。具体的には、検査サンプルTSを領域G1の中央に移動させて、検査サンプルTSと溶解緩衝液LBとを混合するためのサンプル操作要件がある。制御装置3は、このサンプル操作要件と、検査サンプルTSのサイズおよび位置と、溶解緩衝液LBのサイズおよび位置とに応じて複数のサンプル操作設定を生成し、これらのサンプル操作設定を、マイクロ流体チップ2に送信する。記憶回路155は、それぞれサンプル操作設定を読み込み、次に、各マイクロ電極デバイス1のマイクロ流体制御および位置検出回路151は、対応するサンプル操作設定に従ってサンプル制御状態となる。「サンプル操作の適用」の項の説明に基づき、当業者は、溶解段階を達成するためにマイクロ流体処理システム100が実行する操作を理解するはずである。溶解段階の後では、
図6Bに示すように、検査サンプルTSと溶解緩衝液LBとが、混合緩衝液TLとして混合されている。混合緩衝液TL中では、所望の標的が露出および/または浮遊している。なお、混合緩衝液TLは、液滴とみなされることに留意されたい。
【0090】
結合段階における目的は、所望の標的を磁気ビーズによって捕捉することであり、このとき、個々の磁気ビーズの表面は、所望の標的を捕捉するための特定の材料でコーティングされている。具体的には、混合緩衝液TLを領域G2の中央に移動させて、混合緩衝液TLを磁気ビーズ含有結合緩衝液BMBと混合するためのサンプル操作要件がある。制御装置3は、このサンプル操作要件と、混合緩衝液TLのサイズおよび位置と、磁気ビーズBMB含有結合緩衝液のサイズおよび位置とに応じて、複数のサンプル操作設定を生成する。制御装置3は、これらのサンプル操作設定を、マイクロ流体チップ2に送信する。記憶回路155は、それぞれサンプル操作設定を読み込み、次に、各マイクロ電極デバイス1のマイクロ流体制御および位置検出回路151は、対応するサンプル操作設定に従ってサンプル制御状態となる。「サンプル操作の適用」の項の説明に基づき、当業者は、結合段階を達成するためにマイクロ流体処理システム100が実行する操作を理解するはずである。結合段階の後では、
図6Cに示すように、検査サンプルTSと溶解緩衝液LBとが、混合緩衝液TBとして混合されている。混合緩衝液TB中では、所望の標的が、磁気ビーズによって捕捉される。なお、混合緩衝液TBは、液滴とみなされることに留意されたい。
【0091】
洗浄段階における目的は、磁気ビーズを固定化し、不要部分を洗い流すことである。具体的には、混合緩衝液TB内の磁気ビーズを引き付けて、領域G2の中央(即ち、空間SP内の第1の領域)にとどめるための磁場要件と、混合緩衝液TBの一部を、領域G3の中央(即ち、空間SP内の第2の領域)に移動させるためのサンプル操作要件とがある。制御装置3は、この磁場要件と、混合緩衝液TBのサイズおよび位置とに応じて、複数の磁場制御設定を生成する。また、制御装置3は、このサンプル操作要件と、領域G3の中心とに応じて、複数のサンプル操作設定を生成する。制御装置3は、これら磁場制御設定およびサンプル操作設定を、マイクロ流体チップ2に送信する。そして、各マイクロ電極デバイス1の温度および磁気制御回路153は、対応する磁場制御設定に従って磁気制御状態となる。一方、各マイクロ電極デバイス1のマイクロ流体制御および位置検出回路151は、対応するサンプル操作設定に従ってサンプル制御状態となる。「サンプル操作の適用」の項および「液滴への磁場の印加」の項の説明に基づき、当業者は、洗浄段階を達成するためにマイクロ流体処理システム100が実行する操作を理解するはずである。洗浄段階の後では、
図6Dに示すように、液滴TB1(即ち、磁気ビーズ、および混合緩衝液TBの非常に小さな部分)が、領域G2の中央部分内にとどまり、別の液滴TB2(即ち、混合緩衝液TBの不要部分)が、領域G3の中央に移動されている。いくつかの実施形態では、液滴TB2が、マイクロ流体チップ2から除去されるようにしてもよい。
【0092】
溶出段階における目的は、所望の標的から磁気ビーズを分離することである。具体的には、液滴TB1を溶出緩衝液EBと混合する(例えば、液滴TB1を領域G5の中央に移動させる)ためのサンプル操作要件と、磁気ビーズを引き付けるための磁場要件とがある。制御装置3は、このサンプル操作要件と、液滴TB1のサイズおよび位置と、溶出緩衝液EBのサイズおよび位置とに応じて、複数のサンプル操作設定を生成する。更に、制御装置3は、この磁場要件と、溶出緩衝液EBのサイズおよび位置とに応じて、複数の磁場制御設定を生成する。制御装置3は、これら磁場制御設定およびサンプル操作設定を、マイクロ流体チップ2に送信する。次に、各マイクロ電極デバイス1のマイクロ流体制御および位置検出回路151は、対応するサンプル操作設定に従ってサンプル制御状態となる。一方、各マイクロ電極デバイス1の温度および磁気制御回路153は、対応する磁場制御設定に従って磁気制御状態となる。「サンプル操作の適用」の項および「液滴への磁場の印加」の項の説明に基づき、当業者は、溶出段階を達成するためにマイクロ流体処理システム100が実行する操作を理解するはずである。溶出段階後では、
図6Eに示すように、液滴TB1と溶出緩衝液EBとが、別の液滴TEとして混合されている。液滴TE中では、所望の標的が、磁気ビーズから分離されている。
【0093】
取出し段階における目的は、液滴TEから所望の標的を取り出すことである。具体的には、液滴TE内の磁気ビーズを引き付けて、領域G5の中央(即ち、空間SP内の第3の領域)内にとどめるための磁場要件と、液滴TEの一部を、領域G6の中央(即ち、空間SP内の第4の領域)に移動させるためのサンプル操作要件とがある。制御装置3は、この磁場要件と、液滴TEのサイズおよび位置とに応じて、複数の磁場制御設定を生成する。更に、制御装置3は、このサンプル操作要件と、液滴TEのサイズおよび位置と、領域G6の中心とに応じて、複数のサンプル操作設定を生成する。制御装置3は、これら磁場制御設定およびサンプル操作設定を、マイクロ流体チップ2に送信する。そして、各マイクロ電極デバイス1の温度磁気制御回路153は、対応する磁場制御設定に従って磁気制御状態となる。一方、各マイクロ電極デバイス1のマイクロ流体制御および位置検出回路151は、対応するサンプル操作設定に従ってサンプル制御状態となる。「サンプル操作の適用」の項および「液滴への磁場の印加」の項の説明に基づき、当業者は、取出し段階を達成するためにマイクロ流体処理システム100が実行する操作を理解するはずである。取出し段階の後では、
図6Fに示すように、液滴TE1(即ち、磁気ビーズ、および液滴TEの非常に小さな部分のみ)が、領域G5の中央部分内にとどまり、別の液滴TE2(即ち、所望の標的を含有する部分)が、領域G6の中央に移動されている。
【0094】
いくつかの別の実施形態において、マイクロ流体処理システム100は、より正確な結果を達成するために、標的抽出の各段階の前に、マイクロ流体チップ2内における液滴の位置を判定することができる。当業者は、「液滴の位置判定」の項の説明に基づき、これを達成する方法を理解するはずである。従って、ここでは詳細な説明は繰り返さない。
【0095】
いくつかの別の実施形態において、マイクロ流体処理システム100は、液滴TE2に対する別の生物医学検査を、更に実行することができる。例えば、マイクロ流体処理システム100は、温度要件に基づき、液滴TE2を特定の摂氏温度に加熱するようにしてもよい。当業者は、「液滴の加熱」の項の説明に基づき、これを達成する方法を理解するはずである。
【0096】
バイオプロトコル
【0097】
いくつかの実施形態において、記憶デバイス31は、複数のプロトコルPa,Pb,...,Pcを記憶するようにしてもよい。,プロトコルPa,Pb,...,Pcの各々は、生物医学処理(例えば、標的抽出、生物医学検査)に対応する。実行される全ての生物医学処理は、正確な結果を達成するために、対応するプロトコルに従わなければならないので、生物医学処理のプロトコルは、バイオプロトコルと称することができる。具体的には、生物医学処理のプロトコルが、サンプルのサンプル量、少なくとも1つの温度要件(例えば、特定の温度への到達)、少なくとも1つのサンプル操作要件(例えば、検査のためのサンプルの移動、分類、切断、混合)、少なくとも1つの磁場要件(例えば、磁場の強度)、および/またはそれ以外で生物医学検査が従わなければならない要件を含んでいてもよい。
【0098】
例えば、プロトコルPaが、特定の疾患のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査のためのものである場合、当該プロトコルPaは、検査サンプルのサンプル量、デオキシリボ核酸(DNA)変性段階のための温度要件および対応する時間間隔、アニーリング段階のための温度要件および対応する時間間隔、ならびに伸長段階のための温度要件および対応する時間間隔を含んでいてもよい。
【0099】
別の例として、検査プロトコルPcが、標的(例えば、核酸)抽出のためのものである場合、当該検査プロトコルPcは、「マイクロ流体処理システムによる標的抽出」の項に記載するように、開始段階、溶解段階、結合段階、洗浄段階、溶出段階、および取出し段階における、サンプル操作要件および磁場要件を含んでいてもよい。
【0100】
本発明によれば、制御装置3の記憶デバイス31に記憶されるプロトコルの数には制限がない。制御装置3の記憶デバイス31に記憶されるプロトコルが多いほど、より多くの生物医学処理をマイクロ流体試験システム100によって実行可能となると理解される。
【0101】
制御回路の回路例
【0102】
本発明のマイクロ電極デバイス1の制御回路15に関して、例示的な回路図を
図7に示している。なお、
図7に示す回路図は、本発明の範囲の限定を意図するものではないことに留意されたい。
【0103】
この具体例では、プロトコルで指定されたサンプル操作要件を実行しようとする場合、制御信号ENactの値が0(サンプル制御信号EN_Fがイネーブルとされていることに相当)であり、データ信号Qnの値は、マイクロ電極デバイス1によって読み込まれるサンプル操作設定であり、クロック信号CLK1のクロックレート(例えば、1kHz~10kHzに設定可能)は、他の操作のために設定されるクロックレートよりも遅くすることができる。マイクロ流体制御および位置検出回路151は、液滴LOに対するサンプル操作を達成するための引張力を生成する。
【0104】
この具体例において、上部プレート10とマイクロ流体電極11との間の静電容量値を検出しようとする場合には、制御信号ENactの値が、1(位置検出信号EN_Sがイネーブルとされていることに相当)となり、クロック信号CLK1のクロックレート(例えば、1MHz~10MHzに設定可能)は、サンプル操作のために設定されるクロックレートよりも速くすることができる。マイクロ流体制御および位置検出回路151は、検出された静電容量値(即ち、静電容量の放電結果)を検出結果Dsenとして出力し、当該検出結果Dsenを、データ信号Dnとして記憶回路155(Dフリップフロップとすることができる)に記憶する。上述したように、マイクロ電極ドットアレイ21に設けられるマイクロ電極デバイス1は、直列に接続されているので、記憶回路155は、その手前に配置されてデータシグナルを出力する他のマイクロ電極デバイス1の記憶回路155のデータシグナルQ1,1,...,Q1,n-1を受信することになる。
【0105】
本具体例において、プロトコルで指定された温度要件を実行しようとする場合には、制御信号ENtemp/ENmagneticの値が、1(加熱制御信号EN_Tがイネーブルとされていることに相当)となり、データ信号Q2,nの値が、マイクロ電極デバイス1によって読み込まれた加熱制御設定(例えば、数値「0」が、加熱を実行しないことを表し、数値「1」が、加熱を実行することを表す)となる。温度および磁気制御回路153内のマルチプレクサは、加熱制御信号EN_Tおよびデータ信号Q2,nに従い、当該回路内のスイッチを導通させて直流電圧VDD_HEATを供給するか否かを決定する。温度および磁気制御回路153のスイッチが導通されると、直流電圧VDD_HEATが、温度および磁気制御回路153に供給され、電流が抵抗RHEATおよび多機能電極13を通過することになり、それによって、加熱結果が達成される。
【0106】
この具体例において、プロトコルで指定された磁場要件を実行しようとする場合には、制御信号ENtemp/ENmagneticの値が、1(磁気制御信号EN_Mがイネーブルとされていることに相当)となり、データ信号Q2,nの値が、マイクロ電極デバイス1によって読み込まれた磁場制御設定(例えば、数値「0」が、磁場を提供しないことを表し、数値「1」が、磁場を提供することを表す)となる。温度および磁気制御回路153内のマルチプレクサは、磁気制御信号EN_Mおよびデータ信号Q2,nに従い、当該回路内のスイッチを導通させて交流電圧VACを供給するか否かを決定する。温度および磁気制御回路153のスイッチが導通され、交流電圧VACが温度および磁気制御回路153に供給されると、磁場が形成されることになる。
【0107】
マイクロ流体処理方法
【0108】
本発明は、マイクロ流体チップ2を制御するために、マイクロ流体処理システムの制御装置(例えば、上述の実施形態で説明した制御装置3)において用いられるマイクロ流体処理方法も提供する。
【0109】
図8は、本発明のいくつかの実施形態における、マイクロ流体処理方法の主要なフローチャートを示している。これらの実施形態において、マイクロ流体処理方法は、マイクロ流体チップ2内における液滴の位置を判定するためのステップS801~S807と、液滴にサンプル操作を適用するためのステップS809~S813とを備える。
【0110】
ステップS801は、位置検出信号EN_Sをマイクロ流体チップ2に供給するために実行される。位置検出信号EN_Sは、時間間隔T1内においてイネーブルとされ、マイクロ流体制御および位置検出回路151の各々は、時間間隔T1中に、位置検出信号に従い、上部プレート10と、対応するマイクロ流体電極11との間の静電容量値を検出し、当該静電容量を、対応する記憶回路155に記憶する。
【0111】
ステップS803は、クロック信号CLK1(第1のクロック信号)をマイクロ流体チップ2に供給するために実行される。クロック信号CLK1は、時間間隔T2の複数の分割時間間隔内においてイネーブルとされ、記憶回路155の各々は、時間間隔T2の対応する分割時間間隔中に、対応する静電容量値を出力する。
【0112】
ステップS805は、マイクロ流体チップ2から静電容量値を受信するために実行される。ステップS807は、静電容量値に基づき、上部プレート10とマイクロ電極ドットアレイ21との間における各液滴のサイズおよび位置を判定するために実行される。いくつかの実施形態では、処理されることになる液滴のサイズおよび位置を、制御装置が既に認識しているようにすることが可能である。このような実施形態では、ステップS801、ステップS805、およびステップS807が省略され、クロック信号CLK1は、時間間隔T2の分割時間間隔内においてイネーブルとされることはない。
【0113】
ステップS809は、複数のサンプル操作設定をマイクロ流体チップ2に供給するために実行される。具体的には、クロック信号CLK1が、時間間隔T3の複数の分割時間間隔内においてイネーブルとされ、記憶回路155の各々は、対応する分割時間間隔内において、対応するサンプル操作設定を読み込む。いくつかの実施形態において、マイクロ流体処理方法は、サンプル操作要件と、処理される液滴のサイズおよび位置とに応じてサンプル操作設定を生成するために、ステップS809の前に別のステップを実行する。
【0114】
ステップS811は、サンプル制御信号EN_Fをマイクロ流体チップ2に供給するために実行される。ステップS813は、上部プレート10の上面に電圧信号VSを供給するために実行される。時間間隔T4中、サンプル制御信号EN_Fがイネーブルとされ、電圧信号VSの電圧レベルがハイとなり、その結果、マイクロ流体制御および位置検出回路151の各々は、時間間隔T4中、対応するサンプル操作設定に従って、サンプル制御状態となる。このようにして、サンプル操作が液滴に適用される。
【0115】
なお、本発明は、ステップS801、ステップS803、ステップS811、およびステップS813の実行順序を限定するものではない。但し、時間間隔T2は時間間隔T1の後となり、時間間隔T3は時間間隔T2の後となり、時間間隔T4は時間間隔T3の後となる。
【0116】
図9は、本発明のいくつかの実施形態における、マイクロ流体処理方法の主要なフローチャートを示している。これらの実施形態において、マイクロ流体処理方法は、マイクロ流体チップ2内における液滴の位置を判定するためのステップS801~S807と、液滴に磁場を印加するためのステップS909~S913とを備える。なお、ステップS801~S807の詳細については上述したので、ここでは繰り返さない。
【0117】
ステップS909は、クロック信号CLK2(第2のクロック信号)をマイクロ流体チップ2に供給するために実行され、このクロック信号CLK2は、時間間隔T5の複数の分割時間間隔内においてイネーブルとされる。ステップS911は、複数の磁場制御設定をマイクロ流体チップ2に供給するために実行される。記憶回路157の各々は、時間間隔T5の対応する分割時間間隔中に、対応する磁場制御設定を読み込む。ステップS913は、磁場制御信号EN_Mをマイクロ流体チップ2に供給するために実行される。磁場制御信号EN_Mは、時間間隔T6内においてイネーブルとされ、その結果、温度および磁気制御回路153の各々は、時間間隔T6中、対応する磁場制御設定に従って、磁気制御状態となる。このようにして、磁場が液滴に印加される。
【0118】
なお、本発明は、ステップS801、ステップS803、およびステップS909の実行順序を限定するものではない。但し、時間間隔T2は時間間隔T1の後となり、時間間隔T5は時間間隔T2の後となり、時間間隔T6は時間間隔T5の後となる。
【0119】
図10は、本発明のいくつかの実施形態における、マイクロ流体処理方法の主要なフローチャートを示している。これらの実施形態において、マイクロ流体処理方法は、マイクロ流体チップ2内における液滴の位置を判定するためのステップS801~S807と、液滴を加熱するためのステップS109~S113とを備える。なお、ステップS801~S807の詳細については上述したので、ここでは繰り返さない。
【0120】
ステップS109は、クロック信号CLK2(第2のクロック信号)をマイクロ流体チップ2に供給するために実行され、このクロック信号CLK2は、時間間隔T7の複数の分割時間間隔内においてイネーブルとされる。ステップS111は、複数の加熱制御設定をマイクロ流体チップ2に供給するために実行される。記憶回路157の各々は、時間間隔T7の対応する分割時間間隔中に、対応する加熱制御設定を読み込む。ステップS113は、加熱制御信号EN_Tをマイクロ流体チップ2に供給するために実行される。加熱制御信号EN_Tは、時間間隔T8内においてイネーブルとされ、その結果、温度および磁気制御回路153の各々は、時間間隔T8中、対応する加熱制御設定に従って、加熱制御状態となる。このようにして、液滴が加熱される。
【0121】
なお、本発明は、ステップS801、ステップS803、およびステップS109の実行順序を限定するものではない。但し、時間間隔T2は時間間隔T1の後となり、時間間隔T7は時間間隔T2の後となり、時間間隔T8は時間間隔T7の後となる。
【0122】
前述の、液滴の位置を判定するステップ、サンプル操作を液滴に適用するステップ、磁場を液滴に印加するステップ、および液滴を加熱するステップは、個別に、または組み合わせて実施することができる。いくつかの実施形態において、前述のステップは、様々な生物医学処理を実行するために、様々に編成することができる。
【0123】
上述のステップに加え、本発明が提供するマイクロ流体処理方法は、別のステップを実行することが可能であり、その結果、制御装置3は、マイクロ流体チップ2を制御して、上述の様々な実施形態で説明したものと同様の機能を有して同様の技術的効果をもたらすことができる。本発明が提供するマイクロ流体処理方法が、どのようにして、それらの操作およびステップを実行し、同様の機能を有し、同様の技術的効果をもたらすかについては、前に示した実施形態についての上述の説明に基づき、当業者が容易に理解するはずであり、従って、本明細書では更なる説明は行わない。
【0124】
本発明の明細書および特許請求の範囲において、いくつかの用語(時間間隔、静電容量値、サンプリング時間を含む)の前には、「第1」、「第2」、・・・、または「第8」という用語があることがわかる。これら「第1」、「第2」、・・・、および「第8」という用語は、異なる用語を区別することのみを目的として使用されるものである。これらの用語の順序が指定されていない場合、または用語の順序が文脈から導出できない場合、これらの用語の順序は、先行する「第1」、「第2」、...、または「第8」によって限定されるものではない。
【0125】
上述の説明によれば、本発明によって提供されるマイクロ流体処理技術は、液滴の位置を判定し、サンプル操作を液滴に適用し、磁場を液滴に印加し、そして液滴を加熱することができる。タイミング図を適切に編成することにより、サンプル操作と磁場とを一緒に(即ち、同じ時間間隔内において)適用することができる。従って、サンプル操作要件、磁場要件、および/または温度要件を適切に編成し、必要なサンプル操作設定、必要な磁場制御設定、および/または必要な加熱制御設定を、処理しようとする液滴の最新のサイズおよび位置に応じて生成することにより、様々な種類の生物医学処理(例えば、標的抽出、生物医学検査)を、同じ機器において正確に実行することができる。従来の技術と比較すると、本発明が提供するマイクロ流体処理技術を使用して生物医学処理を実行することは、全ての操作が同じ機器において実行可能であるので、より一層便利である。更に、全ての操作を同じ装置で行うことができるので、液滴が汚染されることはない。
【0126】
上記開示は、詳細な技術内容および発明の特徴に関するものである。当業者は、記載された本発明の開示および示唆に基づき、その特徴から逸脱することなく、様々な変更および置換を続けることができる。但し、そのような変更および置換は、上述の説明において完全には開示されていないものの、添付の特許請求の範囲において実質的に網羅されている。