(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165640
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】コロナ耐性ポリイミド絶縁体を有するマグネットワイヤ
(51)【国際特許分類】
H01B 7/02 20060101AFI20231109BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20231109BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231109BHJP
【FI】
H01B7/02 A
C08L79/08 C
C08L79/08 B
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023072593
(22)【出願日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】17/731,350
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】598077037
【氏名又は名称】エセックス フルカワ マグネット ワイヤ ユーエスエイ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100173473
【弁理士】
【氏名又は名称】高井良 克己
(72)【発明者】
【氏名】マシュー リーチ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ジェイ コーネル
(72)【発明者】
【氏名】アレン ロー ギッシンジャー
(72)【発明者】
【氏名】アラン アール ネル
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック マーシャル マクファーランド
(72)【発明者】
【氏名】タマンナ ファードス マクファーランド
(72)【発明者】
【氏名】モハンマド マズハル サイード
【テーマコード(参考)】
4J002
5G309
【Fターム(参考)】
4J002CM04W
4J002CM04X
4J002DE096
4J002DE136
4J002DJ017
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD12W
4J002FD12X
4J002GQ01
4J002HA08
5G309MA02
5G309MA03
5G309MA04
5G309MA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コロナ耐性エナメル絶縁体を有するマグネットワイヤは、導体及び導体の周囲に形成された多層絶縁システムとを含んでもよい。
【解決手段】絶縁システムは、第1のポリマー性エナメル絶縁から形成されたベースコートを含んでもよい。第2のポリマー性エナメル絶縁体から形成されたミッドコートはベースコートの周囲に形成されてもよく、第2のポリマー性エナメル絶縁体はベースポリイミド材料中に分散された充填材を含んでもよい。充填材は、20重量%~80重量%の二酸化シリカと20重量%~80重量%の二酸化チタンとを含んでもよい。加えて、絶縁システムは、ミッドコートの周囲に形成された第3のポリマー性エナメル絶縁体から形成されたトップコートを含んでもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
導体;及び
前記導体の周囲に形成された絶縁システム
を含むマグネットワイヤであって、
前記絶縁システムが、以下:
第1のポリマー性エナメル絶縁体のベースコート;
前記ベースコートの周囲に形成された第2のポリマー性エナメル絶縁体のミッドコートであって、前記第2のポリマーエナメル絶縁体が、ベースポリイミド材料中に分散された充填材を含み、前記充填材が、20重量パーセント~80重量パーセントの二酸化シリカと20重量パーセント~80重量パーセントの二酸化チタンとを含む、第2のポリマー性エナメル絶縁体;及び
前記ミッドコートの周囲に形成された第3のポリマー性エナメル絶縁体のトップコート
を含み、
前記ミッドコートが、前記絶縁システムの全体の厚さの少なくとも5パーセントを占める、
マグネットワイヤ。
【請求項2】
前記ワイヤが4mmのマンドレルの周囲に180度曲げられた時に、トップコート割れ頻度が、1.25未満であり、前記トップコート割れ頻度が、前記マンドレルの周囲にそれぞれ曲げられた前記ワイヤの20個のサンプル当たりのそれぞれのトップコートにおける割れの数を表す、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項3】
前記ベースコートが、(i)ポリエステル、(ii)THEICポリエステル、(iii)ポリエステルイミド、又は(iv)ポリアミドイミドのうちの1つを含む、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項4】
前記トップコートが、非充填ポリアミドイミドを含む、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項5】
請求項1に記載のマグネットワイヤであって:
前記ベースコートが、前記絶縁システムの合計厚さの10パーセント~70パーセントである第1の厚さを有し;
前記ミッドコートが、前記合計厚さの5パーセント~80パーセントである第2の厚さを有し;かつ
前記トップコートが、前記合計厚さの5パーセント~50パーセントである第3の厚さを有する
マグネットワイヤ。
【請求項6】
請求項1に記載のマグネットワイヤであって:
前記ベースコートが、前記絶縁システムの合計厚さの45パーセント~65パーセントである第1の厚さを有し;
前記ミッドコートが、前記合計厚さの5パーセント~40パーセントである第2の厚さを有し;かつ
前記トップコートが、前記合計厚さの5パーセント~35パーセントである第3の厚さを有する
マグネットワイヤ。
【請求項7】
請求項1に記載のマグネットワイヤであって:
前記ベースコートが、前記絶縁システムの合計厚さの45パーセント~65パーセントである第1の厚さを有し;
前記ミッドコートが、前記合計厚さの25パーセント~40パーセントである第2の厚さを有し;かつ
前記トップコートが、前記合計厚さの5パーセント~15パーセントである第3の厚さを有する
マグネットワイヤ。
【請求項8】
前記充填材が、10重量パーセント~25重量パーセントの前記第2のポリマー性エナメル絶縁体を含む、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項9】
前記絶縁システムが、少なくとも240℃の熱指数を有する、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項10】
前記絶縁システムが、少なくとも260℃の熱指数を有する、請求項1に記載のマグネットワイヤ。
【請求項11】
以下:
導体;及び
前記導体の周囲に形成された絶縁システム
を含むマグネットワイヤであって、
前記絶縁システムが、以下:
第1のポリマー性エナメル絶縁体のベースコート;
前記ベースコートの周囲に形成された第2のポリマー性エナメル絶縁体のミッドコートであって、前記第2のポリマーエナメル絶縁体が、ベースポリイミド材料中に分散された充填材を含み、前記充填材が、20重量パーセント~80重量パーセントの二酸化シリカと20重量パーセント~80重量パーセントの二酸化チタンとを含む、第2のポリマー性エナメル絶縁体;及び
前記ミッドコートの周囲に形成された第3のポリマー性エナメル絶縁体のトップコート
を含み、
前記ワイヤが4mmのマンドレルの周囲に180度曲げられた時に、トップコート割れ頻度が、1.25未満であり、前記トップコート割れ頻度が、前記マンドレルの周囲にそれぞれ曲げられた前記ワイヤの20個のサンプル当たりのそれぞれのトップコートにおける割れの数を表す、
マグネットワイヤ。
【請求項12】
前記ベースコートが、(i)ポリエステル、(ii)THEICポリエステル、(iii)ポリエステルイミド、又は(iv)ポリアミドイミドのうちの1つを含む、請求項11に記載のマグネットワイヤ。
【請求項13】
前記トップコートが、非充填ポリアミドイミドを含む、請求項11に記載のマグネットワイヤ。
【請求項14】
請求項11に記載のマグネットワイヤであって:
前記ベースコートが、前記絶縁システムの合計厚さの10パーセント~70パーセントである第1の厚さを有し;
前記ミッドコートが、前記合計厚さの5パーセント~80パーセントである第2の厚さを有し;かつ
前記トップコートが、前記合計厚さの5パーセント~50パーセントである第3の厚さを有する
マグネットワイヤ。
【請求項15】
請求項11に記載のマグネットワイヤであって:
前記ベースコートが、前記絶縁システムの合計厚さの45パーセント~65パーセントである第1の厚さを有し;
前記ミッドコートが、前記合計厚さの5パーセント~40パーセントである第2の厚さを有し;かつ
前記トップコートが、前記合計厚さの5パーセント~35パーセントである第3の厚さを有する
マグネットワイヤ。
【請求項16】
請求項11に記載のマグネットワイヤであって:
前記ベースコートが、前記絶縁システムの合計厚さの45パーセント~65パーセントである第1の厚さを有し;
前記ミッドコートが、前記合計厚さの25パーセント~40パーセントである第2の厚さを有し;かつ
前記トップコートが、前記合計厚さの5パーセント~15パーセントである第3の厚さを有する
マグネットワイヤ。
【請求項17】
前記充填材が、10重量パーセント~25重量パーセントの前記第2のポリマー性エナメル絶縁体を含む、請求項11に記載のマグネットワイヤ。
【請求項18】
前記絶縁システムが、少なくとも240℃の熱指数を有する、請求項11に記載のマグネットワイヤ。
【請求項19】
以下:
導体;及び
前記導体の周囲に形成された合計厚さを有する絶縁システム
を含むマグネットワイヤであって、
前記絶縁システムが、以下:
THEICポリエステルを含む第1のポリマー性エナメル絶縁体のベースコートであって、前記ベースコートが、前記合計厚さの10パーセント~70パーセントである第1の厚さで形成される、ベースコート;
前記ベースコートの周囲に、前記合計厚さの5パーセント~80パーセントである第2の厚さで形成された第2のポリマー性エナメル絶縁体のミッドコートであって、前記第2のポリマー性エナメル絶縁体が、ベースポリイミド材料中に分散された充填材を含み、前記充填材が、20重量パーセント~80重量パーセントの二酸化シリカと20重量パーセント~80重量パーセントの二酸化チタンとを含む、ミッドコート;及び
ポリアミドイミドを含む第3のポリマー性エナメル絶縁体のトップコートであって、前記トップコートが、前記ミッドコートの周囲に、前記合計厚さの5パーセント~50パーセントである第3の厚さで形成さる、トップコート
を含む、
マグネットワイヤ。
【請求項20】
前記ワイヤが4mmのマンドレルの周囲に180度曲げられた時に、トップコート割れ頻度が、1.25未満であり、前記トップコート割れ頻度が、前記マンドレルの周囲にそれぞれ曲げられた前記ワイヤの20個のサンプル当たりのそれぞれのトップコートにおける割れの数を表す、請求項19に記載のマグネットワイヤ。
【請求項21】
請求項19に記載のマグネットワイヤであって:
前記第1の厚さが、前記絶縁システムの合計厚さの45%~65%であり;
前記第2の厚さが、前記合計厚さの5%~40%であり;かつ
前記第3の厚さが、前記合計厚さの5%~35%である
マグネットワイヤ。
【請求項22】
請求項19に記載のマグネットワイヤであって:
前記第1の厚さが、前記合計厚さの45%~65%であり;
前記第2の厚さが、前記合計厚さの25%~40%であり;かつ
前記第3の厚さが、前記合計厚さの5%~15%である
マグネットワイヤ。
【請求項23】
前記充填材が、10重量パーセント~25重量パーセントの前記第2のポリマー性エナメル絶縁体を含む、請求項19に記載のマグネットワイヤ。
【請求項24】
前記絶縁システムが、少なくとも240℃の熱指数を有する、請求項19に記載のマグネットワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年5月10日に出願され、「Magnet Wire with Corona Resistant Polyamideimide Insulation」と題された米国特許出願第17/316,333号の一部継続出願であり、2020年8月26日に出願された米国特許第11,004,575号の一部継続出願であり、「Magnet Wire with Corona Resistant Polyimide Insulation」と題され、2019年5月6日に出願された米国特許第10,796,820号の一部継続出願であり、「Magnet Wire with Corona Resistant Polyimide Insulation」と題され、2018年5月7日に出願された米国仮出願第62/667,649号の優先権を主張し、「Corona Resistant Polyimide Magnet Wire Insulation」と題する。これらの先行事項のそれぞれの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
(技術分野)
本開示の実施形態は一般にマグネットワイヤに関し、より詳細には、モータ巻線の寿命及び熱伝導率を改善するように設計されたコロナ耐性ポリイミドを組み込んだ絶縁システムを含むマグネットワイヤに関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
巻線又は磁気巻線とも呼ばれるマグネットワイヤは、インバータ駆動モータ、モータスタータジェネレータ、変圧器などの多種多様な電気機械及び装置において利用されている。マグネットワイヤは、典型的には中心導体の周囲に形成されたポリマー性エナメル絶縁体を含む。エナメル絶縁体はワイヤ上にワニスを塗布し、オーブン中でワニスを硬化させて溶媒を除去することによって形成され、それによって薄いエナメル層が形成される。このプロセスは、所望のエナメル質の構築又は厚さが達成されるまで繰り返される。エナメル層を形成するために利用されるポリマー材料は、特定の最高温度下での使用が意図される。さらに、電気機器は、ワイヤ絶縁を破壊又は劣化させる可能性がある比較的高い電圧条件にさらされる可能性がある。例えば、インバータは特定のタイプのモータに入力される可変周波数を生成することができ、可変周波数は、早期のモータ巻線故障を引き起こす急峻な波形を示すことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイヤ絶縁の劣化の結果として早期故障を低減する試みがなされてきた。これらの試みは、電気機械及び装置の取扱い及び製造中のワイヤ及び絶縁体への損傷を最小限にすること、ならびに適切な場合にはより短いリード長を使用することを含んでいた。さらに、インバータ駆動部とモータとの間のリアクトルコイル又はフィルタは、インバータ駆動部/モータの組合せによって生成される電圧スパイク及び高周波数を低減することによって、巻き線の寿命を延ばすことができる。しかしながら、そのような巻は高価であり、システムの全体的なコストを増大させる。絶縁の量を増加させることは電気機器内の巻き線の寿命を改善することができるが、この選択肢は高価であり、デバイス内の銅のための空間の量を減少させ、それによって、より効率の低いモータを生成する。さらに、層間の層間剥離は、ある数のエナメル層に達した後に起こり得る。したがって、電気機器内に存在するより高い温度及び/又は電圧に長期間耐えるように設計された絶縁体を有する改善されたマグネットワイヤの機会が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
詳細な説明は、添付の図面を参照して記載される。図において、参照番号の最も左の数字は、参照番号が最初に現れる図を識別する。異なる図における同じ参照番号の使用は類似又は同一のアイテムを示すが、様々な実施形態は図に示される元素及び/又は構成元素以外の元素及び/又は構成元素を利用し得る。加えて、図面は、本明細書に記載される例示的な実施形態を示すために提供され、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1Aは、本開示の様々な実施形態に従って形成され得る例示的なマグネットワイヤ構造の断面図を示す。
図1Bは、本開示の様々な実施形態に従って形成され得る例示的なマグネットワイヤ構造の断面図を示す。
【
図2】
図2Aは、本開示の様々な実施形態に従って形成され得る例示的なマグネットワイヤ構造の断面図を示す。
図2Bは、本開示の様々な実施形態に従って形成され得る例示的なマグネットワイヤ構造の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(詳細な説明)
本開示の特定の実施形態は、従来のPI絶縁体と比較して改善されたコロナ耐性、熱伝導性、及び/又は熱寿命向上を有するポリイミド(「PI」)エナメル絶縁体の少なくとも1つの層を含むマグネットワイヤを対象とする。改善されたPI絶縁層は、PIポリマー又は樹脂に添加された充填材を含むことができる。充填材は、少なくとも二酸化チタン(TiO2)(二二酸化チタンとも称される)と二酸化シリカ(SiO2)(シリカとも称される)との混合物を含んでもよい。混合物は、酸化クロム(III)(Cr2 O3)(酸化クロムとも呼ばれる)などの、所望の他の適切な材料をさらに含んでもよい。充填材の添加は、充填されたPIから形成されるエナメル層及び/又は充填されたPIエナメル層を組み込むマグネットワイヤ絶縁システムのコロナ耐性及び/又は熱寿命を改善することができる。その結果、マグネットワイヤ及び/又はマグネットワイヤを組み込んだ電気装置(例えば、モータ等)の寿命は、部分放電及び/又は他の悪条件下で増加又は延長され得る。特定の実施形態では、充填材の添加が磁石ワイヤの熱伝導性を改善することもできる。
【0008】
充填材材料は充填材入りPI層を形成するために、任意の適切な比率でPIに添加され得る。例えば、充填材の総量は約10重量パーセント(10%)~約25重量パーセント(25%)、例えば、約15重量パーセント(15%)であり得る。充填材に組み込まれる様々な構成要素のために、多種多様なブレンド又は混合率を利用することができる。例えば、二酸化チタン及び二酸化シリカは、多種多様な適切な重量比でブレンドすることができる。様々な実施形態において、充填材は、約20重量パーセント(20%)~約80重量パーセント(80%)の二酸化シリカと、約20重量パーセント(20%)~約80重量パーセント(80%)の二酸化チタンとを含み得る。
【0009】
特定の実施形態において、1つ以上の充填されたPI層は、マグネットワイヤ絶縁システム全体において追加のエナメル絶縁層と組み合わされてもよい。例えば、1つ以上の充填PI層を、ポリエステル、THEICポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド(「PAI」)、未充填PI、及び/又は他の適切な材料から形成されるエナメルの1つ以上の追加の層と組み合わせることができる。エナメルの各追加層は、非充填層として、又は任意の適切な充填材料を含む充填層として形成され得る。さらに、任意の適切な数の追加の層を充填PI層と組み合わせることができ、各追加の層は任意の適切な厚さを有することができる。任意の適切な厚さ比を、充填されたPI層及び追加の層と共に利用することができる。充填されたPI層を1つ以上の追加の層と組み合わせるエナメル系は、多種多様な利益を提供し得る。例えば、エナメル系の全体的なコストは、全ての充填されたPIを含む系と比較して低減され得る。しかしながら、エナメル系の全体的な性能(例えば、耐熱性、コロナ耐性など)は全ての充填されたPIを含む絶縁体の性能に匹敵し得、及び/又は所望の用途(例えば、電気自動車用途など)に適し得る。別の実施例として、エナメル系は、磁石ワイヤを成形又は加工することを可能にする、強化された柔軟性を提供することができる。
【0010】
特定の例示的な実施形態では、マグネットワイヤが3層絶縁システムを用いて形成されてもよい。ベースコートは、ポリエステル、THEICポリエステル、ポリエステルイミド、又はPAIなどの第1のポリマー材料から導体の周囲に形成され得る。1つの例示的な実施形態では、ベースコートが比較的高い固形分及び粘度を有するTHEICポリエステルから形成されてもよい。ミッドコートは、ベースコート上に充填されたPIから形成されてもよい。次いで、非充填PAIから形成されたトップコートなどのトップコートを、充填されたPIミッドコートの上に形成することができる。ベースコート、ミッドコート、及びトップコートのそれぞれは、所望の層厚を提供する任意の適切な数の副層を含むことができる。さらに、ベースコート、ミッドコート、及びトップコートの間の任意の適切な厚さの比を利用することができる。特定の実施形態ではベースコートが合計絶縁厚さの約10パーセント(10%)~70パーセント(70%)の間の第1の厚さを有することができ、ミッドコートは合計絶縁厚さの約5パーセント(5%)~80パーセント(80%)の間の第2の厚さを有することができ、トップコートは合計絶縁厚さの約5パーセント(5%)~50パーセント(50%)の間の第3の厚さを有することができる。特定の実施形態ではベースコートが総厚さの約45パーセント(45%)~65パーセント(65%)を占めることができ、ミッドコートは総厚さの約25パーセント(25%)~40パーセント(40%)を占めることができ、トップコートは総厚さの5パーセント(5%)~15パーセント(15%)を占めることができる。さらに他の実施形態ではベースコートが総厚さの約45パーセント(45%)~65パーセント(65%)を占めることができ、ミッドコートは総厚さの約5パーセント(5%)~40パーセント(40%)を占めることができ、トップコートは総厚さの5パーセント(5%)~35パーセント(35%)を占めることができる。特定の実施形態では、ミッドコートが合計エナメル絶縁厚さの少なくとも5パーセント(5%)を占める場合、マグネットワイヤが所望の電気的性能を提供し得ることが見出された。他の実施形態では、ミッドコートが合計エナメル絶縁厚さの少なくとも15、20、又は25パーセントを占める場合、所望の電気的性能が提供され得る。
【0011】
本開示の他の実施形態は、改善されたコロナ耐性、熱伝導性、及び/又は熱寿命向上を有するPIエナメル絶縁体の少なくとも1つの層を含むマグネットワイヤを作製する方法を対象とする。例えば、3層絶縁システムを含むマグネットワイヤを形成することができる。導体を設けることができ、適切なエナメル絶縁システムを導体の周囲に形成することができる。第1に、第1のポリマー性エナメル絶縁体のベースコートを導体の周囲に形成することができる。ベースコートは、ポリエステル、THEICポリエステル、ポリエステルイミド、又はPAIなどの任意の適切な材料を含むことができる。特定の実施形態では、ベースコートを形成することは高粘度及び/又は高固形分のTHEICポリエステル材料を含むワニスを導体上に塗布し、塗布された材料を硬化させることを含むことができる。ベースコートの形成に続いて、ベースポリイミド材料内に分散された充填材料(例えば、二酸化シリカと二酸化チタンとの組み合わせ)を含むワニスを塗布し、塗布されたワニスを硬化させる結果として、第2のポリマー性エナメル絶縁体のミッドコートを導体の周囲に形成することができる。特定の実施形態では、高粘度及び/又は高固形分のポリイミド材料を充填し、適用することができる。ミッドコートの適用に続いて、第3のポリマー性エナメル絶縁体のトップコートをミッドコートの周囲に形成することができる。トップコートは、PAIなどの任意の適切な材料を含むことができる。特定の実施形態では、トップコートを形成することはPAIを含むワニスをミッドコート上に塗布することと、塗布された材料を硬化させることとを含み得る。さらに、ベースコート、ミッドコート、及びトップコートは、任意の適切な厚さ及び/又はビルドで形成されてもよく、幅広い種類の厚さ比が形成されてもよい。続いて、形成された磁石ワイヤを4mmのマンドレルの周囲に180度曲げると、トップコート亀裂周波数は1.25未満であり、トップコート亀裂周波数は、マンドレルの周囲にそれぞれ曲げられたワイヤの20個のサンプル当たりのそれぞれのトップコートにおける亀裂の数を表す。
【0012】
本開示の実施形態は、ここで、本開示の特定の実施形態が示される添付の図面を参照して、以下でより完全に説明される。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具現化されてもよく、本明細書に記載される実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は本開示が徹底的かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるように提供される。同じ参照符号は全体を通して同じ要素を指す。
【0013】
ここで図面を参照すると、
図1Aは、エナメル絶縁体で被覆された導体110を含む、実施例丸い磁石ワイヤ100の断面端面図を示す。任意の適切な数のエナメル層を、所望に応じて利用することができる。示されるように、ベースコート120及びトップコート130などの複数のエナメル層が、導体110の周囲に形成され得る。他の実施形態では、エナメル絶縁体の単一層が利用されてもよい。
図2A及び
図2Bを参照して以下でより詳細に説明する実施形態などのさらに他の実施形態では、エナメル絶縁体の3つ以上の層を利用することができる。例えば、マグネットワイヤは、ベースコートエナメル層、ミッドコートエナメル層、及びトップコートエナメル層を含むことができる。さらに、エナメル層の1つ又は複数は適切な無機充填材を含む充填PI層であってもよく、充填材は二酸化シリカと二酸化チタンとの組み合わせを含んでもよい。
【0014】
図1Bは、エナメル絶縁体で被覆された導体160を含む、実施例矩形磁石ワイヤ150の断面端面図を示す。任意の適切な数のエナメル層を、所望に応じて利用することができる。示されるように、ベースコート170及びトップコート180などの複数のエナメル層が、導体160の周囲に形成され得る。他の実施形態では、エナメル絶縁体の単一層を利用することができる。
図2A及び
図2Bを参照して以下でより詳細に説明する実施形態などのさらに他の実施形態では、エナメル絶縁体の3つ以上の層を利用することができる。例えば、マグネットワイヤは、ベースコートエナメル層、ミッドコートエナメル層、及びトップコートエナメル層を含むことができる。さらに、エナメル層の1つ又は複数は適切な無機充填材を含む充填PI層であってもよく、充填材は二酸化シリカと二酸化チタンとの組み合わせを含んでもよい。
図1Aの丸いワイヤ100については以下でより詳細に説明するが、
図1Bの長方形ワイヤ150の様々な構成要素は
図1Aの丸いワイヤ100について説明したものと同様であり得ることが理解されよう。
【0015】
導体110は、多種多様な適切な材料又は材料の組み合わせから形成され得る。例えば、導体110は、銅、アルミニウム、アニール銅、無酸素銅、銀めっき銅、ニッケルめっき銅、銅クラッドアルミニウム(「CCA」)、銀、金、導電性合金、バイメタル、カーボンナノチューブ、又は任意の他の適切な導電性材料から形成され得る。さらに、導体110は、図示の円形又は円形断面形状などの任意の適切な断面形状で形成されてもよい。他の実施形態では、導体110が長方形(
図1Bに示すように)、正方形、楕円形、楕円形、又は任意の他の適切な断面形状を有することができる。長方形などの特定の断面形状について所望されるように、導体は丸みを帯びた、鋭い、滑らかな、湾曲した、角度の付いた、切頭した、又は他の方法で形成された角を有し得る。導体110はまた、任意の適切な寸法、例えば、任意の適切なゲージ(例えば、16 AWG、18 AWGなど)、直径、高さ、幅、断面積などで形成され得る。例えば、長方形導体は、約1.0mm~約3.0mmの短辺と、約2.0mm~約5.0mmの長辺とを有することができる。
【0016】
図示のベースコート120及びトップコート130などのエナメルの任意の数の層を、導体110の周囲に形成することができる。エナメル層は典型的にはポリマーワニスを導体110に塗布し、次いで、導体110を適切なエナメル炉又は炉内で焼成することによって形成される。ポリマーワニスは典型的には1種以上の溶媒中に懸濁された熱硬化性ポリマー材料又は樹脂(すなわち、固形)を含む。熱硬化性又は熱硬化性ポリマーは軟質固体又は粘性液体(例えば、粉末など)から不溶性又は架橋樹脂に不可逆的に硬化され得る材料である。熱硬化性ポリマーは、典型的には溶融加工がポリマーを分解又は分解するので、押出による適用のために溶融することができない。したがって、熱硬化性ポリマーを溶媒中に懸濁させてワニスを形成し、これを塗布して硬化させてエナメル薄膜層を形成することができる。ワニスの塗布に続いて、溶剤は、ベーキング又は他の適切な硬化の結果として除去され、それによって、固体ポリマー性エナメル層を残す。必要に応じて、エナメルの複数の層を導体110に適用して、所望のエナメルの厚さ又は構築物(例えば、導体及び任意の下にある層の厚さを差し引いたエナメルの厚さ)を達成することができる。各エナメル層は、同様のプロセスを利用して形成することができる。換言すれば、第1のエナメル層は例えば、適切なワニスを塗布し、導体をエナメル処理オーブンに通すことによって形成することができる。続いて、第2のエナメル層は適切なワニスを塗布し、導体を同じエナメル化オーブン又は異なるエナメル化オーブンのいずれかに通すことによって形成することができる。追加の層が同様に形成される。エナメルオーブンは、オーブンを通るワイヤの複数回の通過を容易にするように構成されてもよい。必要に応じて、1つ以上のエナメル化炉に加えて、又はその代替として、他の硬化装置を利用することができる。例えば、1つ以上の適切な赤外線、紫外線、電子ビーム、及び/又は他の硬化システムが利用されてもよい。
【0017】
ベースコート120及びトップコート130などのエナメルの各層は、任意の適切な数の副層で形成され得る。例えば、ベースコート120は単一のエナメル層を含んでもよく、あるいは所望の構築又は厚さが達成されるまで形成される複数のエナメル層又は下層を含んでもよい。同様に、トップコート130は、1つ又は複数の副層を含むことができる。エナメル質の各層は、約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、75、80、90、又は100マイクロメートルの厚さ、上記値のいずれか2つの間の温度範囲に含まれる厚さ、及び/又は上記値のうちの1つによって最小又は最大端部のいずれかに境界付けられた温度範囲に含まれる厚さなど、任意の所望の厚。全絶縁システム(例えば、エナメル層の複合厚さ)はまた、約30、40、50、60、70、75、80、90、100、125、150、175、200、225、250、275、又は300マイクロメートルの厚さ、上記値のうちのいずれか2つの間の温度範囲に含まれる厚さ(例えば、60~100マイクロメートルの厚さなど)、及び/又は上記値のうちの1つによって最小又は最大端部のいずれかに境界付けられた温度範囲に含まれる厚さなど、任意の適切な厚さを有し得る。特定の実施形態では、例示的な厚さ値がエナメル層又はエナメルシステム全体の厚さに適用することができる。他の実施形態では、例示的な厚さ値がエナメル層又は全体エナメル系の構築物(例えば、エナメルの追加から生じるワイヤの全体の厚さの変化、エナメル層又はエナメル系の厚さの2倍、エナメル層又はエナメル系から生じるワイヤの両側の厚さなど)に適用され得る。さらに他の実施形態では、エナメル層又はエナメル系のための例示的な構築厚みさ値を提供するために、上記で提供された例示的な厚みさ値を2倍にすることができる。実際、任意の適切な厚さを有するエナメル層及び/又は絶縁システムを用いて、多種多様な異なるワイヤ構造を形成することができる。
【0018】
エナメル層を形成するために、所望に応じて、多種多様な異なるタイプのポリマー材料を利用することができる。好適な熱硬化性材料の実施例としてはポリイミド(「PI」)、ポリアミドイミド(「PAI」)、アミドイミド、ポリエステル、トリス(2-ヒドロキシエチルイソシアヌレート)又はTHEICポリエステル、ポリエステルイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリケトンなどが挙げられるが、これらに限定されない。本開示の一態様によれば、少なくとも1つのエナメル層は、ポリイミド(「PI」)を含んでもよい。特定の実施形態では、複数のポリイミド層が形成され得る。例えば、ベースコート120及びトップコート130の両方をPI層として形成することができる。他の実施形態では、1つ又は複数のPI層を、他のタイプの材料から形成されたエナメル層と組み合わせることができる。例えば、ベースコート120はPIから形成されてもよく、トップコート130は別のポリマー材料又はポリマー材料のブレンドを含む。さらに、本開示の一態様によれば、以下でより詳細に説明するように、1つ又は複数のPI層は、充填PI層として形成され得る。
【0019】
特定の実施形態では、ベースコート120が充填PIの1つ以上の層を含んでもよく、未充填トップコート130(例えば、未充填PAIトップコートなど)がベースコート120の上に形成されてもよい。必要に応じて、PIベースコート120とトップコート130との間の任意の適切な構築又は板厚比を利用することができる。特定の実施形態では、PIベースコート120とトップコート130との間の厚さ又は構築比が約95/5~約85/15であってもよい。言い換えれば、トップコート130の厚さ又は構築物は、組み合わされたエナメル絶縁体の全体の厚み構築物の約5.0パーセント~約15.0パーセントを構成し得る。他の実施形態では、トップコート130が組み合わされたエナメル絶縁体の全体の厚さ又は構築物の約2、3、5、7、10、12、15、20、又は25パーセントを構成し得る。
【0020】
図2Aは、実施例3コート円形磁石ワイヤ200の断面端面図を示す。
図2Aに示される実施形態は、ポリマーベースコート220によって囲まれた導体210と、ベースコート220上に配置された第1のポリマー層230と、第1のポリマー層230上に配置された第2のポリマー層240とを含む。特定の実施形態では第1のポリマー層230がミッドコート230と呼ばれることがあり、第2のポリマー層240はトップコート240と呼ばれることがある。同様に、
図2Bは、実施例3コート矩形磁石ワイヤ250の断面端面図を示す。ワイヤ250は、ポリマーベースコート270によって囲まれた導体260と、ベースコート270上に配置された第1のポリマー層280(又はミッドコート280)と、第1のポリマー層280上に配置された第2のポリマー層290(又はトップコート290)とを含む。
図2Aの丸いワイヤ200については以下でより詳細に説明するが、
図2Bの長方形ワイヤ250の様々な構成要素は
図2Aの丸いワイヤ200について説明したものと同様であり得ることが理解されよう。
【0021】
図2Aのワイヤ200に関して、導体210は、
図1Aを参照して上述した導体110と同様であってもよい。さらに、エナメル220、230、240の様々な層を形成するために、多種多様な適切なポリマーを利用することができる。好適な熱硬化性材料の実施例としてはポリイミド、ポリアミドイミド、アミドイミド、ポリエステル、THEICポリエステル、ポリエステルイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリケトンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
図1Aのワイヤ100と同様に、
図2Aのワイヤ200は、適切な充填材を含む少なくとも1つのPI層を含むことができる。特定の実施形態では、1つ又は複数の充填されたPI層が導体210の周りに(例えば、導体210の周りに直接、ベースコート220の周りになど)形成され得る。必要に応じて、1つ又は複数の非充填層又は自己潤滑層、例えば非充填トップコート240を、1つ又は複数の充填されたPI層の周囲に形成することができる。例えば、PIの非充填層又はPAIの非充填層が、1つ又は複数の充填されたPI層の上に形成され得る。特定の実施形態では、充填されたPI上に形成された1つ以上の非充填層が充填されたPI層中の充填材として利用される研磨材料に関連する工具摩耗を減少させるのを助けることができる。加えて、ベースコート220、第1のポリマー層230、及び第2のポリマー層240の各々は、所望回数の副層を含み得る。
【0022】
必要に応じて、マグネットワイヤ絶縁システムに組み込まれる1つ又は複数のPI層を形成するために利用されるPI材料は二無水物成分(例えば、ピロメリット酸二無水物又はPMDA)をジアミン成分(例えば、4,4´-オキシジアニリン(「ODA」)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(「BAPP」)など)と反応させることによって形成され得る。PMDAとODAとを反応させて形成されるPIは他のタイプのPIよりも高い熱性能を有し、それによってマグネットワイヤの熱指数を高めることが見出されている。ある実施形態では、複数のPI層が形成されてもよい。たとえば、2つの層(たとえば、ベースコート220及びミッドコート230、ミッドコート230及びトップコート240など)又は3つの層220、230、240すべてがPI(たとえば、非充填PIベースコート、充填されたPIミッドコート、非充填PIトップコートなど)から形成され得る。特定の実施形態では、複数のPI層が同様のPI配合物(例えば、PMDA及びODAを反応させることによって形成されるPIなど)を含み得る。他の実施形態では、少なくとも2つのPI層が異なる配合を有するPI材料から形成され得る。例えば、ベースコート220(例えば、非充填ベースコート220)は、PMDAをBAPP又はBAPPとODAとのブレンドのいずれかと反応させることによって形成されるPIなどの、導体210への接着性の向上を促進するPIから形成されてもよい。次いで、充填されたミッドコート230は、PMDAとODAとを反応させることによって形成されたPIを含むことができる。必要に応じて、次いで、トップコート230は非充填PIから、又は非充填PAIなどの別の材料から形成され得る。
【0023】
他の実施形態では、1つ以上のPI層を、他のタイプの熱硬化性材料から形成されたエナメル層と組み合わせることができる。言い換えれば、1つ以上の充填されたPI層は、多層エナメル絶縁システムにおいて追加の層と組み合わされ得る。1つ以上の追加の層(例えば、充填されたPI以外の層)がマグネットワイヤシステムに組み込まれる場合、各追加の層は、多種多様な適切な構造で形成され得る。例えば、エナメル質の各追加層は、非充填層として、又は任意の適切な充填材料を含む充填層として形成され得る。さらに、任意の適切な数の追加の層を充填PI層と組み合わせることができ、各追加の層は、所望回数の副層及び/又は任意の適切な厚さを有することができる。任意の適切な厚さ比を、充填されたPI層及び追加の層と共に利用することができる。エナメル層の多種多様な適切な組み合わせは、任意の適切な材料及び/又は材料の組み合わせから形成され得る。
【0024】
特定の実施形態では、マグネットワイヤ200が3層絶縁システムで形成されてもよい。ベースコート220は、ポリエステル、THEICポリエステル、ポリエステルイミド、又はPAIなどの第1のポリマー材料から形成することができる。ミッドコート230は、充填されたPIから形成されてもよい。次いで、非充填PAIから形成されたトップコートなどのトップコート240を、充填されたPIミッドコート230の上に形成することができる。ベースコート220、ミッドコート230、及びトップコート240のそれぞれは、所望の層厚を提供する任意の適切な数の副層を含むことができる。
【0025】
一例として、ベースコート220は、THEICポリエステルを含んでもよい。必要に応じて、THEICポリエステル又は変性THEICポリエステルエナメルは、比較的高い固形分含量及び/又は比較的高い粘度を有する材料から形成することができる。例えば、固形分は、少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%であり得る。特定の実施形態において、固形分は、50%~55%であり得る。特定の実施形態において、THEICポリエステル材料は、少なくとも25,000センチポアズの粘度、例えば25,000~65,000センチポアズの粘度を有し得る。比較的高い固形分含量及び高い粘度を含む結果として、ベースコート220は、1.2未満又は1.1未満の同心度など、比較的低い同心度で形成され得る。これは、長方形ワイヤ(
図2Bのワイヤ250など)に当てはまり、この場合、ワニスは典型的にはワイヤ上への適用とエナメル層への硬化との間に流れるか、又は移動する(例えば、コーナに流れる)。低い同心度を有するベースコート220を形成することによって、後続の層の同心度を改善することができ、絶縁システムの柔軟性を高めることができる。
【0026】
ベースコート220、ミッドコート230、及びトップコート240の間の厚さの任意の適切な比を、様々な実施形態において利用することができる。所望に応じて、異なるエナメル層の厚さは、磁石ワイヤ200の所望の用途(例えば、ハイブリッド及び電気自動車用途など)及び関連する性能要件、例えば、所望の熱性能、コロナ耐性、部分放電性能、可撓性などに少なくとも部分的に基づいてもよい。特定の実施形態ではベースコート220が合計絶縁厚さの約10パーセント(10%)~70パーセント(70%)の間である第1の厚さを有してもよく、ミッドコート230は合計絶縁厚さの約5パーセント(5%)~80パーセント(80%)の間である第2の厚さを有してもよく、トップコート240は合計絶縁厚さの約5パーセント(5%)~50パーセント(50%)の間である第3の厚さを有する可能性がある。特定の実施形態ではベースコート220が総厚さの約45パーセント(45%)~65パーセント(65%)を占めてもよく、ミッドコート230は総厚さの約25パーセント(25%)~40パーセント(40%)を占めてもよく、トップコート240は総厚さの5パーセント(5%)~15パーセント(15%)を占めてもよい。さらに他の実施形態ではベースコートが総厚さの約45パーセント(45%)~65パーセント(65%)を占めることができ、ミッドコートは総厚さの約5パーセント(5%)~40パーセント(40%)を占めることができ、トップコートは総厚さの5パーセント(5%)~35パーセント(35%)を占めることができる。
【0027】
ベースコート220、ミッドコート230、及びトップコート240の間の多種多様な他の適切な厚さ比を、所望に応じて利用することができる。特定の実施形態では他のエナメル層(例えば、ベースコート220及びトップコート240)に対する充填PI層(例えば、充填PIミッドコート230など)の厚さは従来のエナメル絶縁システムと比較して改善された所望の全体的性能を有する絶縁システムをもたらし得る。言い換えれば、充填されたPI絶縁体が全体の絶縁厚さの十分なレベルを占める時に、磁石ワイヤ200は、所望の熱指数、所望の熱寿命、所望のコロナ耐、所望の部分放電開始電圧などの1つ又は複数の所望の性能特性を示し得る。特定の実施形態では充填されたPIエナメル層(例えば、充填されたPIミッドコート230など)は全体の絶縁厚さの少なくとも5パーセント(5%)を占め得る。実際、充填されたPIエナメル層は、コロナ電荷を分散させるのに十分な厚さである場合、特定の用途には十分であり得る。他の実施形態では充填PIエナメル層(例えば、充填PIミッドコート230など)は全体の絶縁厚さの少なくとも25パーセント(25%)又は少なくとも30パーセント(30%)を占めてもよい。様々な他の実施形態では、充填されたPIエナメルがエナメル全体の厚さの少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、75、もしくは80%を占める厚さ、又は上記の値のいずれか2つの間の温度範囲に含まれる厚さを有し得る。
【0028】
多層エナメル絶縁システムに充填されたPIを組み込むことによって、多種多様な利益が提供され得る。特定の実施形態では充填PIエナメル層(例えば、3層絶縁システムにおける充填ミッドコート層230など)の取り込みは従来のマグネットワイヤと比較して、マグネットワイヤ絶縁システムの熱性能、コロナ放電性能、及び/又は部分放電性能を改善することができる。同等性能特性は、全ての充填されたPIエナメルを含む絶縁体に類似又は匹敵し得る。しかしながら、追加の層(すなわち、非充填PI層)の組み合わせは、全ての充填されたPI又はより高いコストの材料を含むエナメルと比較して、エナメル絶縁システムの全体的なコストを低下させるか、又は低減させることができる。言い換えれば、所望の性能を達成するために十分な量の充填されたPIエナメルが含まれてもよく、一方、所望の全体的な絶縁構築又は厚さを達成するために、及び/又は導体210への接着及び/又はより低い摩耗などの他の所望のパラメータを促進するために、より低コストのエナメルが利用されてもよい。
図1A~
図2Bのワイヤ100、150、200、250を引き続き参照すると、1つ又は複数の適切な添加剤が、任意選択で、1つ又は複数のエナメル層に組み込まれてもよい。添加剤は、ワイヤの様々な構成要素及び/又は層間の接着の促進、絶縁システムの柔軟性の向上、潤滑の提供、粘度の向上、耐湿性の向上、及び/又は高温安定性の促進など、多種多様な目的を果たすことができる。例えば、添加剤はエナメル層と下地層(例えば、導体、ベースコート、下地エナメル層など)との間、及び/又は充填材とベースポリマー材料との間のより大きな接着を補助又は促進するための接着プロモーターとして機能し得る。様々な実施形態において、所望に応じて、多種多様な適切な添加剤を利用することができる。特定の実施形態では、添加剤がアミン部分をアルデヒド材料(例えば、グリオキサール材料、ホルムアルデヒド材料など)と反応させることによって形成される材料から形成されてもよく、又はそれを含んでもよい。例えば、アルネックス(Allnex)によって製造され、販売されているサイメル材料などのCymel
TM材料又はレジンは、PI又は他の熱硬化性材料と併せて添加剤として利用することができる。他の実施形態では、ホルムアルデヒドを含まない添加剤を利用することができる。適切なCymel材料又は他の添加剤を利用して、PIエナメル層と下地層(例えば、ベースコート、導体など)との間のより大きな接着を促進し、ベースPIポリマー材料を充填材料に結合し、及び/又は柔軟性を高めることができる。他のタイプのCymel材料及び/又は架橋材料を所望に応じて利用することができる。
【0029】
特定の実施形態では、1つ以上の適切な表面改質処理を、導体及び/又は任意の数のエナメル層上で利用して、後に形成されるエナメル層との接着を促進することができる。適切な面改質処理の実施例としてはプラズマ処理、紫外線(「UV」)処理、コロナ放電処理、及び/又はガス火炎処理が挙げられるが、これらに限定されない。表面処理は、導体もしくはエナメル層のトポグラフィーを変化させ、及び/又は導体もしくはエナメル層の表面上に官能基を形成して、後に形成される層の結合を強化又は促進することができる。改変されたトポグラフィーはまた、処理された層の表面張力を改変することによって、後続のエナメル層を形成するために利用されるワニスの濡れ性を増強又は改善し得る。結果として、表面処理は、層間剥離を低減し得る。
【0030】
様々な実施形態において所望されるように、絶縁体の1つ以上の他の層が、複数のエナメル層に加えて、マグネットワイヤ100、150、200、250に組み込まれてもよい。例えば、1つ以上の押出熱可塑性層(例えば、押出オーバーコートなど)、半導電性層、テープ絶縁層(例えば、ポリマーテープなど)、及び/又はコンフォーマルコーティング(例えば、パリレンコーティングなど)を、マグネットワイヤ100、150、200、250に組み込むことができる。多種多様な他の絶縁構成及び/又は層の組み合わせが、所望に応じて利用されてもよい。さらに、全体的な絶縁システムは、任意の適切な材料及び/又は材料の組み合わせから形成される任意の数の適切な副層を含むことができる。
【0031】
本開示の一態様によれば、1つ又は複数のポリイミド層(及び潜在的に他のエナメル層)は、適切な充填材を含み得る。例えば、マグネットワイヤ100、150、200、250などのマグネットワイヤに組み込まれた1つ以上のPIエナメル層は、適切な充填材を含むことができる。さらに、充填材は、少なくとも二酸化チタン(TiO
2)と二酸化ケイ素(SiO
2)との混合物を含むことができる。二酸化チタンと二酸化ケイ素との混合物はさらに、酸化クロム(III)(Cr
2 O
3)などの、所望の他の適切な材料を含んでもよい。他の実施形態では、充填材が少なくとも酸化クロムと二酸化シリカとのブレンドを含むことができる。充填材の添加はマグネットワイヤ上の充填されたPIから形成されるエナメル層(例えば、
図1Aのベースコート120、
図2Aのミッドコート230など)のコロナ耐性及び/又は熱寿命を改善し得る。その結果、マグネットワイヤ及び/又はマグネットワイヤを組み込んだ電気装置(例えば、モータ等)の寿命は、部分放電及び/又は他の悪条件下で増加又は延長され得る。
【0032】
充填材の添加はまた、マグネットワイヤ100、150、200、250の熱伝導率を改善し得る。1つ又は複数の充填されたPI絶縁層は、磁石ワイヤの導体から熱を伝導又は引き出すことができる。その結果、マグネットワイヤは、充填された絶縁層を含まない従来のマグネットワイヤよりも比較的低い温度で動作することができる。例えば、電気機械において利用される場合、マグネットワイヤ及び/又は電気機械は、充填された絶縁層を利用しない従来のデバイスよりも摂氏5度、6度、7度、8度、9度、10度、11度、又は12度低い温度で動作し得る。この改善された熱伝導率はより高い電圧でのマグネットワイヤ及び/又は電気機械の動作を容易にし、それによって出力を改善することができる。様々な実施形態において、充填PI絶縁層は、同様の厚さを有する非充填PI絶縁層の熱伝導率の少なくとも1。5倍、2倍、3倍、又は4倍の熱伝導率を有し得る。言い換えると、充填材が添加されるベースPI材料の第2の熱伝導率の少なくとも1。5倍、2倍、3倍、又は4倍の第1の熱伝導率を、充填材入りPI絶縁層が有する可能性がある。
【0033】
充填材材料は、任意の適切な比率でPIに添加することができる。特定の実施形態において、充填されたPIエナメル絶縁層中の充填材の総量は、約10重量パーセント(10%)~約25重量パーセント(25%)であり得る。例えば、充填材の総量は、約15重量パーセント(15%)~約20重量パーセント(20%)であり得る。様々な他の実施形態において、充填材の総量は、約5、7.5、10、12.5、15、17、17.5、20、25、30、35、40、45、又は50重量パーセント、上記値のいずれかの2つの間の範囲に含まれる量、又は上記値の1つにより最小又は最大端部のいずれかに限定される範囲に含まれる量であってもよい。巻き線の寿命の大幅な改善は約5重量%をはるかに下回る総充填材レベルでは観察されず、特定のマグネットワイヤ用途では、充填材の重量パーセントが増加し、閾値を超えるにつれて、絶縁柔軟性は許容できない場合がある。例えば、柔軟性は、重量に基づいて約50%を超える総充填材レベルで悪影響を受け得る。
【0034】
充填材に組み込まれる様々な構成要素のために、多種多様なブレンド又は混合率を利用することができる。例えば、二酸化チタン及び二酸化シリカは、多種多様な適切な重量比でブレンドすることができる。様々な実施形態において、充填材は、約20重量パーセント(20%)~約80重量パーセント(80%)の二酸化シリカと、約20重量パーセント(20%)~約80重量パーセント(80%)の二酸化チタンとを含み得る。例えば、充填材は約20、25、30、33、35、40、45、50、55、60、65、67、70、75、又は80重量%の二酸化シリカを含み、重量割合は上記値のいずれかの2つの間(例えば、20%と40%との間など)に含まれる重量割合、又は上記値の1つ(例えば、少なくとも20%など)によって最小端部又は最大端部のいずれかに限定される範囲に含まれる重量割合を含むことができる。同様に、充填材は約20、25、30、33、35、40、45、50、55、60、65、67、70、75、又は80重量%の二酸化チタン、上記値のいずれかの2つの間の温度範囲に含まれる重量割合(例えば、20%と40%との間など)、又は上記値の1つ(例えば、少なくとも20%など)によって最小端部又は最大端部のいずれかに限定される温度範囲に含まれる重量割合を含むことができる。所望により、第1の成分(例えば、二酸化チタン)と第2の成分(例えば、二酸化シリカ)との比は、約80/20、75/25、70/30、67/33、65/35、60/40、55/45、50/50、45/55、40/60、35/65、33/67、30/70、25/75、20/80、又は任意の他の適切な比であり得る。
【0035】
特定の実施形態において、充填材に利用される成分は、1つ以上の所望の特性に基づいて選択され得る。例えば、第1のフィラー成分(例えば、二酸化チタンなど)は比較的低い抵抗率を有する無機酸化物として選択され得、第2のフィラー成分(例えば、二酸化シリカなど)は、比較的大きい表面積を有する無機酸化物として選択され得る。混合物はエナメル層の形成前にPIに添加されてもよく、PIエナメル層は大表面積無機酸化物と低抵抗率無機酸化物との混合物を含んでもよい。大きな表面積の無機酸化物はより多くのエネルギーが絶縁体を貫通することを可能にし、それによって、電気機器における高電圧及び高周波波形によって引き起こされる絶縁体の劣化を低減すると考えられる。二酸化ケイ素又はシリカは、約90~約550m2/gの範囲の表面積などの多種多様な比表面積を有する等級で市販されている。例えば、エボニック・デグッサ・コーポレーションから入手可能なAEROSIL 90は90m2/gの比表面積を有し、キャボット・コーポレーションから入手可能なCAB-O-SIL EH-5は、380m2/gの比表面積を有する。特定の実施形態では、電気機器の巻き線に存在する電圧波形に対する抵抗がシリカ表面積の増加に伴って改善され得る。したがって、約380m2/g~約550m2/gの比表面積を有するシリカ級が好ましく、又は約380m2/g、550m2/gを超える比表面積を有するシリカ級、又は別の閾値が改善された性能を提供し得る。
【0036】
充填材の成分は、任意の適切な粒径、表面積、及び/又は他の寸法を含んでもよい。例えば、フィラー成分は、約1ミクロン未満の公称粒径を有し得る。特定の実施形態では、フィラー成分はナノ粒子を含んでもよい。さらに、多種多様な適切な方法及び/又は技術を利用して、充填材をPI重合体に添加することができる。特定の実施形態では、充填材が凝集体を所望の量未満に減少させるために、媒体接地、ボールミル接地、又は他の方法で接地、又は接地されてもよく、例えば、「8」以上のヘグマンゲージ又は接地であってもよい。これらは、一般に、より高い濃度で作製され、最終製剤の最終的な「レットダウン」において低減することができる。必要に応じて、充填材は、その粒径が約1.0ミクロン未満になるまで粉砕又は粉砕することができる。必要に応じて、他の粒径を得ることができる。特定の実施形態では、充填材が溶媒の存在下でPIワニス中に直接粉砕することができる。他の実施形態において、充填材は、別の物質中で粉砕され、次いでPIワニスに添加されてもよい。例えば、充填材を含むPI、PAI、又は他のペーストを形成することができ、次いで、エナメル層の適用前に、ポリマーペーストをPIと組み合わせることができる。ミリング中の溶媒の添加は、フィラー粒子が再凝集又は凝集しないようにすることができることが理解されるのであろう。
【0037】
いったん充填材がPI重合体中に分散されると、PI重合体は、任意の適切な様式で導体に適用され得る。例えば、未硬化PI絶縁体はマルチパスコーティング及びフローティング又はワイピングダイを使用してマグネットワイヤに適用され、その後、高温で硬化(例えば、エナメル処理オーブンでの硬化)されてもよい。所望回数のPI高分子層を、マグネットワイヤに組み込むか、又はマグネットワイヤ上に形成することができる。様々な実施形態において、これらのPI層は、導体の周りに直接、又は1つ以上の基層の上に形成されてもよい。他のエナメル層(例えば、ベースコートエナメル層、ポリアミドイミドトップコートなど)も同様の方法で形成することができる。
【0038】
1つ以上の充填されたPIエナメル層を含むマグネットワイヤ100、150、200、250は、従来のマグネットワイヤエナメルと比較して、改善されたコロナ耐性、熱伝導性、及び/又は熱性能を示し得る。例えば、1つ以上の充填されたPIエナメル層の使用は、熱クラス、熱指数、又は240℃以上の耐熱性のマグネットワイヤを提供することができる。特定の実施形態では、充填されたPI絶縁体を含むワイヤが260℃以上の熱クラス、熱指数、又は熱耐久性を有し得る。特定の実施形態では1つ又は複数のPAI層(例えば、PAIトップコート)の追加はマグネットワイヤの熱クラスを実質的に低減することなく、追加の靭性及び耐摩耗性を提供し得る。マグネットワイヤ又はマグネットワイヤ絶縁層の熱指数は一般に、電気絶縁材料の温度対時間特性を比較するセルシウス度数として定義される。それは、アレニウスプロットの寿命対温度を特定の時間、通常20,000時間に外挿することによって得ることができる。磁石ワイヤの熱指数又は熱耐久性を測定又は決定するための1つの試験は、ASTM Internationalによって示されるASTM D2307試験である。熱クラスは一般に、米国電気工業会(「NEMA」)又はULなどの規格団体によって確立された熱指数の範囲を規定する。例えば、220クラスの材料は220℃から239℃の間の熱指数を有することができ、240クラスの材料は、240℃と別の閾値との間の熱指数を有する。本発明のPIエナメルを含むマグネットワイヤは260を超える熱指数を有することが見出され、出願人は最高の既存のUL熱クラスが240であったので、ULから新しい熱分類リストを得ることを要求された。さらに、PIへの1つ以上の充填材の添加は、絶縁体の熱老化に悪影響を及ぼすか又は損なうことなく、インバータデューティ寿命及び/又は電気機械寿命を改善することができる。特定の実施形態では、1つ以上の充填材の添加が特定の温度でのマグネットワイヤ絶縁体の熱寿命を改善又は上昇させ得る。例えば、充填されたPI絶縁体の使用は、約300℃で約1,000、2,000、3,000、又は4000時間を超える熱寿命をもたらし得る。対照的に、従来の非充填PIは、約300℃で約400~500時間の熱寿命を有し得る。充填されたPIについての良好な結果を示すいくつかの例が、以下でより詳細に説明される。
【0039】
上述のように、充填されたPI層を多層エナメル絶縁システム(例えば、
図2A及び
図2Bに示されるような3層システム)に組み込むことにより、ワイヤのコストも制御しながら、性能を向上させることができる。例えば、充填されたPI層は従来のマグネットワイヤ絶縁システムと比較して、改善された熱指数、熱寿命、コロナ性能、PDIV性能、及び/又は他の所望の特性を提供することができるが、充填されたPI層と、より安価な材料(例えば、THEICポリエステル、PAIなど)から形成された1つ又は複数の層との組み合わせは全体的なコストを制御するのに役立ち得る。実際、充填されたPI絶縁体中のフィラー材料の独特の組み合わせ及び量、ならびに絶縁システム中の層間の厚さ比は、同様に価格付けされた従来のワイヤのものよりも高い所望の熱指数をもたらし得る。
【0040】
特定の実施形態では、THEICポリエステルベースコート220、充填PIミッドコート230、及び未充填PAIトップコート240を含むシステムなどの、充填PIと追加層との組合せを含む多層エナメル系は所与のアプリケーション(例えば、選択的車両又はハイブリッド電気自動車用のインバータデューティワイヤなど)のための所望の閾値を超える熱指数を有し得る。例えば、多層絶縁システムは、少なくとも240℃又は少なくとも260℃の熱指数を有することができる。様々な実施形態において、多層絶縁システムは、少なくとも230、235、240、245、250、255、又は260℃の熱指数、又は上記の値のいずれか2つの間の範囲に含まれる熱指数を有し得る。特定の実施形態では、絶縁システムの全体的な熱指数が追加の層(例えば、THEICポリエステル、PAIなど)を形成するために利用される特定のポリマー材料によって提供される熱指数を超えてもよい。言い換えれば、充填されたPI層を含めることは絶縁システムの熱指数を改善することができ、一方、他の層を含めることは追加の利点(例えば、コスト上の利益など)を提供することができる。
【0041】
特定の実施形態では、THEICポリエステルベースコート220、充填PIミッドコート230、及び非充填PAIトップコート240を含むシステムなどの、充填PIと追加層との組合せを含む多層エナメル系は所望の用途(例えば、ハイブリッド及び電気自動車用途など)に適した、部分放電開始電圧(「PDIV」)及び絶縁破壊又は絶縁強度性能の向上を示し得る。特定の実施形態では、3層絶縁システムを有する丸いワイヤが少なくとも500ボルト二乗平均平方根(RMS)のPDIVを有し得る。3層絶縁システムを有する長方形ワイヤは、少なくとも1,100ボルトの平均PDIVを有することができる。他の実施形態では、長方形ワイヤが少なくとも1,000、1050、1,100、1,150、又は1,200ボルトの平均PDIV、又は上記の値のいずれか2つの間の温度範囲に含まれるPDIVを有し得る。さらに、3層絶縁システムを有するマグネットワイヤは、少なくとも15,000ボルトの室温での絶縁破壊を有することができる。様々な実施形態において、絶縁破壊は、少なくとも15,000、16,000、17,000、18,000、19,000、又は20,000ボルト、又は上記の値のいずれか2つの間の温度範囲に含まれる絶縁破壊であってもよい。
【0042】
加えて、特定の実施形態では充填されたPIを1つ又は複数の追加のエナメル層(例えば、THEICポリエステルなど)と組み合わせる多層絶縁システムは特定の従来のマグネットワイヤ絶縁システムと比較して、向上した柔軟性を提供し得る。この強化された柔軟性は、磁石ワイヤ200が絶縁体に亀裂を生じさせることなく、又はそわなければ損傷を与えることなく、所望の用途(例えば、モータ用途など)に組み込むためにより容易に成形又は曲げられることを可能にし得る。例えば、磁石ワイヤ200は絶縁体を損傷又は損なうことなく、より容易にヘアピン(例えば、ほぼU字形のヘアピン)又は他の所定の形状に成形することができる。ポリエステル基材上に充填されたPAI又はPI絶縁体を組み込んだある種の絶縁システムなどのある種の他の絶縁システムは、同様の曲げ又は形状を受けたときにひび割れエナメルをもたらし得るより低い柔軟性を有することが見出されている。特定の実施形態では、充填されたPIを組み込んだ絶縁システムを有するマグネットワイヤ200がワイヤ200が1.25未満のトップコート240割れ周波数を有する4mmマンドレルの周囲に180°曲げられることを可能にする柔軟性を有し得る。他の実施形態では、トップコート240の割れ頻度が1.25、1.2、1.0、0.8、0.75、0.65、0.5、0.4、0.25、0.1未満、又は上記値のいずれか2つの間の温度範囲に含まれる頻度であってもよい。さらに他の実施形態では、トップコート240の割れ頻度はゼロであってもよい。トップコート割れ頻度は屈曲ワイヤの20個のサンプル当たりのトップコート240絶縁層において識別される割れの総数として定義される(例えば、20個のサンプルについてカウントされた割れの総数を20で割ったもの)。以下の実施例に示されるように、他の絶縁システムを有するマグネットワイヤははるかに低い柔軟性を示し、その結果、絶縁システムを完全に貫通するトップコート割れ及び/又は割れの両方が生じた。
【0043】
図1A~
図2Bを参照して上述したマグネットワイヤ100、150、200、250は、単なる例として提供されている。様々な実施形態において所望されるように、図示されたマグネットワイヤ100、150、200、250に多種多様な代替案を作ることができる。例えば、1つ以上のエナメル層に加えて、多種多様な異なるタイプの絶縁層をマグネットワイヤ100、150、200、250に組み込むことができる。別の実施例として、マグネットワイヤ100、150、200、250及び/又は1つ以上の絶縁層の断面形状を変更することができる。実際、本開示は、多種多様な適切なマグネットワイヤ構造を想定している。これらの構造は、任意の数の層及び/又は副層を有する絶縁システムを含むことができる。
【実施例0044】
以下の実施例は例示的かつ非限定的なものとして意図されており、本発明の特定の実施形態を表す。特に明記しない限り、実施例で論じたワイヤサンプルは、「重い」エナメル質構築物を有する18 AWGワイヤとして調製した。換言すれば、ワイヤエナメルは、マルチパスコーティング及びワイピングダイを使用して、18 AWG銅ワイヤに適用された。「重い」エナメル質構築物は、約3.0ミル(76ミクロン)の公称絶縁構築物を有する。
【0045】
表1に示される第1の実施例は、1つ以上の未充填PAIトップコート層を未充填PIエナメル上に添加する効果を比較する。比較サンプルを、熱老化、繰り返し掻き取り、熱指数、及び温度での熱寿命について試験した。
【0046】
【0047】
表1に示されるように、PIエナメル上に単層又は多層PAIトップコートを形成することは、ワイヤの熱物性にほとんど影響を及ぼさない。48時間の熱老化の結果はわずかに減少するが、熱老化はPIエナメルのみを有するワイヤとPAIトップコートを有するワイヤとの間で同様である。これらの結果は、PAI及びPIが通常、硬化における知覚される差異のために、互いに組み合わせて使用されないため、予想外であった。繰り返しスクレープ試験によって示されるように、PAIトップコートの添加は、ワイヤの摩耗性能を大幅に向上させる。繰返し掻き取り試験では、重り付き針を直線ワイヤ片と接触させ、針をワイヤ上で前後に掻き取る。試験の結果は、絶縁体が浸透される前に必要とされる数スクレープを示す。更に、ワイヤサンプルについてのTechrand巻き性結果は同様であった。したがって、ワイヤサンプルは同様の機械的性能を有していた。
【0048】
表2に示される第2の実施例は、PI中の濃縮物又はPAIペースト中のいずれかとしてPIに添加され得る各種充填材を比較する。第1に、表2は、PI中に二酸化チタン及び二酸化シリカを含有する充填材を添加する効果を示す。表2に示す第1の実施例では、PIペーストを形成するために充填材料をPIに直接添加し、次いで、エナメル絶縁体を形成するために使用されるPIにPIペーストを添加した。次に、表2はPAIペーストを形成するためにPAIに充填材が添加され、次いで、PAIペーストがPIに添加されたエナメルを示す。PAIペーストは二酸化チタンと二酸化シリカとのブレンド、及び酸化クロムと二酸化シリカとのブレンドの両方を用いて調製された。充填されたPIエナメルの各々について、充填材料をボールミルにかけ、使用してペーストを形成し、次いでこれをPIに添加した。PAIペーストが利用される場合、最終絶縁体中のPAIの総量は、絶縁樹脂の約20重量%までであり得、絶縁体の熱物性を実質的に損なわないようであった。
【0049】
【0050】
インバータデューティ寿命を測定するために、インバータ駆動と三相モータを用いて種々のマグネットワイヤを試験した。典型的な誘電体ツイストペアは、ワイヤから作製され、200℃のオーブン内に置かれた。575ボルト(1750ボルト・ピーク・ツー・ピーク)acインバータ駆動部からの高電圧、高周波波形を、撚線対のそれぞれに送った。それぞれがほぼ同じ長さを有するツイストペアを、短絡が生じるまで監視し、短絡までの時間を記録した。短絡(故障)までの時間が長いほど、絶縁劣化に対する耐性が向上する。種々のマグネットワイヤエナメル配合物の破損までの時間は、測定された又は決定されたインバータ寿命と称され得る。
【0051】
表2に示すように、充填材PIは、充填材濃縮物のPAI「ペースト」を含有する充填材PIであっても、未充填エナメル材料と比較して優れたインバータデューティ寿命を提供することができる。さらに、充填されたPIは、非充填PI材料と比較して、強化された熱老化を示し得る。接着プロモーターの添加は柔軟性を改善し、層間剥離を低減し、ワイヤサンプルにおける熱衝撃及び繰り返しの掻き取りを改善し得る。
【0052】
優れた結果を示した少数のサンプルは、二酸化チタンと二酸化シリカとの組み合わせで充填されたPIエナメルを含む。この充填材の組み合わせは、熱老化試験中の最良の耐久性の結果を提供した。示されるように、1つのサンプルワイヤは熱エージング試験中に290℃で5000時間にわたって提供され、これはより高い熱クラス又は熱指数材料を示す。実際、本開示の実施形態による充填PIエナメル絶縁体を含むマグネットワイヤは後に、260℃を超える熱指数を有すると決定された。
【0053】
二酸化チタンと二酸化シリカの組合せを含む充填PIエナメルで調製したワイヤのサンプルも、いくつかの従来の磁石ワイヤと比較した。充填されたPIエナメルを有するワイヤは、18 AWGの重いビルド銅ワイヤと、より大きい12 AWGの銅ワイヤとの両方を含んでいた。18本のAWGワイヤサンプルを0.0032インチのエナメル質構築物で調製し、12本のAWGワイヤサンプルを0.0043インチのエナメル質構築物で調製した。これらのワイヤを、従来のエナメル線(例えば、従来の非充填PIワイヤ)と、導体の周りに巻き付けられたコロナ耐性テープで絶縁された従来のワイヤとの両方と比較した。耐コロナテープは、デュポン社製のカプトンCRテープと、カネカ社製のアピカルテープの両方を含んでいた。表3に比較の結果を示す。
【0054】
熱耐久性、パルス耐久性、絶縁破壊、及び繰返しスクレープ試験を含む、多種多様な比較試験を、広いワイヤに対して行った。熱耐久試験は、ASTM Internationalによって示されるASTM D2307標準に従って実施した。パルス耐久試験は、中国GB/T 21707-2008試験方法を用いて100 nsの立ち上がり時間で実施した。絶縁破壊試験は、米国電気工業協会によって規定された標準的なNEMA試験手順に従って、マグネットワイヤサンプルから形成されたツイストペアに対して実施した。
【0055】
繰り返しスクレープ試験は、表1を参照して上述した手順と同様の手順を用いて行った。
【0056】
【0057】
表3に示すように、充填されたPIを有する18AWGワイヤは、非充填PIを有する従来の18AWGワイヤと比較して、はるかに高いパルス耐久性及びインバータ寿命を有する。したがって、充填されたPIワイヤは、非充填PIワイヤと比較して、改善されたコロナ耐性性能を有する。
【0058】
さらに、充填されたPIを有する12AWGワイヤは、巻き付けられたコロナ耐性ポリイミドテープで絶縁された12AWGワイヤと比較して、改善されたパルス耐久性能を有する。充填されたPIワイヤはまた、より薄い絶縁構造を有し、それによって、ワイヤが、テープで絶縁されたワイヤよりも小さい直径を有することを可能にする。したがって、12AWG充填PIワイヤを、コロナ耐性テープ絶縁体を有するワイヤを従来から利用する用途に組み込むと同時に、特定の改善された性能特性を提供することが可能であり得る。また、エナメル絶縁電線は、テープ絶縁を有する従来の電線よりも加工及び取り扱いが容易であり得る。エナメル線は自動巻取機によって巻き取られ、巻き取られることができるが、これらの機械はテープ絶縁体を損傷する可能性がある。
【0059】
表4に例示される第4の実施例は、二酸化チタン及び二酸化シリカが異なるブレンド比を有するPIに充填材を添加する効果を比較する。充填されたPI層は約15重量%の充填材を含み、ワイヤサンプルは、約20フィート/分のライン速度で形成された。
【0060】
【0061】
表4に示されるように、二酸化チタン及び二酸化ケイ素を含有する充填材の添加は、PIエナメルを有するマグネットワイヤのインバータ寿命を改善する。充填されたPIエナメル上のPAIトップコートの添加は、改善された反復スクレープ結果を提供することもできる。
【0062】
電圧耐久試験のために、3500ボルトの信号が約10%の伸びで約155℃でワイヤサンプル上に伝達され、伸びは、ワイヤに追加の応力を与える。次いで、破壊までの時間を、ワイヤサンプルの各々について測定した。Df及びタンデルタ試験は、ワイヤサンプルの電気絶縁損を測定する。
【0063】
表4に示されるように、より多量の二酸化チタンは改善された耐電圧性を提供するが、しかし、より多量の二酸化チタンもまた、Df及びタンデルタ値によって示されるように、絶縁体における電磁損の増加に寄与する。同様に、より多量の二酸化ケイ素はより低い電圧耐久性能を有しながら、絶縁体におけるより少ない電気損失を提供する。断熱性能は、充填材としての二酸化チタンと二酸化ケイ素とのブレンドを用いて最適化することができる。例えば、断熱性能は、約20重量%~約80重量%の二酸化チタン及び約20重量%~約80重量%の二酸化ケイ素を含む充填材で最適化することができる。1つの例示的な実施形態において、改善された性能は、約60重量%~約80重量%の二酸化チタン及び約20重量%~40重量%の二酸化ケイ素を含む充填材を用いて達成することができる。
【0064】
表5に示される第5の実施例は、PIに充填材を添加することが絶縁体の熱伝導率に及ぼす影響を評価する。充填PI絶縁体の熱伝導率は、従来の非充填PI絶縁体と比較される。表5において参照される充填されたPIワイヤサンプルは約15重量%の充填材を含み、ほぼ等しい重量の二酸化チタン及び二酸化ケイ素を含んだ。充填されたPIと非充填PIの厚さはほぼ等しい。さらに、ASTM Internatinoalによって確立されたように、約150℃でASTM D5470-17試験を使用して熱伝導性を測定した。
【0065】
【0066】
表5に示されるように、充填されたポリイミド絶縁体は、非充填ポリイミドよりもはるかに高い熱伝導性を有し得る。言い換えれば、充填材を塩基ポリイミド材料に組み込むことは材料の熱伝導率を高め、増加した熱伝導率は塩基ポリイミド材料の熱伝導率の少なくとも2倍であってもよい。表5に示されるように、増加した熱伝導率は、ベースポリイミド材料の約4倍であり得る。マグネットワイヤ絶縁体として利用される場合、充填された絶縁体の熱伝導性の向上はマグネットワイヤ導体から熱を引き出し、それによって、マグネットワイヤをより高い電圧で利用することを可能にし、マグネットワイヤ及び/又はマグネットワイヤが組み込まれる電気機械の出力を向上させることができる。
【0067】
表1~5を参照して記載される実施例は1つのエナメル層(例えば、充填PI)又は2つのエナメル層(例えば、PAIトップコートで充填PI)を含むマグネットワイヤに関するが、以下の実施例は主に、3層エナメル絶縁システムに関する。第1に、表6は、他のエナメル層と組み合わせて充填されたエナメル層を含むいくつかの例示的な磁石ワイヤ構造の熱性能データを提供する。第1のワイヤは、約38ミクロンの構築物を有するTHEICポリエステルベースコートと、約25ミクロンの構築物を有する充填PIミッドコート(TiO2及びSiO2の等しい部分を有する15質量%の充填材)と、約10ミクロンの構築物を有する未充填PAIトップコートとを有する18 AWGワイヤである。第2のワイヤは、約38ミクロンの構築物を有するポリエステルベースコート、約25ミクロンの構築物を有する充填PAIミッドコート(Cr2O3及びSiO2の等しい部分を有する15質量%の充填材)、及び約8ミクロンの構築物を有する未充填PAIトップコートを有する18 AWGワイヤである。第3のワイヤは、約40ミクロンの構築物を有するポリエステルベースコートと、約46ミクロンの構築物を有する充填PAIミッドコート(3:1のTiO2及びSiO2 比率を有する25質量%の充填材)と、約6ミクロンの構築物を有する未充填PAIトップコートとを有する16AWGワイヤである。熱試験のために、各タイプのワイヤの10個のサンプルを帯電させ、異なる温度で試験し、絶縁不良までの時間を決定した。本出願の出願時に、完全な試験はまだ完了していなかった。
【0068】
【0069】
表6に示されるように、第1のワイヤは、試験された3本のワイヤの最良の熱性能を有した。完全な試験は完了していないが、最初のワイヤは240℃を超える熱指数を有し、おそらく260℃を超える熱指数を有する。したがって、THEICポリエステルベースコート、充填PIミッドコート、及びPAIトップコートを組み合わせた多層構造は、主に充填PI絶縁体を含むマグネットワイヤと同様の熱性能を有することができる。
【0070】
表7は、表6を参照して上述した3つのワイヤタイプの部分放電開始電圧(「PDIV」)及び絶縁破壊値を提供する。PDIV及び絶縁破壊値は、各ワイヤ型について同様の構造を有する丸いワイヤサンプル及び長方形ワイヤサンプルの両方について提供される。丸線建設は、表6を参照して上述したものと同じである。長方形のサンプルについては、第1のワイヤが約50ミクロンのビルドを有するTHEICポリエステルベースコート、約26ミクロンのビルドを有する充填済みPIミッドコート(TiO2及びSiO2の等しい部分を有する15質量%の充填材)、及び約9ミクロンのビルドを有する未充填PAIトップコートを有する。第2のワイヤは、約51ミクロンの構築物を有するポリエステルベースコートと、約25ミクロンの構築物を有する充填PAIミッドコート(Cr2O3 及びSiO2の等しい部分を有する15質量%の充填材)と、約9ミクロンの構築物を有する未充填PAIトップコートとを有する。第3のワイヤは、約50ミクロンの構築物を有するポリエステルベースコートと、約30ミクロンの構築物を有する充填PAIミッドコート(3:1のTiO2及びSiO2比率を有する25質量%の充填材)と、約8ミクロンの構築物を有する未充填PAIトップコートとを有する。
【0071】
業界標準PDIV試験は一定電流でワイヤサンプルに特定の電圧ランプを印加し、適宜PDIV値を決定する、市販のPDIV試験機を用いて行った。二乗平均平方根(「RMS」)PDIVが丸いワイヤサンプルについて報告され、ピークPDIVが長方形ワイヤサンプルについて計算される。丸いワイヤサンプルの絶縁破壊を決定するために、20,000ボルトまでの上昇した電圧が、ワイヤから形成された撚り対に異なる温度で印加され、絶縁破壊又は破壊の点が識別される。長方形ワイヤについては、一対の試験を、ワイヤサンプルのラッシュペアに対して行った。ワイヤ対は、わずかに曲げられ、一緒にラッシングされ、次いで、異なる温度で20,000ボルトまで上昇した電圧にさらされた。さらに、ボールベアリングで囲まれた箱の中にサンプルを入れるショットボックス試験を行った。次いで、ランプ電圧が20,000ボルトまで印加され、絶縁不良点が決定される。
【0072】
【0073】
表7に示されるように、試験されたワイヤの全ては、ハイブリッド及び電気自動車用途などの多種多様な用途に許容されるPDIV及び絶縁破壊性能を示す。第1のワイヤは最良のPDIV性能を示した。
【0074】
表8は、表6を参照して上述された3つのワイヤ型についての柔軟性データを提供する。丸いサンプル(表6について上述した構造を有する)及び矩形のサンプル(表7について上述した構造を有する)の両方を試験した。丸いワイヤについては、サンプルを細長くし、異なるサイズを有するマンドレルの周りにコイル状に巻いた。サンプルを20%伸長し、異なるマンドレルに巻き付け、次いで異なる温度(例えば、240℃及び260℃)で30分加熱した耐熱衝撃性試験も実施した。マンドレルサイズは、試験サンプルの直径にほぼ等しい。次いで、トップコート絶縁体(すなわち、PAIトップコート)に亀裂が形成されているかどうか、及び場合によっては、絶縁体が裸導体に亀裂を生じているかどうかについて判定を行った。長方形ワイヤの場合、サンプルを4mm、6mm、8mm、及び10mmのマンドレルの周囲に180°曲げ、トップコート絶縁体又は裸導体に亀裂が形成されているかどうかを決定した。試験に基づいて、異なるタイプのワイヤについてトップコート割れ周波数を計算した。トップコート亀裂周波数はワイヤの20の試験サンプル(すなわち、所与のワイヤタイプの20のサンプル)当たりのそれぞれのトップコートにおける亀裂の数を表す。
【0075】
【0076】
表8に示されるように、第1のワイヤは、円形及び矩形サンプルの両方について、第2及び第3のワイヤ型よりもはるかに高い柔軟性を有する。実際、第2及び第3のワイヤのそれぞれの丸い及び矩形のサンプルは多くの場合、すべての絶縁層を通って亀裂が入り、むき出しの銅導体を露出させる。対照的に、トップコート割れは、30倍の倍率で第1のワイヤにおいて確認された。第1のワイヤの特定のサンプルでは、トップコート割れ周波数はゼロであった。したがって、第1のワイヤの独特のエナメル層構造は、他の試験されたワイヤよりもはるかに高い柔軟性を提供すると結論付けることができる。これは、特に、多くのハイブリッド自動車用途及び電気自動車用途に必要とされる長方形ワイヤに当てはまる。
【0077】
表2~8に含まれるサンプルは充填材料の特定のブレンド比、全体の充填率(例えば、絶縁体の約15重量%など)、多層系における層構造及び層厚、ならびに層厚の比を提供するが、他の実施形態では多種多様な他の好適なブレンド比、充填率、層構造、及び層厚比を利用することができる。
【0078】
特に明記されない限り、又は使用されるような文脈内で別様に理解されない限り、とりわけ、「can」、「could」、「might」、又は「may」などの条件付き言語は一般に、ある実施形態が含むことができるが、他の実施形態はある特徴、要素、及び/又は動作を含まないことを伝えることが意図される。したがって、そのような条件付き言語は一般に、特徴、元素、及び/又は動作が1つ又は複数の実施形態のために何らかの形で必要とされること、又は1つ又は複数の実施形態がこれらの特徴、元素、及び/又は動作が任意の特定の実施形態において含まれるか、又は実行されるべきかどうかを、ユーザ入力又はプロンプトを伴って、又は伴わずに、決定するためのロジックを必然的に含む。
【0079】
本明細書に記載される本開示の多くの修正及び他の実施形態は、前記の説明及び関連する図面に提示される教示の利益を有することが明らかであろう。したがって、本開示は開示された特定の実施形態に限定されるべきではなく、修正及び他の実施形態は添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されることを理解されたい。本明細書で特定の用語を用いているが、包括的かつ説明のためにのみ用いており、限定するためではない。