(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165642
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】C5アルデヒドの調製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/50 20060101AFI20231109BHJP
C07C 47/02 20060101ALI20231109BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20231109BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231109BHJP
【FI】
C07C45/50
C07C47/02
B01J31/22 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023072990
(22)【出願日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】22171287.0
(32)【優先日】2022-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディルク フリダッグ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス クノッサラ
(72)【発明者】
【氏名】アレキサンダー ブラッシャー
(72)【発明者】
【氏名】ピーター クチミールチュク
(72)【発明者】
【氏名】アンナ キアラ サレ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート フランケ
(72)【発明者】
【氏名】アナ マルコビック
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC70A
4G169BC71A
4G169BC73A
4G169BC74A
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169BE29A
4G169BE29B
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169CB25
4G169CB62
4G169CB72
4G169DA02
4H006AA02
4H006AC45
4H006AD18
4H006BA19
4H006BA20
4H006BA22
4H006BA23
4H006BA24
4H006BA45
4H006BA47
4H006BA48
4H006BA82
4H006BB17
4H006BC30
4H006BD33
4H006BD52
4H006BE20
4H006BE40
4H039CA62
4H039CL45
(57)【要約】 (修正有)
【課題】配位子の分解反応が減少するかまたは完全に回避されるヒドロホルミル化の方法を提供する。
【解決手段】本発明は、均一触媒系および溶媒の存在下、合成ガスを用いてブテンをヒドロホルミル化することによりC5アルデヒドを調製する方法を提供する。反応混合物中のアルデヒド濃度を限定する点が本方法の特徴である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブテンのヒドロホルミル化によるC5アルデヒドの調製方法であり、
少なくとも1つの反応帯域で、均一触媒系および溶媒の存在下、ブテンを合成ガスと反応させ、
生成物アルデヒド、未転化ブテン、およびブタンの少なくとも一部を含む循環ガスを前記反応帯域から取り除き、
反応器内の液体反応混合物中のアルデヒド濃度を前記循環ガスにより15質量%未満に維持する、方法。
【請求項2】
前記反応帯域から取り除いた前記循環ガスを最初にエアロゾル分離器に送る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エアロゾル分離器の循環ガス下流部を凝縮器に送り、前記凝縮器により、前記循環ガス中に存在する前記生成物アルデヒド、前記未転化ブテン、および前記溶媒を凝縮する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
凝縮した液相と気相とを相分離器中で互いに分離させる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記気相を、循環ガス圧縮器を介して前記反応帯域に再循環させる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記凝縮液相を、1つまたは複数の蒸留カラムを有するC4/C5分離に送る、請求項4または請求項5記載の方法。
【請求項7】
事前に取り除いた前記生成物アルデヒドおよび前記溶媒を溶媒除去で互いに分離させ、前記溶媒を前記反応器に再循環させる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒が前記生成物アルデヒドよりも沸点が高い、請求項1~請求項7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記溶媒がINB(イソノニルベンゾエート)またはDINCH(ジイソノニルシクロヘキサン-1,2-ジカルボキシレート)である、請求項1~請求項8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記反応帯域での前記ヒドロホルミル化を、さらに安定剤の存在下で行う、請求項1~請求項9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記安定剤が、式(I):
【化1】
の2,2,6,6-テトラメチルピペリジン単位を少なくとも1つ含む有機アミン化合物である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記均一触媒系が、元素周期表の第8族または第9族の金属、および少なくとも1つの有機リン含有配位子、好ましくはモノホスファイト配位子またはビスホスファイト配位子を含む、請求項1~請求項11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記金属が、鉄、ルテニウム、イリジウム、コバルト、またはロジウムであり、好ましくはコバルトおよびロジウムである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記均一触媒系が、ロジウム、および式(1):
【化2】
の構造を有する配位子を含む、請求項1~請求項13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
アルデヒド、コバルトまたはロジウムと、有機リン含有配位子と、溶媒と、を含み、アルデヒド濃度が15質量%未満である液体混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、均一触媒系および溶媒の存在下、合成ガスを用いてブテンをヒドロホルミル化することによりC5アルデヒドを調製する方法に関する。反応混合物中のアルデヒド濃度を限定される点が本方法の特徴である。
【背景技術】
【0002】
オレフィンのヒドロホルミル化は、アルデヒドを調製するための既知の化学反応である。世界の化学産業は、ヒドロホルミル化反応を使って年間数百万トンのアルデヒドを生成している。ヒドロホルミル化では、ロジウムまたはコバルトなどの遷移金属と配位子とを含みうる均一触媒系の存在下で、オレフィンを合成ガス(COとH2の混合物)と反応させてアルデヒドを生成する。
【0003】
ヒドロホルミル化法の中には、生成物を含有する気体アウトプットを反応帯域から取り除く、いわゆる循環ガス法として実施されるものもある。循環ガス法は、形成されるアルデヒドが十分に揮発性であり、気相のまま反応帯域を離れることができるので、一般に、比較的短いオレフィン、すなわち最大で5個の炭素原子を持つオレフィンのヒドロホルミル化に使用される。
【0004】
循環ガス法の課題は、ヒドロホルミル化に優勢な条件のために配位子が分解される可能性がある点である。配位子が破壊される分解反応は、例えば加水分解、酸化、アブラモフ反応、エステル交換などのさまざまなプロセスであり、互いに並行して進行することもある。その結果、ヒドロホルミル化の間、配位子が連続的に失われる。そのような場合、配位子は、経済的に、すなわち十分な反応転化率で働き続けることができるように持続的かつ連続的に補充されなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、配位子の分解反応が減少するかまたは完全に回避されるヒドロホルミル化の方法を提供することであった。本発明が解決しようとするさらなる課題は、目的、すなわち配位子の分解反応の減少または回避を達成するために、非常に複雑な調製または化学工学を必要としない方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くべきことだが、反応相中のアルデヒド濃度を低下させると、より少量の配位子の補充で足り、それにもかかわらず、方法を経済的に実施できることがわかった。配位子の分解反応は明らかに減少する。
本課題は、請求項1記載の方法により解決された。好ましい実施形態は、従属項に記載されている。
したがって、本発明は、ブテンのヒドロホルミル化によるC5アルデヒドの調製方法であり、
少なくとも1つの反応帯域で、均一触媒系および溶媒の存在下、ブテンを合成ガスと反応させ、
生成物アルデヒド、未転化ブテン、およびブタンの少なくとも一部を含む循環ガスを反応帯域から取り除き、
反応器内の液体反応混合物中のアルデヒド濃度を循環ガスにより15質量%未満に維持する、方法に関する。
【0007】
アルデヒド濃度の引き下げは、本明細書の文脈では、循環ガス率を上げることにより達成される。ただし、技術的には、他の手段も考えられる。循環ガス率を上げると、生成される生成物アルデヒドが少なくとも1つの反応帯域からより迅速に取り除かれるという効果を達成することができる。さらに、上記の配位子の分解反応が減少する。したがって、本発明に係る方法は、類似の転化率を有する従来の方法と比較して、より少量の配位子の補充で済むように機能させることができる。したがって、本方法は、同等の方法よりも資源を節約する。さらに、コストが節約され、これは、本発明に係る方法が、全体としてより大きな経済的実現可能性で実施可能であることを意味する。
【0008】
本発明に係るヒドロホルミル化で使用される反応物は、ブテン、すなわち直鎖状ブテン(n-ブテン、すなわち1-ブテンおよび2-ブテン)および/または分岐鎖状ブテン(イソブテン)であり、それらは、次いで、均一触媒の存在下で合成ガス(COとH2の混合物)と反応し、所望のC5アルデヒドを生成する。ヒドロホルミル化されるべきブテンは、本発明に係るヒドロホルミル化のための供給混合物として、純粋形または工業的に入手可能な混合物の形で提供されてよい。用語「供給混合物(feed mixture)」は、ヒドロホルミル化の経済的な実施を可能にするような量でブテンを含む任意の種類のブテン含有混合物に関係すると理解されるべきである。このような供給混合物には、ブテンだけでなく、対応するアルカン、すなわちブタンも含まれる。
【0009】
ブテンおよびブタンを含み、かつ本方法用の供給混合物として使用できる工業用混合物は、製油所からの石油エーテル留分、FCクラッカーまたはスチームクラッカーからのC4留分、フィッシャー・トロプシュ合成からの混合物、ブタンの脱水素からの混合物、およびメタセシス反応または他の工業プロセスからの混合物である。本発明に係る方法に適したブテン混合物は、スチームクラッカーからのC4留分、例えばラフィネートI、ラフィネートIIまたはラフィネートIIIから得ることもできる。本発明において供給混合物として使用できる別のブテン含有混合物は、粗ブタンである。1-ブテンを供給混合物として使用することも可能である。本発明に従って供給混合物として使用するのに好ましいブテン含有混合物は、少なくとも15重量%のブテンを含有する炭化水素ストリームである。本発明の好ましい実施形態では、供給混合物として使用されるブテン含有混合物は、ジエンおよびアルキンを含まない。すなわち、ジエンおよびアルキンの含有量が、それぞれの場合において、100ppm未満、好ましくは10ppm未満、より好ましくは1ppm未満である。
【0010】
本発明に係るブテンのヒドロホルミル化は、5個の炭素原子を有するアルデヒド(C5アルデヒド)を生成することができる。C5アルデヒドには、n-ペンタナール(バレルアルデヒド)、イソペンタナール(イソバレルアルデヒド)、sec-ペンタナール(2-メチルブタナール)、およびtert-ペンタナール(ピバルアルデヒド)が含まれる。本発明の好ましい実施形態において、記載される方法は、n-ペンタナール(バレルアルデヒド)の調製方法である。
【0011】
本発明に係る方法はまた、均一触媒系が溶解している溶媒を使用して実施される。少なくとも溶媒とそれに溶解した均一触媒系とが反応混合物を形成し、その反応混合物は少なくとも1つの反応器内で液相として存在する。好ましい実施形態において、溶媒は、使用されるブテンおよび生成物アルデヒドよりも高い沸点を有する。使用される溶媒は、当業者に既知の溶媒であってよい。本発明に係る方法に使用される溶媒は、特にINB(安息香酸イソノニル)またはDINCH(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソノニル)であってよい。
【0012】
本発明に係る方法で使用される触媒系は、元素周期表の第8族または第9族の金属と、少なくとも1つの有機リン含有配位子と、を含むか、またはそれらのみを含む。金属は、鉄、ルテニウム、イリジウム、コバルト、およびロジウムから選択される。本発明に係る触媒系にとって好ましい金属は、コバルトおよびロジウムであり、ロジウムが特に好ましい。使用される配位子は、好ましくは、モノホスファイト配位子またはビスホスファイト配位子であり、それらは、当業者に原理的に知られている。適切な配位子は、例えば、国際公開第2017/080690A1号、国際公開第2014/056732A1号、国際公開第2014/056735 A1号、国際公開第2014/056736A1号、国際公開第2014/056737A1号、およびドイツ特許出願公開第10 2008 002 187 A1号明細書に開示されている。特に好ましい配位子は、式(1)の化合物である。
【0013】
【0014】
特に好ましい実施形態では、本発明に係る方法において、ロジウムと上記式(1)の配位子とを含む触媒系が使用される。
【0015】
モノホスファイト配位子またはビスホスファイト配位子に対するロジウムのモル比(配位子/ロジウム比)は、好ましくは、1~100の範囲内である。したがって、ロジウムごとに、1~100個のモノホスファイト配位子またはビスホスファイト配位子が存在する。配位子/ロジウム比はまた、好ましくは1~20の範囲内、より好ましくは1~2の範囲内である。液体反応混合物中のロジウム濃度は、1~1,000質量ppmの範囲、特に20~300質量ppmの範囲、非常に特に40~150質量ppmの範囲である。
【0016】
均一触媒系は、好ましくは、使える状態の活性錯体として方法に導入されるのではなく、in situで、すなわち反応器内で調製される。この目的のために、活性錯体は、少なくとも1つの反応器内で、前駆体としてのロジウム化合物から配位子の存在下で調製される。この目的に適したロジウム化合物は、例えば、塩化ロジウム(III)などのロジウム(II)およびロジウム(III)塩、硝酸ロジウム(III)、硫酸ロジウム(III)、硫酸ロジウムカリウム、カルボン酸ロジウム(II)またはロジウム(III)、酢酸ロジウム(II)およびロジウム(III)、オクタン酸ロジウム(II)、ノナン酸ロジウム(II)、酸化ロジウム(III)、ロジウム(III)酸の塩、ヘキサクロロロジウム(III)酸トリスアンモニウムである。ロジウムビスカルボニルアセチルアセトネート、アセチルアセトナトビスエチレンロジウム(I)などのロジウム錯体も適している。酢酸ロジウム、オクタン酸ロジウム、およびノナン酸ロジウムが特に適している。
【0017】
本発明の特に好ましい実施形態において、ヒドロホルミル化は、安定剤の存在下でさらに実施される。安定剤は、好ましくは有機アミン化合物であり、より好ましくは式(I)の2,2,6,6-テトラメチルピペリジン単位を少なくとも1つ含む有機アミン化合物である。
【0018】
【0019】
本発明の特に好ましい実施形態において、安定剤は、以下の式(I.1)、(I.2)、(I.3)、(I.4)、(I.5)、(I.6)、(I.7)および(I.8)の化合物からなる群から選択される。
【0020】
【0021】
【0022】
式(I.2)中、nは、1~20の整数である。
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
式(I.5)中、nは、1~12の整数である。
【0027】
【0028】
式(I.6)中、nは、1~17の整数である。
【0029】
【0030】
【0031】
式(I.8)中、Rは、C6~C20アルキル基である。
【0032】
最も好ましくは、有機アミンは、例えば、Tinuvin(登録商標)770DFのブランド名で入手可能なジ-4-(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル)セバケートである。安定剤に対する配位子のモル比は、好ましくは0.1:10~10:1の範囲、特に5:10~10:5の範囲、非常に特に0.8:1~1:0.8の範囲である。
【0033】
本発明に係る方法は、少なくとも1つの反応帯域、好ましくは単一の反応帯域で実施される。本明細書の文脈における反応帯域は、少なくとも1つの反応器、好ましくは複数の反応器を含んでいる。反応帯域内の個々の反応器は、並列または直列に連結されていてよい。特に好ましい実施形態では、反応帯域は、並列に連結された少なくとも2つの反応器を有する。
【0034】
少なくとも溶媒とそれに溶解している均一触媒系とを含む少なくとも1つの反応器中に液相が存在する。安定剤が存在する場合、これは同様に、少なくとも1つの反応器中の液相中に存在する。少なくとも1つの反応器は、気相も含んでいる。しかし、触媒系は液相中に存在するので、反応も液相で起こる。反応物またはブテンおよびブタンを含む供給混合物と、合成ガスとは、好ましくは、特にノズルなどの当業者に既知の適切な装置を介して、反応器の底部に添加される。本発明の特に好ましい実施形態では、添加は定量的に制御される。
【0035】
本明細書に記載のヒドロホルミル化法は、原理的には、連続的にまたはバッチ式で行われてよい。しかし、本方法は、好ましくは連続的に行われる。
【0036】
ヒドロホルミル化の典型的条件は、当業者に既知である。ヒドロホルミル化は、好ましくは65℃~200℃の範囲の温度で、さらに好ましくは75℃~175℃の範囲の温度で、より好ましくは85℃~135℃の範囲の温度で行われる。ヒドロホルミル化の圧力は、好ましくは10~200バール、さらに好ましくは12.5~100バール、より好ましくは15~25バールである。
【0037】
上述のように、本発明に係る方法では、生成物アルデヒド、未転化ブテン、およびブタンの少なくとも一部を含む循環ガスが、反応帯域または少なくとも1つの反応器から取り除かれる。次いで、取り除かれた循環ガスは、循環ガスに混入している液体の浮遊粒子を循環ガスから取り除くために、エアロゾル分離器に送られ得る。エアロゾル分離器で循環ガスから分離された液体混合物は、反応帯域または反応器に再循環されてよい。エアロゾル分離器の構造および動作モードは、当業者によく知られている。エアロゾルをより良く堆積させるために、これらの分離器にスクラブ液を入れてもよく、または当業者に同様に知られている対応するスクラブカラムを使用してもよい。
【0038】
エアロゾル分離器の下流部で、循環ガスは凝縮器に送られ、それによって、循環ガス中に存在する生成物アルデヒド、未転化ブテン、ブタン、および溶媒が少なくとも部分的に凝縮される。凝縮器は、好ましくは、反応温度より低い温度で操作される。凝縮器内の温度は、30~100℃であってよい。70~90℃の温度が特に好ましい。合成ガスは気相に留まり、凝縮されない。その場合、したがって凝縮器内に存在するのは、少なくとも部分的に凝縮された成分と、未転化ブテンと、ブタンと、溶媒とを含む液相、および合成ガスを含む気相である。
【0039】
凝縮液相および気相は、相分離器で互いに分離されてよい。得られた気相は、好ましくは、循環ガス圧縮器を介して反応帯域または反応器に再循環される。凝縮液相は、好ましくは、粗生成物除去にかけられ、それは1つまたは複数の蒸留カラムから構成されていてよい。これにより、未転化ブテンおよびブタン(残留C4)が粗生成物から分離される。粗生成物は、少なくとも生成アルデヒド、およびいかなる高沸点副生成物、および/または溶媒を含んでいる。当業者は、蒸留の条件に精通している。次いで、粗生成物は、下流の反応工程で使用されてよい。
【0040】
INBを溶媒として使用する場合、溶媒を完全に除去するために、さらなる溶媒除去が有利であり、かつ必要な場合がある。INBは比較的揮発性であり、そのため、循環ガス率が上がると、循環ガスによるINB排出量が増加する。しかし、INBは、下流の工程または反応工程で問題を引き起こす可能性があるので、除去する必要がある。この目的に使用可能な溶媒除去は、少なくとも1つの蒸留カラムからなる。粗生成物除去からの粗生成物をここで使用し、溶媒およびいかなる高沸点副生成物をC5アルデヒドから分離する。次いで、溶媒を反応器に再循環させてもよい。高沸点副生成物が存在する場合、反応器内に高沸点副生成物が蓄積しないように、パージする、すなわち再循環物の一部を排出することが有利であり得る。
【0041】
あるいは、粗生成物除去および溶媒除去を単一の蒸留カラムで行うことも可能である。これは、例えば、残留C4を上部で得て、溶媒およびいかなる高沸点副生成物を底部で得て、かつC5アルデヒドをその間で除去することができる隔壁カラムにより可能である。
【0042】
DINCHを溶媒として使用する場合、さらなる溶媒除去は必要ない。DINCHは、INBよりも、沸点が高く揮発性が低い。循環ガス率が上昇しても、たとえあるにしても、循環ガスによって少なくともそれ以上の溶媒は排出されない。
【0043】
好ましい実施形態では、得られた生成物アルデヒドは、下流の反応工程、例えば、水素化、アルドール化(アルドール縮合)、カルボン酸への酸化、またはアミンへの転化に供することができる。
【0044】
本発明はさらに、アルデヒド、コバルトまたはロジウムと、有機リン含有配位子と、溶媒とを含む液体混合物であり、アルデヒド濃度が15質量%未満である液体混合物を提供する。使用される溶媒は、当業者に既知の溶媒であってよい。本発明に係る方法に使用される溶媒は、特にINB(安息香酸イソノニル)またはDINCH(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソノニル)であってよい。使用される配位子は、好ましくはリン酸エステル化合物、特に当業者に原理的に知られているモノホスファイト配位子またはビスホスファイト配位子である。適切な配位子は、すでに上述されており、特に式(1)の配位子を意味する。この混合物は、特に、C5アルデヒドの本発明に係る調製方法からの液体反応混合物である。
【0045】
図1は、本発明に係る方法を例として示している。この方法は、溶媒と均一に溶解した触媒系とからなる液体反応相(I)が存在する反応容器(1)内で行われる。反応容器(1)には、フリー気相(II)も含まれ、さらに内部熱交換器(16)によって加熱または冷却されてもよい。合成ガス(VI)および反応物(V)、すなわち使用されるオレフィンまたはオレフィン含有炭化水素流が、反応容器(1)に連続的に流れ込む。反応物(V)は、気体または液体いずれかの形で添加されてよい。合成ガス(VI)に水素(VII)をさらに添加することが任意選択で可能である。さらに、いかなる損失分も補うために、反応容器(1)には、配位子溶液(IV)および/または溶媒(III)が液体の形で供給されてよい。
【0046】
本図式では、圧縮器(13)と、エアロゾル分離器(7)と、凝縮器(8)と、相分離容器(9)と、循環ガス系の構成要素を互いに接続するパイプライン系(6、11)とからなる循環ガス系を介して、連続ガス流を反応容器(1)から取り除く。このガス流は、圧縮器(13)によって作られ、能動的に変化させることができる。ガス流は、底部から液体反応相(I)に送られる。供給された反応物(V)と合成ガス(VI)とが液相で反応し、対応するアルデヒドが生成される。それらの分圧により、形成された生成物および未転化反応物が気相(II)に転化され、反応容器(1)から出る。次いで、取り除かれたガス流は、エアロゾル分離器(7)を通過する。エアロゾル分離器(7)では、反応相(I)の同伴留分が分離され、反応容器(1)に戻される。次いで、得られたガス流は、下流部の凝縮器(8)に到達する。凝縮器(8)では、残りの反応物および生成物が気相から少なくとも部分的に凝縮される程度まで温度が下げられる。得られた液相(生成物含有)および気相は、一緒に相分離容器(9)に送られる。生成物含有液相および気相は、その中で互いに分離される。パイプライン(10)を介して、液体粗生成物(IX)は、さらなる後処理に送られる。相分離容器(9)からの気相は、圧縮器(13)の吸い込み側に送られ、反応容器(1)に戻される。プラント圧力は、パイプライン(14)を用いたオフガス(IIX)によって調整できる。
【0047】
以下、実施例を参照して本発明を説明する。これらの例は、本発明の単なる例示であり、限定を構成するものと見なされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】
図1は、本発明に係る方法を例として示している。
【実施例0049】
実験例1(比較例)
反応開始前に、系全体を窒素で不活性化し、次いで、合成ガスでパージして窒素を除去し(N2が5%未満)、次いで、合成ガスを14バール(絶対圧)まで注入した。開始前に、反応容器に合計約30m3の反応相を充填した。
【0050】
これは、事前に次のように準備した。溶存酸素を取り除くために、いずれの場合にも、安息香酸イソノニル(INB)5m3を、不活性化バッチ容器内で窒素を用いて5時間パージした。次に、Tinuvin770DF(140kg)と、式(1)に示される構造を有する配位子(130kg)と、アセチルアセトナト(ジカルボニル)ロジウム(I)(11kg)と、を窒素不活性化パウダーロックを介してINBに添加した。この混合物を60℃まで加熱し、固体が溶解した後、内容物を反応容器に流し込んだ。反応相中の配位子濃度のモニタリングは、反応系から採取し、HPLC法で分析することにより可能である。この方法では、配位子の酸化留分を測定することも同様に可能である。酸化留分は、使用した配位子量の10%未満であった。
【0051】
次の工程において、循環ガス圧縮器を起動した。反応相を120℃まで加熱した。オフガス流中の制御弁によって、その後の反応圧力を17バール(絶対圧)にした。反応系の過剰圧力は、加熱段階中にこのようにして消散させた。
【0052】
反応温度に達したら、反応物の計量添加を4,500kg/時間で開始した。合成ガスを、反応物中のブテン含量に対して1:1.2の化学量論比で流し入れた。使用した反応物は、35%のブテン(1-ブテンと2-ブテンの混合物)および65%のn-ブタンの組成を有するC4流であった。
【0053】
反応物の添加と反応により、反応相の体積が50m3まで増加した。濃度を一定に保つために、循環ガスを適宜調整した。錯体が結合していない配位子の割合を、規則的な採取とHPLCによる分析とによって測定し、酸化によって分解された配位子を、配位子の計量添加によって置き換えた。この目的のために、不活性条件下で、配位子とTinuvin770DFを、C4を含まない粗アルデヒドに溶解させ、反応相に流し入れた。これにより、反応中のロジウムと結合していない配位子との比率を一定に保った。
【0054】
調製されたアルデヒド1トン当たりのkg単位での配位子使用係数を、補充された配位子の量と生成されたアルデヒドの質量から計算する。配位子の使用係数は次のように計算する。
【0055】
【0056】
これは、この実験例中これらの条件下で100%に等しく、実験例2の参照として機能する。同時に、反応溶液中のアルデヒド含量は、ガスクロマトグラフィー分析によって試料から測定した。平均して、アルデヒド含量は15質量%であった。
【0057】
1時間当たりに調製されるアルデヒドのモル数と、1時間当たりに使用されるブテンのモル数をさらに使用して、以下の式により収率を計算した:60%の収率が得られた。
【0058】
【0059】
実験例2(実施例)
本実験は、実験例1と同様に設定し、開始した。ただし、循環ガス率は、反応相中のアルデヒド濃度が平均で13%となるようにした。濃度の低下は、溶媒(この場合はINB)を補充することによって補った。
【0060】
実験例1と同様に、この実験例においても、遊離配位子の割合と収率を測定した。実験例1の場合と同様に、調製されたアルデヒド1トン当たりのkg単位での配位子使用係数を測定する。配位子使用係数は、実験例1のたった75%であった。表1に確認したデータの概要がある。
【0061】