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特開2023-165649酸化亜鉛被膜を有する物品およびその製造方法ならびに脱臭方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165649
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】酸化亜鉛被膜を有する物品およびその製造方法ならびに脱臭方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20231109BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20231109BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20231109BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20231109BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
B32B9/00 A
A01N59/16 Z
A01P3/00
B05D5/00 H
A61L9/01 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074503
(22)【出願日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2022076434
(32)【優先日】2022-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022150089
(32)【優先日】2022-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】豊田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】森 春菜
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】青木 雅裕
【テーマコード(参考)】
4C180
4D075
4F100
4H011
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA10
4C180AA16
4C180BB03
4C180BB04
4C180BB08
4C180CC00
4C180EA30X
4C180LL20
4C180MM06
4D075CA34
4D075CA45
4D075CB06
4D075DB13
4D075DC01
4D075DC11
4D075DC38
4D075EC08
4F100AA25A
4F100AB01B
4F100AD00B
4F100AG00B
4F100AK01B
4F100AP00B
4F100AT00
4F100BA02
4F100CA12A
4F100CC102
4F100CC10A
4F100DD07A
4F100DE10A
4F100DG10B
4F100EH462
4F100EH46A
4F100GB07
4F100GB31
4F100GB81
4F100JC00A
4F100JN01
4H011AA04
4H011BB18
4H011DA08
(57)【要約】
【課題】酸化亜鉛被膜を有する抗菌性物品を提供すること。
【解決手段】基板上に酸化亜鉛被膜を有する物品であって、上記酸化亜鉛被膜の表面において測定される表面積増加率Sdrが2.00%以上13.00%以下であり、且つ、抗菌活性値(JIS Z 2801:2010準拠)が2.0以上である物品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に酸化亜鉛被膜を有する物品であって、
前記酸化亜鉛被膜の表面において測定される表面積増加率Sdrが2.00%以上13.00%以下であり、且つ、抗菌活性値(JIS Z 2801:2010準拠)が2.0以上である物品。
【請求項2】
前記酸化亜鉛被膜の表面において測定される抗ウイルス活性値(ISO 21702準拠)が2.0以上である、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記酸化亜鉛被膜の膜厚は、50nm以上1000nm以下である、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記酸化亜鉛被膜の波長550nmにおける透過率は80.0%以上である、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記酸化亜鉛被膜の表面において測定される表面積増加率Sdrが2.00%以上9.00%以下である、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記酸化亜鉛被膜の膜厚は50nm以上1000nm以下であり、且つ、前記酸化亜鉛被膜の波長550nmにおける透過率は80.0%以上である、請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記酸化亜鉛被膜の表面において測定される表面積増加率Sdrが2.00%以上9.00%以下である、請求項6に記載の物品。
【請求項8】
前記酸化亜鉛被膜の表面において測定される抗ウイルス活性値(ISO 21702準拠)が2.0以上であり、
前記酸化亜鉛被膜の膜厚は50nm以上1000nm以下であり、且つ、
前記酸化亜鉛被膜の波長550nmにおける透過率は80.0%以上である、請求項1に記載の物品。
【請求項9】
前記酸化亜鉛被膜の表面において測定される表面積増加率Sdrが2.00%以上9.00%以下である、請求項8に記載の物品。
【請求項10】
脱臭材である、請求項1~9のいずれか1項に記載の物品。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の物品の製造方法であって、
前記酸化亜鉛被膜を、水が存在する雰囲気下、下記式(1)
式(1):R-Zn-R
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1以上8以下の直鎖または分岐したアルキル基を表す)
で表される有機亜鉛化合物を含有する塗布液を塗布することによって形成することを含む、前記製造方法。
【請求項12】
前記塗布を大気圧下で行う、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記式(1)で表される有機亜鉛化合物は、ジエチル亜鉛である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
脱臭対象ガスを含む雰囲気中に請求項10に記載の物品を配置することを含む脱臭方法。
【請求項15】
前記脱臭対象ガスは、硫化水素ガス、メチルメルカプタンガスおよびイソ吉草酸ガスからなる群から選択される、請求項14に記載の脱臭方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛被膜を有する物品およびその製造方法ならびに脱臭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛は、亜鉛華や亜鉛白とも呼ばれ、例えば白色顔料として工業用途に使用されている。また、微粒子酸化亜鉛が紫外線遮蔽効果や可視光透明性を有することに由来して、酸化亜鉛は、化粧料、日焼け止め、医薬品、塗料、プラスチック等の様々な用途に広く使用されている(例えば特許文献1~8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-95655号公報
【特許文献2】特公平1-50202号公報
【特許文献3】特開2018-115098号公報
【特許文献4】特開2021-001278号公報
【特許文献5】特開平5-156510号公報
【特許文献6】国際公開第WO2013/073555号パンフレット
【特許文献7】特開平9-286615号公報
【特許文献8】特開2011-170979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3には、シリコーンによる表面処理によって強い撥水性が付与された酸化亜鉛を、化粧品用途で使用することが提案されている。
【0005】
一方で、近年、酸化亜鉛が抗菌活性を有することが注目されている。この点に関して、特許文献4~7には、酸化亜鉛によって物品に抗菌性能を付与することが提案されている。
【0006】
また、物品表面に酸化亜鉛被膜を形成する方法として、特許文献8には、有機亜鉛化合物の部分加水分解物をベースとした組成物から酸化亜鉛被膜を形成する方法が開示されている。
【0007】
以上に鑑み、本発明の一態様は、酸化亜鉛被膜を有する抗菌性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、以下の通りである。
[1]基板上に酸化亜鉛被膜を有する物品であって、
上記酸化亜鉛被膜の表面において測定される表面積増加率Sdrが2.00%以上13.00%以下であり、且つ、抗菌活性値(JIS Z 2801:2010準拠)が2.0以上である物品。
[2]上記酸化亜鉛被膜の表面において測定される抗ウイルス活性値(ISO 21702準拠)が2.0以上である、[1]に記載の物品。
[3]上記酸化亜鉛被膜の膜厚は、50nm以上1000nm以下である、[1]または[2]に記載の物品。
[4]上記酸化亜鉛被膜の波長550nmにおける透過率は80.0%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の物品。
[5]上記酸化亜鉛被膜の表面において測定される表面積増加率Sdrが2.00%以上9.00%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の物品。
[6]上記酸化亜鉛被膜の膜厚は50nm以上1000nm以下であり、且つ、上記酸化亜鉛被膜の波長550nmにおける透過率は80.0%以上である、[1]または[2]に記載の物品。
[7]上記酸化亜鉛被膜の表面において測定される表面積増加率Sdrが2.00%以上9.00%以下である、[6]に記載の物品。
[8]上記酸化亜鉛被膜の表面において測定される抗ウイルス活性値(ISO 21702準拠)が2.0以上であり、
上記酸化亜鉛被膜の膜厚は50nm以上1000nm以下であり、且つ、
上記酸化亜鉛被膜の波長550nmにおける透過率は80.0%以上である、[1]に記載の物品。
[9]上記酸化亜鉛被膜の表面において測定される表面積増加率Sdrが2.00%以上9.00%以下である、[8]に記載の物品。
[10]脱臭材である、[1]~[9]のいずれかに記載の物品。
[11][1]~[10]のいずれかに記載の物品の製造方法であって、
上記酸化亜鉛被膜を、水が存在する雰囲気下、下記式(1)
式(1):R-Zn-R
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1以上8以下の直鎖または分岐したアルキル基を表す)
で表される有機亜鉛化合物を含有する塗布液を塗布することによって形成することを含む、上記製造方法。
[12]上記塗布を大気圧下で行う、[11]に記載の製造方法。
[13]上記式(1)で表される有機亜鉛化合物は、ジエチル亜鉛である、[11]または[12]に記載の製造方法。
[14]脱臭対象ガスを含む雰囲気中に[10]に記載の物品を配置することを含む脱臭方法。
[15]上記脱臭対象ガスは、硫化水素ガス、メチルメルカプタンガスおよびイソ吉草酸ガスからなる群から選択される、[14]に記載の脱臭方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、酸化亜鉛被膜を有することによって抗菌性が付与された物品を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる物品の製造方法を提供することができる。更に、本発明の一態様によれば、上記物品を使用する脱臭方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[酸化亜鉛被膜を有する物品]
本発明の一態様は、基板上に酸化亜鉛被膜を有する物品であって、上記酸化亜鉛被膜の表面において測定される表面積増加率Sdrが2.00%以上13.00%以下であり、且つ、抗菌活性値(JIS Z 2801:2010準拠)が2.0以上である物品に関する。
【0011】
本発明者らが酸化亜鉛被膜を有する抗菌性物品に関して検討を重ねる中で、酸化亜鉛被膜の表面構造と抗菌活性との間に相関が見られることが判明した。この点は、先に示した文献には記載されていない、本発明者らの検討によって得られた新規知見である。そして本発明者らは更に鋭意検討を重ねた結果、表面において測定される表面積増加率Sdrが2.00%以上の酸化亜鉛被膜が、2.0以上の抗菌活性値を示すことができることを新たに見出した。更に本発明者らは、表面において測定される表面積増加率Sdrが2.00%以上の酸化亜鉛被膜が、2.0以上の抗ウイルス活性値を示すことができることも新たに見出した。即ち、本発明の一態様によれば、基板上に酸化亜鉛被膜を有する物品であって、上記酸化亜鉛被膜の表面において測定される表面積増加率Sdrが2.00%以上13.00%以下であり、且つ、抗ウイルス活性値(ISO 21702準拠)が2.0以上である物品を提供することもできる。
【0012】
以下、上記物品について、更に詳細に説明する。
【0013】
<酸化亜鉛被膜>
(表面積増加率Sdr)
「表面積増加率Sdr」は、ISO25178-2:2012に規定される表面性状パラメータであり、一般に「界面の展開面積比」とも呼ばれ、定義領域の展開面積(表面積)が、定義領域の面積に対してどれだけ増大しているかを表す。詳しくは、酸化亜鉛被膜の表面の表面積(展開面積)が、その上に酸化亜鉛被膜が設けられた基板表面を定義領域とし、定義領域の表面積に対してどれだけ増加しているかを表す。完全に平坦な面のSdrは0%となる。測定は、レーザー顕微鏡によって行われる。レーザー顕微鏡は、光源にレーザーを利用し、対象物表面の凹凸測定を三次元的に計測できる顕微鏡であり、非接触式である。測定条件としては、例えば、後述の実施例の欄に記載の測定条件を採用することができる。以下、「表面積増加率Sdr」を、単に「Sdr」とも記載する。
【0014】
上記物品の基板上に位置する酸化亜鉛被膜の表面において測定される表面積増加率Sdrは、抗菌活性向上の観点から、2.00%以上であって、2.20%以上であることが好ましく、2.40%以上、2.60%以上、2.80%以上、3.00%以上、3.20%以上、3.40%以上、3.60%以上、3.80%以上、4.00%以上、4.20%以上、4.40%以上、4.60%以上の順に更に好ましい。また、抗ウイルス活性向上の観点からも、上記物品の基板上に位置する酸化亜鉛被膜の表面において測定される表面積増加率Sdrが上記範囲であることが好ましい。
酸化亜鉛の抗菌メカニズムについては諸説あるが、亜鉛イオンが細胞膜を破壊する機構、酸化亜鉛表面から発生する過酸化水素が細菌のDNAまたは酵素等を損傷して死滅させる機構等が考えられている。
本発明者らは、これらのうち、過酸化水素発生による抗菌効果、詳しくは、過酸化水素から生じるヒドロキシラジカルの抗菌効果が大きいと考えている(Journal of the Caeramic Society of Japan 106 [10] 1007-1011(1998)参照)。また、本発明者らは、酸化亜鉛の抗ウイルスメカニズムとして、エンベロープと呼ばれるウイルス粒子の膜を活性酸素(例えば、過酸化水素から生じるヒドロキシラジカル等)が損傷させることによってウイルスを死滅させる機構を考えている。
過酸化水素は、酸化亜鉛が表面で酸素および/または水と接触することにより発生する。よって、酸化亜鉛被膜の表面構造を調整すること、特にSdrの値を大きくすることで過酸化水素発生量が高まり、その結果、抗菌活性を向上でき、更には抗ウイルス効果も向上できると、本発明者らは考えている。従来、酸化亜鉛の抗菌活性を高めるためには、酸化亜鉛粒子の粒子径を制御したり、酸化亜鉛粒子の比表面積を向上させたりする検討がなされていたのみであり(特開2021-001278号公報(特許文献4)、特開平5-156510号公報(特許文献5)、国際公開第WO2013/073555号パンフレット(特許文献6)、特開平9-286615号公報(特許文献7)参照)、物品の基板上位置する酸化亜鉛被膜の表面構造に関する提案はなされていなかった。
一方、上記表面積増加率Sdrは、物品の基板上で透明被膜として機能し得る透明性を有し得るという観点から、13.00%以下であり、12.00%以下であることが好ましく、11.00%以下であることがより好ましく、10.00%以下、9.00%以下、8.80%以下、8.60%以下、8.40%以下、8.20%以下、8.00%以下の順に更に好ましい。上記Sdrの制御手段については後述する。
【0015】
(抗菌活性値)
上記物品の基板上に位置する酸化亜鉛被膜の表面において測定される抗菌活性値(JIS Z 2801:2010準拠)は、2.0以上である。かかる抗菌活性値を示す物品は、抗菌性物品として、各種用途において有用である。
本発明および本明細書における「抗菌活性値」とは、少なくとも、JIS Z 2801:2010に記載の被検菌である大腸菌および黄色ブドウ球菌の一方または両方に対する抗菌活性値をいうものとする。かかる抗菌活性値は、JIS Z 2801:2010「抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果」における試験方法に準拠した指標値である。また、一形態では、上記物品の基板上に位置する酸化亜鉛被膜の表面において、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を被検菌としてJIS Z2801:2010「抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果」における試験方法に準拠して測定される抗菌活性値が、2.0以上であることもできる。一形態では、上記物品の基板上に位置する酸化亜鉛被膜の表面において、肺炎桿菌を被検菌としてJIS Z2801:2010「抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果」における試験方法に準拠して測定される抗菌活性値が、2.0以上であることもできる。一形態では、上記物品の基板上に位置する酸化亜鉛被膜の表面において、モラクセラ菌を被検菌としてJIS Z2801:2010「抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果」における試験方法に準拠して測定される抗菌活性値が、2.0以上であることもできる。一形態では、上記物品の基板上に位置する酸化亜鉛被膜の表面において、緑膿菌を被検菌としてJIS Z2801:2010「抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果」における試験方法に準拠して測定される抗菌活性値が、2.0以上であることもできる。
【0016】
上記抗菌活性値は、抗菌加工製品と無加工製品とに被検菌を接種し24時間培養した後、両者の生菌数の対数値の平均値の差として求められる値である。こうして求められる抗菌活性値が2.0以上であれば、菌死滅率は99%以上ということができ、一般に抗菌活性があるとされる。上記物品は、抗菌活性を有する酸化亜鉛を含む被膜を基板上に有し、且つ、その表面のSdrが先に記載した範囲であることによって2.0以上の高い抗菌活性値を示すことができる。
【0017】
(抗ウイルス活性値)
上記物品の基板上に位置する酸化亜鉛被膜の表面において測定される抗ウイルス活性値(ISO 21702準拠)は、2.0以上であることができる。かかる抗ウイルス活性値を示す物品は、抗ウイルス性物品として、各種用途において有用である。
本発明および本明細書における「抗ウイルス活性値」とは、少なくとも、新型コロナウイルスSARS-CoV-2(COVID-19)に対する抗ウイルス活性値をいうものとする。かかる抗ウイルス活性値は、ISO 21702「Measurement of antiviral activity on plastics and other non-porous surfaces」における試験方法に準拠した指標値である。新型コロナウイルスSARS-CoV-2(COVID-19)は、エンベロープを有するウイルスである。一形態では、上記物品の基板上に位置する酸化亜鉛被膜の表面において、インフルエンザウイルス、はしかウイルス、風疹ウイルス、エイズウイルス、ヘルペスウイルス等のエンベロープを有するウイルスを被検ウイルスとしてISO 21702「Measurement of antiviral activity on plastics and other non-porous surfaces」における試験方法に準拠して測定される抗ウイルス活性値が、2.0以上であることもできる。上記物品は、エンベロープを有する各種ウイルスに対して、高い抗ウイルス効果を示すことができる。
【0018】
上記抗ウイルス活性値は、抗ウイルス加工製品と無加工製品とに被検ウイルスを接種し24時間培養した後、両者の生ウイルス数の対数値の平均値の差として求められる値である。こうして求められる抗ウイルス活性値が2.0以上であれば、ウイルス死滅率は99%以上ということができ、一般に抗ウイルス活性があるとされる。上記物品は、抗ウイルス活性を有する酸化亜鉛を含む被膜を基板上に有し、且つ、その表面のSdrが先に記載した範囲であることによって2.0以上の高い抗ウイルス活性値を示すことができる。
【0019】
(膜厚)
上記酸化亜鉛被膜の膜厚は、用途に応じて適宜調整することができ、特に限定されるものではない。例えば、上記酸化亜鉛被膜の膜厚は、50nm以上、100nm以上、150nm以上、200nm以上、250nm以上、300nm以上、350nm以上、400nm以上、450nm以上、500nm以上、550nm以上または600nm以上であることができる。上記酸化亜鉛被膜の膜厚は、例えば、10μm以下であることができる。酸化亜鉛被膜の透明性の観点からは、その膜厚は、2000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることがより好ましく、1000nm以下であることが更に好ましい。本発明者らの検討によれば、酸化亜鉛被膜のSdrの値は、膜厚が厚くなると大きくなる傾向が見られた。したがって、Sdrの制御手段の一例としては、膜厚を調整することを挙げることができる。膜厚は、触針式表面形状測定装置によって測定することができる。測定装置の一例としては、後述の実施例の欄に記載の測定装置を挙げることができる。
【0020】
(透過率)
上記酸化亜鉛被膜は、上記物品の各種用途における有用性の観点からは、高い透明性を有することが好ましい。この点に関して、上記酸化亜鉛被膜は、可視光透過率が高いことが好ましい。例えば、上記酸化亜鉛被膜の透過率は、波長550nmにおいて、80.0%以上であることが好ましく、82.0%以上であることがより好ましく、85.0%以上であることが更に好ましく、88.0%以上であることが一層好ましく、90.0%以上であることがより一層好ましい。上記透過率は、例えば、100%以下、99.0%以下、98.0%以下、97.0%以下、96.0%以下または95.0%以下であることができる。かかる透過率が高いほど、透明性が高く好ましい。上記透過率は、市販の分光高度計によって測定することができる。
【0021】
上記物品は、上記酸化亜鉛被膜を、基板上の少なくとも一部に有することができる。また、上記酸化亜鉛被膜は、この被膜が設けられた箇所において、物品の最表層として位置することが好ましい。上記物品は、基板がおもて面および裏面を有する形状の場合、例えばおもて面および裏面のいずか一方または両方の上の一部または全面に、上記酸化亜鉛被膜を有することができる。また、基板の側面の少なくとも一部または全面に、上記酸化亜鉛被膜が設けられていてもよい。基板は、基材単独であってもよく、基材上に一層以上の層が設けられたものでもよい。
【0022】
<基板>
基板としては、抗菌性能および/または抗ウイルス性能を付与したい物品であれば特に限定されない。一形態では、基板としては、後述の塗布液の塗布を容易に行い得る基板が好ましい。
基板を構成する素材としては、特に限定されず、例えば、金属、金属酸化物、ガラス、コンクリート、各種プラスチック、紙、木材等が挙げられ、これらの1種以上を含む複合材でもよい。
基板の形状としては、板状、曲面状であってもよく、表面に凹凸があるものであってもよい。
【0023】
上記物品は、上記酸化亜鉛被膜を基板上に有することにより、抗菌活性値2.0以上の高い抗菌性能を示すことができ、抗菌性物品、抗菌加工物品、抗菌加工製品等と呼ばれる物品として有用である。更に、上記物品は、上記酸化亜鉛被膜を基板上に有することにより、抗ウイルス活性値2.0以上の高い抗ウイルス性能を示すことができ、抗ウイルス性物品、抗ウイルス加工物品、抗ウイルス加工製品等と呼ばれる物品として有用である。
上記物品としては、特に限定されないが、例えば、医療機関、商業施設、学校、公共施設、食品・医薬品工場、研究機関、介護現場、調理・飲食料品関連現場、交通機関等に設置される、抗菌性能および/または抗ウイルス性能が求められる各種物品が挙げられる。このような物品の具体例としては、例えば、ドア、ドアノブ、手すり、ハンドル、蛇口、ガラス、実験機器、テーブル、いす、家電、事務用品、医療機器、押しボタン、キーボード、マウス、タッチパネル、携帯通信機器、静脈・指紋認証装置、操作ボタン、スイッチ等が挙げられる。
【0024】
上記物品が有する酸化亜鉛被膜は、好ましくは高い透明性を示すことができ、これにより視認性が与えられる一方、酸化亜鉛は紫外線を遮蔽する特性も有する。したがって、上記酸化亜鉛被膜は、抗菌性物品および/または抗ウイルス性物品の紫外線による劣化の抑制にも寄与し得る。
【0025】
また、本発明者らの検討の結果、上記物品が、悪臭ガスに対する脱臭効果を示し得ることも明らかとなった。例えば、脱臭対象ガスを含む雰囲気中に上記物品を配置することによって、上記物品が脱臭材として機能して上記雰囲気中の悪臭ガス濃度を低減することができる。即ち、本発明の一態様は、脱臭対象ガスを含む雰囲気中に上記物品を配置することを含む脱臭方法に関する。脱臭対象の悪臭ガスとしては、例えば、硫化水素、メチルメルカプタン、イソ吉草酸等のガスを挙げることができる。脱臭対象ガスを含む雰囲気は、密閉雰囲気であってもよく開放雰囲気であってもよい。脱臭対象ガスを含む雰囲気の容積、形態、悪臭対象ガス濃度等は、特に限定されるものではない。
【0026】
[上記物品の製造方法]
本発明の一態様は、上記物品の製造方法であって、上記酸化亜鉛被膜を、水が存在する雰囲気下、下記式(1)で表される有機亜鉛化合物を含有する塗布液を塗布することによって形成することを含む製造方法に関する。
【0027】
式(1):R-Zn-R
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1以上8以下の直鎖または分岐したアルキル基を表す。)
【0028】
本発明および本明細書において、「酸化亜鉛被膜」とは、酸化亜鉛を含む被膜を意味する。上記製造方法では、式(1)で表される有機亜鉛化合物の加水分解によって、酸化亜鉛被膜を形成することができる。かかる方法は、酸化亜鉛粒子とバインダとを含む塗布液によって酸化亜鉛被膜を形成する方法に対して、バインダなしで、酸化亜鉛被膜を形成することが可能な方法である。また、かかる方法によれば、被被覆面である基板表面に酸化亜鉛を強固に付着させることも可能である。抗菌性能が要求される物品は、滅菌処理を施される場合があり、一般的には蒸気滅菌(湿熱滅菌)または乾熱滅菌が採用される。いずれの滅菌処理でも一般に130℃以上の加熱が行われるため、そのような滅菌処理が行われる酸化亜鉛被膜には、高い耐熱性を有することが望まれる。酸化亜鉛粒子とバインダとを用いて形成された酸化亜鉛被膜に対して、上記方法によって形成された酸化亜鉛被膜は、高い耐熱性を示し得る観点から好ましい。ただし、先に詳述した本発明の一態様にかかる物品は、以下に記載の製造方法によって製造されるものに限定されるものではない。
【0029】
<塗布液の成分>
(式(1)で表される有機亜鉛化合物)
上記有機亜鉛化合物は、下記式(1)によって表される。
式(1):R-Zn-R (1)
【0030】
以下、式(1)について更に詳細に説明する。
【0031】
式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1以上8以下の直鎖または分岐したアルキル基を表す。式(1)で表される有機亜鉛化合物は、ジアルキル亜鉛である。RおよびRは、一形態では同じアルキル基を表し、他の一形態では異なるアルキル基を表す。
【0032】
上記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、2-ヘキシル基、ヘプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基等を挙げることができる。
【0033】
式(1)で表される化合物は、上記アルキル基として、炭素数が1以上3以下のアルキル基を有することが好ましく、入手容易性が高いことから、ジエチル亜鉛(即ちRおよびRがいずれもエチル基)であることがより好ましい。
【0034】
上記塗布液の式(1)で表される有機亜鉛化合物の濃度は、塗布液全量を100質量%として、15質量%以下であることが好ましく、14質量%以下であることがより好ましく、13質量%以下、12質量%以下の順に更に好ましい。また、上記濃度は、例えば、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましい。
上記塗布液の式(1)で表される有機亜鉛化合物の濃度は、抗菌性能および/または抗ウイルス性能を発現するために十分な膜厚を有する酸化亜鉛被膜を製造する、透明な酸化亜鉛被膜を製造する、ポットライフおよび溶媒の揮発に伴うノズルのつまりを抑える等の観点から、上記範囲であることが好ましい。また、本発明者らの検討によれば、上記塗布液の式(1)で表される有機亜鉛化合物の濃度を高くすると、形成される酸化亜鉛被膜のSdrの値が大きくなる傾向が見られた。したがって、Sdrの制御手段の一例としては、上記濃度を調整することを挙げることができる。
【0035】
(溶媒)
上記塗布液は、少なくとも式(1)で表される化合物を1種以上含み、通常、溶媒を更に含むことができる。溶媒は、特に限定されず、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、1,2-ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、グライム、ジグライム、トリグライム、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル系溶媒等が挙げられる。また、溶媒は1種のみ用いることができ、2種類以上を任意の割合で混合して用いることもできる。有機亜鉛化合物の溶解性、溶媒の揮発性等を考慮すると、溶媒としては、キシレン、メシチレン等が好ましい。
【0036】
上記塗布液は、上記成分のみを含むことができ、または、公知の成分の一種以上を任意の割合で含むこともできる。
【0037】
<塗布液の塗布>
上記塗布液の塗布は、水が存在する雰囲気下で行われる。「水が存在する雰囲気」の相対湿度は、例えば20%以上100%以下であることができる。「水が存在する雰囲気」とは、例えば、相対湿度20~100%分の水を含有した空気の雰囲気であることができる。または、「水が存在する雰囲気」は、上記の空気の雰囲気の代わりに窒素と水とを混合させた混合ガスの雰囲気であってもよい。「水が存在する雰囲気」の相対湿度は、酸化亜鉛被膜の生成がスムーズであるという観点から、40%以上100%以下であることが好ましく、Sdrの値を大きくする観点からは、50%以上100%以下または50%以上90%以下であることが好ましい。Sdrの制御手段の一例としては、塗布を行う雰囲気の相対湿度を調整することを挙げることができる。例えば、塗布を行う雰囲気の相対湿度が高いほど、形成される酸化亜鉛被膜のSdrの値が大きくなる場合があることが、本発明者らの検討によって確認された。
【0038】
上記塗布液を基板表面に塗布することにより、基板表面上に上記酸化亜鉛被膜を形成することができる。かかる基板の詳細は、先に記載した通りである。上記塗布液の塗布方法としては、スプレー塗布、静電塗布、スピン塗布、ディップ塗布等の公知の方法を用いることができる。基板の形状を選ばない点からは、スプレー塗布が好ましい。Sdrの制御に関して、本発明者らの検討により、スプレー塗布におけるスプレー圧を低くすると、形成される酸化亜鉛被膜のSdrの値が大きくなる場合があることが確認された。したがって、Sdrの制御手段の一例としては、スプレー塗布におけるスプレー圧を調整することを挙げることができる。例えば、スプレー圧は、使用するスプレー塗布装置における設定値であることができる。スプレー圧は、スプレー塗布装置の仕様等に応じて設定すればよく、特に限定されるものではない。また、スプレー塗布を2回以上繰り返すことによって、酸化亜鉛被膜の厚膜化を図ることができる。
【0039】
以下に、スプレー塗布について詳細に記載するが、以下の記載に本発明は限定されない。
【0040】
基板表面へのスプレー塗布は、大気圧下または加圧下で、好ましくは大気圧下で、水が存在する雰囲気下で行うことができる。大気圧下で実施することは、装置上簡便であり好ましい。スプレー塗布装置としては、市販のスプレー塗布装置および公知の構成のスプレー塗布装置を使用することができる。スプレー塗布装置としては、ノズル可動型のスプレー塗布装置と、ノズル固定型のスプレー塗布装置とがある。ノズル可動型のスプレー塗布装置では、スプレー塗布中にノズルがX方向およびY方向に移動する。本発明者らの検討によれば、ノズル可動型のスプレー塗布装置を用いると、ノズル固定型のスプレー塗布装置を用いる場合と比べて、形成される酸化亜鉛被膜のSdrの値が大きくなる傾向が見られた。
【0041】
基板表面へのスプレー塗布は、基板を加熱して行うことができる。スプレー塗布時の基板温度は、例えば350℃以下とすることができ、ヒーター等の公知の加熱手段によって基板温度を制御することができる。なお、本発明および本明細書において、「基板温度」とは、その上に塗布液が塗布される基板表面の温度をいうものとする。必要により基板温度を所定の温度とし、溶媒を乾燥させた後、所定の温度で酸化亜鉛形成のための加熱を行うことができる。溶媒乾燥温度とその後の酸化亜鉛形成のための基板温度を同一にし、溶媒乾燥と酸化亜鉛形成を同時に行うことも可能である。基板温度については、塗布液に含まれる溶媒の種類等に応じて多段階に昇温する等、適宜設定することもできる。
スプレー塗布を行う雰囲気の雰囲気温度は、例えば50℃以下とすることができる。スプレー塗布は、雰囲気温度を50℃以下とし、かつ基板温度を300℃以下として行うことが好ましい。酸化亜鉛被膜中の酸化亜鉛の結晶化を促進する観点からは、スプレー塗布を行う雰囲気温度は0℃以上40℃以下であることが好ましく、基板温度は100℃以上250℃以下であることが好ましい。更に、「塗布-乾燥-加熱」を1回のサイクルとして、かかるサイクルの回数は1回または2回以上とすることができる。2回以上繰り返すことによって酸化亜鉛被膜の厚膜化を図ることができる。また、塗布液の塗布量は、塗布液の上記有機亜鉛化合物の濃度、使用するスプレー塗布装置の仕様、形成すべき酸化亜鉛被膜の膜厚等に応じて調整することができる。
【実施例0042】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0043】
以下に記載の酸化亜鉛被膜の物性値の測定は、下記測定装置を使用し、下記測定条件によって行った。
【0044】
表面積増加率Sdrの測定は、レーザー顕微鏡としてキーエンス社製VK-9500/VK-9510を使用し、下記測定条件によって行った。
測定条件:レンズ 20倍(視野角:700μm×530μm)
Z方向ステップ 0.01μm
【0045】
膜厚の測定は、触針式表面形状測定装置(ブルカーナノ社製DektakXT-S)を使用して行った。
【0046】
透過率測定を日本分光製分光光度計を用いて行い、波長550nmにおける透過率を求めた。
【0047】
以下に記載のスプレー塗布装置Aは、旭サナック株式会社製rCoater(ノズル可動型)である。以下に記載のスプレー塗布装置Bは、特開2011-170979号公報に記載のスプレー塗布装置(ノズル固定型)である。
表1中、「スプレー圧」の欄には、スプレー塗布装置A使用時に設定したスプレー圧を記載した。スプレー塗布装置Bは、スプレー圧制御部を有さず、スプレー塗布中に同伴ガスの流量制御を行うスプレー塗布装置であるため、表1中、スプレー塗布装置Bを使用した実施例3の「スプレー圧」の欄には、「N/A」(Not available)と記載した。
【0048】
[実施例1]
<塗布液Aの調製>
キシレン296.40gにジエチル亜鉛48.25gを加えた。十分に撹拌を行うことで塗布液Aを得た。
上記の塗布液Aの調製は窒素ガス雰囲気で行い、溶媒(キシレン)は脱水および脱気して使用した。
【0049】
<塗布液の塗布>
基板として、5cm×5cmのサイズのガラス基板(コーニング社製イーグルXG)を基板ホルダに設置し、基板温度200℃に加熱した後、大気圧下、雰囲気温度25℃、相対湿度50%の水が存在する空気中で、塗布液Aを1mL、スプレー塗布装置A(スプレー圧:表1参照)を用いてスプレー塗布した(スプレー塗布回数:1回)。
以上により、基板の一方の表面上に酸化亜鉛被膜を有する物品を得た。
【0050】
[実施例2]
スプレー塗布を行う雰囲気の相対湿度を表1に示すように変更した点以外、実施例1について記載した方法によって基板の一方の表面上に酸化亜鉛被膜を有する物品を得た。
【0051】
[実施例3]
<塗布液Bの調製>
ジイソプロピルエーテル163.08gにジエチル亜鉛18.14gを加えた。十分に撹拌を行うことで塗布液Bを得た。
上記の塗布液Bの調製は窒素ガス雰囲気で行い、溶媒(ジイソプロピルエーテル)は脱水および脱気して使用した。
【0052】
<塗布液の塗布>
基板として5cm×5cmのサイズのガラス基板(コーニング社製イーグルXG)を基板ホルダに設置し、基板温度200℃に加熱した後、大気圧下、雰囲気温度25℃、相対湿度80%の水が存在する空気中で、塗布液Bを16mL、スプレー塗布装置Bを用いてスプレー塗布した(スプレー塗布回数:1回)。
以上により、基板の一方の表面上に酸化亜鉛被膜を有する物品を得た。
【0053】
[実施例4]
<塗布液Cの調製>
キシレン270.45gにジエチル亜鉛30.05gを加えた。十分に撹拌を行うことで塗布液Cを得た。
上記の塗布液Cの調製は窒素ガス雰囲気で行い、溶媒(キシレン)は脱水および脱気して使用した。
【0054】
<塗布液の塗布>
基板として、5cm×5cmのサイズのガラス基板(コーニング社製イーグルXG)を基板ホルダに設置し、基板温度200℃に加熱した後、大気圧下、雰囲気温度25℃、相対湿度50%の水が存在する空気中で、塗布液Cを1mL、スプレー塗布装置A(スプレー圧:表1参照)を用いて1回スプレー塗布した。こうしてスプレー塗布することを合計5回繰り返し、合計5mLの塗布液Cのスプレー塗布を行った。
以上により、基板の一方の表面上に酸化亜鉛被膜を有する物品を得た。
【0055】
[実施例5]
スプレー塗布を行う雰囲気の相対湿度を表1に示すように変更した点以外、実施例4について記載した方法によって基板の一方の表面上に酸化亜鉛被膜を有する物品を得た。
【0056】
[実施例6]
基板として5cm×5cmのサイズのガラス基板(コーニング社製イーグルXG)を基板ホルダに設置し、基板温度200℃に加熱した後、大気圧下、雰囲気温度25℃、表1に示す相対湿度の水が存在する空気中で、先に記載したように調製した塗布液Cを1mL、スプレー塗布装置A(スプレー圧:表1参照)を用いて基板の一方の表面上に1回スプレー塗布した。こうしてスプレー塗布することを合計8回繰り返し、合計8mLの塗布液Cのスプレー塗布を行った。
以上により、基板の一方の表面上に酸化亜鉛被膜を有する物品を得た。
【0057】
[比較例1]
先に記載したように調製した塗布液Aを使用した点以外、実施例6について記載した方法によって基板の一方の表面上に酸化亜鉛被膜を有する物品を得た。
【0058】
[比較例2]
スプレー塗布を行う雰囲気の相対湿度を表1に示すように変更し、かつスプレー圧を表1に示す値に設定した点以外、実施例4について記載した方法によって基板の一方の表面上に酸化亜鉛被膜を有する物品を得た。
【0059】
[抗菌試験]
実施例1~6および比較例2の各物品の抗菌試験を、財団法人日本食品分析センターにて実施した。抗菌試験は、以下の方法によって行われた。
各物品の酸化亜鉛被膜の表面(即ち物品の最表面)の抗菌活性値を、被検菌として大腸菌および黄色ブドウ球菌をそれぞれ使用して、JIS Z 2801:2010に準拠する先に記載した方法によって求めた。
実施例1、実施例2および実施例4については、被検菌としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を使用し、JIS Z 2801:2010に準拠する先に記載した方法による抗菌試験も実施した。上記抗菌試験では、無加工製品として、上記ガラス基板(被膜なし)を使用した。
実施例4については、被検菌として肺炎桿菌、モラクセラ菌および緑膿菌の各菌を使用し、JIS Z 2801:2010に準拠する先に記載した方法による抗菌試験も実施した。上記抗菌試験では、無加工製品として、上記ガラス基板(被膜なし)を使用した。
【0060】
表2に示すように、実施例1~6のいずれにおいても、抗菌試験の試験結果として、大腸菌および黄色ブドウ球菌に対して、抗菌活性ありとされる2.0以上の抗菌活性値が得られた。比較例2においても、大腸菌および黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性値は2.0以上であった。
実施例1、実施例2および実施例4では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対しても、抗菌活性ありとされる2.0以上の抗菌活性値が得られた。
実施例4では、肺炎桿菌、モラクセラ菌および緑膿菌に対しても、抗菌活性ありとされる2.0以上の抗菌活性値が得られた。
なお、比較例1については、酸化亜鉛被膜の波長550nmにおける透過率が低く透明性に劣っていたため、抗菌試験は実施しなかった。
【0061】
以上の結果を下記の表に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
[抗ウイルス試験]
実施例4の物品の抗ウイルス試験を、一般財団法人日本繊維製品品質技術センター(神戸試験センター)にて実施した。ISO 21702に準じた以下の方法によって、SARS-CoV-2変異株(オミクロン株)に対する抗ウイルス試験を実施した。無加工製品としては、上記ガラス基板(被膜なし)を使用した。
実施例4において、抗ウイルス試験の試験結果として、SARS-CoV-2変異株(オミクロン株)に対して、抗ウイルス活性ありとされる2.0以上(具体的には「≧4.0」)の抗ウイルス活性値が得られた。
(1)滅菌済みシャーレの底に試験検体(実施例4の物品および無加工製品)を置き、1~5×10PFU/mLの濃度に調製した試験ウイルス懸濁液を0.4mL接種する。実施例4の物品は、酸化亜鉛被膜の表面を上にしてシャーレの底に置く。
(2)密着フィルム(40mm×40mm)をかぶせ、試験ウイルス懸濁液がフィルム全体に行きわたるように軽く押さえつける。
(3)シャーレの蓋をかぶせる。
(4)作用温度25℃で24時間、相対湿度90%以上の条件下で放置後、各試験検体に洗い出し液(SCDLPを2質量%FBS(Fetal Bovine Serum)含有DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)で10倍希釈(体積基準)した溶液)10mLを加える。
(5)各試験検体および密着フィルムの表面を擦り、ウイルスを洗い出す。
(6)洗い出し液中のウイルス感染価をプラーク測定法にて測定する。なお、宿主細胞にはVeroE6/TMPRSS2(アフリカミドリザル腎臓由来細胞)を使用する。
(7)上記(1)~(6)の操作を3回行い、ウイルス感染価を算出する。
【0065】
[脱臭効果試験]
実施例4の物品の脱臭効果試験を、一般財団法人日本食品分析センターにおいて実施した。脱臭効果試験は、硫化水素、メチルメルカプタンおよびイソ吉草酸の3種の悪臭ガスのそれぞれについて、以下の方法によって行われた。以下に記載の単位「ppm」は、体積基準である。
検体として、実施例4の物品をにおい袋(ポリフッ化ビニル製)に入れ、ヒートシールを施して密閉した後、空気3Lを封入し、初期ガス濃度が設定したガス濃度になるように試験対象ガスを添加した。
室温下で、上記におい袋を静置し、経過時間ごとににおい袋内の試験対象ガスの濃度を、ガス検知管で測定した。対照品として、上記ガラス基板(被膜なし)を使用し、検体および対照品を使用しない空試験も併せて実施した。
その結果、検体として実施例4の物品を使用した試験では、表3に示すように、試験対象ガスとして硫化水素ガスを使用した場合、初期ガス濃度約20ppmであった硫化水素ガスが、経過時間24時間で8ppmの濃度(除去率60%)となった。
また、試験対象ガスとしてメチルメルカプタンガスを使用した場合、表4に示すように、初期ガス濃度約8.0ppmであったメチルメルカプタンガスが、経過時間24時間で2.1ppmの濃度(除去率74%)となった。
更に、試験対象ガスとしてイソ吉草酸ガスを使用した場合、表5に示すように、初期ガス濃度約15ppmであったイソ吉草酸ガスが、経過時間24時間で2.4ppmの濃度(除去率84%)となった。
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
以上の結果から、実施例4の物品は、対照品サンプルおよび空実験サンプルと比較して、各種悪臭ガスを有効に脱臭できたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の一態様にかかる物品は、医療機関、商業施設、公共施設、食品・医薬品工場、研究機関、介護現場、調理・飲食料品関連現場、交通機関等に設置される、抗菌性能および/または抗ウイルス性能が求められる各種物品として適用可能である。また、本発明の一態様にかかる物品は、脱臭材として使用することができる。