(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016570
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】排砂放水槽
(51)【国際特許分類】
E02B 5/08 20060101AFI20230126BHJP
E02B 3/00 20060101ALI20230126BHJP
E02B 9/04 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
E02B5/08 101A
E02B3/00
E02B9/04 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120976
(22)【出願日】2021-07-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】521324311
【氏名又は名称】新那須温泉供給株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】稲川 裕之
(57)【要約】
【課題】河川維持流量を安定させ,定期的な土砂の除去作業を不要とする。
【解決手段】排砂放水槽5は,底部11と,底部11と一体に形成されて底部11の周縁から立ち上がる壁部12~15とを備えている。壁部12には河川から取水された水を流入させる流入口12Aが形成され,壁部13には流入口から流入した水を導水管に向けて流出させる流出口13Aが形成されている。底部11には排砂放水口11Aがあけられており,この底部11には,上記排砂放水口11Aに向かって下向きに傾斜する傾斜面を備える傾斜部18,19が形成されている。排砂放水口は配管によって上記河川につなげられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部と,底部と一体に形成されて底部の周縁から立ち上がる壁部とを備え,河川から取水された水を流入させる流入口および上記流入口から流入する水を導水管に向けて流出させる流出口が形成されている排砂放水槽であって,
上記底部に排砂放水口があけられており,
上記底部に,上記排砂放水口に向かって下向きに傾斜する傾斜面が形成されている,
排砂放水槽。
【請求項2】
上記流入口と上記流出口の間に除砂スクリーンが設けられている,
請求項1に記載の排砂放水槽。
【請求項3】
上記排砂放水口を挟んで一対の除砂スクリーンが間隔をあけて設けられている,
請求項2に記載の排砂放水槽。
【請求項4】
上記除砂スクリーンの下端と上記底部との間に隙間が確保されている,
請求項2または3に記載の排砂放水槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は排砂放水槽,特に河川の水に含まれる砂を取り除き(排砂する)かつ取水した河川の水の一部を河川に戻すための排砂放水槽に関する。
【背景技術】
【0002】
河川の水を水路に導き,水力発電,上水道,農業用水に用いることが行われている。
【0003】
河川の水を取水する場合,環境変化を防止するために河川の流れをある程度維持する必要がある。従来では,河川の水を取り込む取水口の幅(開度)を調節することによって河川維持流量を確保することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
しかしながら,特に河川上流部における河川の流量は雨量によって大きく増減するので,上述したやり方では河川維持流量を安定して残し,発電等に十分な量の取水を行うことは難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は,河川維持流量を安定させることを目的とする。
【0007】
この発明はまた,定期的な土砂の除去作業を不要とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による排砂放水槽は,底部と,底部と一体に形成されて底部の周縁から立ち上がる壁部とを備え,河川から取水された水を流入させる流入口および上記流入口から流入する水を導水管に向けて流出させる流出口が形成されているものであって,上記底部に排砂放水口があけられており,上記底部に,上記排砂放水口に向かって下向きに傾斜する傾斜面が形成されているものである。
【0009】
流入口から流入する河川の水は排砂放水槽内に一時的に貯められて流出口から流出される。排砂放水槽内に一時的に貯められているときに,河川の水に浮遊する土砂が自重によって沈下する。流入口から流入したときに比べて土砂の少ない水が流出口から流出する。
【0010】
流出口から流出する水は導水管を通じて所望の施設等に送られる。
【0011】
この発明によると,底部に排砂放水口があけられているので,河川から取水された水は常時排砂放水口から放水される。排砂放水口を配管を通じて取水した河川につなげれば,排砂放水口から放水される水は元の河川に戻されるので,取水設備においては取水量(河川維持流量)に配慮することなく全量取水を行うことができる。排砂放水口から放水されなかった分の水が流出口から流出して各種施設に送られる。河川維持流量を安定して残すことができ,河川流域の自然環境の維持を図ることができる。
【0012】
また,この発明によると,底部に上記排砂放水口に向かって下向きに傾斜する傾斜面が形成されているので,水が流入口から流出口に至るまでの間に自重によって沈下した水中の土砂を排砂放水口から水と一緒に放水することができる。底部に土砂が溜まりにくく,したがって定期的な土砂の除去作業が不要となり,メインナンスが容易になる。
【0013】
一実施態様では,上記流入口と上記流出口の間に除砂スクリーンが設けられている。流入口から流出口に流れる水および流入口から排砂放水口に向けて流れる水に含まれる土砂を除砂スクリーンにおいて捕捉し,沈下させることができる。水に浮遊する多くの土砂を排砂放水口から排出させることができる。
【0014】
好ましくは,上記排砂放水口を挟んで一対の除砂スクリーンが間隔をあけて設けられている。より多くの土砂を除砂スクリーンによって捕捉することができ,排砂放水口から排出することができる。
【0015】
一実施態様では,上記除砂スクリーンの下端と上記底部との間に隙間が確保されている。除砂スクリーンによって捕捉され,その後に沈下した土砂を,排砂放水口にスムーズに送り込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】河川の水を利用する流れ込み式水力発電システムを概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は河川に沿って設置される流れ込み式水力発電システムを概略的に示している。
【0018】
流れ込み式水力発電システムは,河川の水を取水口から取り込み,水路を通じて送られる水の力を利用して発電するシステムである。比較的小規模の発電システムであり一般には本川1に流れ込む支川2に沿って設置される。
【0019】
流れ込み式水力発電システムは,河川の水を取り込む取水設備3,取り込まれた水に含まれる細かい砂を除去する排砂放水槽5,負荷変動に対応して流量を調節するヘッドタンク7,水車,発電機等を含む発電設備9を備えている。取水設備3からヘッドタンク7は導水管6によって結ばれる。ヘッドタンク7から発電設備9は圧力管8によって結ばれる。取水設備3において取り込まれた水によって発電設備9の水車が回転し,水車の回転軸の回転によって発電機が発電する。
【0020】
取水設備3は,既設の堰堤4に比較的近い堰堤4の上流側に設置される。堰堤4は,その上流側に砂礫を堆積させ,これによって河川勾配を緩やかにし,河川の侵食力を小さくすることを目的に設置される。堰堤4付近は河川幅が安定しており河川勾配も緩やかであることから取水設備3の設置に適している。取水設備3はたとえば堰堤4の高さとほぼ同じ距離をあけて堰堤4の上流側に設置される。
【0021】
図2は排砂放水槽5の斜視図を,
図3は
図2のIII-III線に沿う排砂放水槽5の縦断面図をそれぞれ示している。
【0022】
排砂放水槽5は,平面からみて長方形の薄い板状の底部11と,底部11の縁部から一体に立ち上がる4つの壁部12,13,14,15とを備えている。4つの壁部12~15のうち壁部12,13が底部11の短辺縁部から立ち上がり,壁部14,15が底部11の長辺縁部から立ち上がっている。底部11と壁部12~15とによって上方に開口する内部空間が形成される。排砂放水槽5の上方開口は運用時には蓋材71によって閉じられ(
図3参照,
図2では蓋材71の図示が省略されている),排砂放水槽5の内部への外部からの塵の進入が防止される。
【0023】
排砂放水槽5は,現場に型枠を施工し,型枠内にコンクリートを打設して固める場所打ちコンクリート製としてもよいし,工場において製造されるプレキャストコンクリート製であってもよい。コンクリートに限らず,金属製または樹脂製の排砂放水槽5を採用してもよい。蓋材71は典型的には金属製であるが,コンクリート製または木製であってもよい。
【0024】
壁部12,13のそれぞれに流入口12Aおよび流出口13Aがあけられており,さらに底部11に排砂放水口11Aがあけられている。流入口12A,流出口13A,排砂放水口11Aにはそれぞれ配管41,42,43の一端が接続されている。
【0025】
壁部12の流入口12Aに接続された配管41の他端は取水設備3の流出口に接続されており,取水設備3において取水された河川の水61が流入口12Aから排砂放水槽5内に流入する。排砂放水槽5内に一旦貯められた水61は,壁部13の流出口13Aに接続された配管42を通り,導水管6を経てヘッドタンク7に送られる。流入口12Aは必ずしも壁部12に形成する必要はなく,排砂放水槽5の上方開口を利用して上方開口から排砂放水槽5内に取水された水61を流し込んでもよい。
【0026】
図1を参照して,排砂放水槽5の底部11に形成された排砂放水口11Aに一端が接続された配管43の他端は,堰堤4の下流側の支川2に向けられている。
【0027】
流入口12A,流出口13Aの直径に比べて排砂放水口11Aの直径は小さいが,排砂放水口11Aは底部11に形成されているので,排砂放水槽5に流入した取水された水61は排砂放水口11Aから常時放水されて支川2に戻される。このため,取水設備3においては取水量(河川維持流量)を考慮せずに全量取水を行うことができる。排砂放水口11Aから放水されなかった水61が流出口13Aから排水され,発電に用いられる。必ず河川維持流量の水61が支川2に戻されるので,支川2の流域の自然環境の維持を図ることができる。
【0028】
図3を参照して,底部11にあけられた排砂放水口11Aはやや壁部12に近い箇所に形成されている。これは,排砂放水口11A及び後述のメッシュスクリーン31と流出口13Aとの間の距離を確保することによって,流出口13A付近の水61を安定させる(波立たせない)ためである。流出口13A付近の水61を安定させることによって,排砂放水槽5内の水61と一緒に空気が流出口13Aに取り込まれてしまうのを極力防止することができる。もっとも,排砂放水口11Aと流出口13Aとの間に所定の距離を確保することができれば,排砂放水口11Aは壁部12,13の中間位置に形成することもできる。
【0029】
排砂放水槽5にはさらに,流入口12Aと流出口13Aの間に,排砂放水口11Aを挟むようにして,2つのメッシュスクリーン(除砂スクリーン)31が壁部12,13とほぼ平行に互いに間隔をあけて設けられている。
【0030】
図2を参照して,排砂放水槽5の壁部14,15の内面に縦向きの溝14A,15Aが形成されており,溝14A,15Aにメッシュスクリーン31の外枠を差し込むことによってメッシュスクリーン31は壁部14,15間に張られる。排砂放水口11Aを挟むように壁部14の内面に間隔をあけて一対の溝14Aを形成し,壁部15にも同様にして排砂放水口11Aを挟むようにその内面に間隔をあけて一対の溝15Aを形成すれば,排砂放水口11Aを挟む位置に,一対のメッシュスクリーン31を互いに間隔をあけて固定することができる。
【0031】
壁部14,15に形成された溝14A,15Aは,壁部14,15の下端(底部11の内面に至る位置)までは形成されていない。このため,メッシュスクリーン31の外枠を溝14A,15Aに差し込むと,メッシュスクリーン31の下端は底部11の内面にまでは至らず,メッシュスクリーン31の下端と底部11との間に隙間33が確保される。
【0032】
メッシュスクリーン31は金属製のもので細かい網目を持つ。網目の開口率は河川ごとの土砂の質によって任意に決定することができる。メッシュスクリーン31によって,流入口12Aから流出口13Aに向けて流れる水61,および流入口12Aから排砂放水口11Aに向けて流れる水61に含まれる比較的細かい土砂62が捕捉される。なお,比較的大きな砂礫は取水設備3においてあらかじめ除去されるので,排砂放水槽5内に流れ込むことはない。
【0033】
底部11には,流入口12Aから流出口13Aに至るまでに自重によって沈下する土砂62が堆積し,さらにはメッシュスクリーン31によって捕捉される土砂62も沈下する。メッシュスクリーン31を設けることによって,水61に浮遊する多くの土砂62を沈下させ,底部11上に堆積させることができる。
【0034】
底部11の内面に,排砂放水口11Aに向けて傾斜面を形成する傾斜部18,19が形成されている。傾斜部18,19は排砂放水口11Aに向かうにしたがって高さが低くなるように形成される。壁部12,13の二方向から排砂放水口11Aに向かって低くなる形状で傾斜部18,19を形成してもよいし,壁部12~15の四方向から排砂放水口11Aに向かって低くなる形状を採用してもよい。もちろん滑らかなすり鉢状の形状を底部11の内面に形成してもよい。いずれにしても傾斜部18,19によって形成される傾斜面は,排砂放水口11Aに向かって下向きに傾斜する。
【0035】
底部11上(傾斜部18,19上)に堆積した土砂62は傾斜面に沿って排砂放水口11Aに向かって移動する。上述したように,メッシュスクリーン31と底部11との間に隙間33が確保されているので,底部11上に堆積した土砂62はメッシュスクリーン31によって捕捉されることはない。排砂放水口11Aに向かって集められた土砂62は水61と一緒に排砂放水口11Aから排出されて支川2に戻される。このように排砂放水槽5には土砂62が溜まりにくいので定期的な土砂62の除去作業が不要であり,メインテナンスが容易になる。
【符号の説明】
【0036】
1 本川
2 支川
5 排砂放水槽
6 導水管
11 底部
11A 排砂放水口
12,13,14,15 壁部
12A 流入口
13A 流出口
18,19 傾斜部
31 メッシュスクリーン(除砂スクリーン)
33 隙間
41,42,43 配管
【手続補正書】
【提出日】2022-08-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部と,底部と一体に形成されて底部の周縁から立ち上がる壁部とを備え,河川から取水された水を流入させる流入口および上記流入口から流入する水を導水管に向けて流出させる流出口が形成されている排砂放水槽であって,
上記底部に,配管によって上記河川につなげられ,上記流入口から排砂放水槽に流入する水および水に含まれる土砂を上記河川に常時放水する,上記流入口よりも小さい直径を持つ排砂放水口があけられており,
上記底部に,上記排砂放水口に向かって下向きに傾斜する傾斜面が形成されている,
排砂放水槽。
【請求項2】
上記流入口と上記流出口の間に除砂スクリーンが設けられている,
請求項1に記載の排砂放水槽。
【請求項3】
上記排砂放水口を挟んで一対の除砂スクリーンが間隔をあけて設けられている,
請求項2に記載の排砂放水槽。
【請求項4】
上記除砂スクリーンの下端と上記底部との間に隙間が確保されている,
請求項2または3に記載の排砂放水槽。