(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016574
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】アミロイドβの凝集阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/555 20060101AFI20230126BHJP
A61K 31/409 20060101ALI20230126BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
A61K31/555
A61K31/409
A61P25/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120987
(22)【出願日】2021-07-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・刊行物名「日本神経学会誌 第60巻別冊、2020年、60:S476、Pe-12-3」 発行日 令和2年8月7日 ・刊行物名「Current Alzheimer Research、2020年、第17巻、Issue 17、第589~600頁」 発行日 令和2年11月16日
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】長井 篤
(72)【発明者】
【氏名】池上 崇久
(72)【発明者】
【氏名】シエク アブドラ モハマド
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB04
4C086CB14
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA16
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】アミロイドβタンパク質の凝集を抑制することができる、新規なアミロイドβの凝集阻害剤を実現する。
【解決手段】特定の構造を有するフタロシアニン類、またはその塩を有効成分として含有する、アミロイドβの凝集阻害剤を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式1または式2にて表されるフタロシアニン類、またはその塩を有効成分として含有する、アミロイドβの凝集阻害剤:
【化1】
(式1において、
M
1は、任意の金属、または、ハロゲン化物イオン、カルボキシラート、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、若しくはカルボニル化合物を軸配位子として有する任意の金属であり;または、式1はM
1を含まず、
R
1は、各々独立して、非イオン性の置換基、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、かつ、R
1の少なくとも1つは、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基である)、
【化2】
(式2において、
M
2は、任意の金属、または、ハロゲン化物イオン、カルボキシラート、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、若しくはカルボニル化合物を軸配位子として有する、任意の金属であり;または、式2はM
2を含まず、
R
2は、各々独立して、非イオン性の置換基、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、かつ、R
2の少なくとも1つは、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、
但し、8つのR
2の全てが、下記の構造1または構造2
【化3】
【化4】
を含む、同一のアニオン性の置換基であることを除く)。
【請求項2】
前記カチオン性の置換基は、下記の構造を含むものである、請求項1に記載のアミロイドβの凝集阻害剤:
【化5】
【請求項3】
前記アニオン性の置換基は、下記の構造を含むものである、請求項1または2に記載のアミロイドβの凝集阻害剤:
【化6】
【請求項4】
前記双性の置換基は、下記の構造を含むものである、請求項1~3の何れか1項に記載のアミロイドβの凝集阻害剤:
【化7】
【請求項5】
前記M1またはM2を構成する金属は、Li、Na、K、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、または、Biである、請求項1~4の何れか1項に記載のアミロイドβの凝集阻害剤。
【請求項6】
前記塩は、Na+、H+、K+、NH4+、または、ハロゲン化物イオンの塩である、請求項1~5の何れか1項に記載のアミロイドβの凝集阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドβの凝集阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、不可逆的、かつ、進行性のある認知症の一種であって、高齢者が発症しやすい病気である。アルツハイマー病の患者数は非常に多く、アルツハイマー病の治療薬の開発に注目が集まっている。
【0003】
臨床現場にて使用されているアルツハイマー病の治療薬として、コリンエステラーゼ阻害剤(Aricept(特許文献1参照)、および、Reminyl等)を挙げることができる。コリンエステラーゼ阻害剤は、情報伝達物質であるアセチルコリンの分解を阻害することによって脳内のアセチルコリンの量を増やし、その結果、アルツハイマー病の症状の進行を遅らせる作用を有する。
【0004】
しかしながら、コリンエステラーゼ阻害剤は、アルツハイマー病の症状の進行を遅らせることは可能であるが、アルツハイマー病の発症メカニズム自体に作用するものではないため、アルツハイマー病の根本的な治療薬とはなりえない。それ故に、アルツハイマー病の発症メカニズムの解明、および、当該発症メカニズムに基づく薬剤の開発が進められている。
【0005】
臨床研究により、アミロイドβタンパク質は単体では無害であるが、アミロイドβタンパク質が凝集することによって形成されるアミロイド原線維が、脳内の神経細胞を死滅させ、その結果、アルツハイマー病を発症させることが明らかとなっている。アミロイドβタンパク質の凝集がアルツハイマー病の発症にとって重要であるとする「アミロイド仮説」こそが、現在、アルツハイマー病の発症メカニズムを説明する、重要な仮説となっている。
【0006】
これまでに、アミロイド仮説に基づいて、アミロイドβタンパク質の産生を防ぐ薬剤、および、アミロイドβタンパク質を除去する薬剤などが開発され、臨床試験されてきた。このような薬剤として、例えば、R-Flurbiprofen、LY2811376、H2NCH2CH2CH2SO3H、Tramiprosate、および、semagacestatを挙げることができる(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1-79151号公報
【特許文献2】WO02/40451A2号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のアミロイド仮説に基づく薬剤は、アルツハイマー病の症状の進行を抑制する効果が小さい、および/または、他の疾患のリスクを上昇させることが、臨床試験段階の疫学調査によって、統計的に示されている。さらに、当該薬剤の中には、正常なアミロイドβタンパク質の働きを阻害する薬剤も存在するというデータも示されている。それ故に、アミロイド仮説に基づく新たな薬剤の開発が求められている。
【0009】
本発明の一態様は、アミロイドβタンパク質の凝集を抑制することができる、新規なアミロイドβの凝集阻害剤を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔1〕本発明の一態様に係るアミロイドβの凝集阻害剤は、下記の式1または式2にて表されるフタロシアニン類、またはその塩を有効成分として含有している:
【0011】
【0012】
(式1において、
M1は、任意の金属、または、ハロゲン化物イオン、カルボキシラート、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、若しくはカルボニル化合物を軸配位子として有する任意の金属であり;または、式1はM1を含まず、
R1は、各々独立して、非イオン性の置換基、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、かつ、R1の少なくとも1つは、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基である)、
【0013】
【0014】
(式2において、
M2は、任意の金属、または、ハロゲン化物イオン、カルボキシラート、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、若しくはカルボニル化合物を軸配位子として有する、任意の金属であり;または、式2はM2を含まず、
R2は、各々独立して、非イオン性の置換基、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、かつ、R2の少なくとも1つは、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、
但し、8つのR2の全てが、下記の構造1または構造2
【0015】
【0016】
【0017】
を含む、同一のアニオン性の置換基であることを除く)。
【0018】
〔2〕本発明の一態様に係るアミロイドβの凝集阻害剤では、前記カチオン性の置換基は、下記の構造を含むものであることが好ましい:
【0019】
【0020】
〔3〕本発明の一態様に係るアミロイドβの凝集阻害剤では、前記アニオン性の置換基は、下記の構造を含むものであることが好ましい:
【0021】
【0022】
〔4〕本発明の一態様に係るアミロイドβの凝集阻害剤では、前記双性の置換基は、下記の構造を含むものであることが好ましい:
【0023】
【0024】
〔5〕本発明の一態様に係るアミロイドβの凝集阻害剤では、前記M1またはM2を構成する金属は、Li、Na、K、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、または、Biであることが好ましい。
【0025】
〔6〕本発明の一態様に係るアミロイドβの凝集阻害剤では、前記塩は、Na+、H+、K+、NH4+、または、ハロゲン化物イオンの塩であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様によれば、アミロイドβタンパク質の凝集を抑制することができる、新規なアミロイドβの凝集阻害剤を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施例に係る化合物(1)のアミロイドβタンパク質の凝集阻害能を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施例に係る化合物(2)のアミロイドβタンパク質の凝集阻害能を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例に係る化合物(3)のアミロイドβタンパク質の凝集阻害能を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例に係る化合物(4)のアミロイドβタンパク質の凝集阻害能を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例に係る化合物(5)のアミロイドβタンパク質の凝集阻害能を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施例に係る化合物(6)のアミロイドβタンパク質の凝集阻害能を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施例に係る化合物のアミロイドβタンパク質の凝集阻害能の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
【0029】
〔1.アミロイドβの凝集阻害剤の概要〕
本発明の一実施形態に係るアミロイドβ(アミロイドβタンパク質)の凝集阻害剤は、アルツハイマー病の治療薬、または、アルツハイマー病の予防薬として用い得る。
【0030】
本明細書において「治療薬」とは、治療効果をもたらす薬剤を意図する。当該治療効果とは、以下に例示される効果を意図するが、これらに限定されるものではない。
【0031】
(1)治療薬を投与しなかった場合と比較して、治療薬を投与した場合には、アルツハイマー病に係る1つ以上の症状の重症度を低減する。
【0032】
(2)治療薬を投与しなかった場合と比較して、治療薬を投与した場合には、アルツハイマー病に係る1つ以上の症状の重症度の増加、または、重症度の進行を防止する。
【0033】
(3)治療薬を投与しなかった場合と比較して、治療薬を投与した場合には、アルツハイマー病に係る1つ以上の症状の重症度の増加速度、または、重症度の進行速度を低減する。
【0034】
本明細書において「予防薬」とは、予防効果をもたらす薬剤を意図する。当該予防効果とは、以下に例示される効果を意図するが、これらに限定されるものではない。
【0035】
(4)予防薬を投与しなかった場合と比較して、予防薬を投与した場合には、アルツハイマー病に係る1つ以上の症状の発症を防止する、または、発症のリスクを低減する。
【0036】
(5)予防薬を投与しなかった場合と比較して、予防薬を投与した場合には、アルツハイマー病に係る1つ以上の症状の再発を防止する、または、再発のリスクを低減する。
【0037】
(6)予防薬を投与しなかった場合と比較して、予防薬を投与した場合には、アルツハイマー病に係る1つ以上の症状の兆候が生じることを防止する、または、兆候が生じるリスクを低減する。
【0038】
〔2.アミロイドβの凝集阻害剤〕
本発明の一実施形態に係るアミロイドβの凝集阻害剤は、下記の式1または式2にて表されるフタロシアニン類、またはその塩を有効成分として含有する:
【0039】
【0040】
(式1において、
M1は、任意の金属、または、ハロゲン化物イオン、カルボキシラート、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、若しくはカルボニル化合物を軸配位子として有する任意の金属であり;または、式1はM1を含まず、
R1は、各々独立して、非イオン性の置換基、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、かつ、R1の少なくとも1つは、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基である)、
【0041】
【0042】
(式2において、
M2は、任意の金属、または、ハロゲン化物イオン、カルボキシラート、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、若しくはカルボニル化合物を軸配位子として有する、任意の金属であり;または、式2はM2を含まず、
R2は、各々独立して、非イオン性の置換基、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、かつ、R2の少なくとも1つは、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、
但し、8つのR2の全てが、下記の構造1または構造2
【0043】
【0044】
【0045】
を含む、同一のアニオン性の置換基であることを除く)。
【0046】
(2-1.フタロシアニン類またはその塩)
フタロシアニンは、18π電子系を有する環状化合物である。フタロシアニンの環の中心には、様々な金属、または、金属イオンが挿入され得る。環の中心に金属または金属イオンが挿入されることによって、フタロシアニンは、安定性の高い平面型錯体となり得る。
【0047】
式1および式2において、M1およびM2は、任意の金属、または、ハロゲン化物イオン、カルボキシラート、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、若しくはカルボニル化合物を軸配位子として有する任意の金属であり得る。式1および式2にて表されるフタロシアニン類およびその塩は、M1およびM2を含まなくてもよい。式1および式2にて表されるフタロシアニン類およびその塩が、M1およびM2を含む場合、当該フタロシアニン類およびその塩は、安定性の高い平面型錯体となり得る。
【0048】
前記M1またはM2を構成する金属は、Li、Na、K、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、または、Biであることが好ましい。当該構成によれば、アミロイドβの凝集阻害効果を得ることができる。アミロイドβの凝集阻害効果をより高く得るという観点からは、前記M1およびM2を構成する金属は、上述した金属のうち、ZnまたはPdが好ましく、Feがより好ましい。
【0049】
前記M1およびM2を構成する金属は、ハロゲン化物イオン、カルボキシラート、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、若しくはカルボニル化合物を軸配位子として有する任意の金属であり得る。なお、軸配位子とは、フタロシアニン類を構成する原子の配置箇所を繋いだ平面に対して上側および/または下側に配置される配位子であって、前記フタロシアニンの環の中心に挿入されている金属に対して配位している配位子のことである。アミロイドβの凝集阻害効果をより高く得るという観点からは、これら6つの軸配位子の中では、アセチルアセトナートまたはカルボニル化合物が好ましく、ハロゲン化物イオンがより好ましい。
【0050】
前記ハロゲン化物イオン(F-、Cl-、Br-、I-、At-)としては、限定されないが、アミロイドβの凝集阻害効果をより高く得るという観点からは、Br-またはI-が好ましく、Cl-がより好ましい。
【0051】
前記カルボニル化合物としては、限定されず、例えば、アルデヒド、カルボン酸、エステル、および、アミドを挙げることができる。アミロイドβの凝集阻害効果をより高く得るという観点からは、これらのカルボニル化合物の中では、アミドまたはアルデヒドが好ましく、カルボン酸がより好ましい。
【0052】
式1および式2において、R1およびR2は、各々独立して、非イオン性の置換基、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり得、かつ、R1およびR2の少なくとも1つ(または、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、または、8つ)は、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり得る。
【0053】
アミロイドβの凝集阻害効果を高く得るという観点、および/または、フタロシアニン類およびその塩を容易に合成または入手するという観点からは、式1および式2において、R1およびR2の4つ、または、8つがカチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であることが好ましい。
【0054】
式1および式2では、4つの6員環の各々に対して、2つのR1およびR2が結合している。式1および式2において、少なくとも4つのR1およびR2がカチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基である場合、4つの6員環の各々に対して、少なくとも1つのカチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基が結合していることが好ましい。更に、4つの6員環の各々に対して、少なくとも1つのカチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基が結合している場合、4つの6員環の同じ位置に配置されている炭素原子に対して、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基が結合していることが好ましい。より具体的に、4つの6員環の各々に対して、少なくとも1つのカチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基が結合している場合、R1またはR2を包含する4つの6員環の構造は同じ構造であることが好ましい。当該構成であれば、アミロイドβの凝集阻害効果が高いアミロイドβの凝集阻害剤を実現することができる、および/または、フタロシアニン類およびその塩を容易に合成または入手することができる、という観点において有利である。
【0055】
前記非イオン性の置換基は、電荷をもたない置換基を意図する。当該非イオン性の置換基は、特に限定されず、H、ポリエチレングリコール、および、クラウンエーテルを挙げることができる。脳細胞膜への親和性という利点を有するという観点から、これらの非イオン性の置換基の中では、ポリエチレングリコール、および、クラウンエーテルが好ましい。
【0056】
前記カチオン性の置換基は、プラスの電荷(例えば、N+)をもつ置換基を意図する。本発明の一実施形態に係るカチオン性の置換基は、特に限定されないが、下記の構造を含む置換基であることが好ましい。当該構成であれば、アミロイドβの凝集阻害効果が高いアミロイドβの凝集阻害剤を実現することができる。
【0057】
【0058】
本発明の一実施形態に係るカチオン性の置換基は、上記の構造を含む置換基であり得るが、他の構造(例えば、上記の構造の左側・波線箇所に相当する構造)として、O、S、または、Seを含んでいることが好ましい。当該構成であれば、カチオン性の置換基を容易にフタロシアニン類に結合させることができる。
【0059】
前記アニオン性の置換基は、マイナスの電荷(例えば、O-)を有する置換基を意図する。本発明の一実施形態に係るアニオン性の置換基は、特に限定されないが、下記の構造を含む置換基であることが好ましい。当該構成であれば、アミロイドβの凝集阻害効果が高いアミロイドβの凝集阻害剤を実現することができる。
【0060】
【0061】
本発明の一実施形態に係るアニオン性の置換基は、上記の構造を含む置換基であり得るが、他の構造(例えば、上記の構造の左側・波線箇所に相当する構造)として、O、S、または、Seを含んでいることが好ましい。当該構成であれば、アニオン性の置換基を容易にフタロシアニン類に結合させることができる。
【0062】
前記双性の置換基は、プラスの電荷(例えば、N+)、および、マイナスの電荷(例えば、O-)の両方を有する置換基を意図する。当該構成であれば、アミロイドβの凝集阻害効果が高いアミロイドβの凝集阻害剤を実現することができる。本発明の一実施形態に係る双性の置換基は、特に限定されないが、下記の構造を含む置換基であることが好ましい。
【0063】
【0064】
本発明の一実施形態に係る双性の置換基は、上記の構造を含む置換基であり得るが、他の構造(例えば、上記の構造の左側・波線箇所に相当する構造)として、O、S、または、Seを含んでいることが好ましい。当該構成であれば、双性の置換基を容易にフタロシアニン類に結合させることができる。
【0065】
本発明の一実施形態に係るフタロシアニンは、塩として存在し得る。前記塩は、特に限定されないが、Na+、H+、K+、NH4+、または、ハロゲン化物イオン(F-、Cl-、Br-、I-、At-)の塩であることが好ましい。当該構成であれば、アミロイドβの凝集阻害効果が高いアミロイドβの凝集阻害剤を実現することができる。
【0066】
本発明の一実施形態に係るアミロイドβの凝集阻害剤における有効成分の量は、特に限定されず、例えば、アミロイドβの凝集阻害剤に対して、0.001重量%~100重量%であってもよく、0.01重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~95重量%であってもよく、0.1重量%~90重量%であってもよく、0.1重量%~80重量%であってもよく、0.1重量%~70重量%であってもよく、0.1重量%~60重量%であってもよく、0.1重量%~50重量%であってもよく、0.1重量%~40重量%であってもよく、0.1重量%~30重量%であってもよく、0.1重量%~20重量%であってもよく、0.1重量%~10重量%であってもよい。
【0067】
前記アミロイドβの凝集阻害剤は、アミロイドβの凝集阻害能を阻害しない成分であれば、上述したフタロシアニン類またはその塩とは異なる成分を含んでいてもよい。
【0068】
前記異なる成分として、緩衝剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、等張化剤、高分子量重合体、賦形剤、単体、希釈剤、溶媒、可溶化剤、安定剤、充填剤、結合剤および界面活性剤などを挙げることができる。
【0069】
前記緩衝剤の例としては、リン酸、リン酸塩、ホウ酸、ホウ酸塩、クエン酸、クエン酸塩、酢酸、酢酸塩、炭酸、炭酸塩、酒石酸、酒石酸塩、ε‐アミノカプロン酸、およびトロメタモールなどが挙げられる。前記リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムなどが挙げられる。前記ホウ酸塩としては、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、およびホウ酸カリウムなどが挙げられる。前記クエン酸塩としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、およびクエン酸三ナトリウムなどが挙げられる。前記酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、および酢酸カリウムなどが挙げられる。前記炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、および炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。前記酒石酸塩としては、酒石酸ナトリウム、および酒石酸カリウムなどが挙げられる。
【0070】
前記pH調整剤の例としては、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0071】
前記等張化剤の例としては、イオン性等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、および、塩化マグネシウムなど)、および、非イオン性等張化剤(グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、および、マンニトールなど)が挙げられる。
【0072】
前記防腐剤の例としては、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム臭化物、ベンゼトニウム塩化物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、および、クロロブタノールなどが挙げられる。
【0073】
前記抗酸化剤の例としては、アスコルビン酸、トコフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、および、亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0074】
前記高分子量重合体の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、および、アテロコラーゲンなどが挙げられる。
【0075】
本発明の一実施形態に係るアミロイドβの凝集阻害剤における有効成分以外の成分の量は、特に限定されず、例えば、アミロイドβの凝集阻害剤に対して、0重量%~99.999重量%であってもよく、0重量%~99.99重量%であってもよく、0重量%~99.9重量%であってもよく、5重量%~99.9重量%であってもよく、10重量%~99.9重量%であってもよく、20重量%~99.9重量%であってもよく、30重量%~99.9重量%であってもよく、40重量%~99.9重量%であってもよく、50重量%~99.9重量%であってもよく、60重量%~99.9重量%であってもよく、70重量%~99.9重量%であってもよく、80重量%~99.9重量%であってもよく、90重量%~99.9重量%であってもよい。
【0076】
本発明の一実施形態に係るアミロイドβの凝集阻害剤によれば、アルツハイマー病の脅威の低減に繋がる。これにより、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
【0077】
本発明の一実施形態に係るアミロイドβの凝集阻害剤は、市販の有効成分を用いて製造することができる。本発明の一実施形態に係るアミロイドβの凝集阻害剤は、有効成分を合成した上で、合成した有効成分を用いて製造することもできる。有効成分を合成する場合には、「S. Tabassum, A. Nagai, et al. FEBS J, 2015, 282, 463-476.」、および、「R.Fujishiro, T. Ikeue, et al. J. InorgBiochem, 2019, 192, 7-16.」等に記載の方法にしたがって、有効成分を合成すればよい。
【0078】
〔3.その他〕
本発明は、以下のように構成することもできる:
<1>下記の式1または式2にて表されるフタロシアニン類、またはその塩を有効成分として含有するアミロイドβの凝集阻害剤を被験体(例えば、ヒト、または、非ヒト動物)に投与する工程を有する、アミロイドβの凝集阻害方法:
【0079】
【0080】
(式1において、
M1は、任意の金属、または、ハロゲン化物イオン、カルボキシラート、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、若しくはカルボニル化合物を軸配位子として有する任意の金属であり;または、式1はM1を含まず、
R1は、各々独立して、非イオン性の置換基、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、かつ、R1の少なくとも1つは、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基である)、
【0081】
【0082】
(式2において、
M2は、任意の金属、または、ハロゲン化物イオン、カルボキシラート、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、若しくはカルボニル化合物を軸配位子として有する、任意の金属であり;または、式2はM2を含まず、
R2は、各々独立して、非イオン性の置換基、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、かつ、R2の少なくとも1つは、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、
但し、8つのR2の全てが、下記の構造1または構造2
【0083】
【0084】
【0085】
を含む、同一のアニオン性の置換基であることを除く)。
【0086】
<2>前記カチオン性の置換基は、下記の構造を含むものである、<1>に記載のアミロイドβの凝集阻害方法:
【0087】
【0088】
<3>前記アニオン性の置換基は、下記の構造を含むものである、請求項1または2に記載のアミロイドβの凝集阻害方法:
【0089】
【0090】
<4>前記双性の置換基は、下記の構造を含むものである、<1>~<3>の何れかに記載のアミロイドβの凝集阻害方法:
【0091】
【0092】
<5>前記M1またはM2を構成する金属は、Li、Na、K、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、または、Biである、<1>~<4>の何れかに記載のアミロイドβの凝集阻害方法。
【0093】
<6>前記塩は、Na+、H+、K+、NH4+、または、ハロゲン化物イオンの塩である、<1>~<5>の何れか1項に記載のアミロイドβの凝集阻害方法。
【0094】
上述したアミロイドβの凝集阻害方法は、アルツハイマー病の治療方法、または、アルツハイマー病の予防方法であり得る。
【0095】
本発明は、以下のように構成することもできる:
<7>アミロイドβの凝集阻害剤を製造するための、下記の式1または式2にて表されるフタロシアニン類、またはその塩の使用:
【0096】
【0097】
(式1において、
M1は、任意の金属、または、ハロゲン化物イオン、カルボキシラート、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、若しくはカルボニル化合物を軸配位子として有する任意の金属であり;または、式1はM1を含まず、
R1は、各々独立して、非イオン性の置換基、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、かつ、R1の少なくとも1つは、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基である)、
【0098】
【0099】
(式2において、
M2は、任意の金属、または、ハロゲン化物イオン、カルボキシラート、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、若しくはカルボニル化合物を軸配位子として有する、任意の金属であり;または、式2はM2を含まず、
R2は、各々独立して、非イオン性の置換基、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、かつ、R2の少なくとも1つは、カチオン性の置換基、アニオン性の置換基、または、双性の置換基であり、
但し、8つのR2の全てが、下記の構造1または構造2
【0100】
【0101】
【0102】
を含む、同一のアニオン性の置換基であることを除く)。
【0103】
<8>前記カチオン性の置換基は、下記の構造を含むものである、<7>に記載の使用:
【0104】
【0105】
<9>前記アニオン性の置換基は、下記の構造を含むものである、<7>または<8>に記載の使用:
【0106】
【0107】
<10>前記双性の置換基は、下記の構造を含むものである、<7>~<9>の何れかに記載の使用:
【0108】
【0109】
<11>前記M1またはM2を構成する金属は、Li、Na、K、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、または、Biである、<7>~<10>の何れかに記載の使用。
【0110】
<12>前記塩は、Na+、H+、K+、NH4+、または、ハロゲン化物イオンの塩である、<7>~<11>の何れかに記載の使用。
【実施例0111】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定
されるものではない。
【0112】
〔化合物の合成〕
(i)化合物(1)の合成
化合物(1)は、以下の合成スキームに従って合成した。
【0113】
【0114】
3-Nitrophthalonitrile(0.82g、4.7mmol)、5-Hydroxy-2-methylpyridine(1.0g、9.2mmol)を含むDMF溶液(10mL)を、K2CO3(2.00g)の存在下、65℃で48時間加熱撹拌させた。反応物を氷水に添加し、白色の沈殿物を得た。当該沈殿物を、CHCl3を用いて有機層を抽出した。得られた溶液を減圧濃縮した後、貧溶媒としてジエチルエーテルを用いて再結晶を行い、白色固体(I-1)(0.47g、42%)を得た。
得られた化合物(I-1)(0.41g、1.74mmol)をn-pentanol溶液(10mL)へと加え、Zn(OAc)2・2H2O(0.11g、0.50mmol)と混合させた。さらに、DBUを4滴、混合物中に加え、145℃で24時間加熱攪拌させた。反応物を氷水に添加し、緑色の沈殿物を得た。当該沈殿物を、CHCl3を用いて有機層を抽出した。得られた溶液を減圧濃縮した後、ジエチルエーテルを用いて再結晶を行い、緑色固体(II-1)を得た(0.30g、90%)。得られた化合物(II-1)(0.1g、0.01mmol)を含むCH3I溶液(5.0mL)を、40℃で24時間加熱攪拌させた。得られた溶液を減圧濃縮した後、アセトンを用いて再結晶を行い緑色固体(III-1)の目的物を得た(0.13g、80%)。
元素分析(C60H48I4N12O4Zn・2H2O):Found=C:44.58%,H:3.47%,N:10.25%,
Calcd.=C:44.81%,H:3.26%,N:10.45%.
吸収スペクトル:UV-vis (DMSO):λmax(ε/mol-1dm3cm-1)=326(2.3×104),382(1.8×104),620(1.3×104),660(1.3×104,sh),689nm(8.4×104)
(ii)化合物(2)の合成
化合物(2)は、以下の合成スキームに従って合成した。
【0115】
【0116】
3-Nitrophthalonitrile(0.82g、4.7mmol)、5-Hydroxy-2-methylpyridine(1.0g、9.2mmol)を含むDMF溶液(10mL)を、K2CO3(2.00g)の存在下、65℃で48時間加熱撹拌させた。反応物を氷水に添加し、白色の沈殿物を得た。当該沈殿物を、CHCl3を用いて有機層を抽出した。得られた溶液を減圧濃縮した後、貧溶媒としてジエチルエーテルを用いて再結晶を行い、白色固体(I-1)(0.47g、42%)を得た。
得られた化合物(I-1)(0.41g、1.74mmol)をn-pentanol溶液(10mL)へと加え、GaCl anhydrous(0.11g、0.62mmol)と混合させた。さらに、DBUを4滴、混合物中に加え、145℃で24時間加熱攪拌させた。反応物を氷水に添加し、緑色の沈殿物を得た。当該沈殿物を、CHCl3を用いて有機層を抽出した。得られた溶液を減圧濃縮した後、ジエチルエーテルを用いて再結晶を行い、緑色固体(II-2)を得た(0.37g、81%)。
得られた化合物(II-2)(0.1g、0.01mmol)を含むCH3I溶液(5.0mL)を、40℃で24時間加熱攪拌させた。得られた溶液を減圧濃縮した後、アセトンを用いて再結晶を行い緑色固体(III-2)の目的物を得た(0.13g、84%)。
元素分析(C60H48I4N12O4GaCl・H2O):Found=C:44.38%,H:3.15%,N:10.52%,
Calcd.=C:44.16%,H:3.09%,N:10.36%.
吸収スペクトル:UV-vis (DMSO):λmax(ε/mol-1dm3cm-1)=326(2.3×104),382(1.8×104),620(1.3×104),660(1.3×104,sh),689nm(8.4×104)
(iii)化合物(3)の合成
化合物(3)は、以下の合成スキームに従って合成した。
【0117】
【0118】
3-Nitrophthalonitrile(0.82g、4.7mmol)、5-Hydroxy-2-methylpyridine(1.0g、9.2mmol)を含むDMF溶液(10mL)を、K2CO3(2.00g)の存在下、65℃で48時間加熱撹拌させた。反応物を氷水に添加し、白色の沈殿物を得た。当該沈殿物を、CHCl3を用いて有機層を抽出した。得られた溶液を減圧濃縮した後、貧溶媒としてジエチルエーテルを用いて再結晶を行い、白色固体(I-1)(0.47g、42%)を得た。
得られた化合物(I-1)(0.28g、1.2mmol)をn-pentanol溶液(10mL)へと加え、PdCl(II)(0.07g、0.40mmol)と混合させた。さらに、DBUを4滴、混合物中に加え、145℃で24時間加熱攪拌させた。反応物を氷水に添加し、緑色の沈殿物を得た。当該沈殿物を、CHCl3を用いて有機層を抽出した。得られた溶液を減圧濃縮した後、ジエチルエーテルを用いて再結晶を行い、緑色固体(II-3)の目的物を得た(0.30g、95%)。
得られた化合物(II-3)(0.1g、0.01mmol)を含むCH3I溶液(5.0mL)を、40℃で24時間加熱攪拌させた。得られた溶液を減圧濃縮した後、アセトンを用いて再結晶を行い緑色固体(III-3)の目的物を得た(0.13g、80%)。
元素分析(C60H48I4N12O4Pd・3H2O):Found=C:43.48%,H:3.25%,N:9.98%,
Calcd.=C:43.17%,H:3.26%,N:10.07%.
吸収スペクトル:λmax= UV-vis (DMSO):λmax(ε/mol-1dm3cm-1)=337(3.0×104),607(2.3×104),675nm(1.0×105)
(iv)化合物(4)の合成
化合物(4)は、以下の合成スキームに従って合成した。
【0119】
【0120】
3-Nitrophthalonitrile(0.82g、4.7mmol)、5-Hydroxy-2-methylpyridine(1.0g、9.2mmol)を含むDMF溶液(10mL)を、K2CO3(2.00g)の存在下、65℃で48時間加熱撹拌させた。反応物を氷水に添加し、白色の沈殿物を得た。当該沈殿物を、CHCl3を用いて有機層を抽出した。得られた溶液を減圧濃縮した後、貧溶媒としてジエチルエーテルを用いて再結晶を行い、白色固体(I-1)(0.47g、42%)を得た。
得られた化合物(I-1)(0.20g、0.85mmol)をn-pentanol溶液(10mL)へと加え、Cu(OAc)・H2O(0.11g、0.60mmol)と混合させた。さらに、DBUを4滴、混合物中に加え、145℃で24時間加熱攪拌させた。反応物を氷水に添加し、緑色の沈殿物を得た。当該沈殿物を、CHCl3を用いて有機層を抽出した。得られた溶液を減圧濃縮した後、ジエチルエーテルを用いて再結晶を行い、緑色固体(II-4)を得た(0.19g、86%)。
得られた化合物(II-4)(0.1g、0.01mmol)を含むCH3I溶液(5.0mL)を、40℃で24時間加熱攪拌させた。得られた溶液を減圧濃縮した後、アセトンを用いて再結晶を行い緑色固体(III-4)の目的物を得た(0.13g、83%)。
元素分析(C60H48I4N12O4Cu・2H2O):Found=C:44.58%,H:3.47%,N:10.25%,
Calcd.=C:44.81%,H:3.26%,N:10.45%.
吸収スペクトル:UV-vis (DMSO):λmax(ε/mol-1dm3cm-1)=326(2.3×104),338(4.0×104),618(2.9×104),658(2.8×104,sh),695nm(1.3×105)
(v)化合物(5)の合成
化合物(5)は、以下の合成スキームに従って合成した。
【0121】
【0122】
3-Nitrophthalonitrile(0.83g、4.7mmol)、p-ヒドロキシ安息香酸プロピル(1.0g、5.6mmol)を含むDMF溶液(10mL)を、K2CO3(2.00g)の存在下、65℃で48時間加熱撹拌させた。反応物を氷水に添加し、白色の沈殿物を得た。当該沈殿物を、CHCl3を用いて有機層を抽出した。得られた溶液を減圧濃縮した後、貧溶媒としてメタノールを用いて再結晶を行い、白色固体(I-2)(1.1g、78%)を得た。
得られた化合物(I-2)(0.31g、0.1mol)をn-pentanol溶液(10mL)へと加え、Zn(OAc)2・2H2O(0.21g、0.1mmol)と混合させた。さらに、DBUを4滴、混合物中に加え、145℃で24時間加熱攪拌させた。減圧濃縮した後、展開溶媒(CHCl3/MeOH = 95/5)を用いてシリカゲルカラムを用いて精製した。得られた溶液を減圧濃縮した後、貧溶媒としてヘキサンを用いて再結晶を行い、緑色固体(II-5)(0.31g、97%)を得た。
得られた化合物(II-5)(0.31g、0.2mmol)をTHF(2mL)へと加え、飽和水酸化ナトリウム水溶液(6mL)と混合させ、40℃で4時間加熱攪拌させた。得られた溶液を減圧濃縮した後、貧溶媒としてアセトンを用いて再結晶を行い緑色固体(III-5)(0.27g、98%)の目的物を得た。
元素分析(C60H48I4N12O4Zn・2H2O):Found=C:44.58%,H:3.47%,N:10.25%,
Calcd.=C:44.81%,H:3.26%,N:10.45%.
吸収スペクトル:UV-vis (DMSO):λmax(ε/mol-1dm3cm-1)=330(3.3×103),625(2.7×103),694nm(1.5×104)
(vi)化合物(6)の合成
【0123】
【0124】
4,5-dichlorophthalonitrile(0.9g、4.6mmol)、5-Hydroxy-2-methylpyridine(1.0g、9.2mmol)を含むDMF溶液(10mL)を、K2CO3(2.00g)の存在下、65℃で48時間加熱撹拌させた。反応物を氷水に添加し、白色の沈殿物を得た。当該沈殿物を、CHCl3を用いて有機層を抽出した。得られた溶液を減圧濃縮した後、貧溶媒としてジエチルエーテルを用いて再結晶を行い、白色固体(I-3)(0.8g、51%)を得た。
得られた化合物(I-3)(0.1g、0.43mmol)をn-pentanol溶液(10mL)へと加え、GaCl anhydrous(0.02g、0.09mmol)と混合させた。さらに、DBUを4滴、混合物中に加え、145℃で24時間加熱攪拌させた。反応物を氷水に添加し、緑色の沈殿物を得た。当該沈殿物を、CHCl3を用いて有機層を抽出した。得られた溶液を減圧濃縮した後、ジエチルエーテルを用いて再結晶を行い、得られた溶液を減圧濃縮した後、緑色固体(II-6)を得た。
得られた化合物(II-6)(0.11g、0.07mmol)を含むCH3I溶液(5.0mL)を、40℃で24時間加熱攪拌させた。得られた溶液を減圧濃縮した後、アセトンを用いて再結晶を行い緑色固体(III-6)の目的物を得た(0.15g、77%)。
吸収スペクトル:UV-vis (H2O):λmax(ε/mol-1dm3cm-1)=359(8.5×104),612(3.2×104),652(3.2×104,sh),679nm(2.1×105)
1H NMR(D2O):δ=9.37,8.91,8.40,7.95,4.19,2.76(ppm)
元素分析(C60H84I4N16O8GaCl・H2O):Found=C:39.88%,H:3.25%,N:8.29%,
Calcd.=C:39.94%,H:3.20%,N:8.47%.
なお、当該化合物(6)の合成法は、「R.Fujishiro, T. Ikeue, et al. J. InorgBiochem, 2019, 192, 7-16.」中にも記載されている。
【0125】
(vii)化合物「ZnPc(COONa)8」の合成
【0126】
【0127】
当該化合物「ZnPc(COONa)8」は、文献「S. Tabassum, A. Nagai, et al. FEBS J, 2015, 282, 463-476.」に基づいて合成した。
【0128】
(viii)化合物「ZnPc(COONa)16」の合成
【0129】
【0130】
当該化合物「ZnPc(COONa)16」は、文献「S. Tabassum, A. Nagai, et al. FEBS J, 2015, 282, 463-476.」に基づいて合成した。
【0131】
〔化合物の評価〕
(アミロイドβ凝集阻害検討実験)
アミロイドβタンパク質(ヒト、1-42)は、株式会社ペプチド研究所製のものを使用した。当該アミロイドβタンパク質は、250μMになるよう0.1%NH3水溶液に溶解させた後、迅速に等分配して、-70℃で保管した。
【0132】
フタロシアニンは光触媒能を有していることから、以下の実験は、すべて暗条件下で行った。まず、フタロシアニン類、または、その塩を含む水溶液(0、1.25、5、10、20μM)を作製した。前記で合成したアミロイドβタンパク質溶液を、様々な濃度のフタロシアニン類、または、その塩を含む、原線維合成緩衝液(50mMリン酸緩衝液、pH7.5、100mM塩化ナトリウム)に対して添加した。対照実験としては、当該アミロイドβ溶液を、フタロシアニン類およびその塩を含まない、原線維合成緩衝液に対して、添加した。反応混合物を、撹拌させることなく37℃で24時間培養した後、試料を迅速に凍結させることにより、反応を停止させた。
【0133】
試料中のアミロイドβ原線維の量を、蛍光剤チオフラビンT(ThT、富士フイルム和光純薬工業製)の蛍光スペクトルによって定量した。ThTは、単量体のアミロイドβに対しては蛍光を示さない一方で、アミロイドβ凝集体に対して、強い蛍光を発する物質である。
【0134】
試料は、グリシン(pH8.5)を用いて、グリシンの濃度が最終的に50mMになるまで10倍に薄めた。蛍光スペクトルは、励起波長446nm、発光波長490nmとして、F2500分光蛍光計(日立)を用いて測定した。アミロイドβを有する試料のThT蛍光強度は、緩衝液のみで測定した蛍光強度を減ずることにより、標準化した。
【0135】
図1~6に、それぞれ化合物(1)~(6)の(アミロイドβ凝集阻害検討実験)の結果を示す。
図1~6から、化合物(1)~(6)の全てが、アミロイドβ凝集阻害能を有することが示された。
【0136】
更に、アニオン性の置換基を有するフタロシアニン類、または、その塩と比較して、カチオン性の置換基を有するフタロシアニン類、または、その塩の方が、大きなアミロイドβ凝集阻害能を有することが示された。
【0137】
また、光照射によって、細胞毒性のある活性酸素種を発生させないことが知られている、Cuを有するフタロシアニン塩である化合物(4)を用いた場合(
図4)においても、アミロイドβの凝集阻害能が確認されたことから、当該凝集阻害のメカニズムは、光照射による活性酸素種の発生を経るものではなく、フタロシアニンがアミロイドβの疎水性場に置換することによるものであると考えられる。
【0138】
図7には、濃度5μMの、化合物(1)~(6)、ZnPc(COONa)
8、およびZnPc(COONa)
16を用いた場合のアミロイドβタンパク質の凝集阻害能の比較結果を示す。
【0139】
図7から、同じグループに属する化合物同士を比較すると、本願の実施例の化合物の方が、大きなアミロイドβタンパク質の凝集阻害能を有することが示された。
本発明は、医療分野、医薬品分野、および、研究分野に、広く利用することができる。より具体的に、本発明は、アルツハイマー病の治療および/または予防、アルツハイマー病の治療薬および/または予防薬の製造、および、アルツハイマー病および/またアミロイドβタンパク質・アミロイド原線維の研究に、広く利用することができる。