(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165814
(43)【公開日】2023-11-17
(54)【発明の名称】臓器収容容器
(51)【国際特許分類】
A61B 90/00 20160101AFI20231110BHJP
【FI】
A61B90/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023155572
(22)【出願日】2023-09-21
(62)【分割の表示】P 2019165110の分割
【原出願日】2019-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】虎井 真司
(72)【発明者】
【氏名】大原 正行
(57)【要約】
【課題】レシピエントへの臓器の移植時に、臓器の温度上昇をより抑制でき、かつ、執刀者の作業の妨げにもなりにくい医療器具を提供する。
【解決手段】この臓器収容容器1は、伸縮性を有し、開口30を有する袋状の胴部20を有する。胴部20は、その内側と外側の空間に挟まれる領域において空洞を有さない。無負荷状態において、開口30の最大幅D4は、胴部20の最大幅D1よりも小さい。開口30は、開口30最大幅が胴部20の最大幅D4よりも大きい状態まで伸張可能である。これにより、臓器収容容器1が、臓器の表面に沿って、臓器の表面を覆う。したがって、レシピエントの体腔内に臓器を配置するときに、臓器収容容器1が臓器の周囲に拡がらない。このため、手術中における作業の妨げとなりにくい。また、臓器収容容器が臓器の大部分を覆うことにより、臓器の温度上昇を抑制することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
臓器を収容する臓器収容容器であって、
伸縮性を有し、開口を有する袋状の胴部
を有し、
前記胴部は、その内側と外側の空間に挟まれる領域において空洞を有さず、
無負荷状態において、前記開口の最大幅は、前記胴部の最大幅よりも小さく、
前記開口は、前記開口の最大幅が前記胴部の最大幅よりも大きい状態まで伸張可能である、臓器収容容器。
【請求項2】
請求項1に記載の臓器収容容器であって、
前記胴部は、
前記開口の周囲を囲む環状の肥厚部
を有し、
前記肥厚部を含む前記胴部は、一体に成形された一部材である、臓器収容容器。
【請求項3】
請求項2に記載の臓器収容容器であって、
前記肥厚部は、内部に空洞を有しない、臓器収容容器。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の臓器収容容器であって、
前記胴部の内面は、凹凸形状を有する、臓器収容容器。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の臓器収容容器であって、
前記胴部の内面は、複数の溝を有する、臓器収容容器。
【請求項6】
請求項5に記載の臓器収容容器であって、
前記複数の溝は、
複数の第1溝と、
それぞれが前記第1溝の少なくとも一部と交差する、複数の第2溝と、
を有する、臓器収容容器。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の臓器収容容器であって、
前記胴部の形状は、略楕円体である、臓器収容容器。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の臓器収容容器であって、
前記胴部の硬度は、日本工業規格JIS K 6253-3:2012のデュロメータ硬さ試験方法においてE10~A10である、臓器収容容器。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の臓器収容容器であって、
前記胴部は、エラストマーゲルで形成される、臓器収容容器。
【請求項10】
請求項9に記載の臓器収容容器であって、
前記胴部は、熱可塑性エラストマー、ウレタンエラストマー、またはオイルブリードシリコンゲルで形成される、臓器収容容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器を収容する臓器収容容器に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器の移植手術では、ドナーから摘出された臓器を、冷却した状態で保存する。これは、常温のまま血流が途絶える、いわゆる温虚血状態になると、臓器内の代謝によって、臓器の劣化が生じやすくなるためである。具体的には、摘出された臓器に対して低温の保存液を注入する、あるいは、臓器の周囲にアイス・スラッシュを投入した生理食塩水を直接ふりかける等の処置により、臓器の温度を低温に維持する。これにより、臓器の代謝を抑制する。
【0003】
しかしながら、レシピエントへの臓器の移植時には、レシピエントの体腔内に臓器を配置して、血管吻合等の処置を行う。このとき、臓器の冷却を継続できないので、レシピエントの体温や外気温によって臓器の温度が上昇し、臓器が徐々に温虚血状態となる。このため、移植手術の執刀者は、可能な限り短時間で血管吻合等の処置を行うか、あるいは、腹腔内に氷等を入れることにより、移植される臓器を低温状態に維持しなければならなかった。後者の場合、臓器だけでなく、執刀者の手先も同時に冷却されることとなり、精密さを求められる血管吻合において不利となる。
【0004】
そこで、本願の発明者は、特許文献1において、レシピエントへの臓器の移植時に、レシピエントと臓器との間に、断熱機能をもつシートを挿入することで、臓器の昇温を抑える技術を提案した。特許文献1のシートは、断熱層と、断熱層の両面に面接着された2枚の防水層とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のシートは、臓器を完全に覆うものではない。このため、臓器の表面のうち、シートに覆われていない部分は、昇温してしまうという問題があった。また、レシピエントと臓器との間に挿入されたシートの端部が、執刀者の作業の妨げとなるおそれもあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、レシピエントへの臓器の移植時に、臓器の温度上昇をより抑制でき、かつ、執刀者の作業の妨げにもなりにくい医療器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の第1発明は、臓器を収容する臓器収容容器であって、伸縮性を有し、開口を有する袋状の胴部を有し、前記胴部は、その内側と外側の空間に挟まれる領域において空洞を有さず、無負荷状態において、前記開口の最大幅は、前記胴部の最大幅よりも小さく、前記開口は、前記開口の最大幅が前記胴部の最大幅よりも大きい状態まで伸張可能である。
【0009】
本願の第2発明は、第1発明の臓器収容容器であって、前記胴部は、前記開口の周囲を囲む環状の肥厚部を有し、前記肥厚部を含む前記胴部は、一体に成形された一部材である。
【0010】
本願の第3発明は、第2発明の臓器収容容器であって、前記肥厚部は、内部に空洞を有しない。
【0011】
本願の第4発明は、第1発明または第2発明の臓器収容容器であって、前記胴部の内面は、凹凸形状を有する。
【0012】
本願の第5発明は、第1発明または第2発明の臓器収容容器であって、前記胴部の内面は、複数の溝を有する。
【0013】
本願の第6発明は、第5発明の臓器収容容器であって、前記複数の溝は、複数の第1溝と、それぞれが前記第1溝の少なくとも一部と交差する、複数の第2溝と、を有する。
【0014】
本願の第7発明は、第1発明ないし第6発明のいずれかの臓器収容容器であって、前記胴部の形状は、略楕円体である。
【0015】
本願の第8発明は、第1発明ないし第7発明のいずれかの臓器収容容器であって、前記胴部の硬度は、日本工業規格JIS K 6253-3:2012のデュロメータ硬さ試験方法においてE10~A10である。
【0016】
本願の第9発明は、第1発明ないし第8発明のいずれかの臓器収容容器であって、前記胴部は、エラストマーゲルで形成される。
【0017】
本願の第10発明は、第9発明の臓器収容容器であって、前記胴部は、熱可塑性エラストマー、ウレタンエラストマー、またはオイルブリードシリコンゲルで形成される。
【発明の効果】
【0018】
本願の第1発明~第10発明によれば、臓器収容容器が、臓器の表面に沿って、臓器の表面を覆う。レシピエントの体腔内に臓器を配置するときに、臓器収容容器が臓器の周囲に拡がらない。したがって、手術中における作業の妨げとなりにくい。また、臓器収容容器が臓器の大部分を覆うことにより、臓器の温度上昇を抑制することができる。
【0019】
特に、本願の第2発明によれば、開口の周囲が塑性変形したり、破断することを抑制できる。また、肥厚部が臓器に密着することにより、臓器が開口から飛び出すのを抑制するとともに、臓器と胴部との間に保持された液体が開口から流出することを抑制できる。
【0020】
特に、本願の第4発明および第5発明によれば、胴部の内面と臓器との間に隙間に、冷却用の保存液を保持できる。
【0021】
特に、本願の第6発明によれば、胴部の内面と臓器との間に保持される冷却用の保存液が、内面の全体に拡がりやすい。
【0022】
特に、本願の第7発明によれば、臓器収容容器内に収容する臓器が腎臓である場合に、胴部の内面が腎臓の表面に沿いやすい。
【0023】
特に、本願の第8発明ないし第10発明によれば、胴部および開口を伸張しやすく、かつ、破断しにくい。また、胴部内に臓器を収容した際に、胴部内の臓器に、胴部の外部の温度が伝わるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図4】臓器収容容器に臓器を収容する様子を示した図である。
【
図5】臓器収容容器に臓器を収容する様子を示した図である。
【
図6】臓器収容容器に臓器を収容する様子を示した図である。
【
図7】臓器収容容器を用いた移植手術の流れを示したフローチャートである。
【
図8】一変形例に係る臓器収容容器の断面図である。
【
図9】他の変形例に係る臓器収容容器の断面図である。
【
図10】他の変形例に係る臓器収容容器の断面図である。
【
図11】他の変形例に係る臓器収容容器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
本願において「ドナー」および「レシピエント」は、ヒトであってもよいし、非ヒト動物であってもよい。すなわち、本願において、「臓器」は、ヒトの臓器であってもよいし、非ヒト動物の臓器であってもよい。また、非ヒト動物は、マウスおよびラットを含む齧歯類、ブタ、ヤギおよびヒツジを含む有蹄類、チンパンジーを含む非ヒト霊長類、その他の非ヒトほ乳動物であってもよいし、ほ乳動物以外の動物であってもよい。
【0027】
<1.第1実施形態>
<1-1.臓器収容容器について>
図1は、第1実施形態に係る臓器収容容器1の斜視図である。
図2は、臓器収容容器1の上面図である。
図3は、臓器収容容器1の断面図である。この臓器収容容器1は、ドナーから摘出された臓器をレシピエントへ移植する移植手術において、臓器を一時的に収容するための容器である。すなわち、臓器収容容器1は、臓器の移植手術に使用されることを目的とした医療器具である。
【0028】
臓器収容容器1に収容される臓器としては、例えば、腎臓、心臓、肺を挙げることができる。これらの臓器は、移植手術において吻合すべき血管が、臓器の片側に集中している。本実施形態の臓器収容容器1の構造は、これらの臓器に対して特に好適である。しかしながら、本発明の臓器収容容器は、肝臓等の他の臓器を収容するものであってもよい。
【0029】
以下では、臓器収容容器1の開口30側を上側、開口30と反対側の底部側を下側として上下方向を定義する。また、以下では、
図1に示すように、上下方向をz方向、z方向に見て臓器収容容器1の長手方向をx方向、z方向に見て臓器収容容器1の短手方向をy方向と称する。なお、この上下方向の定義は、臓器収容容器1の使用時における向きを限定するものではない。
【0030】
図1に示すように、臓器収容容器1は、伸縮性を有する袋状の胴部20を有する。胴部20は、開口30と、肥厚部40とを有する。開口30は、胴部20の内側と外部の空間とを連通する。肥厚部40は、開口30の周囲を環状に囲む。
【0031】
本実施形態の臓器収容容器1は、全体として略楕円体である。すなわち、胴部20の形状は、略楕円体である。この臓器収容容器1は、特に、腎臓を収容するものである。胴部20の内面が腎臓の表面に沿いやすい形状とするために、臓器収容容器1の形状を全体として略楕円体としている。
【0032】
寸法関係の説明のために、以下では、
図2および
図3に示すように、胴部20の長手方向(x方向)の長さを長さD1、胴部20の短手方向(y方向)の長さを長さD2、胴部20の上下方向(z方向)の長さを長さD3と称する。
【0033】
胴部20は、エラストマーゲルで形成される。具体的には、胴部20は、熱可塑性エラストマー、ウレタンエラストマー、またはオイルブリードシリコンゲルで形成される。胴部20の硬度は、例えば、日本工業規格JIS K 6253-3:2012のデュロメータ硬さ試験方法においてE10~A10である。また、胴部20の切断時伸び率は、1000%以上である。
【0034】
胴部20をこのような材料で形成することにより、胴部20および開口30を伸張しやすく、かつ、破断しにくい。また、胴部20をこのような材料で形成することにより、胴部20内に臓器を収容した際に、胴部20内の臓器に、胴部20の外部の温度が伝わるのを抑制できる。
【0035】
開口30は、胴部20の内部空間に臓器を挿入するための開口である。また、開口30は、臓器を胴部20内に収容している間において、臓器に接続する血管等を外部へと接続するための接続口としての役割も果たす。
【0036】
本実施形態では、開口30は楕円形状である。臓器収容容器1に対して人為的な負荷をかけない無負荷状態における開口30の長径の長さを、長さD4と称する。無負荷状態における開口30の最大幅である長さD4は、胴部20の最大幅である長さD1よりも小さい。
【0037】
肥厚部40は、周囲よりも厚みが部分的に増す部位である。胴部20を形成するエラストマーゲルは、その厚みが厚い方が、伸張方向への負荷に対して元に戻る方向へ収縮する能力が高い。このため、肥厚部40が開口30を環状に囲むことにより、開口30の周囲における弾性変形可能な変形量を大きくしたり、強度を向上させることができる。すなわち、開口30が拡げられた際に、開口30の周囲が塑性変形したり、破断したりすることを抑制できる。
【0038】
また、臓器を内部に収容した際に、肥厚部40が臓器に密着することにより、臓器が開口30から飛び出すのを抑制するとともに、臓器と胴部20との間に保持された液体が開口30から流出することを抑制できる。
【0039】
胴部20の内面は、凹凸形状を有する。具体的には、
図3に示すように、胴部20の内面には、胴部20の内部空間に向かって突出する複数の凸部41が設けられる。複数の凸部41は、開口30から胴部20の底部に向かって上下方向に延びる。これにより、隣り合う凸部41の間に溝50が形成される。すなわち、胴部20の内面は、上下方向に延びる複数の溝50を有する。
【0040】
このように、胴部20の内面が凹凸形状を有することにより、胴部20内に臓器が収容された際に、胴部20の内面の凹部と臓器との間の隙間に、冷却用の保存液を保持できる。特に、本実施形態のように、胴部20の内面が上下方向に延びる複数の溝50を有している場合、開口30から注入された冷却用の保存液が、底部側まで届きやすい。すなわち、胴部20の内面と臓器との間に保持された冷却用の保存液が、内面の全体に拡がりやすい。
【0041】
図4~
図6は、臓器収容容器1に臓器の一例である腎臓9を収容する様子を示した図である。具体的には、
図4は、無負荷状態における臓器収容容器1と、腎臓9とを並べた様子を示した図である。
図5は、腎臓9を収容するために、臓器収容容器1の開口30を伸張した状態を示した図である。
図6は、臓器収容容器1内に腎臓9を収容した状態を示した図である。
【0042】
図4に示すように、無負荷状態において、臓器収容容器1の胴部20の最大幅である長さD1は、腎臓9の最大幅である長さK1よりも短い。すなわち、無負荷状態において、胴部20の内面の最大幅である長さD5は、腎臓9の最大幅である長さK1よりも小さい。このため、開口30の無負荷状態における最大幅である長さD4は、当然、腎臓9の最大幅である長さK1よりも小さい。
【0043】
開口30は、開口30の最大幅が胴部20の無負荷状態における最大幅である長さD1よりも大きい状態まで伸張可能である。このため、胴部20内に腎臓9を収容しやすい。
図5には、開口30の最大幅が長さD1よりも長い長さD6となるまで、開口30を伸張した状態が示されている。このように、作業者が開口30を引き伸ばして、腎臓9を開口30を介して胴部20内に収容する。なお、本実施形態の臓器収容容器1では、開口30の最大幅が腎臓9の最大幅である長さK1よりも長い長さよりも大きい状態まで伸張可能である。したがって、胴部20内に腎臓9をより収容しやすい。
【0044】
そして、
図6に示すように、胴部20の内部に腎臓9を収容すると、開口30の周辺を含めた胴部20の内面全体が腎臓9の表面に沿う。上記の通り、無負荷状態において胴部20の内面は腎臓9の外表面よりも小さい。このため、臓器収容容器1内に腎臓9が収容された状態において、胴部20の内面は腎臓9の外表面に沿うとともに、胴部20の内面の凸部41が腎臓9の外表面に密着する。これにより、腎臓9が胴部20内で動くことなく、適切に保持される。その結果、腎臓9が損傷することを抑制できる。
【0045】
<1-2.臓器移植の流れについて>
続いて、上記の臓器収容容器1を用いた移植手術の流れについて、説明する。
図7は、臓器収容容器1を用いた移植手術の流れを示したフローチャートである。以下では、臓器収容容器1を用いて腎臓9を移植する場合について説明する。
【0046】
移植手術を行うときには、まず、ドナーから腎臓9を摘出する(ステップS1)。具体的には、ドナーの腎臓9から延びる血管91,92および尿管93(
図4~
図6参照)を切断し、ドナーの体腔内から腎臓9を取り出す。
【0047】
取り出された腎臓9は、低温の保存液に浸漬された状態で、保存される。また、腎臓9は、臓器収容容器1に収容される(ステップS2)。保存液には、例えば、4℃に維持された生理食塩水が用いられる。臓器は、常温のまま血流が途絶える、いわゆる温虚血状態になると、臓器内の代謝によって、劣化が生じやすくなる。このため、ステップS2では、腎臓9を常温より低い温度で保存することにより、腎臓9の劣化を抑制する。
【0048】
なお、ステップS2では、腎臓9の血管91,92に配管を接続し、腎臓9内に保存液を灌流させた状態で、腎臓9を保存してもよい。なお、保存液の灌流は、後述するステップS4まで、継続してもよい。
【0049】
腎臓9を臓器収容容器1に収容するタイミングは、腎臓9を保存液に浸漬する前であってもよいし、腎臓9しばらく保存液に浸漬して十分に冷却した後であってもよい。腎臓9を臓器収容容器1に収容する際には、
図5に示すように、臓器収容容器1の開口30を開き、開口30を介して、胴部20の内部へ腎臓9を挿入する。これにより、
図6に示すように、袋状の胴部20の内部に、腎臓9が保持される。このとき、胴部20の内面と腎臓9との間に、シリンジやピペットを用いて、低温の保存液が注入される。また、腎臓9は、臓器収容容器1に包まれた状態で、再度低温の保存液に浸漬され、低温保存状態が維持される。
【0050】
臓器収容容器1に保持された腎臓9は、低温の保存液に浸漬された状態で、ドナー側からレシピエント側へと搬送される(ステップS3)。レシピエント側に搬送された腎臓9は、移植の直前まで引き続き、臓器収容容器1に保持されつつ、低温の保存液に浸漬される。
【0051】
続いて、レシピエントの腹部を開き、腎臓9が収容された臓器収容容器1を、レシピエントの体腔内に配置する(ステップS4)。そして、レシピエントの血管と、臓器収容容器1の開口30から外部へ露出した腎臓9の血管91,92とを、吻合する(ステップS5)。併せて、移植臓器が腎臓9である場合、尿管93を膀胱へと接続する。
【0052】
ステップS4~S5の作業の間、臓器収容容器1に収容された腎臓9は、体腔内に配置される。このとき、臓器収容容器1が保温機能を有していることから、レシピエントの体温または外気温によって腎臓9の温度が上昇することが抑制される。したがって、腎臓9が温阻血状態となって、代謝による劣化が進むことを抑制できる。その結果、手術後における障害の発生を抑制できる。
【0053】
なお、ステップS4~S5において、臓器収容容器1の内部には、定期的に(例えば数分毎に)、シリンジやピペットを用いて、低温の保存液が注入される。これにより、腎臓9の温度が上昇することを、より抑制でいる。
【0054】
その後、臓器収容容器1の開口30を開き、血管吻合後の腎臓9を、臓器収容容器1から取り出す。そして、レシピエントの体腔内から臓器収容容器1を除去する(ステップS6)。その後、吻合したレシピエントの血管との間で腎臓9の血流を再開する(ステップS7)。
【0055】
この臓器収容容器1は、腎臓9の表面に沿って、腎臓9の表面を覆う。このため、臓器収容容器1の一部(端部など)が腎臓9の周囲に拡がらない。したがって、臓器収容容器1が、手術中における作業の妨げとなりにくい。また、この臓器収容容器1は、腎臓9の表面の大部分を覆うことにより、腎臓9の温度上昇をより抑制でき、かつ、手術中における腎臓9の表面の損傷を防ぐことができる。
【0056】
また、この臓器収容容器1は、弾性力のある素材で形成されている。このため、搬送中や、手術中における腎臓9への衝撃を吸収することができる。したがって、腎臓9が損傷することを抑制できる。
【0057】
<2.変形例>
以上、本発明の主たる実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0058】
図8は、一変形例に係る臓器収容容器1Aの断面図である。
図9は、他の変形例に係る臓器収容容器1Bの断面図である。
図8および
図9において、それぞれ、胴部20A,20Bの内面に設けられた凹凸形状については、図示を省略している。
【0059】
上記の実施形態の臓器収容容器1では、肥厚部40において、胴部20の内面側には突出せず、胴部20の外面側に突出することによって、周囲よりも厚みが大きくなっている。これに対し、
図8の例の臓器収容容器1Aでは、肥厚部40Aの断面形状が略円形である。このため、肥厚部40Aにおいて、胴部20Aの内面側と外面側との双方に突出している。また、
図9の例の臓器収容容器1Bでは、肥厚部40Bが胴部20Bの外面側には突出せず、胴部20Bの内面側に突出している。
【0060】
図8および
図9の例のように、肥厚部は、胴部の内面側に突出していても、外面側に突出していてもよい。肥厚部の形状は、適宜変更し得る。
【0061】
図10は、他の変形例に係る臓器収容容器1Cの断面図である。
図10においても、
図8および
図9と同様、胴部20Cの内面に設けられた凹凸形状については、図示を省略している。上記の実施形態の臓器収容容器1は、開口30が1つであったために、例えば、腎臓、心臓、肺等の、移植手術において吻合すべき血管が臓器の片側に集中している臓器に適していた。
【0062】
これに対し、
図10の例の臓器収容容器1Cは、胴部20Cが2つの開口30Cを有する。このため、臓器収容容器1Cは、肝臓、膵臓、脾臓等の、移植手術において吻合すべき血管が複数方向に延びる臓器に適している。このように、胴部の有する開口の数は、1つには限られない。なお、胴部が開口を複数有する場合、開口の大きさは必ずしも同じでなくてもよい。血管を通すための開口は、臓器を収容するための開口より小さくてもよい。
【0063】
図11は、他の変形例に係る臓器収容容器1Dの断面図である。
図11の臓器収容容器1Dでは、胴部20Dの内面には、上下方向に対して直交する方向に延びる複数の凸部41が設けられる。これにより、隣り合う凸部41Dの間に溝50Dが設けられる。すなわち、胴部20Dの内面は、上下方向に直交する方向に延びる複数の溝50Dを有する。
【0064】
上記の実施形態では、胴部の内面に設けられた溝が上下方向に延びていたが、本発明はこれに限られない。溝が延びる方向は、
図11の例のように、上下方向に直交する方向であってもよい。
【0065】
また、例えば、溝は、胴部の内面において螺旋状に形成されてもよい。また、溝は、所定の方向に延びる略平行な複数の第1溝と、第1溝とは異なる所定の方向に延びる略平行な複数の第2溝とを含み、第1溝の少なくとも一部と第2溝との少なくとも一部が格子状に交差する構成であってもよい。また、胴部の内面に設けられた凹凸形状は、所定の方向に延びる凸部および溝に限られない。例えば、胴部の内面に、不定形の凸部または凹部が不規則に形成されてもよい。
【0066】
また、上記の実施形態では、臓器収容容器1の胴部20は1種類の材料で形成されたが、本発明はこれに限られない。胴部20は、例えば、それぞれ材料が異なる複数の層から構成されていてもよい。例えば、胴部の外表面に近い層は、胴部のうちで臓器と接触する内面を構成する層よりもデュロメータ硬さの値が大きいものであってもよい。また、胴部の外表面に、外傷を防止するためのコーティングを施してもよい。
【0067】
また、臓器収容容器の細部の構造については、本願の各図に示された構造と、完全に一致していなくてもよい。また、上記の実施形態および変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1,1A,1B,1C 臓器収容容器
20,20A,20B,20C 胴部
30,30C 開口
40,40A,40B 肥厚部
41 凸部
50 溝