(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165858
(43)【公開日】2023-11-17
(54)【発明の名称】膀胱がんインターフェロン療法のためのCDKN2aコンパニオン診断
(51)【国際特許分類】
A61K 38/21 20060101AFI20231110BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231110BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20231110BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231110BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20231110BHJP
C12N 15/83 20060101ALN20231110BHJP
C12Q 1/6841 20180101ALN20231110BHJP
【FI】
A61K38/21
A61K45/00
A61P13/10
A61P35/00
A61K35/76
C12N15/83 Z
C12Q1/6841 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023163165
(22)【出願日】2023-09-26
(62)【分割の表示】P 2020531722の分割
【原出願日】2018-12-11
(31)【優先権主張番号】62/597,473
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519162156
【氏名又は名称】トライゼル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】コリン ピー. ディニー
(57)【要約】
【課題】膀胱がんインターフェロン療法のためのCDKN2aコンパニオン診断の提供。
【解決手段】膀胱がんを処置するための方法であって、上記方法は、ヒトにおいて膀胱がんを診断する工程、上記ヒトのCDKN2A発現レベルを測定する工程、および次いで、上記ヒトへと、インターフェロン発現を誘導する薬剤を滴注する工程を包含する方法。筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)は、新たに診断された膀胱がんを有する患者に関して最も一般的な疾患状態を代表する。高グレード(HG)腫瘍を有する者は、再発および進行の両方の重大なリスクにある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2017年12月12日出願の米国仮特許出願第62/597473号(その内容は、本明細書に参考として援用される)の優先権を主張する。
【0002】
連邦政府の資金提供/権利
なし
【背景技術】
【0003】
背景
筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)は、新たに診断された膀胱がんを有する患者に関して最も一般的な疾患状態を代表する。高グレード(HG)腫瘍を有する者は、再発および進行の両方の重大なリスクにある。カルメットゲラン桿菌(BCG)は、現在好ましい管理の代表である。それにも関わらず、患者のうちのおよそ30%は、BCGに応答しない;初期応答を示す者の中で、50%超が、長期追跡の間に再発および進行を経験する。
【0004】
BCG後に持続性または再発する腫瘍を有する患者の最適な管理は、未だ議論の的である。抜本的な膀胱切除術は、がんの根治をもたらすが、多くの患者は高齢であり、実行能力状態の付随する低下とともに重大な併存疾患を有しており、しばしば抜本的な根治的手術を受ける意志がない。非根治的処置選択肢は利用可能であるが、今日までの研究には、患者数が比較的小さいものが含まれており、処置の成功という定義は一様でないものが使用されてきた。実際、米国食品医薬品局(FDA)および泌尿生殖器腫瘍学コミュニティーは、BCGの最初の承認以来、この疾患の管理は十分に進歩していないことに同意している。従って、BCG処置後の疾患再発を有する患者にとって抜本的な膀胱切除術に代わる有効な手段は、重大な未だ満たされていない臨床ニーズのままである。
【0005】
いくつかの薬剤は、BCG後の第2選択肢の処置として評価されている;しかし、いずれも(今日まで)強くかつ持続性のある応答を提供していない。BCG不応性CISの処置に関して、FDAによって現在承認されている唯一の薬剤であるバルルビシン(Valstar; Endo Pharmaceuticals, Malvern, PA)は、6ヶ月で18%という完全奏功率およびおよそ10%という1年無病生存率を提供した。早期の治験からの有望な結果が、膀胱内タキサンおよびゲムシタビンに関して報告されている。Joudi et al.は、BCG + IFNα-2bの全国的な多施設フェーズII治験からの最終結果を報告し、BCGが失敗した患者のうちの45%は2年で再発がなかったことを注記した。しかし、HG再発について処置されたのは44%のみであり、61%は、以前に1クールのBCGを受けたに過ぎなかった。BCGおよびIFNα-2bの近年の後ろ向き分析は、12ヶ月で38.6% RFSを報告した。繰り返すと、これらの患者のうちの多く(44名のうち20名)は、以前に1クールのBCGを受けたに過ぎず、16名の患者は12ヶ月後に再燃を経験した。全体的に、以前の治験において研究した患者の数には制限があり、適格性があまり厳密に定義されていないにも拘わらず、処置でのRFSはあまり長くないことから、疾患特異的な患者転帰を改善しかつ膀胱切除術を回避する、BCG非応答性疾患を有する患者にとっての有効かつ根拠に基づく第2選択肢療法の未だ満たされていないニーズが説明される。
【0006】
組換え膀胱内インターフェロンアルファ-2bタンパク質(IFNα-2b; Intron A; Merck, Kenilworth, NJ)は、NMIBCにおける有望な最初の臨床結果を示した、
【0007】
膀胱内IFNα-2b遺伝子送達は、新規なアプローチを提供し、IFNα-2bへの曝露の持続期間を増大させる。組換えアデノウイルス(rAd)-IFNα-2bは、ヒトIFNα-2b遺伝子をコードする、複製欠損アデノウイルスベースの遺伝子移入ベクターである。Syn3(ポリアミド界面活性剤)は、膀胱内層のアデノウイルス形質導入を増強するために、薬物製剤へと組み込まれる(INSTILADRIN(登録商標) rAd-IFNα/Syn3TM, FKD Therapies Oy, Kuopio, Finland)。rAd-IFNα遺伝子移入および発現の劇的な富化は、正常な尿路上皮およびマウスの中で増殖するヒト尿路上皮癌の両方において、Syn3TMで示された。rAd-IFNα-2b遺伝子治療は、ウイルス感染と関連する生理学的事象を模倣し、これは、全身性のIFNα-2b生成およびその後の腫瘍退縮よりむしろ局所において生じる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
我々は、BCG不応性のおよび再燃しているNMIBCを有する患者のrAd-IFNα/Syn3のフェーズI用量漸増研究を行った。サイトメガロウイルスプロモーターの下でヒトインターフェロンアルファ-2b(IFNα-2b) cDNAを発現した第1世代複製欠損血清型5アデノウイルスベクターを、以前に記載されるとおりであるが、そのプロセスにわずかな改変をして、293細胞において医薬品等の製造管理および品質管理に関する基準の条件の下で生成した。それを、エンドトキシン、微生物汚染、および他の不純物がないことを検査した。上記ベクターの構造を、配列決定によって検証した。組換えIFNα-2bの生成を、免疫学的方法で各生成ロットから検証した。賦形剤Syn3は、膀胱上皮へのアデノウイルス遺伝子移入を増強するポリアミド界面活性剤である。用量依存性アデノウイルス遺伝子移入およびIFNα-2bの尿濃度を、確認した。測定可能な尿IFNαを生じたrAd-IFNα/Syn3の用量レベルで処置した14名の患者のうち、6名(43%)は、3ヶ月で再発なしであり、用量制限毒性がなく、2名の患者は、29ヶ月および39ヶ月で無病のままであった。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
ヒトにおいて筋層非浸潤性膀胱がんを処置する方法であって、前記方法は、
a. ヒトにおいて筋層非浸潤性膀胱がんを診断する工程、および次いで、
b. 前記ヒトのCDKN2A発現レベルを測定する工程、および次いで、
c. 前記ヒトの膀胱の内腔へと、インターフェロンを滴注する工程、
を包含する方法。
(項目2)
前記膀胱がんは、高グレードである、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記インターフェロンは、非複製ベクターとして投与される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記非複製ベクターは、インターフェロン導入遺伝子を担持する複製欠損ウイルスベクターを含む、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記インターフェロン導入遺伝子を担持する複製欠損ウイルスベクターは、ナドファラジーン・フィラデノベクを含む、項目4に記載の方法。
(項目8)
前記ヒトのCDKN2A発現レベルを測定する工程は、膀胱組織サンプルを採取する工程および前記組織サンプル中のCDKN2A発現レベルを測定する工程を要する、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記ヒトのCDKN2A発現レベルを測定する工程は、尿サンプルを採取する工程および前記尿サンプル中のCDKN2A発現レベルを測定する工程を要する、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記CDKN2A発現レベルを測定する工程は、前記尿サンプル中のエキソソームを分析する工程を包含する、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記CDKN2A発現レベルを測定する工程は、前記尿サンプル中の遊離DNAを分析する工程を包含する、項目9に記載の方法。
(項目12)
前記CDKN2A発現レベルを測定する工程の後に、チェックポイントインヒビターを前記ヒトに投与する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記ヒトのCDKN2A発現レベルを測定する工程は、CDKN2Aの一部とハイブリダイズし得るプローブを使用して、蛍光インサイチュハイブリダイゼーションを使用する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記プローブは、CDKN2Aに含まれる少なくとも1つのエキソンとハイブリダイズする一部を含む、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記プローブは、約40bpの長さである、項目13に記載の方法。
(項目16)
前記プローブは、約40bpの長さである、項目14に記載の方法。
【0009】
これらの刺激的な知見は、主に2種の最高用量において、我々にフェーズII試験を続行するように促し、BCG不応性HG NMIBCを有するか、またはBCG後の再燃を有する患者に対して、膀胱内rAd-IFNα/Syn3TMの有効性および安全性を評価するように設計した。この無作為化オープンラベル並行アーム試験を、2012年11月5日から2015年4月8日の間に米国で13施設にわたって行った。プロトコール、管理監督、およびその流れ(accrual timelines)を設計し、Society of Urologic Oncology Clinical Trials
Consortiumが行った。試験プロトコールおよびインフォームド・コンセントフォームを検討し、それぞれの責任のある現場の治験審査委員会およびバイオセイフティー委員会が承認した。
【実施例0010】
我々は、高グレード(HG)BCG不応性または再燃したNMIBCを有する患者に対して、組換えアデノウイルスインターフェロンアルファとSyn3TM(rAd-IFNα/Syn3TM)、複製欠損組換えアデノウイルス遺伝子移入ベクターの有効性および安全性を評価した。このオープンラベル多施設(13施設)並行アームフェーズII試験において、HG BCG不応性または再燃したNMIBCを有する43名の患者は、膀胱内rAd-IFNα/Syn3TMを受けた(1×1011 ウイルス粒子(vp)/mLまたは3×1011 vp/mLに無作為に1:1に割り当てた)。3ヶ月目、6ヶ月目、および9ヶ月目に応答した患者を、4ヶ月目、7ヶ月目、および10ヶ月目に再処置した。主要エンドポイントは、12ヶ月HG無再発生存(RFS)であった。少なくとも1用量を受けた全ての患者を、有効性および安全性分析の中に含めた。
【0011】
我々の試験において、40名の患者が、2012年11月5日から2015年4月8日の間にrAd-IFNα/Syn3TM(1×1011 vp/mL、n=21; 3×1011 vp/mL、n=19)を受けた。この治験を設計して、抜本的な膀胱切除術を受けることができないかまたは受ける意志のない40名の患者を登録し、各20名の患者の2つの投与量群があった。適格な患者は、18歳齢以上であり、HG BCG不応性または再燃したNMIBC(乳頭状NMIBC単独(TaまたはT1)、上皮内癌(CIS)単独、またはCISおよび乳頭状疾患の組み合わせを含む)を有した。BCG不応性疾患を、3ヶ月で維持または再誘導のいずれかを伴って、BCG療法の十分な誘導後6ヶ月で無病状態を達成できないと定義した。「十分な誘導(adequate induction)」を、6回の処置のうちの最低5回と定義し、「十分な維持(adequate maintenance)」を、3回の処置のうちの最低2回と定義した。BCG再燃を、十分なBCG処置(少なくとも5回および2回の滴注)に対する完全奏功後1年以内の再発として定義した。患者は、膀胱腫瘍の経尿道的切除によって、乳頭状病変の視覚的完全切除を受けたことがあることを要した。患者は、経尿道的切除直後の1回の滴注として投与される場合の細胞毒性薬剤を除いて、試験処置を開始する3ヶ月前以内には、膀胱内治療を受けることができなかった。こ試験に登録した全ての参加者は、書面によるまたは口頭によるインフォームド・コンセントを提供した。
【0012】
患者を、コンピューターが生成した無作為割り当てによって制約をつけた1:1の連続で割り当てて、低用量(1×1011 ウイルス粒子[vp]/mL)または高用量(3×1011 vp/mL)いずれかのrAd-IFNα/Syn3を受けた。これらの用量は、フェーズI試験において観察された最も有望なものであった。投与した合計用量は、低用量群では7.5×1012 vpであり、高用量群では2.25×1013 vpであった。処置の配分は、各現場における最初の4名の患者がコホート間でバランスがとれているという制約を設けて、スクリーニングを成功裡に完了した全患者に対して、ブロックサイズ2で集中的に行った。
【0013】
75mL中のrAd-IFNα/Syn3TMを、予定留置時間1時間で、尿道カテーテルを経て膀胱内に投与した;抗コリン作動薬処置を、逼迫した尿意から解放し、十分な留置を可能にするために許容した。次いで、3ヶ月目、6ヶ月目、および9ヶ月目でHG疾患の再発なしの患者は、細胞学、膀胱鏡検査、および生検(臨床上示されるのであれば)によって評価される場合、4ヶ月目、7ヶ月目、および10ヶ月目に再処置した。12ヶ月で、最後の有効性評価を行った。この評価は、指標腫瘍の部位からのプロトコールが義務づけられた生検、および少なくとも5箇所の無作為の生検(膀胱穹隆部、膀胱三角、右側壁および左側壁、後壁、ならびにこの領域に細胞学陽性または以前の疾患を有する男性における尿道前立腺部を含む)を含んだ。
【0014】
試験の間に、各処置後の最初の1ヶ月間は毎週、7日目、14日目(7ヶ月目および10ヶ月目のみ)、21日目、および28日目(±1日)に電話で患者と連絡をとって、有害事象(AE)および付随する薬物療法の使用についての情報を提供した。処置失敗についての評価を、再処置の14日前~7日前の間に行った。試験完了前に処置を中止した患者は、試験薬の最後の投与後少なくとも30日間は安全性の評価を受けた。全ての患者は、(1)完全奏功を有する患者におけるHG疾患の再発を決定する、および(2)rAd-IFNα/Syn3TMでの処置の長期の影響を評価するために、3年間の長期追跡期間においてモニターされている。
【0015】
主要エンドポイントは、12ヶ月でのHG疾患再発からの解放(原因または試験生検の最後について陰性によって定義される)であった。副次的エンドポイントは、3ヶ月、6ヶ月、および9ヶ月でのHG疾患の再発の証拠なし;膀胱切除術の発生率または膀胱切除術までの時間;および尿中のIFNα-2b濃度として定義される、処置への応答を含んだ。安全性評価は、身体検査、バイタルサインのモニタリング、ECG、および標準臨床化学検査、血液検査、および尿分析の評価(地域の検査室によって実施)を含んだ。安全性エンドポイントは、米国国立がん研究所有害事象共通用語規準(バージョン4.03)によって評価されるように、AEのタイプ、発生率、関連性および重篤度、ならびに重篤な(≧グレード3)AE(SAE)を含む。
【0016】
我々は、20名の患者のコホートが、真のHG RFS率が35%であった場合に、精度5%の片側検定で10%のHG無再発生存(RFS)率の80%棄却率を与えるために十分であることを決定した。このFlemingデザインの操作特性を、A’Hernによって記載される二項分布で正確に計算した。この仮説(すなわち応答率は、参照率と同じまたはこれより小さかった)は、20名の患者のうちの5名または5名超が、HG RFSを12ヶ月で達成した場合に棄却された。3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、および12ヶ月でHG RFSを達成した患者の割合を、その割合に対する精度90% CIと一緒に、各用量群に対して報告した。HG再発または死亡までの時間を、カプラン・マイアー法でまとめた。SAS
TM(バージョン9またはこれ以降; SAS Institute,
Cary, NC)で分析を行った。安全性および有効性の両方の(修正治療意図)分析セットは、少なくとも1用量のrAd-IFNα/Syn3を受けた全患者を含んだ。データモニタリング委員会は、データモニタリング計画に従って試験を監督した。全ての分析アッセイを開発し、確証した。サンプルを、Covance Laboratories Ltd(Harrogate, United Kingdom)での優良試験所規範の方法に従って試験した。ベースライン患者特性を、表1に提供する:
【表1】
【0017】
その12ヶ月HG RFS率は、2つの用量群間で匹敵し、低用量群の患者のうちの33.3%(21名のうちの7名; 90% CI, 16.8~53.6)および高用量群では36.8%(19名のうちの7名; CI, 18.8~58.2)が生存しかつ12ヶ月でHG疾患がなかった。全体としては、患者のうちの35.0%(40名のうちの14名; 90% CI, 22.6%~49.2%)は、rAd-IFNα/Syn3処置の開始後12ヶ月でHG再発がないままであった。予定外の疾患評価は、所見に影響を及ぼさなかった(付表、オンラインのみ)。HG再発または死亡までのメジアン時間は、6.5ヶ月であった(90% CI, 3.52~12.78ヶ月); HG再発までのメジアン時間は、低用量群に関しては3.52ヶ月(90% CI, 3.02~12.78ヶ月)であり、高用量群に関しては11.73ヶ月(90% CI, 5.88ヶ月~評価不能)であった。
【0018】
14名の患者(35.0%; 90% CI, 22.6%~49.2%)は、最初の処置後12ヶ月間、HG再発がないままであった。両方の用量に関して匹敵する12ヶ月HG RFSが注記された。これら14名の患者のうち、2名は、それぞれ、処置開始後21ヶ月および28ヶ月で再発を経験し、1名は、再発なしに17ヶ月で上部尿路腫瘍(upper tract tumor)の結果として死亡した。rAd-IFNα/Syn3は、十分な耐容性を示した;グレード4または5の有害事象(AE)は起こらず、有害事象が原因で処置を中止した患者はいなかった。最も頻繁に報告された薬物関連AEは、尿意切迫(n=16; 40%)、排尿障害(n=16; 40%)、疲労(n=13; 32.5%)、頻尿(n=11; 28%)、ならびに血尿および夜間頻尿(各々n=10; 25%)であった。
【0019】
患者下位群および副次的エンドポイントを、探索的分析において考慮した場合、その12ヶ月HG RFS率は、男性および女性に関しても、若年患者および高齢患者に関しても、不応性NMIBCまたは再燃したNMIBCに関しても、CISのみまたは乳頭状腫瘍およびCISに関しても、ならびにTaおよびT1疾患のみを有する患者に関しても、広く類似であった。
【表2】
【0020】
興味深いことに、12ヶ月で再発がなかった14名の患者のうち、その14名のうちの10名(71%)は、再発を経験した25名のうちの11名(24%)と比較して、抗アデノウイルス抗体応答(投与前力価の4倍と定義)を有した。
【0021】
長期追跡において、その12ヶ月の試験期間内にHG疾患を再発したことからその研究を中止した7名の患者(18%)は、その中止日後にメジアン16ヶ月(範囲、2~26ヶ月)で死亡した。これらの死亡が処置関連であるという兆候はなかった。死亡原因は、4名の患者では未知であったのに対して、2名は、進行性膀胱がんの結果として死亡し、1名は、その試験の中止の17ヶ月後に、処置に関連しない肝不全の結果として死亡した。死亡原因が未知であるその4名の患者は、彼らが、その研究終了時評価を終えた後に局所的に観察されていた。最初の1年以内にHG再発を経験した14名の患者(35%)は、1ヶ月目の1日目からメジアン9ヶ月(範囲, 4~28ヶ月)で抜本的な膀胱切除術を受けた。
【0022】
患者は、3年間モニターして、長期追跡データを集めている。12ヶ月で無病のままである14名の患者のうち、さらなる追跡データを11名について集めている;3名は、試験を中止した。これら11名の患者のうちの9名は生存しており、8名は、15ヶ月から36ヶ月超の期間の間に無病のままであった。2名の患者は、処置の開始から、それぞれ、21ヶ月および28ヶ月でHG再発を経験した。筋浸潤への進行を経験したこれら患者のうちの1名は、処置の開始から31ヶ月後に、抜本的な膀胱切除術を受け、後に41ヶ月で死亡した。21ヶ月で再発を経験した他方の1名はなお生存しており、36ヶ月で遠隔再発はない。12ヶ月で膀胱再発がない1名の患者は、17ヶ月で上部尿路腫瘍の結果として死亡した。
【表3】
【0023】
我々の結果は、rAd-IFNα/Syn3TMが十分な耐容性であることを示した。これは、抜本的な膀胱切除術を受けることができないかまたは受ける意志がない、BCG療法後にHG NMIBCを有する患者にとって有望な有効性を示した。
【0024】
しかし、潜在的に有望であるが、これらのデータは、我々の処置計画においていくつかの失敗を示す。第1に、処置は、患者の大部分において無効であった:完全には、患者のうちの65%は、投与された全患者の治療意図分析によって12ヶ月のHG RFSを達成できなかった。同様に、重度に前処置した患者におけるその12ヶ月RFSは、31%であった。顕著なことには、応答は持続性であった:大部分は、24ヶ月間近く、無病のままであった。我々は、CISの任意の要素を有する患者に関して、70%が、持続した完全奏功を達成できないことを注記した。実際に、試験登録時に乳頭状疾患のみを有する患者に関しては、50%のみがRFSを達成した。
【0025】
これらの失敗に対処するために、我々は、2つのアプローチを続行した。第1に、我々は、かなり多くの患者および高用量のrAd-IFNα/Syn3TMが関わるより大規模な治験をデザインし、現在続行している。この治験は、より低用量はあまり有効ではなかったのみならず、完全に無効であった場合に、より高用量のrAd-IFNα/Syn3TMが有効であるという証拠を提供し得る。
【0026】
第2に、我々は、上記で考察したフェーズII完了治験に関与した患者から組織サンプルを集めた。これらのサンプルは、我々が各患者について遺伝子発現を分析することを可能にする。このことは、我々が、処置に応答した患者における遺伝子発現を、応答しなかった患者における遺伝子発現に対して比較することを可能にする。
【0027】
遺伝子発現分析は、腫瘍生検サンプルを使用して行われ得る。
【0028】
あるいは、膀胱がんに関しては、尿サンプルは、適切に保存されれば、発がん遺伝子発現の分析を可能にするエキソソームを含み得る。エキソソームは、小さな(30~100nm)エンドサイトーシスの細胞由来小胞である。これらは、がん細胞を含む大部分のヒト細胞タイプによって分泌され、それらは、エンドサイトーシスを介してレシピエント細胞に吸収され得る。エキソソームは、機能的な生体分子(例えば、dsdna)を含み得、ヒト血液および尿中に見出され得る。エキソソームDNA(「exoDNA」)は、全ゲノムを表し、エキソソームが腫瘍細胞から生成される場合、腫瘍細胞の変異状態を反映する。膀胱がん患者から採取された尿サンプル中で見出される腫瘍由来エキソソームのExoDNAは、従って、がんの高感度検出およびインターフェロンベースの治療に対する潜在的応答性のより正確な決定に有用な非侵襲性循環生体マーカーを提供する。
【0029】
ExoDNAは、1本鎖および2本鎖の両方のDNAを含む。ExoDNAは、エキソソーム膜の内側に被包され、かつエキソソーム膜の外側に結合されていることが見出される。内部exoDNAでは、dsDNAが優勢である。典型的には、エキソソーム膜の内側に被包されたexoDNAは、0.1~2.5kbの範囲である一方で、エキソソーム膜の外側に結合されたexoDNAは、>2.5kbである。腫瘍エキソソームと関連するそのexoDNAの多くは、そのエキソソーム膜の外側に結合された2本鎖DNAである。ExoDNA(これは、dsDNAを含む)は、著しく正確な診断ツールを提供し得る。なぜならそれは、膀胱がんを有する患者の尿中に、容易にアッセイ可能な形態にある完全なゲノムの完全なサンプルを提供するからである。
【0030】
あるいは、マイクロ小胞がアッセイされ得る。マイクロ小胞は、直径50~1,000ナノメートル(nm)の間の、多くのタイプの体液中でおよび細胞間の間質空間においても見出される、別のタイプの細胞外小胞である。マイクロ小胞は、形質膜のフラグメントから作られる。従って、これらは、エキソソームとは異なり、より小さく、細胞内に生成される。ミトコンドリアDNAを含まないエキソソームとは対照的に、星状細胞および膠芽腫に由来するマイクロ小胞は、ミトコンドリアDNAを含む。マイクロ小胞は、本発明の目的のためのエキソソームに等しいようである。
【0031】
膀胱がんと診断されたヒト患者に関しては、尿サンプルを集めることによって、エキソソームが集められ得る。DNAおよびRNAを保存し得るサンプル貯蔵技術は、当該分野で公知である。同様に、尿からのエキソソームの単離は、従来の分離技術を使用して行われ得る。
【0032】
あるいは、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)が使用され得る。FISHは、染色体の特異的標的部分に結合するが、十分にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件が使用される場合には、高い配列相補性の程度でそのように結合する蛍光プローブを使用する、分子細胞遺伝学的技術である。FISHは、1980年代初期に開発された。例えば、Langer-Safer, P. R. et al., Immunological Method For Mapping Genes On Drosophila Polytene Chromosomes, 79 Proceedings of the National Academy of Sciences 4381 (1982)を参照のこと。FISHは、染色体上のまたはDNAフラグメント(例えば、尿中で見出される遊離DNA)中の特異的DNA配列の存在または非存在を検出し、場所を特定し得る。
【0033】
我々の診断法においてFISHを使用するために、CDKN2Aの一部と、好ましくは、CDKN2A中に含まれる8個のエキソンのうちの1またはこれより多くとハイブリダイズし得るプローブが構築される。プローブは、その標的と特異的にハイブリダイズするには十分大きいが、ストリンジェントでないハイブリダイゼーション条件(この条件は、不適切な標的配列に対する偽陽性ハイブリダイゼーションの形成をもたらし得る)を要求するほどには大きくないものでなければならない。我々は、約40bpのプローブを好ましいとしているが、より長いかまたはより短いものも、求められる特異的CDKN2A変異に依存して使用され得る。いったん作製されると、プローブは、発蛍光団で、抗体に対する標的で、またはビオチンで直接タグ化される。タグ化は、当該分野で教示される種々の方法(例えば、タグ化ヌクレオチドを使用する、ニックトランスレーションまたはポリメラーゼ連鎖反応)で行われ得る。
【0034】
蛍光プローブが、例えば、尿サンプル中で標的DNAに結合されか否か、およびどこで結合されるかを見出すために、蛍光顕微鏡法が使用され得る。FISHはまた、細胞、循環腫瘍細胞、および組織サンプル中の特異的RNA標的(例えば、mRNA)を検出し、場所を特定するために使用され得る。
【0035】
尿サンプル中のexoDNAを配列決定する代替手段として、その尿サンプルから遊離DNAを単離し、その遊離DNAを配列決定し得る。
【0036】
exoDNAの分析から、インターフェロン療法に応答する膀胱がん患者集団および応答しない膀胱がん患者集団における決定的な差異が明らかになる。処置に応答する患者は、処置に応答しない患者が発現するものとは異なるCDKN2A発現レベルを有する。発現におけるこれらの異なるレベルは、その遺伝子における欠失、またはその遺伝子におけるヘテロ接合性喪失から生じるようである。
【0037】
我々の見識によれば、主治医が最も応答する可能性の高いそれら患者に処置を制限することを可能にするので、rAd-IFN遺伝子治療の安全性および有効性は改善され得る。さらに、我々の見識によれば、インターフェロン発現を誘導する他の滴注処置(例えば、BCGワクチン)の安全性および有効性は同様に改善され得る。同様に、我々の見識によれば、がん「チェックポイントインヒビター」の有効性が改善され得る。チェックポイントインヒビターは、CDKN2A欠失を有するがん患者では効果的ではないと考えられている。このような患者を同定することで、当業者がインターフェロン療法とチェックポイントインヒビター療法とをこのような患者において併用し、チェックポイントインヒビターの阻害を克服するためにインターフェロンを使用することが可能になる。
【0038】
したがって、我々はここで、この特許が膀胱がんを処置する方法であって、その方法が、ヒトにおいて膀胱がんを診断する工程、そのヒトのCDKN2A発現レベルを測定する工程、および次いで、そのヒトに、インターフェロン発現を誘導する薬剤を滴注する工程を包含する方法を網羅することを意図する。
【0039】
我々は同様に、この特許が膀胱がんを処置する方法であって、ここで上記膀胱がんが高グレードである方法を網羅することを意図する。
【0040】
我々は同様に、この特許が膀胱がんを処置する方法であって、ここで上記薬剤がrAd-IFNまたはマイコバクテリア細胞壁抽出物のような非複製薬剤(non-replicating agent)である方法を網羅することを意図する。
【0041】
我々は同様に、この特許が膀胱がんを処置する方法であって、ここで上記薬剤がBCGワクチンのような複製薬剤である方法を網羅することを意図する。
【0042】
我々は同様に、この特許が、膀胱がんを処置する方法であって、ここでヒトのCDKN2A発現レベルを測定する工程が、膀胱組織サンプルを採取する工程およびその組織サンプル中のCDKN2A発現レベルを測定する工程を要する方法を網羅することを意図する。あるいは、我々は、この特許が膀胱がんを処置する方法であって、ここでヒトのCDKN2A発現レベルを測定する工程が、尿サンプルを採取する工程およびその尿サンプル中のCDKN2A発現レベルを、好ましくは、その尿サンプル中のエキソソームを分析する工程によって、しかし、例えば、その尿サンプル中の例えば、遊離DNAを分析する工程によっても測定する工程を要する方法を網羅することを意図する。
【0043】
我々は同様に、この特許が膀胱がんを処置する方法であって、ここでヒトがまた、がんチェックポイントインヒビターで処置されている方法を網羅することを意図する。
【0044】
我々は同様に、我々の特許が膀胱組織サンプル中でCDKN2A発現レベルを測定し得るコンパニオン診断検査を網羅することを意図する。
【0045】
さらなる実施形態およびバリエーションは、本開示の検討後に当業者に容易に明らかである。我々は、従って、我々の添付の法的な特許請求の範囲がこのような実施形態を包含することを意図する。
【0046】
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
ヒトにおいて筋層非浸潤性膀胱がんを処置する方法であって、前記方法は、
a. ヒトにおいて筋層非浸潤性膀胱がんを診断する工程、および次いで、
b. 前記ヒトのCDKN2A発現レベルを測定する工程、および次いで、
c. 前記ヒトの膀胱の内腔へと、インターフェロン発現を誘導する薬剤を滴注する工程、
を包含する方法。
(項目2)
前記膀胱がんは、高グレードである、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記薬剤は、非複製薬剤である、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記非複製薬剤は、インターフェロン導入遺伝子を担持する複製欠損ウイルスベクターを含む、項目3に記載の方法。
(項目5)
インターフェロン導入遺伝子を担持する前記複製欠損ウイルスベクターは、ナドファラジーン・ラデノベクを含む、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記薬剤は、複製薬剤を含む、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記複製薬剤は、カルメットゲラン桿菌ワクチンを含む、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記ヒトのCDKN2A発現レベルを測定する工程は、膀胱組織サンプルを採取する工程および前記組織サンプル中のCDKN2A発現レベルを測定する工程を要する、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記ヒトのCDKN2A発現レベルを測定する工程は、尿サンプルを採取する工程および前記尿サンプル中のCDKN2A発現レベルを測定する工程を要する、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記CDKN2A発現レベルを測定する工程は、前記尿サンプル中のエキソソームを分析する工程を包含する、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記CDKN2A発現レベルを測定する工程は、前記尿サンプル中の遊離DNAを分析する工程を包含する、項目9に記載の方法。
(項目12)
前記CDKN2A発現レベルを測定する工程の後に、チェックポイントインヒビターを前記ヒトに投与する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記ヒトのCDKN2A発現レベルを測定する工程は、CDKN2Aの一部とハイブリダイズし得るプローブを使用して、蛍光インサイチュハイブリダイゼーションを使用する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記プローブは、CDKN2Aに含まれる少なくとも1つのエキソンとハイブリダイズする一部を含む、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記プローブは、約40bpの長さである、項目13に記載の方法。
(項目16)
前記プローブは、約40bpの長さである、項目14に記載の方法。