▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧
特開2023-165901多能性幹細胞から各種細胞への段階的製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165901
(43)【公開日】2023-11-17
(54)【発明の名称】多能性幹細胞から各種細胞への段階的製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20231110BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20231110BHJP
C12N 5/0735 20100101ALN20231110BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20231110BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20231110BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/077
C12N5/0735
C12N5/0789
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023165868
(22)【出願日】2023-09-27
(62)【分割の表示】P 2020506658の分割
【原出願日】2019-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2018048439
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100203253
【弁理士】
【氏名又は名称】村岡 皓一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100179039
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】池谷 真
(72)【発明者】
【氏名】中島 大輝
(57)【要約】
【課題】多能性幹細胞から体節細胞、および体節細胞から真皮節細胞、筋節細胞、硬節細胞および靱帯節細胞、並びに間葉系間質細胞の段階的製造方法を提供する。
【解決手段】多能性幹細胞を、GSK3β阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、多能性幹細胞から体節細胞を製造する方法を提供する。体節細胞をGSK3β阻害剤およびBMPを含む培地にて培養する工程を含む、体節細胞から真皮節細胞を製造する方法を提供する。硬節細胞を、FGFを含む培地で培養し、次いでBMPおよびTGFβを含む培地で培養する工程を含む、硬節細胞から靱帯節細胞を製造する方法を提供する。体節細胞を、FGFを含む培地で培養する工程を含む、体節細胞から間葉系間質細胞を製造する方法を提供する。また、上記方法並びに既知方法を適宜組み合わせて多能性幹細胞から体節細胞を経て筋節細胞、真皮節細胞、硬節細胞および靱帯節細胞を製造する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮筋節細胞を提供する工程、および
皮筋節細胞を、GSK3β阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、皮筋節細胞から筋節細胞を製造する方法。
【請求項2】
皮筋節細胞が、体節細胞を、GSK3β阻害剤を含む培地で培養する工程を含む方法で得られたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
体節細胞が、多能性幹細胞を、GSK3β阻害剤を含む培地で培養する工程を含む方法で得られたものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
皮筋節細胞を提供する工程、および
皮筋節細胞を、GSK3β阻害剤およびBMPを含む培地にて培養する工程を含む、皮筋節細胞から真皮節細胞を製造する方法。
【請求項5】
皮筋節細胞が、体節細胞を、GSK3β阻害剤を含む培地で培養する工程を含む方法で得られたものである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
体節細胞を提供する工程、および
体節細胞を、GSK3β阻害剤およびBMPを含む培地にて培養する工程を含む、体節細胞から真皮節細胞を製造する方法。
【請求項7】
得られた真皮節細胞培養物を、FACSにより純化する工程をさらに含む、請求項4~6いずれかに記載の方法。
【請求項8】
GSK3β阻害剤が、CHIR99021である、請求項4~7いずれかに記載の方法。
【請求項9】
BMPがBMP4である、請求項4~8いずれかに記載の方法。
【請求項10】
体節細胞を提供する工程、および
体節細胞を、FGFを含む培地で培養する工程を含む、体節細胞から間葉系間質細胞を製造する方法。
【請求項11】
体節細胞が、多能性幹細胞を、GSK3β阻害剤を含む培地で培養する工程を含む方法で得られたものである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
FGFがFGF2である、請求項10または11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、多能性幹細胞から体節細胞の製造方法に関する。本願はまた、多能性幹細胞から製造された体節細胞を更に分化誘導することにより、多能性幹細胞から筋節細胞、真皮節細胞、硬節細胞、靱帯節細胞および間葉系間質細胞を製造する方法に関する。本願はまた、体節細胞から真皮節細胞、靱帯節細胞および間葉系間質細胞を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内因性シグナル伝達環境の再現は、多能性幹細胞(pluripotent stem cells, PSC)からの所望の細胞種の誘導に重要だと考えられている。発生生物学の知見に基づいて、アクチビン/Nodal/TGFβシグナル伝達が、多能性幹細胞から中内胚葉への分化を誘導し、BMPシグナル伝達が多能性幹細胞から中胚葉への分化を誘導し、これらのシグナルの妨害が神経細胞を誘導することがわかっている(非特許文献1~4)。
【0003】
注目すべきことに、アクチビン/Nodal/TGFβシグナル伝達およびBMPシグナル伝達で誘導された中胚葉は、沿軸中胚葉(神経管と側板中胚葉との間に形成される、中胚葉のサブ集団)ではなく、主に側板中胚葉(中胚葉の側部(腹部)のサブ集団)からなることが報告されている。いくつかの治験が、アクチビン/Nodal/TGFβに基づくプロトコルの改変によって沿軸中胚葉を誘導するために行われたが、誘導の比率は相対的に低い(約20%)ままであったと報告されている(非特許文献5)。
【0004】
近年、いくつかのグループが、異なる考えに基づく沿軸中胚葉の誘導の成功を報告している(非特許文献6~9)。これらの報告では、神経(背側)となる運命へ誘導するため、細胞をアクチビン/Nodal/TGFβを含まない処理、またはTGFβ阻害剤を含む処理を行っており、さらに相対的に高濃度のGSK3阻害剤(WNTシグナル伝達活性化剤)を用いている。これらのプロトコルを用いることで、沿軸中胚葉の誘導率は、約70~95%に達した(非特許文献7および9)。この神経から沿軸中胚葉への変換は、胚形成において神経と沿軸中胚葉に共通の前駆体が存在することを示唆する(非特許文献10および11)。これらの前駆体は神経中胚葉前駆体または軸性中胚葉と呼ばれる。この理論は、Wnt3aノックアウトマウスにおいて、沿軸中胚葉の消失の代わりに異所性(二次)神経管の形成が認められる事実(非特許文献12および非特許文献12)によっても支持される。
【0005】
沿軸中胚葉およびその先の分化の誘導は達成できたが、依然として対処すべきいくつかの問題がある。脊椎動物の発生の過程において、沿軸中胚葉はまず、未分節中胚葉(PSM)を後方に、体節(SM)を前方に形成する。体節は最終的に、背側が皮筋節(DM)に、腹側が硬節に分化する。皮筋節は真皮の前駆体である真皮節(D)および骨格筋の前駆体である筋節(MYO)を生じ、硬節のサブ集団は、腱および靱帯の前駆体である靱帯節を形成する(非特許文献14)。多能性幹細胞から誘導された体節細胞が完全なものであるというためには、誘導された体節細胞が、真皮節細胞、筋節細胞、硬節細胞および靱帯節細胞への分化能を示すことが重要である。上述の報告は、筋節細胞および硬節細胞の誘導には成功しているが、真皮節細胞および靱帯節細胞における誘導プロトコルは、未だ確立されていない。さらに、側板中胚葉は間葉系間質細胞(MSC)の主要な供給源である(非特許文献15)が、体節細胞もまた、間葉系間質細胞の供給源になり得る。しかしながら、多能性幹細胞から、沿軸中胚葉を介して間葉系間質細胞を誘導した報告はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bernardo, A.S., Faial, T., Gardner, L., Niakan, K.K., Ortmann, D., Senner, C.E., Callery, E.M., Trotter, M.W., Hemberger, M., Smith, J.C., et al. (2011). BRACHYURY and CDX2 mediate BMP-induced differentiation of human and mouse pluripotent stem cells into embryonic and extraembryonic lineages. Cell Stem Cell 9, 144-155.
【非特許文献2】Chambers, S.M., Fasano, C.A., Papapetrou, E.P., Tomishima, M., Sadelain, M., and Studer, L. (2009). Highly efficient neural conversion of human ES and iPS cells by dual inhibition of SMAD signaling. Nat Biotechnol 27, 275-280.
【非特許文献3】Fasano, C.A., Chambers, S.M., Lee, G., Tomishima, M.J., and Studer, L. (2010). Efficient derivation of functional floor plate tissue from human embryonic stem cells. Cell Stem Cell 6, 336-347.
【非特許文献4】Sumi, T., Tsuneyoshi, N., Nakatsuji, N., and Suemori, H. (2008). Defining early lineage specification of human embryonic stem cells by the orchestrated balance of canonical Wnt/beta-catenin, Activin/Nodal and BMP signaling. Development 135, 2969-2979.
【非特許文献5】Sakurai, H., Sakaguchi, Y., Shoji, E., Nishino, T., Maki, I., Sakai, H., Hanaoka, K., Kakizuka, A., and Sehara-Fujisawa, A. (2012). In vitro modeling of paraxial mesodermal progenitors derived from induced pluripotent stem cells. PLoS One 7, e47078.
【非特許文献6】Chal, J., Oginuma, M., Al Tanoury, Z., Gobert, B., Sumara, O., Hick, A., Bousson, F., Zidouni, Y., Mursch, C., Moncuquet, P., et al. (2015). Differentiation of pluripotent stem cells to muscle fiber to model Duchenne muscular dystrophy. Nat Biotechnol 33, 962-969.
【非特許文献7】Loh, K.M., Chen, A., Koh, P.W., Deng, T.Z., Sinha, R., Tsai, J.M., Barkal, A.A., Shen, K.Y., Jain, R., Morganti, R.M., et al. (2016). Mapping the Pairwise Choices Leading from Pluripotency to Human Bone, Heart, and Other Mesoderm Cell Types. Cell 166, 451-467.
【非特許文献8】Umeda, K., Zhao, J., Simmons, P., Stanley, E., Elefanty, A., and Nakayama, N. (2012). Human chondrogenic paraxial mesoderm, directed specification and prospective isolation from pluripotent stem cells. Sci Rep 2, 455.
【非特許文献9】Xi, H., Fujiwara, W., Gonzalez, K., Jan, M., Liebscher, S., Van Handel, B., Schenke-Layland, K., and Pyle, A.D. (2017). In Vivo Human Somitogenesis Guides Somite Development from hPSCs. Cell Rep 18, 1573-1585.
【非特許文献10】Gouti, M., Delile, J., Stamataki, D., Wymeersch, F.J., Huang, Y., Kleinjung, J., Wilson, V., and Briscoe, J. (2017). A Gene Regulatory Network Balances Neural and Mesoderm Specification during Vertebrate Trunk Development. Developmental cell 41, 243-261 e247.
【非特許文献11】Takemoto, T., Uchikawa, M., Yoshida, M., Bell, D.M., Lovell-Badge, R., Papaioannou, V.E., and Kondoh, H. (2011). Tbx6-dependent Sox2 regulation determines neural or mesodermal fate in axial stem cells. Nature 470, 394-398.
【非特許文献12】Takada, S., Stark, K.L., Shea, M.J., Vassileva, G., McMahon, J.A., and McMahon, A.P. (1994). Wnt-3a regulates somite and tailbud formation in the mouse embryo. Genes & development 8, 174-189.
【非特許文献13】Yoshikawa, Y., Fujimori, T., McMahon, A.P., and Takada, S. (1997). Evidence that absence of Wnt-3a signaling promotes neuralization instead of paraxial mesoderm development in the mouse. Developmental biology 183, 234-242.
【非特許文献14】Brent, A.E., Schweitzer, R., and Tabin, C.J. (2003). A somitic compartment of tendon progenitors. Cell 113, 235-248.
【非特許文献15】Sheng, G. (2015). The developmental basis of mesenchymal stem/stromal cells (MSCs). BMC developmental biology 15, 44.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願は多能性幹細胞から体節細胞を製造する方法を提供することを目的とする。本願の別の目的は、体節細胞から真皮節細胞を製造する方法を提供することである。本願の更に別の目的は、体節細胞から靱帯節細胞を誘導する方法を提供することである。本願の更に別の目的は、体節細胞から間葉系間質細胞を誘導する方法を提供することである。
【0008】
本願はまた、多能性幹細胞から体節細胞を分化誘導し、体節細胞をさらに筋節細胞、真皮節細胞、硬節細胞および靱帯節細胞、並びに間葉系間質細胞へそれぞれ分化誘導することにより、多能性幹細胞から筋節細胞、真皮節細胞、硬節細胞、靱帯節細胞および間葉系間質細胞を誘導する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の方法の全容(但し間葉系間質細胞の製造以外)を
図1に示す。多能性幹細胞から、インビトロで未分節中胚葉(PSM)を介して体節細胞(SM)を製造した。得られた体節細胞は、生体において体節から更に分化誘導されることが知られている、真皮節(D)、筋節(MYO)、硬節(SCL)および靱帯節(SYN)それぞれに段階的にインビトロで分化させることができた。各誘導プロトコルを、決定した。なお、この図は、論文(Buckingham et al., 2003)から改変した図である。
【0010】
本願は多能性幹細胞を提供する工程、および
多能性幹細胞を、GSK3β阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、多能性幹細胞から体節細胞を製造する方法を提供する。本態様において、多能性幹細胞をGSK3β阻害剤を含む培地で培養する工程は好ましくは、
(1)多能性幹細胞をGSK3β阻害剤を含む培地で培養して未分節中胚葉細胞培養物を得る工程、および
(2)未分節中胚葉細胞培養物を、GSK3β阻害剤を含む培地で培養して体節細胞培養物を得る工程を含んでいる。
【0011】
本願はまた、上記方法にて体節細胞を得、さらに(3)体節細胞をGSK3β阻害剤およびBMPを含む培地にて培養する工程を含む、多能性幹細胞から皮筋節細胞を製造する方法を提供する。本願はさらに、(3)で得られた皮筋節細胞をGSK3β阻害剤を含む培地にて培養する工程(4)を含む、多能性幹細胞から筋節細胞を製造する方法を提供する。筋節細胞は、既知方法によって更なる分化を誘導し、骨格筋細胞を得ることができる。かかる多能性幹細胞から体節細胞、筋節細胞を経て骨格筋細胞を製造する方法もまた、本願に含まれる。
【0012】
本願はまた、体節細胞を提供する工程、および
体節細胞をGSK3β阻害剤およびBMPを含む培地にて培養する工程(5)を含む、
体節細胞から真皮節細胞を製造する方法を提供する。本態様において、体節細胞は多能性幹細胞から上記方法により製造された細胞であっても、他の方法で得られたものであってもよい。すなわち本態様によって、多能性幹細胞から真皮節細胞を製造する方法が提供される。真皮節細胞は既知方法にてさらに分化誘導して真皮細胞を得ることができる。本態様で得られる真皮節細胞をさらに分化誘導する工程を含む、真皮細胞を製造する方法もまた、本願に含まれる。
【0013】
本願はまた、上記方法で体節細胞を得、得られた体節細胞をソニックヘッジホッグ活性化剤およびBMP阻害剤を含む培地にて培養する工程(6)を含む、多能性幹細胞から硬節細胞を製造する方法を提供する。硬節細胞を更に既知方法にてさらに分化誘導して、骨、軟骨などを得る方法は知られている。多能性幹細胞から硬節細胞を介して骨、軟骨などを得る方法もまた、本願に含まれる。
【0014】
本願はまた、硬節細胞を提供する工程、
(7-1)硬節細胞を、FGFを含む培地で培養する工程、および
(7-2)工程(7-1)で得られた細胞培養物を、BMPおよびTGFβを含む培地で培養する工程を含む、硬節細胞から靱帯節細胞を製造する方法を提供する。本態様において、硬節細胞は、本願の方法により体節細胞から製造されたものであってよく、この場合に体節細胞は本願の方法により多能性幹細胞から製造されたものであってよい。すなわち、本態様において、体節細胞から靱帯節細胞を製造する方法、および多能性幹細胞から靱帯節細胞を製造する方法が提供される。帯節細胞は既知方法にて更に分化誘導して腱、靱帯を製造することができる。本態様により靱帯節細胞を得、得られた靱帯節細胞を更に分化誘導して腱や靱帯を製造する方法もまた本願に含まれる。
【0015】
本願はさらに、体節細胞を提供する工程、および
体節細胞をFGFを含む培地で培養する工程を含む、体節細胞から間葉系間質細胞を製造する方法を提供する。本態様における体節細胞は、多能性幹細胞から本願の方法によって誘導したものであっても、他の公知の方法で提供される細胞であってもよい。すなわち、本態様によって、多能性幹細胞から体節細胞を経て間葉性間質細胞を製造する方法が提供される。
本態様において得られる間葉系間質細胞を既知方法にて更に分化を誘導して、軟骨、骨、脂肪細胞を製造することができる。間葉系間質細胞を得、間葉系間質細胞の分化を更に誘導して軟骨、骨、脂肪細胞を製造する方法もまた、本願に含まれる。
【発明の効果】
【0016】
本願によって、遺伝子導入をすることなく多能性幹細胞から体節細胞へと効率的に分化誘導することができる。本願によって得られる体節細胞は、皮筋節細胞、筋節細胞、硬節細胞、靱帯節細胞へとさらに誘導することができる。本願によって得られる体節細胞はまた、間葉系間質細胞へ誘導することができる。
【0017】
即ち、本願の方法によって遺伝子導入することなく多能性幹細胞から体節細胞を経て筋節細胞、皮筋節細胞、硬節細胞、靱帯節細胞および間葉系間質細胞を製造することができる。また、これらの細胞から更に分化誘導して真皮細胞、骨格筋細胞、骨、軟骨、腱および靱帯を得ることができる。
【0018】
本願の方法にて製造される細胞は、細胞移植治療などに応用することができる。例えば本願の方法に製造される細胞は、筋ジストロフィー、関節軟骨欠損、骨欠損、腱断裂などの筋骨格障害を治療するための細胞医療への利用が期待される。また、遺伝性疾患者の体細胞由来のiPS細胞から本願の方法によって製造される細胞は、かかる疾患の疾患モデルとして利用することができる。本願の方法にて得られる真皮節および真皮細胞は、皮膚科学研究や化粧品開発のためのモデルとして、あるいは細胞移植による皮膚創傷治療剤や皮膚疾患研究のための疾患モデルの作成に利用することができる。
【0019】
本願はまた、本願の方法によって多能性幹細胞から誘導された細胞を用いる、細胞移植治療方法を提供する。本願の方法は、筋ジストロフィー、関節軟骨欠損、骨欠損、腱断裂などの筋骨格障害の治療のために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本願の方法の全容(但し間葉系間質細胞の製造を除く)を示す概略図。
【
図2A】ヒトiPS細胞から未分節中胚葉(PSM)を経て体節細胞(SM)へ分化させ、体節細胞(SM)からさらに硬節細胞(SCL)、靱帯節細胞(SYN)への段階的分化、体節細胞(SM)から皮筋節細胞(DM)を経て筋節細胞(MYO)並びに真皮節細胞(D)への段階的分化誘導の概略図。
【
図2B】実施例1におけるヒトiPS細胞から未分節中胚葉細胞(PSM)誘導のプロトコルの概略図を示す。
【
図2C】未分節中胚葉細胞(PSM)から体節細胞(SM)が形成される過程におけるDLL1およびPAX3の発現パターンを示す。
【
図2D】未分節中胚葉細胞誘導の最適なプロトコルを決定するため、ヒトiPS細胞を種々の分化誘導条件にて培養して得た細胞を、FACSにてDLL1およびPAX3-GFPでソートした結果。図中の各記号は培地に添加した各成分を示す。S:SB431542 10μM、C:CHIR99021 10μM、D:DMH1 2μM、F:FGF2 20ng/ml。
【
図2E】iPS細胞および、未分節中胚葉細胞誘導培地での培養4日目の細胞の、iPS細胞および未分節中胚葉細胞のマーカーについてのRT-qPCR分析結果を示す。各細胞をDLL1でソーティングした細胞について遺伝子発現を分析した。エラーバーは平均値±SE(n=3)である。
【
図2F】iPS細胞から未分節中胚葉細胞へ誘導する際の、最適な培養日数を調べた結果。iPS細胞をSCDF条件(
図2D)にて1~5日培養した培養細胞のDLL1およびPAX3の発現をFACSにて分析した。
【
図2G】異なるiPS細胞株をSCDF条件(
図2D)にて4日間培養した培養細胞のDLL1の発現をFACSにて分析した。
【
図2H】無血清およびフィーダー細胞無しの条件下で維持されているiPS細胞株である1231A3をSCDF条件(
図2D)にて4日間培養した培養細胞のDLL1の発現をFACSにて分析した。
【0021】
【
図3A】実施例2の未分節中胚葉細胞から体節細胞誘導のプロトコルの概略図。
【
図3B】種々の濃度のCおよびSを含む培地で4日間培養した細胞のDLL1およびPAX-3GFPの発現をFACSにて分析した。S10:SB431542 10μM、C1、C5およびC10:それぞれCHIR99021 1、5および10μM、D2:DMH1 2μM、F20:FGF2 20ng/ml。
【
図3C】未分節中胚葉細胞から体節細胞を誘導する工程において、誘導前後の細胞マーカーの発現をRT-qPCRにて分析した。エラーバー:平均値±SE(n=3)
【
図3D】体節細胞誘導の4日目(iPS細胞培養開始からDay8)における、体節細胞特異的細胞マーカー遺伝子の発現をRT-qPCRにて分析した。エラーバー:平均値±SE(n=3)。S10:SB431542 10μM、I10:IWR1 10μM、C5:CHIR99021 5μM。*p<0.05;***p<0.001(ダネットの多重比較t検定)。n.s:有意差なし。
【0022】
【
図4A】実施例3の体節細胞(SM)から、皮筋節細胞(DM)を介する、筋節細胞(MYO)および真皮節細胞(D)への指向性分化誘導プロトコルの概略図。
【
図4B】体節細胞(SM)から種々の濃度のCHIR99021およびBMP4を添加した皮筋節細胞誘導培地による培養3日目の細胞における種々のマーカー遺伝子の発現を、RT-qPCRにて分析した。添加物なしの対照(φ、φ)と比較した、ダネットの多重比較t検定による、***p<0.001
【
図4C】皮筋節細胞への分化の指標となるEN1の発現を、iPS細胞を対照として用いてFACSによって分析した。エラーバー:平均値±SE(n=3)。
【
図4D】筋節細胞への分化の進行について、筋節細胞のマーカーであるMYOD、MYOG、PAX7および皮筋節細胞のマーカーであるALX4の遺伝子の発現量をRT-qPCRで測定した。エラーバー:平均値±SE(n=3)。
【
図4E】体節細胞(SM)、皮筋節細胞(DM)、真皮節細胞(D)、筋節細胞(MYO)および皮膚繊維芽細胞(DF)マーカー遺伝子の経時的な発現量の変化をRT-qPCRで分析した。なお、左下グラフ(DM/Dマーカー)の右の縦軸はEN1の相対的発現量の指標である。エラーバー:平均値±SE(n=3)。
【
図4F】皮筋節細胞(DM)から真皮節細胞(D)への誘導の9日目のEN1とPDGFRaの発現をFACSで調べた。3組の実験から、平均値±SEを示す。iPS細胞を対照集団として用いた。エラーバー:平均値±SE(n=3)。
【0023】
【
図5A】体節細胞(SM)から、硬節細胞(SCL)への誘導、および硬節細胞から靱帯節細胞(SYN)および軟骨への分化誘導におけるプロトコルの概略図。
【
図5B】体節細胞(SM)から硬節細胞(SCL)への分化誘導4日目の硬節細胞マーカー遺伝子(PAX1、PAX9およびNKX3.2)の発現量をRT-qPCRにて調べた。3組の実験の平均値±SEを示す。
【
図5C】硬節細胞(SCL)から三次元軟骨形成誘導(3DCI)21日目の軟骨形成マーカーの相対発現量。硬節細胞における発現量を1とした。エラーバー:平均値±SE(n=3)
【
図5D】硬節細胞(SCL)から二次元骨形成誘導(2DOI)18日目の骨形成マーカーの相対発現量。硬節細胞における発現量を1とした。エラーバー:平均値±SE(n=3)
【
図5E】硬節細胞(SCL)から靱帯節細胞(SYN)への誘導21日間の靱帯節細胞マーカー遺伝子SCX、COLIA1、MKXおよびCOLIA2の発現量の経時変化。3組の実験の平均値±SEを示す。
【
図5F】硬節細胞(SCL)から靱帯節細胞(SYN)への誘導21日目の細胞のSCX発現をFACSにて調べた。iPS細胞を対照として用いた。
【0024】
【
図6A】iPS細胞から段階的に分化を誘導した各段階の細胞における各マーカー遺伝子の発現量の、ヒートマップ解析結果。
【
図6B】iPS細胞から、未分節中胚葉細胞および体節細胞を介して、4種の細胞への段階的な誘導を示す、PCAプロット。
【0025】
【
図7A】体節細胞(SM)から体節細胞由来間葉系間質細胞(SMMSC)誘導プロトコルの概略図。
【
図7B】体節細胞を、FGF2(4ng/ml)を添加した10%FBS含有培地で12日間培養して得た細胞の、FACS分析結果。CD44
+、CD73
+、CD105
+およびCD45
-間葉系間質細胞が誘導された。体節細胞を、対照集団として用いた。
【
図7C】体節細胞と体節細胞由来間葉系間質細胞における種々の細胞マーカーの相対発現量発現量。発現量の多い方を1とした。
【
図7D】体節細胞由来硬節細胞と、体節細胞由来間葉系間質細胞における種々の細胞マーカーの相対発現量。発現量の多い方を1とした。
【
図8A】実施例6のプロトコルの概要を示す。FOP-iPS細胞およびresFOP-iPS細胞から体節細胞を経て間葉系間質細胞(SMMSC)、硬節細胞(SCL)を誘導し、それぞれフィブロネクチンで被覆したディッシュ上にスポットし、アクチビンA(30ng/ml)を添加した軟骨誘導基本培地中の軟骨誘導条件下で5日間処理した。
【
図8B】誘導された間葉系間質細胞及び硬節細胞のACVR1の相対発現量。エラーバー:平均値±SE(n=6)。resFOP-iPS細胞由来のMSCまたはSCL細胞における発現レベルをそれぞれ1とした。
図8B~H、J~Lにおいて、エラーバー:平均値±SE(n=3)。スチューデントのt検定による、*p<0.05;**<0.01;***<0.001。n.s、有意な差なし;FOP、進行性骨化性線維異形成症;resFOP、レスキューされたFOPクローン;CI、軟骨形成誘導;R667、R667 10nM;Rapa、ラパマイシン 10nM。
【
図8C】FOP-iPS細胞およびresFOP-iPS細胞から体節細胞を経て間葉系間質細胞を得、それぞれの間葉系間質細胞をアクチビンAを添加した軟骨誘導条件下で5日間培養誘導した細胞の軟骨形成マーカーの相対発現量。resFOP-iPS由来細胞の発現量を1とした。
【
図8D】
図8Dのそれぞれの細胞のDNA量に対するGAG/DNA分析結果。
【
図8E】FOP-iPS細胞およびresFOP-iPS細胞から体節細胞を経て硬節細胞を得、それぞれの硬節細胞をアクチビンAを添加した軟骨誘導条件下で5日間培養誘導した細胞の軟骨形成マーカーの相対発現量。resFOP-iPS由来細胞の発現量を1とした。
【
図8G】FOP-iPS細胞から体節細胞を経て間葉系間質細胞を得、それぞれの間葉系間質細胞をアクチビンAを添加した軟骨誘導条件下、R667またはラパマイシンの存在/不存在下で5日間培養誘導した細胞の軟骨形成マーカーの相対発現量。
【
図8I】FOP-iPS細胞から体節細胞を経て間葉系間質細胞を誘導し、FACSによりPDGFRα
+/CD31
-集団およびPDGFRα
-/CD31
-集団に単離した。
【
図8J】
図8Iの各細胞集団を軟骨誘導条件下で5日培養した際のGAG/DNA分析結果。
【
図8K】
図8Jの細胞における軟骨細胞形成マーカーの相対発現量。PDGFRα
-/CD31
-細胞における発現量を1とした。
【
図8L】
図8Jの細胞におけるPAI1およびMMP1(共に、異常なFOP-ACVR1シグナル伝達の代替マーカー)の相対発現量。PDGFRα
-/CD31
-細胞における発現量を1とした。
【0026】
【
図9A】ゼノフリー環境における硬節細胞(SCL)から靱帯節細胞(SYN)への誘導8日目までの靱帯節細胞関連マーカー遺伝子(SCX、MKX、TNMD、TNCC、COL1A1、COL1A2およびFMOD)の発現量の経時変化。縦軸は硬節細胞での発現量を1とした。
【
図9B】ゼノフリー環境における硬節細胞(SCL)から靱帯節細胞(SYN)への誘導8日目までの靱帯節細胞関連マーカー遺伝子(SCX、TNMD、COL1A1およびCOL1A2)の発現量とヒト健常前十字靱帯(hACL)試料の各マーカー遺伝子の発現量との比較。
【
図9C】靱帯節細胞(SYN)誘導21日目の免疫染色画像。
【0027】
【
図10A】アキレス腱断裂モデルラットの作製および飼育方法の概要。
【
図10B】移植後1週間毎に取得した、移植群(Trans)および非移植群(Ctrl)の右後肢のフットプリント。
【
図10C】移植群(Trans)および非移植群(Ctrl)のアキレスの機能的指標(Achilles Functional Index, AFI)。0、7、14日目において、n=8;21、28日目において、n=4。*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001(スチューデントのt検定)。n.s:有意差なし。
【
図10D】移植の2週間後における、移植群(Trans)および非移植群(Ctrl)のトレッドミルでの歩行機能の観察。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本願明細書および請求の範囲において、数値について「約」という場合、示された数値の±20%、±15%まで、±10%まで、または±5%の値までを包含するものとする。
【0029】
本明細書中に記載される「細胞」の由来は、ヒト及び非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、トリなど)であり、特に限定はされないが、ヒト由来の細胞が特に好ましい。
【0030】
本願の方法において、細胞の培養には、動物細胞培養用基礎培地へ必要な因子を添加した培地を用いる。本願において用い得る動物細胞培養用基礎培地としては、例えば、Iscove's modified Eagle's Medium 培地、Ham's F12培地、MEM Zinc Option培地、IMEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、およびこれらの混合培地などが包含される。基礎培地には、血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS))が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、ウシ血清アルブミン(BSA)トランスフェリン、アポトランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時の血清代替物)(Invitrogen)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロール、モノチオグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質(例えば、chemically defined lipid concentrate)、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(Invitrogen)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、増殖因子、抗生物質(例えば、ペニシリンおよびストレプトマイシン)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、およびこれらの同等物などの1つ以上の物質も含有しうる。
【0031】
1つの実施態様において、以下に説明する体節細胞から間葉系間質細胞を誘導する工程を除き、基礎培地としては好ましくは無血清培地あるいは合成培地(Chemically defined medium、以下「CDM」)が用いられる。CDM培地としては、Iscove's modified Eagle's Medium/ Ham's F12培地 1:1(GIBCO, Grand Island, NY, USA)に1x chemically defined lipid concentrate (GIBCO)、15mg/mlアポトランスフェリン(Sigma, St. Louis, MO)、450mMモノチオグリセロール(Sigma)、5mg/ml精製BSA(結晶化による99%精製;Sigma)、7mg/mlインスリン(WAKO)およびペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を添加した培地が例示される。以下本願明細書においてこの組成の培地を「CDM基礎培地」という。
【0032】
また、培養は好ましくはフィーダー細胞を用いず、必要に応じて培養基質を用いて行えばよい。培養基質としては、例えば市販の細胞外マトリクスであるマトリゲル(BD, Bedford, MA, USA)が例示される。
【0033】
また、他の実施態様において、以下に説明する体節細胞から間葉系間質細胞を誘導する工程を除き、ゼノフリー条件下で行うことが可能である。例えば、多能性幹細胞から未分節中胚葉細胞を誘導する工程、未分節中胚葉細胞から体節細胞を誘導する工程、体節細胞から硬節細胞を誘導する工程、および硬節細胞から靱帯節細胞を誘導する工程をゼノフリー条件下で実施できる。「ゼノフリー」とは、培養対象の細胞の生物種とは異なる生物由来の成分を含まない培地または培養条件を意味する。ゼノフリー培地としては、特に限定されないが、StemFit(登録商標) AK02培地(味の素株式会社)、StemFit(登録商標) AK03培地(味の素株式会社)、およびCTS(商標) KnockOut SR XenoFree Medium(Gibco)などが例示され、例えばAK03培地である。また、ゼノフリー培養においては、ゼノフリー培地と併せてゼノフリー培養基質を用いることが好ましい。ゼノフリー培養基質としては組み替えヒトラミニン511のインテグリン結合部位(E8)断片が例示される。かかるゼノフリー培養基質としては、iMatrix511(株式会社ニッピ)、およびCTS CELLstart Substrate(Gibco)などが例示され、例えばiMatrix511である。
【0034】
本願の方法において、細胞の培養は一般的な動物細胞培養条件下で行えば良い。培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃である。培養は、好適にはCO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は、好ましくは約2~5%である。
【0035】
各工程において目的とする細胞が得られたことは、得られた細胞の細胞表面マーカーの発現プロファイルを調べることにより確認することができる。細胞表面マーカーの発現プロファイルの確認は、公知の方法を用いて行えばよく、例えばRT-qPCR、免疫細胞化学分析、FACS(Fluorescence-activated cell sorting)などが挙げられる。
【0036】
各工程において得られる細胞培養物は、更なる分化誘導に供する際に純化して用いてもよい。また、目的とする細胞を含む細胞培養物を、目的の細胞について純化して提供してもよい。細胞の純化は、例えば細胞表面のマーカーに基づいて行うことができる。例えば目的とする細胞が発現する、あるいは発現しない細胞表面マーカーに対する抗体を用いてFACSにてソートする方法が例示される。
【0037】
多能性幹細胞から体節細胞の製造
本願は多能性幹細胞を提供する工程、および
多能性幹細胞を、GSK3β阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、多能性幹細胞から体節細胞を製造する方法を提供する。
【0038】
多能性幹細胞とは、生体に存在する全ての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、それには、例えば胚性幹(ES)細胞(J.A. Thomson et al. (1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al. (1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848;J.A. Thomson et al. (1996), Biol. Reprod., 55:254-259; J.A. Thomson and V.S. Marshall (1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)、精子幹細胞(「GS細胞」)(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)、人工多能性幹(iPS)細胞(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);WO2007/069666)、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)(WO2011/007900)などが含まれる。好ましくは、多能性幹細胞はヒト多能性幹細胞、例えばES細胞やiPS細胞である。
【0039】
特にiPS細胞は治療や移植に用いるための細胞を製造する場合の材料として特に好適に用いられる。本願により得られる細胞を治療のために用いる場合、拒絶反応が起こらないという観点から、移植先の個体のHLA遺伝子型と同一もしくは実質的に同一である体細胞から得たiPS細胞を用いることが望ましい。ここで、「実質的に同一」とは、移植した細胞に対して免疫抑制剤により免疫反応が抑制できる程度にHLA遺伝子型が一致していることであり、例えば、HLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3遺伝子座あるいはHLA-Cを加えた4遺伝子座が一致するHLA型を有する体細胞である。もちろん、患者自身の体細胞から誘導されたiPS細胞を用いて、治療のために用いる細胞を製造してもよい。
【0040】
多能性幹細胞は、公知の方法を用いて製造したものを用いても、市販の多能性幹細胞や、研究あるいは移植医療のためにその由来する個体の情報と共に保存された多能性幹細胞を用いてもよい。頻度の高いHLAハプロタイプをホモで有するヒトをドナーとして用いることにより、汎用性の高いiPS細胞バンクを構築するプロジェクトが日本において現在進行中であり(CYRANOSKI, Nature vol. 488, 139(2012))、例えばかかるiPS細胞バンクから取得された多能性幹細胞を用いてもよい。ヒト体細胞からiPS細胞を製造する方法としては、例えばKoyanagi-Aoi et al., 2013; Nakagawa et al., 2014; Okita et al., 2011; Takahashi et al., 2007などの報告がある。iPS細胞の誘導に際してフィーダー細胞を用いず、完全にゼノフリー条件下で誘導する方法もまた知られている(Nakagawa M, et al. Scientific Reports 4:3594 (2014))。かかるゼノフリー条件下で誘導されたiPS細胞を用いてもよい。
【0041】
また、多能性幹細胞は遺伝子疾患患者由来の細胞から誘導したものを用いてもよい。かかる遺伝子疾患由来のiPS細胞から本願の方法によって得られた体節細胞、および体節細胞から更に分化誘導された細胞は疾患モデル細胞として創薬研究および疾患メカニズムの解明に応用可能である。例えば、進行性骨化性繊維異形成症患者の体細胞からiPS細胞を誘導することが報告されている(Matsumoto et al.,2014)。
【0042】
(1)多能性幹細胞(PSC)から未分節中胚葉細胞(PSM)への分化誘導
未分節中胚葉細胞を多能性幹細胞から製造する方法は知られており、公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば多能性幹細胞を比較的高濃度のGSK3β阻害剤を含む培地中で培養することによって、比較的高い誘導率で未分節中胚葉細胞へと誘導することができる(非特許文献7および9:Loh et al 2016およびXi 2017)。
【0043】
GSK3β阻害剤はGSK3βタンパク質のキナーゼ活性(例えば、βカテニンに対するリン酸化能)を阻害する物質として定義され、既に多数のものが知られている。GSK3β阻害剤はまた、WNTシグナル伝達活性化剤としても知られている。例えば、インジルビン誘導体であるBIO(別名、GSK-3β阻害剤IX;6-ブロモインジルビン3'-オキシム)、マレイミド誘導体であるSB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、SB415286(3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物であるGSK-3β阻害剤VII(4-ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803-mts(別名、GSK-3βペプチド阻害剤;Myr-N-GKEAPPAPPQSpP-NH2)および高い選択性を有するCHIR99021(6-[2-[4-(2,4-Dichlorophenyl)-5-(4-methyl-1H-imidazol-2-yl)pyrimidin-2-ylamino]ethylamino]pyridine-3-carbonitrile)が挙げられる。これらの化合物は、例えばCalbiochem社やBiomol社等から市販されており容易に利用することが可能である。他の入手先から入手しても、あるいは自ら作製してもよい。
【0044】
多能性幹細胞から未分節中胚葉細胞を製造する際に使用されるGSK3β阻害剤としては、例えばCHIR99021が例示される。GSK3β阻害剤の濃度は当業者が適宜定めればよく、比較的高濃度とする必要がある。GSK3β阻害剤としてCHIR99021を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.1μM~50μM、好ましくは1~20μM、より好ましくは約10μMとすることが例示される。
【0045】
多能性幹細胞から未分節中胚葉細胞を製造する際に使用される培地は、好ましくは、さらにTGFβ阻害剤、BMP阻害剤およびFGFのうち少なくとも1つを含み、最も好ましくは3種全てを含む。
【0046】
本願明細書および請求の範囲において用いるTGFβ阻害剤とは、TGFβ、Activin、NodalといったTGFβファミリーの分子が受容体へと結合し、下流のSMADへと続くシグナル伝達を阻害する物質であり、受容体であるALKファミリーへの結合を阻害する物質、またはALKファミリーによるSMADのリン酸化を阻害する物質である限り特に限定されない。例えば、Lefty-1(NCBI Accession No.として、マウス:NM_010094、ヒト:NM_020997が例示される)、SB431542、SB202190(以上、R.K.Lindemann et al., Mol. Cancer, 2003, 2:20)、SB505124 (GlaxoSmithKline)、NPC30345、SD093、SD908、SD208(Scios)、LY2109761、LY364947、LY580276 (Lilly Research Laboratories)、A-83-01(WO 2009146408) ALK5阻害剤II(2-[3-[6-メチルピリジン-2-イル]-1H-ピラゾル-4-イル]-1,5-ナフチリジン)、TGFβRIキナーゼ阻害剤VIII(6-[2-tert-ブチル-5-[6-メチル-ピリジン-2-イル]-1H-イミダゾル-4-イル]-キノキサリン)およびこれらの誘導体などが例示される。
【0047】
多能性幹細胞から未分節中胚葉細胞を製造する際に用いるTGFβ阻害剤としては、例えばSB431542が挙げられる。TGFβ阻害剤の濃度は当業者が適宜定めれば良く特に限定されない。TGFβ阻害剤としてSB431542を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.1μM~50μM、好ましくは1~20μM、より好ましくは約10μMとすることが例示される。
【0048】
BMP阻害剤としては、Chordin、Noggin、Follistatinなどのタンパク質性阻害剤、Dorsomorphin(6-[4-(2-piperidin-1-yl-ethoxy)phenyl]-3-pyridin-4-yl-pyrazolo[1,5-a]pyrimidine)、その誘導体(DMH1など)(P. B. Yu et al. (2007), Circulation, 116:II_60; P.B. Yu et al. (2008), Nat. Chem. Biol., 4:33-41; J. Hao et al. (2008), PLoS ONE, 3(8):e2904)およびLDN-193189(すなわち、4-(6-(4-(piperazin-1-yl)phenyl)pyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl)quinoline)が例示される。
【0049】
多能性幹細胞から未分節中胚葉細胞を製造する際に使用されるBMP阻害剤としては、例えばDMH1が用いられる。BMP阻害剤の濃度は当業者が適宜定めれば良く特に限定されない。BMP阻害剤としてDMH1を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.1μM~20μM、好ましくは1~5μM、より好ましくは約2μMとすることが例示される。
【0050】
FGF(繊維芽細胞増殖因子)としては、FGF2、FGF7、FGF8、FGF10が例示される。多能性幹細胞から未分節中胚葉細胞を製造する際に使用されるFGFとしては、例えばFGF2が用いられる。FGFの濃度は当業者が適宜定めれば良く特に限定されない。FGFとしてFGF2を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.1ng/ml~100ng/ml、好ましくは1~50ng/ml、より好ましくは約20ng/mlとすることが例示される。
【0051】
多能性幹細胞から未分節中胚葉細胞を製造する際の培養日数は、当業者が適宜定めれば良く特に限定されない。例えば1~7日、好ましくは3~5日、より好ましくは約4日と
すればよい。
【0052】
未分節中胚葉細胞は、例えばDLL1を発現する細胞として特定することができる。多能性幹細胞としてiPS細胞を用いる場合、iPS細胞から未分節中胚葉細胞が製造されたことの確認は、iPS細胞に特有のマーカー、例えばNANOG、OCT3/4、SOX2が発現しないこと、および未分節中胚葉細胞のマーカーであるBRACHYURY、DLL1、TBX6、MSGN1およびWNT3Aのいずれか1つまたはその組み合わせの発現によって確認することができる。
【0053】
本工程で得られる未分節中胚葉細胞培養物は、純化した上でその後の工程に供しても、そのまま用いてもよい。細胞培養物中の特定種類の細胞の純化には、例えば未分節中胚葉細胞が発現する、あるいは発現しない細胞表面マーカーに対する抗体を用いたFACSを用いることが例示される。一例として細胞表面のDLL1の発現を指標にFACSでソートすることが挙げられる
【0054】
(2)未分節中胚葉細胞(PSM)から体節細胞(SM)への分化誘導
体節細胞は、複数の細胞型(真皮節(D)、筋節(MYO)、硬節(SCL)および靭帯節(SYN)など)を生じるトランジェントな幹細胞であり、また、出生後に骨、軟骨および脂肪を生じる間葉系間質細胞(MSC)の起源ともなる細胞である。
【0055】
未分節中胚葉細胞を、GSK3β阻害剤を含む培地中で培養して、体節細胞を誘導する。未分節中胚葉細胞から体節細胞を製造する際に使用されるGSK3β阻害剤は、上述のものと同様のものを用いることができ、例えばCHIR99021であり得る。GSK3β阻害剤の濃度は当業者が適宜定めれば良く特に限定されない。GSK3β阻害剤としてCHIR99021を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.1μM~50μM、好ましくは1~20μM、より好ましくは約5μMとすることが例示される。
【0056】
未分節中胚葉細胞から体節細胞を製造する際に使用される培地には、さらにTGFβ阻害剤を含んでもよい。TGFβ阻害剤は、上述したものと同様のものを用いることができ、例えばSB431542であり得る。TGFβ阻害剤の濃度は当業者が適宜定めれば良く、限定されない。TGFβ阻害剤としてSB431542を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.1μM~50μM、好ましくは1~20μM、より好ましくは約10μMとすることが例示される。
【0057】
未分節中胚葉細胞から体節細胞を製造する際の培養日数は特に限定されず、例えば1~7日、好ましくは3~5日、より好ましくは約4日とすればよい。
【0058】
体節細胞が生成したことは、体節細胞マーカー、例えばMEOX1およびPARAXISや転写因子であるPAX3のうちの1以上の発現、未分節中胚葉細胞マーカーの1以上の発現の消失を適宜組み合わせて確認することができる。
【0059】
体節細胞から種々の細胞への段階的分化誘導
(3)体節細胞(SM)から皮筋節細胞(DM)への分化誘導
皮筋節は、体節の背側が分化して形成され、真皮の前駆体である真皮節および骨格筋の前駆体である筋節を生じる。
【0060】
皮筋節細胞を体節細胞から製造する方法は知られており、公知のいずれの方法を用いてもよい。皮筋節細胞は例えば、GSK3阻害剤およびBMPを含む培地で培養することによって、製造できる。
【0061】
体節細胞から皮筋節細胞を製造するにあたり、出発物質として用いる体節細胞は上記(1)および(2)の工程を経て多能性幹細胞から製造した体節細胞であっても、他の方法で得た体節細胞であってもよい。体節細胞としてはまた、動物の生体から取得してもよい。
【0062】
体節細胞から皮筋節細胞を製造する際に使用されるGSK3阻害剤は、上述したものと同様のものを用いることができ、例えばCHIR99021であり得る。GSK3β阻害剤の濃度特に限定されず、当業者が適宜定めれば良い。GSK3β阻害剤としてCHIR99021を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.1μM~50μM、好ましくは1~20μM、より好ましくは約5μMとすることが例示される。
【0063】
体節細胞から皮筋節細胞を製造する際に使用されるBMPは、例えばBMP2、BMP4、BMP7等が挙げられ、例えばBMP4である。BMPの濃度は特に限定されず、当業者が適宜定めれば良い。BMPとしてBMP4を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.1ng/ml~100ng/ml、好ましくは1~50ng/ml、より好ましくは約10ng/mlとすることが例示される。
【0064】
体節細胞から皮筋節細胞を製造する際の培養日数は特に限定されず、当業者が適宜定めればよい。例えば1~5日、好ましくは2~4日、より好ましくは約3日とすればよい。培養中に培地を適宜新しいものと交換してもよい。
【0065】
皮筋節細胞のマーカーとしてはALX4、EN1およびNOGGIN等が知られている。体節細胞から皮筋節細胞が製造されたことの確認は、体節細胞と共通する転写因子であるPAX3が維持されていること、皮筋節細胞マーカーの一以上が発現すること、および体節細胞マーカーの1以上の発現の消失などを適宜組み合わせて確認することができる。
【0066】
体節細胞から製造した皮筋節細胞培養物は、そのまま筋節細胞や真皮節細胞の製造に用いても良く、または皮筋節細胞を純化した上で真皮節細胞の製造に供してもよい。皮節筋細胞の純化は、皮節筋細胞が発現する、および/または発現しないことが知られているマーカーに対する抗体を用いたFACSにて行うことが例示される。
【0067】
(4)皮筋節細胞(DM)から筋節細胞(MYO)への分化誘導
本願発明のひとつの態様として、多能性幹細胞から上記(1)(2)(3)の工程を経て、皮筋節細胞を得、さらに皮筋節細胞から筋節細胞を得る方法を提供する。筋節細胞は骨格筋細胞の前駆細胞である。筋節細胞は、例えば皮筋節細胞をGSK3β阻害剤を含む培地中で培養することによって、製造できる。
【0068】
皮筋節細胞から筋節細胞を製造する際に使用されるGSK3阻害剤は、上述したものと同様のものを用いることができ、例えばCHIR99021であり得る。GSK3β阻害剤の濃度は特に限定されず、当業者が適宜定めれば良い。GSK3β阻害剤としてCHIR99021を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.1μM~50μM、好ましくは1~20μM、より好ましくは約5μMとすることが例示される。
【0069】
皮筋節細胞から筋節細胞を製造する際の培養日数は特に限定されず、当業者が適宜定めれば良い。例えば20日~45日、25日~40日、約30日とすればよい。培養中に培地を適宜新しいものと交換する。培地の交換は例えば約2~3日毎に行えばよい。
【0070】
筋節細胞マーカーとして、MYOD、MYOGおよびPAX7などが知られている。筋節細胞の生成はこれらの公知のマーカーの1以上の発現および/または1以上の皮筋節細胞マーカーが発現しないことにより確認することができる。また、得られた筋節細胞培養物を節筋細胞が発現する、および/または発現しないことが知られているマーカーに対する抗体を用いたFACSにて純化してもよい。
【0071】
得られた筋節細胞は更に分化させて、骨格筋細胞を製造することができる。筋節細胞から骨格筋細胞への分化誘導方法は公知である。
【0072】
(5)皮筋節細胞(DM)から真皮節細胞(D)への分化誘導
真皮節は、皮筋節から誘導され、背側真皮の前駆体となる。皮筋節細胞をGSK3β阻害剤およびBMPを含む培地にて培養することによって、真皮節細胞を製造することができる。皮筋節細胞から真皮節細胞を製造するにあたり、出発物質として用いる皮筋節細胞は上記(1)~(2)の工程を経て多能性幹細胞から製造した体節細胞から(3)の工程により製造された皮筋節細胞であっても、他の方法で得た体節細胞から製造されたものであっても、その他の方法で得られた皮筋節細胞であってもよい。皮筋節細胞としてはまた、動物の生体から取得したものであってもよい。
【0073】
皮筋節細胞から真皮節細胞を製造する際に使用されるGSK3阻害剤は、上述したものと同様のものを用いることができ、例えばCHIR99021であり得る。GSK3β阻害剤の濃度は特に限定されず、当業者が適宜定めれば良い。GSK3β阻害剤としてCHIR99021を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.1μM~50μM、好ましくは1~20μM、より好ましくは約5μMとすることが例示される。
【0074】
皮筋節細胞から真皮節細胞を製造する際に使用されるBMPは、例えばBMP2、BMP4、BMP7等が挙げられ、例えばBMP4である。BMPの濃度は特に限定されず、当業者が適宜定めれば良い。BMPとしてBMP4を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.1ng/ml~100ng/ml、好ましくは1~50ng/ml、より好ましくは約10ng/mlとすることが例示される。
【0075】
皮筋節細胞から真皮節細胞を製造する際の培養日数は特に限定されず、当業者が適宜定めれば良い。一態様において例えば8日~15日、約9日とすればよい。
【0076】
真皮節細胞のマーカーとしては、PDGFRα、EN1、ALX4、MSX1およびCOLIA2などが知られている。真皮節細胞の生成はこれらの公知のマーカーの発現および皮筋節細胞マーカーの発現の消失の1以上を適宜組み合わせて確認することができる。また、得られた真皮節細胞培養物を真皮節細胞が発現する、および/または発現しないことが知られているマーカーに対する抗体を用いたFACSにて純化してもよい。抗PDGFRα抗体を用いてFACSにて真皮節細胞を純化することが例示される。
【0077】
得られた真皮節細胞は更に分化させて真皮細胞を製造することができる。
【0078】
(6)体節細胞(SM)から硬節細胞(SCL)への分化誘導
硬節は、体節の腹側が分化して形成され、腱および靱帯の前駆体である靱帯節を生じる。本願発明のひとつの態様として、多能性幹細胞から上記(1)(2)の工程を経て、体節細胞を得、さらに体節細胞から硬節細胞を製造方法を提供する。
【0079】
硬節細胞を体節細胞から製造する方法は知られており(Zhao et l., 2014)て得られた体節細胞から公知のいずれの方法を用いて誘導してもよい。ひとつの態様において、体節細胞をソニックヘッジホッグ活性化剤(SHH活性化剤)およびBMP阻害剤を含む培地で培養することによって、硬節細胞を製造する。
【0080】
ソニックヘッジホッグ活性化剤としては、ヘッジホッグファミリーに属するタンパク質(例えば、Shh、Shh-N)、Shh受容体、Shh受容体アゴニスト(Purmorphamine、SAG)が挙げられ、例えばSAGを用いることができる。SHH活性化剤の濃度は特に限定されず、当業者が適宜定めれば良い。SHH活性化剤としてSAGを用いる場合、その培地中の濃度を例えば、1nM~1μM、好ましくは10~500nM、より好ましくは約100nMとすることが例示される。
【0081】
体節細胞から硬節細胞を製造する際に使用されるBMP阻害剤は、上述したものと同様のものを用いることができ、例えばLDN193189であり得る。BMP阻害剤の濃度は特に限定されず、当業者が適宜定めれば良い。BMP阻害剤としてLDN193189を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.01μM~10μM、好ましくは0.1μM~1μM、より好ましくは約0.6μMとすることが例示される。
【0082】
体節細胞から硬節細胞を製造する際の培養日数は特に限定されず、当業者が適宜定めれば良い。例えば1~5日、好ましくは2~4日、より好ましくは約3日とすればよい。
【0083】
硬節細胞のマーカーとしてはPAX1、PAX9およびNKX3.2等が知られている。硬節細胞の生成はこれらの公知のマーカーの発現および体節細胞に特異的なマーカーの発現の消失の1以上を適宜組み合わせて確認することができる。また、得られた硬節細胞培養物を硬節細胞が発現する、および/または発現しないことが知られているマーカーに対する抗体を用いたFACSにて純化してもよい。
【0084】
(7)硬節細胞(SCL)から靱帯節細胞(SYN)への分化誘導
靱帯節は、硬節の内側部分から分化し、腱および靱帯を生じる。本願の一態様として、以下の工程を含む硬節細胞から靱帯節細胞を製造する方法を提供する:
(7-1)硬節細胞を、FGFを含む培地で培養する工程、および
(7-2)工程7-1で得られた細胞を、BMPおよびTGFβを含む培地で培養する工程。
【0085】
出発物質として用いられる硬節細胞は、体節細胞等の他の細胞種から公知の方法により誘導された細胞であってもよい。硬節細胞を体節細胞から製造する場合、体節細胞は、本願の方法により多能性幹細胞から製造したものであってもよい。
【0086】
硬節細胞から靱帯節細胞を製造する際に使用されるFGFとしては、FGF2、FGF7、FGF8、FGF10が例示され、例えばFGF8である。FGFの濃度は特に限定されず、当業者が適宜定めればよい。FGFとしてFGF8を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.1ng/ml~100ng/ml、好ましくは1~50ng/ml、より好ましくは約20ng/mlとすることが例示される。
【0087】
硬節細胞から靱帯節細胞を製造する際に使用されるBMPとしては、BMP2、BMP4、BMP7が例示され、例えばBMP7である。BMPの濃度は特に限定されず、当業者が適宜定めればよい。BMPとしてBMP7を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.1ng/ml~100ng/ml、好ましくは1~50ng/ml、より好ましくは約10ng/mlとすることが例示される。
【0088】
工程7-1において、培地はさらにTGFβを含んでいてもよい。硬節細胞から靱帯節細胞を製造する際に使用されるTGFβとしては、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3が例示され、例えばTGFβ3である。TGFβの濃度は特に限定されず、当業者が適宜定めればよい。TGFとしてTGFβ3を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.1ng/ml~100ng/ml、好ましくは1~50ng/ml、より好ましくは約10ng/mlとすることが例示される。
【0089】
ある態様においては、硬節細胞培養物から硬節細胞を一旦取り出し、靱帯節培養用培地へ播種して培養を開始する。工程(7-1)および(7-2)それぞれの培養日数は特に限定されず、当業者が適宜定めればよい。工程(7-1)において培地にTGFβを含まない場合、工程(7-1)の培養日数を例えば1~7日、好ましくは約3日、工程(7-2)の日数を約15~25日、好ましくは約18日とすることが例示される。工程(7-1)において培地にTGFβを含む場合、工程(7-1)の培養日数を例えば1~5日、好ましくは約2日、工程(7-2)の日数を例えば約4~8日、好ましくは約6日とすることが例示される。
【0090】
靱帯節細胞のマーカーとしては、SCX、MKX、COL1A1およびCOL1A2等が知られている。靱帯節細胞の生成はこれらの公知のマーカーの発現および硬節細胞マーカーの発現の消失の1以上を適宜組み合わせて確認することができる。また、得られた靱帯節細胞培養物を靱帯節細胞が発現する、および/または発現しないことが知られているマーカーに対する抗体を用いたFACSにて純化してもよい。
【0091】
(8)体節細胞(SM)から体節細胞由来の間葉系間質細胞(SMMSC)への分化誘導
間葉系間質は骨、軟骨、脂肪へと分化することが知られており、間葉系間質細胞は、骨髄、脂肪組織または血液など、身体内の複数の部位から得ることができる多能性細胞である。本願の一つの態様として、体節細胞を、FGFを含む培地で培養する工程を含む、間葉系間質細胞(体節細胞由来間葉系間質細胞)を製造する方法を提供する。体節細胞は、生体内から単離された細胞でも、他の細胞種から製造された細胞であってもよい。ある態様において体節細胞は、上記(1)(2)の工程により多能性幹細胞から誘導された体節細胞が用いられる。
【0092】
体節細胞から間葉系間質細胞を製造する際に使用されるFGFは、上述したものと同様のものを用いることができ、例えばFGF2であり得る。FGFの濃度は特に限定されず、当業者が適宜定めればよい。FGFとしてFGF2を用いる場合、その培地中の濃度を例えば、0.4ng/ml~40ng/ml、好ましくは1~10ng/ml、より好ましくは約4ng/mlとすることが例示される。体節細胞から間葉系間質細胞を製造する際に使用される培地は、αMEM培地が例示される。本工程で用いる培地は、好ましくは血清を含む。血清としてはウシ胎児血清(FBS)を使用しても、ヒト細胞の分化誘導の場合には例えばヒト血清を用いる等、他動物種の血清を用いてもよい。FBSの濃度は特に限定されず、当業者が適宜定めればよい。例えば約10%とすればよい。
【0093】
体節細胞から間葉系間質細胞を製造する際の培養日数は、特に限定されず、当業者が適宜定めればよい。例えば4~30日、好ましくは8~18日、より好ましくは10~15日、さらに好ましくは約12日とすればよい。
【0094】
間葉系間質細胞のマーカーとしては、CD44、CD73、CD105およびCD90などが知られている。間葉系間質細胞の生成はこれらの公知のマーカーの発現および体節細胞マーカーの消失の1以上を適宜組み合わせて確認することができる。また、得られた間葉系間質細胞培養物を間葉系間質細胞が発現する、および/または発現しないことが知られているマーカーに対する抗体を用いたFACSにて純化してもよい。
【0095】
詳述したとおり、本願は多能性幹細胞から体節細胞を得る方法を提供する。本願の方法によって得られる体節細胞は、皮節細胞を経て真皮節細胞、筋節細胞へ、硬節細胞を経て靱帯節細胞へと更に段階的に分化誘導することができる。また、本願の方法によって得られる体節細胞は、更に間葉系間質細胞へと分化誘導することができる。
【0096】
即ち、本願は下記を含む多能性幹細胞から筋節細胞へ分化誘導する方法を提供する:
上記(1)に従い多能性幹細胞(PSC)から未分節中胚葉細胞(PSM)を誘導する、
誘導された未分節中胚葉細胞(PSM)から上記(2)に従い体節細胞(SM)を誘導する、
誘導された体節細胞(SM)から上記(3)に従い皮筋節細胞(DM)を誘導する、および
誘導された皮筋節細胞(DM)から上記(4)に従い筋節細胞(MYO)を誘導する。
【0097】
本願はまた、下記を含む多能性幹細胞から真皮節細胞へ分化誘導する方法を提供する:
上記(1)に従い多能性幹細胞(PSC)から未分節中胚葉細胞(PSM)を誘導する、
誘導された未分節中胚葉細胞(PSM)から上記(2)に従い体節細胞(SM)を誘導する、
誘導された体節細胞(SM)から上記(3)に従い皮筋節細胞(DM)を誘導する、および
誘導された皮筋節細胞(DM)から上記(5)に従い真皮節細胞(D)を誘導する。
【0098】
本願はさらに、下記を含む多能性幹細胞から硬節細胞へ分化誘導する方法を提供する:
上記(1)に従い多能性幹細胞(PSC)から未分節中胚葉細胞(PSM)を誘導する、
誘導された未分節中胚葉細胞(PSM)から上記(2)に従い体節細胞(SM)を誘導する、および
誘導された体節細胞(SM)から上記(6)に従い硬節細胞(SCL)を誘導する。
【0099】
本願はさらにまた、下記を含む多能性幹細胞から靱帯節細胞へ分化誘導する方法を提供する:
上記(1)に従い多能性幹細胞(PSC)から未分節中胚葉細胞(PSM)を誘導する、
誘導された未分節中胚葉細胞(PSM)から上記(2)に従い体節細胞(SM)を誘導する、
誘導された体節細胞(SM)から上記(6)に従い硬節細胞(SCL)を誘導する、および
誘導された硬節細胞(SCL)から上記(7)に従い靱帯節細胞(SYN)を誘導する。
【0100】
本願はさらにまた、下記を含む多能性幹細胞から体節細胞由来の間葉系間質細胞へ分化誘導する方法を提供する:
上記(1)に従い多能性幹細胞(PSC)から未分節中胚葉細胞(PSM)を誘導する、
誘導された未分節中胚葉細胞(PSM)から上記(2)に従い体節細胞(SM)を誘導する、および
誘導された体節細胞(SM)から上記(8)に従い体節細胞由来の間葉系間質細胞(SMMSC)を誘導する。
【0101】
本願はまた、本願の方法によって多能性幹細胞から誘導された細胞を用いる、細胞移植治療方法を提供する。例えば本願で得られた種々のiPS細胞由来体節派生細胞を、筋ジストロフィー、腱断裂などの筋骨格障害の治療のために用いることができる。具体的には靱帯節細胞を、後縦靱帯骨化症や進行性骨化性線維異形成症などの腱・靱帯関連疾患や腱断裂などの治療のために用いることが例示される。
【0102】
腱・靱帯関連疾患や腱断裂などの治療のために本願方法で得られたiPS細胞由来靱帯節細胞を用いる場合、靱帯節細胞は生体適合性基剤等に分散させた上で疾患/損傷部位に注入すればよい。生体適合性基材としては、公知のものを適宜採用でき、マトリゲルが例示される。注入する細胞数や、注入部位は治療対象とする疾患/損傷に応じて適宜定めれば良く、特に限定されない。例えば注入部位1カ所につき1012~106個あるいは1011~107個、もしくは1010~108個のiPS細胞由来靱帯節細胞を注入する。必要に応じて、疾患/損傷部位の縫合など、外科的処置を併せて実施する。
【実施例0103】
以下に実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
細胞培養
ヒトiPS細胞は、Takahashi et al., 2007の方法を用いて調製、維持した。具体的にはヒトiPS細胞を、4ng/ml FGF2(WAKO, Osaka, Japan)を添加した霊長類ES細胞培地(ReproCELL, Tokyo, Japan)中のSNLフィーダー細胞上で維持した。特に断りの無い限り、実施例1~5の全ての実験において、エクソン1のPAX3コード配列の1つの対立遺伝子のひとつとEGFPを置換した201B7-PAX3-GFP iPS細胞を用いた。同一のノックイン設計を有する、PAX3GFP/+ヘテロ接合体マウスは、生存可能で、繁殖性である。GFP発現はマウスの内因性Pax3の発現を意味する(Lagha, M. et al., 2010)。また、実施例1では、種々のiPS細胞系統(201B7、TIG118-4f、414C2、409B2および1231A3)(Koyanagi-Aoi et al., 2013; Nakagawa et al., 2014; Okita et al., 2011; Takahashi et al., 2007に準じて製造された細胞)を用いて、iPS細胞系統の相違による再現性を調べた。
【0104】
培地
実施例において用いたCDM基礎培地の組成を以下に示す:
Iscove's modified Eagle's Medium/ Ham's F12培地 1:1(GIBCO, Grand Island, NY, USA)に1x chemically defined lipid concentrate (GIBCO)、15mg/mlアポトランスフェリン(Sigma, St. Louis, MO)、450mMモノチオグリセロール(Sigma)、5mg/ml精製BSA(結晶化による99%精製;Sigma)、7mg/mlインスリン(WAKO)およびペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を添加
【0105】
RT-qPCR分析
全RNAを、RNeasyキット(Qiagen, Valencia, CA)で精製し、DNase-oneキット(Qiagen)で処理し、ゲノムDNAを除去した。逆転写を、1μgの全RNAおよびSuperscript III逆転写酵素(Invitrogen)を用いて、製造者の説明書に従って、行った。RT-qPCRを、Thunderbird SYBR qPCR Mix (TOYOBO, Osaka, Japan)を用いて行い、QunatStudio12K Flex PCRシステム(Applied Biosystems, Forester City, CA)、またはStepOne real-time PCRシステム(Applied Biosystems)を用いて、分析した。
【0106】
免疫細胞化学、免疫組織化学、組織学的分析
抗体での免疫細胞化学を行う前に、プレート上の細胞を、2%パラホルムアルデヒドで、4℃で10分間固定し、PBSで2回洗浄し、透過処理のための界面活性剤としての0.2%MtOH(Nacalai Tesque)または0.2%tween20(sigma)/PBSと共に、4℃で、15分間インキュベートし、ブロッキングワン(Nacalai Tesque)または1%BSA/PBSで、4℃で1時間処理し、一次抗体で4℃で一晩処理した。次に、試料を、0.2%tween20/PBSで数回洗浄し、二次抗体と共に1時間、室温でインキュベートした。DAPI(1:5000;Sigma)を用いて、核を対比染色した。抗II型コラーゲン抗体の免疫組織化学および、誘導した3DCIペレットの組織学的分析(HE染色、アルシアンブルー染色およびサフラニンO染色)を、Center for Anatomical, Pathological and Forensic Medical Researches, Graduate School of Medicine, Kyoto Universityで行った。試料の観察および評価を、BZ-X700(Keyence, Osaka, Japan)で行った。MHCの免疫細胞化学に関して、BZ-X700のオプティカルセクショニングシステムを用いて、写真を撮影した。
【0107】
FACS(Fluorescence-activated cell sorting)および分析
Fluorescence-activated cell sorting(FACS)を、製造者のプロトコルに従って、AriaII(BD)で行った。また、細胞内フローサイトメトリー解析を、製造者のプロトコルに従って、AriaII(BD)で行った。簡潔に述べると、細胞を、抗体染色の前に、固定および透過処理した。各分化マーカーの発現比率を、iPSCまたは誘導された体節細胞と比較することによって、計算した。
【0108】
GAG(グルコサミノグリカン)アッセイ
ペレット中のGAG含量を、Blyscan Glycosaminoglycan Assay Kit (Biocolor Ltd., Belfast, UK)で定量化した。DNA含量を、PicoGreen dsDNA Quantitation Kit (Invitrogen)で定量化した。
【0109】
マイクロアレイ分析
全RNAを、RNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いて調製した。cDNAを、GeneChip WT (Whole Transcript) Sense Target Labeling and Control Reagents Kitを用いて、製造者(Affymetrix, Santa Clara, CA)によって記載されるように、合成した。GeneChip Human Gene 1.0 ST expression arrayとのハイブリダイゼーション、洗浄、スキャニングを、製造者(Affymetrix)のプロトコルに従って、行った。発現値を、RMA要約法を用いて計算し、得られたデータを、ヒートマップおよび主成分分析(PCA)のために、GeneSpring GX 14.5 (Agilent Technologies, Santa Clara, CA, USA)で分析した。PCA分析を、(統計的有意性を伴って、2倍高い)発現値において行った。統計解析を、Benjamini and Hochberg False Discovery Rate (BH-FDR 50.01)多重検定補正での一元配置分散分析を用い、次いでテューキーのHSD事後検定(GeneSpring GX)を用いて行った。
【0110】
統計
全ての実験の統計的有意性を、GraphPad Prism7 (GraphPad Software, inc., La Jolla, CA, USA)を用いて計算した。0.05未満のP値を、統計的に有意と見なした。
【0111】
【実施例0112】
(1)ヒトiPS細胞から未分節中胚葉細胞(PSM)への分化誘導
フィーダー細胞から分泌される増殖因子および培地中に含まれる増殖因子の影響を最小限にするため、iPS細胞培養物からSNLフィーダー細胞を除去し、ヒトiPS細胞を、マトリゲル(BD, Bedford, MA, USA)で被覆したディッシュ上に播種した(1.3x10
6細胞/10cmディッシュ)。mTeSR1培地(STEMCELL Technology, Vancouver, Canada)を含むフィーダーフリー条件下で3日間培養した。その後、iPS細胞を、CDM基礎培地に4種類の因子を1つずつ、および適宜組み合わせて添加した培地にて4日間培養した(
図2B)。添加した因子は下記のとおりである。2以上の因子を組み合わせて用いる場合には、各記号を並べて示す:
S:10μM SB431542(TGFβ阻害剤;Sigma)
C:10μM CHIR99021(GSK3β阻害剤;WAKO)
D:2μM DMH1(BMP阻害剤;Tocris, Bristol, UK)
F:20ng/ml FGF2
【0113】
培地は3日目に交換した。未分節中胚葉細胞の誘導効率を検出するため、DLL1(未分節中胚葉細胞および体節の後方部分の表面マーカー)陽性で、PAX3-GFP(新たに形成され、分割した体節細胞であることを示す)陰性の細胞集団(
図2C)をFACSで検出した。PAX3は転写因子であるため、PAX3-GFPノックインiPS細胞(PAX3-GFP iPS細胞)を用いて、PAX3陽性細胞の検出に用いた。結果を
図2Dに示す。
【0114】
4種の因子(SB431542、CHIR99021、DMH1およびFGF2)の効果を1種類ずつ分析した。CHIR99021(C)が、DLL1+/PAX3-GFP-細胞を効率的に誘導した(56.3±3.1%)。かかる結果は、先の報告と合致する(Chal et al., 2015; Loh et al., 2016; Sudheer et al., 2016; Umeda et al., 2012; Xi et al., 2017)。次に、2種類の因子の組合せを評価し、CHIR99021および、SB431542またはDMH1(SCまたはCD)が、DLL1+/PAX3-GFP-細胞をより効率的に誘導することを確認した(それぞれ、80.5±1.7%および80.6±1.2%)。しかし、CHIR99021とFGF2の組み合わせ(CF)は逆に効率を抑えた(42.7±1.1%)。DMH1とSB431542およびCHIR99021の組み合わせ(SCD)は、ほとんど最大限にDLL1+/PAX3-GFP-細胞を誘導した(83.8±1.1%)が、DLL1-/PAX3-GFP+細胞も出現した。これは細胞が、この条件下で、PAX3+の体節細胞および/または神経細胞に分化することを示唆する。
【0115】
次に、4種全ての分子を添加(SCDF)して培養したところ、この条件下において、PAX3-GFP+細胞を含まないDLL1+/PAX3-GFP-細胞が、PAX3-GFP iPS細胞から誘導されることがわかった(85.4±0.4%)。DLL1+細胞の誘導効率に関して、SCD、SCFおよびSCDF間に明白な差異はなかったが、SCDFが正確な内因性シグナル伝達環境を再現することから、さらなる分析においてはSCDF条件を用いた。
【0116】
SCDF条件下での未分節中胚葉細胞の誘導は、抗TBX6、BRACHYURYおよびCDX2抗体を用いて行った免疫組織化学によっても確認された(データ示さず)。
【0117】
また、SCDF条件で4日間培養する前後の細胞の、iPS細胞マーカー(NANOG、OCT3/4、SOX2)並びに未分節中胚葉細胞マーカー(BRACHYURY、DLL1、TBX6、MSGN1およびWNT3A)の相対発現量をRT-qPCRにて調べた。結果を
図2Eに示す。SCDF条件下での培養期間を1~5日としたところ、DLL1
+/PAX3-GFP
-細胞の誘導効率は、4日目がピークであった(
図2F)。
【0118】
プロトコルの頑強性を確認するため、他のiPS細胞クローン(201B7、409B2、414C2およびTIG118-4f、並びに1231A3)からのDLL1
+細胞の誘導効率を調べた。各iPS細胞クローンをSCDF条件下で4日間培養してFACSにて分析した。結果を
図2Gおよび2Fに示す。全てのiPS細胞クローンより高い効率でDLL11
+細胞が得られた。また、フィーダー細胞フリー、無血清培地中で維持されているiPS細胞株である1231A3からも、DLL11
+細胞の誘導が認められた。
【実施例0119】
(2)未分節中胚葉細胞(PSM)から体節細胞(SM)への分化誘導
実施例1のSCDF条件でiPS細胞を4日間培養し、FACSでソーティングした全1.0x10
5個のDLL1
+ 未分節中胚葉細胞を、マトリゲルで被覆した12ウェルプレートの1つのウェル上に播種し、体節細胞の誘導を行った(
図3A)。体節細胞誘導は、SB431542および/または5μM CHIR99021を添加したCDM基礎培地中で、4日間行った。培地は、体節細胞誘導の3日目に交換した。PAX3-GFPの発現を体節細胞のマーカーとして用いた。
【0120】
添加した因子とその濃度は以下である:
S10:SB431542 10μM
C1:CHIR99021 1μM
C5:CHIR99021 5μM
C10:CHIR99021 10μM
D2:DMH1 2μM
F20:FGF2 20ng/ml
I10:IWR1 10μM
【0121】
結果を
図3Bに示す。4日間の培養において、10μM SB431542(S10)および5μM CHIR99021(C5)はいずれもPAX3-GFP
+細胞を効率的に誘導した(それぞれ、52.1±0.8%および70.7±0.1%)。両者による処理(S10C5)では、体節細胞の誘導が最大となった(74.7±0.5%)。一方で、より多くの量のCHIR99021(10μM)では、逆にPAX3-GFP
+細胞を誘導できなかった(C10において、0.3±0.0%、およびS10C10において、0.7±0.1%)。この結果より、過剰なWNTシグナル伝達により体節細胞の誘導が抑制されることが示唆される。さらに、FGFおよびBMP阻害の効果についても確認し、10μM SB431542および5μM CHIR99021(S10C5)が、未分節中胚葉細胞からPAX3-GFP
+細胞を最も効率的に誘導することを確認した。
抗PARAXIS(TCF15)抗体を用いた免疫組織化学によっても
図3Bに示したFACSを用いて得られた結果と同じく、体節細胞(SM)であることを示すPARAXIS発現細胞がC4、S10C1、S10C5およびS10C5D2で認められ、その割合はS10C5群で最も高いことが確認された。
【0122】
S10C5条件による誘導前後の未分節中胚葉細胞マーカー(TBX6、MSGN1およびWNT3A)および体節細胞マーカー(MEOX1、PARAXISおよびPAX3)の発現量をRT-qPCRで調べた。結果を
図3Cに示す。体節細胞のマーカーはまた、体節細胞誘導の4日目(iPS細胞から8日目)にピークとなった。同じ条件で誘導した細胞の誘導前後の抗TBX6、PARAXISおよびMEOX1抗体の発現を免疫組織化学で、およびPAX3-GFPの発現を蛍光にて調べたところ、
図3Cと同様の結果が得られた。
【0123】
未分節中胚葉細胞をS10I10、S10およびS10C5の条件にて4日間培養した。得られた細胞における体節マーカーであるPARAXISおよびMEOX1の発現量をRT-qPCRにより調べた。結果を
図3Dに示す。PARAXISおよびMEOX1発現量は、CHIR99021を含む場合に高かった。
またCDH11(上皮性体節細胞のマーカー)の発現を免疫組織化学によって調べたところ、CHIR99021を含む条件(S10C5)においてのみ、CDH11の発現が細胞-細胞ジャンクションに認められた。
FACSソーティング後のPAX3
+細胞の生存数の低かったため、得られた細胞は、ソーティングなしで、実施例3で用いた。
【実施例0124】
体節(SM)細胞から皮筋節細胞(DM)を介し、筋節細胞(MYO)および真皮節細胞(D)の誘導
図4Aに概略を示す。
【0125】
(3)体節細胞(SM)から皮筋節細胞(DM)の誘導
体節細胞誘導に用いた培地から、皮筋節細胞誘導用培地に交換してさらに培養を続けた。WNTシグナル伝達の阻害~活性化のため、10μMのIWR1(Cayman chemical, Michigan, USA)(I10)またはCHIR99021(0、0.1、1および5μM)(C0,C0.1,C1およびC5)を用いた。BMP活性の制御のため、BMP4(R&D, Minneapolis, KA, USA)(0、0.1、1および10ng/ml)(B0,B0.1,B1およびB10)および10μMのDMH1(Tocris)(D10)を用いた。
【0126】
実施例2で得られた体節細胞培養物の培地をCDM基礎培地にWNTシグナル伝達制御のための因子およびBMP活性制御のための因子を添加した培地と交換してさらに培養し、皮筋節細胞を誘導した。培養は3日間行い、2日目に培地を交換した。
【0127】
3日間培養後の細胞について、皮筋節細胞マーカーであるALX4、EN1およびNOGGINの相対発現量をRT-qPCRにて調べた。結果を
図4Bに示す。WNTシグナル活性化剤であるGSK3β阻害剤濃度およびBMP活性化剤濃度がいずれも高い場合に、これらの皮筋節細胞マーカーが最も誘導されることがわかった。同じく得られた細胞について抗ALX4およびEN1抗体を用いた免疫細胞化学、体節細胞および皮筋節細胞両方に発現するPAX3-GFPによっても皮筋節細胞が生成していることを確認した。さらに抗EN1抗体を用いたFACS(
図4C)によっても皮筋節細胞の生成を確認した。
【0128】
(4)皮筋節細胞(DM)から筋節細胞(MYO)の誘導
上記(3)で得た皮筋節細胞から直接筋節細胞を誘導することを試みた。(3)で得た皮筋節細胞培養物の培地を、CDM基礎培地にCHIR99021を5μM添加した培地に交換し、さらに培養した。培地は3日毎に交換し、30日間培養した。6日毎に培養細胞を少量採取し、筋原性マーカーであるMYOD、MYOGおよびPAX7の経時的発現を調べた。培地交換後18~30日後に筋原性マーカーの誘導が認められた。一方、皮筋節細胞マーカーであるALX4の発現は経時的に減少した(
図4D)。また、MYODおよびMYOGの発現を免疫細胞化学によって調べた。皮節細胞から筋節細胞への誘導効率を、MYOD陽性細胞およびMYOG陽性細胞の数に基づき計算したところ、約22%であった。
【0129】
(5)皮筋節細胞(DM)から真皮節細胞(D)への誘導
生体において皮筋節細胞はまた真皮節細胞へ分化し、真皮節細胞は背中の真皮へと分化するが、インビトロで皮筋節細胞から真皮節細胞を経て真皮へと誘導するプロトコルは確立されていない。上記(3)の皮筋節細胞誘導培地(C5B10)中、継代せずに11日目(SMから3日目)以降、皮筋節細胞が生じた後も培養を続けた。種々の細胞マーカーの発現をRT-qPCRによって調べた結果、DM生成から6日後にPAX3およびPARAXIS(皮筋節細胞および体節細胞マーカー:SM/DM markers)ならびにPAX7およびNCAD(皮筋節細胞および筋節細胞マーカー:DM/MYO markers)の発現レベルが減少した(
図4E上段)。そこで、皮筋節細胞から真皮節細胞の誘導を、皮筋節細胞を皮筋節細胞誘導培地(上記(3)の培地)で引き続き培養することによって行った。皮筋節細胞が生成した後、9日間引き続き培養を行い、培地を3日毎に交換した。PDGFRαは、真皮節細胞(D)と皮膚線維芽細胞(DF)において発現し(Orr-Urtreger et al., 1992)、EN1は、真皮節細胞(D)および皮筋節細胞(DM)において発現する(Ahmed et al., 2006)ことが知られている。PDGFRαおよびEN1の発現を、RT-qPCR(
図4E下段)および免疫細胞化学(データ示さず)によって調べ、これらのマーカーが、真皮節細胞誘導工程の9日目において主に発現することがわかった。ALX4およびMSX1(皮筋節細胞と真皮節細胞のマーカー:DM/D markers)ならびにCOL1A2(真皮節細胞と皮膚繊維が細胞のマーカー:D/DFmarkers)の発現はまた、真皮節細胞誘導工程の9日目において上昇した(
図4E下段)。抗PDGFRαおよび抗EN1でFACS分析を行い、真皮節細胞培養物の69.5±1.4%がPDGFRα
+であり、PDGFRα
+細胞の92.7±0.4%がEN1
+であることを確認した(
図4F)。かかる結果から、真皮節細胞(D)が誘導されたことが確認された。
【実施例0130】
体節細胞(SM)から硬節細胞(SCL)を介し、軟骨細胞、骨細胞および靱帯節細胞(SYN)への分化誘導
図5Aに概略を示す。
【0131】
(6)体節細胞から硬節細胞への分化誘導
体節細胞から硬節細胞への誘導を、既知方法(Zhao et al., 2014)により行った。具体的には、体節細胞誘導培地を硬節細胞誘導培地(100nM SAG(SHH活性化剤;Calbiochem, La Jolla, CA, USA)および0.6μM LDN193189(BMP阻害剤;Stemgent, Cambridge, MA, USA)を含むCDM基礎培地)と交換して3日間培養した。培地は2日目に交換した。
【0132】
PAX1、PAX9およびNKX3.2の発現が、体節細胞を3日間の培養した細胞(iPS細胞から11日目)に確認された(
図5B)。抗PAX1および抗PAX9抗体での免疫細胞化学に基づいて計算された、体節細胞から硬節細胞誘導率は約45%であった。
【0133】
硬節細胞(SCL)から3次元軟骨細胞形成誘導(3DCI)
全1.0x106個の誘導された硬節細胞(SCL)を、10ng/ml BMP7(R&D)および10ng/ml TGFβ3(R&D)を添加した、0.5mlの軟骨形成基礎培地(DMEM:F12(Invitrogen)に1%(v/v)ITS+Premix(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)、0.1μMデキサメタゾン(WAKO)、0.17mM L-アスコルビン酸2-リン酸セスキマグネシウム水和物(Sigma)、0.35mMプロリン(Sigma)、0.15%(v/v)グルコース(Sigma)、1mMピルビン酸ナトリウム、2mM GlutaMax (Invitrogen)、1%(v/v)FBS))に懸濁し、15mlのチューブ(Corning Inc., Corning, NY, USA)内に移行し、遠心してペレットを形成し、37℃、5%CO2中でインキュベートした。培地を3日毎に交換した。
【0134】
培養した硬節細胞を回収、遠心し、ペレットを形成し、軟骨形成基礎培地中で更に培養した。アルシアンブルー染色、サフラニンO染色、抗II型コラーゲン抗体による免疫細胞化学(データ示さず)、および軟骨形成マーカー(
図5C)のRT-qPCRによって、硬節細胞からの軟骨誘導の21日目(iPS細胞から32日目)に軟骨が生成したことを確認した。
【0135】
硬節細胞(SCL)から2次元骨形成誘導(2DOI)
全4.0x10
5個の誘導された硬節細胞を、マトリゲルで被覆した12ウェルプレート上に播種し、次いで、MSC go rapid骨形成培地(Biological Industries, Kibbutz Beit-Haemek, Israel)を用いて、2次元で骨細胞への分化を誘導した。骨細胞誘導の18日目(iPS細胞から29日目)の細胞におけるPAX1、RUNX2、COL1A1、OSXおよびOPNの発現(
図5D)並びに細胞のアリザリンレッド染色(データ示さず)により、硬節細胞が骨細胞へ分化したことを確認した。
【0136】
(7)硬節細胞(SCL)から靱帯節細胞(SYN)の誘導
硬節の背側の部分は、靱帯節として定義されており、靱帯節は、腱および靱帯の原基である(Brent et al., 2003)。硬節細胞から靱帯節への誘導プロトコルは本願の前には知られていなかった。誘導した硬節細胞を、0.25%トリプシン-EDTA(GIBCO)でディッシュから取り出し、全5.0x104細胞を、マトリゲルで被覆した24ウェルプレートの1つのウェル上に播種し、次いで靱帯節細胞誘導を行った。
【0137】
硬節細胞を靱帯節細胞誘導培地A(20ng/ml FGF8(Peprotech, Rocky Hill, NJ, USA)を添加したCDM基礎培地)中で、3日間培養した(工程7-1)。その後継代せずに、培地を、靱帯節細胞誘導培地B(10ng/ml BMP7(R&D)および10ng/ml TGFβ3(R&D)を含む、CDM基礎培地)に交換して18日間培養した(工程7-2)。培地を3日毎に交換した。
【0138】
靱帯節細胞への誘導の後期において、靱帯節細胞マーカーである、SCX、MKX、COL1A1およびCOL1A2の発現が、経時的に上昇した(
図5E)。また、各因子のタンパク質の発現を、免疫細胞化学によって靱帯節細胞誘導の21日目に確認して
図5Eと同様の結果を確認した。FACSによってSCX発現細胞を確認し、靱帯節細胞への誘導率が68.0±2.4%であることを確認した(
図5F)。
【0139】
本願実施例により多能性幹細胞から未分節中胚葉(PSM)を経て体節細胞(SM)を誘導した。体節細胞(SM)は、さらに真皮節細胞(DM)、筋節細胞(MYO)、硬節細胞(SCL)および靱帯節細胞(SYN)へと分化誘導した。
各誘導された細胞の遺伝子発現プロファイルを調べた。ヒートマップ解析図を
図6Aに、PCAプロットを
図6Bに示す。これらの図より、各段階の細胞への優先的かつ段階的な分化が示され、この結果は各手法の理論的根拠を支持する。
【実施例0140】
(8)体節細胞(SM)から間葉系間質細胞(MSC)の誘導
体節細胞は、間葉系間質細胞の前駆体となり得るが、ヒト多能性幹細胞から体節細胞を介して間葉系間質細胞を誘導したとの報告は今までなかった。体節細胞から間葉系間質細胞を誘導すべく、体節細胞誘導培地を体節細胞由来間葉系間質細胞誘導培地(10%ウシ胎仔血清(Nichirei Inc., Tokyo, Japan)および4ng/ml FGF2(WAKO)を含む、αMEM(Nacalai Tesque, Kyoto, Japan))に交換してさらに培養した(
図7A)。0.25%トリプシン-EDTA(GIBCO)を用いて容器より培養細胞を剥離し、4日毎に継代を行った。細胞は、2x10
4細胞/cm
3の密度となるよう、組織培養ディッシュ上に播種した。
【0141】
体節細胞由来間葉系間質細胞誘導を12日間行い、12日目に各マーカーの発現量を、FACSで分析した。細胞の形態は線維芽細胞様に変化した。間葉系間質細胞マーカーであるCD44、CD73およびCD105について陽性であり(
図7B)、間葉系間質細胞の生成を確認した。
【0142】
得られた間葉系間質細胞から、上記既知方法により骨形成誘導(OI)、軟骨形成誘導(CI)、脂肪形成誘導(AI)を行い、体節細胞から誘導した間葉系間質細胞(SMMSC)の分化能を確かめた。CI、OI、AIおよびこれらのアッセイ(アリザリンレッド染色、アルシアンブルー染色、オイルレッドO染色)を、既報(Fukuta et al., 2014)に従い行ったところ、軟骨、骨および脂肪細胞の生成が確認できた。
【0143】
体節細胞から誘導される硬節細胞からも、間葉系間質細胞からも、骨形成および軟骨形成を誘導することができる。体節細胞、硬節細胞および間葉系間質細胞を区別するため、体節細胞マーカー(PAX3、PARAXIS、MEOX1)、間葉系間質細胞マーカー(CD44、CD73、CD90およびCD105)、また硬節細胞マーカー(PAX1、PAX9、NKX3.2)の発現を、各細胞において、RT-qPCRで分析した。誘導された間葉系間質細胞は、間葉系間質細胞マーカー(CD44、CD73、CD90およびCD105)陽性であったが、体節細胞または硬節細胞マーカーは陽性ではなかった(
図7Cおよび
図7D)。これらの結果は、上記(8)によって誘導された細胞が、間葉系間質細胞であることを示した。
【実施例0144】
体節細胞から誘導した間葉系間質細胞および、体節細胞から誘導した硬節細胞からの軟骨形成の相違
iPS細胞の有望な用途の一つは、患者特異的なiPS細胞での疾患モデリングである。実施例4および5において、硬節細胞由来の軟骨細胞および体節細胞由来間葉系間質細胞由来の軟骨細胞の2つの異なる種類の軟骨細胞の誘導に成功した。このプロトコルを、遺伝的変異によって生じる、進行性骨化性線維異形成症(FOP)患者の体細胞から作成したiPS細胞に適用した(FOP-iPS細胞)。FOPは、主に生後の患者の軟組織における軟骨内骨化によって特徴付けられる、難治性希少疾患であり、ACVR1に変異が生じて過剰に働くことに起因することが知られている。本発明者らを含む研究グループは先に、FOP-iPS由来の神経堤細胞から誘導した間葉系間質細胞を用い、間葉系間質細胞から軟骨形成の亢進が認められることを報告している(Hino et al., 2015; Matsumoto et al., 2015)。同様にFOP-iPS細胞由来の体節細胞から誘導された間葉系間質細胞に由来する軟骨細胞では、軟骨形成が亢進するが、硬節細胞由来の胚性軟骨細胞では、軟骨形成の亢進は無いことが予測される。
【0145】
試験の概要を
図8Aに示す。体節細胞をFOP-iPS細胞(Matsumoto et al., 2013)および遺伝子を修復した(レスキューした)FOP-iPS細胞(resFOP-iPS細胞)(Hino et al., 2015; Matsumoto et al., 2015)から、上記実施例1および2のプロトコルに従って誘導した。体節細胞由来間葉系間質細胞および硬節細胞を、実施例4および5のプロトコルにしたがって誘導した。
【0146】
得られた間葉系間質細胞と硬質細胞を、アクチビンA(ACVR1変異体の促進剤)を添加した、または添加していない、軟骨形成培地(Hino et al., 2015)を用い、二次元軟骨形成誘導を行った。
【0147】
2次元軟骨形成誘導(2DCI)
全1.5x105個の誘導された間葉系間質細胞または硬節細胞を、5μLの軟骨形成基本培地(DMEM:F12(Invitrogen)、1%(v/v)ITS+Premix(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)、0.1μMデキサメタゾン(WAKO)、0.17mM L-アスコルビン酸2-りん酸セスキマグネシウム水和物(Sigma)、0.35mMプロリン(Sigma)、0.15%(v/v)グルコース(Sigma)、1mMピルビン酸ナトリウム、2mM GlutaMax (Invitrogen)、1%(v/v)FBS)に懸濁し、次いで、フィブロネクチンで被覆した24ウェルプレートの1つのウェルに移行した(BD Biosciences)。37℃、5%CO2中での1時間のインキュベーション後、細胞は微小集積(micromass)を形成した。
【0148】
その後、30ng/mLのアクチビンA(R&D)を含む、または含まない10ng/ml BMP7(R&D)および10ng/ml TGFβ3(R&D)を添加した1mLの軟骨形成基本培地中で、微小集積を、37℃、5%CO2中で、5日間培養した。
【0149】
また、FOP-iPSから誘導した体節細胞由来の間葉系間質細胞から誘導した微小集積を、30ng/mLのアクチビンA(R&D)を含み、10nM R667(Toronto Research Chemicals, Toronto, ON, Canada)または10nMラパマイシン(MedChem Express, Monmouth Junction, NJ, USA)を含む/含まない、1mLの軟骨形成基本培地中で同様に培養した。
【0150】
得られた細胞の分化能を、RT-qPCR分析、グリコサミノグリカン(GAG)定量およびアルシアンブルー染色で分析した。簡潔に述べると、誘導された細胞を、4%パラホルムアルデヒド(WAKO)で30分間固定し、PBSでリンスし、次いで、アルシアンブルー溶液(1%アルシアンブルー、pH1)(MUTO PURE CHEMICAL CO., LTD, Tokyo, Japan)で一晩染色した。
【0151】
結果を
図8B~Dに示す。体節細胞由来間葉系間質細胞と硬節細胞それぞれに由来する軟骨細胞のACVR1の発現レベルは由来する細胞種およびACVR1の変異修復の有無に関わらず、差が無かった(
図8B)。
【0152】
アクチビンA刺激無しの場合、軟骨形成マーカーの発現レベルは由来する細胞種およびACVR1の変異修復の有無に関わらず、差が無かった(データ示さず)。
【0153】
FOP-iPSから誘導した体節細胞由来間葉系間質細胞をアクチビン刺激下で軟骨へと誘導した場合、軟骨形成マーカーの発現量およびグリコサミノグリカン(GAG)産生量に関して、resFOB-iPS細胞から誘導した細胞に比して軟骨形成の亢進を示した(
図8CおよびD)。アルシアンブルー染色においてもFOB-iPS細胞から誘導した体節細胞由来間葉系間質細胞において軟骨形成の亢進が認められた(データ示さず)。一方、アクチビンAで刺激した体節細胞由来の硬節細胞から軟骨細胞を誘導した場合、FOB-iPS由来、resFOB-iPS由来細胞の間に軟骨形成マーカーの発現、グリコサミノグリカン(GAG)定量およびアルシアンブルー染色結果について差は無かった(
図8EおよびF)。
【0154】
FOP-iPSから誘導した体節細胞由来間葉系間質細胞のアクチビン刺激下軟骨誘導の際に、R667またはラパマイシンを添加した場合、軟骨形成マーカーの発現およびグリコサミノグリカン(GAG)産生量の亢進が有意に抑制された(
図8G、H)。また、アルシアンブルー染色により軟骨形成の亢進が抑制されていることを確認した。R667(レチノイン酸受容体γアゴニスト)、ラパマイシン(mTOR阻害剤)は共に異所性骨化の強力な抑制剤であることが報告されている(Hino et al., 2017)。
【0155】
近年、FOP病変の起源細胞の1つとして、PDGFRα
+/CD31
-細胞が提案されている(Dey et al., 2016)。FOP-SMMSCをFACSによって別々にソーティングしPDGFRα
+/CD31
-細胞およびPDGFRα
-/CD31
-細胞を得た(
図8I)。それぞれの細胞から上記プロトコルにて2D軟骨形成分化を行った。単離した細胞におけるACVR1の発現レベルには差が無かった(データ示さず)。想定されるように、PDGFRα
+/CD31
-細胞は、PDGFRα
-/CD31
-細胞と比較して、軟骨形成の亢進を示した(
図8Jおよび6K)。興味深いことに、PAI1およびMMP1(ACVR1変異体活性化の指標遺伝子)が、PDGFRα
+/CD31
-細胞において有意に高かった(
図8L)。
これらの結果を
図8Mにまとめた。FOP表現型という細胞種の特異性を示し、我々のプロトコルが疾患モデリング、表現型分析および薬剤の発見に使用できることを示す。
【実施例0156】
硬節細胞(SCL)から靱帯節細胞(SYN)へのゼノフリー分化誘導
硬節細胞をゼノフリー条件下で誘導されたiPS細胞から、ゼノフリー環境下で誘導した。具体的には、iPS細胞としてゼノフリー条件下で誘導された1231A3を用いた。まず実施例1のSCDF条件でiPS細胞を4日間培養し、未分節中胚葉細胞を誘導した。培地にはStemFit(登録商標) AK03(C液不含)培地(味の素株式会社、以下、AK03(-C)培地)を用いた。次に体節細胞誘導のため、FACSでソーティングした全1.0x105個のDLL1+ 未分節中胚葉細胞を、10μM SB431542および5μM CHIR99021を添加したAK03(-C)培地を含むiMatrix511(ニッピ株式会社)で被覆された12ウェルプレートの各ウェルに播種し、4日間培養した。培地を体節細胞誘導の3日目に交換した。硬節細胞の誘導のため、培地を100nM SAGおよび0.6μM LDN193189を含むAK03(-C)培地に交換し、さらに3日間培養した。硬節細胞誘導の2日目に培地を交換した。
【0157】
靱帯節細胞の誘導を開始する前日にiMatrix511で被覆されたプレートを調製した。iMatrix511で被覆された24ウェルプレートを調製するため、各ウェルに0.5mLのiMatrix511溶液を4℃において添加し、一晩放置した。
【0158】
誘導した硬節細胞培養液の培地を吸引し、PBSで洗浄した。各ウェルに0.2mLの細胞剥離試薬Accutase登録商標(Innovative Cell Technologies, Inc.)を添加し、室温で3分間放置した。次に、各ウェルに0.8mLのAK03(-C)培地を添加し、全ての細胞を擦り取って15mLコニカルチューブに回収した。その後、280×gで3分間遠心した。上清を慎重に吸引し、1mLの靱帯節細胞誘導培地A’(20ng/mL FGF8および10ng/mL TGFβ3を添加したAK03(-C)培地)に再懸濁した。細胞数を自動細胞計数器を用いて計数した。
【0159】
5.0×104個の細胞を、1mLの靱帯節細胞誘導培地A’を含むiMatrix511で被覆された24ウェルプレートの各ウェルに播種し、5%CO2中、37℃で2日間インキュベートした(工程7-1)。靱帯節細胞誘導の2日目に、培地を靱帯節細胞誘導培地B’(10ng/mL BMP7および10ng/mL TGFβ3を添加したAK03(-C)培地)に交換した。5%CO2中、37℃で8日目まで6日間インキュベートした(工程7-2)。培地を2日毎に交換した。
【0160】
工程7-1において、実施例4では20ng/ml FGF8を添加した培地(靱帯節細胞誘導培地A)を使用したが、本実施例では20ng/mL FGF8および10ng/mL TGFβ3を添加した培地(靱帯節細胞誘導培地A’)を使用した。その結果、工程7-1の培養日数が2日に短縮され、工程7-2の培養日数が6日に短縮された。
【0161】
靱帯節細胞誘導開始から8日目まで、7つの靱帯節細胞関連マーカー(SCX、MKX、TNMD、TNCC、COL1A1、COL1A2およびFMOD)の発現が経時的に上昇した(
図9A)。また、誘導8日目における靱帯節細胞関連マーカー(SCX、TNMD、COL1A1およびCOL1A2)のmRNA発現量を調べた。比較のため、ヒト健常前十時靱帯試料(CDD-H-6800-N-R、Articular Engineering社)の各マーカーの発現量を調べた。両者の各マーカーのmRNA発現量は同程度であった(
図9B)。さらに、誘導21日目における免疫染色の結果、各マーカー(SCX、TNMD、COL1A1およびCOL1A2)のタンパク質発現が確認された(
図9C)。
【実施例0162】
iPS細胞由来靱帯節細胞の移植治療効果
実施例7における靱帯節細胞誘導8日目の細胞をアキレス腱断裂モデルラットに移植し、移植治療効果を4週間観察した。
【0163】
アキレス腱断裂モデルラットの作製および飼育の概要を
図10Aに示す。アキレス腱断裂モデルラットを作製するため、8週齢のF344/NSlc雄性ラットの左後肢を切開し(
図10A左上)、踵骨から5mmのアキレス腱部位を切断した(
図10A右上)。その後、切開部を縫合し、3×10
6個のiPS細胞由来靱帯節細胞/50μLマトリゲル:DMEM/F12=1:1の溶液を注射した(
図10A左下)。ラットの尾を吊り上げた状態で1週間飼育し(
図10A右下)、その後3週間観察した。
【0164】
移植後1週間毎に、移植群(Trans)および非移植群(Ctrl)の左後肢のフットプリントを取得した(
図10B)。健常ラットは踵をあげて歩行する(
図10Bの手術前(Pre-OP)参照)。移植群は非移植群と比較して、移植の2週間後に有意な回復が観察された。
【0165】
また、移植治療効果の検証をアキレスの機能的指標(Achilles Functional Index, AFI;Murrell et al., 2014)に基づいて行った(
図10C)。移植群は非移植群と比較して、移植の2週間後に有意な回復が観察された。
【0166】
さらに、移植の4週間後にトレッドミルでの歩行機能の観察を行った(
図10D)。移植群は非移植群と比較して、床から踵の高さおよび足首の角度の有意な回復が示された。
【0167】
引用文献一覧
Ahmed, M.U., Cheng, L., and Dietrich, S. (2006). Establishment of the epaxial-hypaxial boundary in the avian myotome. Dev Dyn 235, 1884-1894.
Benazeraf, B., and Pourquie, O. (2013). Formation and segmentation of the vertebrate body axis. Annual review of cell and developmental biology 29, 1-26.
Bernardo, A.S., Faial, T., Gardner, L., Niakan, K.K., Ortmann, D., Senner, C.E., Callery, E.M., Trotter, M.W., Hemberger, M., Smith, J.C., et al. (2011). BRACHYURY and CDX2 mediate BMP-induced differentiation of human and mouse pluripotent stem cells into embryonic and extraembryonic lineages. Cell Stem Cell 9, 144-155.
Brent, A.E., Schweitzer, R., and Tabin, C.J. (2003). A somitic compartment of tendon progenitors. Cell 113, 235-248.
Brent, A.E., and Tabin, C.J. (2002). Developmental regulation of somite derivatives: muscle, cartilage and tendon. Current opinion in genetics & development 12, 548-557.
Buckingham, M., Bajard, L., Chang, T., Daubas, P., Hadchouel, J., Meilhac, S., Montarras, D., Rocancourt, D., and Relaix, F. (2003). The formation of skeletal muscle: from somite to limb. Journal of anatomy 202, 59-68.
Chal, J., Oginuma, M., Al Tanoury, Z., Gobert, B., Sumara, O., Hick, A., Bousson, F., Zidouni, Y., Mursch, C., Moncuquet, P., et al. (2015). Differentiation of pluripotent stem cells to muscle fiber to model Duchenne muscular dystrophy. Nat Biotechnol 33, 962-969.
Chambers, S.M., Fasano, C.A., Papapetrou, E.P., Tomishima, M., Sadelain, M., and Studer, L. (2009). Highly efficient neural conversion of human ES and iPS cells by dual inhibition of SMAD signaling. Nat Biotechnol 27, 275-280.
Chapman, S.C., Brown, R., Lees, L., Schoenwolf, G.C., and Lumsden, A. (2004). Expression analysis of chick Wnt and frizzled genes and selected inhibitors in early chick patterning. Dev Dyn 229, 668-676.
Chapman, S.C., Schubert, F.R., Schoenwolf, G.C., and Lumsden, A. (2002). Analysis of spatial and temporal gene expression patterns in blastula and gastrula stage chick embryos. Developmental biology 245, 187-199.
Chong, J.J., Yang, X., Don, C.W., Minami, E., Liu, Y.W., Weyers, J.J., Mahoney, W.M., Van Biber, B., Cook, S.M., Palpant, N.J., et al. (2014). Human embryonic-s
tem-cell-derived cardiomyocytes regenerate non-human primate hearts. Nature 510, 273-277.
Dey, D., Bagarova, J., Hatsell, S.J., Armstrong, K.A., Huang, L., Ermann, J., Vonner, A.J., Shen, Y., Mohedas, A.H., Lee, A., et al. (2016). Two tissue-resident progenitor lineages drive distinct phenotypes of heterotopic ossification. Science translational medicine 8, 366ra163.
Fasano, C.A., Chambers, S.M., Lee, G., Tomishima, M.J., and Studer, L. (2010). Efficient derivation of functional floor plate tissue from human embryonic stem cells. Cell Stem Cell 6, 336-347.
Faure, S., de Santa Barbara, P., Roberts, D.J., and Whitman, M. (2002). Endogenous patterns of BMP signaling during early chick development. Developmental biology 244, 44-65.
Fomenou, M.D., Scaal, M., Stockdale, F.E., Christ, B., and Huang, R. (2005). Cells of all somitic compartments are determined with respect to segmental identity. Dev Dyn 233, 1386-1393.
Fukuta, M., Nakai, Y., Kirino, K., Nakagawa, M., Sekiguchi, K., Nagata, S., Matsumoto, Y., Yamamoto, T., Umeda, K., Heike, T., et al. (2014). Derivation of mesenchymal stromal cells from pluripotent stem cells through a neural crest lineage using small molecule compounds with defined media. PLoS One 9, e112291.
Galli, L.M., Willert, K., Nusse, R., Yablonka-Reuveni, Z., Nohno, T., Denetclaw, W., and Burrus, L.W. (2004). A proliferative role for Wnt-3a in chick somites. Developmental biology 269, 489-504.
Gouti, M., Delile, J., Stamataki, D., Wymeersch, F.J., Huang, Y., Kleinjung, J., Wilson, V., and Briscoe, J. (2017). A Gene Regulatory Network Balances Neural and Mesoderm Specification during Vertebrate Trunk Development. Developmental cell 41, 243-261 e247.
Hardy, K.M., Yatskievych, T.A., Konieczka, J., Bobbs, A.S., and Antin, P.B. (2011). FGF signalling through RAS/MAPK and PI3K pathways regulates cell movement and gene expression in the chicken primitive streak without affecting E-cadherin expression. BMC developmental biology 11, 20.
Hino, K., Horigome, K., Nishio, M., Komura, S., Nagata, S., Zhao, C., Jin, Y., Kawakami, K., Yamada, Y., Ohta, A., et al. (2017). Activin-A enhances mTOR signaling to promote aberrant chondrogenesis in fibrodysplasia ossificans progressiva. The Journal of clinical investigation 127, 3339-3352.
Hino, K., Ikeya, M., Horigome, K., Matsumoto, Y., Ebise, H., Nishio, M., Sekiguchi, K., Shibata, M., Nagata, S., Matsuda, S., et al. (2015). Neofunction of ACVR1 in fibrodysplasia ossificans progressiva. Proc Natl Acad Sci U S A 112, 15438-15443.
Hirsinger, E., Duprez, D., Jouve, C., Malapert, P., Cooke, J., and Pourquie, O. (1997). Noggin acts downstream of Wnt and Sonic Hedgehog to antagonize BMP4 in avian somite patterning. Development 124, 4605-4614.
Hubaud, A., and Pourquie, O. (2014). Signalling dynamics in vertebrate segmentation. Nature reviews Molecular cell biology 15, 709-721.
Iimura, T., Yang, X., Weijer, C.J., and Pourquie, O. (2007). Dual mode of paraxial mesoderm formation during chick gastrulation. Proc Natl Acad Sci U S A 104, 2744-2749.
Ikeya, M., and Takada, S. (1998). Wnt signaling from the dorsal neural tube is required for the formation of the medial dermomyotome. Development 125, 4969-4976.
Jiang, Y.J., Aerne, B.L., Smithers, L., Haddon, C., Ish-Horowicz, D., and Lewis,
J. (2000). Notch signalling and the synchronization of the somite segmentation clock. Nature 408, 475-479.
Jouve, C., Iimura, T., and Pourquie, O. (2002). Onset of the segmentation clock in the chick embryo: evidence for oscillations in the somite precursors in the primitive streak. Development 129, 1107-1117.
Kam, R.K., Deng, Y., Chen, Y., and Zhao, H. (2012). Retinoic acid synthesis and functions in early embryonic development. Cell & bioscience 2, 11.
Koyanagi-Aoi, M., Ohnuki, M., Takahashi, K., Okita, K., Noma, H., Sawamura, Y., Teramoto, I., Narita, M., Sato, Y., Ichisaka, T., et al. (2013). Differentiation-defective phenotypes revealed by large-scale analyses of human pluripotent stem cells. Proc Natl Acad Sci U S A 110, 20569-20574.
Lagha, M., Sato, T., Regnault, B., Cumano, A., Zuniga, A., Licht, J., Relaix, F., and Buckingham, M. (2010). Transcriptome analyses based on genetic screens for Pax3 myogenic targets in the mouse embryo. BMC genomics 11, 696.
Lee, J.Y., Zhou, Z., Taub, P.J., Ramcharan, M., Li, Y., Akinbiyi, T., Maharam, E.R., Leong, D.J., Laudier, D.M., Ruike, T., et al. (2011). BMP-12 treatment of adult mesenchymal stem cells in vitro augments tendon-like tissue formation and defect repair in vivo. PLoS One 6, e17531.
Loh, K.M., Chen, A., Koh, P.W., Deng, T.Z., Sinha, R., Tsai, J.M., Barkal, A.A., Shen, K.Y., Jain, R., Morganti, R.M., et al. (2016). Mapping the Pairwise Choices Leading from Pluripotency to Human Bone, Heart, and Other Mesoderm Cell Types. Cell 166, 451-467.
Marcelle, C., Stark, M.R., and Bronner-Fraser, M. (1997). Coordinate actions of BMPs, Wnts, Shh and noggin mediate patterning of the dorsal somite. Development 124, 3955-3963.
Maretto, S., Cordenonsi, M., Dupont, S., Braghetta, P., Broccoli, V., Hassan, A.B., Volpin, D., Bressan, G.M., and Piccolo, S. (2003). Mapping Wnt/beta-catenin signaling during mouse development and in colorectal tumors. Proc Natl Acad Sci U S A 100, 3299-3304.
Matsumoto, Y., Hayashi, Y., Schlieve, C.R., Ikeya, M., Kim, H., Nguyen, T.D., Sami, S., Baba, S., Barruet, E., Nasu, A., et al. (2013). Induced pluripotent stem cells from patients with human fibrodysplasia ossificans progressiva show increased mineralization and cartilage formation. Orphanet journal of rare diseases 8, 190.
Matsumoto, Y., Ikeya, M., Hino, K., Horigome, K., Fukuta, M., Watanabe, M., Nagata, S., Yamamoto, T., Otsuka, T., and Toguchida, J. (2015). New Protocol to Optimize iPS Cells for Genome Analysis of Fibrodysplasia Ossificans Progressiva. Stem Cells 33, 1730-1742.
Moriyama, A., Kii, I., Sunabori, T., Kurihara, S., Takayama, I., Shimazaki, M., Tanabe, H., Oginuma, M., Fukayama, M., Matsuzaki, Y., et al. (2007). GFP transgenic mice reveal active canonical Wnt signal in neonatal brain and in adult liver and spleen. Genesis 45, 90-100.
Nakagawa, M., Taniguchi, Y., Senda, S., Takizawa, N., Ichisaka, T., Asano, K., Morizane, A., Doi, D., Takahashi, J., Nishizawa, M., et al. (2014). A novel efficient feeder-free culture system for the derivation of human induced pluripotent stem cells. Sci Rep 4, 3594.
Nimmagadda, S., Geetha Loganathan, P., Huang, R., Scaal, M., Schmidt, C., and Christ, B. (2005). BMP4 and noggin control embryonic blood vessel formation by antagonistic regulation of VEGFR-2 (Quek1) expression. Developmental biology 280, 100-110.
Okita, K., Matsumura, Y., Sato, Y., Okada, A., Morizane, A., Okamoto, S., Hong, H., Nakagawa, M., Tanabe, K., Tezuka, K., et al. (2011). A more efficient method to generate integration-free human iPS cells. Nature methods 8, 409-412.
Orr-Urtreger, A., Bedford, M.T., Do, M.S., Eisenbach, L., and Lonai, P. (1992). Developmental expression of the alpha receptor for platelet-derived growth factor, which is deleted in the embryonic lethal Patch mutation. Development 115, 289-303.
Patwardhan, V., Gokhale, M., and Ghaskadbi, S. (2004). Acceleration of early chick embryo morphogenesis by insulin is associated with altered expression of embryonic genes. Int J Dev Biol 48, 319-326.
Pryce, B.A., Watson, S.S., Murchison, N.D., Staverosky, J.A., Dunker, N., and Schweitzer, R. (2009). Recruitment and maintenance of tendon progenitors by TGFbeta signaling are essential for tendon formation. Development 136, 1351-1361.
Rhinn, M., and Dolle, P. (2012). Retinoic acid signalling during development. Development 139, 843-858.
Sakurai, H., Inami, Y., Tamamura, Y., Yoshikai, T., Sehara-Fujisawa, A., and Isobe, K. (2009). Bidirectional induction toward paraxial mesodermal derivatives from mouse ES cells in chemically defined medium. Stem cell research 3, 157-169.
Sakurai, H., Sakaguchi, Y., Shoji, E., Nishino, T., Maki, I., Sakai, H., Hanaoka, K., Kakizuka, A., and Sehara-Fujisawa, A. (2012). In vitro modeling of paraxial mesodermal progenitors derived from induced pluripotent stem cells. PLoS One 7, e47078.
Schwarting, T., Lechler, P., Struewer, J., Ambrock, M., Frangen, T.M., Ruchholtz, S., Ziring, E., and Frink, M. (2015). Bone morphogenetic protein 7 (BMP-7) influences tendon-bone integration in vitro. PLoS One 10, e0116833.
Sheng, G. (2015). The developmental basis of mesenchymal stem/stromal cells (MSCs). BMC developmental biology 15, 44.
Streit, A., and Stern, C.D. (1999). Establishment and maintenance of the border of the neural plate in the chick: involvement of FGF and BMP activity. Mechanisms of development 82, 51-66.
Sudheer, S., Liu, J., Marks, M., Koch, F., Anurin, A., Scholze, M., Senft, A.D., Wittler, L., Macura, K., Grote, P., et al. (2016). Different Concentrations of FGF Ligands, FGF2 or FGF8 Determine Distinct States of WNT-Induced Presomitic Mesoderm. Stem Cells 34, 1790-1800.
Sumi, T., Tsuneyoshi, N., Nakatsuji, N., and Suemori, H. (2008). Defining early lineage specification of human embryonic stem cells by the orchestrated balance of canonical Wnt/beta-catenin, Activin/Nodal and BMP signaling. Development 135, 2969-2979.
Tajbakhsh, S., Borello, U., Vivarelli, E., Kelly, R., Papkoff, J., Duprez, D., Buckingham, M., and Cossu, G. (1998). Differential activation of Myf5 and MyoD by different Wnts in explants of mouse paraxial mesoderm and the later activation of myogenesis in the absence of Myf5. Development 125, 4155-4162.
Takada, S., Stark, K.L., Shea, M.J., Vassileva, G., McMahon, J.A., and McMahon, A.P. (1994). Wnt-3a regulates somite and tailbud formation in the mouse embryo. Genes & development 8, 174-189.
Takahashi, K., Tanabe, K., Ohnuki, M., Narita, M., Ichisaka, T., Tomoda, K., and Yamanaka, S. (2007). Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors. Cell 131, 861-872.
Takemoto, T., Uchikawa, M., Yoshida, M., Bell, D.M., Lovell-Badge, R., Papaioannou, V.E., and Kondoh, H. (2011). Tbx6-dependent Sox2 regulation determines neural or mesodermal fate in axial stem cells. Nature 470, 394-398.
Tanaka, A., Woltjen, K., Miyake, K., Hotta, A., Ikeya, M., Yamamoto, T., Nishino, T., Shoji, E., Sehara-Fujisawa, A., Manabe, Y., et al. (2013). Efficient and reproducible myogenic differentiation from human iPS cells: prospects for modeling Miyoshi Myopathy in vitro. PLoS One 8, e61540.
Thomson, J.A., Itskovitz-Eldor, J., Shapiro, S.S., Waknitz, M.A., Swiergiel, J.J., Marshall, V.S., and Jones, J.M. (1998). Embryonic stem cell lines derived from human blastocysts. Science (New York, NY) 282, 1145-1147.
Umeda, K., Zhao, J., Simmons, P., Stanley, E., Elefanty, A., and Nakayama, N. (2012). Human chondrogenic paraxial mesoderm, directed specification and prospective isolation from pluripotent stem cells. Sci Rep 2, 455.
Xi, H., Fujiwara, W., Gonzalez, K., Jan, M., Liebscher, S., Van Handel, B., Schenke-Layland, K., and Pyle, A.D. (2017). In Vivo Human Somitogenesis Guides Somite Development from hPSCs. Cell Rep 18, 1573-1585.
Yoshikawa, Y., Fujimori, T., McMahon, A.P., and Takada, S. (1997). Evidence that absence of Wnt-3a signaling promotes neuralization instead of paraxial mesoderm development in the mouse. Developmental biology 183, 234-242.
Zhao, J., Li, S., Trilok, S., Tanaka, M., Jokubaitis-Jameson, V., Wang, B., Niwa, H., and Nakayama, N. (2014). Small molecule-directed specification of sclerotome-like chondroprogenitors and induction of a somitic chondrogenesis program from embryonic stem cells. Development 141, 3848-3858.
51