(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165911
(43)【公開日】2023-11-17
(54)【発明の名称】防食用粘着剤、防食用粘着剤層及び防食用粘着テープ
(51)【国際特許分類】
C09J 133/06 20060101AFI20231110BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20231110BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20231110BHJP
【FI】
C09J133/06
C09J11/04
C09J7/38
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023166152
(22)【出願日】2023-09-27
(62)【分割の表示】P 2018193484の分割
【原出願日】2018-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】梶 章二
(72)【発明者】
【氏名】服部 絢子
(72)【発明者】
【氏名】長尾 功弘
(57)【要約】
【課題】外部から損傷を受けた場合であっても、高い防食性能を維持できる防食用粘着剤、及びこれを用いた防食用粘着剤層並びに防食用粘着テープを提供する。
【解決手段】本発明は、40℃での貯蔵弾性率G’が5万~100万Paである、防食用粘着剤、及びこれを用いた防食用粘着剤層並びに防食用粘着テープである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃での貯蔵弾性率G’が5万~100万Paである、防食用粘着剤。
【請求項2】
5℃での貯蔵弾性率G’が5万~100万Paである、請求項1に記載の防食用粘着剤。
【請求項3】
ステンレス板に対する90°剥離試験における粘着力が5N/25mm以上である、請求項1又は2に記載の防食用粘着剤。
【請求項4】
アクリル系粘着剤を含有する、請求項1~3のいずれかに記載の防食用粘着剤。
【請求項5】
鉄よりも電位が卑な金属を含有する、請求項1~4のいずれかに記載の防食用粘着剤。
【請求項6】
前記鉄よりも電位が卑な金属が亜鉛である、請求項5に記載の防食用粘着剤。
【請求項7】
前記金属以外の導電性材料を含有する、請求項1~6のいずれかに記載の防食用粘着剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の粘着剤からなる防食用粘着剤層。
【請求項9】
厚みが50~3000μmである、請求項8に記載の防食用粘着剤層。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の粘着剤層を備える、防食用粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食用粘着剤、防食用粘着剤層及び防食用粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁、鉄塔、高架橋、タンク、プラント、橋脚等の鋼構造物は、時間の経過と共に腐食して錆を生じる。錆が生じることで、鋼構造物の強度が低下したり、また、景観を損なうなどの不具合が生じる。このため、鋼構造物を防食するための種々の方法が検討されている。
特許文献1には、鋼構造物に、無機質ジンクリッチペイントによる塗膜を形成させて防食する技術に関する記載されている。
特許文献2には、構築物の外面に亜鉛粉末とアルキルシリケートの部分加水分解物とを含むプライマー液を塗布し乾燥させてプライマー層を形成し、次いでこのプライマー層に、支持体とこの支持体上に設けられた粘着剤層とからなる防食テープまたはシートを貼り付けて積層することを特徴とする防食被覆方法に関する発明が記載されている。
【0003】
このような塗膜、粘着剤層などの鋼構造物を覆っている部材は、外部からの衝撃によって部分的に傷ついて、酸素や水に対する遮断機能が低下し、その結果、鋼構造物の劣化や腐食などが生じる場合がある。このような劣化や腐食を防止する観点から、特許文献3には、自己修復材料と腐食防止剤とを含む複数のマイクロカプセルを含む自己修復系に関する発明が記載されている。具体的には、自己修復系を構成するマトリックスが損傷を受けると、マトリックス中に存在するマイクロカプセルが破裂して、自己修復剤が損傷部位に放出され、該自己修復剤が重合することにより損傷部位の修復を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-194284号公報
【特許文献2】特開昭60-204311号公報
【特許文献3】特表2016-535820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3に記載の自己修復系は、マトリックスが損傷を受けた際に、マイクロカプセルが必ずしも割れるとは限らない。そのため、錆の発生を効果的に防止することが難しく、防食性能が十分とはいえない。
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、外部から損傷を受けた場合であっても、高い防食性能を維持できる防食用粘着剤、及びこれを用いた防食用粘着剤層並びに防食用粘着テープを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、40℃での貯蔵弾性率を特定範囲にした粘着剤が上記課題を解決できることを見出し、以下の発明を完成させた。本発明は、以下の[1]~[10]を提供する。
[1]40℃での貯蔵弾性率G’が5万~100万Paである、防食用粘着剤。
[2]5℃での貯蔵弾性率G’が5万~100万Paである、上記[1]に記載の防食用粘着剤。
[3]ステンレス板に対する90°剥離試験における粘着力が5N/25mm以上である、上記[1]又は[2]に記載の防食用粘着剤。
[4]アクリル系粘着剤を含有する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の防食用粘着剤。
[5]鉄よりも電位が卑な金属を含有する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の防食用粘着剤。
[6]前記鉄よりも電位が卑な金属が亜鉛である、上記[5]に記載の防食用粘着剤。
[7]前記金属以外の導電性材料を含有する、上記[1]~[6]のいずれかに記載の防食用粘着剤。
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載の粘着剤からなる防食用粘着剤層。
[9]厚みが50~3000μmである、上記[8]に記載の防食用粘着剤層。
[10]上記[8]又は[9]に記載の粘着剤層を備える、防食用粘着テープ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外部から損傷を受けた場合であっても、高い防食性能を維持できる防食用粘着剤、及びこれを用いた防食用粘着剤層並びに防食用粘着テープを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の防食用粘着剤は、40℃での貯蔵弾性率G’が5万~100万Paである。該防食用粘着剤は、各種金属材料からなる被着体の腐食を防止するために用いられる防食用粘着剤であり、好ましくは、後述するように防食用粘着剤からなる防食用粘着剤層、又は該粘着剤層を備えた防食用粘着テープを被着体表面に貼付して、被着体の腐食を防止する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
(貯蔵弾性率G’)
本発明の防食用粘着剤は、40℃での貯蔵弾性率G’が5万~100万Paである。防食用粘着剤の40℃での貯蔵弾性率G’が5万未満であると、防食性能が低下する。40℃での貯蔵弾性率G’が5万未満場合、防食用粘着剤を構成する樹脂の粘性が高く、樹脂は流動しやすいが、弾性が低すぎるため、防食用粘着剤が外部衝撃などにより損傷した場合に、損傷部位を元に戻すよりもむしろ広がる方向に樹脂が流動し、損傷部位を元に戻す力(以下、自己修復力ともいう)が弱い。そのため、被着体表面が露出、あるいは防食用粘着剤により形成される層(防食用粘着剤層)が部分的に薄くなるなどして、被着体の腐食を防止する機能が低下すると考えられる。
防食用粘着剤の40℃での貯蔵弾性率G’が100万を超える場合でも、被着体の腐食を防止する機能が低下する。40℃での貯蔵弾性率G’が100万を超える場合、防食用粘着剤を構成する樹脂の弾性が高く、粘性が低い。そのため、防食用粘着剤を構成する樹脂の流動性が低く、粘着剤が損傷した場合に、損傷部位を樹脂で閉塞し難く、自己修復力が弱い。その結果、上記した場合と同様に、被着体の腐食を防止する機能が低下すると考えられる。
本発明の防食用粘着剤は、40℃での貯蔵弾性率G’が5万~100万Paであり、粘着剤を構成する樹脂が適度な弾性及び粘性を有し、そのため、粘着剤が外部衝撃などにより損傷した場合の自己修復力が高く、高い防食性能を有すると考えられる。
防食用粘着剤の40℃での貯蔵弾性率G’は、好ましくは20万~80万Paであり、より好ましくは30万~60万Paである。40℃での貯蔵弾性率G’がこのような範囲であると、粘着剤の自己修復力が高まり、防食性能が向上する。
【0010】
本発明の防食用粘着剤の5℃での貯蔵弾性率G’は、好ましくは5万~100万Paである。防食用粘着剤の40℃の貯蔵弾性率が上記のとおりであり、かつ5℃での貯蔵弾性率がこのような範囲であると、比較的広い温度範囲で、防食用粘着剤の自己修復力が高くなり、高い防食性能を有する。
防食用粘着剤の5℃での貯蔵弾性率G’は、好ましくは10万~90万Paであり、より好ましくは70万~90万Paである。5℃での貯蔵弾性率G’がこのような範囲であると、防食用粘着剤の自己修復力が高まり、防食性能が向上する。
防食用粘着剤の貯蔵弾性率G’は、後述する粘着剤の組成を調整することにより、所望の範囲に調節することができる。
貯蔵弾性率G’は、例えばDVA-200(アイティー計測制御株式会社製)を用いて、せん断モード:10Hz、歪み量:0.1%、温度範囲:-100℃~100℃、昇温速度:10℃/minの条件下で、動的粘弾性スペクトルを測定して算出することができる。
【0011】
(粘着力)
本発明の防食用粘着剤は、ステンレス板に対する90°剥離試験における粘着力(以下、単に粘着力ともいう)が5N/25mm以上であることが好ましい。粘着力が5N/25mm以上であることにより、防食用粘着剤の自己修復力が向上する。これは、粘着剤が損傷した場合に、粘着力が高いと、その粘着力により損傷部位が閉塞されやすいためと考えられる。
防食用粘着剤の粘着力は、自己修復力をより向上させる観点から、好ましくは10N/25mm以上であることが好ましく,20N/25mm以上であることがより好ましく、30N/25mm以上であることが更に好ましい。粘着剤の粘着力は高ければ高い方がよいが、通常は100N/25mm以下である。
防食用粘着剤の粘着力は、後述する粘着剤の組成を調整することにより、所望の範囲に調節することができる。
粘着剤の粘着力は、以下のとおり測定する。粘着剤からなる粘着剤層を形成させ、これを25mm幅の短冊状に裁断して試験片を作成し、該試験片をステンレス板上に重ね合わせて2kgのローラで押圧し、試験片をステンレス板上に貼着した後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気で30分放置する。そして、該試験片をステンレス板に対して90°方向に、剥離速度300mm/分で、引張試験を行なったときの剥離力(N/25mm)を測定し、これを粘着力とする。
【0012】
(防食用粘着剤)
本発明の防食用粘着剤の粘着剤の種類は特に限定されないが、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ウレタン系粘着剤、及びシリコーン系粘着剤などが挙げられる。これらは単独で使用してよいし、組み合わせて使用してもよい。本発明の粘着剤は、これらの中では、アクリル系粘着剤が好ましい。アクリル系粘着剤を使用すると、粘着剤の40℃及び5℃での貯蔵弾性率並びに粘着力を所望の範囲に調整しやすくなる。
【0013】
(アクリル系粘着剤)
以下、防食用粘着剤に使用されるアクリル系粘着剤の一実施形態についてより詳細に説明する。アクリル系粘着剤は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)を含む重合性モノマーを重合したアクリル系重合体を含有する粘着剤である。
なお、本明細書において、用語「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」とは、アクリル酸アルキルエステル、及びメタクリル酸アルキルエステルの両方を含む概念を指すものであり、他の類似の用語も同様である。また、用語「重合性モノマー」は、繰り返し単位を有しない化合物のみならず、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)と共重合する化合物であれば、後述するオレフィン重合体(C)などのモノマー自身が繰り返し単位を有するものも含みうる概念を指す。
【0014】
[(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)]
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)は、(メタ)アクリル酸と脂肪族アルコールとのエステルであって、脂肪族アルコールのアルキル基の炭素数が、好ましくは2~14、より好ましくは4~10である脂肪族アルコールに由来するアルキルエステルが好ましい。アルキル基の炭素数がこの範囲内であると、粘着剤の40℃及び5℃での貯蔵弾性率並びに粘着力を上記した範囲に調整しやすくなる。
【0015】
具体的な(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)としては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、及びテトラデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、n-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレートが好ましく、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート又はこれらの組み合わせがより好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)由来の構成単位は、防食用粘着剤において主成分を構成するものであって、その含有量は、防食用粘着剤全量基準で一般的に30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。このように、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)の含有量を多くすると、防食用粘着剤に所望の粘着力を付与することが可能になる。
なお、防食用粘着剤における(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)由来の構成単位の含有量は、後述する防食用粘着剤組成物における(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)の含有量と実質的に同じであるので、置き換えて表すことができる。以下で説明する(B)、(C)成分など、(A)成分以外の成分も同様である。
【0017】
[極性基含有ビニルモノマー(B)]
重合性モノマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)に加えて、極性基含有ビニルモノマー(B)を含有することが好ましい。極性基含有ビニルモノマー(B)は、極性基とビニル基を有するものである。防食用粘着剤に極性基含有モノマー(B)を用いることで、粘着剤の40℃及び5℃での貯蔵弾性率並びに粘着力などを調整しやすくなる。
極性基含有ビニルモノマー(B)としては、例えば、酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル、(メタ)アクリル酸、及びイタコン酸等のビニル基を含有するカルボン酸、及びその無水物、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、及びポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等の水酸基を有するビニルモノマー、(メタ)アクリロニトリル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルラウリロラクタム、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、及びジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート等の窒素含有ビニルモノマーが挙げられる。
これらの中でも、(メタ)アクリル酸、及びイタコン酸等のビニル基を含有するカルボン酸、及びその無水物が好ましく、(メタ)アクリル酸がより好ましく、アクリル酸が更に好ましい。これらの極性基含有ビニルモノマー(B)は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
極性基含有ビニルモノマー(B)を使用する場合、防食用粘着剤において極性基含有ビニルモノマー(B)由来の構成単位の含有量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)由来の構成単位100質量部に対して、好ましくは1~15質量部、より好ましくは2~12質量部、さらに好ましくは3~10質量部である。極性基含有ビニルモノマー(B)の含有量をこのような範囲内とすることで、粘着剤の40℃及び5℃での貯蔵弾性率並びに粘着力などを適切な範囲に調整しやすくなる。
【0019】
[オレフィン重合体(C)]
重合性モノマーは、さらに片末端に重合性結合を有するオレフィン重合体(C)を含むことが好ましい。このようなオレフィン重合体(C)を使用することで、粘着剤の40℃及び5℃での貯蔵弾性率、並びに粘着力を上記した所望の範囲に調整しやすくなる。なお、重合性結合は、重合性モノマーと重合することが可能な不飽和の炭素-炭素結合を意味し、例えば不飽和二重結合が挙げられ、好ましくは(メタ)アクリロイル基などが挙げられる。
オレフィン重合体(C)としては、片末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリオレフィンが挙げられる。なお、ポリオレフィンとは、エチレン、プロピレン、ブタン、ブタジエン、イソプレンなどの二重結合を有する脂肪族炭化水素化合物の重合体、又はその水素添加物である。
【0020】
片末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリオレフィンとしては、例えば、片末端にエポキシ基を有するポリエチレンと(メタ)アクリル酸とを反応させることにより調製された、片末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリエチレン等が挙げられる。また、片末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリブタジエン又はその水素添加物が挙げられ、その市販品として株式会社クラレ製の「L-1253」等が挙げられる。
【0021】
オレフィン重合体(C)は、その数平均分子量が好ましくは500~20000、より好ましくは1000~10000である。なお、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いて算出すればよい。
また、アクリル系粘着剤においてオレフィン重合体(C)由来の構成単位の含有量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)由来の構成単位100質量部に対して、1~20質量部が好ましく、2~15質量部がより好ましく、4~12質量部がさらに好ましい。
【0022】
[架橋剤(D)]
重合性モノマーはさらに、架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤としては、ビニル基を2つ以上有する多官能モノマーが挙げられ、好ましくは(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。多官能モノマーを使用すると、防食用粘着剤の40℃及び5℃での貯蔵弾性率並びに粘着力などを適切な範囲に調整しやすくなる。
多官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されず、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エトシキ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、エトシキ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロキシ化グリセリルトリアクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジアクリレートなどの他に、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、液状水素化1,2-ポリブタジエンジ(メタ)アクリレートなどの重合体が挙げられる。これら多官能(メタ)アクリレートの中でも、重合体が好ましく、液状水素化1,2-ポリブタジエンジアクリレートがより好ましい。液状水素化1,2-ポリブタジエンジアクリレートの市販品としては、日本曹達株式会社製の「TEAI-1000」等が挙げられる。
また、アクリル系粘着剤において架橋剤由来の構成単位の含有量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)由来の構成単位100質量部に対して、0.1~4質量部が好ましく、0.3~3質量部がより好ましく、0.5~2質量部がさらに好ましい。
【0023】
[鉄よりも電位が卑な金属]
アクリル系粘着剤は、鉄よりも電位が卑な金属を含有してもよい。鉄よりも電位が卑な金属(以下、「犠牲防食用金属」ともいう)を含有することにより、犠牲防食性を有し、本発明の粘着剤からなる粘着剤層が貼付された被着体の防食性が高まる。
鉄よりも電位が卑な金属(犠牲防食用金属)としては、カドミウム、クロム、亜鉛、マンガン、アルミニウムなどが挙げられ、これらの中では亜鉛、アルミニウムが好ましく、特に亜鉛が好ましい。亜鉛を使用することで犠牲防食性が優れたものとなる。
犠牲防食用金属は、粒子形状、鱗片形状、紡錘形状等、フィラーとしていかなる形態で粘着剤に分散されていてもよいが、好ましくは粒子形状であることが好ましい。犠牲防食用金属は、粒子形状とすることで、粘着剤の粘着性を殆ど低下させることなく、粘着剤中に分散されやすくなる。
本明細書において、粒子形状とは、短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比(アスペクト比)が小さいものであり、例えば、アスペクト比が3以下、好ましくは2以下である。粒子形状は、特に限定されないが、球形であってもよいし、粉体等の不定形のものであってもよい。粒子形状の上記金属は、その粒径が例えば1~500μm、好ましくは1~200μmである。なお、本明細書において粒径とは、レーザー回折法により測定した平均粒径を意味する。
犠牲防食用金属を用いる場合、その粘着剤における含有量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)由来の構成単位100質量部に対して、好ましくは5~30質量部、より好ましくは15~25質量部である。
【0024】
[導電性材料]
アクリル系粘着剤は、犠牲防食用金属以外の導電性材料をさらに含有してもよい。粘着剤は、導電性材料を含有することで導電性が高くなる。これにより、電子を被着体に移動させやすくなり、防食性能が高まる。
導電性材料としては、カーボン系材料、金属系材料、金属酸化物系材料、イオン性ポリマー及び導電性高分子から選択される1種または2種以上が挙げられる。
カーボン系材料としては、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブ、アセチレンブラックなどが挙げられる。金属系材料としては、金、銀、銅、ニッケル、又はこれらを含む合金など、鉄よりも電位が貴な金属、又は鉄などが挙げられる。金属酸化物材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、三酸化アンチモン(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化亜鉛などが挙げれらる。導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリピロール、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)、PEDOT/PSS(ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の複合物)、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p-フェニレン)、ポリフルオレン、ポリカルバゾール、ポリシランまたはこれらの誘導体等が挙げられる。イオン性ポリマーとしては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウムなどが挙げられる。
導電性材料は、これらを1種単独で使用してもよいが、2種以上を併用としてもよい。
導電性材料を用いる場合、その粘着剤における含有量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)由来の構成単位100質量部に対して、好ましくは1~10質量部、より好ましくは3~7質量部である。
【0025】
[粘着付与樹脂]
アクリル系粘着剤は、粘着力を向上させる観点から、粘着付与樹脂を含有してもよい。粘着付与樹脂としては、水添テルペン樹脂、水添ロジン、不均化ロジン樹脂、石油樹脂等の重合阻害性の低い粘着付与樹脂が好ましい。これらの中でも、粘着付与樹脂が二重結合を多く有していると重合反応を阻害することから、水添系のものが好ましく、中でも水添石油樹脂が好ましい。
粘着付与樹脂の軟化点は、粘着剤の凝集力及び粘着力を向上させる観点から、95℃以上程度であればよいが、120℃以上のものを含むことが好ましく、例えば、95℃以上120℃未満のものと、120℃以上150℃以下のものとを併用してもよい。なお、軟化点は、JISK2207に規定される環球法により測定すればよい。
アクリル系粘着剤における粘着付与樹脂の含有量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)由来の構成単位100質量部に対して、好ましくは5~40質量部、より好ましくは7~35質量部、さらに好ましくは10~25質量部である。
【0026】
[微粒子]
アクリル系粘着剤は、微粒子を含有してもよい。微粒子を含有させることで、粘着力を向上させることができる。
微粒子としては、ガラスバルーン、シラスバルーン、及びフライアッシュバルーン等の無機質中空粒子、ポリメタクリル酸メチル、アクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合体、ポリスチレン、及びフェノール樹脂等からなる有機質中空粒子、ガラスビーズ、シリカビーズ、及び合成雲母等の無機質微粒子、ポリアクリル酸エチル、ポリウレタン、ポリエチレン、及びポリプロピレン等の有機質微粒子が挙げられる。
アクリル系粘着剤における微粒子の含有量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(A)由来の構成単位100質量部に対して、好ましくは0.1~15質量部、より好ましくは0.5~10質量部、さらに好ましくは0.7~5質量部である。
【0027】
[その他の成分]
本発明において用いるアクリル系粘着剤は、前述した成分以外にも、可塑剤、軟化剤、顔料、染料、光重合開始剤、難燃剤等の粘着剤に従来使用されている各種の添加剤を含有してもよい。
【0028】
(アクリル系粘着剤及び粘着剤層の製造方法)
アクリル系粘着剤は、上記した重合性モノマーを含む粘着剤組成物に光を照射して、重合性モノマーを重合させることで得ることが可能である。また、粘着剤組成物は、必要に応じて上記した粘着付与樹脂、犠牲防食用金属、導電性材料、微粒子、及びその他の成分の少なくとも1種を含んでいてもよい。
より具体的に説明すると、まず、重合性モノマー、さらに必要に応じて配合される粘着付与樹脂、犠牲防食用金属、導電性材料、微粒子、その他の成分を、ガラス容器等の反応容器に投入して混合して、粘着剤組成物を得る。
次いで、粘着剤組成物中の溶存酸素を除去するために、一般に窒素ガス等の不活性ガスを供給して酸素をパージする。そして、粘着剤組成物を剥離シート上に塗布するか、又は、樹脂フィルム、織布、不織布等の支持体などに塗布した後、光を照射し重合性モノマーを重合することにより防食用粘着剤層を得ることができる。
前記粘着剤組成物の塗布もしくは含浸から光を照射する工程までは、不活性ガス雰囲気下、又はフィルム等により酸素が遮断された状態で行うことが好ましい。
なお、本製造方法では、各成分を混合して得た粘着剤組成物は、粘度を高くするために、剥離シート又は支持体などに塗布する前に予備重合をしてもよい。
【0029】
粘着剤組成物に光を照射する際に用いることができるランプとしては、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウエーブ励起水銀灯、及びメタルハライドランプ等が挙げられる。これらの中でも、ケミカルランプが好ましい。粘着剤組成物に対して光を照射する際の光照射強度は、光重合開始剤の有無等によっても異なるが、0.1~100mW/cm2程度が好ましい。
【0030】
(ゴム系粘着剤)
次に、粘着剤に使用するゴム系粘着剤について説明する。ゴム系粘着剤は、ゴム成分と、粘着付与樹脂を含有するものであり、ゴム成分としては、スチレン-イソプレンブロック共重合体を使用することが好ましい。スチレン-イソプレンブロック共重合体は、ジブロック率が好ましくは25~70質量%、より好ましくは30~65質量%、さらに好ましくは45~60重量%である。ここでジブロックとは、スチレンとイソプレンとからなるジブロックのことをいう。ジブロック率を上記の範囲とすることにより、粘着力を高めやすくなる。なお、スチレン-イソプレンブロック共重合体は、ジブロック以外にも、スチレン、イソプレン、スチレンブロックからなるトリブロックなどブロックを3つ以上有するものも含有する。
【0031】
スチレン-イソプレンブロック共重合体におけるスチレン量は、特に限定されないが、14~24質量%であることが好ましく、より好ましくは15~18質量%である。スチレン量が14質量%以上であると、凝集性の高い粘着剤となりやすくなる。また、24質量%以下とすると、凝集力が適度な大きさとなり粘着力を発現しやすくなる。
スチレン-イソプレンブロック共重合体の分子量は、特に限定されないが、質量平均分子量で100,000~400,000が好ましく、150,000~250,000がより好ましい。なお、ここでいう質量平均分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法によりポリスチレン換算分子量として測定されるものをいう。
【0032】
ゴム系粘着剤に使用される粘着付与樹脂は、各種の粘着付与樹脂が使用可能であるが、好ましくは石油系樹脂、テルペン樹脂、クマロン樹脂を使用する。粘着付与樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、石油系樹脂と、テルペン樹脂及びクマロン樹脂から選択される少なくとも1種とを併用することが好ましい。このような粘着付与樹脂の組み合わせにより粘着力を良好にしやすくなる。
石油系樹脂としては、脂肪族系石油樹脂(C5系石油樹脂)、脂環族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂等が挙げられ、スチレン-イソプレンブロック共重合体との相溶性の観点から脂肪族系石油樹脂が好ましい。また、石油系樹脂は、軟化点が90~120℃程度のものを使用することが好ましい。
また、テルペン樹脂としては、軟化点が80~120℃程度のものが使用可能であるが、粘着力確保の観点から100℃未満のものが好ましい。また、クマロン樹脂としては、凝集力確保のために、軟化点が好ましくは110~130℃、より好ましくは115~125℃のものを使用する。
【0033】
粘着付与樹脂はゴム成分100質量部に対して60~250質量部が好ましく、100~200質量部がより好ましく、110~180質量部がさらに好ましい。粘着付与樹脂の配合量を上記範囲内とすることで、凝集力を良好にして適度な粘着力を付与できるようになる。
また、石油系樹脂と、テルペン樹脂及びクマロン樹脂から選択される少なくとも1種とを併用する場合、石油系樹脂は、ゴム成分100質量部に対して、50~200質量部が好ましく、60~150質量部が好ましく、60~110質量部がより好ましい。一方で、テルペン樹脂は、ゴム成分100質量部に対して、10~70質量部が好ましく、20~60質量部がより好ましく、30~50質量部がさらに好ましい。さらに、クマロン樹脂は、ゴム成分100質量部に対して、10~60質量部が好ましく、15~50質量部がより好ましく、20~40質量部がさらに好ましい。
ゴム系粘着剤は、アクリル系粘着剤と同様に上記した微粒子を含有してもよく、また、ゴム系粘着剤は、必要に応じて、犠牲防食用金属、導電性材料、軟化剤、酸化防止剤、充填剤等を含有してもよい。
【0034】
(ウレタン系粘着剤)
上記したウレタン系粘着剤は特に限定されず、例えば、少なくともポリオールとポリイソシアネート化合物とを反応させて得られるウレタン樹脂等が挙げられる。上記ポリオールとして、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール等が挙げられる。上記ポリイソシアネート化合物として、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。これらのウレタン粘着剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、ウレタン系粘着剤としては、ポリウレタンポリオールと多官能イソシアネート系硬化剤とを反応させて得られるウレタン樹脂を使用してもよい。ポリウレタンポリオールは、上記したポリオールとポリイソシアネート化合物とを反応したもの、又はポリオールとポリイソシアネート化合物とジアミンなどの鎖延長剤とを反応させたものが挙げられる。多官能イソシアネート系硬化剤としては、2以上のイソシアネート基を有する化合物であればよく、上記したイソシアネート化合物を使用可能である。
ウレタン系粘着剤は、ウレタン樹脂に加えて、上記した微粒子を含有してもよく、また、ウレタン系粘着剤は、必要に応じて、粘着付与樹脂、犠牲防食用金属、導電性材料、軟化剤、酸化防止剤、充填剤等を含有してもよい。
【0035】
(シリコーン系粘着剤)
また、シリコーン系粘着剤としては、例えば、付加反応型、過酸化物硬化型又は縮合反応型のシリコーン系粘着剤等が挙げられる。中でも、低温短時間で硬化可能という観点から、付加反応型シリコーン系粘着剤が好ましく用いられる。なお、付加反応型シリコーン系粘着剤は粘着剤層の形成時に硬化するものである。シリコーン系粘着剤として、付加反応型シリコーン系粘着剤を用いる場合、上記シリコーン系粘着剤は白金触媒等の触媒を含んでいてもよい。
また、シリコーン系粘着剤は、微粒子を含有してもよく、また、架橋剤、粘着力を制御するための各種添加剤を加えたりしてもよい。
【0036】
(自己修復機能)
本発明の防食用粘着剤は自己修復機能を有する。ここで、自己修復機能とは、例えば、粘着剤からなる粘着剤層を、刃厚0.38mmのカッターで、長さ50mm、深さ600μmの傷を付けた場合に、その傷を5時間以内に修復できる機能をいう。粘着剤が自己修復機能を有することで、外部衝撃などにより、損傷した場合でも、損傷部位を自己修復でき、腐食の原因となる空気、水分などを再遮断することができる。
【0037】
(防食用粘着剤層)
本発明の防食用粘着剤層は、上記した防食用粘着剤からなるものである。防食用粘着剤層の厚さは、好ましくは50~3000μmである。厚さが50μm以上であると、防食用粘着剤層を金属材料からなる被着体に貼付した場合の防食性能が高まる。一方、厚さが3000μm以下であると、厚さに応じた防食性能の向上効果が期待できる。防食用粘着剤層の厚さは、より好ましくは200~1500μmであり、更に好ましくは300~1000μmである。
【0038】
(防食用粘着テープ)
本発明の防食用粘着テープは、上記した防食用粘着剤層を備えるものである。防食用粘着テープは、支持体の片面に防食用粘着剤層が設けられた防食用片面粘着テープであってもよいし、支持体の両面に防食用粘着剤層が設けられた防食用両面粘着テープであってもよいし、いわゆる基材レスの防食用両面粘着テープと呼ばれる、防食用粘着剤層単体からなるものであってもよいが、防食用粘着剤層単体からなるものが好ましい。
なお、防食用粘着テープの粘着剤層の表面には、一般的に、剥離シートが貼付されており、その剥離シートを剥離した後に被着体に貼着されるものである。剥離シートとしては、樹脂フィルムの一方の面にシリコーン剥離剤等の剥離剤により剥離処理したものなどが使用され、剥離シートは剥離処理面が粘着剤層に接触するように貼付される。
【0039】
防食用片面粘着テープ及び防食用両面粘着テープの支持体としては、不織布、和紙等の紙、天然繊維、合成繊維等からなる織布、ポリエステル、ポリオレフィン、軟質ポリ塩化ビニル、硬質ポリ塩化ビニル、アセテート等からなる樹脂フィルム、フラットヤーンクロスなどが挙げられる。フラットヤーンクロスは、ポリオレフィン樹脂などの合成樹脂製のフラットヤーンを、2軸、3軸、又は4軸などの格子目状に配置させ交点を接着させたものである。
【0040】
本発明の防食用粘着剤、及び該防食用粘着剤からなる粘着剤層並びに該粘着剤層を備えた防食用粘着テープは、各種金属材料からなる被着体表面に対して貼付して使用することが好ましい。金属材料としては好ましくは、鉄、及び鉄を含む合金からなる群から選択される少なくとも1種を含有する金属材料である。鉄を含む合金としては、具体的には、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、マンガン鋼などの合金鋼、炭素鋼などの各種の鋼材が挙げられる。
鋼材は、橋梁、鉄塔、高架橋、タンク、プラント、橋脚等の鋼構造物に用いられているため、本発明の防食用粘着剤、及び該防食用粘着剤からなる粘着剤層並びに該粘着剤層を備えた防食用粘着テープは、鋼構造物の防食用途として使用することが好ましい。
本発明の防食用粘着剤、及び該防食用粘着剤からなる粘着剤層並びに該粘着剤層を備えた防食用粘着テープは、上記したように自己修復機能を有しているため、外部衝撃などにより損傷した場合でも、その損傷部位が自己修復され、腐食因子である酸素や水分を再遮断することができる。そのため、特に、鋼構造物を構成する鋼材を高く防食することができる。
【実施例0041】
以下に実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
防食用両面粘着テープの貯蔵弾性率、粘着力、防食性能の評価は、以下の方法で実施した。
【0043】
[貯蔵弾性率]
各実施例、比較例の防食用両面粘着テープから、剥離シートを剥がして、これを試験片として貯蔵弾性率を測定した。貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社社製、商品名「DVA-200」)を用いて、せん断モード:10Hz、歪み量:0.1%、温度範囲:-100℃~100℃、昇温速度:10℃/minの条件下で、動的粘弾性スペクトルを測定して算出した。
[粘着力]
各実施例、比較例の防食用両面粘着テープを25mm幅の短冊状に裁断してから、剥離シートを剥がして試験片とした。試験片の剥離シートを剥がした面を、ステンレス板上に重ね合わせて2kgのローラで押圧し、試験片をステンレス板上に貼着した。そして、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気で30分放置した後、引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ社製、商品名「テンシロン万能材料試験機」)を用いて、JIS Z 0237に準拠して90°引き剥がし粘着力(N/25mm)を測定した。
[防食性能の評価]
1.マイクロスコープ観察
被着体としての鋼板SS400(TP技研株式会社製、150mm×70mm)に、各実施例、比較例で得られた防食用両面粘着テープを、剥離シートを剥がして貼り付けた。鋼板に貼り付けた防食用両面粘着テープの表面から、鋼板まで届くように、刃厚0.38mmのカッターで長さ50mm傷を付け、マイクロスコープで傷口の変化を観察した。以下の基準で評価した。◎又は〇の場合は、自己修復機能を有することを示しており、特に◎の場合は、自己修復機能に優れることを示している。
◎:カッターで傷を付けた後、1時間以内に修復した
〇:カッターで傷を付けた後、1時間超5時間以下で修復した
×:カッターで傷を付けた後、5時間以下で修復しない
2.傷下の錆の有無
被着体としての鋼板SS400(TP技研株式会社製、150mm×70mm)に、各実施例、比較例で得られた防食用両面粘着テープを、剥離シートを剥がして貼り付けた。鋼板に貼り付けた防食用両面粘着テープの表面から、鋼板まで届くように、刃厚0.38mmのカッターで、互いに交差する各線の長さが80mmであるX印状の傷を付けた。その後、防食用両面粘着テープを表面に備えた鋼板を水道水に浸漬し、1カ月後に両面粘着テープの傷下の鋼板表面の錆の有無を以下のように評価した。
〇:傷下に錆が確認された
×:傷下に錆が確認されなかった
【0044】
[実施例1]
表1に記載の配合にしたがって、防食用粘着剤組成物を調製した。この粘着剤組成物に窒素をパージして溶存酸素を除去した。次いで、剥離シートの剥離処理面上に厚さ600μmのスペーサーを設置し、粘着剤組成物を剥離シートの剥離処理面上に塗布した。次いで、塗布した粘着剤組成物の上に、剥離処理面が粘着剤組成物に接するように、別の剥離シートを被覆した。なお、剥離シートとしては、シリコーン離型処理されたPETフィルム(厚み50μm)を使用した。
この状態で被覆側の剥離シートにおける紫外線照射強度が5mW/cm2となるようにケミカルランプのランプ強度を調整し、15分間紫外線を照射し、粘着剤層単体からなり、両面に剥離シートが貼付された防食用両面粘着テープを得た。粘着剤層(すなわち、両面粘着テープ)の厚さは600μmであった。結果を表1に示した。
【0045】
[実施例2~6、比較例1~2]
表1に記載の配合にしたがって粘着剤組成物を調製した以外は、実施例1と同様にして防食用両面粘着テープを得た。結果を表1に示した。
【0046】
【0047】
表1における各成分は、以下のとおりである。
オレフィン重合体:商品名「L-1253」、株式会社クラレ製、(メタ)アクリロイル基を片末端に有する水素化ポリブタジエン
架橋剤:商品名「TEAI-1000」、日本曹達株式会社製
粘着付与樹脂1:商品名「アルコンP140」、荒川化学工業株式会社製、水添石油樹脂、軟化点140℃
粘着付与樹脂2:商品名「アルコンP100」、荒川化学工業株式会社製、水添石油樹脂、軟化点100℃
微粒子:商品名「セルスターZ-27」、東海工業株式会社製、ガラスバルーン
亜鉛粒子:堺化学工業株式会社製、商品名「亜鉛末#40」、平均粒径:50μm
カーボン系材料:人造黒鉛粉、オリエンタル産業株式会社、商品名「AT-NO.15S」、平均粒径13μm
重合開始剤:2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン
【0048】
本実施例1~6では、40℃における貯蔵弾性率が特定の範囲内にある粘着剤を備える両面粘着テープを用いており、防食性能の評価が良好であった。これに対して、比較例1~2では、40℃における貯蔵弾性率が特定の範囲外にある粘着剤を備える両面粘着テープを用いており、防食性能の評価が悪かった。