(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165938
(43)【公開日】2023-11-17
(54)【発明の名称】走査型電子顕微鏡用電子銃チャンバー、これを含む電子銃及び走査電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
H01J 37/06 20060101AFI20231110BHJP
H01J 37/073 20060101ALI20231110BHJP
H01J 37/09 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
H01J37/06 A
H01J37/073
H01J37/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023167587
(22)【出願日】2023-09-28
(62)【分割の表示】P 2022510047の分割
【原出願日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2020056741
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】514008402
【氏名又は名称】テラベース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ザン ハン
(72)【発明者】
【氏名】山内 泰
(72)【発明者】
【氏名】新井 善博
(57)【要約】
【課題】 フィールドエミッション電子源からの電子線の最大加速電圧が15kVの走査型電子顕微鏡用フィールドエミッション電子銃チャンバーで、簡単で小型化可能なものを提供すること。
【解決手段】 本発明の解決手段は、以下の通りである。
以下を備える、走査型電子顕微鏡用の電子銃チャンバー:
(a)フィールドエミッション電子源を脱着する部位を備える電子源チャンバー;
(b)前記部位に設置される前記電子源から放出される電子線の方向に電子線が通過する、前記電子源チャンバーに隣接して設けられた中間室;
(c)前記中間室に設けられるエアロックバルブ設置部;
(d)前記電子源チャンバー及び前記中間室の連続する面のそれぞれに設けられた、予備真空排気用ポンプ用の排気孔;並びに
(e)前記電子源チャンバーと前記中間室に備えられている、前記予備真空排気用ポンプ用の排気孔を直接開閉する開閉手段。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を備える、略立方体形状を有する、走査型電子顕微鏡用の電子銃チャンバー:
(a)フィールドエミッション電子源を脱着する部位を備える電子源チャンバー;
(b)前記部位に設置される前記電子源から放出される電子線の方向における前記電子源の下方に電子線が通過する、前記電子源チャンバーに隣接して設けられた第一中間室、及び前記第一中間室の下方に隣接する第二中間室;
(c’)前記第二中間室内にエアロックバルブが設置され、
該エアロックバルブは、
(i)前記第一中間室と前記第二中間室の隣接面に対して60°以上80°以下の傾斜軸を有するОリング設置面と、
(ii)前記Оリング設置面上、前記傾斜軸の垂直方向に、上方に延伸する略円柱形の凸部で、前記電子線を通過及び遮断する手段を備える該凸部、
とを具備する。
【請求項2】
前記電子線を通過する手段は、
前記第二中間室を通過する電子線方向に設けられた前記凸部の貫通孔に電子線を通過する構成を有し、
前記電子線を遮断する手段は、
前記凸部を前記傾斜軸に対して垂直方向へスライドさせることによって前記貫通孔をずらして電子線の通過を遮断する構成を有する、
請求項1記載の電子銃チャンバー。
【請求項3】
前記エアロックバルブは、前記Оリング設置面のうち電子線に曝される部位に該電子線の遮蔽手段を備える、
請求項1又は2記載の電子銃チャンバー。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の電子銃チャンバーを含む、走査型電子顕微鏡用の電子銃。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の電子銃チャンバーを含む、走査型電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査電子型顕微鏡用の電界放出電子銃チャンバー並びに当該電子銃チャンバーを含む電子銃及び走査電子顕微鏡に関する。
前記電子銃チャンバーは、特に略立方体形状を有し得るものに関する。
前記走査電子型顕微鏡は、特に低加速電圧(具体的には、最大加速電圧が15kV)でも使用し得るものに関する。
本願では、前記「電界放出」を「フィールドエミッション」又は「Field Emission」の略称として単に「FE」と称することもある。また本願では、前記「略立方体形状」を「キュービック(Cubic)」と称することもある。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡には大別して、電子線が試料を透過して試料の拡大像を得る透過型電子顕微鏡(TEM)と、試料表面を極めて微小の直径(プローブサイズ)の電子線で走査し、その電子線(本願では「電子ビーム」と称することもある)照射位置から発生する二次電子を検出し、この信号によりモニター上に画像を表示する走査型電子顕微鏡(SEM)とがある。
電子線のエネルギーとして、透過型電子顕微鏡においては、試料を電子線が透過するため、電子線の加速電圧として高加速電圧(具体的には、100kV~1000kVの加速電圧)を使用する。
走査型電子顕微鏡においては、試料表面を走査するため、電子線の加速電圧として100kV~500kVの高い加速電圧を使用するものもあるが(例えば、特許文献1や2)、一般的には、電子線の加速電圧として透過型電子顕微鏡と比較して低めの低加速電圧(具体的には、10kV~30kVの加速電圧)を使用する。実際、非特許文献1や2においては、加速電圧を30kVとするものが開示されている。走査型電子顕微鏡としては、前記低加速電圧の中でも最大加速電圧を15kVとするものが広く一般に普及している。
【0003】
走査型電子顕微鏡における電子源(すなわち、電子線を発生させ、加速するための電子源)としては、例えば、真空チャンバー内のカソード電極の先端(本願では「エミッター」と称することもある)に設けられた、タングステンフィラメントやランタンヘキサボライド(LaB6)ナノワイヤの加熱で電子を引き出す熱電子源、タングステン単結晶の針先端部に高真空中(10-7Pa以上)で高い電界を印可することにより作動する電界放出で電子を引き出す電界放出電子源(本願では「フィールドエミッション電子源」と称することもある)などがある。
電子源の中でもフィールドエミッション電子源は、熱電子源に比べて一般的に、電子線の大きさが小さく、また、電子のエネルギーのばらつきが少ない等の点で、高分解能を有する高性能な電子源であるが、非常に高価である。そのため現状では、電子源としてフィールドエミッション電子源を使用する走査型電子顕微鏡として商品化されているものは、本出願人が知りうる限り、前記低加速電圧の中で最も高い30kVを最大加速電圧とする高級な走査型電子顕微鏡に留まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002-541623号公報
【特許文献2】特表2002-516018号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Konno et al., “Lattice imaging at an accelerating voltage of 30 kV using an in-lens type cold field-emission scanning electron microscope” Hitachi High Technol Corp, 882 Ichige, Hitachinaka, Ibaraki 3128504, Japan ULTRAMICROSCOPY 巻:145 ページ: 28-35 DOI: 10.1016/j.ultramic.2013.09.001, 発行: OCT 2014 (抄録)
【非特許文献2】HERMANN, R; MULLER, M., “PROGRESS IN SCANNING ELECTRON-MICROSCOPY OF FROZEN-HYDRATED BIOLOGICAL SPECIMENS”, SCANNING MICROSCOPY 巻: 7号: 1ページ: 343-350, 発行: MAR 1993 (抄録)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で近年、走査型電子顕微鏡として広く一般に普及している最大加速電圧を15kVとする走査型電子顕微鏡においても、その電子源として高性能であるフィールドエミッション電子源を使用することが切望されており、その検討及び研究開発がなされている。
しかし、フィールドエミッション電子源を使用する従来の走査型電子顕微鏡(すなわち、フィールドエミッション電子源を使用する、最大加速電圧が30kVの既存の走査型電子顕微鏡)で使用されている技術を、最大加速電圧が15kVの走査型電子顕微鏡にそのまま適用すると、フィールドエミッション電子源を使用するために必要な高真空を達成するための構造、具体的には、フィールドエミッション電子源から電子線を発生させて加速させる部分(本願では、これを「フィールドエミッション電子銃」と称することもある)を収容する真空容器(本願では「電界放出電子銃チャンバー」又は「フィールドエミッション電子銃チャンバー」と称することもある)とその真空排気系統部分の構造が複雑で大型になる等の様々な問題を生じ、製造コストが非常に高くなってしまう。この点について、
図1と2を用いて以下に詳述する。
【0007】
図1と2はそれぞれ、フィールドエミッション電子源を使用する、最大加速電圧が30kVの既存の走査型電子顕微鏡に関し、当該走査型電子顕微鏡を構成する、一般的なフィールドエミッション電子銃チャンバーとその真空排気系統部の外観図と断面図(概略図)を示したものである。
図1と2に示すとおり、電子源チャンバー2の底面に中間室1が隣接し、中間室1にエアロックバルブ3が設置されている。電子源チャンバー2は、フィールドエミッション電子源を装填する真空容器(チャンバー)である。
【0008】
電子源チャンバー2の外部には、そのチャンバー内を真空排気するための電子源チャンバー排気用イオンポンプ4が配管を介して設置され、中間室1の外部には、その中間室1内を真空排気するための中間室排気用イオンポンプ4が配管を介して設置されている。さらに、電子源チャンバー2と電子源チャンバー排気用イオンポンプ4をつなぐ配管に粗引バルブ6が設けられた配管をさらにつなぎ、中間室1と中間室排気用イオンポンプ4をつなぐ配管に別の粗引バルブ6が設けられた配管をさらにつなぎ、粗引バルブ6が設けられた各配管はいずれも、真空排気用配管5と接続している。本願では、粗引バルブ6を「予備排気バルブ6」又は単に「予備排気バルブ」と称することもある。
ここで、フィールドエミッション電子源チャンバー8とは、上述のとおり、フィールドエミッション電子源から電子線を発生させて加速させる部分のことであり、走査型電子顕微鏡として使用する場合、
図2に示すとおり、電子顕微鏡鏡筒部7(すなわち、走査型電子顕微鏡において装填・設置される、一般的に「集束レンズ」や「対物レンズ」と称される走査型電子顕微鏡用のレンズを備える筒部)を設置する。つまり、フィールドエミッション電子源チャンバー8とは、電子顕微鏡鏡筒部7の上に載せる部分の総称と言い換えることができる。具体的には、
図1及び/又は2に従うと、フィールドエミッション電子源チャンバー8は、電子源チャンバー2と、中間室1と、エアロックバルブ3と、粗引バルブ6(すなわち、電子源チャンバー2と電子源チャンバー排気用イオンポンプ4をつなぐ配管につなげられた配管に設けられた粗引バルブ6と、中間室1と中間室排気用イオンポンプ4をつなぐ配管につなげられた配管に設けられた粗引バルブ6)から構成される部分になる。そのため、フィールドエミッション電子銃チャンバー8の構造は複雑で大型になる。
因みに、フィールドエミッション電子源チャンバー8と電子顕微鏡鏡筒部7との間は、互いに脱着可能な構造となっている。
【0009】
他方、真空排気系統部9とは、フィールドエミッション電子源が稼働するために必要な高真空を達成するために必要な排気系統部分のことであり、真空排気系統部9は、フィールドエミッション電子源チャンバー8に外付けする。具体的には、
図1及び/又は2に従うと、電子源チャンバー2に配管を介して設置される電子源チャンバー排気用イオンポンプ4と、中間室1に配管を介して設置される中間室排気用イオンポンプ4と、各粗引バルブ6と接続されている真空排気用配管5から構成される部分のことである。そして、真空排気用配管5は、ディフュージョンポンプ(これは、「油拡散ポンプ」とも称し、熱した油をジェット状に下から吹き付けることにより、周りに存在する気体粒子をはじきとばし、その後水冷された壁に接触すると油が液化して下に落ちる、というサイクルを繰り返して真空にするポンプのことであり、本願では単に「DP」と称することもある)及び/又はターボモレキュラーポンプ(これは、羽が高速回転して、気体分子をはじきとばすことによりガスを排気するポンプのことであり、本願では単に「TMP」と称することもある)につながっている(DPやTMPは、
図1と2のいずれにも図示せず)。これらポンプ(DPやTMP)はさらに、ロータリーポンプ(これは、回転する内部の羽が気体をかき出すように排気する真空ポンプの一種で、本願では単に「RP」と称することもある)へとつながっている(RPは、
図1と2のいずれにも図示せず)。ロータリーポンプは、一次真空引き用として、ディフュージョンポンプやターボモレキュラーポンプは、二次真空引き用として使用する。本願では、これらの真空引きを「粗引き」と称することもある。また、本願では、粗引き(すなわち、一次真空引き及び二次真空引き)による真空を「粗引き真空」と称することもある。
【0010】
電子源チャンバー排気用イオンポンプ4と中間室排気用イオンポンプ4には、スパッタイオンポンプ(これは、活性金属面に気体分子を吸着して真空排気するポンプで、本願では単に「SIP」と称することもある)を使用する。これらイオンポンプ4は、その稼働可能な真空度(10
-4Paオーダー)になるまで、ディフュージョンポンプやターボモレキュラーポンプで粗引排気してから、さらなる高真空度(10
-7Paオーダー)を達成するために使用する。フィールドエミッション電子源は、タングステン電子源、ランタンヘキサボライド(LaB
6)電子源などの熱電子源と比べて、輝度(すなわち、明るさのことであり、単位立体角当たりの電子量が大きいことを意味する)が優れており、高分解能像が得られる長所があるが、その使用には、電子源チャンバー2の真空度が10
-7Paオーダーと、タングステン電子源やLaB
6電子源と比較して二桁以上高い真空度が要求されるからである。
また、走査型電子顕微鏡と使用する際には、フィールドエミッション電子銃チャンバー8に電子顕微鏡鏡筒部7を設置することになるが、稼働時の電子顕微鏡鏡筒部7内の真空度は10
-3Paオーダーである。
電子源チャンバー2内の10
-7Paオーダーの真空度と電子顕微鏡鏡筒部7内の10
-3Paオーダーの真空度との間には、3~4桁にも及ぶ真空度の差が生じてしまうため、両者の間には小さな空間である中間室1を設けて、個別に連なる真空室の真空度の差が2桁以下(具体的には、電子源チャンバー2内と中間室1内の真空度の差が2桁以下で、中間室1内と電子顕微鏡鏡筒部7内の真空度の差が2桁以下)になるように、電子源チャンバー2と中間室1と電子顕微鏡鏡筒部7の各内部を個別に真空排気する。なお、電子源チャンバー2と中間室1の排気は、上述のとおり、真空排気系統部9を用いて行う。
また、
図2に示すとおり、各真空室の間(すなわち、電子源チャンバー2と中間室1との間の仕切り面と中間室1と電子顕微鏡鏡筒部7の間の仕切り面には、直径(φ)が0.5~1mmの小さな絞り(これは、本願では「差動排気用絞り」と称することもある)と呼ばれる孔が設けられ、連なる真空室の真空度の差を上述のとおりに保持しつつ、電子線がこの小さな絞り(孔)を通過して下方の電子顕微鏡鏡筒部7に導かれる構造となっている。なお、本願では、上記「仕切り面」を「隣接面」と称することもある。そして、中間室1と電子顕微鏡鏡筒部7との間の仕切り面にある孔(すなわち、絞り孔)には、電子源チャンバー2と中間室1部分の真空を電子顕微鏡鏡筒部7内の真空から真空隔離するためのバルブ(すなわち、エアロックバルブ3)を設けることによって各真空室を真空隔離し、像観察する時のみ、そのバルブを開くことによって電子線を通ずる構造となっている。
【0011】
以上の理由により、フィールドエミッション電子源を使用する従来の走査型電子顕微鏡では、フィールドエミッション電子源を使用するために必要な高真空を達成するための構造(具体的には、フィールドエミッション電子銃チャンバーとその真空排気系統部の構造)として、複雑で大型のフィールドエミッション電子銃チャンバー8と真空排気系統部9を要求している。
しかも、フィールドエミッション電子銃チャンバー8は、高真空での使用という要求に応えるため、通常、ステンレスで作られる。そのため、
図1に示される配管やフランジ部分は、一般的に、ステンレス製の配管とステンレス製のフランジを溶接(例えば、アーク溶接)でつながなければならない。そのうえ、表面積を少なくするため、フィールドエミッション電子銃チャンバー8の表面は、通常、複合電解研磨処理して鏡面に仕上げることになる。その結果、フィールドエミッション電子銃チャンバー8とその真空排気系統部9の構造は複雑で、製造コストも高くなる。
また、高真空を得るために、ステンレス金属内に含まれる水分を排出するため、通常数時間から数日間、200℃程度の高温ベーク(焼出し)が行われる。従って、フィールドエミッション電子銃チャンバー8は、バルブも含めて全ての部分が、ベーク温度200℃に耐えられる耐熱構造としなければならない。そのため、真空チャンバー(具体的には、
図1における、電子源チャンバー2や中間室1)やスパッタイオンポンプ(具体的には、
図1における、電子源チャンバー排気用イオンポンプ4と中間室排気用イオンポンプ4)等のフランジ結合部には、安価なゴム製のOリングを使用することはできず、通常、高価な銅ガスケットを使用したコンフラット真空フランジ(ICF)を採用している。
【0012】
上述のとおりであるから、フィールドエミッション電子源を使用する、最大加速電圧が30kVの既存の走査型電子顕微鏡で使用されている技術を、最大加速電圧が15kVの走査型電子顕微鏡にそのまま適用することは、フィールドエミッション電子源を使用するために必要な高真空を達成するための構造(具体的には、フィールドエミッション電子銃チャンバーとその真空排気系統部の構造)が複雑で大型になる等の様々な問題を生じ、非常に高い製造コストが発生することになってしまうので、望ましくない。そのため、フィールドエミッション電子源を使用する、最大加速電圧が15kVの走査型電子顕微鏡は、商品開発が難しく、未だ商品化されたものはない。
【0013】
このような状況に鑑みて、本願発明では、電子源としてフィールドエミッション電子源を使用することが可能で、当該電子源からの電子線の最大加速電圧を15kVとする走査型電子顕微鏡用のフィールドエミッション電子銃チャンバーでありながら、これまでにない、簡単で小型化可能な構造を有するものを提供することを目的とする。これにより、製造コストにも優れる当該フィールドエミッション電子銃チャンバーを提供することを目的とする。
また、本願発明では、前記フィールドエミッション電子銃チャンバーを含む、電子銃及び走査型電子顕微鏡を提供し、これにより、電子銃及び走査型電子顕微鏡の製造コスト削減を図ることを目的とする。
【0014】
因みに、フィールドエミッション電子源を使用する従来の走査型電子顕微鏡に関し、高真空を得るための行程についても、参考のため、以下に説明しておく。
図1や2に示すとおり、スパッタイオンポンプ(電子源チャンバー排気用イオンポンプ4と中間室排気用イオンポンプ4)を閉(off)、2つの粗引バルブ6(すなわち、電子源チャンバー2と電子源チャンバー排気用イオンポンプ4をつなぐ配管につなげられた配管に設けられた粗引バルブ6と、中間室1と中間室排気用イオンポンプ4をつなぐ配管につなげられた配管に設けられた粗引バルブ6)とエアロックバルブ3を開(on)とし、ロータリーポンプ(
図1と2のいずれにも図示せず)で大気圧から真空排気(すなわち、一次真空引き)する。その後、本引き(すなわち、二次真空引き)としてディフュージョンポンプ又はターボモレキュラーポンプで10
-4Paオーダー程度まで真空排気する。次の工程として加熱ヒーターにより、電子源チャンバー2内に設置された電子源部を150~200℃に保持するベーキングを行う。ベーク時間は通常、数日に及ぶ。ベーク終了後2つの粗引バルブ6とエアロックバルブ3を閉(off)にし、スパッタイオンポンプ(電子源チャンバー排気用イオンポンプ4と中間室排気用イオンポンプ4)を開(on)にし、高真空領域の真空排気を行って目的とする高真空を得る。
フィールドエミッション電子銃チャンバー8には、電子源チャンバー2と中間室1部分の真空を電子顕微鏡鏡筒部7内の真空から遮断するためにエアロックバルブ3が設けられている。このバルブは、電子源を電子源チャンバー2に取り付ける時や通常の観察時に行う観察試料交換時に、電子源チャンバー2内の真空度低下を避けるために閉める。他方、電子顕微鏡鏡筒部7内の真空が良くなった後で再び電子線を通すときに開ける。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者は鋭意研究した結果、走査型電子顕微鏡用のフィールドエミッション電子銃チャンバーを構成する電子源チャンバーと中間室に設置される予備排気バルブの従来の設置手段を新規な手段とすること、及び/又は従来のエアロックバルブの設置手段や構造を新規な手段とすること等により、上記課題が解決されることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0016】
本願発明は、具体的には以下の構成を有する。
[1] 以下を備える、走査型電子顕微鏡用の電子銃チャンバー:
(a)フィールドエミッション電子源を脱着する部位を備える電子源チャンバー;
(b)前記部位に設置される前記電子源から放出される電子線の方向に電子線が通過する、前記電子源チャンバーに隣接して設けられた中間室;
(c)前記中間室に設けられるエアロックバルブ設置部;
(d)前記電子源チャンバー及び前記中間室の連続する面のそれぞれに設けられた、予備真空排気用ポンプ用の排気孔;並びに
(e)前記電子源チャンバーと前記中間室に備えられている、前記予備真空排気用ポンプ用の排気孔を直接開閉する開閉手段。
[2] 前記電子銃チャンバーが略立方体形状を有する、
[1]記載の電子銃チャンバー。
[3] 前記電子源チャンバー及び前記中間室が溶接加工を必要としない、同一のステンレス鋼ブロックの穴加工のみによって制作される、
[1]又は[2]記載の電子銃チャンバー。
[4] 前記開閉手段が、前記電子源チャンバーと前記中間室の前記排気孔のそれぞれを、ピストンの摺動に連動する蓋体の押し付けと解放により開閉する構成を有する、
[1]乃至[3]のいずれかに記載の電子銃チャンバー。
[5] 前記電子源チャンバーの前記排気孔は、前記電子源チャンバーの側面に設けた円筒状の凹みの底面に配置され、この凹みは、前記電子源チャンバーの該排気孔を開閉する前記蓋体と篏合し、
前記中間室の前記排気孔は、前記中間室の側面に設けた円筒状の凹みの底面に配置され、この凹みは、前記中間室の前記排気孔を開閉する前記蓋体と篏合する、
[4]記載の電子銃チャンバー。
[6] 前記電子源チャンバーの前記排気孔を開閉する前記蓋体と、前記中間室の前記排気孔を開閉する前記蓋体が、同一の1つの蓋体である、
[4]記載の電子銃チャンバー。
[7] 前記電子源チャンバーと前記中間室の前記排気孔はいずれも、前記電子源チャンバーと前記中間室に連続し、両者に跨る側面に設けた1つの円筒状の凹みの底面に配置され、この凹みは前記蓋体と篏合する、
[6]記載の電子銃チャンバー。
[8] 前記電子源チャンバーと前記中間室はそれぞれ、フィールドエミッション電子源が動作する真空度に排気する高真空排気用ポンプ用の排気孔を備える、
[1]乃至[7]のいずれかに記載の電子銃チャンバー。
[9] 前記電子源チャンバーと前記中間室の前記高真空排気用ポンプ用の排気孔がそれぞれ、互いに左右対称となる位置に配置されている、
[8]記載の電子銃チャンバー。
[10] 以下を備える、略立方体形状を有する、走査型電子顕微鏡用の電子銃チャンバー:
(a)フィールドエミッション電子源を脱着する部位を備える電子源チャンバー;
(b)前記部位に設置される前記電子源から放出される電子線の方向に電子線が通過する、前記電子源チャンバーに隣接して設けられた第一中間室、及び前記第一中間室の下方に隣接する第二中間室;
(c’)前記第二中間室内にエアロックバルブが設置され、
該エアロックバルブは、
(i)前記第一中間室と前記第二中間室の隣接面に対して60°以上80°以下の傾斜軸を有するОリング設置面と、
(ii)前記Оリング設置面上、前記傾斜軸の垂直方向に、上方に延伸する略円柱形の凸部で、前記電子線を通過及び遮断する手段を備える該凸部、
とを具備する。
[11] 前記電子線を通過する手段は、
前記第二中間室を通過する電子線方向に設けられた前記凸部の貫通孔に電子線を通過する構成を有し、
前記電子線を遮断する手段は、
前記凸部を前記傾斜軸に対して垂直方向へスライドさせることによって前記貫通孔をずらして電子線の通過を遮断する構成を有する、
[10]記載の電子銃チャンバー。
[12] 前記エアロックバルブは、前記Оリング設置面のうち電子線に曝される部位に該電子線の遮蔽手段を備える、
[10]又は[11]記載の電子銃チャンバー。
[13] [1]乃至[12]のいずれかに記載の電子銃チャンバーを含む、走査型電子顕微鏡用の電子銃。
[14] [1]乃至[12]のいずれかに記載の電子銃チャンバーを含む、走査型電子顕微鏡。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、以下に述べる効果を奏することができるので、電子源としてフィールドエミッション電子源を使用することが可能で、当該電子源からの電子線の最大加速電圧を15kVとする走査型電子顕微鏡用のフィールドエミッション電子銃チャンバーでありながら、これまでにない、簡単で小型化可能な構造を有するものを提供することができる。その結果、製造コストにも優れる当該フィールドエミッション電子銃チャンバーを提供することが可能になる。
また、本願発明によれば、前記フィールドエミッション電子銃チャンバーを含む、電子銃及び走査型電子顕微鏡を提供することにより、電子銃及び走査型電子顕微鏡の製造コスト削減を図ることができる。
【0018】
本願発明が奏する効果は、具体的には以下のとおりである。
1.本願発明によれば、これまでにない、簡単で小型化可能な構造を有するという効果を奏する。
本願発明によれば、そのフィールドエミッション電子銃チャンバーを構成する、電子源チャンバー、中間室、エアロックバルブ、及び予備排気バルブを、小型の略立方体形状(例えば、略70mm立方のステンレスブロック)の機械加工によって、複雑な溶接作業を行うことなく簡単に製作することが可能である。そのため、その構造は、これまでにないもので、また、フィールドエミッション電子源を使用する従来の走査型電子顕微鏡において必要不可欠であった配管(具体的には、真空排気用配管)とフランジを溶接する構造に比べて、格段に小型でコンパクトな構造になる。従って、本願発明によれば上記効果を奏することができる。その結果、製造コストに優れるという効果も奏する。
この点について詳述すると、フィールドエミッション電子源を使用する従来の走査型電子顕微鏡におけるフィールドエミッション電子銃チャンバーとその真空排気系部の構造は、フランジと配管をつなぎ合せることが必要であったのに対し、本願発明のフィールドエミッション電子銃チャンバーは、小型の略立方体形状のステンレスブロック(塊)に対して、溶接作業を行うことなく穴加工を行うことにより簡単に制作することができる。その結果、非常に小型でコンパクトな合理性に富んだ構造が得られる。しかも、ブロック構造なので、ベーク用の加熱ヒーターとして、帯状のヒーターを電子源に巻き付けて加熱するヒーターや電子源を完全に囲った高価な専用ヒーターの代わりに、ブロック内にカートリッジヒーターを取り付けて使用することが可能になるので、加熱効率の向上を図ることができる。例えば、本願発明のフィールドエミッション電子銃チャンバーは、上述のとおり、金属ブロック構造なので、このブロックに穴(例えば、直径(φ)約8mm×長さ(L)約50mm)の穴を加工し、安価なシースヒーターを埋め込んで使用することが可能である。溶接箇所がない小型の一体構造のため、このような埋め込み型ヒーターにより効率よく充分に加熱することができる。
【0019】
2.本願発明によれば、電子源としてフィールドエミッション電子源を使用する、最大加速電圧が15kVの走査型電子顕微鏡用のフィールドエミッション電子銃チャンバーとして使用できるという効果を奏する。
本願発明によれば、上述のとおり、小型の略立方体形状(例えば、略70mm立方のステンレスブロック)の機械加工によって、フィールドエミッション電子源を使用する従来の走査型電子顕微鏡におけるフィールドエミッション電子銃チャンバーとその真空排気系部を構成する、予備排気バルブ、真空排気用配管、及びエアロックバルブが全て備わっているフィールドエミッション電子銃チャンバーを提供できるので、これをそのまま、電子源としてフィールドエミッション電子源を使用する、最大加速電圧が15kVの走査型電子顕微鏡用のフィールドエミッション電子銃チャンバーとして使用できる。従って、本願発明によれば上記効果を奏することができる。
【0020】
3.本願発明によれば、高価な市販の外付けの予備排気バルブが不要になるという効果を奏することができる。
本願発明によれば、フィールドエミッション電子源を使用する従来の走査型電子顕微鏡において使用されていた高価な市販の外付けの予備排気バルブ(具体的には、
図1及び2の粗引バルブ6)も、エアロックバルブ(
図1及び2のエアロックバルブ3)とともに本体の中に納まるコンパクトな設計になるため、当該予備排気バルブを取り付ける必要がなくなる。従って、本願発明によれば上記効果を奏することができる。その結果、製造コストに優れるという効果も奏する。
【0021】
4.本願発明によれば、操作や設計が簡単になるという効果を奏することができる。
本願発明によれば、フィールドエミッション電子源を使用する従来の走査型電子顕微鏡において使用されていた予備排気バルブ(具体的には、
図1及び2の粗引バルブ6)が1つの弁構造で開閉することが可能になるので、操作や設計が簡単になる。従って、本願発明によれば上記効果を奏することができる。
【0022】
5.本願発明によれば、予備排気バルブのシールとして安価なポリイミドシートを使用できるという効果を奏することができる。
【0023】
6.本願発明によれば、走査型電子顕微鏡としての信頼性向上や真空排気負荷の軽減を図ることができるという効果を奏する。
本願発明によれば、傾斜面を開閉するエアロックバルブを、閉めるときの面圧が、Оリングの設置面(以下、「Оリング面」と称することもある)と垂直になるように駆動させることにより、その駆動力がシールするОリング面に直接かかることになる。そのため、シール性が向上し、フィールドエミッション電子源を使用する従来の走査型電子顕微鏡に比べ、走査型電子顕微鏡としての信頼性が向上する。従って、本願発明によれば上記効果を奏することができる。
その際、当該エアロックバルブの構造を、傾斜面を開閉するエアロックバルブのОリング面のОリングの内側を凹み穴とし、この凹み穴にはめ込むように円筒状の凸部を設ける構造とすることにより(
図5、
図6A及びB参照)、Оリング表面への電子ビーム照射を回避することができる。
さらに、傾斜面を開閉するエアロックバルブにおいて、シールするОリング面で電子線に露出している部分に対して当該電子線を遮蔽するための開閉式の遮蔽板を上記凸部に設けることにより(
図6A及びB参照)、Оリング表面を電子ビーム経路から完全に隠すことができ、これにより照射をОリング表面への電子ビーム照射を完全に回避することが可能になる。
このように、本願発明におけるエアロックバルブは、簡単な構造であるにもかかわらず、Оリングの電子ビーム照射を回避することができ、且つビーム経路への露出も避けることができ、更に中間室(
図5、
図6A及びBによれば、中間室1)の外に設けることができるので、真空排気負荷の軽減などが可能である。従って、本願発明によれば上記効果を奏することができる。
また、本願発明におけるエアロックバルブの駆動部は、中間室(
図5、
図6A及びBによれば、中間室1)の外に設置することができるので、Оリングによる摺動シールを採用することが可能である。これは、従来の方法では、エアロックバルブの駆動シャフトの移動部の真空シールに、高価な真空ベローズ(例えば、溶接ベローや成型ベロー)が必要とされることを考えると、大きなコストダウンになるため、製造コストに優れる。
【0024】
7.本願発明によれば、電子源としてフィールドエミッション電子源を使用する走査型電子顕微鏡用の高加速電圧フィールドエミッション電子銃チャンバーとしても使用することが可能という効果を奏する。
具体的には、本願発明によれば、電子源としてフィールドエミッション電子源を使用する走査型電子顕微鏡用のフィールドエミッション電子銃チャンバーとして、最大加速電圧が15kV以上の加速度(例えば、30~60kVの高加速電圧)でも使用することが可能である。
本願発明では、フィールドエミッション電子源を使用する、最大加速電圧を15kV以上の30~60kVとする高加速電圧の走査型電子顕微鏡用のフィールドエミッション電子銃チャンバーを考えた場合、最大加速電圧が15kVの場合よりも高圧碍子が大きくなるため、小型の略立方体形状(例えば、略70mm立方のステンレスブロック)の機械加工によって作ることができる、最大加速電圧が15kVの走査型電子顕微鏡用のフィールドエミッション電子銃チャンバーには入らなくなってしまう。このような場合は、本願発明の略立方体形状(キュービック)のフィールドエミッション電子銃チャンバーの上部に、ステンレス製の円筒形電子源室をつなぎ、大型のスパッタイオンポンプ(SIP)を装備することによってこの問題を解決できる。また、予備排気バルブ、真空排気用配管、及びエアロックバルブはそのまま機能するので変える必要はない。側面にあるコンフラット真空フランジ(例えば、規格サイズ:ICF70)の真空チャンバーを高真空に排気するためのスパッタイオンポンプ(SIP)は、上部の円筒形電子源室に付けられた大型スパッタイオンポンプ(SIP)に取って代わるので必要なくなる。そのため、本願発明によれば、高加速電圧の走査型電子顕微鏡用のフィールドエミッション電子銃チャンバーを製作する場合でも、容易に製作することができる。従って、本願発明によれば上記効果を奏することができる。
このように、本願発明では、予備排気バルブ、真空排気用配管、及びエアロックバルブが備わっている略立方体形状(キュービック)のフィールドエミッション電子銃チャンバーの上方向に高加速電圧に適応した大きさの真空チャンバーを結合することで、高加速電圧フィールドエミッション電子銃チャンバーとしても採用することができる。この場合、チャンバーの大きさに対応してスパッタイオンポンプ(SIP)の大型化が必要になるが、従来のフィールドエミッション電子銃チャンバーで必要とされる外付けの予備排気バルブや配管(パイプ)を無くすことができるので、コンパクトなすっきりした形になる。このように構造が単純化されるので、焼出しベークヒーター、及び磁気シールドなどの外付け構造物の設計が容易になるという効果が得られる。
【0025】
8.本願発明によれば、上述のとおり、これまでにない、簡単で小型化可能な構造を有するフィールドエミッション電子銃チャンバーを低コストで提供することができるので、電子銃及び走査型電子顕微鏡の製造コスト削減を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】一般的なフィールドエミッション電子銃チャンバーとその真空排気系部の外観図である。
【
図2】一般的なフィールドエミッション電子銃チャンバーとその真空排気系部の断面図(概略図)である。
【
図3A】本願発明の一実施態様の正面図と側面図(ともに概略図)である。
【
図3B】本願発明の一実施態様の正面図と側面図(ともに概略図)である。
【
図4A】一般的なフィールドエミッション電子銃チャンバーに設置されるエアロックバルブ(当該バルブのОリング設置面が駆動方向に対して水平のもの)の開閉時の概略図である。
【
図4B】一般的なフィールドエミッション電子銃チャンバーに設置されるエアロックバルブ(当該バルブのОリング設置面が駆動方向に対して5~15°で傾斜しているもの)の開閉時の概略図である。
【
図5】本願発明の一実施態様であるフィールドエミッション電子銃チャンバーに設置される遮蔽板付きエアロックバルブの開閉時の概略図である。
【
図6A】本願発明の一実施態様であるフィールドエミッション電子銃チャンバーに設置される遮蔽板付きエアロックバルブ部分(すなわち、
図5のエアロックバルブ部分)の一実施態様の拡大図(概略図)である。
【
図6B】本願発明の一実施態様であるフィールドエミッション電子銃チャンバーに設置される遮蔽板付きエアロックバルブ部分(すなわち、
図5のエアロックバルブ部分)の一実施態様の拡大図(概略図)である。
【
図7A】本願発明の一実施態様である走査型電子顕微鏡の概略図である。
【
図7B】本願発明の一実施態様である走査型電子顕微鏡(すなわち、
図7A)の作動時の電子源チャンバーの圧力(P
0)、中間室の圧力(P
1)、試料室の圧力(P
2)の各圧力(単位:Pa)と経過時間(単位:hr)との関係を示すグラフである。
【
図8】以下の条件下でのLaB
6をエミッターとして使用するフィールドエミッション電子源の全エミッションプロファイルを示すグラフである(条件:電子源チャンバーの圧力(P
0)=2.5×10
-7Pa、中間室の圧力(P
1)=1×10
-5Pa、試料室の圧力(P
2)=3×10
-3Pa、エアロックバルブは開いた状態である。)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本願発明を実施するための形態について詳細に説明する。尚、本願発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができることに留意すべきである。なお、
図4A及びB、
図5では、フィールドエミッション電子銃チャンバーに設置される真空排気系統部(例えば、
図3A及びBに示されている、電子源チャンバーを高真空排気するためのイオンポンプや中間室を高真空排気するためのイオンポンプなど)は、便宜上、図示していない。
【0028】
本願発明において、「走査型電子顕微鏡用の電子銃チャンバー」(本願では、「フィールドエミッション電子銃チャンバー」とも称する)とは、走査型電子顕微鏡における電子顕微鏡鏡筒部の上に載せる部分の総称である。
ここで、「電子顕微鏡鏡筒部」とは、走査型電子顕微鏡において装填・設置される、一般的に「集束レンズ」や「対物レンズ」と称される走査型電子顕微鏡用のレンズを備える筒部のことである。
【0029】
「走査型電子顕微鏡用の電子銃チャンバー」は、具体的には、走査型電子顕微鏡における、高圧ケーブルと、電子源と、電子源チャンバーと走査型電子顕微鏡の電子顕微鏡鏡筒部との間に設けられる中間室と、当該中間室と当該鏡筒部との間に設置されるエアロックバルブと、を備える部分である。
ここで、「高圧ケーブル」とは、電子源を構成するカソード電極に高電圧を印加するためのケーブルのことである。
「電子源」とは、電子線を発生させて加速するもので、具体的には、高圧碍子と、エミッター及びカソード電極からなる部分と、アノード電極(これは一般的に「引出電極」及び「加速電極」と称する)とを備える。その中で、フィールドエミッション電子源とは、真空チャンバー内のカソード電極の先端に設けられたタングステン単結晶などの針先端部に、室温、高真空中(約10-7Pa以上)で高い電界を印可し、強電界で電子を引き出すものである。フィールドエミッション電子源のエミッターとしては、タングステン単結晶のほか、熱電子源としても知られるLaB6(例えば、LaB6のナノワイヤ)を用いることもできる。仕事関数が低いため電子のトンネル確率が大きく、放出される電流量が多いという点で、LaB6を用いることが好ましい。
「電子源チャンバー」とは、電子源を収容する真空容器のことであるが、本願では、上記高圧ケーブルを含む。
【0030】
「フィールドエミッション電子源を脱着する部位」とは、フィールドエミッション電子源を取り付けたり、取り外したりすることができる部分(場所)のことで、一般的には、そのためのフランジを備える。但し、その目的が達成することができるものであれば、特に制限はない。また、電子源は、通常、電子源チャンバー内の上面に取り付ける。
走査型電子顕微鏡用の電子銃チャンバーを構成する電子源チャンバーと中間室は、電子源から放出される電子線の方向に電子線が通過する、前記電子源チャンバーに隣接して設けられた中間室である。電子源は、通常、電子源チャンバー内の上面に取り付けるので、当該電子源チャンバー内の上面から底面に向かって(すなわち、下方に向かって)電子線が進むことになる。
【0031】
中間室は、その上面が電子源チャンバーの底面と隣接して設置されている。中間室内の上面と電子源チャンバー内の底面との間(すなわち、電子チャンバーの仕切り面とそれに隣接する中間室の仕切り面との間)には、電子源から発生する(すなわち、放出される)電子線を通過させるための、一般的に「絞り」または「差動排気用絞り」と呼ばれる孔が設けられている。当該絞りは、直結する空間(部屋)の間で、電子ビームを通し且つ圧力の差を保つための小孔であり、「オリフィス」と呼ばれることもある。
中間室は、電子源チャンバーと走査型電子顕微鏡の電子顕微鏡鏡筒部との間に設けられる真空室であり、その底面にも、上記電子源をさらに当該鏡筒部に通過させるための絞りが設けられている。
電子源チャンバー内の真空度(通常、約10-7Paオーダー)と電子顕微鏡鏡筒部内の真空度(通常、10-3Paオーダー)との間には、3~4桁にも及ぶ真空度の差が生じてしまうため、電子源チャンバーと電子顕微鏡鏡筒部の間に小さな空間である中間室を設けて、個別に連なる真空室の真空度の差(すなわち、電子源チャンバーと中間室の間の真空度の差と、中間室と電子顕微鏡鏡筒部の間の真空度の差)が2桁以下となるようにしている。
また、中間室には、その底面に設けられた絞りを開閉するためのエアロックバルブを設置する。そのため、中間室は、その底面にエアロックバルブの設置部位を持つ。
【0032】
エアロックバルブは、通常、フィールドエミッション電子源からの電子線は容易にオン/オフ(on/off)ができず、電子線は常に放出されている。エアロックバルブは、高真空に保たれたフィールドエミッション電子銃チャンバーと当該チャンバーに設置される電子顕微鏡鏡筒部との間にあり、電子顕微鏡の試料交換時に生じる当該電子顕微鏡鏡筒部の真空度低下を実施する時に閉めるという重要な役割を担うバルブである。また、フィールドエミッション電子源を単独で保管や交換する時には、電子源チャンバーと大気圧の間を閉じる重要なバルブとしての役割を担う。
エアロックバルブの具体例としては、
図4AやBに示すものが挙げられる。
図4Aに示すエアロックバルブは、Oリングシール面が水平面で、バルブシール用Oリングの弁の部分がカムで下に押し下げられてOリング面を真空シール面に押し当てることで閉じる構造を有するバルブである。
図4Bに示すエアロックバルブは、水平方向の動きによってOリングを真空シール面に押しつけるため、Oリング面は5~15°程度の傾斜した形で水平方向に駆動して弁座に圧力を加える構造を有するバルブである。
いずれも、開閉時に、フィールドエミッション電子源からの電子線による、エアロックバルブに設置されるOリングの被爆を避けるため、電子源に露出させないようにOリング設置面を下面、シール面を上面とする構造になっている。
但し、エアロックバルブは、その目的が達成することができるものであれば、
図4AやBに示すものに限らない。
【0033】
電子源チャンバーと中間室にはそれぞれ、各内部を高真空にするための排気孔を設置する。具体的には、電子源チャンバーと中間室にはそれぞれ、電子源チャンバーと中間室には、高真空排気用のポンプ(例えば、スパッタイオンポンプ(SIP))とつながる高真空排気用ポンプ用排気孔と予備真空排気用ポンプ(例えば、ディフュージョンポンプ(DP)やターボモレキュラーポンプ(TMP))とつながる予備真空排気用ポンプ用排気孔とが設置されている。予備真空排気用ポンプは、高真空排気用のポンプが作動できる真空度まで予備真空排気(粗引き)するために使用するものである。通常、ディフュージョンポンプ(DP)やターボモレキュラーポンプ(TMP)のような予備真空排気用ポンプはさらにロータリーポンプ(RP)へとつなげ、前者を二次真空引き用として使用し、後者を一次真空引きとして使用する。但し、その目的が達成することができるものであれば、特に制限はない。なお、本願では、予備真空排気用ポンプ用排気孔を「予備真空排気孔」と称することもある。
【0034】
電子源チャンバーと中間室のそれぞれに設置する予備真空排気用ポンプ用排気孔は、当該電子源チャンバーと当該中間室の連続する面に設置する。つまり、電子源チャンバーの予備真空排気用ポンプ用排気孔と中間室の予備真空排気用ポンプ用排気孔は、同じ面にある。本願では、この面側(すなわち、当該予備真空排気用ポンプ用排気孔が設置されている面)を便宜上、側面と称することもある。
【0035】
電子源チャンバーと中間室は、それぞれに設置される予備真空排気用ポンプ用排気孔を直接開閉する開閉手段を有する。当該開閉手段は、予備真空排気用ポンプ用排気孔を直接開閉することによってその目的を達成するものであればよい。
例えば、電子源チャンバーと中間室の連続する面に円筒状の凹みを作り、その凹みの底面に当該電子源チャンバーへとつながる排気孔と当該中間室へとつながる排気孔とを設け、これら排気孔を電子源チャンバーと中間室の各予備真空排気用ポンプ用排気孔とする。つまり、この凹みは、電子源チャンバーの予備真空排気用ポンプ用排気孔と中間室の予備真空排気用ポンプ用排気孔に跨っている。
これら予備真空排気用ポンプ用排気孔は、上記円筒状の凹みに嵌合するもの(いわゆる、蓋体)をピストンの摺動に連動してその凹みに直接嵌合させる(すなわち、蓋をする)ことによって閉じ、取り外す(すなわち、蓋を外す)ことによって開ける。このような開閉手段によって予備真空排気用ポンプ用排気孔を直接開閉する。蓋体で蓋をする方法や取り外す方法は、その目的を達成できるものであれば、押圧によるパッキングによるものや噛み合わせによるもの等でもよく、特に制限はない。本願では、このような予備真空排気用ポンプ用排気孔の開閉を蓋体の押し付けと開放とも称する。
【0036】
上記例として、より具体的には以下のようなものが挙げられる。
電子源チャンバーと中間室の連続する背面をフランジ面とし、その中に穴(凹み)を施し、その底面に当該電子源チャンバーへとつながる排気孔と当該中間室へとつながる排気孔とを設ける。これら排気孔を電子源チャンバーと中間室の各予備真空排気用ポンプ用排気孔とする。これら2つの予備真空排気用ポンプ用排気孔は、当該排気孔を開閉するOリングシールをバルブシールとして取り付けたピストン構造を有するフランジで開閉する。ピストンの摺動に合わせて前後に駆動する前記バルブシール部は、上記穴(凹み)の底面をシール面、側面をガイドとする構造である。また、Oリングシールとして、バイトンOリングや耐熱性樹脂のポリイミドシートなどが挙げられる。
【0037】
このように、予備真空排気用ポンプ用排気孔を直接開閉する開閉手段は、前記2つの予備真空排気用ポンプ用排気孔に対して直接、蓋(シール)をするものである。そして、この蓋(シール)は、シリンダーとピストン機構のピストン頭頂部の円形平面(いわゆるディスク)と、この円形平面(ディスク)の端ぎりぎり(すなわち、末端)に溝を円形に一周するように設けてOリングを保持する、いわゆるディスクとOリングが一体となった1つのもの(すなわち、蓋体)である。そのため、本願発明における予備真空排気用ポンプ用排気孔を直接開閉する開閉手段は、前記2つの予備真空排気用ポンプ用排気孔の開閉に対して非常に簡単な構造を有するものである。
【0038】
予備真空排気用ポンプ用排気孔を直接開閉する開閉手段は、上記例のように、電子源チャンバーと中間室の各予備真空排気用ポンプ用排気孔を同時に開閉する構造とすることができる。つまり、前記2つの予備真空排気用ポンプ用排気孔を同時に同一の1つの蓋体で直接開閉することができる。しかしながら、これを別途に行う構造にしてもよい。この場合、前記2つの予備真空排気用ポンプ用排気孔を別々の蓋体で直接開閉すればよい。上記例を使用すると、電子源チャンバーの背面をフランジ面とし、その中に穴(凹み)を施し、その底面に当該電子源チャンバーへとつながる排気孔(すなわち、予備真空排気用ポンプ用排気孔)を設け、中間室の背面にも同様にしてその底面に当該中間室へとつながる排気孔(予備真空排気用ポンプ用排気孔)を別に設け、それぞれ個別に、当該排気孔を開閉するOリングシールをバルブシールとして取り付けたピストン構造を有するフランジで開閉すればよい。つまり、前記2つの予備真空排気用ポンプ用排気孔を、それぞれ異なる蓋体で直接開閉すればよい。
【0039】
本願発明において、走査型電子顕微鏡用の電子銃チャンバーを構成する前記電子源チャンバー及び前記中間室は、小型の略立方体形状の同一ステンレスブロック(塊)に対して、溶接加工をせずに穴加工だけで製作してもよい。この場合、本願発明の走査型電子顕微鏡用の電子銃チャンバーは略立方体形状を有する。ベーク用の加熱ヒーターとしてカートリッジヒーターを取り付けてもよい。
電子源チャンバーと中間室の各々に設置される真空排気用ポンプ用排気孔は、本願発明の目的を達成できる限り、どの位置(場所)に設置してもよいが、内部の効率的な高真空排気やコンパクトな構造設計等の観点から、互いに左右対称となる位置に設置することが好ましい。
【0040】
本願発明においては、前記中間室と前記電子顕微鏡鏡筒部の間に更に別の中間室を設けてもよい。便宜上、本願では、前記中間室を第一中間室、別に設けられる中間室を第二中間室と称する。
この場合、走査型電子顕微鏡用の電子銃チャンバーは、具体的には、走査型電子顕微鏡における、電子源(高圧ケーブルも含む)と、電子源チャンバーと、電子源チャンバーと走査型電子顕微鏡の電子顕微鏡鏡筒部との間に設けられる、当該電子源チャンバーに隣接する第一中間室及び当該第一中間室に隣接する第二中間室と、当該第二中間室と当該鏡筒部との間に設置されるエアロックバルブと、を備える部分である。
走査型電子顕微鏡用の電子銃チャンバーを構成する、電子源チャンバーと第一中間室と第二中間室は、電子源から放出される電子線の方向に電子線が通過する、電子源チャンバーに隣接して設けられた第一中間室、及び前記第一中間室の下方に隣接する第二中間室である。電子源は、通常、電子源チャンバー内の上面に取り付けるので、当該電子源チャンバー内の上面から底面に向かって(すなわち、下方に向かって)電子線が進むことになる。
【0041】
第一中間室は、その上面が電子源チャンバーの底面と隣接して設置されている。第一中間室内の上面と電子源チャンバー内の底面との間(すなわち、電子チャンバーの仕切り面とそれに隣接する中間室の仕切り面との間)、並びに、第二中間室内の上面と第一中間室内の底面との間(すなわち、第一中間室の仕切り面とそれに隣接する第二中間室の仕切り面との間)には、電子源から発生する(すなわち、放出される)電子線を通過させるための絞りが設けられている。
【0042】
第二中間室はエアロックバルブの設置部位を持つ。
第二中間室には、中間室1の下部との間に設けられた絞りを中心とする円筒状の小径の貫通孔を、第二中間室の上面から底面にかけて設ける。但し、この貫通孔は、第二中間室の上面に隣接する第一中間室底面は貫通しないが、第二中間室の底面は貫通するように設けられている。つまり、上記貫通孔は、第一中間室と第二中間室との間の仕切り面を貫通するものではないが、第二中間室に設置する電子顕微鏡鏡筒部との間の仕切り面は貫通している。また、上記貫通孔は、エアロックバルブにも、第二中間室に設置するエアロックバルブを設置し、開いた状態でのみ電子線がエアロックバルブ内を通過するように貫通孔を設ける。
貫通孔の大きさは、電子線の通過路としての機能を発揮でき、本願発明の目的と達成できる大きさであればよい。
【0043】
エアロックバルブは、それを構成するОリングを設置する面(すなわち、Оリング面)が、第一中間室と第二中間室の隣接面(仕切り面)に対して60°以上80°以下の傾斜軸で上向きに傾斜している。つまり、設置したエアロックバルブが駆動して前後方向に動く際の面方向に対して垂直方向の面から60°以上80°以下の傾斜軸で上向きに傾斜している。
このように大きく上向きに傾斜したОリング面シール面と、Оリング面の内側に凹み穴を作り、この凹み部に嵌め込む凸部をシール用Оリングの内側に設け、嵌め込みとする。この凸部は、通常、円筒状(上方に延伸する略円柱形)である。エアロックバルブに設けられる上記貫通孔は、この凸部に作られることになる。
このような構造を有しているので、エアロックバルブを設置したときに、Оリングは中央部の凸部の陰になり、これにより、Оリング表面は、エアロックバルブが開いた状態でも、電子線が直接当たることがない。
エアロックバルブはこのような構造を有するので、設置するエアロックバルブ自体は真空にする第一中間室の外に置くことになる。そのため、従来のような室内にエアロックバルブを備えた中間室を真空排気する場合に比べ、中間室の真空排気の負荷は非常に小さい。
また、エアロックバルブの駆動は、凸部を傾斜軸に対して垂直方向へスライドさせることになるので、駆動軸とОリングシール面が垂直となり、駆動力が直接Оリングシール面にかかる。そのため、エアロックバルブは従来のものよりも簡単な構造といえる。
上述のとおり、エアロックバルブを開く時は、電子線はОリング内の凸部の円筒状の貫通孔を通るので、Оリングに散乱した電子線が当たることは略避けられる。但し、その構造上厳密には、エアロックバルブを開く時にОリング表面の一部が上記貫通孔に直接露出するため、その露出部分は電子線経路に露出することになる。そこで、エアロックバルブにおいて、完全にОリング面を電子線経路に露出しない状態にするために、その露出部分に対応する箇所に開閉型の遮閉板を凸部に設置してもよい。例えば、
図5、
図6A及びBに示す構造が挙げられる。
【0044】
フィールドエミッション電子銃チャンバーを構成する従来のエアロックバルブは、開閉時に、フィールドエミッション電子源からの電子線による、エアロックバルブに設置されるOリングの被爆を避けるため、電子源に露出させないようにOリング設置面を下面、シール面を上面とする構造になっている(
図4AとB参照)。このため、従来のエアロックバルブは、中間室内に設けられている。その開閉は水平方向から出し入れされるシャフトにより開閉駆動される。水平方向の動きによってOリングを真空シール面に押しつけるため、
図4Bに示すとおり、Oリング面は5~15°程度の傾斜した形で水平方向に駆動して弁座に圧力を加える構造になっている。或いは、
図4Aに示すとおり、Oリングシール面が水平面で、バルブシール用Oリングの弁の部分がカムで下に押し下げられてOリング面を真空シール面に押し当てることで閉じることになる構造である。駆動部とシール面がほぼ90°の角度を持つため、複雑な構造となる。この構造ではエアロックバルブ及び駆動部が内部を真空にする中間室内に設置されることになるため、構造が複雑で、中間室の真空排気の負荷が大きい。
しかし、第二中間室に設置するエアロックバルブは、上述のとおりの構造を有するため、従来のエアロックバルブを使用するフィールドエミッション電子銃チャンバーで生じる上記課題を解決することができる。
【0045】
本願発明の走査型電子顕微鏡用の電子銃チャンバーは、それを用いて電子銃又は走査電子顕微鏡としてもよい。
【実施例0046】
次に、実施例を挙げて本願発明の実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
<実施態様1>
本願発明のフィールドエミッション電子銃チャンバーの一実施態様の構造を正面図と側面図にして
図3Aに示す。
図3Aの正面図は、エアロックバルブ3を閉じた状態を示す。また、
図3Aの側面図は、エアロックバルブ3及び予備排気バルブ(粗引バルブ)6を矢印方向にスライドさせることによって開閉させることを示す。
【0048】
[
フィールドエミッション電子銃チャンバーの構造]
本実施態様1のフィールドエミッション電子銃チャンバーは、
図3Aに示すとおり、電子源チャンバー2、中間室1、エアロックバルブ3、及び予備排気バルブ(粗引バルブ)6を一体のブロック(特に、略立方体形状を有する一体のブロック)で構成することを特徴とする。そのため、本実施態様1のフィールドエミッション電子銃チャンバーは、略立方体形状(キュービック)を有することが可能である。なお、予備排気バルブ(粗引バルブ)6は、別途に設けられた粗引き用の真空排気用配管5とつながっている。
ここで、寸法としては、例えば、コンフラット真空フランジ(規格サイズ:ICF70)の寸法を規準とし、70mm立方を基本とする。立方体の上半分に、直径(φ)40mm×長さ(L)35mmの穴を設け、電子源チャンバー2とし、その下に、直径(φ)7mm×長さ(L)20mm程度の筒状の空間を設け、高真空に排気する中間室1とする。円筒形の中間室1の上面と底面には、直径(φ)0.5mm~直径(φ)1mmの絞り(すなわち、差動排気用絞り)を設ける。当該絞りは、直結する空間(部屋)の間で、電子ビームを通し且つ圧力の差を保つための小孔であり、「オリフィス」と称することもある。
【0049】
本実施態様1のフィールドエミッション電子銃チャンバーの上面、背面、左右面の4面は、コンフラット真空フランジ(規格サイズ:ICF70)のフランジ面とする。上面には電子源を設置する。具体的には、上面は電子源を構成する高圧碍子とカソード電極を結合することになる。
背面は、
図3Aの側面図に示すとおり、電子源チャンバー2と中間室1のそれぞれに外部へ通じる孔(すなわち、排気孔)を設け、電子源チャンバー2と中間室1の各内部を真空排気する構造、いわゆる「真空排気用バルブ構造」とする。
背面のコンフラット真空フランジ(規格サイズ:ICF70)には、この2つの孔(すなわち、電子源チャンバー2と中間室1に設けられた各排気孔)を開閉するOリングを付けたピストン状のフランジを設け、予備排気バルブ6を構成する。
【0050】
左右のコンフラット真空フランジ(規格サイズ:ICF70)のフランジ面には、
図3Aの正面図に示すとおり、2つのイオンポンプがそれぞれ、電子銃室2と中間室1とつながっており、これにより各内部の高真空排気を行う。
【0051】
エアロックバルブ3は、
図3Aに示すとおり、中間室1の底面に設ける。エアロックバルブ3は、電子源チャンバー2と中間室1部分の真空を、走査電子顕微鏡を使用する際にフィールドエミッション電子銃チャンバーと設置する電子顕微鏡鏡筒部内の真空から真空隔離するためのバルブであり、これにより、各真空室を真空隔離するとともに、像観察する時のみ、そのバルブを開くことによって中間室1の底面に設けられた上記差動排気用絞りに電子線を通ずる。
エアロックバルブ3は、
図3Aのように中間室1の底面に設ける。
エアロックバルブは、フィールドエミッション電子銃チャンバーにおいて次のような重要な役割を担っている。
通常、フィールドエミッション電子源からの電子線は容易にオン/オフ(on/off)ができず、電子線は常に放出されている。エアロックバルブは、高真空に保たれたフィールドエミッション電子銃チャンバーと当該チャンバーに設置される電子顕微鏡鏡筒部との間にあり、電子顕微鏡の試料交換時に生じる当該電子顕微鏡鏡筒部の真空度低下を実施する時に閉めるという重要な役割を担っている。また、フィールドエミッション電子源を単独で保管や交換する時には、電子源チャンバーと大気圧の間を閉じる重要なバルブとしての役割を担っている。
【0052】
図3Aに示すエアロックバルブ3の具体的実施態様を、
図4AとBに示す。但し、当該エアロックバルブ3は、上記役割を果たすものであればよく、これらに制限されるものではない。
図4Aは、水平方向の動きによってOリングを真空シール面に押しつけるため、Oリングシール面が水平面で、バルブシール用Oリングの弁の部分がカムで下に押し下げられてOリング面を真空シール面に押し当てることで閉じることになる構造である。
図4Bは、Oリング面は5~15°程度の傾斜した形で水平方向に駆動して弁座に圧力を加える構造になっている。
いずれも、これらの図に示すとおり、フィールドエミッション電子銃チャンバーを構成する従来のエアロックバルブは、開閉時に、フィールドエミッション電子源からの電子線による、エアロックバルブに設置されるOリングの被爆を避けるため、電子源に露出させないようにOリング設置面を下面、シール面を上面とする構造になっている。このため、従来のエアロックバルブは、中間室内に設けられる。その開閉は水平方向から出し入れされるシャフトにより開閉駆動される。
【0053】
中間室1は、上述のとおり、エアロックバルブ3により、走査電子顕微鏡を使用する際にフィールドエミッション電子銃チャンバーと接続する電子顕微鏡鏡筒部の真空と隔離される。つまり、フィールドエミッション電子銃チャンバーに電子顕微鏡鏡筒部を接続して走査電子顕微鏡として使用する場合、エアロックバルブ3の設置面(換言すると、中間室1の底面)の下は、真空室になっている。略立方体形状(キュービック)のフィールドエミッション電子銃チャンバーの底面には、電子顕微鏡鏡筒部との接続のため、バイトンOリングによる接続ができる構造が用意されている。
【0054】
[
予備排気バルブ(粗引バルブ)6の構造]
以上のとおりであるから、
図3Aに示す、本願発明のフィールドエミッション電子銃チャンバーは、電子源チャンバー2、中間室1、エアロックバルブ3、及び予備排気バルブ(粗引バルブ)6を一体のブロックで構成することを特徴とするものであり、この特徴は主として、
図3Aの側面図に示される、当該フィールドエミッション電子銃チャンバーを構成する予備排気バルブ(粗引バルブ)6を使用することによりもたらされる。この予備排気バルブ(粗引バルブ)6は、フィールドエミッション電子銃チャンバーの予備排気バルブ(粗引バルブ)としてこれまでに使用されたことがなかったものである。
そこで、この
図3Aの側面図に示される、予備排気バルブ(粗引バルブ)6の構造についてさらに詳述する。
予備排気バルブ(粗引バルブ)6は、電子源チャンバー2と中間室1の真空経路(具体的には、粗引き経路)を確保し、各内部の真空を調整する。
【0055】
フィールドエミッション電子銃チャンバーの背面は、コンフラット真空フランジ(例えば、規格サイズ:ICF70)のフランジ面となっていて、その中には直径(φ)36mm×長さ(L)12mmの穴(凹み)が設けられている。この穴(凹み)の底面に、電子源チャンバー2につながる排気孔と中間室1につながる排気孔とを設ける。これら2つの排気孔は、当該排気孔を開閉するOリングシールをバルブシールとして取り付けたピストン構造を有するフランジ(これを本願では「バルブシール部」とも称する)で開閉する。ピストンの摺動に合わせて前後に駆動する前記バルブシール部は、上記穴(凹み)の底面をシール面、側面をガイドとする構造である。このようにして、本実施態様1における真空バルブ(すなわち、
図3Aの側面図の予備排気バルブ6)は構成されている。この真空バルブはベーク時(真空ベーク時)には開く。具体的には、真空ベーク時は、前記バルブシールは後方に移動し、これにより前記2つの排気孔が、別途設けられた真空排気用配管5(真空排気)につながる構成(
図3Aの側面図に示す、予備排気バルブ6と真空排気用配管5)とすることにより、電子源チャンバー2と中間室1の内部は粗引きされる。真空排気用配管5による真空排気方法は、
図1や2で既述した従来技術を適用すればよい。
なお、Oリングシールとして、バイトンOリングを使用するが、構造上、Oリングの代わりに耐熱性樹脂のポリイミドシートを使用することも可能である。
このように、予備排気バルブ(粗引バルブ)6は、前記2つの排気孔に対してシール・蓋をする部分が、いわゆる一つのディスク/Oリングで閉める簡単な構造となっている。つまり、一つの弁構造で開閉できる簡単な構造となっている。
また、本実施態様1では、2つの予備排気バルブの開閉を同時に行う構成となっているので、粗引き手段としてより合理的である。
【0056】
以上より、従来のフィールフィールドエミッション電子銃チャンバー(
図1及び2を参照)と比較すると、従来のものは、粗引き経路を確保するために2つの予備排気バルブ(粗引バルブ)とそれをつなぐ複雑な真空排気用配管を備えるため、全体として大型になるが、本実施態様1における略立方体形状(キュービック)を有するフィールフィールドエミッション電子銃チャンバーは、その予備排気バルブとして上述する予備排気バルブ(粗引バルブ)6を使用することにより、粗引き経路とバルブとチャンバーがその内部に略収まる構造になり、全体としてコンパクトで小型になる。
また、本実施態様1では、上述のとおり、従来2つの予備排気バルブに相当する予備排気バルブが1つで済み、しかも、当該予備バルブは、前記2つの排気孔に対してシール・蓋をする部分が、一つのディスク/Oリングで閉める簡単な構造で、さらに、従来別々に行っていた2つの予備排気バルブの開閉が同時に行える構成でもあるので粗引き手段としてより合理的である。
【0057】
<実施態様2>
本願発明のフィールドエミッション電子銃チャンバーの別の一実施態様の構造を正面図と側面図にして
図3Bに示す。なお、本実施態様における構成に関し、ここで特に記載や示唆のない構成であって実施態様1で述べたものについては、本実施態様でも同様に適用される。
【0058】
[
フィールドエミッション電子銃チャンバーの構造]
図3Bに示す本実施態様2のフィールドエミッション電子銃チャンバーは、実施態様1(
図3A)と比較すると、当該チャンバーを構成するエアロックバルブ3の構造及び配置手段、並びにそれに伴い真空排気系統部の一部が異なる以外は、全て同じである。
図3Bの正面図は、エアロックバルブ3を閉じた状態を示す。また、
図3Bの側面図は、エアロックバルブ3を開けた状態を示し、当該エアロックバルブ及び予備排気バルブ(粗引バルブ)6は矢印方向にスライドさせることによって開閉させることを示す。
また、
図3Bに示すエアロックバルブ3の構造及び配置手段に関する具体的な実施態様は、
図5、
図6A及びBに詳細に示す。この点については後述する。
図3Bに示す本実施態様2のフィールドエミッション電子銃チャンバーでは、
図3Aに示す本実施態様2とは異なり、中間室1(本願では、第一中間室と称することもある)にはエアロックバルブ3が無い。中間室1の底面に隣接する別の中間室1’(本願では、第二中間室と称することもある。)に設置する。フィールドエミッション電子銃チャンバーにおける、電子源チャンバー2、中間室1、エアロックバルブ3、及び中間室1’の各構成の概略は、
図5に示すとおりである。
本実施態様2のフィールドエミッション電子銃チャンバーに関し、寸法として、実施態様1と同様、例えば、コンフラット真空フランジ(規格サイズ:ICF70)の寸法を規準とし、70mm立方を基本とする。立方体の上半分に、直径(φ)40mm×長さ(L)35mmの穴を設け、電子源チャンバー2とし、その下に、直径(φ)7mm×長さ(L)20mm程度の筒状の空間を設け、高真空に排気する中間室1とする。円筒形の中間室1の上面と底面には、直径(φ)0.5mm~直径(φ)1mmの絞り(すなわち、差動排気用絞り)を設ける。
【0059】
中間室1’の上面には、中間室1の下部との間に設けられた差動排気用絞り(直径(φ)0.5mm~直径(φ)1mmの絞り)を設け、さらにその差動排気用絞りを中心とする直径(φ)が1.5mm~2mmの小さな円筒状の貫通孔を、中間室1’の上面から底面にかけて設ける(但し、この貫通孔は、中間室1’の上面に隣接する中間室1の底面は貫通しないが、中間室1’の底面は貫通するように設けられている。)。これを電子線の通過路とする。その際、中間室1’内に設置するエアロックバルブ3のシール面も貫通するように設ける(この状態は、
図5、
図6A及びBに示す開いた状態になる。)。
エアロックバルブ3には、バイトンゴムОリングを使用する。200℃のベーク時は開いているのでベーキング加熱によるОリングの変形は避けられる。
エアロックバルブ3のシール面は、光軸垂直面(具体的には、エアロックバルブ3が駆動して前後方向に動く際の面方向に対して垂直方向の面)から75°と大きく上向きに傾斜した面となっている。この角度に沿って正面に取付けた駆動部により、エアロックバルブ3は開閉される。中間室1’の外側の底面(すなわち、本実施態様2の(略立方体形状(キュービック)の)フィールドエミッション電子銃チャンバーの外側の底面)は、フランジ構造によって電子顕微鏡鏡筒部と接続する構造になっている。
本実施態様2のフィールドエミッション電子銃チャンバーでも、実施態様1と同様の予備排気バルブ(粗引バルブ)6を使用するが、中間室1とは別に中間室1’を備えるため、真空排気系統部が一部異なる。具体的には、エアロックバルブ3を設置する中間室1’は、
図3Bの側面図に示すとおり、その背面の予備排気バルブ6(すなわち、電子源チャンバー2と中間室1の粗引き経路を確保し、各内部の真空を調整するバルブ)と接続する構造を有していて、別途に設けられた予備真空排気管(真空排気用配管5)接続フランジにつながっている。
【0060】
本実施態様2でも、実施態様1(
図3A)と同様、そのフィールドエミッション電子銃チャンバーの背面は、コンフラット真空フランジ(例えば、規格サイズ:ICF70)のフランジ面となっていて、その中には直径(φ)36mm×長さ(L)12mmの穴(凹み)が設けられている。この穴(凹み)の底面に、電子源チャンバー2につながる排気孔と中間室1につながる排気孔とを設ける。これら2つの排気孔は、当該排気孔を開閉するOリングシールをバルブシールとして取り付けたピストン構造を有するフランジ(これを本願では「バルブシール部」とも称する)で開閉する。ピストンの摺動に合わせて前後に駆動する前記バルブシール部は、上記穴(凹み)の底面をシール面、側面をガイドとする構造である。このようにして、本実施態様2における真空バルブ(具体的には、予備排気バルブ6)は構成されている。この真空バルブはベーク時(真空ベーク時)には開く。ここで、本実施態様2では、
図3Bの側面図に示すとおり、真空ベーク時に前記バルブシールが後方に移動すると、前記2つの排気孔が、エアロックバルブ3が設置される中間室1’に設けられた粗引き経路を確保するための予備真空排気孔(すなわち、
図3Bの側面図に示す、直径(φ)36mm×長さ(L)12mmの穴(凹み)の下の側面に設けられた予備真空排気孔)につながる。この予備真空排気孔は、別途設けられた真空排気用配管5(真空排気)につながっているので、その粗引きにより、電子源チャンバー2と中間室1に加えて中間室1’の内部も真空排気される。
このように、本実施態様2は、実施態様1(
図3A)と比較すると、当該チャンバーを構成するエアロックバルブ3の構造及び配置手段、並びにそれに伴い真空排気系統部の一部が異なる。
しかしながら、従来のフィールフィールドエミッション電子銃チャンバー(
図1及び2を参照)と比較すると、本実施態様2も、実施態様1と同様の予備排気バルブ(粗引バルブ)6を使用するため、粗引き経路とバルブとチャンバーが、その内部に略収まる構造になり、全体としてコンパクトで小型になる。
また、本実施態様2でも、実施態様1と同様、従来2つの予備排気バルブに相当する予備排気バルブが1つで済み、しかも、当該予備バルブは、前記2つの排気孔に対してシール・蓋をする部分が、一つのディスク/Oリングで閉める簡単な構造で、さらに、従来別々に行っていた2つの予備排気バルブの開閉が同時に行える構成でもあるので粗引き手段としてより合理的である。
【0061】
<実施態様3>
本願発明のフィールドエミッション電子銃チャンバーの別の一実施態様の構造を正面図と側面図にして
図5、
図6A及びBに示す。なお、本実施態様における構成に関し、ここで特に記載や示唆のない構成であって実施態様1や2で述べたものについては、本実施態様でも同様に適用される。
【0062】
[
フィールドエミッション電子銃チャンバーの構造]
本実施態様3のフィールドエミッション電子銃チャンバーは、
図5、
図6A及びBに示すとおり、実施態様2(
図3B参照)と同様、電子源チャンバー2、中間室1、エアロックバルブ3、及び中間室1’を用いて構成することを特徴とする。ここで、予備排気バルブ(粗引バルブ)には、
図3Bの側面図に示す、実施態様2と同様の予備排気バルブ(粗引バルブ)6を用いるのが好ましいが、
図1及び
図2に示す従来の予備排気バルブ(粗引バルブ)6を用いることもできる。但し、
図1及び
図2に示す従来の予備排気バルブ(粗引バルブ)6を用いる場合、エアロックバルブ3が設置される中間室1’に設けられた粗引き経路を確保するための予備真空排気孔(すなわち、
図3Bの側面図に示す、直径(φ)36mm×長さ(L)12mmの穴(凹み)の下の側面に設けられた予備真空排気孔)は、
図1及び
図2において別途設けられている真空排気用配管5(真空排気)につなげ、その粗引きにより、電子源チャンバー2と中間室1に加えて中間室1’の内部も真空排気されることになる。
【0063】
[
エアロックバルブ3の構造及び配置手段]
本実施態様3のフィールドエミッション電子銃チャンバーを構成するエアロックバルブ3は、
図5、
図6A及びBに示すように、中間室1’内 に設置する。具体的には、中間室1の底面と隣接し、フィールドエミッション電子銃チャンバーに設置する電子顕微鏡鏡筒部との間の中間室1’内に設置する。
本実施態様3のフィールドエミッション電子銃チャンバーに関し、寸法として、実施態様1と同様、例えば、コンフラット真空フランジ(規格サイズ:ICF70)の寸法を規準とし、70mm立方を基本とする。立方体の上半分に、直径(φ)40mm×長さ(L)35mmの穴を設け、電子源チャンバー2とし、その下に、直径(φ)7mm×長さ(L)20mm程度の筒状の空間を設け、高真空に排気する中間室1とする。円筒形の中間室1の上面と底面には、直径(φ)0.5mm~直径(φ)1mmの絞り(すなわち、差動排気用絞り)を設ける。
【0064】
中間室1’の上面には、中間室1の下部との間に設けられた差動排気用絞り(直径(φ)0.5mm~直径(φ)1mmの絞り)を設け、さらにその差動排気用絞りを中心とする直径(φ)が1.5mm~2mmの小さな円筒状の貫通孔を、中間室1’の上面から底面にかけて設ける(但し、この貫通孔は、中間室1’の上面に隣接する中間室1の底面は貫通しないが、中間室1’の底面は貫通するように設けられている。)。これを電子線の通過路とする。その際、中間室1’内に設置するエアロックバルブ3のシール面も貫通するように設ける(この状態は、
図5、
図6A及びBに示す開いた状態になる。)。
このエアロックバルブ3に設置するОリングの設置面(Оリング面)は、光軸垂直面から75°と大きく上向きに傾斜している。Оリングは上面になり電子ビームの照射を受ける恐れがあるが、75°と大きく上向きに傾斜したОリングシール面と、Оリング面の内側に凹み穴を作り、この凹み部に嵌め込む円筒状の凸部をシール用Оリングの内側に設け、嵌め込みとする。そのため、エアロックバルブ3の上記貫通孔は、
図5、
図6A及びBに示すとおり、この凸部に作られることになる。Оリングは中央部の凸部の陰になり、これにより、当該図に記載の遮蔽板を取り付けていない状態でも、Оリング表面は電子線が直接当たることのない構造になっている。
エアロックバルブ3はこのような構造を有するので、エアロックバルブ3自体は真空にする中間室1の外に置くことになる。そのため、従来のように室内にエアロックバルブ3を備えた中間室を真空排気する場合に比べ、中間室の真空排気の負荷は非常に小さくなる。
また、駆動軸とОリングシール面が垂直となり、駆動力が直接Оリングシール面にかかり、エアロックバルブの構造は簡単になる。
エアロックバルブ3を開く時は、電子線はОリング内の凸部の円筒状の貫通孔を通るので、Оリングに散乱した電子線が当たることは略避けられる。但し、
図5、
図6A及びBに示すとおり、当該図の遮蔽板を取り付けていない状態では、構造上厳密には、Оリング表面の一部は上記貫通孔に露出する。つまり、その露出部分は、電子線経路に露出することになる。この状態を避けることを所望する場合には、
図5、
図6A及びBに示すとおり、凸部に開閉型の遮閉板を設けることで、完全にОリング面を電子線経路に露出しない状態にすることができる。具体的には、例えば、
図6A及びBに示す構造の遮蔽板を設けることができる。
図6Aではそこに示すとおり、板バネ付きの遮蔽板を、電子線が貫通孔を通り抜けていく(すなわち、開いた状態)際に、貫通孔に露出しているОリング表面を完全に遮蔽するように中間室1’内の貫通孔の内側面に設置し、電子線の通り抜けを遮断する(すなわち、閉じた状態)際に、板バネの接合部を支点に屈曲して貫通孔を塞ぐように倒れる簡単な構造となっている。
図6Bではそこに示すとおり、遮蔽板を、電子線が貫通孔を通り抜けていく(すなわち、開いた状態)際に、貫通孔に露出しているОリング表面を完全に遮蔽するように凸部に設置し、電子線の通り抜けを遮断する(すなわち、閉じた状態)際に、凸部内の貫通孔を塞ぐように凸部内部に仕舞い込む構造となっている。
但し、これらの遮蔽板の構造は例示であり、遮蔽板としては、上記遮蔽の目的が達成することができ、また、本願発明の目的を達成できるものであれば、その構造や設置方法に特に制限はない。
【0065】
本実施態様3のフィールドエミッション電子銃チャンバーを構成するエアロックバルブ3は、Оリングへの直接の電子線照射を避けることができ、しかも電子線経路への露出も避けられ、そのうえ、中間室1の外に設けられるので、本実施態様3のフィールドエミッション電子銃チャンバーを簡単な構造にすることができ、また、真空排気負荷を大きく軽減するなどの大きな長所を有する。
また、バルブ駆動シャフトの移動部の真空シールには、従来高価な真空ベローズ(溶接ベロー、成型ベロー)が必要とされたが、本実施態様のエアロックバルブ3の駆動部は、真空にする中間室1の外に設けられるので、大きなコストダウンとなる。
また、本実施態様3のフィールドエミッション電子銃チャンバーを構成するエアロックバルブ3は、当該エアロックバルブを備える中間室1’に設置する電子顕微鏡鏡筒部を真空にするための摺動シールとしてОリングの採用も可能であるので、大きなコストダウンとなる。
【0066】
<実施態様4>
本願発明のフィールドエミッション電子銃チャンバーを含む走査型電子顕微鏡の一実施態様の構造の概略図を
図7Aに示す。ここでは、本願発明のフィールドエミッション電子銃チャンバーとして実施態様2のフィールドエミッション電子銃チャンバーを使用するため、
図7Aにおける、フィールドエミッション電子銃チャンバーの概要は、
図3Bに記載されているとおりである。つまり、
図7Aにおいて、フィールドエミッション電子銃チャンバーを構成する、電子源チャンバー2、中間室1、エアロックバルブ3、IP(すなわち、イオンポンプ)はそれぞれ、
図3における、電子源チャンバー2、中間室1、エアロックバルブ3、IPに対応している。
なお、
図7Aでは、便宜上、エアロックバルブ3や電子顕微鏡鏡筒部7を簡略化しているが、その具体的な構造や配置は、
図5、
図6A及びBに記載されているとおりである。つまり、
図5、
図6A及びBに記載されているとおり、実際には、中間室1の底面に隣接する中間室1’にエアロックバルブ3が設置され、さらに中間室1’とフランジによって電子顕微鏡鏡筒部7が接続されている。
図7Aに示すとおり、走査型電子顕微鏡は、フィールドエミッション電子銃チャンバーを載せた電子顕微鏡鏡筒部7を試料室10と接続させることによって構成される。なお、図示はしていないが、試料室10にはリークバルブ(すなわち、真空バルブ)が取り付けられている。
この場合、フィールドエミッション電子源から放出される電子線は、電子源チャンバー2の底面と中間室1の上面との間に設けられたオリフィスと、中間室1の底面に設けられた差動排気用絞りと、中間室1の底面に隣接する、エアロックバルブ3が設置されている中間室1’に設けられた電子線の通過路を、エアロックバルブ3が開いた状態で、通過し、さらに中間室1’とフランジによって接続されている電子顕微鏡鏡筒部内部を通り抜けて試料室10に設置された試料台11の試料へ到達する。この概略が、
図7Aにおいて破線で示されている。
【0067】
図7Aに示すとおり、電子源チャンバー2の圧力はP
0、中間室1の圧力はP
1、試料室10の圧力はP
2で表記されている。
また、フィールドエミッション電子源のエミッターとしては、LaB
6をエミッターとして使用する。
【0068】
図7Bは、本願発明の一実施態様である走査型電子顕微鏡(すなわち、
図7A)を作動させたときの電子源チャンバー2の圧力(P
0)、中間室1の圧力(P
1)、試料室10の圧力(P
2)の各圧力(単位:Pa)と経過時間(単位:hr)との関係を示すグラフである。
電子源チャンバー2の圧力(P
0)と中間室1の圧力(P
1)は、同じ真空計(Gamma Vacuum社製のTiTan 5s ion pump)を使用し、自家製電源による動作電流を測定し、イオンポンプ電流(単位:nA)と圧力(単位:Pa)の関係を示すGamma Vacuum社製の換算表を使用して決定した。
図7Bでは、電子源チャンバー2の圧力(P
0)と中間室1の圧力(P
1)に関し、測定されるイオンポンプ電流(単位:nA)が左軸に表記され、当該電流から上記換算表を使用して得られた主要な圧力(単位:Pa)が右軸に表記されている。
試料室10の圧力(P
2)は、広範囲の真空計(Pfeiffer Vacuum製のPKR251)を使用し、ゲージコントローラーのDCU(ドージングコントロールユニット)から直接読み取ることによって測定した。
また、
図7Bにおける(a)~(d)の時点は、以下を示す。
(a)の時点:エアロックバルブ3を開いた時点、
(b)の時点:エアロックバルブ3を閉じた時点、
(c)の時点:試料交換を完了して試料室10の真空引きを開始した時点、
(d)の時点:エアロックバルブ3を再び開いた時点。
【0069】
図7Bの結果は以下のことを示す。
[1] (a)の時点は、エアロックバルブ3を開いた時点を示す。試料室10の圧力(P
2)は10
-3オーダーで、試料室10の圧力(P
2)と電子源チャンバー2の圧力(P
0)との真空度の差が3桁以上あり、また、電子源チャンバー2の圧力(P
0)と中間室1の圧力(P
1)の真空度の差も2桁以下である。そのため、走査型電子顕微鏡(特に、LaB
6をフィールドエミッション電子源のエミッターとして使用する走査型電子顕微鏡)で要求される作動排気を満たす。
[2] (a)の時点から(b)の時点までの期間は、エアロックバルブ3を開いてから閉じるまでの期間を示す。エアロックバルブ3を開くと電子源チャンバー2の圧力(P
0)はいったん急激に上がるために真空度は下がるものの約3×10
-7Pa以上の真空度にはならない。つまり、上記期間において、真空度を約3×10
-7Pa未満に維持することができる。これは重要なことである。LaB
6をフィールドエミッション電子源のエミッターとして使用する場合、電子ビームを安定して放出するためには、真空度の上限値を3×10
-7Paまでとする必要があると一般的に考えられているからである。
図7Bの結果は、上記期間において、約3×10
-7Pa未満の真空度を定常状態で2時間以上維持できることができることを示しているため、安定した電子ビーム電流が得られることになり、試料測定が安定して行える。
図8は、この定常状態の一部期間(60分間)での電子源の全エミッション電流の変化を示すグラフ、すなわち、LaB
6をエミッターとして使用するフィールドエミッション電子源の全エミッションプロファイルを示すグラフである。この条件は、エアロックバルブ3が開いた状態であり、電子源チャンバー2の圧力(P
0)は2.5×10
-7Pa、中間室1の圧力(P
1)は1×10
-5Pa、試料室10の圧力(P
2)は3×10
-3Paである。
図8は、安定した電子ビーム電流、すなわち、電子ビームが安定して得られることを示している。
[3] (b)の時点は、エアロックバルブ3を閉じた時点を示すが、これは、エアロックバルブ3を閉じて試料交換のために試料室10の圧力(P
2)を大気圧にした時点を意味する。また、(c)の時点は、この試料交換を完了して試料室10の真空引きを開始した時点を示す。そのため、(b)の時点から(c)の時点までの期間では、(b)の時点で、試料室10の圧力(P
2)は大気圧に戻ることになるが、重要なことは、上記期間において、電子源チャンバー2の圧力(P
0)と中間室1の圧力(P
1)の両方が、真空度が下がっても電子ビーム電流が得られる真空度を維持しているということであり、特に、電子源チャンバー2の圧力(P
0)が3×10
-7Paをはるかに下回る真空度となっているということである。これは、エアロックバルブ3からの漏れがないことを意味する。
また、上記期間において、電子源チャンバー2の圧力(P
0)と中間室1の圧力(P
1)はいずれも、(b)の時点で下がった真空度がすぐに回復しており、(c)の時点では、それぞれ、7×10
-7Pa付近と8×10
-8Pa付近にまで真空度が上がっており、ともに良好な真空度に戻っている。
[4] (c)の時点は、上述のとおり、試料交換を完了して試料室10の真空引きを開始した時点を示し、(d)の時点は、エアロックバルブ3を再び開いた時点を示す。この(d)の時点は、具体的には、試料室10の圧力(P
2)を下げて真空度を1×10
-2Pa未満の1×10
-3Pa付近の領域までに上げた時点になる。この際、試料室10のリークバルブは完全に閉じている。重要なことは、(c)の時点と(d)の時点との間の時間である。この時間はわずか5分であり、これは、試料測定に必要な作動排気(すなわち、電子ビーム電流が流れる状態)を5分という短時間で達成できることを意味する。つまり、試料交換後の試料室10の排気待機時間が極めて短くなることを意味する。
[5] エアロックバルブ3を再び開いた時点を示す(d)の時点を経過すると、エアロックバルブ3を再び開いた(d)の時点では、電子源チャンバー2の圧力(P
0)と中間室1の圧力(P
1)と試料室10の圧力(P
2)はいずれも急激に上がり真空度が下がるものの、その後すぐに真空度が上がり始めて良好な高真空度を達成する。ここで重要なことは、電子源チャンバー2の圧力(P
0)は3×10
-7Paをはるかに下回る圧力を維持しながら、単調に減少していくことである。これは、上述のとおり、LaB
6をフィールドエミッション電子源のエミッターとして使用する場合、電子ビームを安定して放出するのに十分に良好な状態が維持されていることを意味するからである。つまり、エアロックバルブ3を再び開いても走査型電子顕微鏡で要求される作動排気が維持されていることを示す。
本願発明は、走査型電子顕微鏡用のフィールドエミッション電子銃チャンバーを提供するものであるため、フィールドエミッション電子源を使用する走査型電子顕微鏡に関する分野でありさえすれば利用可能性がある。中でも、本願発明は簡単で小型化可能な構造を有するので、広く普及している最大加速電圧が15kVの走査型電子顕微鏡においてフィールドエミッション電子源を使用することが期待されている分野での利用可能性が大いに期待される。