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特開2023-165953Casトランスジェニックマウスの胚性幹細胞およびマウスならびにその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165953
(43)【公開日】2023-11-17
(54)【発明の名称】Casトランスジェニックマウスの胚性幹細胞およびマウスならびにその使用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6811 20180101AFI20231110BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20231110BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231110BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20231110BHJP
   C12N 15/88 20060101ALN20231110BHJP
【FI】
C12Q1/6811 Z ZNA
C12Q1/6869 Z
C12N15/09 110
C12N15/864 100Z
C12N15/88 Z
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168417
(22)【出願日】2023-09-28
(62)【分割の表示】P 2020504684の分割
【原出願日】2018-07-31
(31)【優先権主張番号】62/539,275
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】グオチュン ゴン
(72)【発明者】
【氏名】チャーリーン ハント
(72)【発明者】
【氏名】梶村 大介
(72)【発明者】
【氏名】スザンヌ ハートフォード
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン ザンブロウィッツ
(57)【要約】
【課題】Casトランスジェニックマウスの胚性幹細胞およびマウスならびにその使用の提供。
【解決手段】in vivoおよびex vivoでCRISPR/Cas媒介性非相同末端結合(NHEJ)活性および/または標的ゲノム遺伝子座の外因性ドナー核酸とのCRISPR/Cas誘導性組換えを評価するための方法および組成物が提供される。方法および組成物は、Casタンパク質が構成的に利用可能であり得るか、または組織特異的もしくは時間特異的様式で利用可能であり得るような、ゲノムに組み込まれたCas発現カセットなどのCas発現カセットを含む細胞および非ヒト動物を使用する。非ヒト動物へのガイドRNAのアデノ随伴ウイルス(AAV)媒介性送達によりin vivoでCRISPR/Cas活性を評価するためのこれらの非ヒト動物の使用を含む、これらの非ヒト動物を作製および使用するための方法および組成物も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
in vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Cas9ヌクレアーゼの能力を試験する方法であって、
(a)ラットまたはマウスである非ヒト動物に、前記標的ゲノム遺伝子座においてガイドRNA標的配列を標的とするように設計されたガイドRNAを導入するステップであって、ここで、前記ガイドRNAは、RNAまたは前記ガイドRNAをコードするDNAとして導入され、
前記ガイドRNAが、アデノ随伴ウイルス(AAV)媒介性送達によって導入され、ここで、前記AAVが、静脈内注射によって前記ラットまたはマウスに送達されるAAV8であり、
ここで、前記ラットまたはマウスが、1つまたは複数の核局在化シグナルをさらに含むCas9タンパク質のコード配列を含む、ゲノムに組み込まれたCas9発現カセットを含み、ここで、前記Cas9タンパク質が発現され、
ここで、前記Cas9発現カセットが、Rosa26遺伝子座に組み込まれ、ここで、前記Cas9発現カセットが、前記Rosa26遺伝子座の第1のイントロンに組み込まれる、ステップ;および
(b)肝臓における前記標的ゲノム遺伝子座の前記改変を評価するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)において外因性ドナー核酸が導入され、前記外因性ドナー核酸が、前記標的ゲノム遺伝子座と組み換わるように設計されている、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記外因性ドナー核酸が、一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)である、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記非ヒト動物がマウスである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法であって、ここで:
(I)前記標的ゲノム遺伝子座が標的遺伝子を含み、ステップ(b)が、前記標的遺伝子の発現または前記標的遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を測定することを含む;ならびに/あるいは、
(II)ステップ(b)が、前記ラットまたはマウスから単離された1つまたは複数の細胞中の前記標的ゲノム遺伝子座を配列決定することを含む;ならびに/あるいは、
(III)ステップ(b)が、前記ラットまたはマウスから肝臓を単離すること、および前記肝臓中で前記標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む;ならびに/あるいは、
(IV)ステップ(b)が、前記肝臓内の2つまたはそれより多い異なる細胞型中で前記標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む;ならびに/あるいは、
(V)ステップ(b)が、前記ラットまたはマウスから非標的器官または組織を単離すること、および前記非標的器官または組織中で前記標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む、
方法。
【請求項6】
前記Cas発現カセットが、前記Casタンパク質のコード配列の上流にポリアデニル化シグナルをさらに含み、前記ポリアデニル化シグナルが、リコンビナーゼ認識部位によって挟まれ、前記Cas発現カセット中の前記ポリアデニル化シグナルが、肝臓内で切り出されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記Cas発現カセット中の前記リコンビナーゼ認識部位を認識するリコンビナーゼが、Creリコンビナーゼである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ラットまたはマウスが、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結されたCreリコンビナーゼコード配列を含む、ゲノムに組み込まれたCreリコンビナーゼ発現カセットをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記Cas発現カセットが、前記Casタンパク質のコード配列の上流にポリアデニル化シグナルをさらに含み、前記ポリアデニル化シグナルが、リコンビナーゼ認識部位によって挟まれ、前記方法が、リコンビナーゼを、肝臓特異的様式で前記ラットまたはマウスに導入するステップをさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記リコンビナーゼが、アデノ随伴ウイルス(AAV)媒介性送達または脂質ナノ粒子(LNP)媒介性送達によって導入される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記Cas9発現カセットが、蛍光タンパク質コード配列をさらに含み、前記Cas発現カセットが、介在内部リボソーム進入部位(IRES)または介在2Aペプチドコード配列によって隔てられた前記Casタンパク質のコード配列および前記蛍光タンパク質コード配列を含むマルチシストロン性核酸を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記Cas発現カセット中の前記マルチシストロン性核酸が、介在P2Aペプチドコード配列によって隔てられた前記Casタンパク質のコード配列および緑色蛍光タンパク質コード配列を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記Cas発現カセットが、蛍光タンパク質コード配列をさらに含まない、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記Casタンパク質がタンパク質タグを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記Cas発現カセットの5’末端が、3’スプライシング配列をさらに含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記Cas9発現カセットが、内因性プロモーターまたは外因性の構成的プロモーターに作動可能に連結されている、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ラットまたはマウスが、前記Cas発現カセットについてヘテロ接合性である、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ラットまたはマウスが、前記Cas9発現カセットについてホモ接合性である、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記非ヒト動物が、マウスであり、
前記Cas9発現カセットが、前記Rosa26遺伝子座の内因性Rosa26プロモーターに作動可能に連結されており、5’から3’に向かって、(i)3’スプライシング配列;および(ii)1つまたは複数の核局在化シグナルをさらに含むCas9タンパク質のコード配列を含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
in vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Casヌクレアーゼの能力を最適化する方法であって、
(I)第1のラットまたは第1のマウスにおいて1回目の請求項1から19のいずれか一項のいずれかに記載の方法を実施するステップ;
(II)変数を変更し、第2のラットまたは第2のマウスにおいて変更された前記変数を用いて2回目のステップ(I)に記載の方法を実施するステップ;および
(III)ステップ(I)における前記標的ゲノム遺伝子座の改変と、ステップ(II)における前記標的ゲノム遺伝子座の改変とを比較し、より高い有効性、より高い精度、より高い一貫性、またはより高い特異性のうちの1つまたは複数を有する標的ゲノム遺伝子座の改変をもたらす方法を選択するステップ
を含む、方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、ここで:
(i)ステップ(II)における前記変更された変数が、前記ラットまたはマウスに導入される前記ガイドRNAの濃度または量である
(ii)ステップ(II)における前記変更された変数が、前記ラットまたはマウスに導入される前記ガイドRNAである
(iii)前記方法が、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における前記変更された変数が、前記外因性ドナー核酸を前記ラットまたはマウスに導入する送達方法である
(iv)前記方法が、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における前記変更された変数が、前記外因性ドナー核酸を前記ラットまたはマウスに導入する投与経路である
(v)前記方法が、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における前記変更された変数が、前記ラットまたはマウスに導入される前記外因性ドナー核酸の濃度または量である
(vi)前記方法が、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における前記変更された変数が、前記ラットまたはマウスに導入される外因性ドナー核酸の濃度または量と比較した、前記ラットまたはマウスに導入される前記ガイドRNAの濃度または量である;あるいは、
(vii)ステップ(II)における前記変更された変数が、前記ラットまたはマウスに導入される前記外因性ドナー核酸である、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、あらゆる目的でその全体が参照により本明細書に組み込まれる、2017年7月31日に出願された米国特許出願第62/539,275号の利益を主張する。
【0002】
EFS WEBを介してテキストファイルとして提出された配列表の参照
ファイル516569SEQLIST.txtに記載された配列表は178キロバイトであり、2018年7月30日に作成され、本明細書により参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
背景
CRISPR/Cas技術は、有望かつ新しい治療モダリティである。しかしながら、in vivoで導入されたCRISPR/Cas剤による突然変異生成または標的遺伝子改変の効率を評価するより良好な手段が必要である。in vivoで系を試験する1つの制限は、全ての構成成分を生きている生物体に同時に導入する必要があることである。これらの構成成分を侵入させる典型的な方法は、適切なRNAおよびタンパク質を生成する細胞中にDNA構築物を一過的にトランスフェクトすることである。細胞が、Cas9タンパク質がsgRNA構成成分と相互作用するために利用可能となる前に、最初に転写を受けた後、翻訳を受けるプラスミドDNA構築物に依拠しなければならないため、有効であるが、この手法は固有の欠点も有する。導入されたCRISPR/Cas剤の活性をより効率的に評価し、in vivoで特定の組織または細胞型を標的にするための様々な送達方法およびパラメーターを評価するためのより良好な方法および手段が必要である。
【0004】
さらに、対象へのCRISPR/Cas剤などの生物活性剤の送達は、構成成分が標的細胞または組織に到達する困難性によって阻害されることが多い。これらの制限の結果、例えば、ある結果を達成するのに望ましいものよりもはるかに高い濃度の薬剤を使用する必要があり、毒性効果および副作用のリスクを増大させ得る。改善された送達方法およびin vivoでそのような送達方法を評価する方法が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
要旨
Cas9導入非ヒト動物が提供され、in vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Casヌクレアーゼ作用剤の能力を評価するための方法および組成物が提供される。一態様では、in vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Casヌクレアーゼの能力を試験する方法が提供される。一部のそのような方法は、(a)非ヒト動物に、標的ゲノム遺伝子座のガイドRNA標的配列を標的とするように設計されたガイドRNAを導入するステップであって、非ヒト動物が、NLS-Casコード配列を含む、ゲノムに組み込まれたCas発現カセットを含み、ガイドRNAが、アデノ随伴ウイルス(AAV)媒介性送達によって導入される、ステップ;および(b)標的ゲノム遺伝子座の改変を評価するステップを含む。一部のそのような方法は、(a)非ヒト動物に、標的ゲノム遺伝子座のガイドRNA標的配列を標的とするように設計されたガイドRNAを導入するステップであって、非ヒト動物が、NLS-Casコード配列を含む、ゲノムに組み込まれたCas発現カセットを含み、ガイドRNAが、脂質ナノ粒子(LNP)媒介性送達によって導入される、ステップ;および(b)標的ゲノム遺伝子座の改変を評価するステップを含む。
【0006】
一部のそのような方法では、AAVは、AAV7、AAV8、またはAAV9であり、ステップ(b)は、肝臓において標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む。必要に応じて、AAVは、AAV8である。
【0007】
一部のそのような方法では、AAVの非ヒト動物への投与経路は、静脈内注射、実質内注射、腹腔内注射、点鼻、または硝子体内注射である。
【0008】
一部のそのような方法では、ステップ(a)において外因性ドナー核酸が導入され、外因性ドナー核酸は、標的ゲノム遺伝子座と組み換わるように設計されている。必要に応じて、外因性ドナー配列は、一本鎖オリゴデオキシヌクレオチドである(ssODN)。
【0009】
一部のそのような方法では、非ヒト動物は、ラットまたはマウスである。必要に応じて、非ヒト動物は、マウスである。
【0010】
一部のそのような方法では、標的ゲノム遺伝子座は、標的遺伝子を含み、ステップ(b)は、標的遺伝子の発現または標的遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を測定することを含む。
【0011】
一部のそのような方法では、ステップ(b)は、非ヒト動物から単離された1つまたは複数の細胞中の標的ゲノム遺伝子座を配列決定することを含む。
【0012】
一部のそのような方法では、ステップ(b)は、非ヒト動物から標的器官または組織を単離すること、および標的器官または組織中で標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む。必要に応じて、ステップ(b)は、標的器官または組織内の2つまたはそれより多い異なる細胞型中で標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む。
【0013】
一部のそのような方法では、ステップ(b)は、非ヒト動物から非標的器官または組織を単離すること、および非標的器官または組織中で標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む。
【0014】
一部のそのような方法では、NLS-Casコード配列は、NLS-Cas9コード配列である。
【0015】
一部のそのような方法では、Cas発現カセットは、NLS-Casコード配列の上流にポリアデニル化シグナルをさらに含み、ポリアデニル化シグナルは、リコンビナーゼ認識部位によって挟まれ、Cas発現カセット中のポリアデニル化シグナルは、組織特異的様式で切り出されている。必要に応じて、Cas発現カセット中のNLSコード配列の上流のポリアデニル化シグナルは、肝臓中では切り出されている。必要に応じて、Cas発現カセット中のリコンビナーゼ認識部位を認識するリコンビナーゼは、Creリコンビナーゼである。必要に応じて、非ヒト動物は、ゲノムに組み込まれたCreリコンビナーゼ発現カセットをさらに含み、Creリコンビナーゼ発現カセットは、組織特異的プロモーターに作動可能に連結されたCreリコンビナーゼコード配列を含む。必要に応じて、Creリコンビナーゼ遺伝子は、表2に記載のプロモーターのうちの1つに作動可能に連結されている。
【0016】
一部のそのような方法では、Cas発現カセットは、NLS-Casコード配列の上流にポリアデニル化シグナルをさらに含み、ポリアデニル化シグナルは、リコンビナーゼ認識部位によって挟まれ、この方法は、リコンビナーゼを組織特異的様式で非ヒト動物に導入するステップをさらに含む。必要に応じて、リコンビナーゼは、アデノ随伴ウイルス(AAV)媒介性送達または脂質ナノ粒子(LNP)媒介性送達によって導入される。必要に応じて、リコンビナーゼは、AAV8媒介性送達によって導入される。必要に応じて、リコンビナーゼは、肝臓に導入される。
【0017】
一部のそのような方法では、Cas発現カセットは、蛍光タンパク質コード配列をさらに含む。必要に応じて、Cas発現カセットは、介在内部リボソーム進入部位(IRES)または介在2Aペプチドコード配列によって隔てられたNLS-Casコード配列および蛍光タンパク質コード配列を含むマルチシストロン性核酸を含む。必要に応じて、Cas発現カセット中のマルチシストロン性核酸は、介在P2Aペプチドコード配列によって隔てられたNLS-Casコード配列および緑色蛍光タンパク質コード配列を含む。一部のそのような方法では、Cas発現カセットは、蛍光タンパク質コード配列をさらに含まない。一部のそのような方法では、NLS-Casコード配列は、タンパク質タグを含むCasタンパク質をコードする。
【0018】
一部のそのような方法では、Cas発現カセットは、内因性プロモーターに作動可能に連結されている。一部のそのような方法では、Cas発現カセットは、外因性の構成的プロモーターに作動可能に連結されている。
【0019】
一部のそのような方法では、Cas発現カセットの5’末端は、3’スプライシング配列をさらに含む。
【0020】
一部のそのような方法では、Cas発現カセットは、配列番号13、16、19、または22に記載の配列を含むタンパク質をコードする。必要に応じて、Cas発現カセットは、配列番号28、29、30、または31に記載の配列を含む。必要に応じて、Cas発現カセットは、配列番号1、12、14、15、17、18、20、または21に記載の配列を含む。
【0021】
一部のそのような方法では、Cas発現カセットは、セーフハーバー遺伝子座に組み込まれる。必要に応じて、セーフハーバー遺伝子座は、Rosa26遺伝子座である。必要に応じて、Cas発現カセットは、Rosa26遺伝子座の第1のイントロンに組み込まれる。
【0022】
一部のそのような方法では、非ヒト動物は、Cas発現カセットについてヘテロ接合性である。一部のそのような方法では、非ヒト動物は、Cas発現カセットについてホモ接合性である。
【0023】
一部のそのような方法では、非ヒト動物はマウスであり、AAVはAAV8であり、Cas発現カセットは、内因性Rosa26プロモーターに作動可能に連結されており、Rosa26遺伝子座の第1のイントロンに挿入され、5’から3’に向かって、(i)3’スプライシング配列;および(ii)NLS-Cas9コード配列を含み、ステップ(b)は、非ヒト動物の肝臓中で標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む。一部のそのような方法では、非ヒト動物はマウスであり、AAVは静脈内注射によって非ヒト動物に送達されるAAV8であり、Cas発現カセットは、内因性Rosa26プロモーターに作動可能に連結されており、Rosa26遺伝子座の第1のイントロンに挿入され、5’から3’に向かって、(i)3’スプライシング配列;および(ii)NLS-Cas9コード配列を含み、ステップ(b)は、非ヒト動物の肝臓中で標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む。
【0024】
別の態様では、in vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Casヌクレアーゼの能力を最適化する方法が提供される。一部のそのような方法は、(I)第1の非ヒト動物において1回目のin vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Casヌクレアーゼの能力を試験する上記方法のいずれかを実施するステップ;(II)変数を変更し、第2の非ヒト動物において変更された変数を用いて2回目のステップ(I)の方法を実施するステップ;および(III)ステップ(I)における標的ゲノム遺伝子座の改変と、ステップ(II)における標的ゲノム遺伝子座の改変とを比較し、より高い有効性、より高い精度、より高い一貫性、またはより高い特異性のうちの1つまたは複数を有する標的ゲノム遺伝子座の改変をもたらす方法を選択するステップを含む。
【0025】
一部のそのような方法では、ステップ(II)における変更された変数は、AAV血清型である。一部のそのような方法では、ステップ(II)における変更された変数は、ガイドRNAを非ヒト動物に導入する投与経路である。一部のそのような方法では、ステップ(II)における変更された変数は、非ヒト動物に導入されるガイドRNAの濃度または量である。一部のそのような方法では、ステップ(II)における変更された変数は、非ヒト動物に導入されるガイドRNA(例えば、ガイドRNAの形態または配列)である。一部のそのような方法では、方法は、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における変更された変数は、外因性ドナー核酸を非ヒト動物に導入する送達方法である。一部のそのような方法では、方法は、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における変更された変数は、外因性ドナー核酸を非ヒト動物に導入する投与経路である。一部のそのような方法では、方法は、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における変更された変数は、非ヒト動物に導入される外因性ドナー核酸の濃度または量である。一部のそのような方法では、方法は、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における変更された変数は、非ヒト動物に導入される外因性ドナー核酸の濃度または量と比較した、非ヒト動物に導入されるガイドRNAの濃度または量である。一部のそのような方法では、ステップ(II)における変更された変数は、非ヒト動物に導入される外因性ドナー核酸(例えば、外因性ドナー核酸の形態)である。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
in vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Casヌクレアーゼの能力を試験する方法であって、
(a)非ヒト動物に、前記標的ゲノム遺伝子座のガイドRNA標的配列を標的とするように設計されたガイドRNAを導入するステップであって、
前記非ヒト動物が、1つまたは複数の核局在化シグナルをさらに含むCasタンパク質のコード配列を含む、ゲノムに組み込まれたCas発現カセットを含み、
前記ガイドRNAが、アデノ随伴ウイルス(AAV)媒介性送達によって導入される、ステップ;および
(b)前記標的ゲノム遺伝子座の前記改変を評価するステップ
を含む、方法。
(項目2)
前記AAVが、AAV7、AAV8、またはAAV9であり、ステップ(b)が、肝臓において前記標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記AAVがAAV8である、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記AAVの前記非ヒト動物への投与経路が、静脈内注射、実質内注射、腹腔内注射、点鼻、または硝子体内注射である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目5)
ステップ(a)において外因性ドナー核酸が導入され、前記外因性ドナー核酸が、前記標的ゲノム遺伝子座と組み換わるように設計されている、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6)
前記外因性ドナー核酸が、一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)である、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記非ヒト動物が、ラットまたはマウスである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目8)
前記非ヒト動物がマウスである、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記標的ゲノム遺伝子座が標的遺伝子を含み、ステップ(b)が、前記標的遺伝子の発現または前記標的遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を測定することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目10)
ステップ(b)が、前記非ヒト動物から単離された1つまたは複数の細胞中の前記標的ゲノム遺伝子座を配列決定することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目11)
ステップ(b)が、前記非ヒト動物から標的器官または組織を単離すること、および前記標的器官または組織中で前記標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目12)
ステップ(b)が、前記標的器官または組織内の2つまたはそれより多い異なる細胞型中で前記標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む、項目11に記載の方法。
(項目13)
ステップ(b)が、前記非ヒト動物から非標的器官または組織を単離すること、および前記非標的器官または組織中で前記標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目14)
前記Casタンパク質がCas9タンパク質である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目15)
前記Cas発現カセットが、前記Casタンパク質のコード配列の上流にポリアデニル化シグナルをさらに含み、前記ポリアデニル化シグナルが、リコンビナーゼ認識部位によって挟まれ、前記Cas発現カセット中の前記ポリアデニル化シグナルが、組織特異的様式で切り出されている、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目16)
前記Casタンパク質のコード配列の上流の前記ポリアデニル化シグナルが、肝臓中で切り出されている、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記Cas発現カセット中の前記リコンビナーゼ認識部位を認識するリコンビナーゼが、Creリコンビナーゼである、項目15または16に記載の方法。
(項目18)
前記非ヒト動物が、組織特異的プロモーターに作動可能に連結されたCreリコンビナーゼコード配列を含む、ゲノムに組み込まれたCreリコンビナーゼ発現カセットをさらに含む、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記Creリコンビナーゼ遺伝子が、表2に記載のプロモーターのうちの1つに作動可能に連結されている、項目17または18に記載の方法。
(項目20)
前記Cas発現カセットが、前記Casタンパク質のコード配列の上流にポリアデニル化シグナルをさらに含み、前記ポリアデニル化シグナルが、リコンビナーゼ認識部位によって挟まれ、前記方法が、リコンビナーゼを、組織特異的様式で前記非ヒト動物に導入するステップをさらに含む、項目1から14のいずれか一項に記載の方法。
(項目21)
前記リコンビナーゼが、アデノ随伴ウイルス(AAV)媒介性送達または脂質ナノ粒子(LNP)媒介性送達によって導入される、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記Cas発現カセットが、蛍光タンパク質コード配列をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目23)
前記Cas発現カセットが、介在内部リボソーム進入部位(IRES)または介在2Aペプチドコード配列によって隔てられた前記Casタンパク質のコード配列および前記蛍光タンパク質コード配列を含むマルチシストロン性核酸を含む、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記Cas発現カセット中の前記マルチシストロン性核酸が、介在P2Aペプチドコード配列によって隔てられた前記Casタンパク質のコード配列および緑色蛍光タンパク質コード配列を含む、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記Cas発現カセットが、蛍光タンパク質コード配列をさらに含まない、項目1から21のいずれか一項に記載の方法。
(項目26)
前記Casタンパク質がタンパク質タグを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目27)
前記Cas発現カセットの5’末端が、3’スプライシング配列をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目28)
前記Cas発現カセットが、内因性プロモーターに作動可能に連結されている、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目29)
前記Cas発現カセットが、外因性の構成的プロモーターに作動可能に連結されている、項目1から27のいずれか一項に記載の方法。
(項目30)
前記Cas発現カセットが、配列番号13、16、19、または22に記載の配列を含むタンパク質をコードする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目31)
前記Cas発現カセットが、配列番号28、29、30、または31に記載の配列を含む、項目30に記載の方法。
(項目32)
前記Cas発現カセットが、配列番号1、12、14、15、17、18、20、または21に記載の配列を含む、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記Cas発現カセットが、セーフハーバー遺伝子座に組み込まれる、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目34)
前記セーフハーバー遺伝子座が、Rosa26遺伝子座である、項目33に記載の方法。
(項目35)
前記Cas発現カセットが、前記Rosa26遺伝子座の第1のイントロンに組み込まれる、項目34に記載の方法。
(項目36)
前記非ヒト動物が、前記Cas発現カセットについてヘテロ接合性である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目37)
前記非ヒト動物が、前記Cas発現カセットについてホモ接合性である、項目1から35のいずれか一項に記載の方法。
(項目38)
前記非ヒト動物が、マウスであり、
前記AAVが、静脈内注射によって前記非ヒト動物に送達されるAAV8であり、
前記Cas発現カセットが内因性Rosa26プロモーターに作動可能に連結されており、前記Rosa26遺伝子座の第1のイントロンに挿入され、5’から3’に向かって、(i)3’スプライシング配列;および(ii)1つまたは複数の核局在化シグナルをさらに含むCas9タンパク質のコード配列を含み、
ステップ(b)が、前記非ヒト動物の肝臓中での前記標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目39)
in vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Casヌクレアーゼの能力を最適化する方法であって、
(I)第1の非ヒト動物において1回目の前記項目のいずれかに記載の方法を実施するステップ;
(II)変数を変更し、第2の非ヒト動物において変更された前記変数を用いて2回目のステップ(I)に記載の方法を実施するステップ;および
(III)ステップ(I)における前記標的ゲノム遺伝子座の改変と、ステップ(II)における前記標的ゲノム遺伝子座の改変とを比較し、より高い有効性、より高い精度、より高い一貫性、またはより高い特異性のうちの1つまたは複数を有する標的ゲノム遺伝子座の改変をもたらす方法を選択するステップ
を含む、方法。
(項目40)
ステップ(II)における前記変更された変数が、前記AAV血清型である、項目39に記載の方法。
(項目41)
ステップ(II)における前記変更された変数が、前記ガイドRNAを前記非ヒト動物に導入する投与経路である、項目39に記載の方法。
(項目42)
ステップ(II)における前記変更された変数が、前記非ヒト動物に導入される前記ガイドRNAの濃度または量である、項目39に記載の方法。
(項目43)
ステップ(II)における前記変更された変数が、前記非ヒト動物に導入される前記ガイドRNAである、項目39に記載の方法。
(項目44)
前記方法が、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における前記変更された変数が、前記外因性ドナー核酸を前記非ヒト動物に導入する送達方法である、項目39に記載の方法。
(項目45)
前記方法が、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における前記変更された変数が、前記外因性ドナー核酸を前記非ヒト動物に導入する投与経路である、項目39に記載の方法。
(項目46)
前記方法が、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における前記変更された変数が、前記非ヒト動物に導入される前記外因性ドナー核酸の濃度または量である、項目39に記載の方法。
(項目47)
前記方法が、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における前記変更された変数が、前記非ヒト動物に導入される外因性ドナー核酸の濃度または量と比較した、前記非ヒト動物に導入される前記ガイドRNAの濃度または量である、項目39に記載の方法。
(項目48)
ステップ(II)における前記変更された変数が、前記非ヒト動物に導入される前記外因性ドナー核酸である、項目39に記載の方法。
(項目49)
1つまたは複数の核局在化シグナルをさらに含むCasタンパク質のコード配列を含む、ゲノムに組み込まれたCas発現カセットを含む非ヒト動物。
(項目50)
1つまたは複数の核局在化シグナルをさらに含むCasタンパク質のコード配列を含む、ゲノムに組み込まれたCas発現カセットを含む非ヒト動物細胞。
(項目51)
1つまたは複数の核局在化シグナルをさらに含むCasタンパク質のコード配列を含む、ゲノムに組み込まれたCas発現カセットを含む非ヒト動物ゲノム。
(項目52)
相同アームによって挟まれたCas発現カセットを含む標的化ベクターであって、前記Cas発現カセットが、1つまたは複数の核局在化シグナルをさらに含むCasタンパク質のコード配列を含み、前記相同アームが、ゲノム組込みを容易にするための所望の標的ゲノム遺伝子座との組換えを方向付けるのに好適である、標的化ベクター。
(項目53)
項目49に記載の非ヒト動物を作製するための方法であって、
(a)1つまたは複数の核局在化シグナルをさらに含むCasタンパク質のコード配列を含むCas発現カセットを含むように、非ヒト動物の多能性細胞のゲノムを改変するステップ;
(b)前記Cas発現カセットを含む遺伝子改変された多能性細胞を同定または選択するステップ;
(c)遺伝子改変された多能性細胞を、非ヒト動物宿主胚に導入するステップ;および
(d)代理母に前記非ヒト動物宿主胚を埋め込み、懐胎させるステップ
を含む、方法。
(項目54)
項目49に記載の非ヒト動物を作製するための方法であって、
(a)1つまたは複数の核局在化シグナルをさらに含むCasタンパク質のコード配列を含むCas発現カセットを含むように非ヒト動物の1細胞期胚のゲノムを改変するステップ;
(b)前記Cas発現カセットを含む遺伝子改変された1細胞期胚を選択するステップ;および
(c)代理母に前記遺伝子改変された1細胞期胚を埋め込み、懐胎させるステップ
を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、5’から3’に向かって、3’スプライシング配列;第1のloxP部位;ネオマイシン耐性遺伝子;ポリアデニル化シグナル;第2のloxP部位;NLS-Cas9コード配列;P2Aペプチドコード配列;およびGFPコード配列を含む、Cas9対立遺伝子(MAID2599;正確な縮尺ではない)を示す。
【0027】
図2図2Aは、必要に応じて、Cas9プラスミドの導入と共に、第1の標的遺伝子の開始および停止コドン領域を標的とする2つのsgRNAの導入後の、lox-stop-loxネオマイシンカセットを含む、および含まない野生型F1H4マウス胚性幹細胞(mESC)およびCas9導入mESC(それぞれ、MAID2599およびMAID2600)におけるNHEJ活性を示す。左パネルでは、5’カット効率を測定し、中央パネルでは、3’カット効率を測定し、右パネルでは、介在DNAが完全に欠失される比率を測定した。
【0028】
図2Bは、必要に応じて、Cas9プラスミドと共に、点突然変異ドナーとしての一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)と共に第2の標的遺伝子を標的とするsgRNA(プラスミド形態で、またはRNAとして)の導入後のカット効率(左パネル)およびHDR効率(右パネル)を示す。
【0029】
図3図3A~3Fは、野生型マウスおよびヘテロ接合性Cas9導入マウス(MAID2600)に由来する肝臓(図3A)、腎臓(図3B)、および脳(図3C)組織の明視野画像、ならびに野生型マウスおよびCas9導入マウス(MAID2600)における肝臓(図3D)、腎臓(図3E)、および脳(図3F)組織のGFP蛍光画像を示す。
【0030】
図4A図4Aは、RT-qPCRによって決定されたヘテロ接合性Cas9導入マウス(MAID2600)から単離された様々な組織におけるCas9 mRNA発現レベルを示す。y軸は、脳組織に由来する平均Cas9 Ctと比較したデルタCt+1を示す。
【0031】
図4B図4Bは、野生型マウスおよびヘテロ接合性Cas9導入マウス(MAID2600)から単離された様々な組織におけるCas9タンパク質発現を示す。アクチンを、対照として使用した。
【0032】
図4C図4Cは、RT-qPCRによって決定されたヘテロ接合性Cas9導入マウス(MAID2600)から単離された様々な組織におけるCas9平均Cas9およびベータ-2-ミクログロブリン(B2m)mRNA発現レベルを示す。それぞれの組織型から試験した試料の数を、バーの上に示す。
【0033】
図5図5A~5Bは、GFP mRNAおよび対照(死滅した)sgRNA、GFP mRNAおよび標的遺伝子3のsgRNA、またはCas9 mRNAおよび標的遺伝子3のsgRNAの脂質ナノ粒子(LNP)送達後の、野生型マウス(図5A)およびカセット欠失Cas9マウス(MAID2600;図5B)から単離された初代肝細胞中での第3の標的遺伝子(標的遺伝子3)でのNHEJ活性のパーセント(インデル頻度)を示す。15.6、62.5、250、および1000ng/mLのmRNA濃度を試験した。
【0034】
図6図6A~6Dは、尾静脈注射による流体力学的DNA送達(HDD)、脂質ナノ粒子(LNP)送達、またはアデノ随伴ウイルス(AAV)送達による標的遺伝子3のsgRNAの野生型マウス(msCas9-)またはカセット欠失Cas9導入マウス(msCas9+;MAID2600)への導入後の、肝臓によって分泌され、血清中に見出され、第3の標的遺伝子(標的遺伝子3)によってコードされるタンパク質の血清レベルを示す。一部の場合、Cas9も導入した(LNP送達についてはmRNAの形態で、ならびにHDD(Cas9プラスミド)およびAAV送達についてはDNAの形態で)。未処理のマウス、LNP対照マウス、AAV対照マウス、およびHDD対照マウスを、陰性対照として使用した。LNP媒介性送達については、3群のマウスを試験した:(1)Cas9導入マウス(3匹のオス+3匹のメス;2mg/kgの対照ガイドRNA+GFP mRNA);(2)Cas9導入マウス(3匹のオス+3匹のメス;2mg/kgの標的遺伝子3のためのガイドRNA+GFP mRNA);および(3)WTマウス(3匹のオス+3匹のメス;2mg/kgの標的遺伝子3のためのガイドRNA+Cas9 mRNA)。AAV媒介性送達については、2群のマウスを試験した:(1)Cas9導入マウス(3匹のオス+3匹のメス;AAV8-標的遺伝子3のためのガイドRNA);および(2)WTマウス(3匹のオス+3匹のメス;AAV8-標的遺伝子3のためのガイドRNA+AAV8-Cas9)。HDDについては、2群のマウスを試験した:(1)Cas9導入マウス(3匹のオス+3匹のメス;標的遺伝子3のためのガイドRNA);および(2)WTマウス(3匹のオス+3匹のメス;標的遺伝子3のためのガイドRNA+Cas9)。標的遺伝子3によってコードされるタンパク質の血清レベルを、オスのマウス(図6Aおよび図6B)およびメスのマウス(図6Cおよび図6D)において測定し、7日目(図6Aおよび図6C)および21日目(図6Bおよび図6D)に測定した。
【0035】
図7図7は、sgRNAのみ、もしくはCas9 mRNAと一緒のsgRNAの脂質ナノ粒子(LNP)送達、sgRNAプラスミドのみ、もしくはCas9プラスミドと一緒のsgRNAプラスミド、またはAAV8-sgRNAのみ、もしくはAAV8-Cas9と一緒のAAV8-sgRNAの流体力学的送達(HDD)の1ヶ月後の、野生型マウス(msCas9-)およびカセット欠失Cas9マウス(msCas9+;MAID2600)中の肝臓における標的遺伝子3でのNHEJ活性のパーセント(インデル頻度)を示す。
【0036】
図8A図8Aは、尾静脈注射によるsgRNAのAAV8送達の3~4週間後のカセット欠失Cas9マウス(MAID2600)の肝臓における標的遺伝子4の遺伝子座でのNHEJ活性のパーセント(インデル頻度)を示す。UNT=未処置対照。
【0037】
図8B図8Bは、尾静脈注射によるsgRNAのAAV8送達の3~4週間後のカセット欠失Cas9マウス(MAID2600)から単離された肝臓組織におけるTAQMAN分析によって決定された標的遺伝子4の発現の相対レベルを示す。WTマスターミックスは、一緒に混合され、陰性対照として野生型マウスに注射された5つ全部のsgRNAウイルスを指す。
【0038】
図9図9は、LNP-Creを尾静脈注射により注射した1週間後に単離された肝臓、脾臓、および腎臓試料中でのLSL-Cas9マウス(MAID2599)におけるCas9発現のウェスタンブロットを示す。LNP-Creを注射されていないマウスを、陰性対照として使用した。カセット欠失Cas9マウス(MAID2600)を、陽性対照として使用した。
【0039】
図10図10は、単独で、またはLNP-Creと一緒に、AAV8によってLSL-Cas9マウス(MAID2599)に標的遺伝子3のsgRNAを注射した1週間および3週間後の、肝臓によって分泌され、血清中に見出され、第3の標的遺伝子(標的遺伝子3)によってコードされるタンパク質の血清レベルを示す。LNP-CreもAAV8-gRNAも注射されていないマウスを、陰性対照として使用した。全ての条件を、カセット欠失マウス(ROSA Cas9;MAID2600)においても試験した。
【0040】
図11図11は、単独で、またはLNP-Creと一緒に、AAV8によってLSL-Cas9マウス(MAID2599)に標的遺伝子3のsgRNAを注射した3週間後に単離された肝臓における標的遺伝子3の遺伝子座でのNHEJ活性のパーセント(インデル頻度)を示す。LNP-CreもAAV8-gRNAも注射されていないマウスを、陰性対照として使用した。全ての条件を、カセット欠失マウス(ROSA Cas9;MAID2600)においても試験した。
【0041】
図12A図12Aは、LSL-Cas9マウス(MAID2599)およびLSL-Cas9/Alb-Creマウスから単離された肝臓におけるCas9に関するウェスタンブロットを示す。アクチンを、ローディング対照として使用した。
【0042】
図12B図12Bは、LSL-Cas9マウス(MAID2599)およびLSL-Cas9/Alb-Creマウスから単離された脳におけるCas9に関するウェスタンブロットを示す。アクチンを、ローディング対照として使用した。
【0043】
図13図13は、AAV8により、WTマウス、カセット欠失Cas9マウス(ROSA Cas9;MAID2600)、LSL-Cas9マウス(MAID2599)、アルブミン-Creマウス、またはLSL-Cas9/Alb-Creマウスに標的遺伝子3のsgRNAを注射した1週間後の、肝臓によって分泌され、血清中に見出され、第3の標的遺伝子(標的遺伝子3)によってコードされるタンパク質の血清レベルを示す。
【0044】
図14図14は、MAID2599対立遺伝子(一度、lox-stop-lox(LSL)カセットが欠失されたMAID2600)、MAID2658対立遺伝子(一度、LSLカセットが欠失されたMAID2659)、MAID2660対立遺伝子(一度、LSLカセットが欠失されたMAID2661)、およびMAID2672対立遺伝子(一度、LSLカセットが欠失されたMAID2673)を含む、4つの異なるCas9対立遺伝子(正確な縮尺ではない)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
定義
「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」という用語は、本明細書では互換的に使用され、コードアミノ酸および非コードアミノ酸ならびに化学的または生化学的に修飾または誘導体化されたアミノ酸を含めた、任意の長さのポリマー形態のアミノ酸を含む。この用語は、修飾されたペプチド骨格を有するポリペプチドなどの、修飾されたポリマーも含む。
【0046】
タンパク質は、「N末端」および「C末端」を有すると言える。「N末端」という用語は、遊離のアミン基(-NH2)を有するアミノ酸を末端とする、タンパク質またはポリペプチドの出発点に関する。「C末端」という用語は、遊離のカルボキシル基(-COOH)を末端とする、アミノ酸の鎖(タンパク質またはポリペプチド)の終了点に関する。
【0047】
「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は、本明細書では互換的に使用され、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、またはその類似体もしくは修飾バージョンを含めた、任意の長さのポリマー形態のヌクレオチドを含む。これらの用語は、プリン塩基、ピリミジン塩基、または他の天然、化学的に修飾された、生化学的に修飾された、非天然、もしくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含む、一本鎖、二本鎖、および多重鎖DNAまたはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、ならびにポリマーを含む。
【0048】
核酸は、モノヌクレオチドが、1つのモノヌクレオチドペントース環の5’リン酸がその近くの3’酸素にリン酸ジエステル連結によって一方向に付着するように反応してオリゴヌクレオチドが生じるので、「5’末端」および「3’末端」を有すると言える。オリゴヌクレオチドの末端は、その5’リン酸がモノヌクレオチドペントース環の3’酸素と連結していなければ、「5’末端」と称される。オリゴヌクレオチドの末端は、その3’酸素が別のモノヌクレオチドペントース環の5’リン酸と連結していなければ、「3’末端」と称される。核酸配列も、より大きなオリゴヌクレオチドの内部にあったとしても、5’および3’末端を有すると言われ得る。直鎖状または環状DNA分子のいずれでも、別個のエレメントは、「下流」または3’エレメントの「上流」または5’側にあると称される。
【0049】
「ゲノムに組み込まれた」という用語は、ヌクレオチド配列が細胞のゲノム中に組み込まれるように、細胞中に導入された核酸を指す。細胞のゲノム中への核酸の安定な組込みのために任意のプロトコールを使用することができる。
【0050】
「発現ベクター」または「発現構築物」という用語は、特定の宿主細胞または生物中での作動可能に連結されたコード配列の発現にとって必要な適切な核酸配列に作動可能に連結された所望のコード配列を含有する組換え核酸を指す。原核生物中での発現にとって必要な核酸配列は通常、プロモーター、オペレーター(任意選択)、およびリボソーム結合部位、ならびに他の配列を含む。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー、ならびに終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルを使用することが一般に公知であるが、必要な発現を犠牲にすることなく、一部のエレメントを欠失させ、他のエレメントを付加することができる。
【0051】
「標的化ベクター」という用語は、相同組換え、非相同末端結合媒介性ライゲーション、または細胞のゲノム中の標的位置への組換えの任意の他の手段によって導入することができる組換え核酸を指す。
【0052】
「ウイルスベクター」という用語は、ウイルス起源の少なくとも1つのエレメントを含み、ウイルスベクター粒子へのパッケージングにとって十分な、またはそれを許容するエレメントを含む組換え核酸を指す。DNA、RNA、または他の核酸を、ex vivoまたはin vivoで細胞中に移動させる目的で、ベクターおよび/または粒子を使用することができる。いくつかの形態のウイルスベクターが公知である。
【0053】
タンパク質、核酸、および細胞に関して「単離された」という用語は、タンパク質、核酸、または細胞の実質的に純粋な調製物に至るまで、およびそれを含めた、in situにおいて通常存在し得る他の細胞性または生物性構成成分に関して比較的精製されたタンパク質、核酸、および細胞を含む。「単離された」という用語はまた、天然に存在する対応物を有しないタンパク質および核酸または化学的に合成された、かくして、他のタンパク質もしくは核酸が実質的に混入していないタンパク質もしくは核酸も含む。「単離された」という用語はまた、それらが天然では付随する多くの他の細胞性構成成分または生物性構成成分(例えば、他の細胞タンパク質、核酸、または細胞性もしくは細胞外構成成分)から分離または精製されたタンパク質、核酸、または細胞も含む。
【0054】
「野生型」という用語は、正常な状態または状況(突然変異体、疾患にかかっている、変更された状態または状況などとは対照的に)において見出される構造および/または活性を有する実体を含む。野生型遺伝子およびポリペプチドは、多くの場合、多数の異なる形態(例えば、対立遺伝子)で存在する。
【0055】
「内因性配列」という用語は、細胞または非ヒト動物中に天然に存在する核酸配列を指す。例えば、非ヒト動物の内因性Rosa26配列は、非ヒト動物中のRosa26遺伝子座に天然に存在する天然のRosa26配列を指す。
【0056】
「外因性」分子または配列は、通常は細胞内にその形態では存在しない分子または配列を含む。通常存在するとは、細胞の特定の発生段階および環境条件に関して存在することを含む。外因性分子または配列は、例えば、内因性配列のヒト化バージョンなど細胞内の対応する内因性配列の突然変異バージョンを含んでもよく、または細胞内の内因性配列に対応するが、形態が異なる(すなわち、染色体内にない)配列を含んでもよい。対照的に、内因性分子または配列は、特定の環境条件下で特定の発生段階にある特定の細胞内にその形態で通常存在する分子または配列を含む。
【0057】
「異種」という用語は、核酸またはタンパク質に関して使用される場合、その核酸またはタンパク質が、同じ分子内で天然には一緒に存在しない少なくとも2つのセグメントを含むことを示す。例えば、「異種」という用語は、核酸のセグメントまたはタンパク質のセグメントに関連して使用される場合、その核酸またはタンパク質が、天然では同じ互いとの関係(例えば、接合している)では見出されない2つまたはそれよりも多くの部分配列を含むことを示す。一例として、核酸ベクターの「異種」領域は、天然では他の分子と関連しては見出されない、別の核酸分子内にあるかまたはそれに付着した核酸のセグメントである。例えば、核酸ベクターの異種領域は、天然ではコード配列と関連しては見出されない配列に挟まれたコード配列を含み得る。同様に、タンパク質の「異種」領域は、天然では他のペプチド分子と関連しては見出されない、別のペプチド分子内にあるかまたはそれに付着したアミノ酸のセグメント(例えば、融合タンパク質、またはタグを有するタンパク質)である。同様に、核酸またはタンパク質は、異種標識または異種分泌もしくは局在化配列を含み得る。
【0058】
「コドン最適化」は、アミノ酸を指定する3塩基対のコドンの組合せの多重性によって示される通り、コドンの縮重を活用し、一般に、特定の宿主細胞における発現の増強のために、ネイティブなアミノ酸配列を維持しながらネイティブな配列の少なくとも1つのコドンを宿主細胞の遺伝子においてより頻繁にまたは最も頻繁に使用されるコドンで置き換えることによって核酸配列を改変するプロセスを含む。例えば、Cas9タンパク質をコードする核酸を、天然に存在する核酸配列と比較して、細菌細胞、酵母細胞、ヒト細胞、非ヒト細胞、哺乳動物細胞、齧歯類細胞、マウス細胞、ラット細胞、ハムスター細胞、または任意の他の宿主細胞を含めた所与の原核細胞または真核細胞において使用の頻度が高いコドンに置換されるように改変することができる。コドン使用表は、例えば「Codon Usage Database」において容易に利用可能である。これらの表は、いくつかのやり方で適合させることができる。あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるNakamuraら(2000年)Nucleic Acids Research 28巻:292頁を参照されたい。特定の宿主において発現させるための特定の配列のコドン最適化のためのコンピュータアルゴリズムも利用可能である(例えば、Gene Forgeを参照されたい)。
【0059】
「プロモーター」は、DNAの制御領域であり、通常、特定のポリヌクレオチド配列に対して妥当な転写開始部位でRNA合成を開始するようにRNAポリメラーゼIIを方向付けることができるTATAボックスを含む。プロモーターは、転写開始率に影響を及ぼす他の領域をさらに含み得る。本明細書に開示されるプロモーター配列は、作動可能に連結したポリヌクレオチドの転写をモジュレートする。プロモーターは、本明細書に開示される細胞型(例えば、真核細胞、非ヒト哺乳動物細胞、ヒト細胞、齧歯類細胞、多能性細胞、1細胞期胚、分化細胞、またはこれらの組合せ)の1つまたは複数において活性であってよい。プロモーターは、例えば、構成的に活性なプロモーター、条件付きプロモーター、誘導性プロモーター、時間的に制限されたプロモーター(例えば、発生制御型プロモーター)、または空間的に制限されたプロモーター(例えば、細胞特異的または組織特異的プロモーター)であってよい。プロモーターの例は、例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2013/176772に見出すことができる。
【0060】
構成的プロモーターは、あらゆる発生段階であらゆる組織または特定の組織において活性であるものである。構成的プロモーターの例としては、ヒトサイトメガロウイルス極初期(hCMV)プロモーター、マウスサイトメガロウイルス極初期(mCMV)プロモーター、ヒト伸長因子1アルファ(hEF1α)プロモーター、マウス伸長因子1アルファ(mEF1α)プロモーター、マウスホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、ニワトリベータアクチンハイブリッド(CAGまたはCBh)プロモーター、SV40初期プロモーター、およびベータ2チューブリンプロモーターが挙げられる。
【0061】
誘導性プロモーターの例としては、例えば、化学的制御型プロモーターおよび物理的制御型プロモーターが挙げられる。化学的制御型プロモーターとしては、例えば、アルコール制御型プロモーター(例えば、アルコールデヒドロゲナーゼ(alcA)遺伝子プロモーター)、テトラサイクリン制御型プロモーター(例えば、テトラサイクリン応答性プロモーター、テトラサイクリンオペレーター配列(tetO)、tet-Onプロモーター、もしくはtet-Offプロモーター)、ステロイド制御型プロモーター(例えば、ラットグルココルチコイド受容体、エストロゲン受容体のプロモーター、もしくはエクジソン受容体のプロモーター)、または金属制御型プロモーター(例えば、金属タンパク質プロモーター)が挙げられる。物理的制御型プロモーターとしては、例えば、温度制御型プロモーター(例えば、熱ショックプロモーター)および光制御型プロモーター(例えば、光誘導性プロモーターまたは光抑制性プロモーター)が挙げられる。
【0062】
組織特異的プロモーターは、例えば、神経特異的プロモーター、グリア特異的プロモーター、筋肉細胞特異的プロモーター、心臓細胞特異的プロモーター、腎臓細胞特異的プロモーター、骨細胞特異的プロモーター、内皮細胞特異的プロモーター、または免疫細胞特異的プロモーター(例えば、B細胞プロモーターまたはT細胞プロモーター)であってよい。
【0063】
発生制御型プロモーターとしては、例えば、発生の胚形成期の間にのみ、または成体細胞においてのみ活性であるプロモーターが挙げられる。
【0064】
「作動可能な連結」または「作動可能に連結した」とは、2つまたはそれよりも多くの構成成分(例えば、プロモーターおよび別の配列エレメント)が、どちらの構成成分も正常に機能し、構成成分の少なくとも1つが他の構成成分の少なくとも1つに対して発揮される機能を媒介し得る可能性が許容されるように近位にあることを含む。例えば、プロモーターがコード配列の転写のレベルを1つまたは複数の転写制御因子の存在または非存在に応答して調節する場合、プロモーターはコード配列に作動可能に連結している可能性がある。作動可能な連結は、互いと連続しているまたはトランスに作用する配列を含み得る(例えば、制御配列は、コード配列の転写を調節するための距離で作用し得る)。
【0065】
核酸の「相補性」とは、核酸の一方の鎖内のヌクレオチド配列が、その核酸塩基群の配向に起因して、対向する核酸鎖上の別の配列と水素結合を形成することを意味する。DNA内の相補的な塩基は一般にはAとTおよびCとGである。RNAでは、相補的な塩基は一般にはCとGおよびUとAである。相補性は、完全なものまたは実質的/十分なものであり得る。2つの核酸間の完全な相補性とは、2つの核酸が、2重鎖内のあらゆる塩基が相補的な塩基とワトソン・クリック対形成によって結合した2重鎖を形成できることを意味する。「実質的な」または「十分な」相補性とは、一方の鎖内の配列が対向する鎖内の配列と徹底的におよび/または完全に相補的ではないが、ハイブリダイゼーション条件のセット(例えば、塩濃度および温度)の下で2つの鎖上の塩基間に十分な結合が生じて安定なハイブリッド複合体が形成されることを意味する。そのような条件は、ハイブリダイズした鎖のTm(融解温度)を予測するためのシーケンスおよび標準の数学的算出を使用することにより、または常套的な方法を使用することによってTmを経験的に決定することにより、予測することができる。Tmは、2つの核酸鎖の間で形成されるハイブリダイゼーション複合体の集団が50%変性する(すなわち、二本鎖核酸分子の集団が半分解離して一本鎖になる)温度を含む。Tmを下回る温度ではハイブリダイゼーション複合体の形成が有利であるが、Tmを上回る温度ではハイブリダイゼーション複合体内の鎖の融解または分離が有利である。Tmは、水性1M NaCl溶液中のG+C含有量が分かっている核酸に関しては、例えば、Tm=81.5+0.41(%G+C)を使用することによって推定することができるが、他の公知のTmコンピュータ計算では、核酸の構造特性を考慮に入れる。
【0066】
「ハイブリダイゼーション条件」は、1つの核酸鎖が第2の核酸鎖と相補鎖相互作用および水素結合によって結合してハイブリダイゼーション複合体が生じる累積的環境を含む。そのような条件は、核酸を含有する水性または有機溶液の化学成分およびそれらの濃度(例えば、塩、キレート剤、ホルムアミド)、ならびに混合物の温度を含む。インキュベート時間の長さまたは反応チャンバーの寸法などの他の因子が環境に寄与し得る。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるSambrookら、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、第2版、1.90~1.91頁、9.47~
9.51頁、11.47~11.57頁(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, N.Y.、1989年)を参照されたい。
【0067】
ハイブリダイゼーションには、2つの核酸が相補配列を含有することが必要であるが、塩基間にミスマッチがある可能性がある。2つの核酸間のハイブリダイゼーションのための妥当な条件は、周知の変数である核酸の長さおよび相補の度合いに依存する。2つのヌクレオチド配列間の相補の度合いが大きいほど、それらの配列を有する核酸のハイブリッドの融解温度(Tm)の値が大きい。短い相補性のひと続き(例えば、35ヌクレオチドもしくはそれ未満、30ヌクレオチドもしくはそれ未満、25ヌクレオチドもしくはそれ未満、22ヌクレオチドもしくはそれ未満、20ヌクレオチドもしくはそれ未満、または18ヌクレオチドもしくはそれ未満にわたる相補性)を有する核酸間のハイブリダイゼーションに関しては、ミスマッチの位置が重要になる(Sambrookら、上記、11.7~11.8頁を参照されたい)。一般には、ハイブリダイズ可能な核酸の長さは、少なくとも約10ヌクレオチドである。ハイブリダイズ可能な核酸の例示的な最小長としては、少なくとも約15ヌクレオチド、少なくとも約20ヌクレオチド、少なくとも約22ヌクレオチド、少なくとも約25ヌクレオチド、および少なくとも約30ヌクレオチドが挙げられる。さらに、相補領域の長さおよび相補の度合いなどの因子に応じて、必要に応じて温度および洗浄溶液の塩濃度を調整することができる。
【0068】
ポリヌクレオチドの配列は、特異的にハイブリダイズ可能なその標的核酸のポリヌクレオチド配列と100%相補的である必要はない。さらに、ポリヌクレオチドは、介在するか、または隣接するセグメントがハイブリダイゼーション事象に関与しないように1つまたは複数のセグメントを超えてハイブリダイズし得る(例えば、ループ構造またはヘアピン構造)。ポリヌクレオチド(例えば、gRNA)は、標的とされる標的核酸配列内の標的領域に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%の配列相補性を含み得る。例えば、20ヌクレオチドのうち18ヌクレオチドが標的領域と相補的であり、したがって、それと特異的にハイブリダイズするgRNAは、90%の相補性になる。この例では、残りの非相補性ヌクレオチドは、密集していても相補的なヌクレオチドが散在していてもよく、互いとまたは相補的なヌクレオチドと連続している必要はない。
【0069】
核酸内の核酸配列の特定のひと続き間のパーセント相補性は、BLASTプログラム(基本的な局所的アラインメント検索ツール)およびPowerBLASTプログラム(Altschulら(1990年)J. Mol. Biol.、215巻:403~410頁;ZhangおよびMadden(1997年)Genome Res.、7巻:649~656頁)を使用して、または、SmithおよびWaterman(Adv. Appl. Math.、1981年、2巻、482~489頁)のアル
ゴリズムを使用する、デフォルト設定を使用したGapプログラム(Wisconsin
Sequence Analysis Package、Version 8 for
Unix(登録商標)、Genetics Computer Group、University Research Park、Madison Wis.)を使用することにより、常套的に決定することができる。
【0070】
本明細書において提示される方法および組成物では、種々の異なる構成成分を使用する。説明全体を通して、一部の構成成分は、活性なバリアントおよび断片を有し得る。そのような構成成分としては、例えば、Casタンパク質、CRISPR RNA、tracrRNA、およびガイドRNAが挙げられる。これらの構成成分のそれぞれについての生物活性は本明細書の他の箇所に記載されている。「機能的」という用語は、生物活性または機能を示すタンパク質または核酸(またはその断片もしくはバリアント)の固有の能力を指す。そのような生物活性または機能は、例えば、ガイドRNAおよび標的DNA配列に結合するCasタンパク質の能力を含んでもよい。機能的断片またはバリアントの生物機能は、元のものであるが、基本的な生物機能を保持するものと比較して、同じであってよいか、または実際には、変化していてもよい(例えば、その特異性もしくは選択性もしくは効能に関して)。
【0071】
「バリアント」という用語は、集団中で最も優勢である配列と(例えば、1個のヌクレオチドが)異なるヌクレオチド配列または集団中で最も優勢である配列と(例えば、1個のアミノ酸が)異なるタンパク質配列を指す。
【0072】
タンパク質を言う場合の「断片」という用語は、完全長タンパク質よりも短いか、または少ないアミノ酸を有するタンパク質を意味する。核酸を言う場合の「断片」という用語は、完全長核酸よりも短いか、または少ないヌクレオチドを有する核酸を意味する。断片は、例えば、N末端断片(すなわち、タンパク質のC末端の一部の除去)、C末端断片(すなわち、タンパク質のN末端の一部の除去)、または内部断片であってもよい。
【0073】
「配列同一性」または「同一性」は、2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列に関しては、2つの配列内の、指定の比較ウインドウにわたって最大の対応でアラインメントした場合に同じである残基に言及する。タンパク質に関して配列同一性のパーセンテージが使用される場合、同一でない残基の位置は、多くの場合、保存的アミノ酸置換によって異なっており、その場合、アミノ酸残基は、類似の化学的性質(例えば、電荷または疎水性)を有する他のアミノ酸残基で置換されるため、分子の機能的性質は変化しない。配列が保存的置換によって異なる場合、パーセント配列同一性を上向きに調整して置換の保存的性質を補正することができる。そのような保存的置換によって異なる配列は、「配列類似性」または「類似性」を有すると言える。この調整を行う方法は周知である。一般には、これは、保存的置換を完全なミスマッチではなく部分的なミスマッチとしてスコアリングし、それにより、パーセンテージ配列同一性を増大させることを伴う。したがって、例えば、同一のアミノ酸にはスコア1を付し、非保存的置換にはスコアゼロを付す場合、保存的置換には、ゼロと1の間のスコアを付す。保存的置換のスコアリングは、例えば、プログラムPC/GENE(Intelligenetics、Mountain View、California)で実行される通り算出される。
【0074】
「配列同一性のパーセンテージ」は、2つの最適にアラインメントされた配列(完全にマッチする残基の数が最大)を比較ウインドウにわたって比較することによって決定される値を含み、ここで、比較ウインドウ内のポリヌクレオチド配列の一部分は、2つの配列の最適なアラインメントのために、参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでよい。パーセンテージは、両方の配列内に同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が存在する位置の数を決定してマッチする位置の数を得、マッチする位置の数を比較のウインドウ内の位置の総数で割り、結果に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを得ることによって算出される。別段の指定がない限り(例えば、短い方の配列は連結した異種配列を含む)、比較ウインドウは、比較される2つの配列の短い方の全長である。
【0075】
別段の指定のない限り、配列同一性/類似性値は、GAPバージョン10を以下のパラメーターを使用して得られる値を含む:ギャップ重みづけ50および長さ重みづけ3、ならびにnwsgapdna.cmpスコアリング行列を使用したヌクレオチド配列についての%同一性および%類似性;ギャップ重みづけ8および長さ重みづけ2、ならびにBLOSUM62スコアリング行列を使用したアミノ酸配列についての%同一性および%類似性;またはその任意の等価のプログラム。「等価のプログラム」は、問題の任意の2つの配列について、GAPバージョン10によって生じた対応するアラインメントと比較して同一のヌクレオチドまたはアミノ酸残基マッチおよび同一のパーセント配列同一性を有するアラインメントを生じさせる任意の配列比較プログラムを含む。
【0076】
「保存的アミノ酸置換」という用語は、配列内に通常存在するアミノ酸の、サイズ、電荷、または極性が同様の異なるアミノ酸による置換を指す。保存的置換の例としては、イソロイシン、バリン、またはロイシンなどの非極性(疎水性)残基による別の非極性残基の置換が挙げられる。同様に、保存的置換の例としては、1つの極性(親水性)残基による別の極性(親水性)残基の置換、例えば、アルギニンとリシンの間の置換、グルタミンとアスパラギンの間の置換、またはグリシンとセリンの間の置換が挙げられる。さらに、リシン、アルギニン、もしくはヒスチジンなどの塩基性残基による別の塩基性残基の置換、またはアスパラギン酸もしくはグルタミン酸などの1つの酸性残基による別の酸性残基の置換が保存的置換のさらなる例である。非保存的置換の例としては、イソロイシン、バリン、ロイシン、アラニン、もしくはメチオニンなどの非極性(疎水性)アミノ酸残基によるシステイン、グルタミン、グルタミン酸もしくはリシンなどの極性(親水性)残基の置換および/または極性残基による非極性残基の置換が挙げられる。典型的なアミノ酸カテゴリー化を以下で表1に要約する。
【0077】
【表1】
【0078】
「in vitro」という用語は、人工的な環境、および人工的な環境(例えば、試験管)内で起こるプロセスまたは反応を包含する。「in vivo」という用語は、天然の環境(例えば、細胞または生物体または体)および天然の環境内で起こるプロセスまたは反応を包含する。「ex vivo」という用語は、個体の体から取り出された細胞およびそのような細胞内で起こるプロセスまたは反応を包含する。
【0079】
「リポーター遺伝子」という用語は、内因性もしくは異種プロモーターおよび/またはエンハンサーエレメントに作動可能に連結されたリポーター遺伝子配列を含む構築物が、プロモーターおよび/またはエンハンサーエレメントの活性化にとって必要な因子を含有する(または含有するようにすることができる)細胞に導入された場合、容易かつ定量可能にアッセイされる遺伝子産物(典型的には、酵素)をコードする配列を有する核酸を指す。リポーター遺伝子の例としては、限定されるものではないが、ベータ-ガラクトシダーゼ(lacZ)をコードする遺伝子、細菌クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cat)遺伝子、蛍ルシフェラーゼ遺伝子、ベータ-グルクロニダーゼ(GUS)をコードする遺伝子、および蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。「リポータータンパク質」は、リポーター遺伝子によってコードされるタンパク質を指す。
【0080】
本明細書で使用される「蛍光リポータータンパク質」という用語は、リポータータンパク質に直接由来する、蛍光性基質上のリポータータンパク質の活性に由来する、または蛍光タグ付き化合物への結合に対する親和性を示すタンパク質に由来するものであってよい、蛍光に基づいて検出可能であるリポータータンパク質を意味する。蛍光タンパク質の例としては、緑色蛍光タンパク質(例えば、GFP、GFP-2、tagGFP、turboGFP、eGFP、Emerald、Azami Green、Monomeric Azami Green、CopGFP、AceGFP、およびZsGreenl)、黄色蛍光タンパク質(例えば、YFP、eYFP、Citrine、Venus、YPet、PhiYFP、およびZsYellowl)、青色蛍光タンパク質(例えば、BFP、eBFP、eBFP2、Azurite、mKalamal、GFPuv、Sapphire、およびT-sapphire)、シアン蛍光タンパク質(例えば、CFP、eCFP、Cerulean、CyPet、AmCyanl、およびMidoriishi-Cyan)、赤色蛍光タンパク質(例えば、RFP、mKate、mKate2、mPlum、DsRed単量体、mCherry、mRFP1、DsRed-Express、DsRed2、DsRed-Monomer、HcRed-Tandem、HcRedl、AsRed2、eqFP611、mRaspberry、mStrawberry、およびJred)、オレンジ蛍光タンパク質(例えば、mOrange、mKO、Kusabira-Orange、Monomeric Kusabira-Orange、mTangerine、およびtdTomato)、ならびに細胞中での存在をフローサイトメトリー法によって検出することができる任意の他の適切な蛍光タンパク質が挙げられる。
【0081】
二本鎖切断(DSB)に応答した修復は、主に2つの保存的DNA修復経路:相同組換え(HR)および非相同末端結合(NHEJ)によって起こる。あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるKasparekおよびHumphrey(2011年)Seminars in Cell & Dev. Biol.、22巻:886~897頁を参照されたい。同様に、外因性ドナー核酸によって媒介される標的核酸の修復は、2つのポリヌクレオチド間の遺伝情報の交換の任意のプロセスを含んでもよい。
【0082】
「組換え」という用語は、2つのポリヌクレオチド間の遺伝情報の交換の任意のプロセスを含み、任意のメカニズムによって起こってもよい。組換えは、相同組換え修復(HDR)または相同組換え(HR)によって起こり得る。HDRまたはHRは、ヌクレオチド配列の相同性を必要とし得、「標的」分子(すなわち、二本鎖切断が生じた分子)を修復するための鋳型として「ドナー」分子を使用し、ドナーから標的への遺伝情報の移行を導く核酸修復の形態を含む。いかなる特定の理論にも制約されることなく、そのような移行には、切断された標的とドナーの間で形成されるヘテロ二本鎖DNAのミスマッチ補正、および/または、標的の一部になる遺伝情報を再合成するためにドナーが使用される、合成に依存する鎖アニーリング、および/または関連するプロセスが伴い得る。一部の場合では、ドナーポリヌクレオチド、ドナーポリヌクレオチドの一部、ドナーポリヌクレオチドのコピー、またはドナーポリヌクレオチドのコピーの一部が標的DNAに組み込まれる。それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる、Wangら(2013年)Cell、153巻:910~918頁;Mandalosら(2012年)PLOS
ONE、7巻:e45768:1~9頁;およびWangら(2013年)Nat Biotechnol.
、31巻:530~532頁を参照されたい。
【0083】
NHEJは、切断末端を互いとまたは外因性配列と、相同な鋳型を必要とせずに直接ライゲーションすることによる核酸の二本鎖切断の修復を含む。連続していない配列のNHEJによるライゲーションは、多くの場合、二本鎖切断の部位付近に欠失、挿入、または転座をもたらし得る。例えば、NHEJは、切断末端と外因性ドナー核酸の末端の直接ライゲーションによる外因性ドナー核酸の標的化組込みももたらし得る(すなわち、NHEJに基づく捕捉)。そのようなNHEJ媒介性標的化組込みは、相同組換え修復(HDR)経路が容易に使用可能でない場合(例えば、非分裂細胞、初代細胞、および相同性に基づくDNA修復が不十分に行われる細胞において)に外因性ドナー核酸を挿入するために好ましい可能性がある。さらに、相同組換え修復とは対照的に、切断部位に隣接する配列同一性の大きな領域(Cas媒介性切断によって創出される突出部を越える)に関する知見は必要なく、これは、ゲノム配列に関する知見が限られているゲノムを有する生物体への標的化挿入を試みる場合に有益であり得る。組込みは、外因性ドナー核酸と切断されたゲノム配列の間の平滑末端のライゲーションによって、または、切断されるゲノム配列においてCasタンパク質によって生成されるものと適合する突出部に挟まれた外因性ドナー核酸を使用した粘着末端(すなわち、5’または3’突出部を有する)のライゲーションによって進行し得る。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる、US2011/020722、WO2014/033644、WO2014/089290、およびMarescaら(2013年)Genome Res.、23巻
(3号):539~546頁を参照されたい。平滑末端をライゲーションする場合、断片接合に必要なマイクロホモロジーの生成領域に標的および/またはドナー切除が必要な場合があり、これにより、標的配列に望ましくない変更が生じる可能性がある。
【0084】
1つまたは複数の記載されている要素を「含む(comprising)」または「含む(including)」組成物または方法は、具体的に記載されていない他の要素を含み得る。例えば、タンパク質を「含む(comprises)」または「含む(includes)」組成物は、タンパク質を単独で、または他の成分と組み合わせて含有し得る。「から本質的になる(consisting essentially of)」という移行句は、特許請求の範囲が、請求項に記載されている指定の要素ならびに特許請求された発明の基本および新規の特性(単数または複数単数または複数)に実質的に影響を及ぼさない要素を包含するものと解釈されるべきであることを意味する。したがって、「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、本発明の請求項において使用される場合、「含む(comprising)」と同等であると解釈されることを意図しない。
【0085】
「必要に応じた」または「必要に応じて」とは、その後に記載されている事象または状況が生じる場合と生じない場合があること、ならびに、当該説明が、事象または状況が生じる例および事象または状況が生じない例を含むことを意味する。
【0086】
値の範囲の明示は、範囲内のまたは範囲を規定する全ての整数、および範囲内の整数によって規定される全ての部分範囲を含む。
【0087】
文脈からそうでないことが明らかでない限り、「約」という用語は、記載値の標準の測定の誤差限界(例えば、SEM)の範囲内の値を包含する。
【0088】
「および/または」という用語は、関連する列挙されている項目の1つまたは複数のありとあらゆる可能性のある組合せ、ならびに代替(「または」)として解釈される場合には組合せがないことを指し、それを包含する。
【0089】
「または(or)」という用語は、特定の一覧のうちの任意の1メンバーを指し、その一覧のメンバーの任意の組合せも含む。
【0090】
「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単数形の冠詞は、文脈によりそうでないことが明確に規定されない限り、複数の参照対象を含む。例えば、「1つの(a)Casタンパク質」または「少なくとも1つの(at least
one)Casタンパク質」という用語は、それらの混合物を含めた複数のCasタンパク質を含み得る。
【0091】
統計的に有意なとは、p≦0.05であることを意味する。
【0092】
詳細な説明
I.概要
CRISPR/Cas9系は、ゲノム操作のための強力な手段である。in vivoでのこの系の1つの制限は、全ての構成成分を生きている生物体に同時に導入する必要があることである。これらの構成成分を侵入させる典型的な方法は、適切なRNAおよびタンパク質を生成する細胞中にDNA構築物を一過的にトランスフェクトすることである。細胞が、Cas9タンパク質がsgRNA構成成分と相互作用するために利用可能となる前に、最初に転写を受けた後、翻訳を受けるプラスミドDNA構築物に依拠しなければならないため、有効であるが、この手法は固有の欠点も有する。CRISPR/Cas剤の活性をより効率的に評価し、in vivoで特定の組織または細胞型を標的にするための様々な送達方法およびパラメーターを評価するためのより良好な方法および手段が必要である。
【0093】
in vivoおよびex vivoでCRISPR/Cas媒介性非相同末端結合(NHEJ)活性および/または標的ゲノム遺伝子座の外因性ドナー核酸とのCRISPR/Cas誘導性組換えを評価するための方法および組成物が提供される。方法および組成物は、Casタンパク質が構成的に利用可能であり得る、または例えば、組織特異的もしくは時間特異的様式で利用可能であり得るようなCas発現カセット(例えば、ゲノムに組み込まれたCas発現カセット)を含む細胞および非ヒト動物を使用する。
【0094】
Cas発現カセットを含む非ヒト動物は、ガイドRNAのみが非ヒト動物に導入される必要があるため、in vivoでCRISPR/Cas構成成分の送達および活性を試験するためのプロセスを単純化する。さらに、Cas発現カセットは、必要に応じて、特定の組織または発生段階において選択的に発現させ、それによって、in vivoでのCas媒介性毒性のリスクを低減することができるか、または任意かつ全ての細胞型、組織型、および器官型における活性の試験を可能にするために構成的に発現させることができる、条件的Cas発現カセットであってもよい。
【0095】
in vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Casヌクレアーゼの能力を試験および測定するためのこれらの非ヒト動物を作製および使用するための方法および組成物も提供される。in vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Casヌクレアーゼの能力を試験および測定する一部のそのような方法では、ガイドRNAを、AAV媒介性送達によってCas導入非ヒト動物に送達することができる。実施例1に示されるように、ガイドRNAのCas9導入マウスへのAAV媒介性送達、特に、肝臓へのAAV8媒介性送達は、ガイドRNAのLNPもしくはHDDによるCas9導入マウスへの送達またはCas9とガイドRNAの両方の野生型マウスへの送達よりも、驚くほど高レベルのCRISPR/Cas標的化をもたらす。
【0096】
II.Cas発現カセットを含む非ヒト動物
本明細書に開示される方法および組成物は、in vivoまたはex vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するクラスター化された規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)系またはそのような系の構成成分(例えば、非ヒト動物または細胞に導入されるガイドRNA)の能力を評価するために、Cas発現カセットを含む非ヒト動物または細胞を使用する。
【0097】
CRISPR/Cas系は、転写物、およびCas遺伝子の発現に関与する、またはCas遺伝子の活性を方向付ける他のエレメントを含む。CRISPR/Cas系は、例えば、I型、II型、またはIII型系であり得る。あるいは、CRISPR/Cas系は、V型系(例えば、V-A亜型またはV-B亜型)であり得る。本明細書に開示される組成物および方法において使用されるCRISPR/Cas系は、天然に存在しないものであり得る。「天然に存在しない」系は、それらの天然に存在する状態から変更もしくは突然変異させたか、自然には天然に付随する少なくとも1つの他の構成成分を少なくとも実質的に含まないか、または、天然には付随しない少なくとも1つの他の構成成分が付随する系の1つまたは複数の構成成分などの、人間の手の関与を示す任意のものを含む。例えば、天然に存在しないCRISPR/Cas系では、天然には一緒に存在しないgRNAおよびCasタンパク質、天然には存在しないCasタンパク質、または天然には存在しないgRNAを含むCRISPR複合体を使用することができる。
【0098】
本明細書に開示される方法および組成物は、非相同末端結合(NHEJ)により、外因性ドナー核酸の存在下での相同組換え修復により、または修復もしくは組換えの任意の他の手段により、標的ゲノム遺伝子座を改変するためにin vivoで標的ゲノム遺伝子座内で部位特異的切断事象を誘導するCRISPR複合体(Casタンパク質と複合体化したガイドRNA(gRNA)を含む)の能力を試験することによって、CRISPR/Cas系を使用する。
【0099】
A.Cas9導入非ヒト動物
本明細書に開示される細胞および非ヒト動物は、Cas発現カセットを含む。Casタンパク質は、一般に、ガイドRNA(gRNA、下でより詳細に記載されている)と相互作用し得る少なくとも1つのRNA認識または結合ドメイン、およびヌクレアーゼドメインを含む。ヌクレアーゼドメインは、核酸分子の共有結合の切断を含む核酸切断に対する触媒活性を有する。切断により、平滑末端または付着末端が生じ得、これは一本鎖または二本鎖であり得る。Casタンパク質は、標的核酸に二本鎖切断(例えば、平滑末端を伴う二本鎖切断)を創出させるのに十分な切断活性を有してもよく、標的核酸において一本鎖切断を創出するニッカーゼであってもよい。
【0100】
Cas発現カセットを含む細胞または非ヒト動物は、標的ゲノム遺伝子座のCRISPR/Cas媒介性改変を検出するためにガイドRNAの送達のみを必要とする利点を有する。
【0101】
(1)Cas発現カセット
本明細書に記載の細胞および非ヒト動物は、Cas発現カセットを含む。Cas発現カセットを、細胞もしくは非ヒト動物のゲノム(すなわち、染色体)中に安定に組み込むか、または染色体の外部に位置させることができる(例えば、染色体外で複製するDNA)。必要に応じて、Cas発現カセットは、ゲノム中に安定に組み込まれる。安定に組み込まれるCas発現カセットを、非ヒト動物のゲノム中に無作為に組み込むか(すなわち、トランスジェニック)、または非ヒト動物のゲノムの所定の領域中に組み込むことができる(すなわち、ノックイン)。必要に応じて、Cas発現カセットは、本明細書の他の箇所に記載のセーフハーバー遺伝子座中に安定に組み込まれる。Cas発現カセットが安定に組み込まれる標的ゲノム遺伝子座は、Cas発現カセットについてヘテロ接合性であるか、またはCas発現カセットについてホモ接合性であってもよい。
【0102】
Cas発現カセットによってコードされるCasタンパク質は、任意のCasタンパク質(例えば、Cas9タンパク質)であってよく、その例は、以下に記載される。コードされるCasタンパク質は、1つまたは複数の核局在化シグナル(NLS)(例えば、N末端NLSおよびC末端NLS)をさらに含んでもよく、Casタンパク質をコードする配列を、以下に記載される細胞または非ヒト動物についてコドン最適化することができる。例えば、そのような発現カセットは、配列番号19に記載のCas9タンパク質配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなるタンパク質をコードしてもよい。コード配列は、配列番号30に記載のCas9コード配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一の配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなってもよい。
【0103】
Cas発現カセットの例は、部位特異的リコンビナーゼによって認識されるリコンビナーゼ認識部位によって挟まれるポリアデニル化シグナルまたは転写ターミネーターの下流にCasコード配列を含む。ポリアデニル化シグナルまたは転写ターミネーターは、Casタンパク質の転写および発現を防止する。しかしながら、部位特異的リコンビナーゼへの曝露の際に、ポリアデニル化シグナルまたは転写ターミネーターは切り出され、Casタンパク質が発現され得る。
【0104】
Cas発現カセットのためのそのような構成は、ポリアデニル化シグナルまたは転写ターミネーターが組織特異的または発生段階特異的様式で切り出される場合、Cas発現カセットを含む非ヒト動物における組織特異的発現または発生段階特異的発現を可能にし得る。これは、細胞もしくは非ヒト動物中でのCasタンパク質の長期的発現、または望ましくない発生段階での、または非ヒト動物内の望ましくない細胞もしくは組織型におけるCasタンパク質の発現に起因する毒性を低減することができる。例えば、毒性は、オフターゲット部位の切断および破壊の結果生じ得る。例えば、Parikh et al. (2015) PLos One 10(1): e0116484を参照されたい。ある特定の組織(例えば、免疫細胞など)において一部の遺伝子を編集する可能性は、免疫応答を潜在的に引き起こすと共に、有害であり得るため、誘導性発現も有益であり得る。例えば、一部の場合、遺伝子が個体の至る所で突然変異する場合、それは致死的であり得るが、それが特定の組織または細胞型において突然変異する場合、それは有益であり得る。Cas発現カセットを含む非ヒト動物が、組織特異的または発生段階特異的プロモーター(例えば、肝臓特異的発現についてはアルブミンプロモーターまたは膵臓特異的発現についてはインスリン2プロモーター)に作動可能に連結された部位特異的リコンビナーゼをさらに含む場合、組織特異的または発生段階特異的様式でのポリアデニル化シグナルまたは転写ターミネーターの切り出しを達成することができる。同様に、肝臓または他の組織に特異的なLNP製剤を使用して、リコンビナーゼを送達することができるか、または特定の組織に特異的なAAV送達方法もしくはAAV血清型(例えば、肝臓についてはAAV8、もしくは膵臓についてはAAVの直接注射)を使用して、リコンビナーゼを送達することができる。次いで、ポリアデニル化シグナルまたは転写ターミネーターは、これらの組織またはこれらの発生段階においてのみ切り出され、Casタンパク質の組織特異的発現または発生段階特異的発現を可能にする。一例では、Casタンパク質を、肝臓特異的様式で発現させることができる。非ヒト動物のそのような「リコンビナーゼ欠失」株を開発するために使用されたそのようなプロモーターの例は、本明細書の他の箇所に開示される。
【0105】
任意の転写ターミネーターまたはポリアデニル化シグナルを使用することができる。本明細書で使用される場合、「転写ターミネーター」は、転写の終結を引き起こすDNA配列を指す。真核生物では、転写ターミネーターは、タンパク質因子によって認識され、終結の後、ポリ(A)ポリメラーゼの存在下でmRNA転写物にポリ(A)尾部を付加するプロセスであるポリアデニル化が起こる。哺乳動物のポリ(A)シグナルは、典型的には、切断およびポリアデニル化効率を増強するように働く多様な補助配列によって挟まれていてもよい、約45ヌクレオチド長のコア配列からなる。コア配列は、切断およびポリアデニル化特異性因子(CPSF)によって認識される、ポリA認識モチーフまたはポリA認識配列と呼ばれる、mRNA中の高度に保存された上流エレメント(AATAAAまたはAAUAAA)、ならびに切断刺激因子(CstF)によって結合される、きちんと定義されていない下流の領域(UまたはGおよびUに富む)からなる。使用することができる転写ターミネーターの例としては、例えば、ヒト成長ホルモン(HGH)ポリアデニル化シグナル、サルウイルス40(SV40)後期ポリアデニル化シグナル、ウ
サギベータ-グロビンポリアデニル化シグナル、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)ポリアデニル化シグナル、AOX1転写終結配列、CYC1転写終結配列、または真核細胞中での遺伝子発現を調節するのに好適であることが公知の任意の転写終結配列が挙げられる。
【0106】
部位特異的リコンビナーゼは、2つの組換え部位が単一の核酸内で物理的に隔てられているか、または別々の核酸上にある、リコンビナーゼ認識部位間の組換えを容易にすることができる酵素を含む。リコンビナーゼの例としては、Cre、Flp、およびDreリコンビナーゼが挙げられる。Creリコンビナーゼ遺伝子の一例は、Creリコンビナーゼをコードする2つのエクソンが、原核細胞中でのその発現を防止するためにイントロンによって隔てられているCreiである。そのようなリコンビナーゼは、核への局在化を容易にする核局在化シグナル(例えば、NLS-Crei)をさらに含んでもよい。リコンビナーゼ認識部位は、部位特異的リコンビナーゼによって認識され、組換え事象のための基質として働くことができるヌクレオチド配列を含む。リコンビナーゼ認識部位の例としては、FRT、FRT11、FRT71、attp、att、rox、ならびにloxP、lox511、lox2272、lox66、lox71、loxM2、およびlox5171などのlox部位が挙げられる。
【0107】
非ヒト動物中、in vivoでの発現のために、Cas発現カセットを、任意の好適なプロモーターに作動可能に連結することができる。非ヒト動物は、本明細書の他の箇所に記載される任意の好適な非ヒト動物であってもよい。一例として、Cas発現カセットを、Rosa26プロモーターなどの、標的ゲノム遺伝子座の内因性プロモーターに作動可能に連結することができる。あるいは、Cas発現カセットを、構成的に活性なプロモーター(例えば、CAGプロモーターもしくはサイトメガロウイルス(CMV)極初期エンハンサーと結合したニワトリベータアクチンプロモーター/エンハンサー(CAGG))、条件的プロモーター、誘導性プロモーター、時間制限的プロモーター(例えば、発生調節されるプロモーター)、または空間制限的プロモーター(例えば、細胞特異的もしくは組織特異的プロモーター)などの、外因性プロモーターに作動可能に連結することができる。そのようなプロモーターは周知であり、本明細書の他の箇所で考察される。例示的なCAGGプロモーターは、配列番号38に記載されるか、または配列番号38に記載の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一の配列を含む、それから本質的になる、もしくはそれからなる。
【0108】
本明細書に開示されるCas発現カセットは、他の構成成分を同様に含んでもよい。Cas発現カセットは、Cas発現カセットの5’末端に3’スプライシング配列を、および/またはCas発現カセットの3’末端のCasタンパク質のコード配列の後に第2のポリアデニル化シグナルをさらに含んでもよい。Cas発現カセットは、例えば、薬物耐性タンパク質のコード配列を含む選択カセットをさらに含んでもよい。好適な選択マーカーの例として、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(hyg)、ピューロマイシン-N-アセチルトランスフェラーゼ(puro)、ブラストサイジンSデアミナーゼ(bsr)、キサンチン/グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)、および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-k)が挙げられる。必要に応じて、選択カセットは、部位特異的リコンビナーゼのためのリコンビナーゼ認識部位によって挟まれていてもよい。Cas発現カセットが上記のCasコード配列の上流のポリアデニル化シグナルを挟むリコンビナーゼ認識部位も含む場合、必要に応じて、異なるリコンビナーゼによって認識される異なるセットのリコンビナーゼ認識部位が、選択カセットを挟むために使用される。あるいは、同じセットのリコンビナーゼ認識部位は、Casコード配列の上流のポリアデニル化シグナルと、選択カセットとの両方を挟むことができる。例示的なneo-ポリアデニル化配列は、配列番号37に記載されるか、または配列番号37に記載の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一の配列を含む、それから本質的になる、もしくはそれからなる。
【0109】
Cas発現カセットはまた、3xFLAGタグなどのタンパク質タグをコードする核酸を含んでもよい。そのようなタグの例は、必要に応じて、配列番号34によってコードされる配列番号23に記載されている。例えば、タグは、Casタンパク質のN末端、Casタンパク質のC末端、またはCasタンパク質の内部にあってよい。例えば、そのような発現カセットは、配列番号22に記載の3xFLAG-Cas9タンパク質配列または配列番号16に記載の3xFLAG-Cas9-P2A-eGFPタンパク質配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなるタンパク質をコードしてもよい。コード配列は、それぞれ、配列番号31に記載の3xFALG-Cas9コード配列または配列番号29に記載の3xFLAG-Cas9-P2A-eGFPコード配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一の配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなってもよい。
【0110】
Cas発現カセットはまた、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質)などの、1つまたは複数のリポータータンパク質をコードする核酸を含んでもよい。任意の好適なリポータータンパク質を使用することができる。例えば、本明細書の他の箇所で定義される蛍光リポータータンパク質を使用するか、または非蛍光リポータータンパク質を使用することができる。蛍光リポータータンパク質の例は、本明細書の他の箇所に提供される。非蛍光リポータータンパク質としては、例えば、ベータ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ(例えば、ウミシイタケルシフェラーゼ、蛍ルシフェラーゼ、およびNanoLucルシフェラーゼ)、およびベータ-グルクロニダーゼなどの、組織化学アッセイまたは生物発光アッセイにおいて使用することができるリポータータンパク質が挙げられる。Cas発現カセットは、フローサイトメトリーアッセイにおいて検出することができるリポータータンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質などの蛍光リポータータンパク質)および/または組織化学的アッセイにおいて検出することができるリポータータンパク質(例えば、ベータ-ガラクトシダーゼタンパク質)を含んでもよい。そのような組織化学的アッセイの一例は、青色の沈降物をもたらす、X-Gal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドイル-b-D-ガラクトピラノシド)の加水分解によるin situでのベータ-ガラクトシダーゼ発現の組織化学的可視化、またはベータ-メチルウンベリフェリルガラクトシド(MUG)およびフルオレセインジガラクトシド(FDG)などの蛍光性基質の使用である。
【0111】
そのような場合におけるCas発現カセットは、マルチシストロン性核酸を含んでもよい。例えば、そのような核酸は、介在内部リボソーム進入部位(IRES)または介在2Aペプチドコード配列によって隔てられたCasタンパク質コード配列およびリポータータンパク質コード配列(いずれかの順序で)であってもよい。マルチシストロン性発現構築物は、同じmRNAから2つまたはそれより多い別々のタンパク質(すなわち、同じプロモーターから産生される転写物)を同時に発現する。タンパク質のマルチシストロン性発現のための好適な戦略としては、例えば、2Aペプチドの使用および内部リボソーム進入部位(IRES)の使用が挙げられる。例えば、そのような核酸は、介在内部リボソーム進入部位(IRES)または介在2Aペプチドコード配列によって隔てられた2つまたはそれより多いリポータータンパク質のコード配列を含んでもよい。一例として、そのようなマルチシストロン性ベクターは、mRNAの内部領域からの翻訳の開始を可能にするための1つまたは複数の内部リボソーム進入部位(IRES)を使用することができる。別の例として、そのようなマルチシストロン性ベクターは、1つまたは複数の2Aペプチドを使用することができる。これらのペプチドは、一般に、18~22アミノ酸の長さを有する小さい「自己切断性」ペプチドであり、同じmRNAから等モルレベルの複数の遺伝子を産生する。リボソームは、2Aペプチドと、そのすぐ下流のペプチドとの間の「切断」をもたらす、2AペプチドのC末端でのグリシル-プロリルペプチド結合の合成をスキップする。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるKim et al. (2011) PLos One 6(4): e18556を参照されたい。「切断」は、C末端上に見出されるグリシン残基とプロリン残基の間で起こり、これは、上流のシストロンが末端に付加される2~3個の追加の残基を有するが、下流のシストロンがプロリンから始まることを意味している。結果として、「切断除去される」下流のペプチドは、そのN末端にプロリンを有する。2Aにより媒介される切断は、全ての真核細胞中での普遍的な現象である。2Aペプチドは、ピコルナウイルス、昆虫ウイルスおよびC型ロタウイルスから同定されている。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるSzymczak et al. (2005) Expert Opin Biol Ther 5: 627-638を参照されたい。使用することができる2Aペプチドの例としては、Thosea asignaウイルス2A(T2A);ブタテッショウウイルス-1 2A(P2A);ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)2A(E2A);およびFMDV 2A(F2A)が挙げられる。例示的なT2A、P2A、E2A、およびF2A配列は、以下のもの:T2A(EGRGSLLTCGDVEENPGP;配列番号2);P2A(ATNFSLLKQAGDVEENPGP;配列番号3);E2A(QCTNYALLKLAGDVESNPGP;配列番号4);およびF2A(VKQTLNFDLLKLAGDVESNPGP;配列番号5)を含む。GSG残基を、これらのペプチドのいずれかの5’末端に付加して、切断効率を改善することができる。5’末端にGSG残基が付加されたP2Aの例示的なコード配列は、配列番号32に記載されるか、または配列番号32に記載の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一の配列を含む、それから本質的になる、もしくはそれからなる。例えば、そのような発現カセットは、配列番号13に記載のCas9-P2A-eGFPタンパク質配列または配列番号16に記載の3xFLAG-Cas9-P2A-eGFPタンパク質配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなるタンパク質をコードしてもよい。コード配列は、それぞれ、配列番号28に記載のCas9-P2A-eGFPコード配列または配列番号29に記載の3xFLAG-Cas9-P2A-eGFPコード配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一の配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなってもよい。
【0112】
Cas発現カセットはまた、Casコード配列の下流に転写後調節エレメントまたはポリアデニル化シグナルなどの他のエレメントを含んでもよい。例示的な転写後調節エレメントは、配列番号35に記載されるウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)であるか、または配列番号35に記載の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一の配列を含む、それから本質的になる、もしくはそれからなる。例示的なポリアデニル化シグナルは、配列番号36に記載されるウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルであるか、または配列番号36に記載の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一の配列を含む、それから本質的になる、もしくはそれからなる。
【0113】
1つの例示的なCas発現カセットは、5’から3’に向かって、(a)3’スプライシング配列;(b)リコンビナーゼのための第1および第2のリコンビナーゼ認識部位(例えば、CreリコンビナーゼのためのloxP部位)によって挟まれたポリアデニル化シグナル;(c)Casタンパク質コード配列(例えば、N末端にNLSを有する、およびC末端にNLSを有するものなどのNLS-Cas9コード配列);(d)2Aタンパク質コード配列(例えば、P2Aコード配列);および(e)リポータータンパク質のコード配列(例えば、緑色蛍光タンパク質などの蛍光リポータータンパク質)を含む。例えば、図1および図14中のMAID2599を参照されたい。そのような発現カセットは、配列番号1に記載の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなってもよい。例えば、そのような発現カセットは、配列番号13に記載のCas9-P2A-eGFPタンパク質配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなるタンパク質をコードしてもよい。
【0114】
別の例示的なCas発現カセットは、5’から3’に向かって、(a)3’スプライシング配列;(b)Casタンパク質コード配列(例えば、N末端にNLSを有する、およびC末端にNLSを有するものなどのNLS-Cas9コード配列);(c)2Aタンパク質コード配列(例えば、P2Aコード配列);および(d)リポータータンパク質のコード配列(例えば、緑色蛍光タンパク質などの蛍光リポータータンパク質)を含む。例えば、図14中のMAID2600を参照されたい。そのような発現カセットは、配列番号12に記載の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなってもよい。例えば、そのような発現カセットは、配列番号13に記載のCas9-P2A-eGFPタンパク質配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなるタンパク質をコードしてもよい。
【0115】
別の例示的なCas発現カセットは、5’から3’に向かって、(a)3’スプライシング配列;(b)リコンビナーゼのための第1および第2のリコンビナーゼ認識部位(例えば、CreリコンビナーゼのためのloxP部位)によって挟まれたポリアデニル化シグナル;および(c)Casタンパク質コード配列(例えば、N末端にNLSを有する、およびC末端にNLSを有するものなどのNLS-Cas9コード配列)を含む。例えば、図14中のMAID2660を参照されたい。そのような発現カセットは、配列番号17に記載の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなってもよい。例えば、そのような発現カセットは、配列番号19に記載のCas9タンパク質配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなるタンパク質をコードしてもよい。
【0116】
別の例示的なCas発現カセットは、5’から3’に向かって、(a)3’スプライシング配列;および(b)Casタンパク質コード配列(例えば、N末端にNLSを有する、およびC末端にNLSを有するものなどのNLS-Cas9コード配列)を含む。例えば、図14中のMAID2661を参照されたい。そのような発現カセットは、配列番号18に記載の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなってもよい。例えば、そのような発現カセットは、配列番号19に記載のCas9タンパク質配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなるタンパク質をコードしてもよい。
【0117】
別の例示的なCas発現カセットは、5’から3’に向かって、(a)外因性プロモーター(例えば、CAGGプロモーターなどの構成的プロモーター);(b)リコンビナーゼのための第1および第2のリコンビナーゼ認識部位(例えば、CreリコンビナーゼのためのloxP部位)によって挟まれたポリアデニル化シグナル;(c)Casタンパク質コード配列(例えば、必要に応じて、N末端の3xFLAGタグなどの、N末端またはC末端にタグを有すると共に、N末端にNLSを有する、およびC末端にNLSを有するものなどのNLS-Cas9コード配列);(d)2Aタンパク質コード配列(例えば、P2Aコード配列);および(e)リポータータンパク質のコード配列(例えば、緑色蛍光タンパク質などの蛍光リポータータンパク質)を含む。例えば、図14中のMAID2658を参照されたい。そのような発現カセットは、配列番号14に記載の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなってもよい。例えば、そのような発現カセットは、配列番号16に記載の3xFLAG-Cas9-P2A-eGFPタンパク質配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなるタンパク質をコードしてもよい。
【0118】
別の例示的なCas発現カセットは、5’から3’に向かって、(a)外因性プロモーター(例えば、CAGGプロモーターなどの構成的プロモーター);(b)Casタンパク質コード配列(例えば、必要に応じて、N末端の3xFLAGタグなどの、N末端またはC末端にタグを有すると共に、N末端にNLSを有する、およびC末端にNLSを有するものなどのNLS-Cas9コード配列);(c)2Aタンパク質コード配列(例えば、P2Aコード配列);および(d)リポータータンパク質のコード配列(例えば、緑色蛍光タンパク質などの蛍光リポータータンパク質)を含む。例えば、図14中のMAID2659を参照されたい。そのような発現カセットは、配列番号15に記載の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなってもよい。例えば、そのような発現カセットは、配列番号16に記載の3xFLAG-Cas9-P2A-eGFPタンパク質配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなるタンパク質をコードしてもよい。
【0119】
別の例示的なCas発現カセットは、5’から3’に向かって、(a)外因性プロモーター(例えば、CAGGプロモーターなどの構成的プロモーター);(b)リコンビナーゼのための第1および第2のリコンビナーゼ認識部位(例えば、CreリコンビナーゼのためのloxP部位)によって挟まれたポリアデニル化シグナル;および(c)Casタンパク質コード配列(例えば、必要に応じて、N末端の3xFLAGタグなどの、N末端またはC末端にタグを有すると共に、N末端にNLSを有する、およびC末端にNLSを有するものなどのNLS-Cas9コード配列)を含む。例えば、図14中のMAID2672を参照されたい。そのような発現カセットは、配列番号20に記載の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなってもよい。例えば、そのような発現カセットは、配列番号22に記載の3xFLAG-C
as9タンパク質配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなるタンパク質をコードしてもよい。
【0120】
別の例示的なCas発現カセットは、5’から3’に向かって、(a)外因性プロモーター(例えば、CAGGプロモーターなどの構成的プロモーター);および(b)Casタンパク質コード配列(例えば、必要に応じて、N末端の3xFLAGタグなどの、N末端またはC末端にタグを有すると共に、N末端にNLSを有する、およびC末端にNLSを有するものなどのNLS-Cas9コード配列)を含む。例えば、図14中のMAID2673を参照されたい。そのような発現カセットは、配列番号21に記載の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなってもよい。例えば、そのような発現カセットは、配列番号22に記載の3xFLAG-
Cas9タンパク質配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなるタンパク質をコードしてもよい。
【0121】
本明細書に記載のCas発現カセットは、任意の形態にあってもよい。例えば、Cas発現カセットは、ウイルスベクターなどのベクターまたはプラスミド中にあってもよい。Cas発現カセットを、上流のポリアデニル化シグナルの除去時にCasタンパク質の発現を方向付けることができる発現構築物中のプロモーターに作動可能に連結することができる。あるいは、Cas発現カセットは、本明細書の他の箇所で定義される標的化ベクター中にあってもよい。例えば、標的化ベクターは、Cas発現カセットを挟む相同アームであって、ゲノム組込みを容易にするための所望の標的ゲノム遺伝子座との組換えを方向付けるのに好適である相同アームを含んでもよい。
【0122】
本明細書に記載のCas発現カセットは、in vitroにあってもよく、それらはex vivo(例えば、ゲノムに組み込まれるか、もしくは染色体外にある)で細胞(例えば、胚性幹細胞)内にあってもよいか、またはそれらはin vivo(例えば、ゲノムに組み込まれるか、もしくは染色体外にある)で生物(例えば、非ヒト動物)中にあってもよい。ex vivoの場合、Cas発現カセットは、胚性幹細胞(例えば、マウスもしくはラット胚性幹細胞)または人工多能性幹細胞(例えば、ヒト人工多能性幹細胞)などの、全能性細胞などの、任意の生物に由来する任意の細胞型中にあってもよい。in vivoの場合、Cas発現カセットは、任意の型の生物(例えば、本明細書の他の箇所にさらに記載される非ヒト動物)中にあってもよい。
【0123】
(2)Casタンパク質およびCasタンパク質をコードするポリヌクレオチド
Casタンパク質は、一般に、ガイドRNA(gRNA、下でより詳細に記載されている)と相互作用し得る少なくとも1つのRNA認識または結合ドメインを含む。Casタンパク質はまた、ヌクレアーゼドメイン(例えば、DNaseまたはRNaseドメイン)、DNA結合ドメイン、ヘリカーゼドメイン、タンパク質間相互作用ドメイン、二量体形成ドメイン、および他のドメインも含み得る。一部のそのようなドメイン(例えば、DNaseドメイン)は、天然のCasタンパク質に由来するものであってもよい。他のそのようなドメインを付加して、改変Casタンパク質を作製することができる。ヌクレアーゼドメインは、核酸分子の共有結合の切断を含む核酸切断に対する触媒活性を有する。切断により、平滑末端または付着末端が生じ得、これは一本鎖または二本鎖であり得る。例えば、野生型Cas9タンパク質は、一般には平滑切断生成物を創出させる。あるいは、野生型Cpf1タンパク質(例えば、FnCpf1)は5ヌクレオチド5’突出部を有する切断生成物を生じさせることができ、切断は非標的化鎖のPAM配列から18番目の塩基対の後ろおよび標的化鎖の23番目の塩基の後ろで起こる。Casタンパク質は、標的ゲノム遺伝子座に二本鎖切断(例えば、平滑末端を伴う二本鎖切断)を創出させる完全な切断活性を有してもよいか、またはそれは標的ゲノム遺伝子座において一本鎖切断を創出するニッカーゼであってもよい。
【0124】
Casタンパク質の例としては、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas5e(CasD)、Cas6、Cas6e、Cas6f、Cas7、Cas8a1、Cas8a2、Cas8b、Cas8c、Cas9(Csn1またはCsx12)、Cas10、Cas10d、CasF、CasG、CasH、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1(CasA)、Cse2(CasB)、Cse3(CasE)、Cse4(CasC)、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、およびCu1966、ならびにそのホモログまたは改変バージョンが挙げられる。
【0125】
例示的なCasタンパク質は、Cas9タンパク質、またはCas9に由来するタンパク質である。Cas9タンパク質は、II型CRISPR/Cas系に由来し、一般には、保存的アーキテクチャを有する4つの重要なモチーフを共有する。モチーフ1、2、および4はRuvC様モチーフであり、モチーフ3はHNHモチーフである。例示的なCas9タンパク質は、Streptococcus pyogenes、Streptococcus thermophilus、Streptococcus sp.、Staphylococcus aureus、Nocardiopsis dassonvillei、Streptomyces pristinaespiralis、Streptomyces viridochromogenes、Streptomyces viridochromogenes、Streptosporangium roseum、Streptosporangium roseum、Alicyclobacillus acidocaldarius、Bacillus pseudomycoides、Bacillus selenitireducens、Exiguobacterium sibiricum、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus salivarius、Microscilla marina、Burkholderiales bacterium、Polaromonas naphthalenivorans、Polaromonas sp.、Crocosphaera watsonii、Cyanothece sp.、Microcystis aeruginosa、Synechococcus sp.、Acetohalobium arabaticum、Ammonifex degensii、Caldicelulosiruptor becscii、Candidatus Desulforudis、Clostridium botulinum、Clostridium difficile、Finegoldia magna、Natranaerobius thermophilus、Pelotomaculum thermopropionicum、Acidithiobacillus caldus、Acidithiobacillus ferrooxidans、Allochromatium vinosum、Marinobacter sp.、Nitrosococcus halophilus、Nitrosococcus watsoni、Pseudoalteromonas haloplanktis、Ktedonobacter
racemifer、Methanohalobium evestigatum、Anabaena variabilis、Nodularia spumigena、Nostoc sp.、Arthrospira maxima、Arthrospira
platensis、Arthrospira sp.、Lyngbya sp.、Microcoleus chthonoplastes、Oscillatoria sp.、Petrotoga mobilis、Thermosipho africanus、Acaryochloris marina、Neisseria meningitidis、またはCampylobacter jejuniに由来する。Cas9ファミリーメンバーのさらなる例は、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2014/131833に記載されている。S.pyogenes由来のCas9(SpCas9)(SwissProt受託番号Q99ZW2が割り当てられる)は例示的なCas9タンパク質である。S.aureus由来のCas9(SaCas9)(UniProt受託番号J7RUA5が割り当てられる)は別の例示的なCas9タンパク質である。Campylobacter jejuniに由来するCas9(CjCas9)(UniProt受託番号Q0P897が割り当てられる)は、別の例示的なCas9タンパク質である。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるKimら(2017年)Nat.Comm.8巻:14500頁を参照されたい。SaCas9はSpCas9より小さく、CjCas9はSaCas9とSpCas9の両方よりも小さい。
【0126】
Casタンパク質の別の例は、Cpf1(PrevotellaおよびFrancisella 1由来のCRISPR)タンパク質である。Cpf1は、Cas9の特有のアルギニンリッチクラスターに対する対応物と一緒に、Cas9の対応するドメインと相同なRuvC様ヌクレアーゼドメインを含有する大きなタンパク質(約1300アミノ酸)である。しかし、Cpf1は、Cas9タンパク質に存在するHNHヌクレアーゼドメインを欠き、RuvC様ドメインは、Cpf1配列では連続しており、それとは対照的に、Cas9ではHNHドメインを含む長い挿入断片を含有する。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるZetscheら(2015年)Cell、16
3巻(3号):759~771頁を参照されたい。例示的なCpf1タンパク質は、Francisella tularensis 1、Francisella tularensis subsp. novicida、Prevotella albensis、Lachnospiraceae bacterium MC2017 1、Butyrivibrio proteoclasticus、Peregrinibacteria bacterium GW2011_GWA2_33_10、Parcubacteria bacterium GW2011_GWC2_44_17、Smithella sp. SCADC、Acidaminococcus sp. BV3L6、Lachnospiraceae bacterium MA2020、Candidatus Methanoplasma termitum、Eubacterium eligens、Moraxella bovoculi 237、Leptospira
inadai、Lachnospiraceae bacterium ND2006、Porphyromonas crevioricanis 3、Prevotella disiens、およびPorphyromonas macacaeに由来する。Francisella novicida U112由来のCpf1(FnCpf1;UniProt受託番号A0Q7Q2に割り当てられる)は例示的なCpf1タンパク質である。
【0127】
Casタンパク質は、野生型タンパク質(すなわち、天然に存在するもの)、改変Casタンパク質(すなわち、Casタンパク質バリアント)、または野生型もしくは改変Casタンパク質の断片であってよい。Casタンパク質はまた、野生型または改変Casタンパク質の触媒活性に関して活性なバリアントまたは断片であってもよい。触媒活性に関して活性なバリアントまたは断片は、野生型または改変Casタンパク質またはその一部に対して少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれよりも大きな配列同一性を含み得、活性なバリアントは、所望の切断部位をカットする能力を保持し、したがって、ニック誘導活性または二本鎖切断誘導活性を保持する。ニック誘導活性または二本鎖切断誘導活性についてのアッセイは公知であり、一般に、切断部位を含有するDNA基質に対するCasタンパク質の全体的な活性および特異性を測定する。
【0128】
Casタンパク質を、核酸結合親和性、核酸結合特異性、および酵素活性のうちの1つまたは複数が増大または低減するように改変することができる。Casタンパク質を、安定性などの、タンパク質の任意の他の活性または性質が変化するように改変することもできる。例えば、Casタンパク質の1つまたは複数のヌクレアーゼドメインを改変するか、欠失させるか、または不活化することもでき、Casタンパク質を、タンパク質の機能に必須ではないドメインを取り除くため、またはCasタンパク質の活性または性質を最適化する(例えば、増強するか、または低下させる)ために短縮することもできる。
【0129】
改変Casタンパク質の一例は、非特異的DNA接触を低減するように設計された変更(N497A/R661A/Q695A/Q926A)を担持するStreptococcus pyogenes Cas9の高忠実度バリアントである改変SpCas9-HF1タンパク質である。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるKleinstiverら(2016年)Nature 529巻(7587号):490~
495頁を参照されたい。改変Casタンパク質の別の例は、オフターゲット効果を低減するように設計された改変eSpCas9バリアント(K848A/K1003A/R1060A)である。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるSlaymakerら(2016年)Science 351巻(6268号):84~88頁を参照されたい。他のSpCas9バリアントとしては、K855AおよびK810A/K1003A/R1060Aが挙げられる。
【0130】
Casタンパク質は、DNaseドメインなどの少なくとも1つのヌクレアーゼドメインを含み得る。例えば、野生型Cpf1タンパク質は、一般に、おそらく二量体立体配置にある標的DNAの両方の鎖を切断するRuvC様ドメインを含む。Casタンパク質はまた、DNaseドメインなどの少なくとも2つのヌクレアーゼドメインも含み得る。例えば、野生型Cas9タンパク質は、一般に、RuvC様ヌクレアーゼドメインおよびHNH様ヌクレアーゼドメインを含む。RuvCおよびHNHドメインは、それぞれ二本鎖DNAの異なる鎖をカットして、DNAにおける二本鎖切断を生じさせることができる。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるJinekら(
2012年)Science、337巻:816~821頁を参照されたい。
【0131】
ヌクレアーゼドメインの1つまたは複数を欠失させるかまたは突然変異させ、その結果、もはや機能的でなくなるかまたは低下したヌクレアーゼ活性を有するようにすることができる。例えば、Cas9タンパク質のヌクレアーゼドメインの1つを欠失させるかまたは突然変異させる場合、得られるCas9タンパク質は、ニッカーゼと称することができ、二本鎖DNA内のガイドRNA標的配列に一本鎖切断を生じさせることができるが、二本鎖切断を生じさせることはできない(すなわち、相補鎖または非相補鎖を切断できるが、両方は切断できない)。Cas9をニッカーゼに変換する突然変異の例は、S.pyogenes由来のCas9のRuvCドメインにおけるD10A(Cas9の10位におけるアスパラギン酸からアラニンへの)突然変異である。同様に、S.pyogenes由来のCas9のHNHドメインにおけるH939A(アミノ酸839位においてヒスチジンからアラニンへ)、H840A(アミノ酸840位においてヒスチジンからアラニンへ)、またはN863A(アミノ酸N863位においてアスパラギンからアラニンへ)により、Cas9をニッカーゼに変換することができる。Cas9をニッカーゼに変換する突然変異の他の例としては、S.thermophilus由来のCas9に対応する突然変異が挙げられる。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるSapranauskasら(2011年)Nucleic Acids Research、39巻:9275~9282頁およびWO2013/141680を参照されたい。そのような突然変異は、部位特異的突然変異誘発、PCR媒介性突然変異誘発、または全遺伝子合成などの方法を使用して生じさせることができる。ニッカーゼを創出させる他の突然変異の例は、例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2013/176772およびWO2013/142578において見出すことができる。
【0132】
Staphylococcus aureus Cas9タンパク質の触媒ドメイン中の不活化突然変異の例も公知である。例えば、Staphylococcus aureus Cas9酵素(SaCas9)は、ヌクレアーゼ不活性Casタンパク質を生成するためのN580位における置換(例えば、N580A置換)およびD10位における置換(例えば、D10A置換)を含んでもよい。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2016/106236を参照されたい。
【0133】
Cpf1タンパク質の触媒ドメイン中の不活化突然変異の例も公知である。Francisella novicida U112(FnCpf1)、Acidaminococcus sp.BV3L6(AsCpf1)、Lachnospiraceae bacterium ND2006(LbCpf1)、およびMoraxella bovoculi 237(MbCpf1、Cpf1)に由来するCpf1タンパク質を参照すると、そのような突然変異は、AsCpf1の908位、993位、もしくは1263位またはCpf1オルソログ中の対応する位置、またはLbCpf1の832位、925位、947位、もしくは1180位またはCpf1オルソログ中の対応する位置に突然変異を含んでもよい。そのような突然変異は、例えば、AsCpf1の突然変異D908A、E993A、およびD1263AもしくはCpf1オルソログ中の対応する突然変異、またはLbCpf1のD832A、E925A、D947A、およびD1180AもしくはCpf1オルソログ中の対応する突然変異のうちの1つまたは複数を含んでもよい。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるUS2016/0208243を参照されたい。
【0134】
Casタンパク質を異種ポリペプチドに作動可能に連結して融合タンパク質とすることもできる。例えば、Casタンパク質を切断ドメインまたはエピジェネティック改変ドメインと融合することができる。あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2014/089290を参照されたい。Casタンパク質を、安定性の増大または低減をもたらす異種ポリペプチドと融合することもできる。融合したドメインまたは異種ポリペプチドは、Casタンパク質のN末端、C末端、または内部に位置し得る。
【0135】
一例として、Casタンパク質を、細胞内局在化をもたらす1つまたは複数の異種ポリペプチドと融合することができる。そのような異種ポリペプチドとしては、例えば、核へのターゲティングのための単節型SV40 NLSおよび/または双節型アルファ-インポーチンNLSなどの1つまたは複数の核局在化シグナル(NLS)、ミトコンドリアへのターゲティングのためのミトコンドリア局在化シグナル、ER保持シグナルなどを挙げることができる。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるLangeら(2007年)J. Biol. Chem.、282巻:5101~5105頁を参
照されたい。そのような細胞内局在化シグナルは、Casタンパク質のN末端、C末端、またはCasタンパク質内の任意の場所に位置し得る。NLSは、塩基性アミノ酸のひと続きを含んでよく、また、一分配列であっても二分配列であってもよい。必要に応じて、Casタンパク質は、N末端のNLS(例えば、アルファ-インポーチンNLSまたは単節型NLS)およびC末端のNLS(例えば、SV40 NLSまたは双節型NLS)を含む、2つまたはそれより多いNLSを含んでもよい。Casタンパク質はまた、N末端の2つもしくはそれより多いNLSおよび/またはC末端の2つもしくはそれより多いNLSを含んでもよい。
【0136】
Casタンパク質を細胞透過性ドメインまたはタンパク質形質導入ドメインと作動可能に連結することもできる。例えば、細胞透過性ドメインは、HIV-1 TATタンパク質、ヒトB型肝炎ウイルス由来のTLM細胞透過性モチーフ、MPG、Pep-1、VP22、単純ヘルペスウイルス由来の細胞透過性ペプチド、またはポリアルギニンペプチド配列に由来してよい。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2014/089290およびWO2013/176772を参照されたい。細胞透過性ドメインは、Casタンパク質のN末端、C末端、またはCasタンパク質内の任意の場所に位置し得る。
【0137】
Casタンパク質を蛍光タンパク質、精製タグ、またはエピトープタグなどの追跡または精製をしやすくするための異種ポリペプチドに作動可能に連結することもできる。蛍光タンパク質の例としては、緑色蛍光タンパク質(例えば、GFP、GFP-2、tagGFP、turboGFP、eGFP、Emerald、Azami Green、Monomeric Azami Green、CopGFP、AceGFP、ZsGreenl)、黄色蛍光タンパク質(例えば、YFP、eYFP、Citrine、Venus、YPet、PhiYFP、ZsYellowl)、青色蛍光タンパク質(例えば、eBFP、eBFP2、Azurite、mKalamal、GFPuv、Sapphire、T-sapphire)、シアン蛍光タンパク質(例えば、eCFP、Cerulean、CyPet、AmCyanl、Midoriishi-Cyan)、赤色蛍光タンパク質(例えば、mKate、mKate2、mPlum、DsRed単量体、mCherry、mRFP1、DsRed-Express、DsRed2、DsRed-Monomer、HcRed-Tandem、HcRedl、AsRed2、eqFP611、mRaspberry、mStrawberry、Jred)、オレンジ蛍光タンパク質(例えば、mOrange、mKO、Kusabira-Orange、Monomeric
Kusabira-Orange、mTangerine、tdTomato)、および任意の他の適切な蛍光タンパク質が挙げられる。タグの例としては、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質、チオレドキシン(TRX)、ポリ(NANP)、タンデムアフィニティー精製(TAP)タグ、myc、AcV5、AU1、AU5、E、ECS、E2、FLAG、赤血球凝集素(HA)、nus、Softag1、Softag3、Strep、SBP、Glu-Glu、HSV、KT3、S、S1、T7、V5、VSV-G、ヒスチジン(His)、ビオチンカルボキシル担体タンパク質(BCCP)、およびカルモジュリンが挙げられる。
【0138】
Casタンパク質をコードする核酸を、特定の細胞または生物体におけるタンパク質への効率的な翻訳のためにコドン最適化することができる。例えば、Casタンパク質をコードする核酸を、天然に存在するポリヌクレオチド配列と比較して、ヒト細胞、非ヒト細胞、哺乳動物細胞、齧歯類細胞、マウス細胞、ラット細胞、または任意の他の目的の宿主細胞において使用の頻度が高いコドンに置換されるように改変することができる。
【0139】
(3)ガイドRNA
「ガイドRNA」または「gRNA」は、Casタンパク質(例えば、Cas9タンパク質)に結合し、Casタンパク質を標的DNA内の特定の場所にターゲティングするRNA分子である。ガイドRNAは、2つのセグメント:「DNA標的化セグメント」および「タンパク質結合セグメント」を含み得る。「セグメント」は、RNA内のヌクレオチドの連続したひと続きなどの、分子の区画または領域を含む。Cas9に対するものなどの一部のgRNAは、2つの別々のRNA分子:「活性化因子-RNA」(例えば、tracrRNA)および「標的化因子-RNA」(例えば、CRISPR RNAまたはcrRNA)を含み得る。他のgRNAは、単一のRNA分子(単一のRNAポリヌクレオチド)であり、「単一分子gRNA」、「単一ガイドRNA,」または「sgRNA」とも称され得る。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる、WO2013/176772、WO2014/065596、WO2014/089290、WO2014/093622、WO2014/099750、WO2013/142578、およびWO2014/131833を参照されたい。Cas9に関しては、例えば、単一ガイドRNAは、tracrRNAと融合したcrRNA(例えば、リンカーを介して)を含み得る。Cpf1に関しては、例えば、標的配列への結合および/または標的配列の切断を実現するためにはcrRNAのみが必要である。「ガイドRNA」および「gRNA」という用語は、2重分子(すなわち、モジュラー)gRNAおよび単一分子gRNAの両方を含む。
【0140】
例示的な2分子gRNAは、crRNA様(「CRISPR RNA」または「標的化因子-RNA」または「crRNA」または「crRNAリピート」)分子および対応するtracrRNA様(「トランス作用性CRISPR RNA」または「活性化因子-RNA」または「tracrRNA」)分子を含む。crRNAは、gRNAのDNA標的化セグメント(一本鎖)およびgRNAのタンパク質結合セグメントのdsRNA 2重鎖の片方を形成するヌクレオチドのひと続き(すなわち、crRNA尾部)の両方を含む。DNA標的化セグメントの下流(3’側)に位置するcrRNA尾部の例は、GUUUUAGAGCUAUGCU(配列番号25)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなる。本明細書に開示されるDNA標的化セグメントのいずれかを配列番号25の5’末端に接合してcrRNAを形成することができる。
【0141】
対応するtracrRNA(活性化因子-RNA)は、gRNAのタンパク質結合セグメントのdsRNA 2重鎖のあとの半分を形成するヌクレオチドのひと続きを含む。crRNAのヌクレオチドのひと続きは、tracrRNAのヌクレオチドのひと続きと相補的であり、ハイブリダイズして、gRNAのタンパク質結合ドメインのdsRNA 2重鎖を形成する。したがって、各crRNAは、対応するtracrRNAを有すると言うことができる。tracrRNA配列の例は、AGCAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCUUU(配列番号26)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなる。
【0142】
crRNAおよびtracrRNAの両方が必要な系では、crRNAおよび対応するtracrRNAがハイブリダイズしてgRNAを形成する。crRNAのみが必要な系では、crRNAがgRNAになることができる。crRNAは、逆の鎖(すなわち、相補鎖)とハイブリダイズすることにより、ガイドRNA標的配列を標的とする一本鎖DNA標的化セグメントをさらにもたらす。細胞内での改変に使用する場合、所与のcrRNAまたはtracrRNA分子の正確な配列は、RNA分子を使用する種に特異的になるように設計することができる。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる、Maliら(2013年)Science、339巻:823~826頁;Jinekら(2012年)Science、337巻:816~821頁;Hwangら(2
013年)Nat. Biotechnol.、31巻:227~229頁;Jiangら(2013年)Nat.
Biotechnol.、31巻:233~239頁;およびCongら(2013年)Science、339巻:819~823頁を参照されたい。
【0143】
所与のgRNAのDNA標的化セグメント(crRNA)は、標的DNA内の配列と相補的なヌクレオチド配列(すなわち、ガイドRNA標的配列と逆の鎖上のガイドRNA認識配列の相補鎖)を含む。gRNAのDNA標的化セグメントは、標的DNAと配列特異的にハイブリダイゼーション(すなわち、塩基対合)によって相互作用する。したがって、DNA標的化セグメントのヌクレオチド配列は、変動させることができ、gRNAと標的DNAが相互作用する標的DNA内の場所を決定する。主題のgRNAのDNA標的化セグメントを、標的DNA内の任意の所望の配列とハイブリダイズするように改変することができる。天然に存在するcrRNAは、CRISPR/Cas系および生物体に応じて異なるが、多くの場合、21~46ヌクレオチドの長さの2つのダイレクトリピート(DR)に挟まれた21~72ヌクレオチドの長さの標的化セグメントを含有する(例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2014/131833を参照されたい)。S.pyogenesの場合では、DRは36ヌクレオチドの長さであり、標的化セグメントは30ヌクレオチドの長さである。3’側に位置するDRが対応するtracrRNAと相補的であり、ハイブリダイズし、それが今度はCasタンパク質に結合する。
【0144】
DNA標的化セグメントは、少なくとも約12ヌクレオチド、少なくとも約15ヌクレオチド、少なくとも約17ヌクレオチド、少なくとも約18ヌクレオチド、少なくとも約19ヌクレオチド、少なくとも約20ヌクレオチド、少なくとも約25ヌクレオチド、少なくとも約30ヌクレオチド、少なくとも約35ヌクレオチド、または少なくとも約40ヌクレオチドの長さを有し得る。そのようなDNA標的化セグメントは、約12ヌクレオチドから約100ヌクレオチドまで、約12ヌクレオチドから約80ヌクレオチドまで、約12ヌクレオチドから約50ヌクレオチドまで、約12ヌクレオチドから約40ヌクレオチドまで、約12ヌクレオチドから約30ヌクレオチドまで、約12ヌクレオチドから約25ヌクレオチドまで、または約12ヌクレオチドから約20ヌクレオチドまでの長さを有し得る。例えば、DNA標的化セグメントは、約15ヌクレオチドから約25ヌクレオチドまで(例えば、約17ヌクレオチドから約20ヌクレオチドまで、または約17ヌクレオチド、約18ヌクレオチド、約19ヌクレオチド、または約20ヌクレオチド)であってよい。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるUS2016/0024523を参照されたい。S.pyogenes由来のCas9に関しては、典型的なDNA標的化セグメントは、16から20ヌクレオチドの間の長さまたは17から20ヌクレオチドの間の長さである。S.aureus由来のCas9に関しては、典型的なDNA標的化セグメントは、21から23ヌクレオチドの間の長さである。Cpf1に関しては、典型的なDNA標的化セグメントは、少なくとも16ヌクレオチドの長さまたは少なくとも18ヌクレオチドの長さである。
【0145】
tracrRNAは、任意の形態(例えば、全長tracrRNAまたは活性な部分的tracrRNA)および様々な長さであってよい。tracrRNAは、一次転写産物またはプロセシングされた形態を含み得る。例えば、tracrRNA(単一ガイドRNAの一部としてかまたは2分子gRNAの一部としての別々の分子として)は、野生型tracrRNA配列(例えば、野生型tracrRNA配列の約20ヌクレオチドもしくはそれよりも多く、約26ヌクレオチドもしくはそれよりも多く、約32ヌクレオチドもしくはそれよりも多く、約45ヌクレオチドもしくはそれよりも多く、約48ヌクレオチドもしくはそれよりも多く、約54ヌクレオチドもしくはそれよりも多く、約63ヌクレオチドもしくはそれよりも多く、約67ヌクレオチドもしくはそれよりも多く、約85ヌクレオチドもしくはそれよりも多く、またはそれよりも多くのヌクレオチド)の全部または一部を含み得るか、それから本質的になり得るか、またはそれからなり得る。S.pyogenes由来の野生型tracrRNA配列の例としては、171ヌクレオチド、89ヌクレオチド、75ヌクレオチド、および65ヌクレオチドバージョンが挙げられる。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる、Deltchevaら(2011年)Nature、471巻:602~607頁;WO2014/
093661を参照されたい。単一ガイドRNA(sgRNA)内のtracrRNAの例としては、sgRNAの+48、+54、+67、および+85バージョンに見出されるtracrRNAセグメントが挙げられ、ここで、「+n」は、最大+nヌクレオチドの野生型tracrRNAがsgRNAに含まれることを示す。あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるUS8,697,359を参照されたい。
【0146】
DNA標的化配列と標的DNA内のガイドRNA認識配列の相補鎖の間のパーセント相補性は、少なくとも60%(例えば、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%)であり得る。DNA標的化配列と標的DNA内のガイドRNA認識配列の相補鎖の間のパーセント相補性は、約20個連続したヌクレオチドにわたって少なくとも60%であり得る。例として、DNA標的化配列と標的DNA内のガイドRNA認識配列の相補鎖の間のパーセント相補性は、標的DNAの相補鎖内のガイドRNA認識配列の相補鎖の5’末端では14個連続したヌクレオチドにわたって100%であり、残りにわたっては0%の低さである。そのような場合では、DNA標的化配列は、14ヌクレオチドの長さとみなすことができる。別の例として、DNA標的化配列と標的DNA内のガイドRNA認識配列の相補鎖の間のパーセント相補性は、標的DNAの相補鎖内のガイドRNA認識配列の相補鎖の5’末端では7個連続したヌクレオチドにわたって100%であり、残りにわたっては0%の低さである。そのような場合では、DNA標的化配列は、7ヌクレオチドの長さとみなすことができる。一部のガイドRNAでは、DNA標的化配列内の少なくとも17ヌクレオチドが標的DNAと相補的である。例えば、DNA標的化配列は20ヌクレオチドの長さであり得、ガイドRNA認識配列の相補鎖とのミスマッチを1つ、2つ、または3つ含み得る。必要に応じて、ミスマッチはプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列に隣接しない(例えば、ミスマッチはDNA標的化配列の5’末端にあるか、またはミスマッチはPAM配列から少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または19塩基対離れている)。
【0147】
gRNAのタンパク質結合セグメントは、互いと相補的な2つのヌクレオチドのひと続きを含み得る。タンパク質結合セグメントの相補的なヌクレオチドはハイブリダイズして二本鎖RNA 2重鎖(dsRNA)を形成する。主題のgRNAのタンパク質結合セグメントはCasタンパク質と相互作用し、gRNAは、結合したCasタンパク質を、DNA標的化セグメントを介して標的DNA内の特定のヌクレオチド配列に方向付ける。
【0148】
単一ガイドRNAは、DNA標的化セグメントおよび足場配列(すなわち、ガイドRNAのタンパク質結合またはCas結合配列)を有する。例えば、そのようなガイドRNAは、5’DNA標的化セグメントおよび3’足場配列を有する。例示的な足場配列は、
GUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCU(バージョン1;配列番号27);GUUGGAACCAUUCAAAACAGCAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGC(バージョン2;配列番号6);GUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGC(バージョン3;配列番号7);およびGUUUAAGAGCUAUGCUGGAAACAGCAUAGCAAGUUUAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGC(バージョン4;配列番号8)
を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなる。任意のガイドRNA標的配列を標的とするガイドRNAとしては、例えば、ガイドRNAの3’末端上の例示的なガイドRNA足場配列のいずれかと融合したガイドRNAの5’末端上のDNA標的化セグメントを挙げることができる。すなわち、本明細書に開示されるDNA標的化セグメントのいずれかを配列番号27、6、7または8のいずれか1つの5’末端と接合して、単一のガイドRNA(キメラガイドRNA)を形成することができる。本明細書の他の箇所で開示されるガイドRNAバージョン1、2、3、および4は、それぞれ足場バージョン1、2、3、および4と接合したDNA標的化セグメントを指す。
【0149】
ガイドRNAは、追加的な望ましい特徴(例えば、改変または制御された安定性;細胞内標的化;蛍光標識を用いた追跡;タンパク質またはタンパク質複合体の結合部位など)をもたらす改変または配列を含み得る。そのような改変の例としては、例えば、5’キャップ(例えば、7-メチルグアニル酸キャップ(m7G));3’ポリアデニル化尾部(すなわち、3’ポリ(A)尾部);リボスイッチ配列(例えば、安定性の制御ならびに/またはタンパク質および/もしくはタンパク質複合体による接近可能性の制御を可能にするため);安定性調節配列;dsRNA 2重鎖(すなわち、ヘアピン)を形成する配列;RNAを細胞内の場所(例えば、核、ミトコンドリア、葉緑体など)にターゲティングする改変または配列;追跡をもたらす改変または配列(例えば、蛍光分子との直接コンジュゲーション、蛍光検出を容易にする部分とのコンジュゲーション、蛍光検出を可能にする配列など);タンパク質(例えば、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNAデメチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストン脱アセチル化酵素などを含めたDNAに作用するタンパク質)の結合部位をもたらす改変または配列;およびこれらの組合せが挙げられる。改変の他の例としては、工学的に操作されたステムループ2重鎖構造、工学的に操作されたバルジ領域、ステムループ2重鎖構造の工学的に操作されたヘアピン3’、またはこれらの任意の組合せが挙げられる。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるUS2015/0376586を参照されたい。バルジは、crRNA様領域および最小のtracrRNA様領域で構成される2重鎖内の対合していないヌクレオチドの領域であり得る。バルジは、2重鎖の片側に対合していない5’-XXXY-3’(配列中、Xは任意のプリンであり、Yは逆の鎖上のヌクレオチドとゆらぎ対を形成し得るヌクレオチドであり得る)、および、他方の側の2重鎖に対合していないヌクレオチド領域を含み得る。
【0150】
非改変核酸は、分解されやすくてもよい。外因性核酸は、先天性免疫応答を誘導することもできる。改変は、安定性を導入し、免疫原性を低減させるのに役立ち得る。ガイドRNAは、例えば、下記:(1)ホスホジエステル骨格連結中の非連結リン酸酸素および/または1つもしくは複数の連結リン酸酸素の一方または両方の変更または置換え;(2)リボース糖上の2’ヒドロキシルの変更または置換えなどのリボース糖の構成要素の変更または置換え;(3)脱ホスホリンカーとのリン酸部分の置換え;(4)天然に存在する核酸塩基の改変または置換え;(5)リボース-リン酸骨格の置換えまたは改変;(6)オリゴヌクレオチドの3’末端または5’末端の改変(例えば、末端リン酸基の除去、改変もしくは置換えまたは部分のコンジュゲーション);ならびに(7)糖の改変のうちの1つまたは複数を含む、改変ヌクレオシドおよび改変ヌクレオチドを含んでもよい。他の可能なガイドRNA改変としては、ウラシルまたはポリ-ウラシルトラクトの改変または置換えが挙げられる。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2015/048577およびUS2016/0237455を参照されたい。同様の改変を、Cas mRNAなどのCasをコードする核酸に対して行うことができる。
【0151】
一例として、ガイドRNAの5’または3’末端のヌクレオチドは、ホスホロチオエート連結を含んでもよい(例えば、塩基はホスホロチオエート基である改変リン酸基を有してもよい)。例えば、ガイドRNAは、ガイドRNAの5’または3’末端の2、3、または4個の末端ヌクレオチドの間にホスホロチオエート連結を含んでもよい。別の例として、ガイドRNAの5’および/または3’末端のヌクレオチドは、2’-O-メチル改変を有してもよい。例えば、ガイドRNAは、ガイドRNAの5’および/または3’末端(例えば、5’末端)の2、3、または4個の末端ヌクレオチドに2’-O-メチル改変を含んでもよい。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2017/173054A1およびFinnら(2018年)Cell
Reports 22巻:1~9頁を参照されたい。1つの特定例では、ガイドRNAは、最
初の3個の5’および3’末端RNA残基に2’-O-メチル類似体および3’ホスホロチオエートヌクレオチド間連結を含む。別の特定例では、ガイドRNAは、Cas9タンパク質と相互作用しない全ての2’OH基が2’-O-メチル類似体で置き換えられ、Cas9と最小限に相互作用するガイドRNAの尾部領域が5’および3’ホスホロチオエートヌクレオチド間連結で改変されるように改変される。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるYinら(2017年)Nat. Biotech. 3
5巻(12号):1179~1187頁を参照されたい。
【0152】
ガイドRNAは、任意の形態でもたらすことができる。例えば、gRNAは、RNAの形態で、2つの分子(別々のcrRNAおよびtracrRNA)としてかまたは1つの分子(sgRNA)としてのいずれかでもたらすことができ、必要に応じて、Casタンパク質との複合体の形態でもたらすことができる。gRNAは、gRNAをコードするDNAの形態でもたらすこともできる。gRNAをコードするDNAは、単一のRNA分子(sgRNA)をコードしていてもよく、別々のRNA分子(例えば、別々のcrRNAおよびtracrRNA)をコードしていてもよい。後者の場合、gRNAをコードするDNAは、1つのDNA分子としてもたらすこともでき、それぞれcrRNAおよびtracrRNAをコードする別々のDNA分子としてもたらすこともできる。
【0153】
gRNAをDNAの形態でもたらす場合、gRNAを細胞において一過性に、条件付きで、または構成的に発現させることができる。gRNAをコードするDNAを細胞のゲノムに安定に組み込み、細胞において活性なプロモーターに作動可能に連結することができる。あるいは、gRNAをコードするDNAを発現構築物中でプロモーターに作動可能に連結することができる。例えば、gRNAをコードするDNAは、Casタンパク質をコードする核酸などの、異種核酸を含むベクター内に入れることができる。あるいは、gRNAをコードするDNAを、Casタンパク質をコードする核酸を含むベクターとは別のベクターまたはプラスミド内に入れることができる。そのような発現構築物に使用することができるプロモーターとしては、例えば、真核細胞、ヒト細胞、非ヒト細胞、哺乳動物細胞、非ヒト哺乳動物細胞、齧歯類細胞、マウス細胞、ラット細胞、ハムスター細胞、ウサギ細胞、多能性細胞、胚性幹(ES)細胞、成体幹細胞、発生的に制限された前駆細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、または1細胞期胚の1つまたは複数において活性なプロモーターが挙げられる。そのようなプロモーターは、例えば、条件付きプロモーター、誘導性プロモーター、構成的プロモーター、または組織特異的プロモーターであってよい。そのようなプロモーターはまた、例えば、双方向プロモーターであってもよい。適切なプロモーターの特定の例としては、ヒトU6プロモーター、ラットU6ポリメラーゼIIIプロモーター、またはマウスU6ポリメラーゼIIIプロモーターなどのRNAポリメラーゼIIIプロモーターが挙げられる。
【0154】
あるいは、gRNAを、他の様々な方法によって調製することができる。例えば、gRNAは、例えばT7 RNAポリメラーゼを使用したin vitro転写によって調製することができる(例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる、WO2014/089290およびWO2014/065596を参照されたい)。ガイドRNAは、化学合成によって調製された合成的に産生された分子であってもよい。
【0155】
(4)ガイドRNA認識配列およびガイドRNA標的配列
「ガイドRNA認識配列」という用語は、結合のための十分な条件が存在すればgRNAのDNA標的化セグメントが結合する標的DNAに存在する核酸配列を包含する。ガイドRNA認識配列という用語は、本明細書で使用される場合、標的二本鎖DNAの両方の鎖(すなわち、ガイドRNAがハイブリダイズする相補鎖上の配列、およびプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に隣接する非相補鎖上の対応する配列)を包含する。「ガイドRNA標的配列」という用語は、本明細書で使用される場合、具体的には、PAMに隣接する非相補鎖上(すなわち、PAMの上流または5’側)の配列を指す。すなわち、ガイドRNA標的配列は、ガイドRNAがハイブリダイズする相補鎖上の配列に対応する非相補鎖上の配列を指す。ガイドRNA標的配列は、ガイドRNAのDNA標的化セグメントと等しいが、ウラシルの代わりにチミンである。一例として、Cas9酵素に対するガイドRNA標的配列は、5’-NGG-3’PAMに隣接する非相補鎖上の配列を指すことになる。ガイドRNA認識配列は、ガイドRNAが相補性を有するように設計された配列を含み、ガイドRNA認識配列の相補鎖とガイドRNAのDNA標的化配列のハイブリダイゼーションにより、CRISPR複合体の形成が促進される。ハイブリダイゼーションを引き起こし、CRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性があれば、完全な相補性は必ずしも必要ではない。ガイドRNA認識配列またはガイドRNA標的配列は、下でより詳細に記載されているCasタンパク質の切断部位も含む。ガイドRNA認識配列またはガイドRNA標的配列は、例えば、細胞の核もしくは細胞質内、またはミトコンドリアもしくは葉緑体などの細胞の細胞小器官内に位置し得る任意のポリヌクレオチドを含み得る。
【0156】
標的DNA内のガイドRNA認識配列は、Casタンパク質またはgRNAによって標的とすることができる(すなわち、Casタンパク質またはgRNAが結合することができる、またはCasタンパク質またはgRNAがハイブリダイズすることができる、またはCasタンパク質またはgRNAが相補的であり得る)。適切なDNA/RNA結合条件としては、細胞において通常存在する生理的条件が挙げられる。他の適切なDNA/RNA結合条件(例えば、無細胞系における条件)が公知である(例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるMolecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版(Sambrookら、Harbor Laboratory Press、2001年)を参照さ
れたい)。Casタンパク質またはgRNAと相補的であり、それとハイブリダイズする標的DNAの鎖は、「相補鎖」と称することができ、「相補鎖」と相補的な(したがって、Casタンパク質またはgRNAとは相補的でない)標的DNAの鎖は、「非相補鎖」または「鋳型鎖」と称することができる。
【0157】
Casタンパク質は、核酸を、gRNAのDNA標的化セグメントが結合する標的DNAに存在する核酸配列の内部または外部の部位で切断し得る。「切断部位」は、Casタンパク質により一本鎖切断または二本鎖切断が生じる、核酸の位置を含む。例えば、CRISPR複合体(ガイドRNA認識配列の相補鎖とハイブリダイズし、Casタンパク質と複合体を形成したgRNAを含む)の形成により、gRNAのDNA標的化セグメントが結合する標的DNAに存在する核酸配列内またはその付近(例えば、gRNAのDNA標的化セグメントが結合する標的DNAに存在する核酸配列から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、またはそれよりも多くの塩基対の範囲内)での一方または両方の鎖の切断がもたらされ得る。切断部位が、gRNAのDNA標的化セグメントが結合する核酸配列の外部にある場合、切断部位はなお「ガイドRNA認識配列」またはガイドRNA標的配列内にあるとみなされる。切断部位は、核酸の一方の鎖上のみにあってもよく、両方の鎖上にあってもよい。切断部位は、核酸の両方の鎖上の同じ位置にあってもよく(平滑末端が生じる)、各鎖上の異なる部位にあってもよい(付着末端(すなわち、突出部)が生じる)。付着末端は、例えば、それぞれが異なる鎖上の異なる切断部位で一本鎖切断を生じさせる2つのCasタンパク質を使用し、それにより、二本鎖切断を生じさせることによって生じさせることができる。例えば、第1のニッカーゼにより、二本鎖DNA(dsDNA)の第1の鎖上に一本鎖切断を創出することができ、第2のニッカーゼにより、dsDNAの第2の鎖上に一本鎖切断を創出することができ、その結果、突出部配列が創出される。一部の場合では、第1の鎖上のニッカーゼのガイドRNA認識配列またはガイドRNA標的配列は、第2の鎖上のニッカーゼのガイドRNA認識配列またはガイドRNA標的配列から少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100、250、500、または1,000塩基対離れている。
【0158】
Casタンパク質による標的DNAの部位特異的結合および/または切断は、(i)gRNAと標的DNAの間の塩基対合相補性および(ii)標的DNA内のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と称される短いモチーフの両方によって決定される場所で起こり得る。PAMは、ガイドRNAがハイブリダイズする鎖と逆の非相補鎖上のガイドRNA標的配列に隣接し得る。必要に応じて、ガイドRNA標的配列の3’末端にPAMが隣接し得る。あるいは、ガイドRNA標的配列の5’末端にPAMが隣接し得る。例えば、Casタンパク質の切断部位は、PAM配列の約1~約10または約2~約5塩基対(例えば、3塩基対)上流または下流であり得る。一部の場合では(例えば、S.pyogenes由来のCas9または密接に関連するCas9を使用する場合)、非相補鎖のPAM配列は、5’-NGG-3’(配列中、Nは任意のDNAヌクレオチドである)であり得、標的DNAの非相補鎖のガイドRNA認識配列のすぐ3’側(すなわち、ガイドRNA標的配列のすぐ3’側)である。したがって、相補鎖のPAM配列は、5’-CCN-3’(配列中、Nは任意のDNAヌクレオチドである)になり、標的DNAの相補鎖のガイドRNA認識配列のすぐ5’側である。一部のそのような場合では、NとNは相補的であり得、N-N塩基対は任意の塩基対であり得る(例えば、N=CおよびN=G;N=GおよびN=C;N=AおよびN=T;またはN=T、およびN=A)。S.aureus由来のCas9の場合では、PAMは、NNGRRTまたはNNGRR(配列中、NはA、G、C、またはTであり得、RはGまたはAであり得る)であり得る。C.jejuni由来のCas9の場合では、PAMは、例えば、NNNNACACまたはNNNNRYAC(配列中、NはA、G、C、またはTであってよく、RはGまたはAであってよい)であってよい。一部の場合では(例えば、FnCpf1に関して)、PAM配列は、5’末端の上流であり得、配列5’-TTN-3’を有し得る。
【0159】
ガイドRNA標的配列またはPAM配列に加えてガイドRNA標的配列の例を以下に提示する。例えば、ガイドRNA標的配列は、Cas9タンパク質によって認識されるNGGモチーフの直前の20ヌクレオチドのDNA配列であり得る。そのようなガイドRNA標的配列とそれに加えてPAM配列の例は、GN19NGG(配列番号9)またはN20NGG(配列番号10)である。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2014/165825を参照されたい。5’末端のグアニンにより、細胞におけるRNAポリメラーゼによる転写を容易にすることができる。ガイドRNA標的配列とそれに加えてPAM配列の他の例としては、in vitroにおけるT7ポリメラーゼによる効率的な転写を容易にするための、5’末端の2つのグアニンヌクレオチド(例えば、GGN20NGG;配列番号11)を挙げることができる。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2014/065596を参照されたい。他のガイドRNA標的配列とそれに加えてPAM配列は、5’GまたはGGおよび3’GGまたはNGGを含む、配列番号9~11の4~22ヌクレオチドの長さを有し得る。さらに他のガイドRNA標的配列は、配列番号9~11の14から20ヌクレオチドの間の長さを有し得る。
【0160】
ガイドRNA認識配列またはガイドRNA標的配列は、細胞に対して内因性または外因性の任意の核酸配列であり得る。ガイドRNA認識配列またはガイドRNA標的配列は、遺伝子産物(例えば、タンパク質)をコードする配列の場合もあり、非コード配列(例えば、制御配列)の場合もあり、両方を含む場合もある。
【0161】
B.Cas発現カセットを含む細胞および非ヒト動物
本明細書に記載のCas発現カセットを含む細胞および非ヒト動物も提供される。Cas発現カセットを、細胞もしくは非ヒト動物のゲノム(すなわち、染色体)中に安定に組み込むか、または染色体の外部に位置させることができる(例えば、染色体外で複製するDNA)。必要に応じて、Cas発現カセットは、ゲノム中に安定に組み込まれる。安定に組み込まれるCas発現カセットを、非ヒト動物のゲノム中に無作為に組み込むか(すなわち、トランスジェニック)、または非ヒト動物のゲノムの所定の領域中に組み込むことができる(すなわち、ノックイン)。必要に応じて、Cas発現カセットは、セーフハーバー遺伝子座などの、ゲノムの所定の領域中に安定に組み込まれる。Cas発現カセットが安定に組み込まれる標的ゲノム遺伝子座は、Cas発現カセットについてヘテロ接合性であるか、またはCas発現カセットについてホモ接合性であってもよい。二倍体の生物体は、各遺伝子座に2つの対立遺伝子を有する。対立遺伝子の各対は、特定の遺伝子座の遺伝子型を表す。遺伝子型は、特定の遺伝子座に2つの同一の対立遺伝子が存在する場合にはホモ接合体と記載され、2つの対立遺伝子が異なる場合にはヘテロ接合体と記載される。
【0162】
本明細書に提供される細胞は、例えば、真菌細胞(例えば、酵母)、植物細胞、動物細胞、哺乳動物細胞、非ヒト哺乳動物細胞、およびヒト細胞を含む、例えば、真核細胞であってもよい。「動物」という用語は、哺乳動物、魚類、および鳥類を含む。哺乳動物細胞は、例えば、非ヒト哺乳動物細胞、ヒト細胞、齧歯類細胞、ラット細胞、マウス細胞、またはハムスター細胞であってもよい。他の非ヒト哺乳動物としては、例えば、非ヒト霊長類、サル、類人猿、ネコ、イヌ、ウサギ、ウマ、雄ウシ、シカ、バイソン、畜産動物(例えば、雌ウシ、去勢雄ウシなどのウシ種;ヒツジ、ヤギなどのヒツジ種;ならびにブタおよびイノシシなどのブタ種)が挙げられる。鳥類としては、例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、ダチョウ、ガチョウ、アヒルなどが挙げられる。家畜動物および農業動物も含まれる。「非ヒト」という用語はヒトを排除する。
【0163】
また、細胞は、任意の型の未分化または分化状態であってもよい。例えば、細胞は、全能性細胞、多能性細胞(例えば、ヒト多能性細胞もしくはマウス胚性幹(ES)細胞もしくはラットES細胞などの非ヒト多能性細胞)、または非多能性細胞であってもよい。全能性細胞は、任意の細胞型を生じさせ得る未分化細胞を含み、多能性細胞は、1種よりも多くの分化細胞型に発達する能力を有する未分化細胞を含む。そのような多能性および/または全能性細胞は、例えば、人工多能性幹(iPS)細胞などのES細胞またはES様細胞であってよい。ES細胞は、胚に導入されると発生中の胚の任意の組織に寄与することが可能な胚由来全能性または多能性細胞を含む。ES細胞は、胚盤胞の内部細胞塊から引き出すことができ、3つの脊椎動物胚葉(内胚葉、外胚葉、および中胚葉)のいずれの細胞にも分化させることができる。
【0164】
ヒト多能性細胞の例としては、ヒトES細胞、ヒト成体幹細胞、発生制限されたヒト前駆細胞、およびヒト人工多能性幹(iPS)細胞、例えば、プライミングされたヒトiPS細胞およびナイーブなヒトiPS細胞が挙げられる。人工多能性幹細胞は、分化した成体細胞から直接誘導することができる多能性幹細胞を含む。例えば、Oct3/4、Soxファミリーの転写因子(例えば、Sox1、Sox2、Sox3、Sox15)、Mycファミリーの転写因子(例えば、c-Myc、l-Myc、n-Myc)、Krueppel様ファミリー(KLF)の転写因子(例えば、KLF1、KLF2、KLF4、KLF5)、ならびに/またはNANOG、LIN28、および/もしくはGlis1などの関連する転写因子を含んでもよい、特定のセットの再プログラミング因子を細胞に導入することによって、ヒトiPS細胞を生成することができる。また、例えば、転写因子の作用を模倣する低分子であるmiRNA、または分化系列指定子の使用によって、ヒトiPS細胞を生成することもできる。ヒトiPS細胞は、3つの脊椎動物胚葉、例えば、内胚葉、外胚葉、または中胚葉の任意の細胞に分化するその能力を特徴とする。ヒトiPS細胞はまた、好適なin vitro培養条件下で無制限に増殖するその能力を特徴とする。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるTakahashiおよびYamanaka(2006年)Cell、126巻:663~676頁を参照されたい。
プライミングされたヒトES細胞およびプライミングされたヒトiPS細胞は、埋込み後の胚盤葉上層細胞のものと類似する特徴を発現し、分化系列指定および分化を約束された細胞を含む。ナイーブなヒトES細胞およびナイーブなヒトiPS細胞は、埋込み前の胚の内部細胞塊のES細胞のものと類似する特徴を発現し、分化系列指定を約束されていない細胞を含む。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるNicholsおよびSmith(2009年)Cell Stem Cell、4巻:487~492頁を参照されたい。
【0165】
本明細書で提供される細胞はまた、生殖細胞(例えば、精子または卵母細胞)であってもよい。細胞は、有糸分裂性細胞または有糸分裂不活性細胞、減数分裂性細胞または減数分裂不活性細胞であってもよい。同様に、細胞はまた、初代体細胞であってもよく、または初代体細胞ではない細胞であってもよい。体細胞は、配偶子、生殖細胞、生殖母細胞、または未分化幹細胞ではない任意の細胞を含む。例えば、細胞は、肝臓細胞、腎臓細胞、造血細胞、内皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、間葉細胞、ケラチノサイト、血液細胞、メラニン細胞、単球、単核細胞、単球前駆細胞、B細胞、赤血球-巨核球、好酸球、マクロファージ、T細胞、膵島ベータ細胞、外分泌細胞、膵臓前駆細胞、内分泌前駆細胞、脂肪細胞、前脂肪細胞、ニューロン、グリア細胞、神経幹細胞、ニューロン、肝芽細胞、肝細胞、心筋細胞、骨格筋芽細胞、平滑筋細胞、導管細胞、腺房細胞、アルファ細胞、ベータ細胞、デルタ細胞、PP細胞、胆管細胞、白色もしくは褐色脂肪細胞、または眼細胞(例えば、小柱網細胞、網膜色素上皮細胞、網膜微小血管内皮細胞、網膜周皮細胞、結膜上皮細胞、結膜線維芽細胞、虹彩色素上皮細胞、角膜実質細胞、水晶体上皮細胞、非色素性毛様体上皮細胞、眼脈絡膜線維芽細胞、光受容体細胞、神経節細胞、双極細胞、水平細胞、もしくは無軸索細胞)であってもよい。
【0166】
本明細書で提供される好適な細胞は、初代細胞も含む。初代細胞は、生物体、器官、または組織から直接単離された細胞または細胞培養物を含む。初代細胞は、形質転換されておらず不死でもない細胞を含む。初代細胞は、以前に組織培養物中で継代されていないかまたは以前に組織培養物中で継代されているが、組織培養物中で無制限に継代することはできない、生物体、器官、または組織から得られる任意の細胞を含む。そのような細胞は、従来の技法によって単離することができ、例えば、体細胞、造血細胞、内皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、間葉細胞、ケラチノサイト、メラニン細胞、単球、単核細胞、脂肪細胞、前脂肪細胞、ニューロン、グリア細胞、肝細胞、骨格筋芽細胞、および平滑筋細胞を含む。例えば、初代細胞は、結合組織、筋組織、神経系組織、または上皮組織に由来してよい。
【0167】
本明細書で提供される他の好適な細胞は、不死化細胞を含む。不死化細胞は、通常無制限には増殖しないが、突然変異または変更に起因して、正常な細胞の老化を逃れ、その代わりに分裂し続け得る多細胞生物に由来する細胞を含む。そのような突然変異または変更は、天然に起こり得るか、または意図的に誘導され得る。不死化細胞の例としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児由来腎臓細胞(例えば、HEK293細胞または293T細胞)、およびマウス胚線維芽細胞(例えば、3T3細胞)が挙げられる。多数の型の不死化細胞が周知である。不死化細胞または初代細胞は、組換え遺伝子またはタンパク質の培養または発現のために一般に使用される細胞を含む。
【0168】
本明細書で提供される細胞はまた、1細胞期胚(すなわち、受精した卵母細胞または受精卵)も含む。そのような1細胞期胚は、任意の遺伝的背景(例えば、マウスについては、BALB/c、C57BL/6、129、またはその組合せ)に由来するものであってもよく、新鮮であるか、または凍結されていてもよく、自然交配またはin vitroでの受精から誘導されたものであってもよい。
【0169】
本明細書で提供される細胞は、正常で健康な細胞であってもよく、または疾患を有するか、もしくは突然変異体を担持する細胞であってもよい。
【0170】
本明細書に記載のCas発現カセットを含む非ヒト動物を、本明細書の他の箇所に記載の方法によって作製することができる。「動物」という用語は、哺乳動物、魚類、および鳥類を含む。哺乳動物としては、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、サル、類人猿、ネコ、イヌ、ウマ、雄ウシ、シカ、バイソン、ヒツジ、ウサギ、齧歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、およびモルモット)、および畜産動物(例えば、雌ウシおよび雄の仔牛などのウシ種;ヒツジおよびヤギなどのヒツジ種;ならびにブタおよびイノシシなどのブタ種)が挙げられる。鳥類としては、例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、ダチョウ、ガチョウ、およびアヒルなどが挙げられる。家畜動物および農業動物も含まれる。「非ヒト動物」という用語はヒトを排除する。好ましい非ヒト動物としては、例えば、マウスおよびラットなどの齧歯類が挙げられる。
【0171】
非ヒト動物は、任意の遺伝的背景に由来するものであってもよい。例えば、好適なマウスは、129株、C57BL/6株、129とC57BL/6のミックス、BALB/c株、またはSwiss Webster株に由来するものであってもよい。129系統の例としては、129P1、129P2、129P3、129X1、129S1(例えば、129S1/SV、129S1/Svlm)、129S2、129S4、129S5、129S9/SvEvH、129S6(129/SvEvTac)、129S7、129S8、129T1、および129T2が挙げられる。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる、Festingら(1999年)Mammalian Genome、10巻:836頁を参照されたい。C57BL系統の例としては、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/Kal_wN、C57BL/6,C57BL/6J、C57BL/6ByJ,C57BL/6NJ、C57BL/10、C57BL/10ScSn、C57BL/10Cr、およびC57BL/Olaが挙げられる。適切なマウスはまた、上述の129系統および上述のC57BL/6系統のミックス(例えば、50%129および50%C57BL/6)に由来してよい。同様に、適切なマウスは、上述の129系統のミックスまたは上述のBL/6系統のミックス(例えば、129S6(129/SvEvTac)系統)に由来してよい。
【0172】
同様に、ラットは、例えば、ACIラット系統、Dark Agouti(DA)ラット系統、Wistarラット系統、LEAラット系統、Sprague Dawley(SD)ラット系統、またはFisher F344もしくはFisher F6などのFischerラット系統を含めた任意のラット系統に由来してよい。ラットはまた、上記の2種またはそれよりも多くの系統のミックスに由来する系統から得ることもできる。例えば、適切なラットは、DA系統またはACI系統に由来してよい。ACIラット系統は、黒色アグーチを有し、腹部および足が白色であり、RT1av1ハプロタイプを有すると特徴付けられる。そのような系統は、Harlan Laboratoriesを含めた種々の供給源から入手可能である。Dark Agouti(DA)ラット系統は、アグーチコートおよびRT1av1ハプロタイプを有すると特徴付けられる。そのようなラットは、Charles RiverおよびHarlan Laboratoriesを含めた種々の供給源から入手可能である。一部の場合では、適切なラットは、近交系ラット系統に由来してよい。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるUS2014/0235933を参照されたい。
【0173】
C.標的ゲノム遺伝子座
本明細書に記載のCas発現カセットを、細胞または非ヒト動物中の標的ゲノム遺伝子座でゲノムに組み込むことができる。遺伝子を発現することができる任意の標的ゲノム遺伝子座を使用することができる。
【0174】
本明細書に記載のCas発現カセットを安定に組み込むことができる標的ゲノム遺伝子座の例は、非ヒト動物のゲノム中のセーフハーバー遺伝子座である。組み込まれた外因性DNAと宿主ゲノムとの相互作用は、組込みの信頼性および安全性を制限し、標的遺伝子改変に起因しないが、その代わりに、周囲の内因性遺伝子に対する組込みの意図しない効果に起因する明白な表現型効果をもたらし得る。例えば、無作為に挿入される導入遺伝子を、位置効果およびサイレンシングにかけて、その発現を信頼できない、かつ予測できないものにすることができる。同様に、染色体遺伝子座への外因性DNAの組込みは、周囲の内因性遺伝子およびクロマチンに影響し、それによって、細胞挙動および表現型を変更することができる。セーフハーバー遺伝子座は、細胞挙動または表現型を明白に変更することなく(すなわち、宿主細胞に対するいかなる有害な効果もなく)、導入遺伝子または他の外因性核酸を目的の全ての組織中で安定かつ確実に発現させることができる染色体遺伝子座を含む。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるSadelainら(2012年)Nat.Rev.Cancer 12巻:51~58頁を参照されたい。必要に応じて、セーフハーバー遺伝子座は、挿入される遺伝子配列の発現が、近隣の遺伝子からの任意のリードスルー発現によって乱されないものである。例えば、セーフハーバー遺伝子座は、外因性DNAが、内因性遺伝子構造または発現に有害に影響することなく、予測可能な様式で組み込み、機能し得る染色体遺伝子座を含んでもよい。セーフハーバー遺伝子座は、例えば、非必須であり、欠けてもよく、または明白な表現型結果なしに破壊することができる遺伝子内の遺伝子座などの、遺伝子外領域または遺伝子内領域を含んでもよい。
【0175】
例えば、Rosa26遺伝子座およびヒトにおけるその等価物は、あらゆる組織においてオープンなクロマチン構成を提供し、胚発生の間および成体において遍在的に発現される。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるZambrowiczら(1997年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA、94巻:3789~3794頁を参照されたい。さらに、Rosa26遺伝子座を高効率で標的にすることができ、Rosa26遺伝子の破壊は明白な表現型をもたらさない。セーフハーバー遺伝子座の他の例としては、CCR5、HPRT、AAVS1、およびアルブミンが挙げられる。例えば、それぞれ、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,888,121号;第7,972,854号;第7,914,796号;第7,951,925号;第8,110,379号;第8,409,861号;第8,586,526号;ならびに米国特許出願公開第2003/0232410号;第2005/0208489号;第2005/0026157号;第2006/0063231号;第2008/0159996号;第2010/00218264号;第2012/0017290号;第2011/0265198号;第2013/0137104号;第2013/0122591号;第2013/0177983号;第2013/0177960号;および第2013/0122591号を参照されたい。Rosa26遺伝子座などのセーフハーバー遺伝子座の二対立遺伝子標的化は、負の結果を有さず、したがって、異なる遺伝子またはリポーターを2つのRosa26対立遺伝子に標的化することができる。一例では、Cas発現カセットは、Rosa26遺伝子座の第1のイントロンなどの、Rosa26遺伝子座のイントロンに組み込まれる。
【0176】
D.リコンビナーゼ欠失非ヒト動物
本明細書に開示される部位特異的リコンビナーゼによって認識されるリコンビナーゼ認識部位によって挟まれたポリアデニル化シグナルまたは転写ターミネーターの下流にCasコード配列を含むCas発現カセットを含む細胞または非ヒト動物は、部位特異的リコンビナーゼの発現を駆動するリコンビナーゼ発現カセットをさらに含んでもよい。部位特異的リコンビナーゼは、2つの組換え部位が単一の核酸内で物理的に隔てられているか、または別々の核酸上にある、リコンビナーゼ認識部位間の組換えを容易にすることができる酵素を含む。リコンビナーゼの例としては、Cre、Flp、およびDreリコンビナーゼが挙げられる。Creリコンビナーゼ遺伝子の一例は、Creリコンビナーゼをコードする2つのエクソンが、原核細胞中でのその発現を防止するためにイントロンによって隔てられているCreiである。そのようなリコンビナーゼは、核への局在化を容易にする核局在化シグナル(例えば、NLS-Crei)をさらに含んでもよい。リコンビナーゼ認識部位は、部位特異的リコンビナーゼによって認識され、組換え事象のための基質として働くことができるヌクレオチド配列を含む。リコンビナーゼ認識部位の例としては、FRT、FRT11、FRT71、attp、att、rox、ならびにloxP、lox511、lox2272、lox66、lox71、loxM2、およびlox5171などのlox部位が挙げられる。
【0177】
Cas発現カセットと、リコンビナーゼ発現カセットとを、異なる標的ゲノム遺伝子座に組み込むか、またはそれらを同じ標的遺伝子座(例えば、Rosa26遺伝子座の第1のイントロン中に組み込まれたものなどの、Rosa26遺伝子座)でゲノムに組み込むことができる。例えば、細胞または非ヒト動物は、Cas発現カセットおよびリコンビナーゼ発現カセットのそれぞれについてヘテロ接合性であってよく、Cas発現カセットを含む標的ゲノム遺伝子座に1つの対立遺伝子、およびリコンビナーゼ発現カセットを含む標的ゲノム遺伝子座に第2の対立遺伝子を有する。
【0178】
リコンビナーゼ発現カセット中のリコンビナーゼ遺伝子を、任意の好適なプロモーターに作動可能に連結することができる。プロモーターの例は、本明細書の他の箇所に開示されている。例えば、プロモーターは、組織特異的プロモーター(例えば、肝臓特異的発現についてはアルブミンプロモーターもしくは膵臓特異的発現についてはインスリン2プロモーター)または発生段階特異的プロモーターであってもよい。そのようなプロモーターによってもたらされる利点は、Cas発現を、所望の組織において選択的に、または所望の発生段階においてのみ活性化することによって、in vivoでCas媒介性毒性の可能性を低減することができるということである。マウスリコンビナーゼ欠失株のための例示的プロモーターの非限定例は、表2に提供される。
【0179】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【0180】
III.in vivoでCRISPR/Cas活性を評価する方法
生きている動物の組織および臓器へのCRISPR/Casの送達を評価するため、およびその中でのCRISPR/Cas活性を評価するための様々な方法が提供される。そのような方法により、本明細書の他の箇所に記載のCas発現カセットを含む非ヒト動物を使用することができる。
【0181】
A.in vivoまたはex vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Casの能力を試験するための方法
本明細書に記載のCas発現カセットを含む非ヒト動物を使用してin vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Casニッカーゼまたはヌクレアーゼの能力を評価するための様々な方法が提供される。そのような方法は、(a)非ヒト動物に、標的ゲノム遺伝子座でガイドRNA標的配列を標的とするように設計されたガイドRNAを導入するステップ;および(b)標的遺伝子座の改変を評価するステップを含んでもよい。ガイドRNAがCasタンパク質と複合体を形成し、Casタンパク質を、標的ゲノム遺伝子座に方向付け、Cas/ガイドRNA複合体がガイドRNA標的配列を切断し、細胞による修復を誘発する場合(例えば、ドナー配列が存在しない場合、非相同末端結合(NHEJ)による)、標的ゲノム遺伝子座の改変が誘導されると予測される。
【0182】
必要に応じて、それぞれ、標的ゲノム遺伝子座内の異なるガイドRNA標的配列を標的とするように設計された、2つまたはそれより多いガイドRNAを導入することができる。例えば、2つのガイドRNAを、2つのガイドRNA標的配列間のゲノム配列を切り出すように設計することができる。第1のガイドRNAがCasタンパク質と複合体を形成し、Casタンパク質を標的ゲノム遺伝子座に方向付け、第2のガイドRNAがCasタンパク質と複合体を形成し、Casタンパク質を標的ゲノム遺伝子座に方向付け、第1のCas/ガイドRNA複合体が第1のガイドRNA標的配列を切断し、第2のCas/ガイドRNA複合体が第2のガイドRNA標的配列を切断し、介在配列の切り出しをもたらす場合、標的ゲノム遺伝子座の改変が誘導されると予想される。あるいは、それぞれ、異なる標的ゲノム遺伝子座の異なるガイドRNA標的配列を標的とするように設計された、2つまたはそれより多いガイドRNAを導入することができる(すなわち、多重化)。
【0183】
必要に応じて、標的ゲノム遺伝子座と組み換わり、それを改変することができる外因性ドナー核酸も、非ヒト動物に導入される。必要に応じて、Casタンパク質を、本明細書の他の箇所に記載の外因性ドナー核酸に係留することができる。必要に応じて、それぞれ、異なる標的ゲノム遺伝子座と組み換わり、それを改変することができる、2つまたはそれより多い外因性ドナー核酸が導入される。例えば、ガイドRNAがCasタンパク質と複合体を形成し、Casタンパク質を、標的ゲノム遺伝子座に方向付け、Cas/ガイドRNA複合体がガイドRNA標的配列を切断し、標的ゲノム遺伝子座が、外因性ドナー核酸と組み換わって、標的ゲノム遺伝子座を改変する場合、標的ゲノム遺伝子座の改変が誘導されると予想される。外因性ドナー核酸は、例えば、相同組換え修復(HDR)またはNHEJ媒介性挿入によって、標的ゲノム遺伝子座と組み換わり得る。任意の型の外因性ドナー核酸を使用することができ、その例は本明細書の他の箇所に提供される。
【0184】
同様に、in vivoでCRISPR/Cas活性を評価するための上記で提供された様々な方法を使用して、本明細書の他の箇所に記載のCas発現カセットを含む細胞を使用してCRISPR/Cas活性をex vivoで評価することもできる。
【0185】
ガイドRNA、および必要に応じて、外因性ドナー核酸を、本明細書の他の箇所に開示される任意の送達方法(例えば、AAV、LNP、またはHDD)および任意の投与経路によって、細胞または非ヒト動物に導入することができる。特定の方法では、ガイドRNA(または複数のガイドRNA)は、AAV媒介性送達によって送達される。例えば、肝臓が標的化される場合、AAV8を使用することができる。
【0186】
標的ゲノム遺伝子座の改変を評価するための方法は、本明細書の他の箇所に提供され、周知である。標的ゲノム遺伝子座の改変の評価は、本明細書の他の箇所に開示される任意の細胞型、任意の組織型、または任意の臓器型におけるものであってもよい。一部の方法では、標的ゲノム遺伝子座の改変は、肝臓細胞中で評価される(例えば、肝臓細胞中の標的ゲノム遺伝子座によって発現される分泌タンパク質の血清レベルを評価する)。例えば、標的ゲノム遺伝子座は、標的遺伝子を含み、評価は、標的遺伝子の発現または標的遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を測定することを含んでもよい。あるいは、またはさらに、評価は、非ヒト動物から単離された1つまたは複数の細胞中の標的ゲノム遺伝子座を配列決定することを含んでもよい。評価は、非ヒト動物から標的器官または組織を単離すること、および標的器官または組織中で標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含んでもよい。評価はまた、標的器官または組織内の2つまたはそれより多い異なる細胞型中で標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含んでもよい。同様に、評価は、非ヒト動物から非標的器官または組織(例えば、2つまたはそれより多い非標的器官または組織)を単離すること、および非標的器官または組織中で標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含んでもよい。
【0187】
(1)外因性ドナー核酸
本明細書に開示される方法および組成物は、Casタンパク質を用いた標的ゲノム遺伝子座の切断後に標的ゲノム遺伝子座を改変するために外因性ドナー核酸を使用する。そのような方法では、Casタンパク質により標的ゲノム遺伝子座が切断されて一本鎖切断(ニック)または二本鎖切断が創出され、非相同末端結合(NHEJ)媒介性ライゲーションまたは相同組換え修復事象によって外因性ドナー核酸が標的ゲノム遺伝子座と組み換えられる。必要に応じて、外因性ドナー核酸を用いた修復により、ガイドRNA標的配列またはCas切断部位が除去または破壊され、その結果、標的化された対立遺伝子がCasタンパク質によって再度標的化されることができなくなる。
【0188】
外因性ドナー核酸は、一本鎖であっても二本鎖であってもよく、直鎖形態であっても環状形態であってもよいデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)を含み得る。例えば、外因性ドナー核酸は、一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)であり得る。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるYoshimiら(2016年)Nat. Commun.、7巻:10431頁を参照されたい。例示的な外因性ドナー核酸は、約50ヌクレオチド~約5kbの長さであるか、約50ヌクレオチド~約3kbの長さであるか、または約50~約1,000ヌクレオチドの長さである。他の例示的な外因性ドナー核酸は、約40~約200ヌクレオチドの長さである。例えば、外因性ドナー核酸は、約50~60、60~70、70~80、80~90、90~100、100~110、110~120、120~130、130~140、140~150、150~160、160~170、170~180、180~190、または190~200ヌクレオチドの長さであってよい。あるいは、外因性ドナー核酸は、約50~100、100~200、200~300、300~400、400~500、500~600、600~700、700~800、800~900、または900~1000ヌクレオチドの長さであってよい。あるいは、外因性ドナー核酸は、約1~1.5、1.5~2、2~2.5、2.5~3、3~3.5、3.5~4、4~4.5、または4.5~5kbの長さであってよい。あるいは、外因性ドナー核酸は、例えば、5kb以下、4.5kb以下、4kb以下、3.5kb以下、3kb以下、2.5kb以下、2kb以下、1.5kb以下、1kb以下、900ヌクレオチド以下、800ヌクレオチド以下、700ヌクレオチド以下、600ヌクレオチド以下、500ヌクレオチド以下、400ヌクレオチド以下、300ヌクレオチド以下、200ヌクレオチド以下、100ヌクレオチド以下、または50ヌクレオチド以下の長さであってよい。また、外因性ドナー核酸(例えば、標的化ベクター)は、より長くてもよい。
【0189】
一実施例では、外因性ドナー核酸は、約80ヌクレオチドから約200ヌクレオチドの間の長さのssODNである。別の例では、外因性ドナー核酸は、約80ヌクレオチドから約3kbの間の長さのssODNである。そのようなssODNは、例えば、それぞれが約40ヌクレオチドから約60ヌクレオチドの間の長さである相同アームを有してよい。そのようなssODNはまた、例えば、それぞれが約30ヌクレオチドから100ヌクレオチドの長さである相同アームを有してもよい。相同アームは、対称的であってもよく(例えば、それぞれが40ヌクレオチド、またはそれぞれが60ヌクレオチドの長さである)、非対称的であってもよい(例えば、36ヌクレオチドの長さの相同アームが1つと91ヌクレオチドの長さの相同アームが1つ)。
【0190】
外因性ドナー核酸は、追加的な望ましい特徴(例えば、改変または制御された安定性;蛍光標識を用いた追跡または検出;タンパク質またはタンパク質複合体の結合部位など)をもたらす改変または配列を含み得る。外因性ドナー核酸は、1つまたは複数の蛍光標識、精製タグ、エピトープタグ、またはこれらの組合せを含み得る。例えば、外因性ドナー核酸は、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、または少なくとも5つの蛍光標識などの、1つまたは複数の蛍光標識(例えば、蛍光タンパク質または他のフルオロフォアまたは色素)を含み得る。例示的な蛍光標識としては、フルオレセイン(例えば、6-カルボキシフルオレセイン(6-FAM))、テキサスレッド、HEX、Cy3、Cy5、Cy5.5、Pacific Blue、5-(および-6)-カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)、およびCy7などのフルオロフォアが挙げられる。オリゴヌクレオチドの標識のために広範囲の蛍光色素が商業的に入手可能である(例えば、Integrated DNA Technologiesから)。そのような蛍光標識(例えば、内部蛍光標識)を、例えば、外因性ドナー核酸の末端と適合する突出末端を有する切断された標的核酸に直接組み込まれた外因性ドナー核酸を検出するために使用することができる。標識またはタグは、外因性ドナー核酸の5’末端、3’末端、または内部にあってよい。例えば、外因性ドナー核酸の5’末端にIntegrated DNA TechnologiesからのIR700フルオロフォア(5’IRDYE(登録商標)700)をコンジュゲートすることができる。
【0191】
外因性ドナー核酸はまた、標的ゲノム遺伝子座に組み込まれるDNAのセグメントを含む核酸挿入断片も含み得る。標的ゲノム遺伝子座への核酸挿入断片の組込みにより、標的ゲノム遺伝子座への目的の核酸配列の付加、標的ゲノム遺伝子座での目的の核酸配列の欠失、または標的ゲノム遺伝子座での目的の核酸配列の置換え(すなわち、欠失および挿入)をもたらすことができる。一部の外因性ドナー核酸は、標的ゲノム遺伝子座におけるいかなる対応する欠失も伴わずに標的ゲノム遺伝子座に核酸挿入断片が挿入されるように設計される。他の外因性ドナー核酸は、核酸挿入断片のいかなる対応する挿入も伴わずに標的ゲノム遺伝子座において目的の核酸配列が欠失するように設計される。さらに他の外因性ドナー核酸は、標的ゲノム遺伝子座において目的の核酸配列が欠失し、それが核酸挿入断片で置き換えられるように設計される。
【0192】
核酸挿入断片または欠失および/もしくは置換えを受ける標的ゲノム遺伝子座の対応する核酸は種々の長さであってよい。例示的な核酸挿入断片または欠失および/もしくは置換えを受ける標的ゲノム遺伝子座の対応する核酸は、約1ヌクレオチド~約5kbの長さまたは約1ヌクレオチド~約1,000ヌクレオチドの長さである。例えば、核酸挿入断片または欠失および/もしくは置換えを受ける標的ゲノム遺伝子座の対応する核酸は、約1~10、10~20、20~30、30~40、40~50、50~60、60~70、70~80、80~90、90~100、100~110、110~120、120~130、130~140、140~150、150~160、160~170、170~180、180~190、または190~120ヌクレオチドの長さであってもよい。同様に、核酸挿入断片または欠失および/もしくは置換えを受ける標的ゲノム遺伝子座の対応する核酸は、1~100、100~200、200~300、300~400、400~500、500~600、600~700、700~800、800~900、または900~1000ヌクレオチドの長さであってもよい。同様に、核酸挿入断片または欠失および/もしくは置換えを受ける標的ゲノム遺伝子座の対応する核酸は、約1~1.5、1.5~2、2~2.5、2.5~3、3~3.5、3.5~4、4~4.5、もしくは4.5~5kbの長さまたはそれより長くてもよい。
【0193】
核酸挿入断片は、置換えの標的とされる配列の全部または一部と相同またはオーソロガスである配列を含んでもよい。例えば、核酸挿入断片は、標的ゲノム遺伝子座における置換えの標的とされる配列と比較して1つもしくは複数の点突然変異(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、もしくはそれよりも多い)を含む配列を含んでもよい。必要に応じて、そのような点突然変異は、コードされたポリペプチド中での保存的アミノ酸置換(例えば、グルタミン酸[Glu、E]とのアスパラギン酸[Asp、D]の置換)をもたらし得る。
【0194】
(2)非相同末端結合媒介性挿入のためのドナー核酸
一部の外因性ドナー核酸は、標的ゲノム遺伝子座におけるCasタンパク質媒介性切断によって創出される1つまたは複数の突出部と相補的な短い一本鎖領域を5’末端および/または3’末端に有する。これらの突出部は、5’および3’相同アームとも称され得る。例えば、一部の外因性ドナー核酸は、標的ゲノム遺伝子座の5’および/または3’標的配列におけるCasタンパク質媒介性切断によって創出される1つまたは複数の突出部と相補的な短い一本鎖領域を5’末端および/または3’末端に有する。一部のそのような外因性ドナー核酸は、相補的な領域を5’末端のみに有するかまたは3’末端のみに有する。例えば、一部のそのような外因性ドナー核酸は、相補的な領域を、標的ゲノム遺伝子座の5’標的配列において創出される突出部に相補的な5’末端のみに有するかまたは標的ゲノム遺伝子座の3’標的配列において創出される突出部に相補的な3’末端のみに有する。他のそのような外因性ドナー核酸は、相補的な領域を5’および3’末端の両方に有する。例えば、他のそのような外因性ドナー核酸は、相補的な領域を5’および3’末端の両方に有し、これらは、例えば、それぞれ標的ゲノム遺伝子座におけるCas媒介性切断によって生じる第1および第2の突出部に相補的である。例えば、外因性ドナー核酸が二本鎖である場合、一本鎖の相補的な領域を、ドナー核酸の上鎖の5’末端およびドナー核酸の下鎖の5’末端から伸長させ、それにより、各末端に5’突出部を創出することができる。あるいは、一本鎖の相補的な領域をドナー核酸の上鎖の3’末端および鋳型の下鎖の3’末端から伸長させ、それにより、3’突出部を創出することができる。
【0195】
相補的な領域は、外因性ドナー核酸と標的核酸の間のライゲーションを促進するのに十分な任意の長さであってよい。例示的な相補的な領域は、約1~約5ヌクレオチドの長さ、約1~約25ヌクレオチドの長さ、または約5~約150ヌクレオチドの長さである。例えば、相補的な領域は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25ヌクレオチドの長さであってよい。あるいは、相補的な領域は、約5~10、10~20、20~30、30~40、40~50、50~60、60~70、70~80、80~90、90~100、100~110、110~120、120~130、130~140、または140~150ヌクレオチドの長さであってよい、またはそれより長くてよい。
【0196】
そのような相補的な領域は、ニッカーゼの2つの対によって創出される突出部と相補的であってよい。DNAの逆の鎖を切断して第1の二本鎖切断を創出する第1および第2のニッカーゼ、ならびにDNAの逆の鎖を切断して第2の二本鎖切断を創出する第3および第4のニッカーゼを使用することにより、付着末端を有する2つの二本鎖切断を創出することができる。例えば、Casタンパク質を使用して、第1、第2、第3、および第4のガイドRNAに対応する第1、第2、第3、および第4のガイドRNA標的配列にニックを入れることができる。第1および第2のガイドRNA標的配列を、第1の切断部位が創出され、その結果、DNAの第1および第2の鎖上の第1および第2のニッカーゼによって創出されるニックにより二本鎖切断が創出される(すなわち、第1の切断部位が第1および第2のガイドRNA標的配列内にニックを含む)ように位置付けることができる。同様に、第3および第4のガイドRNA標的配列を、第2の切断部位が創出され、その結果、DNAの第1および第2の鎖上の第3および第4のニッカーゼによって創出されるニックにより二本鎖切断が創出される(すなわち、第2の切断部位が第3および第4のガイドRNA標的配列内にニックを含む)ように位置付けることができる。必要に応じて、第1および第2のガイドRNA標的配列ならびに/または第3および第4のガイドRNA標的配列内のニックにより、突出部を創出するニックをオフセットすることができる。オフセットウインドウは、例えば、少なくとも約5bp、10bp、20bp、30bp、40bp、50bp、60bp、70bp、80bp、90bp、100bpであるかまたはそれよりも大きくてよい。それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる、Ranら(2013年)Cell、154巻:1380~1389頁;Maliら(2013年)Nat. Biotech.、31巻:833~838頁;およびShenら(201
4年)Nat. Methods、11巻:399~404頁を参照されたい。そのような場合では
、二本鎖外因性ドナー核酸は、第1および第2のガイドRNA標的配列内のニックによってならびに第3および第4のガイドRNA標的配列内のニックによって創出される突出部に相補的である一本鎖の相補的な領域を有するように設計することができる。次いで、そのような外因性ドナー核酸を非相同末端結合媒介性ライゲーションによって挿入することができる。
【0197】
(3)相同組換え修復によって挿入するためのドナー核酸
一部の外因性ドナー核酸は、相同アームを含む。外因性ドナー核酸が核酸挿入断片も含む場合、相同アームにより核酸挿入断片が挟まれていてよい。参照しやすくするために、本明細書では、相同アームを5’および3’(すなわち、上流および下流の)相同アームと称する。この用語法は、外因性ドナー核酸内の核酸挿入断片に対する相同アームの相対的な位置に関する。5’および3’相同アームは、本明細書においてそれぞれ「5’標的配列」および「3’標的配列」と称される標的ゲノム遺伝子座内の領域に対応する。
【0198】
相同アームおよび標的配列は、当該2つの領域が互いに対して相同組換え反応の基質としての機能を果たすのに十分なレベルの配列同一性を共有する場合、互いに「対応する(correspond)」または「対応する(corresponding)」。「相同性」という用語は、対応する配列と同一であるかまたは配列同一性を共有するDNA配列を包含する。所与の標的配列と外因性ドナー核酸に見出される対応する相同アームの間の配列同一性は、相同組換えが起こるのを可能にする任意の程度の配列同一性であってよい。例えば、外因性ドナー核酸(またはその断片)の相同アームおよび標的配列(またはその断片)によって共有される配列同一性の量は、配列が相同組換えを受けるように、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性であってよい。さらに、相同アームと対応する標的配列の間の対応する相同領域は、相同組換えを促進するのに十分な任意の長さであってよい。例示的な相同アームは、約25ヌクレオチド~約2.5kbの長さであるか、約25ヌクレオチド~約1.5kbの長さであるか、または約25~約500ヌクレオチドの長さである。例えば、所与の相同アーム(もしくは相同アームのそれぞれ)および/または対応する標的配列は、相同アームが標的核酸内の対応する標的配列との相同組換えを受けるのに十分な相同性を有するように、約25~30、30~40、40~50、50~60、60~70、70~80、80~90、90~100、100~150、150~200、200~250、250~300、300~350、350~400、400~450、または450~500ヌクレオチドの長さの対応する相同領域を含み得る。あるいは、所与の相同アーム(もしくは各相同アーム)および/または対応する標的配列は、約0.5kb~約1kb、約1kb~約1.5kb、約1.5kb~約2kb、または約2kb~約2.5kbの長さの対応する相同領域を含み得る。例えば、相同アームはそれぞれ約750ヌクレオチドの長さであってよい。相同アームは対称的であってもよく(それぞれの長さがほぼ同じサイズ)、非対称的であってもよい(一方が他方よりも長い)。
【0199】
CRISPR/Cas系を外因性ドナー核酸と組み合わせて使用する場合、5’および3’標的配列は、必要に応じて、Cas切断部位における一本鎖切断(ニック)または二本鎖切断の際の標的配列と相同アームの間の相同組換え事象の発生が促進されるように、Cas切断部位(例えば、ガイドRNA標的配列の十分近くにある)に対して十分に近傍に位置する。「Cas切断部位」という用語は、Cas酵素(例えば、ガイドRNAと複合体を形成したCas9タンパク質)によってニックまたは二本鎖切断が創出されるDNA配列を包含する。外因性ドナー核酸の5’および3’相同アームに対応する標的化遺伝子座内の標的配列は、Cas切断部位における一本鎖切断または二本鎖切断の際の5’および3’標的配列と相同アームの間の相同組換え事象の発生が促進されるような距離にあれば、Cas切断部位に対して「十分に近傍に位置する」。したがって、外因性ドナー核酸の5’および/または3’相同アームに対応する標的配列は、例えば、所与のCas切断部位から少なくとも1ヌクレオチドの範囲内または所与のCas切断部位から少なくとも10ヌクレオチド~約1,000ヌクレオチドの範囲内であり得る。例として、Cas切断部位は、標的配列の少なくとも一方または両方のすぐ隣にあり得る。
【0200】
外因性ドナー核酸の相同アームに対応する標的配列とCas切断部位の空間的関係は変動し得る。例えば、標的配列がCas切断部位の5’側に位置する場合もあり、標的配列がCas切断部位の3’側に位置する場合もあり、標的配列がCas切断部位を挟んでいる場合もある。
【0201】
B.in vivoまたはex vivoで標的ゲノム核酸を切り出すCRISPR/Casの能力を最適化する方法
細胞もしくは非ヒト動物へのCRISPR/Casの送達を最適化するため、またはin vivoでのCRISPR/Cas活性を最適化するための様々な方法が提供される。そのような方法は、例えば、(a)第1の非ヒト動物または第1の細胞中で1回目の上記の標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Casの能力を試験する方法を実施するステップ;(b)変数を変更し、変更された変数を用いて、第2の非ヒト動物(すなわち、同じ種の)または第2の細胞中で2回目のこの方法を実施するステップ;および(c)ステップ(a)における標的ゲノム遺伝子座の改変と、ステップ(b)における標的ゲノム遺伝子座の改変とを比較し、標的ゲノム遺伝子座のより有効な改変をもたらす方法を選択するステップを含んでもよい。
【0202】
標的ゲノム遺伝子座のより有効な改変は、非ヒト動物または細胞内での所望の効果に応じて異なることを意味してもよい。例えば、標的ゲノム遺伝子座のより有効な改変は、より高い有効性、より高い精度、より高い一貫性、またはより高い特異性のうちの1つもしくは複数または全部を意味してもよい。より高い有効性とは、標的遺伝子座の改変のレベルがより高いことを指す(例えば、より高いパーセンテージの細胞が、特定の標的細胞型内、特定の標的組織内、または特定の標的器官内で標的化される)。より高い精度とは、標的ゲノム遺伝子座のより正確な改変を指す(例えば、余分な意図しない挿入および欠失(例えば、NHEJインデル)を含まない、同じ改変を有するか、または所望の改変を有する、より高いパーセンテージの標的化された細胞)。より高い一貫性とは、1つより多い細胞型、組織型、または器官型が標的化される場合、異なる型の標的化された細胞、組織、または器官間での標的ゲノム遺伝子座のより一貫した改変(例えば、標的器官内でのより多い数の細胞型の改変)を指す。特定の器官を標的にする場合、より高い一貫性はまた、器官内の全ての位置を通してより一貫した改変を指してもよい。より高い特異性とは、標的化されるゲノム遺伝子座もしくは複数の遺伝子座に関するより高い特異性、標的化される細胞型に関するより高い特異性、標的化される組織型に関するより高い特異性、または標的化される器官に関するより高い特異性を指してもよい。例えば、ゲノム遺伝子座特異性の増大は、オフターゲットゲノム遺伝子座の少ない改変(例えば、標的ゲノム遺伝子座の改変の代わりに、またはそれに加えて、意図しない、オフターゲットゲノム遺伝子座での改変を有する標的化された細胞のパーセンテージがより低い)を指す。同様に、細胞型、組織、または器官型特異性の増大は、特定の細胞型、組織型、または器官型が標的化される場合、オフターゲット細胞型、組織型、または器官型の改変が少ない(例えば、特定の器官が標的化される場合(例えば、肝臓)、意図した標的ではない器官または組織中の細胞の改変が少ない)ことを指す。
【0203】
変更された変数は、任意のパラメーターであってもよい。一例として、変更された変数は、ガイドRNA(またはAAV中にパッケージングされたガイドRNA)および外因性ドナー核酸のうちの1つもしくは複数または全部が細胞または非ヒト動物に導入されるパッケージングまたは送達方法であってもよい。LNP、HDD、およびAAVなどの、送達方法の例は、本明細書の他の箇所に開示される。例えば、変更された変数は、AAV血清型であってもよい。別の例として、変更された変数は、細胞または非ヒト動物へのガイドRNA(例えば、AAV中にパッケージングされた)および外因性ドナー核酸のうちの1つもしくは複数または全部の導入のための投与経路であってもよい。静脈内、硝子体内、実質内、および点鼻などの投与経路の例は、本明細書の他の箇所に開示される。
【0204】
別の例として、変更された変数は、導入されるガイドRNA(例えば、AAV中にパッケージングされた)および導入される外因性ドナー核酸のうちの1つもしくは複数または全部の濃度または量であってもよい。別の例として、変更された変数は、導入される外因性ドナー核酸の濃度または量に対する、導入されるガイドRNA(例えば、AAV中にパッケージングされた)の濃度または量であってもよい。
【0205】
別の例として、変更された変数は、1つまたは複数のリポータータンパク質の発現または活性を測定するタイミングに対する、ガイドRNA(例えば、AAV中にパッケージングされた)および外因性ドナー核酸のうちの1つもしくは複数または全部を導入するタイミングであってもよい。別の例として、変更された変数は、ガイドRNA(例えば、AAV中にパッケージングされた)および外因性ドナー核酸のうちの1つもしくは複数または全部が導入される回数または頻度であってもよい。別の例として、変更された変数は、外因性ドナー核酸の導入のタイミングに対する、ガイドRNAの導入のタイミングであってもよい。
【0206】
別の例として、変更された変数は、ガイドRNAおよび外因性ドナー核酸のうちの1つもしくは複数または全部が導入される形態であってもよい。例えば、ガイドRNAを、DNAの形態で、またはRNAの形態で導入することができる。外因性ドナー核酸は、一本鎖、二本鎖、線状、環状などのDNA、RNAであってもよい。同様に、それぞれの構成成分は、オフターゲット効果を低減するため、送達を容易にするためなどに、安定性に関する様々な組合せの改変を含んでもよい。別の例として、変更された変数は、導入されるガイドRNA(例えば、異なる配列を有する異なるガイドRNAを導入すること)および導入される外因性ドナー核酸(例えば、異なる配列を有する異なる外因性ドナー核酸を導入すること)のうちの1つもしくは複数または全部であってもよい。
【0207】
C.細胞および非ヒト動物へのガイドRNAおよび他の構成成分の導入
本明細書に開示される方法は、細胞または非ヒト動物に、ガイドRNAおよび外因性ドナー核酸のうちの1つもしくは複数または全部を導入することを含む。「導入」は、細胞または非ヒト動物に、核酸またはタンパク質が細胞の内部または非ヒト動物内の細胞の内部へのアクセスを獲得するような様式で核酸またはタンパク質を提示することを含む。導入は、任意の手段によって実現することができ、2つまたはそれより多い構成成分(例えば、2つの構成成分、または全部の構成成分)を任意の組合せで同時にまたは逐次的に細胞または非ヒト動物に導入することができる。例えば、外因性ドナー核酸を、ガイドRNAの導入の前に細胞もしくは非ヒト動物に導入するか、またはガイドRNAの導入後にそれを導入することができる(例えば、外因性ドナー核酸を、ガイドRNAの導入の約1、2、3、4、8、12、24、36、48、または72時間前または後に投与することができる)。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるUS2015/0240263およびUS2015/0110762を参照されたい。さらに、2つまたはそれより多い構成成分を、同じ送達方法または異なる送達方法によって、細胞または非ヒト動物に導入することができる。同様に、2つまたはそれより多い構成成分を、同じ投与経路または異なる投与経路によって、非ヒト動物に導入することができる。
【0208】
ガイドRNAは、RNA(例えば、in vitroで転写されたRNA)の形態でまたはガイドRNAをコードするDNAの形態で細胞に導入することができる。DNAの形態で導入する場合、ガイドRNAをコードするDNAを細胞において活性なプロモーターに作動可能に連結することができる。例えば、ガイドRNAを、AAVによって送達し、U6プロモーターの下でin vivoで発現させることができる。そのようなDNAは、1つまたは複数の発現構築物中にあってよい。例えば、そのような発現構築物は、単一の核酸分子の構成成分であってよい。あるいは、それらは2つまたはそれよりも多くの核酸分子中の任意の組合せで分けることができる(すなわち、1つまたは複数のCRISPR RNAをコードするDNA、および1つまたは複数のtracrRNAをコードするDNAが別々の核酸分子の構成成分であってよい)。
【0209】
ガイドRNAをコードする核酸を、発現構築物中でプロモーターに作動可能に連結することができる。発現構築物は、目的の遺伝子または他の核酸配列の発現を方向付けることができ、そのような目的の核酸配列を標的細胞に移行させることができる任意の核酸構築物を含む。発現構築物に使用することができる好適なプロモーターとしては、例えば、真核細胞、ヒト細胞、非ヒト細胞、哺乳動物細胞、非ヒト哺乳動物細胞、齧歯類細胞、マウス細胞、ラット細胞、ハムスター細胞、ウサギ細胞、多能性細胞、胚性幹(ES)細胞、成体幹細胞、発生的に制限された前駆細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、または1細胞期胚の1つまたは複数において活性なプロモーターが挙げられる。そのようなプロモーターは、例えば、条件付きプロモーター、誘導性プロモーター、構成的プロモーター、または組織特異的プロモーターであってよい。必要に応じて、プロモーターは、ガイドRNAの一方向の発現および別の構成成分の他方向の発現の両方を駆動する双方向プロモーターであってよい。そのような双方向プロモーターは、(1)3つの外部制御エレメント:遠位配列エレメント(DSE)、近位配列エレメント(PSE)、およびTATAボックスを含有する完全な従来の一方向Pol IIIプロモーター;ならびに(2)PSEおよびDSEの5’末端と逆配向で融合したTATAボックスを含む第2の基本的なPol IIIプロモーターからなり得る。例えば、H1プロモーターでは、DSEはPSEおよびTATAボックスと隣接しており、U6プロモーターに由来するPSEおよびTATAボックスを付加することによって逆方向の転写が制御されるハイブリッドプロモーターを創出することによってプロモーターを双方向性にすることができる。例えば、その全体があらゆる目的に関して参照により本明細書に組み込まれるUS2016/0074535を参照されたい。ガイドRNAと別の構成成分とをコードする遺伝子を同時に発現させるための双方向プロモーターを使用することにより、送達を容易にするための緻密な発現カセットの生成が可能になる。
【0210】
外因性ドナー核酸またはガイドRNAの安定性を増大させる(例えば、所与の保存条件下(例えば、-20℃、4℃、もしくは周囲温度)で分解生成物が閾値未満、例えば出発核酸もしくはタンパク質の0.5重量%未満に留まる期間を延長させる;またはin vivoにおける安定性を増大させる)担体を含む組成物中で、外因性ドナー核酸およびガイドRNA(またはガイドRNAをコードする核酸)を提供することができる。そのような担体の非限定的な例としては、ポリ(乳酸)(PLA)マイクロスフェア、ポリ(D,L-乳酸・ポリグリコール酸共重合体)(PLGA)マイクロスフェア、リポソーム、ミセル、逆ミセル、脂質コクリエート、および脂質微小管(lipid microtubule)が挙げられる。
【0211】
核酸またはタンパク質の細胞または非ヒト動物への導入を可能にするための様々な方法および組成物が本明細書で提供される。核酸を種々の細胞型に導入するための方法は当該分野で公知であり、それらとして、例えば、安定トランスフェクション方法、一過性トランスフェクション方法、およびウイルス媒介性方法が挙げられる。
【0212】
トランスフェクションプロトコールならびに核酸配列を細胞に導入するためのプロトコールは変動し得る。非限定的なトランスフェクション方法として、リポソーム;ナノ粒子;リン酸カルシウム(Grahamら(1973年)Virology、52巻(2号):456~67頁、Bacchettiら(1977年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA、74巻(4号):1
590~4頁、およびKriegler, M(1991年)、Transfer and Expression:A Laboratory Manual. New York: W. H. Freeman and Company、96~97頁);デンドリマー;またはDEAE-デキストランもしくはポリエチレンイミンなどのカチオン性ポリマーを使用する、化学に基づくトランスフェクション方法が挙げられる。非化学的方法として、エレクトロポレーション、ソノポレーション、および光学的トランスフェクションが挙げられる。粒子に基づくトランスフェクションとして、遺伝子銃の使用、または磁石補助トランスフェクションが挙げられる(Bertram(2006年)Current Pharmaceutical Biotechnology、7巻、277~28頁)。ウイルスによる方法をトランスフ
ェクションのために使用することもできる。
【0213】
核酸またはタンパク質の細胞への導入は、エレクトロポレーションによって、細胞質内注射によって、ウイルス感染によって、アデノウイルスによって、アデノ随伴ウイルスによって、レンチウイルスによって、レトロウイルスによって、トランスフェクションによって、脂質媒介性トランスフェクションによって、またはヌクレオフェクションによって媒介することもできる。ヌクレオフェクションは、核酸基体を細胞質だけでなく核膜を通って、および核内にも送達することを可能にする、改善されたエレクトロポレーション技術である。さらに、本明細書に開示される方法におけるヌクレオフェクションの使用は、一般には、通常のエレクトロポレーションよりもはるかに少ない細胞を必要とする(例えば、通常のエレクトロポレーションでは7百万個であるのと比較してたった約2百万個)。一例では、LONZA(登録商標)NUCLEOFECTOR(商標)システムを使用してヌクレオフェクションを実施する。
【0214】
核酸またはタンパク質の細胞(例えば、接合体)への導入は、微量注射によって実現することもできる。受精卵(すなわち、1細胞期胚)中で、微量注射は、母系および/もしくは父系前核または細胞質へのものであってよい。微量注射が一方だけの前核へのものである場合、父系前核は、そのサイズがより大きいため、好ましい。あるいは、核/前核と細胞質の両方への注射によって、微量注射を実行することができる:針を最初に核/前核に導入し、第1の量を注入することができ、1細胞期胚から針を除去しながら、第2の量を細胞質に注入することができる。微量注射を実行するための方法は周知である。例えば、Nagyら(Nagy A、GertsensteinM、Vintersten K、Behringer R.、2003年、Manipulating the Mouse Embryo. Cold Spring Harbor、New York: Cold Spring Harbor LaboratoryPress)を参照されたい;Meyerら(2010年)Proc.Natl. Acad.
Sci. USA、107巻:15022~15026頁およびMeyerら(2012年)Proc.
Natl. Acad. Sci. USA、109巻:9354~9359頁も参照されたい。
【0215】
核酸またはタンパク質を細胞または非ヒト動物に導入するための他の方法としては、例えば、ベクター送達、粒子媒介性送達、エキソソーム媒介性送達、脂質ナノ粒子媒介性送達、細胞透過性ペプチド媒介性送達、または埋込み型デバイス媒介性送達を挙げることができる。特定の例として、核酸またはタンパク質をポリ(乳酸)(PLA)マイクロスフェア、ポリ(D,L-乳酸・ポリグリコール酸共重合体)(PLGA)マイクロスフェア、リポソーム、ミセル、逆ミセル、脂質コクリエート、または脂質微小管などの担体に入れて細胞または非ヒト動物に導入することができる。非ヒト動物への送達の一部の特定例としては、流体力学的送達、ウイルス媒介性送達(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)媒介性送達)、および脂質ナノ粒子媒介性送達が挙げられる。
【0216】
核酸およびタンパク質の細胞または非ヒト動物への導入は、流体力学的送達(HDD)によって実現することができる。流体力学的送達は、in vivoにおける細胞内DNA送達のための方法として出現した。実質細胞への遺伝子送達のためには、必須のDNA配列のみを、選択された血管を介して注射し、現行のウイルスおよび合成ベクターに付随する安全性の懸念を排除する必要がある。血流中に注射されると、DNAは血液が到達可能な種々の組織中の細胞に到達することが可能である。流体力学的送達では、大きく膜不浸透性の化合物が実質細胞に進入することを妨げる内皮および細胞膜の物理的関門を克服するために大きな体積の溶液を循環中の非圧縮性血液中に急速注射することによって生じる力を使用する。この方法は、DNA送達に加えて、in vivoにおけるRNA、タンパク質、および他の小さな化合物の効率的な細胞内送達に有用である。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる、Bonamassaら(2011
年)Pharm. Res.、28巻(4号):694~701頁を参照されたい。
【0217】
AAV媒介性送達またはレンチウイルス媒介性送達などのウイルス媒介性送達によって、核酸の導入を達成することもできる。他の例示的なウイルス/ウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、および単純ヘルペスウイルスが挙げられる。ウイルスは、分裂細胞、非分裂細胞、または分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染し得る。ウイルスは、宿主ゲノムに組み込まれ得るか、またはあるいは、宿主ゲノムに組み込まれない。そのようなウイルスを、免疫原性が低下するように操作することもできる。ウイルスは、複製能力を有してもよいか、または複製欠損性であってもよい(例えば、ビリオン複製および/またはパッケージングのさらなるラウンドにとって必要な1つまたは複数の遺伝子の欠損)。ウイルスは、一過的発現、長期的に続く発現(例えば、少なくとも1週間、2週間、1ヶ月間、2ヶ月間、もしくは3ヶ月間)、または永続的発現(例えば、Cas9および/またはgRNAの)を引き起こすことができる。例示的なウイルス力価(例えば、AAV力価)は、1012、1013、1014、1015、および1016ベクターゲノム/mLを含む。
【0218】
ssDNA AAVゲノムは、相補的DNA鎖の合成を可能にする2つの反転末端リピートによって挟まれた、2つのオープンリーディングフレーム、RepおよびCapからなる。AAV導入プラスミドを構築する場合、導入遺伝子は、2個のITRの間に置かれ、RepおよびCapはin transに供給することができる。RepおよびCapに加えて、AAVは、アデノウイルスに由来する遺伝子を含有するヘルパープラスミドを必要としてもよい。これらの遺伝子(E4、E2a、およびVA)は、AAV複製を媒介した。例えば、導入プラスミド、Rep/Cap、およびヘルパープラスミドを、アデノウイルス遺伝子E1+を含有するHEK293細胞中にトランスフェクトして、感染性AAV粒子を産生することができる。あるいは、Rep、Cap、およびアデノウイルスヘルパー遺伝子を、単一のプラスミド中で組み合わせることができる。同様のパッケージング細胞および方法を、レトロウイルスなどの他のウイルスのために使用することができる。
【0219】
AAVの複数の血清型が同定されている。これらの血清型は、それらが感染する細胞型(すなわち、その向性)において異なり、特定の細胞型の選択的形質導入を可能にする。CNS組織のための血清型としては、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV8、およびAAV9が挙げられる。心臓組織のための血清型としては、AAV1、AAV8、およびAAV9が挙げられる。腎臓組織のための血清型としては、AAV2が挙げられる。肺組織のための血清型としては、AAV4、AAV5、AAV6、およびAAV9が挙げられる。膵臓組織のための血清型としては、AAV8が挙げられる。光受容体細胞のための血清型としては、AAV2、AAV5、およびAAV8が挙げられる。網膜色素上皮組織のための血清型としては、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、およびAAV8が挙げられる。骨格筋組織のための血清型としては、AAV1、AAV6、AAV7、AAV8、およびAAV9が挙げられる。肝臓組織のための血清型としては、AAV7、AAV8、およびAAV9、特に、AAV8が挙げられる。
【0220】
向性は、異なるウイルス血清型に由来するキャプシドとゲノムとの混合物である、偽型化によってさらに精緻化することができる。例えば、AAV2/5は、血清型5に由来するキャプシド中にパッケージングされた血清型2のゲノムを含有するウイルスを示す。偽型化されたウイルスの使用は、形質導入効率を改善する、ならびに向性を変更することができる。異なる血清型から誘導されるハイブリッドキャプシドを使用して、ウイルス向性を変更することもできる。例えば、AAV-DJは、8つの血清型に由来するハイブリッドキャプシドを含有し、in vivoで広範囲の細胞型にわたって高い感染性を示す。AAV-DJ8は、AAV-DJの特性を示すが、脳による取込みが増強されている別の例である。AAV血清型を、突然変異によって改変することもできる。AAV2の突然変異による改変の例としては、Y444F、Y500F、Y730F、およびS662Vが挙げられる。AAV3の突然変異による改変の例としては、Y705F、Y731F、およびT492Vが挙げられる。AAV6の突然変異による改変の例としては、S663VおよびT492Vが挙げられる。他の偽型化/改変されたAAVバリアントとしては、AAV2/1、AAV2/6、AAV2/7、AAV2/8、AAV2/9、AAV2.5、AAV8.2、およびAAV/SASTGが挙げられる。
【0221】
導入遺伝子発現を促進するために、自己相補的なAAV(scAAV)バリアントを使用することができる。AAVは、AAVの一本鎖DNAゲノムの相補鎖を合成するための細胞のDNA複製機構に依存するため、導入遺伝子発現は遅延し得る。この遅延に対処するために、感染時に自発的にアニーリングすることができる相補配列を含有するscAAVを使用して、宿主細胞のDNA合成に関する要件を除去することができる。しかしながら、一本鎖AAV(ssAAV)ベクターを使用することもできる。
【0222】
パッケージング能力を増大させるために、より長い導入遺伝子を、第1は3’スプライスドナーを有し、第2は5’スプライスアクセプターを有する、2つのAAV導入プラスミドの間に分裂させてもよい。細胞の同時感染の際に、これらのウイルスはコンカテマーを形成し、一緒にスプライシングされ、完全長の導入遺伝子を発現させることができる。これはより長い導入遺伝子発現を可能にするが、発現はあまり効率的ではない。能力を増大させるための同様の方法は、相同組換えを利用する。例えば、導入遺伝子を、2つの導入プラスミド間に分割することができるが、同時発現が相同組換えおよび完全長導入遺伝子の発現を誘導するように実質的な配列が重複する。
【0223】
核酸およびタンパク質の導入は、脂質ナノ粒子(LNP)媒介性送達によって達成することもできる。例えば、LNP媒介性送達を使用して、RNAの形態のガイドRNAを送達することができる。そのような方法による送達は、ガイドRNAの一過的な存在をもたらし、生分解性脂質は、クリアランスを改善し、許容性を改善し、免疫原性を低下させる。脂質製剤は、その細胞取込みを改善しながら、生体分子を分解から保護することができる。脂質ナノ粒子は、分子間力によって互いに物理的に会合する複数の脂質分子を含む粒子である。これらのものは、ミクロスフェア(単層および多層小胞、例えば、リポソームを含む)、エマルジョン、ミセル中の分散相、または懸濁液中の内部相を含む。そのような脂質ナノ粒子を使用して、送達のための1つまたは複数の核酸またはタンパク質を封入することができる。陽イオン脂質を含有する製剤は、核酸などのポリアニオンを送達するのに有用である。含有させることができる他の脂質は、中性脂質(すなわち、非荷電または両性イオン脂質)、陰イオン脂質、トランスフェクションを増強するヘルパー脂質、およびナノ粒子がin vivoで存在し得る時間の長さを増加させるステルス脂質である。好適な陽イオン脂質、中性脂質、陰イオン脂質、ヘルパー脂質、およびステルス脂質の例を、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2016/010840A1に見出すことができる。例示的な脂質ナノ粒子は、陽イオン脂質および1つまたは複数の他の構成成分を含んでもよい。一例では、他の構成成分は、コレステロールなどのヘルパー脂質を含んでもよい。別の例では、他の構成成分は、コレステロールなどのヘルパー脂質およびDSPCなどの中性脂質を含んでもよい。別の例では、他の構成成分は、コレステロールなどのヘルパー脂質、DSPCなどの任意選択の中性脂質、およびS010、S024、S027、S031、またはS033などのステルス脂質を含んでもよい。
【0224】
LNPは、下記:(i)封入およびエンドソーム脱出のための脂質;(ii)安定化のための中性脂質;(iii)安定化のためのヘルパー脂質;ならびに(iv)ステルス脂質のうちの1つもしくは複数または全部を含有してもよい。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるFinnら(2018年)Cell
Reports 22巻:1~9頁およびWO2017/173054A1を参照されたい。
ある特定のLNPでは、カーゴは、ガイドRNAまたはガイドRNAをコードする核酸を含んでもよい。ある特定のLNPでは、カーゴは、ガイドRNAまたはガイドRNAをコードする核酸、および外因性ドナー核酸を含んでもよい。
【0225】
封入およびエンドソーム脱出のための脂質は、陽イオン脂質であってもよい。脂質は、生分解性イオン化可能脂質などの生分解性脂質であってもよい。好適な脂質の一例は、3-((4,4-ビス(オクチルオキシ)ブタノイル)オキシ)-2-((((3-(ジエチルアミノ)プロポキシ)カルボニル)オキシ)メチル)プロピル(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエノエートとも呼ばれる、(9Z,12Z)-3-((4,4-ビス(オクチルオキシ)ブタノイル)オキシ)-2-((((3-(ジエチルアミノ)プロポキシ)カルボニル)オキシ)メチル)プロピルオクタデカ-9,12-ジエノエートである、リピドAまたはLP01である。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるFinnら(2018年)Cell Reports 22
巻:1~9頁およびWO2017/173054A1を参照されたい。好適な脂質の別の例は、((5-((ジメチルアミノ)メチル)-1,3-フェニレン)ビス(オキシ))ビス(オクタン-8,1-ジイル)ビス(デカノエート)とも呼ばれる、((5-((ジメチルアミノ)メチル)-1,3-フェニレン)ビス(オキシ)ビス(オクタン-8,1-ジイル)ビス(デカノエート)である、リピドBである。好適な脂質の別の例は、2-((4-(((3-(ジメチルアミノ)プロポキシ)カルボニル)オキシ)ヘキサデカノイル)オキシ)プロパン-1,3-ジイル(9Z,9’Z,12Z,12’Z)-ビス(オクタデカ-9,12-ジエノエート)である、リピドCである。好適な脂質の別の例は、3-(((3-(ジメチルアミノ)プロポキシ)カルボニル)オキシ)-13-(オクタノイルオキシ)トリデシル3-オクチルウンデカノエートである、リピドDである。他の好適な脂質としては、ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエート(Dlin-MC3-DMA(MC3)としても公知である)が挙げられる。
【0226】
本明細書に記載のLNP中での使用にとって好適な一部のそのような脂質は、in vivoで生分解性である。例えば、そのような脂質を含むLNPとしては、少なくとも75%の脂質が、8、10、12、24、もしくは48時間、または3、4、5、6、7、もしくは10日以内に血漿から消失するものが挙げられる。別の例として、少なくとも50%のLNPが、8、10、12、24、もしくは48時間、または3、4、5、6、7、もしくは10日以内に血漿から消失する。
【0227】
そのような脂質は、それらが中にある培地のpHに応じてイオン化可能であってよい。例えば、わずかに酸性の培地中では、脂質はプロトン化され、かくして、正電荷を担持し得る。逆に、例えば、pHが約7.35である血液などの、わずかに塩基性の培地中では、脂質はプロトン化されず、かくして、電荷を担持しなくてもよい。一部の実施形態では、脂質は、少なくとも約9、9.5、または10のpHでプロトン化され得る。電荷を担持するそのような脂質の能力は、その固有のpKaと関連する。例えば、脂質は、独立に、約5.8~約6.2の範囲のpKaを有してもよい。
【0228】
中性脂質は、LNPを安定化し、そのプロセシングを改善するように機能する。好適な中性脂質の例としては、様々な中性非荷電または両性イオン性脂質が挙げられる。本開示における使用にとって好適な中性リン脂質の例としては、限定されるものではないが、5-ヘプタデシルベンゼン-1,3-ジオール(レゾルシノール)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ホスホコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ホスファチジルコリン(PLPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DAPC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、卵ホスファチジルコリン(EPC)、ジラウリロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、1-ミリストイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン(MPPC)、1-パルミトイル-2-ミリストイルホスファチジルコリン(PMPC)、1-パルミトイル-2-ステアロイルホスファチジルコリン(PSPC)、1,2-ジアラキドイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DBPC)、1-ステアロイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン(SPPC)、1,2-ジエイコセノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DEPC)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、リソホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジリノレオイルホスファチジルコリンジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、パルミトイルオレオイルホスファチジルエタノールアミン(POPE)、リソホスファチジルエタノールアミン、およびその組合せが挙げられる。例えば、中性リン脂質を、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)およびジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)からなる群から選択することができる。
【0229】
ヘルパー脂質としては、トランスフェクションを増強する脂質が挙げられる。ヘルパー脂質がトランスフェクションを増強するメカニズムは、粒子安定性の増強を含んでもよい。ある特定の場合、ヘルパー脂質は、膜融合性を増強することができる。ヘルパー脂質としては、ステロイド、ステロール、およびアルキルレゾルシノールが挙げられる。好適なヘルパー脂質の例としては、コレステロール、5-ヘプタデシルレゾルシノール、およびコレステロールヘミスクシネートが挙げられる。一例では、ヘルパー脂質は、コレステロールまたはコレステロールヘミスクシネートであってもよい。
【0230】
ステルス脂質としては、ナノ粒子がin vivoで存在し得る時間の長さを変更する脂質が挙げられる。ステルス脂質は、例えば、粒子凝集を低減させること、および粒径を制御することによって製剤プロセスを補助することができる。ステルス脂質は、LNPの薬物動態特性をモジュレートすることができる。好適なステルス脂質としては、脂質部分に親水性頭部基が連結された脂質が挙げられる。
【0231】
ステルス脂質の親水性頭部基は、例えば、PEG(ポリ(エチレンオキシド)と呼ばれることもある)、ポリ(オキサゾリン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(グリセロール)、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリアミノ酸、およびポリN-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドに基づくポリマーから選択されるポリマー部分を含んでもよい。PEGという用語は、任意のポリエチレングリコールまたは他のポリアルキレンエーテルポリマーを意味する。ある特定のLNP製剤において、PEGは、約2,000ダルトンの平均分子量を有する、PEG2000とも呼ばれる、PEG-2Kである。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2017/173054A1を参照されたい。
【0232】
ステルス脂質の脂質部分を、例えば、鎖が、例えば、アミドまたはエステルなどの1つまたは複数の官能基を含んでもよい、約C4~約C40の飽和または不飽和炭素原子を独立に含むアルキル鎖長を有するジアルキルグリセロールまたはジアルキルグリカミド基を含むものなどの、ジアシルグリセロールまたはジアシルグリカミドから誘導することができる。ジアルキルグリセロールまたはジアルキルグリカミド基は、1つまたは複数の置換されたアルキル基をさらに含んでもよい。
【0233】
一例として、ステルス脂質を、PEG-ジラウロイルグリセロール、PEG-ジミリストイルグリセロール(PEG-DMG)、PEG-ジパルミトイルグリセロール、PEG-ジステアロイルグリセロール(PEG-DSPE)、PEG-ジラウリルグリカミド、PEG-ジミリスチルグリカミド、PEG-ジパルミトイルグリカミド、およびPEG-ジステアロイルグリカミド、PEG-コレステロール(1-[8’-(コレスタ-5-エン-3[ベータ]-オキシ)カルボキシアミド-3’,6’-ジオキサオクタニル]カルバモイル-[オメガ]-メチル-ポリ(エチレングリコール))、PEG-DMB(3,4-ジテトラデコキシルベンジル-[オメガ]-メチル-ポリ(エチレングリコール)エーテル)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](PEG2k-DMG)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](PEG2k-DSPE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロール、メトキシポリエチレングリコール(PEG2k-DSG)、ポリ(エチレングリコール)-2000-ジメタクリレート(PEG2k-DMA)、および1,2-ジステアリールオキシプロピル-3-アミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](PEG2k-DSA)から選択することができる。1つの特定例では、ステルス脂質は、PEG2k-DMGであってよい。
【0234】
LNPは、製剤中に異なるそれぞれのモル比の構成成分脂質を含んでもよい。CCD脂質のモル%は、例えば、約30モル%~約60モル%、約35モル%~約55モル%、約40モル%~約50モル%、約42モル%~約47モル%、または約45%であってもよい。ヘルパー脂質のモル%は、例えば、約30モル%~約60モル%、約35モル%~約55モル%、約40モル%~約50モル%、約41モル%~約46モル%、または約44モル%であってもよい。中性脂質のモル%は、例えば、約1モル%~約20モル%、約5モル%~約15モル%、約7モル%~約12モル%、または約9モル%であってもよい。ステルス脂質のモル%は、例えば、約1モル%~約10モル%、約1モル%~約5モル%、約1モル%~約3モル%、約2モル%、または約1モル%であってもよい。
【0235】
LNPは、封入しようとする核酸の生分解性脂質の正荷電アミノ基(N)と、負荷電リン酸基(P)との異なる比を有してもよい。これは、式N/Pによって数学的に表すことができる。例えば、N/P比は、約0.5~約100、約1~約50、約1~約25、約1~約10、約1~約7、約3~約5、約4~約5、約4、約4.5、または約5であってもよい。
【0236】
一部のLNPでは、カーゴは、外因性ドナー核酸およびgRNAを含んでもよい。外因性ドナー核酸およびgRNAは、異なる比であってもよい。例えば、LNP製剤は、約25:1~約1:25の範囲、約10:1~約1:10の範囲、約5:1~約1:5の範囲、または約1:1の外因性ドナー核酸 対 gRNA核酸の比を含んでもよい。あるいは、LNP製剤は、約1:1~約1:5、約5:1~約1:1、約10:1、または約1:10の外因性ドナー核酸 対 gRNA核酸の比を含んでもよい。あるいは、LNP製剤は、約1:10、25:1、10:1、5:1、3:1、1:1、1:3、1:5、1:10、または1:25の外因性ドナー核酸 対 gRNA核酸の比を含んでもよい。
【0237】
好適なLNPの特定例は、4.5の窒素のリン酸に対する(N/P)比を有し、45:44:9:2のモル比で生分解性陽イオン脂質、コレステロール、DSPC、およびPEG2k-DMGを含有する。生分解性陽イオン脂質は、3-((4,4-ビス(オクチルオキシ)ブタノイル)オキシ)-2-((((3-(ジエチルアミノ)プロポキシ)カルボニル)オキシ)メチル)プロピル(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエノエートとも呼ばれる、(9Z,12Z)-3-((4,4-ビス(オクチルオキシ)ブタノイル)オキシ)-2-((((3-(ジエチルアミノ)プロポキシ)カルボニル)オキシ)メチル)プロピルオクタデカ-9,12-ジエノエートであってもよい。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるFinnら(2018年)Cell Reports 22巻:1~9頁を参照されたい。好適なLNPの別の特定例は、50:
38.5:10:1.5のモル比でDlin-MC3-DMA(MC3)、コレステロール、DSPC、およびPEG-DMGを含有する。
【0238】
送達様式は、免疫原性を低下させるように選択することができる。例えば、gRNAおよび外因性ドナー核酸を、異なる様式(例えば、二様式送達)によって送達することができる。これらの異なる様式は、対象に送達される分子(例えば、gRNAもしくは核酸をコードする、または外因性ドナー核酸/修復鋳型)に対して異なる薬力学的特性または薬物動態特性を提供することができる。例えば、異なる様式は、異なる組織分布、異なる半減期、または異なる時間的分布をもたらすことができる。一部の送達様式(例えば、自律的複製またはゲノム組込みによって細胞中で持続する核酸ベクターの送達)は、この分子のより持続的な発現および存在をもたらすが、他の送達様式は、一過的であり、あまり持続的ではない(例えば、RNAまたはタンパク質の送達)。例えば、RNAまたはタンパク質としての、より一過的な様式での構成成分の送達は、Cas/gRNA複合体が短期間だけ存在し、活性であることを確保し、免疫原性を低減させることができる。そのような一過的送達はまた、オフターゲット改変の可能性を低減することもできる。
【0239】
in vivoでの投与は、例えば、非経口、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、髄腔内、腹腔内、局所、鼻腔内、または筋肉内を含めた任意の適切な経路によるものであってよい。全身性投与様式としては、例えば、経口および非経口経路が挙げられる。非経口経路の例としては、静脈内、動脈内、骨内、筋肉内、皮内、皮下、鼻内、および腹腔内経路が挙げられる。特定例は、静脈内輸注である。局部投与様式としては、例えば、髄腔内、脳室内、実質内(例えば、線条体(例えば、尾状もしくは果核中)、大脳皮質、中心前回、海馬(例えば、歯状回もしくはCA3領域中)、側頭皮質、扁桃体、前頭皮質、視床、小脳、髄質、視床下部、蓋、被蓋、または黒質への局部実質内送達)、眼内、眼窩内、結膜下、硝子体内、網膜下、および経強膜的経路が挙げられる。有意により少量の構成成分(全身的手法と比較して)は、全身的に(例えば、静脈内)投与される場合と比較して、局部的に(例えば、実質内または硝子体内)投与される場合に効果を発揮し得る。局部投与様式はまた、治療有効量の構成成分が全身的に投与される場合に起こり得る潜在的に毒性の副作用の発生を低減するか、または除去することもできる。
【0240】
in vivoでの投与は、例えば、非経口、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、髄腔内、腹腔内、局所、鼻腔内、または筋肉内を含めた任意の適切な経路によるものであってよい。特定例は、静脈内輸注である。点鼻および硝子体内注射は、他の特定例である。ガイドRNA(またはガイドRNAをコードする核酸)を含む組成物を、1つまたは複数の生理学的および薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または補助剤を使用して製剤化することができる。製剤は、選択される投与経路に依存し得る。「薬学的に許容される」という用語は、担体、希釈剤、賦形剤、または助剤が製剤の他の成分に適合し、そのレシピエントに対して実質的に有害でないことを意味する。
【0241】
投与の頻度および投与回数は、他の因子の中でも、外因性ドナー核酸またはガイドRNA(またはガイドRNAをコードする核酸)の半減期および投与経路に依存し得る。核酸またはタンパク質の細胞または非ヒト動物への導入は、1回またはある期間にわたって多数回実施することができる。例えば、ある期間にわたって少なくとも2回、ある期間にわたって少なくとも3回、ある期間にわたって少なくとも4回、ある期間にわたって少なくとも5回、ある期間にわたって少なくとも6回、ある期間にわたって少なくとも7回、ある期間にわたって少なくとも8回、ある期間にわたって少なくとも9回、ある期間にわたって少なくとも10回、少なくとも11回、ある期間にわたって少なくとも12回、ある期間にわたって少なくとも13回、ある期間にわたって少なくとも14回、ある期間にわたって少なくとも15回、ある期間にわたって少なくとも16回、ある期間にわたって少なくとも17回、ある期間にわたって少なくとも18回、ある期間にわたって少なくとも19回、またはある期間にわたって少なくとも20回、導入を実施することができる。
【0242】
D.in vivoでのCRISPR/Cas活性の測定および標的ゲノム遺伝子座の改変の評価
本明細書に開示される方法は、標的ゲノム遺伝子座の改変を評価するステップをさらに含んでもよい。発現または活性を検出または測定するための方法は、改変される標的ゲノム遺伝子座に依存すると予想される。
【0243】
例えば、標的ゲノム遺伝子座がRNAまたはタンパク質をコードする遺伝子を含み、意図される改変がコードされたRNAまたはタンパク質の発現を変更することである場合、標的ゲノム遺伝子座の改変を評価する方法は、コードされたRNAまたはタンパク質の発現または活性を測定するステップを含んでもよい。例えば、コードされたタンパク質が、血清中に放出されるタンパク質である場合、コードされたタンパク質の血清レベルを測定することができる。RNAおよびタンパク質のレベルおよび活性を測定するためのアッセイは、周知である。
【0244】
あるいは、本明細書に開示される方法は、CRISPR/Casによる切断後に非相同末端結合によって配列が改変された(例えば、小さい挿入もしくは欠失(インデル)の存在)、2つのガイドRNA標的配列間の標的ゲノム遺伝子座にある配列が切り出された、または外因性ドナー核酸との組換えによって標的ゲノム遺伝子座が改変された、改変された標的ゲノム遺伝子座を有する細胞を同定するステップをさらに含んでもよい。種々の方法を使用して、標的化遺伝子改変を有する細胞を同定することができる。スクリーニングは、親染色体の対立遺伝子の改変(MOA)を評価するための定量的アッセイを含み得る。例えば、定量的アッセイは、リアルタイムPCR(qPCR)などの定量的PCRによって行うことができる。リアルタイムPCRでは、標的遺伝子座を認識する第1のプライマーセットおよび非標的化参照遺伝子座を認識する第2のプライマーセットを利用することができる。プライマーセットは、増幅した配列を認識する蛍光プローブを含み得る。適切な定量的アッセイの他の例としては、蛍光媒介性in situハイブリダイゼーション(FISH)、比較ゲノムハイブリダイゼーション、等温DNA増幅、固定化されたプローブ(単数または複数単数または複数)への定量的ハイブリダイゼーション、INVADER(登録商標)プローブ、TAQMAN(登録商標)分子ビーコンプローブ、またはECLIPSE(商標)プローブ技術が挙げられる(例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるUS2005/0144655を参照されたい)。
【0245】
次世代シーケンシング(NGS)をスクリーニングに使用することもできる。次世代シーケンシングは、「NGS」または「大規模並列処理配列決定」または「ハイスループットな配列決定」とも称され得る。MOAアッセイに加えてスクリーニング手段としてNGSを使用して、標的化遺伝子改変の正確な性質およびそれが細胞型または組織型または臓器型にわたって一貫しているかどうかを定義することができる。
【0246】
非ヒト動物における標的ゲノム遺伝子座の改変の評価は、任意の組織または器官に由来する任意の細胞型におけるものであってもよい。例えば、標的ゲノム遺伝子座の改変を、同じ組織もしくは器官に由来する複数の細胞型において、または組織もしくは器官内の複数の位置に由来する細胞において評価することができる。これは、標的組織または器官内のどの細胞型が改変されているか、またはCRISPR/Casが組織もしくは器官のどの部分に到達し、それらが改変されているかに関する情報を提供することができる。別の例として、標的ゲノム遺伝子座の改変を、複数の組織型または複数の器官において評価することができる。特定の組織または器官が標的化される方法では、これは、どれぐらい効率的にその組織または器官が標的化されるか、および他の組織または器官においてオフターゲット効果があるかどうかに関する情報を提供することができる。
【0247】
一部の特定例では、Cas9導入非ヒト動物を使用して、様々なガイドRNAの編集率を評価することができる。ガイドRNAを、単一ガイドRNA(改変および非改変)もしくは二本鎖RNAとして導入するか、またはU6プロモーターの下で(例えば、AAVによる)発現させることができる。また、Cas9導入非ヒト動物を、疾患モデリングにおける評価のために、ヒト化対立遺伝子を含む非ヒト動物、ガイドRNAを発現する非ヒト動物と交配させることもできる。
【0248】
IV.Cas発現カセットおよび/またはリコンビナーゼ発現カセットを含む非ヒト動物を作製する方法
本明細書の他の箇所に開示されるCas発現カセットおよびリコンビナーゼ発現カセットのうちの1つもしくは複数または全部を含む非ヒト動物を作製するための様々な方法が提供される。遺伝子改変生物を産生するための任意の都合のよい方法またはプロトコールが、そのような遺伝子改変非ヒト動物を作製するのに好適である。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるChoら(2009年)Current Protocols in Cell Biology42巻:19.11:19.11.1~19.11.22頁およびGama Sosaら(2010年)Brain Struct. Funct. 214巻(2~3号):91~109頁を参照されたい。そのような遺伝子改変非ヒト動物を、例えば、標的遺伝子座(例えば、Rosa26などのセーフハーバー遺伝子座)での遺伝子ノックインによって、または無作為に組み込まれる導入遺伝子の使用によって生成することができる。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2014/093622およびWO2013/176772を参照されたい。ある構築物をRosa26遺伝子座に標的化する方法は、例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるUS2012/0017290、US2011/0265198、およびUS2013/0236946に記載されている。
【0249】
例えば、本明細書の他の箇所に開示されるCas発現カセットおよびリコンビナーゼ発現カセットのうちの1つもしくは複数または全部を含む非ヒト動物を作製する方法は、(1)Cas発現カセットおよびリコンビナーゼ発現カセットのうちの1つもしくは複数または全部を含むように多能性細胞のゲノムを改変するステップ;(2)Cas発現カセットおよびリコンビナーゼ発現カセットのうちの1つもしくは複数または全部を含む遺伝子改変された多能性細胞を同定または選択するステップ;(3)遺伝子改変された多能性細胞を、非ヒト動物宿主胚に導入するステップ;ならびに(4)宿主胚を代理母に埋め込み、懐胎させるステップを含んでもよい。必要に応じて、改変された多能性細胞(例えば、非ヒトES細胞)を含む宿主胚を、胚盤胞期までインキュベートした後、代理母に埋め込み、懐胎させて、F0非ヒト動物を産生することができる。次いで、代理母は、Cas発現カセットおよびリコンビナーゼ発現カセットのうちの1つもしくは複数または全部を含むF0世代の非ヒト動物を産生することができる。
【0250】
この方法は、改変された標的ゲノム遺伝子座を有する細胞または動物を同定するステップをさらに含んでもよい。種々の方法を使用して、標的化遺伝子改変を有する細胞および動物を同定することができる。
【0251】
スクリーニングステップは、例えば、親染色体の対立遺伝子(MOA)の改変を評価するための定量的アッセイを含んでもよい。例えば、定量的アッセイは、リアルタイムPCR(qPCR)などの定量的PCRによって行うことができる。リアルタイムPCRでは、標的遺伝子座を認識する第1のプライマーセットおよび非標的化参照遺伝子座を認識する第2のプライマーセットを利用することができる。プライマーセットは、増幅した配列を認識する蛍光プローブを含んでもよい。
【0252】
好適な定量的アッセイの他の例としては、蛍光媒介性in situハイブリダイゼーション(FISH)、比較ゲノムハイブリダイゼーション、等温DNA増幅、固定化されたプローブ(単数または複数単数または複数)への定量的ハイブリダイゼーション、INVADER(登録商標)プローブ、TAQMAN(登録商標)分子ビーコンプローブ、またはECLIPSE(商標)プローブ技術が挙げられる(例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるUS2005/0144655を参照されたい)。
【0253】
好適な多能性細胞の例は、胚性幹(ES)細胞(例えば、マウスES細胞またはラットES細胞)である。改変された多能性細胞を、例えば、(a)5’および3’標的部位に対応する5’および3’相同アームによって挟まれた挿入核酸であって、Cas発現カセットおよびリコンビナーゼ発現カセットのうちの1つもしくは複数または全部を含む、挿入核酸を含む1つまたは複数の標的化ベクターを細胞中に導入すること;ならびに(b)標的ゲノム遺伝子座に組み込まれた挿入核酸をそのゲノム中に含む少なくとも1つの細胞を同定することによって生成することができる。あるいは、改変された多能性細胞を、(a)細胞中に、(i)標的ゲノム遺伝子座内の標的配列にニックまたは二本鎖切断を誘導するヌクレアーゼ作用剤;ならびに(ii)標的配列の十分近くに位置する5’および3’標的部位に対応する5’および3’相同アームによって挟まれた挿入核酸であって、Cas発現カセットおよびリコンビナーゼ発現カセットのうちの1つもしくは複数または全部を含む挿入核酸を含む1つまたは複数の標的化ベクターを導入すること;ならびに(c)標的ゲノム遺伝子座に改変(例えば、挿入核酸の組込み)を含む少なくとも1個の細胞を同定することによって生成することができる。ニックまたは二本鎖切断を所望の標的配列に誘導する任意のヌクレアーゼ作用剤を使用することができる。好適なヌクレアーゼの例としては、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、メガヌクレアーゼ、およびクラスター化された規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)系またはそのような系の構成成分(例えば、CRISPR/Cas9)が挙げられる。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれるUS2013/0309670およびUS2015/0159175を参照されたい。
【0254】
ドナー細胞を、胚盤胞期または桑実胚前期(すなわち、4細胞期もしくは8細胞期)などの、任意の段階で宿主胚に導入することができる。生殖細胞系列を介して遺伝子改変を伝達することができる子孫が生成される。例えば、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,294,754号を参照されたい。
【0255】
あるいは、本明細書の他の箇所に記載の非ヒト動物を産生する方法は、(1)多能性細胞を改変するための上記の方法を使用してCas発現カセットおよびリコンビナーゼ発現カセットのうちの1つもしくは複数または全部を含むように1細胞期胚のゲノムを改変すること;(2)遺伝子改変された胚を選択すること;および(3)遺伝子改変された胚を、代理母に埋め込み、懐胎させることを含んでもよい。生殖細胞系列を介して遺伝子改変を伝達することができる子孫が生成される。
【0256】
核移植技術を使用して、非ヒト哺乳動物を生成することもできる。簡単に述べると、核移植のための方法は、(1)卵母細胞を除核するか、または除核された卵母細胞を提供するステップ;(2)除核された卵母細胞と混合しようとするドナー細胞または核を単離または提供するステップ;(3)この細胞または核を、除核された卵母細胞に挿入して、再構成された細胞を形成させるステップ;(4)再構成された細胞を、動物の子宮に埋め込んで、胚を形成させるステップ;および(5)胚を発生させるステップを含んでもよい。そのような方法では、卵母細胞は、一般には死んだ動物から回収されるが、それらを生きている動物の卵管および/または卵巣から単離することもできる。卵母細胞を、除核前に様々な周知の媒体中で成熟させることができる。卵母細胞の除核を、いくつかの周知の様式で実施することができる。再構成された細胞を形成するための除核された卵母細胞へのドナー細胞または核の挿入は、融合前の透明帯下でのドナー細胞の微量注射によるものであってもよい。接触/融合平面をわたるDC電気パルスの適用(電気融合)によって、ポリエチレングリコールなどの融合促進化学物質への細胞の曝露によって、またはセンダイウイルスなどの不活化ウイルスを用いて、融合を誘導することができる。核ドナーとレシピエント卵母細胞との融合の前、間、および/または後の電気的および/または非電気的手段によって、再構成された細胞を活性化することができる。活性化法としては、電気パルス、化学誘導性ショック、精子による貫通、卵母細胞中の二価陽イオンレベルの増大、および卵母細胞中の細胞タンパク質のリン酸化の低減(キナーゼ阻害剤を手段とする)が挙げられる。活性化された再構成された細胞、または胚を、周知の培地中で培養した後、動物の子宮に移すことができる。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる、US2008/0092249、WO1999/005266、US2004/0177390、WO2008/017234、および米国特許第7,612,250号を参照されたい。
【0257】
本明細書に提供される様々な方法は、遺伝子改変されたF0動物の細胞がCas発現カセットおよびリコンビナーゼ発現カセットのうちの1つもしくは複数または全部を含む、遺伝子改変された非ヒトF0動物の生成を可能にする。F0動物を生成するために使用される方法に応じて、Cas発現カセットおよびリコンビナーゼ発現カセットのうちの1つもしくは複数または全部を有するF0動物内の細胞数は変化することが認識される。例えば、VELOCIMOUSE(登録商標)法による、対応する生物に由来する桑実胚前期胚(例えば、8細胞期マウス胚)へのドナーES細胞の導入により、F0動物のより高いパーセンテージの細胞集団が標的化遺伝子改変を含む目的のヌクレオチド配列を含む細胞を含むようになる。例えば、非ヒトF0動物の少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、85%、86%、87%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の細胞寄与が、標的化改変を有する細胞集団を含んでもよい。
【0258】
遺伝子改変されたF0動物の細胞は、Cas発現カセットおよびリコンビナーゼ発現カセットのうちの1つもしくは複数または全部についてヘテロ接合性であってもよいか、またはCas発現カセットおよびリコンビナーゼ発現カセットのうちの1つもしくは複数または全部についてホモ接合性であってもよい。
【0259】
上文または下で引用されている全ての特許出願、ウェブサイト、他の刊行物、受託番号などは、各項目が参照により組み込まれることが具体的にかつ個別に示されるのと同じ程度に、あらゆる目的に関してその全体が参照により組み込まれる。違う時間に受託番号に異なるバージョンの配列が関連付けられている場合、本出願の有効な出願日において受託番号に関連付けられるバージョンを意味する。有効な出願日とは、該当する場合、受託番号に関して実際の出願日または優先出願の出願日の早い方を意味する。同様に、異なるバージョンの刊行物、ウェブサイトなどが違う時間に公開されている場合、別段の指定のない限り本出願の有効な出願日時点で直近に公開されたバージョンを意味する。特に他の指示がなければ、本発明の任意の特徴、ステップ、要素、実施形態、または態様を任意の他のものと組み合わせて使用することができる。本発明を明瞭さおよび理解のために図表および例によって少し詳細に記載してきたが、ある特定の変化および改変を添付の特許請求の範囲内で実施することができることが明らかになろう。
【0260】
配列の簡単な説明
添付の配列表に列挙されているヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、ヌクレオチド塩基については標準の文字略語、およびアミノ酸については3文字コードを使用して示されている。ヌクレオチド配列は、配列の5’末端から始まり、フォワード方向に(すなわち、各線の左から右に)3’末端まで進む標準の慣習に従う。各ヌクレオチド配列の一方の鎖のみが示されているが、示されている鎖へのいかなる言及にも相補鎖が含まれると理解される。アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が提供される場合、同じアミノ酸配列をコードするそのコドン縮重バリアントも提供されることが理解される。アミノ酸配列は、配列のアミノ末端から始まり、フォワード方向に(すなわち、各線の左から右に)カルボキシ末端まで進む標準の慣習に従う。
【0261】
【表3】
【実施例0262】
(実施例1)
Cas9導入マウスの検証
CRISPR/Cas9、RNA誘導性DNAエンドヌクレアーゼは、そのRNAガイドの結合部位でのDNAの二本鎖切断(DSB)の創出を触媒する。例示的なRNAガイドは、87ヌクレオチドのトランス活性化RNA(tracrRNA)と結合する42ヌクレオチドのCRISPR RNA(crRNA)からなってもよい。tracrRNAは、crRNAと相補的であり、それと塩基対を形成して、機能的なcrRNA/tracrRNAガイドを形成する。この二本鎖RNAは、Cas9タンパク質に結合して、crRNAの20ヌクレオチドのガイド部分との相補性についてゲノムに問い合わせることができる活性なリボ核タンパク質(RNP)を形成するようになる。鎖切断のための第2の要件は、Cas9タンパク質がcrRNAのガイド部分と相補的な配列(crRNA標的配列)と直接隣接するプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識しなければならないということである。あるいは、crRNA/tracrRNA二本鎖を、crRNAとtracrRNAとを共有的に連結することによって形成された単一ガイドRNA(sgRNA)と置き換えることによって、活性なRNP複合体を形成させることもできる。例えば、プロセシングされたtracrRNA配列に直接的にcrRNAの20ヌクレオチドのガイド部分を融合することによって、このようなsgRNAを形成させることができる。sgRNAは、crRNA/tracrRNA二本鎖が行うのと同じ方法で、また、類似する効率でCas9タンパク質とDNAの両方と相互作用することができる。CRISPR細菌自然防御メカニズムは、哺乳動物細胞中で効率的に機能し、切断誘導性内因性修復経路を活性化することが示されている。二本鎖切断がゲノム中で起こる場合、修復経路は、カノニカルもしくは代替的な非相同末端結合(NHEJ)経路または適切な鋳型が利用可能である場合、相同組換え修復(HDR)とも呼ばれる相同組換えによってDNAを修正することを試みると予想される。本発明者らは、これらの経路を活用して、哺乳動物細胞におけるゲノム領域の部位特異的欠失または外因性DNAの挿入またはHDRを容易にすることができる。
【0263】
CRISPR/Cas9系は、ゲノム操作のための強力な手段である。しかしながら、in vivoでの使用のためのこの系の1つの制限は、全ての構成成分を生きている生物体に同時に導入する必要があることである。これらの構成成分を細胞に導入する典型的な方法は、適切なRNAおよびタンパク質を生成する細胞中にDNA構築物を一過的にトランスフェクトすることである。細胞が、Cas9タンパク質がsgRNA構成成分と相互作用するために利用可能となる前に、最初に転写を受けた後、翻訳を受けるプラスミドDNA構築物に依拠しなければならないため、有効であるが、この手法は固有の欠点も有する。本発明者らは、Cas9により誘導される突然変異の頻度および組換えの頻度を、構成的に利用可能であるタンパク質を有することによって大きく改善することができると考えている。
【0264】
野生型Cas9コード配列(CDS)を、マウスにおける発現のためにコドン最適化した。次いで、N末端一成分核局在化(NLS)シグナル、C末端二成分NLS、およびC末端P2A結合GFP蛍光リポーターを組み込んだ。Cas9発現カセット(MAID2599)は、図1および図14および配列番号1に記載される。P2A-GFPを、in
vivoでのCas9発現のより良い追跡のために使用した。これらの構成成分を、適切なスプライシングシグナルおよび強力なポリアデニル化(ポリA)シグナルを有する先行するフロキシングされたネオマイシン耐性カセット(neoカセット)と共に、マウスゲノムのRosa26遺伝子座の第1のイントロン中に操作した。Cas9発現カセットの構成成分を、5’から3’に向かって、表4に示し、フロキシングされたネオマイシンカセットの除去後のCas9対立遺伝子の構成成分を、表5に示す。対立遺伝子によってコードされるCas9-P2A-eGFPタンパク質配列を、配列番号13に記載する。
【0265】
【表4】
【0266】
【表5】
【0267】
Creリコンビナーゼの作用によるカセットの除去の前に、ネオマイシン耐性遺伝子は通常、効率的に転写および翻訳される;しかしながら、Cas9 CDSは通常、ランスルー転写を効率的に遮断することができる強力なポリ(A)領域の存在のため、発現されない。Creリコンビナーゼの作用によるneoカセットの除去の際に、Cas9とGFPタンパク質とのハイブリッドmRNAは、通常、Rosa26プロモーターによって構成的に発現される。neoカセット除去の前後の標的細胞を、Rosa26遺伝子座での標的化ベクターの単一の、部位特異的組込みを検出するための対立遺伝子喪失スクリーニングによって最初に実証した。標的化されたmESCから全RNAを抽出した後、逆転写して、cDNAを生成し、TAQMAN(登録商標)qPCRを行って、逆転写されたcDNAを検出する(RT-qPCR)ことによって、Cas9およびGFP発現を検証した。総合すると、創出された系は、mESCおよびそれから誘導されたマウスにおいて、一貫したレベルのCas9タンパク質を継続的または条件的に(ネオマイシン耐性カセットの除去を必要とすることによって)発現することができる。
【0268】
P2A-eGFP(MAID2660)を含まない別のバージョンを設計した。図14を参照されたい。Cas9発現カセットの構成成分を、5’から3’に向かって、表6に示し、フロキシングされたネオマイシンカセットの除去後のCas9対立遺伝子の構成成分を、表7に示す。対立遺伝子によってコードされるCas9タンパク質配列を、配列番号19に記載する。
【0269】
【表6】
【0270】
【表7】
【0271】
さらに、外因性CAGGプロモーターおよび3xFLAGタグ配列を有する2つのバージョンを設計した。第1のバージョンは、P2A-eGFP(MAID2658)を含み、P2A-eGFP(MAID2672)を含まない第2のバージョンを設計した。図14を参照されたい。第1のバージョンのCAGG-Cas9発現カセットの構成成分を、5’から3’に向かって、表8に示し、フロキシングされたネオマイシンカセットの除去後の第1のバージョンのCAGG-Cas9対立遺伝子の構成成分を、表9に示す。この対立遺伝子によってコードされる3xFLAG-Cas9-P2A-eGFPタンパク質
配列を、配列番号16に記載する。第2のバージョンのCAGG-Cas9発現カセット
の構成成分を、5’から3’に向かって、表10に示し、フロキシングされたネオマイシンカセットの除去後の第2のバージョンのCAGG-Cas9対立遺伝子の構成成分を、
表11に示す。この対立遺伝子によってコードされる3xFLAG-Cas9タンパク質
配列を、配列番号22に記載する。
【0272】
【表8】
【0273】
【表9】
【0274】
【表10】
【0275】
【表11】
【0276】
MAID2599/MAID2600系を検証するために、ネオマイシンカセットを含む、および含まないCas9 mESC(それぞれ、MAID2599およびMAID2600)に、第1の標的遺伝子の開始および停止コドン領域を標的とする2つのsgRNAをトランスフェクトした。図2Aを参照されたい。次いで、gRNA標的化Cas9切断部位に挿入-欠失突然変異を有するmESCクローンの割合を評価するための対立遺伝子喪失スクリーニングによって、Cas9切断効率をアッセイした。Cas9切断部位間のDNAを欠失させたmESCクローンの割合、またはヌル突然変異を引き起こす両方の標的対立遺伝子も決定した。Cas9は、ネオマイシンカセットおよびポリ(A)(停止配列)が除去された場合にのみ、これらのゲノム変化を誘導することができた(MAID2600)。相同組換え修復に関するゲノム編集能力をより良好に評価するために、点突然変異ドナーとして一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)と共に、第2の標的遺伝子を標的とするsgRNAを導入した。図2Bを参照されたい。本明細書に記載の構成的Cas9発現系を、ssODNと共にプラスミドによりCas9およびsgRNAを導入する伝統的な方法と比較した。本明細書に記載のCas9発現系は、sgRNAを発現するプラスミドと組み合わせた場合、切断誘導性内因性修復経路を活性化して、Cas9とsgRNAの両方を外因性プラスミドから発現させた場合のものと同等である頻度で本発明者らの所望の点突然変異を組み込むことができた。しかしながら、本明細書に記載のCas9発現系を、直接送達されるsgRNAと組み合わせた場合、それは、プラスミド送達方法のほぼ2倍の効率で、相同性挿入突然変異誘発を誘導した。
【0277】
生きているマウスにおける内因的に発現されるCas9の有効性を決定するために、これらの標的化されたmESCを、VELOCIMOUSE(登録商標)法を使用して、8細胞のマウス胚に微量注射した。例えば、それぞれが、あらゆる目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,576,259号;第7,659,442号;第7,294,754号;US2008/007800;およびPoueymirouら(2007年)Nature Biotech. 25巻(1号):91~99頁を参照されたい。具体的には、透明帯に小さい孔を創出して、標的化されたmESCの注射を容易にした。これらの注射された8細胞胚を、代理母に移して、導入遺伝子を担持する生きた子を産生した。代理母での懐胎の際に、注射された胚は、検出可能な宿主胚の寄与を担持しないF0マウスを産生した。完全にES細胞に由来するマウスは、正常で、健康で、繁殖力があった(生殖細胞系列伝達を有する)。GFP可視化、Cas9 mRNA発現、およびCas9タンパク質発現のために、カセット欠失F0マウス(MAID2600)から、組織を収穫した。図3A~3F(明視野およびGFP可視化)ならびに図4A~4C(図4Aおよび図4C中のCas9 mRNA発現、ならびに図4B中のタンパク質発現)を参照されたい。図3Dは、ヘテロ接合性Rosa26Cas9マウス(MAID2600)中でのeGFP発現を示すが、野生型マウスの肝臓においては対応するeGFP発現が欠如していることを示し、図3Eは、ヘテロ接合性Rosa26Cas9マウス中でのeGFP発現を示すが、野生型マウスの腎臓においては対応するeGFP発現が欠如していることを示し、図3Fは、ヘテロ接合性Rosa26Cas9マウス中でのeGFP発現を示すが、野生型マウスの脳においては対応するeGFP発現が欠如していることを示す。同様に、RT-qPCRによってアッセイされたCas9 mRNA発現は、ヘテロ接合性Rosa26Cas9マウスの脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、大腿四頭筋、脾臓、および胸腺において観察されたが、野生型マウスに由来する対応する組織においてはCas9 mRNA発現は観察されなかった。図4Aおよび図4Cを参照されたい。実験では、それぞれの組織に由来する等しい質量のRNAを、RT-qPCRによってアッセイした。データは、Cas9導入マウスが全ての組織において容易に検出可能なレベルでCas9 mRNAを発現することを示す。様々な組織を、Cas9導入マウスから収穫した。3つの組織を、14匹のマウスから収穫し、さらに5つの組織を、4匹のマウスから収穫して、マウス間の差異ならびにマウス内の組織間の差異を評価した。これらの組織のそれぞれから、RNAを抽出した。qPCR反応にカウントされないように、ゲノムDNAは分解された。RNAを逆転写した後、Cas9に特異的なアッセイを使用して、Cas9転写物を検出した。予想通り、Cas9マウスは、有意な発現(30より低いct値)を示したが、WTマウスは、30およびそれより高いct値を示し、これは、Cas9タンパク質の内因性発現がないことを示している。
【0278】
同様に、1:250の希釈率でThermoFisher Cas9抗体MA5-23519を使用する、および対照としてアクチンを使用するウェスタンブロットにより決定されたCas9タンパク質発現は、ヘテロ接合性Rosa26Cas9マウス(MAID2600)の脾臓、肝臓、および脳においてはCas9タンパク質発現を示したが、野生型マウスの同じ組織においては、Cas9タンパク質は観察されなかった。図4Bを参照されたい。3つ全ての試験が、全てのアッセイされた組織における一貫した発現レベルを示した。
【0279】
次いで、脂質ナノ粒子(LNP)送達によってカセット欠失Cas9マウス(MAID2600)から単離された初代肝細胞にsgRNAを導入することによって、肝臓により分泌され、血清中に見出されるタンパク質をコードする、標的遺伝子3をノックアウトする実験を行った。図5Bを参照されたい。対照として、sgRNA導入の同じ方法を、野生型(WT)マウスから単離された初代肝細胞中での外因性Cas9発現と対合させた。図5Aを参照されたい。次いで、次世代シーケンシング(NGS)によって非相同末端結合を評価して、標的遺伝子3遺伝子座でのインデル頻度を測定した。実験では、3つの条件:(1)GFP mRNAおよび対照(すなわち、死滅した)sgRNAのLNP媒介性送達;(2)GFP mRNAおよび標的遺伝子3のsgRNAのLNP媒介性送達;ならびに(3)Cas9 mRNAおよび標的遺伝子3のsgRNAのLNP媒介性送達が存在していた。それぞれの条件について、4つの濃度のmRNAを試験した:15.6ng/mL、62.5ng/mL、250ng/mL、および1000ng/mL。野生型初代マウス肝細胞では、Cas9 mRNAと標的遺伝子3のsgRNAの両方が導入された場合にのみ、挿入/欠失頻度の用量依存的増加が見られた。対照的に、Cas9導入初代マウス肝細胞では、Cas9 mRNAの代わりに、標的遺伝子3のガイドRNAを対照GFP mRNAと共に導入した場合に、同様の用量依存的効果が見られ、挿入/欠失頻度のレベルは、Cas9 mRNAも導入した場合に見られたレベルと本質的に同一であった。
【0280】
次いで、流体力学的DNA送達(HDD)、脂質ナノ粒子(LNP)送達によってsgRNAをカセット欠失Cas9マウス(MAID2600)に導入することにより、または尾静脈注射によるsgRNA発現配列を担持するアデノ随伴ウイルス(AAV)の導入により、in vivoで標的遺伝子3をノックアウトする実験を行った。図6A~6Dを参照されたい。対照として、sgRNA導入の同じ方法を、野生型(WT)マウスにおける外因性Cas9発現と対合させた。LNP媒介性送達については、3群のマウスを試験した:(1)Cas9導入マウス(3匹のオス+3匹のメス;2mg/kgの対照sgRNA+GFP mRNA);(2)Cas9導入マウス(3匹のオス+3匹のメス;2mg/kgの標的遺伝子3のためのsgRNA+GFP mRNA);および(3)WTマウス(3匹のオス+3匹のメス;2mg/kgの標的遺伝子3のためのsgRNA+Cas9 mRNA)。AAV媒介性送達については、2群のマウスを試験した:(1)Cas9導入マウス(3匹のオス+3匹のメス;AAV8-標的遺伝子3のためのsgRNA);および(2)WTマウス(3匹のオス+3匹のメス;AAV8-標的遺伝子3のためのsgRNA+AAV8-Cas9)。HDDについては、2群のマウスを試験した:(1)Cas9導入マウス(3匹のオス+3匹のメス;標的遺伝子3のためのsgRNA);および(2)WTマウス(3匹のオス+3匹のメス;標的遺伝子3のためのsgRNA+Cas9)。Cas9導入マウスは、外因性Cas9発現を示すWTマウスよりも一貫して、かつ有意により標的化された遺伝子不活化を有していた。
【0281】
驚くべきことに、標的遺伝子3のsgRNAのCas9導入マウス(MAID2600)へのAAV8媒介性送達は、肝臓標的遺伝子3を標的にする際にLNP媒介性送達またはHDDよりも有効であった。図6A~6Dを参照されたい。さらに、標的遺伝子3のsgRNAのCas9導入マウスへのAAV8媒介性送達は、標的遺伝子3のsgRNAとCas9の両方のWTマウスへのAAV8媒介性送達よりも有効であったが、LNP媒介性送達またはHDDを使用する両条件の間では大きな差異は観察されなかった。図6A~6Dを参照されたい。これらの結果は、ガイドRNAのCas9導入マウスへのAAV媒介性送達が、in vivoでgRNA活性を試験するための特に有効な手段であり得ることを示している。標的遺伝子3によってコードされるタンパク質(すなわち、標的タンパク質3)の血清レベルを、CRISPR/Cas構成成分の導入後、7日目および21日目にメスおよびオスのマウスにおいて測定した。試験したマウスは、Cas9導入マウスと野生型マウスを含んでいた。対照は、Cas9導入マウスと、Cas9も標的遺伝子3のsgRNAも導入されていないWTマウスを含んでいた。ガイドRNAまたはCas9とガイドRNAとの組合せの流体力学的送達は、Cas9もガイドRNAも導入されていない対照WTマウスと比較して有意な方法で標的タンパク質3の血清レベルを低下させなかった。LNP媒介性送達については、sgRNAのCas9導入マウスへの導入は、Cas9とsgRNAの両方が導入されたWTマウスと比較して同様の血清レベルの標的タンパク質をもたらし、これらの条件はそれぞれ、Cas9もガイドRNAも導入されていないCas9導入対照マウスと比較して、標的タンパク質3の血清レベルの約50%の低下をもたらした。しかしながら、AAV8媒介性送達については、sgRNAのCas9導入マウスへの送達は、Cas9とsgRNAの両方が導入されたWTマウスと比較して、標的タンパク質3の血清レベルの数倍の低下をもたらし、Cas9もガイドRNAも導入されていない対照WTマウスと比較して、さらにより劇的な低下をもたらした。21日目までに、標的タンパク質3の血清レベルは、sgRNAがAAV8によって導入されたCas9導入マウスにおいて検出限界の近くまで低下した。
【0282】
図7は、sgRNAのみ、もしくはCas9 mRNAと一緒のsgRNAの脂質ナノ粒子(LNP)送達、sgRNAプラスミドのみ、もしくはCas9プラスミドと一緒のsgRNAプラスミド、またはAAV8-sgRNAのみ、もしくはAAV8-Cas9と一緒のAAV8-sgRNAの流体力学的送達(HDD)の1ヶ月後の、野生型マウスおよびカセット欠失Cas9マウス(MAID2600)中の肝臓における標的遺伝子3遺伝子座でのNHEJ活性のパーセント(インデル頻度)を示す。遺伝子座に挿入/欠失(インデル)を有する肝臓細胞のパーセンテージを、NGSによって測定した。ガイドRNAまたはCas9とガイドRNAとの組合せの流体力学的送達は、低いパーセンテージのインデルをもたらした。LNP媒介性送達については、sgRNAのCas9導入マウスへの導入は、Cas9とsgRNAの両方が導入されたWTマウスと比較して、類似するパーセンテージのインデルをもたらし、これらの条件はそれぞれ、約40%であるインデルのパーセンテージレベルをもたらした。しかしながら、AAV8媒介性送達については、sgRNAのCas9導入マウスへの送達は、Cas9とsgRNAの両方が導入されたWTマウス(約35%)と比較して、はるかにより大きいパーセンテージのインデル(約75%)をもたらし、Cas9もガイドRNAも導入されていない対照WTマウスと比較して、さらにより劇的な増加をもたらした。
【0283】
さらに、収穫した組織において、次世代シーケンシング(NGS)も実施した。次いで、アンプリコン配列決定を使用して、収穫した組織の編集の量を評価する。ガイドの予想カット部位の周辺の中心からわずかに外れた約300bpの生成物を産生するように標的特異的プライマーを設計する。次いで、それらに「アダプター」配列が付加されたプライマーは、二次PCR反応において個々の試料をバーコード化することを可能にする。バーコードが付加されたら、試料を全て一緒にプールし、MiSeq上にロードする。5000~10000のリードが、目的の領域にわたって予想される。次いで、情報プログラムを実行して、リードをマッピングして、それぞれの編集の正確な配列を決定する。次いで、プログラムは、WT(未編集)リードの数を計測し、全ての編集されたリードに対して行った編集の型の切断(予測される編集領域中で付加および/または欠失された塩基対の数の評価)を提供する。
【0284】
次いで、標的遺伝子4のエクソン2を標的にするsgRNAを含むCas9を、野生型(WT)マウスから単離された初代肝細胞に導入することによって、II型膜結合糖タンパク質をコードする標的遺伝子4をノックアウトする実験を行った。5つの異なるsgRNA(ガイド1~5)を試験した。Cas9/sgRNAリボ核タンパク質(RNP)複合体を、リポフェクタミンにより細胞に導入した。次いで、次世代シーケンシング(NGS)によって非相同末端結合を評価して、標的遺伝子4遺伝子座でのインデル頻度を測定した。編集率(%)は、全リードにわたる全NHEJ事象の尺度である。NHEJ事象は、カット部位の前後20bpで起こる全ての編集(挿入、欠失、塩基変化)であると考えられる。ガイド1~5に関する編集率(%)は、以下の通りであった:それぞれ、35.4%、37.4%、43.8%、51.2%、および55.8%(データは示さない)。
【0285】
次いで、同じ5つのsgRNAを、AAV8により別々のカセット欠失Cas9マウス(MAID2600)に導入することによって、in vivoで標的遺伝子4をノックアウトする実験を行った。具体的には、U6プロモーターによって発現される個々のガイドを、AAV8中でパッケージングし、尾静脈注射によって6~12週齢のカセット欠失Cas9マウスに導入した。導入されたウイルス量は、50~100μLのおよその容量中で、1x1011~1x1012であった。肝臓を、注射の3~4週間後に収穫した。編集率(%)を、それが初代肝細胞中にあったものとして算出したが、それは図8Aに示される。編集レベルは、初代肝細胞中で観察された編集レベルと一致し、実際はそれより高かった。標的遺伝子4から転写されるmRNAの発現レベルも試験した。図8Bに示されるように、それぞれのgRNAは、注射の3~4週間後に収穫された肝臓において標的遺伝子4から転写されたmRNAの相対レベルを低下させた。
【0286】
肝臓中のいくつかの他の標的遺伝子における編集率(%)を試験するための実験も行った。それぞれの実験において、マウスの週齢は、約6~12週齢であった。それぞれの標的遺伝子について、5つの異なるガイドRNAを、重要なエクソンに対して設計した。ガイドRNAを、50~100μLのおよその容量中の1x1011~1x1012のウイルス量を用いる尾静脈注射によって、AAV8により送達した。肝臓を、注射の3~4週間後に収穫した。上で説明したように、編集率(%)を決定した。AAV8-gRNAの送達によるカセット欠失Cas9マウス(MAID2600)の肝臓中での編集率(%)を、表12に示す。それぞれの遺伝子に関する最良のgRNAにより、in vivoで肝臓中での48%~70%の編集が得られた。
【0287】
【表12】
【0288】
(実施例2)
Cas9導入マウスの誘導性の検証
実施例1に記載されたLSL-Cas9対立遺伝子(MAID2599)は、Cas9コード配列の上流にフロキシングされた強力なポリ(A)領域(lox-stop-lox、またはLSL)を含む。Creリコンビナーゼの作用によるカセットの除去の前に、ネオマイシン耐性遺伝子は通常、効率的に転写および翻訳される;しかしながら、Cas9 CDSは通常、ランスルー転写を効率的に遮断することができる強力なポリ(A)領域の存在のため、発現されない。Creリコンビナーゼの作用によるneoカセットの除去の際に、Cas9とGFPタンパク質とのハイブリッドmRNAは、通常、Rosa26プロモーターによって構成的に発現される。これにより、Cas9対立遺伝子は誘導性になる。これは、いくつかの理由から有益である。ある特定の組織(例えば、免疫細胞など)において一部の遺伝子を編集する可能性は、免疫応答を潜在的に引き起こすと共に、有害であり得る。さらに、ある特定の環境では、標的個体を通じた遺伝子の突然変異は致死的であり得るが、特定の組織または細胞型における遺伝子の突然変異は有益であり得る。MAID2599対立遺伝子の誘導的性質により、どの組織および細胞型が、組織特異的または細胞特異的様式でCas9を活性化することによってのみ編集されているかに関してより高い特異性が可能となる。
【0289】
in vivoでの肝臓におけるCas9発現の誘導性を試験するために、CreリコンビナーゼmRNAを含有する脂質ナノ粒子(LNP)を、Precision Nanosystems Benchtop NanoAssmblr上で製剤化した。TrilinkからのCre mRNA(カタログ番号7211)を、10mMクエン酸ナトリウム中で希釈し、50:10:38.5:1.5のモル比の陽イオン脂質、DSPC、コレステロール、およびPEG-DMGの脂質混合物と、3:1でNanoAssemblrカセットを介して混合した。この製剤は、肝臓によって容易に吸収される。得られるLNP-Creを、1mg/kgでLSL-Cas9マウス(MAID2599)の尾静脈を介して注射した。対照マウスでは、LNP-Creを注射しなかった。1週間後、マウスを犠牲にし、抗Cas9(7A9)モノクローナル抗体(Invitrogenカタログ番号MA5-23519)および抗アクチン(C4)モノクローナル抗体(Millipore Sigmaカタログ番号MAB1501)を使用するウェスタン分析のために器官を収穫した。カセット欠失Cas9マウス(MAID2600)に由来する器官を、陽性対照として使用した。これらのマウスでは、LSLカセットは、Creリコンビナーゼによって既に除去されている。結果を図9に示すが、肝臓特異的遺伝子編集のためのLNP-Cre送達を用いた、肝臓特異的Cas9活性化に関する概念実証を示す。
【0290】
次いで、Cas9媒介性遺伝子編集の誘導性を、in vivoで試験した。上記のようにLNP-Creを製剤化した。以下の群:(1)LNP-CreおよびAAV8-gRNAで処置された3匹のLSL-Cas9マウス;(2)LNP-CreおよびPBSで処置された3匹のLSL-Cas9マウス;(3)PBSおよびAAV8-gRNAで処置された3匹のLSL-Cas9マウス;(4)PBSのみで処置された3匹のLSL-Cas9マウス;(5)LNP-Creで処置された3匹のカセット欠失Cas9マウス;(6)AAV8-gRNAで処置された3匹のカセット欠失Cas9マウス;(7)PBSで処置された3匹のカセット欠失Cas9マウス;ならびに(8)3匹のWTマウス(未処置)のマウスに、標的遺伝子3を標的とするLNP-CreおよびAAV8-gRNAを投与した(尾静脈注射による同時注射)。LNP-Creを送達した群では、それは1mg/kgの濃度で送達された。AAV8-gRNAを送達した群では、それは約2x1011のウイルス量で送達された。注射の1週後および3週後、血清化学のために、および標的タンパク質3の循環血清レベルを測定するために、マウスを出血させた。また、3週で、NGSおよびウェスタン分析のために組織を収穫した。標的タンパク質3の血清レベルを、ELISAによって測定した。その結果を、図10に示す。AAV8-gRNAと一緒にLNP-CreをLSL-Cas9マウスに送達することにより、AAV8-gRNAを送達したカセット欠失Cas9マウスにおいて観察された低下と一致して、標的タンパク質3の血清レベルが低下した。これらのELISAの結果は、注射の3週間後のマウスから単離された肝臓中での標的遺伝子3における編集率(%)に関するNGSの結果と一致していた。図11を参照されたい。
【0291】
次に、LSL-Cas9マウスを、アルブミンプロモーターがCreリコンビナーゼコード配列に作動可能に連結され、肝臓におけるその発現を駆動するJaxからのアルブミン-Creマウス(3601-Tg(Alb-cre)21Mgn;MAID3601)と交配した。交配後、いくつかの組織を、ウェスタンブロット分析のためにマウスから収穫した。対応する組織を、アルブミン-Creマウスと交配しなかったLSL-Cas9マウスから収穫した。次いで、肝臓および脳におけるCas9発現を測定するウェスタンブロットを実施した。アクチンを、ローディング対照として使用した。Cas9の予測サイズは150.48kDであり、アクチンの予測サイズは41.25kDであった。17.5μgの肝臓タンパク質溶解物および脳タンパク質溶解物を使用した。TruCut v2 Cas9(17.5μg)を、陽性対照として使用した。図12Aに示されるように、Cas9発現は、LSL-Cas9/Alb-Creマウスの肝臓中では観察されたが、LSL-Cas9マウスの肝臓中では観察されなかった。Cas9発現は、いずれのマウスに由来する脳組織中でも観察されなかった(図12Bを参照されたい)が、Cas9発現は、肝臓において特異的に誘導された。
【0292】
これらのマウスにおいて、in vivoでCas9媒介性遺伝子編集を試験するための実験を行った。実験は、尾静脈注射により標的遺伝子3を標的とするAAV8-gRNAを注射した5群の8~12週齢のマウスを含んでいた:(1)3匹のLSL-Cas9:Alb-Creマウス(MAID2599 Het、MAID3601 Het);(2)3匹のWT:Alb-Creマウス(MAID2599 WT、MAID3601 Het);(3)3匹のLSL-Cas9:WTマウス(MAID2599 Het、MAID3601 WT);(4)3匹のCas9マウス(MAID2600 HetまたはHom);および(5)3匹の75/25マウス(50500WT)。各群に由来するマウスを、AAV8-gRNAを注射しなかった対照としても使用した。AAV8-gRNAを送達した群では、それは約2x1011のウイルス量で送達された。注射の1週間後、血清化学およびELISAのためにマウスを出血させた。注射の3週間後、マウスを出血させ、組織を収穫した。その結果を、図13に示す。LSL-Cas9マウスをアルブミン-Creマウスと交配させた後、AAV8-gRNAを注射することにより、AAV8-gRNAを送達したカセット欠失Cas9マウスにおいて観察された低下と一致して、標的タンパク質3の血清レベルが低下した。
【0293】
本明細書に記載のCas9導入マウス系は、Cas9の外因性導入に依拠する他の方法よりもロバストな遺伝子編集を誘導することができる。さらに、この系は、ネオマイシンカセットの欠失に基づいてCas9を条件的に発現することができる。この系と、様々なCre欠失マウス株とを組み合わせることにより、Cas9誘導性ゲノム編集のタイミングを制御し、組織特異的Cas9発現をin vivoで提供することができる。
(項目1)
in vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Casヌクレアーゼの能力を試験する方法であって、
(a)非ヒト動物に、前記標的ゲノム遺伝子座のガイドRNA標的配列を標的とするように設計されたガイドRNAを導入するステップであって、
前記非ヒト動物が、NLS-Casコード配列を含む、ゲノムに組み込まれたCas発現カセットを含み、
前記ガイドRNAが、アデノ随伴ウイルス(AAV)媒介性送達によって導入される、ステップ;および
(b)前記標的ゲノム遺伝子座の前記改変を評価するステップ
を含む、方法。
(項目2)
前記AAVが、AAV7、AAV8、またはAAV9であり、ステップ(b)が、肝臓において前記標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記AAVがAAV8である、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記AAVの前記非ヒト動物への投与経路が、静脈内注射、実質内注射、腹腔内注射、点鼻、または硝子体内注射である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目5)
ステップ(a)において外因性ドナー核酸が導入され、前記外因性ドナー核酸が、前記標的ゲノム遺伝子座と組み換わるように設計されている、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6)
前記外因性ドナー核酸が、一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)である、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記非ヒト動物が、ラットまたはマウスである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目8)
前記非ヒト動物がマウスである、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記標的ゲノム遺伝子座が標的遺伝子を含み、ステップ(b)が、前記標的遺伝子の発現または前記標的遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を測定することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目10)
ステップ(b)が、前記非ヒト動物から単離された1つまたは複数の細胞中の前記標的ゲノム遺伝子座を配列決定することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目11)
ステップ(b)が、前記非ヒト動物から標的器官または組織を単離すること、および前記標的器官または組織中で前記標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目12)
ステップ(b)が、前記標的器官または組織内の2つまたはそれより多い異なる細胞型中で前記標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む、項目11に記載の方法。
(項目13)
ステップ(b)が、前記非ヒト動物から非標的器官または組織を単離すること、および前記非標的器官または組織中で前記標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目14)
前記NLS-Casコード配列が、NLS-Cas9コード配列である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目15)
前記Cas発現カセットが、前記NLS-Casコード配列の上流にポリアデニル化シグナルをさらに含み、前記ポリアデニル化シグナルが、リコンビナーゼ認識部位によって挟まれ、前記Cas発現カセット中の前記ポリアデニル化シグナルが、組織特異的様式で切り出されている、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目16)
前記NLS-Casコード配列の上流の前記ポリアデニル化シグナルが、肝臓中で切り出されている、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記Cas発現カセット中の前記リコンビナーゼ認識部位を認識するリコンビナーゼが、Creリコンビナーゼである、項目15または16に記載の方法。
(項目18)
前記非ヒト動物が、組織特異的プロモーターに作動可能に連結されたCreリコンビナーゼコード配列を含む、ゲノムに組み込まれたCreリコンビナーゼ発現カセットをさらに含む、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記Creリコンビナーゼ遺伝子が、表2に記載のプロモーターのうちの1つに作動可能に連結されている、項目17または18に記載の方法。
(項目20)
前記Cas発現カセットが、前記NLS-Casコード配列の上流にポリアデニル化シグナルをさらに含み、前記ポリアデニル化シグナルが、リコンビナーゼ認識部位によって挟まれ、前記方法が、リコンビナーゼを組織特異的様式で前記非ヒト動物に導入するステップをさらに含む、項目1から14のいずれか一項に記載の方法。
(項目21)
前記リコンビナーゼが、アデノ随伴ウイルス(AAV)媒介性送達または脂質ナノ粒子(LNP)媒介性送達によって導入される、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記Cas発現カセットが、蛍光タンパク質コード配列をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目23)
前記Cas発現カセットが、介在内部リボソーム進入部位(IRES)または介在2Aペプチドコード配列によって隔てられた、前記NLS-Casコード配列および前記蛍光タンパク質コード配列を含むマルチシストロン性核酸を含む、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記Cas発現カセット中の前記マルチシストロン性核酸が、介在P2Aペプチドコード配列によって隔てられた、前記NLS-Casコード配列および緑色蛍光タンパク質コード配列を含む、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記Cas発現カセットが、蛍光タンパク質コード配列をさらに含まない、項目1から21のいずれか一項に記載の方法。
(項目26)
前記NLS-Casコード配列が、タンパク質タグを含むCasタンパク質をコードする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目27)
前記Cas発現カセットの5’末端が、3’スプライシング配列をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目28)
前記Cas発現カセットが、内因性プロモーターに作動可能に連結されている、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目29)
前記Cas発現カセットが、外因性の構成的プロモーターに作動可能に連結されている、項目1から27のいずれか一項に記載の方法。
(項目30)
前記Cas発現カセットが、配列番号13、16、19、または22に記載の配列を含むタンパク質をコードする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目31)
前記Cas発現カセットが、配列番号28、29、30、または31に記載の配列を含む、項目30に記載の方法。
(項目32)
前記Cas発現カセットが、配列番号1、12、14、15、17、18、20、または21に記載の配列を含む、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記Cas発現カセットが、セーフハーバー遺伝子座に組み込まれる、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目34)
前記セーフハーバー遺伝子座が、Rosa26遺伝子座である、項目33に記載の方法。
(項目35)
前記Cas発現カセットが、前記Rosa26遺伝子座の第1のイントロンに組み込まれる、項目34に記載の方法。
(項目36)
前記非ヒト動物が、前記Cas発現カセットについてヘテロ接合性である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目37)
前記非ヒト動物が、前記Cas発現カセットについてホモ接合性である、項目1から35のいずれか一項に記載の方法。
(項目38)
前記非ヒト動物が、マウスであり、
前記AAVが、静脈内注射によって前記非ヒト動物に送達されるAAV8であり、
前記Cas発現カセットが内因性Rosa26プロモーターに作動可能に連結されており、前記Rosa26遺伝子座の第1のイントロンに挿入され、5’から3’に向かって、(i)3’スプライシング配列;および(ii)NLS-Cas9コード配列を含み、
ステップ(b)が、前記非ヒト動物の肝臓中での前記標的ゲノム遺伝子座の改変を評価することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目39)
in vivoで標的ゲノム遺伝子座を改変するCRISPR/Casヌクレアーゼの能力を最適化する方法であって、
(I)第1の非ヒト動物において1回目の前記項目のいずれかに記載の方法を実施するステップ;
(II)変数を変更し、第2の非ヒト動物において変更された前記変数を用いて2回目のステップ(I)に記載の方法を実施するステップ;および
(III)ステップ(I)における前記標的ゲノム遺伝子座の改変と、ステップ(II)における前記標的ゲノム遺伝子座の改変とを比較し、より高い有効性、より高い精度、より高い一貫性、またはより高い特異性のうちの1つまたは複数を有する標的ゲノム遺伝子座の改変をもたらす方法を選択するステップ
を含む、方法。
(項目40)
ステップ(II)における前記変更された変数が、前記AAV血清型である、項目39に記載の方法。
(項目41)
ステップ(II)における前記変更された変数が、前記ガイドRNAを前記非ヒト動物に導入する投与経路である、項目39に記載の方法。
(項目42)
ステップ(II)における前記変更された変数が、前記非ヒト動物に導入される前記ガイドRNAの濃度または量である、項目39に記載の方法。
(項目43)
ステップ(II)における前記変更された変数が、前記非ヒト動物に導入される前記ガイドRNAである、項目39に記載の方法。
(項目44)
前記方法が、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における前記変更された変数が、前記外因性ドナー核酸を前記非ヒト動物に導入する送達方法である、項目39に記載の方法。
(項目45)
前記方法が、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における前記変更された変数が、前記外因性ドナー核酸を前記非ヒト動物に導入する投与経路である、項目39に記載の方法。
(項目46)
前記方法が、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における前記変更された変数が、前記非ヒト動物に導入される前記外因性ドナー核酸の濃度または量である、項目39に記載の方法。
(項目47)
前記方法が、外因性ドナー核酸を導入するステップを含み、ステップ(II)における前記変更された変数が、前記非ヒト動物に導入される外因性ドナー核酸の濃度または量と比較した、前記非ヒト動物に導入される前記ガイドRNAの濃度または量である、項目39に記載の方法。
(項目48)
ステップ(II)における前記変更された変数が、前記非ヒト動物に導入される前記外因性ドナー核酸である、項目39に記載の方法。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
【配列表】
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