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特開2023-165955樹脂を硬化させるのに有用な加速剤溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165955
(43)【公開日】2023-11-17
(54)【発明の名称】樹脂を硬化させるのに有用な加速剤溶液
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20231110BHJP
   C08L 67/06 20060101ALI20231110BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20231110BHJP
   C08K 5/36 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L67/06
C08K3/08
C08K5/36
【審査請求】有
【請求項の数】28
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023168468
(22)【出願日】2023-09-28
(62)【分割の表示】P 2020543814の分割
【原出願日】2019-02-11
(31)【優先権主張番号】62/631,997
(32)【優先日】2018-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アラーディン・アラスバイー
(72)【発明者】
【氏名】エバン・クロッカー
(57)【要約】
【課題】樹脂たとえば不飽和ポリエステル樹脂のペルオキシド硬化を加速するのに有用である加速剤溶液を提供する。
【解決手段】1個又は複数のS-C-N、S-C-C-N、又はS-C(=S)-S残基を有する有機配位子をベースとする遷移金属錯体を含む加速剤溶液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速剤溶液であって、
a)Fe、Cu、Zn、Ni、Mn、Cr、Sn、Au、Pd、及びPtからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属と、少なくとも1個のS-C-N、S-C-C-N又はS-C(=S)-S残基を含む、少なくとも1種の有機配位子との、少なくとも1種の遷移金属錯体;及び
c)少なくとも1種の溶媒、
を含む、加速剤溶液。
【請求項2】
前記少なくとも1種の遷移金属が、Fe、Cu、Zn、及びNiからなる群から選択される、請求項1に記載の加速剤溶液。
【請求項3】
前記少なくとも1種の有機配位子が、
式(I):-X-C-C-SH[式中、Xは、N、NH、又はNH2であり、-X-C-C-は、脂肪族、又は飽和、不飽和若しくは芳香族の環構造の一部である];
式(II):-X-C(=S)-X1-[式中、Xは、S、SH、N、又はNHであり、X1は、NH又はNH2であり、-X-C-X1-残基は、脂肪族、又は飽和、不飽和若しくは芳香族の環構造の一部である];又は
式(III):-S-C(=S)-S-、
から選択される少なくとも1個の残基を含む、請求項1又は2に記載の加速剤溶液。
【請求項4】
前記少なくとも1種の有機配位子が、H2N-C-C-SH、-N-C-SH[式中、N及びCは、芳香族環の一部である]、H2N-C(=S)-、及び-NH-C(=S)-からなる群から選択される少なくとも1個の残基を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
【請求項5】
前記少なくとも1種の配位子が、メルカプトピリジン、アセチルチオ尿素、トリチオシアヌル酸、ロダニン、システアミン、2-イミノ-4-チオビウレット、チオ尿素、及びビス(カルボキシメチル)トリチオカーボネート、並びにそれらの脱プロトン化した誘導体からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
【請求項6】
前記加速剤溶液が、Coを含まない、請求項1~5のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
【請求項7】
前記加速剤溶液がさらに、少なくとも1種の塩基又は少なくとも1種のカルボン酸を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
【請求項8】
前記加速剤溶液がさらに、少なくとも1種の窒素含有塩基又は少なくとも1種の飽和脂肪族カルボン酸を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
【請求項9】
前記組成物がさらに、少なくとも1種のエトキシル化アミン又は少なくとも1種のC1~C6脂肪族カルボン酸を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
【請求項10】
前記錯体が、少なくとも1種の溶媒の存在下に、遷移金属塩を、少なくとも1個のS-C-N、S-C-C-N、又はS-C(=S)-S残基を含む少なくとも1種の有機配位子と結合させることにより調製された、請求項1~9のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
【請求項11】
前記錯体が、少なくとも1種の溶媒の存在下に、遷移金属塩を、
式(I):-X-C-C-SH[式中、Xは、N、NH、又はNH2であり、-X-C-C-は、脂肪族、又は飽和、不飽和若しくは芳香族の環構造の一部である];
式(II):-X-C(=S)-X1-[式中、Xは、S、SH、N、又はNHであり、X1は、NH又はNH2であり、-X-C-X1-残基は、脂肪族、又は飽和、不飽和若しくは芳香族の環構造の一部である];又は
式(III):-S-C(=S)-S-、
から選択される少なくとも1種の残基を含む少なくとも1種の有機配位子と、結合させることによって調製された、請求項1~10のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
【請求項12】
前記少なくとも1種の溶媒が、アルコール、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アルデヒド、ケトン、エーテル、エステル、リン酸エステル、カルボン酸、アミド、スルホキシド、及びN-アルキルピロリドン、並びにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
【請求項13】
前記少なくとも1種の溶媒が、脂肪族ポリアルコールからなる群から選択される、請求項1~12のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
【請求項14】
前記遷移金属錯体が、アセチルチオ尿素のFeとの錯体;アセチルチオ尿素のCuとの錯体;アセチルチオ尿素のZnとの錯体;チオシアヌル酸のFeとの錯体;チオシアヌル酸のCuとの錯体;ロダニンのFeとの錯体;ロダニンのCuとの錯体;システアミンのCuとの錯体;2-(ブチルアミノ)エタンチオール(ブチルシステアミン)のCuとの錯体;ビス(カルボキシメチル)トリチオカーボネートのCuとの錯体;メルカプトピリジンのCuとの錯体、Znのメルカプトピリジン錯体、Feのメルカプトピリジン錯体、及びイミノチオビュレットのCuとの錯体からなる群から選択される、請求項1~13のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
【請求項15】
硬化性樹脂を硬化させる方法であって、前記硬化性樹脂を、少なくとも1種のペルオキシド及び請求項1~14のいずれか1項に記載の少なくとも1種の加速剤溶液と組み合わせることを含む、方法。
【請求項16】
前記少なくとも1種のペルオキシドが、有機ペルオキシドからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1種のペルオキシドが、ケトンペルオキシド、ペルオキシエステル、ジアリールペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート、ペルオキシカーボネート、ペルオキシケタール、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、及び過酸化水素からなる群から選択される、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1種のペルオキシドが、ケトンペルオキシド、ペルオキシエステル、モノペルオキシジカーボネートからなる群から選択される、請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1種のペルオキシドが、メチルエチルケトンペルオキシドを含む、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1種のペルオキシドが、25℃で液状である、請求項15~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記硬化性樹脂が、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、及び(メタ)アクリレート樹脂からなる群から選択される、請求項15~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂からなる群から選択される、請求項15~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
請求項15~22のいずれか1項に記載の方法によって、得られる硬化させた樹脂。
【請求項24】
加速剤溶液を調製するためのプロセスであって、Fe、Cu、Zn、Ni、Mn、Cr、Sn、Au、Pd、及びPtの少なくとも1種を含む少なくとも1種の遷移金属塩を、少なくとも1個のS-C-N、S-C-C-N、又はS-C(=S)-S残基を含む少なくとも1種の有機配位子と、有機溶媒の中で反応させて、前記少なくとも1種の遷移金属塩と前記少なくとも1種の有機配位子とからの少なくとも1種の遷移金属錯体を形成させる工程を含む、プロセス。
【請求項25】
請求項24のプロセスによって得られる、加速剤溶液。
【請求項26】
予備加速された硬化性樹脂であって、少なくとも1種の硬化性樹脂及び、請求項1~14のいずれか1項に記載の少なくとも1種の加速剤溶液を含む、予備加速された硬化性樹脂。
【請求項27】
第一の成分と第二の成分とを含む二成分系であって、前記第一の成分が、請求項26に記載の少なくとも1種の予備加速された硬化性樹脂を含み、前記第二の成分が、少なくとも1種のペルオキシドを含む、二成分系。
【請求項28】
硬化させた樹脂組成物であって、硬化させた樹脂、並びにFe、Cu、Zn、Ni、Mn、Cr、Sn、Au、Pd、及びPtからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属と、少なくとも1個のS-C-N、S-C-C-N、又はS-C(=S)-S残基を含む、少なくとも1種の有機配位子との少なくとも1種の遷移金属錯体を含む、硬化させた樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、加速剤(accelerator)溶液、そのような加速剤溶液を作成するための方法、そのような加速剤溶液を使用して硬化性樹脂を硬化させるための方法、そのような加速剤溶液を使用して得られる硬化させた樹脂、そのような加速剤溶液を含む予備加速された(pre-accelerated)硬化性樹脂、並びにそのような予備加速された硬化性樹脂が一つの成分を構成する二成分系に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルオキシドは、一般的に、各種のタイプの樹脂、特にはエチレン性不飽和のサイトを有するモノマー及び/又はオリゴマーを含む樹脂、たとえば不飽和ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂を硬化(架橋)させるための、開始剤として使用される。当業界で、しばしば実行されているのが、1種又は複数の金属-ベースの触媒又は促進剤(promotor)を、ペルオキシドと組み合わせて採用して、そのペルオキシドの硬化特性を修正又は制御することである。
【0003】
液状の有機ペルオキシド(たとえばメチルエチルケトンペルオキシド、MEKPとも呼ばれている)を促進させるための従来の方法には、レドックス機構を介してペルオキシドと反応する遷移金属触媒(たとえばコバルト塩)を使用することが含まれる。この反応においては、Co(II)イオンが、酸化されてCo(III)となり、ペルオキシド開始剤が還元されて、反応性のRO・ラジカルを発生し、それが、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などの重合を効果的に開始させる。コバルト塩は、たとえばMEKPのようなペルオキシドを促進させるための、最も広く使用されてきた触媒ではあるが、そのような触媒は、たとえば次のような大きな欠点を有している:1)一般的にppmの桁であっても、ヒト及び環境に対する高毒性(全世界的に、行政規制がますます厳しくなっている)、2)他の遷移金属をベースとする触媒と比較して、相対的に高コスト、並びに3)硬化させた樹脂を(茶色又は黒色に)強く着色する傾向(このことにより、最終製品への商業的応用が制限されている)。
【0004】
従来からのコバルト-ベースの触媒のこれらの欠点のために、より豊富に存在する遷移金属たとえば、Fe、Cu、Zn、及びNiをベースとする、他のタイプの遷移金属触媒を採用する可能性を求めて検討されるようになったが、その理由は、Coよりもそれらの金属の方が、より安価であり、そして毒性がより少なく、そして、着色がより少ない硬化させた樹脂が得られる傾向があるからである。しかしながら、それらの金属は、本来的に、コバルトよりも反応性が低く、そしてそれらの塩は、単独では、MEKP及び他の液状ペルオキシドを十分に促進させることができない。そのため、最近になって、新規な促進系及び配合物が開発されたが、そこでは、それらの金属、特にFe及びCuを、酸素含有、及び/又は窒素含有、及び/又はリン含有有機配位子と混合していた。しかしながら、それらの配位子は、多くの場合、比較的大量に使用する必要があり、また所望の反応性、並びにゲル化及び硬化速度/熱力学を達成するためには、窒素塩基、還元剤、安定剤、及びその他の成分と組み合わせて使用する必要がある。さらには、そのようにして得られた配合物は、多くの場合、時間の経過により金属が沈降するために、長期安定性に乏しいという欠点があり、このことが、長期貯蔵の後での性能の劣化につながっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、Coを含まず、環境的により有利であり、そして、上に述べたような有害な性質を有さず、しかも、所望の反応性、ゲル化及び/又は硬化速度、並びに良好な貯蔵寿命を達成するような、ペルオキシド促進剤のための新規な加速剤系を開発することが、望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
硫黄及び窒素原子の両方、又はトリチオカーボネート残基を含むある種の有機化合物が、遷移金属たとえば、Fe、Cu、Ni、及びZnのための効果的な促進剤となりうることが、今や見出された。そのような有機化合物は、遷移金属のための配位子として機能することができ、それによって、ペルオキシドが、エチレン性不飽和樹脂系、たとえば不飽和ポリエステル樹脂の硬化を開始させることを促進する性能に関連して遷移金属の反応性を増大させるが、ここで、そのような系の重合を周囲温度(室温)でさえも効果的に開始させることができる。この目的のために効果のある有機配位子は、1個又は2個の炭素原子で分離された硫黄原子及び窒素原子(すなわち、S-C-N、及びS-C-C-N残基)を有することを特徴とする1個又は複数の構造サブユニット(残基)を含むものであることが見出されたが、そのようなものとしては、たとえば以下のものが挙げられる:メルカプトピリジン、アセチルチオ尿素、トリチオシアヌル酸、ロダニン、システアミン、2-イミノ-4-チオビウレット、2-(ブチルアミノ)エタンチオール、2-アミノチオフェノール、N-フェニルチオ尿素、及びチオ尿素など(ここで、遷移金属と錯体化させた場合、そのような配位子は、脱プロトン化された形をとることができる)。少なくとも1個のトリチオカーボネート残基(S-C(=S)-S)を含む化合物が、本発明の目的のための効果的な配位子として機能することもまた見出された。
【0007】
そのような有機配位子は、比較的にコスト的に安価とすることができ、市場で容易に入手することができ、さらには、遷移金属たとえば、Fe、Cu、Ni、及びZn(これらもまた、慣用されるCo-ベースの加速剤に比較して、比較的にコスト的に安価であり、毒性/環境的な問題が少ない)を効果的に活性化させて、それにより、それらの金属が、室温で、ペルオキシドたとえばメチルエチルケトンペルオキシドを促進させて、エチレン性不飽和樹脂たとえば不飽和ポリエステル樹脂を、望ましく高い発熱を伴って、硬化させる。驚くべきことには、このタイプの特定の遷移金属錯体によって示される硬化熱力学は、有機配位子/遷移金属の比率を変化させる、及び/又は安価な有機酸又は塩基の添加量を変化させるかすることによって、さらに微調整したり制御したりすることができるということが見出された。それに加えて、有機配位子は、比較的に低い量(典型的には、硬化性樹脂の重量に対して0.4重量%未満)で採用され、そして着色がほとんど又はまったく無い、硬化させた樹脂を製造することが可能となるが、このことは、そのような硬化させた樹脂から製造される物品の外観が重要であるような、ある種の最終使用用途においては、極めて望ましい。
【0008】
したがって、本発明のある種の態様においては、以下のものを含む加速剤溶液が提供される:
a)Fe、Cu、Zn、Ni、Mn、Cr、Sn、Au、Pd、及びPtからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属と、少なくとも1個のS-C-N、S-C-C-N又はS-C(=S)-S残基を含む、少なくとも1種の有機配位子との、少なくとも1種の遷移金属錯体;及び
b)少なくとも1種の溶媒。
【0009】
他の態様においては、硬化性樹脂を硬化させる方法が提供されるが、その方法には、硬化性樹脂を、少なくとも1種のペルオキシド及び少なくとも1種のそのような加速剤溶液と組み合わせる工程が含まれる。本発明はさらに、そのような方法によって得られる硬化させた樹脂にも関する。
【0010】
他の態様においては、本発明はさらに、加速剤溶液を調製するためのプロセスも提供するが、それには、Fe、Cu、Zn、Ni、Mn、Cr、Sn、Au、Pd、及びPtの少なくとも1種を含む少なくとも1種の遷移金属塩を、少なくとも1個のS-C-N、S-C-C-N、又はS-C(=S)-S残基を含む少なくとも1種の有機配位子と有機溶媒の中で反応させて、少なくとも1種の遷移金属塩と少なくとも1種の有機配位子とからの少なくとも1種の遷移金属錯体を形成させる工程が含まれる。本発明のさらなる態様では、そのようなプロセスによって得られた加速剤溶液が提供される。
【0011】
本発明の他の態様においては、少なくとも1種の硬化性樹脂及び少なくとも1種の加速剤溶液を含む予備加速された硬化性樹脂が提供されるが、その加速剤溶液には、以下のものが含まれる:
a)Fe、Cu、Zn、Ni、Mn、Cr、Sn、Au、Pd、及びPtからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属と、少なくとも1個のS-C-N、S-C-C-N、又はS-C(=S)-S残基を含む、少なくとも1種の有機配位子との、少なくとも1種の遷移金属錯体;及び
b)少なくとも1種の溶媒。
【0012】
本発明の他の態様においては、第一の成分と第二の成分とを含む二成分系が提供されるが、その第一の成分には、そのような予備加速された硬化性樹脂に従った、少なくとも1種の予備加速された硬化性樹脂が含まれ、そしてその第二の成分には、少なくとも1種のペルオキシドが含まれる。
【0013】
本発明のもっとさらなる態様は、硬化される樹脂、並びにFe、Cu、Zn、Ni、Mn、Cr、Sn、Au、Pd、及びPtからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属と、少なくとも1個のS-C-N、S-C-C-N又はS-C(=S)-S残基を含む、少なくとも1種の有機配位子との少なくとも1種の遷移金属錯体を含む、硬化される樹脂組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
遷移金属
遷移金属錯体の遷移金属成分は、Fe、Cu、Zn、Ni、Mn、Cr、Sn、Au、Pd、及びPtから選択される、1種又は複数の遷移金属であってよい。特定の実施態様において、その遷移金属が、Fe、Cu、Zn、及びNiからなる群、又はFe、Cu、及びZnからなる群、又はFe、及びCuからなる群から選択される。いくつかの実施態様においては、銅が、最も好ましい。その加速剤溶液は、コバルトを実質的に含まないか又はまったく含まないように、配合してもよい。たとえば、その加速剤溶液には、100ppm未満、50ppm未満、25ppm未満、10ppm未満、又は1ppm未満のCoしか含まれなくてもよい。その遷移金属錯体の中には、2種以上の遷移金属が存在していてもよいし、その加速剤溶液が、2種以上の遷移金属錯体を含んでいてもよい。
【0015】
その遷移金属は、より高い及びより低いいずれの酸化状態も含め、いかなる酸化状態にあってもよい。
【0016】
その遷移金属錯体は、一般的には、錯体の中の遷移金属の出発源として機能する遷移金属の化合物と、遷移金属錯体の有機配位子成分の出発源として機能する有機化合物とを反応させることによって、調製することができる。そのような目的のために好適な遷移金属化合物としては、一般的には、上述の遷移金属のハライド、硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、酸化物、及びカルボン酸塩が挙げられる。好適なハライドの例としては、臭化物及び塩化物が挙げられる。好適なカルボン酸塩の例としては、以下のものが挙げられる:乳酸塩、2-エチルヘキサン酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、シュウ酸塩、ラウリン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、アセチルアセトネート、オクタン酸塩、ノナン酸塩、ヘプタン酸塩、ネオデカン酸塩、及びナフテン酸塩。
【0017】
遷移金属は、加速剤溶液の中に、金属として測定して、(その加速剤溶液を、硬化性組成物の中に配合したときに)、たとえば、硬化性樹脂1キログラムあたり0.5~2mmolの金属が得られるような量で、存在させてもよい。
【0018】
硬化させる樹脂系の中での遷移金属の濃度は、特定の望ましい硬化プロファイルが得られるように、必要に応じて選択し、調節してもよいが、典型的には、硬化性樹脂1キログラムあたり、0.1~5mmolの金属である。
【0019】
有機配位子
本発明において採用される遷移金属錯体で有用な配位子としては、少なくとも1個のS-C-N、S-C-C-N、若しくはS-C(=S)-S(トリチオカーボネート)残基、又は2個以上のそのような残基を含む有機化合物が挙げられる。すなわち、好適な配位子は、一般的には、その中に、a)窒素原子から1個又は2個の炭素原子により分離されている硫黄原子、又はb)トリチオカーボネート基が存在している化合物という特徴を有している。理論に束縛されることなく言えば、そのようなS-C-N又はS-C(=S)-S残基によって、本発明の少なくともある種の実施態様における配位子が、二座配位子として機能することが可能となるが、ここで、単一の硫黄原子と、窒素原子又は2個の硫黄原子の両方が、遷移金属錯体の中で同一の遷移金属原子に結合していると考えられる。それらの結合は、本質的に、配位共有結合も含めて、共有結合であってよい。上述の残基の中の硫黄原子及び窒素原子は、プロトン化されることが可能であるが(たとえば、硫黄原子が、チオール基の一部として存在している場合か、又は窒素原子が、一級若しくは二級のアミノ基の一部として存在している場合)、本発明のある種の実施態様においては、有機配位子の出発源として使用される前駆体化合物の中の硫黄原子及び/又は窒素原子の1個又は複数が最初はプロトン化されているものの、遷移金属錯体を形成させるために使用される遷移金属化合物と反応した結果として、脱プロトン化される。
【0020】
本発明のある種の態様においては、その遷移金属錯体が、式(I)に相当する少なくとも1個の残基を含む、少なくとも1種の有機配位子を含む:
-X-C-C-SH (I)
[式中、Xは、N、NH、又はNH2であり、そして-X-C-C-は、脂肪族であるか、又は飽和、不飽和、若しくは芳香族環構造の一部である]。
【0021】
他の態様においては、その遷移金属錯体が、式(II)に相当する少なくとも1個の残基を含む、少なくとも1種の有機配位子を含む:
-X-C(=S)-X1- (II)
[式中、Xは、S、SH、N、又はNHであり、X1は、NH又はNH2であり、そして-X-C-X1-残基は、脂肪族であるか、又は飽和、不飽和、若しくは芳香族環構造の一部である]。
【0022】
他の態様においては、その遷移金属錯体が、式(III)に相当する少なくとも1個の残基を含む、少なくとも1種の有機配位子を含む:
-S-C(=S)-S (III)
【0023】
本発明のもっとさらなる実施態様においては、遷移金属錯体の中に存在している少なくとも1種の有機配位子には、H2N-C-C-SH、-N-C-SHからなる群から選択される少なくとも1個の残基を含むが、ここで、N及びCは、芳香族環、H2N-C(=S)-、-NH-C(=S)-、及び-S-C(=S)-S-の一部である。
【0024】
本発明において使用するのに好適な、好ましい有機配位子としては、以下のものが挙げられる:メルカプトピリジン、アセチルチオ尿素、トリチオシアヌル酸、ロダニン、システアミン、2-イミノ-4-チオビウレット、2-(ブチルアミノ)エタンチオール(ブチルシステアミン)、ビス(カルボキシメチル)トリチオカーボネート、及びチオ尿素、並びにそれらの脱プロトン化誘導体。ある種の実施態様においては、より好ましい有機配位子として、以下のものが挙げられる:2-(ブチルアミノ)エタンチオール(ブチルシステアミン)、アセチルチオ尿素、ビス(カルボキシメチル)トリチオカーボネート、ローダミン、システアミン、又はそれらの組合せ。
【0025】
硬化させる樹脂系の中での有機配位子の濃度は、特定の望ましい硬化プロファイルが得られるように、必要に応じて選択し、調節してもよいが、典型的には、硬化性樹脂の0.01~0.5重量%である。
【0026】
好ましい遷移金属錯体
下記の遷移金属錯体が、ペルオキシドを使用した、硬化性樹脂、特には不飽和ポリエステル樹脂の硬化を加速するのに、特に有効であることが見出された:
メルカプトピリジンを用いて錯体化されたFe、Cu、及びZn、並びにそれらの脱プロトン化誘導体;
アセチルチオ尿素を用いて錯体化されたFe、Cu、及びZn、並びにそれらの脱プロトン化誘導体;
トリチオシアヌル酸を用いて錯体化されたCu及びFe、並びにそれらの脱プロトン化誘導体;
ロダニンを用いて錯体化されたCu及びFe、並びにそれらの脱プロトン化誘導体;
システアミンを用いて錯体化されたCu、及びそれらの脱プロトン化誘導体;
2-(ブチルアミノ)エタンチオール(ブチルシステアミン、すなわちBuCysA)を用いて錯体化されたCu、及びそれらの脱プロトン化誘導体;
ビス(カルボキシメチル)トリチオカーボネートを用いて錯体化されたCu、及びそれらの脱プロトン化誘導体;
2-イミノ-4-チオビウレットを用いて錯体化されたCu、及びそれらの脱プロトン化誘導体;
チオ尿素を用いて錯体化されたZn、及びそれらの脱プロトン化誘導体;
並びに、それらの組合せ。
【0027】
溶媒
少なくとも1種の遷移金属錯体に加えて、本発明における加速剤溶液にはさらに、1種又は複数の溶媒(典型的には有機溶媒である)が含まれる。そのような溶媒は、典型的には、遷移金属錯体を可溶化させるか、及び/又はその中で、有機配位子前駆体と遷移金属化合物とを反応させて、遷移金属錯体を形成させる好適な液状媒体を与えるのに、役立つ。選択された溶媒、並びに遷移金属化合物及び有機配位子前駆体の性質に応じて、溶媒が、遷移金属の錯化に与ることもまた可能である。すなわち、その遷移金属錯体に、本明細書において他のところで説明した有機配位子に加えて、1種又は複数の溶媒分子又はその誘導体を配位子として含んでいてもよい。
【0028】
加速剤溶液の中に存在している特定の溶媒又は複数の溶媒の組合せは、特に重要であるとは考えられず、広く各種の溶媒が採用できる。たとえば、本発明の各種の実施態様においては、その加速剤溶液が、以下のものからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒からなっている:アルコール、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アルデヒド、ケトン、エーテル、エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、カルボン酸、アミド、スルホキシド(たとえば、ジメチルスルホキシド)及びN-アルキルピロリドン(たとえば、N-メチル及びN-エチルピロリジノン)、並びにそれらの組合せ。いくつかの実施態様においては、アルコールが好ましい。
【0029】
本明細書で使用するとき、「アルコール」という用語は、1分子あたり1個又は複数のヒドロキシル基を含む各種の有機化合物を指している。本発明の一つの実施態様においては、脂肪族アルコールが使用される。また別の実施態様においては、その加速剤溶液には、少なくとも1種の脂肪族多価アルコール(すなわち、1分子あたり2個以上のヒドロキシル基を含む脂肪族アルコール、たとえばグリコール)が含まれる。好適なアルコールの例としては、以下のものが挙げられる:多価アルコール(グリコールを含む)、たとえば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、エトキシル化グリセロール、ペンタエリスリトール、及びエトキシル化ペンタエリスリトール、さらにはそれらのモノ-アルキルエーテル。他のタイプの好適なアルコールとしては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:イソブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、及び脂肪族アルコール。
【0030】
好適なリン酸エステル及び亜リン酸エステルの具体例としては、以下のものが挙げられる:リン酸ジエチル、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル、リン酸トリエチル(TEP)、亜リン酸ジブチル、及びリン酸トリエチル。
【0031】
好適な脂肪族炭化水素溶媒の例としては、以下のものが挙げられる:ホワイトスピリッツ、無臭ミネラルスピリッツ(OMS)、及びパラフィン。
【0032】
好適な芳香族炭化水素溶媒の例としては、以下のものが挙げられる:ナフテン及びナフテンとパラフィンとの混合物、1,2-ジオキシム、N-メチルピロリジノン、N-エチルピロリジノン;ジメチルホルムアミド(DMF);ジメチルスルホキシド(DMSO);2,2,4-トリメチルペンタンジオールジイソブチレート(TxIB)。
【0033】
好適なエステルとしては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:エステルたとえば、マレイン酸ジブチル、コハク酸ジブチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ケトフルタル酸のモノ-及びジ-エステル、ピルビン酸エステル、アスコルビン酸のエステル、たとえばパルミチン酸アスコルビン、マロン酸ジエチル、及びコハク酸エステル。
【0034】
好適なケトンとしては、以下のものが挙げられる:1,2-ジケトン、特にはジアセチル及びグリオキサール。
【0035】
その加速剤溶液には、場合によっては、水が含まれていてもよい。存在させるのなら、加速剤溶液の水含量は、たとえば、少なくとも0.01重量%、又は少なくとも0.1重量%としてもよい。水含量は、いずれの場合も、加速剤溶液の合計重量を基準にして、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらにより好ましくは10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下である。
【0036】
加速剤溶液のその他の成分
遷移金属錯体と溶媒とに加えて、本発明における加速剤溶液には、1種又は複数のさらなるタイプの成分が含まれていてもよい。そのような追加の成分は、たとえば、ペルオキシド及び加速剤溶液と混合したときに、硬化性樹脂の硬化特性をさらに加速したり、修正したりする効果を有していてよい。これらのタイプの成分は、架橋助剤、促進剤、補助加速剤、又は他のそのような用語でも呼ばれている。
【0037】
一つの実施態様においては、加速剤溶液にはさらに、以下のものを含んでいてもよい:1種又は複数の塩基、特に1種又は複数の塩基、特には1種又は複数の有機塩基、たとえば有機アミン又はその他の窒素含有有機化合物。そのような塩基は、加速剤溶液の遷移金属錯体の中に存在する有機配位子とは区別されるが、それらは、いくつかの場合においては、アミン官能基が存在するために、場合によっては塩基とも考えられ得るが、本発明の一つの実施態様においては、加速剤溶液の中に、過剰(未反応の)有機配位子前駆体が存在していて、架橋助剤、促進剤、又は補助加速剤として機能する可能性もある。
【0038】
加速剤溶液及び予備加速された硬化性樹脂の中に存在させてもよい、好適な塩基の例としては、以下のものが挙げられる:第一級、第二級、及び第三級アミンたとえば、トリエチルアミン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、若しくはN,N-ジメチル-p-トルイジン(DMPT)、ポリアミンたとえば1,2-(ジメチルアミン)エタン、第二級アミンたとえばジエチルアミン、エトキシル化アミンたとえば、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、若しくはモノエタノールアミン、並びに芳香族アミンたとえば、ピリジン若しくはビピリジン。塩基は、加速剤溶液の中に、5~50重量%の量で存在させるのが好ましい。予備加速された硬化性樹脂においては、それが、0.5~10g/kg(樹脂)の量で存在しているのが好ましい。
【0039】
有機配位子が、ビス(カルボキシメチル)トリチオカーボネートである場合には、そのような有機配位子と組み合わせて1種又は複数の塩基を使用すると、特に有利となることが見出された。
【0040】
本発明の他の実施態様においては、その加速剤溶液に、1種又は複数のカルボン酸がさらに含まれていてもよい。特に好ましいのは、飽和カルボン酸、特には相対的に短鎖の飽和カルボン酸たとえば、C1~C6飽和カルボン酸である。そのカルボン酸には、1分子あたり1個又は複数のカルボン酸官能基が含まれていてよい。酪酸は、加速剤溶液の中への特に好ましいカルボン酸添加剤の一例である。加速剤溶液の中にカルボン酸たとえば酪酸を組み入れると、その加速剤溶液をペルオキシドと組み合わせて、硬化性樹脂たとえば、不飽和ポリエステル樹脂を硬化させるときに、硬化時間が短縮され、そして観察される発熱温度が上昇するということが見出された。加速剤溶液の中のカルボン酸の量を変化させて、所望され得る特定の硬化プロファイルを達成することができるが、典型的な量は、加速剤溶液の重量を基準にして、1~10重量%としてもよい。
【0041】
本発明のある種の実施態様においては、その有機配位子に、1個又は複数のカルボン酸基が含まれていてもよい。ビス(カルボキシメチル)トリチオカーボネートが、そのような有機配位子の一例である。
【0042】
加速剤溶液の中に、場合によっては存在させてもよいその他のタイプの促進剤としては、以下のものが挙げられる:アンモニウム、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属のカルボン酸塩、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のハライド塩、並びに1,3-ジケトン。
【0043】
好適なアルカリ金属及びアルカリ土類金属のハライド塩の例としては、たとえば、以下のものが挙げられる:カリウム、ナトリウム、リチウム、カルシウム、バリウム、及びマグネシウムの塩化物及び臭化物塩、たとえばNaCl、LiCl、KCl、MgCl2、CaCl2、及びBaCl2
【0044】
好適な1,3-ジケトンの例としては、以下のものが挙げられる:アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、及びジベンゾイルメタン、並びにアセトアセトアミド及びアセトアセテートたとえば、ジエチルアセトアセトアミド、ジメチルアセトアセトアミド、ジプロピルアセトアセトアミド、ジブチルアセトアセトアミド、メチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート、プロピルアセトアセテート、及びブチルアセトアセテート。
【0045】
好適なアンモニウム、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属のカルボン酸塩の例は、以下のものである:2-エチルヘキサン酸塩(すなわち、オクタン酸塩)、ノナン酸塩、ヘプタン酸塩、ネオデカン酸塩、及びナフテン酸塩。好ましいアルカリ金属はKである。2-エチルヘキサン酸カリウムは、特に好適なカルボン酸塩の一例である。それらの塩は、そのままで加速剤溶液又は樹脂に添加してもよいし、或いは、イン・サイチュでそれらが形成されるようにしてもよい。たとえば、2-エチルヘキサン酸アルカリ金属は、加速剤溶液に対して、アルカリ金属水酸化物と2-エチルヘキサン酸とを添加した後に、加速剤溶液の中にイン・サイチュで生成させることができる。
【0046】
本発明の他の実施態様においては、その加速剤溶液に、1種又は複数の還元剤がさらに含まれていてもよい。そのようなものとしては、以下のものが挙げられる:アスコルビン酸(L-アスコルビン酸及びD-イソアスコルビン酸)、シュウ酸、メルカプタン、糖類(フルクトース、グルコース、その他)、アルデヒド、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(SFS)、ホスフィン、亜リン酸塩、亜硫酸塩、スルフィド、及びそれらの混合物。還元剤は、加速剤溶液の重量を基準にして、典型的には、0.1~5重量%の量で存在させてもよい。
【0047】
本発明の他の実施態様においては、その加速剤溶液に、1種又は複数のラジカル不活性化剤(radical deactivator)がさらに含まれていてもよい。そのようなものとしては、ニトロキシドラジカル不活性化剤、たとえばTEMPO、4H-TEMPO、SG-1、及びそれらの誘導体が挙げられる。加速剤溶液の中にラジカル不活性化剤を組み入れると、その加速剤溶液をペルオキシドと組み合わせて、硬化性樹脂たとえば、不飽和ポリエステル樹脂を硬化させるときに、観察される発熱温度に悪影響を与えることなく、硬化時間が長くなるということが見出された。ラジカル不活性化剤は、典型的には、加速剤溶液の重量を基準にして、0.01~1重量%の量で存在させてもよい。
【0048】
遷移金属錯体及び加速剤溶液の作成方法
加速剤溶液は、単純に、複数の成分を混合することにより調製することができるが、場合によっては、中間で加熱及び/又は混合工程を用いる。遷移金属錯体は、予め形成しておいた錯体として溶液に添加することもできるし、或いは、有機配位子及び遷移金属塩を溶媒と共に組合せ、場合によっては次いで加熱することによって、イン・サイチュで形成させることもできる。加熱の存在下又は非存在下で、それらの成分が溶解して、均一な溶液が得られるまで、その混合物を撹拌する。有機配位子対遷移金属塩の重量比又はモル比は、選択した具体的な遷移金属塩及び有機配位子に応じて、任意に変化させてよい。ある種の実施態様においては、たとえば、遷移金属塩に対して過剰の有機配位子を採用してよいが、その一方で、他の実施態様においては、有機配位子に対して遷移金属塩を過剰とする。予備加速された硬化性樹脂は、たとえば個々の成分を硬化性樹脂と混合し、そしてその硬化性樹脂を本発明における加速剤溶液と混合することも含めて、各種の方法で調製することができる。
【0049】
硬化性樹脂(curable resin)
本発明による加速剤溶液を使用して硬化させてもよいか、又は予備加速された硬化性樹脂組成物中に存在させてもよい、好適な樹脂としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:アルキド樹脂、不飽和ポリエステル(UP)樹脂、ビニルエステル樹脂、(メタ)アクリレート樹脂(時には、アクリル樹脂とも呼ばれる)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、及びそれらの混合物。好ましい樹脂としては、(メタ)アクリレート樹脂、UP樹脂、及びビニルエステル樹脂が挙げられる。本出願の文脈においては、「不飽和ポリエステル樹脂」及び「UP樹脂」という用語は、不飽和ポリエステル樹脂と、典型的には、不飽和ポリエステル樹脂の粘度を低下させるため、及び重合の際の架橋剤として使用されるエチレン性不飽和モノマー性化合物、たとえばスチレンとの組合せを指している。不飽和ポリエステル樹脂は、典型的には、ポリオール(多価アルコールとも呼ばれる)と飽和及び/又は不飽和の二塩基酸との反応によって形成される縮合ポリマーである。「(メタ)アクリレート樹脂」という用語は、アクリレート及び/又はメタクリレート樹脂と、エチレン性不飽和モノマー化合物との組合せを指している。そのようなUP樹脂及びアクリレート樹脂は、当業者には周知であり、市販されている。硬化は、一般的には、本発明による加速剤溶液及び開始剤(ペルオキシド)を硬化性樹脂と組み合わせるか、又はペルオキシドを予備加速された硬化性樹脂と組み合わせることによって、開始される。
【0050】
本発明において有用な不飽和ポリエステル樹脂には、単一の重合性モノマー又はモノマーの混合物の中に、溶解された反応性樹脂が含まれる。これらの反応性樹脂は、飽和ジカルボン酸又は酸無水物及び不飽和ジカルボン酸又は酸無水物を、二価アルコールと縮合させることにより形成される。これらのポリエステル樹脂の例としては、飽和ジカルボン酸又は酸無水物(たとえば、フタル酸無水物、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、テトラクロロフタル酸無水物、ヘキサクロロエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸又はセバシン酸)及び不飽和ジカルボン酸又は酸無水物(たとえば、マレイン酸無水物、フマル酸、クロロマレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、又はメサコン酸)と、二価アルコール(たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、又はネオペンチルグリコール)との反応生成物が挙げられる。少量の多価アルコール(たとえば、グリセロール、ペンタエリスリトール、トリメチロプロパン、又はソルビタール)を、グリコールと組み合わせて使用してもよい。
【0051】
三次元構造は、不飽和ポリエステルを、不飽和酸成分を介して、その不飽和ポリエステルと反応して橋架け結合を形成することが可能な不飽和モノマーと反応させることによって、作り出すことができる。適切な不飽和モノマーとしては、以下のものが挙げられる:スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、ジクロロスチレン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メチルアクリレート、フタル酸ジアリル、酢酸ビニル、トリアリルシアヌレート、アクリロニトリル、アクリルアミド、及びそれらの混合物。不飽和ポリエステル樹脂組成物の中での、不飽和ポリエステルと不飽和モノマーとの相対量は、広い範囲で変化させることができる。不飽和ポリエステル樹脂組成物には、一般的には、20重量%~80重量%のモノマーが含まれるが、モノマー含量が、30重量%~70重量%の範囲であれば好ましい。
【0052】
ビニルエステル樹脂としては、不飽和カルボン酸たとえばアクリル酸及びメタクリル酸を用いてエポキシ樹脂をエステル化し、それにより得られた反応生成物を次いで、たとえばスチレンのような反応性溶媒の中に(典型的には、35~45重量パーセントの濃度で)溶解させることにより調製される樹脂が挙げられる。
【0053】
アクリレート樹脂としては、以下のものが挙げられる:アクリレート、メタクリレート、ジアクリレート、及びジメタクリレート、より高官能性のアクリレート及びメタクリレート(モノマー及びオリゴマーの両方を含む)、さらにはそれらの組合せ。
【0054】
好適な、エチレン性不飽和モノマー化合物の非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:スチレン及びスチレン誘導体たとえば、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン、ジビニルベンゼン、ビニルピロリドン、ビニルシロキサン、ビニルカプロラクタム、スチルベン、さらには、フタル酸ジアリル、ジベンジリデンアセトン、アリルベンゼン、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸、ジアクリレート、ジメタクリレート、アクリルアミド、酢酸ビニル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、アリル化合物(たとえば、(ジ)エチレングリコールジアリルカーボネート)、クロロスチレン、tert-ブチルスチレン、アクリル酸tert-ブチル、ブタンジオールジメタクリレート、並びにそれらの混合物。(メタ)アクリレート-反応性希釈剤の好適な例としては、以下のものがある:PEG200ジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート及びその異性体、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、PPG250ジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(ビス)マレイミド、(ビス)シトラコンイミド、(ビス)イタコンイミド、並びにそれらの混合物。
【0055】
本発明における予備加速された硬化性樹脂の中でのエチレン性不飽和モノマーの量は、硬化性樹脂成分の重量を基準にして、好ましくは少なくとも0.1重量%、より好ましくは少なくとも1重量%、最も好ましくは少なくとも5重量%である。エチレン性不飽和モノマーの量は、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、最も好ましくは35重量%以下である。
【0056】
硬化性樹脂を硬化させるため、又は予備加速された樹脂を調製するために加速剤溶液を使用するのならば、その加速剤溶液は、硬化性樹脂の重量を基準にして、一般的には少なくとも0.01重量%、好ましくは少なくとも0.1重量%、好ましく5重量%以下、より好ましくは3重量%以下の量の加速剤溶液で採用される。
【0057】
ペルオキシド
本発明による加速剤溶液と共同して、硬化性樹脂を硬化させるのに好適であり、そして本発明の二成分組成物の第二の成分の中に存在させるのに好適なペルオキシドとしては、以下のものが挙げられる:無機ペルオキシド及び有機ペルオキシド、たとえば慣用的に使用されている、ケトンペルオキシド、ペルオキシエステル、ジアリールペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、及びペルオキシジカーボネート、さらには、ペルオキシカーボネート、ペルオキシケタール、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、及び過酸化水素。好ましいペルオキシドは、有機ヒドロペルオキシド、ケトンペルオキシド、ペルオキシエステル、及びペルオキシカーボネートである。さらにより好ましいのは、ヒドロペルオキシド及びケトンペルオキシドである。好ましいヒドロペルオキシドとしては、以下のものが挙げられる:クミルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、イソプロピルクミルヒドロペルオキシド、tert-アミルヒドロペルオキシド、2,5-ジメチルへキシル-2,5-ジヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド、パラ-メンタン-ヒドロペルオキシド、テルペン-ヒドロペルオキシド、及びピネンヒドロペルオキシド。好ましいケトンペルオキシドとしては、以下のものが挙げられる:メチルエチルケトンペルオキシド、メチルイソプロピルケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、及びアセチルアセトンペルオキシド。
【0058】
2種以上のペルオキシドの混合物を使用することもできる。たとえば、ヒドロペルオキシド又はケトンペルオキシドと、ペルオキシエステルとの組合せを採用してもよい。
【0059】
メチルエチルケトンペルオキシド、ペルオキシエステル、及び/又はモノペルオキシジカーボネートは、本発明で使用するのに特に好ましいペルオキシドである。
【0060】
硬化性樹脂を硬化させるのに使用されるペルオキシドの量は、100の樹脂あたり、好ましくは少なくとも0.1(phr)、より好ましくは少なくとも0.5phr、最も好ましくは少なくとも1phrである。ペルオキシドの量は、好ましくは8phr以下、より好ましくは5phr以下、最も好ましくは2phr以下である。
【0061】
その他の成分
上述の加速剤溶液、硬化性樹脂、及びペルオキシドは、ペルオキシド-硬化樹脂技術で慣用される各種その他の添加剤、たとえば充填剤、繊維、顔料、鈍感剤(phlegmatizer)、阻害剤(たとえば、酸化、熱及び/又は紫外線分解の阻害剤)、滑沢剤、チクソトロープ剤、架橋助剤、及び促進剤などと組み合わせることも可能である。
【0062】
好適な鈍感剤の例としては、親水性エステル及び炭化水素溶媒が挙げられる。
【0063】
好適な繊維の例としては、以下のものが挙げられる:ガラス繊維、炭素繊維、ポリマー繊維(たとえば、アラミド繊維)、天然繊維など、並びにそれらの組合せ。それらの繊維は、マット、トウ、及び当業者公知の他のそのような形状も含め、各種好適な形状であってよい。
【0064】
好適な充填剤の例としては、以下のものが挙げられる:石英、砂、シリカ、三水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、チョーク、水酸化カルシウム、クレー、カーボンブラック、二酸化チタン、及び石灰、さらには有機充填剤たとえば、熱可塑性プラスチック及びゴム。
【0065】
樹脂の硬化
本発明における硬化性樹脂の硬化は、一般的には、加速剤溶液、ペルオキシド、及び硬化性樹脂を組み合わせることによって、開始させることができる。
【0066】
硬化性樹脂の量に対する加速剤溶液の量は、使用される特定の、遷移金属、有機配位子、及び硬化性樹脂、さらには配合物の特定の硬化特性(硬化プロファイル、発熱ピーク時間を含む)、並びに必要とされている硬化させた樹脂の性質に依存して、所望又は必要に応じて変化させてよい。たとえば、遷移金属の使用量は、硬化性樹脂の重量を基準にして、約50~約200ppmとしてよいし、配位子の使用量は、硬化性樹脂の重量を基準にして、約1000~約5000ppmとしてよい。
【0067】
本発明の加速剤溶液の貯蔵安定性の結果として、硬化性樹脂及び加速剤溶液をプレミックスしておいて、数日後又は数週間後にペルオキシドを添加して、その結果、実際の硬化プロセスを開始させることが可能である。このことにより、あらかじめ加速剤を含む硬化性樹脂組成物を商業スケールで製造、販売することが可能となる。本発明でさらに考慮されていることは、第一の成分及び第二の成分を含む二成分系であって、ここでその第一の成分には、少なくとも1種の予備加速された硬化性樹脂(少なくとも1種の硬化性樹脂と少なくとも1種の本発明における加速剤溶液との組合せ)が含まれ、そしてその第二の成分には、少なくとも1種のペルオキシドが含まれる。本明細書で使用するとき、「二成分系(two-component system)」という用語は、二種の成分(A及びB)が、(たとえば、別々のカートリッジ、コンパートメント、トート、ドラム、又はその他の容器の中で)相互に物理的に分離されており、その系を使用して、硬化させた樹脂を形成させるときになって、成分AとBとを物理的に組み合わせる(混合する)系を指している。
【0068】
本発明はさらに、三成分系の方法でも実施することが可能であるが、その場合には、硬化性樹脂、ペルオキシド、及び加速剤溶液を、硬化させた樹脂を製造することが望まれるような時までは、相互に物理的に分離しておき、そのような時になったら、その三成分を相互に混合し、その混合物を、硬化性樹脂、ペルオキシド、及び加速剤溶液の間での化学的な相互作用の結果として、硬化(重合)させる。
【0069】
ペルオキシドは、予備加速された硬化性樹脂と混合してもよいし、或いは、硬化性樹脂と加速剤溶液とのプレミックスに添加してもよいし、或いは、樹脂とプレミックスしておいて、後で加速剤溶液を添加してもよい。そのようにして得られた混合物を、混合し、分散させる。その硬化プロセスは、開始剤系、加速剤系、硬化速度を調節する目的で存在させている各種の化合物又は物質、並びに、硬化させる硬化性樹脂組成物に応じて、-15℃から250℃までの各種の温度で実施することができる。一つの実施態様においては、たとえば以下のような用途で使用する場合には、一般的に、周囲温度で実施される:ハンドレイアップ、スプレーアップ、フィラメントワインディング、樹脂のトランスファー成形、コーティング(たとえば、ゲルコート及び標準コーティング)、インモールドコーティング、ボタンの製造、遠心注型、波板若しくはフラットパネル、リライニング系、化合物注入によるキッチンシンクなど。しかしながら、本発明を、SMC、BMC、引抜き成形法などで使用することもまた可能であるが、その場合には、180℃まで、より好ましくは150℃まで、最も好ましくは100℃までの温度が使用される。
【0070】
硬化させた樹脂を後硬化処理にかけて、硬度及び/又はその他の物性をさらに最適化することもできる。そのような後硬化処理は、一般的に、40~180℃の範囲の温度で、30分~15時間かけて実施される。
【0071】
最終使用及び用途
その硬化させた樹脂は、以下を含む各種の用途を見出している:海洋用途(ボート及びマリンスポーツ製品、たとえばボートの部品を含む)、化学的アンカリング、屋根、建設、リライニング、パイプ及びタンク、フローリング、風車のブレード、壁面パネル、複合鉄筋(composite rebar)、積層品、複合材料物品(繊維-強化複合材料物品を含む)、電気及び電子デバイス、輸送関係たとえばトラック及び乗用車の部品、宇宙産業、車両など。
【0072】
本発明の態様例
本発明の各種の態様例は、以下のようにまとめることができる:
[態様1]
加速剤溶液であって、
a)Fe、Cu、Zn、Ni、Mn、Cr、Sn、Au、Pd、及びPtからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属と、少なくとも1個のS-C-N、S-C-C-N又はS-C(=S)-S残基を含む、少なくとも1種の有機配位子との、少なくとも1種の遷移金属錯体;及び
b)少なくとも1種の溶媒、
を含むか、実質的にそれらからなるか、又はそれらからなる、加速剤溶液。
[態様2]
前記少なくとも1種の遷移金属が、Fe、Cu、Zn、及びNiからなる群から選択される、態様1に記載の加速剤溶液。
[態様3]
前記少なくとも1種の有機配位子が、
式(I):-X-C-C-SH[式中、Xは、N、NH、又はNH2であり、そして-X-C-C-は、脂肪族、又は飽和、不飽和若しくは芳香族の環構造の一部である];
式(II):-X-C(=S)-X1-[式中、Xは、S、SH、N、又はNHであり、X1は、NH又はNH2であり、そして-X-C-X1-残基は、脂肪族、又は飽和、不飽和若しくは芳香族の環構造の一部である];又は
式(III):-S-C(=S)-S-、
から選択される少なくとも1個の残基を含む、態様1又は2に記載の加速剤溶液。
[態様4]
前記少なくとも1種の有機配位子が、H2N-C-C-SH、-N-C-SH[式中、N及びCは、芳香族環の一部である]、H2N-C(=S)-、及び-NH-C(=S)-からなる群から選択される少なくとも1個の残基を含む、態様1~3のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
[態様5]
前記少なくとも1種の配位子が、メルカプトピリジン、アセチルチオ尿素、トリチオシアヌル酸、ロダニン、システアミン、2-イミノ-4-チオビウレット、ビス(カルボキシメチル)トリチオカーボネート、及びチオ尿素、並びにそれらの脱プロトン化した誘導体からなる群から選択される、態様1~4のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
[態様6]
前記加速剤溶液が、Coを含まない、態様1~5のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
[態様7]
前記加速剤溶液がさらに、少なくとも1種の塩基又は少なくとも1種のカルボン酸を含む、態様1~6のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
[態様8]
前記加速剤溶液がさらに、少なくとも1種の窒素含有塩基又は少なくとも1種の飽和脂肪族カルボン酸を含む、態様1~7のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
[態様9]
前記組成物がさらに、少なくとも1種のエトキシル化アミン又は少なくとも1種のC1~C6脂肪族カルボン酸を含む、態様1~8のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
[態様10]
前記錯体が、少なくとも1種の溶媒の存在下に、遷移金属塩を、少なくとも1個のS-C-N、S-C-C-N、又はS-C(=S)-S残基を含む少なくとも1種の有機配位子と結合させることを含むプロセスにより調製された、態様1~9のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
[態様11]
前記錯体が、少なくとも1種の溶媒の存在下に、遷移金属塩を、
式(I):-X-C-C-SH[式中、Xは、N、NH、又はNH2であり、そして-X-C-C-は、脂肪族、又は飽和、不飽和若しくは芳香族の環構造の一部である];
式(II):-X-C(=S)-X1-[式中、Xは、S、SH、N、又はNHであり、X1は、NH又はNH2であり、そして-X-C-X1-残基は、脂肪族、又は飽和、不飽和若しくは芳香族の環構造の一部である];又は
式(III):-S-C(=S)-S-、
から選択される少なくとも1種の残基を含む少なくとも1種の有機配位子と、結合させることを含むプロセスによって調製された、態様1~10のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
[態様12]
前記少なくとも1種の溶媒が、アルコール、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アルデヒド、ケトン、エーテル、エステル、リン酸エステル、カルボン酸、アミド、スルホキシド、及びN-アルキルピロリドン、並びにそれらの組合せからなる群から選択される、態様1~11のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
[態様13]
前記少なくとも1種の溶媒が、脂肪族ポリアルコールからなる群から選択される、態様1~12のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
[態様14]
前記遷移金属錯体が、Feのアセチルチオ尿素錯体;Cuのアセチルチオ尿素錯体;Znのアセチルチオ尿素錯体;Feのチオシアヌル酸錯体;Cuのチオシアヌル酸錯体;Feのロダニン錯体;Cuのロダニン錯体;Cuのシステアミン錯体;Cuの2-(ブチルアミノ)エタンチオール(ブチルシステアミン又はBuCysA)錯体、Cuのビス(カルボキシメチル)トリチオカーボネート(CMTTC)錯体、Cuのメルカプトピリジン錯体、Znのメルカプトピリジン錯体、Feのメルカプトピリジン錯体、及びCuのイミノチオビュレット錯体からなる群から選択される、態様1~13のいずれか1項に記載の加速剤溶液。
[態様15]
硬化性樹脂を硬化させる方法であって、前記硬化性樹脂を、少なくとも1種のペルオキシド及び態様1~14のいずれか1項に記載の少なくとも1種の加速剤溶液と組み合わせることを含む、方法。
[態様16]
前記少なくとも1種のペルオキシドが、有機ペルオキシドからなる群から選択される、態様15に記載の方法。
[態様17]
前記少なくとも1種のペルオキシドが、ケトンペルオキシド、ペルオキシエステル、ジアリールペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート、ペルオキシカーボネート、ペルオキシケタール、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、及び過酸化水素からなる群から選択される、態様15に記載の方法。
[態様18]
前記少なくとも1種のペルオキシドが、ケトンペルオキシド、ペルオキシエステル、及び/又はモノペルオキシジカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種のペルオキシドを含む、態様15に記載の方法。
[態様19]
前記少なくとも1種のペルオキシドが、メチルエチルケトンペルオキシドを含む、態様15に記載の方法。
[態様20]
前記少なくとも1種のペルオキシドが、25℃で液状である、態様15に記載の方法。
[態様21]
前記硬化性樹脂が、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、及び(メタ)アクリレート樹脂からなる群から選択される、態様15~20のいずれか1項に記載の方法。
[態様22]
前記硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂からなる群から選択される、態様15~21のいずれか1項に記載の方法。
[態様23]
態様15~22のいずれか1項に記載の方法によって、得られる硬化させた樹脂。
[態様24]
加速剤溶液を調製するためのプロセスであって、Fe、Cu、Zn、Ni、Mn、Cr、Sn、Au、Pd、及びPtの少なくとも1種を含む少なくとも1種の遷移金属塩を、少なくとも1個のS-C-N、S-C-C-N、又はS-C(=S)-S残基を含む少なくとも1種の有機配位子と、有機溶媒の中で反応させて、前記少なくとも1種の遷移金属塩と前記少なくとも1種の有機配位子とからの少なくとも1種の遷移金属錯体を形成させる工程を含む、プロセス。
[態様25]
態様24のプロセスによって得られる、加速剤溶液。
[態様26]
予備加速された硬化性樹脂であって、少なくとも1種の硬化性樹脂及び、態様1~14のいずれか1項に記載の少なくとも1種の加速剤溶液を含む、予備加速された硬化性樹脂。
[態様27]
第一の成分と第二の成分とを含む二成分系であって、前記第一の成分が、態様26に記載の少なくとも1種の予備加速された硬化性樹脂を含み、そして前記第二の成分が、少なくとも1種のペルオキシドを含む、二成分系。
[態様28]
硬化させた樹脂組成物であって、硬化させた樹脂、並びにFe、Cu、Zn、Ni、Mn、Cr、Sn、Au、Pd、及びPtからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属と、少なくとも1個のS-C-N、S-C-C-N、又はS-C(=S)-S残基を含む、少なくとも1種の有機配位子との少なくとも1種の遷移金属錯体を含む、硬化させた樹脂組成物。
【0073】
本明細書においては、実施態様は、明瞭且つ簡潔な明細書を書くことを可能とするようにして記載してきたが、それらの実施態様は、本発明から外れない範囲で、各種の併合又は分離をしてもよいということが意図されており、このことは認められるであろう。たとえば、本明細書に記載の「好ましい態様」は、本明細書に記載されている本発明のすべての態様にあてはめることができるということは認められるであろう。
【0074】
いくつかの実施態様においては、本明細書における本発明は、加速剤溶液、予備加速された硬化性樹脂、又は二成分系、又は前記加速剤溶液を作成若しくは使用するための方法、予備加速された硬化性樹脂若しくは二成分系の基本的且つ新規な特性に物質的に影響を与えない各種の要素又はプロセス工程を排除していると解釈してよい。さらには、いくつかの実施態様においては、本発明は、本明細書において特定されていない、各種の要素又はプロセス工程を排除していると解釈してよい。
【0075】
特定の実施態様を参照しながら、本明細書の中で本発明を説明し、記述しているが、以下に示す詳細に本発明が限定されることは意図されていない。むしろ、特許請求の範囲と等価の範囲の中で、本発明から逸脱することなく、各種の修正を細かく実施することができる。
【実施例0076】
一般的実験方法:
最初に、金属塩(硫酸Fe、酢酸Cu、又は2-エチルヘキサン酸Zn)、有機配位子、1gのジエチレングリコール、及びその他の添加剤(使用するならば)を混合することにより、加速剤溶液を調製する。その混合物を、45℃で30分間撹拌してから、冷却して室温とする。次いで、その加速剤溶液を紙コップの中に移し、25gのUP樹脂(Aropol(登録商標)2036C、Ashland製)、及び0.5g(樹脂に対して2phr)のメチルエチルケトンペルオキシド(MEKP)(Luperox(登録商標)DDM-9、Arkema Inc.製)と混合する。次いで、そのようにして得られた混合物を速やかに試験管の中に移し、試験管の中心部に熱電対(時間経過で温度をモニターして、重合の時間-温度曲線の作成を可能とする)を入れ、その集成物を周囲温度で放置して硬化させる。この実験により、発熱ピーク時間及び温度、並びにゲル化時間を測定することが可能となる。ゲル化時間(ゲル時間)は、実験の開始から、室温よりも5.6℃高い温度に達するまでの、経過時間(単位、分)である。
【0077】
実施例1:
この実施例には、FeSO4・五水塩(Fe Sulf)、酢酸Cu(II)(Cu Ac2)、又は2-エチルヘキサン酸Zn(II)(Zn hex2)の金属塩(ミネラルスピリッツ中約80%)、並びに以下の有機配位子の一つを使用して調製した加速剤溶液が含まれる:アセチルチオ尿素(AcTU)、システアミン(CysA)、2-(ブチルアミノ)エタンチオール(ブチルシステアミン、又はBuCysA)、ロダニン(RN)、トリチオシアヌル酸(TCA)、2-イミノ-4-チオビウレット(ITB)、ビス(カルボキシメチル)トリチオカーボネート(CMTTC)、及びチオ尿素(TU)。これらの実験のいくつかでは、塩基としてジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を、有機配位子の量に対して1当量又は2当量に相当する量で添加する。金属塩の量は、Fe sulfでは0.014g、Cu Ac2では0.009g、そしてZn hex2では0.016gであるが、それらは、硬化性樹脂1キログラムあたり2mmolの金属に相当する。硫黄含有配位子の量は、0.1gであるが、これは、加速剤溶液に対して10重量%、そして硬化性樹脂に対して0.4重量%に相当する。金属塩、配位子、及びDIPEA(いくつかの実験番号)を、1gのジエチレングリコールと混合して、加速剤溶液を調製し、次いでそれを使用して、先に「一般的実験方法」のセクションで述べた手順に従って、MEKP開始剤を用いてUP樹脂を硬化させる。
【0078】
これらの実験の結果を表1に示す。金属塩単独で試験した、対照(比較例、又は「comp.」)実験(番号1~3)は、Fe、Cu、及びZn金属単独(すなわち、有機配位子が存在しない)では、2時間以内にUPを硬化させるように、MEKPを促進させることができないことを示している。番号4~17は、金属/配位子の組合せの例を示しているが、驚くべきことには、2時間以内に硬化樹脂が得られた。
【0079】
【表1】
【0080】
実施例2(本発明実施例)
この実施例には、ジエタノールアミン(DEA)の存在下又は非存在下、酪酸(BA)の存在下又は非存在下での、酢酸Cu(II)(Cu Ac2)、シスタミン(CysA)の各種の組合せを使用して調製した加速剤溶液が含まれる。これらすべての加速剤の組合せは、溶媒として1gのDEGを用いて作成した。これらの加速剤溶液を用いたUP硬化実験は、先に「一般的実験方法」のセクションで述べた手順に従って実施した。表2に示した結果は、この実施例で得られた各種の加速剤溶液が、MEKPを促進して、熱力学(すなわち、硬化速度/ゲル化時間)に沿ってUP樹脂を硬化させることができるということを示しているが、このことは、調節することが可能であり、そして相対的に高い発熱温度を有しているので望ましいが、その理由は、それらのことが、比較的に高い重合度を示唆するからである。
【0081】
【表2】
【0082】
実施例3(本発明実施例):
この実施例には、塩基としての、モノエタノールアミン(MEA)の存在下又は非存在下、そしてジエタノールアミン(DEA)存在下又は非存在下で、酢酸Cu(II)(Cu Ac2)、アセチルチオ尿素(AcTU)の各種の組合せを使用して調製した加速剤溶液が含まれる。これらすべての加速剤の組合せは、溶媒として1gのDEGを用いて作成した。これらの加速剤溶液を用いたUP硬化実験は、先に「一般的実験方法」のセクションで述べた手順に従って実施した。それらの結果を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
実施例4(本発明実施例)
この実施例には、酢酸Cu(II)(Cu Ac2)、ビス(カルボキシメチル)トリチオカーボネート(CMTTC)、モノエタノールアミン(MEA)、及びジエタノールアミン(DEA)を各種の組合せで使用して調製した加速剤溶液が含まれる。これらすべての加速剤の組合せは、溶媒として1gのDEGを用いて作成した。これらの加速剤溶液を用いたUP硬化実験は、先に「一般的実験方法」のセクションで述べた手順に従って実施した。それらの結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
実施例5(本発明実施例)
この実施例には、塩基として、酢酸Cu(II)(Cu Ac2)、ロダニン(RN)、モノエタノールアミン(MEA)、及びジエタノールアミン(DEA)を各種の組合せで使用して調製した加速剤溶液が含まれる。これらすべての加速剤の組合せは、溶媒として1gのDEGを用いて作成した。これらの加速剤溶液を用いたUP硬化実験は、先に「一般的実験方法」のセクションで述べた手順に従って実施した。それらの結果を表5に示す。
【0087】
【表5】
【0088】
実施例6(本発明実施例)
この実施例には、酢酸Cu(II)(Cu Ac2)、2-(ブチルアミノ)エタンチオール(ブチルシステアミン又はBuCysA)、モノエタノールアミン(MEA)、及びジエタノールアミン(DEA)を各種の組合せで使用して調製した加速剤溶液が含まれる。これらすべての加速剤の組合せは、溶媒として1gのDEGを用いて作成した。これらの加速剤溶液を用いたUP硬化実験は、先に「一般的実験方法」のセクションで述べた手順に従って実施した。それらの結果を表6に示す。
【0089】
【表6】
【0090】
実施例7(本発明実施例)
この実施例では、メチルエチルケトンペルオキシド以外の、一連のペルオキシドを促進する加速剤系の性能を示す。これらの試験のための加速剤溶液は、0.7mMol/kg樹脂の量の酢酸Cu(II)(Cu Ac2)、樹脂に対して0.063重量%の2-(ブチルアミノ)エタンチオール(ブチルシステアミン又はBuCysA)、樹脂に対して0.3重量%のモノエタノールアミン(MEA)、及び溶媒としてのDEGを使用して調製した。これらの加速剤溶液を用いたUP硬化実験は、先に「一般的実験方法」のセクションで述べた手順に従って実施した。それらの結果を表7に示す。
【0091】
【表7】
【0092】
この表が示しているのは、ブチルシステアミンをベースとする加速剤系は、ヒドロペルオキシド、ペルオキシエステル及びモノペルオキシジカーボネートを周囲温度で硬化させることができるが、ペルオキシケタールは硬化させることができないということである。
【外国語明細書】