(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016596
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】横編機によるパイル編地の編成方法
(51)【国際特許分類】
D04B 1/02 20060101AFI20230126BHJP
D04B 1/00 20060101ALI20230126BHJP
D04B 15/06 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
D04B1/02
D04B1/00 Z
D04B15/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121039
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(72)【発明者】
【氏名】池中 政光
(72)【発明者】
【氏名】福島 杏香
【テーマコード(参考)】
4L002
4L054
【Fターム(参考)】
4L002BA00
4L002BB04
4L002EA00
4L002FA00
4L054AA01
4L054AB02
4L054BB04
4L054FA06
4L054KA23
4L054NA07
(57)【要約】
【課題】パイル編地用の特殊な編針を使用することなくパイル編地を編成する方法と横編機を提供する。
【構成】筒状編地の前後一方の編地のコース編成では、編み始め側の側端に位置する編針を除いた編針でコース編成を行うとともに編み終わり側ではキャリッジが反転した後において他方の編地の編み始め側の側端に位置する編針へ給糸して編目を形成するステップAと、続く他方の編地のコース編成では、編み始め側の側端に位置する編針を除いた編針で他方の編地のコース編成を行うとともに編み終わり側ではキャリッジが反転した後において一方の編地の編み始め側の側端に位置する編針へ給糸して編目を形成するステップBを繰り返し行うことで地糸をパイル編成用シンカー10の地糸用掛爪13に係止させ、パイル糸をパイル糸用掛爪14に係止させた状態で編目を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯口を挟んで多数の編針を装着させた前後一対の針床と該針床上に地糸用掛爪とその上位にパイル糸用掛爪を形成したパイル編成用シンカーを備えるとともに、先行側給糸口で地糸、後行側給糸口でパイル糸を給糸するとともにパイル編成用シンカーの地糸用掛爪で地糸を、パイル糸用掛爪でパイル糸を係止させながら、一方の針床で筒状編地を構成する前後一方の編地のコース編成、続いて他方の針床で前後他方の編地のコース編成を繰り返し行うことで筒状のパイル編地のコース編成を行う横編機によるパイル編地の編成方法において、
前後一方の編地のコース編成では、編み始め側の側端に位置する編針を除いた編針で一方の編地のコース編成を行うとともに編み終わり側ではキャリッジが反転した後において他方の編地の編み始め側の側端に位置する編針へ給糸して編目を形成するステップA、
続く他方の編地のコース編成では、編み始め側の側端に位置する編針を除いた編針で他方の編地のコース編成を行うとともに編み終わり側ではキャリッジが反転した後において一方の編地の編み始め側の側端に位置する編針へ給糸して編目を形成するステップB、
前記ステップA,Bを繰り返し行うことで地糸をパイル編成用シンカーの地糸用掛爪に係止させ、パイル糸をパイル糸用掛爪に係止させた状態で編目を形成することを特徴とする横編機によるパイル編地の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機を用いてパイル編地を編成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前後一対の針床を備えた横編機を用い、前後一方の針床でコース編成を行い、続けて他方の針床でコース編成を繰り返し行うように前後の針床に編糸を周回させながら編成することで筒状の編地を得ることができる。このような筒状編地は、例えば手袋や靴下などに利用されている。
【0003】
編地にパイル組織を適用するには、パイル編成用シンカーを備えた横編機が使用される。
図2に示すようにパイル編成用シンカー10には、作用腕11の先端側に地糸用掛爪13に加えてパイル用掛爪14が形成されている。そして編成の際に地糸用給糸口とパイル糸用給糸口を用い(不図示)、地糸用給糸口をパイル糸用給糸口よりも先行させて移動すれば地糸(シメ糸)をパイル糸よりも低くした状態で編針のフックに供給できる。この地糸とパイル糸の高低差によって形成されるギャップにパイル用掛爪14を挿入できればパイル編地を編成することができる。
【0004】
しかし、キャリッジが編地の左右で反転しながら往復動する横編機の場合、キャリッジが反転した後の編み始めでパイル糸と地糸の高低差を十分に大きく形成することはできずパイル用掛爪14を上記ギャップに確実に挿入できないという問題があった。
【0005】
特許文献1は、ラッチ部分のフックと対向する内側縁に編糸係止用鉤を設けた特殊な編針を横編機に装着させることで地糸をラッチの編糸係止用鉤に係止させて編針を引き下げることで地糸とパイル糸の高低差を大きくしてパイル糸用掛爪をギャップに確実に挿入できるようにしている。そのためパイル編地を編成するにはパイル編成用シンカーだけでなく上記した特殊な構成の編針を横編機に装着する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特許文献1に記載の特殊な構造の編針を使用しなくてもパイル編地を編成することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、歯口を挟んで多数の編針を装着させた前後一対の針床と該針床上に地糸用掛爪とその上位にパイル糸用掛爪を形成したパイル編成用シンカーを備えるとともに、先行側給糸口で地糸、後行側給糸口でパイル糸を給糸するとともにパイル編成用シンカーの地糸用掛爪で地糸を、パイル糸用掛爪でパイル糸を係止させながら、一方の針床で筒状編地を構成する前後一方の編地のコース編成、続いて他方の針床で前後他方の編地のコース編成を繰り返し行うことで筒状のパイル編地のコース編成を行う横編機によるパイル編地の編成方法において、前後一方の編地のコース編成では、編み始め側の側端に位置する編針を除いた編針で一方の編地のコース編成を行うとともに編み終わり側ではキャリッジが反転した後において他方の編地の編み始め側の側端に位置する編針へ給糸して編目を形成するステップA、続く他方の編地のコース編成では、編み始め側の側端に位置する編針を除いた編針で他方の編地のコース編成を行うとともに編み終わり側ではキャリッジが反転した後において一方の編地の編み始め側の側端に位置する編針へ給糸して編目を形成するステップB、前記ステップA,Bを繰り返し行うことで地糸をパイル編成用シンカーの地糸用掛爪に係止させ、パイル糸をパイル糸用掛爪に係止させた状態で編目を形成するようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、編み始め側の側端に位置する編針で地糸を予め引き込んだ状態にしておいてから前記編針を除く編針でコース編成を行うようにしているので地糸とパイル糸との間に大きな高低差を形成できる。そのためパイル糸用掛爪を地糸とパイル糸間のギャップに確実に挿入させることができるので従来のような特殊な構造の編針を使用しなくてもパイル編地を編成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態による編成ステップを示した図である。
【
図2】
図2は、パイル編成用シンカーを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
本実施形態で使用される横編機は、パイル編成用の特殊な構造の編針に代えて一般的な編針が装着されている点を除いて特許文献1と同等の横編機が使用される。したがってパイル編地を編成するときの地糸、パイル糸および地糸用給糸口、パイル用給糸口などの動作や給糸条件、編目形成時のシンカーの開閉動作や編針の動きなどについても特別な言及がない限り同じであるのでその説明は省略する。
【0013】
図1は、パイル編地の編成ステップを示した図である。図の左欄に示すSは、編成の各ステップを示す。Fは前針床、Bは後針床を示し、アルファベッドの小文字は前針床の編針の位置、大文字は後針床の編針の位置を示す。ドットは編針、丸は編目を、左右の向きの矢印はキャリッジの進行方向、すなわち編成方向を示す。
【0014】
図ではキャリッジが右行時に後針床の編針を用いて筒状編地1の後側編地1bの編成を行い、キャリッジ左行時に前針床の編針を用いて筒状編地1の前側編地1fの編成を行うように編糸を時計針方向に周回状に供給して筒状編地1を編成している。
【0015】
S0は、筒状編地1の各針床における編目の係止状態を示し、前針床のa-jの編針に前側編地1fの編目が、後針床のA-Jの編針に後側編地1bの編目が係止している。給糸口は図示しないが、S1までの編成では地糸を使って編成が行われ、S2以降は、地糸とパイル糸の2つの編糸を用いてパイル編地の編成を行う。
【0016】
S1は、パイル編地のコース編成が始まる直前の編成を示す。キャリッジが左行時に前針床の編針j―aによるコース編成を行うとともに前側編地1fの編み終わり側に対向する後側編地1bの側端の編針Aにも給糸して編目を形成する。この編針Aは、キャリッジが反転して右行する際の後側編地1bの編み始め側の側端に位置する編針となる。ここで編針Aによる編目形成を行うのは次コースから始まるパイル編地を編成するための準備工程となる。
【0017】
続くS2では、キャリッジを右行させ、編針Aを除いた編針B-Jで後側編地1bのコース編成を行う。ここで、S1で編目を形成した編針Aは、S2では作動させずに引き込んだ状態のままで後側編地1bのコース編成が行われる。そのため後側編地1bの編み始め側では編針Bが実質の編み始めの編針となる。編針Bが編目を形成するときには、地糸は既に引き込まれた状態にある編針Aのフックから地糸用給糸口へと延びるためパイル用給糸口へ延びるパイル糸との間に大きな高低差が形成されることになる。その結果、パイル糸用掛爪14を地糸とパイル糸間のギャップに確実に挿入することができる。つまり、地糸はパイル用シンカー10の地糸用掛爪13、パイル糸はパイル糸用掛爪14にそれぞれ分離係止させた状態で編目を形成することができる。なおS1において編針Aで編目を形成することなくS2を行った場合には地糸とパイル糸の高低差を大きくすることはできない。
【0018】
S2では、後側編地1bの編み終わり側に対向する前側編地1fの側端の編針jにも給糸して編目を形成する。この編針jは、キャリッジが反転して左行する際の前側編地1fの編み始め側の側端に位置する編針jである。ここで編針jによる編目形成を行うのはS1における編み終わりで行った編成と同じ目的である。
【0019】
S3では、編針jを除いた編針i-aで前側編地1fのコース編成を行うとともに前側編地1fの編み終わり側では後側編地1bの編み始めの側端に位置する編針Aにも給糸して編目を形成する。そしてS2とS3に示す編成を繰り返し行うことで所望丈の筒状のパイル編地を編成することができる。
【0020】
なお上記では時計針方向に周回編成を行う例を示したが反時計針方向に周回編成して編成できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0021】
1 筒状編地、前側編地…1f、後側編地…1b
10 シンカー、11 作用腕、13 地糸用掛爪、14 パイル糸用掛爪