(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016605
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】旅客上家の耐震補強構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230126BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230126BHJP
E04B 1/343 20060101ALI20230126BHJP
F16F 15/16 20060101ALI20230126BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
E04H9/02 311
E04G23/02 F
E04B1/343 U
F16F15/16 E
F16H25/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121064
(22)【出願日】2021-07-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.掲載日 令和2年12月1日発行 2.掲載場所 月刊JR東海 12月号(発行:東海旅客鉄道株式会社) 3.掲載内容のタイトル 「プラットホーム上家の耐震補強の推進」 〔刊行物等〕 1.掲載日 令和2年12月10日発行 2.掲載場所 鉄道建築ニュース 2020年12月号(発行:一般社団法人鉄道建築協会) 3.掲載内容のタイトル 「高架上家の耐震補強について」 〔刊行物等〕 1.掲載日 令和3年2月25日 2.掲載場所 JR東海ウェブサイト ニュースリリース 2021.02.25. 社長会見プレスリリース https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000040971.pdf 3.掲載内容のタイトル 「プラットホーム上家の耐震補強について」 〔刊行物等〕 1.掲載日 令和3年3月10日発行 2.掲載場所 鉄道建築ニュース 2021年3月号(発行:一般社団法人鉄道建築協会) 3.掲載内容のタイトル 「高架上家の耐震化に関する研究」 〔刊行物等〕 1.掲載日 令和3年7月10日発行 2.掲載場所 鉄道建築ニュース 2021年7月号(発行:一般社団法人鉄道建築協会) 3.掲載内容のタイトル 「JR東海のホーム上家耐震化に関する技術開発」
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000152424
【氏名又は名称】株式会社日建設計
(71)【出願人】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】岩田 秀治
(72)【発明者】
【氏名】早川 由則
(72)【発明者】
【氏名】白木 幹浩
(72)【発明者】
【氏名】家倉 優人
(72)【発明者】
【氏名】塚脇 喜章
(72)【発明者】
【氏名】野崎 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】大野 富男
(72)【発明者】
【氏名】吉原 和宏
(72)【発明者】
【氏名】西本 篤史
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
【テーマコード(参考)】
2E139
2E176
3J062
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139AC33
2E139BA14
2E139BD18
2E176AA07
2E176BB28
3J062AB22
3J062AC07
3J062CD04
3J062CD23
(57)【要約】
【課題】旅客上家の柱の弱軸方向が線路と平行である場合において、柱弱軸方向の耐震性の補強を効果的かつ簡易に行うことができる旅客上家の耐震補強構造を提供する。
【解決手段】本発明が適用される旅客上家は、H形鋼で構成され、基礎に立設された複数の柱2と、複数の柱2に接合された複数の梁3と、複数の梁3に載置された屋根4を有し、線路RWに隣接している。柱2は、その弱軸方向が線路RWと平行になるように設置されている。本発明の耐震補強構造は、柱2と弱軸方向に延びる線路平行梁3Pとによって構成される構面内において、柱2と線路平行梁3Pの間に設けられ、粘性減衰効果により振動を抑制する粘性ダンパ6と、柱2の脚部に、主面が弱軸方向に直交するように取り付けられたカバープレート5を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
H形鋼で構成され、基礎に立設された複数の柱と、当該複数の柱に接合された複数の梁と、当該複数の梁に載置された屋根を有し、線路に隣接する旅客上家の耐震性を補強するための旅客上家の耐震補強構造であって、
前記柱は、その弱軸方向が前記線路と平行になるように配置されており、
前記柱と前記弱軸方向に延びる前記梁とによって構成される構面内において、前記柱と前記梁の間に設けられ、粘性減衰効果により振動を抑制する粘性ダンパと、
前記柱の脚部に、主面が前記弱軸方向に直交するように取り付けられたカバープレートと、を備えることを特徴とする旅客上家の耐震補強構造。
【請求項2】
前記カバープレートは、矩形状に形成され、高さが前記柱の幅の約1/2に設定されていることを特徴とする、請求項1に記載の旅客上家の耐震補強構造。
【請求項3】
前記粘性ダンパは、前記柱と前記梁の間の相対変位が伝達されることによって回転するボールねじと、互いに径方向に対向し、前記ボールねじによって相対的に回転駆動される内筒及び外筒と、前記内筒と前記外筒の間に充填された粘性体と、を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の旅客上家の耐震補強構造。
【請求項4】
前記粘性ダンパは、接続部材を介して、前記柱及び前記梁に取り付けられていることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の旅客上家の耐震補強構造。
【請求項5】
前記接続部材は、前記柱のウェブに接合され、ボルトによって緊結されていることを特徴とする、請求項4に記載の旅客上家の耐震補強構造。
【請求項6】
前記接続部材は、前記柱のフランジに接合され、ボルトによって緊結されていることを特徴とする、請求項4に記載の旅客上家の耐震補強構造。
【請求項7】
前記接続部材が接合される前記柱及び前記梁の少なくとも一方の接合面に、塗装膜厚が100μm以下のRC種ケレン処理が施されていることを特徴とする、請求項5又は6に記載の旅客上家の耐震補強構造。
【請求項8】
前記旅客上家が高架橋の上に設置されていることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の旅客上家の耐震補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線路に隣接する旅客上家の耐震性を補強するための旅客上家の耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の構造物の制振装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この制振装置は、道路などに立設された2本の柱と、これらの柱の上端部間に結合された水平な梁を備えた門型構造物、例えば高速道路上の料金所として用いられる構造物の振動を抑制するためのものである。この制振装置では、柱と梁が結合される2つのコーナー部において、柱と梁の間に、オイルダンパとブレースを直列に接続した2つの減衰装置が方杖状に(斜めに)配置されている。この構成では、2つの減衰装置が方杖状に配置されることにより、門型構造物に作用する鉛直方向及び水平方向の振動が抑制されるとともに、門型構造物の内側において減衰装置の下側に利用可能な比較的大きな空間が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の制振装置では、門型構造物に対する制振効果を得るとともに、内側空間をできるだけ確保するために、門型構造物の上側の2つのコーナー部において、柱及び梁で構成される構面内に、減衰装置が方杖状に設けられる。一方、門型構造物の構造によっては、柱と梁の構面に平行な方向の耐震性能よりも、この構面に直交する方向の耐震性能が低い場合がある。例えば、柱が強軸・弱軸を有し、その弱軸方向が柱と梁の構面と直交するように配置されている場合には、弱軸方向の剛性がより小さく、耐震性能はより小さくなる。このような場合、従来の制振装置では、減衰装置が柱と梁の構面内に設けられるため、門型構造物の弱軸方向の耐震補強を効果的に行うことができない。
【0005】
また、上述した門型構造物では、地震時などに、柱の脚部(基端部)に大きな曲げモーメントやせん断力が作用することによって、柱脚部が破損するおそれがある。これに対し、従来の制振装置では、門型構造物の上側のコーナー部に減衰装置が設けられるにすぎず、柱脚部の耐震補強も有効に行えない。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、旅客上家の柱の弱軸方向が線路と平行である場合において、旅客上家の柱弱軸方向の耐震性の補強を効果的かつ簡易に行うことができる旅客上家の耐震補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、H形鋼で構成され、基礎に立設された複数の柱と、複数の柱に接合された複数の梁と、複数の梁に載置された屋根を有し、線路に隣接する旅客上家の耐震性を補強するための旅客上家の耐震補強構造であって、柱は、その弱軸方向が線路と平行になるように配置されており、柱と弱軸方向に延びる梁とによって構成される構面内において、柱と梁の間に設けられ、粘性減衰効果により振動を抑制する粘性ダンパと、柱の脚部に、主面が弱軸方向に直交するように取り付けられたカバープレートと、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明が適用される旅客上家は、H形鋼で構成され、基礎に立設された複数の柱と、複数の柱に接合された複数の梁と、複数の梁に載置された屋根を有し、線路に隣接している。柱は、その弱軸方向が線路と平行になるように配置されている。本発明によれば、柱と弱軸方向に延びる梁(以下「線路平行梁」という)とによって構成される構面内において、柱と線路平行梁の間に粘性ダンパが設けられている。以上の構成により、旅客上家に柱弱軸方向の振動が入力されると、粘性ダンパによる粘性減衰効果が発揮されることによって、柱弱軸方向の振動が抑制される。
【0009】
また、柱の脚部にカバープレートが取り付けられ、その主面が柱弱軸方向に直交するように配置されている。この構成により、柱脚部の弱軸方向の回転剛性(曲げ剛性)が増加するとともに、反曲点位置が柱の中央側に移動し、見掛けの曲げ耐力が増加する(曲げ耐力そのものは向上しないが、より高いレベルの外力に抵抗できる)ことによって、柱部材が保有している性能が限界まで活用されることで、耐震性が向上する。以上により、旅客上家の柱の弱軸方向が線路と平行である場合において、旅客上家の柱弱軸方向の耐震性の補強を効果的かつ簡易に行うことができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の旅客上家の耐震補強構造において、カバープレートは、矩形状に形成され、高さが柱の幅の約1/2に設定されていることを特徴とする。
【0011】
後述するように、請求項1のカバープレートによる柱脚部の補強効果は、矩形状のカバープレートの高さが柱の幅の約1/2以上になると、ほとんど増加せず、ほぼ一定になる。この知見に基づき、本構成によれば、カバープレートの高さが、補強効果が頭打ちになる大きさに相当する、柱幅の約1/2に設定されているので、柱脚部の補強効果を最小限の大きさのカバープレートを用いて効率良く得ることができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の旅客上家の耐震補強構造において、粘性ダンパは、柱と梁の間の相対変位が伝達されることによって回転するボールねじと、互いに径方向に対向し、ボールねじによって相対的に回転駆動される内筒及び外筒と、内筒と外筒の間に充填された粘性体と、を有することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、粘性ダンパはボールねじ式のものであり、旅客上家に柱弱軸方向の振動が入力されるのに伴って柱と線路平行梁が相対変位し、この相対変位が伝達されることによってボールねじが回転する。そして、ボールねじによって内筒と外筒が相対的に回転駆動され、内筒と外筒の間に充填された粘性体のせん断抵抗により粘性減衰効果が発揮されることによって、旅客上家の柱弱軸方向の振動が抑制される。また、柱脚部に取り付けたカバープレートにより、柱脚部の回転剛性が増加し、基礎に対する固定度が増大していることで、柱と線路平行梁との相対変位がボールねじの回転運動に効率良く変換されるので、粘性ダンパによる粘性減衰効果を高めることができる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の旅客上家の耐震補強構造において、粘性ダンパは、接続部材を介して、柱及び梁に取り付けられていることを特徴とする。
【0015】
既存の旅客上家の柱や梁には、電気設備の配線が設けられていることが多く、粘性ダンパの取付けを溶接などで行った場合には、作業配線に悪影響を及ぼすおそれがある。この構成によれば、粘性ダンパは、接続部材を介して、柱及び梁に機械的に取り付けられるので、溶接作業などによる電気設備の配線への悪影響を確実に回避することができる。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の旅客上家の耐震補強構造において、接続部材は、柱のウェブに接合され、ボルトによって緊結されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、粘性ダンパを取り付けるための接続部材を、柱を構成するH形鋼のウェブに、溶接によらず、ボルトの緊結によって取り付けることができる。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項4に記載の旅客上家の耐震補強構造において、接続部材は、柱のフランジに接合され、ボルトによって緊結されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、粘性ダンパを取り付けるための接続部材を、柱を構成するH形鋼のフランジに、溶接によらず、ボルトの緊結によって取り付けることができる。
【0020】
請求項7に係る発明は、請求項5又は6に記載の旅客上家の耐震補強構造において、接続部材が接合される柱及び梁の少なくとも一方の接合面に、塗装膜厚が100μm以下のRC種ケレン処理が施されていることを特徴とする。
【0021】
後述するように、複数の鋼板が相互に接合される接合部の継手性能は、接合面のケレン処理の種別や塗装膜厚に応じて変化する一方、塗装膜厚が100μm以下のRC種ケレン処理であれば、ケレン処理の種別がより高い場合や塗装膜厚がより小さい又は0の場合と遜色ないことが確認された。この知見に基づき、本構成によれば、接続部材が接合される柱及び梁の少なくとも一方の接合面に、塗装膜厚100μm以下のRC種ケレン処理が施されているので、接合部に要求される継手性能を、比較的簡易なケレン処理と最小限の塗装膜厚によって効率良く得ることができる。
【0022】
例えば、既存の柱や梁の接合面に比較的厚い塗装膜がすでに形成されている場合には、RC種ケレン処理を行うとともに、塗装膜をすべて除去することなく、100μm以下の厚さに残すことで、作業を容易化することができる。
【0023】
請求項8に係る発明は、請求項1から7のいずれかに記載の旅客上家の耐震補強構造において、旅客上家が高架橋の上に設置されていることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、旅客上家が高架橋の上に設置されている場合においても、請求項1から7による前述した作用を同様に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】旅客上家を地面に直接、設けた本発明の第1実施形態を概略的に示す図である。
【
図2】旅客上家の(a)柱及び梁の補強前の状態、(b)(a)の矢印B部に粘性ダンパを取り付けた状態、及び(c)(a)の矢印C部にカバープレートを取り付けた状態をそれぞれ示す部分斜視図である。
【
図4】柱と梁の接合部付近の両側において、粘性ダンパを斜めに且つ柱のウェブに取り付けた状態を示す正面図である。
【
図5】
図4において粘性ダンパを梁に取り付ける第1接続部材を拡大して示す(a)正面図、及び(b)底面図である。
【
図6】
図4において粘性ダンパを柱のウェブに取り付ける第2接続部材を拡大して示す(a)正面図、及び(b)底面図である。
【
図7】柱脚部へのカバープレートの取付けによる補強の効果を確認するための実験結果を示す図である。
【
図8】ケレン処理及び塗装を施した接合面を対象として行ったすべり係数試験の結果を一覧して示す表である。
【
図9】柱と梁の接合部付近の片側において、粘性ダンパを斜めに且つ柱のフランジに取り付けた状態を示す正面図である。
【
図10】
図9において粘性ダンパを柱のフランジに取り付ける第2接続部材を拡大して示す(a)正面図、及び(b)底面図である。
【
図11】柱と梁の接合部付近の両側において、粘性ダンパを水平に且つ柱のウェブに取り付けた状態を示す正面図である。
【
図12】
図11において粘性ダンパを梁に取り付ける第1接続部材を拡大して示す(a)正面図、及び(b)底面図である。
【
図13】
図11において粘性ダンパを柱のウェブに取り付ける第2接続部材を拡大して示す(a)正面図、及び(b)底面図である。
【
図14】
図13の第2接続部材に代えて、粘性ダンパを柱のフランジに取り付ける第2接続部材を拡大して示す(a)正面図、及び(b)底面図である。
【
図15】旅客上家を高架橋の上に設けた本発明の第2実施形態を概略的に示す図である。
【
図16】時刻歴応答解析に用いた高架橋及び旅客上家の解析モデルである。
【
図17】時刻歴応答解析によって得られた結果を一覧して示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態を示す。本実施形態では、駅のプラットフォームPF(基礎)が地面Gに直接、設けられ、プラットフォームPF上に旅客上家1が設けられている。プラットフォームPFは、
図1の左右方向に延びる線路RWに面し、コンクリート製の床版で構成されている。
【0027】
旅客上家1は、プラットフォームPFに立設された複数の柱2と、複数の柱2の間に連結された複数の梁3と、複数の梁3に載置された屋根4を有する。例えば、複数の柱2は、プラットフォームPFの長さ方向(以下「線路平行方向」という)の6箇所と、プラットフォームPFの幅方向(以下「線路直交方向」という)の2箇所に計12本、所定の間隔を隔てて配置されている。
【0028】
各柱2は、例えばウェブ2a及びフランジ2b、2bを有する、250×250×9×14のH形鋼で構成されており、鋼製のベースプレート2cを介して、プラットフォームPFにアンカーボルト(図示せず)で緊結されている。また、
図2に示すように、各柱2は、ウェブ2aに直交する弱軸方向(以下、適宜「柱弱軸方向」という)が線路平行方向に一致し、フランジ2bに直交する強軸方向(以下、適宜「柱強軸方向」という)が線路直交方向に一致するように配置されている。このような柱2の配置は、旅客上家の柱としてH形鋼を用いる場合に通常、採用されるものである。
【0029】
複数の梁3は、ウェブ3a及びフランジ3b、3bを有するH形鋼で構成されるとともに、線路平行方向に並ぶ複数の柱2に接合され、同方向に延びる梁(以下、適宜「線路平行梁」という)3Pと、線路直交方向に並ぶ2つの柱2、2に接合され、同方向に延びる梁(以下、適宜「線路直交梁」という)3Nで構成されている。また、柱2、2と線路平行梁3Pで構成される構面を「線路平行構面」、柱2、2と線路直交梁3Nで構成される構面を「線路直交構面」という。
【0030】
また、
図1及び
図2に示すように、旅客上家1には、耐震補強構造として、カバープレート5及び粘性ダンパ6が設けられている。
【0031】
図2(c)に示すように、カバープレート5は、各柱2の脚部(基端部)のウェブ2aと平行な2つの面に、すなわち、その主面が柱弱軸方向に直交するように、取り付けられている。カバープレート5は、例えばSS400、板厚12mmの矩形の鋼板で構成されており、柱2の脚部に、溶接やあと施工アンカーを用いて固定されている。後述する理由から、カバープレート5の高さHは、例えば柱2の幅(=250mm)の約1/2(例えば120mm)に設定されている。
【0032】
粘性ダンパ6は、柱2と線路平行梁3Pとの各接合部の付近において、両者2、3Pで構成される線路平行構面内に配置され、斜めに設けられている。
図3に示すように、粘性ダンパ6は、ボールねじ式のものであり、ボールねじ8、外筒9、内筒10及び粘性体11を備えている。
【0033】
ボールねじ8は、ねじ軸8aと、ねじ軸8aに多数のボールを介して螺合するボールナット(いずれも図示せず)を有する。ねじ軸8aは、自在継手12aを介して第1フランジ12に取り付けられ(
図4参照)、ボールナットは、軸受け(図示せず)を介して回転自在に設けられている。外筒9は、円筒状の鋼材で構成され、自在継手13aを介して第2フランジ13に取り付けられている(
図4参照)。
【0034】
内筒10は、円筒状の鋼材で構成され、外筒9の内側に軸受け(図示せず)を介して回転自在に支持されるとともに、ボールナットに連結されている。外筒9と内筒10の間には所定の大きさ(数mm程度)の隙間が形成されており、この隙間に粘性体11が充填されている。粘性体11は、例えばシリコンオイルで構成されている。
【0035】
以上の構成では、ねじ軸8aと外筒9の間に相対変位が発生すると、それによる直線運動がボールねじ8によりナットの回転運動に変換されることによって、ナットと一体の内筒10が回転する。これにより、内筒10と外筒9の間に充填された粘性体11のせん断抵抗によって、粘性減衰効果が発揮される。
【0036】
図4に示すように、粘性ダンパ6は、第1フランジ12及び第1接続部材15を介して、線路平行梁3Pに取り付けられ、第2フランジ13及び第2接続部材16を介して、柱2に取り付けられている。
【0037】
第1接続部材15は、例えば鋼材で構成されており、
図5に示すように、プラットフォームPFの内側から見た正面形状がほぼ三角形の板状の本体部15aと、本体部15aの外縁に沿って設けられた鉛直つば部15b及び斜めつば部15cと、これらの本体部15a及びつば部15b、15cを連結するように設けられた第1取付部15d及び第2取付部15eを一体に有する。第1接続部材15は、第1取付部15d及び鋼製の添板17を介して、線路平行梁3Pのフランジ3bに複数のボルト18及びナット19によって緊結されている。ボルト18は、例えばF10T、M16の高力ボルトで構成されている。また、粘性ダンパ6は、第1フランジ12及び第1接続部材15の第2取付部15eを介して、第1接続部材15にボルト(図示せず)などで固定されている。
【0038】
第2接続部材16もまた、例えば鋼材で構成されており、
図6に示すように、正面形状がほぼ三角形の板状の本体部16aと、本体部16aの外縁に沿って設けられた水平つば部16b及び斜めつば部16cと、本体部16a及びつば部16b、16cを連結するように設けられた第1取付部16d及び第2取付部16eを一体に有する。第2接続部材16は、第1取付部16d及び鋼製の添板20を介して、柱2のウェブ2aに複数のボルト21及びナット22によって緊結されている。ボルト21は、ボルト18と同様、例えばF10T、M16の高力ボルトで構成されている。また、粘性ダンパ6は、第2フランジ13及び第2接続部材16の第2取付部16eを介して、第2接続部材16にボルト(図示せず)などで固定されている。
【0039】
第1接続部材15及び添板17が接合される線路平行梁3P(フランジ3b)の接合面と、第2接続部材16及び添板20が接合される柱2(ウェブ2a)の接合面にはそれぞれ、あらかじめRC種ケレン処理が施されている。また、これらの接合面には、もともと比較的厚い塗装膜が形成されており、RC種ケレン処理の際、この塗装膜が厚さ100μm以下に削られ、残されている。
【0040】
上述した耐震補強構造によれば、地震時などに旅客上家1が振動し、柱2と線路平行梁3Pとの接合部付近において、両者2、3Pの間に線路平行方向の相対変位が発生すると、この相対変位がボールねじ8のねじ軸8aと外筒9の間に伝達され、ねじ軸8aの直線運動がナットの回転運動に変換されることによって、ナットと一体の内筒10が回転する。これにより、内筒10と外筒9の間に充填された粘性体11のせん断抵抗によって、粘性減衰効果が発揮され、旅客上家1の線路平行方向(柱弱軸方向)の振動が抑制される。
【0041】
また、柱2の柱脚部にカバープレート5が取り付けられ、その主面が柱弱軸方向に直交するように配置されていることで、柱脚部の柱弱軸方向の回転剛性(曲げ剛性)が増加するとともに、反曲点位置が柱の中央側に移動し、見掛けの曲げ耐力が増加することによって、柱部材が保有している性能が限界まで活用されることで、耐震性が向上する。また、カバープレート5により、基礎に対する柱脚部の固定度が増大し、柱2と線路平行梁3Pとの相対変位がボールねじ8の回転運動に効率良く変換されることによって、粘性ダンパ6による粘性減衰効果を高めることができる。
【0042】
図7は、このようなカバープレート5による補強効果を検証するために行った実験の結果を、比較例とともに示す。この実験は、H形鋼で構成され、ベースプレートを介し、基礎コンクリートにアンカーボルトを用いて設置された柱を基本の試験体とし、下記の5つの試験条件の下、柱の上端部に水平方向の所定の交番荷重を載荷したときの水平変位及び水平荷重などを測定し、これらの測定データから柱の回転剛性や曲げ耐力を求めたものである。
【0043】
載荷 補強
・条件1 強軸方向 補強なし
・条件2 弱軸方向 補強なし
・条件3 弱軸方向 補強A(実施例のカバープレート)
・条件4 弱軸方向 補強B(補強A+カバープレート内に充填コンクリート)
・条件5 弱軸方向 補強C(補強B+あと施工アンカー)
例えば、柱を構成するH形鋼は250×250×9×14、カバープレートの厚さt=12mm、高さH=600mmである。
【0044】
図7(a)に示すように、回転剛性は、載荷が強軸方向かつ「補強なし」の条件1と比較して、弱軸方向かつ「補強なし」の条件2では小さく、弱軸方向かつ補強Aの条件3では同等であり、弱軸方向かつ補強の度合がより高い条件4及び5では、より大きくなる。この結果から、実施例のように柱2にカバープレート5を取り付けただけの簡易な構成で、強軸方向と同等の柱2の回転剛性を確保できることが分かる。なお、
図7(b)に示すように、最大曲げ耐力は、条件5だけが若干高く、他の条件1~4ではほぼ一定である。
【0045】
また、
図7(c)は、条件3において、カバープレートの高さが、H=600mm、300mm及び120mmのときの柱の変形角と曲げ耐力との関係を、H=0mm(カバープレートなし=条件2)の場合と併せて示したものである。この結果から、カバープレートの高さHが120mm(柱の幅(250mm)の約1/2)あれば、高さHがより大きい場合と同等の十分な補強効果が得られることが確認された。
【0046】
以上の知見から、実施形態では、条件3の補強Aを採用し、柱脚部(基端部)のウェブ2aと平行な2つの面に、柱弱軸方向に直交するようにカバープレート5を取り付けるとともに、その高さHを120mm(柱2の幅(250mm)の約1/2)に設定している。これにより、2枚のカバープレート5を柱脚部に取り付けるだけの簡易な構成で、柱2の弱軸方向の補強を効果的に行うことができる。
【0047】
また、第1接続部材15との線路平行梁3Pの接合面及び第2接続部材16との柱2の接合面などに、塗装膜厚100μm以下のRC種ケレン処理が施されている。そのような比較的簡易なケレン処理によって、これらの接合面における部材間のすべりを抑制し、粘性ダンパ6を含む補強構造の安定した動作を確保することができる。
【0048】
図8は、このようなケレン処理を採用する根拠を確認するために行った実験の結果を示す。この実験は、「すべり係数試験」であり、試験片(並設された2枚の母材と、母材の上下に母材間にまたがるように積層された2枚の添板とを、複数のボルトで締め付けたもの)の母材に、すべりが発生するまで徐々に引張荷重を加え、そのときの引張荷重及び変位などを測定し、これらの測定データから、すべりが発生するときのすべり変位及びすべり荷重を求めるとともに、すべり係数μを次式によって算出するものである。
【0049】
μ = Ps/(m・Ni・n)
ここで、Ps:すべり荷重
m:摩擦面の数(=2)
Ni:ボルト張力
n:ボルト本数(=2)
【0050】
試験条件として、母材はPL-19×75×340、添板はPL-12×75×290、材質はSS400とした。ボルトは、呼び径M16で、高力ボルト(F10T)と中ボルト(強度区分10.9)の2タイプとした。その他、ボルトの締付け条件などは、「すべり係数試験方法」に規定される方法に従った。さらに、添板が接合される母材の表面に対し、次の4つの条件で、ケレン処理及び塗装(エポキシ塗装による)を行った。
ケレン処理 塗装
・条件1 RB種ケレン 塗装なし
・条件2 RB種ケレン 塗装膜厚100μm
・条件3 RC種ケレン 塗装膜厚100μm
・条件4 RC種ケレン 塗装膜厚500μm
【0051】
以上の試験の結果は、
図8に示されている。まず、すべり係数μについては、高力ボルトでは、条件1(RB種ケレン・塗装なし)と条件3(RC種ケレン・100μm)がほぼ同等の値で、条件2(RB種ケレン・100μm)がやや低く、条件4(RC種ケレン・500μm)がやや高いものの、大きな差異は認められない。中ボルトでは、条件2と条件3がほぼ同等の値で、条件1がやや低く、条件4がやや高いものの、やはり大きな差異は認められない。
【0052】
一方、すべり変位については、高力ボルトでは、条件2と条件3がほぼ同等の値で、条件1がやや小さいのに対し、条件4は極端に大きく、接合部の継手性能が低下する。この傾向は、中ボルトにおいても同様である。以上から、条件3(RC種ケレン・100μm)は、条件2(RB種ケレン・塗装なし)及び条件3(RB種ケレン・100μm)と比較して、ケレン処理が簡易でありながら、同等の継手性能が得られることが確認された。このような実験結果から、本実施形態では、前述したように、第1接続部材15との線路平行梁3Pの接合面や第2接続部材16との柱2の接合面に、塗装膜厚100μm以下のRC種ケレン処理が施されている。
【0053】
図9及び
図10は、
図4とは異なる、粘性ダンパ6の取付例を示す。この例では、粘性ダンパ6は、第2接続部材26を用いて、柱2と線路平行梁3Pの接合部付近の片側において、柱2のフランジ2bに斜めに取り付けられている。第2接続部材26は、例えば鋼材で構成されており、
図10に示すように、正面形状がほぼ三角形の板状の本体部26aと、本体部26aの外縁に沿って設けられた水平つば部26b及び斜めつば部26cと、本体部26a及びつば部26b、26cを連結するように設けられた第1取付部26d及び第2取付部26eと、第1取付部26dから互いに平行に延びる一対の取付脚部26f、26fを一体に有する。
【0054】
第2接続部材26は、取付脚部26f、26f及び鋼製の各添板30を介して、柱2のフランジ2b、2bに複数のボルト21及びナット22によって緊結されている。第2接続部材26の接合面には、ブラスト処理があらかじめ施されている。また、添板30が接合される柱2(フランジ2b)の接合面には、塗装膜厚100μm以下のRC種ケレン処理があらかじめ施されている。また、
図6の第2接続部材16と同様、粘性ダンパ6は、第2フランジ13及び第2接続部材26の第2取付部26eを介して、第2接続部材26にボルト(図示せず)などで固定されている。以上の構成により、第2接続部材26を介して、粘性ダンパ6が柱2のフランジ2bに取り付けられる。
【0055】
図11~
図13は、第1及び第2接続部材35、36を用いて、柱2と線路平行梁3Pとの接合部付近の両側において、粘性ダンパ6を水平に取り付けた例を示す。
【0056】
第1接続部材35は、例えば鋼材で構成されており、
図12に示すように、正面形状が上下方向に長い矩形の板状の本体部35aと、本体部35aの左右の端部に設けられた互いに平行なフランジ部35b、35bと、これらの上縁部に設けられた第1取付部35cと、一方のフランジ部35bの下端部から側方に突出する第2取付部35dを一体に有する。第1接続部材35は、第1取付部35c及び鋼製の添板37を介して、線路平行梁3Pのフランジ3bに複数のボルト18及びナット19によって緊結されている。また、粘性ダンパ6は、第1フランジ12及び第1接続部材35の第2取付部35dを介して、第1接続部材35にボルト(図示せず)などで固定されている。
【0057】
第2接続部材36もまた、例えば鋼材で構成されており、
図13に示すように、正面形状が左右方向に長い矩形のウェブ状の本体部36aと、本体部36aの上下の端部に設けられた互いに平行なフランジ部36b、36bと、本体部36aの左右方向の端部にそれぞれ設けられた第1取付部36c及び第2取付部36dを一体に有する。第2接続部材36は、第1取付部36c及び鋼製の添板38を介して、柱2のウェブ2aに複数のボルト21及びナット22によって緊結されている。また、粘性ダンパ6は、第2フランジ13及び第2接続部材36の第2取付部36dを介して、第2接続部材36にボルト(図示せず)などで固定されている。以上の構成により、第1及び第2接続部材35、36を用いて、粘性ダンパ6が、柱2と線路平行梁3Pとの接合部付近に水平に取り付けられる。
【0058】
図14は、上述した
図13とは異なる、柱2への粘性ダンパ6の取付例を示す。この例では、粘性ダンパ6は、第2接続部材46を用いて、柱2と線路平行梁3Pの接合部付近において、柱2のフランジ2bに水平に取り付けられている。この第2接続部材46は、例えば鋼材で構成されており、正面形状が左右方向に長い矩形のウェブ状の本体部46aと、本体部46aの上下の端部に設けられた互いに平行な台形状の水平板部46b、46bと、本体部46aの左右方向の端部にそれぞれ設けられた第1取付部46c及び第2取付部46dと、第1取付部46cから互いに平行に延びる一対の取付脚部46e、46eを一体に有する。
【0059】
第2接続部材46は、取付脚部46e、46e及び鋼製の各添板47を介して、柱2のフランジ2b、2bに複数のボルト21及びナット22によって緊結されている。第2接続部材46の接合面には、ブラスト処理があらかじめ施されている。また、添板47が接合される柱2(フランジ2b)の接合面には、塗装膜厚100μm以下のRC種ケレン処理があらかじめ施されている。また、
図13の第2接続部材36と同様、粘性ダンパ6は、第2フランジ13及び第2接続部材46の第2取付部46dを介して、第2接続部材46にボルト(図示せず)などで固定されている。以上の構成により、第2接続部材46を介して、粘性ダンパ6が柱2のフランジ2bに水平に取り付けられる。
【0060】
図15は、本発明の第2実施形態を示す。
図1の第1実施形態では、プラットフォームPFが地面Gに直接、設けられるのに対し、本実施形態では、プラットフォームPFが地面G上の高架橋RVの上に設けられ、その上に旅客上家1が設置されている。高架橋RVは、ラーメン構造の上に床版を載置したものであり、床版上に線路RWやプラットフォームPFが設けられている。旅客上家1の耐震補強構造として、カバープレート5及び粘性ダンパ6が設けられることは、第1実施形態と同様である。したがって、本実施形態によれば、前述した第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
【0061】
次に、
図16及び
図17を参照しながら、上述した実施形態による旅客上家1に対する耐震補強に関し、その有効性を確認するために実施した時刻歴応答解析について説明する。この時刻歴応答解析の条件は、以下のとおりである。まず、解析モデルは、
図16に示すように、第2実施形態をベースとし、高架橋RV(高架橋架構)及び旅客上家1(旅客架構)をそれぞれ1質点系モデルとし、互いに接続するとともに、旅客上家1の柱弱軸方向の1スパンのみを取り出したものである。
【0062】
図14中のML、KL及びMDは、それぞれ高架橋RVの質量、せん断ばね剛性、及び旅客上家1の質量であり、それぞれの所定値に設定されている。また、柱脚部回転ばねの剛性KBは、「補強なし」と、カバープレート5で補強した「補強A」の2つの場合について、実験結果に基づいて設定し、「補強なし」「補強A」と「補強A+粘性ダンパ」の3つの場合を解析の対象とした。粘性ダンパ6は、柱2と線路平行梁3Pの間に斜めに設置するタイプとし、その設置数を仮に0.8、1及び2とした。
【0063】
また、入力地震動は、まれに発生する地震動(以下「L1地震動」という)と、極めてまれに発生する地震動(以下「L2地震動」という)とし、入力地震波として、告示波「青森県八戸位相」「東北大学位相」及び「神戸海洋気象台(JMA神戸)位相」を用いた。そして、これらの地震動を高架橋RVに入力したときの応答倍率(高架橋RVの質点の水平変位に対する旅客上家1の質点の水平変位の倍率)と最大変形(高架橋RVと旅客上家1の間の最大相対変位と両者の質点間の鉛直距離との比)を求めた。なお、最大変形の設計条件(許容値)は、L1地震動に対して1/120以下、L2地震動に対して1/20以下とした。
【0064】
以上の解析の結果は、
図17に示されている。まず、応答倍率は、入力地震動の大きさ(L1又はL2)及び入力地震波が同じ条件では、概ね「補強なし」「補強A」及び「補強A+粘性ダンパ」の順に大きく、また、ダンパ6の設置数が0.8、1及び2の順に大きい。このことから、補強が進むにつれて、またダンパ6の設置数が多くなるにつれて、旅客上家1の揺れ(振動)がより抑制され、より良好な耐震性能が得られることが確認された。
【0065】
また、最大変形は、「補強なし」の場合にはL1地震動及びL2地震動に対して、「補強A」の場合にはL1地震動に対して、「補強A+ダンパ(設置数=0.8)」の場合にはL1地震動に対して、それぞれの設計条件(1/120以下、1/20以下)を超えている。このことから、
図16に示す1スパンの架構あたり、少なくとも1基の粘性ダンパ6が必要であることが確認された。
【0066】
以上のように、本発明の実施形態によれば、柱2と線路平行梁3Pによって構成される線路平行構面内において、柱2と線路平行梁3Pの間に粘性ダンパ6が設けられていることによって、旅客上家1の柱弱軸方向の振動が抑制される。また、柱脚部にカバープレート5が取り付けられ、その主面が柱弱軸方向に直交するように配置されていることで、柱脚部の弱軸方向の回転剛性及び曲げ耐力が増加し、耐震性が補強される。さらに、カバープレート5により、基礎に対する柱脚部の固定度が増大していることで、柱2と線路平行梁3Pとの相対変位がボールねじ8の回転運動に効率良く変換され、粘性ダンパ6による粘性減衰効果が高められる。以上により、旅客上家1の柱弱軸方向の耐震性の補強を効果的かつ簡易に行うことができる。
【0067】
また、カバープレート5の高さが、補強効果が頭打ちになる大きさに相当する、柱2の幅の約1/2に設定されているので、柱脚部の補強効果を最小限の大きさのカバープレートを用いて効率良く得ることができる。
【0068】
さらに、粘性ダンパ6を、第1及び第2接続部材15、16などを介して、線路平行梁3P及び柱2のウェブ2aやフランジ2bに機械的に取り付けるので、溶接作業などによる電気設備の配線への悪影響を確実に回避することができる。
【0069】
また、第1及び第2接続部材15、16などが接合される線路平行梁3P及び柱2の接合面に、塗装膜厚100μm以下のRC種ケレン処理が施されているので、これらの接合部に要求される継手性能を、比較的簡易なケレン処理と最小限の塗装膜厚によって効率良く得ることができる。
【0070】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、粘性ダンパ6を、
図4や
図11に示す例では、柱2の両側に一対で配置し、
図9に示す例では、柱2の一方の側のみに配置しているが、
図17に示した解析結果から、少なくとも柱2の一方の側に配置すればよい。
【0071】
また、実施形態の粘性ダンパ6は、ボールねじ式のものであるが、これに限らず、粘性ダンパは、入力された振動を粘性体による粘性減衰効果によって減衰させ、抑制するものである限り、その形式や構成は任意である。また、粘性ダンパに限らず、第1接続部材や第2接続部材の構成もまた、あくまで例示であり、適宜、変更される。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 旅客上家
2 柱
2a 柱のウェブ
2b 柱のフランジ
3 梁
3P 線路平行梁(梁)
4 屋根
5 カバープレート
6 粘性ダンパ(ダンパ)
8 ボールねじ
9 外筒
10 内筒
11 粘性体
15 第1接続部材(接続部材)
16 第2接続部材(接続部材)
21 ボルト
26 第2接続部材(接続部材)
35 第1接続部材(接続部材)
36 第2接続部材(接続部材)
46 第2接続部材(接続部材)
PF プラットフォーム(基礎)
RW 線路
H カバープレートの高さ
RV 高架橋