(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166054
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 37/02 20060101AFI20231114BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20231114BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
B01J37/02 301D
B01J37/08 ZAB
B01D53/94 300
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072659
(22)【出願日】2022-04-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】倉田 泰好
(72)【発明者】
【氏名】渥美 健
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148BB02
4D148BB14
4G169AA03
4G169AA09
4G169BA13B
4G169CA03
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169EA07
4G169EA18
4G169EA19
4G169EA27
4G169EB14Y
4G169EC29
4G169FA06
4G169FB23
4G169FB30
4G169FB78
4G169FB79
4G169FC06
(57)【要約】
【課題】基材上に、高粘度の塗工液を吸引法によってコートする場合であっても、貯留治具の内壁への塗工液の付着が抑制され、高品質の排ガス浄化触媒装置を安定して製造するための方法を提供すること。
【解決手段】(A)複数のセル流路の一方の開口端を上側、他方の開口端を下側に向けて、基材を配置し、基材の上端部に貯留壁を有する塗工液貯留治具を装着して、塗工液貯留部を形成すること;(B)触媒コート層形成用塗工液を、塗工液貯留部に供給すること;(C)セル流路内の圧力を、塗工液貯留部の圧力よりも低くすることによって、基材の隔壁に触媒コート層形成用塗工液をコートすること;(D)塗工液貯留治具の貯留壁の内側に、上方から圧縮空気を吹き付けること、及び(E)触媒コート層形成用塗工液がコートされた基材を焼成することを含み、かつ、工程(C)と工程(D)とを同時に行う、排ガス浄化触媒装置の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁によって区分された複数のセル流路を有する基材と、
前記基材の隔壁中若しくは隔壁上又はこれらの双方にコートされた触媒コート層と
を有する、排ガス浄化触媒装置の製造方法であって、
(A)前記複数のセル流路の一方の開口端を上側、他方の開口端を下側に向けて、前記基材を配置し、前記基材の上端部に、前記基材の上端の外周から上方に延びる貯留壁を有する塗工液貯留治具を装着して、前記基材の上端面及び前記塗工液貯留治具の前記貯留壁の内側によって規定される塗工液貯留部を形成すること;
(B)触媒コート層形成用塗工液を、前記塗工液貯留部に供給すること;
(C)前記セル流路内の圧力を、前記塗工液貯留部の圧力よりも低くすることによって、前記塗工液貯留部の前記触媒コート層形成用塗工液を、前記セル流路内に導入して、前記隔壁に前記触媒コート層形成用塗工液をコートすること;
(D)前記塗工液貯留治具の前記貯留壁の内側に、上方から圧縮空気を吹き付けること、及び
(E)前記触媒コート層形成用塗工液がコートされた前記基材を焼成すること
を含み、かつ、
前記工程(C)のうちの少なくとも一部と、前記工程(D)のうちの少なくとも一部とを同時に行う、
排ガス浄化触媒装置の製造方法。
【請求項2】
前記工程(C)を開始した後に、前記工程(D)を開始する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(D)を終了した後に、前記工程(C)を終了する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(D)を終了した後に、前記工程(C)を終了する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記塗工液貯留治具の前記貯留壁が、前記基材の上端部の外周から略垂直に上方に延びる垂直部と、前記垂直部の上端から外側上方に延びる傾斜部とを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(D)において、前記圧縮空気を、前記貯留壁の垂直部の内側に吹き付ける、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(D)において、前記圧縮空気の吹き付け方向と前記貯留壁の垂直部の内側面との間の角度が、0.5°以上60°以下である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(D)において、前記貯留壁の内側に吹き付ける圧縮空気の吹き出し孔の、前記基材の半径方向に平行な方向の幅が、0.05mm以上1.00mm以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(D)において、前記貯留壁の内側に吹き付ける圧縮空気の圧力が、圧縮空気の吹き出し孔において、0.05MPa以上1.50MPa以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記触媒コート層形成用塗工液について、25℃において、せん断速度0.4s-1で測定した粘度が、500mPa・s以上10,000mPa・s以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記隔壁への前記触媒コート層形成用塗工液のコートを、前記基材の上端から下方向に向かって所定の範囲について行う、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも前記工程(A)~(D)を行った後に、前記基材の上下を逆転させて、前記工程(A)~(E)を行う、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記基材が、ストレートフロー型のハニカム基材である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記基材が、ウォールフロー型のハニカム基材である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関から排出される排ガスは、排気系に設置される排ガス浄化触媒装置によって浄化された後、大気に放出されている。この排ガス浄化触媒装置は、例えば、隔壁によって区画された複数のセル流路を有するハニカム基材と、該ハニカム基材の隔壁上及び/又は隔壁中に形成された触媒コート層とを含む構造を有する。
【0003】
このような排ガス浄化触媒装置は、例えば、ハニカム基材の隔壁に、触媒コート層の原料成分を含有する塗工液をコートした後、焼成することにより、製造されている。
【0004】
ここで、ハニカム基材の隔壁への塗工液のコートを、ハニカム基材の片方の端面に塗工液を載置し、反対側の端面から吸引する方法(吸引法)によって行うことが知られている。例えば、特許文献1には、ハニカム基材の第1端面に塗工液を貯留可能とする枠型形状の貯留治具を装着して、第1端面上に塗工液を貯留したうえで、第1端面と反対側の第2端面側の圧力を、第1端面側の圧力に対して相対的に低くして、第1端面から第2端面への塗工液の流れを生じさせることにより、ハニカム基材の隔壁に塗工液をコートすることが記載されている。
【0005】
ところで、排ガス浄化触媒装置では、ハニカム基材の上流側及び下流側に、それぞれ、異なる組成の触媒コート層を配置して、「ゾーンコート」と呼ばれる構成として、排ガス浄化能の向上を図ることがある。このような、ゾーンコート構成の触媒コート層は、例えば、吸引法によって、基材の片方の端面から所定の長さの第1の触媒コート層を形成した後、基材の他方の端面から所定の長さの第1の触媒コート層を形成することによって、製造されてよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ハニカム基材上への塗工液のコートを、吸引法によって行う場合、塗工液が吸引側の端部からハニカム基材外へ漏出すると、塗工液の一部が無駄に廃棄されることになり、排ガス浄化触媒装置の製造コストが増大することになる。特に、触媒コート層が触媒貴金属を含む場合、塗工液は高価であるため、塗工液の無駄による排ガス浄化触媒装置の製造コストの増大の程度は大きい。
【0008】
そこで、このような無駄を避けるため、吸引法に用いられる塗工液は、比較的高い粘度に調節されることが多い。
【0009】
また、吸引法によってゾーンコート構成の触媒コート層を形成する場合には、触媒コート層を所定の長さに制御するために、塗工液は、高粘度に調整される。
【0010】
高粘度の塗工液を吸引法によって塗布するとき、ハニカム基材端面に装着された貯留治具の内壁に、塗工液が付着することがある。貯留治具の内壁に塗工液が付着すると、ハニカム基材の隔壁へのコート量が不足し、或いは、コート層を所定の長さにコートすることができず、排ガス浄化触媒装置の品質不良を来たすことがあり得る。
【0011】
また、一旦貯留治具の内壁に付着した塗工液が、ハニカム基材上に落下すると、セル流路の一部が閉塞し、或いは、ハニカム基材の外側表面に塗工液が付着し、やはり、排ガス浄化触媒装置の品質不良を来たすことがあり得る。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものである。したがって、本発明の目的は、基材上に、高粘度の塗工液を吸引法によってコートする場合であっても、貯留治具の内壁への塗工液の付着が抑制され、高品質の排ガス浄化触媒装置を安定して製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下のとおりである。
【0014】
《態様1》隔壁によって区分された複数のセル流路を有する基材と、
前記基材の隔壁中若しくは隔壁上又はこれらの双方にコートされた触媒コート層と
を有する、排ガス浄化触媒装置の製造方法であって、
(A)前記複数のセル流路の一方の開口端を上側、他方の開口端を下側に向けて、前記基材を配置し、前記基材の上端部に、前記基材の上端の外周から上方に延びる貯留壁を有する塗工液貯留治具を装着して、前記基材の上端面及び前記塗工液貯留治具の前記貯留壁の内側によって規定される塗工液貯留部を形成すること;
(B)触媒コート層形成用塗工液を、前記塗工液貯留部に供給すること;
(C)前記セル流路内の圧力を、前記塗工液貯留部の圧力よりも低くすることによって、前記塗工液貯留部の前記触媒コート層形成用塗工液を、前記セル流路内に導入して、前記隔壁に前記触媒コート層形成用塗工液をコートすること;
(D)前記塗工液貯留治具の前記貯留壁の内側に、上方から圧縮空気を吹き付けること、及び
(E)前記触媒コート層形成用塗工液がコートされた前記基材を焼成すること
を含み、かつ、
前記工程(C)のうちの少なくとも一部と、前記工程(D)のうちの少なくとも一部とを同時に行う、
排ガス浄化触媒装置の製造方法。
《態様2》前記工程(C)を開始した後に、前記工程(D)を開始する、態様1に記載の方法。
《態様3》前記工程(D)を終了した後に、前記工程(C)を終了する、態様1又は2に記載の方法。
《態様4》前記塗工液貯留治具の前記貯留壁が、前記基材の上端部の外周から略垂直に上方に延びる垂直部と、前記垂直部の上端から外側上方に延びる傾斜部とを有する、態様1~3のいずれか一項に記載の方法。
《態様5》前記工程(D)において、前記圧縮空気を、前記貯留壁の垂直部の内側に吹き付ける、態様4に記載の方法。
《態様6》前記工程(D)において、前記圧縮空気の吹きつけ方向と前記貯留壁の垂直部の内側面との間の角度が、0.5°以上60°以下である、態様5に記載の方法。
《態様7》前記工程(D)において、前記貯留壁の内側に吹き付ける圧縮空気の吹き出し孔の、前記基材の半径方向に平行な方向の幅が、0.05mm以上1.00mm以下である、態様1~6のいずれか一項に記載の方法。
《態様8》前記工程(D)において、前記貯留壁の内側に吹き付ける圧縮空気の圧力が、圧縮空気の吹き出し孔において、0.05MPa以上1.50MPa以下である、態様1~7のいずれか一項に記載の方法。
《態様9》前記触媒コート層形成用塗工液について、25℃において、せん断速度0.4s-1で測定した粘度が、500mPa・s以上10,000mPa・s以下である、態様1~8のいずれか一項に記載の方法。
《態様10》前記隔壁への前記触媒コート層形成用塗工液のコートを、前記基材の上端から下方向に向かって所定の範囲について行う、態様1~9のいずれか一項に記載の方法。
《態様11》少なくとも前記工程(A)~(D)を行った後に、前記基材の上下を逆転させて、前記工程(A)~(E)を行う、態様1~10のいずれか一項に記載の方法。
《態様12》前記基材が、ストレートフロー型のハニカム基材である、態様1~11のいずれか一項に記載の方法。
《態様13》前記基材が、ウォールフロー型のハニカム基材である、態様1~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、高粘度の塗工液をコートする場合であっても、貯留治具の内壁への塗工液の付着が抑制され、高品質の排ガス浄化触媒装置を安定して製造するための方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法における工程を説明するための、概略断面図である。
【
図2】
図2はコート後のハニカム基材の断面写真である。
図2(a)は実施例1、
図2(b)比較例1、及び
図2(c)は比較例2に関する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《排ガス浄化触媒装置の製造方法》
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法は、
隔壁によって区分された複数のセル流路を有する基材と、
前記基材の隔壁中若しくは隔壁上又はこれらの双方にコートされた触媒コート層と
を有する、排ガス浄化触媒装置の製造方法であって、
(A)前記複数のセル流路の一方の開口端を上側、他方の開口端を下側に向けて、前記基材を配置し、前記基材の上端部に、前記基材の上端の外周から上方に延びる貯留壁を有する塗工液貯留治具を装着して、前記基材の上端面及び前記塗工液貯留治具の前記貯留壁の内側によって規定される塗工液貯留部を形成すること(塗工液貯留部形成工程);
(B)触媒コート層形成用塗工液を、前記塗工液貯留部に供給すること(塗工液供給工程);
(C)前記セル流路内の圧力を、前記塗工液貯留部の圧力よりも低くすることによって、前記塗工液貯留部の前記触媒コート層形成用塗工液を、前記セル流路内に導入して、前記隔壁に前記触媒コート層形成用塗工液をコートすること(吸引工程);
(D)前記塗工液貯留治具の前記貯留壁の内側に、上方から圧縮空気を吹き付けること(吹き付け工程)、及び
(E)前記触媒コート層形成用塗工液がコートされた前記基材を焼成すること(焼成工程)
を含み、かつ、
前記工程(C)のうちの少なくとも一部と、前記工程(D)のうちの少なくとも一部とを同時に行う、
排ガス浄化触媒装置の製造方法である。
【0018】
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法では、基材上に、高粘度の塗工液を吸引法によってコートするときに、(C)吸引工程及び(D)吹き付け工程の少なくとも一部を同時に行うことを特徴とする。
【0019】
このような本発明の方法によると、貯留治具の内壁への塗工液の付着を抑制しつつ、基材に塗工液を所望の長さでコートすることが可能となる。
【0020】
先ず(C)吸引工程を行い、これが完了した後に(D)吹き付け工程を行うと、貯留治具の内壁への塗工液の付着は抑制されるが、ハニカム基材の外周側において塗工液のコート長さが所定値よりも長くなる傾向がある。一方、先ず(D)吹き付け工程を行い、これが完了した後に(C)吸引工程を行おうとすると、貯留治具に貯留された塗工液が飛び散って、所定量の塗工液のコートが困難となる場合がある。
【0021】
そこで本発明では、(C)吸引工程及び(D)吹き付け工程の少なくとも一部を同時に行うことにより、貯留治具の内壁への塗工液の付着の抑制と、基材上に所望の長さで塗工液をコートすることとの両立を可能としたものである。
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法について説明する。本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法の典型例を、概略断面図として、
図1に示す。
【0023】
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法では、複数のセル流路の一方の開口端を上側、他方の開口端を下側に向けて、基材(10)を配置する。そして、基材(10)の上端部に、塗工液貯留治具を装着する。塗工液貯留治具は、基材(10)の上端の外周から上方に延びる貯留壁(20)を有する。貯留壁(20)は、基材(10)の上端部の外周から略垂直に上方に延びる垂直部(20a)と、垂直部(20a)の上端から外側上方に延びる傾斜部(20b)とを有していてよい。基材(10)に塗工液貯留治具を装着すると、基材(10)の上端面及び塗工液貯留治具の貯留壁(20)の内側によって規定される、塗工液貯留部が形成される(
図1(a)、(A)塗工液貯留部形成工程)。
【0024】
次に、適当なシャワーノズル(30)を用いて、(A)塗工液貯留部形成工程によって形成された塗工液貯留部に、触媒コート層形成用塗工液(40)を供給する(
図1(b)、(B)塗工液供給工程)。
【0025】
更に、
基材(10)のセル流路内の圧力を、塗工液貯留部の圧力よりも低くすることによって、塗工液貯留部に供給された触媒コート層形成用塗工液(40)を、セル流路内に導入して、基材(10)の隔壁に触媒コート層形成用塗工液(40)をコートすることと、
適当な圧縮空気供給器(50)を用いて、塗工液貯留治具の貯留壁(20)の内側に、上方から圧縮空気(60)を吹き付けることと
を、同時に行う(
図1(c)、(C)吸引工程及び(D)吹き付け工程)。
【0026】
そして、触媒コート層形成用塗工液がコートされた基材(10)を焼成すること(図示せず、(E)焼成工程)により、排ガス浄化触媒装置が製造される。
【0027】
以下、本発明における基材及び触媒コート層について説明した後、本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法の各工程について、順に説明する。
【0028】
〈基材〉
本発明に適用される基材は、隔壁によって区分された複数のセル流路を有する基材であり、従来技術の排ガス浄化触媒装置に用いられているハニカム基材であってよい。基材の隔壁は、隣接する排ガス流路間を流体的に連通する細孔を有していてよい。
【0029】
基材の構成材料は、例えば、コージェライト等の耐火性無機酸化物であってよい。基材は、ストレートフロー型であっても、ウォールフロー型であってもよい。
【0030】
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法における基材は、典型的には、例えば、コージェライト製のストレートフロー型のモノリスハニカム基材、又はコージェライト製のウォールフロー型のモノリスハニカム基材であってよい。
【0031】
〈触媒コート層〉
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法によって形成される触媒コート層は、基材の隔壁上及び隔壁中のうちの少なくとも一方に形成される。
【0032】
触媒コート層は、少なくとも無機酸化物粒子を含み、更に触媒貴金属粒子、バインダー等の任意成分を含んでいてよい。
【0033】
触媒コート層は、従来技術の排ガス浄化触媒装置における触媒コート層と同じであってよく、これと異なる新規な構成のものであってもよい。
【0034】
本発明の方法によると、基材に塗工液を所望の長さでコートすることが容易である。したがって、触媒コート層が、基材の片方の開口端から基材の長さ方向に所定の長さで伸びる、「ゾーンコート」と呼ばれるコート形態であると、本発明の効果が有利に発現される。
【0035】
〈(A)塗工液貯留部形成工程〉
塗工液貯留部形成工程では、先ず、複数のセル流路の一方の開口端を上側、他方の開口端を下側に向けて、基材を配置する。基材は、その長さ方向が、鉛直方向とほぼ一致するように配置されてよい。
【0036】
次いで、基材の上端部に塗工液貯留治具を装着して、塗工液貯留部を形成する。
【0037】
塗工液貯留治具は、略筒状の形状を有していてよい。この筒の少なくとも一方の端部は、基材の上端部を囲繞して、基材の外周端と塗工液貯留治具の内側面の隙間から塗工液が漏出しないような、形状及びサイズを有していてよい。
【0038】
塗工液貯留治具は、基材に装着した状態において、上記の筒の上部(基材の上端部と接触している部分以外の部分)が、基材の上端の外周から上方に延びる貯留壁を形成する。したがって、基材に塗工液貯留治具を装着すると、基材の上端面及び塗工液貯留治具の貯留壁の内側によって規定される、塗工液貯留部が形成される。
【0039】
塗工液貯留治具の貯留壁は、前記基材の上端部の外周から略垂直に上方に延びる垂直部と、前記垂直部の上端から外側上方に延びる傾斜部とを有していてよい。
【0040】
垂直部及び傾斜部の長さ、並びにこれらの合計である貯留壁の長さは、(B)塗工液供給工程において、塗工液貯留部に供給される塗工液の量に応じて、適宜に設定されてよい。
【0041】
塗工液貯留治具の構成材料としては、基材の上端部への装着及び取り外しが容易であり、装着時及び取り外し時に基材を損傷しない程度の柔軟性及び可とう性を有し、かつ、塗工液が付着し難い材料が用いられてよい。塗工液貯留治具の構成材料として、例えば、合成樹脂、特に、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ABS樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0042】
〈(B)塗工液供給工程〉
(B)塗工液供給工程では、触媒コート層形成用塗工液を塗工液貯留部に供給する。
【0043】
触媒コート層形成用塗工液は、触媒コート層の構成成分又はその前駆体を含む液状組成物である。触媒コート層形成用塗工液は、例えば、無機酸化物粒子及び水を含むスラリーであってよく、更に触媒貴金属粒子の前駆体、バインダー又はその前駆体、増粘剤等の任意成分を含んでいてよい。
【0044】
触媒コート層形成用塗工液の粘度は、比較的高くてよい。触媒コート層形成用塗工液は、例えば、25℃において、せん断速度0.4s-1及び400s-1で測定した粘度が、それぞれ、以下のとおりであってよい。
【0045】
せん断速度0.4s-1における粘度:500mPa・s以上、1,000mPa・s以上、1,500mPa・s以上、2,000mPa・s以上、2,500mPa・s以上、3,000mPa・s以上、又は3,500mPa・s以上、かつ、10,000mPa・s以下、8,000mPa・s以下、7,000mPa・s以下、6,000mPa・s以下、又は5,000mPa・s以下。
せん断速度400s-1における粘度:50mPa・s以上、60mPa・s以上、80mPa・s以上、100mPa・s以上、120mPa・s以上、又は140mPa・s以上、かつ、500mPa・s以下、400mPa・s以下、300mPa・s以下、又は200mPa・s以下。
【0046】
触媒コート層形成用塗工液の塗工液貯留部への供給量は、所望の触媒コート層のコート長さに応じて、適宜に設定されてよい。触媒コート層形成用塗工液は、基材の上端面の全面に、できるだけ均一の厚さで供給されることが望まれる。そのため、触媒コート層形成用塗工液は、例えば、適当なシャワーノズルを用いて、塗工液貯留部に供給されてよい。
【0047】
また、触媒コート層形成用塗工液を塗工液貯留部へ供給した後、所定の時間が経過した後に、次の(C)吸引工程を開始することも、本発明の好ましい態様である。
【0048】
〈(C)吸引工程〉
(C)吸引工程では、基材のセル流路内の圧力を、塗工液貯留部の圧力よりも低くすることによって、塗工液貯留部の触媒コート層形成用塗工液を、セル流路内に導入して、隔壁に触媒コート層形成用塗工液をコートする。
【0049】
ここでは、塗工液貯留部とセル流路内との圧力差を駆動力として、セル流路内に気流が発生して、触媒コート層形成用塗工液がセル流路内に導入される。しかしながら、(B)塗工液供給工程で供給される触媒コート層形成用塗工液の粘度及び量、並びに圧力差を適切に設定すれば、触媒コート層形成用塗工液は、基材の上側端部から下側に向かって所望の長さだけコートされることになる。
【0050】
圧力差の程度は、基材の上端面上の風速が、10m/秒以上、20m/秒以上、30m/秒以上、又は35m/秒以上であって、120m/秒以下、100m/秒以下、80m/秒以下、60m/秒以下、又は50m/秒以下となるように設定されてよい。
【0051】
(C)吸引工程の実施時間は、触媒コート層形成用塗工液のセル流路内への導入を、確実かつ効率的に実施するとの観点から、1.0秒以上、1.5秒以上、2.0秒以上、2.5秒以上、又は3.0秒以上であってよく、10秒以下、8.0秒以上、6.0秒以上、5.0秒以上、4.0秒以上、又は3.0秒以上であってよい。
【0052】
〈(D)吹き付け工程〉
(D)吹き付け工程では、塗工液貯留治具の貯留壁の内側に、上方から圧縮空気を吹き付ける。これにより、貯留壁の内側に、触媒コート層形成用塗工液の一部が付着していたとしても、これが吹き払われてセル流路内に落とし込まれ、所定量の触媒コート層形成用塗工液のコートが実現されることになる。
【0053】
圧縮空気は、適当な圧縮空気供給器を用いて、貯留壁の内側に吹き付けられてよい。貯留壁の内側に付着した触媒コート層形成用塗工液を、効率よく確実に吹き払うために、圧縮空気供給器は、円環状の吹き出し孔を有し、この吹き出し孔から圧縮空気を噴き出してよい。
【0054】
圧縮空気供給器の吹き出し孔の、基材の半径方向に平行な方向の幅(好ましくは円環の幅)は、0.05mm以上、0.07mm以上、0.10mm以上、0.30mm以上、0.40mm以上、又は0.50mm以上であってよく、1.00mm以下、0.80mm以下、0.70mm以下、又は0.60mm以下であってよい。
【0055】
付着した触媒コート層形成用塗工液を、セル流路内に確実に落とし込むとの観点から、圧縮空気は、貯留壁の垂直部の内側に吹き付けられてよい。この場合、圧縮空気の吹きつけ方向と貯留壁の垂直部の内側面との間の角度は、0.5°以上、1.0°以上、5.0°以上、10°以上、15°以上、20°以上、又は25°以上であってよく、60°以下、50°以下、45°以下、40°以下、又は35°以下であってよい。
【0056】
貯留壁の内側に吹き付ける圧縮空気の圧力は、圧縮空気の吹き出し孔において、0.05MPa以上、0.10MPa以上、0.30MPa以上、0.50MPa以上、0.75MPa以上、又は1.00MPa以上であってよく、1.50MPa以下、1.25MPa以下、1.00MPa以下、又は0.80MPa以下であってよい。
【0057】
〈(E)焼成工程〉
(E)焼成工程では、触媒コート層形成用塗工液がコートされた基材を焼成する。
(E)焼成工程における焼成は、使用する触媒コート層形成用塗工液の組成に応じて、公知の方法により、又はこれに当業者による適宜の変更を加えた方法により、行われてよい。
【0058】
〈(C)吸引工程及び(D)吹き付け工程の実施態様〉
本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法では、上記の(C)吸引工程のうちの少なくとも一部と、(D)吹き付け工程のうちの少なくとも一部とを、同時に行うことを特徴とする。
【0059】
本発明のある実施態様では、(C)吸引工程を開始した後に、(D)吹き付け工程が開始される。この場合、(C)吸引工程の開始後、(D)吹き付け工程を開始するまでの時間は、0.1秒以上、0.2秒以上、0.3秒以上、0.4秒以上、又は0.5秒以上であってよく、1.0秒以下、0.8秒以下、0.7秒以下、0.6秒以下、又は0.5秒以下であってよい。
【0060】
本発明のある実施態様では、(D)吹き付け工程を終了した後に、(C)吸引工程が終了される。この場合、(D)吹き付け工程の終了後、(C)吸引工程を終了するまでの時間は、0.1秒以上、0.2秒以上、0.3秒以上、0.4秒以上、又は0.5秒以上であってよく、1.0秒以下、0.8秒以下、0.7秒以下、0.6秒以下、又は0.5秒以下であってよい。
【0061】
本発明のある実施態様では、(C)吸引工程を開始した後に、(D)吹き付け工程が開始され、かつ、(D)吹き付け工程を終了した後に、(C)吸引工程が終了される。
【0062】
〈本発明の排ガス浄化触媒装置の製造方法の適用形態〉
本発明の方法によると、基材に触媒コート層形成用塗工液を所望の長さでコートすることが容易である。したがって、触媒コート層形成用塗工液のコートを、基材の上端から下方向に向かって所定の範囲について行ってよい。これにより、触媒コート層が、基材の片方の開口端から基材の長さ方向に所定の長さで伸びる、「ゾーンコート」と呼ばれるコート形態が、容易に精度よく実現される。
【0063】
少なくとも(A)塗工液貯留部形成工程、(B)触媒コート層形成用塗工液供給工程、(C)吸引工程、及び(D)吹き付け工程を行った後に、
基材の上下を逆転させて、
(A)塗工液貯留部形成工程、(B)触媒コート層形成用塗工液供給工程、(C)吸引工程、(D)吹き付け工程、及び(E)焼成工程を行ってもよい。
【0064】
このとき、(A)塗工液貯留部形成工程、(B)触媒コート層形成用塗工液供給工程、(C)吸引工程、(D)吹き付け工程、及び(E)焼成工程を行った後に、
基材の上下を逆転させて、
再度、(A)塗工液貯留部形成工程、(B)触媒コート層形成用塗工液供給工程、(C)吸引工程、(D)吹き付け工程、及び(E)焼成工程を行ってもよい。
【0065】
このような実施態様により、基材がストレートフロー型であれば、触媒コート層の組成が、基材の排ガス流れ上流側と下流側と異なる「ゾーンコート」の触媒コート層が得られる。
【0066】
また、基材がウォールフロー型であれば、基材の入口側セル及び出口側セルの双方に触媒コート層を形成することができる。
【実施例0067】
《実施例1》
実施例1では、
図1(a)~(c)に示した方法にしたがって、ハニカム基材上に塗工液をコートした。
【0068】
先ず、直径100mm、長さ70mmの円柱形ストレートフロー型コージェライト製のハニカム基材(10)を、軸方向を鉛直にして配置した。
【0069】
このハニカム基材(10)の上側に、ポリエチレン製の塗工液貯留治具を装着した。この塗工液貯留治具は、略円筒形の形状を有しており、下部ではハニカム基材(10)の上側の側面に密着し、上部ではハニカム基材(10)の上端の外周から上方に延びる貯留壁を有している。塗工液貯留治具の貯留壁は、ハニカム基材(10)の上端部の外周から略垂直に上方に延びる垂直部(20a)と、垂直部(20a)の上端から外側上方に延びる傾斜部(20b)とを有している(
図1(a))。
【0070】
次に、ハニカム基材(10)の上方に配置したシャワーノズル(30)を用いて、ハニカム基材(10)の上端面、及び塗工液貯留治具の貯留壁によって形成される塗工液貯留部に、所定量の触媒コート層形成用塗工液(40)を供給した(
図1(b))。この触媒コート層形成用塗工液(40)は、無機酸化物粒子を含み、コーン・アンド・プレート型の粘度計を用い、25℃において、せん断速度0.4s
-1で測定した粘度は4,000mPa・sであり、せん断速度400s
-1で測定した粘度は150mPa・sであった。
【0071】
次いで、ハニカム基材(10)の上方からシャワーノズル(30)を除去して、代わりに圧縮空気供給器(50)を配置した。圧縮空気供給器(50)は、塗工液貯留治具の貯留壁の内側に、鉛直方向に対して角度30°の上方から、幅0.5mmの円環状に、圧縮空気を吹き付けることができる。
【0072】
その後、ハニカム基材(10)の下側端面から、3.0秒間の吸引を行った。なお、この吸引は、ハニカム基材(10)の上端面上の風速が40m/秒となる強度で行った。また、このとき、上記の吸引の開始から0.5秒後から2.5秒後までの2.0秒間、圧縮空気供給器(50)によって0.10MPaの圧縮空気を吹付けることにより、エアブローを行った(
図1(c))。
【0073】
以上の操作により、ハニカム基材上に触媒コート層形成用塗工液をコートした。コート後のハニカム基材を、直径方向に切断した断面を観察して、コート長さの均一性を調べた。実施例1のハニカム基材のコート後の断面写真を、
図2(a)に示す。
【0074】
実施例1における触媒コート層形成用塗工液のコートでは、塗工液貯留治具への塗工液の付着は見られず、塗工液貯留部に供給された触媒コート層形成用塗工液の全量が、ハニカム基材にコートされた。また、触媒コート層形成用塗工液のコート長さは、
図2(a)に示したように、基材の外周付近が最も長く、外周から中心に近づくにしたがって、一旦減少した後、微増している。コート長さの最長部と最短部との差は、11.0mmであった。
【0075】
《比較例1》
比較例1では、ハニカム基材の上方の塗工液貯留部に触媒コート層形成用塗工液を供給した後、3.0秒間の吸引及び2.0秒間のエアブローを、この順に、順次に行った他は、実施例1と同様にして、ハニカム基材への触媒コート層形成用塗工液のコートを行い、評価した。
【0076】
比較例1のハニカム基材のコート後の断面写真を、
図2(b)に示す。
【0077】
比較例1における触媒コート層形成用塗工液のコートでは、塗工液貯留治具への塗工液の付着は見られず、塗工液貯留部に供給された触媒コート層形成用塗工液の全量がハニカム基材にコートされた。しかし、得られた触媒コート層のコート長さの最長部と最短部との差は、16.0mmであった。
【0078】
《比較例2》
比較例2では、ハニカム基材の上方の塗工液貯留部に触媒コート層形成用塗工液を供給した後、3.0秒間の吸引、2.0秒間のエアブロー、及び3.0秒間の吸引を、この順に、順次に行った他は、実施例1と同様にして、ハニカム基材への触媒コート層形成用塗工液のコートを行い、評価した。
【0079】
比較例2のハニカム基材のコート後の断面写真を、
図2(c)に示す。
【0080】
比較例2における触媒コート層形成用塗工液のコートでは、塗工液貯留治具への塗工液の付着は見られなかった。しかし、塗工液貯留部に供給された触媒コート層形成用塗工液の一部がハニカム基材の下端面から流出した。また、得られた触媒コート層のコート長さの最長部と最短部との差は、16.5mmであった。
【0081】
以上の結果を、表1にまとめて示す。
【0082】