(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166173
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】変性非晶性ポリプロピレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 255/02 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
C08F255/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077034
(22)【出願日】2022-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(71)【出願人】
【識別番号】502371598
【氏名又は名称】KFケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168893
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 正路
(72)【発明者】
【氏名】高村 真澄
(72)【発明者】
【氏名】和田 拓也
【テーマコード(参考)】
4J026
【Fターム(参考)】
4J026AA13
4J026BA06
4J026BA07
4J026BA25
4J026BA34
4J026BA40
4J026BB03
4J026DB05
4J026DB13
4J026DB26
4J026DB38
4J026DB40
4J026FA08
4J026FA09
4J026GA02
(57)【要約】
【課題】非晶性ポリプロピレンを溶融混練機中でグラフト重合しても取り扱い性に問題が生じず、かつ、高いグラフト効率及び抑制された分子量変化にて、変性非晶性ポリプロピレンを製造できる方法の提供。
【解決手段】非晶性ポリプロピレンと、カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和単量体と、有機過酸化物と、電子供与性の多官能エチレン性不飽和単量体と、電子供与性の連鎖移動剤とを、130~180℃の温度で溶融混錬することを含む、変性非晶性ポリプロピレンの製造方法
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性ポリプロピレンと、
カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和単量体と、
有機過酸化物と、
電子供与性の多官能エチレン性不飽和単量体と、
電子供与性の連鎖移動剤と、
を、130~180℃の温度で溶融混錬することを含む、
変性非晶性ポリプロピレンの製造方法。
【請求項2】
前記非晶性ポリプロピレンの軟化点が、130~180℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記非晶性ポリプロピレンの重量平均分子量が、5,000~500,000である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記非晶性ポリプロピレンの190℃における溶融粘度が、0.01~50Pa・sである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和単量体が、メタクリル酸、アクリル酸、及び無水マレイン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和単量体が、メタクリル酸を含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記電子供与性の多官能エチレン性不飽和単量体が、2以上のビニル基又は2以上のアリル基を有し、かつ、芳香環又はイソシアヌル環を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記電子供与性の多官能エチレン性不飽和単量体が、ジビニルベンゼン、及びトリアリルイソシアヌレートからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記電子供与性の連鎖移動剤が、下記式(1):
【化1】
[式中、
R
1は、アリール基又はヘテロアリール基であり、
R
2は、アリール基、ヘテロアリール基、シアノ基又はアルキルエステル基(-COOR
4、ここでR
4は炭素数1~4のアルキル基である)であり、
R
3は、水素又はメチル基である]
で表される化合物を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記電子供与性の連鎖移動剤が、α-メチルスチレンダイマーを含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記電子供与性の連鎖移動剤が、下記式(2):
【化2】
[式中、
R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素若しくは水酸基であるか、又はR
5及びR
6は、それらが結合する炭素原子と一緒に、ベンゼン環を形成していてもよい]
で表される化合物を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記溶融混錬の温度が、[前記非晶性ポリプロピレンの軟化点-10℃]以上、かつ、[前記カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和単量体の沸点+20℃]以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性非晶性ポリプロピレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非晶性ポリプロピレンは、安全かつ無公害な高耐熱性粘着性樹脂であり、汎用結晶性ポリプロピレンとの相溶性及び接着性に優れることから、紙おむつ等のホットメルト接着剤等の様々な分野で使用されている。しかしながら、その極性の低さのため、他の部材(例えば、金属又は無機部材、ポリプロピレン以外のプラスチック部材)への密着性が悪いといった欠点を有する。この欠点を解決するため、非晶性ポリプロピレンに極性モノマーをグラフト重合させて、変性非晶性ポリプロピレンを製造することが行われていた。しかしながら、従来の製造方法では、極性モノマーのグラフト効率を上げるにしたがって、非晶性ポリプロピレンの分解による分子量低下が起こり、耐熱性が低下するといった問題があった。また一方で、非晶性ポリプロピレンの架橋反応によって分子量が上昇し、溶融粘度が過度に上昇してしまうという問題もあった。
【0003】
前記問題を解決するために、様々な製造方法が報告されている。例えば、特許文献1は、ポリオレフィンのグラフト重合の際に、架橋助剤としてジビニルベンゼン等のビニル単量体を使用すると、グラフト効率は向上するものの、ポリオレフィンの分解及び架橋を上手く防止できないことを課題とし、これを解決するためにジビニルベンゼンの代わりにα-メチルスチレンダイマーを使用する方法を開示している。
【0004】
同様に、特許文献2は、グラフト効率の向上及び分子量の制御を目的として、連鎖移動剤としてのα-メチルスチレンダイマーをグラフト重合に使用する方法を開示している。また、特許文献3も、グラフト重合の際のポリオレフィンの分解及び架橋を防止することを目的として、α-メチルスチレンダイマーを使用する方法を開示している。
【0005】
ところで、ポリプロピレンのグラフト重合は、溶媒中で反応を行う溶媒法、混錬機中で反応を行う溶融混錬法等によって実施することができる。例えば、特許文献4は、所定の溶媒の存在下でプロピレン系重合体のグラフト重合を行うことを開示している。一方、特許文献5は、結晶性ポリプロピレンを溶融混練機中でグラフト重合させることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-172459号公報
【特許文献2】特開昭61-155413号公報
【特許文献3】特開平11-236421号公報
【特許文献4】特許第5002128号公報
【特許文献5】特開2002-234919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3によれば、ジビニルベンゼン等のビニル単量体に代えて、α-メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤をグラフト重合に使用することにより、グラフト効率の向上、及び分子量の制御が可能といえる。しかしながら、これらの点については、未だ改善の余地が残されている。
【0008】
また、特許文献5では、溶融混練機中で結晶性ポリプロピレンのグラフト重合を行っているが、結晶性ポリプロピレンの代わりに非晶性ポリプロピレンを使用することは容易ではない。すなわち、非晶性ポリプロピレンは軟化点が低いところ、特許文献5のように溶融混練機を使用すると、非晶性ポリプロピレンの元々の軟化点の低さに加えて、グラフト重合中のポリプロピレンの分解に伴う分子量低下のために、ポリプロピレンの流動性が非常に高くなり、取り扱い性に大きな問題が生じる。
【0009】
そこで、本発明は、非晶性ポリプロピレンを溶融混練機中でグラフト重合しても取り扱い性に問題が生じず、かつ、高いグラフト効率及び抑制された分子量変化にて、変性非晶性ポリプロピレンを製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等が鋭意検討した結果、非晶性ポリプロピレンを溶融混練機中でグラフト重合する際に、通常使用される変性剤及び有機過酸化物に加えて、電子供与性の多官能エチレン性不飽和単量体と電子供与性の連鎖移動剤との組み合わせを使用すること、並びに、従来の方法よりも低温で溶融混錬することにより、高いグラフト効率及び抑制された分子量変化にて変性非晶性ポリプロピレンが得られること、及び非晶性ポリプロピレンの分子量低下に起因する取り扱い性の問題を回避できること、を見出した。
【0011】
本発明は、例えば以下の実施形態を含む。
[1]
非晶性ポリプロピレンと、
カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和単量体と、
有機過酸化物と、
電子供与性の多官能エチレン性不飽和単量体と、
電子供与性の連鎖移動剤と、
を、130~180℃の温度で溶融混錬することを含む、
変性非晶性ポリプロピレンの製造方法。
[2]
前記非晶性ポリプロピレンの軟化点が、130~180℃である、[1]に記載の製造方法。
[3]
前記非晶性ポリプロピレンの重量平均分子量が、5,000~500,000である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記非晶性ポリプロピレンの190℃における溶融粘度が、0.01~50Pa・sである、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
前記カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和単量体が、メタクリル酸、アクリル酸、及び無水マレイン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
前記カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和単量体が、メタクリル酸を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
前記電子供与性の多官能エチレン性不飽和単量体が、2以上のビニル基又は2以上のアリル基を有し、かつ、芳香環又はイソシアヌル環を有する、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]
前記電子供与性の多官能エチレン性不飽和単量体が、ジビニルベンゼン、及びトリアリルイソシアヌレートからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]
前記電子供与性の連鎖移動剤が、下記式(1):
【化1】
[式中、
R
1は、アリール基又はヘテロアリール基であり、
R
2は、アリール基、ヘテロアリール基、シアノ基又はアルキルエステル基(-COOR
4、ここでR
4は炭素数1~4のアルキル基である)であり、
R
3は、水素又はメチル基である]
で表される化合物を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]
前記電子供与性の連鎖移動剤が、α-メチルスチレンダイマーを含む、[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]
前記電子供与性の連鎖移動剤が、下記式(2):
【化2】
[式中、
R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素若しくは水酸基であるか、又はR
5及びR
6は、それらが結合する炭素原子と一緒に、ベンゼン環を形成していてもよい]
で表される化合物を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]
前記溶融混錬の温度が、[前記非晶性ポリプロピレンの軟化点-10℃]以上、かつ、[前記カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和単量体の沸点+20℃]以下である、[1]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非晶性ポリプロピレンを溶融混練機中でグラフト重合しても取り扱い性に問題が生じず、かつ、高いグラフト効率及び抑制された分子量変化にて、変性非晶性ポリプロピレンを製造できる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0014】
<変性非晶性ポリプロピレンの製造方法>
本発明の一実施形態は、非晶性ポリプロピレンと、カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和単量体(以下「極性モノマー」ともいう。)と、有機過酸化物と、電子供与性の多官能エチレン性不飽和単量体(以下「多官能モノマー」ともいう。)と、電子供与性の連鎖移動剤(以下、単に「連鎖移動剤」ともいう。)とを、130~180℃の温度で溶融混錬することを含む、変性非晶性ポリプロピレンの製造方法に関する。
【0015】
本明細書において「変性非晶性ポリプロピレン」とは、極性モノマーがグラフトされている非晶性ポリプロピレンを意味する。
【0016】
本実施形態に係る製造方法によれば、高いグラフト効率及び抑制された分子量変化(特に抑制された分子量低下)にて、変性非晶性ポリプロピレンを製造することができる。また、分子量低下が抑制されることによって、軟化点が低い非晶性ポリプロピレンを、溶融混練機中でグラフト重合しても、取り扱い性の問題が生じることを回避することができる。このような効果が得られる理由としては、下記のものが想定されるが、本発明は下記想定理由によって何ら限定されるものではない。
【0017】
[想定理由]
一般的なポリプロピレンのグラフト重合では、有機過酸化物から生じたラジカルが、ポリプロピレンの水素(特に第3級炭素に結合した水素)を引き抜き、これにより生じたポリプロピレンラジカルが変性剤と反応(グラフト重合)することにより、変性ポリプロピレンが得られる。ところが、ポリプロピレンラジカルは、変性剤との反応前に、自己安定化のために主鎖を切断(β開裂)し、これによってポリプロピレンの分子量が低下することがある。
【0018】
ここで、グラフト重合において多官能モノマーを併用すると、多官能モノマーがポリプロピレンラジカルに結合し、結合した多官能モノマーが更に変性剤と結合することにより、変性ポリプロピレンが得られる。しかしながら、結合した多官能モノマー上で変性剤が重合することにより、変性ポリプロピレンの分子量が増加し、高粘度化してしまう。
【0019】
また、グラフト重合において連鎖移動剤を併用すると、連鎖移動剤がポリプロピレンラジカルに結合し、結合した連鎖移動剤が更に変性剤と結合することにより、変性ポリプロピレンが得られる。しかしながら、連鎖移動剤とポリプロピレンラジカルとの反応において連鎖移動剤から生じた新たなラジカルが、ポリプロピレンにグラフトされていない変性剤の重合物を生じさせてしまう。
【0020】
一方、本実施形態における製造方法では、グラフト重合において多官能モノマーと連鎖移動剤との組み合わせを使用することにより、多官能モノマー及び/又は連鎖移動剤が、β開裂が起こる前にポリプロピレンラジカルに結合し、β開裂の発生を防止する。これにより、ポリプロピレンの分子量低下が抑制されると想定される。
また、ポリプロピレンに結合した多官能モノマーが、変性剤と結合することに加え、連鎖移動剤由来のラジカルに起因して生じる変性剤の重合物とも結合することにより、グラフトされない変性剤の量を低減する。これにより、ポリプロピレンのグラフト効率が向上すると想定される。
【0021】
[非晶性ポリプロピレン]
本実施形態に係る製造方法では、非晶性ポリプロピレンを使用する。非晶性ポリプロピレンは軟化点が低いため、取り扱い性の観点から、溶融混練機中でのグラフト重合は通常困難であった。しかしながら、本実施形態に係る製造方法では、これまで困難であった非晶性ポリプロピレンの使用が可能である。
【0022】
本明細書において「非晶性」とは、JISK 7122:2012で規定される結晶化熱量の測定において、10℃/分の冷却速度で冷却した際に、結晶化熱量から求められる結晶化度が20%以下であることをいう。
【0023】
非晶性ポリプロピレンの軟化点としては特に限定されないが、例えば、130~180℃、140~175℃、又は150~170℃が挙げられる。このような軟化点を有する非晶性ポリプロピレンは、従来の溶融混錬法では使用困難であったため、本実施形態における使用に好適である。
非晶性ポリプロピレンの軟化点は、JISK6863:1994に示された「ホットメルト接着剤の軟化点試験方法」に基づいたRing-and-ball法を用いて測定する。
【0024】
非晶性ポリプロピレンの重量平均分子量は特に限定されないが、例えば、5,000~500,000であることが好ましく、10,000~200,000であることがより好ましく、20,000~100,000であることが更に好ましい。
非晶性ポリプロピレンの重量平均分子量は、JISK 7252-4:2016に示された高温でのサイズ排除クロマトクロマトグラフィーによって測定する。
【0025】
非晶性ポリプロピレンの溶融粘度は特に限定されないが、例えば、190℃における溶融粘度が、0.01~50Pa・sであることが好ましく、0.1~30Pa・sであることがより好ましい。このような溶融粘度を有する非晶性ポリプロピレンは、低い軟化点を有する傾向にあるため、本実施形態における使用に好適である。
非晶性ポリプロピレンの溶融粘度は、実施例に記載の方法にしたがって測定することができる。
【0026】
非晶性ポリプロピレンは、プロピレンモノマーのみから構成される単独重合体であってもよいし、その他のモノマーを更に含む共重合体であってもよい。非晶性ポリプロピレンが共重合体である場合、共重合体はランダム共重合体でもよいし、ブロック共重合体でもよい。
【0027】
非晶性ポリプロピレンを構成する全てのモノマーを基準としたプロピレンモノマーの量は、好ましくは70モル%以上であり、より好ましくは80モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上であり、特に好ましくは95モル%以上であり、最も好ましくは100モル%である。
プロピレンモノマーの量は、核磁気共鳴(NMR)装置を使用して測定することができる。
【0028】
非晶性ポリプロピレンが共重合体である場合、その他のモノマーは特に限定されないが、例えばプロピレン以外のオレフィン、具体的には炭素数2又は4~8のオレフィン等が挙げられる。
【0029】
非晶性ポリプロピレンは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
[カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和単量体(極性モノマー)]
本実施形態に係る製造方法では、非晶性ポリプロピレンに対する変性剤として、極性モノマーを使用する。極性モノマーが非晶性ポリプロピレンにグラフトされることによって、非晶性ポリプロピレンの極性が高まり、他の部材(例えば、金属又は無機部材、ポリプロピレン以外のプラスチック部材)への密着性を向上させることができる。
【0031】
極性モノマーとしては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、及び無水マレイン酸が挙げられる。
【0032】
従来のグラフト重合では、変性剤として無水マレイン酸が一般的に使用されていた。その理由は、無水マレイン酸がグラフト化のみに寄与し、副反応を生じにくいことにあるが、無水マレイン酸は反応性が低く、グラフト効率が十分ではないという問題があった。一方、変性剤としてメタクリル酸又はアクリル酸を使用した場合には、反応性は高いものの、グラフト化に寄与しない副反応(例えば、グラフトされていない変性剤の重合物の形成)も多く生じるために、グラフト効率が十分ではないという問題があった。
これに対し、本実施形態に係る製造方法では、反応性の高いメタクリル酸又はアクリル酸を使用しても、上述のような副反応を抑えることができ、グラフト効率をより向上させることができる。そのため、特に限定するものではないが、極性モノマーは、好ましくはメタクリル酸又はアクリル酸であり、より好ましくはメタクリル酸である。
【0033】
極性モノマーの使用量は、非晶性ポリプロピレンと極性モノマーとの合計質量を基準として、好ましくは0.5~50質量%であり、より好ましくは1.0~30質量%であり、更に好ましくは2~10質量%である。
極性モノマーの使用量を0.5質量%以上とすることにより、グラフト効率がより向上する傾向にある。
極性モノマーの使用量を50質量%以下とすることにより、極性モノマーの過度なグラフト化によって非晶性ポリプロピレンの特性が損なわれることを回避できる傾向にある。
【0034】
極性モノマーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
極性モノマーは、極性基を含まないエチレン性不飽和単量体(以下「非極性モノマー」ともいう。)と組み合わせて使用してもよい。極性モノマーを非極性モノマーと組み合わせて使用する場合、これらの合計質量を基準として、極性モノマーの量は50質量%以上であることが好ましい。
【0035】
[有機過酸化物]
本実施形態に係る製造方法では、グラフト重合を開始させるラジカルを発生させるために有機過酸化物を使用する。
【0036】
有機過酸化物は、ラジカルを発生させるものであれば特に限定されず、公知のものを挙げることができる。有機過酸化物としては、例えば、ジアルキルペルオキシド類、ペルオキシケタール類、ペルオキシエステル類、ケトンペルオキシド類、ヒドロペルオキシド類、及びジアシルペルオキシド類が挙げられる。
ジアルキルペルオキシド類としては、例えば、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、及び2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が挙げられる。
ペルオキシケタール類としては、例えば、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、及び2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタンが挙げられる。
ペルオキシエステル類としては、例えば、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、及びt-ブチルペルオキシマレイン酸が挙げられる。
ケトンペルオキシド類としては、例えば、メチルケトンペルオキシド、及びシクロヘキサノンペルオキシドが挙げられる。
ヒドロペルオキシド類としては、例えば、クメンヒドロキペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、及びパラメンタンヒドロペルオキシドが挙げられる。
ジアシルペルオキシド類としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、及びラウロイルペルオキシドが挙げられる。
【0037】
有機過酸化物の使用量は、非晶性ポリプロピレンと極性モノマーとの合計質量を基準として、好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.2~6質量%であり、更に好ましくは0.4~2質量%である。
有機過酸化物の使用量を0.1質量%以上とすることにより、グラフト効率がより向上する傾向にある。
有機過酸化物の使用量を10質量%以下とすることにより、非晶性ポリプロピレンのβ開裂、又は非晶性ポリプロピレン同士の架橋を抑制できる傾向にある。
【0038】
有機過酸化物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
[電子供与性の多官能エチレン性不飽和単量体(多官能モノマー)]
本実施形態に係る製造方法では、グラフト効率の向上及び分子量変化の抑制のために、連鎖移動剤と組み合わせて多官能モノマーを使用する。
【0040】
本明細書において多官能モノマーの「多官能」とは、エチレン性不飽和結合が2以上含まれていることを意味する。エチレン性不飽和結合の数は、好ましくは2~4であり、より好ましくは2又は3である。
【0041】
多官能モノマーはビニル基及び/又はアリル基を含むことが好ましい。ビニル基及びアリル基の合計数は、好ましくは2以上であり、より好ましくは2~4であり、更に好ましくは2又は3である。
例えば、多官能モノマーはビニル基を含むことが好ましく、ビニル基の数は、好ましくは2以上であり、より好ましくは2~4であり、更に好ましくは2である。
例えば、多官能モノマーはアリル基を含むことが好ましく、アリル基の数は、好ましくは2以上であり、より好ましくは2~4であり、更に好ましくは3である。
【0042】
本明細書において多官能モノマーの「電子供与性」とは、多官能モノマーのエチレン性不飽和結合に電子を供与することを意味する。このような電子供与により、多官能モノマーのエチレン性不飽和結合が、β開裂が起こる前に、電子を必要とするポリプロピレンラジカルに結合しやすくなる。
【0043】
特に多官能モノマーのエチレン性不飽和結合に電子を供与したり吸引したりすることを表す指標として、Alfrey-Priceが提唱したe値が挙げられる。このe値が負の値を示せば、多官能モノマーのエチレン性不飽和結合に電子を供与することを表す。
なお、Alfrey-Priceが提唱したe値はJohn Wiley and Sons Ltd.から出版されている「Polymer Handbook 5th Edition(2009)」に記載されている。
【0044】
電子供与性基は、ビニル基及び/又はアリル基に直接又はエステル結合を介して結合していることが好ましい。
【0045】
電子供与性基としては、例えば、アリール基、ヘテロアリール基、メラミン基及びイソシアヌル基が挙げられる。(ヘテロ)アリール基としては、例えば、窒素、酸素及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1種のヘテロ原子を1、2若しくは3個含んでいてもよい5~12員の(ヘテロ)アリール基、具体的には窒素、酸素及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1種のヘテロ原子を1、2又は3個含んでいてもよい5若しくは6員の(ヘテロ)アリール基、より具体的にはベンゼン環が挙げられる。
【0046】
多官能モノマーのe値は、好ましくは-2.5~-0.05であり、より好ましくは-2~-0.1であり、更に好ましくは-1.5~-0.2である。
具体的な多官能モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン(e値:-0.8)、トリアリルイソシアヌレート(e値:-0.23)、ジアリルメラミン(e値:-1.57)及びジアリルフタレート(e値:-0.26)が挙げられる。中でも、ジビニルベンゼン(e値:-0.8)、トリアリルイソシアヌレート(e値:-0.23)がより好ましい。
【0047】
多官能モノマーの使用量は、非晶性ポリプロピレンと極性モノマーとの合計質量を基準として、好ましくは0.05~6質量%であり、より好ましくは0.1~3質量%であり、更に好ましくは0.2~1質量%である。
多官能モノマーの使用量を0.05質量%以上とすることにより、グラフト効率がより向上し、かつ、分子量低下がより抑制される傾向にある。
多官能モノマーの使用量を6質量%以下とすることにより、極性モノマーの過度なグラフト化によって非晶性ポリプロピレンの特性が損なわれることを回避できる傾向にある。
【0048】
多官能モノマーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
[電子供与性の連鎖移動剤]
本実施形態に係る製造方法では、グラフト効率の向上及び分子量変化の抑制のために、多官能モノマーと組み合わせて連鎖移動剤を使用する。
【0050】
連鎖移動剤は、エチレン性不飽和結合を有することが好ましい。連鎖移動剤は、ポリプロピレンラジカルと反応することにより、エチレン性不飽和結合を有する置換基をポリプロピレンにグラフトさせることが好ましい。
【0051】
本明細書において連鎖移動剤の「電子供与性」とは、ポリプロピレンラジカルと反応する連鎖移動剤の部分に電子を供与することを意味する。このような電子供与により、連鎖移動剤が、β開裂が起こる前にポリプロピレンラジカルに結合しやすくなる。具体的には、ポリプロピレンラジカルと反応する連鎖移動剤の部分は、エチレン性不飽和結合である。
【0052】
電子供与性基としてはベンゼン環が有効であり、ポリプロピレンラジカルと反応する連鎖移動剤の部分にベンゼン環が直接又はエステル基を介して結合していることが好ましい。
【0053】
連鎖移動剤の具体的な構造としては、例えば、下記式(1)で示される「α-メチルスチレン構造」又は下記式(2)で示される「ナフトキノン構造」であり、より好ましくは下記式(1)で示される付加開裂型連鎖移動を起こす構造である「α-メチルスチレン構造」である。
【化3】
[式中、R
1は電子供与性基(例えば(ヘテロ)アリール基、好ましくはフェニル基)であり、R
2は(ヘテロ)アリール基(好ましくはフェニル基)、シアノ基又はアルキルエステル基(-COOR
4、ここでR
4は炭素数1~4のアルキル基を示す。)であり、R
3は水素又はアルキル基(好ましくは炭素数1~3のアルキル基、より好ましくはメチル基)である。]
【0054】
式(1)で示される化合物としては、例えば、2,4-ジフェニル-1-ペンテン、α-メチルスチレンダイマー(2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン)、2-フェニル-4-シアノ-1-ペンテン、2-フェニル-4-シアノ-4-メチル-1-ペンテン、α-(2-メチル-プロパン酸メチル)スチレン、α-(2-メチル-プロパン酸エチル)スチレン又はα-(2-メチル-プロパン酸プロピル)スチレン等が挙げられる。中でもより好ましくはα-メチルスチレンダイマー(2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン)である。
【0055】
【化4】
[式中、R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素若しくは水酸基であるか、又はR
5及びR
6は、それらが結合する炭素原子と一緒に、ベンゼン環を形成していてもよい。]
【0056】
式(2)で示される化合物としては、例えば、1,4-ナフトキノン、ローソン又は9,10-アントラキノンが挙げられる。
【0057】
電子供与性基の詳細は、上記[電子供与性の多官能エチレン性不飽和単量体(多官能モノマー)]の欄で説明したとおりであり、その内容をここに引用するものとする。
【0058】
連鎖移動剤の使用量は、非晶性ポリプロピレンと極性モノマーとの合計質量を基準として、好ましくは0.05~6質量%であり、より好ましくは0.1~5質量%であり、更に好ましくは0.2~3質量%である。
連鎖移動剤の使用量を0.05質量%以上とすることにより、グラフト効率がより向上し、かつ、分子量低下がより抑制される傾向にある。
連鎖移動剤の使用量を6質量%以下とすることにより、極性モノマーの過度なグラフト化によって非晶性ポリプロピレンの特性が損なわれることを回避できる傾向にある。
【0059】
連鎖移動剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
[溶融混錬]
本実施形態に係る製造方法では、非晶性ポリプロピレンと、極性モノマーと、有機過酸化物と、多官能モノマーと、連鎖移動剤とを、130~180℃の温度で溶融混錬し、非晶性ポリプロピレンに極性モノマーをグラフトさせて、変性非晶性ポリプロピレンを製造する。
【0061】
本実施形態では、軟化点の低い非晶性ポリプロピレンを使用するため、低い温度で溶融混錬することができる。具体的な温度は130~180℃であり、好ましくは140~180℃である。このような温度で溶融混錬することによって、グラフト効率をより向上でき、かつ、分子量変化をより抑制できる。結晶性ポリプロピレンの溶融混錬は通常200℃以上で実施されるため、このような低い温度は本実施形態に特有な条件である。
【0062】
溶融混錬の温度は、使用する非晶性ポリプロピレン及び極性モノマーの種類に応じて適宜変更することができ、好ましくは[非晶性ポリプロピレンの軟化点-10℃]以上、かつ、[極性モノマーの沸点+20℃]以下である。
ここで、温度の下限を[非晶性ポリプロピレンの軟化点-10℃]としている理由は、溶融混錬機中では非晶性ポリプロピレンに高いせん断力が加わり、非晶性ポリプロピレンが通常の軟化点よりも低い温度で軟化するためである。
また、温度の上限を[極性モノマーの沸点+20℃]としている理由は、加圧状態にある溶融混錬機中では、極性モノマーが通常の沸点よりも高い温度で気化するためである。
【0063】
融混練装置は公知のものであれば特に限定されないが、例えば、一軸押出機、二軸押出機等の各種押出機や、バンバリーミキサー、ブラベンダー、プラストグラフ、熱ロール、ニーダー等の溶融混練機が挙げられる。
【0064】
溶融混錬の時間は特に限定されないが、例えば、1~30分間、又は2~20分間としてもよい。
【0065】
本実施形態に係る製造方法によれば、高いグラフト効率にて変性非晶性ポリプロピレンを製造することができる。グラフト効率(グラフト反応率)は、好ましくは45%以上であり、より好ましくは50%以上であり、更に好ましくは60%以上である。グラフト効率は高いほど好ましいため上限は特に限定されないが、現実的なグラフト効率の上限として、例えば、90%、80%、又は70%を挙げることができる。
グラフト反応率は、実施例に記載の方法にしたがって測定することができる。
【0066】
本実施形態に係る製造方法によれば、抑制された分子量変化にて変性非晶性ポリプロピレンを製造することができる。分子量の変化は、溶融粘度の変化(溶融粘度比)で表すことができる。溶融粘度比は、好ましくは0.5~2.0であり、より好ましくは0.8~1.5であり、更に好ましくは0.9~1.1であり、特に好ましくは1である。
溶融粘度比は、実施例に記載の方法にしたがって測定することができる。
【実施例0067】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
なお、実施例における各種の値は、本発明の実施形態における好ましい下限値又は上限値としてもよい。また、実施例における同種の2つの値を適宜組み合わせて好ましい数値範囲としてもよい。
【0068】
<変性非晶性ポリプロピレンの製造>
[原料]
(非晶性ポリプロピレン)
・RT2180(REXtac社製ポリプロピレンホモポリマー、軟化点:157℃、190℃における溶融粘度:8.0Pa・s)
・RT2115(REXtac社製ポリプロピレンホモポリマー、軟化点:155℃、190℃における溶融粘度:1.5Pa・s)
【0069】
(極性モノマー)
・メタクリル酸(MAA)(沸点:161℃)
・アクリル酸(AA)(沸点:141℃)
・無水マレイン酸(MAN)(沸点:192℃)
(非極性モノマー)
・メタクリル酸メチル(MMA)(沸点:101℃)
【0070】
(多官能モノマー)
・ジビニルベンゼン(DVB)
・トリアリルイソシアヌレート(TAIC)
【0071】
(電子供与性の連鎖移動剤)
・α-メチルスチレンダイマー(αMSD)
・1,4-ナフトキノン(1,4-NQ)
(非電子供与性の連鎖移動剤)
・n-ドデシルメルカプタン(NDM)
【0072】
(有機過酸化物)
・t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(TBEC)
・2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(DBPH)
・2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3(DBPHY)
【0073】
[実施例1]
混錬機(Xplore社製のMC15HT)を使用して、RT2180(95質量部)、MAA(5質量部)、DVB(0.5質量部)、αMSD(0.5質量部)及びTBEC(1質量部)を、160℃、70rpm及び10分間の条件で溶融混錬し、変性非晶性ポリプロピレンを得た。
【0074】
[実施例2~13及び比較例1~5]
原料の種類若しくは量、又は混錬条件を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様に変性非晶性ポリプロピレンを得た。
【0075】
<測定方法>
[グラフト反応率]
実施例及び比較例で得られた粗生成物としての変性非晶性ポリプロピレン(1g)を、キシレン(40mL)に添加し、130℃で溶解した。得られた溶液を、メタノール(400mL)に滴下して沈殿させた。沈殿物を回収し、50℃で1時間真空乾燥して、精製した変性非晶性ポリプロピレンを得た。
【0076】
得られた変性非晶性ポリプロピレン(0.5g)を、第1の条件(170℃、0MPa、5分間)、第2の条件(170℃、1MPa、2分間)、続いて、第3の条件(急冷、1MPa、2分間)でホットプレスして、フィルムを作成し、その厚みを測定した。
【0077】
得られたフィルムを、透過型フーリエ変換赤外線分光法(FR-IR)で測定し、赤外吸収スペクトルを得て、MAAに起因するピーク(1700cm-1)、AAに起因するピーク(1700cm-1)、又はMANに起因するピーク(無水カルボン酸:1780cm-1、開環カルボン酸:1780cm-1)の面積を測定した。前記ピーク面積と、フィルムの厚みとに基づいて、フィルムの厚みを500μmと仮定した場合の補正ピーク面積を算出した。
【0078】
前記補正ピーク面積と、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)又は無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAN-PP)を標準試料とする検量線とに基づいて、非晶性ポリプロピレンに導入された極性モノマーの量(質量%)を算出した。次いで、下記式により、グラフト反応率を算出した。結果を表1に示す。
【0079】
グラフト反応率(%)={[非晶性ポリプロピレンに導入された極性モノマーの量(質量%)]/[極性モノマーの仕込み量(質量%)]}×100
(式中、「極性モノマーの仕込み量(質量%)」とは、非晶性ポリプロピレンと、極性モノマーとの合計質量を基準とした、極性モノマーの質量%である。)
【0080】
[溶融粘度及び溶融粘度比]
粘度測定器(Anton Paar社製のMCR302e)を使用して、下記の条件にて、原料としての非晶性ポリプロピレン、及び精製した前記変性非晶性ポリプロピレンの溶融粘度を測定した。
【0081】
(粘度測定条件)
温度:180℃
ひずみ:30%
周波数:100rad/s
プレート:コーンプレート型(50mmφ)
【0082】
非晶性ポリプロピレンの溶融粘度に対する変性非晶性ポリプロピレンの溶融粘度の比を算出し、溶融粘度比とした。結果を表1に示す。溶融粘度は分子量と相関するため、溶融粘度比が1に近いほど、分子量変化が抑制されていることを意味する。
【0083】
【0084】
表1に示されているとおり、多官能モノマーと電子供与性の連鎖移動剤との組み合わせを使用し、かつ、低温で溶融混錬した実施例1~13では、グラフト反応率の向上及び分子量変化の抑制が両立されていた。
一方、多官能モノマー及び電子供与性の連鎖移動剤のいずれか一方のみを使用した比較例1及び2では、グラフト反応率及び分子量変化のいずれにも問題があった。
非電子供与性の連鎖移動剤を使用した比較例3では、グラフト反応率に問題があった。
高温で溶融混錬した比較例4では、グラフト反応率及び分子量変化のいずれにも問題があった。
極性モノマーの代わりに非極性モノマーを使用した比較例5では、グラフト反応率に問題があった。