(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166197
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】X線検出装置およびX線検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/04 20180101AFI20231114BHJP
【FI】
G01N23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077082
(22)【出願日】2022-05-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期、「革新的シンクロトロン光CT技術による次世代モノづくり産業創成」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】砂口 尚輝
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001DA09
2G001HA08
2G001HA13
2G001HA14
2G001JA08
2G001PA11
(57)【要約】
【課題】空間分解能を向上させることが可能なX線検出装置を提供すること。
【解決手段】X線検出装置は、表面に入射されたX線ビームを、前方回折X線ビームおよび回折X線ビームに分割して裏面から出力する透過型のアナライザ結晶を備える。前方回折X線ビームおよび回折X線ビームを検出可能な平面を備えた検出手段を備える。平面が、アナライザ結晶の裏面と接触して配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に入射されたX線ビームを、前方回折X線ビームおよび回折X線ビームに分割して裏面から出力する透過型のアナライザ結晶と、
前記前方回折X線ビームおよび前記回折X線ビームを検出可能な平面を備えた検出手段と、
を備え、
前記平面が、前記アナライザ結晶の前記裏面と接触して配置されている、X線検出装置。
【請求項2】
前記検出手段は、
蛍光体を用いてX線を可視光に変換する第1手段、または、半導体を用いてX線を電気信号に変換する第2手段、または、光導電体を用いてX線を電荷に変換する第3手段の何れかを備えている、請求項1に記載のX線検出装置。
【請求項3】
前記第1手段は、蛍光体、または、蛍光体を用いたX線イメージングセンサ、または、蛍光体を用いたX線フィルム、または、輝尽性蛍光体を用いたイメージングプレートの何れか1つを含んでいる、請求項2に記載のX線検出装置。
【請求項4】
前記アナライザ結晶および前記検出手段の角度を調整可能な角度調整機構をさらに備える、請求項1に記載のX線検出装置。
【請求項5】
前記X線ビームを試料に照射する手段をさらに備え、
前記アナライザ結晶は、前記X線ビームの光路上に直列に配置されている、請求項1に記載のX線検出装置。
【請求項6】
前記アナライザ結晶は、前記表面に対して回折面が所定角度を有している非対称な結晶であり、
前記X線ビームの光路に対して前記アナライザ結晶の前記表面が略垂直に配置されている、請求項5に記載のX線検出装置。
【請求項7】
前記アナライザ結晶は、第1のアナライザ結晶と第2のアナライザ結晶とが積層された構造を備えており、
前記アナライザ結晶の前記表面に垂直な方向からみたときに、前記第1のアナライザ結晶により生成される前記回折X線ビームの方向と、前記第2のアナライザ結晶により生成される前記回折X線ビームの方向とが、略直交している、請求項1~6の何れか1項に記載のX線検出装置。
【請求項8】
前記検出手段で検出された画像データに基づいて、ラプラシアン像のCT再構成を実行可能な再構成部をさらに備える、請求項1に記載のX線検出装置。
【請求項9】
前記再構成部によって得られた前記ラプラシアン像を位相像へ変換する処理を実行可能な信号処理部をさらに備える、請求項8に記載のX線検出装置。
【請求項10】
X線ビームを検出可能な平面を備えた検出手段の前記平面を、透過型のアナライザ結晶の裏面に接触している状態で配置し、
試料を透過したX線ビームを前記アナライザ結晶の表面に入射し、前記アナライザ結晶の裏面から前方回折X線ビームおよび回折X線ビームに分割して出力し、
前記検出手段に、前記前方回折X線ビームおよび前記回折X線ビームを互いに重複している状態で入射し、
前記前方回折X線ビームによって生成される第1の屈折コントラスト像と前記回折X線ビームによって生成される第2の屈折コントラスト像とが重複している重複屈折コントラスト像を、前記検出手段によって生成し、
前記重複屈折コントラスト像を検出する、
X線検出方法。
【請求項11】
前記重複屈折コントラスト像に基づいて、ラプラシアン像をCT再構成する、請求項10に記載のX線検出方法。
【請求項12】
前記ラプラシアン像の勾配に関係したポアソン方程式を計算することで、前記ラプラシアン像を位相像へ変換する、請求項11に記載のX線検出方法。
【請求項13】
前記アナライザ結晶は、第1のアナライザ結晶と第2のアナライザ結晶とが積層された構造を備えており、
前記アナライザ結晶の前記表面に垂直な方向からみたときに、前記第1のアナライザ結晶により生成される前記回折X線ビームの方向と、前記第2のアナライザ結晶により生成される前記回折X線ビームの方向とが、略直交しており、
前記第1のアナライザ結晶によって生成された第1の前記重複屈折コントラスト像を検出するとともに、前記第2のアナライザ結晶によって生成された第2の前記重複屈折コントラスト像を検出する、請求項10に記載のX線検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、X線検出装置およびX線検出方法に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
被測定対象(サンプル)と検出手段との間にアナライザを配置することで、位相X線画像を取得する手法が知られている。使用されるアナライザの例としては、Laue型Si単結晶の屈折角アナライザ、Bragg型Si単結晶の屈折角アナライザ、などが挙げられる。また検出手段の例としては、X線を可視光に変換するシンチレータやX線を高感度に測定できる半導体を用いた、0次元(1個の検出素子)、1次元ライン検出器、2次元画像検出器、X線フィルム、イメージングプレート、フラットパネルディテクタなどが挙げられる。なお、特許文献1には、関連する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Masami ANDO、他5名、「Simple X-Ray Dark- and Bright-Field Imaging Using Achromatic Laue Optics」、Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 41 (2002) pp. L 1016 - L 1018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
位相X線イメージングにおいて、空間分解能の向上が要求されている。その手法の一つとして、被測定対象と検出手段との距離を小さくすることが挙げられる。しかし、被測定対象と検出手段との間にアナライザを設置する必要があるため、アナライザと検出手段との間には一定の距離が必要であった。そのため、被測定対象と検出手段との距離を小さくすることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本技術の第1の態様では、X線検出装置は、表面に入射されたX線ビームを、前方回折X線ビームおよび回折X線ビームに分割して裏面から出力する透過型のアナライザ結晶を備える。前方回折X線ビームおよび回折X線ビームを検出可能な平面を備えた検出手段を備える。平面が、アナライザ結晶の裏面と接触して配置されている。
【0006】
上記の構成によると、アナライザ結晶の裏面に、検出手段の平面を接触させることができる。アナライザ結晶と検出手段との距離を極限まで小さくすることができる。その結果、被測定対象と検出手段との距離を小さくすることができるため、空間分解能を向上させることが可能となる。
【0007】
ここで、「アナライザ結晶の裏面と検出手段の平面とが接触している」とは、アナライザ結晶と検出手段の平面とが直接に接触している態様に限られない。反射膜や各種の保護部材などの他の部材を介して間接的に接触している態様を含むものである。
【0008】
第2の態様では、上記第1の態様において、検出手段は、蛍光体を用いてX線を可視光に変換する第1手段、または、半導体を用いてX線を電気信号に変換する第2手段、または、光導電体を用いてX線を電荷に変換する第3手段の何れかを備えていてもよい。第1手段で変換した可視光を光検出器で検出することにより、X線画像を取得することができる。光検出器には様々な機器を使用可能であり、例えばフォトダイオード、CCDセンサ、CMOSセンサ、光電子増倍管、X線フィルムの感光材、などであってよい。また第2手段では、変換された電気信号に基づいてX線画像データを取得することができる。また第3手段では、変換された電荷に基づいてX線画像データを取得することができる。
【0009】
第3の態様では、上記第2の態様において、第1手段は、蛍光体、または、蛍光体を用いたX線イメージングセンサ、または、蛍光体を用いたX線フィルム、または、輝尽性蛍光体を用いたイメージングプレートの何れか1つを含んでいてもよい。
【0010】
第4の態様では、上記第1~第3の態様の何れか1つにおいて、アナライザ結晶および検出手段の角度を調整可能な角度調整機構をさらに備えていてもよい。
【0011】
第5の態様では、上記第1~第4の態様の何れか1つにおいて、X線ビームを試料に照射する手段をさらに備えていてもよい。アナライザ結晶は、X線ビームの光路上に直列に配置されていてもよい。
【0012】
第6の態様では、上記第5の態様において、アナライザ結晶は、表面に対して回折面が所定角度を有している非対称な結晶であってもよい。X線ビームの光路に対してアナライザ結晶の表面が略垂直に配置されていてもよい。
【0013】
第7の態様では、上記第1~第6の態様の何れか1つにおいて、アナライザ結晶は、第1のアナライザ結晶と第2のアナライザ結晶とが積層された構造を備えていてもよい。アナライザ結晶の表面に垂直な方向からみたときに、第1のアナライザ結晶により生成される回折X線ビームの方向と、第2のアナライザ結晶により生成される回折X線ビームの方向とが、略直交していてもよい。
【0014】
第8の態様では、上記第1~第7の態様の何れか1つにおいて、検出手段で検出された画像データに基づいて、ラプラシアン像のCT再構成を実行可能な再構成部をさらに備えていてもよい。
【0015】
第9の態様では、上記第1~第8の態様の何れか1つにおいて、再構成部によって得られたラプラシアン像を位相像へ変換する処理を実行可能な信号処理部をさらに備えていてもよい。
【0016】
本技術の第10の態様に係るX線検出方法は、X線ビームを検出可能な平面を備えた検出手段の平面を、透過型のアナライザ結晶の裏面に接触している状態で配置する。X線検出方法は、試料を透過したX線ビームをアナライザ結晶の表面に入射し、アナライザ結晶の裏面から前方回折X線ビームおよび回折X線ビームに分割して出力する。検出手段に、前方回折X線ビームおよび回折X線ビームを互いに重複している状態で入射する。X線検出方法は、前方回折X線ビームによって生成される第1の屈折コントラスト像と回折X線ビームによって生成される第2の屈折コントラスト像とが重複している重複屈折コントラスト像を、検出手段によって生成する。X線検出方法は、重複屈折コントラスト像を検出する。
【0017】
第11の態様では、上記第10の態様において、重複屈折コントラスト像に基づいて、ラプラシアン像をCT再構成してもよい。
【0018】
第12の態様では、上記第11の態様において、ラプラシアン像に対するポアソン方程式を設定し、ポアソン方程式を解くことで、ラプラシアン像を位相像へ変換してもよい。
【0019】
第13の態様では、上記第10~第12の態様の何れか1つにおいて、アナライザ結晶は、第1のアナライザ結晶と第2のアナライザ結晶とが積層された構造を備えていてもよい。アナライザ結晶の表面に垂直な方向からみたときに、第1のアナライザ結晶により生成される回折X線ビームの方向と、第2のアナライザ結晶により生成される回折X線ビームの方向とが、略直交していてもよい。第1のアナライザ結晶によって生成された第1の重複屈折コントラスト像を検出するとともに、第2のアナライザ結晶によって生成された第2の重複屈折コントラスト像を検出してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】従来の位相X線イメージング方法を説明する概略断面図である。
【
図3】アナライザ結晶30のロッキングカーブである。
【
図4】実施例1のX線イメージング方法を説明する概略断面図である。
【
図5】位相コントラスト法の空間分解能に影響を与える要素を説明する図である。
【
図6】実施例2のX線イメージング方法を説明する概略断面図である。
【
図7】実施例3のX線イメージング方法を説明する概略断面図である。
【
図8】実施例3のX線イメージング方法を説明する概略断面図である。
【
図9】実施例4のX線イメージング方法を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0021】
(X線検出システム1の構成)
図1に、X線検出システム1の概略斜視図を示す。
図1の座標軸では、アナライザ結晶30の表面30fがxy平面に対応し、表面30fに垂直な方向がz方向に対応している。X線検出システム1は、コリメータ10、ステージ20、アナライザ結晶30、シンチレータ40、角度調整機構50、カメラ60、演算装置70、を備える。
【0022】
コリメータ10は、X線ビームを試料21に照射する手段である。コリメータ10は、Si(111)回折面が非対称角αMCを有している非対称ブラッグケース結晶である。コリメータ10には、不図示の光源からX線11がコリメータ10のブラッグ角θB方向から入射される。本実施例では、単色X線の20keVのX線11を入射した。X線11は、コリメータ10により回折することで、平面波に近くX線11の幅がsin(θB+αMC)/sin(θB-αMC)倍に拡大したX線ビーム11bとなる。
【0023】
ステージ20は、試料21を保持する部位である。ステージ20は回転軸22を中心として回転可能である。ステージ20を回転させながらX線画像を取得することにより、全方向からのX線透過画像を取得することができる。
【0024】
透過型のアナライザ結晶30は、X線ビーム11bの光路上に直列に配置されている。アナライザ結晶30は、表面30fに入射されたX線ビームを、前方回折X線ビームFDおよび回折X線ビームDに分割して裏面30bから出力する。本実施例では、アナライザ結晶30は、非対称ラウエケース結晶Si(111)とした。
【0025】
アナライザ結晶30は、表面30fに対して回折面DSが非対称角αを有している非対称な結晶である(
図2参照)。非対称角αは、ブラッグ角の近傍に設定されている。よって、X線ビーム11bの光路に対してアナライザ結晶の表面30fを略垂直に配置する状態で、X線を回折させることができる。X線検出システム1の各構成要素を直線上に配置できるため、システムのレイアウトを簡略化することが可能となる。
【0026】
シンチレータ40は、X線ビームの検出手段であり、X線ビームを検出可能な平面を備えている。その平面が、アナライザ結晶30の裏面30bと接触して配置されている。シンチレータ40は、入射されたX線に応じた可視光41を発生する部位である。本実施例では、シンチレータ40は、LuAG:Ceを素材とした蛍光体とした。シンチレータ40は厚みがあるガラスやCeを添加していないLuAGで補強されている。従って、シンチレータ40がアナライザ結晶30と接触することで、アナライザ結晶30を支持する補強部材として機能する。またシンチレータ40の方がアナライザ結晶30よりも大きい。これにより、アナライザ結晶30の全体をシンチレータ40で支持することができる。なお、裏面30bとシンチレータ40との間に、各種の反射膜が存在していてもよい。
【0027】
アナライザ結晶30およびシンチレータ40は、角度調整機構50に固定されている。角度調整機構50は、アナライザ結晶30およびシンチレータ40を回転軸51まわりに回転させることができる。これにより、X線ビーム11bのアナライザ結晶30への入射角を調整可能である。すなわち、入射されるX線ビーム11bとアナライザ結晶30およびシンチレータ40とのなす角を、アナライザ結晶30の回折面におけるブラッグ角付近に調整することが可能である。
【0028】
カメラ60は、シンチレータ40と対向する位置に、シンチレータ40と離間して配置されている。カメラ60は、光学レンズあるいはオプティカルファイバーおよびイメージセンサを備えた、光学カメラである。カメラ60は、シンチレータ40から発生する可視光41を検出する光検出器として機能する。
【0029】
演算装置70は、カメラ60で取得された画像データにもとづき、各種の演算を行う装置である。演算装置70は、例えばPCであってよい。演算装置70は、操作部71と、表示部72と、制御部73と、を備える。操作部71は、キーボードやマウス等を備えていてもよい。表示部72は、様々な情報や画像を表示するためのディスプレイである。制御部73は、CPU74と、メモリ75と、を備える。メモリ75には、プログラム76が記憶されている。CPU74は、プログラム76に従って、様々な処理を実行する。すなわち、CPU74がプログラム76を実行することで、制御部73は、再構成部81、信号処理部82などとして機能する。これらの部位の具体的な機能については、後述する。
【0030】
(従来の位相X線イメージング方法)
比較例として、従来の位相X線イメージング方法について、
図2を用いて説明する。
図2(A)は、X線ビーム11b光路のz方向の中心を通る、xz平面での断面図である。なお、アナライザ結晶30のxz平面の断面において、Si(111)の回折面DSを複数の斜線で示している。回折面DSの間の距離(格子面間隔)は、10
-10m程度と非常に小さいが、図面では見易さのために距離を実際よりも大きく記載している。従来手法では、アナライザ結晶30とシンチレータ40とのz方向の距離が、距離d1だけ離れている。
【0031】
また
図3に、アナライザ結晶30のロッキングカーブ(回折強度曲線)を示す。前方回折X線ビームFDのロッキングカーブFDRを実線で示している。また回折X線ビームDのロッキングカーブDRを破線で示している。縦軸は、アナライザ結晶30への入射X線強度に対する回折強度の割合(0~1(100%))である。横軸は、結晶への入射角度であり、ブラッグ角θ
Bからのずれ角を示している。ずれ角が0度の左右にある勾配を利用して、屈折コントラストを形成する。通常、左の勾配が利用される。
【0032】
X線ビーム11bは、試料21に入射し、試料21で一部吸収され、伝搬光路上で屈折率差があるときはスネルの法則に従って屈折し、アナライザ結晶30の表面30fに入射する。X線ビーム11bは、アナライザ結晶のロッキングカーブ(
図3参照)に従って、前方回折X線ビームFDおよび回折X線ビームDに強度が分割され、アナライザ結晶30の裏面30bから放射される。前方回折X線ビームFDは、X線ビーム11bと同一方向へ放射される。回折X線ビームDは、-x方向(水平方向)へ角度2×θ
Bで回折して放射される。距離d1を十分に大きくとることで、前方回折X線ビームFDと回折X線ビームDとを分離してシンチレータ40に入射することができる。なお厳密には、結晶内に形成される膨大な数の回折面で多重散乱する。しかし本明細書では、図面の簡略化のために、表面30fの一点で回折する図を示している。
【0033】
図2(B)に、シンチレータ40で得られる屈折コントラスト像を示す。縦軸は、X線強度である。X線強度が高いほど、シンチレータ40の輝度が高くなる。横軸は、x方向位置である。前方回折X線ビームFDによって、第1画像C1が生成される。第1画像C1によって屈折コントラスト画像を構築することができる。回折X線ビームDによって、第2画像C2が生成される。第2画像C2によって屈折コントラスト画像を構築することができる。
【0034】
第1画像C1および第2画像C2は、ロッキングカーブの左あるいは右の勾配を利用して得られており、屈折角に応じて回折強度が変化するため、試料21を伝搬するX線11bの屈折角の大きさに関係する画像である。よって第1画像C1および第2画像C2では、試料21のエッジに対応した部分で、X線の鋭い強度変化(すなわちシンチレータ40の輝度の変化)が現れる。
【0035】
試料21で生じるX線ビーム11bの屈折角は、試料21の位相像のラドン変換を一階微分した量に相当するため、第1画像C1および第2画像C2は、一階微分画像に相当する。
【0036】
第1画像C1では、試料21の左エッジ21Lに対応してエッジ画像E1Lが得られ、試料21の右エッジ21Rに対応してエッジ画像E1Rが得られる。一階微分画像の方向依存性により、エッジ画像E1Lは輝度が高い明線となり、エッジ画像E1Rは輝度が低い暗線となる。第2画像C2では、試料21の左エッジ21Lに対応してエッジ画像E2Lが得られ、試料21の右エッジ21Rに対応してエッジ画像E2Rが得られる。一階微分画像の方向依存性により、エッジ画像E2Lは輝度が低い暗線となり、エッジ画像E2Rは輝度が高い明線となる。X線ビームは結晶内で多重散乱するため、裏面30bでは元のビームよりも幅が広くなり、ぼけが発生する。よってエッジ画像E1R、E1L、E2R、E2Lは、山形の分布を有している。
【0037】
また第1画像C1と第2画像C2とは、ロッキングカーブの勾配を直線で近似すれば、互いに左右反転した関係となる。すなわち、エッジ画像E1Lは明線であり、エッジ画像E2Lは暗線である。また、エッジ画像E1Rは暗線であり、エッジ画像E2Rは明線である。
【0038】
(実施例1の位相X線イメージング方法)
図4を用いて、本実施例のX線イメージング方法について説明する。
図4は、
図2と同様の断面図である。本実施例では、アナライザ結晶30の裏面30bに、シンチレータ40が接触している。距離d1がゼロであるため、前方回折X線ビームFDおよび回折X線ビームDは、アナライザ結晶30の厚さTの分しか分離しない。よって前方回折X線ビームFDと回折X線ビームDとを、互いにずれ量Mだけずれて混在した状態で、シンチレータ40に入射することができる。ずれ量Mは、アナライザ結晶30内の多重散乱の過程で発生する量である。ずれ量Mは、アナライザ結晶30の厚さTに比例する量である。ずれ量Mの値は、各種条件により決定される値であり、測定やシミュレーション等により求めることが可能である。
【0039】
図4(B)に、シンチレータ40で得られる屈折コントラスト像を示す。本実施例では、前方回折X線ビームFDによって生成される第1画像C1と、回折X線ビームによって生成される第2画像C2とが重複している、重複画像DCを生成することができる。
図2で前述したように、第1画像C1と第2画像C2とは、互いに左右反転した関係を有する。よって両画像をずれ量なしで重ね合わせる場合には、打ち消し合うことで平均化されコントラスト像が得られない。しかし、第1画像C1と第2画像C2とをx方向にずれ量Mだけずらして重複させることにより、試料21の左エッジ21Lに対応して、エッジ画像E1LとE2Lとのペアが得られる。また試料21の右エッジ21Rに対応して、エッジ画像E1RとE2Rとのペアが得られる。すなわち、試料21の左エッジ21Lおよび右エッジ21Rを、明線および暗線のペアで表示することができる。これにより、x方向の依存性を無くすことができる。
【0040】
一般に、1階微分画像は、試料21における位相像のラドン変換をx方向で微分したものである。よって
図2で前述したように、屈折方向の依存性がある。また2階微分画像は、x方向における屈折角の変化量を表すものである。よって2階微分画像では、屈折角が大きくなる試料21のエッジで暗線と明線のペアが抽出され、方向の依存性がない。また2階微分画像の方が、1階微分画像よりも、エッジをより強調することが可能となる。そして本実施例のX線イメージング方法では、ずれ量Mだけずれた暗線と明線のペアで、エッジを抽出することができる。すなわち、2階微分画像と類似した特徴を備える画像を取得することができる。換言すると、本実施例のX線イメージング方法では、疑似的な2階微分画像を取得することが可能である。
【0041】
ずれ量Mは、アナライザ結晶30の厚さTを小さくするほど小さくすることができる。ずれ量Mが、カメラ60のイメージセンサの1ピクセル幅以上であれば、暗線と明線のペアを検出することができる。またずれ量Mが大きくなるほど、重複画像DCのエッジ画像E2LとE1Lとのピーク間の距離、および、エッジ画像E2RとE1Rとのピーク間の距離が広くなる。以上の観点から、ずれ量Mを適宜決定すればよい。
【0042】
(再構成部81および信号処理部82で実行される画像処理)
制御部73の再構成部81は、カメラ60で取得された重複画像DCの画像データに基づいて、ラプラシアン像のCT再構成を実行する。ラプラシアン像は、2階微分により抽出されたエッジを含む画像である。具体的には、ラプラシアン像は、x方向の2階微分の画像とy方向の2階微分の画像とを足し合わせた画像である。CT再構成は、試料21を回転させながら取得された全方向からのX線透過画像を解析し、試料21の断面画像を生成することである。CT再構成には、フィルタ補正逆投影法や代数的再構成法など、様々な方法を用いることが可能である。
【0043】
制御部73の信号処理部82は、再構成部81によって得られたラプラシアン像を位相像へ変換する。位相像は、サンプルの中の物理量分布である複素屈折率分布「n=1-δ+iβ」のうち、位相シフト項δの分布像(位相コントラストCT像とも呼ばれる)である。具体的には、ラプラシアン像に対するポアソン方程式を設定し、差分化されたポアソン方程式を解くことで、ラプラシアン像を位相像へ変換する。これにより位相像の2階微分勾配を表す画像から、位相像そのものを推定することができる。なお、ポアソン方程式の差分法の解法にはヤコビ法、ガウスザイデル法、SOR法などがあるが、これらに基づく画像処理は既知であるため、ここでは説明を省略する。
【0044】
(課題)
位相X線イメージングにおいて、空間分解能の向上が要求されている。
図5を用いて、位相コントラスト法の空間分解能に影響を与える要素を説明する。当該要素には、主に、(1)見かけの焦点サイズσ
S、(2)光源2の焦点サイズσ、(3)アナライザ結晶30の厚さ、(4)検出手段(シンチレータ40およびカメラ60)の空間分解能、が挙げられる。しかし、(2)の光源2の焦点サイズσをX線ビームの平行性かつ高輝度単色性を維持したまま縮小することは微小な電子軌道を持つ放射光施設の建設が必要であり技術面やコスト面で高いハードルを持つ。また、(3)のアナライザ結晶30の薄膜化はすでに限界を迎えていることや、(4)の検出手段(カメラ60)の解像性能はすでに十分高い。従って、(1)の見かけの焦点サイズσ
Sを小さくすることが、空間分解能を高めるために有効である。
【0045】
ここで、光源2と試料21との距離をAとする。試料21とシンチレータ40との距離をBとする。すると、見かけの焦点サイズσSは、「σS=σ・B/A」の式で求められる。上式より、距離Bを小さくすることが、見かけの焦点サイズσSを小さくするために必要であることが分かる。
しかし、試料21とシンチレータ40との間にアナライザ結晶30を設置する必要があるため、アナライザ結晶30とシンチレータ40との間には一定の距離d1が必要であった。そのため、距離Bを小さくすることが困難であった。
【0046】
(効果)
本実施例のX線検出システム1では、アナライザ結晶30の裏面に、検出手段を構成するシンチレータ40を接触させることができる。アナライザ結晶30とシンチレータ40との距離を極限まで小さくすることができる。その結果、試料21とシンチレータ40との距離Bを小さくすることができるため、位相X線イメージングの空間分解能を向上させることが可能となる。
【0047】
従来、位相X線イメージングにおいて、エッジをより強調した2階微分画像を取得するためには、微分フィルタ画像処理が必要であった。画像処理によって、ノイズ成分が増加したり、分解能が低下するなどの画像劣化が発生していた。本実施例の技術では、画像処理を行う必要なく、位相X線イメージの2階微分画像を直接に取得することができる。分解能が高くノイズの少ない2階微分画像を取得することが可能となる。
イメージセンサ61の表面には、多数の画素62が並んで配置されている。各画素によって、1ピクセル分の画像データが取得される。1ピクセルに対応する幅が、ピクセル幅PWである。そして前述したずれ量Mが、ピクセル幅PWよりも大きくなるように、アナライザ結晶30の厚さTを決定すればよい。これにより、2階微分画像を取得することが可能となる。