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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166198
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】自動変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20231114BHJP
   F16H 61/00 20060101ALI20231114BHJP
   F16H 61/686 20060101ALI20231114BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H61/00
F16H61/686
F16H59/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077084
(22)【出願日】2022-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】浅野 憲一
(72)【発明者】
【氏名】森本 高弘
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB05
3J552PA02
3J552PA51
3J552PB06
3J552QA13C
3J552QB06
3J552RA21
3J552SA53
3J552SB04
3J552TB13
3J552VA52X
(57)【要約】
【課題】変速ショックを小さく抑えることができるようにしつつ、ニュートラル状態とするように制御しているにも関わらず出力部材に駆動力が伝達されることを回避できる自動変速機を実現する。
【解決手段】変速装置20と制御装置60とを備えた自動変速機であって、変速装置20は油圧生成装置22からの油圧が対象制御弁に供給されない油圧回路の状態である場合に、対象制御弁に油圧を供給する補助油圧供給装置24を備え、制御装置60は、変速装置20をニュートラル状態とするように複数の制御弁が制御されているにも関わらず、対象係合要素が駆動力を伝達することで出力部材に駆動力が伝達されるような制御弁の故障である特定故障が生じている場合には、補助油圧供給装置24による油圧供給を禁止するフェールセーフ制御を行う。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源により駆動される入力部材の回転を複数の変速段のいずれかの変速比で変速して出力部材に伝達する変速装置と、前記変速装置を制御する制御装置と、を備えた自動変速機であって、
前記変速装置は、複数の摩擦係合要素と、複数の前記摩擦係合要素の係合の状態を制御する複数の制御弁と、を備え、複数の前記摩擦係合要素の係合の状態に応じて、複数の前記変速段のいずれかが形成され、或いは、前記入力部材と前記出力部材との間の駆動力の伝達を行わない状態であるニュートラル状態とされ、
複数の前記変速段のうち対象とする前記変速段を対象変速段とし、
前記対象変速段を形成する場合に係合され、前記ニュートラル状態で解放される前記摩擦係合要素を対象係合要素とし、
前記対象係合要素に供給される油圧を制御する前記制御弁を対象制御弁として、
前記変速装置は、
複数の前記摩擦係合要素を係合するための油圧を生成する油圧生成装置と、
前記油圧生成装置から複数の前記制御弁のそれぞれへの油圧の供給経路を切り替え可能な油圧回路と、
前記油圧生成装置からの油圧が前記対象制御弁に供給されない前記油圧回路の状態である場合に、前記対象制御弁に油圧を供給する補助油圧供給装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記変速装置を前記ニュートラル状態とするように複数の前記制御弁が制御されているにも関わらず、前記対象係合要素が駆動力を伝達することで前記出力部材に駆動力が伝達されるような前記制御弁の故障である特定故障が生じている場合には、前記補助油圧供給装置による油圧供給を禁止するフェールセーフ制御を行う、自動変速機。
【請求項2】
前記特定故障は、前記対象係合要素との組み合わせでいずれかの前記変速段を形成する係合要素である特定係合要素が、係合状態となる故障である、請求項1に記載の自動変速機。
【請求項3】
前記制御装置は、前記特定係合要素に油圧を供給する制御弁が故障している場合、又は、前記特定係合要素が解放状態となることにより形成される変速段が適切に形成されない場合に、前記特定故障であると判定する、請求項2に記載の自動変速機。
【請求項4】
前記制御装置は、車両電源からの電力供給が遮断後に再開された場合に、前記フェールセーフ制御を終了し、前記補助油圧供給装置による油圧供給を許可する、請求項1から3のいずれか一項に記載の自動変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦係合要素を備えた自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
変速段を形成する場合に係合され、ニュートラル状態で解放される摩擦係合要素を備えた自動変速機が知られている。以下、背景技術の説明において括弧内に示す符号は特許文献1のものである。特許文献1には、1速で係合されニュートラル状態で解放される摩擦係合要素(C1)を備えた自動変速機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-042808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の自動変速機は、摩擦係合要素(C1)に対し作動油が排出される速度が異なる2つの油路を備えている。そして1速からニュートラル状態へ変更された場合に、遅い速度で作動油が排出される油路を用いることにより摩擦係合要素(C1)の係合圧の急激な低下を防止し、変速ショックを防止している。しかし、特許文献1の自動変速機では、摩擦係合要素(C1)の係合圧の低下が遅くされているため、例えば解放状態されるべき別の摩擦係合要素が解放状態にならないという異常が発生した場合に、ニュートラル状態とするように制御しているにも関わらず出力部材に駆動力が伝達される可能性があった。
【0005】
そこで、変速ショックを小さく抑えることができるようにしつつ、ニュートラル状態とするように制御しているにも関わらず出力部材に駆動力が伝達されることを回避できる自動変速機の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた自動変速機の特徴構成は、駆動力源により駆動される入力部材の回転を複数の変速段のいずれかの変速比で変速して出力部材に伝達する変速装置と、前記変速装置を制御する制御装置と、を備えた自動変速機であって、前記変速装置は、複数の摩擦係合要素と、複数の前記摩擦係合要素の係合の状態を制御する複数の制御弁と、を備え、複数の前記摩擦係合要素の係合の状態に応じて、複数の前記変速段のいずれかが形成され、或いは、前記入力部材と前記出力部材との間の駆動力の伝達を行わない状態であるニュートラル状態とされ、複数の前記変速段のうち対象とする前記変速段を対象変速段とし、前記対象変速段を形成する場合に係合され、前記ニュートラル状態で解放される前記摩擦係合要素を対象係合要素とし、前記対象係合要素に供給される油圧を制御する前記制御弁を対象制御弁として、前記変速装置は、複数の前記摩擦係合要素を係合するための油圧を生成する油圧生成装置と、前記油圧生成装置から複数の前記制御弁のそれぞれへの油圧の供給経路を切り替え可能な油圧回路と、前記油圧生成装置からの油圧が前記対象制御弁に供給されない前記油圧回路の状態である場合に、前記対象制御弁に油圧を供給する補助油圧供給装置と、を備え、前記制御装置は、前記変速装置を前記ニュートラル状態とするように複数の前記制御弁が制御されているにも関わらず、前記対象係合要素が駆動力を伝達することで前記出力部材に駆動力が伝達されるような前記制御弁の故障である特定故障が生じている場合には、前記補助油圧供給装置による油圧供給を禁止するフェールセーフ制御を行う点にある。
【0007】
この特徴構成によれば、制御弁の故障が生じていない場合には、変速装置をニュートラル状態とする場合に補助油圧供給装置から対象制御弁に油圧を供給することで、変速段を形成した状態とニュートラル状態とで状態が変化することによる変速ショックを小さく抑えることができる。また、特定故障が生じている場合に補助油圧供給装置による対象制御弁への油圧供給を禁止することにより、変速装置をニュートラル状態とする場合に対象係合要素が係合しないようにできるため、ニュートラル状態とするように制御しているにも関わらず出力部材に駆動力が伝達されることを回避できる。
【0008】
本開示に係る技術のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る自動変速機の模式図。
図2図1の自動変速機の制御ブロック図。
図3図1の自動変速機の係合表を示す図。
図4図1の第2ブレーキ周りを拡大して示す断面図。
図5図1の自動変速機の油圧回路を説明する模式図。
図6図5の油圧回路における中立段が形成されたニュートラル状態を示す模式図。
図7図5の油圧回路における第1段が形成された駆動力伝達状態を示す模式図。
図8図5の第1クラッチに補助油圧が供給されている状態を示す模式図。
図9図5の油圧回路における後進走行段が形成された駆動力伝達状態を示す模式図。
図10図5の第3クラッチに補助油圧が供給されている状態を示す図。
図11図5の第6リニアソレノイドバルブが故障した時の第1段から中立段への切換の一例を示すタイムチャート。
図12図5の第6リニアソレノイドバルブが故障した時の後進走行段から中立段への切換の一例を示すタイムチャート。
図13図1の制御装置によるフェールセーフ制御の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、第1の実施形態に係る自動変速機10について、図面を参照して説明する。図1は、自動変速機10の模式図である。図2の自動変速機10の制御ブロック図である。本実施形態では、自動変速機10は、車両電源11と、回転電機等の駆動力源12と、図示しない差動装置及び車輪と、を備えた車両に搭載され、駆動力源12から入力された駆動力を差動歯車装置へ伝達する。差動歯車装置は、入力された駆動力を一対の車輪に分配する。車両電源11としては、例えば車両内に設けられたバッテリ等の蓄電装置や、車両外から電力供給を受ける受電装置等が用いられる。なお、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0011】
自動変速機10は、駆動力源12により駆動される入力部材20nの回転を複数の変速段のいずれかの変速比νで変速して出力部材20tに伝達する変速装置20を備えている。本実施形態では、自動変速機10は、更にトルクコンバータ30を備えている。トルクコンバータ30は、駆動力源12の出力部材12tに駆動連結されたポンプ側羽根車(ポンプインペラ)32と、非回転部材14であるケースとの間に一方向クラッチ37を有するステータ側羽根車34と、変速装置20の入力部材20nに駆動連結されたタービン側羽根車(タービンランナ)36とを備えている。また、図示の例ではトルクコンバータ30には、ポンプ側羽根車32とタービン側羽根車36との間の動力伝達経路に、ロックアップクラッチである直結クラッチCD1が設けられている。また、図示の例では、駆動力源12の出力部材12tの回転数は、駆動力源回転数センサ42により検知される。変速装置20の入力部材20nの回転数は、入力軸回転数センサ44により検知される。変速装置20の出力部材20tの回転数は、出力軸回転数センサ46により検知される。
【0012】
なお、本願において、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等が含まれていてもよい。
【0013】
図3は、自動変速機10の係合表を示す図である。変速装置20は、複数の摩擦係合要素CLと、複数の摩擦係合要素CLの係合の状態を制御する複数の制御弁VLと、を備え、複数の摩擦係合要素CLの係合の状態に応じて、複数の変速段のいずれかが形成され、或いは、入力部材20nと出力部材20tとの間の駆動力の伝達を行わない状態であるニュートラル状態とされる。本実施形態では、複数の摩擦係合要素CLには、回転部材同士を係合させるクラッチCと、非回転部材と回転部材とを係合させるブレーキBとが含まれている。図1に示す例では、変速装置20は、第1遊星歯車機構PG1及び第2遊星歯車機構PG2を用いて構成されている。
【0014】
図1から図3に示すように、本実施形態では、変速装置20は、複数の摩擦係合要素CLとして、直結クラッチCD1、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2を備えている。図4は第2ブレーキB2の断面を拡大して示す図である。本実施形態では、第2ブレーキB2は、第1ピストンB2aと第2ピストンB2bとを備え、第1ピストンB2aと第2ピストンB2bとの少なくとも一方の係合圧により係合されるダブルピストン式の摩擦係合要素CLである。
【0015】
図示の例では、第2ブレーキB2はピストンケース51とインナピストンである第1ピストンB2aとアウタピストンである第2ピストンB2bと複数の摩擦板52を備える。第1ピストンB2a及び第2ピストンB2bはピストンケース51内において摺動可能に配置されている。この第1ピストンB2a及び第2ピストンB2bにはOリング57が嵌められて、ピストンケース51の内周面に対してシールされている。第1ピストンB2aとピストンケース51との間には第1油室54が形成されている。第2ピストンB2bとピストンケース51との間には第2油室56が形成されている。
【0016】
第1ピストンB2aの先端部は、第2ピストンB2bと摩擦板52との間に配設され、摩擦板52と当接している。第1ピストンB2aは、リターンスプリング58により、摩擦板52から離間する方向に付勢されている。第1油室54に油圧が供給されると第1ピストンB2aの先端部が摩擦板52を押圧し、第2ブレーキB2を係合させる係合圧が生じる。また、第2油室56に油圧が供給されると第2ピストンB2bが第1ピストンB2aを介して摩擦板52を押圧し、第2ブレーキB2を係合させる係合圧が生じる。
【0017】
ここで、摩擦係合要素CLの係合の状態について、摩擦係合要素CLの係合部材間で回転及びトルクが伝達されない状態を「解放状態」、摩擦係合要素CLの係合部材間で回転及びトルクが伝達される状態を「係合状態」とする。また、「係合状態」のうち、摩擦係合要素CLの係合部材間に差回転を有しつつトルクを伝達するように係合している状態「スリップ係合状態」とし、摩擦係合要素CLの両側の係合部材が一体回転するように係合されている状態「直結係合状態」とする。なお、「解放状態」には、摩擦係合要素CLを係合しない状態に制御しているにも関わらず、摩擦係合要素CLの係合部材間の連れ回り等によって意図せずに回転及びトルクが伝達されている状態も含まれる。
【0018】
本実施形態では、図3に示すように、「○」を付した複数の摩擦係合要素CLが係合状態とされると共に残りの摩擦係合要素CLが解放状態とされると、駆動力伝達状態すなわち複数の変速段のいずれかが形成された状態となる。摩擦係合要素CLの全てが解放状態とされると、変速装置20をニュートラル状態とする中立段「N」が形成される。なお、本実施形態では、2つの摩擦係合要素CLが係合状態となることでいずれかの変速段が形成されるため、複数の摩擦係合要素CLのいずれか1つのみが係合状態とされた場合にも中立段「N」が形成される。
【0019】
本実施形態では、複数の変速段は、変速比νの異なる8つの前進走行段「D」である第1段「1st」、第2段「2nd」、第3段「3rd」、第4段「4th」、第5段「5th」、第6段「6th」、第7段「7th」、及び第8段「8th」と、後進走行段「R」とを含んでいる。前進走行段「D」は、第1段「1st」から第8段「8th」、すなわち、低速段側から高速段側に向かって変速比νが段階的に小さくなる。ここで、変速比νは、出力部材20tの回転速度に対する入力部材20nの回転速度の比である。なお、直結クラッチCD1は、図3には示されていないが、好適には、中立段「N」及び後進走行段「R」では基本的に解放状態とされ、前進走行段「D」において、車速、スロットル開度、エンジン回転数などの状態に応じて係合状態と解放状態とが切り替えられる。
【0020】
図5は変速装置20の油圧回路25を簡略化して示した図である。変速装置20は、複数の摩擦係合要素CLを係合するための油圧を生成する油圧生成装置22と、油圧生成装置22から複数の制御弁VLのそれぞれへの油圧の供給経路を切り替え可能な油圧回路25とを備えている。本実施形態では、油圧回路25は、複数の制御弁VLと油路とから構成されている。本実施形態では変速装置20は、複数の摩擦係合要素CLの係合の状態を制御するために複数の摩擦係合要素CLへの油圧を個別に制御する複数の制御弁VLを有している。図5に示す例では、第1リニアソレノイドバルブSL1~第6リニアソレノイドバルブSL6、第1切替バルブVw1、第2切替バルブVw2、第1補助油圧供給バルブVs1、第3補助油圧供給バルブVs3、切替制御バルブVn1、チェックバルブVc1、及び、マニュアルバルブMVが、複数の制御弁VLとして機能している。これらの複数の制御弁VLには、図2に示す油圧生成装置22が備えるオイルポンプOPから吐出され、プライマリレギュレータバルブVp1やセカンダリレギュレータバルブVp2等によって適切なライン圧に調圧された油圧が供給される。
【0021】
本実施形態では、第1リニアソレノイドバルブSL1から第4リニアソレノイドバルブSL4は、それぞれのソレノイド部に印加される電流に応じて供給油圧を調圧して、第1クラッチC1から第4クラッチC4を係合させる係合圧を発生させる。また、第5リニアソレノイドバルブSL5は、ソレノイド部に印加される電流に応じて供給油圧を調圧して、第1ブレーキB1を係合させる係合圧を発生させる。また、第6リニアソレノイドバルブSL6は、ソレノイド部に印加される電流に応じて供給油圧を調圧して第1ピストンB2aを動作させ、第2ブレーキB2を係合させる係合圧を発生させる。
【0022】
また、本実施形態では、第1切替バルブVw1は、直結クラッチCD1を係合側(ロックアップオン側)と解放側(ロックアップオフ側)とに切り替える弁であり、所謂ロックアップリレーバルブとして機能している。また、第2切替バルブVw2は、油圧生成装置22から第2ピストンB2bへの油圧を遮断可能に設けられて遮断側と係合側とに切り替えられる弁であり、所謂B2アプライコントロールバルブとして機能している。また、切替制御バルブVn1は、第1切替バルブVw1と第2切替バルブVw2とのそれぞれを切り替えるための信号圧を出力する弁であり、所謂ON-OFFソレノイドバルブとして機能している。切替制御バルブVn1は、好適には前進走行段Dでは第1切替バルブVw1を切り替えるための信号圧を出力し、後進走行段Rでは第2切替バルブVw2を切り替えるための信号圧を出力する。
【0023】
また、本実施形態では、第1補助油圧供給バルブVs1はリニアソレノイドバルブであり、第1切替バルブVw1がロックアップオン側に切り替えられた状態のときには、直結クラッチCD1に油圧を供給して係合圧を発生させる所謂ロックアップ用のソレノイドバルブ(SLU)として機能している。また、第1補助油圧供給バルブVs1は、第1切替バルブVw1がロックアップオフ側に切り替えられた状態のときには、第1リニアソレノイドバルブSL1に補助油圧を供給する後述の補助油圧供給装置24として機能している。図5に示す例では、第1補助油圧供給バルブVs1は、第2リニアソレノイドバルブSL2から第5リニアソレノイドバルブSL5の補助油圧供給装置24としても機能している。また、本実施形態では、第3補助油圧供給バルブVs3はリニアソレノイドバルブであり、第3リニアソレノイドバルブSL3に補助油圧を供給する後述の補助油圧供給装置24として機能する。図5に示す例では、第3補助油圧供給バルブVs3は、第4リニアソレノイドバルブSL4の補助油圧供給装置24としても機能している。
【0024】
また、本実施形態では、チェックバルブVc1は、油の流れを常に一定方向に保ち、逆流を規制する逆止弁である。また、マニュアルバルブMVは、シフトレンジの選択に応じて、ライン圧の供給経路を切り替える切替弁である。
【0025】
シフトレンジには、例えば、パーキングレンジ(Pレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)等の非走行レンジや、後進走行レンジ(Rレンジ)、前進走行レンジ(Dレンジ)等の走行レンジがあり、運転者によるシフトレバー操作や自動運転を行う車両制御装置により、いずれか1つのシフトレンジが選択される。前進走行レンジ(Dレンジ)には、エンジンブレーキの作用が優先されたブレーキレンジ(Bレンジ)やアクセルペダルの応答性が優先されたスポーツレンジ(Sレンジ)等が含まれても良い。本実施形態では、ニュートラルレンジ(Nレンジ)が選択された場合に、中立段Nが形成されて変速装置20がニュートラル状態とされる。また、本実施形態では、パーキングレンジ(Pレンジ)が選択された場合にも、中立段Nが形成されて変速装置20がニュートラル状態とされる。
【0026】
図6から図10はニュートラル状態又は駆動力伝達状態における油圧回路25を簡略化して示している。図6から図10では、油圧生成装置22から油圧が供給されている油路を太線で示している。また、第2リニアソレノイドバルブSL2、第4リニアソレノイドバルブSL4、第5リニアソレノイドバルブSL5は省略している。図6は、中立段Nが形成されたニュートラル状態の油圧回路25を示す図である。変速装置20は、補助油圧供給装置24を備えている。ここで、複数の変速段のうち対象とする変速段を対象変速段Hとし、対象変速段Hを形成する場合に係合され、ニュートラル状態で解放される摩擦係合要素CLを対象係合要素HCとし、対象係合要素HCに供給される油圧を制御する制御弁VLを対象制御弁HVとする。補助油圧供給装置24は、油圧生成装置22からの油圧が対象制御弁HVに供給されない油圧回路25の状態である場合に、対象制御弁HVに油圧(補助油圧)を供給する。好適には、対象変速段Hは低速段及び後進走行段Rである。更に好適には、対象変速段Hは、最低前進走行段である第1段1st、及び、最低後進走行段である後進走行段Rである。
【0027】
図7は、第1切替バルブVw1がロックアップオフ側の時の第1段1stが形成された駆動力伝達状態の油圧回路25を簡略化して示している。図8は、第1段1stから中立段Nに切り替えられて第1クラッチC1に補助油圧が供給されている状態の油圧回路25を示している。図示の例では、対象変速段Hが第1段1stであり、対象係合要素HCが第1クラッチC1であり、対象制御弁HVが第1リニアソレノイドバルブSL1である。図8に示すように、補助油圧供給装置24(すなわち第1補助油圧供給バルブVs1)は、油圧生成装置22から第1リニアソレノイドバルブSL1への油圧がマニュアルバルブMVにより遮断された油圧回路25の状態である場合に、第1リニアソレノイドバルブSL1に補助油圧を供給する。
【0028】
図9は、後進走行段Rが形成された駆動力伝達状態の油圧回路25を簡略化して示している。図10は、後進走行段Rから中立段Nに切り替えられて第3クラッチC3に補助油圧が供給されている状態の油圧回路25を示している。図示の例では、対象変速段Hが後進走行段Rであり、対象係合要素HCが第3クラッチC3であり、対象制御弁HVが第3リニアソレノイドバルブSL3である。図10に示すように、補助油圧供給装置24(すなわち第3補助油圧供給バルブVs3)は、油圧生成装置22から第3リニアソレノイドバルブSL3への油圧がマニュアルバルブMVにより遮断された油圧回路25の状態である場合に、第3リニアソレノイドバルブSL3に補助油圧を供給する。
【0029】
自動変速機10は、更に変速装置20を制御する制御装置60を備えている。制御装置60は、変速装置20をニュートラル状態とするように複数の制御弁VLが制御されているにも関わらず、対象係合要素HCが駆動力を伝達することで出力部材20tに駆動力が伝達されるような制御弁VLの故障である特定故障が生じている場合には、補助油圧供給装置24による油圧供給を禁止するフェールセーフ制御S10を行う。
【0030】
図11は、第1ピストンB2aが解放側とならない故障状態である場合における第1段1stから中立段Nへの切換の一例を示すタイムチャートである。また、図12は、第1ピストンB2aが解放側とならない故障状態である場合における後進走行段Rから中立段Nへの切換の一例を示すタイムチャートである。
【0031】
図11では、前進走行レンジ(Dレンジ)が選択され且つ変速段が第1段1stとなっている状態から、時刻t11にシフトレンジがニュートラルレンジに切り替えられている。第6リニアソレノイドバルブSL6が故障していなければ、時刻t11の第1ピストンB2aと第1クラッチC1とに油圧が供給されている状態から(図7の状態)、制御装置60が、時刻t12において第1ピストンB2aへの油の供給を第6リニアソレノイドバルブSL6により遮断するとともに、第1リニアソレノイドバルブSL1への油圧生成装置22からの供給経路をマニュアルバルブMVにより遮断する。更に制御装置60は、第1補助油圧供給バルブVs1を開けて第1リニアソレノイドバルブSL1に補助油圧の供給を開始する(図8の状態)。この補助油圧は、第1クラッチC1の係合圧が時刻t13から徐々に下げられて時刻t14においてが0となるように制御装置60により制御される。これにより、図1に示す変速装置20の出力部材20tにおいて、DレンジからNレンジに変更した時のクリープトルクの急減による変速ショックや、Dレンジ、Nレンジ、Rレンジとシフトレンジを変更した時の再係合による変速ショックが低く抑えられる。
【0032】
図11に示すように、第1補助油圧供給バルブVs1は、時刻t15において閉じられる。時刻t15は、好適には、時刻t12から予め決められた時間が経過した時となっており、時刻t15において第1クラッチC1の係合圧が0となっていない場合でも第1補助油圧供給バルブVs1を閉じる安全設定時間(ガードタイマー)である。次に時刻t16においてニュートラルレンジから後進走行レンジ(Rレンジ)に切り替えられると、時刻t17において第3クラッチC3の係合が開始され、時刻t18において第2ピストンB2bへの油の供給が開始される。
【0033】
しかし、図11に示す例では、第6リニアソレノイドバルブSL6が故障しているため時刻t12において第1ピストンB2aへの油の供給が遮断されていない。このような状態で、制御装置60が、第1補助油圧供給バルブVs1を開けて第1リニアソレノイドバルブSL1を介して第1クラッチC1に補助油圧を供給すると、時刻t12から時刻t14において第1クラッチC1が係合圧を発生している間は、第1クラッチC1と第2ブレーキB2との双方が係合する状態となって第1段1stが形成される。このため、ニュートラル状態とするように制御しているにも関わらず出力部材20tに駆動力源12の駆動力が伝達される可能性があった。しかし、本実施形態の制御装置60は、上記の場合に第1補助油圧供給バルブVs1を閉じて第1リニアソレノイドバルブSL1への油圧供給を禁止する。そのため、ニュートラル状態とするように制御しているにも関わらず出力部材20tに駆動力が伝達されることを回避できる。
【0034】
図12では、後進走行レンジ(Rレンジ)が選択され且つ変速段が後進走行段Rとなっている状態から、時刻t21にシフトレンジがニュートラルレンジに切り替えられている。第6リニアソレノイドバルブSL6が故障していなければ、時刻t21の第1ピストンB2aと第2ピストンB2bと第3クラッチC3とに油圧が供給されている状態から(図9の状態)、制御装置60が、時刻t22において第1ピストンB2aへの油の供給を第6リニアソレノイドバルブSL6により遮断するとともに、第2ピストンB2b及び第3リニアソレノイドバルブSL3への油圧生成装置22からの供給経路をマニュアルバルブMVにより遮断する。更に制御装置60は、第3補助油圧供給バルブVs3を開けて第3リニアソレノイドバルブSL3に補助油圧の供給を開始する(図10の状態)。この補助油圧は、第3クラッチC3の係合圧が時刻t23から徐々に下げられて時刻t24においてが0となるように制御装置60により制御される。これにより、図1に示す変速装置20の出力部材20tにおいて、RレンジからNレンジに変更した時のクリープトルクの急減による変速ショックや、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジとシフトレンジを変更したときの再係合による変速ショックが低く抑えられる。
【0035】
図12に示すように、第3補助油圧供給バルブVs3は、時刻t25において閉じられる。時刻t25は、好適には、時刻t22から予め決められた時間が経過した時となっており、時刻t25において第3クラッチC3の係合圧が0となっていない場合でも第3補助油圧供給バルブVs3を閉じる安全設定時間(ガードタイマー)である。次に時刻t26においてニュートラルレンジから前進走行レンジ(Dレンジ)に切り替えられると、時刻t27において第1クラッチC1の係合が開始される。
【0036】
しかし、図12に示す例では、第6リニアソレノイドバルブSL6が故障しているため、時刻t22において第1ピストンB2aへの油の供給が遮断されていない。このような状態で、制御装置60が、第3補助油圧供給バルブVs3を開けて第3リニアソレノイドバルブSL3を介して第3クラッチC3に補助油圧を供給すると、時刻t22から時刻t24において第3クラッチC3が係合圧を発生している間は、第3クラッチC3と第2ブレーキB2との双方が係合する状態となって後進走行段Rが形成される。このため、ニュートラル状態とするように制御しているにも関わらず出力部材20tに駆動力源12の駆動力が伝達される可能性があった。しかし、本実施形態の制御装置60は、上記の場合には、第3補助油圧供給バルブVs3を閉じて第3リニアソレノイドバルブSL3への油圧供給を禁止する。そのため、ニュートラル状態とするように制御しているにも関わらず出力部材20tに駆動力が伝達されることを回避できる。
【0037】
図13は、フェールセーフ制御S10の一例を示すフローチャートである。フェールセーフ制御S10において、制御装置60は、特定故障が生じているか否かを判定する特定故障判定処理S11を行う。図2に示す例では、制御装置60は特定故障判定部62を備えており、特定故障判定部62が特定故障判定処理S11を実行する。
【0038】
本実施形態では、特定故障は、対象係合要素HCとの組み合わせでいずれかの変速段を形成する係合要素である特定係合要素TCが、係合状態となる故障である。図3に示す例では、対象係合要素HCが第3クラッチC3の場合、特定係合要素TCは第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び、第2ブレーキB2である。
【0039】
本実施形態では、制御装置60は、特定係合要素TCに油圧を供給する制御弁VLが故障している場合に特定故障であると判定する。より具体的には、制御装置60は、特定係合要素TCに油圧を供給する制御弁VLが制御できない場合、特定故障であると判定する。また、特定係合要素TCに油圧を供給する制御弁VLの制御電流又は制御電圧が異常値を示した場合にも、特定故障であると判定する。例えば、特定係合要素TCが第2ブレーキB2である場合には、制御装置60は、第6リニアソレノイドバルブSL6或いは切替制御バルブVn1の制御電流又は制御電圧が異常値を示した場合に特定故障と判定する。
【0040】
また、本実施形態では、制御装置60は、特定係合要素TCが解放状態とならない場合に特定故障であると判定する。より具体的には、制御装置60は、特定係合要素TCが解放状態となることにより形成される変速段が適切に形成されない場合に特定故障であると判定する。例えば、特定係合要素TCが第2ブレーキB2である場合には、制御装置60は、第2ブレーキB2が解放状態となることにより形成される変速段2nd~8thが適切に形成されない場合に特定故障であると判定する。これらの変速段2nd~8thが適切に形成されているか否かは、変速装置20の入力部材20nと出力部材20tとの回転速度の差に基づいて判定することができる。すなわち、制御装置60は、図1に示す入力部材20nの回転数(min-1)と出力部材20tの回転数(min-1)との差である回転数差が、特定係合要素TCが解放状態となることにより形成される変速段において予め定められた範囲内にならない場合に特定故障と判定する。
【0041】
図13に戻り、制御装置60は、特定故障判定処理S11において特定故障が生じていないと判定した場合には、予め定められた周期で特定故障判定処理S11を繰り返す。特定故障判定処理S11において特定故障が生じていると判定された場合には、補助油圧供給装置24から対象制御弁HVへの油圧供給を禁止する補助油圧供給禁止処理S12を行う。図2に示す例では、制御装置60は補助油圧供給制御部64を備えており、補助油圧供給制御部64が補助油圧供給禁止処理S12を実行する。
【0042】
対象係合要素HCが第1クラッチC1の場合には、図3の例では特定係合要素TCは第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2であり、それらのいずれかが係合状態となる故障が生じている場合に、補助油圧供給装置24による油圧供給が禁止される。また、対象係合要素HCが第3クラッチC3の場合には、図3の例では特定係合要素TCは第1クラッチC1、第2クラッチC2、第2ブレーキB2であり、それらのいずれかが係合状態となる故障が生じている場合に、補助油圧供給装置24による油圧供給が禁止される。
【0043】
図13に戻り、本実施形態では、制御装置60は、電力供給再開判定処理S13と補助油圧供給再開処理S14とを実行する。すなわち、制御装置60は、車両電源11からの電力供給が遮断後に再開された場合に、フェールセーフ制御S10を終了し、補助油圧供給装置24による油圧供給を許可する。
【0044】
電力供給再開判定処理S13では、制御装置60は、車両電源11から制御装置60への電力供給が遮断後に再開されたか否かを判定する。電力供給再開判定処理S13において電力供給の遮断及び再開がされていないと判定した場合には、制御装置60は、予め定められた周期で電力供給再開判定処理S13を繰り返す。図2に示す例では、制御装置60は電力供給再開判定部66を備えており、電力供給再開判定部66が電力供給再開判定処理S13を実行する。
【0045】
電力供給再開判定処理S13において車両電源11から制御装置60への電力供給が遮断後に再開されたと判定された場合には、制御装置60は補助油圧供給禁止を解除、すなわち補助油圧供給装置24から対象制御弁HVへの油圧供給を許可する補助油圧供給再開処理S14を実行し、フェールセーフ制御S10を終了する。なお、補助油圧供給再開処理S14は、その他の場合、例えば、制御装置60に対する故障ダイアグの消去処理が行われた時にも実行されると好適である。本実施形態では、補助油圧供給制御部64が補助油圧供給再開処理S14を実行する。
【0046】
上記の自動変速機10は、駆動力源12により駆動される入力部材20nの回転を複数の変速段のいずれかの変速比νで変速して出力部材20tに伝達する変速装置20と、変速装置20を制御する制御装置60と、を備えた自動変速機10であって、変速装置20は、複数の摩擦係合要素CLと、複数の摩擦係合要素CLの係合の状態を制御する複数の制御弁VLと、を備え、複数の摩擦係合要素CLの係合の状態に応じて、複数の変速段のいずれかが形成され、或いは、入力部材20nと出力部材20tとの間の駆動力の伝達を行わない状態であるニュートラル状態とされ、複数の変速段のうち対象とする変速段を対象変速段Hとし、対象変速段Hを形成する場合に係合され、ニュートラル状態で解放される摩擦係合要素CLを対象係合要素HCとし、対象係合要素HCに供給される油圧を制御する制御弁VLを対象制御弁HVとして、変速装置20は、複数の摩擦係合要素CLを係合するための油圧を生成する油圧生成装置22と、油圧生成装置22から複数の制御弁VLのそれぞれへの油圧の供給経路を切り替え可能な油圧回路25と、油圧生成装置22からの油圧が対象制御弁HVに供給されない油圧回路25の状態である場合に、対象制御弁HVに油圧を供給する補助油圧供給装置24と、を備え、制御装置60は、変速装置20をニュートラル状態とするように複数の制御弁VLが制御されているにも関わらず、対象係合要素HCが駆動力を伝達することで出力部材20tに駆動力が伝達されるような制御弁VLの故障である特定故障が生じている場合には、補助油圧供給装置24による油圧供給を禁止するフェールセーフ制御S10を行う。
【0047】
本構成によれば、制御弁VLの故障が生じていない場合には、変速装置20をニュートラル状態とする場合に補助油圧供給装置24から対象制御弁HVに油圧を供給することで、対象変速段Hを形成した状態とニュートラル状態とで状態が変化することによる変速ショックを小さく抑えることができる。また、特定故障が生じている場合に補助油圧供給装置24による対象制御弁HVへの油圧供給を禁止することにより、変速装置20をニュートラル状態とする場合に対象係合要素HCが係合しないようにできるため、ニュートラル状態とするように制御しているにも関わらず出力部材20tに駆動力が伝達されることを回避し易い。
【0048】
上記の自動変速機10において、前記特定故障は、対象係合要素HCとの組み合わせでいずれかの変速段を形成する係合要素である特定係合要素TCが、係合状態となる故障である。このため、ニュートラル状態とするように制御しているにも関わらず、意図しない変速段が形成されて、出力部材20tに駆動力が伝達されることを適切に回避できる。
【0049】
上記の自動変速機10において、制御装置60は、特定係合要素TCに油圧を供給する制御弁VLが故障している場合、又は、特定係合要素TCが解放状態となることにより形成される変速段が適切に形成されない場合に、特定故障であると判定する。このため、特定係合要素TCが解放状態とされず係合状態となっていることを適切に判定することができる。よって、特定故障であるか否かを適切に判定することができる。
【0050】
上記の自動変速機10において、制御装置60は、車両電源11からの電力供給が遮断後に再開された場合に、フェールセーフ制御S10を終了し、補助油圧供給装置24による油圧供給を許可する。このため、フェールセーフ制御S10を実行している状態から、適切に復旧することができる。
【0051】
〔その他の実施形態〕
次に自動変速機10のその他の実施形態について説明する。
【0052】
(1)上記の実施形態では、自動変速機10が回転電機等の駆動力源12を備えた車両に搭載された場合を例として説明した。ここで、駆動力源12は、回転電機のみ限られず、内燃機関、或いは、内燃機関と回転電機とのハイブリッドでもよい。すなわち、車両は、内燃機関のみを駆動力源12とする自動車、内燃機関及び回転電機を駆動力源12とするハイブリッド自動車、電気自動車であって良い。また、この自動変速機10は、自動車以外の車両に搭載されても良い。
【0053】
(2)上記の実施形態では、第2ブレーキB2がダブルピストン式の摩擦係合要素CLである構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、第2ブレーキB2がシングルピストン式であっても良い。また、上記の実施形態では、第1クラッチC1から第4クラッチC4及び第1ブレーキB1が、第1リニアソレノイドバルブSL1~第5リニアソレノイドバルブSL5によりそれぞれ制御される構成を例として説明した。しかし、このように摩擦係合要素CLと制御弁VLとが1対1に対応していることは必須ではなく、例えば、複数の摩擦係合要素CLが1つのリニアソレノイドバルブと切替弁との組み合わせにより制御される構成であっても良い。
【0054】
(3)上記の実施形態では、補助油圧供給装置24として機能する第1補助油圧供給バルブVs1が第1リニアソレノイドバルブSL1に、第3補助油圧供給バルブVs3が第3リニアソレノイドバルブSL3にそれぞれ油圧を供給する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、第1リニアソレノイドバルブSL1から第6リニアソレノイドバルブSL6のそれぞれに補助油圧供給バルブが1つずつ設けられていても良い。また、補助油圧供給装置24はリニアソレノイドバルブが用いられなくとも良く、例えば、アキュームレータや電動オイルポンプ等が用いられていても良い。
【0055】
(4)なお、上述した実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本開示に係る技術は、自動変速機を備えた車両に利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
10:自動変速機、11:車両電源、12:駆動力源、20:変速装置、20n:入力部材、20t:出力部材、22:油圧生成装置、24:補助油圧供給装置、25:油圧回路、60:制御装置、CL:摩擦係合要素、HC:対象係合要素、TC:特定係合要素、H:対象変速段、HV:対象制御弁、VL:制御弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13