(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166199
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】自動変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 61/12 20100101AFI20231114BHJP
F16H 61/686 20060101ALI20231114BHJP
F16H 59/72 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H61/686
F16H59/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077085
(22)【出願日】2022-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲也
(72)【発明者】
【氏名】浅野 憲一
(72)【発明者】
【氏名】森本 高弘
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB05
3J552PB05
3J552PB08
3J552QA06C
3J552QB06
3J552RA27
3J552SA07
3J552SB03
3J552TB11
3J552VA52X
3J552VA79X
(57)【要約】
【課題】ダブルピストン式の摩擦係合要素の一方のピストンの係合圧が生じない故障状態である場合においても、当該ダブルピストン式の摩擦係合要素を用いた変速段の形成を可能とする技術を実現する。
【解決手段】制御装置60は、第1ピストンB2aと第2ピストンB2bとのいずれか一方の係合圧が生じない特定故障状態である場合には、第1ピストンB2a及び第2ピストンB2bのいずれか係合圧が生じる方を正常ピストンとして、駆動力源から入力部材に伝達されるトルクを、正常ピストンの係合圧によってダブルピストン式の第2ブレーキB2が直結係合状態で伝達できる範囲内に設定された制限トルク以下に制限するトルク制限制御を行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源により駆動される入力部材の回転を複数の変速段のいずれかの変速比で変速して出力部材に伝達する変速装置と、前記変速装置を制御する制御装置と、を備えた自動変速機であって、
前記変速装置は、複数の摩擦係合要素と、複数の前記摩擦係合要素の係合の状態を制御する複数の制御弁と、を備え、複数の前記摩擦係合要素の係合の状態に応じて複数の前記変速段が形成され、
複数の前記摩擦係合要素の1つであって、第1の前記制御弁である第1制御弁により制御される油圧によって動作する第1ピストンと第2の前記制御弁である第2制御弁により制御される油圧によって動作する第2ピストンとを備え、前記第1ピストンと前記第2ピストンとの少なくとも一方の係合圧により係合されるダブルピストン式の前記摩擦係合要素を対象係合要素とし、
前記対象係合要素を係合して形成される前記変速段を対象変速段として、
前記制御装置は、
前記第1ピストンと前記第2ピストンとのいずれか一方の係合圧が生じない特定故障状態である場合には、前記第1ピストン及び前記第2ピストンのいずれか係合圧が生じる方を正常ピストンとして、
前記駆動力源から前記入力部材に伝達されるトルクを、前記正常ピストンの係合圧によって前記対象係合要素が直結係合状態で伝達できる範囲内に設定された制限トルク以下に制限するトルク制限制御を行う、自動変速機。
【請求項2】
前記第1ピストン及び前記第2ピストンのいずれか係合圧が生じない故障状態である方を異常ピストンとし、前記第1制御弁及び前記第2制御弁のいずれか前記異常ピストンに対応する方の前記制御弁を異常制御弁として、
前記制御装置は、前記トルク制限制御の実行中、前記異常制御弁による前記異常ピストンへの油圧供給を禁止する、請求項1に記載の自動変速機。
【請求項3】
前記対象変速段が選択され得る走行レンジを対象走行レンジとし、前記対象走行レンジ以外の走行レンジを対象外走行レンジとして、
前記制御装置は、前記対象走行レンジから前記対象外走行レンジに移行した場合、又は、車両電源からの電力供給が遮断された場合に、前記トルク制限制御を終了する、請求項1に記載の自動変速機。
【請求項4】
前記自動変速機は、少なくとも第1走行レンジと第2走行レンジとにシフトレンジを切り替え可能であり、
前記変速装置は、前記対象係合要素以外の前記摩擦係合要素であって前記第2走行レンジの場合には解放状態とされる第2係合要素と、前記第1走行レンジの場合には前記第2ピストンに供給される油圧を遮断する切替弁と、を備え、
前記第2制御弁により制御される油圧は、前記第1走行レンジの場合には前記第2係合要素に供給され、前記第2走行レンジの場合には前記第2ピストンに供給され、
前記制御装置は、前記切替弁及び前記第2制御弁のいずれか一方が故障した場合に、前記特定故障状態であると判定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の自動変速機。
【請求項5】
前記制御装置は、前記第2係合要素が直結係合状態に制御されているにも関わらずスリップ係合状態となった場合、前記特定故障状態であると判定する、請求項4に記載の自動変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の摩擦係合要素を備えた自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
高いトルク容量を確保するためにダブルピストン式の摩擦係合要素を備える自動変速機が知られている。特許文献1には、第1油圧ピストン及び第2油圧ピストンを有する油圧式摩擦係合装置を備えた自動変速機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の自動変速機は、入力軸回転数の変化量に基づいて第1油圧ピストンを作動させる第1ソレノイドバルブの異常を検出する。しかし、特許文献1の自動変速機では、異常を検出した後に、ダブルピストン式の摩擦係合要素を使用することは想定されていなかった。そのため、当該ダブルピストン式の摩擦係合要素を用いる変速段を形成できず、車両を走行させるに際しての制約が大きかった。しかし、ダブルピストン式の摩擦係合要素では、いずれか一方のピストンの係合圧が生じない場合であっても、他方のピストンの係合圧が生じる場合には、その係合圧の範囲で係合させることが可能であり、当該ダブルピストン式の摩擦係合要素を用いた変速段を形成して車両の走行に用いる余地がある。
【0005】
そこで、ダブルピストン式の摩擦係合要素の一方のピストンの係合圧が生じない故障状態である場合においても、当該ダブルピストン式の摩擦係合要素を用いた変速段の形成を可能とする技術の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた自動変速機の特徴構成は、
駆動力源により駆動される入力部材の回転を複数の変速段のいずれかの変速比で変速して出力部材に伝達する変速装置と、前記変速装置を制御する制御装置と、を備えた自動変速機であって、
前記変速装置は、複数の摩擦係合要素と、複数の前記摩擦係合要素の係合の状態を制御する複数の制御弁と、を備え、複数の前記摩擦係合要素の係合の状態に応じて複数の前記変速段が形成され、
複数の前記摩擦係合要素の1つであって、第1の前記制御弁である第1制御弁により制御される油圧によって動作する第1ピストンと第2の前記制御弁である第2制御弁により制御される油圧によって動作する第2ピストンとを備え、前記第1ピストンと前記第2ピストンとの少なくとも一方の係合圧により係合されるダブルピストン式の前記摩擦係合要素を対象係合要素とし、
前記対象係合要素を係合して形成される前記変速段を対象変速段として、
前記制御装置は、
前記第1ピストンと前記第2ピストンとのいずれか一方の係合圧が生じない特定故障状態である場合には、前記第1ピストン及び前記第2ピストンのいずれか係合圧が生じる方を正常ピストンとして、
前記駆動力源から前記入力部材に伝達されるトルクを、前記正常ピストンの係合圧によって前記対象係合要素が直結係合状態で伝達できる範囲内に設定された制限トルク以下に制限するトルク制限制御を行う点にある。
【0007】
この特徴構成によれば、対象係合要素の第1ピストンと第2ピストンとのいずれか一方の係合圧が生じない特定故障状態であっても、係合圧が生じる方の正常ピストンを用いて対象係合要素を係合し、当該対象係合要素を用いた変速段を形成することが可能となる。また、そのような対象係合要素を用いた変速段を形成する場合に、駆動力源から入力部材に伝達されるトルクを、正常ピストンの係合圧によって対象係合要素が直結係合状態で伝達できる範囲内に設定された制限トルク以下に制限するトルク制限制御を行うので、対象係合要素のスリップ係合状態が継続することによる、対象係合要素の劣化や故障を回避し易い。
【0008】
本開示に係る技術のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る自動変速機の模式図。
【
図5】
図1の自動変速機の油圧回路を説明する模式図。
【
図6】
図5の油圧回路における前進走行段が形成された駆動力伝達状態を示す模式図。
【
図7】
図5の油圧回路における後進走行段が形成された駆動力伝達状態を示す模式図。
【
図8】
図5の油圧回路における後進走行段が形成された駆動力伝達状態において、切替制御バルブが故障している状態を示す図。
【
図9】
図1の制御装置によるトルク制限制御の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る自動変速機10の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、自動変速機10の模式図である。
図2の自動変速機10の制御ブロック図である。本実施形態では、自動変速機10は、車両電源11と、回転電機等の駆動力源12と、図示しない差動装置及び車輪と、を備えた車両に搭載され、駆動力源12から入力された駆動力を差動歯車装置へ伝達する。差動歯車装置は、入力された駆動力を一対の車輪に分配する。車両電源11としては、例えば車両内に設けられたバッテリ等の蓄電装置や、車両外から電力供給を受ける受電装置等が用いられる。なお、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0011】
自動変速機10は、駆動力源12により駆動される入力部材20nの回転を複数の変速段のいずれかの変速比νで変速して出力部材20tに伝達する変速装置20を備えている。本実施形態では、自動変速機10は、更に流体継手としてトルクコンバータ30を備えている。トルクコンバータ30は、駆動力源12の出力部材12tに駆動連結されたポンプ側羽根車(ポンプインペラ)32と、非回転部材14であるケースとの間に一方向クラッチ37を有するステータ側羽根車34と、変速装置20の入力部材20nに駆動連結されたタービン側羽根車(タービンランナ)36とを備えている。また、図示の例ではトルクコンバータ30には、ポンプ側羽根車32とタービン側羽根車36との間の動力伝達経路に、ロックアップクラッチである直結クラッチCD1が設けられている。また、図示の例では、駆動力源12の出力部材12tの回転数は、駆動力源回転数センサ42により検知される。変速装置20の入力部材20nの回転数は、入力軸回転数センサ44により検知される。変速装置20の出力部材20tの回転数は、出力軸回転数センサ46により検知される。
【0012】
なお、本願において、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等が含まれていてもよい。
【0013】
図3は、自動変速機10の係合表を示す図である。変速装置20は、複数の摩擦係合要素CLと、複数の摩擦係合要素CLの係合の状態を制御する複数の制御弁VLと、を備え、複数の摩擦係合要素CLの係合の状態に応じて、複数の変速段のいずれかが形成される。本実施形態では、複数の摩擦係合要素CLには、回転部材同士を係合させるクラッチCと、非回転部材と回転部材とを係合させるブレーキBとが含まれている。
図1に示す例では、変速装置20は、第1遊星歯車機構PG1及び第2遊星歯車機構PG2を用いて構成されている。
【0014】
本実施形態では、
図1から
図3に示すように、変速装置20は、複数の摩擦係合要素CLとして、直結クラッチCD1、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2を備えている。
【0015】
変速装置20は、複数の摩擦係合要素CLの1つであって、第1の制御弁である第1制御弁VL1により制御される油圧によって動作する第1ピストンB2aと、第2の制御弁である第2制御弁VL2により制御される油圧によって動作する第2ピストンB2bとを備え、第1ピストンB2aと第2ピストンB2bとの少なくとも一方の係合圧により係合されるダブルピストン式の摩擦係合要素である対象係合要素DPを有している。図示の例では、第1制御弁VL1は第6リニアソレノイドバルブSL6であり、第2制御弁VL2は切替制御バルブVn1であり、対象係合要素DPは、第2ブレーキB2である。
【0016】
図4は第2ブレーキB2の断面を拡大して示す図である。
図4に示す例では、第2ブレーキB2はピストンケース51とインナピストンである第1ピストンB2aとアウタピストンである第2ピストンB2bと複数の摩擦板52を備える。第1ピストンB2a及び第2ピストンB2bはピストンケース51内において摺動可能に配置されている。この第1ピストンB2a及び第2ピストンB2bにはOリング57が嵌められて、ピストンケース51の内周面に対してシールされている。第1ピストンB2aとピストンケース51との間には第1油室54が形成されている。第2ピストンB2bとピストンケース51との間には第2油室56が形成されている。
【0017】
第1ピストンB2aの先端部は、第2ピストンB2bと摩擦板52との間に配設され、摩擦板52と当接している。第1ピストンB2aは、リターンスプリング58により、摩擦板52から離間する方向に付勢されている。第1油室54に油圧が供給されると第1ピストンB2aの先端部が摩擦板52を押圧し、第2ブレーキB2を係合させる係合圧が生じる。また、第2油室56に油圧が供給されると第2ピストンB2bが第1ピストンB2aを介して摩擦板52を押圧し、第2ブレーキB2を係合させる係合圧が生じる。
【0018】
ここで、摩擦係合要素CLの係合の状態について、摩擦係合要素CLの係合部材間で回転及びトルクが伝達されない状態を「解放状態」、摩擦係合要素CLの係合部材間で回転及びトルクが伝達される状態を「係合状態」とする。また、「係合状態」のうち、摩擦係合要素CLの係合部材間に差回転を有しつつトルクを伝達するように係合している状態「スリップ係合状態」とし、摩擦係合要素CLの両側の係合部材が一体回転するように係合されている状態「直結係合状態」とする。なお、「解放状態」には、摩擦係合要素CLを係合しない状態に制御しているにも関わらず、摩擦係合要素CLの係合部材間の連れ回り等によって意図せずに回転及びトルクが伝達されている状態も含まれる。
【0019】
本実施形態では、
図3に示すように、「○」を付した複数の摩擦係合要素CLが係合状態とされると共に残りの摩擦係合要素CLが解放状態とされると、駆動力伝達状態すなわち複数の変速段のいずれかが形成された状態となる。摩擦係合要素CLの全てが解放状態とされると、変速装置20をニュートラル状態とする中立段「N」が形成される。なお、本実施形態では、2つの摩擦係合要素CLが係合状態となることでいずれかの変速段が形成されるため、複数の摩擦係合要素CLのいずれか1つのみが係合状態とされた場合にも中立段「N」が形成される。
【0020】
本実施形態では、複数の変速段は、変速比νの異なる8つの前進走行段「D」である第1段「1st」、第2段「2nd」、第3段「3rd」、第4段「4th」、第5段「5th」、第6段「6th」、第7段「7th」、及び第8段「8th」と、後進走行段「R」とを含んでいる。前進走行段「D」は、第1段「1st」から第8段「8th」、すなわち、低速段側から高速段側に向かって変速比νが段階的に小さくなる。ここで、変速比νは、出力部材20tの回転速度に対する入力部材20nの回転速度の比である。なお、直結クラッチCD1は、
図3には示されていないが、好適には、中立段「N」及び後進走行段「R」では基本的に解放状態とされ、前進走行段「D」において、車速、スロットル開度、エンジン回転数などの状態に応じて係合状態と解放状態とが切り替えられる。
【0021】
図5は変速装置20の油圧回路25を簡略化して示した図である。変速装置20は、複数の摩擦係合要素CLを係合するための油圧を生成する油圧生成装置22と、油圧生成装置22から複数の制御弁VLのそれぞれへの油圧の供給経路を切り替え可能な油圧回路25とを備えている。本実施形態では、油圧回路25は、複数の制御弁VLと油路とから構成されている。本実施形態では変速装置20は、複数の摩擦係合要素CLの係合の状態を制御するために複数の摩擦係合要素CLへの油圧を個別に制御する複数の制御弁VLを有している。
図5に示す例では、第1リニアソレノイドバルブSL1~第6リニアソレノイドバルブSL6、第1切替バルブVw1、第2切替バルブVw2、第1補助油圧供給バルブVs1、第3補助油圧供給バルブVs3、切替制御バルブVn1、チェックバルブVc1、及び、マニュアルバルブMVが、複数の制御弁VLとして機能している。これらの複数の制御弁VLには、
図2に示す油圧生成装置22が備えるオイルポンプOPから吐出され、プライマリレギュレータバルブVp1やセカンダリレギュレータバルブVp2等によって適切なライン圧に調圧された油圧が供給される。
【0022】
本実施形態では、第1リニアソレノイドバルブSL1から第4リニアソレノイドバルブSL4は、それぞれのソレノイド部に印加される電流に応じて供給油圧を調圧して、第1クラッチC1から第4クラッチC4を係合させる係合圧を発生させる。また、第5リニアソレノイドバルブSL5は、ソレノイド部に印加される電流に応じて供給油圧を調圧して、第1ブレーキB1を係合させる係合圧を発生させる。また、第6リニアソレノイドバルブSL6は、ソレノイド部に印加される電流に応じて供給油圧を調圧して第1ピストンB2aを動作させ、第2ブレーキB2を係合させる係合圧を発生させる。
【0023】
また、本実施形態では、第1切替バルブVw1は、直結クラッチCD1を係合側(ロックアップオン側)と解放側(ロックアップオフ側)とに切り替える弁であり、所謂ロックアップリレーバルブとして機能している。また、第2切替バルブVw2は、油圧生成装置22から第2ピストンB2bへの油圧を遮断可能に設けられて遮断側と係合側とに切り替えられる弁であり、所謂B2アプライコントロールバルブとして機能している。また、切替制御バルブVn1は、第1切替バルブVw1と第2切替バルブVw2とのそれぞれを切り替えるための信号圧を出力する弁であり、所謂ON-OFFソレノイドバルブとして機能している。切替制御バルブVn1は、好適には前進走行段Dでは第1切替バルブVw1を切り替えるための信号圧を出力し、後進走行段Rでは第2切替バルブVw2を切り替えるための信号圧を出力する。
【0024】
また、本実施形態では、第1補助油圧供給バルブVs1はリニアソレノイドバルブであり、第1切替バルブVw1がロックアップオン側に切り替えられた状態のときには、直結クラッチCD1に油圧を供給して係合圧を発生させる所謂ロックアップ用のソレノイドバルブ(SLU)として機能している。チェックバルブVc1は、油の流れを常に一定方向に保ち、逆流を規制する逆止弁である。また、マニュアルバルブMVは、シフトレンジの選択に応じて、ライン圧の供給経路を切り替える切替弁である。なお、第1補助油圧供給バルブVs1は、第1リニアソレノイドバルブSL1等に補助的な油圧を供給する補助油圧供給装置24としても機能する。また、第3補助油圧供給バルブVs3は、第3リニアソレノイドバルブSL3等に補助的な油圧を供給する補助油圧供給装置24である。
【0025】
シフトレンジには、例えば、パーキングレンジ(Pレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)等の非走行レンジや、後進走行レンジ(Rレンジ)、前進走行レンジ(Dレンジ)等の走行レンジがあり、運転者によるシフトレバー操作や自動運転を行う車両制御装置により、いずれか1つのシフトレンジが選択される。前進走行レンジ(Dレンジ)には、エンジンブレーキの作用が優先されたブレーキレンジ(Bレンジ)やアクセルペダルの応答性が優先されたスポーツレンジ(Sレンジ)等が含まれても良い。本実施形態では、ニュートラルレンジ(Nレンジ)が選択された場合に、中立段Nが形成されて変速装置20がニュートラル状態とされる。また、本実施形態では、パーキングレンジ(Pレンジ)が選択された場合にも、中立段Nが形成されて変速装置20がニュートラル状態とされる。
【0026】
ここで、ダブルピストン式の摩擦係合要素CLを対象係合要素DPとする。また、対象係合要素DPを係合して形成される変速段を対象変速段Hとする。本実施形態では、自動変速機10は、少なくとも第1走行レンジと第2走行レンジとに走行レンジを切り替え可能であり、変速装置20は、対象係合要素DP以外の摩擦係合要素CLであって第2走行レンジの場合には解放状態とされる第2係合要素SCと、第1走行レンジの場合には第2ピストンB2bに供給される油圧を遮断する切替弁と、を備えている。図示の例では、直結クラッチCD1が、第2走行レンジの場合に解放状態とされる第2係合要素SCとして機能している。また、本実施形態では、第2切替バルブVw2が、第1走行レンジの場合に第2ピストンB2bに供給される油圧を遮断する切替弁として機能している。また、第2制御弁VL2である切替制御バルブVn1により制御される油圧は、第1走行レンジの場合には第2係合要素SCである直結クラッチCD1に供給され、第2走行レンジの場合には第2ピストンB2bに供給される。好適には、第1走行レンジは、前進走行レンジ(Dレンジ)であり、第2走行レンジは後進走行レンジ(Rレンジ)である。
【0027】
図6から
図8は駆動力伝達状態における油圧回路25を簡略化して示している。
図6から
図8では、油圧生成装置22から油圧が供給されている油路を太線で示している。また、第2リニアソレノイドバルブSL2、第4リニアソレノイドバルブSL4、第5リニアソレノイドバルブSL5は省略している。
【0028】
図6は、直結クラッチCD1が係合状態の前進走行レンジ(Dレンジ)が選択されている油圧回路25を簡略化して示している。
図6では、複数の制御弁VLのうち第1リニアソレノイドバルブSL1の制御により第1クラッチC1が係合状態とされている。また、第6リニアソレノイドバルブSL6の制御により第1ピストンB2aに油圧が供給されて第2ブレーキB2が係合状態とされている。すなわち第1段1stが形成されている。
図6に示す第1切替バルブVw1は、切替制御バルブVn1からの信号圧によりロックアップオン側とされている。この場合、第1補助油圧供給バルブVs1により制御される油圧が直結クラッチCD1に供給される。
【0029】
図6に示すように、Dレンジの場合にはマニュアルバルブMVからの信号圧により第2切替バルブVw2は第2ピストンB2bに供給される油圧を遮断する側(すなわちオフ側)とされている。切替制御バルブVn1は、第2切替バルブVw2を第2ピストンB2bに油圧が供給される側(すなわちオン側)に切り替える信号圧を出力可能であるが、マニュアルバルブMVからの信号圧は切替制御バルブVn1の信号圧より高いため、第2切替バルブVw2はオフ側に維持される。
【0030】
図7は、後進走行レンジ(Rレンジ)が選択されている油圧回路25を簡略化して示している。
図7では、複数の制御弁VLのうち第3リニアソレノイドバルブSL3の制御により第3クラッチC3が係合状態とされている。また、第6リニアソレノイドバルブSL6の制御により第1ピストンB2aに油圧が供給されている。また、切替制御バルブVn1により第2切替バルブVw2がオン側に切り替えられてマニュアルバルブMVから第2ピストンB2bに油圧が供給されている。すなわち後進走行段Rが形成されている。
【0031】
図7に示すように、Rレンジの場合にはマニュアルバルブMVからの信号圧により第1切替バルブVw1は直結クラッチCD1に供給される油圧を遮断する側(すなわちロックアップオフ側)とされている。切替制御バルブVn1は、第1切替バルブVw1を直結クラッチCD1に油圧が供給される側(すなわちロックアップオン側)に切り替える信号圧を出力可能であるが、マニュアルバルブMVからの信号圧は切替制御バルブVn1の信号圧より高いため、第1切替バルブVw1はロックアップオフ側に維持される。
【0032】
これにより、切替制御バルブVn1から出力される信号圧は、Dレンジでは第1切替バルブVw1を切り替え、Rレンジでは第2切替バルブVw2を切り替える。従って、切替制御バルブVn1により制御される油圧は、Dレンジの場合には直結クラッチCD1に供給される油圧(本例では第1補助油圧供給バルブVs1により制御される油圧)であり、Rレンジの場合にはマニュアルバルブMVから第2ピストンB2bに供給される油圧(本例では油圧生成装置22から供給される油圧)となる。
【0033】
図8は、Rレンジが選択されている油圧回路25において、切替制御バルブVn1が故障している状態を示している。Rレンジにおいて後進走行段Rが正常に形成されている場合は、
図7に示すように、第1ピストンB2aと第2ピストンB2bの両方の係合圧により第2ブレーキB2が係合されるので、高い伝達トルク容量が確保される。しかし、切替制御バルブVn1が故障している場合は、
図8に示すように、第2切替バルブVw2がオン側に切り替わらないため、第1ピストンB2aの係合圧のみにより第2ブレーキB2が係合されることになり、第2ブレーキB2が高い伝達トルク容量を発生させることができない。このため、入力部材20nから高トルクが入力された場合には、第2ブレーキB2の伝達トルク容量を超えてしまい第2ブレーキB2はスリップ係合状態となる。
【0034】
制御装置60は、第1ピストンB2aと第2ピストンB2bとのいずれか一方の係合圧が生じない特定故障状態である場合には、第1ピストンB2a及び第2ピストンB2bのいずれか係合圧が生じる方を正常ピストンとして、駆動力源12から入力部材20nに伝達されるトルクTnを、正常ピストンの係合圧によって対象係合要素DPが直結係合状態で伝達できる範囲内に設定された制限トルクTk以下に制限するトルク制限制御S10を行う。
【0035】
本実施形態では、正常ピストンの係合圧によって対象係合要素DPが直結係合状態で伝達できるトルクTd1の上限値を故障中伝達トルク容量Td1MAXとし、入力部材20nから対象係合要素DPまでの動力伝達経路の変速比を変速比νDPとすると、第2ブレーキB2(対象係合要素DP)がスリップしない範囲で伝達可能な駆動力源12のトルクである故障中伝達可能トルクTkMAXは、以下の式(1)で表すことができる。
TkMAX=Td1MAX/νDP・・・(1)
制限トルクTkは、故障中伝達可能トルクTkMAX以下の値に設定され、好適には故障中伝達可能トルクTkMAXに設定される。
【0036】
駆動力源12から入力部材20nに伝達されるトルクTnの制限は、例えば、駆動力源12の出力トルクを制限するように駆動力源12を制御すること、或いは、駆動力源12から入力部材20nまでの動力伝達経路にあるクラッチをスリップさせて伝達トルクを制限することなどにより行われる。
【0037】
図9は、トルク制限制御S10の一例を示すフローチャートである。トルク制限制御S10において、制御装置60は、第1ピストンB2aと第2ピストンB2bとのいずれか一方の係合圧が生じない特定故障状態であるか否かを判定する特定故障判定処理S11を行う。
図2に示す例では、制御装置60は特定故障判定部62を備えており、特定故障判定部62が特定故障判定処理S11を実行する。
【0038】
本実施形態では、制御装置60は、対象係合要素DP(ここでは第2ブレーキB2)に供給される油圧を制御する制御弁VLが故障している場合に特定故障状態であると判定する。また、本実施形態では、対象係合要素DPに供給される油圧を制御する制御弁VLが制御できない場合、特定故障状態であると判定する。また、本実施形態では、対象係合要素DPに供給される油圧を制御する制御弁VLの制御電流又は制御電圧が異常値を示した場合にも特定故障状態と判定する。
図5に示す例では、制御装置60は、第1制御弁VL1(第6リニアソレノイドバルブSL6)或いは第2制御弁VL2(切替制御バルブVn1)の制御電流又は制御電圧が異常値を示した場合に特定故障状態であると判定する。
【0039】
また、本実施形態では、制御装置60は、第2切替バルブVw2及び第2制御弁VL2(切替制御バルブVn1)のいずれか一方が故障した場合に、特定故障状態と判定する。また、制御装置60は、上記第2係合要素SCが直結係合状態に制御されているにも関わらずスリップ係合状態となった場合、特定故障状態であると判定する。図示の例では、対象係合要素DP以外の摩擦係合要素CLであって第2走行レンジの場合には解放状態とされる第2係合要素SCは、直結クラッチCD1である。
【0040】
また、本実施形態では、制御装置60は、対象係合要素DPが解放状態とならない場合等に特定故障であると判定する。対象係合要素DPが解放状態とならないことは、例えば、対象係合要素DPが解放状態となることにより形成される変速段が適切に形成されないことによって判定することができる。本実施形態では、制御装置60はこのような場合にも特定故障であると判定する。例えば、対象係合要素DPが第2ブレーキB2である場合には、制御装置60は、第2ブレーキB2が解放状態となることにより形成される変速段2nd~8thが適切に形成されない場合に特定故障状態であると判定する。
【0041】
本実施形態では、制御装置60は、
図1の入力部材20nの回転数(min
-1)と出力部材20tの回転数(min
-1)との差である回転数差が、対象係合要素DPが解放状態となることにより形成される変速段において予め定められた範囲内にならない場合に特定故障状態と判定する。
【0042】
図9に戻り、制御装置60は、特定故障判定処理S11において特定故障が生じていないと判定した場合には、予め定められた周期で特定故障判定処理S11を繰り返す。特定故障判定処理S11において特定故障が生じていると判定された場合には、油圧供給禁止処理S12を行う。本実施形態では、
図2に示すように制御装置60は油圧供給禁止制御部63を備えており、油圧供給禁止制御部63が油圧供給禁止処理S12を実行する。
【0043】
油圧供給禁止処理S12では、第1ピストンB2a及び第2ピストンB2bのいずれか係合圧が生じない故障状態である方を異常ピストンとし、第1制御弁VL1(第6リニアソレノイドバルブSL6)及び第2制御弁VL2(切替制御バルブVn1)のいずれか異常ピストンに対応する方の制御弁VLを異常制御弁として、制御装置60は、トルク制限制御S10の実行中、異常制御弁による異常ピストンへの油圧供給を禁止する。
図8に示す例では、異常ピストンは第2ピストンB2bであり、異常制御弁である切替制御バルブVn1の制御による第2ピストンB2bへの油圧供給を禁止する。
【0044】
次に、制御装置60は、対象変速段Hが選択され得る走行レンジを対象走行レンジとし、対象走行レンジ以外の走行レンジを対象外走行レンジとし、選択されているシフトレンジが対象走行レンジであるか否かを判定する対象走行レンジ判定処理S13を行う。
図2に示す例では、制御装置60は対象走行レンジ判定部64を備えており、対象走行レンジ判定部64が対象走行レンジ判定処理S13を実行する。
【0045】
対象走行レンジ判定処理S13において選択されているシフトレンジが対象走行レンジであると判定した場合は、制御装置60は、入力部材トルク制限処理S14を実行する。
図2に示す例では、制御装置60は入力部材トルク制限制御部65を備えており、入力部材トルク制限制御部65が入力部材トルク制限処理S14を実行する。入力部材トルク制限処理S14では、駆動力源12から入力部材20nに伝達されるトルクTnを制限トルクTk以下に制限するトルク制限状態(入力部材トルク制限ON)とする。
【0046】
対象走行レンジ判定処理S13において選択されているシフトレンジが対象走行レンジでは無いと判定した場合、すなわち、シフトレンジが対象外走行レンジである場合は、制御装置60は、入力部材トルク制限解除処理S15を実行する。
図2に示す例では、入力部材トルク制限制御部65が入力部材トルク制限解除処理S15を実行する。入力部材トルク制限解除処理S15では、自動変速機10を駆動力源12から入力部材20nに伝達されるトルクTnを制限トルクTk以下に制限しないトルク制限解除状態(入力部材トルク制限OFF)とする。
【0047】
入力部材トルク制限処理S14又は入力部材トルク制限解除処理S15を実行すると、制御装置60は、電力供給遮断判定処理S16を実行する。電力供給遮断判定処理S16では、制御装置60は、車両電源11から制御装置60への電力供給が遮断されたか否かを判定する。
図2に示す例では、電力供給遮断判定部66が電力供給遮断判定処理S16を実行する。電力供給が遮断されたか否かの検知は電力供給の遮断が決定された時に検知するものであっても良く、電力供給が遮断されて再開された時に検知するものであっても良い。
【0048】
電力供給遮断判定処理S16において電力供給が遮断されていないと判定した場合には、制御装置60は、対象走行レンジ判定処理S13に戻る。電力供給遮断判定処理S16において電力供給が遮断されたと判定した場合は、制御装置60は、異常制御弁による異常ピストンへの油圧供給の禁止を解除し、自動変速機10を上記のトルク制限解除状態としてトルク制限制御S10を終了する。なお、電力供給遮断判定処理S16は、その他の場合、例えば、制御装置60に対する故障ダイアグの消去処理が行われた時にも実行されても良い。
【0049】
上記の自動変速機10によれば、駆動力源12から入力部材20nに伝達されるトルクTnを、正常ピストンの係合圧によって対象係合要素DPが直結係合状態で伝達できる範囲内に設定された制限トルクTk以下に制限するトルク制限制御S10を行うので、対象係合要素DPの第1ピストンB2aと第2ピストンB2bとのいずれか一方の係合圧が生じない特定故障状態であっても、係合圧が生じる方の正常ピストンを用いて対象係合要素DPを係合し、当該対象係合要素DPを用いた変速段を形成することが可能となる。また、そのような対象係合要素DPを用いた変速段を形成する場合に、駆動力源12から入力部材20nに伝達されるトルクTnを、正常ピストンの係合圧によって対象係合要素DPが直結係合状態で伝達できる範囲内に設定された制限トルクTk以下に制限するトルク制限制御S10を行うので、対象係合要素DPのスリップ係合状態が継続することによる、対象係合要素DPの劣化や故障を回避し易い。
【0050】
また、上記の自動変速機10において、第1ピストンB2a及び第2ピストンB2bのいずれかの係合圧が生じない故障状態である方を異常ピストンとし、第1制御弁VL1(第6リニアソレノイドバルブSL6)及び第2制御弁VL2(切替制御バルブVn1)のいずれか異常ピストンに対応する方の制御弁VLを異常制御弁として、制御装置60は、トルク制限制御S10の実行中、異常制御弁による異常ピストンへの油圧供給を禁止する。このため、異常ピストンに油圧が供給されることによって意図しない異常ピストンの係合圧が発生し、対象係合要素DPの制御不良が発生することを回避できる。
【0051】
対象変速段Hが選択され得る走行レンジを対象走行レンジとし、対象走行レンジ以外の走行レンジを対象外走行レンジとして、制御装置60は、対象走行レンジから対象外走行レンジに移行した場合、又は、車両電源11からの電力供給が遮断された場合に、トルク制限制御S10を終了する。このため、トルク制限制御S10を実行している状態から、適切に復旧することができる。
【0052】
自動変速機10は、少なくとも第1走行レンジと第2走行レンジとにシフトレンジを切り替え可能であり、変速装置20は、対象係合要素DP以外の摩擦係合要素CLであって第2走行レンジの場合には解放状態とされる第2係合要素SC(直結クラッチCD1)と、第1走行レンジの場合には第2ピストンB2bに供給される油圧を遮断する第2切替バルブVw2と、を備え、第2制御弁VL2(切替制御バルブVn1)により制御される油圧は、第1走行レンジの場合には第2係合要素SC(直結クラッチCD1)に供給され、第2走行レンジの場合には第2ピストンB2bに供給され、第2切替バルブVw2及び第2制御弁VL2のいずれか一方が故障した場合に、特定故障状態となる。このため、第2切替バルブVw2及び第2制御弁VL2のいずれか一方が故障した場合に第2ピストンB2bの係合圧が生じなくなるところ、第2切替バルブVw2及び第2制御弁VL2のいずれか一方が故障した場合に特定故障状態となるため、適切にトルク制限制御S10を開始することができる。
【0053】
制御装置60は、第2係合要素SC(直結クラッチCD1)が直結係合状態に制御されているにも関わらずスリップ係合状態となった場合、特定故障状態であると判定する。このため、第2係合要素SC(直結クラッチCD1)の係合状態に基づいて、対象係合要素DPを係合状態とすることなく特定故障状態を判定することができる。従って、速やかにトルク制限制御S10を開始することができる。
【0054】
〔その他の実施形態〕
次に自動変速機10のその他の実施形態について説明する。
【0055】
(1)上記の実施形態では、自動変速機10が回転電機等の駆動力源12を備えた車両に搭載された場合を例として説明した。ここで、駆動力源12は、回転電機のみ限られず、内燃機関、或いは、内燃機関と回転電機とのハイブリッドでもよい。すなわち、車両は、内燃機関のみを駆動力源12とする自動車、内燃機関及び回転電機を駆動力源12とするハイブリッド自動車、電気自動車であって良い。また、この自動変速機10は、自動車以外の車両に搭載されても良い。
【0056】
(2)上記の実施形態では、第1クラッチC1から第4クラッチC4及び第1ブレーキB1が、第1リニアソレノイドバルブSL1~第5リニアソレノイドバルブSL5によりそれぞれ制御される構成を例として説明した。しかし、このように摩擦係合要素CLと制御弁VLとが1対1に対応していることは必須ではなく、例えば、複数の摩擦係合要素CLが1つのリニアソレノイドバルブと切替弁との組み合わせにより制御される構成であっても良い。
【0057】
(3)上記の実施形態では、トルク制限制御S10の実行中、制御装置60が異常制御弁による異常ピストンへの油圧供給を禁止する油圧供給禁止処理S12を実行する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、油圧供給禁止処理S12が実行されない構成であっても良い。また、上記の実施形態では、制御装置60は、対象走行レンジから対象外走行レンジに移行した場合、又は、車両電源11からの電力供給が遮断された場合に、トルク制限解除状態となる構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、対象外走行レンジに移行した場合にもトルク制限状態が継続される構成であっても良い。
【0058】
(4)上記の実施形態では、補助油圧供給装置24として機能する第1補助油圧供給バルブVs1が第1リニアソレノイドバルブSL1に補助的な油圧を供給する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、第1補助油圧供給バルブVs1がリニアソレノイドバルブに補助的な油圧を補助油圧供給装置24として機能しない構成であっても良い。
【0059】
(5)なお、上述した実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本開示に係る技術は、自動変速機を備えた車両に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
10:自動変速機、11:車両電源、12:駆動力源、20:変速装置、20n:入力部材、20t:出力部材、60:制御装置、B2:第2ブレーキ(対象係合要素DP)、B2a:第1ピストン、B2b:第2ピストン、CD1:直結クラッチ(第2係合要素SC)、SL6:第6リニアソレノイドバルブ(第1制御弁VL1)、Vn1:切替制御バルブ(第2制御弁VL2)、Vw2:第2切替バルブ(切替弁)