(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001662
(43)【公開日】2023-01-06
(54)【発明の名称】レーダシステム及びレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/58 20060101AFI20221226BHJP
G01S 13/44 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
G01S13/58 200
G01S13/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102513
(22)【出願日】2021-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 秀輔
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB01
5J070AB07
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC12
5J070AC13
5J070AD02
5J070AD09
5J070AH12
5J070AH19
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK22
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】 クラッタや熱雑音の影響を抑圧し、小目標を検出して、測角精度を向上させる。
【解決手段】 実施形態によれば、単パルスまたは変調したN(N≧1)パルスを用いて、slow-time軸でコヒーレント積分処理するレーダシステムであって、予めレンジ-ドップラデータ(RDデータ)を取得し、そのRDデータをレンジ軸とドップラ軸で重複させながら、M通りに分割した不要波データと予め取得した目標データ(教師信号)を組み合わせた学習データを用いて、CNNモデルを学習させ、その学習モデルを用いて、リアルタイムに入力されるΣビームとAZ軸(EL軸)のスクイントビームのRDデータをM通りに分割し、分割単位毎にデノイズ処理して合成したRDデータを用いて、ΣビームによりCFARまたは極大値等による目標検出処理によって目標を検出し、ΣビームとAZ軸(EL軸)のスクイントビームを用いて測角処理を行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単パルスまたは変調したN(N≧1)パルスを用いて、slow-time軸でコヒーレント積分処理するレーダシステムであって、
予めレンジ-ドップラデータを取得し、前記レンジ-ドップラデータをレンジ軸とドップラ軸で重複させながらM通りに分割し、前記分割した不要波データと予め取得した教師信号とする目標データを組み合わせた学習データを用いて、CNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)モデルを学習させる学習手段と、
前記学習データによる学習モデルを用いて、リアルタイムに入力されるΣビームとAZ(Azimuth)軸(EL(Elevation)軸)のスクイントビームのレンジ-ドップラデータをM通りに分割し、分割単位毎にデノイズ処理して合成したレンジ-ドップラデータを用いて、ΣビームによりCFAR(Constant False Alarm Rate:定誤警報率)または極大値による目標検出処理により目標を検出し、前記ΣビームとAZ軸(EL軸)のスクイントビームを用いて測角処理を行う処理手段と
を具備するレーダシステム。
【請求項2】
前記学習手段は、分割したデータ毎に、Σビームの最大振幅により規格化係数を算出し、Σビームとスクイントビームに同じ規格化係数を適用して処理を行う、請求項1記載のレーダシステム。
【請求項3】
前記学習手段は、前記CNNモデルとして、ショートカットを含む学習モデルとショートカットを含まない学習モデルの少なくともいずれか一方を用いる請求項1または2記載のレーダシステム。
【請求項4】
前記処理手段は、前記スクイントビームをサブアレイ型デジタルビームフォーミングで形成し、デノイズ前の処理とデノイズ後の処理の結果について、目標毎にSN比(Signal-to-Noise ratio:信号対雑音電力比)を比較して、大きい方のレンジ-ドップラセルを用いて、デノイズ前の処理では位相モノパルス、デノイズ後の処理ではスクイント測角により、測角処理を行う、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレーダシステム。
【請求項5】
単パルスまたは変調したN(N≧1)パルスを用いて、slow-time軸でコヒーレント積分処理するレーダ信号処理方法であって、
予めレンジ-ドップラデータを取得し、
前記レンジ-ドップラデータをレンジ軸とドップラ軸で重複させながらM通りに分割し、
前記分割した不要波データと予め取得した教師信号とする目標データを組み合わせた学習データを用いて、CNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)モデルを学習させ、
前記学習データによる学習モデルを用いて、リアルタイムに入力されるΣビームとAZ(Azimuth)軸(EL(Elevation)軸)のスクイントビームのレンジ-ドップラデータをM通りに分割し、
分割単位毎にデノイズ処理して合成したレンジ-ドップラデータを用いて、ΣビームによりCFAR(Constant False Alarm Rate:定誤警報率)または極大値により目標を検出し、
前記ΣビームとAZ軸(EL軸)のスクイントビームを用いて測角処理を行う
レーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、レーダシステム及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダシステムでは、クラッタや熱雑音が多い環境下において、小目標を検出する際には、SN比(Signal-to-Noise ratio:信号対雑音電力比)が小さいため、検出不可や誤検出が発生する問題があり、測角誤差も大きくなってしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】パルス圧縮、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp. 278-280(1996)
【非特許文献2】CFAR(Constant False Alarm Rate:定誤警報率)、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89 (1996)
【非特許文献3】モノパルス、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp. 260-264(1996)
【非特許文献4】畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、斎藤、‘ゼロから作るDeep Learning’、オライリー・ジャパン、pp.205-221 (2016)
【非特許文献5】デノイズ処理、Kai Zhang, ‘Beyond a Gaussian Denoiser: Residual Learning of Deep CNN for Image Denoising’, IEEE Transactions on Image Processing, Vol.26, Issue 7, July (2017)
【非特許文献6】SRCNN, Chao Dong, ‘Image Super-Resolution Using Deep Convolutional Networks’, arXiv:1501.00092v3, July (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上述べたように、従来のレーダシステムでは、クラッタや熱雑音が多い環境下において、小目標を検出する際には、SN比(Signal-to-Noise ratio:信号対雑音電力比)が小さいため、検出不可や誤検出が発生する問題があり、測角誤差も大きくなってしまう。
【0005】
本実施形態の課題は、クラッタや熱雑音環境下においても、誤検出を低減して小目標を検出することができ、さらに測角精度を向上させることのできるレーダシステム及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本実施形態に係るレーダシステムは、単パルスまたは変調したN(N≧1)パルスを用いて、slow-time軸でコヒーレント積分処理するレーダシステムであって、学習手段と処理手段とを備える。前記学習手段は、予めレンジ-ドップラデータ(RDデータ)を取得し、そのRDデータをレンジ軸とドップラ軸で重複させながら、M通りに分割した不要波データと予め取得した目標データ(教師信号)を組み合わせた学習データを用いて、CNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)モデルを学習させる。前記処理手段は、その学習モデルを用いて、リアルタイムに入力されるΣビームとAZ(Azimuth)軸(EL(Elevation)軸)のスクイントビームのRDデータをM通りに分割し、分割単位毎にデノイズ処理して合成したRDデータを用いて、ΣビームによりCFAR(Constant False Alarm Rate:定誤警報率)または極大値等による目標検出処理によって目標を検出し、ΣビームとAZ軸(EL軸)のスクイントビームを用いて測角処理を行う。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るレーダシステムの送信系統の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係るレーダシステムの受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す受信系統のデノイズ処理の様子を示す概念図である。
【
図4】
図4は、
図3に示すデノイズ処理を、学習モデルを用いた推論処理によって実行する場合の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、
図4の学習モデルに用いる学習データと教師データを示す図である。
【
図6】
図6は、
図4の推論処理に用いる学習モデルの学習処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、
図3に示すデノイズ処理を学習モデル処理前と学習モデル処理後で比較して説明するための図である。
【
図8】
図8は、第1の実施形態において、ΣビームとΔビームにより誤差電圧εを算出し、予め取得した誤差電圧テーブルを用いて測角する手法を示す図である。
【
図9】
図9は、第1の実施形態において、ΣビームとΣ2ビームのスクイント測角により誤差電圧εを算出し、予め取得した誤差電圧テーブルを用いて測角する手法を示す図である。
【
図10】
図10は、第1の実施形態において、Σビーム、ΣAZビーム、ΣELビームの各々について、デノイズ処理を行う例を示す図である。
【
図11】
図11は、第2の実施形態に係るレーダシステムの受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、第2の実施形態のデノイズ処理の流れを示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、第2の実施形態のデノイズ処理を具体的に示す概念図である。
【
図14】
図14は、第3の実施形態に係るレーダシステムの受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図15】
図15は、第3の実施形態のデノイズ処理として、2種の学習モデルを含む場合の流れを示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、第3の実施形態のデノイズ処理として、1種の学習モデルを含む場合の流れを示すフローチャートである。
【
図17】
図17は、第4の実施形態に係るレーダシステムの受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図18】
図18は、第4の実施形態において、アンテナ開口をサブアレイに分割した例を示す図である。
【
図19】
図19は、第4の実施形態に適用されるサブアレイ型DBFの構成例を示すブロック図である。
【
図20】
図20は、第4の実施形態において、サブアレイの受信信号のビーム走査のための位相を説明するための座標系を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0009】
(第1の実施形態)デノイズ処理
図1は第1の実施形態に係るレーダシステムの送信系統の構成を示すブロック図、
図2はその受信系統の構成を示すブロック図である。
【0010】
図1に示す送信系統では、信号生成器11で送信種信号を生成し、変調器12で送信種信号に伝送情報を変調多重し、周波数変換器13で変調信号を高周波信号に変換し、パルス変調器14で高周波信号をパルス変調して送信パルス列を生成し、送信アンテナ15でN(N≧2)ヒットのパルスを送信する。
【0011】
次に
図2に示す受信系統について説明する。受信系統では、受信アンテナ21でΣビームとAZ軸でスクイントしたΣAZビーム、EL軸でスクイントしたΣELビームの信号を受信し、それぞれの受信信号を周波数変換器22で周波数変換し、AD変換器23でディジタル信号に変換する。次に、FFT/PC(Fast Fourier Transform/Pulse Compression)処理器24で、fast-time軸のFFTを行うと共に、レーダ信号がパルス圧縮信号(レンジ圧縮、非特許文献1参照)の場合、レンジ-周波数軸で参照信号との乗算を行ってレンジ-ドップラデータ(RDデータ)を取得する。
【0012】
続いて、DBF(Digital Beam Forming)処理器25でΣビーム、ΣAZビーム、ΣELビームの信号を形成し、デノイズ検出器26により、Σビーム、ΣAZビーム、ΣELビームそれぞれの受信信号からRDデータを所定のタイミングで順次抽出し、レンジ軸及びドップラ軸で所定の大きさに分解し、分割単位でデータ合成し、所定のスレショルドを超える極大値を抽出して目標を検出し、観測値出力器27から観測値として出力する。ここで、極値検出の代わりにCFAR(Constant False Alarm Rate:定誤警報率、非特許文献4参照)を用いてもよい。
【0013】
一方、デノイズ検出器26の目標検出結果をセル抽出器28に送り、このセル抽出器28で、DBF処理器25で形成されたΣビーム、ΣAZビーム、ΣELビームそれぞれの受信信号と比較して目標を検出したセルを抽出し、デノイズ測角器29でΣビーム、ΣAZビーム、ΣELビームを用いて測角処理を行い、その測角処理結果を観測値出力器27に送り、観測値出力器27で目標検出の観測値を出力する。
【0014】
上記構成によるレーダシステムにおいて、
図3乃至
図10を参照してその処理動作を説明する。
【0015】
ここで、
図3は、
図2に示す受信系統のデノイズ処理の様子を示す概念図、
図4は、
図3に示すデノイズ処理を、学習モデルを用いた推論処理によって実行する場合の手順を示すフローチャートである。
【0016】
まず、送信系統では、
図1に示すように、信号生成器11で送信種信号が生成され、変調器12で変調処理が施された後、周波数変換器13で高周波信号に変換され、パルス変調器14でパルス変調されて、送信アンテナ15からN(N≧2)ヒットのパルスとなって送信される。
【0017】
一方、受信系統では、
図2に示すように、受信アンテナ21で受信した信号は、周波数変換器22で周波数変換され、AD変換器23でディジタル信号に変換される。次に、FFТ/PC処理器24でslow-time軸でFFT処理して周波数領域に変換され、パルス圧縮(非特許文献1)信号の場合は、パルス圧縮(レンジ圧縮、非特許文献1)され、レンジ-ドップラデータ(RDデータ)が得られる。
【0018】
このRDデータは、デノイズ検出器26により、所定のタイミングで順次抽出され、レンジ軸及びドップラ軸で所定の大きさに分解される。この様子を
図3に示す。
図3に示すように、RDデータの検出領域を小分割する場合、小分割した境界付近に目標があるときは検出できない場合がある。このため、小分割単位はレンジ-ドップラ軸で重複させるものとする。
【0019】
デノイズ検出器26では、上記小分割単位のRDデータ毎に、
図4に示す処理を行い、分割単位をデータ合成し、所定のスレショルドを超える極大値を抽出して目標検出する。
図4に示すデノイズ検出処理は、まずデータを上記小分割単位で分割し(ステップS11)、学習モデルを用いた推論処理を実行し(ステップS12)、分割単位の処理が終了したか判断し(ステップS13)、終了していなければ次の分割単位の処理に変更して(ステップS14)、ステップS11の処理に戻る。また、ステップS13で分割単位の処理が終了していれば、分割単位で得られたデータを合成し(ステップS15)、その合成データから目標を検出し(ステップS16)、一連の処理を終了する。ステップS16において、目標の検出に、極値検出を用いてもよいし、その代わりにCFAR(非特許文献2参照)を用いてもよい。
【0020】
ここで、ステップS12の推論処理に用いる学習モデルの学習手法について、
図5乃至
図7を参照して説明する。
図5(a)、(b)は、それぞれ
図4の学習モデルに用いる学習データと教師データを示している。
図6は、
図4の推論処理に用いる学習モデルの学習処理フローを示している。
図7(a)、(b)は、
図3に示すデノイズ処理について、学習モデル処理前と学習モデル処理後で比較して示している。
【0021】
学習データは、
図5(a)に示すように、RDデータを小分割したデータに、目標信号を重畳させて作成する。目標信号としては、予め実測値または計算値を準備しておき、レンジ-ドップラ軸のセル位置、振幅、目標信号の幅等をランダムに設定し、各小分割単位に重畳する。これにより、実測値のクラッタや熱雑音の不要信号Nに目標信号Sを重畳した学習データS+Nを生成できる。教師データとしては、
図5(b)に示すように、学習データで用いた目標Sのみを小分割単位毎に設定して生成する。この学習データと教師データと学習モデルを用いて、CNN(畳み込みニューラルネットワーク、非特許文献4)等で構成する学習モデルにより学習する。
【0022】
具体的には、
図6に示すように、実測値のクラッタや熱雑音の不要信号Nに目標信号Sを重畳した学習データS+Nを生成し(ステップS21)、学習モデルを設定し(ステップS22)、学習データS+Nと目標信号Sのみの教師データSを用いて学習処理して(ステップS23)、所定のエポック数が終了したか判断し(ステップS24)、終了していなければ、学習データを変更してステップS21に戻り、エポック数が終了した場合には、終了した時点の学習モデルの学習パラメータを保存して一連の処理を終了する。以上の処理をデノイズ処理(非特許文献5)と呼ぶ。
【0023】
上記の学習処理は、通常、オフラインで行うが、リアルタイム処理時には、学習結果のモデルを用いて推論処理を行う。学習した結果、
図7(a)に示す学習モデル処理前の状況と、
図7(b)に示す学習モデル処理後の状況とを比較して明らかなように、誤検出を抑圧して、目標を抽出することができる。
【0024】
以上は、受信アンテナ21によるΣビーム(和ビーム)の処理である。次に、
図8乃至
図10を参照して説明する。
【0025】
ここで、
図8(a),(b)は、ΣビームとΔビームにより誤差電圧εを算出し、予め取得した誤差電圧テーブルを用いて測角する手法を示し、
図9(a),(b)は、ΣビームとΣ2ビームのスクイント測角により誤差電圧εを算出し、予め取得した誤差電圧テーブルを用いて測角する手法を示し、
図10(a),(b),(c)は、Σビーム、ΣAZビーム、ΣELビームの各々について、デノイズ処理を行う例を示している。
【0026】
まず、測角のためには、通常は、アンテナ開口をAZ軸(EL軸)で開口2分割して形成したΔビーム(差ビーム)を用いた位相モノパルス測角を用いる(非特許文献3参照)。これは、
図8(a),(b)に示すように、ΣビームとΔビームにより、次式で示す誤差電圧εを算出し、予め取得した誤差電圧テーブルを用いて、測角する手法である。
【0027】
【0028】
デノイズ処理を行うと、位相成分が失われるため、この位相モノパルス処理を適用できない。対策として、Σビームに対して、AZ軸(EL軸)においてビーム幅内で角度をずらせたスクイントビームΣAZ(ΣEL)による振幅成分のみを用いたスクイント測角を適用する。これを
図9に示す。
【0029】
【0030】
この処理を行うためには、
図10(a),(b),(c)に示すように、Σビーム、ΣAZビーム、ΣELビームの各々について、デノイズ処理を行う。デノイズ処理後のΣビームの出力により目標の検出処理を行って、Σビーム、ΣAZビーム、ΣELビームより目標検出セルを抽出して、(2)式を用いて測角処理を行う。この手法により、デノイズ処理により不要信号を抑圧した信号で測角ができ、角度精度を向上することができる。
【0031】
以上のように、本実施形態に係るレーダシステムは、単パルスまたは変調したN(N≧1)パルスを用いて、slow-time軸でコヒーレント積分処理するレーダシステムであって、予めレンジ-ドップラデータ(RDデータ)を取得し、そのRDデータをレンジ軸とドップラ軸で重複させながら、M通りに分割した不要波データと予め取得した目標データ(教師信号)を組み合わせた学習データを用いて、CNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)モデルを学習させ、その学習モデルを用いて、リアルタイムに入力されるΣビームとAZ軸(EL軸)のスクイントビームのRDデータをM通りに分割し、分割単位毎にデノイズ処理して合成したRDデータを用いて、ΣビームによりCFAR(Constant False Alarm Rate:定誤警報率)または極大値等による目標検出処理によって目標を検出し、ΣビームとAZ軸(EL軸)のスクイントビームを用いて測角処理を行う。
【0032】
すなわち、本実施形態によれば、デノイズ処理により、クラッタや熱雑音の影響を抑圧することができ、これによって小目標を検出して、測角精度を向上させることができる。
【0033】
(第2の実施形態)事前処理
第1の実施形態では、デノイズ処理として、学習モデル処理により不要波を抑圧して測角する手法について述べた。本実施形態では、その測角精度を向上する手法について、
図11乃至
図13を参照して説明する。
図11及び
図12において、それぞれ
図2及び
図3と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは異なる部分について説明する。
【0034】
図11は第2の実施形態に係る受信系統の構成を示すブロック図、
図12は
図11に示すデノイズ処理の流れを示すフローチャート、
図13は
図12に示すデノイズ処理を具体的に示す概念図である。
【0035】
第2の実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、デノイズ検出処理器26の前に事前処理器2Aを配置し、デノイズ処理における推論処理(ステップS12)の前段で事前処理(ステップS17)を実行するようにした点にある。
【0036】
上記事前処理を
図13に示す。まず、RDデータの目標が存在する可能性の低い遠距離、高ドップラ付近のデータを用いてノイズのrms(root mean square)値を算出し、所定の係数を乗算した信号最小値を算出する。次に、ΣビームとΣAZ(ΣEL)ビームのレンジ-ドップラデータを分割する。次にΣビ-ムの分割単位毎に、最大振幅が信号最小値を超える場合に、最大振幅値により規格化する。信号最小値を設定する理由は、ノイズのみの場合に、規格化によって信号振幅が大きくなることを防ぐためである。また、規格化を行う理由は、信号振幅の大小により、デノイズの不要波抑圧効果がばらつくのを抑えるためである。
【0037】
この規格化係数を用いて、ΣAZ(ΣEL)を規格化する。これにより、規格化を行っても、ΣビームとΣAZ(ΣEL)ビームの振幅比が保存されるため、(3),(4)式によるスクイント測角を実施することができる。
【0038】
以上のように、本実施形態によれば、分割したデータ毎に、Σビームの最大振幅により規格化係数を算出し、Σビームとスクイントビームに同じ規格化係数を適用して、デノイズ処理を行う。すなわち、分割したデータ毎にΣビームの最大値で規格化することにより、信号振幅の大小による抑圧効果のばらつきを抑えるとともに、Σビームの規格化係数をスクイントビームに適用することで、Σビームとスクイントビームの差を保持し、これによって高精度なスクイント測角を可能にすることができる。
【0039】
(第3の実施形態)ショートカット
第1の実施形態では、学習モデルとして、CNN等を用いた一般的な構成について述べた。本実施形態では、不要波抑圧効果の高いショートカットを使うデノイズ方式(非特許5)について、
図14乃至
図16を参照して説明する。
図14は、第3の実施形態に係るレーダシステムの受信系統の構成を示すブロック図、
図15は、第3の実施形態のデノイズ処理として、2種の学習モデルを含む場合の流れを示すフローチャート、
図16は、第3の実施形態のデノイズ処理として、1種の学習モデルを含む場合の流れを示すフローチャートである。
図14乃至
図16において、それぞれ
図2、
図6、
図11と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは異なる部分について説明する。
【0040】
第3の実施形態において、デノイズ検出器2Bの学習モデルが、
図15または
図16に示すように、第1及び第2の実施形態のデノイズ検出器26の学習モデルと異なる。
図15に、CNNの学習モデル処理(ステップS221)、差分出力処理(ステップS222)、ステップS221のショートカットを含む学習モデルA(デノイズモデル)(ステップS22A)とショートカットを含まないCNNの学習モデル処理(ステップS223)による学習モデルB(ステップS22B)を縦続接続した処理フローを示す。
図15では、モデルAの後モデルBの順としているが、逆順でもよい。また、モデルAとモデルBの少なくともいずれか一方を含むものとする。
【0041】
ショートカットの働きについて、モデルAのみを抽出した
図16で説明する。ショートカットは、CNNモデルの入力からCNN出力に向けたラインであり、CNN出力とCNN入力の差分を演算するために用いる。これにより、学習データとして、不要信号N+目標信号Sを入力し、差分出力が教師データになるように学習すると、CNNモデルの部分で、不要信号を模擬するような処理になり、入力データのS+Nから、模擬したNを減算することで、Sを抽出する処理になる。これにより、不要信号を抑圧でき、目標信号を検出しやすくすることができる。
【0042】
さらに、ショートカットを含まないモデルBを縦続接続することで、教師である目標信号のみを抽出する学習を実施することができる。この場合、処理規模は増えるが、より目標のみを抽出しやすくすることができる。
【0043】
以上のように、本実施形態によれば、CNNモデルとして、ショートカットを含む学習モデルとショートカットを含まない学習モデルの少なくともいずれか一方を用いる。すなわち、ショートカットを用いたCNNモデルと、ショートカットを含まないモデルを縦続接続する場合は、処理コストが最大であるが抑圧性能は高く、いずれか一方の場合は、抑圧性能が劣るが、処理コストが低くなり、運用に応じて最適な選定をすることができる。
【0044】
(第4の実施形態)サブアレイDBF
第1の実施形態では、Σビーム、ΣAZビーム、ΣELビームを形成して、スクイント測角する手法について述べた。本実施形態では、サブアレイ型DBFを用いることで、位相モノパルスビームとスクイントビームの両者を同一のハードウェアで構成して、統合処理をする手法について、
図17乃至
図20を参照して説明する。
【0045】
図17は、第4の実施形態に係るレーダシステムの受信系統の構成を示し、
図18は、第4の実施形態において、アンテナ開口をサブアレイに分割した例を示し、
図19は、第4の実施形態に適用されるサブアレイ型DBFの構成例を示し、
図20は、第4の実施形態において、サブアレイの受信信号のビーム走査のための位相を説明するための座標系を示している。
【0046】
図17に示す受信系統では、アンテナ開口を
図18(a)または
図18(b)に示すようにサブアレイに分割し、サブアレイ内はアナログ合成とし、サブアレイ間はDBFにより合成する。
図17に示す受信系統では、サブアレイ311~31nで、それぞれΣビームとAZ軸でスクイントしたΣAZビーム、ΣビームとEL軸でスクイントしたΣELビームの信号を受信し、それぞれの受信信号を周波数変換器321~32nで周波数変換し、AD変換器331~33nでディジタル信号に変換する。
【0047】
続いて、サブアレイごとの受信出力を、それぞれFFT/PC(Fast Fourier Transform/Pulse Compression)341~34nでFFT演算して周波数領域に変換した後、DBF35でΣビーム、ΣAZビーム、ΣELビームの受信信号について指定方向にDBF演算し、CFAR検出器36及びデノイズ検出器37でそれぞれ目標検出を行い、統合処理器38で各ビームの目標検出結果を統合し、観測値出力器39から目標の観測値を出力する。
【0048】
一方、統合処理器38の出力をセル抽出器401~40nに順次入力し、セル抽出器401~40nで、FFT/PC341~34nからのサブアレイごとの周波数信号と統合処理器38からの処理信号とを照らし合わせて目標検出セルを抽出し、それぞれDBFモノパルスビーム形成器41、AZ/EL位相モノパルスビーム形成器42で目標の振幅・位相情報を取得する。また、セル抽出器40nの出力について、さらにセル抽出器40n+1に入力して目標が存在する全セルを抽出し、その抽出結果をDBF35に送ってDBF形成の方向を指定するとともに、デノイズ測角器43でΣビーム、ΣAZビーム、ΣELビームそれぞれのデノイズ測角を行い、AZ/EL位相モノパルスビーム形成器42からの目標の振幅・位相情報とともに、統合処理器44に送る。統合処理器44は、検出目標それぞれの振幅、位相、測角値を統合し、目標情報として観測値出力器39に送り、統合処理器38からの目標検出結果と共に観測値出力器39から出力される。
【0049】
ここで、上記サブアレイ311~31nそれぞれの内部系統は、
図19に示すように、アンテナ素子511~514の受信信号を低雑音増幅器521~524で低雑音増幅し、移相器531~534によりビーム走査のための位相制御を受信ビーム制御器55により設定した後、合成器54により合成して、サブアレイ出力を得る。
【0050】
図10(a)は開口をAZ4×EL4に分割した場合、
図10(b)は開口をAZ2×EL2に分割した場合であり、偶数分割であれば、他の分割手法でもよいのは言うまでもない。各サブアレイ311~31n内の位相は、所定のAZ角度方向、EL角度方向にそれぞれビームを形成するように設定する。これにより、開口2分割による和ビームΣと差ビームΔAZ(ΔEL)を形成することができ、(1)式と(2)式を用いて位相モノパルス測角ができる。
【0051】
一方、サブイアレイ内の各アンテナ素子の位相はそのままで、サブアレイ間のDBFにより、スクイントビームΣAZ(ΣEL)を形成できる。
【0052】
これを定式化する。サブアレイの信号のビーム走査のための位相は、
図20の座標系を参照して、Σビーム、ΣAZビーム、ΣELビームにおいて、次式で与えられる。
【0053】
【0054】
これらの位相設定によるビームを用いて、第1乃至第3の実施形態のデノイズ処理により、高精度なスクイント測角を実現することができる。
【0055】
以上の処理により、まず検出については、統合処理(38)において、デノイズ処理前のΣビームとデノイズ処理後のΣビームのうち、SNが高い方の結果を選定し、目標のレンジ・ドップラセルを抽出することができる。測角については、統合処理(44)において、デノイズ処理前の方が、SNが高い場合には、位相モノパルスを用い、逆の場合は、デノイズ処理後のスクイント測角値を用いて、観測値を出力する。これにより、デノイズ処理による検出結果または測角結果のばらつきを抑えることができる。
【0056】
以上のように、本実施形態によれば、スクイントビームをサブアレイ型DBFで形成し、デノイズ前の処理とデノイズ後の処理の結果について、目標毎にSNを比較して、大きい方のレンジ・ドップラセルを用いて、デノイズ前の処理では位相モノパルス(スクイント測角)、デノイズ後の処理ではスクイント測角により、測角処理を行う。すなわち、サブアレイ型DBFを用いることで、位相モノパルスビームとスクイントビームの両者を同一のハードウェアで構成し、デノイズ前の処理とデノイズ後の処理の検出または測角の統合処理をすることで、デノイズ処理による検出結果または測角結果のばらつきを抑えることができる。
【0057】
なお、以上の処理は、デノイズ処理として述べたが、超分解能処理(SRCNN:Super-Resolution Convolution Neural Network、非特許文献6参照)等、他の処理を適用してもよいのは言うまでもない。
【0058】
その他、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0059】
11…信号生成器、12…変調器、13…周波数変換器、14…パルス変調器、15…送信アンテナ、
21…受信アンテナ、22…周波数変換器、23…AD変換器、24…FFT/PC(Fast Fourier Transform/Pulse Compression)処理器、25…DBF(Digital Beam Forming)処理器、26…デノイズ検出器、27…観測値出力器、28…セル抽出器、29…デノイズ測角器、2A…事前処理器、2B…デノイズ検出器、
311~31n…サブアレイ、321~32n…周波数変換器、331~33n…AD変換器、341~34n…FFT/PC、35…DBF、36…CFAR検出器、37…デノイズ検出器、38…統合処理器、39…観測値出力器、401~40n,40n+1…セル抽出器、41…DBFモノパルスビーム形成器、42…AZ/EL位相モノパルスビーム形成器、43…デノイズ測角器、44…統合処理器。