(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166272
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】共重合体及びその製造方法並びに環状カーボネート化合物
(51)【国際特許分類】
C08G 63/64 20060101AFI20231114BHJP
C07D 321/10 20060101ALI20231114BHJP
C07D 313/04 20060101ALI20231114BHJP
C07D 319/12 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C08G63/64
C07D321/10 CSP
C07D313/04
C07D319/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077205
(22)【出願日】2022-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山子 茂
(72)【発明者】
【氏名】登阪 雅聡
(72)【発明者】
【氏名】呉 家徳
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA08
4J029AB01
4J029AB04
4J029AC01
4J029AE06
4J029EG09
4J029EH03
4J029HC06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】共重合体及びその製造方法並びに環状カーボネート化合物を提供する。
【解決手段】下記式(II)で表される繰り返し単位と酸素原子を含む他の繰り返し単位を含む共重合体。
(R
1及びR
2は、H又は低級アルキル基、アルケニル基、アリール基;R
3~R
6は、H、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アラルキル基、アシル基、ニトロ基又はハロゲン原子、但し、R
3及びR
6の少なくとも一方はニトロ基;Xは、O又はS。)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(II):
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基を示す。R
3~R
6は、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基、低級アルコキシ基、アラルキル基、アシル基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。ただし、R
3及びR
6の少なくとも一方は、ニトロ基である。Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される繰り返し単位と酸素原子を含む他の繰り返し単位を含む共重合体。
【請求項2】
酸素原子を含む他の繰り返し単位が下記式(III-A)~(III-E)
【化2】
(式中、R
7~R
9は、同一又は異なって、二価の連結基を示す。R
10~R
12は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基を示す。)
からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
下記式(I):
【化3】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基を示す。R
3~R
6は、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基、低級アルコキシ基、アラルキル基、アシル基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。ただし、R
3及びR
6の少なくとも一方は、ニトロ基である。Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される環状カーボネート化合物と酸素原子を含む環状モノマーを開環重合反応に供することを含む、共重合体の製造方法。
【請求項4】
酸素原子を含む環状モノマーが下記式(A)~(E)
【化4】
(式中、R
7~R
9は、同一又は異なって、二価の連結基を示す。R
10~R
12は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基を示す。)
で表される少なくとも1種のモノマーである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
下記式(I):
【化5】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基を示す。R
3~R
6は、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基、低級アルコキシ基、アラルキル基、アシル基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。ただし、R
3及びR
6の少なくとも一方は、ニトロ基である。Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される環状カーボネート化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体及びその製造方法並びに環状カーボネート化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
刺激により分解されるポリマーは、薬物輸送システム等の生体分解性ポリマー材料のみならず、最近は廃プラスチック問題の解決の可能性の視点からも注目を集めている重要な化合物である。刺激の中でも、光刺激による分解性を付与することは、分解の時間や場所を制御できると共に、化学試薬が不要な点でも重要である。代表的な光分解性基としてオルトニトロベンジル(oNB)基がある。
【0003】
非特許文献1~4は、oNB基をポリマーの側鎖に導入しているが、用いるモノマーの構造が複雑であると共に、oNB基の光分解により生じたアミノ基が、ポリマー主鎖の分解を誘起するといった間接的な分解機構に基づいているため、より単純な構造のモノマーを用い、かつ、共重合体から直接的な光分解を誘起する系の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kuckling, D. et al. Biomacromolecules 2018, 19, 4677.
【非特許文献2】Macromol. Chem. Phys. 2019, 220, 1800539.
【非特許文献3】Langer, K. et al. Int. J. Pharm. 2019, 559, 182.
【非特許文献4】Langer, K. et al. Int. J. Pharm. 2019, 565, 199.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、分子量と分子量分布の制御された重合体を得るためのリビング開環重合によって、光分解により主鎖が直接切断されて分解されるポリマーを得るのに適した、単純な構造を持つ新規なモノマーを提供するとともに、そのモノマーを用いて製造可能な共重合体及びその製造法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の共重合体及びその製造方法並びに環状カーボネート化合物を提供するものである。
項1. 下記式(II):
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基を示す。R
3~R
6は、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基、低級アルコキシ基、アラルキル基、アシル基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。ただし、R
3及びR
6の少なくとも一方は、ニトロ基である。Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される繰り返し単位と酸素原子を含む他の繰り返し単位を含む共重合体。
項2. 酸素原子を含む他の繰り返し単位が下記式(III-A)~(III-E)
【化2】
(式中、R
7~R
9は、同一又は異なって、二価の連結基を示す。R
10~R
12は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基を示す。)
からなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1に記載の共重合体。
項3. 下記式(I):
【化3】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基を示す。R
3~R
6は、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基、低級アルコキシ基、アラルキル基、アシル基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。ただし、R
3及びR
6の少なくとも一方は、ニトロ基である。Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される環状カーボネート化合物と酸素原子を含む環状モノマーを開環重合反応に供することを含む、共重合体の製造方法。
項4. 酸素原子を含む環状モノマーが下記式(A)~(E)
【化4】
(式中、R
7~R
9は、同一又は異なって、二価の連結基を示す。R
10~R
12は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基を示す。)
で表される少なくとも1種のモノマーである、項3に記載の製造方法。
項5. 下記式(I):
【化5】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基を示す。R
3~R
6は、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基、低級アルコキシ基、アラルキル基、アシル基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。ただし、R
3及びR
6の少なくとも一方は、ニトロ基である。Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される環状カーボネート化合物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、oNB基が共重合体の主鎖に組み込まれることで、容易に光分解することができる共重合体及びその製造方法を提供することができる。また、このような共重合体の製造に適した環状カーボネート化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】a)
1H NMRにより決定されたモノマー転化率、及びb) RIとc) UV-検出器を用いたSECにより分析したポリマー分子量分布の時間経過
【
図2】a)
1H NMRにより決定されたモノマー転化率、及びb) RIとc) UV-検出器を用いたSECにより分析したポリマー分子量分布の時間経過
【
図3】ラン2で合成されたCDCl
3中における共重合体の
1H NMR
【
図4】a)
1H NMRにより決定されたモノマー変換、及びb) RIとc) UV-検出器を用いたSECにより分析したポリマー成長の時間経過
【
図5】ラン3で合成されたCDCl
3中における共重合体の
1H NMR
【
図6】a)
1H NMRにより決定されたモノマー転化率、及びb) RIとc) UV-検出器を用いたSECにより分析したポリマー分子量分布の時間経過
【
図7】実施例4で合成されたCDCl
3中における共重合体の
1H NMR
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、下記式(I)で表される環状カーボネート化合物と酸素原子を含む環状モノマーを開環リビング重合反応に供することで、分子量の制御が可能な共重合体を得ることができる。
【0010】
【0011】
(式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基を示す。R3~R6は、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基、低級アルコキシ基、アラルキル基、アシル基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。ただし、R3及びR6の少なくとも一方は、ニトロ基である。Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。)
酸素原子を含む環状モノマーとしては、一般式(I)の環状モノマーと開環重合反応により共重合体を製造可能な環状モノマーが挙げられ、好ましくは下記式(A)~(E)の環状モノマーが挙げられる。開環重合反応は開環リビング重合反応が好ましい。
【0012】
【化7】
(式中、R
7~R
9は、同一又は異なって、二価の連結基を示す。R
10~R
12は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基を示す。)
【0013】
本発明の共重合体は、下記式(II):
【化8】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基を示す。R
3~R
6は、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基、低級アルコキシ基、アラルキル基、アシル基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。ただし、R
3及びR
6の少なくとも一方は、ニトロ基である。Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される繰り返し単位と酸素原子を含む他の繰り返し単位を含む共重合体である。本発明の好ましい共重合体は、光分解性である。
【0014】
本発明のより好ましい共重合体は、酸素原子を含む他の繰り返し単位が下記式(III-A)~(III-E)
【化9】
(式中、R
7~R
9は、同一又は異なって、二価の連結基を示す。R
10~R
12は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基、低級アルケニル基、アリール基を示す。)
からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものである。
【0015】
式(III-A)で表される繰り返し単位は式(A)で表されるモノマーに由来し、式(III-B) で表される繰り返し単位は式(B)で表されるモノマーに由来し、式(III-C) で表される繰り返し単位は式(C-1)及び式(C-2)で表されるモノマーに由来し、式(III-D) で表される繰り返し単位は式(D)で表されるモノマーに由来し、式(III-E) で表される繰り返し単位は式(E)で表されるモノマーに由来する。
【0016】
本明細書において、「低級アルキル基」としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖又は分岐鎖のC1-8アルキル基、C3-8シクロヘキシル基等の環状アルキル基等を挙げることができる。好ましくはC1-8の直鎖又は分岐鎖アルキル基、より好ましくはC1-6の直鎖又は分岐鎖アルキル基、さらに好ましくはC1-4の直鎖又は分岐鎖アルキル基、特に好ましくはC1-2の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。
【0017】
「低級アルケニル基」としては、ビニル、アリル、1-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、イソプロペニル、1-、2-若しくは3-ブテニル、2-、3-若しくは4-ペンテニル、2-メチル-2-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、5-ヘキセニル等の直鎖又は分岐鎖のC2-6アルケニル基、1-シクロペンテニル、1-シクロヘキセニル等のC3-6シクロアルケニル基が挙げられる。好ましくはC2-4の直鎖又は分岐鎖アルケニル基、より好ましくはC2-3の直鎖又は分岐鎖アルケニル基である。
【0018】
「アリール基」としては、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができ、アルコキシ基、アミノ基、カルボニル基などの官能基がついていてもよい。
【0019】
「低級アルコキシ基」としては、前記低級アルキル基が酸素原子に結合した基が好ましく、より好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチロキシ基、ヘキシロキシ基、ヘプチロキシ基、オクチロキシ基等のC1-8の直鎖又は分岐鎖アルコキシ基、さらに好ましくはC1-6の直鎖又は分岐鎖アルコキシ基、特に好ましくはC1-4の直鎖又は分岐鎖アルコキシ基、最も好ましくはC1-2の直鎖又は分岐鎖アルコキシ基である。
【0020】
「アラルキル基」としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等を挙げることができる。
【0021】
「アシル基」としては、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等を挙げることができる。
【0022】
「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0023】
「二価の連結基」としては、-CHmRn-、-CHmRnCHoR’p-、-CHmRnCHoR’pCHqR”r-(m、n、o、p、q、rは0、1、2のいずれかの整数でm+n=o+p=q+r=2であり、また、R、R’、R”は低級アルキル基である)の様にCH2、CHR、CR’R”が任意の組み合わせで1~5個連結した構造が挙げられる。
【0024】
本発明の製造方法における一般式(I)で表される環状カーボネート化合物と酸素原子を含む環状モノマーとの使用比率は目的に合わせて任意に決めることができる。すなわち、分子鎖の切断を多くしたいときには、環状カーボネートモノマーの量を増やす一方、環状モノマー由来のポリマーの物性を保持したい場合には環状カーボネートモノマーの量を減らすのが良い。これにより、一般式(I)で表される環状カーボネート化合物の割合を少なくすることで酸素原子を含む環状モノマーの重合体に似た物性の共重合体を得ることができ、共重合体を用いた製品の製造適性を向上させることができる。目安とすれば、モル比で、1:1~99.9:0.1とすることができ、好ましくは4:1~99:1である。
【0025】
リビング重合反応は、酸素原子を含む環状モノマー、触媒(酸触媒、塩基触媒など)、開始剤である少量のアルコール、必要に応じてさらに溶媒を含み、必要に応じて不活性ガスで置換した容器に、一般式(I)で表される環状カーボネート化合物と溶媒を含む溶液を滴下等により徐々に加えて反応させることにより共重合が進行する。反応の進行に合わせて一般式(I)で表される環状カーボネート化合物を添加する速度を調整することで一般式(I)で表される環状カーボネート化合物に由来する繰り返し単位の共重合体における分布の偏りを抑制し、光分解後の共重合体の分子量を大きく低下させることができるので好ましい。
【0026】
あるいは、必要に応じて不活性ガスで置換した容器に、一般式(I)で表される環状カーボネート化合物、酸素原子を含む環状モノマー、触媒(酸触媒、塩基触媒など)、少量のアルコール、必要に応じてさらに溶媒を含む反応混合物をバッチ方式でリビング重合することで、目的とする共重合体を得ることができる。
【0027】
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等を挙げることができる。好ましくは、アルゴン、窒素が良い。特に好ましくは、窒素がよい。
【0028】
溶媒としては、特に限定はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、2-ブタノン(メチルエチルケトン)、ジオキサン、ヘキサフルオロイソプロパオール、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどを挙げることができる。開始剤として用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、ベンジルアルコール等の一級アルコールが挙げられる。溶媒の使用量としては、適宜調節すればよく、例えば、一般式(I)で表される環状カーボネート化合物1gに対して、通常0~10mlの範囲である。
【0029】
アルコールの添加量は、一般式(I)で表される環状カーボネート化合物100モルに対し、好ましくは0.2~5モル%、より好ましくは0.5~3モル%である。
【0030】
酸触媒としてはベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などのスルホン酸、トリフルオロ酢酸、塩化水素、臭化水素、フッ化水素、ヨウ化水素などのハロゲン化水素、などが挙げられる。
【0031】
塩基触媒としては、トリアザビシクロデセン(TBD)、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ピリジン、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)などが挙げられる。
【0032】
上記以外の触媒としては、M Fevre et.al,Polymer Science:A Comprehensive Reference, Volume 4, 67-115.に記載の以下のものの他、オクチル酸スズ、ジオキソモリブデン(VI)のサリチルアルデヒド錯体などが挙げられる。
【化10】
【化11】
【0033】
重合工程の終了後、重合溶液から使用溶媒や残存モノマーを減圧下除去して目的とする共重合体を取り出したり、不溶性溶媒を使用して再沈殿処理により目的とする共重合体を単離することができる。
【0034】
<共重合体>
本発明の共重合体は、α-ニトロベンジルアルコール構造単位を含む。本発明の共重合体は、例えば、上述した製造方法により得ることができる。
【0035】
本発明の製造方法で得られる共重合体の重量平均分子量(Mw)は、目的によって選択することができ、例えば1,000~1,000,000であってもよく、10,000~200,000であってもよい。共重合体の重量平均分子量は、標準ポリスチレン(PS)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という)法により測定することができる。
【0036】
本発明の製造方法で得られる共重合体の数平均分子量(Mn)は、目的によって選択することができ、例えば1,000~1,000,000であってもよく、10,000~200,000であってもよい。共重合体の数平均分子量は、標準ポリスチレン(PS)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という)法により測定することができる。
【0037】
共重合体の重量平均分子量Mw(A)と数平均分子量Mn(A)の比、Mw(A)/Mn(A)(以下、「分子量分布」と称することがある。)は、目的によって選択することができ、例えば1.0~4.0であってもよく、1.1~2.0であってもよい。なお、Mw(A)およびMn(A)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算値である。リビング重合により製造される本発明の共重合体は、容易に分子量を制御することができる。
【0038】
本発明の製造方法は、上述のようにワンポットで行うことができ、簡便な製造方法で分子量分布の幅が狭い共重合体を得ることができる方法であり、工業的に有利な方法である。また、本発明の製造方法で得られる共重合体は、光により比較的容易に分解して低分子量化することができ、例えば薬物輸送システム等の医療用途、光分解性プラスチックとして好適に用いることができる。
【実施例0039】
以下、実施例を用いて、本明細書において開示される事項をより詳細に説明する。
【0040】
実施例1
(3-ニトロ-1,2-フェニレン)ジメタノール (1)の合成(Elmehriki, A. A.; Gleason, J. L. Org. Lett. 2019, 21, 9729)
【化12】
BH
3-THF錯体の脱水THF溶液(1.0 mol L
-1, 91.50 mmol, 91.5 mL)を3-ニトロフタル酸(26.2 g, 124.1 mmol)と脱水THF (30 mL)溶液に0℃で滴下漏斗によりゆっくり滴下した。得られた反応混合物を室温に温め、21時間撹拌した。水(20 mL) を加えて反応を停止し、有機生成物を酢酸エチルで3回(各100 mL)抽出した。有機抽出液を合わせて飽和NaCl水溶液(50 mL)で洗浄し、MgSO
4で乾燥し、ろ過し、濃縮して粗混合物(20.1 g)を得た。シリカゲルクロマトグラフィー(400 gシリカゲル, ヘキサン/酢酸エチル= 1:1, Rf = 0.25)で精製して化合物1 を黄色固体として得た(15.1 g, 67%)。
【0041】
1H NMR (CDCl3) 2.77 (t, 1H, J = 5.9 Hz, OH), 2.94 (t, 1H, J = 7.1 Hz, OH), 4.81 (s, 2H, J = 7.1 Hz), 4.89 (d, 2H, J = 5.6 Hz), 7.48 (dd, 1H, J = 7.8, 7.8 Hz), 7.70 (d, 1H, J = 7.6 Hz), 7.80 (dd, 1H, J = 8.0, 1.3 Hz).
【0042】
実施例2
6-ニトロ-1,5-ジヒドロベンゾ[e][1,3]ジオキセピン-3-オン(2)の合成
【化13】
トリホスゲン (3.69 g, 12.4 mmol)の脱水ジクロロメタン(DCM, 100 mL)溶液を化合物1 (2.07 g, 11.3 mmol)とピリジン(67.8 mmol, 5.47 mL)の脱水DCM (450 mL)溶液に-78℃で滴下漏斗により滴下した。次いで、反応混合物を室温に温め、30分間撹拌した。反応混合物にHCl水溶液(1.0 mol L
-1, 50 mL)を加えて反応を停止した。有機層を分離し、飽和NaHCO
3水溶液(50 mL)、次いで飽和NaCl水溶液(50 mL)で洗浄し、MgSO
4で乾燥し、ろ過し、濃縮して粗混合物(2.38 g)を得た。クロロホルム溶液から-20℃における再結晶を繰り返して、化合物2 を1.71 g, 収率72%で得た。
【0043】
1H NMR (CDCl3) 5.38 (s, 2H), 5.75 (s, 2H), 7.52 (s, 1H), 7.53 (d, 1H, J = 1.5 Hz), 8.15 (m, 1H); 13C NMR (CDCl3) 69.05, 69.99, 126.05, 128.96, 130.71, 133.52, 135.57, 147.67, 155.35; 3088, 3032, 2953, 2866, 1782, 1529, 1350, 1244, 1182, 1070, 808, 739 cm-1; EI HRMS Calcd for [M+H]+, 210.0397 found 210.0399.
【0044】
実施例3
重合
重合用の連続添加法(表1)
【化14】
【0045】
ラン1:化合物2 (104 mg, 0.50 mmol)の脱水THF (1.33 mL)溶液を60℃に加熱した重合溶液(ベンジルアルコール(5.2 mL, 0.05 mmol), ε-カプロラクトン(ε-CL, 0.55 mL, 5.00 mmol)及びトリアザビシクロデセン(TBD, 10.4 mg, 0.075 mmol)の脱水THF (1.45 mL)溶液)に0.33 mL/hの速度でシリンジポンプにより加えた。少量のサンプルを1時間ごとに取り出し、モノマーの変換とポリマーの成長を
1H NMR とSECにより分析した。モノマー2の添加終了後(開始から4時間後)、反応混合物を同じ温度でさらに2時間加熱し、飽和NH
4Cl水溶液を数滴添加することにより反応を停止した。有機相をMgSO
4で乾燥し、ろ過し、濃縮して橙色固体(494 mg)を得た。SEC分析により数平均分子量 (M
n= 7100)と分散度 (D = 1.96)を決定した。
反応モニタリングによりε-CLの変換は67%の変換で停止し、化合物2 との共重合はそれ以上進行しなかった (
図1a)。2時間後以降も低分子量の成分(オリゴマー)が増加しているが、強いUV吸収を有する事から(
図1b及び1c)、化合物2のホモ重合体が生じていると考えられた。
【0046】
ラン2:化合物2 (53 mg, 0.25 mmol) の脱水THF (0.55 mL)溶液を60℃に加熱した重合溶液(ベンジルアルコール(2.6 mL, 0.025 mmol), ε-CL(0.28 mL, 2.50 mmol)及びメタンスルホン酸(MSA, 2.5 mL, 0.038 mmol) の脱水THF (0.21 mL)溶液)に0.18 mL/hの速度でシリンジポンプにより加えた。少量のサンプルを1時間ごとに取り出し、モノマーの変換とポリマーの成長を
1H NMR とSECにより分析した。モノマー2の添加終了後(開始から3時間後)、反応混合物を同じ温度でさらに1時間加熱し、飽和NaHCO
3水溶液を数滴添加することにより反応を停止した。有機層をMgSO
4で乾燥し、ろ過し、濃縮して白色固体(300 mg)を得た。SEC分析により数平均分子量 (M
n= 10800)と分散度 (D = 1.37)を決定した。
反応モニタリングにより、化合物2を導入しながらε-CLが定量的に重合した(
図2a)ことが示された。さらに、RIとUV検出器を用いたSECトレースは、モノマー転化率の増加に伴い単峰形で高分子量にシフトした分布を示した(
図2bと2c)。さらに、最終生成物の
1H NMRは共重合体に相当する新しいシグナルを有していた(
図3)。これらすべての結果は、所望の共重合体が合成できたことを示す。
【0047】
ラン3: 化合物2(157 mg, 0.75 mmol)の脱水THF (1.63 mL)溶液を60℃に加熱した重合溶液(ベンジルアルコール(7.8 mL, 0.075 mmol), ε-CL (4.16 mL, 37.5 mmol) 及びメタンスルホン酸(MSA, 7.3 mL, 0.113 mmol)の脱水THF (1.20 mL) 溶液)に0.10 mL/hの速度でシリンジポンプにより加えた。少量のサンプルを1時間ごとに取り出し、モノマーの変換とポリマーの成長を
1H NMR とSECにより分析した。開始から14時間後にモノマー2の添加を終了し(モノマー2の添加量は0.64 mmol)、反応混合物を同じ温度でさらに1時間加熱し、飽和NaHCO
3水溶液を数滴添加することにより反応を停止した。有機層をMgSO
4で乾燥し、ろ過し、濃縮して白色固体(4.01 g)を得た。SEC分析により数平均分子量 (M
n = 38400)と分散度 (D = 1.38)を決定した。
反応モニタリングにより化合物2を導入しながらε-CLが定量的に重合した(
図4a)ことが示された。さらに、RIとUV検出器を用いたSECトレースは、モノマー転化率の増加に伴い単峰形で高分子量にシフトした分布を示した(
図4bと4c)。さらに、最終生成物の
1H NMRは共重合体に相当する新しいシグナルを有していた(
図5)。これらすべての結果は、所望の共重合体が首尾よく合成できたことを示す。
【0048】
【表1】
aモノマー2とBnOHのモル比, [2]
0/[BnOH]
0.
b
1H NMRにより決定された
c PSt標準物質で較正したSECにより決定された。
【0049】
実施例4
【化15】
化合物2 (72 mg, 0.35 mmol)の脱水1,2-ジクロロエタン (DCE、0.72 mL)溶液を70℃に加熱した重合溶液(ベンジルアルコール(3.6 mL, 0.035 mmol), L-(-)-ラクチド(498 mg, 3.45 mmol)及び4-ジメチルアミノピロリジン(DMAP, 21.0 mg, 0.173 mmol)の脱水DCE (0.70 mL)溶液)に0.14 mL/hの速度でシリンジポンプにより加えた。少量のサンプルを1時間ごとに取り出し、モノマーの転化率とポリマーの分子量を
1H NMR とSECにより分析した。モノマー2の添加終了後(開始から5.1時間後)、反応混合物を同じ温度でさらに1時間加熱し、飽和NH
4Cl水溶液を数滴添加することにより反応を停止した。有機層をMgSO
4で乾燥し、ろ過し、濃縮して白色固体(540 mg)を得た。SEC分析により数平均分子量 (M
n= 2300)と分散度 (D = 1.38)を決定した。
反応モニタリングにより、化合物2 を導入しながらL-(-)-ラクチドが定量的に重合したことが示された(
図6a)。さらに、RIとUV検出器を用いたSECトレースは、モノマー転化率の増加に伴い単峰形で高分子量にシフトした分布を示した(
図6bと6c)。さらに、最終生成物の
1H NMRは共重合体に相当する新しいシグナルを有していた(
図7)。これらすべての結果は、所望の共重合体が首尾よく合成できたことを示す。
【0050】
比較例1
ワンショット重合 (比較試験, 表2)
【化16】
室温で脱水DCM (1 mL)にベンジルアルコール(4.2 μL, 0.04 mmol), ε-カプロラクトン(133 μL, 1.20 mmol) 及び化合物2 (250 mg, 1.20 mmol)を溶かした溶液に触媒(0.06 mmol, MSA: 3.9 μL, TBD: 8.4 mg)を加え、得られた混合物を撹拌した。0.2時間又は0.5時間後、モノマーの変換を
1H NMRにより決定し、生成したポリマーをSECにより分析した。データは表2に示す。化合物1がε-CLよりも優先的に重合し、所望のランダム共重合体は形成されなかった。
【0051】
【表2】
a 1H NMRにより決定された。
b PSt 標準物質を用いて較正されたSECにより決定された。
cTBD: トリアザビシクロデセン; MSA: メタンスルホン酸
【0052】
【0053】
Run 1: 共重合体3 (110 mg, Mn = 10,800, D = 1.37)の脱水THF (1.1 mL)溶液に、25℃で500 W 水銀ランプの光を照射した。少量の溶液を反応混合物から定期的に取り出し、SECにより分析した(
図8a)。10時間の照射後のデータから、分解効率は32%と計算された。
【0054】
Run 2: 共重合体3 (100 mg)の無水THF (1.0 mL)溶液を25℃、500 W Hgランプにより光照射した。少量の溶液を反応混合物から定期的に取り出し、SECにより分析した(
図8b)。1時間後、分子量は有意に変化しなかった。8時間の照射後のデータから、分解効率は41%と計算された。
【0055】
【表3】
a PSt 標準物質を用いて較正されたSECにより決定された。
b1H NMRにより決定された。
c分解効率 (E
deg) = (M
n, before / (m+1)) / (M
n, after) ×100.
【0056】
試験例2
光分解 (表4)
【化18】
共重合体 4 (60 mg, Mn = 2300, D = 1.38) の脱水 THF (0.6 mL)溶液に、25℃で500 W 水銀ランプの光を照射した。反応混合物から少量の溶液を定期的に抜き取り、SECで分析した(
図9)。8時間照射後のデータから、分解効率は17%と算出された。
【0057】
【表4】
a PSt 標準物質を用いて較正されたSECにより決定された。
b1H NMRにより決定された。
c分解効率 (E
deg) = (M
n, before / (m+1)) / (M
n, after) ×100.