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特開2023-166274ウイルス捕集材の評価方法及び評価装置
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  • 特開-ウイルス捕集材の評価方法及び評価装置 図1
  • 特開-ウイルス捕集材の評価方法及び評価装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166274
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】ウイルス捕集材の評価方法及び評価装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/70 20060101AFI20231114BHJP
   C12Q 1/24 20060101ALI20231114BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C12Q1/70
C12Q1/24
C12M1/34 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077208
(22)【出願日】2022-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】391022614
【氏名又は名称】学校法人幾徳学園
(74)【代理人】
【識別番号】100119378
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】吉野 秀吉
(72)【発明者】
【氏名】小川 正之
(72)【発明者】
【氏名】高村 岳樹
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB13
4B029CC01
4B029DG08
4B029FA11
4B063QA01
4B063QQ10
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】容易かつ正確に捕集率を求めることができ、さらに、長時間の捕集材の評価試験を可能にするウイルス捕集材の評価方法及び評価装置の提供。
【解決手段】ブランク用及び評価用の各々の流路には捕集材ホルダー及びインピンジャーが設けられ、評価用の流路に設けられた捕集材ホルダーには評価対象の捕集材が設置され、袋から各々の流路に、ウイルス含有人工飛沫を送ると、人工飛沫中のウイルスの一部が評価対象の捕集材に捕集され、残りのウイルスがインピンジャー内の捕集液に捕集される。このため、各々のインピンジャーの捕集液に捕集されたウイルスの量並びに人工飛沫の流量を対比することにより、評価対象の捕集材のウイルス捕集能力を算出することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス捕集材のウイルス捕集能力を評価する方法であって、
ウイルス含有人工飛沫を含む袋から、ブランク用及び評価用の各々の流路に前記人工飛沫を同時に送り、
ブランク用の流路に送られた前記人工飛沫を、捕集材が設置されていないブランク用の捕集材ホルダー、次いで、ブランク用のインピンジャーに通過させ、このとき、ブランク用のインピンジャーを通過する単位時間当たりの前記人工飛沫の流量を測定し、
評価用の流路に送られた前記人工飛沫を、評価対象のウイルス捕集材が設置された評価用の捕集材ホルダー、次いで、評価用のインピンジャーに通過させ、このとき、評価用のインピンジャーを通過する単位時間当たりの前記人工飛沫の流量を測定し、
評価用の捕集材ホルダー内には評価対象の捕集材が板状に敷き詰められるように設置されていて、前記人工飛沫は前記板状に敷き詰められた捕集材を通過するように構成されており、
前記ブランク用及び評価用のインピンジャーの各々には前記人工飛沫に含まれるウイルスを捕集できる捕集液が含まれ、前記各々のインピンジャーに送られた人工飛沫に含まれるウイルスのほぼ全量はこの捕集液に捕集され、
ブランク用及び評価用の各々の流路に同時に送られた前記人工飛沫の流量ならびに、ブランク用及び評価用の各々のインピンジャー内の捕集液に捕集されたウイルスの量の対比によって、評価対象の捕集材のウイルス捕集能力を算出する、
上記方法。
【請求項2】
ブランク用及び評価用の各々のインピンジャーを通過する前記人工飛沫の時間当たりの流量を同一にするよう調整することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ウイルス捕集材のウイルス捕集能力を評価するための装置であって、
ウイルス含有人工飛沫を含む袋と、
前記袋に各々接続され、前記人工飛沫が流れる、ブランク用及び評価用の各々の流路と、
ブランク用の流路に前記袋から近い順に設けられた、捕集材が設置されていないブランク用の捕集材ホルダー、及び、ブランク用のインピンジャーと、
ブランク用のインピンジャーを通過する単位時間当たりの前記人工飛沫の流量を測定できるブランク用のフローメータと、
評価用の流路に前記袋から近い順に設けられた、評価対象の捕集材を設置し得る評価用の捕集材ホルダー、及び、評価用のインピンジャーと、
評価用のインピンジャーを通過する単位時間当たりの前記人工飛沫の流量を測定できる評価用のフローメータと、を備え、
評価用の捕集材ホルダー内には評価対象の捕集材が板状に敷き詰められるように設置でき、そのように設置したときに前記人工飛沫は前記板状に敷き詰められた捕集材を通過するように構成されており、
前記ブランク用及び評価用のインピンジャーの各々には前記人工飛沫に含まれるウイルスを捕集できる捕集液が含まれ、前記各々のインヒビピンジャーに送られた人工飛沫に含まれるウイルスのほぼ全量はこれらの捕集液に捕集されるよう構成されており、
評価対象の捕集材のウイルス捕集能力は、ブランク用及び評価用の各々の流路に送られた前記人工飛沫の流量、ならびに、ブランク用及び評価用の各々のインピンジャー内の捕集液に捕集されたウイルスの量の対比によって算出される、
上記装置。
【請求項4】
ブランク用及び評価用の各々のインピンジャーを通過する前記人工飛沫の時間当たりの流量が同一になるように流量を調整する機構をさらに備える、請求項3記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス捕集材がもつウイルス捕集能力を評価する方法及び前記能力を評価する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは重大な疾患を引き起こす原因になり得るなど、除去が求められる場合がある。ウイルスの除去としては衛生マスクなどが挙げられるが、ウイルスを捕集する能力を持つ材料を活用することも考えられる。例えば、活性炭などの吸着材は広く化学物質の吸着に使用されている。微生物を用いた生物活性炭は水中の異物除去に使われている。ウイルス除去装置として、活性炭等を袋に詰めて容器に入れ、汚染空気を通して汚染物質を吸着除去することなどもあり得る。また、特許文献1のようなウイルス除去用フィルター及びそれを用いたマスクも提案されている。
【0003】
そういったウイルスを捕集する能力をもつ材料(以下、ウイルス捕集材と呼ぶ。)を利用するに際しては、そのウイルス捕集材がもつウイルス捕集の能力を知ることが有用である。ウイルス捕集能力の測定装置としては、濃縮試験装置が例示され、そういった装置では、ガラス容器などに吸着剤を充填して目的物質が捕集される。より具体的な例としては、空気を吸引して強制的に吸着剤に目的物質を濃縮するアクティブサンプラー、または吸着剤を環境中に放置して空気中の物質を選択吸着するパッシブサンプラーがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-120499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウイルス飛沫捕集効率試験としてはJIS T 9001に規定されるように、評価対象であるウイルス捕集材を設置したチャンバー内に、ウイルスを含むエアロゾルを圧縮空気によって通し、その際に、エアロゾルが前記ウイルス捕集材を通過させるようにすることで、ウイルス捕集材にウイルスを捕集させ、捕集しきれずに通過してしまったウイルスを培地に導いて、その培地にて培養することにより通過してしまったウイルスの割合を知る方法が提案されている。しかし、このような方法では、一定の段階で培地を回収して培養しなければならないため、ウイルスの捕集率の算出に時間を要するとともに、連続した測定を継続することが困難である。さらには、前記方法では、評価対象のウイルス捕集材を通さずにウイルスを培地に導くブランクの評価を別途行うことになり、さらに時間を要し、かつ、評価値の信頼性に疑問が生ずることになる。
【0006】
本発明は、容易かつ正確に捕集率を求めることができ、さらに、連続的に長時間の捕集材の評価試験を可能にするウイルス捕集材の評価方法及び評価装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、概略以下述べるような本発明を完成した。
【0008】
本発明では、ウイルス含有人工飛沫を含む袋を用意する。この袋から、ブランク用及び評価用の各々の流路へ同時に人工飛沫を送る。ブランク用の流路に送られた前記人工飛沫は、捕集材が設置されていないブランク用の捕集材ホルダー、次いで、ブランク用のインピンジャーを通過することになる。このとき、ブランク用のインピンジャーを通過する単位時間当たりの前記人工飛沫の流量を測定しておく。
【0009】
評価用の流路に送られた前記人工飛沫は、評価対象のウイルス捕集材が設置された評価用の捕集材ホルダー、次いで、評価用のインピンジャーを通過することになる。このとき、評価用のインピンジャーを通過する単位時間当たりの前記人工飛沫の流量を測定しておく。
【0010】
評価用の捕集材ホルダー内には評価対象の捕集材が板状に敷き詰められるように設置される。前記人工飛沫は前記板状に敷き詰められた捕集材を通過するように構成されている。
【0011】
ブランク用及び評価用のインピンジャーの各々には前記人工飛沫に含まれるウイルスを捕集できる捕集液が含まれる。前記各々のインピンジャーに送られた人工飛沫に含まれるウイルスのほぼ全量はこれらの捕集液に捕集される。
【0012】
ブランク用及び評価用の各々の流路に送られた前記人工飛沫の流量、ならびに、ブランク用及び評価用の各々のインピンジャー内の捕集液に捕集されたウイルスの量の対比によって、評価対象の捕集材のウイルス捕集能力が算出される。
【0013】
好ましくは、ブランク用及び評価用の各々のインピンジャーを通過する前記人工飛沫の時間当たりの流量が同一になるように調整される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インピンジャーにまで達したウイルスの量はほぼ全てが捕集液に捕集される。実験に用いる流路に直接に培地を設けるのとは異なり、インピンジャーに入れる捕集液を増やせば、捕集できるウイルスの量を容易に増やせるため、連続的に長時間の実験が可能である。また、実験が最終的に終了した後に、捕集液の一部を回収して培養することによってウイルス量を算出すればよいので、従来技術のように、培地を実験途中で交換する必要が無い点でも、本発明の優位性が見出せる。さらに、同一の袋に入った人工飛沫をブランクと評価用の流路に同時に流すことから、評価対象のウイルス捕集材とブランクとの実験条件を揃えやすく、また、評価対象のウイルス捕集材とブランクとの実験を同時に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の装置の模式図である。
図2】ウイルス捕集材の使用の一態様を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜、図面を参照しながら本発明を説明する。図面は説明のためのものであり、本発明の内容を限定するものではない。
本発明の方法及び装置は、ウイルス捕集材のウイルス捕集能力を評価するためのものである。評価対象のウイルス捕集材を後述するように本発明の装置に設置して、そのウイルス捕集能力を評価する。
【0017】
図1(A)は、本発明の装置の模式図である。
本発明の装置には、ウイルス含有人工飛沫を含む袋101が備えられる。ウイルス含有人工飛沫は、評価対象のウイルス捕集材が捕集すべきウイルスと同一又はそれを模したウイルスを人工飛沫に混合したものである。ウイルスとしてはバクテリオファージなどを用いることができ、人工飛沫については公知技術を適宜参照することができる。
【0018】
ウイルス含有人工飛沫を入れる袋101は、内容物の漏出や変質が生じなければ、形状や材質は特に限定は無い。この袋101に入れたウイルス含有人工飛沫を使い切ってしまうと連続的評価を中断せざるを得なくなるので、予定している評価時間に合わせて袋101の要領を適宜設定することができる。
【0019】
袋101からは後述するブランク用の捕集材ホルダー111及び評価用の捕集材ホルダー121へ同時にウイルス含有人工飛沫を送ることができるように配管されている。このように、同一の袋101からブランク用及び評価用の捕集材ホルダー111・121へ同時にウイルス含有人工飛沫を送ることにより、評価用とブランク用との実験条件を揃えやすくなり結果の正確性の向上が期待される。ウイルス含有人工飛沫は、袋101からブランク用の流路及び評価用の流路に分けて送られる。
【0020】
ブランク用の流路は袋101からブランク用の捕集材ホルダー111に続いている。捕集材ホルダー111は入口と出口を設けて内部を一方向にウイルス含有人工飛沫が通過するように構成された筒状体である。ブランク用の捕集材ホルダー111には後述する評価用の捕集材ホルダー121に設置される評価対象のウイルス捕集材132に代えてウイルスを捕集しない又は捕集数が明らかである部材を設けておいてもよい。
【0021】
ブランク用の捕集材ホルダー111を通過したウイルス含有人工飛沫はブランク用のインピンジャー112に送られる。インピンジャー112はウイルス捕集液を収容した容器であり、捕集材ホルダー111を通過したウイルス含有人工飛沫はインピンジャー112中のウイルス捕集液へ噴出される。ウイルス含有人工飛沫中のウイルスは捕集液に捕集され、ウイルスが除去された人工飛沫がインピンジャー112から送出される。インピンジャー112の構造などは従来公知のものを適宜用いることができる。インピンジャー112に含まれるウイルス捕集液は、使用するウイルス含有人工飛沫に含まれるウイルスを捕集し得るものであれば特に限定は無い。ウイルス含有人工飛沫中のウイルスは実質的には全てこのインピンジャー112内のウイルス捕集液に捕集されることを想定している。
【0022】
インピンジャー112から送出された人工飛沫の時間当たりの流量は、フローメータ113によって測定され、好ましくは流量が調節される。フローメータ113は、ブランク用の流路を通る人工飛沫の流量を測定するものである。上述の袋101から送出されてから、ブランク用の捕集材ホルダー111、次いで、ブランク用のインピンジャー112を経てフローメータ113にて流量が測定されるまでのブランク用の流路は、後述する評価用の流路とは独立している。
【0023】
上述したブランク用の流路と類似した別個の流路が評価用の流路として袋101から続いている。具体的には、袋101から評価用のウイルス捕集材ホルダー121、次いで、評価用のインピンジャー122を経てフローメータ123に通じている。評価用の流路は、評価用のウイルス捕集材ホルダー121の構成以外は、上述したブランク用の流路におけるものと同様である。
【0024】
評価用のウイルス捕集材ホルダー121には、評価対象のウイルス捕集材が設置される。ウイルス捕集材の設置方法については、ウイルス含有人工飛沫がウイルス捕集材を通過するように構成されていればよい。非限定的な例として図1を参照すると、評価用の捕集材ホルダー121に、中央に切り抜きをもつ挟み板131を挟み入れ、挟み板の空間に捕集材を入れている。図1(B)は、図1(A)のX-X’断面図であり、ウイルス捕集材付近の様子が描写されている。捕集材ホルダー121の下部中央に布を敷いて挟み板131を乗せ、評価対象であるウイルス捕集材132を充填し、さらに、充填したウイルス捕集材132の上にも布を被せ、その上に捕集材ホルダー121の上部を乗せて4方をクリップで挟む形態が提案される。この形態の寸法などのより詳細な内容は後述の実施例を参照することができる。
【0025】
このようにして、評価用のウイルス捕集材ホルダー121に設置した評価対象のウイルス捕集材によって、流されるウイルス含有人工飛沫に含まれるウイルスの一部又は全部が捕集される。捕集し切れなかったウイルスは評価用のインピンジャー122内のウイルス捕集液に捕集される。
【0026】
インピンジャー122から送出された人工飛沫(ウイルスが除去されたもの)の時間当たりの流量は、フローメータ123によって測定され、好ましくは流量が調節される。上述の袋101から送出されてから、評価用の捕集材ホルダー121、次いで、評価用のインピンジャー122を経てフローメータ123にて流量が測定されるまでの評価用の流路は、前述したブランク用の流路とは独立している。
【0027】
好ましくは、ブランク用及び評価用のフローメータ113・123で測定される単位時間あたりの流量が実質的に同一になるように、各流路でのウイルス含有人工飛沫の流量が調節される。
【0028】
ウイルス含有人工飛沫を上述のように流す駆動力は特に限定なく、例えば、吸引ポンプ102を利用することができる。全体の流量を測定・調節するために、吸引ポンプ102の出口に流量測定用のフローメータ103が好ましくは接続される。
【0029】
上記説明した装置を用いて、ウイルス捕集材を評価する。単一の袋101から創出される同じウイルス含有人工飛沫を用いて、ブランク用及び評価用のインピンジャー112・122には同じウイルス捕集液が用いられるから、ブランク用及び評価用の流路へのウイルス含有人工飛沫の流量が同じである場合には、各ウイルス捕集液に捕集されたウイルスの量を対比することにより、ウイルス捕集材132によって捕集されたウイルスの量を算出することができる。
【0030】
次善的な実施態様によれば、ブランク用及び評価用の流路へのウイルス含有人工飛沫の流量が異なっていても、それらの流量を測定しておいて、それら流量の相違に基づく補正を施すことにより、ウイルス捕集材132によって捕集されたウイルスの量を算出することができる。例えば、ブランク用のフローメータ113では評価用のフローメータ123よりも10%多くの流量が観測されていたのであれば、流れたウイルスの量も10%多かったと見積もることができるから、各インピンジャー112・122内のウイルス捕集液に捕集されたウイルス量の対比の際に前記見積もりに基づく補正を施すことによって、ウイルス捕集材132によって捕集されたウイルス量を算出することができる。具体的な算出の例については、後述の実施例を非限定的に参照することができる。
【0031】
各インピンジャー112・122内のウイルス捕集液に捕集されたウイルスの量の測定は、例えば、前記ウイルス捕集液を定量採取して培地などでウイルスを培養し、それによって得られるプラーク数を数えることなど、ウイルスの定量評価に関する公知技術を適宜参照することができる。
【0032】
本発明によれば、用いる袋101を十分に大容量にして、かつ、各インピンジャー112・122に入れるウイルス捕集液も十分な量を用意しておくことにより、連続的に長時間の評価試験を実施することができる。
【0033】
なお、ウイルス捕集材については、布などといった通気性を持つ収容具に入れて種々の用途に供することができる。図2は、ウイルス捕集材の使用の一態様を表す説明図である。ウイルス捕集袋200は、ガーゼ204を袋状に構成し、その袋の中にウイルス捕集材201を入れる。ウイルス捕集材としては各種材料からなる炭などが想定される。ガーゼ204からなる袋の内部で捕集材201が移動して偏りが生じるのを防ぐために、前記袋には仕切りの縫製を施すことが好ましい。捕集材201の漏れ対策として、綿シート202を、接着剤203を介してガーゼ204からなる袋に接着することも好ましい。
【実施例0034】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【0035】
本発明のウイルス捕集試験装置を製作し、T4バクテリオファージをウイルスの指標として捕集実験を行った。
【0036】
1.ファージ含有人工飛沫捕集試験装置
ウイルス捕集材の能力を評価するための装置としての、ファージ含有人工飛沫捕集試験装置を図1に示す。図1(A)に示すように、ビニール製で容量約500Lのファージ含有人工飛沫袋101から捕集材ホルダーへ人工飛沫を送り込む。捕集部分の捕集材ホルダーは、符号111及び121のように、並列に2台設置した。これらのうち、符号111の捕集材ホルダーは捕集材を設けないブランク用であり、符号121の捕集材ホルダーには評価対象の捕集材を設けた。それぞれの捕集材ホルダー111・121の後にインピンジャー112・122と流量調整用のフローメータ113・123が続く。これら2台のフローメータの出口は合流して、吸引ポンプ102に接続、ポンプ102の出口に流量測定用のフローメータ103を接続した。
【0037】
袋101は、市販の透明ビニール袋の入り口を粘着テープで密閉し、その一端はファージ含有人工飛沫を噴霧するための入口とし、両端にはウイルス含有人工飛沫としてのファージ含有人工飛沫を捕集材ホルダー111・121に導くためのアダプターを付け、捕集材ホルダーとはシリコンチューブ(内径15mm)で接続した。捕集材ホルダー111・121から吸引ポンプ102の出口の先にあるフローメータ103までの接続は、内径9mmのシリコンチューブを用いた。捕集材ホルダー111・121は厚さ5mmのアクリル板を裁断して組み立てた。
【0038】
ファージ含有人工飛沫空気が通過する捕集材ホルダー111・121の断面は、一辺が80mmの正方形である。試験時には捕集材ホルダー上部と下部の間に厚さ5mmの一辺が120mmの正方形のアクリル板からなり中央に一辺80mmの正方形を切り抜いた挟み板131を挟み入れ、挟み板の空間に捕集材が入るようにした。図1(B)は、図1(A)のX-X’断面図であり、捕集材付近の様子が描写されている。捕集材ホルダー下部中央の一辺が80mmの正方形部分は、網目状に切り取り、ファージ含有人工飛沫空気が通りやすくしてある。そこに布を敷いて挟み板131を乗せ、評価対象である捕集材132を充填した。充填した捕集材の上にも布を被せ、その上に捕集材ホルダー上部を乗せて4方をクリップで挟んで3枚の板の隙間から外部の空気が入らないように密着した。
【0039】
捕集材ホルダー121のうち、捕集材132より上部の容積は、入ってきたファージ含有人工飛沫が均一になるように下部より大きくした。捕集材ホルダー111・121に続くインピンジャー112・122は容量500mLのものを使用した。フローメータ113・123は最大20L/minのものを用いた。
【0040】
2.ファージ含有人工飛沫捕集試験操作
準備段階において、ファージ含有人工飛沫は空気を充填したビニール袋101にファージ液(前もって培養、作成したLB培地液、5mLまたは10mL)を噴霧器(約5μmの人工飛沫を約0.8mL/minで噴霧)で噴霧して作成した。インピンジャー112・122には、高圧滅菌処理した燐酸緩衝液生理食塩水(PBS-)pH7.4を300mL入れた。PBS-はリン酸水素二ナトリウム1.44g、リン酸二水素カリウム0.24g及び塩化ナトリウム8gを水に溶解して1Lとしたものである。2台の捕集材ホルダーのうち1台(捕集材ホルダー121)に捕集材を充填した。もう一方の捕集材ホルダー111には、捕集材を充填しないブランクの捕集材ホルダーとしている。各捕集材ホルダー111・121とインピンジャー112・122を接続して、実験準備が終了した後に袋101の2か所に2台の捕集材ホルダー111・121から延びるシリコンチューブを接続して吸引ポンプ102を作動した。装置の運転開始とともにストップウォッチをスタートして吸引時間を計った。吸引中にインピンジャー後部の流量が同じになるようにフローメータ113・123の流量を調整した。吸引ポンプ出口のフローメータ103で、2流路の合計吸引流量を20L/minにセットして袋101の内部のファージ含有人工飛沫空気がなくなるまで25~30分間の吸引を行った。
【0041】
なお、袋101の内部のファージ含有人工飛沫の浮遊状態を調べるためにブランクの捕集材ホルダー111に続くインピンジャー112にて捕集実験を行ったところ、10L/minの吸引において約30分間はファージ数の増加が続いた。この実験結果からファージ含有人工飛沫は少なくとも30分間は袋内に浮遊し続けることが確認できた。また、インピンジャーのバブリングによる人工飛沫捕集性能を調べるために2本のインピンジャーにPBS-を300mLずつ入れ、直列につなげてブランク捕集を行った。その結果、2本目に捕集されたファージ数は、1本目のファージ数の1%未満と少なかった。また、ファージ数の有効桁数を2桁としたので、2本目のインピンジャーの捕集ファージ数を無視できるとしてインピンジャーは各1本ずつとした。
【0042】
3.バクテリオファージを用いたファージ数測定方法
バクテリオファージは大腸菌を特異的に溶菌するT4ファージと大腸菌を日本微生物協会から購入して用いた。大腸菌及びファージは、購入時の保存用の密閉ガラスチューブを開封し、PBS-に溶解した。この大腸菌液をLB液体培地に添加して37℃、約20時間培養した。培養液には0.1%のDMSOを加え、1mLずつマイクロチューブに分注して-30℃に冷凍保存した。ファージ液は、前もってLB液体培地で培養した大腸菌液にファージを添加して37℃、約20時間培養した後、4000rpmで遠心分離し、0.45μmメンブレンフィルターでろ過して大腸菌を分離除去したLB培地液である。このファージ液に0.1%のDMSOを加え、5mLもしくは10mLずつ滅菌済チューブに分注して-30℃に冷凍保存した。これらは使用の都度、必要本数を解凍して用いた。
【0043】
ファージ捕集実験でインピンジャーに捕集されたPBS-捕集液の一部を直接採取し、またはこれをPBS-で希釈することによって、ファージ数算定用の試料(各1.0mL)を得た。これらの試料に同量(1.0mL)の大腸菌培養液を加えた。この大腸菌培養液は、試験当日、冷凍保存した大腸菌を解凍してLB液体培地に0.2mL添加後、約4時間培養したLB培地培養液である。このファージと大腸菌の混合液を37℃、約30分間反応させた後、そのうちの1mLを半流動LB寒天培地9mLに加え、転倒混和し、前もって作成しておいたLB寒天培地に重層、約20時間培養後のプラーク数(ファージ数に相当)を算定した。前記半流動LB寒天培地は、下記(3)の培地を作成して13mLの蓋つきプラスチックチューブに9mLずつ分注した後に高圧滅菌処理、使用時に100℃で溶解したものを45℃の恒温槽に入れ、保温して流動性を保持したものである。インピンジャーに捕集されたファージ数は、下記の1)式から算出した。また、捕集材へのファージの捕集数や捕集率は、捕集材が入っていないブランク捕集のファージ数を算定して2)、3)式により算出した。
【0044】
LB培地については、以下のものを用いた。
(1)LB液体培地:水1L中に、Tryptoneを10g、Yeast Extractを5g、NaClを5g含む。
(2)LB寒天培地:1LのLB液体培地に15gの精製寒天を加えたもの
(3)LB半流動培地:1LのLB液体培地に3gの精製寒天を加えたもの
【0045】
ファージ数の算出:
ファージ数=P/0.5mL×2×M×L ・・・1)式
但し、Pはプラーク数であり、Mは希釈倍数であり、LはPBS-捕集液量(mL)である。「0.5mL」は、ファージ数測定においてPBS-捕集液から分取した量であり、必要に応じて希釈倍数(M)は10倍または100倍にした。
【0046】
捕集材へのファージ(ウイルス)捕集数の算出:
捕集数=NB-NT ・・・2)式
但し、NBはブランクのファージ数であり、NTは捕集材透過後のファージ数である。
【0047】
捕集材への捕集率の算出:
捕集率(%)=(捕集数/NB)×100(%) ・・・3)式
但し、「捕集数」は上記2)式で算出される数であり、NBはブランクのファージ数である。
【0048】
ファージ含有人工飛沫袋101内のファージ数は、同一ファージ液を同量噴霧しても噴霧時の噴霧器の作動状況や噴霧作業にばらつきが出てしまうため、繰り返し試験において同一になることはほとんどない。これらの不安定要素を解消するために袋の2か所から捕集材ホルダーのブランク用と捕集用の2か所へ同時吸引している。ファージ含有人工飛沫はブランク捕集と捕集材を充填したホルダーの2方向に同量流れるので、ブランク捕集で算定されるファージ数は、ファージ含有人工飛沫の入った袋の約1/2容積に浮遊していたファージ数に相当する。なお、本装置で検出できる最小ファージ数は、インピンジャーの捕集液量に制限されるため1)式から求められるPBS-捕集液量300mLのときの600が検出限界となる。
【0049】
4.各捕集材の評価
以上概括したファージ含有人工飛沫捕集試験装置を用いて、いくつかの捕集材候補について評価した。
ウイルスの大きさは、17nmから1500nmであると言われている。今回用いたファージの大きさは約200nmであり、新型コロナウイルスは同様に約100nmである。人が排出する浮遊飛沫の大きさは3~5μmであり、今回用いたファージの人工飛沫と類似した大きさである。すなわち、実験で用いたファージ含有人工飛沫が実験で用いた捕集材に捕集できれば、人から出る飛沫を捕集できることになり、そこに潜む新型コロナウイルスも捕集できると考えた。
【0050】
4-1.活性炭による捕集
活性炭は、従来化学物質を吸着するために開発されているので、細孔が小さく、粉末状の物が多い。今回、用いた活性炭はファージの捕集を目的とするので、細孔ができるだけ大きいもの、また、マスクとして利用する場合には包布に用いるガーゼなどの布目から抜け出ない大きさであることが必要条件である。今回はいくつかの活性炭の捕集能力を評価した。使用した活性炭の物性と評価結果は以下のとおりである。「ブランク捕集数」は、ブランク捕集によるインピンジャー捕集液300mL中のファージ数である。
【0051】
【0052】
活性炭の粒径は、活性炭Kの微粉末を除いて粒径が0.34~1.7mmの比較的大きいものである。粒径が大きすぎると一部のファージ含有人工飛沫は、粒子間の間隙を透過すると考えられ、捕集率が低くなった。細孔径は、最大330nmであり、ファージは侵入できるが、いずれの活性炭であってもファージ含有人工飛沫が細孔に侵入する可能性は低い。したがって、活性炭による捕集率は、主に表面付着と粒子間の間隙への付着によると考えられた。特に捕集率が高かった活性炭Kは、微粉末であるため、ファージ含有人工飛沫空気の通気性が悪くなると推定される。通気性が悪くなることによりファージ含有人工飛沫は、粒子間の間隙を透過しにくくなり、間隙に捕集されやすくなったと考えられた。
【0053】
4-2.粉砕木炭による捕集
木炭は、なら、松、杉、竹、マングローブを原木として燃料用に炭化処理されたものを対象とした。これらの木炭を粉砕して粒径が0.1~0.3mm、0.3~0.6mm、0.6~1mmの3段階の大きさに篩分別したものを試験対象とした。使用した木炭の物性と評価結果は以下のとおりである。「ブランク捕集数」は、ブランク捕集によるインピンジャー捕集液300mL中のファージ数である。
【0054】
【0055】
90%以上の高い捕集率が杉、松およびならの粒径0.1~0.3mmの粉砕木炭に認められた。これらの捕集率は、同じ体積での数値である。杉を原木とする粉砕木炭は、密度が極めて小さいため、最も少ない質量で大きな捕集効果を示した。また、杉、松、ならの粉砕木炭では粒径が小さいほど捕集率が高く,大きくなると捕集率が低くなる傾向がみられた。このことは粒径が大きくなると粒子間の空隙が大きくなるため、ファージ含有人工飛沫は空隙を透過すると考えられた。一方、竹およびマングローブの粉砕木炭では、捕集率は約70%以下と低かった。マングローブの粒径が1.0~2.0mmの粉砕木炭の捕集試験を行ったところ、ファージ含有人工飛沫は、まったく捕集されなかった。粒径が1mm以上の大きい場合は、粒子間の間隙も大きくなりファージ含有人工飛沫のほとんどが透過すると考えられた。
図1
図2