(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166276
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】ウイルス捕集材及びその用途
(51)【国際特許分類】
B01J 20/20 20060101AFI20231114BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20231114BHJP
A41D 13/11 20060101ALI20231114BHJP
A61L 9/16 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
B01J20/20 A
A62B18/02 C
A41D13/11 Z
A61L9/16 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077210
(22)【出願日】2022-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】391022614
【氏名又は名称】学校法人幾徳学園
(74)【代理人】
【識別番号】100119378
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】吉野 秀吉
(72)【発明者】
【氏名】小川 正之
(72)【発明者】
【氏名】高村 岳樹
【テーマコード(参考)】
2E185
4C180
4G066
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185BA20
2E185CB11
4C180AA07
4C180CC04
4C180CC15
4C180DD09
4C180EA13X
4C180EA14X
4G066AA04B
4G066AC02A
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA36
4G066CA01
4G066DA03
(57)【要約】
【課題】通気性とウイルス捕集能力とが両立し、ウイルス捕集能力をより長い時間にわたって維持し得るウイルス捕集材及びそれを用いた種々の応用を提供すること。
【解決手段】杉、松又はならを焼いた木炭を粉砕した粒径0.1~0.3mmの粉砕木炭からなるウイルス捕集材、ならびに、それを用いた衛生マスク、ウイルス捕集袋、ウイルス除去装置及びエアーサンプラー
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
杉、松又はならを焼いた木炭を粉砕した粒径0.1~0.3mmの粉砕木炭からなるウイルス捕集材。
【請求項2】
ヒトの口及鼻を覆うことができる形状のマスク本体部とマスク本体部から延びた耳掛け部とを有し、マスク本体部には請求項1記載のウイルス捕集材が含まれる、衛生マスク。
【請求項3】
通気性のある布帛からなる袋状体に請求項1記載のウイルス捕集材が充填されてなる、ウイルス捕集袋。
【請求項4】
処理対象の空気を吸い込む空気吸引装置と、空気吸引装置によって吸い込まれた空気が通過するよう構成されたフィルターとを有し、フィルターには請求項1記載のウイルス捕集材が含まれる、ウイルス除去装置。
【請求項5】
被検対象の空気に含まれ得るウイルスの種類又はその濃度を測定するために、被検対象の空気に含まれ得るウイルスを捕集するエアーサンプラーであって、請求項1記載のウイルス捕集材を含むウイルス捕集部を有する、エアーサンプラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス捕集材ならびにそれを用いた衛生マスク、ウイルス捕集袋、ウイルス除去装置及びエアーサンプラーに関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは重大な疾患を引き起こす原因になり得るなど、除去が求められる場合がある。ウイルスの除去としては不織布を用いた衛生マスクなどが挙げられる。部屋全体の空気中に含まれるウイルスの低減・除去を目的として、へパフィルター類似の除去装置が採用されている。また、特許文献1のようなウイルス除去用フィルター及びそれを用いたマスクも提案されている。
【0003】
これらとは別に、ウイルスの除去そのものを目的とするわけではなく、環境中の化学物質の種類や量を調査するために、測定環境下で化学物質を捕集することがあり、エアーサンプラーと呼ばれる装置が用いられる。エアーサンプラーでは、ガラス容器などに吸着剤を充填して目的物質が捕集される。より具体的な例としては、空気を吸引して強制的に吸着剤に目的物質を濃縮するアクティブサンプラー、または吸着剤を環境中に放置して空気中の物質を選択吸着するパッシブサンプラーがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のマスクなどにおいては、ウイルス飛まつ捕集効率(VFE)の規格に応じたウイルス捕集能力は担保されている。しかし、汎用されている不織布マスクは空気を通しにくくマスク周辺からの空気の流出入が生じウイルス感染対策として改善の余地がある。また、薬剤塗布マスクや接着剤マスクはウイルス処理・捕集効果の持続時間が長いとは言い難い。
【0006】
本発明は、通気性とウイルス捕集能力とが両立し、ウイルス捕集能力をより長い時間にわたって維持し得るウイルス捕集材及びそれを用いた種々の応用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、概略以下述べるような本発明を完成した。
【0008】
本発明のウイルス捕集材は、杉、松又はなら(楢)を焼いた木炭を粉砕して得られる粒径0.1~0.3mmの粉砕木炭からなる。この粉末木炭はウイルスを捕集すべき種々の用途に用いることができる。好適な用途としては、衛生マスク、ウイルス除去装置、エアーサンプラーなどが挙げられる。好ましくは、通気性のある布帛からなる袋状体にこの粉末木炭を充填してなるウイルス捕集袋の形態にすることで、取り扱いが容易になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、通気性とウイルス捕集能力が両立したウイルス捕集材が提供され、それを用いた種々の応用用途も併せて提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】ウイルスの捕集能力を測定する装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のウイルス捕集材は、杉、松又はならを焼いた木炭からなる。木炭については燃料用の木炭を適宜使用することができる。高温処理でできるいわゆる白炭は硬いので粉砕がやや困難であるから、木炭としては、いわゆる黒炭の状態であるものが粉砕の容易さの点で好ましい。なお、白炭、黒炭などの規格は、一般社団法人全国燃料協会が詳細を定めていて、本発明でもその規格にしたがうことが可能である。
【0012】
後述する実施例に紹介するとおり、本発明者らは、種々の原料からなる炭を評価したが、杉、松及びならのウイルス捕集能力が優れていた。ウイルス捕集能力の測定方法は特に限定は無く、後述の実施例を参照することもできる。
【0013】
本発明のウイルス捕集は、粒径が0.1~0.3mmである。本発明では、粉砕した木炭の粒径は、篩い分けによって測定される。篩の標準についてはJIS Z 8801を参照することができる。粒径が上記範囲内であれば空隙が多くなり、十分な通気性が期待される。
【0014】
木炭を上記の粒径にまで粉砕する手法については特に限定は無く、例えば、切断、クラッシャー等による粗破砕の後、ウオームミルにより粉砕して異なるメッシュの篩を重ねた電動篩器で目的の大きさを分別するといった手法によって木炭を粉砕して、上述した篩い分けによって上述の粒径の範囲のものを得ることができる。
【0015】
本発明で捕集すべきウイルスは特に限定は無く、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、ロタウイルス、ノロウイルスなど呼吸器などへ飛沫として取り込まれるものなどが非限定的に例示される。
【0016】
本発明のウイルス捕集材は、好ましくは、ウイルス捕集袋の形態で用いられる。
図1は、本発明のウイルス捕集袋の説明図である。ウイルス捕集袋100は、ガーゼ104を袋状に構成し、その袋の中に上述したウイルス捕集材101を入れる。ガーゼ104は、捕集材を通過させないが、空気を通過させる程度の通気性を備えることが好ましい。101ガーゼ104からなる袋状体の内部で捕集材101が移動して偏りが生じるのを防ぐために、この袋状体には仕切りの縫製を施すことが好ましい。捕集材101の漏れ対策として、綿シート102を、接着剤103を介してガーゼ104からなる袋に付着させることも好ましい。
【0017】
本発明のウイルス捕集袋の用法は特に限定は無いが、使用法の非限定的な一例として、厚みの薄い板状に構成することで、種々の器具に装着してウイルス捕集フィルターとして用いることが挙げられる。より具体的には、このウイルス捕集袋をフィルターとして用いるウイルス除去装置を想定することができ、このウイルス除去装置は、空気吸引装置によって処理対象の空気を吸い込んで当該空気吸引装置に組み込んだウイルス捕集袋をフィルターで、吸い込んだ空気に含まれ得るウイルスを捕集して、その結果、ウイルスが除去された清浄空気を得る。
【0018】
本発明のウイルス捕集材の別の用途として、衛生マスクが挙げられる。衛生マスクは、着用するヒトの口及び鼻を覆うことができる形状のマスク本体部と、マスク本体部から延びてヒトの耳に掛ける耳掛け部とを備える。マスク本体部に本発明のウイルス捕集材を含ませることにより、ウイルス捕集材によってヒトに吸われる空気、及び、吐かれる息に含まれるウイルスが捕集され、結果として、ウイルスがヒトの体内に入りにくくなり、また、ヒトからウイルスが環境中に拡散しにくくなる。
【0019】
本発明のウイルス捕集材のさらに別の用途として、エアーサンプラーへの適用が挙げられる。エアーサンプラーは、ウイルス汚染に関する環境モニタリングをすべき区域の空気をサンプルとして採取するための装置であり、主としてパッシブサンプラー、アクティブサンプラーに大別することができる。
【0020】
エアーサンプラーは、ウイルス捕集部を有しており、そのウイルス捕集部に含まれるウイルス捕集材によって空気中のウイルスを捕集するものである。パッシブサンプラーは、測定すべき区域に設置して、能動的に空気を送りこむことをせずに、容器内に入った空気に含まれるウイルスを採取するものである。アクティブサンプラーは、測定すべき区域に設置して、能動的に空気を容器内に採り入れる機能を備えていて、入ってきた空気に含まれるウイルスを採取するものである。捕集したウイルスとともにウイルス捕集材を回収して、ウイルスの種類や濃度が測定される。エアーサンプラーの構造や使用法は従来技術を適宜参照することができる。本発明のウイルス捕集材をエアーサンプラーに用いることにより、空気中のウイルスを効率よく捕集できることから、ウイルスの種類や濃度の測定の迅速化や正確性の向上を図ることができる。
【実施例0021】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【0022】
まず、各種ウイルス捕集材のウイルス捕集試験装置の製作及び、T4バクテリオファージをウイルスの指標とする捕集実験について説明する。
【0023】
1.ファージ含有人工飛沫捕集試験装置
ウイルス捕集材の能力を評価するための装置としての、ファージ含有人工飛沫捕集試験装置を
図2に示す。
図2(A)に示すように、ビニール製で容量約500Lのファージ含有人工飛沫袋201から捕集材ホルダーへ人工飛沫を送り込む。捕集部分の捕集材ホルダーは、符号211及び221のように、並列に2台設置した。これらのうち、符号211の捕集材ホルダーは捕集材を設けないブランク用であり、符号221の捕集材ホルダーには評価対象の捕集材を設けた。それぞれの捕集材ホルダー211・221の後にインピンジャー212・222と流量調整用のフローメータ213・223が続く。これら2台のフローメータの出口は合流して、吸引ポンプ202に接続、ポンプ202の出口に流量測定用のフローメータ203を接続した。
【0024】
袋201は、市販の透明ビニール袋の入り口を粘着テープで密閉し、その一端はファージ含有人工飛沫を噴霧するための入口とし、両端にはウイルス含有人工飛沫としてのファージ含有人工飛沫を捕集材ホルダー211・221に導くためのアダプターを付け、捕集材ホルダーとはシリコンチューブ(内径15mm)で接続した。捕集材ホルダー211・221から吸引ポンプ202の出口の先にあるフローメータ203までの接続は、内径9mmのシリコンチューブを用いた。捕集材ホルダー211・221は厚さ5mmのアクリル板を裁断して組み立てた。
【0025】
ファージ含有人工飛沫空気が通過する捕集材ホルダー211・221の断面は、一辺が80mmの正方形である。試験時には捕集材ホルダー上部と下部の間に厚さ5mmの一辺が120mmの正方形のアクリル板からなり中央に一辺80mmの正方形を切り抜いた挟み板131を挟み入れ、挟み板の空間に捕集材が入るようにした。
図2(B)は、
図2(A)のX-X’断面図であり、捕集材付近の様子が描写されている。捕集材ホルダー下部中央の一辺が80mmの正方形部分は、網目状に切り取り、ファージ含有人工飛沫空気が通りやすくしてある。そこに布を敷いて挟み板231を乗せ、評価対象である捕集材232を充填した。充填した捕集材の上にも布を被せ、その上に捕集材ホルダー上部を乗せて4方をクリップで挟んで3枚の板の隙間から外部の空気が入らないように密着した。
【0026】
捕集材ホルダー221のうち、捕集材232より上部の容積は、入ってきたファージ含有人工飛沫が均一になるように下部より大きくした。捕集材ホルダー211・221に続くインピンジャー212・222は容量500mLのものを使用した。フローメータ113・223は最大20L/minのものを用いた。
【0027】
2.ファージ含有人工飛沫捕集試験操作
準備段階において、ファージ含有人工飛沫は空気を充填したビニール袋201にファージ液(前もって培養、作成したLB培地液、5mLまたは10mL)を噴霧器(約5μmの人工飛沫を約0.8mL/minで噴霧)で噴霧して作成した。インピンジャー212・222には、高圧滅菌処理した燐酸緩衝液生理食塩水(PBS-)pH7.4を300mL入れた。PBS-はリン酸水素二ナトリウム1.44g、リン酸二水素カリウム0.24g及び塩化ナトリウム8gを水に溶解して1Lとしたものである。2台の捕集材ホルダーのうち1台(捕集材ホルダー221)に捕集材を充填した。もう一方の捕集材ホルダー211には、捕集材を充填しないブランクの捕集材ホルダーとしている。各捕集材ホルダー211・221とインピンジャー212・222を接続して、実験準備が終了した後に袋201の2か所に2台の捕集材ホルダー211・121から延びるシリコンチューブを接続して吸引ポンプ202を作動した。装置の運転開始とともにストップウォッチをスタートして吸引時間を計った。吸引中にインピンジャー後部の流量が同じになるようにフローメータ213・223の流量を調整した。吸引ポンプ出口のフローメータ203で、2流路の合計吸引流量を20L/minにセットして袋201の内部のファージ含有人工飛沫空気がなくなるまで25~30分間の吸引を行った。
【0028】
なお、袋201の内部のファージ含有人工飛沫の浮遊状態を調べるためにブランクの捕集材ホルダー211に続くインピンジャー212にて捕集実験を行ったところ、10L/minの吸引において約30分間はファージ数の増加が続いた。この実験結果からファージ含有人工飛沫は少なくとも30分間は袋内に浮遊し続けることが確認できた。また、インピンジャーのバブリングによる人工飛沫捕集性能を調べるために2本のインピンジャーにPBS-を300mLずつ入れ、直列につなげてブランク捕集を行った。その結果、2本目に捕集されたファージ数は、1本目のファージ数の1%未満と少なかった。また、ファージ数の有効桁数を2桁としたので、2本目のインピンジャーの捕集ファージ数を無視できるとしてインピンジャーは各1本ずつとした。
【0029】
3.バクテリオファージを用いたファージ数測定方法
バクテリオファージは大腸菌を特異的に溶菌するT4ファージと大腸菌を日本微生物協会から購入して用いた。大腸菌及びファージは、購入時の保存用の密閉ガラスチューブを開封し、PBS-に溶解した。この大腸菌液をLB液体培地に添加して37℃、約20時間培養した。培養液には0.1%のDMSOを加え、1mLずつマイクロチューブに分注して-30℃に冷凍保存した。ファージ液は、前もってLB液体培地で培養した大腸菌液にファージを添加して37℃、約20時間培養した後、4000rpmで遠心分離し、0.45μmメンブレンフィルターでろ過して大腸菌を分離除去したLB培地液である。このファージ液に0.1%のDMSOを加え、5mLもしくは10mLずつ滅菌済チューブに分注して-30℃に冷凍保存した。これらは使用の都度、必要本数を解凍して用いた。
【0030】
ファージ捕集実験でインピンジャーに捕集されたPBS-捕集液の一部を直接採取し、またはこれをPBS-で希釈することによって、ファージ数算定用の試料(各1.0mL)を得た。これらの試料に同量(1.0mL)の大腸菌培養液を加えた。この大腸菌培養液は、試験当日、冷凍保存した大腸菌を解凍してLB液体培地に0.2mL添加後、約4時間培養したLB培地培養液である。このファージと大腸菌の混合液を37℃、約30分間反応させた後、そのうちの1mLを半流動LB寒天培地9mLに加え、転倒混和し、前もって作成しておいたLB寒天培地に重層、約20時間培養後のプラーク数(ファージ数に相当)を算定した。前記半流動LB寒天培地は、下記(3)の培地を作成して13mLの蓋つきプラスチックチューブに9mLずつ分注した後に高圧滅菌処理、使用時に100℃で溶解したものを45℃の恒温槽に入れ、保温して流動性を保持したものである。インピンジャーに捕集されたファージ数は、下記の1)式から算出した。また、捕集材へのファージの捕集数や捕集率は、捕集材が入っていないブランク捕集のファージ数を算定して2)、3)式により算出した。
【0031】
LB培地については、以下のものを用いた。
(1)LB液体培地:水1L中に、Tryptoneを10g、Yeast Extractを5g、NaClを5g含む。
(2)LB寒天培地:1LのLB液体培地に15gの精製寒天を加えたもの
(3)LB半流動培地:1LのLB液体培地に3gの精製寒天を加えたもの
【0032】
ファージ数の算出:
ファージ数=P/0.5mL×2×M×L ・・・1)式
但し、Pはプラーク数であり、Mは希釈倍数であり、LはPBS-捕集液量(mL)である。「0.5mL」は、ファージ数測定においてPBS-捕集液から分取した量であり、必要に応じて希釈倍数(M)は10倍または100倍にした。
【0033】
捕集材へのファージ(ウイルス)捕集数の算出:
捕集数=NB-NT ・・・2)式
但し、NBはブランクのファージ数であり、NTは捕集材透過後のファージ数である。
【0034】
捕集材への捕集率の算出:
捕集率(%)=(捕集数/NB)×100(%) ・・・3)式
但し、「捕集数」は上記2)式で算出される数であり、NBはブランクのファージ数である。
【0035】
ファージ含有人工飛沫袋201内のファージ数は、同一ファージ液を同量噴霧しても噴霧時の噴霧器の作動状況や噴霧作業にばらつきが出てしまうため、繰り返し試験において同一になることはほとんどない。これらの不安定要素を解消するために袋の2か所から捕集材ホルダーのブランク用と捕集用の2か所へ同時吸引している。ファージ含有人工飛沫はブランク捕集と捕集材を充填したホルダーの2方向に同量流れるので、ブランク捕集で算定されるファージ数は、ファージ含有人工飛沫の入った袋の約1/2容積に浮遊していたファージ数に相当する。なお、本装置で検出できる最小ファージ数は、インピンジャーの捕集液量に制限されるため1)式から求められるPBS-捕集液量300mLのときの600が検出限界となる。
【0036】
4.各捕集材の評価
以上概括したファージ含有人工飛沫捕集試験装置を用いて、いくつかの捕集材候補について評価した。
ウイルスの大きさは、17nmから1500nmであると言われている。今回用いたファージの大きさは約200nmであり、新型コロナウイルスは同様に約100nmである。人が排出する浮遊飛沫の大きさは3~5μmであり、今回用いたファージの人工飛沫と類似した大きさである。すなわち、実験で用いたファージ含有人工飛沫が実験で用いた捕集材に捕集できれば、人から出る飛沫を捕集できることになり、そこに潜む新型コロナウイルスも捕集できると考えた。
【0037】
4-1.活性炭による捕集
活性炭は、従来化学物質を吸着するために開発されているので、細孔が小さく、粉末状の物が多い。今回、用いた活性炭はファージの捕集を目的とするので、細孔ができるだけ大きいもの、また、マスクとして利用する場合には包布に用いるガーゼなどの布目から抜け出ない大きさであることが必要条件である。今回はいくつかの活性炭の捕集能力を評価した。使用した活性炭の物性と評価結果は以下のとおりである。「ブランク捕集数」は、ブランク捕集によるインピンジャー捕集液300mL中のファージ数である。
【0038】
【0039】
活性炭の粒径は、活性炭Kの微粉末を除いて粒径が0.34~1.7mmの比較的大きいものである。粒径が大きすぎると一部のファージ含有人工飛沫は、粒子間の間隙を透過すると考えられ、捕集率が低くなった。細孔径は、最大330nmであり、ファージは侵入できるが、いずれの活性炭であってもファージ含有人工飛沫が細孔に侵入する可能性は低い。したがって、活性炭による捕集率は、主に表面付着と粒子間の間隙への付着によると考えられた。特に捕集率が高かった活性炭Kは、微粉末であるため、ファージ含有人工飛沫空気の通気性が悪くなると推定される。通気性が悪くなることによりファージ含有人工飛沫は、粒子間の間隙を透過しにくくなり、間隙に捕集されやすくなったと考えられた。活性炭Kについては、高いウイルス捕集率を呈したが、粒径が著しく小さいことから高い通気性を期待できず、実用に際して好適であるとは言い難い。
【0040】
4-2.粉砕木炭による捕集
木炭は、なら、松、杉、竹、マングローブを原木として燃料用に炭化処理されたものを対象とした。これらの木炭を粉砕して粒径が0.1~0.3mm、0.3~0.6mm、0.6~1mmの3段階の大きさに篩分別したものを試験対象とした。使用した木炭の物性と評価結果は以下のとおりである。「ブランク捕集数」は、ブランク捕集によるインピンジャー捕集液300mL中のファージ数である。
【0041】
【0042】
90%以上の高い捕集率が杉、松およびならの粒径0.1~0.3mmの粉砕木炭に認められた。これらの捕集率は、同じ体積での数値である。杉を原木とする粉砕木炭は、密度が極めて小さいため、最も少ない質量で大きな捕集効果を示した。また、杉、松、ならの粉砕木炭では粒径が小さいほど捕集率が高く,大きくなると捕集率が低くなる傾向がみられた。このことは粒径が大きくなると粒子間の空隙が大きくなるため、ファージ含有人工飛沫は空隙を透過すると考えられた。一方、竹およびマングローブの粉砕木炭では、捕集率は約70%以下と低かった。マングローブの粒径が1.0~2.0mmの粉砕木炭の捕集試験を行ったところ、ファージ含有人工飛沫は、まったく捕集されなかった。粒径が1mm以上の大きい場合は、粒子間の間隙も大きくなりファージ含有人工飛沫のほとんどが透過すると考えられた。