IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人 関西大学の特許一覧

<>
  • 特開-抗菌材料 図1
  • 特開-抗菌材料 図2
  • 特開-抗菌材料 図3
  • 特開-抗菌材料 図4
  • 特開-抗菌材料 図5
  • 特開-抗菌材料 図6
  • 特開-抗菌材料 図7
  • 特開-抗菌材料 図8
  • 特開-抗菌材料 図9
  • 特開-抗菌材料 図10
  • 特開-抗菌材料 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166279
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】抗菌材料
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/12 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
C12M1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077219
(22)【出願日】2022-05-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)、事業名;研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)「産学共同(育成型)」、「生物に学ぶ表面構造と樹脂製抗菌・殺菌材の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB02
4B029CC01
4B029DG04
4B029GB01
4B029GB02
(57)【要約】
【課題】マイクロレベルの構造体を用いて抗菌性を示す抗菌材料を提供する。
【解決手段】抗菌材料(1)は、複数の柱状突起(3)を備え、各柱状突起の高さは2~100μm、隣接する柱状突起の中心間距離が5~100μm、隣接する柱状突起と柱状突起との空隙が2~50μmである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の柱状突起を備え、
各柱状突起の高さは2~100μm、隣接する柱状突起の中心間距離が5~100μm、隣接する柱状突起と柱状突起との側壁間の距離が2~50μmである、抗菌材料。
【請求項2】
前記各柱状突起の縦方向の断面形状は、突出方向に頂点を有する曲線を備える、請求項1に記載の抗菌材料。
【請求項3】
前記柱状突起を有しない材料と比較して水との接触角が5度以上大きい、請求項1又は2に記載の抗菌材料。
【請求項4】
抗菌の対象の細菌の大きさが、0.5~5μmである、請求項1又は2に記載の抗菌材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノレベルの構造体が抗菌性を発現することが従来技術として知られている(特許文献1)。ナノレベルの構造体は、細菌の細胞膜を物理的に破壊するための構造を有し、細胞を死滅させることで抗菌性を発現する。一方、マイクロレベルの構造体では、サメ肌に存在するリップル構造が微生物付着を抑制することが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-72475号公報
【特許文献2】特表2018-519377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1は、細菌の大きさよりも小さいサイズの構造体を作製する必要があった。また、特許文献2のようなマイクロレベルの構造体は、細菌を含む微生物を接着させない効果はあるものの、細菌を死滅させる効果については開示されていない。これらの従来技術は、構造体の作製コスト、及び抗菌性の両立という観点から、さらに改善の余地があった。
【0005】
本発明の一態様は、マイクロレベルの構造体を用いて抗菌性を示す抗菌材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る抗菌材料は、複数の柱状突起を備え、各柱状突起の高さは2~100μm、隣接する柱状突起の中心間距離が5~100μm、隣接する柱状突起と柱状突起との空隙が2~50μmである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、マイクロレベルの構造体を用いて抗菌性を示す抗菌材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態1に係る抗菌材料の一部を拡大して示した、概略的な斜視図である。
図2】抗菌材料の寸法を説明するための概略的な縦断面図である。
図3】予備成形物を作製する手順の一例を工程順に示した概略的な斜視図である。
図4】予備成形物の露光手順の一例を工程順に示した概略的な縦断面図である。
図5】予備成形物から抗菌材料を作製する手順の一例を工程順に示した概略的な縦断面図である。
図6】抗菌材料の顕微鏡写真及び模式図である。
図7】抗菌材料の顕微鏡写真及び模式図である。
図8】抗菌材料の寸法を示す図である。
図9】撥水性評価の結果を示す図である。
図10】抗菌性評価の手順を示す図である。
図11】抗菌性評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0010】
ここで、本明細書に記載する「抗菌」の用語は、JIS Z 2801における定義である「製品の表面における細菌の増殖を抑制する状態」に対応している。具体的に「抗菌」とは、抗菌材料の周囲に存在する微生物(特に細菌)の数量を死滅により減少、または増加させない状態を意味する。
【0011】
〔1.抗菌材料〕
本発明の実施形態に係る抗菌材料は、複数の柱状突起を備える。図1は、本実施形態の基板2上に複数の微細構造物としての柱状突起3…3を備えた抗菌材料を示す。なお、図1は概略図であって、本実施形態の抗菌材料1を正確に示したものではない。
【0012】
本明細書において、「マイクロ構造」は、マイクロメートルスケールの構造のことである。本発明の実施形態に係る抗菌材料において、複数の柱状突起を「マイクロ構造」とも称する。
【0013】
複数の柱状突起3…3の配置及び各柱状突起3の寸法に関して説明する。図2は抗菌材料1の寸法を説明するための概略的な縦断面図である。図2のSは隣接する柱状突起の中心間距離、Gは隣接する柱状突起と柱状突起との側壁間の距離(空隙)、Hは柱状突起の高さであり、Dは柱状突起の直径である。隣接する柱状突起と柱状突起との側壁間の距離は、隣接する柱状突起の側壁の接線であって、基板に対して垂直な接線同士の最短距離であってもよい。
【0014】
隣接する二つの柱状突起3の中心間距離Sは5~100μmである。また、隣接する二つの柱状突起3の中心間距離Sは10~80μmが好ましく、20~60μmであることがより好ましい。
【0015】
また、柱状突起3同士の中心間距離Sは、対象の細菌の大きさの10~80倍であることが好ましく、20~60倍であることがより好ましい。
【0016】
隣り合う二つの柱状突起3同士の側壁間の空隙Gは2~50μmである。空隙Gは、3~40μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましい。本実施形態において、例えば、中心間距離S、空隙G、および直径Dの寸法は、S-G=Dという関係が成り立つ。
【0017】
柱状突起の高さHは、2~100μmである。柱状突起の高さHは、5~70μmであることが好ましく、10~30μmであることがより好ましい。
【0018】
上述のように柱状突起の各寸法を設定することで、例えば、抗菌材料1の柱状突起と柱状突起との隙間である空隙には水が浸入しにくくなる。すなわち、抗菌材料1が撥水性を示す。これによれば、抗菌材料1が例えば嫌気性細菌にとって生存しにくい環境となり、抗菌材料1に高い抗菌性を付与することができる。
【0019】
本発明の実施形態に係る抗菌材料1は、柱状突起が規則的に配列していることが好ましい。配列の仕方は特に限定されないが、例えば、ライン状、ドット状、二次元最密充填、アレイ状などが挙げられる。
【0020】
本発明の実施形態に係る抗菌材料1の柱状突起の縦方向の断面形状は、限定されないが、突出方向に頂点を有する曲線を備えていてよい。すなわち、柱状突起の縦方向の断面形状の一部、例えば突出方向である先端部が曲線であってもよく、断面形状の全体が曲線で構成されていてもよい。換言すれば、柱状突起の先端部は平面ではないことが好ましい。柱状突起の縦方向の断面形状が、突出方向に頂点を有する曲線を備えることにより、細菌が材料へ付着しにくくなる。
【0021】
また、尖度(クルトシス)を指標として、柱状突起の形状を特定して、細菌などの微生物の付着を制御することも可能である。
【0022】
本発明の実施形態に係る抗菌材料1は、樹脂、無機物から構成されていることが好ましい。樹脂としては、例えば、ポリジメチルシロキサン(以降、PDMSと称する)などの熱硬化性樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂、ポリエチレン(PE)などの熱可塑性樹脂、その他には結晶性樹脂であるポリアセタール(POM)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等、または非結晶性樹脂であるアクリル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。無機物としては、例えば、シリコン(以降、Siと称する)、ガラス、ステンレス等が挙げられる。本発明の実施形態に係る抗菌材料は、マイクロ構造の作製容易の観点から、PDMSを用いることが好ましい。また、抗菌材料1は、表面処理剤によって表面処理がされていてもよい。
【0023】
本発明の実施形態に係る抗菌材料1は、柱状突起を有しない材料と比較して水との接触角(具体的には静的接触角)が5度以上大きいことが好ましい。抗菌材料1の水との接触角は、柱状突起を有しない材料と比較して10度以上大きいことがより好ましく、20度以上大きいことが最も好ましい。水との接触角が柱状突起を有しない材料と比較して、5度以上大きいことより、抗菌材料1が高い撥水性を示す。また、抗菌材料1が高い撥水性を示すことにより、抗菌材料1に高い抗菌性を付与することができる。抗菌材料1の撥水性は、マイクロ構造によって得られる。また、マイクロ構造に加え、抗菌材料1の表面に撥水処理剤をコーティングするなどの処理が行われてもよい。
【0024】
本発明の実施形態に係る抗菌材料1が対象とする細菌の大きさは特に限定されないが、0.5~5μmの大きさの細菌であることが好ましい。細菌の大きさは、細菌の長方向の長さ(長径)、短方向の長さと長方向の長さとの平均、または細菌の外接円の直径であってよい。例えば、球菌の場合は、細菌の直径であってよく、桿菌の場合は、長径であってよく、短径と長径との平均の長さであってもよく、桿菌の外接円の直径であってもよい。すなわち、本発明の実施形態において、マイクロ構造の隣り合う二つの柱状突起3同士の側壁間の空隙Gは、対象とする細菌の大きさよりも大きい。
【0025】
また、本発明の実施形態に係る抗菌材料1が対象とする細菌は、嫌気性細菌であることが好ましい。また、本発明の実施形態に係る抗菌材料1が対象とする細菌は、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、枯草菌、サルモネラ菌などがあり、特に限定されることはない。
【0026】
〔2.抗菌材料の作製方法〕
本実施形態の抗菌材料1の作製方法は特に限定されないが、例えば、射出成型やインプリント法を利用することができる。まず、抗菌材料の構造体の鋳型を作製する前準備として、レジスト材料を用いて、所望の大きさの予備成形物5を作製してもよい。
【0027】
(2-1)予備成形物5の作製
予備成形物の作製手順の一例を、図3に示す。
【0028】
まず、工程(1)において、平坦なシリコン基板(SiO/Si)4を超音波洗浄する。工程(2)において、洗浄後のシリコン基板4に対し表面処理剤を反応させて表面処理膜を形成する。表面処理剤は、特に限定されないが、一例として、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、エポキシ系樹脂(CAUT200)、カルボキシベンゾトリアゾール(CBT)などが挙げられる。
【0029】
工程(3)において、表面処理膜の上からネガ型フォトレジスト材料を塗布し、フォトレジスト膜を作製する。ネガ型フォトレジスト材料は、露光された部分が硬化し、露光されない部分は硬化しない。ネガ型フォトレジスト材料としては、例えば、感光性エポキシ樹脂(SU-8、TSMR、PMER、TCIR)が挙げられる。なお、状況によりポジ型フォトレジスト材料を用いても良い。
【0030】
工程(4)において、フォトレジスト膜の上部から、フォトレジスト材料が反応して硬化する波長の光を所定の範囲にのみ照射する。本実施形態において、露光範囲は、円状であることが好ましい。なお、工程(3)においてポジ型レジスト材料を用いた場合には、露光部が現像後に除去される。
【0031】
図4は、図3の工程(4)の露光方法の一例を説明した模式図である。まず、所定の直径の円状の範囲に所定の強さの光を所定時間照射する。次に、最初に照射した円状の範囲よりも小さい直径の円状の範囲に光を照射する。徐々に小さな直径の円状の範囲に露光することにより、露光により硬化する部分の断面形状が突出方向に頂点を有する曲線を有するよう形成される。図4では、一例として、4回に分けてそれぞれ異なる直径の円状の範囲に露光を行ったが、回数については特に限定されない。また、適用する円の直径も最終的に得たい抗菌材料のサイズに合わせて適宜変更してもよい。
【0032】
図3に戻り、工程(5)において、フォトレジスト膜のうち、露光されなかった部分を現像液によって除去する。現像液は、未硬化のフォトレジスト材料が溶解する溶液であってよい。フォトレジスト材料としてSU-8を用いた場合は、SU-8developerを現像液として用いてもよい。
【0033】
最後に、工程(6)において、基板4に付着している現像液を洗浄液によって洗浄する。洗浄液としては、例えばイソプロピルアルコールが挙げられる。洗浄後は、適宜乾燥を行い、予備成形物5を得る。
【0034】
(2-2.転写)
図5は、作製した予備成形物5から、所望の抗菌材料1を作製する転写のプロセスを示す概略図である。
【0035】
まず、図5の工程(1)において、予備成形物5を所定の容器に設置する。所定の容器は、予備成形物5の大きさに応じた容器を用いればよい。
【0036】
図5の工程(2)において、予備成形物5の上から、樹脂を流し入れる。樹脂としては、特に限定されないが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が挙げられる。樹脂は、主剤と硬化剤とを任意の割合にて混合させた樹脂であってもよい。PDMSとしては、例えば、主剤と硬化剤とが10:1で混合されているキット製品を用いてもよく、一例として、Sylgard184(東レ・ダウコーニング製)が挙げられる。所定時間加熱することによって、樹脂を硬化させる。工程(2)で生成する硬化物が、抗菌材料1の型となる。
【0037】
図5の工程(3)において、容器から硬化物のみを取り出す。
【0038】
図5の工程(4)において、取り出した硬化物に表面処理を施す。表面処理は、次の工程で樹脂を流し入れる時に、硬化物と樹脂とが接着しないようにするための処理であってよい。樹脂としてPDMSを使用する場合は、一例として、アッシングを行い、ヘキサメチレンジシラザン(HMDS)に浸漬させることにより、メチル基によって硬化物の表面をコーティングしてもよい。アッシングは、酸素プラズマを発生させる機器を利用して(30W、1分)行われてもよい。
【0039】
図5の工程(5)において、硬化物を容器に設置し、その上から、抗菌材料1の材料である樹脂を流し入れる。硬化物と、抗菌材料1の材料樹脂とは、同じ樹脂でもあってもよいし、それぞれ異なる樹脂であってもよい。所定時間加熱することによって、樹脂を硬化させる。
【0040】
図5の工程(6)において、硬化した樹脂を容器から取り出し、抗菌材料1とする。
【0041】
〔3.抗菌部材〕
このように形成された抗菌材料1は、例えば、ブロック状やシート状の形状とすることができる。この抗菌材料1は、液体に接する部分に用いられる抗菌部材であって、抗菌材料1の備える複数の柱状突起3…3が液体に対して突出するように備えられた抗菌部材に組み込んで利用できる。この抗菌部材を用いることにより、抗菌性が発現する。この抗菌部材は、例えば、上下水道用の配管部材、家庭内の配管部材、食品工場等の衛生管理が必要な施設において液体に触れる部材、医療機器や医療用分析装置を構成する部材、公共交通機関で使われる抗菌部材等に利用できる。
【0042】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0043】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る抗菌材料1は、複数の柱状突起3を備え、各柱状突起3の高さは2~100μm、隣接する柱状突起3の中心間距離が5~100μm、隣接する柱状突起3と柱状突起3との側壁間の距離が2~50μmである。
【0044】
本開示の態様2に係る抗菌材料1は、前記態様1において、各柱状突起3の縦方向の断面形状は、突出方向に頂点を有する曲線を備えてもよい。
【0045】
本開示の態様3に係る抗菌材料1は、前記態様1又は2において、柱状突起3を有しない材料と比較して水との接触角が5度以上大きくてもよい。
【0046】
本開示の態様4に係る抗菌材料1は、前記態様1~3の何れかにおいて、抗菌の対象の細菌の大きさが、0.5~5μmであってもよい。
【実施例0047】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0048】
〔マイクロ構造の作製〕
(1.予備成形物の作製)
まず、目的の抗菌材料の型を作製する前準備として、予備成形物を作製した。基板には酸W膜付のSi基板(SiO/Si:厚さ0.5mm、大きさ30×30mm)を用いた。図3は、予備成形物の作製手順を示す概略図である。
【0049】
(1)Si基板に対して、アセトン、エタノール、純水の順で超音波洗浄を行った。ビーカーに各溶液とSi基板とを入れ、超音波洗浄を各溶液につき5分間行った。
【0050】
(2)次に、HMDSをSi基板上にスピンコート法(3000rpm、30秒)を用いて塗布した。塗布後、ホットプレートを用いてベーク(95℃、1.5分間)を行った。
【0051】
(3)HMDS膜上にネガ型レジスト(SU-8 3005)(以降、SU-8と称する)をスピンコート法(1000rpm、30秒)を用いて塗布した。SU-8の膜厚は10μmであった。塗布後、ホットプレートを用いてソフトベーク(95℃、2.5分間)を行った。
【0052】
(4)SU-8膜の上から、DMD露光機を用いて露光した。露光パターンは、径の大きい円状のパターンから順番に、徐々に径の小さい円状のパターンを用いて露光した。各露光条件を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
(5)露光後、未硬化のSU-8を除去するために、Si基板を3分間現像液に浸して、現像を行った。現像には、SU-8developerを使用した。
【0055】
Si基板に付着している現像液を、イソプロピルアルコールを用いて洗浄した。その後、窒素ガンを用いてSi基板上の水滴を飛ばし、95℃で完全に乾燥するまで放置した。
【0056】
(2.PDMSへの形状転写)
図5は、PDMSによる転写のプロセスを示す概略図である。PDMSとしては、主剤と硬化剤とを10:1の割合で混合させたキット(東レ・ダウコーニング製;Sylgard184)は、主剤と、硬化剤とを10:1の割合で混合させたものを用いた。
【0057】
(1)まず、3Dプリンター(XYZプリンティング社製;ダヴィンチJr.1.0ProX+)を用いて、PDMSが固化するまでの間にSi基板を保持するための型を作製した。作製した型の底面は40mm×40mmで、高さは15mmであった。
【0058】
(2)作製した型にパターンが形成されたSi基板を設置し、主剤と硬化剤とを10:1の割合で混合させたPDMSを流し込んだ。PDMSを流し込んだ型を恒温機の中に設置し、50℃、24時間の条件でPDMSを硬化させた。
【0059】
(3)硬化したPDMSをピンセット等を用いてSi基板から剥がし取った。
【0060】
(4)アセトン30mLに対してヘキサメチルジシラザン(SZ-31、信越シリコーン製)を1.5mL混合させ、65℃に保持した(液体1)。液体1にアッシング後のPDMSを浸漬させ15分間静置した。その後、150℃の加熱炉において、PDMSに付着した水分を蒸発させた。その結果、加水分解反応によってアンモニアが生成し、PDMSの界面がシロキサン結合によって不可逆的に接着し、その周りをメチル基が覆う形となる。
【0061】
(5)型にPDMS基板を設置し、主剤と硬化剤とを10:1の割合で混合させたPDMSを流し込んだ。
【0062】
(6)PDMSを流し込んだ型を50℃に設定した恒温機の中に24時間静置させることでPDMSを硬化させた。その後、硬化したPDMSをピンセット等を用いてSi基板から剥がしとり、抗菌材料とした。
【0063】
図6は、作製された抗菌材料の電子顕微鏡写真、及び模式図である。図6の電子顕微鏡写真から、柱状突起が規則的に配列するマイクロ構造が形成されていることが明らかとなった。また、マイクロ構造の隣接する柱状突起と、柱状突起との中心間距離は20μmであり、隣接する柱状突起と、柱状突起との空隙が7μmであり、柱状突起の高さが10μmであることが明らかとなった。
【0064】
図7は、抗菌材料の断面の電子顕微鏡写真、及び模式図である。図7の電子顕微鏡写真から、柱状突起は、突出方向に頂点を有する曲線を有する形状であることが明らかとなった。
【0065】
図8は、レーザー顕微鏡を用いてマイクロ構造のサイズを計測した結果を示す。図7から柱状突起と、柱状突起との中心間距離が20μmであり、柱状突起の高さが9μm程度であることが明らかとなった。この結果は、図5の電子顕微鏡写真の結果ともほぼ一致する。
【0066】
〔撥水性評価〕
作製したマイクロ構造ありの材料と、マイクロ構造がない材料との撥水性を評価した。撥水性の評価は、水と材料との静的接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製:DMo-502)を用いて測定することによって評価した。
【0067】
図9は、撥水性の評価の結果を示す。マイクロ構造を有さない材料は、水との接触角が112.2°であり、マイクロ構造を有する材料は、水との接触角が134.0°であった。マイクロ構造を有する材料は、マイクロ構造を有さない材料と比べて、水との接触角が大きく、高い撥水性を示すことが明らかとなった。
【0068】
〔抗菌性評価〕
抗菌性の評価は、JISで定められているフィルム密着法(JIS Z 2801)を参考にして行った。この規格は、繊維製品、光触媒抗菌加工製品を除く、プラスチック製品、平坦な貴金属製品、セラミック製品など抗菌加工を施した製品(中間製品を含む)の表面における細菌に対する抗菌性試験方法および、抗菌効果について規定された規格である。
【0069】
図10に、抗菌性の評価の試験手順の概略図を示した。
【0070】
(1)まず、OD600=0.1になるよう大腸菌を含む菌液を調製した。被評価物をオートクレーブ処理により滅菌し、UVライトを終夜照射した基板表面に菌液80μLを滴下した。基板と同様にオートクレーブ処理をし、UVライトを終夜照射し滅菌処理したカバーガラスを菌液の上に被せた。
【0071】
カバーガラスを被せた試験片をインキュベータに入れ、35℃で24時間保管した。それと同時に、試験前の生菌数をカウントするため、OD=0.1に調整した菌液を生理食塩水で10倍、10倍、10倍に希釈し、希釈したそれぞれの菌液1mLを大腸菌群微生物検出培地シート(サニ太くん)に滴下しインキュベータに入れ、35℃で24時間保管した。
【0072】
(2)24時間後、試験片表面に滴下した菌液と併せて10mLになるように、オートクレーブ処理を行った滅菌生理食塩水で洗い流し回収した。回収した液をさらに滅菌生理食塩水で10倍と、10倍に希釈し、もとの菌液に対して10倍、10倍、10倍の3種類の濃度の菌液を用意した。
【0073】
(3)3種類の濃度の菌液から、それぞれ1mLずつの菌液を大腸菌群微生物検出培地シートに滴下し、インキュベータに入れ、35℃で24時間保管した。
【0074】
(4)24時間後、大腸菌に含まれるβ-ガラクトシダーゼという酵素が培地シート内の指示薬に反応し発色することにより、培地に青色の斑点模様が現れた。斑点の数(生菌数)をカウントした。生菌率は、以下の式(1)を用いて算出した。
【0075】
【数1】
【0076】
また、抗菌性の評価を行うにあたり、対照試料としてマイクロ構造のない基板を2種類用意した。1つは、構造の有無による抗菌性を確認するため、マイクロ構造を有さないPDMS基板を用いた。もう1つは、材料そのものによる抗菌性を確認するため、マイクロ構造を有さないSi基板を用いた。マイクロ構造を有さないPDMS基板に関しても、マイクロ構造を作製しないこと以外はマイクロ構造を有する基板と同様の材料を用いて、同じ硬化条件によって作製した。
【0077】
図11は、各基板の生菌率をグラフで示した図である。また、以下の式(2)を用いて、生菌率からそれぞれの基板の抗菌活性を算出した。
抗菌活性=log10(対照試料の生菌率)-log10(試験試料の生菌率)…(2)
マイクロ構造を有するPDMS基板の生菌率は0.0008%、マイクロ構造を有さないSi基板を対照試料とした場合、抗菌活性値4.3を示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、抗菌材料として利用することができる。また、本発明は不特定多数の人が触れるドアノブ、手すり、ボタンなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 抗菌材料
3 柱状突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11