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特開2023-166332ナトリウムイオン電池用正極材料及び製造方法並びに用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166332
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン電池用正極材料及び製造方法並びに用途
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20231114BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231114BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20231114BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/054
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023072063
(22)【出願日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】202210476057.3
(32)【優先日】2022-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】518246268
【氏名又は名称】貴州振華新材料股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】周 朝毅
(72)【発明者】
【氏名】向 黔新
(57)【要約】      (修正有)
【課題】表面の残留アルカリの含有量が低減されることで、ナトリウムイオン電池の容量及びレートは比較的高いレベルとなるナトリウムイオン電池用正極材料、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeであり、式中、-0.40≦a≦0.25、0.08<x<0.5、0.05<y<0.5、0.0<z<0.26であり、Aは、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれる。正極材料において、回折角度2θ値の42~46°では少なくとも2つの回折ピークがあり、前記2つの回折ピークの回折角度2θ値は、それぞれ、43°付近、45°付近である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオン電池用正極材料であって、
前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFe2+iであり、式中、-0.40≦a≦0.25、0.08<x<0.5、0.05<y<0.5、0.0<z<0.26、-0.3≦i≦0.3であり、Aは、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれ、ただし、前記ナトリウムイオン電池用正極材料において、回折角度2θ値の42~46°では少なくとも2つの回折ピークがあり、前記2つの回折ピークの回折角度2θ値は、それぞれ、43°付近、45°付近であることを特徴とするナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項2】
前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeであり、式中、-0.40≦a≦0.20、0.08<x<0.48、0.05<y<0.45、0.01<z<0.24であり、Aは、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれることを特徴とする請求項1に記載のナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項3】
前記A元素は、Zn元素及びM元素を含有し、ただし、Zn元素の含有量はbで表し、Zn元素とM元素の総含有量はzであり、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeZnz-bであり、式中、-0.40≦a≦0.25、0.08<x<0.5、0.05<y<0.5、0.0<z<0.26、0<b≦0.10であり、Mは、Ti、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれ、好ましくは、式中、-0.40≦a≦0.20、0.08<x<0.48、0.05<y<0.45、0.01<z<0.24であり、
且つ/又は、前記A元素は、Ti元素及びN元素を含有し、ただし、Ti元素の含有量はcで表し、Ti元素とN元素の総含有量はzであり、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeTiz-cであり、式中、-0.40≦a≦0.25、0.08<x<0.5、0.05<y<0.5、0.0<z<0.26、0<c<0.24であり、Nは、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれ、好ましくは、式中、-0.40≦a≦0.20、0.08<x<0.48、0.05<y<0.45、0.01<z<0.24であり、
且つ/又は、前記A元素は、Ti元素、Zn元素及びX元素を含有し、ただし、Zn元素の含有量はbで表し、Ti元素の含有量はcで表し、Ti元素、Zn元素とX元素の総含有量はzであり、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeZnTiz-b-cであり、式中、-0.40≦a≦0.25、0.08<x<0.5、0.05<y<0.5、0.0<z<0.26、0<b≦0.1、0≦c<0.24であり、Xは、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれ、好ましくは、式中、-0.40≦a≦0.20、0.08<x<0.48、0.05<y<0.45、0.01<z<0.24であり、
好ましくは、ただし、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粉末X線回折パターンは、α-NaFeO型層状構造であることを示すことを特徴とする請求項1に記載のナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項4】
前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粉末X線回折パターンにおいて、回折角度2θ値が42~46°である2つの回折ピークの半値幅FWHMは、0.06~0.3°であり、好ましくは、半値幅FWHMは、0.06~0.25°であり、
且つ/又は、回折角度2θ値が42~46°である2つの回折ピークの格子面間隔は、1.5~3.0Åであり、好ましくは、回折角度2θ値が42~46°である2つの回折ピークの格子面間隔は、1.8~2.8Åであり、より好ましくは、回折角度2θ値が42~46°である2つの回折ピークの格子面間隔は、1.8~2.3Åであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項5】
前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粉末X線回折パターンにおいて、回折ピークの半値幅FWHMは、次の特徴のうちの1種又は2種以上があり、
(1)回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.08~0.18°であり、好ましくは、0.08~0.15°であり、
(2)回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.09~0.22°であり、好ましくは、0.09~0.20°であり、
(3)回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの強度と回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの強度の比の値は、0.1~12.0であり、好ましくは、回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの強度と回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの強度の比の値は、0.1~10.0であり、より好ましくは、回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの強度と回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの強度の比の値は、0.5~6.6であり、さらに好ましくは、回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの強度と回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの強度の比の値は、4~6.6であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項6】
前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粉末X線回折パターンにおいて、回折角度2θ値の30~40°では3つ~5つの回折ピークがあり、
好ましくは、回折角度2θ値の30~40°では3つの回折ピークがあり、その回折角度2θ値は、それぞれ、33°付近、35°付近、36°付近であり、好ましくは、その回折角度2θ値は、それぞれ、33.3°付近、35.3°付近、36.6°付近であり、
又は、
回折角度2θ値の30~40°では4つの回折ピークがあり、その回折角度2θ値は、それぞれ、33°付近、35°付近、36°付近、37°付近であり、好ましくは、その回折角度2θ値は、それぞれ、33.3°付近、35.3°付近、36.6°付近、37.4°付近であり、
又は、
回折角度2θ値の30~40°では5つの回折ピークがあり、その回折角度2θ値は、それぞれ、32°付近、33°付近、34°付近、35°付近、37°付近であり、好ましくは、その回折角度2θ値は、それぞれ、31.7°付近、33.4°付近、34.5°付近、35.2°付近、36.6°付近であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項7】
前記ナトリウムイオン電池用正極材料におけるMn元素の質量パーセント含有量は、3~28%であり、好ましくは、前記Mn元素の質量パーセント含有量は、4~25%であり、より好ましくは、前記Mn元素の質量パーセント含有量は、4~22%であり、
且つ/又は、前記Fe元素の質量パーセント含有量は、3~28%であり、好ましくは、前記Fe元素の質量パーセント含有量は、4~25%であり、
且つ/又は、前記Ni元素の質量パーセント含有量は、3~27%であり、好ましくは、前記Ni元素の質量パーセント含有量は、5~25%であり、より好ましくは、前記Ni元素の質量パーセント含有量は、7~24%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のナトリウムイオン正極材料。
【請求項8】
前記ナトリウムイオン電池用正極材料の残留アルカリの総含有量は、3.5%未満であり、好ましくは、3.0%未満であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項9】
前記ナトリウムイオン電池用正極材料の比表面積は、0.2~1.3m/gであり、
且つ/又は、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粒径D50は、2~18μmであり、好ましくは、3~15μmであり、
且つ/又は、前記ナトリウムイオン電池用正極材料のタップ密度は、1.0~2.9g/cmであり、好ましくは、前記ナトリウムイオン電池用正極材料のタップ密度は、1.0~2.6g/cmであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項10】
Na源、Ni源、Mn源、Fe源及びA源を一定の比率で混合し、焼成して、冷却し、粉砕して、ナトリウムイオン電池用正極材料を得るステップを含み、
ただし、前記混合では、固相混合法又は液相混合法を採用することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【請求項11】
前記焼成は、2つのステップに分かれ、ステップ1では、原料を450~650℃の焼成温度で前処理し、且つ/又は、焼成の時間は3~10時間であり、ステップ2では、焼成後の原料を850~950℃の温度で焼成し、且つ/又は、焼成の時間は8~40時間であり、
好ましくは、1~10℃/分の昇温速度で前記ステップ1の焼成温度に昇温して定温焼成を行い、且つ/又は、1~10℃/分の昇温速度で前記ステップ2の焼成温度に昇温して定温焼成を行うことを特徴とする請求項10に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【請求項12】
前記粉砕のディスク間の距離は、0~2mmであり、回転速度は、500~3000回転/分であり、好ましくは、ディスク間の距離は、0~1.5mmであり、回転速度は、1000~2800回転/分であることを特徴とする請求項10に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【請求項13】
前記ナトリウム源は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、塩化ナトリウム、フッ化ナトリウム及び酢酸ナトリウムから1種又は2種以上選ばれることを特徴とする請求項10に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【請求項14】
前記A源は、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の元素の酸化物又はそれらの塩又はそれらの有機化合物から選ばれ、
好ましくは、前記A源は、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上元素の炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩又は酸化物から選ばれ、
より好ましくは、前記A源は、酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化銅、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、三酸化二ホウ素、酸化バリウム、酸化ニオブ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウムから1種又は2種以上選ばれることを特徴とする請求項10に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【請求項15】
請求項10に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法によって製造されるナトリウムイオン正極材料。
【請求項16】
請求項1~3のいずれか1項に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の少なくとも1種を正極活物質として含むことを特徴とするナトリウムイオン電池の正極。
【請求項17】
請求項16に記載のナトリウムイオン電池の正極と、負極と、ナトリウム塩含有電解質とを含むことを特徴とするナトリウムイオン電池。
【請求項18】
請求項17に記載のナトリウムイオン電池を備えることを特徴とする光起電力システム、電力システム、エネルギー貯蔵システム又はモバイルストレージデバイス、又はローエンド電気自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウムイオン電池の技術分野に関し、具体的には、ナトリウムイオン電池用正極材料及び製造方法並びに用途に関する。
【背景技術】
【0002】
世界のリチウム資源に対する懸念と新たな規模的エネルギー貯蔵の使用の必要性は、新しい電池分野の絶えざる開拓を促している。リチウムイオン電池に関する豊かな経験のおかげで、ナトリウムイオン電池は急速な発展を遂げている。中でもナトリウムイオン電池用正極材料として、主に層状及びトンネル型遷移金属酸化物、ポリアニオン化合物、プルシアンブルー類似体、有機材料などがあり、これらのシステムに対する研究とともに、ナトリウムイオン電池の研究開発は低コストと実用化に向けて取り組みがなされている。2011年、日本の駒場氏らは最初にハードカーボン||NaNi0.5Mn0.5完全電池の特性を報告した。またこの年、世界初のナトリウムイオン電池会社として英国のFARADION社が成立した。2013年、アメリカのGoodenough氏らは高い電圧と優れたレート特性を有するプルシアンホワイト正極材料を提案し、2014年、中国の胡勇勝氏らは最初に層状酸化物においてCu3+/Cu2+酸化還元対の電気化学的活性を発見し、一連の低コストのCu系正極材料を設計及び製造した。
【0003】
ナトリウムイオン電池用正極酸化物は、主に層状構造酸化物及びトンネル構造酸化物を含み、そのうち、トンネル構造酸化物の結晶構造には独特な「S」状のチャンネルがあり、良好なレート特性を有し、且つ空気及び水に対する安定性が高いが、その最初の充放電比容量が低いため、実際に利用可能な比容量は小さい。層状構造酸化物は周期的な層状構造を有し、製造方法が簡単であり、比容量と電圧が高いため、ナトリウムイオン電池の主な正極材料であり。その製造プロセスでは、ナトリウム元素の損失を考慮すると、材料の生産プロセスではナトリウム塩を過剰に加えるのが一般的であるため、材料の焼成後にナトリウム塩が残留し、主に炭酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムの形態として存在し、これを残留アルカリと略称する。ナトリウムイオン電池用正極材料のアルカリ度が高すぎると、加工プロセスでは材料が水分を吸収して湿りやすく、スラリー撹拌プロセスでは黏度が増加し、ゼリー状を形成して、加工特性を悪化させやすい。
【0004】
ナトリウムイオン層状構造酸化物では遷移金属元素と周りの6つの酸素によって形成されるMO6八面体構造が遷移金属層を構成するのが一般的であり、ナトリウムイオンが遷移金属層の間に位置し、MO6多面体層とNaO6アルカリ金属層が交互に配列される層状構造が形成される。これらの構造によりナトリウムイオン電池の充放電プロセスでは格子の歪みと相転移が起こって、ナトリウムイオンの輸送と拡散が妨げられ、ナトリウムイオンの殆どは材料の表面に遊離して、電解液と副反応を行うことで、不可逆的な容量損失をもたらすとともに、サイクル特性を悪化させて、電池特性の低下ひいては消失を引き起こし、安全上のリスクをもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする技術的課題は次のとおりである。従来技術によるナトリウムイオン電池用正極材料は残留アルカリ量が高く、このような表面の残留アルカリの存在により材料は水分を吸収して非常に劣化しやすく、接着剤に対する適合性が悪くなり、スラリーの分散性と安定性が低下すると、後のコーティングプロセスには不利である。
【0006】
層状構造酸化物では遷移金属元素と周りの6つの酸素によって形成されるMO6八面体構造が遷移金属層を構成するのが一般的であり、ナトリウムイオンが遷移金属層の間に位置し、MO6多面体層とNaO6アルカリ金属層が交互に配列される層状構造が形成される。これらの構造によりナトリウムイオン電池の充放電プロセスでは格子の歪みと相転移が起こって、ナトリウムイオンの輸送と拡散が妨げられ、ナトリウムイオンの殆どは材料の表面に遊離して、電解液と副反応を行うことで、不可逆的な容量損失をもたらすとともに、サイクル特性を悪化させて、電池特性の低下ひいては消失を引き起こし、安全上のリスクをもたらす。従来技術では、非常に少ない可変原子価金属をドーピングして材料の構造安定性の改善の目的を果たすのが殆どであるが、実際の効果は好ましくない。本発明者らは、大量の研究開発を経て、ドーピング元素の量を高めるか又は複数の元素を相乗的にドーピングすることは、材料の結晶構造を安定化し、正極材料の表面の残留アルカリを低減し、ナトリウムイオン電池の充放電プロセスにおける格子の歪みを低減し、相転移効果を抑える上で非常に有利であるということを発見した。
【0007】
前記技術的課題により、本発明の目的は、ナトリウムイオン電池用正極材料及びその製造方法を提供することであり、当該製造方法によって得られるナトリウムイオン電池正極材料の表面の残留アルカリの含有量が低減されるため、ナトリウムイオン電池の容量及びレートは比較的高いレベルにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的に言えば、本発明は、次の技術的解決手段を提供する。
第1態様において、本発明は、一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFe2+iであり、式中、-0.40≦a≦0.25、0.08<x<0.5、0.05<y<0.5、0.0<z<0.26、-0.3≦i≦0.3であり、Aは、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれることを特徴とするナトリウムイオン電池用正極材料を提供する。ただし、前記ナトリウムイオン電池用正極材料において、42~46°では2つの回折ピークがある。
【0009】
好ましくは、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeであり、式中、-0.40≦a≦0.20、0.08<x<0.48、0.05<y<0.5、0.01<z<0.26であり、Aは、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれる。ただし、前記ナトリウムイオン電池用正極材料において、42~46°では2つの回折ピークがある。
より好ましくは、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeであり、式中、-0.40≦a≦0.20,0.08<x<0.48,0.05<y<0.45,0.01<z<0.24であり、Aは、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれる。
【0010】
より好ましくは、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeであり、式中、-0.40≦a≦0.20、0.08<x<0.48、0.05<y<0.5、0.1<z<0.22であり、Aは、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれる。ただし、前記ナトリウムイオン電池用正極材料において、42~46°では2つの回折ピークがある。
【0011】
好ましくは、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeであり、式中、-0.30≦a<0.20、0.15<x<0.35、0.15<y<0.35、0.1<z<0.22であり、Aは、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれる。ただし、前記ナトリウムイオン電池用正極材料において、回折角度2θ値の42~46°では2つの回折ピークがある。
【0012】
好ましくは、前記A元素は、Zn元素及びM元素を含有し、ただし、Zn元素の含有量はbで表し、Zn元素とM元素の総含有量はzであり、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeZnz-bであり、-0.40≦a≦0.25、0.08<x<0.5、0.05<y<0.5、0.0<z<0.26、0<b≦0.1であり、Mは、Ti、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれ、より好ましくは、前記式中、-0.40≦a≦0.20,0.08<x<0.48,0.05<y<0.45,0.01<z<0.24である。
【0013】
且つ/又は、前記A元素は、Ti元素及びN元素を含有し、ただし、Ti元素の含有量はcで表し、Ti元素とN元素の総含有量はzであり、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeTiz-cであり、-0.40≦a≦0.25、0.08<x<0.5、0.05<y<0.5、0.0<z<0.26、0<c<0.24であり、Nは、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれ、好ましくは、前記式中、-0.40≦a≦0.20,0.08<x<0.48,0.05<y<0.45,0.01<z<0.24である。好ましくは、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeTiz-cであり、式中、-0.40≦a≦0.25,0.08<x<0.5,0.05<y<0.5,0.01<z<0.26、0<c≦0.22であり、Nは、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれ、より好ましくは、前記式中、-0.40≦a≦0.20,0.08<x<0.48,0.05<y<0.45,0.01<z<0.24である。
【0014】
且つ/又は、前記A元素は、Ti元素、Zn元素及びX元素を含有し、ただし、Zn元素の含有量はbで表し、Ti元素の含有量はcで表し、Ti元素、Zn元素とX元素の総含有量はzであり、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeZnTiz-b-cであり、式中、-0.40≦a≦0.25,0.08<x<0.5,0.05<y<0.5,0.01<z<0.26、0<b≦0.1であり、0<c<0.24であり、Xは、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれる。好ましくは、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeZnTiz-b-cであり、式中、-0.40≦a≦0.25,0.08<x<0.5,0.05<y<0.5,0.01<z<0.26、0<b≦0.1であり、0<c≦0.22であり、Xは、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれる。より好ましくは、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeZnTiz-b-cであり、式中、-0.40≦a≦0.25,0.08<x<0.5,0.05<y<0.5,0.01<z<0.26、0<b≦0.1、0<c≦0.17であり、Xは、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれる。さらに好ましくは、前記正極材料は、少なくともZn、Tiの2種の元素のいずれかを含有する。
【0015】
好ましくは、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粉末X線回折パターンは、α-NaFeO型層状構造であることを示す。
【0016】
好ましくは、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粉末X線回折パターンにおいて、回折角度2θ値が42~46°である2つの回折ピークの半値幅FWHMは、0.06~0.3°であり、より好ましくは、半値幅FWHMは、0.06~0.25°である。
【0017】
且つ/又は、回折角度2θ値が42~46°である2つの回折ピークの格子面間隔は、1.5~3.0Åであり、好ましくは、回折角度2θ値が42~46°である2つの回折ピークの格子面間隔は、1.8~2.8Åであり、より好ましくは、回折角度2θ値が42~46°である2つの回折ピークの格子面間隔は、1.8~2.3Åである。
【0018】
好ましくは、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粉末X線回折パターンにおいて、回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.08~0.18°であり、より好ましくは、回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.15~0.18°であり、
且つ/又は、回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.09~0.22°であり、
且つ/又は、回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.08~0.14°であり、回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.09~0.20°であり、
且つ/又は、回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの格子面間隔は、2.0~2.2Åであり、
且つ/又は、回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの格子面間隔は、2.0~2.1Åであり、
且つ/又は、回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの強度と回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの強度の比の値は、0.1~12.0であり、好ましくは、回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの強度と回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの強度の比の値は、0.1~10.0であり、より好ましくは、回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの強度と回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの強度の比の値は、0.5~6.6であり、さらに好ましくは、回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの強度と回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの強度の比の値は、4~6.6である。
【0019】
好ましくは、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粉末X線回折パターン(XRD)において、回折角度2θ値の30~40°では3つ~5つの回折ピークがあり、
好ましくは、回折角度2θ値が30~40°である3つ~5つの回折ピークの半値幅FWHMは、0.05~0.35°であり、好ましくは、半値幅FWHMは、0.08~0.3°であり、
且つ/又は、回折角度2θ値が30~40°である3つ~5つの回折ピークの格子面間隔は、2.1~3Åであり、好ましくは、格子面間隔は、2.4~2.8Åであり、
且つ/又は、回折角度2θ値の30~40°では3つの回折ピークがあり、その回折角度2θ値は、それぞれ、33°付近、35°付近、36°付近であり、好ましくは、その回折角度2θ値は、それぞれ、33.3°付近、35.3付近、36.6付近であり、
又は、回折角度2θ値の30~40°では4つの回折ピークがあり、その回折角度2θ値は、それぞれ、33°付近、35°付近、36°付近、37°付近であり、好ましくは、その回折角度2θ値は、それぞれ、33.5°付近、35.1°付近、36.5°付近、37.3°付近であり、
又は、回折角度2θ値の30~40°では5つの回折ピークがあり、その回折角度2θ値は、それぞれ、32°付近、33°付近、34°付近、35°付近、37°付近であり、好ましくは、その回折角度2θ値は、それぞれ、31.7°付近、33.4°付近、34.5°付近、35.2°付近、36.6°付近である。
【0020】
より好ましくは、回折角度2θ値が32°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.1~0.15°であり、格子面間隔は、2.75~2.85Åであり、且つ/又は、回折角度2θ値が33°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.12~0.17°であり、格子面間隔は、2.6~2.7Åであり、且つ/又は、回折角度2θ値が34°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.35~0.39°であり、格子面間隔は、0.55~0.65Åであり、且つ/又は、回折角度2θ値が35°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.1~0.27°であり、格子面間隔は、2.5~2.6Åであり、且つ/又は、回折角度2θ値が37°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.08~0.11°であり、格子面間隔は、2.4~2.5Åである。
【0021】
好ましくは、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粉末X線回折パターン(XRD)において、回折角度2θ値の16°付近では1つの回折ピークがあり、回折角度2θ値の41°付近では1つの回折ピークがあり、より好ましくは、回折角度2θ値の16.5°付近では1つの回折ピークがあり、回折角度2θ値の41.5°付近では1つの回折ピークがあり、
より好ましくは、回折角度2θ値が16°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.11~0.16°であり、格子面間隔は、5.3~5.4Åであり、且つ/又は、回折角度2θ値が41°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.1~0.23°であり、格子面間隔は、2.1~2.2Åである。
【0022】
好ましくは、前記ナトリウムイオン電池用正極材料におけるMn元素の質量パーセント含有量は、3~28%であり、好ましくは、前記Mn元素の質量パーセント含有量は、4~25%であり、より好ましくは、前記Mn元素の質量パーセント含有量は、9~25%であり、さらに好ましくは、前記Mn元素の質量パーセント含有量は、9~18%である。
【0023】
且つ/又は、前記Fe元素の質量パーセント含有量は、3~28%であり、好ましくは、前記Fe元素の質量パーセント含有量は、4~25%であり、より好ましくは、前記Fe元素の質量パーセント含有量は、9~17%であり、さらに好ましくは、前記Fe元素の質量パーセント含有量は、10.5~17%であり、又はさらに好ましくは、9~14%である。
【0024】
且つ/又は、前記Ni元素の質量パーセント含有量は、3~27%であり、好ましくは、前記Ni元素の質量パーセント含有量は、5~25%であり、より好ましくは、前記Ni元素の質量パーセント含有量は、12~25%であり、さらに好ましくは、前記Ni元素の質量パーセント含有量は、14~19%であり、又はさらに好ましくは、20~25%である。
【0025】
好ましくは、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の残留アルカリ(遊離ナトリウム)の総含有量は、3.5%未満であり、好ましくは、2.5~3.5%である。
【0026】
好ましくは、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の比表面積は、0.2~1.3m/gであり、より好ましくは、0.3~1m/gである。
【0027】
且つ/又は、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粒径D50は、2~18μmであり、好ましくは、2~12μmである。
【0028】
且つ/又は、前記ナトリウムイオン電池用正極材料のタップ密度は、1.0~2.9g/cmであり、より好ましくは、前記ナトリウムイオン電池用正極材料のタップ密度は、1.0~2.4g/cmである。
【0029】
好ましくは、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の比表面積は、0.5~1.3m/gであり、且つ/又は、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粒径D50は、2~6μmであり、且つ/又は、前記ナトリウムイオン電池用正極材料のタップ密度は、1.5~2g/cmである。
【0030】
第2態様において、本発明は、Na源、Ni源、Mn源、Fe源及びA源を一定の比率で混合し、焼成して、冷却し、粉砕して、ナトリウムイオン電池用正極材料を得るステップを含むことを特徴とするナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法を提供する。
【0031】
好ましくは、前記混合では、固相混合法又は液相混合法を採用する。
【0032】
好ましくは、前記焼成は、2つのステップに分かれ、ステップ1では、原料を450~650℃の温度で前処理し、且つ/又は、前処理の時間は3~10時間であり、ステップ2では、前処理後の原料を850~950℃の温度で処理し、且つ/又は、処理の時間は8~40時間である。
【0033】
好ましくは、第1ステップの昇温速度は、1~10℃/分であり、且つ/又は、第2ステップの昇温速度は、1~10℃/分である。
【0034】
好ましくは、前記粉砕のディスク間の距離は、0~2mmであり、好ましくは、ディスク間の距離は、0~1.5mmであり、且つ/又は、回転速度は、500~3000回転/分であり、好ましくは、回転速度は1000~2800回転/分である。
【0035】
好ましくは、焼成ガスは、空気、酸素又はその混合ガスから選ばれる。
【0036】
好ましくは、前記ナトリウム源は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、塩化ナトリウム、フッ化ナトリウム及び酢酸ナトリウムから1種又は2種以上選ばれる。
【0037】
好ましくは、前記A源は、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の元素の酸化物又はそれらの塩又はそれらの有機化合物から選ばれ、
より好ましくは、前記A源は、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上元素の炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩又は酸化物から選ばれ、
さらに好ましくは、前記A源は、酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化銅、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、三酸化二ホウ素、酸化バリウム、酸化ニオブ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウムから1種又は2種以上選ばれる。
【0038】
前記ナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法によって製造されるナトリウムイオン正極材料である。
【0039】
第3態様において、本発明は、前記ナトリウムイオン電池用正極材料を正極活物質とするナトリウムイオン電池の正極を提供する。
【0040】
第4態様において、本発明は、ナトリウムイオン電池を提供し、前記ナトリウムイオン電池は、前記ナトリウムイオン電池の正極と、負極と、ナトリウム塩含有電解質とを含む。
【0041】
好ましくは、太陽光発電システム、電力システム、エネルギー貯蔵システム又はモバイルストレージデバイス又はローエンド電気自動車における電源としての前記ナトリウムイオン電池の用途である。
【0042】
好ましくは、分散型エネルギー貯蔵、集中型エネルギー貯蔵又はローエンドパワーバッテリーなどのエネルギー貯蔵装置における前記ナトリウムイオン電池の用途である。
【0043】
第5態様において、本発明は、前記ナトリウムイオン電池から製造される電力システム、エネルギー貯蔵システム又はモバイルストレージデバイスを提供する。
【発明の効果】
【0044】
本発明において得られる有益な効果は、次のとおりである。
本発明によって提供されるナトリウムイオン電池用正極材料は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeの化学式を有し、改質元素Aを加えて材料の構造安定性を改善することで特殊なXRD構造を形成することにより、ナトリウムイオンの輸送に安定的なチャンネルを提供して、ナトリウムイオンが材料の内部へ充分に輸送及び拡散されることで、材料の表面に遊離するナトリウムイオンの含有量、即ち残留アルカリ量を低減しており、材料は湿度が比較的高い環境でも、水分を吸収して劣化しにくく、電池スラリーの作製プロセスではゲル化の現象が起こらず、スラリーの安定性を向上させている。本発明のナトリウムイオン電池用正極材料は、比較的低い残留アルカリ量を有するため、空気中の水及び二酸化炭素と反応しにくく、ナトリウムイオン電池として製造された後には電解液との副反応が低減され、電池の安定性が向上している。
【0045】
本発明のナトリウムイオン電池用正極材料は、前記特定の化学式及び特殊なXRD構造を有し、ナトリウムイオン電池の充放電プロセスでは、ナトリウムイオンが頻繁に放出されるため、結晶構造が崩壊、収縮することはなく、放出されたナトリウムイオンは結晶構造に戻ることができ、ナトリウムイオン電池は比較的高い容量を有することが保証される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1は、実施例1のナトリウムイオン正極材料のXRDパターンである。
図2図2は、実施例1のナトリウムイオン正極材料の充放電曲線図である。
図3図3は、実施例2のナトリウムイオン正極材料のXRDパターンである。
図4図4は、実施例2のナトリウムイオン正極材料の充放電曲線図である。
図5図5は、実施例3のナトリウムイオン正極材料のXRDパターンである。
図6図6は、実施例3のナトリウムイオン正極材料の充放電曲線図である。
図7図7は、実施例4のナトリウムイオン正極材料のXRDパターンである。
図8図8は、実施例4のナトリウムイオン正極材料の充放電曲線図である。
図9図9は、実施例5のナトリウムイオン正極材料のXRDパターンである。
図10図10は、実施例5のナトリウムイオン正極材料の充放電曲線図である。
図11図11は、実施例6のナトリウムイオン正極材料のXRDパターンである。
図12図12は、実施例6のナトリウムイオン正極材料の充放電曲線図である。
図13図13は、比較例1のナトリウムイオン正極材料のXRDパターンである。
図14図14は、比較例1のナトリウムイオン正極材料の充放電曲線図である。
図15図15は、比較例2のナトリウムイオン正極材料のXRDパターンである。
図16図16は、比較例2のナトリウムイオン正極材料の充放電曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
上述したように、本発明の目的は、ナトリウムイオン正極材料及びその製造方法並びに用途を提供することにある。
【0048】
従来の技術では、ナトリウムイオン正極材料の構造を制御することによりナトリウムイオン電池用正極材料の表面の残留アルカリの含有量(炭酸ナトリウム)を低減することに関する研究は少ない。本発明のナトリウムイオン電池用正極材料は、特殊な層状構造を有し、そのX線回折パターンにおいて、回折角度2θ値の16°付近(本発明において出現している回折角度X°付近は、回折角度がX°±1°であることを表し、例えば、16°付近は、16°±1°を表し、即ち、15~17°である)では2番目に強いピークが1つあり、回折角度2θ値の30~40°では3つ~5つの回折ピークが存在し、回折角度2θ値の42~46°では少なくとも2つの回折ピークがあり、前記2つの回折ピークの回折角度2θ値は、それぞれ、43°付近、45°付近であり、回折角度の41.5°付近では1番目に強いピークが1つある。一方では、これらの特殊な回折ピーク及び半値幅FWHMにより当該材料の構造はより安定的になり、ナトリウムイオンが材料の内部に充分に位置を占めることを保証し、材料の表面に遊離するナトリウムイオンを低減しており、材料の残留アルカリ(遊離ナトリウム)は比較的低いレベルにあり、材料から電池スラリーを作製する時は湿度40%未満の条件下で生産することができ、スラリーがゲル化する現象は起こらず、他方では、これらの特殊な回折ピーク及び半値幅FWHMにより当該材料は特殊な格子面間隔及び輸送チャンネルを有し、材料の内部へのナトリウムイオンの輸送及び拡散のために十分なチャンネルを提供しており、電池の充放電プロセスにおいてナトリウムイオンはスムーズに放出されるようになり、ナトリウムイオン電池は優れた容量及びレート特性を有する。
【0049】
下記の実施例において使用する原料及び装置の提供は、表1に示すとおりであり、本発明において使用する原料は、特に説明がない限り、一般には市販される通常の化学用純度の試薬である。
【表1】
【0050】
なお、本発明の実施例のナトリウムイオン正極材料の比表面積の測定は、中国国家標准GB/T19587-2006のガス吸着BET法による固体物質の比表面積測定法を参照する。分析装置は、TristarII3020自動比表面積・細孔分布測定装置であり、測定パラメータとして、吸着物質は99.999%のNであり、冷却剤は液体窒素であり、P0を実測し、体積測定モードであり、吸着圧偏差は0.05mmHgであり、平衡時間は5秒であり、相対圧点の選択は、P/P0:0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.30であり、サンプルを前処理し、空のサンプル管+栓の質量を秤量してM1と記録し、サンプルを3.8~4.2g秤量し、3/8インチのバルブ付き9.5mm比表面積測定管に加え、FlowPrep 060脱気ステーションを用いて200℃に設定し、不活性ガスでパージし30分間加熱して脱気し、撤去し、室温に冷却してサンプル管+栓+サンプルの質量を秤量し、M2と記録し、サンプルの質量はM=M2-M1であり、ローディングして測定し、BET値を記録する。
【0051】
なお、本発明の実施例のナトリウムイオン正極材料のタップ密度(TD)の測定は、中国国家標准GB/T5162-2006の金属粉末タップ密度測定法を参照する。測定装置は、ZS-202タップ密度試験機である。TDの測定パラメータとして、振動数は3000回であり、振動周波数は250±10回/分であり、振幅は3±0.1mmであり、サンプルの秤量精度は50±0.5gであり、タップメスシリンダは100mLで精度は1mLであり、読み方は、最大及び最小の体積を読み取って算術平均を求め、計算式はρ=m/Vであり、結果は小数点以下2桁を保持する。
【0052】
なお、本発明の実施例のナトリウムイオン正極材料の粒径の測定は、中国国家標准GB/T19077-2016粒度分布・レーザー回折法を参照する。測定装置:Malvern、Master Size 2000レーザー式粒度分布測定装置。測定ステップ:1gの粉末を秤量して、60mLの純水に加え、5分間超音波処理し、サンプルをサンプルインジェクターに注入して測定し、測定データを記録した。測定条件:測定原理はミー(光散乱)理論(Mie theory)であり、検出角度は0~135°であり、超音波強度は40kHz 180Wであり、粒子屈折率は1.692であり、粒子吸收率は1であり、サンプル測定時間は6秒であり、バックグラウンド測定のスナップ数は6000回であり、遮光度は8~12%である。
【0053】
なお、本発明の実施例のナトリウムイオン正極材料における残留アルカリの測定方法は次のとおりである。30g±0.01gのサンプルを正確に秤量し、サンプルを250mLの三角フラスコに加え、撹拌子を入れて、100mLの脱イオン水を加える。マグネチックスターラーに置いて、装置を起動して30分間撹拌する。定性濾紙、漏斗で混合溶液を濾過する。1mLの濾液を取り出して100mLのビーカーに加え、撹拌子を入れる。ビーカーをマグネチックスターラーに置いて、2滴のフェノールフタレイン指示薬を加える。0.05mol/Lの塩酸標準液で、溶液の色が赤色から無色に変わるまで滴定し(V=0)、0.05mol/Lの塩酸標準液の体積V(終点1、V=V終1-V)を記録する。2滴のメチルレッド指示薬を加えて、溶液の色は無色から黄色に変わる。0.05mol/Lの塩酸標準液で、溶液の色が黄色からオレンジ色に変わるまで滴定する。ビーカーを加熱炉に置いて、溶液が沸騰する(溶液の色はオレンジ色から黄色に変わる)まで加熱する。ビーカーを撤去して、室温に冷却する。再びビーカーをマグネチックスターラーに置いて、0.05mol/Lの塩酸標準液で、溶液の色が黄色から淡赤色に変わるまで滴定し、0.05mol/Lの塩酸標準液の体積V(終点2、V=V終2-V終1)を記録する。
【0054】
遊離ナトリウムの含有量の計算式は次のとおりである。
Na(wt%)=(c(V+V)×10-3×M×100)/m×100%
NaCO(wt%)=(c×V×10-3×M×100)/m×100%
NaOH(wt%)=(c×(V-V)×10-3×M×100)/m×100%
Mは、ナトリウムの相対原子質量であり、Mは、炭酸ナトリウムの相対分子質量であり、Mは、水酸化ナトリウムの相対分子質量であり、mは、サンプルの質量で、単位はgであり、Vは、1つ目の滴定終点で、単位はmLであり、Vは、2つ目の滴定終点で、単位はmLであり、cは、塩酸標準液の濃度であり、単位はmol/Lであり、分子中の100は希釈倍率を表す。
【0055】
なお、本発明の実施例のナトリウムイオン正極材料のXRDの測定は、X’Pert PRO MPD回折装置を用いる。測定条件:Cu管球であり、波長は1.54060nmであり、Beウィンドウである。入射光路において、ソーラースリットは0.04radであり、発散スリットは1/2°であり、遮光板は10mmであり、散乱防止スリットは1°である。回折光路において、散乱防止スリットは8.0mmであり、ソーラースリットは0.04radであり、大型Niフィルターである。走査範囲は10~90°であり、走査ステップ幅は0.013°であり、1ステップあたりの測定時間は30.6秒であり、電圧は40kVであり、電流は40mAである。粉末サンプルの作製:清潔なサンプリングスプーンを用いて粉末をスライドガラスの凹溝に入れ(大粒子サンプルの場合は50μm未満の粉末に研磨する必要がある)、スクレーパーの片側(20mmを超える)をスライドガラスの表面に接触させ、他側をわずかに持ち上げて(夾角10°未満)、スクレーパーの縁部で粉末サンプルの表面をこすって平坦にし、スライドガラスを90°回転させて、再びこすって平坦にし、2つの方向において、サンプルの表面に模様がないよう複数回こすればよく、スライドガラスの周りの余分な粉末を除去し、粉末X線回折分析装置に入れる。サンプル分析:High-Score Plus分析ソフトウェアで、測定したサンプルファイルを開く。最初にバックグラウンドを決定し、ピーク検索を選択してピークを確認し、当てはめを繰り返し、Williamson-Hall plotを記録して結晶粒サイズを計算し、対応する相を選択して相をマッチングし単位胞を修正し、単位胞パラメータを記録する。測定原理:ブラッグの式は、回折線方向と結晶構造の関係性を反映する。回折が起こるにはブラッグの式:2dsinθ=nλ(d:格子面間隔、θ:ブラッグ角、λ:X線の波長、n:反射次数)を満たさなければならない。X線がサンプルに照射すると、結晶中の各原子の散乱X線が干渉して、特定の方向において強いX線回折線が生じる。X線が異なる角度からサンプルを照射する場合、異なる結晶面において回折が起こり、検出器は当該結晶面から反射されてくる回折光子の数を認識して、角度と強度の関係のパターンを得る。
【0056】
なお、本発明の実施例のナトリウムイオン正極材料における元素の含有量の測定は、誘導結合プラズマ法(ICP)を用いる。検出装置:ICP-OES iCAP 6300誘導結合プラズマ発光分析装置。検出条件:検出器の検出ユニットは29万個を超えており、検出器冷却システムのカメラ(Camera)温度は-35℃未満であり、光学系の光学室温度は38±0.1℃であり、光学系の波長範囲は166~847nmであり、プラズマ観察モードは縦観察であり、プラズマ観察の高さは14mmであり、RFパワーは1150Wであり、周波数は27.12MHzであり、サンプリングシステムの補助ガス流量は0.5L/分であり、サンプリングシステムの霧化ガス流量は0.6L/分であり、ポンプ速度は50rpmである。微量の測定ステップ:0.2000~0.2100gのサンプルを正確に秤量して50mLの石英ビーカーに入れ、10mLの1:1王水を加えて時計皿をかけて加熱炉において完全に溶解し、50mLのメスフラスコに移して定容し均等に振り混ぜ、ローディングして測定し、データを記録する。主量の測定:前記均等に振り混ぜた溶液を1mL取り出して100mLのメスフラスコに入れ、100mLに定容して、均等に振り混ぜる。ローディングして測定し、データを記録する。
【0057】
本発明のナトリウムイオン電池は、電極と、電解質と、セパレータと、アルミラミネートフィルムとによって構成される。具体的に言えば、その電極は正極及び負極を含み、正極は、正極集電体、正極集電体にコーティングされる正極活物質、接着剤、導電助剤などの材料から製造され、正極活物質は、本発明の正極材料である。負極は、集電体、集電体にコーティングされる負極活物質、接着剤、導電助剤などの材料から製造される。セパレータは、当分野で正極と負極を互いに隔離させるために一般に使用されるPP/PEフィルムである。アルミラミネートフィルムは、正極、負極、セパレータ及び電解質の被覆材である。
【0058】
本発明の接着剤は、主に正極活物質粒子同士間及び正極活物質粒子と集電体の接着性を改善させるために用いられる。本発明の接着剤は、当分野で使用される通常の接着剤の市販品を用いてもよい。具体的に言えば、接着剤は、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシ化ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシド含有ポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジェンゴム、アクリル酸(エステル)化スチレンブタジェンゴム、エポキシ樹脂、ナイロン又はその組み合わせから選ばれてもよい。
【0059】
本発明の導電助剤は、当分野で使用される通常の導電助剤の市販品を用いてもよい。具体的に言えば、導電助剤は、炭素系材料(例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック又は炭素繊維)、金属系材料(例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末又は金属繊維を含む)、導電性ポリマー(例えば、ポリフェニレン誘導体)又はその組み合わせから選ばれてもよい。
【0060】
下記の実施例では、本発明において製造される正極材料を用いてナトリウムイオンボタン電池を作製するための具体的な操作方法は次のとおりである。
正極の製造:本発明の正極材料と、接着剤ポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電性カーボンブラック(S.P)を重量比7:2:1の比率で充分に混合し、撹拌して均一なスラリーを形成させ、アルミ箔集電体にコーティングして、乾燥し、押圧して極板を得る。押圧後の正極板に対してプレス加工し、秤量して、ベーキングし、次に、真空グローブボックス内において電池を組み立て、まずボタン電池のベースを置き、ベースの上にニッケルフォーム(2.5mm)、負極の金属ナトリウムシート(メーカー:深セン友研科技有限公司)を置き、相対湿度1.5%未満の環境で0.5gの電解液を注入し、電解液は、炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)と炭酸ジメチル(DMC)の質量比が1:1:1である混合溶媒を用い、電解質は、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム溶液であり、セパレータ、正極板を置き、次に、ボタン電池のカバーをかけて、封止し、ボタン電池の型番はCR2430である。
【0061】
本発明において回折ピークの半値幅の単位は回折角度2θの単位と同じである。以下、特定の実施例を用いて、図面を参照しながら本発明をより詳細に説明する。
【0062】
(実施例1)
炭酸ナトリウム、炭酸マンガン、炭酸ニッケル、酸化第二鉄、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化銅を化学量論的モル比のNa:Mn:Ni:Fe:Zn:Ca:Cu=0.82:0.32:0.26:0.29:0.08:0.03:0.02で対応する量を秤量し、次に、比率通りに超高速多機能ミキサーに加え、回転速度は4000回転/分であり、30分間混合した。均一に混合した原料を空気雰囲気下において、常温から3℃/分の昇温速度で550℃に昇温して、4時間定温し、さらに5℃/分の昇温速度で950℃に昇温して、12時間定温し、次に、自然に冷却し、ディスク間の距離1.0mm、回転速度1800回転/分で粉砕し、篩分けして、分子式がNa0.82i0.26Mn0.32Zn0.08Fe0.29Ca0.03Cu0.02であるナトリウムイオン電池用正極材料を得る。
【0063】
図1は、本実施例のナトリウムイオン電池用正極材料のXRDパターンを示し、図から分かるように、回折角度2θ値の16.48°は2番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.13°であり、格子面間隔は5.374Åである。回折角度2θ値の30~40°では5つの回折ピークがあり、2θが31.71°である回折ピークの半値幅FWHMは0.13°であり、格子面間隔は2.820Åであり、2θが33.39°である回折ピークの半値幅FWHMは0.163°であり、格子面間隔は2.681Åであり、2θが34.49°である回折ピークの半値幅FWHMは0.37°であり、格子面間隔は2.598Åであり、2θが35.20°である回折ピークの半値幅FWHMは0.13°であり、格子面間隔は2.548Åであり、2θが36.54°である回折ピークの半値幅FWHMは0.114°であり、格子面間隔は2.457Åである。回折角度2θ値の41.56°は1番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.104°であり、格子面間隔は2.171Åである。回折角度2θ値の42~46°では2つの回折ピークが存在し、2θが42.72°である回折ピークの半値幅FWHMは0.18°であり、格子面間隔は2.115Åであり、2θが45.01°である回折ピークの半値幅FWHMは0.13°であり、格子面間隔は2.013Åである。2θが43°付近である回折ピークのピーク強度は2θが45°付近である回折ピークのピーク強度の0.87倍である。
【0064】
正極材料に対して測定し、残留アルカリの含有量は2.32%であり、比表面積BETは0.9m/gであり、粒径D50は8.5μmであり、タップ密度TDは1.65g/cmである。また、本実施例の正極材料からボタン電池を製造して、容量を測定し、図2は、4.0~2.0Vの条件下における本実施例の正極材料の0.1C/0.1Cの充放電曲線図である。
【0065】
(実施例2)
炭酸ナトリウム、炭酸マンガン、酸化ニッケル、シュウ酸第一鉄、酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化イットリウムを化学量論的モル比のNa:Mn:Ni:Fe:Zn:Ti:Y=0.78:0.32:0.27:0.297:0.083:0.02:0.01で対応する量を秤量し、次に、比率通りに超高速多機能ミキサーに加え、回転速度は1万回転/分であり、15分間混合し、均一に混合する。均一に混合した原料を空気雰囲気下において、5℃/分の昇温速度で500℃に昇温して、3時間定温し、さらに3℃/分の昇温速度で945℃に昇温して、16時間定温し、次に、自然に冷却し、ディスク間の距離1.5mm、回転速度2000回転/分で粉砕し、篩分けして、分子式がNa0.78Ni0.27Mn0.32Zn0.083Fe0.297Ti0.020.01であるナトリウムイオン電池用正極材料を得る。
【0066】
図3は、本実施例のナトリウムイオン電池用正極材料のXRDパターンを示し、図から分かるように、回折角度2θ値の16.55°は2番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.117°であり、格子面間隔は5.352Åである。回折角度2θ値の30~40°では4つの回折ピークがあり、2θが33.51°である回折ピークの半値幅FWHMは0.12°であり、格子面間隔は2.672Åであり、2θが35.14°である回折ピークの半値幅FWHMは0.101°であり、格子面間隔は2.552Åであり、2θが36.50°である回折ピークの半値幅FWHMは0.102°であり、格子面間隔は2.460Åであり、2θが37.37°である回折ピークの半値幅FWHMは0.110°であり、格子面間隔は2.404Åである。回折角度2θ値の41.55°は1番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.1°であり、格子面間隔は2.172Åである。回折角度2θ値の42~46°では2つの回折ピークが存在し、2θが42.77°である回折ピークの半値幅FWHMは0.17°であり、格子面間隔は2.112Åであり、2θが45.03°である回折ピークの半値幅FWHMは0.09°であり、格子面間隔は2.012Åである。2θが43°付近である回折ピークのピーク強度は2θが45°付近である回折ピークのピーク強度の1.38倍である。
【0067】
正極材料に対して測定し、残留アルカリの含有量は2.08%であり、比表面積BETは0.77m/gであり、粒径D50は11.0μmであり、タップ密度TDは2.2g/cmである。また、本実施例の正極材料からボタン電池を製造して、容量を測定し、図4は、4.0~2.0Vの条件下における本実施例の正極材料の0.1C/0.1Cの充放電曲線図である。
【0068】
(実施例3)
炭酸ナトリウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化第二鉄、酸化亜鉛、二酸化チタンを化学量論的モル比のNa:Mn:Ni:Fe:Zn:Ti=0.81:0.32:0.24:0.286:0.098:0.056で対応する量を秤量し、次に、比率通りに超高速多機能ミキサーに加え、回転速度は1万4000回転/分であり、25分間混合し、均一に混合する。均一に混合した原料を空気雰囲気下において、6℃/分の昇温速度で540℃に昇温して、7時間定温し、さらに4℃/分の昇温速度で974℃に昇温して、10時間定温し、次に、自然に冷却し、ディスク間の距離0.6mm、回転速度2000回転/分で粉砕し、篩分けして、分子式がNa0.81Ni0.24Mn0.32Ti0.056Zn0.098Fe0.286である正極材料を得る。
【0069】
図5は、本実施例の正極材料のXRDパターンを示し、図から分かるように、回折角度2θ値の16.4°は2番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.122°であり、格子面間隔は5.378Åである。回折角度2θ値の30~40°では3つの回折ピークがあり、2θが33.3°である回折ピークの半値幅FWHMは0.131°であり、格子面間隔は2.685Åであり、2θが35.3°である回折ピークの半値幅FWHMは0.258°であり、格子面間隔は2.541Åであり、2θが36.6°である回折ピークの半値幅FWHMは0.233°であり、格子面間隔は2.452Åである。回折角度2θ値の41.5°は1番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.222°であり、格子面間隔は2.169Åである。回折角度2θ値の42~46°では2つの回折ピークが存在し、2θが42.9°である回折ピークの半値幅FWHMは0.088°であり、格子面間隔は2.103Åであり、2θが45.0°である回折ピークの半値幅FWHMは0.218°であり、格子面間隔は2.009Åである。2θが43°付近である回折ピークのピーク強度は2θが45°付近である回折ピークのピーク強度の0.84倍である。
【0070】
正極材料に対して測定し、残留アルカリの含有量は2.98%であり、比表面積BETは0.64m/gであり、粒径D50は4.6μmであり、タップ密度TDは1.5g/cmである。また、本実施例の正極材料からボタン電池を製造して、容量を測定し、図6は、4.0~2.0Vの条件下における本実施例の正極材料の0.1C/0.1Cの充放電曲線図である。
【0071】
(実施例4)
硝酸ナトリウム、三酸化二マンガン、シュウ酸ニッケル、シュウ酸第一鉄、二酸化チタン、酸化アルミニウムを化学量論的モル比のNa:Mn:Ni:Fe:Ti:Al=0.78:0.22:0.41:0.19:0.17:0.01で対応する量を秤量し、次に、比率通りに超高速多機能ミキサーに加え、回転速度は1万7000回転/分であり、45分間混合し、均一に混合する。均一に混合した原料を空気と酸素の混合雰囲気下において2℃/分の昇温速度で580℃に昇温して、6時間定温し、さらに5℃/分の昇温速度で890℃に昇温して、18時間定温し、次に、自然に冷却し、ディスク間の距離0.8mm、回転速度1800回転/分で粉砕し、篩分けして、分子式がNa0.78Ni0.41Fe0.19Mn0.22Ti0.17Al0.01である正極材料を得る。
【0072】
図7は、本実施例の正極材料のXRDパターンを示し、図から分かるように、回折角度2θ値の16.39°は2番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.130°であり、格子面間隔は5.403Åである。回折角度2θ値の30~40°では4つの回折ピークがあり、2θが33.18°である回折ピークの半値幅FWHMは0.151°であり、格子面間隔は2.698Åであり、2θが35.21°である回折ピークの半値幅FWHMは0.125°であり、格子面間隔は2.547Åであり、2θが36.53°である回折ピークの半値幅FWHMは0.125°であり、格子面間隔は2.458Åであり、2θが37.20°である回折ピークの半値幅FWHMは0.087°であり、格子面間隔は2.415Åである。回折角度2θ値の41.48°は1番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.098°であり、格子面間隔は2.175Åである。回折角度2θ値の42~46°では2つの回折ピークが存在し、2θが43.22°である回折ピークの半値幅FWHMは0.081°であり、格子面間隔は2.092Åであり、2θが44.91°である回折ピークの半値幅FWHMは0.09°であり、格子面間隔は2.017Åである。2θが43°付近である回折ピークのピーク強度は2θが45°付近である回折ピークのピーク強度の6.56倍である。
【0073】
正極材料に対して測定し、残留アルカリの含有量は3.35%であり、比表面積BETは0.55m/gであり、粒径D50は5.5μmであり、タップ密度TDは1.85g/cmである。また、本実施例の正極材料からボタン電池を製造して、容量を測定し、図8は、4.0~2.0Vの条件下における本実施例の正極材料の0.1C/0.1Cの充放電曲線図である。
【0074】
(実施例5)
炭酸ナトリウム、シュウ酸マンガン、シュウ酸ニッケル、シュウ酸第一鉄、酸化チタン、三酸化二ホウ素を化学量論的モル比のNa:Mn:Ni:Fe:Ti:B=0.88:0.204:0.454:0.2:0.137:0.005で対応する量を秤量し、次に、比率通りに超高速多機能ミキサーに加え、回転速度は2万回転/分であり、60分間混合し、均一に混合する。均一に混合した原料を空気と酸素の混合雰囲気下において6℃/分の昇温速度で600℃に昇温して、3時間定温し、さらに8℃/分の昇温速度で850℃に昇温して、36時間定温し、次に、自然に冷却し、ディスク間の距離0.4mm、回転速度2200回転/分で粉砕し、篩分けして、分子式がNa0.88Ni0.454Mn0.204Ti0.137Fe0.20.005である正極材料を得る。
【0075】
図9は、本実施例の正極材料のXRDパターンを示し、図から分かるように、回折角度2θ値の16.53°は2番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.126°であり、格子面間隔は5.359Åである。回折角度2θ値の30~40°では4つの回折ピークがあり、2θが33.46°である回折ピークの半値幅FWHMは0.121°であり、格子面間隔は2.676Åであり、2θが35.07°である回折ピークの半値幅FWHMは0.121°であり、格子面間隔は2.557Åであり、2θが36.42°である回折ピークの半値幅FWHMは0.127°であり、格子面間隔は2.465Åであり、2θが37.20°である回折ピークの半値幅FWHMは0.110°であり、格子面間隔は2.415Åである。回折角度2θ値の41.46°は1番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.118°であり、格子面間隔は2.176Åである。回折角度2θ値の42~46°では2つの回折ピークが存在し、2θが43.23°である回折ピークの半値幅FWHMは0.107°であり、格子面間隔は2.091Åであり、2θが44.93°である回折ピークの半値幅FWHMは0.14°であり、格子面間隔は2.016Åである。2θが43°付近である回折ピークのピーク強度は2θが45°付近である回折ピークのピーク強度の4.14倍である。
【0076】
正極材料に対して測定し、残留アルカリの含有量は3.47%であり、比表面積BETは0.99m/gであり、粒径D50は3.6μmであり、タップ密度TDは1.6g/cmである。また、本実施例の正極材料からボタン電池を製造して、容量を測定し、図10は、4.0~2.0Vの条件下における本実施例の正極材料の0.1C/0.1Cの充放電曲線図である。
【0077】
(実施例6)
炭酸ナトリウム、シュウ酸マンガン、シュウ酸ニッケル、シュウ酸第一鉄、二酸化チタン、酸化亜鉛を化学量論的モル比のNa:Mn:Ni:Fe:Ti:Zn=0.8:0.21:0.38:0.2:0.14:0.07で対応する量を秤量し、次に、比率通りに超高速多機能ミキサーに加え、回転速度は2万5000回転/分であり、30分間混合し、均一に混合する。均一に混合した原料を空気と酸素の混合雰囲気下において4℃/分の昇温速度で520℃にし、5時間定温し、さらに7℃/分の昇温速度で910℃にして40時間定温し、次に、自然に冷却し、ディスク間の距離0.4mm、回転速度2200回転/分で粉砕し、篩分けして、分子式がNa0.8Ni0.38Mn0.21Ti0.14Fe0.2Zn0.071.85である正極材料を得る。
【0078】
図11は、本実施例の正極材料のXRDパターンを示し、図から分かるように、回折角度2θ値の16.48°は2番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.157°であり、格子面間隔は5.374Åである。回折角度2θ値の30~40°では4つの回折ピークがあり、2θが33.37°である回折ピークの半値幅FWHMは0.164°であり、格子面間隔は2.683Åであり、2θが35.16°である回折ピークの半値幅FWHMは0.175°であり、格子面間隔は2.550Åであり、2θが36.50°である回折ピークの半値幅FWHMは0.158°であり、格子面間隔は2.460Åであり、2θが37.23°である回折ピークの半値幅FWHMは0.110°であり、格子面間隔は2.413Åである。回折角度2θ値の41.50°は1番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.139°であり、格子面間隔は2.174Åである。回折角度2θ値の42~46°では2つの回折ピークが存在し、2θが43.25°である回折ピークの半値幅FWHMは0.102°であり、格子面間隔は2.09Åであり、2θが44.96°である回折ピークの半値幅FWHMは0.12°であり、格子面間隔は2.015Åである。2θが43°付近である回折ピークのピーク強度は2θが45°付近である回折ピークのピーク強度の6.01倍である。
【0079】
正極材料に対して測定し、残留アルカリの含有量は2.71%であり、比表面積BETは0.90m/gであり、粒径D50は3.5μmであり、タップ密度TDは1.72g/cmである。また、本実施例の正極材料からボタン電池を製造して、容量を測定し、図12は、4.0~2.0Vの条件下における本実施例の正極材料の0.1C/0.1Cの充放電曲線図である。
【0080】
(比較例1)
硝酸ナトリウム、三酸化二マンガン、シュウ酸ニッケル、シュウ酸第一鉄、酸化銅、酸化亜鉛を化学量論的モル比のNa:Mn:Ni:Fe:Cu:Zn=0.87:0.32:0.23:0.29:0.15:0.01で対応する量を秤量し、次に、比率通りに超高速多機能ミキサーに加え、回転速度は1万7000回転/分であり、45分間混合し、均一に混合する。均一に混合した原料を空気と酸素の混合雰囲気下において、5℃/分の昇温速度で850℃に昇温して、20時間定温し、次に、自然に冷却し、ディスク間の距離0.9mm、回転速度1800回転/分で粉砕し、篩分けして、分子式がNa0.87Ni0.23Fe0.29Mn0.32Cu0.15Zn0.01である正極材料を得る。
【0081】
図13は、本実施例の正極材料のXRDパターンを示し、図から分かるように、回折角度2θ値の16.52°は2番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.120°であり、格子面間隔は5.3613Åである。回折角度2θ値の30~40°では4つの回折ピークがあり、2θが33.44°である回折ピークの半値幅FWHMは0.149°であり、格子面間隔は2.677Åであり、2θが35.22°である回折ピークの半値幅FWHMは0.124°であり、格子面間隔は2.546Åであり、2θが36.56°である回折ピークの半値幅FWHMは0.115°であり、格子面間隔は2.455Åであり、2θが38.67°である回折ピークの半値幅FWHMは0.18°であり、格子面間隔は2.326Åである。回折角度2θ値の41.58°は1番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.089°であり、格子面間隔は2.169Åである。回折角度2θ値の42~46°では1つの回折ピークが存在し、2θが45.055°である回折ピークの半値幅FWHMは0.07°であり、格子面間隔は2.01Åである。
【0082】
正極材料に対して測定し、残留アルカリの含有量は4.19%であり、比表面積BETは0.64m/gであり、粒径D50は7.1μmであり、タップ密度TDは1.98g/cmである。また、本実施例の正極材料からボタン電池を製造して、容量を測定し、図14は、4.0~2.0Vの条件下における本実施例の正極材料の0.1C/0.1Cの充放電曲線図である。
【0083】
(比較例2)
炭酸ナトリウム、炭酸マンガン、炭酸ニッケル、酸化第二鉄、二酸化チタン、三酸化二ホウ素を化学量論的モル比のNa:Mn:Ni:Fe:Ti:B=0.86:0.15:0.33:0.28:0.23:0.01で対応する量を秤量し、次に、比率通りに超高速多機能ミキサーに加え、回転速度は2万5000回転/分であり、30分間混合し、均一に混合する。均一に混合した原料を空気と酸素の混合雰囲気下において、4℃/分の昇温速度で520℃に昇温して、5時間定温し、さらに7℃/分の昇温速度で830℃に昇温して、6時間定温し、次に、自然に冷却し、ディスク間の距離0.9mm、回転速度1800回転/分で粉砕し、篩分けして、分子式がNa0.86Ni0.33Mn0.15Ti0.23Fe0.280.01である正極材料を得る。
【0084】
図15は、本実施例の正極材料のXRDパターンを示し、図から分かるように、回折角度2θ値の16.54°は2番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.148°であり、格子面間隔は5.353Åである。回折角度2θ値の30~40°では5つの回折ピークがあり、2θが32.3°である回折ピークの半値幅FWHMは0.160°であり、格子面間隔は2.767Åであり、2θが33.47°である回折ピークの半値幅FWHMは0.156°であり、格子面間隔は2.674Åであり、2θが34.95°である回折ピークの半値幅FWHMは0.22°であり、格子面間隔は2.565Åであり、2θが36.29°である回折ピークの半値幅FWHMは0.213°であり、格子面間隔は2.473Åであり、2θが37.18°である回折ピークの半値幅FWHMは0.13°であり、格子面間隔は2.416Åである。回折角度2θ値の41.36°は1番目に強いピークであり、半値幅FWHMは0.207°であり、格子面間隔は2.183Åである。回折角度2θ値の42~46°では2つの回折ピークが存在し、2θが43.2°である回折ピークの半値幅FWHMは0.12°であり、格子面間隔は2.093Åであり、2θが44.81°である回折ピークの半値幅FWHMは0.40°であり、格子面間隔は2.021Åである。2θが43°付近である回折ピークのピーク強度は2θが45°付近である回折ピークのピーク強度の6.91倍である。
【0085】
正極材料に対して測定し、残留アルカリの含有量は4.07%であり、比表面積BETは0.45m/gであり、粒径D50は7.0μmであり、タップ密度TDは1.89g/cmである。また、本実施例の正極材料からボタン電池を製造して、容量を測定し、図16は、4.0~2.0Vの条件下における本実施例の正極材料の0.1C/0.1Cの充放電曲線図である。
【表2】
【0086】
表2から分かるように、本発明によって提供されるナトリウムイオン電池用正極材料は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeの化学式を有し、改質元素Zn又はTi及び他にA元素を加えて材料の構造安定性を改善することにより、O3層状構造材料のXRD回折ピークを備えるとともに、回折角度2θ値の42~46°では2つの特殊な回折ピークが存在する。これらの特殊な回折ピークはナトリウムイオンの輸送に安定的なチャンネルを提供しており、ナトリウムイオンが材料の内部へ充分に輸送及び拡散されることで、材料の表面に遊離するナトリウムイオンの含有量を低減しており、残留アルカリ量は3.5%以下になり、材料は湿度が比較的高い環境でも、水分を吸収して劣化しにくく、電池スラリーの作製プロセスではゲル化の現象が起こらず、スラリーの安定性を向上させている。
【0087】
本発明のナトリウムイオン電池用正極材料は、前記特定の化学式及び特殊なXRD構造を有し、ナトリウムイオン電池の充放電プロセスでは、ナトリウムイオンが頻繁に放出されるため、結晶構造が収縮することはなく、放出されたナトリウムイオンは結晶構造に戻ることができ、また、比較的低い残留アルカリ量を有するため、ナトリウムイオン電池として製造された後には電解液との副反応が低減され、ナトリウムイオン電池は比較的高い容量及び良好なレート特性を有することが保証される。
【0088】
出願人は、上述したのは本発明を実施するための形態に過ぎず、本発明の請求範囲はこれに限定されないと主張し、当業者には、本発明において開示される技術範囲内で当業者が想到しやすい変更又は置換が、いずれも本発明の請求範囲及び開示範囲に入ることが自明なはずである。
【0089】
(付記)
(付記1)
ナトリウムイオン電池用正極材料であって、
前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFe2+iであり、式中、-0.40≦a≦0.25、0.08<x<0.5、0.05<y<0.5、0.0<z<0.26、-0.3≦i≦0.3であり、Aは、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれ、ただし、前記ナトリウムイオン電池用正極材料において、回折角度2θ値の42~46°では少なくとも2つの回折ピークがあり、前記2つの回折ピークの回折角度2θ値は、それぞれ、43°付近、45°付近であることを特徴とするナトリウムイオン電池用正極材料。
【0090】
(付記2)
前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeであり、式中、-0.40≦a≦0.20、0.08<x<0.48、0.05<y<0.45、0.01<z<0.24であり、Aは、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれることを特徴とする付記1に記載のナトリウムイオン電池用正極材料。
【0091】
(付記3)
前記A元素は、Zn元素及びM元素を含有し、ただし、Zn元素の含有量はbで表し、Zn元素とM元素の総含有量はzであり、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeZnz-bであり、式中、-0.40≦a≦0.25、0.08<x<0.5、0.05<y<0.5、0.0<z<0.26、0<b≦0.10であり、Mは、Ti、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれ、好ましくは、式中、-0.40≦a≦0.20、0.08<x<0.48、0.05<y<0.45、0.01<z<0.24であり、
且つ/又は、前記A元素は、Ti元素及びN元素を含有し、ただし、Ti元素の含有量はcで表し、Ti元素とN元素の総含有量はzであり、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeTiz-cであり、式中、-0.40≦a≦0.25、0.08<x<0.5、0.05<y<0.5、0.0<z<0.26、0<c<0.24であり、Nは、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれ、好ましくは、式中、-0.40≦a≦0.20、0.08<x<0.48、0.05<y<0.45、0.01<z<0.24であり、
且つ/又は、前記A元素は、Ti元素、Zn元素及びX元素を含有し、ただし、Zn元素の含有量はbで表し、Ti元素の含有量はcで表し、Ti元素、Zn元素とX元素の総含有量はzであり、前記正極材料の一般式は、Na1+aNi1-x-y-zMnFeZnTiz-b-cであり、式中、-0.40≦a≦0.25、0.08<x<0.5、0.05<y<0.5、0.0<z<0.26、0<b≦0.1、0≦c<0.24であり、Xは、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の組み合わせから選ばれ、好ましくは、式中、-0.40≦a≦0.20、0.08<x<0.48、0.05<y<0.45、0.01<z<0.24であり、
好ましくは、ただし、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粉末X線回折パターンは、α-NaFeO型層状構造であることを示すことを特徴とする付記1に記載のナトリウムイオン電池用正極材料。
【0092】
(付記4)
前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粉末X線回折パターンにおいて、回折角度2θ値が42~46°である2つの回折ピークの半値幅FWHMは、0.06~0.3°であり、好ましくは、半値幅FWHMは、0.06~0.25°であり、
且つ/又は、回折角度2θ値が42~46°である2つの回折ピークの格子面間隔は、1.5~3.0Åであり、好ましくは、回折角度2θ値が42~46°である2つの回折ピークの格子面間隔は、1.8~2.8Åであり、より好ましくは、回折角度2θ値が42~46°である2つの回折ピークの格子面間隔は、1.8~2.3Åであることを特徴とする付記1~3のいずれか1つに記載のナトリウムイオン電池用正極材料。
【0093】
(付記5)
前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粉末X線回折パターンにおいて、回折ピークの半値幅FWHMは、次の特徴のうちの1種又は2種以上があり、
(1)回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.08~0.18°であり、好ましくは、0.08~0.15°であり、
(2)回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの半値幅FWHMは、0.09~0.22°であり、好ましくは、0.09~0.20°であり、
(3)回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの強度と回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの強度の比の値は、0.1~12.0であり、好ましくは、回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの強度と回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの強度の比の値は、0.1~10.0であり、より好ましくは、回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの強度と回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの強度の比の値は、0.5~6.6であり、さらに好ましくは、回折角度2θ値が43°付近である回折ピークの強度と回折角度2θ値が45°付近である回折ピークの強度の比の値は、4~6.6であることを特徴とする付記1~3のいずれか1つに記載のナトリウムイオン電池用正極材料。
【0094】
(付記6)
前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粉末X線回折パターンにおいて、回折角度2θ値の30~40°では3つ~5つの回折ピークがあり、
好ましくは、回折角度2θ値の30~40°では3つの回折ピークがあり、その回折角度2θ値は、それぞれ、33°付近、35°付近、36°付近であり、好ましくは、その回折角度2θ値は、それぞれ、33.3°付近、35.3°付近、36.6°付近であり、
又は、
回折角度2θ値の30~40°では4つの回折ピークがあり、その回折角度2θ値は、それぞれ、33°付近、35°付近、36°付近、37°付近であり、好ましくは、その回折角度2θ値は、それぞれ、33.3°付近、35.3°付近、36.6°付近、37.4°付近であり、
又は、
回折角度2θ値の30~40°では5つの回折ピークがあり、その回折角度2θ値は、それぞれ、32°付近、33°付近、34°付近、35°付近、37°付近であり、好ましくは、その回折角度2θ値は、それぞれ、31.7°付近、33.4°付近、34.5°付近、35.2°付近、36.6°付近であることを特徴とする付記1~3のいずれか1つに記載のナトリウムイオン電池用正極材料。
【0095】
(付記7)
前記ナトリウムイオン電池用正極材料におけるMn元素の質量パーセント含有量は、3~28%であり、好ましくは、前記Mn元素の質量パーセント含有量は、4~25%であり、より好ましくは、前記Mn元素の質量パーセント含有量は、4~22%であり、
且つ/又は、前記Fe元素の質量パーセント含有量は、3~28%であり、好ましくは、前記Fe元素の質量パーセント含有量は、4~25%であり、
且つ/又は、前記Ni元素の質量パーセント含有量は、3~27%であり、好ましくは、前記Ni元素の質量パーセント含有量は、5~25%であり、より好ましくは、前記Ni元素の質量パーセント含有量は、7~24%であることを特徴とする付記1~3のいずれか1つに記載のナトリウムイオン正極材料。
【0096】
(付記8)
前記ナトリウムイオン電池用正極材料の残留アルカリの総含有量は、3.5%未満であり、好ましくは、3.0%未満であることを特徴とする付記1~3のいずれか1つに記載のナトリウムイオン電池用正極材料。
【0097】
(付記9)
前記ナトリウムイオン電池用正極材料の比表面積は、0.2~1.3m/gであり、
且つ/又は、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の粒径D50は、2~18μmであり、好ましくは、3~15μmであり、
且つ/又は、前記ナトリウムイオン電池用正極材料のタップ密度は、1.0~2.9g/cmであり、好ましくは、前記ナトリウムイオン電池用正極材料のタップ密度は、1.0~2.6g/cmであることを特徴とする付記1~3のいずれか1つに記載のナトリウムイオン電池用正極材料。
【0098】
(付記10)
Na源、Ni源、Mn源、Fe源及びA源を一定の比率で混合し、焼成して、冷却し、粉砕して、ナトリウムイオン電池用正極材料を得るステップを含み、
ただし、前記混合では、固相混合法又は液相混合法を採用することを特徴とする付記1~3のいずれか1つに記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【0099】
(付記11)
前記焼成は、2つのステップに分かれ、ステップ1では、原料を450~650℃の焼成温度で前処理し、且つ/又は、焼成の時間は3~10時間であり、ステップ2では、焼成後の原料を850~950℃の温度で焼成し、且つ/又は、焼成の時間は8~40時間であり、
好ましくは、1~10℃/分の昇温速度で前記ステップ1の焼成温度に昇温して定温焼成を行い、且つ/又は、1~10℃/分の昇温速度で前記ステップ2の焼成温度に昇温して定温焼成を行うことを特徴とする付記10に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【0100】
(付記12)
前記粉砕のディスク間の距離は、0~2mmであり、回転速度は、500~3000回転/分であり、好ましくは、ディスク間の距離は、0~1.5mmであり、回転速度は、1000~2800回転/分であることを特徴とする付記10に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【0101】
(付記13)
前記ナトリウム源は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、塩化ナトリウム、フッ化ナトリウム及び酢酸ナトリウムから1種又は2種以上選ばれることを特徴とする付記10に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【0102】
(付記14)
前記A源は、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上の元素の酸化物又はそれらの塩又はそれらの有機化合物から選ばれ、
好ましくは、前記A源は、Ti、Zn、Co、Al、Zr、Y、Ca、Li、Rb、Cs、W、Ce、Mo、Ba、Mg、Ta、Nb、V、Sc、Sr、B及びCu元素のうちの1種又は2種以上元素の炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩又は酸化物から選ばれ、
より好ましくは、前記A源は、酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化銅、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、三酸化二ホウ素、酸化バリウム、酸化ニオブ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウムから1種又は2種以上選ばれることを特徴とする付記10に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【0103】
(付記15)
付記10に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法によって製造されるナトリウムイオン正極材料。
【0104】
(付記16)
付記1~3のいずれか1つに記載の、又は付記15に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の少なくとも1種を正極活物質として含むことを特徴とするナトリウムイオン電池の正極。
【0105】
(付記17)
付記16に記載のナトリウムイオン電池の正極と、負極と、ナトリウム塩含有電解質とを含むことを特徴とするナトリウムイオン電池。
【0106】
(付記18)
付記22に記載のナトリウムイオン電池を備えることを特徴とする光起電力システム、電力システム、エネルギー貯蔵システム又はモバイルストレージデバイス、又はローエンド電気自動車。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【外国語明細書】