(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166334
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】ヒドロゲル製造キットおよびヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
C08L 1/08 20060101AFI20231114BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20231114BHJP
C08L 89/00 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C08L1/08
C08K5/17
C08L89/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073653
(22)【出願日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2022076999
(32)【優先日】2022-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (A)令和4年5月10日に、第71回高分子学会年次大会 予稿にて発表 (B)令和4年5月27日に、第71回高分子学会年次大会にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 亨
(72)【発明者】
【氏名】川崎 詩歩
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB01W
4J002AB05X
4J002AD01X
4J002EE016
4J002GB01
4J002GB04
(57)【要約】
【課題】本発明は、迅速にゲル化することができ、且つ高強度と自己修復性を有するヒドロゲル、及びかかるヒドロゲルを製造するためのキットを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るヒドロゲルは、特定の末端アルデヒド化樹状化合物またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物と、2以上のアミノ基を有するポリアミノ化合物とのシッフ塩基化合物を含有することを特徴とし、本発明に係るヒドロゲル製造キットは、特定の末端アルデヒド化樹状化合物またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物を含む組成物A、及び、2以上のアミノ基を有するポリアミノ化合物を含む組成物Bを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される末端アルデヒド化樹状化合物またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物を含む組成物A、
【化1】
[式中、
R
1はn価の有機基を示し、
R
2は、アルデヒド基、又は下記式(II)で表される基を示し、
【化2】
(式中、
R
3とR
4は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(III)で表される基を示し、
R
5とR
6は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(IV)で表される基を示し、
R
7とR
8は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(V)で表される基を示し、
R
9とR
10は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(VI)で表される基を示す。)
を示し、
nは、2以上、6以下の整数を示す。]
及び、2以上のアミノ基を有するポリアミノ化合物を含む組成物Bを含むことを特徴とするヒドロゲル製造キット。
【請求項2】
下記式(I)で表される末端アルデヒド化樹状化合物またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物と、
【化3】
[式中、
R
1はn価の有機基を示し、
R
2は、アルデヒド基、又は下記式(II)で表される基を示し、
【化4】
(式中、
R
3とR
4は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(III)で表される基を示し、
R
5とR
6は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(IV)で表される基を示し、
R
7とR
8は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(V)で表される基を示し、
R
9とR
10は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(VI)で表される基を示す。)
を示し、
nは、2以上、6以下の整数を示す。]
2以上のアミノ基を有するポリアミノ化合物とのシッフ塩基化合物を含有することを特徴とするヒドロゲル。
【請求項3】
R1がn価C2-12飽和脂肪族炭化水素基である請求項1に記載のヒドロゲル製造キットまたは請求項2に記載のヒドロゲル。
【請求項4】
nが3または4の整数である請求項1に記載のヒドロゲル製造キットまたは請求項2に記載のヒドロゲル。
【請求項5】
ポリアミノ化合物がグリコールキトサンである請求項1に記載のヒドロゲル製造キットまたは請求項2に記載のヒドロゲル。
【請求項6】
更に天然高分子を含む請求項2に記載のヒドロゲル。
【請求項7】
天然高分子が、ゼラチン、コラーゲン、寒天、ヒアルロン酸、及びコンドロイチン硫酸からなる群より選択される1以上の天然高分子である請求項6に記載のヒドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、迅速にゲル化することができ、且つ高強度と自己修復性を有するヒドロゲル、及びかかるヒドロゲルを製造するためのキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲルとは、媒体として水を含有するゲルの総称であり、高い含水率や柔軟な弾性から、生化学環境を模倣するマトリックスや、ドラッグ・デリバリー・システムのための材料として注目されている。また、超分子ゲルは、分子同士が水素結合や動的可逆結合などの非共有結合により集積した分子集合体であり、ゲル同士が結着して一体化する自己修復性を示す。特に、天然多糖をベースとする超分子ゲルは、生分解性や生体適合性に基づいて、再生医療領域での応用が期待されている。
【0003】
生細胞を内包するヒドロゲルとしては、アルギン酸と細胞を塩化カルシウム水溶液に滴下して作製されるものがあった。しかし、アルギン酸カルシウムゲルは、細胞培養中に崩壊するなど安定性に問題があった。
【0004】
近年、細胞の塊を3Dデータ通りに積み上げて、立体的な組織や臓器を製造するバイオ3Dプリンタ技術が開発されている。バイオ3Dプリンタ用のインクとしては、重合性官能基を有するゼラチン、コンドロイチン硫酸などの多糖類、及び細胞の混合物が挙げられる。かかるバイオ3Dプリンタ用インクは、造形後、光架橋によりゲル化される。しかし、光架橋されたゲルは当然に自己修復性を示さない。
【0005】
本発明者らは、樹状ポリグリセロールとグリコールキトサンを混合することによりゲルが得られることを見出している(非特許文献1)。樹状ポリグリセロールとグリコールキトサンは共に安全な化合物であることから、かかるゲルは生体材料としての利用が期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ik Sung Cho and Tooru Ooya,Chem.Asian J.,2018,13,1688-1691
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、本発明者らは、樹状ポリグリセロールとグリコールキトサンからなる安全な超分子ヒドロゲルを開発している。しかし、超分子ヒドロゲルの実用化に向けて、より迅速なゲル化と自己修復性や、高強度が求められている。
そこで、本発明は、迅速にゲル化することができ、且つ高強度と自己修復性を有するヒドロゲル、及びかかるヒドロゲルを製造するためのキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、樹状ポリグリセロールの末端または水溶性セルロース化合物を酸化によりアルデヒド化することにより、より迅速なゲル化と自己修復性が達成され、且つ得られたゲルは高強度を有することを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0009】
[1] 下記式(I)で表される末端アルデヒド化樹状化合物またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物を含む組成物A、
【化1】
[式中、
R
1はn価の有機基を示し、
R
2は、アルデヒド基、又は下記式(II)で表される基を示し、
【化2】
(式中、
R
3とR
4は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(III)で表される基を示し、
R
5とR
6は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(IV)で表される基を示し、
R
7とR
8は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(V)で表される基を示し、
R
9とR
10は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(VI)で表される基を示す。)
を示し、
nは、2以上、6以下の整数を示す。]
及び、2以上のアミノ基を有するポリアミノ化合物を含む組成物Bを含むことを特徴とするヒドロゲル製造キット。
[2] 下記式(I)で表される末端アルデヒド化樹状化合物またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物と、
【化3】
[式中、
R
1はn価の有機基を示し、
R
2は、アルデヒド基、又は下記式(II)で表される基を示し、
【化4】
(式中、
R
3とR
4は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(III)で表される基を示し、
R
5とR
6は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(IV)で表される基を示し、
R
7とR
8は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(V)で表される基を示し、
R
9とR
10は、独立して、ホルミルメチル基、又は式(VI)で表される基を示す。)
を示し、
nは、2以上、6以下の整数を示す。]
2以上のアミノ基を有するポリアミノ化合物とのシッフ塩基化合物を含有することを特徴とするヒドロゲル。
[3] R
1がn価C
2-12飽和脂肪族炭化水素基である上記[1]に記載のヒドロゲル製造キットまたは上記[2]に記載のヒドロゲル。
[4] nが3または4の整数である上記[1]に記載のヒドロゲル製造キットまたは上記[2]に記載のヒドロゲル。
[5] ポリアミノ化合物がグリコールキトサンである上記[1]に記載のヒドロゲル製造キットまたは上記[2]に記載のヒドロゲル。
[6] 更に天然高分子を含む上記[2]に記載のヒドロゲル。
[7] 天然高分子が、ゼラチン、コラーゲン、寒天、ヒアルロン酸、及びコンドロイチン硫酸からなる群より選択される1以上の天然高分子である上記[6]に記載のヒドロゲル。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るヒドロゲルは、二剤を混合することで速やかにゲル化する。また、本発明に係る2以上のヒドロゲルを接触させることにより、短時間で互いに接着するという優れた自己修復性が発揮される。よって、細胞を含む本発明に係る2以上のヒドロゲルを成形し、互いに接着することにより、1つの人工組織や人工臓器を作製することも可能になる。更に、本発明に係るヒドロゲルは高強度を有するため、例えば細胞培養中に形状が崩壊するといった懸念も少ないと考えられる。よって本発明は、特に生体材料やドラッグ・デリバリー・システムなどに利用可能なヒドロゲルとして、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、末端アルデヒド化樹状化合物PGDとグリセロールキトサン(GC)を混合して得られたゲルの写真である。
【
図2】
図2は、末端アルデヒド化樹状化合物PGDとグリセロールキトサン(GC)の混合割合を違えて作製したゲルの経時的な重量変化を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明に係るヒドロゲルを互いに接着した様子を示す写真である。
【
図4】
図4は、(1)本発明に係る1層末端アルデヒド化樹状化合物PGD(G1)とグリセロールキトサン(GC)を混合して得られたゲルと、(2)本発明に係る4層末端アルデヒド化樹状化合物PGD(G4)とグリセロールキトサン(GC)を混合して得られたゲルの角周波数掃引測定結果である。
【
図5】
図5は、(1)本発明に係る1層末端アルデヒド化樹状化合物PGD(G1)とグリセロールキトサン(GC)を混合して得られたゲルと、(2)本発明に係る4層末端アルデヒド化樹状化合物PGD(G4)とグリセロールキトサン(GC)を混合して得られたゲルのひずみ掃引測定結果である。
【
図6】
図6は、未アルデヒド化PGD(G1)/GCゲルと未アルデヒド化PGD(G4)/GCゲルの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図7】
図7は、本発明に係るアルデヒド化PGD(G1)/GCゲルとアルデヒド化PGD(G4)/GCゲルの走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図8】
図8は、(1)ゼラチンを含む本発明ゲル中で培養した細胞の染色結果と、(2)ゼラチンを含まない本発明ゲル中で培養した細胞の染色結果である。
【
図9】
図9は、過ヨウ素酸ナトリウムの使用量と、カルボキシメチルセルロース(CMC)に導入されたアルデヒド基の量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るヒドロゲル製造キットは、式(I)で表される末端アルデヒド化樹状化合物(以下、「末端アルデヒド化樹状化合物(I)」という)またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物を含む組成物A、及びポリアミノ化合物を含む組成物Bを含む。
【0013】
末端アルデヒド化樹状化合物(I)の前駆体であるポリグリセロール樹状化合物は、例えば以下のスキームを繰り返すことにより、グリセロール単位の世代を増加させて合成することができる。
【0014】
【0015】
R1はn価の有機基であり、反応を阻害しないものであれば特に制限されないが、例えば、直鎖状、分枝鎖状または環状のn価C2-12飽和脂肪族炭化水素基およびn価C6-15芳香族炭化水素基が挙げられる。当該基の炭素数としては、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がより更に好ましい。また、反応を阻害しないものであれば、アルコキシ基やフェニル基などの置換基を有していてもよい。置換基を有する場合、置換基の数は置換可能であれば特に制限されないが、例えば、5以下とすることができ、3以下または2以下が好ましく、1がより好ましい。
【0016】
n価C2-12飽和脂肪族炭化水素基の基本骨格となるアルカンとしては、例えば、エタン、n-プロパン、n-ブタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-へプタン、n-オクタン等の直鎖状アルカン;イソプロパン、イソブタン、s-ブタン、t-ブタン、イソペンタン、ネオペンタン、イソヘキサン、ネオヘキサン、ジメチルブタン、メチルヘキサン、メチルヘキサン、ジメチルペンタン、エチルペンタン、トリメチルブタン、メチルヘプタン、エチルヘキサン、ジメチルヘキサン、エチルメチルペンタン、トリメチルペンタン、テトラメチルブタン、メチルオクタン、ジメチルヘプタン、エチルヘプタン、トリメチルヘキサン、エチルメチルヘキサン、テトラメチルペンタン、エチルジメチルペンタン、ジエチルペンタン、メチルノナン、ジメチルオクタン、エチルオクタン、トリメチルヘプタン、エチルメチルヘプタン、プロピルヘプタン、テトラメチルヘキサン、エチルジメチルヘキサン、ジエチルヘキサン、ペンタメチルペンタン、エチルトリメチルペンタン、ジエチルメチルペンタン等の分枝鎖状アルカン;シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロへプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカン、スピロビシクロヘキサン、アダマンタン等の環状アルカンが挙げられる。
【0017】
n価C6-15芳香族炭化水素基の基本骨格となる芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、フラバンが挙げられる。
【0018】
出発原料ポリオールR1-(OH)nとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール等の二価アルコール;グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ヘキサントリオール、1,2,3-シクロヘキサントリオール、1,3,5-シクロヘキサントリオール等の三価アルコール;ペンタエリスリトール、メチルグリコシド、ジグリセリン等の四価アルコール;アドニトール、アラビトール、キシリトール、グルコース、フルクトース等の五価アルコール;ソルビトール、マンニトール、イジトール、タリトール、ズルシトール、イノシトール等の六価アルコールが挙げられる。その他、カテキン、アントシアニン、イソフラボン類も用い得る。
【0019】
nとしては、3以上が好ましく、また、5以下が好ましく、4以下がより好ましい。
【0020】
出発原料ポリオールR1-(OH)nは、まず塩基の存在下、ハロゲン化アリルを用いてアリルエーテル化すればよい。ハロゲン化アリルとしては、塩化アリルまたは臭化アリルを用いることができる。溶媒としては、アセトニトリルやDMF等の非プロトン性極性溶媒を用いることができ、塩基としては水素化ナトリウムを用いることができる。また、テトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)等の相関移動触媒を用いつつ、溶媒として水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの塩基性水溶液を用いてもよい。
【0021】
次に、触媒量の酸化オスミウムにより、アリル基の二重結合部分をジオール化する。溶媒としては、アセトンやt-ブタノール等の水混和性溶媒と水との混合溶媒が用いられる。また、N-メチルモルホリンオキシド(NMO)、トリメチルアミンオキシド(Me3NO)、t-BuOOH、OsCl3-K3Fe(CN)6等の再酸化剤を用いることが好ましい。
【0022】
上記のアリルエーテル化反応とジオール化反応を繰り返すことにより、出発原料ポリオールR1-(OH)nから、グリセリン単位の層を1層ずつ形成していくことができる。
【0023】
次いで、最外層のビシナルジオール基を過ヨウ素酸ナトリウムで酸化してアルデヒド基とすることにより、末端アルデヒド化樹状化合物が得られる。過ヨウ素酸ナトリウムは、ビシナルジオール基の炭素-炭素結合を切断しつつ酸化することができる。
【0024】
末端アルデヒド化樹状化合物としては、中心の出発原料ポリオール部分を第0層とし、その外側から一層ずつグリセリン単位の層が樹状に形成されているとする場合、層数が多いほどポリアミノ化合物により速やかにゲル化することができ、層数が少ないほど均一で且つ高強度のゲルを形成することができる。また、本発明において、中心の出発原料ポリオール部分を第0世代、第0世代のグリセリン単位の水酸基に結合しているグリセリン単位を第1世代、第1世代のグリセリン単位の水酸基に結合しているグリセリン単位を第2世代というように、中心からの同心円上のグリセリン単位を「世代数」ということがある。層数および世代数としては、2層以上および2世代以上が好ましく、3層以上および3世代以上がより好ましく、また、4層以下および4世代以下が好ましい。
【0025】
アルデヒド化水溶性セルロース化合物は、水溶性セルロース化合物を酸化してアルデヒド基を導入した化合物である。原料化合物である水溶性セルロース化合物としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等が挙げられる。これら水溶性セルロース化合物は、水酸基の修飾により分子間の水素結合が低減されることにより水溶性を示し、且つ構造内にビシナルジオール基を有することから、過ヨウ素酸ナトリウムによりアルデヒド基を導入することができる。なお、本開示において溶解性とは、粉末状のセルロース化合物1gを水に入れ、20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、30分以内に溶解するのに要する水の容量が30mL未満であることをいう。当該容量としては、10mL未満が好ましく、1mL未満がより好ましい。
【0026】
アルデヒド化水溶性セルロース化合物は、過ヨウ素酸ナトリウムにより原料水溶性セルロース化合物のビシナルジオール基の炭素-炭素結合を切断しつつ酸化することにより合成することができる。
【0027】
【化6】
[式中、Rは、独立して、H、又はカルボキシメチル基、メチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基などを示す。]
【0028】
アルデヒド化水溶性セルロース化合物のアルデヒド含有量は、適宜調整すればよいが、例えば、0.05mmol/g以上、2mmol/g以下とすることができる。当該アルデヒド含有量が大きいほど、アルデヒド化水溶性セルロース化合物は、その濃度などにも依存するが、より速やかにゲル化し、また、得られるゲルの強度は高くなると考えられる。一方、当該アルデヒド含有量が小さいほど、酸素や栄養素などの透過性が高くなる。上記アルデヒド含有量としては、0.1mmol/g以上が好ましく、0.2mmol/g以上がより好ましく、また、1.5mmol/g以下が好ましく、1mmol/g以下がより好ましい。
【0029】
アルデヒド化水溶性セルロース化合物は、末端アルデヒド化樹状化合物に比べて分子量が大きい。その結果、アルデヒド化水溶性セルロース化合物とポリアミノ化合物を組み合わせることにより、ポリアミノ化合物に対してより低使用比率でより速やかにゲルが得られる可能性がある。
【0030】
ポリアミノ化合物は、2以上のアミノ基を有し、末端アルデヒド化樹状化合物またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物のアルデヒド基とシッフ塩基を形成することによりゲル化する化合物である。ポリアミノ化合物は、末端アルデヒド化樹状化合物またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物とゲルを形成できる化合物であれば特に制限されないが、例えば、キトサン等、側鎖にアミノ基を有する多糖類;ポリリジン、ポリアルギニン等、側鎖にアミノ基を有するポリアミド類;分岐状ポリエチレンイミン、線状ポリエチレンイミン等のポリエチレンイミン;ポリアリルアミン、ポリビニルアミン等が挙げられる。キトサン等、水溶性が十分でないポリアミノ化合物は、酸化エチレンにより2-ヒドロキシエチルエーテル化するなどして水溶性を高めることができる。ポリアミノ化合物の分子量は、所望のゲル特性などに応じて適宜調整すればよいが、例えば、5,000以上、100,000以下程度とすることができる。
【0031】
本発明に係るヒドロゲル製造キットは、末端アルデヒド化樹状化合物(I)またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物を含む組成物Aと、ポリアミノ化合物を含む組成物Bを含む。組成物Aおよび/または組成物Bは、溶媒を含んでもよい。溶媒としては、水、緩衝液、生理食塩水などの水系溶媒が挙げられる。組成物Aと組成物Bの少なくとも一方が溶媒を含む溶液であれば、組成物Aと組成物を混合するのみでゲルを速やかに得ることができる。
【0032】
組成物Aおよび/または組成物B、並びに組成物Aおよび組成物B以外の組成物Cは、それぞれ末端アルデヒド化樹状化合物(I)またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物、ポリアミノ化合物、及び溶媒以外の成分を含んでいてもよい。例えば、本発明に係るゲルは、バイオ3Dプリンタ用のインク成分としての利用が期待できるため、培地成分として、ゼラチン、寒天、メチルセルロース、コラーゲンゲル、フィブリン、アガロース、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸などを含んでいてもよい。培地成分としては、特にゼラチンや寒天などの天然高分子が好ましい。その他、防腐剤、色素、架橋剤、光重合開始剤などを配合してもよい。
【0033】
本発明に係るヒドロゲルは、末端アルデヒド化樹状化合物(I)またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物のアルデヒド基とポリアミノ化合物のアミノ基がシッフ塩基を形成することにより得られる。末端アルデヒド化樹状化合物(I)またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物とポリアミノ化合物との混合割合は、所望のゲル特性などに応じて適宜調整すればよいが、例えば、末端アルデヒド化樹状化合物(I)またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物に対するポリアミノ化合物の質量比を0.2以上、2.0以下に調整することができる。当該比としては、0.5以上が好ましく、0.8以上がより好ましく、0.9以上がより更に好ましく、また、1.7以下が好ましく、1.2以下がより好ましく、1.1以下がより更に好ましい。
【0034】
本発明に係るヒドロゲルは、溶媒中、末端アルデヒド化樹状化合物(I)またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物とポリアミノ化合物を混合するのみで容易に製造することができる。例えば、末端アルデヒド化樹状化合物(I)またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物の溶液にポリアミノ化合物を加えて混合したり、ポリアミノ化合物の溶液に末端アルデヒド化樹状化合物(I)またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物を加えて混合したり、或いは末端アルデヒド化樹状化合物(I)またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物の溶液とポリアミノ化合物の溶液を混合すればよい。各溶液の濃度は適宜調整すればよいが、例えば、1質量%以上、20質量%以下とすることができる。当該濃度は、2質量%以上が好ましく、また、15質量%以下が好ましい。混合温度も適宜調整すればよく、例えば10℃以上、30℃以上とすることができ、常温で混合してもよい。
【0035】
本発明に係るヒドロゲルは、末端アルデヒド化樹状化合物(I)またはアルデヒド化水溶性セルロース化合物とポリアミノ化合物との混合により速やかに形成される。ヒドロゲルの形成後、常法による後処理を行ってもよい。例えば、デカンテーションや濾過により溶媒を除去したり、減圧乾燥や凍結乾燥をしてもよい。
【0036】
本発明に係るヒドロゲルは、高い含水率などヒドロゲル由来の特性を有するため、生化学環境を模倣するマトリックスとして再生医療領域への応用や、再生医療製品などと医療機器とを組み合わせた埋植型コンビネーションデバイスや薬物送達への利用が期待できる。また、本発明に係るヒドロゲルは、二剤を混合することで速やかにゲル化可能であり、且つ2以上の成形体を容易に接着可能な自己修復性を示すため、バイオ3Dプリンタ用のバイオインクとしての利用も期待できる。実際、本発明に係るヒドロゲルを使って、細胞の培養も可能である。
【実施例0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0038】
実施例1: 末端アルデヒド化樹状化合物(PGD(G1))の合成
(1)トリメチロールプロパントリアリルエーテルの合成
【化7】
トリメチロールプロパン(17.88g,139.2mmol)とテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)(8.02g,24.24mmol)をフラスコ内に加え、50%水酸化ナトリウム水溶液(60mL,1.2mol)を加えた後、フラスコ系内の気相を窒素で置換した。オイルバスで温度を45℃に保ちつつ、攪拌した溶液へ、シリンジポンプを用いて塩化アリル(30mL,0.37mol)を5時間かけて注入した。注入後、18時間攪拌して反応させた。反応終了後、得られた混合物にヘキサン:酢酸エチル=1:1混合溶媒(80mL)を加えて濾過した。得られた濾液からヘキサン:酢酸エチル=1:1混合溶媒で抽出し、抽出液を純水で3回洗浄した。有機相をTLC(展開溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=9:1)で分析したところ、Rf=0.82および0.25の2点のスポットが確認された。同溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィにて、1点目のスポットを回収した。1点目のスポットのフラクションを減圧濃縮した後、更に50℃で2時間真空乾燥することにより、無色透明の液体を得た。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3)で分析することにより、目的化合物が得られていることを確認した(収量:27.63g,114.14mmol,収率:81%)。
【0039】
(2)トリメチロールプロパントリグリセリルエーテルの合成
【化8】
上記(1)で合成したトリメチロールプロパントリアリルエーテル(27.63g,114.14mmol)に、50%N-メチルモルホリン-N-オキシド(44.22mL,0.21mol)、アセトン(50mL)、純水(20mL)、及びtert-ブチルアルコール(19.29mL)を加え、氷冷下にて攪拌した。そのまま4%酸化オスミウム(VIII)水溶液(745.8μL,0.113mmol)を加え、27時間攪拌した。反応終了後、真空ポンプにて減圧濃縮し、得られた溶液を、メタノールを使って、アルミナカラムに通液した。得られたフラクションを減圧濃縮し、次いで真空乾燥することによって、黄色透明液体を得た。
1H-NMR(400MHz,D
2O)で分析することにより、目的化合物が得られていることを確認した。
【0040】
(3)末端アルデヒド化樹状化合物の合成
【化9】
0.2Mリン酸水素二ナトリウム水溶液(30.6mL)と0.2Mリン酸二水素ナトリウム水溶液(19.4mL)を混合することで、pH6.87のリン酸緩衝液を得た。
上記(2)で合成したトリメチロールプロパントリグリセリルエーテル(50mg)と、リン酸緩衝液(10mL)をフラスコに加えた。更に0.1Mの過ヨウ素酸ナトリウム(2mL)を加え、30分間撹拌した。次いで、0.2M亜硫酸ナトリウム(2mL)を加えて反応を停止させた。その後、90℃で2時間真空乾燥することにより、白色固体を得た。得られた白色固体をIRで分析し、アルデヒド基の存在を確認した。
以下、得られた末端アルデヒド化樹状化合物を「PGD(G1)」という。
【0041】
実施例2: 末端アルデヒド化樹状化合物(PGD(G3))の合成
上記実施例1(2)で合成したトリメチロールプロパントリグリセリルエーテルに、実施例1(1)のアリルエーテル化と実施例1(2)のジオール化を更にそれぞれ2回ずつ繰り返し、樹状ポリグリセロール化合物を合成した。
得られた樹状ポリグリセロール化合物を、上記実施例1(3)の酸化反応に付し、末端アルデヒド化樹状化合物を得た。
以下、得られた末端アルデヒド化樹状化合物を「PGD(G3)」という。
【0042】
実施例3: 末端アルデヒド化樹状化合物(PGD(G4))の合成
上記実施例1(2)で合成したトリメチロールプロパントリグリセリルエーテルに、実施例1(1)のアリルエーテル化と実施例1(2)のジオール化を更にそれぞれ3回ずつ繰り返し、樹状ポリグリセロール化合物を合成した。
得られた樹状ポリグリセロール化合物を、上記実施例1(3)の酸化反応に付し、末端アルデヒド化樹状化合物を得た。
以下、得られた末端アルデヒド化樹状化合物を「PGD(G4)」という。
【0043】
試験例1: ゲル化試験
実施例1~3の末端アルデヒド化樹状化合物PGD(G1,G3,G4)の3~10質量%水溶液と、グリセロールキトサン(GC)(Mw:8,000~10,000)またはポリエチレンイミン(Mn:10,000または70,000)の3質量%水溶液を調製し、体積比1:1で混合し、エッペンドルフマイクロチューブに入れ、チューブを反転させても液が下方に移動しないことをゲル化の指標とし、ゲル化までの時間を測定した。
PGDの10質量%を用いた場合の結果を表1に示す。
【表1】
【0044】
表1に示される結果の通り、末端アルデヒド化樹状化合物とポリアミノ化合物との混合から5分後にチューブを反転させた時点で、何れの混合液もゲル化していた。なお、ゲル化が非常に迅速に起こったため、レオメーターの時間掃引測定によるゲル化時間の決定はできなかった。
【0045】
また、末端アルデヒド化樹状化合物PGD(G4)の3質量%,5質量%または7質量%水溶液と、グリセロールキトサン(GC)の3質量%水溶液をPGD:GC=1:1(体積比)で混合し、エッペンドルフマイクロチューブに入れたところ、混合から1分以内の段階で
図1に示すゲルが得られた。
この際、末端アルデヒド化樹状化合物PGDの濃度を高くすることで、より硬く保形力の高いゲルが得られた。
【0046】
更に、末端アルデヒド化樹状化合物PGD(G4)の10質量%水溶液に対して、シリンジを用いてグリセロールキトサン(GC)の3質量%水溶液を滴下したところ、液滴が崩れることなくゲル化することができた。
人口イクラは、塩化カルシウム水溶液にアルギン酸ナトリウム水溶液を滴下して製造される。上記結果の通り本発明によれば迅速なゲル化が可能であることから、本発明に係るヒドロゲルを使って細胞をカプセル化できる可能性が高い。
【0047】
試験例2: ゲルの重量変化試験
末端アルデヒド化樹状化合物PGDとグリセロールキトサン(GC)の混合ゲル化の評価実験の過程で、アルデヒド化PGD水溶液:GC水溶液=1:1の混合体積比で作製したゲルから、時間経過とともに多くの水分が出てくる様子が見られた。よって、アルデヒド基とアミノ基がシッフ塩基を形成するにあたり、混合比1:1が適切でない可能性が高いため、混合体積比を10質量%PGD(G1)水溶液:3質量%GC水溶液=1:1または1:3のゲルを合成し、合成ゲルの重量変化を測定した。結果を
図2に示す。
図2に示される結果の通り、混合体積比1:1のゲルでは、約42時間後のゲルの当初重量に対する重量比が0.48であるのに対し、混合体積比1:3のゲルでは0.79であった。
よって、3質量%GC水溶液に対しては、10質量%アルデヒド化PGD水溶液をPGD水溶液:GC水溶液=1:3の混合体積比で混ぜ合わせることで、より効果的にシッフ塩基が形成され、ネットワークの隙間に水分子が入りこんで逃げにくい構造をとっていると考察される。
【0048】
試験例3: 自己修復性試験
食紅を加えて赤色に着色した3質量%GC水溶液または未着色同溶液に、10質量%アルデヒド化PGD(G1)水溶液をPGD水溶液:GC水溶液=1:3の混合体積比で混合することで、赤色ゲルと無色ゲルを得た(
図3)。
次いで、各ゲルを交互につなぎ、5分間静置し、ゲルの自己修復性を確認した。
得られたゲルは、各ゲルが分離することなく一体となってピンセットにて持ち上げることができた(
図3)。
かかる結果より、アルデヒド基とアミノ基から形成されたシッフ塩基ベースの本発明ゲルは、可逆性結合によりゲル同士が結合することができ、自己修復性を有することが明らかとなった。
【0049】
試験例4: 角周波数掃引測定
10質量%アルデヒド化PGD(G1またはG4)水溶液:3質量%GC水溶液=1:3のゲルに関して、レオメーター(「Modular Compact Rheometer MCR203」Anton Paar社製)を用い、以下の条件で角周波数掃引測定を行った。PGD(G1)/GCゲルの結果を
図4(1)に、PGD(G4)/GCゲルの結果を
図4(2)に示す。
治具: 「PP25-2」Anton Paar社製
プレート直径: 24.981mm
ギャップ: 0.102mm
周波数: 0.1~100Hz
ひずみ量: 0.1%(固定)
温度: 25℃
【0050】
図4に示されるアルデヒド化PGDとGCによるゲルの周波数掃引結果によれば、貯蔵弾性G’[Pa]と損失弾性G”[Pa]ともに、周波数変化に依存せず、一定の物性を保ったままであることが明らかとなった。即ち、このゲルは流動性がほぼなく、高い保形力を有すると判断できる。
また、これらゲルの貯蔵弾性率と損失弾性率の値の差が比較的大きいことから、高い機械的強度を有するといえる。
【0051】
試験例5: ひずみ掃引測定
10質量%アルデヒド化PGD(G1またはG4)水溶液:3質量%GC水溶液=1:1または1:3のゲルに関して、レオメーター(「Modular Compact Rheometer MCR203」Anton Paar社製)を用い、以下の条件でひずみ掃引測定を行った。また、比較のために、アルデヒド化PGDの代わりに、上記実施例3においてアルデヒド化前の樹状ポリグリセロール化合物を使った以外は同様にして作製したゲルについても、同様に測定を行った。
治具: 「PP25-2」Anton Paar社製
プレート直径: 24.981mm
ギャップ: 0.102mm
周波数: 1Hz(固定)
ひずみ量: 0.1~800%
温度: 25℃
【0052】
アルデヒド化PGD水溶液:GC水溶液=1:3の体積比で混合して得られたPGD(G1)/GCゲルの結果を
図5(1)に、PGD(G4)/GCゲルの結果を
図5(2)に示す。また、各ゲルの貯蔵弾性率と破断ひずみを表2に示す。
【0053】
【0054】
表2に示される結果の通り、アルデヒド化されていないPGDとGCからなるゲルと比較して、シッフ塩基ベースのゲルでは、機械的特性の改善が確認された。また、最も力学強度の高いゲルはアルデヒド化PGD(G1)/GCであり、ひずみに対する強度もアルデヒド化PGD(G1)/ゲルの方が高かった。その理由としては、樹状化合物の世代数を上げることで、多価相互作用がより迅速に進行してゲル化する一方で、樹状化合物の世代数が少ないと分子径がより小さくなってポリアミノ化合物間により均一に分散することができ、且つ疎水性部分もより少ないことによると考えられる。
また、混合体積比アルデヒド化PGD水溶液:GC水溶液=1:1のゲルより、1:3のゲルの場合では、貯蔵弾性率が高くなり、ゲル構造の安定性が向上した。このことから、ゲルの重量変化試験(試験例2)の結果と同様に、ポリアミノ化合物の相対的混合割合が多いほど、ゲル構造がより密なネットワークを形成していると考察される。
【0055】
試験例6: ゲル構造の観察
未アルデヒド化PGD水溶液:GC水溶液=1:1の体積比で混合して得られたPGD(G1)/GCゲルとPGD(G4)/GCゲル、また、アルデヒド化PGD水溶液:GC水溶液=1:1の体積比で混合して得られたPGD(G1)/GCゲルとPGD(G4)/GCゲルを凍結乾燥し、走査電子顕微鏡(SEM)(「JSM-6510 Series Scanning Electron Microscope」日本電子社製)を使って拡大観察した。未アルデヒド化PGD(G1)/GCゲルの拡大写真を
図6(a)(b)に、未アルデヒド化PGD(G4)/GCゲルの拡大写真を
図6(c)(d)に、アルデヒド化PGD(G4)/GCゲルの拡大写真を
図7(e)(f)に、アルデヒド化PGD(G1)/GCゲルの拡大写真を
図7(g)(h)に示す。
図6の拡大写真の通り、未アルデヒド化PGDとGCから形成されるゲルには、網目のように確認できる部分はほとんど存在せず、表面には凹凸のみが確認された。空気中の水分によって乾燥ゲルが水和し、網目構造が潰れた可能性がある。弱い相互作用またはGC自体の凝集性によるためとも考えられた。
アルデヒド化PGDとGCによるゲルは、G1・G4共に網目構造が確認された。同倍率である
図7(e)と(g)を比較すると、網目構造の大きさが異なっており、低世代であるG1の方が大きな網目を形成していることが示唆された。また、G4は網目の大きさがより均一であり、均一なネットワークが形成されていることがわかる。アルデヒド化PGDとGCからは非常に迅速にゲル化が起こるが、アルデヒド化PGD(G4)分子はより大きいため、GCとの混合時に不均一化が起こり難く、ゲル構造の形成に時間差が生じ難いことが考えられる。
以上の結果より、本発明に係るヒドロゲルは網目構造を有するため、細胞を有効に担持し易く、例えばバイオ3Dプリンタのインクとして有用であると考えられる。
【0056】
試験例7: 細胞の培養実験
20質量%牛骨ゼラチン-5質量%GC混合水溶液、又は5質量%GC単独水溶液にNIH細胞を50000cells/mLとなるように加え、35mmガラスディッシュに1mL加えた。その後、ディッシュに10質量%アルデヒド化PGD(G4)水溶液を1mL加え混合することでゲル化させ、5%CO
2下、37℃で24時間培養した。培養後、live/dead assay kitの色素溶液を各ディッシュに1mL添加し、20分間静置することにより細胞を染色し、共焦点カメラで確認した。当該キットにより、生細胞は緑色に、死細胞は赤色に染色される。結果を
図8に示す。
図8に示される結果の通り、本発明に係るヒドロゲルにゼラチンを加えた場合と加えなかった場合の何れにおいても死細胞は認められず、細胞を良好に培養できることが示された。
【0057】
実施例4: CMC-GCゲルの製造
(1)CMCのアルデヒド化
カルボキシメチルセルロースナトリウム(富士フイルム和光純薬社製,1g)を、フラスコ内で、水(20mL)に溶解した。更に、過ヨウ素酸ナトリウム(0.05~1g)の水溶液(2mL)を加え、オイルバス内で35℃に保ちながら2時間撹拌した。得られた溶液は、透析膜(MWCO=12~14k)を用いて、水に対して1日透析に付した。その後、減圧濃縮と凍結乾燥によって白色固体を得た。
得られたアルデヒド化CMCのアルデヒド基含有量を、塩化ヒドロキシルアミン滴定法により求めた。具体的には、塩化ヒドロキシルアンモニウム水溶液に、Thymol Blueを溶解した。溶液が黄色から緑色になるまでNaOH水溶液を添加した後、アルデヒド化CMC(0.1g)を溶解し、1時間穏やかに撹拌した。得られた溶液を、0.01M NaOHで滴定した。結果を
図9に示す。
【0058】
図9に示される結果の通り、CMCのアルデヒド化度は、過ヨウ素酸の添加量によって調整可能であることが明らかとなった。このように、架橋点であるホルミル基の数を調整することによって、ゲル化時間やハイドロゲルの透過性を調整することが可能であると考えられる。
【0059】
(2)ゲル化
アルデヒド化CMCを水に溶解し、0.1質量%、0.5質量%または1質量%の水溶液を調製した。別途、グリコールキトサン(GC)(富士フイルム和光純薬社製)を水に溶解し、0.1質量%、0.5質量%または1質量%の水溶液を調製し、食紅で着色した。マイクロチューブに各アルデヒド化CMC水溶液(0.10mL)を入れ、更に各GC水溶液(0.40mL)を添加した。混合溶液を、ボルテックスミキサーを使って5秒間攪拌した後、5分後、10分後、30分後、60分後および120分後にチューブを反転させ、ゲル化しているか否かを確認し、以下の基準でゲル化時間を評価した。結果を表3に示す。
A: 速やかにゲル化
B: 5分以内にゲル化
C: 5分超、10分以内にゲル化
D: 10分超、30分以内にゲル化
E: 30分超、60分以内にゲル化
F: 120分の時点でゲル化せず
【0060】
【0061】
表3に示される結果の通り、本実験の条件では、アルデヒド化水溶液およびGC水溶液の濃度が0.1質量%である場合はゲル化が起こらなかった。また、各水溶液が1質量%である場合、そのゲル化時間についてアルデヒド化CMCのアルデヒド化度によって大きく差が出た。このゲル化時間の差異は、例えば、細胞などのカプセル化条件の検討に応用できると考えられる。
例えば、各溶液の濃度やCMCのアルデヒド化度が低くゲル化時間が遅いものは、2液を混合した後に有機溶媒等の中に投入することでマイクロカプセルを形成することができる。一方、混合直後にゲル化する場合、一方の溶液をマイクロカプセル状にしたものをもう一方の溶液に接触させることで、その形状を崩さないままゲルカプセルを作成することができる。