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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166393
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】ニッケル基合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20231114BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20231114BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20231114BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231114BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20231114BHJP
【FI】
C22C19/05 F
C22C30/02
B22F10/28
B33Y10/00
B33Y70/00
【審査請求】有
【請求項の数】33
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130573
(22)【出願日】2023-08-10
(62)【分割の表示】P 2020526700の分割
【原出願日】2018-07-27
(31)【優先権主張番号】1712196.3
(32)【優先日】2017-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】520440054
【氏名又は名称】アロイド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】クラッデン,デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ネメス,アンドレ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】特に、650℃を超える高温強度(引張強度、クリープ強度)が要求される用途のための、AM処理を介した高強度で耐食性を持つ工学的加工品の製造に適したニッケル基合金を提供する。
【解決手段】重量百分率で、1.0~3.5%のアルミニウムと、0.0~3.6%のチタンと、0.0~6.0%のニオブと、0.0~4.9%のタンタルと、0.0~5.4%のタングステンと、0.0~4.0%のモリブデンと、8.9~30.0%のコバルトと、10.8~20.6%のクロムと、炭素と、ホウ素と、ジルコニウムと、レニウムと、ルテニウムと、イリジウムと、バナジウムと、パラジウムと、プラチナと、シリコンと、イットリウムと、ランタンと、セリウムと、硫黄と、マンガンと、鉄と、銅と、ハフニウムと、ニッケル及び不可避的不純物である残部と、からなるニッケル基合金組成物とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量百分率で、
1.0~3.5重量%のアルミニウムと、
0.0~3.6重量%のチタンと、
0.0~6.0重量%のニオブと、
0.1~4.9重量%のタンタルと、
0.0~5.4重量%のタングステンと、
0.0~4.0重量%のモリブデンと、
8.9~30.0重量%のコバルトと、
10.8~20.6重量%のクロムと、
0.02~0.35重量%の炭素と、
0.001~0.2重量%のホウ素と、
0.001~0.5重量%のジルコニウムと、
0.0~5.0重量%のレニウムと、
0.0~8.5重量%のルテニウムと、
0.0~4.6重量%のイリジウムと、
0.0~0.5重量%のバナジウムと、
0.0~1.0重量%のパラジウムと、
0.0~1.0重量%のプラチナと、
0.0~0.5重量%のシリコンと、
0.0~0.1重量%のイットリウムと、
0.0~0.1重量%のランタンと、
0.0~0.1重量%のセリウムと、
0.0~0.003重量%の硫黄と、
0.0~0.25重量%のマンガンと、
0.0~6.0重量%の鉄と、
0.0~0.5重量%の銅と、
0.0~0.5重量%のハフニウムと、
ニッケル及び不可避的不純物である残部と、からなり、
次の式を満足するニッケル基合金組成物。
4.2≦(W+0.92WRe+1.58WRu)+WMo
(0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa)/WAl≦1.5
及び
3.1≦WAl+0.5WTi+1.5(0.3WNb+0.15WTa
前記式において、WNb、WTa、WTi、WMo、WAl、WRe、及びWRuは、それぞれ、前記合金中のニオブ、タンタル、チタン、モリブデン、アルミニウム、レニウム、及びルテニウムの重量百分率である。
【請求項2】
次の式を満足する請求項1に記載のニッケル基合金組成物。
2.65≦WAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa
【請求項3】
次の式を満足する請求項1又は2に記載のニッケル基合金組成物。
1.1WTa+(W+0.92WRe+1.58WRu)≦5.4
前記式において、WTa及びWは、それぞれ、前記合金中のタンタル及びタングステンの重量百分率である。
【請求項4】
次の式を満足する請求項1から3のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
8.7≦(W+0.92WRe+1.58WRu)+2.1WMo
前記式において、W及びWMOは、それぞれ、前記合金中のタングステン及びモリブデンの重量百分率である。
【請求項5】
モリブデンとタングステンの元素の合計が、重量百分率で、5.3~10.8重量%である、請求項1から4のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項6】
重量百分率で、1.0~3.0重量%のアルミニウムを含む、請求項1から5のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項7】
重量百分率で、0.2~4.9重量%のタングステンを含む、請求項1から6のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項8】
重量百分率で、1.6~4.0重量%のモリブデンを含む、請求項1から7のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項9】
重量百分率で、3.1重量%以下のチタンを含む、請求項1から8のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項10】
重量百分率で、15.6~25.0重量%のコバルトを含む、請求項1から9のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項11】
重量百分率で、10.8~19.2重量%のクロムを含む、請求項1から10のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項12】
重量百分率で、0.02~0.2重量%の炭素を含む、請求項1から11のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項13】
重量百分率で、0.001~0.03重量%のホウ素を含む、請求項1から12のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項14】
重量百分率で、0.001~0.01重量%のジルコニウムを含む、請求項1から13のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項15】
重量百分率で、5.1重量%以下のニオブを含む、請求項1から14のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項16】
900℃で0.18~0.30のγ’の体積分率である微細構造を有する、請求項1から15のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項17】
タングステン、レニウム、ルテニウム、及びイリジウムの元素の合計が、5.4重量%のタングステン単体の等価物と同等又はそれ以下である、請求項1から16のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項18】
重量百分率で、3.0重量%以下のレニウム及び/又はルテニウム及び/又はイリジウムを含む、請求項1から17のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項19】
次の式を満足する請求項1から18のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
Al+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦4.0
【請求項20】
次の式を満足する請求項1から19のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
5.3≦(W+0.92WRe+1.58WRu)+WMO
【請求項21】
次の式を満足する請求項1から20のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
4.2≦W+WMo
【請求項22】
次の式を満足する請求項1から20のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
+WMo≦4.2
【請求項23】
重量百分率で、3.8重量%以下のモリブデンを含む、請求項1から22のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項24】
重量百分率で、0.1重量%以上のニオブを含む、請求項1から23のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項25】
重量百分率で、0.1重量%以上のチタンを含む、請求項1から24のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項26】
重量百分率で、0.2重量%以上のタングステンを含む、請求項1から25のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項27】
次の式を満足する請求項1から26のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
(0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa)/WAl≧0.75
【請求項28】
重量百分率で、14.0重量%以上のコバルトを含む、請求項1から27のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項29】
重量百分率で、10.8重量%以上のクロムを含み、かつ、WMo+Wが10.8重量%未満である、請求項1から28のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項30】
重量百分率で、15.0重量%以上のクロムを含み、かつ、WMo+Wが6.6重量%未満である、請求項1から29のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項31】
重量百分率で、15.0重量%以上のクロムを含む、請求項1から29のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項32】
請求項1から31のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物を積層造形処理に供して物品を製造することを含む、物品の製造方法。
【請求項33】
請求項1から31のいずれか一つに記載のニッケル基合金組成物で形成された製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形(additive manufacturing (AM))処理に適用するために設計されたニッケル基超合金組成物に関し、そのような処理には、例えば、パウダーベッドベースAM法(powder-bed based AM methods)(例えば、選択的レーザー溶融、電子ビーム溶融)や、ダイレクトメタルデポジション法(direct metal deposition methods)(例えば、パウダーデポジションアンドワイヤーベース法)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【背景技術】
【0002】
金属AMは、増大する部品(コンポーネント)の複雑さ、ジャストインタイムでの製造、及び材料の無駄の削減など、多くの利益をもたらすことができる新しい製造方法として登場している。しかしながら、処理技術が成熟するにつれて、処理の最も重要な制限の1つ、具体的には、処理の容易さと高性能な材料特性の組み合わせ、を克服するために設計された新しい金属合金の開発に焦点が絞られている。近年は、鋳造形態または鍛造形態で製造できるニッケル基超合金を、AM処理に移行する傾向がある。しかしながら、これはほとんど不適切であることが判明している。なぜなら、AM処理における処理の容易性に必要となる材料特性の多くは、そのような合金では満足しないため、処理が非常に困難になり、予期される構造的な完全性を持たない材料が生じてしまうためである。
【0003】
商業用途に広く適用されているニッケル基超合金の多くの組成の例を表1に示す。
【0004】
【表1】
【0005】
これらの材料は、航空宇宙産業、発電産業、化学処理産業、石油・ガス産業などの多くの産業において、高温で高い強度を維持する耐腐食性部品の製造に使用される。これらは、所望の特性の組み合わせを付与するために必要な10もの異なる合金元素を含んでいる。ただし、これらの合金の多くにおいて、適用される元素の組み合わせによって、AMにより処理される材料の能力が制限されてしまう。また、他には、達成可能な強度が制限されてしまう。強度とAMによって処理される能力の改善された組み合わせを備えた合金が、見出されることが望ましい。さらに、耐クリープ性、密度、コスト、耐食性など他の特性におけるトレードオフも管理されることが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、特に、650℃を超える高温強度(引張強度、クリープ強度)が要求される用途のための、AM処理を介した高強度で耐食性を持つ工学的加工品の製造に適したニッケル基合金を提供することであり、これは、材料のコストと密度の優れたバランスが組み合わせられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の形態は、重量百分率で、1.0~3.5%のアルミニウムと、0.0~3.6%のチタンと、0.0~6.0%のニオブと、0.0~4.9%のタンタルと、0.0~5.4%のタングステンと、0.0~4.0%のモリブデンと、8.9~30.0%のコバルトと、10.8~20.6%のクロムと、0.02~0.35%の炭素と、0.001~0.2%のホウ素と、0.001~0.5%のジルコニウムと、0.0~5.0%のレニウムと、0.0~8.5%のルテニウムと、0.0~4.6%のイリジウムと、0.0~0.5%のバナジウムと、0.0~1.0%のパラジウムと、0.0~1.0%のプラチナと、0.0~0.5%のシリコンと、0.0~0.1%のイットリウムと、0.0~0.1%のランタンと、0.0~0.1%のセリウムと、0.0~0.003%の硫黄と、0.0~0.25%のマンガンと、0.0~6.0%の鉄と、0.0~0.5%の銅と、0.0~0.5%のハフニウムと、ニッケル及び不可避的不純物である残部と、からなり、次の式を満足するニッケル基合金組成物を提供する。
4.2≦(W+0.92WRe+1.58WRu)+WMo
Al+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦4.0
及び
3.0≦WAl+0.5WTi+1.5(0.3WNb+0.15WTa
前記式において、WNb、WTa、WTi、WMo、WAl、WRe、及びWRuは、それぞれ、前記合金中のニオブ、タンタル、チタン、モリブデン、アルミニウム、レニウム、及びルテニウムの重量百分率である。
【0008】
本発明の第2の形態は、重量百分率で、1.0~3.5%のアルミニウムと、0.0~3.6%のチタンと、0.0~6.0%のニオブと、0.0~4.9%のタンタルと、0.0~5.4%のタングステンと、0.0~4.0%のモリブデンと、8.9~30.0%のコバルトと、10.8~20.6%のクロムと、0.02~0.35%の炭素と、0.001~0.2%のホウ素と、0.001~0.5%のジルコニウムと、0.0~5.0%のレニウムと、0.0~8.5%のルテニウムと、0.0~4.6%のイリジウムと、0.0~0.5%のバナジウムと、0.0~1.0%のパラジウムと、0.0~1.0%のプラチナと、0.0~0.5%のシリコンと、0.0~0.1%のイットリウムと、0.0~0.1%のランタンと、0.0~0.1%のセリウムと、0.0~0.003%の硫黄と、0.0~0.25%のマンガンと、0.0~6.0%の鉄と、0.0~0.5%の銅と、0.0~0.5%のハフニウムと、ニッケル及び不可避的不純物である残部と、からなり、次の式を満足するニッケル基合金組成物を提供する。
4.2≦W+WMo
Al+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦3.5
及び
3.0≦WAl+0.5WTi+1.5(0.3WNb+0.15WTa
前記式において、WNb、WTa、WTi、WMo、及びWAlは、それぞれ、前記合金中のニオブ、タンタル、チタン、モリブデン、及びアルミニウムの重量百分率である。
【0009】
本発明の第3の形態は、重量百分率で、1.0~3.5%のアルミニウムと、0.0~3.6%のチタンと、0.0~6.0%のニオブと、0.0~4.9%のタンタルと、0.0~5.4%のタングステンと、0.0~4.0%のモリブデンと、8.9~30.0%のコバルトと、10.8~20.6%のクロムと、0.02~0.35%の炭素と、0.001~0.2%のホウ素と、0.001~0.5%のジルコニウムと、0.0~5.0%のレニウムと、0.0~8.5%のルテニウムと、0.0~4.6%のイリジウムと、0.0~0.5%のバナジウムと、0.0~1.0%のパラジウムと、0.0~1.0%のプラチナと、0.0~0.5%のシリコンと、0.0~0.1%のイットリウムと、0.0~0.1%のランタンと、0.0~0.1%のセリウムと、0.0~0.003%の硫黄と、0.0~0.25%のマンガンと、0.0~6.0%の鉄と、0.0~0.5%の銅と、0.0~0.5%のハフニウムと、ニッケル及び不可避的不純物である残部と、からなり、次の式を満足するニッケル基合金組成物に関する。
4.2≦(W+0.92WRe+1.58WRu)+WMo
Al+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦3.5
3.0≦WAl+0.5WTi+1.5(0.3WNb+0.15WTa
及び
+WMo≦4.2
前記式において、WNb、WTa、WTi、WMo、WAl、WRe、及びWRuは、それぞれ、前記合金中のニオブ、タンタル、チタン、モリブデン、アルミニウム、レニウム、及びルテニウムの重量百分率である。
【0010】
本発明の第4の形態は、重量百分率で、1.0~3.5%のアルミニウムと、0.0~3.6%のチタンと、0.0~6.0%のニオブと、0.0~4.9%のタンタルと、0.0~5.4%のタングステンと、0.0~4.0%のモリブデンと、8.9~30.0%のコバルトと、10.8~20.6%のクロムと、0.02~0.35%の炭素と、0.001~0.2%のホウ素と、0.001~0.5%のジルコニウムと、0.0~5.0%のレニウムと、0.0~8.5%のルテニウムと、0.0~4.6%のイリジウムと、0.0~0.5%のバナジウムと、0.0~1.0%のパラジウムと、0.0~1.0%のプラチナと、0.0~0.5%のシリコンと、0.0~0.1%のイットリウムと、0.0~0.1%のランタンと、0.0~0.1%のセリウムと、0.0~0.003%の硫黄と、0.0~0.25%のマンガンと、0.0~6.0%の鉄と、0.0~0.5%の銅と、0.0~0.5%のハフニウムと、ニッケル及び不可避的不純物である残部と、からなり、次の式を満足するニッケル基合金組成物に関する。
4.2≦W+WMo
3.5≦WAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦4.0
3.0≦WAl+0.5WTi+1.5(0.3WNb+0.15WTa
前記式において、WNb、WTa、WTi、WMo、WAl、WRe、及びWRuは、それぞれ、前記合金中のニオブ、タンタル、チタン、モリブデン、アルミニウム、レニウム、及びルテニウムの重量百分率である。
【0011】
本発明の第5の形態は、重量百分率で、1.0~3.5%のアルミニウムと、0.0~3.6%のチタンと、0.0~6.0%のニオブと、0.0~4.9%のタンタルと、0.0~5.4%のタングステンと、0.0~4.0%のモリブデンと、8.9~30.0%のコバルトと、10.8~20.6%のクロムと、0.02~0.35%の炭素と、0.001~0.2%のホウ素と、0.001~0.5%のジルコニウムと、0.0~5.0%のレニウムと、0.0~8.5%のルテニウムと、0.0~4.6%のイリジウムと、0.0~0.5%のバナジウムと、0.0~1.0%のパラジウムと、0.0~1.0%のプラチナと、0.0~0.5%のシリコンと、0.0~0.1%のイットリウムと、0.0~0.1%のランタンと、0.0~0.1%のセリウムと、0.0~0.003%の硫黄と、0.0~0.25%のマンガンと、0.0~6.0%の鉄と、0.0~0.5%の銅と、0.0~0.5%のハフニウムと、ニッケル及び不可避的不純物である残部と、からなり、次の式を満足するニッケル基合金組成物に関する。
4.2≦(W+0.92WRe+1.58WRu)+WMo
3.5≦WAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦4.0
3.0≦WAl+0.5WTi+1.5(0.3WNb+0.15WTa
及び
+WMo≦4.2
前記式において、WNb、WTa、WTi、WMo、WAl、WRe、及びWRuは、それぞれ、前記合金中のニオブ、タンタル、チタン、モリブデン、アルミニウム、レニウム、及びルテニウムの重量百分率である。
【0012】
本明細書で開示される、第1の形態(または他の形態)に関する全てのさらなる制限は、第2及び/又は第3及び/又は第4及び/又は第5の形態に等しく適用できる。
【0013】
これらの合金は、これまで達成できなかった強度と積層造形性(additive manufacturability)のバランスを提供する。
【0014】
本明細書では、「からなる」という用語は、組成物の100%が言及されており、パーセンテージが100%になるように追加の成分の存在を除外するために使用される。特に明記しない限り、パーセントは重量百分率で表される。
【0015】
本発明は、単なる例として、添付の図面を参照して、より完全に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、表2に記載される合金設計領域内における、降伏強度(強度メリットインデックスの観点から)と積層造形による処理の容易さ(AMインデックスの観点から)の計算されたトレードオフを示す。
図2図2は、溶接中のニッケル基超合金の割れに関する脆弱性に対し、AlとTiが及ぼす影響を示す等高線図である(M Prager、C.S. Shira、Welding Research Council Bulletin、pp128、(1968)から修正)。
図3図3は、降伏強度(強度メリットインデックスの観点から)に対し、x軸におけるアルミニウム及びチタンの元素の合計とy軸におけるニオブ及びタンタルの元素の合計が及ぼす影響を示す等高線図であり、AMメリットインデックスの好ましい限定(MAdditive-Manufacture≧-1.0)が重ね合わされている。
図4図4は、好ましいAMインデックス(MAdditive-Manufacture≧0)を持つ合金において、タングステンとタンタルの元素が合金密度に対して及ぼす影響を示す等高線図である。
図5図5は、好ましいAMインデックス(MAdditive-Manufacture≧0)を持つ合金において、モリブデンとタングステンが固溶強化(固溶インデックスの観点から)に対して及ぼす影響を示す等高線図である。
図6図6は、900℃でのγ‘の体積分率に対し、x軸におけるアルミニウム及びチタンの元素の合計とy軸におけるニオブ及びタンタルの元素の合計が及ぼす影響を示す等高線図であり、AMメリットインデックスの異なる値が重ね合わされている。
図7図7は、137MPaにおける予測される1000時間のクリープ寿命に対し、γ’の体積分率とクリープメリットインデックスが及ぼす影響を示す等高線図であり、本発明の範囲内におけるγ’の体積分率とクリープメリットインデックスについての可能性のある限定が重ね合わせている。
図8図8は、好ましいAMインデックス(MAdditive-Manufacture≧0)を持つ合金において、モリブデンの含有量が1.0重量%に固定されている場合に、コバルトとタングステンが耐クリープ性(クリープメリットインデックスの観点から)に対して及ぼす影響を示す等高線図である。
図9図9は、好ましいAMインデックス(MAdditive-Manufacture≧0)を持つ合金において、モリブデンの含有量が2.0重量%に固定されている場合に、コバルトとタングステンが耐クリープ性(クリープメリットインデックスの観点から)に対して及ぼす影響を示す等高線図である。
図10図10は、好ましいAMインデックス(MAdditive-Manufacture≧0)を持つ合金において、モリブデンの含有量が3.0重量%に固定されている場合に、コバルトとタングステンが耐クリープ性(クリープメリットインデックスの観点から)に対して及ぼす影響を示す等高線図である。
図11図11は、好ましいAMインデックス(MAdditive-Manufacture≧0)を持つ合金において、モリブデンの含有量が4.0重量%に固定されている場合に、コバルトとタングステンが耐クリープ性(クリープメリットインデックスの観点から)に対して及ぼす影響を示す等高線図である。
図12図12は、酸化の過程で形成された主要な酸化物に対し、クロムの含有量とアルミニウムの含有量が及ぼす影響を示しており、本発明についてのアルミニウムの含有量の最大値及び最小値が重ね合わされている。
図13図13は、好ましいAMインデックス(MAdditive-Manufacture≧0)を持つ合金において、モリブデン及びタングステンの元素の合計とクロムが微細構造の安定性(安定値Mdの観点から)に対して及ぼす影響を示す等高線図である。
図14図14は、パウダーベッドベースのAM処理を使用して製造されたニッケル基超合金の顕微鏡写真を示す。AM処理過程における割れに関する脆弱性について、AMメリットインデックスが影響を及ぼすことが明らかであり、本発明の範囲内におけるAMメリットインデックスの好ましい限定(MAdditive-Manufacture≧-1.0)が裏付けられている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
従来、ニッケル基超合金は、経験論に基づいて設計されてきた。したがって、それらの化学組成は、限られた量の材料についての小規模な処理とその後の挙動の特性評価を含む、時間と費用のかかる実験開発を使用して見出されてきた。採用される合金組成物は、最良または最も望ましい特性の組み合わせを示すことが判明したものである。多数の合金化可能な元素は、これらの合金が完全に最適化されておらず、改善された合金が存在する可能性が高いことを示している。
【0018】
超合金では、一般に、クロム(Cr)とアルミニウム(Al)を添加して酸化/腐食に対する耐性を付与し、コバルト(Co)を添加して硫化に対する耐性を改善する。耐クリープ性のためには、モリブデン(Mo)、タングステン(W)およびコバルト(Co)が導入される。なぜなら、これらは、クリープ変形の速度を決定する、転位上昇などの熱活性化プロセスを妨害するためである。静的強度および繰り返し強度を向上するためには、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、およびチタン(Ti)が導入される。なぜなら、これらは、析出硬化相のガンマプライム(γ’)の形成を促進するためである。この析出相は、ガンマ(γ)と呼ばれる面心立方格子(FCC)マトリックス相と整合している。
【0019】
ここでは、新しい品質(グレード)のニッケル基超合金を見出すために使用するモデルベースのアプローチについて説明し、これを「設計合金(Alloys-By-Design)」(ABD)法と呼ぶ。このアプローチでは、計算材料モデル(computationalmaterials models)の枠組みを使用し、非常に広い組成領域にわたり、設計に関連する特性を推定する。この合金設計ツールにより、原理上は、指定された一連の設計制約を満たす最適な合金組成物を特定でき、いわゆる逆問題(inverse problem)を解決することができる。
【0020】
設計プロセスの最初のステップは、関連する組成の上限と下限とともに、元素リストを定義することである。「合金設計領域(alloy design space)」と呼ばれる、本発明で考慮される各添加元素の組成限定を、表2に記載する。
【0021】
【表2】

残部はニッケルである。炭素、ホウ素、及びジルコニウムのレベルは、それぞれ0.06%、0.01%、0.006%に固定された。これらの元素は、粒界における強度をもたらすために有利に存在することが知られている。
【0022】
第2番目のステップは、特定の合金組成物について、相図と熱力学的特性を計算するために使用される熱力学計算を利用する。多くの場合、これはCALPHAD法(CALculatePHAse Diagram)と呼ばれる。これらの計算は、新しい合金の典型的な使用温度(900℃)で行われ、相平衡(微細構造)に関する情報を提供する。
【0023】
第3段階では、所望の微細構造を持つ合金組成物を見出す。クリープ変形に対する優れた耐性を要求するニッケル基超合金の場合、析出硬化相γ’(precipitate hardening phaseγ’)の体積分率が増加するにつれてクリープ破断寿命は一般に改善される。γ’の体積分率の最も有益な範囲は、900℃において、60%-70%である(ただし、他の設計上の制約により、度々、体積分率はこれより低い値に限定されることがある)。γ’の体積分率が70%を超える値では、耐クリープ性の低下が確認される。
【0024】
また、γ/γ’格子不整合(γ/γ’ lattice misfit)は、正または負の小さな値にする必要があり、そうでなければ一貫性(coherency)が失われるため、その大きさに制限がある。格子不整合δは、γ相とγ’相の間の不一致として定義され、次の式に従って決定される。

ここで、αγとαγ’は、γとγ’相の格子定数である。
【0025】
従って、モデルは、所定の大きさ未満の格子不整合γ’を有し、所望のγ’の体積分率となるように計算され、設計領域内のすべての組成物を見出す。
【0026】
第4段階では、データセット内の見出された残りの合金組成物について、メリットインデックスを推定する。これらの例には、クリープメリットインデックス(平均組成のみに基づく合金の耐クリープ性を表す)、強度メリットインデックス(平均組成のみに基づく合金の析出降伏強度(alloy’s precipitation yield strength)を表す)、固溶体メリットインデックス(平均組成のみに基づく合金の固溶体降伏強度(solid solution yield strength)を表す)、密度、及びコストが含まれる。
【0027】
第5段階では、計算されたメリットインデックスを、要求される性質のための制限と比較する。これらの設計制約は、問題点の境界条件と見なされる。境界条件を満たさないすべての組成は除外される。この段階で、トライアルデータセットのサイズは非常に大幅に縮小される。
【0028】
最後の第6段階では、残りの組成のデータセットを分析する。これは様々な方法で行うことができる。ある方法では、最軽量、最も優れた耐クリープ性、最も優れた耐酸化性、最安値など、メリットインデックスの最大値を示す合金についてのデータベースを選別できる。また、代わりとして、ある方法では、データベースを使用して、特性のさまざまな組み合わせから生じるパフォーマンスの相対的なトレードオフを決定することができる。
【0029】
次に、7つのメリットインデックスの例を説明する。
【0030】
最初のメリットインデックスは、クリープメリットインデックスである。包括的な観察結果によれば、ニッケル基超合金の時間に依存した変形(すなわち、クリープ)は、転位クリープ(dislocation creep)によって発生し、初期の活動ではγ相に制限される。従って、γ’相の割合が大きいという理由から、転位セグメントはγ/γ’界面で急速にピン止めされる。速度制御ステップは、次に、トラップされた転位構成(trapped configurations of dislocations)のγ/γ’界面からの離脱であり、これは、クリープ特性に対する合金組成物の大きな影響を与える局所化学(この場合はγ相の組成)に依存する。
【0031】
負荷が単軸で<001>結晶学的方向に沿っている場合、クリープひずみの蓄積率

を求めるために、物理ベース微細構造モデルが使用できる。式のセットは次の通りである。

ここで、

は可動転位密度(mobile dislocation density)であり、φはγ’相の体積分率であり、ωはマトリックスチャネルの幅である。用語σおよびTは、それぞれ加えられた応力と温度である。用語bとkは、それぞれバーガースベクトルとボルツマン定数である。用語

は、これらの合金内の立方体粒子の近接近を表す制約要因である。式3は、増殖パラメーターC(multiplication parameter C)と初期転位密度の推定を必要とする転位増殖プロセス(dislocation multiplication process)を示す。用語Deffは、粒子/マトリックス界面でのクライムプロセス(climb processes)を制御する効果的な拡散率である。
【0032】
上記において、組成依存性は、2つの用語φとDeffから生じる。従って、微細構造のアーキテクチャが一定であると仮定され(微細構造アーキテクチャはほとんど熱処理によって制御されます)、φが固定されている場合、化学組成への依存は、Deffを介して発生する。ここで説明する合金設計モデリングの目的のために、合金組成物の試作品(プロトタイプ)の毎に、式2と3の完全な統合を実施する必要がないことが判明している。代わりに、最大化する必要がある、一次メリットインデックスMcreepが使用される。一次メリットインデックスMcreepは、以下の通り規定される。

ここで、xはγ相の溶質iの原子分率であり、

は適切な相互拡散係数である。
【0033】
2番目のメリットインデックスは、強度メリットインデックスである。高いニッケルベースの超合金である場合、強度の大部分は、析出相に由来する。従って、析出強度を最大にするため、合金組成物を最適化することは、設計上の重要な考慮事項です。硬化原理(hardening theory)から、強度のメリットインデックスMstrengthが提案されています。インデックスは、可能な限りの最大の析出強度を考慮しており、これは、弱い結合から強い結合の転位せん断(dislocation shearing)への移行が発生するポイントと判断される。強度のメリットインデックスMstrengthは、以下の式を使用して近似できる。

ここで、

はテイラー因子、γAPBは逆位相境界(APB)エネルギー、φはγ’相の体積分率、bはバーガースベクトルである。
【0034】
式5から、γ’相の欠陥エネルギー、例えば、逆位相境界APBエネルギーが、ニッケル基超合金の変形挙動に大きな影響を与えることが明らかである。APBエネルギーが増加すると、引張強度やクリープ変形に対する抵抗などの機械的特性が改善されることがわかっている。密度汎関数理論を使用して、多くのNi-Al-X系のAPBエネルギーが研究されていた。この作業から、γ’相のAPBエネルギーに対する第3元素の効果が計算され、複雑な多成分系を考慮する場合に、各第3元素添加の効果の線形重ね合わせが仮定され、次の式が得られた。

ここで、xCr、xMo、x、xTa、xNb、およびxTiはそれぞれ、γ’相のクロム、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ、およびチタンの原子百分率での濃度を表す。γ’相の組成は、相平衡計算(phase equilibrium calculations)から決定される。
【0035】
3番目のメリットインデックスは、固溶体メリットインデックスである。固溶体硬化は、ガンマ(γ)と呼ばれる(FCC)マトリックス相で発生し、特に、この硬化メカニズムは高温で重要である。マトリックス相の強化について、個々の溶質原子の重ね合わせを想定したモデルが採用される。設計空間で考慮される元素のための固溶強化係数(The solid solution strengthening coefficients)kiは、アルミニウム、コバルト、クロム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、及びタングステンについて、それぞれ、225、39.4、337、1015、1183、1191、775、及び977MPa/at.%1/2である。固溶体インデックスは、次の式を使用して、マトリックス相の平衡組成に基づいて計算される。

ここで、Msolid-solutionは固溶体メリットインデックスであり、xはγマトリックス相の元素iの濃度である。
【0036】
4番目のメリットインデックスは密度である。密度ρは、補正係数と混合物の単純な規則を使用して計算された。ここで、ρは特定の元素の密度、xはその合金元素の原子分率ある。
【0037】
5番目のメリットインデックスはコストである。各合金のコストを推定するために、混合物の単純な規則が適用された。ここで、合金元素の重量分率xに、合金元素の現在の(2016)の原材料コストcが乗算された。
【0038】
推定では、加工コストはすべての合金で同一であると仮定している。すなわち、製品の歩留まりは組成によって影響を受けないと仮定する。
【0039】
6番目のメリットインデックスは、積層造形(AM)インデックスである。積層造形によって処理される合金の能力は、化学組成に関連する。AMのための能力は、ニッケル超合金を溶接する能力(「溶接性」)を評価するために使用される基準に関連する。このインデックスは、合金組成物をニッケル基超合金の溶接性に関連付ける経験的観測から作成される(図2)。この関係では、チタンがアルミニウムの約2倍の密度を有するように、チタンの含有量に0.5の係数が追加され、これが「アルミニウム等価物(aluminium equivalent)」に変換されている。実質的に、金属合金の積層造形処理は、連続する溶接処理である。溶接性をアルミニウムとチタンの含有量に関連付けるだけの前記観測結果の適応が行われた。固化中のアルミニウムとチタンと同様に振る舞う、タンタルとニオブの影響を説明する修正が含まれている。チタンと同様に、これらの元素添加物を「アルミニウム等価物」に変換するために定数が追加されている。それ故、ニオブとタンタルは、それぞれ0.3と0.15の補正係数(アルミニウムに対する密度から決定)を持つ。AMインデックスには、次の式が適用される。
【0040】

ここで、WAl、WTi、WNb、およびWTaは、合金中のアルミニウム、チタン、ニオブ、およびタンタルの重量百分率である。このAMインデックスの低い値が、積層造形処理に対する反応がよりよいことを示す。AMインデックスの値が-1.0以上であることで、積層造形性能が満足したものとなる(図14および関連する説明を参照)。この値が-0.5以上、または0以上であることが、積層造形による処理の容易さを示すため、好ましい。
【0041】
7番目のメリットインデックスは、TCP相についての脆弱性に基づいて作られる不適切な微細構造アーキテクチャ(unsuitable microstructural architecture)に基づく、候補合金の排除に基づくものである。これを行うには、合金元素のd軌道エネルギーレベル(Mdと呼ばれる)を使用して、次の式に従って総有効Mdレベルを決定する。

ここで、xは合金中の元素iのモル分率を表す。Mdの大きい値は、TCP形成の確率が高いことを示す。
【0042】
上記のABD法を使用して、本発明の合金組成物を見出した。この合金の設計意図は、特に、650℃を超える高温強度(引張強度、クリープ強度)が要求される用途向けに、AM処理を介した高強度、耐食性の工学的加工品を製造するために、ニッケル基合金の組成を最適化することであり、これには、材料コストと密度の優れたバランスが組み合わされる。
【0043】
表1に記載される従来の鋳造ニッケル基合金の典型的な組成について、ABD法を使用して決定した材料特性を表3に記載する。新しい合金の設計は、これらの記載された合金について、予測された特性に関する考慮がなされた。
【0044】
次に、新しい合金の設計について、論理的根拠を説明する。
【0045】
【表3】
【0046】
図1に示すように、強度メリットインデックスによって計算される合金強度と、AMメリットインデックス(AMメリットインデックスの値が-1.0未満では、処理が難しいことを意味する)によって計算されるAMで製造される合金の適合性との間にはトレードオフがある。多くの商業的に使用されているよく知られたニッケル基超合金の位置がこの図に描かれている。この図から、強度が増加すると処理がより困難になることがわかる。図1には、表2に記載される組成領域(網掛け部分)に含まれる数百万の研究された合金組成も示されている。このトレードオフはあるものの、非常に改善されたAMで処理される能力が組み合わせられる、高強度の改善されたバランスを備える、合金を取得可能であることが示されている。この有益な効果を提供する合金組成物を見出すことは、次のセクションで説明する。
【0047】
図3は、γ’相を形成するために主に添加される元素添加物と、計算された強度メリットインデックスとの関係を示す。AMメリットインデックス(式10)に記載されているように、γ’相を形成する元素は、AMによる合金処理の容易さを低下させる可能性がある。従って、これら元素の組み合わせを最適化して、AM処理能力と強度の最適なバランスを実現する必要がある。図にプロットされているものは、AMによって合金を容易に処理できると見なされる限界を示す点線であり、線より上にある基本領域(elemental ranges)は、合金の処理を制限するため、あまり好ましくない。この線は、次の式を有する。
【0048】

ここで、WAl、WTi、WNb、及びWTaは、それぞれ合金中のアルミニウム、チタン、ニオブ、タンタルの重量百分率である。積層造形の式では、アルミニウムの最大許容レベルが4.0重量%であることが示されているが、アルミニウムは、ガンマプライム相のソルバス温度を上昇させることが知られている。低いガンマプライムソルバス温度は、蓄積状態(build state)においてひずみの蓄積を低減するため、AM加工性にとって好ましい。低いガンマプライムソルバス温度、例えば、表3(Crudden et al. Acta Materialia 75 (2014) 356-370)に記載されている合金の範囲よりも低いソルバスを持つ合金を提供するであろう1100℃の最大ガンマプライムソルバス温度を実現するためには、アルミニウムの含有量は、3.5重量%以下に制限される。好ましくは、アルミニウムの最大濃度は、3.5重量%に制限される(良好な積層造形性を確保するために、より好ましくは、3.0重量%であり、または2.5重量%でもあり、または2.2重量%である)。この式を満たすことは、AMメリットインデックスが少なくとも-0.5であることを意味する。AMメリットインデックスが高いほど、AM処理が容易になる。このため、好ましくはWAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦3.4であり、より好ましくはWAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦3.3であり、さらにより好ましくはWAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦3.2であり、さらにより好ましくはWAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦3.1であり、最も好ましくはWAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦3.0である。
【0049】
元素添加物チタン、ニオブ、及びタンタルは、元素アルミニウムの代わりに添加され、これらの元素はγ’相に分配される。これらの元素の組み合わせ(原子百分率による)がアルミニウム含有量の合計(原子百分率による)よりも大幅に大きい場合、γ’相の安定性が低下する可能性があり、その結果、デルタ(δ)やイータ(η)などの望まれない位相が形成される。原子百分率による元素の割合は、チタン、ニオブ、タンタルの元素の重量百分率を、アルミニウムに対する相対密度で換算して近似され、それぞれ、0.5、0.3、0.15に近似される。したがって、次の式が満足するように、アルミニウムに対する元素チタン、ニオブ、及びタンタルの合計の比率が1.5以下に保持されることが好ましい。
【0050】
従って、Alの最大許容量を3.5重量%とすると、チタンは3.6重量%、ニオブは6.0重量%、タンタルは12.0重量%に制限される。γ’相のより良い安定性を提供するには、より好ましくは、元素チタン、ニオブ及びタンタルの合計のアルミニウムに対する比は、1.125未満に保持される。従って、チタンは3.1重量%に制限され、ニオブは5.1重量%に制限され、タンタルは10.3重量%に制限されることがより好ましい。γ’相のより良い安定性を提供するには、より好ましくは、元素チタン、ニオブ及びタンタルの合計のアルミニウムに対する比は、1.00未満に保持される。従って、チタンは3.0重量%に制限され、ニオブは5.0重量%に制限され、タンタルは10.0重量%に制限されることがより好ましい。
【0051】
タンタル及び/又はニオブの使用は、強度メリットインデックスおよびガンマプライム体積分率を増加させる(図3及び6を参照)。従って、ガンマプライムの析出強化(gamma prime precipitate strengthening)を最大化することで強度を増大するため、元素タンタルとニオブの合計について、(0.3Nb+ 0.15Ta)>0.1であること好ましく、より好ましくは>0.15であり、さらに好ましくは>0.2である。
【0052】
高強度が好ましい場合、最小0.1重量%以上のタンタル、好ましくは0.3重量%以上のタンタルが有益である。
【0053】
より低い合金コストが好ましい場合には、ニオブを使用することが好ましい。従って、最小0.1重量%以上のニオブ、好ましくは0.3重量%以上のニオブを有することが好ましい。
【0054】
アルミニウムに加えてチタンを使用すると、強度メリットインデックスが増加する(図3を参照)。従って、0.1重量%以上のチタンを添加することが好ましく、好ましくは0.3重量%以上のチタンである。
【0055】
ガンマプライム相においてアルミニウムの代わりにチタン、タンタル及びニオブを使用すると、ABPエネルギーが高くなる(式6を参照)。従って、高強度が得られるために、比率(0.5Ti+0.3Nb+0.15Ta)/Al≧0.75が好ましく、好ましくは≧0.9であり、より好ましくは≧1.0である(Crudden et al。Acta Materialia 75(2014)356 -370)。
【0056】
元素白金、パラジウムは、タンタル、チタン及びニオブの元素と同様に振る舞う、つまり、これらは、逆位相境界エネルギー(anti-phase boundary energy)を増加させるガンマプライムの形成元素である。これらの元素は、元素タンタル、チタン及びニオブの代わりに、合金に任意に追加できる。この利点には、高温腐食に対する耐性の改善が含まれることがある。プラチナ及びパラジウムについての「アルミニウム等価物」には、それぞれ0.125と0.225の補正係数(アルミニウムに対するこれらの密度から決定)が必要である。ただし、これらの元素の追加には高いコストがかかるため、これらの元素の追加は制限される必要がある。従って、これらの元素は、コストと耐食性に対する改善の最適なバランスを提供するため、それぞれ最大で1.0重量%の量で存在でき、好ましくは0.5重量%未満に制限され、最も好ましくは0.1重量%未満に制限される。積層造形による良好な処理を提供するには、次の式を満足することが好ましい。

ここで、WPtとWPdは、それぞれ合金中の白金とパラジウムの重量百分率である。
【0057】
強度メリットインデックスの最小の強度要求は1050MPaであり、この合金は、AMインデックスが正の値である表3に記載される最も強力な合金よりも強度が優れる。図3は、元素アルミニウム及びチタンの合計と、元素ニオブ及びタンタルの合計が合金強度にどのように影響するかを示している(強度メリットインデックスの観点から)。要求される強度メリットインデックスを達成するには、図3にプロットされる次の式を満たすべきである。

より好ましくは、1050MPaを超える強度メリットインデックスを提供するには、次の式を満たすべきである。
【0058】
Al+0.5WTi+1.5(0.3WNb+0.15WTa)の合計が高いほど、強度メリットインデックスが高くなる。WAl+0.5WTi+1.5(0.3WNb+0.15WTa)の合計は、好ましくは3.2以上であり、より好ましくは3.3以上であり、さらにより好ましくは3.4以上、最も好ましくは3.5以上であり、これは約1150MPaの強度メリットインデックスを与える。
【0059】
強度メリットインデックスにより決定される、良好なレベルの引張強度と組み合わせ、合金の密度を制限することも目標としている。いくつかの元素添加は、機械的強度を増加させるが、密度に悪影響を与えるため、合金強度と合金密度のトレードオフを管理する必要がある。密度を最も強く高める合金設計領域の元素は、タングステンとタンタルである。AMメリットインデックスが0.0以上であることを満たす合金について、合金密度への影響を図4に示す。新しい合金の比強度メリットインデックス(the specific strength merit index)(強度メリットインデックスを密度で除して計算)は、ワスパロイ(Waspaloy)の比強度メリットインデックスである115.8 MPa.cm.g-1よりも高いことが好ましい。従って、新しい合金の最小の強度メリットインデックスが1050MPaである場合、密度を、例えば、表3に記載される合金の上限と下限の範囲内にある密度の合金を提供し、ワスパロイと比較した改善された比強度を提供する、8.7g/cm未満に制限することが好ましい。従って、合金のタングステンの含有量は5.4重量%未満に制限され、タンタル添加物の制限は4.9重量%である。タングステンとタンタルが添加される合金の密度を制限するためには、次の式に従うことが好ましい。
【0060】

ここで、f(Density)は、8.7g/cm未満の密度の合金を製造するために、5.4以下の数値である。レニウム及び/又はルテニウムは、タングステンの代わりになり、次の式:1.1WTa+(W+0.92WRe+1.58WRu)が得られる。
【0061】
前述したように、γ’体積分率と強度メリットインデックスを制御することにより、合金の降伏応力(yield stress)と耐クリープ性が向上する。合金強度のさらなる改善は、ガンマ(γ)と呼ばれる面心立方格子(FCC)マトリックス相に分配される元素を追加することで達成できる。γ相の強度に対する元素の影響は、固溶体メリットインデックス(SSI)を使用して計算される。本発明のγ相は、主に、元素モリブデン、コバルト、クロム及びタングステンから構成される。クロムは、γ相の固溶体強化(solid solution strengthening)に強く影響せず、クロムを添加すると、主に合金の酸化と腐食に対する耐性を向上する(図12)。コバルトは、γ相の固溶体強化に強く影響しないが、図8~11に示す、クリープメリットインデックスに有益な効果がある。元素モリブデンとタングステンが、固溶体インデックスに最も強く影響することが判明している。
【0062】
固溶体インデックスに対するモリブデンとタングステンの影響を図5に示す。固溶体インデックスの最小目標は90MPaであり、より好ましい最小目標は95MPaであった。固溶体インデックスの変化は、次の式に従って、タングステンとモリブデンの含有量の変化に関連していた。
【0063】

ここで、f(SSI)は数値であり、WとWMoは、それぞれ合金中のタングステンとモリブデンの重量百分率である。タングステンは、レニウム及び/又はルテニウムで置換することができ、これにより、式は(W+0.92WRe+1.58WRu)+2.1WMoに変更される。例えば、少なくとも90MPaのSSIの値を生成するには、f(SSI)の数値は8.7以上にすべきである。Mo+Wの最小濃度は、満足できるレベルのSSIを達成するために4.2重量%に制限される。表3の最高SSIに相当する、少なくとも95MPaのSSIの値を有する合金を生成するため、好ましくは、f(SSI)の数値は11.0以上である。したがって、Mo+Wの最小含有量は、5.3重量%よりも大きいことが好ましく、さらには5.6重量%よりも大きいことが好ましい。表12を参照して以下で説明するように、レニウム及び/又はルテニウムがタングステンを置換する可能性があるため、これらの元素の密度比に応じたこの式で、タングステンをルテニウム及び/又はレニウムで置き換えることができる。すなわち、式は、(W+0.92WRe+1.58WRu)+WMoが4.2以上となり、好ましくは5.3以上、よりさらに好ましくは5.6以上である。タングステンの含有量が5.4重量%に制限される場合は、1.6重量%以上のモリブデンを含む合金を製造して、90MPaを超えるSSIを持つ合金を製造することが好ましく、2.7重量%以上のモリブデンの含有量を有し、95MPa以上のSSIを有する合金を製造することがより有益である。最大許容量のモリブデンは4.0重量%であるため、最小量のタングステンは0.2重量%であることが望ましい。これは、より高価なレニウムとルテニウムが不要であることを意味する。望ましくは、タングステンの量は、少なくとも0.7重量%であり、さらには少なくとも1.0重量%以上であり、例えば1.5重量%または2.0重量%の最小値、または、さらには2.6重量%の最小値である。これにより、レニウム及びルテニウムの添加にほとんど、又は全く依存しないだけでなく、Moの含有量を減らす(高温腐食耐性を助ける)ことができる。
【0064】
図6から、積層造形で容易に処理できる合金を製造するには、平衡温度900℃でγ’体積分率を0.30に制限することが好ましいことがわかる。最も好ましいAMインデックスの値WAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦3.0に基づき、最も好ましいγ’の体積分率の体積分率は、0.23に制限される。この制限は図7にプロットされている。耐クリープ性(137MPaでテストしたときの1000時間クリープ破断温度)に対する、γ’体積分率とクリープメリットインデックスの影響を図7に示す。両方のパラメーターを大きくすると、耐クリープ性が向上する。AMインデックスが正の値である、表3に記載される合金の位置が図7に示されている。ワスパロイを超える改善された耐クリープ性を備える合金を製造するには、予測される1000時間のクリープ破断寿命が850℃を超えることが好ましい。ワスパロイと比較して耐クリープ性を改善するには、クリープメリットインデックスが、ワスパロイのそれ5.3x10-15-2sよりも高いことが好ましい。表2に記載される合金系のクリープメリットインデックスは、8.5x10-15-2sに制限されている(図8-11を参照)。5.3x10-15-2sを超えるクリープメリットインデックスを達成するために必要な元素添加については、図6および8-11を参照して以下のセクションで説明する。耐クリープ性が改善された合金を製造するためには、γ’体積分率がワスパロイのそれよりも高いことが好ましく、平衡温度が900℃の場合には、新しい合金のγ’体積分率は、0.18~0.30であることが好ましく、0.18~0.23であることがより好ましい。より好ましくは、耐クリープ性とAM処理のより良い組み合わせのために、平衡温度が900℃の場合、新しい合金のγ’体積分率は0.20~0.23である。これについては、図6を参照して確認される。
【0065】
アルミニウム、チタン、ニオブ、及びタンタルの含有量が次の制約を満たさなければならない場合、0.18~0.3の望まれたγ’分率を持つ合金が生成される。

ここで、f(γ’)は2.65~3.5の範囲の数値である。f(γ’)が2.8~3の範囲の数値である場合、γ’分率が0.20~0.23の合金が生成され、高いクリープ強度とAM処理の改善された組み合わせを持つ合金となる。従って、f(γ’)の制約を満たすためには、(0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa)/WAl≦1.5とすると、合金におけるアルミニウムの最小含有量は1.0重量%であるべきである。γ’分率が0.20~0.23であるとともに、f(γ’)が2.8~3である合金を生成する合金を生成するには、好ましい最小アルミニウム含有量は1.1重量%であるべきである。耐クリープ性はγ’分率を増加させることによってさらに改善できるため、f(γ’)は2.9以上が望ましい。このため、アルミニウムの最小含有量は1.2重量%が望ましい。
【0066】
クリープメリットインデックスに対するコバルト、タングステン及びモリブデンの影響を図8-11に示す。これらの元素は、耐クリープ性の改善に有益な影響を与えることがわかる。クリープメリットインデックスの目標は、5.3x10-15-2sである。密度と耐クリープ性の良いバランスの合金を製造するため、タングステンの含有量は、5.4重量%に制限される。合金におけるモリブデンの含有量は、高温腐食の影響を受けにくくするために、4.0重量%より低く維持される。耐高温腐食性をさらに改善するため、モリブデンの含有量は、好ましくは3.8重量%以下に、より好ましくは3.5重量%以下に、さらにより好ましくは3.0重量%以下に制限される。図11は、モリブデンが4.0重量%に制限されている場合における、耐クリープ性に対するコバルトとタングステンの影響を示しており、これにより、好ましいモリブデン範囲における最も優れた耐クリープ性が得られる。密度についてのタングステンの範囲(最大5.4重量%)が考慮される場合、8.9重量%のコバルトの最小濃度は、十分に高いクリープメリットインデックスを提供する。より高い耐クリープ性は、14.0重量%以上のコバルトを含む合金によって提供されることが好ましい。より好ましくは、合金中のコバルトの最小含有量は15.6重量%であり、なぜなら、これにより、4.0重量%のモリブデンで、7.0x10-15-2sを超えるクリープメリットインデックスを有する合金が生成されるためである。これは、γ’体積分率が0.20の推奨下限にあるときに、良好なレベルの耐クリープ性を提供する。コバルトの含有量は、例えば、モリブデン添加物が推奨制限の下端の1.6重量%にあるときに(図9)、7.0x10-15-2sのクリープメリットインデックスが達成されるように、17.1重量%よりも大きいことがより好ましい。基本元素(base element)がニッケルである合金の場合、コバルトの最大濃度は30重量%に制限される。コバルトの含有量が多すぎると、合金の酸化性能に悪影響が及ぶ。好ましくは、コバルトの含有量は、合金の酸化挙動を改善するために、25重量%未満に制限される。より好ましくは、コバルト添加物は、この合金化元素の高いコスト(2017年の原料元素のコストに基づく)を理由として、20重量%未満に制限される。図8-11からわかるように、タングステンの含有量が高いほど、クリープメリットインデックスが高くなる。タングステンの好ましい最小値は0.2重量%である。より好ましくは、7.0x10-15-2sのクリープメリットインデックスが要求され、従って、タングステンの好ましい下限は1.8重量%であり、それにより20%のコバルトでそのクリープメリットインデックスが達成される。最も好ましくは、低いレベルのモリブデンに起因する、改善された耐高温腐食性が組み合わせられた、高い耐クリープ性が実現できるように(図9)、タングステン含有量は3.1重量%よりも大きい。
【0067】
元素レニウム、ルテニウム、及びイリジウムは、タングステンと同様に振る舞う。すなわち、それらはクリープメリットインデックスを改善するガンマ形成元素である。元素タングステン、レニウム、ルテニウム、及びイリジウムの合計が、密度の観点から、5.4重量%のタングステンの等価物と同等又はそれ以下である場合には、これらの元素は任意で合金に添加できる。これらの元素を添加すると、タングステンと比較して合金のクリープ応答(creep response)が大幅に増加する(拡散性がはるかに遅いため)が、元素のコストが高いためコストが大幅に増加する。密度を制御するタングステンの含有量(5.4重量%以下)に基づき、合金密度を好ましいタングステンの含有量以上に増加させることなく、耐クリープ性を改善するレベルまで元素を追加することができる。これを行うために、タングステンに対する密度に基づく係数が各合金に対して計算される。レニウム、ルテニウム及びイリジウムの係数は、それぞれ0.92、1.58及び0.85である。従って、最大のレニウムの含有量が5.0重量%であり、ルテニウムの含有量が8.5重量%であり、イリジウムの含有量が4.6重量%であることが好ましい。これらの元素の添加物は、元素コストのために、より好ましくは3.0%未満に、さらにより好ましくは2.0重量%未満に、最も好ましくは1.5重量%未満に制限される。
【0068】
図12は、高温で形成された主要な酸化物に合金組成を関連付けたマップを提供する。合金は、材料の特性を劣化させる酸素の侵入を防ぐため、主に、クロミア(Cr)やアルミナ(Al)である酸化物を形成する必要がある。これらの保護酸化物の形成を可能にするには、1の添加が必要である。合金におけるアルミニウムの最小含有量(1重量%)に基づき、クロムの最小含有量は、アルミニウム濃度が最低レベルであってもクロミアスケール(chromia scale)が形成されるように、10.8重量%が望ましい(図12)。最も好ましくは、耐酸化性を改善する強力な効果を有し、高温腐食に対する非常に良好な耐性も提供するため、クロミアの含有量が15.0重量%を超えることが望ましい。
【0069】
クロムの最大濃度は、微細構造の安定性の維持と、シグマ(σ)相やミュー(μ)相などの望ましくないトポロジー的稠密充填(topologically close packed(TCP))相の形成を保証するために制御される。TCP相の形成につながる主な元素は、モリブデン、タングステン及びクロムである。図13は、ガンママトリックス相のMd値に対するこれらの元素の影響を示している。Md値は、微細構造の安定性が向上するため、低いことが好ましい。Md値は、安定性が表3に記載されている他の合金に匹敵するように、0.92に制限されることが好ましい。従って、元素モリブデンとタングステン(Mo+W)の合計の最小必要条件である4.2重量%を考えると、クロムの含有量は20.6重量%未満であることが有益であり、より好ましくは19.2重量%未満であり(好ましいMo+W=5.3重量%に基づく)、より好ましくは、Mo+W= 4.2重量%のときに改善された安定性(Md=0.91)をもたらすので、17.6重量%未満であり、最も好ましくは、Mo+W=5.3重量%のときに0.91の安定値(Md=0.91)をもたらすため、16.6重量%より小さく、その結果、強度安定性と耐酸化性/耐腐食性の最適なバランスとなる(図13)。好ましくは、Mo+Wの含有量は10.8重量%未満であり、これはクロムのレベルが10.8重量%に等しいときに良好な安定性(Md=0.91)を達成する。より好ましくは、Mo+Wは、6.6重量%未満であり、なぜなら、クロムの含有量が15.0重量%以上であるときに良好な安定性(Md=0.91)をもたらすためである。
【0070】
粒界に強度を与えるためには、炭素、ホウ素及びジルコニウムの添加が必要である。これは、特に、合金のクリープ及び疲労特性に有益である。炭素の濃度は、0.02重量%~0.35重量%の範囲にあるべきである。積層造形処理での割れを減らすためには、低レベルの炭素が好ましく、したがって、0.2重量%未満または0.15重量%未満の含有量が好ましく、より好ましくは0.1重量%未満である。ホウ素は、固化中に液相に分離し、AM処理中に液化割れ(liquation cracking)を引き起こす可能性があるため、ホウ素の濃度は、0.001~0.2重量%の範囲にあるべきであり、好ましくは0.03重量%未満であり、より好ましくは0.02重量%未満である。ジルコニウムの濃度は、0.001重量%~0.5重量%にあるべきであり、好ましくは0.01重量%未満であり、より好ましくは0.006重量%未満である。
【0071】
合金が製造されるとき、不可避的不純物が実質的にないことが有益である。これらの不純物には、元素硫黄(S)、マンガン(Mn)および銅(Cu)を含むことができる。元素硫黄は、0.003重量%(質量換算で30PPM)より低くするべきである。マンガンは、0.25重量%に制限される不可避的不純物であり、好ましくは0.1重量%未満に制限される。銅(Cu)は、好ましくは0.5重量%に制限される不可避的不純物である。0.003重量%を超える硫黄の存在は、合金の脆化を引き起こす可能性があり、また、硫黄は、酸化中に形成される合金/酸化物界面に偏析する。このため、硫黄のレベルは、好ましくは、0.001重量%未満である。不可避的不純物であるバナジウムは、合金の酸化挙動に悪影響を及ぼすため、好ましくは0.5重量%に制限され、好ましくは0.3重量%未満、最も好ましくは0.1重量%未満に制限される。この偏析は、保護酸化物スケールの破砕の増加につながる可能性がある。これらの不可避的不純物の濃度が指定されたレベルを超えると、製品の歩留まりと合金の材料特性の劣化に関する問題が予期される。
【0072】
0.5重量%まで、より好ましくは0.2重量%までのハフニウム(Hf)の添加は、合金中の不可避的不純物を妨害し、また強度を提供するためにも有益である。ハフニウムは、強力な炭化物形成剤であり、付加的な粒界の強化を提供できる。
【0073】
いわゆる「反応性元素」である、イットリウム(Y)、ランタン(La)、及びセリウム(Ce)を添加すると、Crなどの保護酸化物層の接着性が向上するため、0.1重量%のレベルまで有益である。これらの反応性元素は、合金と酸化物の界面に偏析し、酸化物と基質の間の結合を弱めて酸化物の破砕をもたらす、例えば、硫黄などの有害元素(tramp elements)を、「掃討(mop-up)」することができる。0.5重量%までのシリコン(Si)の添加が有益なことがあり、0.5重量%までのレベルにおいて、ニッケル基超合金へのシリコンの添加が、酸化特性に有益であることが示されている。特に、シリコンは、合金/酸化物の界面に偏析し、基質に対する酸化物の密着を改善する。これにより、酸化物の破砕が減少し、耐酸化性が向上する。
【0074】
このセクションで提示される本発明の説明に基づき、本発明の広い範囲が、表4に記載される。
【実施例0075】
表4は、本発明からの組成例(AMNi-1 - AMNi-3)を記載する。表4におけるこれらの新しい合金の計算された特性を、表5における現在使用されている合金と比較する。これらの合金設計のための根拠を説明する。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
本発明に含まれる実施例の合金AMNi‐1 ‐ AMNi‐3は、正であると計算されるAMインデックスを有する現在の合金と比較して、機械的特性(引張強度およびクリープ強度)の改善されたバランスを有している。結果としては、リストされている既知の合金(N80A、N90、ワスパロイ)と比較して、機械的強度と積層造形を使用する処理能力の改善された組み合わせが得られる。特に、引張強度(強度メリットインデックスの観点から)は、93~109MPa(ワスパロイと比較して)も向上しており、改善率は8.5~10%である。さらに、合金の耐クリープ性は、クリープメリットインデックスを増加させるとともに、γ’体積分率を増加させることにより、ワスパロイに対して改善される(図7)。γ’体積分率とクリープメリットインデックスの増加が組み合わせられることで、ワスパロイと比較して25℃のクリープ破断寿命が改善される(図7)。これらの改善は、他の合金特性、たとえば、既知の合金(N80A、N90、ワスパロイ)とほぼ同等のコストと密度で達成される。
【0079】
【表6】
【0080】
【表7】
【0081】
表6は、(0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa)/WAlの関係について、元素の比率が0.98から1.98の間で変更された組成例を示している。この比率の効果を示す、これらの合金の計算された特性が表7に記載されている。ベースラインの合金AMNi-3と比較し、比率を増加すると、引張強度が増加することがわかる(強度メリットインデックスの観点から)。これは、密度やコストなどの他の特性について、わずかな違いで達成される。比率(0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa)/WAlを増やすと、望ましくない相(ε)が形成され、合金の延性が低下する可能性がある。5%未満の低レベルのε相は、許容することができる。(0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa)/WAl=1.48の合金AMNi-6には、この限界を超えるε相分率があり、比率を1.5未満に制限することが有益であることを示している。(0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa)/WAl=1.28の合金AMNi-5は、5%未満のε相分率を持っている。(0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa)/WAl=1.125であるより好ましい合金AMNi-4は、非常に限られたε相の形成を示すが、ベースライン合金AMNi-3に比べて強度が向上している。
【0082】
【表8】
【0083】
【表9】
【0084】
表8は、合金AMNi-3において、コバルトの含有量が11.5~29.5重量%の間で変更されている組成例を示している。コバルトの効果を示す、これらの合金の計算された特性が表9に記載されている。ベースラインの合金AMNi-3と比較し、コバルトの含有量(AMNi-10- AMNi-12)を減らすと、耐クリープ性(クリープメリットインデックスの観点から)が低下することがわかる。ただし、クリープメリットインデックスの目標はまだ達成されている。コバルトが低下すると、γ’体積分率や引張強度(強度メリットインデックスの観点から)などの他の特性の変化が制限される。コバルトの低減は、合金のコストを下げ、Md値を下げることで安定性を高めるのにも有利である。ベースラインの合金AMNi-3と比較し、コバルトの含有量(AMNi-13- AMNi-18)を増やすと、クリープメリットインデックスが増加し、耐クリープ性が改善した。γ’体積分率や引張強度への影響は限られている。コバルトを増やすと、合金のコストが上がる。29.5重量%のレベルで、合金は安定性の限界(Md≦0.92)に近づく。したがって、合金のコストと安定性を制御するため、コバルトの含有量は29.5重量%未満に維持することが好ましい。
【0085】
【表10】
【0086】
【表11】
【0087】
表10は、合金AMNi-3において、クロムの含有量が9.0~23.0重量%の間で変更されている組成例を示している。クロムの効果を示す、これらの合金の計算された特性が表11に記載されている。ベースラインの合金AMNi-3と比較し、クロムの含有量(AMNi-19- AMNi-24)を減らすと、合金の微細構造の安定性(減少したMd値の観点から)が改善されることがわかる。より高いレベルのクロムがより多くの保護酸化物を促進するため、クロムのレベルを下げると耐酸化性が低下する。クロムが低下すると、γ’体積分率や引張強度(強度メリットインデックスの観点から)などの他の特性の変化が制限される。ベースラインの合金AMNi-3と比較し、クロムの含有量(AMNi-25- AMNi-26)を増やすと、耐酸化性が改善する。γ’体積分率や引張強度への影響は限られている。クロムを21.0重量%のレベルを超えて増加させると、合金が安定性の限界(Md≦0.92)を超えた。したがって、合金のコストと安定性を制御するためには、コバルトの含有量を21.0重量%未満に保つことが好ましい。15.0-19.5重量%のより好ましいクロムの範囲は、耐酸化と微細構造の安定性の最良のバランスを提供する。
【0088】
【表12】
【0089】
【表13】
【0090】
表12は、合金AMNi-3において、タングステンを、レニウムとルテニウムにそれぞれ0.46~4.6重量%と0.79~7.9重量%の間で置換した組成例を示している。タングステンの代わりにレニウムとルテニウムを使用する効果を示す、これらの合金の計算された特性が表13に記載されている。
【0091】
ベースラインの合金AMNi-3と比較し、タングステンの含有量をレニウムで置換(AMNi-27- AMNi-36)すると、耐クリープ性(クリープメリットインデックスを単位とする)に大きな影響を与えることがわかる。レニウムの含有量が4.2重量%の場合、AMNi-3と比較して、耐クリープ性が30℃も向上する(図7)。これにより、クリープ温度が882℃の合金が得られ、ワスパロイと比較して50℃以上改善される。レニウムは、タングステンよりも高密度であるが、比率W:0.92WReに従ってタングステンをレニウムで置き換えることにより、密度は悪影響を受けない。タングステンをレニウムに置換することにより得られる性能の改善は、大幅なコスト増を実現する。このため、レニウムの使用は、制限することが好ましい。レニウムの添加は、合金の安定性を改善する効果もある(より低いMd値の観点から)。
【0092】
ベースラインの合金AMNi-3と比較し、タングステンの含有量(AMNi-37 -AMNi-46)をルテニウムで置換すると、耐クリープ性(クリープメリットインデックスの観点から)が大幅に向上することがわかる。ルテニウムの含有量が7.9重量%の場合、AMNi-3と比較して、耐クリープ性が50℃も向上する(図7)。これにより、クリープ温度が903℃の合金が得られ、ワスパロイと比較して75℃以上改善される。ルテニウムは、タングステンより密度が低いが、比率W:1.58WRuに従い、タングステンをルテニウムに置換することにより、合金の密度が維持される。比率W:1.58WRu未満でルテニウムの代わりにタングステンを使用すると、耐クリープ性と密度の両方が改善するため、利益がある。タングステンをルテニウムに置換することにより得られる性能の改善は、大幅なコスト増を実現する。このため、ルテニウムの使用は、制限することが好ましい。
【0093】
【表14】
【0094】
【表15】
【0095】
表14は、合金AMNi-3のニッケル含有量が、1.0~6.0重量%の鉄で直接置換された組成例を示している。鉄の効果を示す、これらの合金の計算された特性が表15に記載されている。鉄を添加する主な利点は、合金スクラップ(合金くず)のリサイクル/再溶解後に残る残留元素(residual element)である。鉄の添加に対する耐性が高くなると、合金のリサイクル性が改善する。ベースラインの合金AMNi-3と比較し、鉄の含有量(AMNi-47- AMNi-53)を増やすと、合金の微細構造の安定性が低下することがわかる(Md値増加の観点から)。鉄の含有量は、合金の安定性の目標である安定性限界(Md≦0.92)を下回るように、6.0重量%以下に制限されるべきである。鉄の添加による、γ’体積分率、引張強度(強度メリットインデックスの観点から)、又は耐クリープ(クリープメリットインデックスの観点から)などの他の特性の変化は限られている。合金は、鉄を2重量%未満で含んでいることが好ましく、これは、微細構造の安定性とリサイクル性のより良いバランスを提供する。
【0096】
【表16】
【0097】
【表17】
【0098】
表16は、コバルト、クロム、モリブデン、及びタングステンを固定した水準(レベル)とし、アルミニウム、ニオブ、タンタル、及びチタンの含有量を変化させた組成例を示している。比較のために合金AMNi-3が示されている。AMインデックスへの影響を示す、これらの合金の計算された特性が表17に記載されている。
【0099】
ベースラインの合金AMNi-3と比較し、γ’相形成元素(AMNi-54- AMNi-56)の量を増やすと、AM処理中の割れが発生しやすくなる(AMインデックスの観点から)。ただし、AMインデックスの目標はまだ達成されている。図14から、AMインデックスが-1.00以上の場合、AM製造中の割れが発生しないが、AMインデックスが-1.00未満であるとAM製造中の割れが発生することがわかる。図14のサンプルは、10mm×10mm×10mmの立方体サンプルであり、これは、選択されたニッケル基超合金の積層造形による処理の容易さを評価するために、選択的レーザー溶融パウダーベッド法(selective laser melting powder-bed method)を使用して製造されものである。サンプルは、アルゴン雰囲気(<0.1% O)下で処理されたアルゴンガス噴霧合金粉末(argon gas atomised alloy powder)(+15-45μm)から、同じ条件の下で製造された。製造状況で機械がどのように動作するかを最もよく表すため、2.2J/mmの固定エネルギー密度と30μmの層厚が選択された。最終的な1μmのダイヤモンド研磨後、X-Z平面を露出する構築方向(build direction)に対し、平行に切断することにより、金属組織サンプルを用意した。図14に、ヒストグラムから派生した閾値化(histogram-derived thresholding)を適用した後の光学顕微鏡による典型的な顕微鏡写真を示す。
【0100】
AMインデックスが低下すると、γ’相体積分率や引張強度(強度メリットインデックスの観点から)などの他の特性に大きな影響がある。その結果、IN939(AMインデックス-1.26)などの既知の合金と比較し、機械的強度と積層造形を使用した処理能力の改善された組み合わせが得られる。AMインデックスを増加すると(コバルト、クロム、モリブデン、及びタングステンを固定した水準で)、合金の微細構造の安定性が低下することがわかる(Md値増加の観点から)。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14