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特開2023-166397酸素感受性グラム陽性細菌の保護に使用されるポリペプチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166397
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】酸素感受性グラム陽性細菌の保護に使用されるポリペプチド
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20231114BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
A61K38/17
C07K14/47 ZNA
A61P1/00
A61P37/08
A61P25/00
A61P29/00
A61P39/06
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023131095
(22)【出願日】2023-08-10
(62)【分割の表示】P 2020501467の分割
【原出願日】2018-07-13
(31)【優先権主張番号】17305925.4
(32)【優先日】2017-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519137349
【氏名又は名称】ザ・ヘルシー・エイジング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】THE HEALTHY AGING COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル ドレ
(72)【発明者】
【氏名】ジャミーラ フェーブル
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ モニオー
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン ブレショ
(72)【発明者】
【氏名】マリオン ダルノー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】酸素感受性グラム陽性細菌の保護において使用されるReg3αポリペプチド、該ポリペプチドを含有する組成物、及びそれらの使用を提供する。
【解決手段】hReg3αレクチンの濃度をhReg3αトランスジェニックマウスの胃腸管内腔中で増大させると、腸内細菌叢の組成の顕著な変化が誘導され、宿主の腸炎に対する耐性が顕著に改善する。hReg3αは、大腸炎において腸上皮細胞に対する強力な抗酸化活性、特にROS除去活性を呈する。また、hReg3αトランスジェニックマウス抗生物療法後のDSS誘導大腸炎に対し良好な耐性を示す。従って、酸素感受性グラム陽性細菌、特にRuminococcaceae及び/又はLachnospiraceaeの保護に使用される。Reg3αポリペプチドは、微生物叢に関連する疾患及び/又は障害を予防又は治療するために使用され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4のアミノ酸配列、又はこれと85%以上の同一性を有する配列を含み、酸素感受性グラム陽性細菌の保護に使用される、Reg3αポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドが、配列番号1、配列番号2、若しくは配列番号3のアミノ酸配列、又はこれらと85%以上の同一性を有する配列を含む、請求項1に記載のReg3αポリペプチド。
【請求項3】
前記酸素感受性グラム陽性細菌が、Clostridiales目のものである、請求項1又は2のいずれかに記載のReg3αポリペプチド。
【請求項4】
前記酸素感受性グラム陽性細菌が、Ruminococcaceae、例えばFaecalibacterium prausnitzii、及び/又はLachnospiraceae、例えばRoseburia intestinalisである、請求項1~3のいずれか1項に記載のReg3αポリペプチド。
【請求項5】
微生物叢に関連する疾患及び/又は障害を予防又は治療するための、請求項1~4のいずれか1項に記載のReg3αポリペプチド。
【請求項6】
酸素感受性グラム陽性細菌のエクスビボ増殖を促進するための、請求項1~4のいずれか1項に記載のReg3αポリペプチドの使用。
【請求項7】
前記酸素感受性グラム陽性細菌がClostridiales目のものである、請求項6に記載のReg3αポリペプチドの使用。
【請求項8】
経口又は経粘膜投与用の医薬組成物であって、1つ以上の医薬として許容される賦形剤と組み合わせられて、配列番号4のアミノ酸配列、又はこれと85%以上の同一性を有する配列を含むReg3αポリペプチドを含有する、医薬組成物。
【請求項9】
前記Reg3αポリペプチドが、配列番号1、配列番号2、若しくは配列番号3のアミノ酸配列、又はこれらと85%以上の同一性を有する配列を含む、請求項8に記載の経口又は経粘膜投与用の医薬組成物。
【請求項10】
微生物叢に関連する疾患及び/又は障害を予防又は治療するために使用される、請求項8又は9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記微生物叢が腸内微生物叢である、請求項10に記載の医薬組成物、又は請求項5に記載のReg3αポリペプチド。
【請求項12】
前記微生物叢に関連する疾患及び/又は障害が、炎症性腸疾患(IBD)、大腸炎、胃腸感染症、過敏性腸症候群、及び他の胃腸機能の疾患、胃腸管の癌、代謝症候群及び肥満、糖尿病、肝疾患、アレルギー疾患、神経変性疾患及び心理的障害からなる群から選択される、請求項10又は11に記載の医薬組成物、又は請求項5又は11に記載のReg3αポリペプチド。
【請求項13】
前記微生物叢に関連する疾患及び/又は障害が、腸内微生物叢のバランスを壊す生活習慣のストレス因子、例えば全ての種類の医薬、抗生物質、化学療法、放射線療法、免疫療法、栄養不足、摂食障害、不健康、加齢、遺伝的性質等によるものである、請求項10~12のいずれか1項に記載の医薬組成物、又は請求項5、11及び12のいずれか1項に記載のReg3αポリペプチド。
【請求項14】
食品の調製のための、請求項1又は2のいずれかに記載のReg3αポリペプチドの使用。
【請求項15】
前記食品が乳製品である、請求項14に記載のReg3αポリペプチドの使用。
【請求項16】
微生物叢に関連する疾患及び/又は障害を予防又は治療する方法であって、当該予防又は治療を必要とする対象に、請求項1又は2のいずれかに記載のReg3αポリペプチドを投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素感受性グラム陽性細菌の保護において使用されるポリペプチド、当該ポリペプチドを含有する組成物及びそれらの使用、並びに当該ポリペプチドの酸素感受性グラム陽性細菌のエクスビボ増殖を促進するための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳類、特に人において、微生物叢は、細菌、ウイルス、真菌及び古細菌(単細胞微生物)等の微生物を含有し、口、鼻、呼吸器、消化管及び生殖系の真皮及び真皮脂肪組織を含む皮膚上に見られる。微生物叢は片利共生だけではなく、局所的及び遠隔的に、器官、組織及び免疫系の恒常性を保全する点で、宿主と共利共生的関係も有する。微生物叢は、局所的機能(上皮細胞ターンオーバー、腸の運動性、腸壁構築、粘膜の成熟、厚さ、構造等)、代謝的機能(脂肪蓄積、消化、エネルギー代謝の調節)及び防御機能(抗細菌免疫、パネート細胞分化、外的細菌又は病原体の障壁)等の複数の機能を有し、通常の環境下、それらは宿主に疾患や障害を引き起こさない。例えば炎症等の異常な環境下、微生物叢のバランスが崩れ、微生物叢は宿主の防御機能及び免疫に影響し、やがて病原性になり得、障害及び/又は疾患の発生や増悪に寄与し得る。これは、特に、消化管微生物叢に関して観察された。
【0003】
我々の腸内微生物叢は、数十兆個の微生物を含有し、それらは300万個を超える遺伝子を有する1000以上の異なる種類の既知の細菌を含む。微生物叢の重量は、合計で2kgに及ぶ。我々の腸内微生物叢の1/3は殆どの人に共通のものだが、2/3は各個人に特有のものである。哺乳類、特に人において、腸内微生物叢は、胃腸管の至る所に存在する微生物の共同体である。この微生物共同体の組成は宿主に特異的である。各個人の腸内微生物叢は、内的及び外的変化を引き起こし得る。これは人フロラ、マイクロバイオーム、マイクロフロラ又は腸内フロラとも呼ばれる。人において、腸内微生物叢は生後1~2年で樹立され、その時までに、腸上皮及びそれが分泌する長粘膜障壁が、腸内微生物叢に寛容性で、それを支持するように、及び病原体に対する効果的な障壁を提供するように共発達する。腸内微生物叢は幼少期の未熟で不安定な生態系から、青年期におけるより複雑で安定な生態系に進化する。人と腸内微生物叢は共生的関係にあり、腸内微生物叢は、それを腸外の器官(脳や肝臓)と連結させる双方向的シグナリングを通じてその宿主と相互作用し、代謝性疾患に関与し得るその適合及び代謝に影響をもたらす。
【0004】
腸内微生物叢は、消化、代謝、栄養の抽出、ビタミンの合成、病原体の生着に対する防御及び免疫系の調整を含む、多くの重要な役割を果たす。
【0005】
健康な人の腸内微生物叢には、有益な細菌と、潜在的に有害又は病原性のものとの間にバランスが有る。腸内微生物叢のバランスが崩れると(例えば抗生物質治療により)、健康に問題が生じる。
【0006】
有害な細菌の量が増大すると、様々な症状や病理的状態が起こり得る。そのような不均衡は、腸内毒素症(dysbiosis又はdysbacteriosis)と呼ばれる。それは、腸内にコロニーを形成していた微生物の数又は種類の不均衡を意味する。これは消化管に最もよく見られるが、細菌が存在し活性がある人体の任意の暴露された表面又は粘膜においても起こり得る。免疫成熟又は炎症を促進する機能を有する微生物叢の個々の細菌種を同定しようとする研究において、Prevotellaceaeや付着侵襲性E. coli (AIEC)等の同様の種又は群が繰り返し同定されている。これらの微生物は、それらが宿主に対し潜在的に病原性であるという意味で病原性共生生物と名付けられた。病原性共生生物は、明らかな疾患が無く健康で免疫系が正常な宿主において共生し、免疫系の成熟を顕著に支持するが、それらの影響は、特定の環境下、炎症や自己免疫を引き起こし、臨床的疾患の発症を促進し得る。腸内毒素症は、消化、栄養の吸収、ビタミンの生産及び有害微生物の増殖の制御に影響し得る。食習慣の変化や抗生物質の使用等の様々な要因が繊細な微生物のバランスに影響し得、腸内毒素症を引き起こす。研究者は、それは、炎症性腸疾患(IBD)、慢性疲労、肥満又はある種の癌等の障害に一定の役割を有し得ると考えている。
【0007】
腸内微生物叢の組成及び/又は生物多様性の変化は、炎症性腸疾患(IBD)、胃腸感染、過敏性腸症候群及び他の胃腸機能疾患、胃腸管癌、非胃腸癌(Pevsner-Fischer, Role of the microbiome in non-gastrointestinal cancers, World J Clin Oncol. 2016; 7(2): 200-213)、代謝症候群及び肥満、急性及び慢性肝疾患、アレルギー疾患、自己免疫疾患(Kim D. Gut microbiota in autoimmunity: potential for clinical applications. Arch Pharm Res. 2016)、嚢胞性線維症(Nielsen S, Disrupted progression of the intestinal microbiota with age in children with cystic fibrosis. Sci Rep. 2016 May 4;6:24857; Duytschaever G. Dysbiosis of bifidobacteria and Clostridium cluster XIVa in the cystic fibrosis fecal microbiota. J Cyst Fibros. 2013;12(3):206-15)、アトピー性皮膚炎及び神経学的疾患、例えば自閉症(Ianiro et al., Curr Drug Targets 2014;15(8):762-70)、不安神経症、鬱病、及び慢性疼痛(Mayer, Gut Microbes and the Brain: Paradigm Shift in Neuroscience. The Journal of Neuroscience, 2014, 34(46): 15490-15496)等の、微生物叢関連疾患及び障害に関与することが示されている。
【0008】
腸内毒素症は、疾患の期間中に生じる健康な個体中の組成的及び機能的な恒常状態と比較して変化した状態の微生物叢と定義され得る。腸内毒素症は、変化した微生物-宿主クロストークのサインとして現在見られ、腸機能の恒常性を回復又は維持する目的の戦略の第一の標的である。一見して微生物叢の組成及び多様性に限定されるが、腸内毒素症は、様々な腸及び腸外の疾患において重要な病理的因子であると予想されている。粘膜レベルの微生物叢バイオマスの増大、免疫攻撃的細菌(基本的にグラム陽性)の比率の増大、免疫防御的細菌(基本的にグラム陰性)の比率の減少を含む微生物叢の不均衡が、自己増幅的悪循環を引き起こす。
【0009】
微生物叢に関連する疾患及び障害の管理における腸内微生物叢を変化させることは、それらを治療及び/又は予防する有望なアプローチである。先行技術は、プロバイオティクス、プレバイオティクス、抗微生物剤、肥満手術及び原料戦略の使用に関する(Omotayo et al., Int J Mol Sci. 2014 Mar; 15(3): 4158-4188)。
【0010】
人が分泌するC-型レクチンReg3α(肝臓癌-腸-膵臓/膵炎関連タンパク質(HIP/PAP)としても知られる)は、様々な真核細胞型及び組織において抗炎症活性を呈する16kDaの糖結合タンパク質である。それはパネート細胞、生理的条件下での小腸の神経内分泌細胞、及び大腸において、感染及び炎症に応答して発現する。
【0011】
Regα3の短縮変異体は、抗炎症及び/又は抗細菌剤として知られている(US 7,923,014及びUS 8,212,007)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明者らは、驚くべきことに、既知の抗細菌活性と対照的に、Reg3αポリペプチドが、酸素感受性グラム陽性細菌を保護し得ることを見出した。従って、本発明は、ポリペプチドReg3αが、酸素感受性グラム陽性細菌において、特に腸内微生物叢の有益な共生生物において、保護的な役割を有するという事実に依拠する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、配列番号4のアミノ酸配列、又はこれと85%以上の同一性を有する配列を含み、酸素感受性グラム陽性細菌の保護に使用される、Reg3αポリペプチドに関する。
【0014】
また、経口又は経粘膜投与用の医薬組成物であって、1つ以上の医薬として許容される賦形剤と組み合わせられて、配列番号4のアミノ酸配列、又はこれと85%以上の同一性を有する配列を含むReg3αポリペプチドを含有する、医薬組成物も提供される。
【0015】
また、本発明は、微生物叢に関連する疾患及び/又は障害を予防又は治療するための上記組成物の使用にも関する。
【0016】
本発明の他の側面は、酸素感受性グラム陽性細菌のエクスビボ増殖を促進するための、配列番号4のアミノ酸配列、又はこれと85%以上の同一性を有する配列を含むReg3αポリペプチドの使用に関する
【0017】
また、食品の調製のための、配列番号4のアミノ酸配列、又はこれと85%以上の同一性を有する配列を含むReg3αポリペプチドの使用も提供される
【発明の効果】
【0018】
本発明の説明
発明者らは、hReg3αレクチンの濃度をhReg3αトランスジェニックマウスの胃腸管(GIT)内腔中で増大させると、腸内細菌叢の組成の顕著な変化が誘導され、宿主の腸炎に対する耐性が顕著に改善することを示した。実際に、DSS(デキストラン硫酸ナトリウム)に暴露したhReg3α-トランスジェニックマウスは、大腸炎の兆候を殆ど呈さず、強固な粘膜障壁を保持し、完全な生存率を達成した。hReg3αは、特に高度に酸素感受性の細菌の生存率を促進することにより、大腸炎において腸上皮細胞に対する強力な抗酸化活性、特に原核細胞において作用する組換え人Reg3α(rcREG3α)のROS除去活性を呈した。
【0019】
恒常的及び炎症的条件においてホモ接合hReg3αトランスジェニックマウスによって呈される微生物的変化は、主に、Clostridiales (Ruminococcaceae, Lachnospiraceae)の富化及びBacteroidetes (Prevotellaceae)の枯渇からなる。WTマウスにおいてrcReg3αの繰返しの静脈内投与がDSS誘導大腸炎を改善しなかったため、全身的抗腸炎惹起効果は廃棄された。発明者らは、hReg3αが、腸内微生物叢の小腸上皮と共生生物の両方において酸化的ストレスに対する保護を提供することを示した。また、発明者らは、hReg3αトランスジェニックマウスが、抗生物質療法後のDSS誘導大腸炎に対する良好な耐容性を呈することも示した。
【0020】
従って、本発明は、酸素感受性グラム陽性細菌を保護するために使用される、配列番号4のアミノ酸配列、又はこれと85%以上の同一性を有する配列を含むReg3αポリペプチドを提供する。
【0021】
また、本発明は、酸素感受性グラム陽性細菌を配列番号4のアミノ酸配列、又はこれと85%以上の同一性を有する配列を含むReg3αポリペプチドと接触させることを含む、酸素感受性グラム陽性細菌を保護するためのインビボ又はエクスビボ方法を提供する。
【0022】
本明細書中、「Reg3αポリペプチド」は、C型レクチンスーパーファミリーと類似性を有する膵臓分泌タンパク質である再生膵島由来タンパク質タンパク質(Regenerating islet-derived protein)3‐アルファを意味する。一つの態様において、Reg3αポリペプチドは哺乳類Reg3α、特に霊長類(好ましくは人)又は齧歯類(ラット又はマウス)Reg3αである。Reg3αはネイティブReg3α又は天然に存在する若しくは改変されたその変異体であり得る。
【0023】
本発明において、Reg3αポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸配列、又はこれと85%以上の同一性を有する配列を含む。配列番号4のアミノ酸配列は、トリプシン短縮成熟hReg3αの配列である。一つの態様において、Reg3αポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列、又はこれと85%以上の同一性を有する配列を含む。他の態様において、Reg3αポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列、又はこれと85%以上の同一性を有する配列を含む。他の態様において、Reg3αポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列、又はこれと85%以上の同一性を有する配列を含む。
【0024】
配列番号1は、hReg3αとそのシグナルペプチド(シグナルペプチドはアミノ酸1~26に対応する)のアミノ酸配列である。インビボにおいて、配列番号1のhReg3αはシグナルペプチドを除去するようにプロセシングされて、成熟hReg3を形成する。成熟hReg3αは、配列番号3のアミノ酸配列を有する。
【0025】
トリプシンによるタンパク質分解によって、成熟タンパク質Reg3αのN末端から11アミノ酸長が除去される。
【0026】
配列番号4のアミノ酸配列は、トリプシン開裂後の天然に存在するタンパク質hReg3αの配列であり;配列番号3の最初の11アミノ酸が除去されたものに対応する。
【0027】
配列番号2のアミノ酸配列は、hReg3αのペプチドシグナル配列がメチオニンで置き換えられたものの配列である。この配列は、組換え成熟タンパク質に対応する。
【0028】
本明細書中、「~のアミノ酸配列を含むReg3αポリペプチド」は、配列番号4のアミノ酸配列と、少なくとも85%、又は少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むことを意味する。幾つかの態様において、前記ポリペプチドは、配列番号1、配列番号2、又は配列番号3のアミノ酸配列と、少なくとも85%、又は少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0029】
アミノ酸配列同一性は、解析される配列中の、参照配列のアミノ酸残基と同一であるアミノ酸配列のパーセンテージとして規定され、これを求めるため、それらの配列はアラインメントされ、必要に応じてギャップが導入されて、最高の配列同一性パーセントが達成されるようにされ、保存的置換は配列同一性の部分として考慮しない。配列同一性は、解析される配列の全長、参照配列の全長、又はそれら両方に渡り決定される。タンパク質配列の同一性パーセントは、例えばNeedleを用いて、及びギャップオープニングペナルティ10かつギャップエクステンションペナルティ0.5のBLOSUM62マトリックスを用いて、2つの配列の全長に渡り最適のアラインメント(ギャップを含む)を見付けるための、Needleman-Wunschアラインメントアルゴリズムに基づくペアワイズグローバルアラインメントを実行することによって導き出される。
【0030】
一つの態様において、前記Reg3αポリペプチドは、以下の症状:
(i)小腸の炎症;
(ii)酸素、特に反応性酸素種への暴露;
の1つ以上に対抗して、酸素感受性グラム陽性細菌を保護する。
【0031】
一つの態様において、前記Reg3αポリペプチドは、酪酸塩生成細菌の生存及び増殖を増大し、抗炎症化合物である酪酸塩の濃度の増大を可能とする。従って、Reg3αポリペプチドは、炎症の減少を可能とする。
【0032】
本明細書中、「酸素感受性グラム陽性細菌」は、酸素感受性の、例えばClostridiales目のグラム陽性メンバーを意味し、好ましくは、グラム陽性細菌は、Ruminocaccaceae科、及び/又はLachnospiraceae科に属するものであり、最も好ましくは、それらはFaecalibacterium属、及び/又はRoseburia属に属するものであり、そして最も具体的には、それらはFaecalibacterium prausnitzii及び/又はRoseburia intestinalisである。好ましい態様において、「酸素感受性グラム陽性細菌」は、酪酸塩生成細菌である。特定の態様において、「酸素感受性グラム陽性細菌」は、酪酸塩を生成することが知られている腸内細菌である。
【0033】
治療用途
本発明の他の態様において、上記Reg3αポリペプチドは、微生物叢に関連する疾患及び/又は障害を予防又は治療するために使用される。
【0034】
また、微生物叢に関連する疾患及び/又は障害を予防又は治療する方法も提供され、当該方法は、当該予防又は治療を必要とする対象に、上記Reg3αポリペプチドを投与することを含む。
【0035】
本明細書中、「予防」は、微生物叢に関連する疾患及び/又は障害の1つ以上の兆候又は症状を部分的又は完全に予防する、又はその発生を遅延する、任意の方法を意味する。予防は、微生物叢に関連する疾患及び/又は障害の兆候を呈しない対象に対する適用であってもよい。
【0036】
本明細書中、「治療」は、微生物叢に関連する疾患及び/又は障害の1つ以上の兆候又は症状を、部分的又は完全に緩和し、軽減し、阻害し、及び/又はその発生を減少し、及び/又は微生物叢に関連する疾患及び/又は障害に罹患した個体の寿命を延長するのに使用される、任意の方法に関する。幾つかの態様において、治療は、微生物叢に関連する疾患及び/又は障害の早期の兆候のみを呈する対象に対する適用であり得る。
【0037】
本明細書中、「対象」は、動物、好ましくは哺乳類である。より好ましくは、対象は齧歯類であり、最も好ましくはマウス又はラットである。本発明の他の態様において、対象は霊長類であり、最も好ましくは人である。対象は微生物叢に関連する疾患及び/又は障害の罹患が疑われる、又は微生物叢に関連する疾患及び/又は障害が発症するリスクの有るものである。
【0038】
本明細書中、「微生物叢に関連する疾患及び/又は障害」は、微生物叢の不均衡、特に腸内微生物叢の不均衡に関連する疾患又は障害を意味する。「微生物叢に関連する疾患及び/又は障害」は、炎症性腸疾患(IBD)、大腸炎、胃腸感染症、過敏性腸症候群、及び他の胃腸機能の疾患、胃腸管の癌、代謝症候群及び肥満、糖尿病、肝疾患、アレルギー疾患、神経変性疾患及び心理的障害からなる群から選択される疾患又は障害を意味する。また、「微生物叢に関連する疾患及び/又は障害」は、自己免疫疾患、全身性線維症、アトピー性皮膚炎、神経学的疾患(自閉症等)、不安神経症、鬱病及び慢性疼痛からなる群から選択される疾患又は障害を意味し得る。特に、神経変性疾患は、アルツハイマー病及びパーキンソン病を含む。微生物叢に関連する疾患及び/又は障害は、腸内微生物叢のバランスを壊す生活習慣のストレス因子、例えば全ての種類の医薬、抗生物質、化学療法、放射線療法、免疫療法、栄養不足、摂食障害、不健康、加齢、及び/又は遺伝的性質等によるものであり得る。
【0039】
Reg3αポリペプチドは、腸内微生物叢中のbacteriodetes (Prevotellaceae), Sutterellaceae (phylum Proteobacteria) Porphyromonadaceae及びBacteroidaceae (phylum Bacteroidetes)の枯渇を導く。
【0040】
微生物叢に関連する疾患及び/又は障害の予防又は治療において、Reg3αポリペプチドは、経口、静脈内、直腸内、舌下、粘膜、鼻、眼、皮下、筋肉内、経皮、脊髄、髄腔内、関節内、動脈内、クモ膜下、気管支、又はリンパ投与等の、任意の適切な経路を通じて投与され得る。好ましい態様において、Reg3αは、経口又は経粘膜経路によって投与され得る。他の好ましい態様において、Reg3αは直腸経路によって投与され得る。
【0041】
好ましくは、Reg3αポリペプチドは、Reg3αポリペプチド及び1つ以上の医薬として許容される賦形剤を含有する医薬組成物の形態で提供される。
【0042】
本発明において使用される医薬組成物は、好ましくは選択された投与経路に適するように設計され、適切には、医薬として許容される希釈剤、担体及び/又は賦形剤、例えば分散剤、緩衝剤、界面活性剤、保存料、可溶化剤、等張剤、安定化剤等が使用される。
【0043】
本明細書中、「医薬として許容される賦形剤」は、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応又は他の問題若しくは副作用を起こさず、合理的な利益/リスク比に見合う、対象の組織との接触に用いるのに適した任意の賦形剤を意味する。
【0044】
他の側面において、本発明は、1つ以上の医薬として許容される賦形剤と組み合わせられたReg3αポリペプチドを含有する、経口又は経粘膜投与のための医薬組成物、又はその経口若しくは経粘膜用の使用に関する。当該医薬組成物は、経口又は経粘膜投与を想定しているため、経口又は経粘膜投与に適した1つ以上の医薬として許容される賦形剤を含有する。
【0045】
本明細書中、「経粘膜投与」は、粘膜を通じての全ての種類の投与を含み、例えば、直腸、経舌、肺、膣又は鼻投与等を含む。好ましくは、投与の方式は、微生物叢に関連する疾患及び/又は障害の種類に応じて適合され得る。好ましい態様において、本発明の組成物は経口又は直腸投与用であり、より好ましくは、本発明の組成物は直腸投与用である。
【0046】
本発明の医薬組成物は、経粘膜投与によって投与され、例えば、速溶性錠剤、エマルジョン、溶液、スプレー、ジェル、粘膜付着性錠剤、又はペースト、トローチ、舌下錠剤、ドロップ、咀嚼錠剤、座薬又はガムとして調製され得る。
【0047】
本発明の医薬組成物は、適切な医薬単位投与フォームの形態で経口投与され得る。本発明の医薬組成物は、錠剤、ハード又はソフトゼラチンカプセル、水溶液、懸濁物、及びリポソーム並びに他の徐放製剤、例えば成形ポリマーゲルを含む、様々な形態で調製され得る。本発明の医薬組成物は、Reg3αポリペプチドが胃を通過して腸内に放出されるのが可能な消化保護フォームで調製され得る。
【0048】
本発明の医薬組成物は、直腸投与され得る。本発明の医薬組成物は、担体が固体である組成物、例えば単位用量座薬を含む様々な形式で調製され得る。適切な担体は、カカオバターや、当該技術分野で通常用いられる他の材料を含み、前記座薬は、医薬組成物を軟化又は融解した担体と混和し、型の中で冷却して成形することによって、容易に形成され得る。
【0049】
これらの投与形態は、そのような製剤の生産に一般に用いる製剤添加物を用いる公知の製剤方法によって生産され得る。そのような本発明において記載される製剤に用いられる添加物は、アジュバントや適切な物質(expedients)、例えば溶媒、緩衝剤、香料、甘味料、増量剤、保存料、ゲル化剤、担体、希釈剤、界面活性剤及び粘膜付着ポリマー等を含む。
【0050】
本発明で用いられ得る好ましい溶媒は、アルコール、特にエタノール、脂肪酸エステル、トリグリセリド、水及びそれらの混合物である。
【0051】
好ましい保存料は、パラヒドロキシ安息香酸低級アルキル、特にパラヒドロキシ安息香酸メチル及びプロピルである。
【0052】
適切な担体及び希釈剤の例は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル及びプロピル、滑石、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルを含む。
【0053】
医療分野で周知のように、ある対象における用量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与の時間及び経路、一般的健康及び同時に投与される他の薬物を非組む、多くの要素に依存する。
【0054】
他の側面において、本発明は、微生物叢に関連する疾患及び/又は障害を予防又は治療するために使用される、本発明の組成物に関する。
【0055】
本発明の他の側面において、本発明の傾向又は経粘膜投与用のReg3αポリペプチド又は組成物は、腸内の酪酸塩の量を増大するために用いられる。
【0056】
非治療的用途
上記定義は、非治療的用途にも適用される。
【0057】
本発明は、上記Reg3αポリペプチドの、酸素感受性グラム陽性細菌のエクスビボ増殖を促進するための使用にも関する。
【0058】
また、本発明は、酸素感受性グラム陽性細菌とReg3αポリペプチドを接触させることを含む、酸素感受性グラム陽性細菌のエクスビボ生存率及び/又は増殖を促進する方法に関する。
【0059】
酸素感受性グラム陽性細菌は、好ましくは、Bifidobacteria属、乳酸菌生産種、又はグラム陽性プロバイオティクス細菌等の産業上の関心の有る細菌である。プロバイオティクスは、腸内微生物叢のバランスを改善することによって宿主生物に有益な影響を及ぼす、生き微生物の食品添加物である。プロバイオティクスの有益な効果として、皮膚障壁の強化、生理的ストレスに対する保護、及び腸関連リンパ組織の調整を含む。殆どのプロバイオティクス細菌、特にビフィズス菌は、食料品の生産、保存及び消費の過程で生じるストレスに対する耐性が低い繊細な微生物である。
【0060】
一つの態様において、これらの細菌は、食料品及び/又は食品添加物の生産にとって特に関心の有るものである。
【0061】
一つの態様において、これらの細菌は、糖類や乳タンパク質等の有機分子の生産及び/又は分解にとって特に関心の有るものである。
【0062】
本明細書中、「エクスビボ生存率及び/又は増殖」は、発酵槽中及び/又は製品、例えば食品(例えば乳製品)中での生存率及び/又は増殖を含む。実際に、酸素感受性グラム陽性細菌を高収量で取得するのは、反応性酸素種(ROS)の発生のため、困難である。本発明のポリペプチドを用いて、酸化ストレスから酸素感受性グラム陽性細菌を保護することが可能で、故により高い生産量が達成出来る。
【0063】
本明細書中、「促進」は、酸素感受性グラム陽性細菌の収量を高めることや、酸素感受性グラム陽性細菌の培養のにおいてより厳しくない嫌気条件を用いつつ厳しい嫌気条件が用いられたときと同様の細菌の生産量を達成出来ることを含む。
【0064】
他の側面において、本発明は、食品、特に乳製品の調製における本発明のポリペプチドの使用に関する。
【0065】
本明細書全体において、「含む」は、特に示された全ての特徴を、任意の、追加の、不特定のものと共に包含することを意味する。本明細書中、「含む」は、特に示された特徴以外の如何なる特徴も存在しない(即ち「からなる」)態様も開示する。更に、「ある」又は「一つの」等の冠詞は、複数であることを排除しない。所定の尺度が相互に異なる従属項に記載されていることは、それらの尺度の組合せが有利に使用出来ないことを示唆しない。
【0066】
本発明において、以下の配列が用いられている。
【0067】
配列番号1
MLPPMALPSVSWMLLSCLMLLSQVQGEEPQRELPSARIRCPKGSKAYGSHCYALFLSPKSWTDADLACQKRPSGNLVSVLSGAEGSFVSSLVKSIGNSYSYVWIGLHDPTQGTEPNGEGWEWSSSDVMNYFAWERNPSTISSPGHCASLSRSTAFLRWKDYNCNVRLPYVCKFTD
【0068】
配列番号2
MEEPQRELPSARIRCPKGSKAYGSHCYALFLSPKSWTDADLACQKRPSGNLVSVLSGAEGSFVSSLVKSIGNSYSYVWIGLHDPTQGTEPNGEGWEWSSSDVMNYFAWERNPSTISSPGHCASLSRSTAFLRWKDYNCNVRLPYVCKFTD
【0069】
配列番号3
EEPQRELPSARIRCPKGSKAYGSHCYALFLSPKSWTDADLACQKRPSGNLVSVLSGAEGSFVSSLVKSIGNSYSYVWIGLHDPTQGTEPNGEGWEWSSSDVMNYFAWERNPSTISSPGHCASLSRSTAFLRWKDYNCNVRLPYVCKFTD
【0070】
配列番号4
IRCPKGSKAYGSHCYALFLSPKSWTDADLACQKRPSGNLVSVLSGAEGSFVSSLVKSIGNSYSYVWIGLHDPTQGTEPNGEGWEWSSSDVMNYFAWERNPSTISSPGHCASLSRSTAFLRWKDYNCNVRLPYVCKFTD
【0071】
図面及び実施例によって、本願発明は更に例示され得る。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】DSSで処理する前(対照)及び後(大腸炎)の野生型(WT)及びhReg3αトランスジェニック(hReg3a)マウスにおける、ヒトReg3α及びマウスReg3yの血清濃度(n=6)。
【0073】
図2】基底状態(対照)及びDSSに暴露後12日(大腸炎)のhReg3aトランスジェニック(n=5)及びWT(n=7)マウスにおける細菌群の相対存在量。
【0074】
図3】厳しい嫌気性培養におけるグラム陽性Roseburia intestinalis及びFaecalibacterium prausnitziiの正規化CFU(コロニー形成単位)数。
【0075】
図4】室温の大気に暴露後のグラム陽性Roseburia intestinalis and Faecalibacterium prausnitziiの正規化CFU数。図3及び4において、CFUの数は、対照培養(緩衝剤)中で測定された平均CFU数に対して正規化された。アッセイは、2つの独立した実験において4回反復して行われた。データはSEMの平均である。解析のため、two-sided Wilcoxon rank sum testが実施された。*P<0.05, ***P <0.001
【0076】
図5】hReg3αトランスジェニック(hReg3α)及び野生型(WT)マウス(各群n=20;2つの独立した実験)におけるDSS誘導大腸炎による体重変化。太線:DSS投与の5日間。
【0077】
図6】hReg3α-トランスジェニック(hReg3α)及び野生型(WT)マウス(各群n=20;2つの独立した実験)におけるDSS誘導大腸炎による直腸出血スコア。太線:DSS投与の5日間。
【0078】
図7】hReg3α-トランスジェニック(hReg3α)及び野生型(WT)マウス(各群n=20;2つの独立した実験)におけるDSS誘導大腸炎による下痢スコア。太線:DSS投与の5日間。
【0079】
図8】腸上皮の組織学的評価(各群n=14)。
【0080】
図9】WT及びhReg3αトランスジェニックマウス(n=5)の腸上皮細胞における炎症マーカーのmRNA発現レベル。データは平均±SEMである。解析のため、two-sided Wilcoxon rank sum testが実施された。*P <0.05, **P <0.01, ***P<0.001
【0081】
図10】DSS誘導大腸炎の間のマウスの結腸及び遠位結腸の組織学的評価。WT+rsHIPは、静脈内投与で4.2μg組換えhReg3α(rc-hReg3α)/マウスg/日で処理されたWTマウスに対応する。hReg3αは、hReg3α-トランスジェニックマウスに対応する。データは平均±SEMである。組織学的スコアは、粘膜構造の変化単核細胞の浸潤、好中球の浸潤、上皮欠損及び杯細胞の喪失の評価に基づく。
【0082】
図11】hReg3αトランスジェニック(hReg3α)及びWT+rcHIPマウスにおけるDSS誘導大腸炎による便血スコア。太線:DSS投与の5日間。
【0083】
図12】hReg3αトランスジェニック(hReg3α)及びWT+rcHIPマウスにおけるDSS誘導大腸炎による下痢スコア。太線:DSS投与の5日間。
【0084】
図13】hReg3αトランスジェニック(hReg3α)及びWT+rcHIPマウスにおけるDSS誘導大腸炎による体重変化。太線:DSS投与の5日間。
【0085】
図14】TG Abx、WT Abx及びWTマウスにおけるDSS誘導大腸炎による体重変化。TGマウスは、抗生物質で処理されなかったhReg3αトランスジェニックマウスに対応する。WTマウスは、抗生物質で処理されなかったWTマウスに対応する。TG Abxは、抗生物質で処理されたhReg3αトランスジェニックマウスに対応する。WT Abxマウスは、抗生物質で処理たWTマウスに対応する。マウスの死亡はグラフ上で十字で示している。
【0086】
図15】TG Abx、WT Abx及びWTマウスにおけるDSS誘導大腸炎による便血スコア。マウスの死亡はグラフ上で十字で示している。
【0087】
図16】TG Abx、WT Abx及びWTマウスにおけるDSS誘導大腸炎の遠位結腸の組織学的評価。
【実施例0088】
実施例1:肝細胞標的化Reg3αトランスジェニックマウスにおいて腸管内腔に送達されたヒトReg3αは腸内微生物叢の構成を変化させる
恒常的及び炎症条件下でのhReg3αにおけるトランスジェニックマウスにおける腸内微生物叢の組成及び腸障壁の完全性に対する人Reg3α(hReg3α)の効果を試験した。炎症は、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の経口吸収によって誘導した。上部GITにおける酸及び内腔プロテアーゼによるhReg3αタンパク質の分解を防ぐため、予め作製したマウスアルブミン遺伝子プロモーターのコントロール下肝細胞中でhReg3αを発現するホモ接合トランスジェニックC57BL/6マウスを使用した。これらのマウスにおいて、hReg3αタンパク質は胆管内及び胃腸管(GIT)内に流れ込むことが示された。トランスジェニック肝細胞は、hReg3αを側底膜を通じて血管内に分泌し、頂端膜を通じて毛細胆管内に分泌した。
【0089】
血液及び大腸組織中の内在Reg3β及びReg3γの発現レベルは、予想通り、野生型(WT)マウスの基底状態ではごく僅かで、DSS処理WTマウスでは高かった(図1)。hReg3αトランスジェニックマウスにおいて、基底及び炎症状態で、類似の高レベルの血清hReg3αが見られた(図1)。このレベルは、DSS処理WTマウスにおける内在Reg3のレベルと同レベルであった。内在Reg3 mRNAの大腸発現レベルは、hReg3トランスジェニックマウスの基底及び炎症状態の両方で僅かであった。即ち、DSS誘導大腸炎の間、hReg3αトランスジェニックマウスは、Reg3β又はReg3γの上方制御を示さなかった(おそらくそれらが過剰発現hReg3αにより反調整(retro-control)されるため)。これは、Reg3β及びReg3γが、hReg3αトランスジェニックマウスにより呈される疾患フェノタイプ及び腸内微生物叢の組成において僅かにしか関与しないことを示唆する。
【0090】
次に、MiSeq 16S rDNA遺伝子シークエンシングを用いて健康及びDSS処理hReg3αトランスジェニックマウスにおける便微生物叢の組成を解析した。対照WT及びhReg3αトランスジェニックマウスは、同一条件下で交配及び処置された。主成分分析(PCA)により、DSSに暴露前(P=0.001)及び(P=0.039)の両方においてhReg3αトランスジェニック及びWTマウスにおいて科レベルで明確に別個の2つのクラスターが見出された。hReg3αトランスジェニック及びWTマウスの間で、基底及び炎症状態の両方において、12個の細菌の科の相対的存在量に顕著な違いがあった(図2)。hReg3αトランスジェニックマウスの基底状態で、Sutterellaceae (Proteobacteria門), Prevotellaceae, Porphyromonadaceae及びBacteroidaceae (Bacteroidetes門)の存在は僅かで、一方Lachnospiraceae及び未分類Clostridia (Firmicutes門)は過剰に存在していた。同様の微生物叢の組成の変化は、属レベルでも見られた。炎症状態において、WTマウスはPrevotellaceae及びBacteroidaceaeの増大を呈し、上記の他の全ての科において減少を呈した。hReg3トランスジェニックマウスは、そのレベルが低いままのPrevotellaceae、及びそのレベルが劇的に低下したRuminococcaceae(Clostridiales目)を除き、同様に振る舞った(図2)。
【0091】
観察されたホモ接合トランスジェニック(hReg3α-TG+/+)マウスにおける腸内微生物叢の組成は、Reg3α導入遺伝子又は超遺伝的(extra-genetic)効果により得る。この問題を解決するため、WT母からのヘテロ接合トランスジェニック(hReg3α-TG+/-)子における最初はWTの微生物叢の時間変化を調べた。3つの異なる腹及びケージから得た15頭のhReg3α-TG+/-子の便微生物叢を9及び12週齢でシークエンシングし、それらのWT母(n=3)、並びに同様の齢の無処理WTマウス(n=11)と比較した。比較のため、12頭のhReg3α-TG+/+マウスの便微生物叢も解析した。科レベルのPCA(主成分分析)により、hReg3α-TG+/-マウスの微生物叢は、9週で(母系及び無関連)WT及びhReg3α-TG+/+マウス由来のものの間で区分され(hReg3α-TG+/-対WT及びhReg3α-TG+/-対hReg3α-TG+/+においてP<0.01)、次の3週の間でhReg3α-TG+/+マウスからのものに近付く(hReg3α-TG+/-対WTにおいてP<0.001;hReg3α-TG+/-対hReg3α-TG+/+においてP>0.05)ことが示された。このマウスの微生物叢組成の変化は、専らPrevotellaceae, Sutterellaceae及びVerrucomicrobiaceaeの減少、並びにLachnospiraceae及びRuminococcaceaeの増加により、12週以降のhReg3α-TG+/+マウスのものに近いレベルに至ったことによる。従って、ヘテロ接合体の新生児のWT微生物叢は数ヶ月以内にトランスジェニック陽性の微生物叢に変化し、これは、Reg3導入遺伝子が母親から引き継いだ微生物叢を変化させる作用を有することを意味する。
【0092】
Reg3αは高度に酸素感受性のClostridiaの幾つかの生存率を増大する
hReg3αトランスジェニックマウスにおける微生物叢の変化は、グラム陽性及びグラム陰性細菌の間の比率の大幅な増大に対応した。これは、報告されていたhReg3αの選択的抗グラム陽性細菌抑制活性と整合し難い。hReg3αの抗酸化活性がhReg3αトランスジェニックマウスの腸内微生物系の変化の重要な因子であると予想された。そのメカニズムは、Clostridia幾つかのと同様に、厳しい嫌気性グラム陽性細菌に有利なhReg3αによって呈される選択圧であり得る。この見解を立証するため、インビトロで原核生物における全長組換えヒトReg3αタンパク質(rcReg3α)の抗酸化効率を試験した。使用した組換えタンパク質は、真核細胞における抗炎症能力及び炭水化物結合選択性に関して化学的及び生物学的に活性である。まず、グラム陽性腸内共生細菌Enterococcus faecalisを培養し、対数増殖期の間ROS発生剤(パラコート)でストレスを掛けた。200mMパラコートへの暴露は、E. faecalisに対し強力な殺細菌効果を有していた。E. faecalisの対数増殖は10μMのrcReg3αの添加によって保存され、パラコートによって発生したROSがrcReg3αの存在下効率的に減少することを示唆する。これは、ROS特異的蛍光プローブH2-DCFDA及びヨウ化プロビジウムDNA染色を用いたフローサイトメトリー測定によって実証された。若干の細菌凝集が見られたが、従来の報告に反してに対するE. faecalis殺細菌活性は無かった。この相違は細菌株によるかもしれないが、Reg3αの殺細菌活性の欠如は、トランスジェニックマウスの腸内微生物叢中で見られたグラム陽性細菌の増加と一致する。
【0093】
次に、IBDの間それらの存在量が劇的に減少する、ヒト腸内微生物叢中の酪酸塩及び抗炎症化合物の主要な発生源である、2つの周知の高度に酸素感受性のグラム陽性細菌種Roseburia intestinalis (Lachnospiraceae, Clostridium Cluster XIVa)及びFaecalibacterium prausnitzii (Ruminococcaceae, Clostridium Cluster IV)の培養を行った。R. intestinalisは、寒天プレートの表面上で空気に晒されると2分以内で死滅することが知られている。F. prausnitziiは、R. intestinalisよりも更に空気暴露に感受性であり、嫌気条件下でゆっくり増殖し、酸素への電子伝達のメカニズムを通じて抗酸化剤の存在下僅かに耐気性(micro-aerotolerant)になる。R. intestinalis及びF. prausnitziiを嫌気培養してその後、外気に5分暴露し、又はしなかった。rcReg3αは、厳しい嫌気条件下F. prausnitziiに対する顕著な増殖促進効果、及び酸素暴露後両細菌に対する生存効果を有していた(図3及び4)。rcReg3αの存在下24時間インキュベーションしたF. prausnitzii嫌気培養物を遠心分離し、続いて抗Reg3αイムノブロッティングして、15kDaのrcReg3αが細菌凝集物と共に沈殿することを示した。スライドマウント画像により、rcReg3αと共にインキュベーションしたF. prausnitziiは生存し、一方対象培養は外気に暴露して2時間後には完全に溶解した。これらの結果は、rcReg3αが原核細胞に対し強力な抗酸化活性を呈し、幾つかの極度に酸素感受性の共生Clostridiaの生存率及び増殖率を増大させ得ることを示す。それらは、hReg3αのROS排除活性がhReg3αトランスジェニックマウスで見られた腸内微生物叢の変化に決定的に関与するという推察を支持する。
【0094】
hReg3αトランスジェニックマウスは、DSS誘導腸炎に完全に耐性である
IBD患者のバランスの崩れた微生物叢は、Sutterellaceae, Prevotellaceae及びEnterobacteriaceae(Proteobacteria門)の増加並びにRuminococcaceae及びLachnospiraceae (主な酪酸塩生産共生生物を含む)の減少によって最も特徴付けられる。腸内微生物叢の組成の類似の変化は、遺伝的に感受性のマウスモデルにおける大腸炎にも関連する。hReg3αトランスジェニックマウスの腸内微生物叢に大なり小なり逆の変化が起こっているという事実は、hReg3αにより形成された微生物叢は健康に有益な影響を有することを示唆する。
【0095】
この考えを試験するため、hReg3αトランスジェニックマウスの誘導された大腸炎に対する影響を試験し、コハウジング及び便移植試験を実施した。ホモ接合hReg3αトランスジェニックマウスに5日間3%DSSを経口投与し、続いて通常の飲料水を7日間与えた。WTマウスの対照群を同一の条件下で交配及び処理した。体重変化、便の稠度及び出血スコア、並びに生存率が、実験期間中モニターされた。組織病理学的特徴は12日目に評点された。DSS処理hReg3αトランスジェニックマウスは、急性大腸炎の兆候が殆ど無かった。それらは、体重の減少、下痢及び直腸出血がWTマウスと比較して減少し、12日目の生存率はWTマウスでは70%に対し100%であった(図5~7)。それらの結腸は障壁の欠損が殆ど見られず、杯細胞の減少及び炎症細胞の浸潤がWTマウスより少なかった(図8)。WT母体から生まれた12週齢ヘテロ接合hReg3αトランスジェニックマウスもDSSに暴露され、それらが比較的温和な大腸炎を呈することが見られ、これはそれらの腸内微生物叢の組成及び機能性がホモ接合トランスジェニックマウスのものと類似していたという事実と一致する。hReg3αレクチンが、従来の報告と一致して、インビトロでデキストランと相互作用しなかったこと、故に、観察された形質がhReg3αによるDSS毒性の直接の阻止に起因できなかったことが確認された。炎症領域における異常に高いグルコース代謝をトレースする2-[18F]フルオロ-2-デオキシ-D-グルコース([18F]FDG)を用いた陽電子放出断層撮影(PET)イメージングを用いて、腸の炎症を定量した。大腸における[18F]FDGの取込みはDSS処理WTマウスでは試験期間中増大したが、hReg3αトランスジェニックマウスでは弱いままであった(即ち無処理マウスと同程度)(d7~d12期間中P=0.013)。DSS誘導大腸炎の重症度も、炎症マーカー(IL1α, IL1β, TNFα, IL6, CXCL1, CCL3, CCL9)の腸内発現レベルを測定することにより評価された。それらの殆どは、WTマウスではDSS投与時に顕著な増大を示したが、hReg3αトランスジェニックマウスでは示さなかった(図9)。更に、Muc2ムチンの免疫染色及び16S rRNA FISH、トランスクリプトームプロファイリング並びにKEGG及びReactomeデータベースを用いた遺伝子セット強化解析(GSEA)を用いて、健康な、及びDSS処理hReg3αトランスジェニックマウスの腸粘膜障壁の完全性を試験した。基底状態において、hReg3αトランスジェニックマウス及びWTマウスの粘膜障壁の光学顕微鏡画像は似ていた。しかしながら、細胞-マトリックス相互作用及びムチンO-グリコシル化のモジュレーターを含む腸障壁に関連する幾つかの経路は、hReg3αトランスジェニックマウスにおいて上方制御された。腸の炎症の間、hReg3αトランスジェニックマウスにおいて大腸粘膜障壁は広範囲に渡り無傷のままで、一方WTマウスでは大幅に損傷しており、上皮に細菌のコロニー化が起こっていた。WTマウスと比較したhReg3αトランスジェニックマウスの粘膜障壁の機能的強度は、更に以下に特記される。細胞-細胞相互作用の制御に関与する幾つかのタイトジャンクション遺伝子の上方制御が観察された。上皮ムチンのO-グリコシル化は、コムギ胚芽凝集素(WGA)イムノブロッティングにより明らかにされた。腸間膜リンパ節の細菌転移のレベルは低いままであることが、16S rRNA FISH解析によって示された。トランスクリプトームプロファイルの管理されていない解析において、DSS処理hReg3αトランスジェニックマウスにおけるリポ多糖類エンドトキシン(LPS)経路の活性化に関連する遺伝子セットの下方制御が示され、そのプロファイルは、非DSS処理マウスのものと同類であった。これと一致して、炎症関連血清マーカー(LPS、可溶性CD14)の増大は、腸の炎症の間これらのマウスにおいて僅かなままであった。最後に、大腸組織中の酸化ストレスのバイオマーカーであるマロンジアルデヒド(MDA)の濃度は、WTマウスと比較して、DSS処理されたhReg3αトランスジェニックマウスにおいて実質的に減少しており、これは、腸上皮が、急性大腸炎の間、hReg3αの抗酸化能力から大いに恩恵を受けているインビトロの証拠を提供する。
【0096】
hReg3αによって整えられた腸内微生物叢の抗炎症能力はコロニー化された野生型マウスにおけるDSS誘導大腸炎に対する生存率を改善する
腸炎に対するhReg3αによって整えられた微生物叢の保護作用を評価するため、コハウジングによってhReg3αトランスジェニックマウスからWTマウスに便微生物叢を移動させた。3週齢の離乳したWTマウスを同齢のhReg3αトランスジェニックマウスと8週間コハウジングし、DSSで処理した。対照群はWTマウスのみ飼育したものである。コハウジング期間の終了時、コハウジングしたWT(CoH-MT)マウスの腸内微生物叢の組成は、細菌の科レベルでhReg3αトランスジェニックマウスのプロファイルへの顕著なシフトを呈し、便の稠度及び出血、腸障壁の完全性及び生存率において、DSS誘導大腸炎の明確な緩和が見られた。
【0097】
次に、hReg3αトランスジェニックマウス又はWTマウスの便微生物叢を用いて無菌C57/BL/6マウスを8週間コロニー化した。この期間の終了時、便微生物叢がシークエンシングによって解析され(Day0)、そしてコロニー化マウスのDSS処理を開始した。コロニー化hReg3αトランスジェニックマウス(ExGF-TG)及びWTマウス(ExGF-WT)のD0の微生物叢は、それらのそれぞれの接種材料から若干変化していた。にも拘らず、ExGF-TGマウスの微生物叢は、接種材料と同じ優勢な細菌共同体を保持しつつ、相対的存在量の値が異なり、そしてExGF-WTマウスのものからは遠いままであった。DSS処理の時、腸炎の一時的な兆候、特に下痢及び障壁の不良に拘らず、ExGF-TGマウスは完全な腸炎生存率を呈し、一方ExGF-WTマウスは37%が死んだ。これは、TLR4シグナルの活性化における炎症応答、及び大腸中の炎症マーカーの発現レベル、及びLPS誘導内毒素症の減少と関連していた。
【0098】
全体として、これらの結果は、恐らく腸上皮の炎症応答の減少及びグラム陰性LPSの全身的播種の減少による、hReg3αによって整えられた微生物叢の伝達可能な好生存作用を実証する。これは、hReg3αによって整えられた腸内微生物叢において観察された潜在的に攻撃的なグラム陰性細菌の枯渇と一致する。hReg3αトランスジェニックマウスにおいて完全に抑制されている一方CoH-WT及びExGF-TGマウスにおける大腸炎の臨床的及び組織学的兆候が部分的に減少したという事実は、hReg3αによって整えられた腸内微生物叢の抗炎症効果に加え、過剰発現したhReg3αと宿主との間の直接の相互作用が腸障壁の恒常性の維持に寄与したことを示唆する。
【0099】
考察
腸内の先天的免疫分子が腸障壁機能及び腸内微生物叢の恒常性においてそれらの多面的な活性を通じて重要な役割を果たすことは、一般に受け入れられている。また、それは腸内微生物叢と腸上皮障壁との間の共生的相互作用を不安定化するため、それらの機能的発現の不調が、慢性炎症性腸疾患の重要な寄与因子であることも広く信じられている。しかしながら、それらの操作が宿主微生物叢恒常性を保存する助けとなり、腸の炎症を防止するかどうかは、尚も立証されていない。この研究において、トランスジェニックマウスのhReg3αレクチンの内腔濃度の増大が、腸内微生物叢の組成の顕著な変化を誘導し、腸の炎症に対する宿主の耐性を劇的に改善することが示された。実際に、DSSに暴露したhReg3αトランスジェニックマウスは、大腸炎の兆候を殆ど呈さず、強固な粘膜障壁を保持し、完全な生存を達成した。大腸上皮における炎症応答及び酸化ストレスが、WTマウスと比較してDSS処理されたhReg3αトランスジェニックマウスにおいてより減少し、これは、hReg3αが、大腸炎の間腸上皮細胞に対して強力な抗酸化活性を呈することを示唆している。また、インビトロでの研究において、組換えヒトReg3α(rcReg3α)のROS排除活性が、特に、高度に酸素感受性の細菌の生存を促進することにより、原核細胞に対して作用したことも示された。
【0100】
恒常的及び炎症的条件におけるホモ接合hReg3αトランスジェニックマウスによって呈される微生物的変化は、主にClostridiales (Ruminococcaceae, Lachnospiraceae)の増大、及びBacteroidetes (Prevotellaceae)の枯渇に関連していた。誕生時野生型母系微生物叢を担持していたhReg3αのヘテロ接合マウスは、ホモ接合hReg3αトランスジェニックマウスのものに近い腸内微生物叢の組成を獲得し(hReg3αの腸内微生物叢を整える能力を実証する)、そしてホモ接合マウスのものに類似の腸炎に対する抵抗性を呈した。DSSに暴露した野生型マウスへのhReg3αで整えられた微生物叢の移植は、重症の減少、LPSの血液への播種の減少、及び生存率の増大をもたらし、hReg3αにより誘導された微生物叢組成における変化の有益な性質を確立する。しかしながら、形質的耐性が移植試験によって完全に伝達しなかったことは、hReg3αが、hReg3αトランスジェニックマウスにおいて、他の経路によっても、恐らく直接の抗酸化粘膜効果を通じて、作用していたことを示唆する。rcReg3αの静脈内投与はWT舞うしにおいてDSS誘導大腸炎を改善しなかったため、全身的抗腸炎惹起性効果は破棄され得る。従って、hReg3αは、腸内微生物叢を形成する腸上皮及び共生共同体の両方において、酸化ストレスに対する保護を提供する。hReg3αのROS排除活性に関与する部位の位置を決定するには更なる研究が必要となり得る。
【0101】
腸内細菌の間で酸素耐性において主要な差が存在するため、hReg3αの広範囲な抗酸化活性は、様々な細菌共同体の間のバランスを顕著に変化させ得る。本研究は、使用されたマウスモデルにおいて、幾つかの高度に酸素感受性の共生細菌が、hReg3α等の外的抗酸化剤の存在に応答性であったことを示唆し、大気耐性嫌気性細菌以上に選択的な利点をもたらす、即ち酸素毒性に効果的な適応的応答を発達させることが出来る。この仮説において、hReg3αは、その健康なマウスの腸に存在する環境的ストレス因子に対する抗酸化活性を通じて、定常状態の腸内微生物叢を整え得、そして炎症及び酸化的ストレス下でこの効果を発揮し続ける筈である。この見解は、Reg3αがClostridiales目(Ruminococcaceae, Lachnospiraceae)に属する高度に酸素感受性の共生生物の増殖を促進したという事実によって支持される。そのような抗炎症分子を生産する共生生物の増大は、ROS生産の減少によって共生細菌バランスが維持されるように引き戻す腸障壁機能を促進することによって適正なプロセスを引き起こし得る。反対に、グラム陰性共生細菌の増大は、マクロファージ活性化を引き起こし、ROS生産を増大し、そして粘膜の損傷及び酸素耐性共生生物に有利な腸内毒素症を増幅し得る。本研究の結果は、腸内微生物叢に対するhReg3αによってもたらされる圧力が、そのような組成及び機能性における適正な変化を引き起こすことを示唆する。
【0102】
臨床的観点から、本研究の知見は、例えば組換えReg3αの大腸標的化送達による、Reg3αの内腔内濃度の変化は、腸内微生物叢を再び整えることにより、腸の炎症を緩和する、有意義なアプローチであり得る。患者に対する潜在的な利益に関しては、そのようなアプローチは、便移植を含む利用可能な治療法よりも炎症性疾患の治療においてより生理的かつ非毒性の方策であり得る。更に、それは、炎症プロセスの初期段階又は炎症の発生前において最も有効であり得、従って、医薬又は外科手術が誘導した緩和の維持や、高リスクの個人におけるIBDの予防において有用であり得る。
【0103】
実施例2:
rcReg3αの静脈内投与はhReg3αトランスジェニックマウスとは反対にWTマウスにおいてDSS誘導大腸炎を改善しなかった
炎症条件下WTマウスに1日あたり4.2μgの組換えヒトReg3α(rcReg3α)を静脈内投与した効果を試験した。炎症は、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の経口摂取により誘導された。これらの結果は、マウスアルブミン遺伝子プロモーターの制御下で肝細胞中にhReg3αを発現するホモ接合トランスジェニックC57BL/6マウスと比較された。トランスジェニック肝細胞は、hReg3αを側底膜を通じて血管内に分泌し、頂端膜を通じて毛細胆管内に分泌した。
【0104】
粘膜構造の変化、単核細胞の浸潤、好中球の浸潤、上皮欠損及び杯細胞の喪失の評価に基づく組織学的スコアは、両群の結腸及び遠位結腸において評価された(図10に結果を示す)。炎症のの重症度は、hReg3αトランスジェニックマウスと比較して、組換えhReg3αで処理したWTマウスにおいてより強かった。これらの結果は、遠位結腸において特に顕著であった。便血スコア、下痢スコア及び体重減少も、処理されたWTマウスと比較してhReg3αトランスジェニックマウスにおいて減少し(図11~13)、従って、処理されたWTマウス(30%)と比較してトランスジェニックマウス(100%)においてより良好な生存率をもたらす。
【0105】
本知見は、Reg3αの内腔内濃度の変化が、腸内微生物叢の再調整を通じて腸の炎症を強力に緩和し、Reg3αの静脈内投与よりも効率的であることを示唆する。従って、組換えヒトReg3αの消化管への投与は投与の好ましい方式であり、これが、より良好な効率で低侵襲の投与をもたらし得る。
【0106】
実施例3:
hReg3αトランスジェニックマウスは抗生物質治療後のDSS誘導大腸炎に対しより良好な耐性を有する
抗生物質による微生物叢の分解は炎症の悪化や腸及び腸外に有害な効果をもたらす。WTマウス及びhReg3αトランスジェニックマウスにバンコマイシン及びゲムシタビンの2つの抗生物質(Abx)を3日間投与して、その後DSS誘導大腸炎を起こした場合の効果を試験した。バンコマイシンは、細菌細胞壁に結合し細胞膜の透過性を変化させることによって殆どのグラム陽性生物を殺す三環式糖ペプチドである。これはまた細菌のRNA合成も阻害する。ゲンタマイシンは、好気性グラム陰性桿菌を標的とする広範囲のアミノグリコシド系抗生物質である。
【0107】
2つの独立した試験において、Abx-トランスジェニック(TG Abx)マウスにおいて、ABX-野生型(WT Abx)マウスと比較して、又は抗生物質治療をしなかったWTマウス(WT)と比較して、体重減少及び下痢スコアの低下が見られた(例えば図14)。便血スコアも、Abx-トランスジェニックマウスにおいて、WT Abxマウスと比較して低下した(図15)。DSS処理時にAbx処理したマウスの遠位結腸の解析は、Abx処理WTマウスよりも顕著に減少した、明確に少ない重症な炎症や粘膜ダメージを示した(図16の組織学的スコアを参照)。これらの結果は、Reg3αによって整えられた微生物叢の抗生物質による摂動が、腸の恒常性や腸の炎症を防ぐ腸の防御の完全性を破壊できないことを示唆する。
【0108】
実施例4:
hReg3αの直腸内投与が大腸炎のWTマウスにおける結腸のダメージ及び炎症を減少した
大腸炎のWTマウスにおけるrcReg3αの直腸内投与の効果を評価した。100μgのrcReg3α(rcReg3α;n=14)又は同体積の緩衝剤(n=15)を、トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)投与の前日及び当日に送達した。
【0109】
エタノールと共にトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)の単発直腸内投与を用いて、代替の種類の大腸炎を誘導し得る。結腸上皮細胞を破壊し、障壁機能を変化させ、そして実質的に炎症を引き起こすDSSの経口投与とは対照的に、TNBSは、ハプテン化タンパク質及び内腔抗原に対するT細胞免疫応答を通じて重度の結腸炎症を迅速に引き起こす。
【0110】
体重減少は2つのマウス群で同様であった。組織学的染色において、rcReg3αを直腸内に投与されたマウスにおける結腸障壁の不具合や炎症が、rcReg3αが直腸内投与されなかったマウスよりも穏やかであったことが示された。直腸内にrcReg3αが投与されたマウスの結腸組織において、炎症マーカーのIl1b、Tnf及びミエロペルオキシダーゼの減少が見られた。これらの組換えReg3αタンパク質の局所投与の良好な効果は、外的hReg3αが大腸炎において腸障壁の完全性の保持に寄与し得ることを示唆し、この分子の健康上の重要性を強調する。
【0111】
rcReg3αの反復静脈内投与は効果が無かったが、rcReg3αの直腸投与は、対照マウスにおいて誘導された大腸炎において腸障壁の完全性を保存するの助けた。
【0112】
従って、hReg3αは、腸上皮及び腸内微生物叢を形成する共生共同体の両方において、炎症及び酸化的ストレスに対する保護を提供する。
図1
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【配列表】
2023166397000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-09-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4のアミノ酸配列、又はこれと95%以上の同一性を有する配列を含む、Reg3αポリペプチドを含む医薬組成物であって、炎症性腸疾患(IBD)、大腸炎、胃腸感染症、過敏性腸症候群、及び他の胃腸機能の疾患、アレルギー疾患及び心理的障害からなる群から選択される、微生物叢に関連する疾患及び/又は障害を予防又は治療するための、医薬組成物
【請求項2】
配列番号4のアミノ酸配列、又はこれと95%以上の同一性を有する配列を含む、Reg3αポリペプチドを含む医薬組成物であって、医薬、抗生物質、化学療法、放射線療法、栄養不足、摂食障害、不健康、加齢、遺伝的性質等による、腸内微生物叢のバランスの破壊を予防又は治療するための、医薬組成物。
【請求項3】
配列番号4のアミノ酸配列、又はこれと95%以上の同一性を有する配列を含む、Reg3αポリペプチドを含む医薬組成物であって、炎症及び酸化的ストレスに対抗する腸内微生物叢を形成する腸上皮及び共生共同体の両方を保護するための、医薬組成物。
【請求項4】
前記ポリペプチドが、配列番号1、配列番号2、若しくは配列番号3のアミノ酸配列、又はこれらと95%以上の同一性を有する配列を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物
【請求項5】
前記Reg3αポリペプチドが、酸素感受性グラム陽性細菌を保護する、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記酸素感受性グラム陽性細菌が、クロストリジアレス(Clostridiales目のものである、請求項に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記Reg3αポリペプチドがルミノコッカセアエ(Ruminococcaceae、例えばフェカリバクテリウム・プラウスニツィイ(Faecalibacterium prausnitzii、及び/又はラクノスピラセアエ(Lachnospiraceae、例えばロセブリア・インテスティナリス(Roseburia intestinalis)に属する酸素感受性グラム陽性最近である、である、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記Reg3αポリペプチドが、1つ以上の医薬として許容される賦形剤と組み合わせられて、経口又は経粘膜用医薬組成物中に配合される、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記Reg3αポリペプチドが、対象の腸障壁の酸素感受性グラム陽性細菌を保護することにより、細胞-マトリックス相互作用及びムチンO-グリコシル化のモジュレーターを上方制御する、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【外国語明細書】