(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166398
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼン、L-プロリンおよび水からなる1:1:1共結晶の合成
(51)【国際特許分類】
C07D 309/10 20060101AFI20231114BHJP
C07C 255/50 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/351 20060101ALN20231114BHJP
A61P 3/10 20060101ALN20231114BHJP
【FI】
C07D309/10 CSP
C07C255/50
A61K31/351
A61P3/10
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023131135
(22)【出願日】2023-08-10
(62)【分割の表示】P 2021142558の分割
【原出願日】2018-12-17
(31)【優先権主張番号】17208315.6
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】505258715
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム フェトメディカ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Boehringer Ingelheim Vetmedica GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】エクハルト マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ブリンク モニカ
(72)【発明者】
【氏名】ヒンメルスバッハ フランク
(72)【発明者】
【氏名】ザーリー シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】シュー チューティアン
(72)【発明者】
【氏名】ワン シャオ-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーバー ベアト テオドール
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ビン-ショウ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼン、L-プロリンおよび水からなる1:1:1共結晶の合成法を提供する。
【解決手段】(a)最終中間体(FI)を脱アセチル化する工程、(b)脱アセチル化最終中間体をL-プロリンおよび水と反応させることにより、式(I)による結晶性化合物を形成して、最終反応生成物を単離する工程を含む、式(I)による結晶性化合物を製造する方法、これらの中間体を製造する方法、プロセス中間体およびその使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)による結晶性化合物1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンL-プロリン一水和物の製造方法であって、以下:
(a) 最終中間体(FI)を脱アセチル化する工程、
(b) 工程(a)の脱アセチル化最終中間体をL-プロリンおよび水と反応させて、最終反応生成物の単離を可能にすることによる、式(I)による結晶性化合物を形成する工程
を含む、方法。
【化1】
【請求項2】
脱アセチル化工程(a)が、以下:
(a1) 塩基、好ましくはNaOHの存在下で、少なくとも1種の有機溶媒、好ましくはメチルテトラヒドロフラン(MeTHF)に溶解した最終中間体(FI)を水と反応させる工程、
(a2) 工程(a1)で得られた有機相の少なくとも1種の有機溶媒、好ましくはメチルテトラヒドロフラン(MeTHF)を、少なくとも1種の異なる有機溶媒、好ましくは2-プロパノールに交換してもよい工程、及び水を加えてもよい工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
結晶性化合物を形成する工程(b)が、以下:
(b1) 工程(a1)、または任意に工程(a2)において得られた、少なくとも1種の異なる有機溶媒、好ましくは2-プロパノールおよび水に溶解したL-プロリンを、水-有機相混合物、好ましくは2-プロパノールおよび水に加えて、このような反応混合物を温置する工程
(b2) 工程(b1)の反応混合物から、式(I)による結晶性化合物1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンL-プロリン一水和物を単離する工程
をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
以下:
(a) 中間体I1(Xは、BrまたはIである)を少なくとも1つのメタル化剤、好ましくはターボ-グリニャール(iPrMgCl*LiCl)と反応させて、次いで、このようなメタル化の反応生成物を中間体I2(PGは、保護基、好ましくはトリメチルシリル(TMS)である)に加えて、中間体I3を得る工程
(b) 中間体I3をメチル化して、中間体I4を得る工程
(c) 中間体I4を還元剤、好ましくはシラン、より好ましくは、トリエチルシランにより還元して、中間体I5を得る工程、
(d) 中間体I5をアセチル化して、最終中間体FIを得る工程
を含む、最終中間体(FI)の製造方法であって、
中間体I3、I4および/またはI5のうちの好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは、すべてが、さらなる処理前、すなわち、それぞれ工程(b)、(c)および/または(d)を行う前に、単離および/または精製が行われない、製造方法。
【化2】
【請求項5】
以下:
(a) 中間体I1(Xは、BrまたはIである)を少なくとも1つのメタル化剤、好ましくはターボ-グリニャール(iPrMgCl*LiCl)と反応させて、次いで、このようなメタル化の反応生成物を中間体I2(PGは、保護基、好ましくはトリメチルシリル(TMS)である)に加えて、中間体I3を得る工程
(b) 中間体I3をメチル化して、中間体I4を得る工程
(c) 中間体I4をアセチル化して、中間体I6を得る工程
(d) 中間体I6を還元剤、好ましくはシラン、より好ましくはトリエチルシランにより還元して、最終中間体FIを得る工程
を含む、最終中間体(FI)の製造方法であって、
中間体I3、I4および/またはI6のうちの好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは、すべてが、さらなる処理前、すなわち、それぞれ工程(b)、(c)および/または(d)を行う前に、単離および/または精製が行われない、製造方法。
【化3】
【請求項6】
XがIである、および/またはPGがトリメチルシリル(TMS)であり、好ましくはXがIであり、PGがトリメチルシリル(TMS)である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
以下:
(a) 塩基、好ましくはカリウムt-ブトキシド(KOtBu)の存在下で、中間体I7を中間体I8(Xは、BrまたはIであり、Halは、FまたはClである)と反応させて、中間体I1を得る工程、
(b) 工程(a)の反応混合物から中間体I1を単離する工程
を含む、中間体I1の製造方法。
【化4】
【請求項8】
XがIである、および/またはHalがFであり、好ましくはXがIであり、HalがFである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
以下からなる群から選択される、中間化合物。
【化5】
【請求項10】
以下からなる群から選択される、請求項9に記載の中間化合物。
【化6】
【請求項11】
請求項4~8のいずれか1項に記載の方法により得ることができる、請求項10に記載の中間化合物。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法における、請求項9~11のいずれか1項に記載の中間化合物の使用。
【請求項13】
以下:
(a) 2-フルオロ-4-ブロモベンゾニトリルを塩化イソプロピルマグネシウムおよびヨウ素と反応させて、2-フルオロ-4-ヨードベンゾニトリルを得る工程、
(b) 次に、2-フルオロ-4-ヨードベンゾニトリルをエチル-4-ブロモフェニルアセテートとカップリングして、次いで脱カルボキシル化して、2-(4-ブロモベンジル)-4-ヨード-ベンゾニトリルを得る工程
(c) 次に、遠位ベンジル部分に示されているシクロプロピル置換の代わりに、ブロモ置換を有する、関与する中間体I3、I4およびI5を用いて、請求項4の工程(b)および(c)に記載の、ハロゲン-金属交換/ラクトン付加/酸性還元/アセチル化という化学合成順序で、2-(4-ブロモベンジル)-4-ヨード-ベンゾニトリルを中間体「I2」[PG=トリメチルシリル(TMS)]と反応させて、還元し、アセチル化する工程、
(d) 次いで、シクロプロピルボロン酸などの適切なシクロプロピル種との遷移金属触媒反応により、シクロプロピル部分を最終中間体(FI)の対応するブロモ類似体に導入し、最終中間体(FI)を得る工程
(e) 次に、最終中間体(FI)に、請求項1~3のいずれか1項に記載の、式(I)による結晶性化合物1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンL-プロリン一水和物の製造方法を施す工程
を含む、好ましくはからなる、式(I)による結晶性化合物1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンL-プロリン一水和物
【化7】
の製造方法。
【請求項14】
以下の合成経路による工程:
【化8】
(上の略称は、以下の意味を有する:
iPrMgCl=塩化イソプロピルマグネシウム;I2=ヨウ素;THF=テトラヒドロフラン;MeTHF=2-メチルテトラヒドロフラン;tBuOK=カリウムtert-ブトキシド;DMF=ジメチルホルムアミド;NaOH=水酸化ナトリウム;iPrMgCl.LiCl=塩化イソプロピルマグネシウム塩化リチウム;TMS=テトラメチルシラン;MeSO
3H=メタンスルホン酸;MeOH=メタノール;Et
3SiH=トリエチルシラン;BF
3.OEt=三フッ化ホウ素エーテレート;Ac
2O=無水酢酸;NMM=N-メチルモルホリン;DMAP=4-ジメチルアミノピリジン;Ac=アセチル;PdOAc2=酢酸パラジウム(II);PCy3=トリシクロヘキシルホスフィン;PhMe=トルエン;iPrOH=イソプロパノール)
を含む、好ましくはからなる、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学の分野、特に合成化学の分野に関する。特に、本発明は、結晶性1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンL-プロリン一水和物、より詳細には、3種の結晶構成成分である1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼン、L-プロリンおよび水のすべてからなる1:1:1共結晶の合成に関する。
【背景技術】
【0002】
WO2007/093610は、グルコピラノシル-置換ベンゾニトリル誘導体、このような化合物を含有する医薬組成物、これらの医療的使用、およびこれらの製造方法を記載している。上記の特許文献は、多数の他の化合物の中で、1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンも開示している。
WO2007/128749は、グルコピラノシル-置換ベンゾニトリル誘導体、このような化合物を含有する医薬組成物、これらの医療的使用、およびこれらの製造方法に関する。多数の他の化合物の中で、上記の特許文献は、1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンも開示している。
【0003】
WO2014/016381は、1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンと、天然アミノ酸との結晶性複合体、その調製方法、および医薬調製のためのその使用を記載している。この国際特許出願は、結晶性1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンL-プロリンを記載しているが、この出願は、1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンL-プロリン一水和物のことを明確に記載していない。
さらに、先行技術は以下の通りである:
ターボグリニャール剤i-PrMgCl*LiClにおける進歩および開発を概説したLi-Yuan Baoら(Chem. Commun. 2015, 32: 6884-6900)。
先行技術の欠点は、以下の通りである:
- 粗製物質としての1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンは、アモルファス油(amorphous oil)であり、この油状物は、さらなる処理/修飾なしに、技術的および商業規模で取り扱うことができない。
- 多数の中間工程を伴う、1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンの複雑な合成
- 1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンの最終合成には、出発原料が非市販であるため、前駆体の合成が必要となる。
【発明の概要】
【0004】
したがって、基礎となる本発明の目的は、上記の先行技術の課題を克服する、合成法を提供することである。
本発明は、一態様では、式(I)による結晶性化合物1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンL-プロリン一水和物の製造方法であって、以下:
(a) 最終中間体(FI)を脱アセチル化する工程、
(b) 工程(a)の脱アセチル化最終中間体をL-プロリンおよび水と反応させて、最終反応生成物の単離を可能にすることによる、式(I)による結晶性化合物を形成する工程
を含む、方法に関する。
【0005】
【0006】
別の態様では、本発明は、以下:
(a) 中間体I1(Xは、BrまたはIである)を少なくとも1つのメタル化剤、好ましくはターボ-グリニャール(iPrMgCl*LiCl)と反応させて、次いで、このようなメタル化の反応生成物を中間体I2(PGは、保護基、好ましくはトリメチルシリル(TMS)である)に加えて、中間体I3を得る工程
(b) 中間体I3をメタノールにより処理して、中間体I4を得る工程
(c) 中間体I4を還元剤、好ましくはシラン、より好ましくは、トリエチルシランにより還元して、中間体I5を得る工程、
(d) 中間体I5をアセチル化して、最終中間体FIを得る工程
を含む、最終中間体(FI)の製造方法であって、
中間体I3、I4および/またはI5のうちの好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは、すべてが、さらなる処理前、すなわち、それぞれ工程(b)、(c)および/または(d)を行う前に、単離および/または精製が行われない製造方法に関する。
【0007】
【0008】
さらなる態様では、本発明は、以下:
(a) 中間体I1(Xは、BrまたはIである)を少なくとも1つのメタル化剤、好ましくはターボ-グリニャール(iPrMgCl*LiCl)と反応させて、次いで、このようなメタル化の反応生成物を中間体I2(PGは、保護基、好ましくはトリメチルシリル(TMS)である)に加えて、中間体I3を得る工程
(b) 中間体I3をメタノールにより処理して、中間体I4を得る工程
(c) 中間体I4をアセチル化して、中間体I6を得る工程
(d) 中間体I6を還元剤、好ましくはシラン、より好ましくはトリエチルシランにより還元して、最終中間体FIを得る工程
を含む、最終中間体(FI)の製造方法であって、
中間体I3、I4および/またはI6のうちの好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは、すべてが、さらなる処理前、すなわち、それぞれ工程(b)、(c)および/または(d)を行う前に、単離および/または精製が行われない、製造方法に関する。
【0009】
【0010】
さらに別の態様では、本発明は、以下:
(a) 塩基、好ましくはカリウムt-ブトキシド(KOtBu)の存在下で、中間体I7を中間体I8(Xは、BrまたはIであり、Halは、FまたはClである)と反応させて、中間体I1を得る工程
(b) 工程(a)の反応混合物から中間体I1を単離する工程
を含む、中間体I1の製造方法に関する。
【0011】
【0012】
さらに別の態様では、本発明は、式(I)による結晶性化合物1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンL-プロリン一水和物に関する。
【化5】
【0013】
さらなる態様では、本発明は、中間体(1)~(13)からなる群から選択される中間化合物に関する。
【化6】
【0014】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書において開示されている本発明による1つまたは複数の方法によって得ることができる、本明細書において開示されている、中間化合物(1)~(13)から選択される中間化合物に関する。
【0015】
さらなる態様では、本発明は、本明細書において開示されている本発明による1つまたは複数の方法において、本明細書に開示されている、中間化合物(1)~(13)から選択される中間化合物の使用に関する。
【0016】
本発明による合成法の利点は、以下の通りである:
- 1:1:1共結晶は、遊離化合物である油状形態とは対照的に、技術的に取り扱うこと、すなわち、商業規模での結晶化、単離、同定およびさらなる処理をすることができる。
- 「明白ではない」化学的性質:ベンゾニトリル部分を有する分子を含む合成戦略の開発は非常に困難であった。非シアノ化グルコシドの合成に関すると、有機マグネシウムまたはリチウム化合物の使用は、ニトリル部分が、ハロゲン-金属交換およびその後の付加反応を妨害することがあるので、困難となり得る。
- 余分の合成工程において、ハロゲン化、臭素化またはクロロ化した前駆体の後にシアノ基を導入する代わりに、初めからアグリコン中にシアノ基が組み込まれているため、より短い/より効率が高い/より経済的な合成経路となる。
- 市販の出発原料、または容易に調製可能な出発原料である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態をさらに詳細に記載する前に、本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が特に明確に指示しない限り、複数の参照物を含むことが留意されるものとする。
【0018】
特に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。所与の範囲および値はすべて、特に示さない限りまたは当業者によって特に公知ではない場合、1~5%の変動があることがあり、したがって、用語「約」は、通常、本記載および特許請求の範囲から通常、省略された。本明細書に記載されているものと類似または等価な方法および物質のいずれも、本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法、装置および材料が、これより記載される。本明細書において明記されている刊行物はすべて、本発明に関連して使用され得る、刊行物に報告されている物質、添加剤、担体および方法を記載ならびに開示する目的で、参照により本明細書に組み込まれている。本明細書において、本発明が、先行発明により、このような開示に先行する権利がないことを容認するものとして解釈すべきものは何もない。
【0019】
本発明の過程において、結晶性化合物1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンL-プロリン一水和物は、本明細書により、式(I):
【化7】
によって表される、3種の結晶構成成分である1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼン、L-プロリンおよび水のすべてからなる1:1:1共結晶であることが理解される。
【0020】
このような1:1:1共結晶は、WO2014/016381に物理化学的に特徴づけられている。
好ましい実施形態では、本発明は、
(a) 最終中間体(FI)を脱アセチル化する工程、
(b) 工程(a)の脱アセチル化最終中間体をL-プロリンおよび水と反応させて、最終反応生成物を単離することによる、式(I)による結晶性化合物を形成する工程
を含む、式(I)による結晶性化合物1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンL-プロリン一水和物の製造方法であって、
脱アセチル化工程(a)が、以下:
(a1) 塩基、好ましくはNaOHの存在下で、少なくとも1種の有機溶媒、好ましくはメチルテトラヒドロフラン(MeTHF)に溶解した最終中間体(FI)を水と反応させる工程、
(a2) 工程(a1)で得られた有機相の少なくとも1種の有機溶媒、好ましくはメチルテトラヒドロフラン(MeTHF)を、少なくとも1種の異なる有機溶媒、好ましくは2-プロパノールに交換してもよい工程、及び水を加えてもよい工程
を含む、製造方法を提供する。
【0021】
好ましくは、本結晶性化合物を形成する工程(b)は、以下:
(b1) 工程(a1)、または任意に工程(a2)において得られた、少なくとも1種の異なる有機溶媒、好ましくは2-プロパノールおよび水に溶解したL-プロリンを、水-有機相混合物、好ましくは2-プロパノールおよび水に加えて、このような反応混合物を温置する工程
(b2) 工程(b1)の反応混合物から、式(I)による結晶性化合物1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンL-プロリン一水和物を単離する工程
をさらに含む。
【0022】
別の好ましい実施形態では、本発明は、以下:
(a) 中間体I1(Xは、BrまたはIである)を少なくとも1つのメタル化剤、好ましくはターボ-グリニャール(iPrMgCl*LiCl)と反応させて、次いで、このようなメタル化の反応生成物を中間体I2(PGは、保護基、好ましくはトリメチルシリル(TMS)である)に加えて、中間体I3を得る工程
(b)中間体I3をメタノールにより処理して、中間体I4を得る工程
(c) 中間体I4を還元剤、好ましくはシラン、より好ましくは、トリエチルシランにより還元して、中間体I5を得る工程、
(d) 中間体I5をアセチル化して、最終中間体FIを得る工程
を含む、最終中間体(FI)の製造方法であって、
中間体I3、I4および/またはI5のうちの好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは、すべてが、さらなる処理前、すなわち、それぞれ工程(b)、(c)および/または(d)を行う前に、単離および/または精製が行われず、XがIである、および/またはPGがトリメチルシリル(TMS)である、好ましくはXがIであり、PGがトリメチルシリル(TMS)である、
製造方法を提供する。
【0023】
別の好ましい実施形態では、本発明は、以下:
(a) 中間体I1(Xは、BrまたはIである)を少なくとも1つのメタル化剤、好ましくはターボ-グリニャール(iPrMgCl*LiCl)と反応させて、次いで、このようなメタル化の反応生成物を中間体I2(PGは、保護基、好ましくはトリメチルシリル(TMS)である)に加えて、中間体I3を得る工程
(b) 中間体I3をメタノールにより処理して、中間体I4を得る工程
(c) 中間体I4をアセチル化して、中間体I6を得る工程
(d) 中間体I6を還元剤、好ましくはシラン、より好ましくはトリエチルシランにより還元して、最終中間体FIを得る工程
を含む、最終中間体(FI)の製造方法であって、
中間体I3、I4および/またはI6のうちの好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは、すべてが、さらなる処理前、すなわち、それぞれ工程(b)、(c)および/または(d)を行う前に、単離および/または精製が行われず、XがIである、および/またはPGがトリメチルシリル(TMS)である、好ましくは、XはIであり、PGはトリメチルシリル(TMS)である、
製造方法を提供する。
【0024】
原理的に、当業者に公知の任意の好適な保護基を使用することができる。本発明による例示的な保護基(PG)は、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、tert-ブチルジメチルシリル(TBS、TBDMS)、tert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)、ベンジル(Bn)、4-メトキシベンジル(PMB)、2-ナフチルメチル(Nap)、2-メトキシエトキシメチル(MEM)、2,2,2-トリクロロエチルカルボニル(Troc)、メチルなどである。本発明による好ましい保護基(PG)は、トリメチルシリル(TMS)である。
還元剤に関すると、原理的に、当業者に公知の任意の好適な還元剤を使用することができる。本発明による例示的な還元剤は、トリエチルシラン、トリプロピルシラン、トリイソプロピルシランまたはジフェニルシランなどのシラン、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素亜鉛、ボラン、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウムなどである。好ましい還元剤は、シラン、より好ましくはトリエチルシランである。
さらに別の好ましい実施形態では、本発明は、以下:
(a) 塩基、好ましくはカリウムt-ブトキシド(KOtBu)の存在下で、中間体I7を中間体I8(Xは、BrまたはIであり、Halは、FまたはClである)と反応させて、中間体I1を得る工程、
(b) 工程(a)の反応混合物から中間体I1を単離する工程
を含む、中間体I1の製造方法であって、
XがIである、および/またはHalがFであり、好ましくはXがIであり、HalがFである、
製造方法を提供する。
【0025】
さらに別の好ましい実施形態では、本発明は、以下:
【化8】
からなる群から選択される、中間化合物を提供する。
【実施例0026】
以下の実施例は、本発明をさらに例示する働きをするが、この実施例は、本明細書において開示されている本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0027】
(実施例1)最終中間体FIから始める、式(I)による1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンL-プロリン一水和物の調製
中間体FI 30gを2-メチルテトラヒドロフラン130gに溶解した。NaOH(水中、30%)9.3gを加え、得られた溶液を3時間、50℃に加熱し、5℃に冷却して、1M HCl水溶液を使用して、pHを9.3に調節した。これらの相を分離し、有機相を水により洗浄した。有機溶媒を2-プロパノールに交換し、水3.3gを室温で加えた。水8.5gおよび2-プロパノール42g中のL-プロリン6.3gの溶液を、23℃において4時間以内で加え、添加中に種晶を加えた。得られた懸濁液を5℃に冷却して1時間、撹拌し、生成物をろ過した。2-プロパノール60gおよび水3.5gからなる溶媒混合物により洗浄し、真空で乾燥した後の最終の結晶性化合物は、純度100%(HPLCによる分析)を有しており、総収率は87%であった。
【0028】
(実施例2)中間体I1およびI2から始める最終中間体FIの調製 - 変形A
テトラヒドロフラン(THF)8mLに溶解した中間体I1(X=Br)628mgを、15分間、-100℃でtert-ブチルリチウム(ペンタン中、1.7M)2.4mLと反応させた。THF5mLに溶解した中間体I2(PG=トリメチルシリル、TMS)934mgを加え、反応混合物をー80℃に維持する。1時間後、この反応を飽和塩化アンモニウム水溶液14mLでクエンチし、次いで、酢酸エチルにより抽出し、硫酸マグネシウムで脱水して溶液を濃縮した。残留物をメタノールおよびメタンスルホン酸0.32mLの溶媒混合物9.4mLに溶解し、この混合物を55℃に維持した。16時間後、飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加えることによりpHを8に調節し、真空で濃縮した。この残留物を酢酸エチルと飽和塩化ナトリウム溶液との間に分配した。有機相を硫酸マグネシウムにより脱水し、真空で濃縮すると中間体I4が得られた。
【0029】
中間体I4を含有する残留物1400mgを、22℃で1時間、ジクロロエタン(dicholormethane)4.5gおよびアセトニトリル5gからなる混合物中のトリエチルシラン1.17gおよび三フッ化ホウ素ジエチルエーテレート1.6gを用いて還元した。この反応混合物を2N水酸化ナトリウム水溶液12hgに加え、TBMEにより抽出した。有機相を真空で濃縮し、MeOH7gで2回、処理し、1/5の体積となるまで溶媒蒸発させた。次に、この残留物をTHF8gに溶解し、無水酢酸2.2g、N-メチルモルホリン2.5gおよび触媒量の4-(ジメチルアミノ)-ピリジンを用いるアセチル化によって中間体FIを得た。水性メタノール(1:1)から単離して結晶化させると、中間体I1が、純度98.4%、および総収率26%で得られた。
【0030】
(実施例3)中間体I1およびI2から始める最終中間体FIの調製 - 変形B
中間体I4は、実施例2に記載されている通り得る。
ジクロロメタン5mL中で、無水酢酸0.24mL、N,N-ジイソプロピルエチルアミン390mgおよび触媒量の4-(ジメチルアミノ)-ピリジンを用いて、中間体I4 220mgをアセチル化する。水による後処理抽出、硫酸マグネシウムにより脱水、および真空での溶媒蒸発後に、アセチル化中間体I6 320mgを、トリエチルシラン0.19mL、三フッ化ホウ素ジエチルエーテレート0.11mLおよび水1当量を含むアセトニトリル4mL中で還元した。中間体FIの純度は、>85%であり、収率は26%であった。
【0031】
(実施例4a)中間体I7およびI8から始める中間体I1の調製
中間体I7 6.6g、中間体I8(Hal=F、X=I)8gをテトラヒドロフラン28.5gおよびジメチルホルムアミド6.2gに溶解し、この混合物にテトラヒドロフラン59g中のカリウムtert-ブトキシド8gの溶液を-20℃で加え、1時間、撹拌した。この反応を、水27.2gおよび30%水酸化ナトリウム水溶液13.2gを加えることによりクエンチした。次に、得られた混合物を55℃で16時間、撹拌し、22℃に冷却した。酢酸10gおよび水25gを加え、これらの相を分離して、酢酸イソプロピル67.5gを有機相に加えた。有機相を5%塩化ナトリウム水溶液67gで洗浄し、溶媒を2-プロパノールに交換した。種晶を加えて15℃に冷却することによって、2-プロパノールから生成物を結晶化させた。生成物をろ過して、2-プロパノールで洗浄すると、中間体I1が、純度97%および収率50%で得られた。
【0032】
(実施例4b)中間体I7およびI8から始める中間体I1の調製
中間体I8(Hal=F、X=Br)を使用して、実施例4aを繰り返す。総収率は47%であり、中間体の純度は、>90%であった。
【0033】
(実施例5)中間体I7の調製
テトラヒドロフラン中、トリフェニルホスフィン(0.06当量)および酢酸パラジウム(II)(0.05当量)の存在下、臭化シクロプロピルマグネシウム(1.0当量)、塩化亜鉛(1.3当量)および2-(4-ブロモフェニル)酢酸エチル(1.0当量)を、50℃の温度において混合することにより中間体I7を調製した。酢酸エチルおよび水を使用して抽出により後処理を行うと、粗生成物が得られ、これを蒸留により精製した。収率=70%。純度>97.0%。
【0034】
(実施例6)代替合成経路
【化9】
略称
iPrMgCl=塩化イソプロピルマグネシウム;I2=ヨウ素;THF=テトラヒドロフラン;MeTHF=2-メチルテトラヒドロフラン;tBuOK=カリウムtert-ブトキシド;DMF=ジメチルホルムアミド;NaOH=水酸化ナトリウム;iPrMgCl.LiCl=塩化イソプロピルマグネシウム塩化リチウム;TMS=テトラメチルシラン;MeSO
3H=メタンスルホン酸;MeOH=メタノール;Et
3SiH=トリエチルシラン;BF
3.OEt=三フッ化ホウ素エーテレート;Ac
2O=無水酢酸;NMM=N-メチルモルホリン;DMAP=4-ジメチルアミノピリジン;Ac=アセチル;PdOAc2=酢酸パラジウム(II);PCy3=トリシクロヘキシルホスフィン;PhMe=トルエン;iPrOH=イソプロパノール。
【0035】
代替的に、最終中間体FIは、上のスキームに示されている通り、合成の後の段階に、シクロプロピル部分を導入することにより合成することができる。化合物2を使用する代わりに、対応するアリールブロモヨードベンゾニトリルを使用してもよい。アリールブロモヨードベンゾニトリルは、2-フルオロ-4-ヨードベンゾニトリルとエチル-4-ブロモフェニルアセテートとの間での求核芳香族置換/脱カルボキシル化カップリングにより得ることができる。次に、アリールブロモヨードベンゾニトリルに、ハロゲン-金属交換/ラクトン付加/酸性メタノール/還元/アセチル化という同じ化学順序を施すことができる。次に、シクロプロピルボロン酸などの適切なシクロプロピル種との遷移金属触媒反応によって、上記の順序から単離した生成物のシクロプロピル部分を導入して、最終中間体FIを得ることが必要である。
【0036】
詳細には、2-フルオロ-4-ブロモベンゾニトリルを塩化イソプロピルマグネシウムおよびヨウ素と反応させて、2-フルオロ-4-ヨードベンゾニトリルを得る。次に、こうして得られた中間化合物を、エチル-4-ブロモフェニルアセテートとカップリングして、次いで脱カルボキシル化すると、2-(4-ブロモベンジル)-4-ヨード-ベンゾニトリルが得られる。次に、遠位ベンジル部分に示されているシクロプロピル置換の代わりにブロモ置換を有する、関与する中間体I3、I4およびI5を用いて、最終中間体(FI)の製造に関して、本明細書において記載および特許請求されている方法、すなわち工程(b)および(c)と同様に、ハロゲン-金属交換/ラクトン付加/酸性還元/アセチル化という化学合成順序で、2-(4-ブロモベンジル)-4-ヨード-ベンゾニトリルを中間体「I2」[PG=トリメチルシリル(TMS)]と反応させて、還元し、アセチル化する。この化学合成順序の終わりに、シクロプロピルボロン酸などの適切なシクロプロピル種との遷移金属触媒反応により、シクロプロピル部分を最終中間体(FI)の対応するブロモ類似体に導入し、最終中間体(FI)を得る。次に、最終中間体(FI)に、本明細書に記載され特許請求されている、式(I)による結晶性化合物1-シアノ-2-(4-シクロプロピル-ベンジル)-4-(β-D-グルコピラノス-1-イル)-ベンゼンL-プロリン一水和物の製造方法を施す
【0037】
参考文献
(1) WO 2007/093610
(2) WO 2007/128749
(3) WO 2014/016381
(4) Li-Yuan Bao et al., Chem. Commun. 2015, 32: 6884-6900