(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166400
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】標的DNAに特異的なガイドRNAおよびCASタンパク質コード核酸またはCASタンパク質を含む、標的DNAを切断するための組成物、ならびにその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20231114BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20231114BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20231114BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231114BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231114BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/11 Z ZNA
C12N9/10
C12N5/10
C12N1/19
C12N1/15
【審査請求】有
【請求項の数】29
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023131349
(22)【出願日】2023-08-10
(62)【分割の表示】P 2022041576の分割
【原出願日】2013-10-23
(31)【優先権主張番号】61/717,324
(32)【優先日】2012-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/803,599
(32)【優先日】2013-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/837,481
(32)【優先日】2013-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515108923
【氏名又は名称】ツールゲン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジン-ソー
(72)【発明者】
【氏名】チョ,スン ウー
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジョン ミン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソクジョーン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】真核細胞の核内の標的内在性核酸配列の改変を誘発するための組成物及び方法を提供する。
【解決手段】Cas9/RNA複合体を含む、真核細胞の核内の標的内在性核酸配列の改変を誘発するための組成物であって、複合体は、組換えCas9タンパク質;およびcrRNAおよびtracrRNAを含むガイドRNAを含み、Cas9/RNA複合体は、組換えCas9タンパク質とガイドRNAの組合せであって、組合せは、組換えCas9タンパク質およびガイドRNAをin vitroで混合およびインキュベートすることにより組み立てられ、ガイドRNAはin vitroで転写されるか化学的に合成され、標的内在性核酸配列はガイドRNAのcrRNAに相補的な部分を含み、組換えCas9タンパク質とガイドRNAの組合せは真核細胞に導入されて、真核細胞の核内の標的内在性核酸配列の改変を引き起こす、前記組成物とする。
【選択図】
図1a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物中の標的DNAを切断するための組成物。
【請求項2】
標的DNAが内在性の標的DNAである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ガイドRNAがcrRNAおよびtracrRNAを含むデュアルRNAである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ガイドRNAが一本鎖ガイドRNA(sgRNA)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
一本鎖ガイドRNAがcrRNAおよびtracrRNAの一部を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
ガイドRNAが、更に、一本鎖ガイドRNA、またはデュアルRNAのcrRNAの5'末端に1つ以上の付加的なヌクレオチドを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ガイドRNAが、更に、一本鎖ガイドRNA、またはデュアルRNAのcrRNAの5'末端に2つの付加的なグアニンヌクレオチドを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
真核細胞または真核生物において標的化突然変異生成を誘発する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
in vitroにおいて真核細胞または真核生物のゲノムの遺伝子型決定に使用するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
ガイドRNAおよびCasタンパク質がペアとして機能し、前記ペアが異なる鎖上に2つのニックを生じさせる2つのガイドRNAを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
ガイドRNAが、単離されたRNAの形態であるか、またはベクターにコードされ、前記ベクターがウイルスベクター、プラスミドベクター、もしくはアグロバクテリウムベクターである、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
標的DNAに特異的なガイドRNAおよびCas9タンパク質を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
ex vivoもしくはin vivoにおいて真核細胞または真核生物中の標的DNAを切断するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
Casタンパク質コード核酸またはCasタンパク質がストレプトコッカス属菌(Streptococcus sp.)に由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記ストレプトコッカス属菌(Streptococcus sp.)が化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogens)である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
Casタンパク質がNGGトリヌクレオチドを認識する、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
Casタンパク質がCas9タンパク質またはその変異型である、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
Casタンパク質がタンパク質形質導入ドメインに結合される、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
Cas9タンパク質の変異型が、その中の触媒アスパラギン酸残基が他の任意のアミノ酸に変更されたCas9の突然変異型である、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記アミノ酸がアラニンである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
Casタンパク質コード核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列、または配列番号1と少なくとも50%の相同性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項22】
真核細胞または真核生物における標的化突然変異生成のための、請求項1~21のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項23】
請求項1~21のいずれか1項に記載の組成物を含む、真核細胞または真核生物中の標的DNAを切断するためのキット。
【請求項24】
真核細胞または真核生物にCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質、およびガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNAを同時トランスフェクトまたは連続トランスフェクトするステップを含む、Casタンパク質およびガイドRNAを有する真核細胞あるいは真核生物を作製する方法。
【請求項25】
ガイドRNAがcrRNAおよびtracrRNAを含むデュアルRNAである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ガイドRNAが一本鎖ガイドRNAである、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
一本鎖ガイドRNAがcrRNAおよびtracrRNAの一部を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ガイドRNAが、更に、一本鎖ガイドRNA、またはデュアルRNAのcrRNAの5'末端に1つ以上の付加的なヌクレオチドを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
ガイドRNAが、更に、一本鎖ガイドRNA、またはデュアルRNAのcrRNAの5'末端に2つの付加的なグアニンヌクレオチドを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
真核細胞または真核生物が、Cas9タンパク質およびガイドRNAによって同時トランスフェクトまたは連続トランスフェクトされる、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
連続トランスフェクションが、最初にCasタンパク質コード核酸によるトランスフェクション、続いて裸のガイドRNAによる第二のトランスフェクションによって行われる、請求項24に記載の方法。
【請求項32】
Casタンパク質がCas9タンパク質またはその変異型である、請求項24に記載の方法。
【請求項33】
Casタンパク質コード核酸またはCasタンパク質がストレプトコッカス属菌(Streptococcus sp.)に由来する、請求項24に記載の方法。
【請求項34】
前記ストレプトコッカス属菌(Streptococcus sp.)が化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogens)である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
Cas9タンパク質の変異型が、その中の触媒アスパラギン酸残基が他の任意のアミノ酸に変更されたCas9の突然変異型である、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記アミノ酸がアラニンである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
ガイドRNAおよびCasタンパク質がペアとして機能し、前記ペアが異なるDNA鎖上に2つのニックを生じさせる2つのガイドRNAを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項38】
2つのニックが少なくとも100bp離れている、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
トランスフェクションが、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、DEAE-デキストラン処理、リポフェクション、ナノ粒子媒介性トランスフェクション、タンパク質形質導入ドメイン媒介性形質導入、ウイルス媒介性遺伝子送達、およびプロトプラストへのPEG媒介性トランスフェクションからなる群より選択される方法によって行われる、請求項24に記載の方法。
【請求項40】
請求項24~39のいずれか1項に記載の方法によって作製される、Casタンパク質およびガイドRNAを含有する真核細胞または真核生物。
【請求項41】
標的DNAを有する真核細胞または真核生物に請求項1~21のいずれか1項に記載の組成物をトランスフェクトするステップを含む、真核細胞または真核生物中の標的DNAを切断する方法。
【請求項42】
真核生物が哺乳類または植物である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
ガイドRNAおよびCasタンパク質がペアとして機能し、前記ペアが異なるDNA鎖上に2つのニックを生じさせる2つのガイドRNAを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
2つのニックが少なくとも100bp離れている、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
トランスフェクションが同時トランスフェクションまたは連続トランスフェクションである、請求項41に記載の方法。
【請求項46】
連続トランスフェクションが、最初にCasタンパク質コード核酸によるトランスフェクション、続いて裸のガイドRNAによる第二のトランスフェクションによって行われる、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
切断のパターンを分析するステップを更に含み、前記パターンがゲノム内の突然変異または多型(variation)の検出を示す、請求項41に記載の方法。
【請求項48】
請求項1~21のいずれか1項に記載の組成物によって編集されたゲノムを有する胚。
【請求項49】
請求項48に記載の胚を卵管に移入することによって得られるゲノム改変動物。
【請求項50】
請求項24~39のいずれか1項に記載の方法によって作製されたゲノム改変プロトプラストから再生された植物。
【請求項51】
請求項1~21のいずれか1項に記載の組成物を動物の胚に導入するステップ;およびその胚を偽妊娠した代理母の卵管に移入して、ゲノム改変動物を生じさせるステップ、を含む、ゲノム改変動物を作製する方法。
【請求項52】
標的DNA配列に特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質を含有する、単離された生体サンプル中の突然変異または多型を遺伝子型決定するための組成物。
【請求項53】
突然変異または多型が人工ヌクレアーゼによって細胞内に誘発される、請求項52に記載の組成物。
【請求項54】
突然変異または多型が自然発生突然変異または多型である、請求項52に記載の組成物。
【請求項55】
標的DNA配列に特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質を含有する、単離された生体サンプル中の病原微生物の核酸配列を遺伝子型決定するための組成物。
【請求項56】
請求項52~55のいずれか1項に記載の組成物を含む、単離された生体サンプル中の突然変異または多型を遺伝子型決定するためのキット。
【請求項57】
請求項52~55のいずれか1項に記載の組成物を用いて、単離された生体サンプル中の突然変異または多型を遺伝子型決定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真核細胞または真核生物における標的化ゲノム編集に関する。より詳細には、本発明は、標的DNAに特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物中の標的DNAを切断するための組成物、ならびにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
CRISPR(クラスター化された規則的間隔の短いパリンドローム反復配列、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)は、配列決定された細菌の約40%および配列決定された古細菌の90%のゲノムにおいて見出される多数の短い直列反復配列を含む遺伝子座である。CRISPRは、原核生物の免疫系として機能し、そこでそれは、プラスミドおよびファージなどの外因性の遺伝因子に対する抵抗性を与える。CRISPRシステムは、一種の獲得免疫をもたらす。スペーサーと呼ばれる外来DNAの短いセグメントは、ゲノムのCRISPRリピートの間に組み込まれ、過去の曝露の記憶として機能する。CRISPRスペーサーは、その後、真核生物におけるRNAiと類似した方法で外因性遺伝因子を認識してサイレンシングするために用いられる。
【0003】
タイプIICRISPR/Casシステムに必須のタンパク質成分であるCas9は、CRISPR RNA(crRNA)およびトランス活性化crRNA(tracrRNA)と呼ばれる2つのRNAと複合体を形成した場合、活性を有するエンドヌクレアーゼを形成し、それによって侵入したファージまたはプラスミド中の外来遺伝因子を切断して、宿主細胞を防御する。crRNAは、以前にこのような外来侵入物から捕捉された、宿主ゲノム内のCRISPRエレメントから転写される。近年、Jinekら(1)は、crRNAおよびtracrRNAの必須部分の融合によって産生された一本鎖キメラRNAがCas9/RNA複合体中の2つのRNAと置き換え可能であり、機能的なエンドヌクレアーゼを形成できることを実証した。
【0004】
ヌクレオチド結合CRISPR-Casタンパク質における部位特異性は、設計および合成がより困難であり得るDNA結合タンパク質の代わりに、RNA分子に支配されているので、CRISPR/Casシステムは、ジンクフィンガーおよび転写活性化因子様エフェクターDNA結合タンパク質に対して利点を提供する。
しかし、今まで、CRISPR/Casシステムに基づくRNA誘導型エンドヌクレアーゼ(RGEN)を用いたゲノム編集法は、開発されていなかった。
一方、制限酵素断片長多型(RFLP)は、分子生物学および遺伝学においていまだに広く使用されている、最も古く、最も簡便で、最も安価な遺伝子型決定法の1つであるが、制限エンドヌクレアーゼによって認識される適切な部位の欠如によってしばしば制限される。
【0005】
人工(Engineered)ヌクレアーゼ誘発性突然変異は、様々な方法によって検出され、それらは、ミスマッチ感受性のT7 エンドヌクレアーゼI(T7E1)アッセイまたはSurveyorヌクレアーゼアッセイ、RFLP、蛍光PCR産物のキャピラリー電気泳動法、ジデオキシ配列決定法、およびディープシークエンシング(deep sequencing)を含む。T7E1およびSurveyorアッセイは広く用いられるが、煩雑である。更に、突然変異配列が互いとホモ二本鎖を形成する可能性があり、ホモ接合性の二対立遺伝子突然変異体クローンと野生型細胞とを区別できないため、これらの酵素は突然変異頻度を過小評価する傾向がある。RFLPはこれらの制約がないため、好まれる方法である。実際、RFLPは、細胞および動物において人工ヌクレアーゼ仲介性突然変異を検出するための最初の方法の1つであった。しかし残念なことに、RFLPは適切な制限酵素認識部位の利用可能性によって制限される。目的とする標的部位で利用できる制限酵素認識部位がない可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
今まで、CRISPR/Casシステムに基づくRNA誘導型エンドヌクレアーゼ(RGEN)を用いたゲノム編集法および遺伝子型決定法は、開発されていなかった。
このような状況下において、本発明者らは、多くの努力を払って、CRISPR/Casシステムに基づくゲノム編集法を開発し、ついに真核細胞および真核生物において標的化してDNAを切断するプログラム可能なRNA誘導型エンドヌクレアーゼを確立した。
加えて、本発明者らは、多くの努力を払って、RFLP分析におけるRNA誘導型エンドヌクレアーゼ(RGEN)の新規使用方法を開発した。本発明者らは、RGENを用いて、癌において見出される反復突然変異ならびにRGEN自身を含む人工ヌクレアーゼによって細胞および生物に誘発された突然変異の遺伝子型決定を行い、それによって本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物中の標的DNAを切断するための組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物において標的化突然変異生成を誘発するための組成物を提供することである。
【0008】
本発明の更に別の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物中の標的DNAを切断するためのキットを提供することである。
本発明の更に別の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物において標的化突然変異生成を誘発するためのキットを提供することである。
【0009】
本発明の更に別の目的は、真核細胞または真核生物にCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質、およびガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNAを同時トランスフェクトまたは連続トランスフェクトするステップを含む、Casタンパク質ならびにガイドRNAを有する真核細胞あるいは真核生物を作製する方法を提供することである。
本発明の更に別の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する真核細胞または真核生物を提供することである。
【0010】
本発明の更に別の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する組成物を、標的DNAを含む真核細胞または真核生物にトランスフェクトするステップを含む、真核細胞あるいは真核生物中の標的DNAを切断する方法を提供することである。
本発明の更に別の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する組成物で真核細胞または真核生物を処理するステップを含む、真核細胞あるいは真核生物において標的化突然変異生成を誘発する方法を提供することである。
【0011】
本発明の更に別の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する組成物によって編集されたゲノムを有する胚、ゲノム改変動物、またはゲノム改変植物を提供することである。
本発明の更に別の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する組成物を、動物の胚に導入するステップ;ならびにその胚を偽妊娠した代理母の卵管に移入して、ゲノム改変動物を生じさせるステップを含む、ゲノム改変動物を作製する方法を提供することである。
【0012】
本発明の更に別の目的は、標的DNA配列に特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質を含有する、単離された生体サンプル中の突然変異または多型(variations)を遺伝子型決定するための組成物を提供することである。
本発明の更に別の目的は、人工ヌクレアーゼによって細胞内に誘発された突然変異または自然発生突然変異もしくは多型を遺伝子型決定するために、RNA誘導型エンドヌクレアーゼ(RGEN)を使用する方法を提供することであり、そのRGENは、標的DNAに特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質を含む。
【0013】
本発明の更に別の目的は、人工ヌクレアーゼによって細胞内に誘発された突然変異または自然発生突然変異もしくは多型を遺伝子型決定するための、RNA誘導型エンドヌクレアーゼ(RGEN)を含むキットを提供することであり、そのRGENは、標的DNAに特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質を含む。
本発明の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物中の標的DNAを切断するための組成物を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物において標的化突然変異生成を誘発するための組成物を提供することである。
本発明の更に別の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物中の標的DNAを切断するためのキットを提供することである。
【0015】
本発明の更に別の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物において標的化突然変異生成を誘発するためのキットを提供することである。
本発明の更に別の目的は、真核細胞または真核生物にCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質、およびガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNAを同時トランスフェクトまたは連続トランスフェクトするステップを含む、Casタンパク質ならびにガイドRNAを有する真核細胞あるいは真核生物を作製する方法を提供することである。
【0016】
本発明の更に別の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する真核細胞または真核生物を提供することである。
本発明の更に別の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する組成物を、標的DNAむ真核細胞または真核生物にトランスフェクトするステップを含む、真核細胞あるいは真核生物中の標的DNAを切断する方法を提供することである。
【0017】
本発明の更に別の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する組成物で真核細胞または真核生物を処理するステップを含む、真核細胞あるいは真核生物において標的化突然変異生成を誘発する方法を提供することである。
本発明の更に別の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する組成物によって編集されたゲノムを有する胚、ゲノム改変動物、またはゲノム改変植物を提供することである。
【0018】
本発明の更に別の目的は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する組成物を、動物の胚に導入するステップ;ならびにその胚を偽妊娠した代理母の卵管に移入して、ゲノム改変動物を生じさせるステップを含む、ゲノム改変動物を作製する方法を提供することである。
本発明の更に別の目的は、標的DNA配列に特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質を含有する、単離された生体サンプル中の突然変異または多型を遺伝子型決定するための組成物を提供することである。
【0019】
本発明の更に別の目的は、標的DNA配列に特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質を含有する、単離された生体サンプル中の病原微生物の核酸配列を遺伝子型決定するための組成物を提供することである。
本発明の更に別の目的は、組成物、具体的にはRNA誘導型エンドヌクレアーゼ(RGEN)を含有する組成物を含む、単離された生体サンプル中の突然変異または多型を遺伝子型決定するためのキットを提供することであり、そのRGENは、標的DNAに特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質を含む。
【0020】
本発明の更に別の目的は、組成物、具体的にはRNA誘導型エンドヌクレアーゼ(RGEN)を含有する組成物を用いた、単離された生体サンプル中の突然変異または多型を遺伝子型決定するための方法を提供することであり、そのRGENは、標的DNAに特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質を含む。
【発明の効果】
【0021】
真核細胞または真核生物において標的DNAを切断するための、または標的化突然変異生成を誘発するための、標的DNAに特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する本組成物、本組成物を含むキット、ならびに標的化突然変異生成を誘発する方法は、新しい便利なゲノム編集ツールを提供する。加えて、カスタムRGENは任意のDNA配列を標的とするように設計することができるため、ほぼすべての一塩基多型または小さな挿入/欠失(indel)は、RGEN仲介性RFLPによって分析でき、従って、本発明の組成物および方法は、自然発生多型および突然変異の検出および切断に使用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1a】
図1は、in vitroでのプラスミドDNAのCas9触媒性切断を示す。(a)標的DNAおよびキメラRNA配列の模式図。赤い三角形は切断部位を示す。Cas9によって認識されるPAM配列は太字で示される。crRNAおよびtracrRNAに由来するガイドRNA中の配列は、それぞれ、囲み内および下線で示される。
【
図1b】
図1は、in vitroでのプラスミドDNAのCas9触媒性切断を示す。(b)Cas9によるプラスミドDNAのin vitroでの切断。完全な(intact)環状プラスミドまたはApaLI消化プラスミドを、Cas9およびガイドRNAとともにインキュベートした。
【
図2a】
図2は、エピソーム標的部位でのCas9誘発性突然変異生成を示す。(a)RFP-GFPレポーターを用いた細胞に基づくアッセイの概略図。GFP配列はフレームシフトしてRFP配列と融合しているため、GFPはこのレポーターから発現されない。RFP-GFP融合タンパク質は、2つの配列の間の標的部位が部位特異的ヌクレアーゼによって切断される場合のみに発現される。
【
図2b】
図2は、エピソーム標的部位でのCas9誘発性突然変異生成を示す。(b)Cas9をトランスフェクトされた細胞のフローサイトメトリー。RFP-GFP融合タンパク質を発現する細胞の割合が示される。
【
図3a】
図3は、内在性の染色体部位でのRGEN誘発性突然変異を示す。(a)CCR5遺伝子座。(上)T7E1アッセイを用いて、RGEN誘発性突然変異を検出した。矢印は、T7E1によって切断されるDNAバンドの予測される位置を示す。突然変異頻度(Indels(%))は、バンド強度の測定によって計算された。(下)CCR5およびC4BPBの野生型(WT)ならびに突然変異体クローンのDNA配列。ガイドRNAに相補的な標的配列の領域は、囲み(boc)で示される。PAM配列は太字で示される。三角形は切断部位を示す。マイクロホモロジーに相当する塩基には下線が引かれている。右側の列は、挿入または欠失した塩基数を示す。
【
図3b】
図3は、内在性の染色体部位でのRGEN誘発性突然変異を示す。(b)C4BPB遺伝子座。(上)T7E1アッセイを用いて、RGEN誘発性突然変異を検出した。矢印は、T7E1によって切断されるDNAバンドの予測される位置を示す。突然変異頻度(Indels(%))は、バンド強度の測定によって計算された。(下)CCR5およびC4BPBの野生型(WT)ならびに突然変異体クローンのDNA配列。ガイドRNAに相補的な標的配列の領域は、囲み(boc)で示される。PAM配列は太字で示される。三角形は切断部位を示す。マイクロホモロジーに相当する塩基には下線が引かれている。右側の列は、挿入または欠失した塩基数を示す。
【
図4a】
図4は、RGEN誘発性のオフターゲット突然変異が検出されないことを示す。(a)オンターゲット配列および潜在的なオフターゲット配列。潜在的なオフターゲット部位について、コンピューターを用いてヒトゲノムを検索した。4つの部位が同定され、それぞれは、CCR5オンターゲット部位と3塩基のミスマッチを有する。ミスマッチ塩基には下線が引かれている。
【
図4b】
図4は、RGEN誘発性のオフターゲット突然変異が検出されないことを示す。(b)T7E1アッセイを用いて、Cas9/RNA複合体をトランスフェクトした細胞において、これらの部位が突然変異したかどうかを調べた。突然変異はこれらの部位で検出されなかった。N/A(該当なし)、遺伝子間部位。
【
図4c】
図4は、RGEN誘発性のオフターゲット突然変異が検出されないことを示す。(c)Cas9は、オフターゲットに関連する染色体欠失を引き起こさなかった。CCR5特異的なRGENおよびZFNをヒト細胞内で発現させた。PCRを用いて、これらの細胞における15-kbの染色体欠失の誘発を検出した。
【
図5a】
図5は、マウスにおけるRGEN誘導性Foxn1遺伝子ターゲティングを示す。(a)マウスFoxn1遺伝子のエクソン2に特異的なsgRNAを表す模式図。エクソン2のPAMは赤で示され、エクソン2に相補的なsgRNA中の配列には下線が引かれている。三角形は切断部位を示す。
【
図5b】
図5は、マウスにおけるRGEN誘導性Foxn1遺伝子ターゲティングを示す。(b)細胞質内注入によって1細胞期のマウス胚に送達されたCas9 mRNAとFoxn1特異的sgRNAの遺伝子ターゲティング効率を示す代表的なT7E1アッセイ。数字は、最高用量から生じた独立のファウンダーマウスを示す。矢印は、T7E1によって切断されたバンドを示す。
【
図5c】
図5は、マウスにおけるRGEN誘導性Foxn1遺伝子ターゲティングを示す。(c)bで同定された3つのFoxn1突然変異体ファウンダーで観察された変異対立遺伝子のDNA配列。発生回数は括弧内に示される。
【
図5d】
図5は、マウスにおけるRGEN誘導性Foxn1遺伝子ターゲティングを示す。(d)Foxn1ファウンダー#108と野生型FVB/NTacとの交配から生じるF1子孫のPCR遺伝子型決定。子孫においてFoxn1ファウンダー#108で見出された変異対立遺伝子の分離を認める。
【
図6】
図6は、Cas9 mRNAおよびFoxn1-sgRNAの細胞質内注入による、マウス胚におけるFoxn1遺伝子ターゲティングを示す。(a)最高用量を注入した後の、突然変異率を測定するT7E1アッセイの代表的結果。矢印は、T7E1によって切断されたバンドを示す。(b)T7E1アッセイ結果の要約。示されたRGEN用量の細胞質内注入後に得られたin vitro培養胚の間の突然変異率を示す。(c)T7E1陽性突然変異胚のサブセットから同定されたFoxn1変異対立遺伝子のDNA配列。野生型対立遺伝子の標的配列は、囲みで示される。
【
図7a】
図7は、組換えCas9タンパク質:Foxn1-sgRNA複合体を用いた、マウス胚におけるFoxn1遺伝子ターゲティングを示す。(a)および(b)は、代表的なT7E1アッセイ結果およびそれらの要約である。前核注入(a)または細胞質内注入(b)を受けた後、胚はin vitro培養された。赤い数字は、T7E1陽性突然変異ファウンダーマウスを示す。
【
図7b】
図7は、組換えCas9タンパク質:Foxn1-sgRNA複合体を用いた、マウス胚におけるFoxn1遺伝子ターゲティングを示す。(a)および(b)は、代表的なT7E1アッセイ結果およびそれらの要約である。前核注入(a)または細胞質内注入(b)を受けた後、胚はin vitro培養された。赤い数字は、T7E1陽性突然変異ファウンダーマウスを示す。
【
図7c】
図7は、組換えCas9タンパク質:Foxn1-sgRNA複合体を用いた、マウス胚におけるFoxn1遺伝子ターゲティングを示す。(c)組換えCas9タンパク質:Foxn1-sgRNA複合体の最高用量での前核注入によって得られ、in vitro培養された胚から同定された、Foxn1変異対立遺伝子のDNA配列。野生型対立遺伝子の標的配列は、囲みで示される。
【
図8】
図8は、Foxn1突然変異体ファウンダー#12に見られる変異対立遺伝子の生殖細胞系列伝達を示す。(a)fPCR分析。(b)野生型FVB/NTac、ファウンダーマウス、およびそれらのF1子孫のPCR遺伝子型決定。
【
図9】
図9は、Prkdc突然変異ファウンダーの交配によって生じた胚の遺伝子型を示す。Prkdc突然変異ファウンダー♂25と♀15とを交配し、E13.5胚を摘出した。(a)野生型、ファウンダー♂25、およびファウンダー♀15のfPCR分析。注意すべきことは、fPCR分析の技術的限界のため、これらの結果が、変異対立遺伝子の正確な配列とのわずかな違いを示したことである;例えば、配列分析からは、ファウンダー♂25および♀15において、それぞれ、Δ269/Δ61/WTおよびΔ5+1/+7/+12/WTが同定された。(b)生じた胚の遺伝子型。
【
図10a】
図10は、Cas9タンパク質/sgRNA複合体誘発性の標的化突然変異を示す。
【
図10b】
図10は、Cas9タンパク質/sgRNA複合体誘発性の標的化突然変異を示す。
【
図10c】
図10は、Cas9タンパク質/sgRNA複合体誘発性の標的化突然変異を示す。
【
図10d】
図10は、Cas9タンパク質/sgRNA複合体誘発性の標的化突然変異を示す。
【
図10e】
図10は、Cas9タンパク質/sgRNA複合体誘発性の標的化突然変異を示す。
【
図11】
図11は、シロイヌナズナ(Arabidopsis)プロトプラストにおける組換えCas9タンパク質誘発性突然変異を示す。
【
図12】
図12は、シロイヌナズナ(Arabidopsis)BRI1遺伝子における、組換えCas9タンパク質誘発性突然変異配列を示す。
【
図13】
図13は、Cas9-mal-9R4LおよびsgRNA/C9R4LC複合体の処理による293細胞中の内在性CCR5遺伝子の破壊を示している、T7E1アッセイを示す。
【
図14a】
図14(a, b)は、Fuら(2013)に報告されたRGENのオンターゲット部位およびオフターゲット部位での突然変異頻度を示す。(R)20μgのCas9をコードするプラスミドならびに、それぞれ60μgおよび120μgのin vitro転写されたGX19 crRNAおよびtracrRNAを連続的にトランスフェクトした(1×10
6細胞)、または(D)1μgのCas9をコードするプラスミドおよび1μgのGX
19 sgRNA発現プラスミドを同時トランスフェクトした(2×10
5細胞)K562細胞由来のゲノムDNAを分析したT7E1アッセイ。
【
図14b】
図14(a, b)は、Fuら(2013)に報告されたRGENのオンターゲット部位およびオフターゲット部位での突然変異頻度を示す。(R)20μgのCas9をコードするプラスミドならびに、それぞれ60μgおよび120μgのin vitro転写されたGX19 crRNAおよびtracrRNAを連続的にトランスフェクトした(1×10
6細胞)、または(D)1μgのCas9をコードするプラスミドおよび1μgのGX
19 sgRNA発現プラスミドを同時トランスフェクトした(2×10
5細胞)K562細胞由来のゲノムDNAを分析したT7E1アッセイ。
【
図15a】
図15(a, b)は、ガイドRNA構造の比較を示す。Fuら(2013)に報告されたRGENの突然変異頻度を、T7E1アッセイを用いてオンターゲット部位およびオフターゲット部位で測定した。Cas9をコードするプラスミドおよびGX19 sgRNAまたはGGX20 sgRNAをコードしているプラスミドを、K562細胞に同時トランスフェクトした。オフターゲット部位(OT1-3など)は、Fuら(2013)に記載されるように標識される。
【
図15b】
図15(a, b)は、ガイドRNA構造の比較を示す。Fuら(2013)に報告されたRGENの突然変異頻度を、T7E1アッセイを用いてオンターゲット部位およびオフターゲット部位で測定した。Cas9をコードするプラスミドおよびGX19 sgRNAまたはGGX20 sgRNAをコードしているプラスミドを、K562細胞に同時トランスフェクトした。オフターゲット部位(OT1-3など)は、Fuら(2013)に記載されるように標識される。
【
図16a】
図16は、Cas9ニッカーゼによるin vitroDNA切断を示す。(a)Cas9ヌクレアーゼおよびペアードCas9ニッカーゼの概略図。PAM配列および切断部位は、囲みで示される。
【
図16b】
図16は、Cas9ニッカーゼによるin vitroDNA切断を示す。(b)ヒトAAVS1遺伝子座の中の標的部位。それぞれの標的部位の位置は、三角形で示される。
【
図16c】
図16は、Cas9ニッカーゼによるin vitroDNA切断を示す。(c)DNA切断反応の概略図。FAM色素(囲みで示される)は、DNA基質の両方の5’末端に結合された。
【
図16d】
図16は、Cas9ニッカーゼによるin vitroDNA切断を示す。(d)蛍光キャピラリー電気泳動を用いて分析されたDSBおよびSSB。蛍光標識されたDNA基質を、電気泳動前にCas9ヌクレアーゼまたはニッカーゼとともにインキュベートした。
【
図17a】
図17は、Cas9ヌクレアーゼおよびニッカーゼの挙動の比較を示す。(a)Cas9ヌクレアーゼ(WT)、ニッカーゼ(D10A)、およびペアードニッカーゼと関連したオンターゲット突然変異頻度。5'突出部または3'突出部を生じるであろうペアードニッカーゼが示される。
【
図17b】
図17は、Cas9ヌクレアーゼおよびニッカーゼの挙動の比較を示す。(b)Cas9ヌクレアーゼおよびペアードニッカーゼのオフターゲット作用の分析。3つのsgRNAに対する合計7つの潜在的なオフターゲット部位が分析された。
【
図18a】
図18は、他の内在性ヒト遺伝子座で試験されたペアードCas9ニッカーゼを示す。(a)ヒトCCR5およびBRCA2遺伝子座でのsgRNA標的部位。PAM配列は赤で示される。
【
図18b】
図18は、他の内在性ヒト遺伝子座で試験されたペアードCas9ニッカーゼを示す。(b)それぞれの標的部位でのゲノム編集活性は、T7E1アッセイによって検出された。5'突出部を生じるであろう2つのニックの修復は、3'突出部を生じるものよりはるかに高頻度でindelの形成を引き起こした。
【
図18c】
図18は、他の内在性ヒト遺伝子座で試験されたペアードCas9ニッカーゼを示す。(c)ヒトCCR5およびBRCA2遺伝子座でのsgRNA標的部位。PAM配列は赤で示される。
【
図18d】
図18は、他の内在性ヒト遺伝子座で試験されたペアードCas9ニッカーゼを示す。(d)それぞれの標的部位でのゲノム編集活性は、T7E1アッセイによって検出された。5'突出部を生じるであろう2つのニックの修復は、3'突出部を生じるものよりはるかに高頻度でindelの形成を引き起こした。
【
図19】
図19は、ペアードCas9ニッカーゼが相同組換えを仲介することを示す。(a)相同組換えを検出する方法。ドナーDNA は、2つのホモロジーアームの間にXbaI制限酵素部位を含み、内在性の標的部位はこの部位を欠いていた。PCRアッセイを用いて、相同組換えをした配列を検出した。混入しているドナーDNAの増幅を防ぐため、ゲノムDNAに特異的なプライマーを用いた。(b)相同組換えの効率。相同組換えが起こった領域のアンプリコンのみが、XbaIによって消化され;切断バンドの強度を用いて、この方法の効率を測定した。
【
図20a】
図20は、ペアードCas9ニッカーゼによって誘発されるDNAスプライシングを示す。(a)ヒトAAVS1遺伝子座におけるペアードニッカーゼの標的部位。AS2部位と他の部位のそれぞれとの間の距離が示される。矢印はPCRプライマーを示す。
【
図20b】
図20は、ペアードCas9ニッカーゼによって誘発されるDNAスプライシングを示す。(b)PCRを用いて検出されるゲノム欠失。アスタリスクは、欠失特異的PCR産物を示す。
【
図20c】
図20は、ペアードCas9ニッカーゼによって誘発されるDNAスプライシングを示す。(c)AS2およびL1 sgRNAを用いて得られた欠失特異的PCR産物のDNA配列。標的部位PAM配列は囲みで示され、sgRNA対応配列は大文字で示される。完全なsgRNA対応配列には下線が引かれている。
【
図20d】
図20は、ペアードCas9ニッカーゼによって誘発されるDNAスプライシングを示す。(d)ペアードCas9ニッカーゼ仲介性の染色体欠失の図式モデル。新たに合成されるDNA鎖は、囲みで示される。
【
図21a】
図21は、ペアードCas9ニッカーゼが転座を引き起こさないことを示す。(a)オンターゲット部位とオフターゲット部位との間の染色体転座の概略図。
【
図21b】
図21は、ペアードCas9ニッカーゼが転座を引き起こさないことを示す。(b)染色体転座を検出するためのPCR増幅。
【
図21c】
図21は、ペアードCas9ニッカーゼが転座を引き起こさないことを示す。(c)転座はCas9ヌクレアーゼによって引き起こされるが、ニッカーゼペアによっては引き起こされない。
【
図22a】
図22は、T7E1アッセイおよびRFLPアッセイの概念図を示す。(a)2倍体細胞での人工ヌクレアーゼ処理後の、4つの起こりうる状況:(A)野生型、(B)単一対立遺伝子の突然変異、(C)異なる二対立遺伝子の突然変異(ヘテロ)、および(D)同一の二対立遺伝子の突然変異(ホモ)におけるアッセイ切断反応の比較。黒線は、各対立遺伝子に由来するPCR産物を表し;破線および点描の囲みは、NHEJによって生じた挿入/欠失突然変異を示す。
【
図22b】
図22は、T7E1アッセイおよびRFLPアッセイの概念図を示す。(b)電気泳動によって分離されるT7E1消化およびRGEN消化の予想される結果。
【
図23】
図23は、indelを有するC4BPB標的部位を含む線状化プラスミドのin vitro切断アッセイを示す。個々のプラスミド基質のDNA配列(上段)。PAM配列には下線が引かれている。挿入塩基は囲みで示される。矢印(下段)は、野生型特異的RGENによて切断された電気泳動後のDNAバンドの予想される位置を示す。
【
図24】
図24は、RGEN仲介性RFLPを用いた、人工ヌクレアーゼによって細胞に誘発された突然変異の遺伝子型決定を示す。(a)C4BPB突然変異K562細胞クローンの遺伝子型。(b)ミスマッチ感受性T7E1アッセイのRGEN仲介性RFLP分析との比較。黒い矢印は、T7E1酵素またはRGENの処理による切断生成物を示す。
【
図25a】
図25は、RGEN-RFLP法を用いたRGEN誘発性突然変異の遺伝子型決定を示す。(a)RGEN-RFLPおよびT7E1アッセイを用いたC4BPB破壊クローンの分析。矢印は、RGENまたはT7E1によって切断されたDNAバンドの予想される位置を示す。
【
図25b】
図25は、RGEN-RFLP法を用いたRGEN誘発性突然変異の遺伝子型決定を示す。(b)RGEN-RFLP分析のT7E1アッセイとの定量的比較。野生型およびC4BPB破壊K562細胞由来のゲノムDNAサンプルを様々な比率で混合し、PCR増幅を行った。
【
図25c】
図25は、RGEN-RFLP法を用いたRGEN誘発性突然変異の遺伝子型決定を示す。(c)RFLPおよびT7E1分析を用いた、HeLa細胞のHLA-B遺伝子におけるRGEN誘発性突然変異の遺伝子型決定。
【
図26a】
図26は、RGEN仲介性RFLPを用いた、人工ヌクレアーゼによって生物に誘発された突然変異の遺伝子型決定を示す。(a)Pibf1突然変異ファウンダーマウスの遺伝子型。
【
図26b】
図26は、RGEN仲介性RFLPを用いた、人工ヌクレアーゼによって生物に誘発された突然変異の遺伝子型決定を示す。(b)ミスマッチ感受性T7E1アッセイのRGEN仲介性RFLP分析との比較。黒い矢印は、T7E1酵素またはRGENの処理による切断生成物を示す。
【
図27】
図27は、ZFN誘発性突然変異のRGEN仲介性遺伝子型決定を示す。ZFN標的部位は囲みで示される。黒い矢印は、T7E1によって切断されるDNAバンドを示す。
【
図28】
図28は、ヒトHLA-B遺伝子の領域内の多型部位を示す。RGEN標的部位の周りを囲む配列は、HeLa細胞からのPCRアンプリコンのものである。多型の位置は囲みで示される。RGEN標的部位およびPAM配列は、それぞれ、破線の囲みおよび太線の囲みで示される。プライマー配列には下線が引かれている。
【
図29】
図29は、RGEN-RFLP分析を用いた、発がん突然変異の遺伝子型決定を示す。(a)HCT116細胞のヒトCTNNB1遺伝子における反復突然変異(TCTのc.133-135欠失)がRGENによって検出された。HeLa細胞は陰性対照として用いられた。(b)ミスマッチガイドRNAを含むRGENを用いた、A549癌細胞株のKRAS置換突然変異(c.34 G>A)の遺伝子型決定。ミスマッチヌクレオチドは囲みで示される。HeLa細胞は陰性対照として用いられた。矢印は、RGENによって切断されたDNAバンドを示す。サンガー配列決定法によって確認されたDNA配列を示す。
【
図30a】
図30は、RGEN-RFLP 分析を用いた、HEK293T細胞のCCR5 delta32対立遺伝子の遺伝子型決定を示す。(a)細胞株のRGEN-RFLPアッセイ。K562、SKBR3、およびHeLa細胞は、野生型対照として用いられた。矢印は、RGENによって切断されたDNAバンドを示す。
【
図30b】
図30は、RGEN-RFLP 分析を用いた、HEK293T細胞のCCR5 delta32対立遺伝子の遺伝子型決定を示す。(b)野生型およびdelta32 CCR5対立遺伝子のDNA配列。RFLP分析に用いられるRGENのオンターゲット部位およびオフターゲット部位の両方には、下線が引かれている。2つの部位の間の単一ヌクレオチドミスマッチは、囲みで示される。PAM配列には下線が引かれている。
【
図30c】
図30は、RGEN-RFLP 分析を用いた、HEK293T細胞のCCR5 delta32対立遺伝子の遺伝子型決定を示す。(c)野生型特異的RGENを用いた、WTまたはdel32 CCR5対立遺伝子を含むプラスミドのin vitro切断。
【
図30d】
図30は、RGEN-RFLP 分析を用いた、HEK293T細胞のCCR5 delta32対立遺伝子の遺伝子型決定を示す。(d)CCR5遺伝子座でのCCR5-delta32特異的RGENのオフターゲット部位の存在の確認。様々な量のdel32特異的RGENを用いた、オンターゲット配列またはオフターゲット配列を含むプラスミドのin vitro切断アッセイ。
【
図31a】
図31は、KRAS点突然変異(c.34 G>A)の遺伝子型決定を示す。(a)癌細胞株のKRAS突然変異(c.34 G>A)のRGEN-RFLP分析。HeLa細胞(野生型対照として用いられる)またはA549細胞(点突然変異についてホモ接合性である)由来のPCR産物を、野生型配列または突然変異配列に特異的な完全に一致したcrRNAを用いたRGENによって消化した。これらの細胞におけるKRAS遺伝子型は、サンガー配列決定法によって確認された。
【
図31b】
図31は、KRAS点突然変異(c.34 G>A)の遺伝子型決定を示す。(b)野生型または突然変異KRAS配列のいずれかを含むプラスミドを、完全に一致したcrRNAまたは弱められた一塩基ミスマッチcrRNAを用いたRGENによって消化した。遺伝子型決定のために選択された弱められたcrRNAは、ゲルの上部に囲みで表示される。
【
図32a】
図32は、PIK3CA点突然変異(c.3140 A>G)の遺伝子型決定を示す。(a)癌細胞株のPIK3CA突然変異(c.3140 A>G)のRGEN-RFLP分析。HeLa細胞(野生型対照として用いられる)またはHCT116細胞(点突然変異についてヘテロ接合性である)由来のPCR産物を、野生型配列または突然変異配列に特異的な完全に一致したcrRNAを用いたRGENによって消化した。これらの細胞におけるPIK3CA遺伝子型は、サンガー配列決定法によって確認された。
【
図32b】
図32は、PIK3CA点突然変異(c.3140 A>G)の遺伝子型決定を示す。(b)野生型または突然変異PIK3CA配列のいずれかを含むプラスミドを、完全に一致したcrRNAまたは弱められた一塩基ミスマッチcrRNAを用いたRGENによって消化した。遺伝子型決定のために選択された弱められたcrRNAは、ゲルの上部に囲みで表示される。
【
図33a】
図33は、癌細胞株における反復点突然変異の遺伝子型決定を示す。(a)IDH遺伝子(c.394c>T)における反復発がん点突然変異のRGEN-RFLPアッセイ。サンガー配列決定法によって確認されたそれぞれの細胞株の遺伝子型が示される。ミスマッチヌクレオチドは囲みで示される。黒い矢印は、RGENによって切断されたDNAバンドを示す。
【
図33b】
図33は、癌細胞株における反復点突然変異の遺伝子型決定を示す。(b)PIK3CA遺伝子(c.3140A>G)における反復発がん点突然変異のRGEN-RFLPアッセイ。サンガー配列決定法によって確認されたそれぞれの細胞株の遺伝子型が示される。ミスマッチヌクレオチドは囲みで示される。黒い矢印は、RGENによって切断されたDNAバンドを示す。
【
図33c】
図33は、癌細胞株における反復点突然変異の遺伝子型決定を示す。(c)NRAS遺伝子(c.181C>A)における反復発がん点突然変異のRGEN-RFLPアッセイ。サンガー配列決定法によって確認されたそれぞれの細胞株の遺伝子型が示される。ミスマッチヌクレオチドは囲みで示される。黒い矢印は、RGENによって切断されたDNAバンドを示す。
【
図33d】
図33は、癌細胞株における反復点突然変異の遺伝子型決定を示す。(d)BRAF遺伝子(c.1799T>A)における反復発がん点突然変異のRGEN-RFLPアッセイ。サンガー配列決定法によって確認されたそれぞれの細胞株の遺伝子型が示される。ミスマッチヌクレオチドは囲みで示される。黒い矢印は、RGENによって切断されたDNAバンドを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の1つの態様に従って、本発明は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物中の標的DNAを切断するための組成物を提供する。加えて、本発明は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物中の標的DNAを切断するための組成物の使用を提供する。
本発明では、組成物はまた、RNA誘導型エンドヌクレアーゼ(RGEN)組成物とも呼ばれる。
【0024】
ZFNおよびTALENは、哺乳類細胞、モデル生物、植物、および家畜類において標的化突然変異生成を可能にするが、個々のヌクレアーゼによって得られる突然変異頻度は、それぞれ大きく異なる。更に、いくつかのZFNおよびTALENは、ゲノム編集活性を示すことができない。DNAのメチル化は、これらの人工ヌクレアーゼの標的部位への結合を制限しうる。加えて、カスタム化ヌクレアーゼを作製することは、技術的に困難であり、時間がかかる。
本発明者らは、Casタンパク質に基づく新たなRNA誘導型エンドヌクレアーゼ組成物を開発することによって、ZFNおよびTALENの欠点を克服した。
【0025】
本発明より前に、Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性は知られていた。しかし、真核生物のゲノムの複雑さのため、Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性が真核細胞中で機能するかどうかは知られていなかった。更に、これまで、Casタンパク質またはCasタンパク質コード核酸および標的DNAに特異的なガイドRNAを含有する、真核細胞または真核生物中の標的DNAを切断するための組成物は、開発されていなかった。
【0026】
ZFNおよびTALENと比較して、Casタンパク質に基づく本RGEN組成物は、合成ガイドRNA成分が置き換えられるだけで新たなゲノム編集ヌクレアーゼを作製できるため、より容易にカスタム化され得る。サブクローニングステップは、カスタム化RNA誘導型エンドヌクレアーゼの作製に含まれない。更に、一対のTALEN遺伝子(~6 kbp)と比較して、比較的小さいサイズのCas遺伝子(例えば、Cas9では4.2 kbp)は、ウイルス媒介性遺伝子送達などのいくつかの適用において、このRNA誘導型エンドヌクレアーゼ組成物に利点をもたらす。更に、このRNA誘導型エンドヌクレアーゼは、オフターゲット作用を持たないため、望ましくない突然変異、欠失、逆位、および重複を引き起こさない。これらの特性は、本RNA誘導型エンドヌクレアーゼ組成物を、真核細胞および真核生物におけるゲノム工学のための拡張性のある、汎用的で便利なツールにする。加えて、RGENは、任意のDNA配列を標的とするように設計することができ、ほぼすべての一塩基多型または小さな挿入/欠失(indel)が、RGEN仲介性RFLPによって分析され得る。RGENの特異性は、最大20塩基対(bp)までの長さの標的DNA配列とハイブリダイズするRNA成分およびプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識するCas9タンパク質によって決定される。RGENは、RNA成分を置き換えることによって容易に再プログラム化される。従って、RGENは、様々な配列変異に対して簡単で確実なRFLP分析を使用するための基盤をもたらす。
【0027】
標的DNAは、内在性DNA、または人工DNA、好ましくは内在性DNAでありうる。
本明細書において用いられる場合、「Casタンパク質」という用語は、CRISPR/Casシステムにおいて必須のタンパク質成分を指し、CRISPR RNA(crRNA)およびトランス活性化crRNA(tracrRNA)と呼ばれる2つのRNAと複合体を形成した場合に、活性を有するエンドヌクレアーゼまたはニッカーゼを形成する。
Casの遺伝子およびタンパク質に関する情報は、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information, NCBI)のGenBankから、制限なく利用できる。
【0028】
Casタンパク質をコードするCRISPR関連(cas)遺伝子はしばしば、CRISPRリピート-スペーサーアレイに関連付けられる。40を超える異なるCasタンパク質ファミリーが記載されている。これらのタンパク質ファミリーのうち、Cas1は、様々なCRISPR/Casシステムに共通して遍在していると思われる。3種類のCRISPR-Casシステムが存在する。それらのうち、Cas9タンパク質ならびにcrRNAおよびtracrRNAを含むタイプIICRISPR/Casシステムは、代表的であり、よく知られている。cas遺伝子とリピート構造の特定の組合せを用いて、8つのCRISPRサブタイプが定義されている(Ecoli、Ypest、Nmeni、Dvulg、Tneap、Hmari、Apern、およびMtube)。
【0029】
Casタンパク質は、タンパク質形質導入ドメインに結合されうる。タンパク質形質導入ドメインは、ポリアルギニンまたはHIVに由来するTATタンパク質でありうるが、それに限定されない。
本組成物は、タンパク質の形態で、またはCasタンパク質をコードする核酸の形態で、Cas成分を含有しうる。
本発明では、Casタンパク質は、ガイドRNAと複合体を形成した際、それがエンドヌクレアーゼ活性またはニッカーゼ活性を有する限り、任意のCasタンパク質でありうる。
好ましくは、Casタンパク質は、Cas9タンパク質またはその変異型である。
Cas9タンパク質の変異型は、その中の触媒アスパラギン酸残基が他の任意のアミノ酸に変更されたCas9の突然変異型でありうる。好ましくは、他のアミノ酸はアラニンでありうるが、それに限定されない。
【0030】
更に、Casタンパク質は、ストレプトコッカス属菌(Streptococcus sp.)、好ましくは化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogens)などの生物から単離されたもの、または組換えタンパク質でありうるが、それらに限定されない。
化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogens)に由来するCasタンパク質は、NGGトリヌクレオチドを認識しうる。Casタンパク質は、配列番号109のアミノ酸配列を含みうるが、それに限定されない。
【0031】
「組換え」という用語は、例えば、細胞、核酸、タンパク質、またはベクターに関して用いられる場合、細胞、核酸、タンパク質またはベクターが、異種核酸もしくはタンパク質の導入によって、または天然の核酸もしくはタンパク質の変更によって改変されていること、あるいは細胞がそのように改変された細胞に由来することを示す。従って、例えば、組換えCasタンパク質は、ヒトコドン表を用いてCasタンパク質コード配列を再構成することによって生成されうる。
【0032】
本発明において、Casタンパク質コード核酸は、CMVまたはCAGなどのプロモーターの制御下にCasコード配列を含むプラスミドなどのベクターの形態でありうる。Casタンパク質がCas9である場合、Cas9コード配列は、ストレプトコッカス属菌(Streptococcus sp.)に由来し、好ましくは化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogens)に由来しうる。例えば、Cas9コード核酸は、配列番号1のヌクレオチド配列を含みうる。更に、Cas9コード核酸は、配列番号1の配列に少なくとも50%、好ましくは配列番号1に少なくとも60、70、80、90、95、97、98、または99%の相同性を有するヌクレオチド配列を含みうるが、それに限定されない。Cas9コード核酸は、配列番号108、110、106、または107のヌクレオチド配列を含みうる。
【0033】
本明細書において用いられる場合、「ガイドRNA」という用語は、標的DNAに特異的であり、Casタンパク質と複合体を形成して、Casタンパク質を標的DNAに持ってくることができるRNAを指す。
本発明では、ガイドRNAは、2つのRNA、すなわち、CRISPR RNA(crRNA)およびトランス活性化crRNA(tracrRNA)で構成され、またはcrRNAおよびtracrRNAの必須部分の融合によって作製される一本鎖RNA(sgRNA)でありうる。
ガイドRNAは、crRNAおよびtracrRNAを含むデュアルRNAでありうる。
ガイドRNAがcrRNAおよびtracrRNAの必須部分ならびに標的と相補的な部分を含むならば、任意のガイドRNAが本発明において使用されうる。
【0034】
crRNAは、標的DNAにハイブリダイズしうる。
RGENは、Casタンパク質およびデュアルRNA(不変のtracrRNAおよび標的特異的crRNA)、またはCasタンパク質およびsgRNA(不変のtracrRNAおよび標的特異的crRNAの必須部分の融合)で構成され、crRNAの置き換えによって容易に再プログラム化されうる。
ガイドRNAは、更に、一本鎖ガイドRNAまたはデュアルRNAのcrRNAの5'末端に1つ以上の付加的なヌクレオチドを含む。
好ましくは、ガイドRNAは、更に、一本鎖ガイドRNAまたはデュアルRNAのcrRNAの5'末端に2つの付加的なグアニンヌクレオチドを含む。
【0035】
ガイドRNAは、RNAまたはガイドRNAをコードするDNAの形態で、細胞または生物に移入されうる。ガイドRNAは、単離されたRNA、ウイルスベクター内に組み込まれたRNAの形であってもよく、またはベクターにコードされる。好ましくは、ベクターは、ウイルスベクター、プラスミドベクター、またはアグロバクテリウムベクターでありうるが、それらに限定されない。
ガイドRNAをコードするDNAは、ガイドRNAをコードする配列を含むベクターでありうる。例えば、ガイドRNAは、単離されたガイドRNA、もしくはガイドRNAおよびプロモーターをコードする配列を含むプラスミドDNAを細胞または生物にトランスフェクトすることによって、細胞または生物に移入されうる。
あるいは、ガイドRNAは、ウイルス媒介性遺伝子送達を用いて、細胞または生物に移入されうる。
【0036】
ガイドRNAが単離RNAの形態で細胞または生物にトランスフェクトされる場合、ガイドRNAは、当技術分野において既知の任意のin vitro転写系を用いたin vitroでの転写によって調製されうる。ガイドRNAは、好ましくは、ガイドRNAのコード配列を含むプラスミドの形態よりもむしろ、単離RNAの形態で細胞に移入される。本明細書において用いられる場合、「単離RNA」という用語は、「裸のRNA」と置き換え可能でありうる。これは、クローニングのステップを必要としないため、コストと時間の節約になる。しかし、ガイドRNAのトランスフェクションのためのプラスミドDNAの使用またはウイルス媒介性遺伝子送達は、排除されない。
【0037】
Casタンパク質またはCasタンパク質コード核酸およびガイドRNAを含有する本RGEN組成物は、標的に対するガイドRNAの特異性およびCasタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性またはニッカーゼ活性のため、標的DNAを特異的に切断し得る。
本明細書において用いられる場合、「切断」という用語は、ヌクレオチド分子の共有結合骨格の切断を指す。
本発明では、ガイドRNAは、切断されるべき任意の標的に特異的であるように調製されうる。従って、本RGEN組成物は、ガイドRNAの標的特異的部分を操作または遺伝子型決定することによって、任意の標的DNAを切断し得る。
【0038】
ガイドRNAおよびCasタンパク質は、ペアとして機能しうる。本明細書において用いられる場合、「ペアードCasニッカーゼ」という用語は、ペアとして機能するガイドRNAおよびCasタンパク質を指しうる。ペアは2つのガイドRNAを含む。ガイドRNAおよびCasタンパク質はペアとして機能し、異なるDNA鎖上に2つのニックを生じさせる。2つのニックは、少なくとも100bp離れていてもよいが、それに限定されない。
実施例において、本発明者らは、ペアードCasニッカーゼがヒト細胞において標的化突然変異生成および最大1-kbpまでの染色体セグメントの大きな欠失を可能にすることを確認した。重要なことに、ペアードニッカーゼは、それらの対応するヌクレアーゼが突然変異を誘発するオフターゲット部位でindelを引き起こさなかった。更に、ヌクレアーゼとは異なり、ペアードニッカーゼは、オフターゲットDNA切断に関連した望ましくない転座を促進しなかった。原理上、ペアードニッカーゼは、Cas9仲介性突然変異生成の特異性を2倍にし、遺伝子治療および細胞療法など、正確なゲノム編集を必要とする用途において、RNA誘導型酵素の有用性を拡大する。
【0039】
本発明では、組成物は、in vitroでの真核細胞または真核生物のゲノムの遺伝子型決定に使用されうる。
1つの特定の実施形態では、ガイドRNAは、配列番号1のヌクレオチド配列を含みうるが、そのヌクレオチド位置3~22の部分は標的特異的部分であり、従ってこの部分の配列は標的に応じて変化しうる。
本明細書において用いられる場合、真核細胞または真核生物は、当技術分野において一般的に用いられる、酵母、真菌類、原生生物、植物、高等植物、ならびに昆虫、または両生類細胞、またはCHO、HeLa、HEK293、およびCOS-1などの哺乳類細胞、例えば、培養細胞(in vitro)、移植細胞および初代培養細胞(in vitroおよびex vivo)、およびin vivo細胞、ならびにヒトなどの哺乳類細胞でもありうるが、それらに限定されない。
【0040】
1つの特定の実施形態では、Cas9タンパク質/一本鎖ガイドRNAは、in vitroおよび哺乳類細胞内で部位特異的DNA二本鎖切断を生じることができ、その自発的修復が、高頻度で標的化ゲノム突然変異を誘発することが見出された。
更に、Cas9タンパク質/ガイドRNA複合体またはCas9 mRNA/ガイドRNAの1細胞期胚への注入によって、遺伝子ノックアウトマウスが誘導され得ること、および生殖細胞系列に伝達可能な突然変異がCas9/ガイドRNAシステムによって生じ得ることが見出された。
Casタンパク質をコードする核酸よりもむしろCasタンパク質を用いて、標的化突然変異生成を誘発することは、外来性DNAが生物内に導入されないため、有利である。従って、Casタンパク質およびガイドRNAを含有する組成物は、治療薬または付加価値のある農作物、家畜、家禽、魚、ペットなどの開発に使用されうる。
【0041】
本発明の他の態様において、本発明は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物において標的化突然変異生成を誘発するための組成物を提供する。加えて、本発明は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物において標的化突然変異生成を誘発するための組成物の使用を提供する。
ガイドRNA、Casタンパク質コード核酸またはCasタンパク質は、上記に記載された通りである。
【0042】
本発明の他の態様において、本発明は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する、真核細胞または真核生物において標的DNAを切断するためのキット、あるいは真核細胞または真核生物において標的化突然変異生成を誘発するためのキットを提供する。
ガイドRNA、Casタンパク質コード核酸またはCasタンパク質は、上記に記載された通りである。
キットは、ガイドRNAおよびCasタンパク質コード核酸またはCasタンパク質を、個別の成分としてもしくは1つの組成物として含みうる。
本キットは、ガイドRNAおよびCas成分を細胞または生物に移入させるために必要な、いくつかの更なる成分を含みうる。例えば、キットは、DEPC処理注入バッファーのような注入バッファー、および標的DNAの突然変異の分析に必要な物質を含みうるが、それらに限定されない。
【0043】
他の態様において、本発明は、真核細胞または真核生物にCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質、およびガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNAを同時トランスフェクトまたは連続トランスフェクトするステップを含む、Casタンパク質ならびにガイドRNAを有する真核細胞あるいは真核生物を作製する方法を提供する。
ガイドRNA、Casタンパク質コード核酸またはCasタンパク質は、上記に記載された通りである。
【0044】
本発明では、Casタンパク質コード核酸またはCasタンパク質、およびガイドRNAまたはガイドRNAをコードするDNAは、当技術分野において公知の様々な方法、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、DEAE-デキストラン処理、リポフェクション、ナノ粒子媒介性トランスフェクション、タンパク質形質導入ドメイン媒介性形質導入、ウイルス媒介性遺伝子送達、およびプロトプラストへのPEG媒介性トランスフェクションなどによって、細胞内に移入されうるが、これらに限定されない。また、Casタンパク質コード核酸またはCasタンパク質およびガイドRNAは、注入などの遺伝子もしくはタンパク質を投与するための、当技術分野において公知の様々な方法によって、生物内に移入されうる。Casタンパク質コード核酸またはCasタンパク質は、ガイドRNAとの複合体の形態で、もしくは別々に、細胞内に移入されうる。Tatなどのタンパク質形質導入ドメインと融合されたCasタンパク質もまた、細胞内に効率的に送達され得る。
好ましくは、真核細胞または真核生物は、Cas9タンパク質およびガイドRNAを同時トランスフェクトまたは連続トランスフェクトされる。
連続トランスフェクションは、最初にCasタンパク質コード核酸によるトランスフェクション、続いて裸のガイドRNAによる第二のトランスフェクションによって行われうる。好ましくは、第二のトランスフェクションは、3、6、12、18、24時間後であるが、それらに限定されない。
【0045】
他の態様において、本発明は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する真核細胞または真核生物を提供する。
真核細胞または真核生物は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する組成物を細胞もしくは生物内に移入することによって作製されうる。
真核細胞は、当技術分野において一般的に用いられる、酵母、真菌類、原生生物、高等植物、ならびに昆虫、または両生類細胞、またはCHO、HeLa、HEK293、およびCOS-1などの哺乳類細胞、例えば、培養細胞(in vitro)、移植細胞および初代培養細胞(in vitroおよびex vivo)、およびin vivo細胞、ならびにヒトなどの哺乳類細胞でもありうるが、それらに限定されない。更に、生物は、酵母、真菌類、原生生物、植物、高等植物、昆虫、両生類、または哺乳類でありうる。
【0046】
本発明の他の態様において、本発明は、真核細胞または真核生物において標的DNAを切断する方法あるいは標的化突然変異生成を誘発する方法を提供し、それは、標的DNAを有する細胞または生物を、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する組成物で処理するステップを含む。
細胞または生物を組成物で処理するステップは、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する本組成物を、細胞または生物内に移入することによって行われうる。
上記に記載されたように、このような移入は、マイクロインジェクション、トランスフェクション、エレクトロポレーションなどによって行われうる。
【0047】
本発明の他の態様において、本発明は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNA、およびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する本RGEN組成物によって編集されたゲノムを有する胚を提供する。
任意の胚が本発明において使用でき、本発明のために、胚はマウスの胚でありうる。胚は、PMSG(妊馬血清性ゴナドトロピン)およびhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を4~7週のメスのマウスに注射することによって産生され、過剰排卵したメスのマウスをオスと交配し、受精した胚を卵管から採取しうる。
胚に導入される本RGEN組成物は、Casタンパク質の作用によってガイドRNAと相補的な標的DNAを切断し、標的DNAに突然変異を引き起こすことができる。従って、本RGEN組成物が導入された胚は、編集されたゲノムを有する。
【0048】
1つの特定の実施形態では、本RGEN組成物はマウスの胚において突然変異を引き起こすことができ、この突然変異は子孫に伝達され得ることが見出された。
RGEN組成物を胚に導入する方法は、マイクロインジェクション、幹細胞挿入(stem cell insertion)、レトロウイルス挿入(retrovirus insertion)などの、当技術分野において公知の任意の方法でありうる。好ましくは、マイクロインジェクション法が使用され得る。
【0049】
他の態様において、本発明は、本RGEN組成物によって編集されたゲノムを有する胚を、動物の卵管に移入することによって得られるゲノム改変動物を提供する。
本発明において、「ゲノム改変動物」という用語は、そのゲノムが、胚の段階で本RGEN組成物によって改変された動物を指し、その動物の種類は限定されない。
ゲノム改変動物は、本RGEN組成物に基づく標的化突然変異生成によって生じる突然変異を有する。突然変異は、欠失、挿入、転座、逆位のうちの任意の1つでありうる。突然変異の部位は、RGEN組成物のガイドRNAの配列によって決まる。
遺伝子の突然変異を有するゲノム改変動物は、その遺伝子の機能を決定するために使用されうる。
【0050】
本発明の他の態様において、本発明は、標的DNAに特異的なガイドRNAもしくはガイドRNAをコードするDNAおよびCasタンパク質コード核酸もしくはCasタンパク質を含有する本RGEN組成物を、動物の胚に導入するステップ;ならびにその胚を偽妊娠した代理母の卵管に移入して、ゲノム改変動物を生じさせるステップを含む、ゲノム改変動物を作製する方法を提供する。
本RGEN組成物を導入するステップは、マイクロインジェクション、幹細胞挿入、レトロウイルス挿入などの、当技術分野において既知の任意の方法によって達成されうる。
【0051】
本発明の他の態様において、本発明は、RGEN組成物を含む真核細胞のための方法によって調製されたゲノム改変プロトプラストから再生された植物を提供する。
本発明の他の態様において、本発明は、標的DNA配列に特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質を含有する、単離された生体サンプル中の突然変異または多型を遺伝子型決定するための組成物を提供する。加えて、本発明は、標的DNA配列に特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質を含有する、単離された生体サンプル中の病原微生物の核酸配列を遺伝子型決定するための組成物を提供する。
ガイドRNA、Casタンパク質コード核酸またはCasタンパク質は、上記に記載された通りである。
【0052】
本明細書において用いられる場合、「遺伝子型決定」という用語は、「制限酵素断片長多型(RFLP)アッセイ」を指す。
RFLPは、1)人工ヌクレアーゼによって誘発された細胞もしくは生物におけるindelの検出、2)細胞もしくは生物における自然発生突然変異もしくは多型の遺伝子型決定、または3)ウイルスもしくは細菌などを含む感染した病原微生物のDNAの遺伝子型決定、に使用されうる。
突然変異または多型は、人工ヌクレアーゼによって細胞内に誘発されうる。
人工ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、またはRGENでありうるが、それらに限定されない。
本明細書において用いられる場合、「生体サンプル」という用語は、組織、細胞、全血、血清(semm)、血漿、唾液、痰、脳脊髄液(cerbrospinal fluid)または尿などの分析用サンプルを含むが、それらに限定されない。
【0053】
突然変異または多型は、自然発生突然変異または多型でありうる。
突然変異または多型は、病原微生物によって誘発される。すなわち、病原微生物が検出され、生体サンプルが感染したと確認される場合、突然変異または多型は、病原微生物の感染によって生じる。
病原微生物は、ウイルスまたは細菌でありうるが、それに限定されない。
【0054】
人工ヌクレアーゼ誘発性突然変異は、様々な方法によって検出され、それらは、ミスマッチ感受性のSurveyorまたはT7 エンドヌクレアーゼI(T7E1)アッセイ、RFLP分析、蛍光PCR、DNA融解分析、ならびにサンガー配列決定法およびディープシークエンシング(deep sequencing)を含む。T7E1およびSurveyorアッセイは広く用いられているが、これらのアッセイは(突然変異体配列と野生型配列または2つの異なる突然変異体配列のハイブリダイゼーションによって形成される)ヘテロ二本鎖を検出し;それらは、2つの同一の突然変異体配列のハイブリダイゼーションによって形成されるホモ二本鎖を検出できないため、しばしば突然変異頻度を過小評価する。従って、これらのアッセイは、ホモ接合性の二対立遺伝子の突然変異体クローンと野生型細胞とを区別できず、またヘテロ接合性の二対立遺伝子の突然変異体とヘテロ接合性の単一対立遺伝子の突然変異体とを区別することができない(
図22)。加えて、ヌクレアーゼ標的部位の近くの配列多型は、酵素がこれらの異なる野生型対立遺伝子のハイブリダイゼーションによって形成されるヘテロ二本鎖を切断できるため、交絡した結果を生じ得る。RFLP分析はこれらの制約がないため、好まれる方法である。実際、RFLP分析は、人工ヌクレアーゼ仲介性突然変異を検出するために用いられた最初の方法の1つであった。しかし残念なことに、それは適切な制限酵素認識部位の利用可能性によって制限される。
【0055】
本発明の他の態様において、本発明は、単離された生体サンプル中の突然変異または多型を遺伝子型決定するための組成物を含む、単離された生体サンプル中の突然変異または多型を遺伝子型決定するためのキットを提供する。加えて、本発明は、標的DNA配列に特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質を含む、単離された生体サンプル中の病原微生物の核酸配列を遺伝子型決定するためのキットを提供する。
ガイドRNA、Casタンパク質コード核酸またはCasタンパク質は、上記に記載された通りである。
【0056】
本発明の他の態様において、本発明は、単離された生体サンプル中の突然変異または多型を遺伝子型決定するための組成物を用いた、単離された生体サンプル中の突然変異または多型を遺伝子型決定する方法を提供する。加えて、本発明は、標的DNA配列に特異的なガイドRNAおよびCasタンパク質を含む、単離された生体サンプル中の病原微生物の核酸配列を遺伝子型決定する方法を提供する。
ガイドRNA、Casタンパク質コード核酸またはCasタンパク質は、上記に記載された通りである。
【0057】
(実施例)
下記において、本発明は、実施例を参照して更に詳細に記載される。しかし、これらの実施例は例示のみを目的とし、本発明は、これらの実施例によって限定されることを意図しない。
【実施例0058】
ゲノム編集アッセイ
1-1. Cas9タンパク質のDNA切断活性
初めに、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogens)に由来するCas9のDNA切断活性をin vitroでのキメラガイドRNA の存在下または非存在下で試験した。
この目的のために、E. coliで発現され、精製された組換えCas9タンパク質を用いて、23塩基対(bp)のヒトCCR5標的配列を含む前消化されたプラスミドDNAまたは環状プラスミドDNAを切断した。Cas9標的配列は、crRNAまたはキメラガイドRNAと相補的な20-bpのDNA配列およびCas9自身によって認識されるトリヌクレオチド(5’-NGG-3’) プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)で構成される(
図1a)。
【0059】
具体的には、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogens)株M1 GAS(NC_002737.1)に由来するCas9コード配列(4,104 bp)を、ヒトコドン使用表を用いて再構成し、オリゴヌクレオチドを用いて合成した。初めに、重複する~35-merオリゴヌクレオチドおよびPhusionポリメラーゼ(New England Biolabs)を用いて1-kb DNAセグメントを組み立て、T-ベクター(SolGent)にクローニングした。4つの1-kbp DNAセグメントを用いて、オーバーラップPCRによって、完全長Cas9配列を組み立てた。Cas9コードDNAセグメントを、pcDNA3.1(Invitrogen)に由来するp3sにサブクローニングした。このベクターにおいて、HAエピトープおよび核局在化シグナル(NLS)を含むペプチドタグ(NH2-GGSGPPKKKRKVYPYDVPDYA-COOH、配列番号2)を、Cas9のC末端に付加した。Cas9タンパク質のHEK 293T細胞における発現および核局在化を、抗HA抗体(Santa Cruz)を用いたウェスタンブロッティングによって確認した。
【0060】
その後、Cas9カセットをpET28-b(+)にサブクローニングして、BL21(DE3)に形質転換した。0.5 mM IPTGを用いて25℃で4時間、Cas9の発現を誘導した。C末端にHis6-タグを有するCas9タンパク質を、Ni-NTAアガロース樹脂(Qiagen)を用いて精製し、20 mM HEPES(pH 7.5)、150 mM KCl、1 mM DTT、および10%グリセロールに対して透析した(1)。精製したCas9(50 nM)を、スーパーコイルプラスミドDNAまたは前消化プラスミドDNA(300 ng)およびキメラRNA(50 nM)とともに、20μlの反応容量のNEBバッファー3中で、37℃で1時間インキュベートした。消化されたDNAを、0.8%アガロースゲルを用いた電気泳動によって分析した。
Cas9は、合成RNAの存在下でのみ、予想された位置で効率的にプラスミドDNAを切断し、標的配列のない対照プラスミドを切断しなかった(
図1b)。
【0061】
1-2. ヒト細胞でのCas9/ガイドRNA複合体によるDNA切断
RFP-GFPレポーターを用いて、Cas9/ガイドRNA複合体が哺乳類細胞においてRFPとGFP配列の間に組み込まれた標的配列を切断できるかどうかを調べた。
このレポーターでは、GFP配列は、フレームシフトしてRFP配列と融合している(2)。活性を有するGFPは、標的配列が部位特異的ヌクレアーゼによって切断され、エラーを起こしやすい二本鎖切断(DSB)の非相同末端結合(NHEJ)修復によって、標的配列付近にフレームシフトを起こす小さな挿入または欠失(indel)を生じた場合のみに発現する(
図2)。
【0062】
この研究に使用されるRFP-GFPレポータープラスミドは、以前に記載されたように構築された(2)。標的部位に対応するオリゴヌクレオチド(表1)を合成し(Macrogen)、アニールした。アニールしたオリゴヌクレオチドを、EcoRIおよびBamHIで消化したレポーターベクターにライゲーションした。
HEK 293T細胞に、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用い、24ウェルプレート中で、Cas9コードプラスミド(0.8μg)およびRFP-GFPレポータープラスミド(0.2μg)を同時トランスフェクトした。
【0063】
一方、in vitro転写されたキメラRNAは、下記のように調製した。MEGAshortscript T7キット(Ambion)を用い、メーカーの説明書に従ったラン・オフ反応によって、RNAをin vitro転写した。RNAのin vitro転写のための鋳型は、2つの相補的な一本鎖DNAのアニーリングによって、またはPCR増幅によって生成された(表1)。転写されたRNAを8%変性尿素-PAGEゲル上で分離した。RNAを含むゲル切片を切り出し、プローブ溶出バッファーに移した。RNAをヌクレアーゼを含まない水に回収し、続いてフェノール・クロロホルム抽出、クロロホルム抽出、およびエタノール沈澱を行った。精製したRNAを分光分析によって定量した。
【0064】
トランスフェクションの12時間後、in vitro転写によって調製されたキメラRNA(1μg)を、Lipofectamine 2000を用いてトランスフェクトした。
トランスフェクションの3日後、トランスフェクトされた細胞をフローサイトメトリーに供し、RFPとGFPとの両方を発現している細胞を計測した。
GFP発現細胞は、細胞が最初にCas9プラスミドによってトランスフェクトされ、その12時間後にガイドRNAによってトランスフェクトされた場合にのみ得られることが見出され(
図2)、RGENが培養ヒト細胞中の標的DNA配列を認識して切断できることが実証された。このように、GFP発現細胞は、同時トランスフェクションよりもむしろCas9プラスミドおよびガイドRNAの連続トランスフェクションによって得られた。
【表1】
【0065】
1-3. 哺乳類細胞の内在性遺伝子のRGENによる標的破壊
RGENが哺乳類細胞の内在性遺伝子の標的破壊に使用され得るかどうかを試験するために、野生型と突然変異体DNA配列のハイブリダイゼーションによって形成されるヘテロ二本鎖を特異的に認識して切断するミスマッチ感受性エンドヌクレアーゼであるT7エンドヌクレアーゼI(T7E1)を用いて、トランスフェクトされた細胞から単離したゲノムDNAを分析した(3)。
RGENを用いて哺乳類細胞にDSBを導入するために、4D-Nucleofector, SF Cell Line 4D-Nucleofector X Kit, Program FF-120(Lonza)を用い、メーカーのプロトコールに従って、2×106 K562細胞に20μgのCas9コードプラスミドをトランスフェクトした。この実験のために、K562(ATCC, CCL-243)細胞を、10%FBSならびにペニシリン/ストレプトマイシン混合物(それぞれ、100 U/mlおよび100μg/ml)を含むRPMI-1640中で増殖させた。
【0066】
24時間後、10~40μgのin vitro転写されたキメラRNAを、1×106 K562細胞にヌクレオフェクト(nucleofected)した。in vitro転写されたキメラRNAは、実施例1-2に記載されたように調製された。
RNAトランスフェクションの2日後に細胞を回収し、ゲノムDNAを単離した。標的部位を含む領域を、表1に記載されるプライマーを用いてPCR増幅した。アンプリコンを、以前に記載されたようなT7E1アッセイに供した(3)。配列解析のために、ゲノム改変に相当するPCR産物を精製し、T-Blunt PCR Cloning Kit (SolGent)を用いてT-Bluntベクターにクローニングした。M13プライマーを用いて、クローニングされた産物を配列決定した。
【0067】
突然変異は、細胞がCas9コードプラスミド、その後ガイドRNAによって連続的にトランスフェクトされた場合にのみ誘発されることが見出された(
図3)。相対的なDNAバンド強度から推定される突然変異頻度(
図3aのIndels(%))は、RNA用量依存的であり、1.3%~5.1%であった。PCRアンプリコンのDNA配列解析は、内在性部位でのRGEN仲介性突然変異の誘発を裏付けた。エラーを起こしやすいNHEJの特徴であるIndelおよびマイクロホモロジーが、標的部位で観察された。直接配列決定によって測定された突然変異頻度は、7.3%(=7突然変異体クローン/96クローン)であり、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)によって得られるものと同程度であった。
細胞に突然変異を誘発するためには、Cas9プラスミドおよびガイドRNAの連続トランスフェクションが必要であった。しかし、ガイドRNAをコードするプラスミドの場合、連続トランスフェクションは不要であり、細胞はCas9プラスミドおよびガイドRNAコードプラスミドによって同時トランスフェクトされた。
【0068】
その一方で、ZFNとTALENとの両方は、HIV感染の必須の共受容体であるGタンパク質共役ケモカイン受容体をコードする、ヒトCCR5遺伝子を破壊するための開発に成功している(3~6)。CCR5特異的ZFNは、現在米国でAIDS治療のための臨床試験中である(7)。しかし、これらのZFNおよびTALENは、オフターゲット作用を有し、それは、その配列がオンターゲット配列と相同である部位での局所的突然変異(6、8~10)、ならびにオンターゲット部位およびオフターゲット部位に引き起こされた2つの同時に起こるDSBの修復から生じるゲノム再配列(11~12)の両方を含む。これらのCCR5特異的人工ヌクレアーゼと関連する最も顕著なオフターゲット部位は、CCR5の近縁ホモログであり、CCR5の15-kbp 上流に位置する、CCR2遺伝子座に存在する。CCR2遺伝子におけるオフターゲット突然変異、ならびにCCR5オンターゲット部位とCCR2オフターゲット部位との間の15-kbp染色体セグメントの望ましくない欠失、逆位、および重複を避けるため、本発明者らは、CCR2配列と明白な相同性を持たないCCR5配列内の領域を認識するように、我々のCCR5特異的RGENの標的部位を意図的に選択した。
【0069】
本発明者らは、CCR5特異的RGENがオフターゲット作用を有するかどうかを調べた。この目的のために、我々は、対象とする23-bpの標的配列とほぼ相同な部位を同定することによって、ヒトゲノム内の潜在的なオフターゲット部位を検索した。予想された通り、このような部位はCCR2遺伝子中には見出されなかった。代わりに、それぞれがオンターゲット部位と3塩基のミスマッチを有する4つの部位が見出された(
図4a)。T7E1アッセイは、これらの部位で突然変異が検出されなかったことを示し(アッセイ感度、~0.5%)、RGENの優れた特異性を実証した(
図4b)。更に、PCRを用いて、CCR5に特異的なZFNおよびRGENをコードするプラスミドで別々にトランスフェクトされた細胞での染色体欠失の誘発を検出した。ZFNは欠失を誘発したが、RGENは誘発しなかった(
図4c)。
【0070】
次に、CCR5特異的ガイドRNAを、転写因子C4b結合タンパク質のβ鎖をコードするヒトC4BPB遺伝子を標的とするように設計された新たな合成RNAに置き換えることによって、RGENを再プログラム化した。このRGENは、K562細胞の染色体標的部位に高頻度で突然変異を誘発した(
図3b)。T7E1アッセイおよび直接配列決定によって測定された突然変異頻度は、それぞれ14%および8.3%(=4突然変異体クローン/48クローン)であった。4つの突然変異体配列のうち、2つのクローンは、正確に切断部位に1塩基または2塩基の挿入を含んでおり、CCR5標的部位でも観察されたパターンであった。これらの結果は、RGENが細胞内の予想される位置で染色体の標的DNAを切断することを示す。
ここで、我々は、in vitro転写されたガイドRNAと複合体を形成した組換えCas9タンパク質を用いて、ヒト細胞の内在性遺伝子の標的破壊を誘発した。ヘキサヒスチジンタグと融合された組換えCas9タンパク質を、E. coli内で発現させ、標準的なNiイオンアフィニティークロマトグラフィーおよびゲルろ過を用いて精製した。精製された組換えCas9タンパク質を、保存バッファー(20 mM HEPES pH 7.5、150 mM KCl、1 mM DTT、および10%グリセロール)中で濃縮した。Cas9タンパク質/sgRNA複合体を、ヌクレオフェクション(nucleofection)によってK562細胞に直接導入した。すなわち、4D-Nucleofector, SF Cell Line 4D-Nucleofector X Kit, Program FF-120(Lonza)を用い、メーカーのプロトコールに従って、100μlの溶液中の、100μg(29μM)のin vitro転写されたsgRNA(またはcrRNA 40μgおよびtracrRNA 80μg)と混合された22.5~225(1.4~14μM)のCas9タンパク質を1×106 K562細胞にトランスフェクトした。ヌクレオフェクション後、細胞を6ウェルプレート中の増殖培地に入れ、48時間インキュベートした。2×105 K562細胞を1/5にスケールダウンした方法でトランスフェクトした場合は、6~60μgのin vitro転写されたsgRNA(またはcrRNA 8μgおよびtracrRNA 16μg)と混合された4.5~45μgのCas9タンパク質を用いて、20μlの溶液中でヌクレオフェクトした。ヌクレオフェクトされた細胞を、その後、48ウェルプレート中の増殖培地に入れた。48時間後、細胞を回収し、ゲノムDNAを単離した。標的部位にわたるゲノムDNA領域をPCR増幅し、T7E1アッセイに供した。