(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166412
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】一価及び多価サブユニット予防ワクチン製造のために最適化した、酵母クルイベロマイセス・ラクティスベースの宿主/ベクターシステム
(51)【国際特許分類】
C12N 15/90 20060101AFI20231114BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231114BHJP
C12N 15/40 20060101ALN20231114BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20231114BHJP
【FI】
C12N15/90 100Z
C12N1/21 ZNA
C12N15/40
C12N15/63 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023132434
(22)【出願日】2023-08-16
(62)【分割の表示】P 2020555291の分割
【原出願日】2018-12-19
(31)【優先権主張番号】102017012109.5
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】520233191
【氏名又は名称】ベロワクチンズ ジーエムビーエイチ
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ハンス キャスパー フフルリマン
(72)【発明者】
【氏名】マルティナ ベフレンス
(72)【発明者】
【氏名】マンディ ゲバウエル
(72)【発明者】
【氏名】カリン ブレウニグ
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン‐エリク ベフレンス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、1以上の異種タンパク質を高度に効率良く発現することが可能であり、病原体に対する防御的免疫応答を引き起こすワクチンとしての使用に適切な、組換えクルイベロマイセス・ラクティス(K.ラクティス)酵母を提供する。
【解決手段】K.ラクティス株の酵母ゲノムへ、異種抗原をコードする核酸の標的クローニングをするためのK.ラクティス株であって、該異種抗原のために組み込まれた発現カセットを、KlLAC4遺伝子座の代わりに若しくは追加的に、KlURA3-20遺伝子座(KLLA0E22771g)及び/又はKlMET5-1遺伝子座(KLLA0B03938g)に有するK.ラクティス株であることを特徴とする、前記K.ラクティス株を提供する。更に、組み込み型発現ベクター、及び本発明のK.ラクティス株の生産方法、並びにワクチンとしてのその使用を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クルイベロマイセス・ラクティス(K.ラクティス)株の酵母ゲノム内へ、異種抗原をコー
ドする核酸の標的クローニングをするための該ラクティス株であって、KlLAC4遺伝子座の
代わりに又は追加して、KlURA3-20遺伝子座(KLLA0E22771g)に、及び/若しくはKlMET5-1
遺伝子座(KLLA0B03938g)に、該異種抗原のために組み込まれた発現カセットを有すること
を特徴とする、前記K.ラクティス株。
【請求項2】
前記発現カセットは、K.ラクティスLAC4-12プロモーター(PLAC4-12)又は該プロモータ
ーの変種であってLAC12及びLAC4の間の遺伝子間領域も含むもの、前記抗原をコードする
領域、及びAgTEF1ターミネーターを有することを特徴とする、請求項1記載のK.ラクティ
ス株。
【請求項3】
異種抗原をコードする核酸の複数のコピーが、得られるK.ラクティス株のKlLAC4遺伝子
座、若しくはKlURA3-20遺伝子座、若しくはKlMET5-1遺伝子座に、タンデム発現カセット
又はマルチ発現カセットを介して挿入されていることを特徴とする、請求項1又は2記載
のK.ラクティス株。
【請求項4】
前記異種抗原IBDV VP2の遺伝子が、前記K.ラクティス株の遺伝子座KlLAC4に、タンデム
発現カセットの形で存在することを特徴とする、請求項1~3いずれか1項記載のK.ラク
ティス株。
【請求項5】
異なる異種抗原をコードする核酸の1以上のコピーが、KlLAC4遺伝子座、及び/若しく
は、KlURA3-20遺伝子座、及び/若しくは、KlMET5-1遺伝子座に、シングル発現カセット
、タンデム発現カセット又はマルチ発現カセットを介して挿入されていることを特徴とす
る、請求項1~3いずれか1項記載のK.ラクティス株。
【請求項6】
異種抗原インフルエンザA HA(A/プエルトリコ/8/1934(H1N1))及びインフルエンザA M1(
A/プエルトリコ/8/1934(H1N1))をコードする遺伝子が、前記K.ラクティス株のKlLAC4及び
KlURA3-20遺伝子座に挿入されて、発現することを特徴とする、請求項1~3及び5いず
れか1項記載のK.ラクティス株。
【請求項7】
前記K.ラクティス株は、前記ゲノム本来のKIGAL4遺伝子に加えて、追加で該KIGAL4遺伝
子の第二の異所性コピーを含むことを特徴とする、請求項1~6いずれか1項記載のK.ラ
クティス株。
【請求項8】
前記KIGAL4遺伝子の異所性コピーは、KIGAL4プロモーター及びKIGAL4ターミネーターに
隣接し、前記K.ラクティス株内の遺伝子座KLLA0E13795g(Klavt3::KlGAL4-1、配列番号:1)
で組み込まれることを特徴とする、請求項7記載のK.ラクティス株。
【請求項9】
前記異種抗原IBDV VP2の遺伝子は、前記K.ラクティス株の遺伝子座KlLAC4に存在するこ
とを特徴とする、請求項1~8いずれか1項記載のK.ラクティス株。
【請求項10】
前記K.ラクティス株は、非誘導条件下では異種タンパク質をわずかに又は全く発現しな
い、LAC4-12プロモーターを改変したプロモーター構造を有する、請求項1~9いずれか1
項記載のK.ラクティス株であって、-1065及び-1540の間のプロモーターPLAC4-12の基本制
御領域(BCR)(LR2欠損;PLAC4-12-LR2’;配列番号:2)は削除されていることを特徴とする
、前記K.ラクティス株。
【請求項11】
前記異種抗原インフルエンザA HA(A/プエルトリコ/8/1934(H1N1))の遺伝子が、前記K.
ラクティス株の遺伝子座KlLAC4に存在することを特徴とする、請求項10記載のK.ラクテ
ィス株。
【請求項12】
異種タンパク質発現の調節を可能にする、前記LAC4-12プロモーターを改変したプロモ
ーター構造を有する前記K.ラクティス株であって、該プロモーターのアクチベーターKlGa
l4(「上流活性化配列」1、2及び4、5)のための結合部位数が変動し、1、2、3又は4個のKl
Gal4結合部位が存在することを特徴とする、請求項1~11いずれか1項記載のK.ラクテ
ィス株。
【請求項13】
前記異種抗原IBDV VP2の遺伝子が、前記K.ラクティス株の遺伝子座KlLAC4で挿入される
ことを特徴とする、請求項1~12いずれか1項記載のK.ラクティス株。
【請求項14】
前記対立遺伝子Kllac4、Klura3-20及びKlmet5-1の遺伝子機能が回復され、前記K.ラク
ティス株は原栄養性であることを特徴とする、請求項1~13いずれか1項記載のK.ラク
ティス株。
【請求項15】
前記異種抗原BVDV E2外部ドメイン(1型、CP7)、BVDV E2外部ドメイン(2型、ニューヨー
ク93)及びBVDV Npro-NS3(1型、CP7)の遺伝子が、前記K.ラクティス株の遺伝子座KlLAC4、
KlURA3-20、及びKlMet5-1に挿入されることを特徴とする、請求項1~14いずれか1項
記載のK.ラクティス株。
【請求項16】
下記株から選択される、K.ラクティス株:
VAK952(受託番号:DSM32705)、
VAK1111(受託番号:DSM32696)、
VAK1118(受託番号:DSM32701)、
VAK1131(受託番号:DSM32700)、
VAK1171(受託番号:DSM32699)、
VAK1243(受託番号:DSM32702)、
VAK1283(受託番号:DSM32697)、
VAK1395(受託番号:DSM32706)、及び
VAK1400(受託番号:DSM32698)。
【請求項17】
KIpURA3(配列番号:3)又はKIpMET5(配列番号:4)から選択される、組み込み型発現ベクタ
ー。
【請求項18】
KIpMET5-PL4-12-Et、KIpMET5-PL4-12-LR2-Et、KIpMET5-PL4-Et、KIpMET5-PL4-LR2-Etか
ら、並びにKIpURA3-PL4-12-Et、KIpURA3-PL4-12-LR2-Et、KIpURA3-PL4-Et及びKIpURA3-PL
4-LR2-Et(配列番号:5、6、7又は8と組み合わされた配列番号No.3、4) から選択される、
組み込み型発現ベクター。
【請求項19】
請求項1~16いずれか1項記載のK.ラクティス株を作製する方法であって、下記ステ
ップ:
(i)目的とする抗原の遺伝子配列をKIpURA3ベクター及び/又はKIpMET5ベクター内に挿入
するステップ、
(ii)K.ラクティス培養体を、改変され、かつ予め酵素的に消化されたベクター構築物で形
質転換するステップ、
(iii)ウラシル及び/又はメチオニンを含まない固形培地を利用して、形質転換したK.ラ
クティス細胞を選択するステップ、並びに
(iv)任意で原栄養性を回復するステップ、
を含む、前記方法。
【請求項20】
前記複数の抗原の遺伝子配列が、異所的に同時に挿入され、かつ制御されて発現するこ
とを特徴とする、請求項19記載の方法。
【請求項21】
1の病原体の異なる複数の変種の抗原をコードする異なる遺伝子配列が、異所的に挿入
され、かつ制御されて発現することを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項22】
異なる複数の病原体の抗原をコードする異なる遺伝子配列が、異所的に挿入され、かつ
制御されて発現することを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項23】
請求項1~16いずれか1項記載のK.ラクティス株を含む、医薬組成物。
【請求項24】
ワクチン接種に使用するための、請求項1~16いずれか1項記載のK.ラクティス株。
【請求項25】
予防ワクチン接種に使用するための、請求項1~16いずれか1項記載のK.ラクティス
株。
【請求項26】
請求項1~16いずれか1項記載のK.ラクティス株を、対象へ、該対象内で1以上の異
種抗原に対する防御的免疫応答を引き起こすために充分な量で投与することを含む、ワク
チン接種方法。
【請求項27】
前記K.ラクティス株は、皮下、筋肉内、又は、口/粘膜を通して投与されることを特徴
とする、請求項24若しくは25記載のK.ラクティス株、又は請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記K.ラクティス株は、病原体に対する防御的免疫応答を、1回適用/免疫化(「単回
接種」)又は2回適用/免疫化(「プライムブースト」)で引き起こすことを特徴とする
、請求項24若しくは25記載のK.ラクティス株、又は請求項26若しくは27記載の方
法。
【請求項29】
前記K.ラクティス株は、1の病原体の異なる複数の変種に対する交差防御的免疫応答を
、1回使用/免疫化(「単回接種」)又は2回適用/免疫化(「プライムブースト」)で引き
起こすことを特徴とする、請求項24若しくは25記載のK.ラクティス株、又は請求項2
6若しくは27記載の方法。
【請求項30】
前記K.ラクティス株は、異なる複数の病原体に対する防御的免疫応答を、1回使用/免
疫化(「単回接種」)又は2回適用/免疫化(「プライムブースト」)で引き起こすことを特
徴とする、請求項24若しくは25記載のK.ラクティス株、又は請求項26若しくは27
記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、1以上の異種タンパク質を高度に効率良く発現させるために適しており、病
原体に対する防御的免疫応答の発生のためのワクチンとしての使用に適した、組換えクル
イベロマイセス・ラクティス(K.ラクティス)酵母に関する。本発明は特に、K.ラクティス
株の酵母ゲノム内へ、異種抗原をコードする核酸の標的クローニングをするための該ラク
ティス株であって、KlLAC4遺伝子座の代わりに又は追加して、KlURA3-20遺伝子座(KLLA0E
22771g)に、及び/若しくはKlMET5-1遺伝子座(KLLA0B03938g)に、該異種抗原のために組
み込まれた発現カセットを有することを特徴とする。本発明は更に又、組み込み型発現ベ
クター、及び本発明のK.ラクティス株を生成するための方法、並びにワクチンとしてのそ
の使用、に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
ワクチンは、疾患の防御(予防ワクチン)又は罹患した疾患の治療(免疫治療ワクチン)の
ために使用される。過去100年間位、予防ワクチン接種プログラムは感染症の減少に大き
く貢献してきた。ただ、例えばウイルス、細菌又は寄生虫による持続感染又は発がん性疾
患に対する免疫治療ワクチンはまだ、約20年間しか開発・使用されていない。ワクチン接
種の目標は、細胞性(即ち、本質的にT細胞及びNK細胞が仲介する)免疫応答の誘発、及び
/又は体液性(即ち、本質的にB細胞/抗体が仲介する)免疫応答の誘発、並びに病原体若
しくは悪性(腫瘍形成性)細胞の抗原性成分に対する免疫学的記憶の誘発である。
【0003】
古典的ワクチンは、それらの遺伝子的材料、即ち、DNA又はRNAの形の核酸を含む、弱毒
化(不活化)又は死滅した形の病原体全体を含む。この古典的ワクチンを製造するために
は、通常は、特別な安全対策並びに/又は、感染可能な生物及び/若しくは細胞培養物の
使用が必要であり、更に、このようなワクチンは、しばしば、複雑かつコールドチェーン
の使用を伴う、貯蔵及び輸送が必要となる。更にその上、古典的ワクチンの使用は、製造
プロセスから(例えば、試験動物から、若しくは細胞培養体から)の物質が、ワクチン接種
された個体に悪影響を引き起こす危険性、又は、望ましくなく再活性化された病原体の危
険性を伴う。診断面でも同様に問題が存在する。たとえば、有用な動物へ完全病原体をワ
クチン接種する場合、ワクチン接種された動物は自然感染した動物と区別できず、これは
、新たな感染検出に基づく早期警報システムが役に立たないことを意味する。そのため、
病原体の特定成分のみでワクチン接種する、いわゆる「サブユニットワクチン」が開発さ
れた。その使用のための必須条件は、問題の病原体の「主要な抗原」が既知であることで
ある。主要抗原は、通常、免疫系によって認識できる病原体の表面構成要素、たとえば、
ウイルスの殻タンパク質又はウイルスのキャプシドタンパク質である。前記主要抗原はま
た、完全なウイルス粒子が存在しない場合でも、宿主内でウイルスに対して、体液性及び
/又は細胞性免疫応答、並びに免疫学的記憶を誘発することができる。「サブユニットワ
クチン接種」では、病原体の更なる構成要素は失われているため、ワクチン接種された個
体は、識別診断(ワクチン接種された動物からの感染を識別する(DIVA))により、自然感染
した個体から区別でき、そのため「サブユニットマーカーワクチン」とも称される。多く
のサブユニットワクチンの欠点は、しばしば複雑となる製造プロセスと、しばしば見受け
られる不充分な免疫原性であり、病原体自体は(前記記載の制限を伴って)効率良く培養
できるが、その主要抗原は、コストがかかり通常は非効率的な手段で遺伝子工学によって
作製され、複雑な手段で精製される必要がある。従って、このようにして得られたサブユ
ニットワクチンは、貯蔵寿命が短く、しばしば冷蔵状態で保管及び輸送されなければなら
ない生物学的材料である。これらの理由により、有用な動物用の大部分の量産ワクチンは
、依然として完全な病原体を使用する古典的な原理に基づいている。
【0004】
例えば、広く蔓延している家禽疾患、伝染性ファブリキウス嚢病(IBD)は、伝染性ファ
ブリキウス嚢病ウイルス(IBDV)により引き起こされ、それはビルナウイルス科に属する二
本鎖のセグメント化されたRNAゲノムを持つ非エンベロープ型ウイルスである。IBDに対す
るほとんどのワクチンは、弱毒化(弱体化)又は不活化されたウイルスをベースにしてい
る。しかし、ここで発生する問題は、高度に弱毒化されている非不活化「生ウイルス」及
び不活化ウイルスも又、平均病原性を有するIBDウイルスに対する防御を可能とするが、
これは、高度に強毒性のIBDウイルス株(vvIBDV)には当てはまらないことである。最近ま
で、非常に強毒性の、複数の弱毒化ウイルス(intermediate hot株)が、vvIBDVに対して防
御的だったが、これらのワクチン株は、ファブリキウス嚢、リンパ器官のB細胞への一時
的な損傷による免疫抑制が発生する可能性という形で、副作用を伴う(Rautenschleinら(2
005))。しかし、前記intermediate hot株ワクチンでさえ、最近発見されたvvIBDV株に対
する完全な防御はできない(Negashら(2012)、Kasangaら(2007))。更に、高度に弱毒
化された生ウイルスでのワクチン接種問題は、母性抗体(maternal antibody)がウイルス
複製を妨げ、そのため免疫応答の誘発を妨げることである。従って、これらのワクチンで
の効果的なワクチン接種は、孵化後3週間でのみ可能である(Kumarら(2000)、Rautenschle
inら(2005))。
【0005】
例えば、インフルエンザAウイルスは、世界的に最も重要なウイルス病原体の一つであ
る(Shortら(2015)、Silvaら(2012))。インフルエンザウイルスはオルソミクソウイルス科
に属し、それらは、一本鎖のセグメント化されたRNAをゲノムとして持つエンベロープ型
ウイルスである。ほとんどのRNAウイルスと同様に、インフルエンザウイルスも又、高い
突然変異率に影響される。特にウイルスのRNAセグメントの再集合は、新しい遺伝的及び
生物学的特性を持つウイルス子孫を生み出す(Shortら(2015))。急速な進化のために、特
にインフルエンザウイルスに対するワクチン接種の場合に生じる問題は、既存のワクチン
が、新たに出現したウイルス変種の場合に「追いつかない」ことである。従って、交差防
御を示すワクチンと、従って異なるインフルエンザ変種に対する長期的防御をも開発する
試みが、既に長期間行われてきている(Steelら(2010)、Krammer及びPalese(2013)、Kirch
enbaum及びRoss(2014)、Berthoudら(2011))。
【0006】
ウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV)は、偶蹄類で広く蔓延している病原体である。BV
DVは、フラビウイルス科のペスチウイルス属の一種である。このウイルスの一本鎖RNAゲ
ノムも同様に、高い突然変異率に影響される。更に、妊娠動物の場合、胎児が感染し、免
疫寛容のために持続的感染した(PI)動物が生まれることもある。該PI動物は、更にウイル
スを拡散させ、100%ウイルス変異の場合、いわゆる粘膜疾患で死亡することもある。こ
こでも、異なるBVDウイルス変種に対して交差防御及び長期間防御を示すワクチンを開発
する試みが、既に長い間行われてきている(Ridpath(2015))。
【0007】
効果的なサブユニットワクチンは、これらの問題に対処又は解決できる。ほとんどの場
合、サブユニットは病原体のタンパク質成分であり、それらは遺伝子工学により、様々な
宿主細胞内で産生できる。腸内細菌大腸菌に加えて、細胞培体内で増殖できる哺乳類細胞
又は昆虫細胞、植物細胞及び様々な真菌類は、異種タンパク質発現用宿主系として確立さ
れている。細菌及び真菌類等の微生物システムは、大規模で特に良好な費用対効果で培養
できる。
【0008】
酵母属のサッカロミセス、ピキア及びクルイベロマイセスの酵母細胞は、異種タンパク
質を発現させるために既に何十年も日常的に使用されてきた。細菌と対照的に、酵母細胞
には、真核生物である利点、即ち多くの点で動物細胞に似ている利点があり、真核生物の
タンパク質、即ち動物細胞内で形成され、かつ/又は機能的でなければならないタンパク
質は、天然又は実質的に天然の形で、酵母内で良好な費用対効果で生産できる(Bathurst(
1994)、Gellissen及びHollenberg(1997))。酵母は当初、異種タンパク質の産生にのみ使
用され、発現後、タンパク質は酵母細胞から精製され、サブユニットワクチンとして使用
されていた。酵母自体又は酵母の細胞画分をワクチンとして投与する試みは、最近やっと
行われている。このような「酵母ベースのワクチン」は、病原体(抗原)の免疫学的に有
効な成分を含み、(例えば、皮下、筋肉内又は経口/粘膜での)投与後、宿主生物内で、
該抗原に対して、そして該抗原が由来している病原体に対しても、特異的な免疫応答を引
き起こすことのできる酵母粒子である。求められるのは、ワクチン接種された生物内での
、免疫学的「記憶」の誘発であり、それは、次の感染(「チャレンジ」)の際に、対応す
る病原体の増加及び/若しくは拡散を防止し、かつ/又は感染の病理学的影響を減らすこ
とである。既に上記で記載したように、抗原は通常、病原体の構造タンパク質であり、そ
れをコードする核酸配列(抗原をコードする遺伝子)は、遺伝子技術方法を使用して酵母細
胞に導入され、1以上のこれら構造タンパク質の発現を可能とする。このようにして作製
された、生きている形態(酵母細胞)、死んで乾燥後(酵母粒子)若しくは細胞破壊後の粉
末形態、及びホモジェナイズ後の形態(酵母ライセート)の組換え型酵母が、酵母ベースの
ワクチンである。このワクチンの投与後、抗原は免疫系によって認識され、体液性及び/
又は細胞性免疫防御を起こす。
【0009】
酵母ベースのワクチン接種は、先行技術により当業者に公知である。ある範囲の米国特
許出願並びに特許、例えば米国特許出願公開第20090304741A1号、米国特許第5830463A号
、米国特許第7465454B2号及び米国特許出願公開第20070166323A1号には、免疫治療におい
て、少なくとも一の組換え抗原を含むサッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)株の
使用が記載されている。これらの酵母は、免疫反応、特に細胞仲介型免疫反応を刺激する
ために有効であると示された。
【0010】
国際公開番号第2006044923号には、C型肝炎ウイルス(HCV)の様々なタンパク質を遺伝子
組換え的に発現し、該HCVタンパク質に対する免疫反応、特にT細胞応答を引き起こすこ
とができる酵母(S.cerevisiae)が開示されており、それは、慢性C型肝炎に対するワクチ
ンとして使用されることが意図されている。
【0011】
国際公開番号第2007092792号には、インフルエンザウイルス感染に対する組換え型S.ce
revisiae酵母の可能な使用が記載されており、その使用には様々な酵母株の組み合わせの
使用が含まれ、その投与はT細胞の誘発、すなわち細胞性免疫応答をもたらす。
【0012】
国際公開番号第20101054649号及び国際公開番号第2013107436号には、死滅酵母細胞全
体を経口/粘膜又は皮下投与した後に、防御的体液性免疫応答を発生させるために特定さ
れた抗原を含む、種クルイベロマイセス・ラクティス株の使用が記載されている。最後に
挙げた複数の特許には、出発株VAK367-D4に由来する組換えK.ラクティス株が、ワクチン
接種に有効に使用された適用例が含まれている。
【0013】
ワクチン接種のために組換えクルイベロマイセス・ラクティス酵母を使用する可能性は
、先行技術により当業者に公知である(Arnoldら(2012)、国際公開番号第20101054649号及
び国際公開番号第2013107436号)。適用例では、LAC4プロモーターによって制御される発
現カセットを介して、細胞内で、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス(IBDV)のVP2キャプ
シドタンパク質を発現する、酵母K.ラクティスの皮下投与が、体液性免疫応答を引き起こ
し、ウイルス感染に対して効果的な防御を与えることを、示すことができた。平均的病原
性のIBDウイルスに対してこれを示すことは可能だったが、高度に強毒性のIBDV(vvIBDV
)に対してこれを示すことは、今まで不可能だった。以前のデータでは、ウイルス抗原の
細胞内濃度を上げることにより、酵母ワクチンの有効性を高めることが示されている(Arn
oldら(2012))。抗原濃度の上昇を達成するための技術的改変は、転写アクチベーター遺伝
子KlGAL4-1(別名LAC9-1)の追加コピーを、IBDV-VP2発現株(寄託株DSM25406及びDSM25407)
へ、pLI-1プラスミドの組み込みによって導入することにある(Krijgerら(2012)及び国際
公開番号第2013107436号)。従って、今までこのようなK.ラクティスワクチン株の生成は
、2つの遺伝子介入に基づいていた。第一に、抗原をコードする異種遺伝子の組み込みに
基づき、第二に、KlGAL4-1遺伝子の組み込みに基づくものである。しかし、今までの実施
の形では、後者は常にプラスミドのタンデムリピートの組み込みを生じ、その結果、アク
チベーターの強い過剰発現による細胞毒性効果だけでなく(Breunig 1989)、この方法で生
成されるワクチン株中のKlGAL4-1及びScURA3遺伝子のコピー数の変動も引き起こす。
【0014】
非改変LAC4プロモーターを介して異種遺伝子の発現を達成する戦略は、前記適用例に記
載の通り(Arnoldら(2012)、国際公開番号第20101054649号及び国際公開番号第2013107436
号)、異種遺伝子の最小発現が、非誘導条件、即ち、プロモーターはある程度オープンで
ある状態、の下ですら発生するという二次的効果を有する。KlGAL4-1遺伝子投与量が増加
すると、この効果は再度、更に顕著になる。従って、異種発現において、酵母細胞に対し
て細胞変性効果(CPE)を有するタンパク質の場合は、培養中、例えば流加培養発酵プロセ
ス中、での生物量形成は、厳しく制限される可能性がある。特にこれらの場合は、非誘導
条件下での遺伝子発現を最小限に抑える別の方法を見つける必要がある。
【0015】
様々なサブユニットワクチンは、病原体のサブユニットが、1個ではなく複数でワクチ
ン接種に使用される場合にのみ、有効で効果的である。更に、ワクチン接種で複数の抗原
サブユニットを使用すると、病原体の異なる変種に対する交差防御性が、非常に上昇する
。同一又は異なる抗原の共発現は又、酵母細胞中の抗原濃度を再上昇させる、又は異なる
病原体に対して防御するワクチンを生産する、ために使用できる。
【0016】
前記株は、一般的に栄養要求性株であり、完全培地ではしばしば原栄養性株よりも増殖
性に劣る。従って、栄養要求性酵母株を原栄養性形へ、迅速で実行可能に変換すると、増
殖特性を改良することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
(本発明の記載)
以上より、本発明の目的は、先行技術の欠点を克服することができる新規なK.ラクティ
スワクチン株を提供することである。特に、提供されるのは、ゲノム内の特定の部位に組
み込まれた、限定されたコピー数のKIGAL4-1遺伝子を含む、組換えK.ラクティス株である
。更に、提供されるのは、非誘導条件下では異種タンパク質をわずかに又は全く発現しな
いことを可能とし、酵母内で、抗原の複数のコピーの発現又は複数の抗原の発現を可能と
し、より培養に適しており、病原体に対する予防ワクチン接種のために、より有効に使用
できる株である。同時に、免疫調節的に活性なタンパク質(抗原)をコードする異種遺伝子
は、K.ラクティスゲノムの特定の部位へ組み込まれる必要がある。異種遺伝子の組み込み
を有する探索対象のクローンを選択する場合、耐性遺伝子を選択マーカーとして使用する
べきではない。更に、原栄養性株は、栄養要求性株から、最も単純かつ可能な方法で作り
出されるべきである。これは又、(栄養)補充されていない合成培地で作製された、酵母
ワクチン株の単純化された発酵を可能にするだろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的は、新規なベクター及び、新規に、遺伝子的に改変された酵母K.ラクティスの
変種を含み、タンパク質抗原の特異性に最適化したワクチン株の生成を可能とする、モジ
ュラーシステムを提供することで達成された。ベクター間でのDNA要素の構成ブロック型
交換によって、効率良く、通常の、異種抗原をコードする領域の酵母ゲノムへのクローニ
ングが、発現されるべき異種遺伝子とは別に、達成された。標的とする、関連する異種遺
伝子のゲノム組み込みの結果、酵母株は非常に多くの世代にわたり安定しており、遺伝子
的にそのままの状態で明確であった。これらの特性のおかげで、発酵プロセスは非選択的
条件下で再現性良く進行し、規格化可能である。本発明によるK.ラクティス酵母の最適化
は、タンパク質産生速度を、可能な限り高く、かつ抗原の細胞変性効果が効率良い発酵プ
ロセスを酷く妨害するしきい値よりも下であるように、制御することにある。これは、一
の遺伝子操作、又は複数の遺伝子操作の組み合わせ、即ち、
(i)ラクトース誘導可能な転写アクチベーター濃度の増加、
(ii)LAC4プロモーターの標的とする改変、及び/又は
(iii)抗原をコードする異種遺伝子の遺伝子投与量の段階的な上昇、
によって達成された。
【0019】
更に又、本発明のK.ラクティス酵母の最適化は、
(iv)複数の抗原を同時に発現させるため、酵母ゲノム中の異種遺伝子エンコーディングカ
セットのための、複数の、新規な組み込み部位を確立すること、
からなる。
【0020】
好ましい実施態様では、本発明の目的は、K.ラクティス株の酵母ゲノム内へ、異種遺伝
子エンコーディング核酸の標的クローニングをするための該ラクティス株であって、KlLA
C4遺伝子座の代わりに又は追加して、KlURA3-20遺伝子座(KLLA0E22771g)に、及び/若し
くはKlMET5-1遺伝子座(KLLA0B03938g)に、該異種抗原のために組み込まれた発現カセット
を有することを特徴とする、前記K.ラクティス株を提供することにより達成された。特別
に好ましい場合は、該K.ラクティス株が、KlLAC4遺伝子座に加えて、KlURA3-20遺伝子座(
KLLA0E22771g)に、及び/又はKlMET5-1遺伝子座(KLLA0B03938g)に組み込まれた、該異種
抗原のための発現カセットを有する場合である。特に非常に好ましい場合は、該K.ラクテ
ィス株が、KlLAC4遺伝子座に加えて、KlURA3-20遺伝子座(KLLA0E22771g)及びKlMET5-1遺
伝子座(KLLA0B03938g)に組み込まれた、該異種抗原のための発現カセットを有する場合で
ある。このように改変されたK.ラクティス株は、異種遺伝子を発現するための遺伝子が、
K.ラクティスゲノム内の、特別で、特定された遺伝子座に組み込まれ、かつ、異種遺伝子
のコピー数は制御可能な利点を有する。更に又、該K.ラクティス株は、K.ラクティスゲノ
ム内の特定された遺伝子座に、異なる複数の異種抗原の発現のための、異なる遺伝子の組
み込みを可能とする。
【0021】
本発明の文脈における「異種抗原」又は「異種タンパク質」は、ヒト又は動物内で、病
原体又は発がん的変性細胞に対する免疫応答、好ましくは防御的免疫応答を発生させるの
に適した全てのペプチド、ポリペプチド及びタンパク質を意味する。異種タンパク質は、
あらゆる種類の病原体又は腫瘍から由来してもよく、それらのために、単独で、防御的免
疫応答、好ましくは防御的免疫応答を誘発できる抗原が、特徴づけられた。
【0022】
好ましい実施態様では、異種タンパク質は、病原体(ウイルス、細菌、寄生虫)から由来
しており、それらのために、単独で、防御的免疫応答、好ましくは防御的体液性免疫応答
を誘発できる抗原が、特徴づけられた。
【0023】
例えば、それらは下記に例示される。
(寄生虫由来の異種タンパク質)
アメリカ鉤虫;十二指腸鉤虫(ズビニ鉤虫):ASPタンパク質、ヘモグロビン分解プロテ
アーゼ、
リーシュマニア属:gp63、46kD前鞭毛抗原、LACK、
プラスモジウム属(マラリア原虫):CSPタンパク質、CSA-1、CSA-3、EXP1、SSP2、STARP
、SALSA、MSP1、MSP2、MSP3、AMA-1、GLURP、Pfs25、Pfs28、Pvs25、Pvs28、Pfs48/45、P
fs230、
シストソーマ属(住血吸虫):TP1、Sm23、ShGSTs26及び28、パラミオシン、寄生虫ミオ
シン、Sm14。
【0024】
(細菌由来の異種タンパク質)
結核菌:Ag85A、Hsp65、R8307、19kD、45kD、10.4、
ヘリオバクターピロリ菌(Heliobacter pylori):VacA、LagA、NAP、hsp、ウレアーゼ、
カタラーゼ、
A群レンサ球菌:M、SCPAペプチダーゼ、外毒素SPEA及びSPEC、フィブロネクチン結合タン
パク質、
レンサ球菌肺炎:PspA、PsaA、BHV3、BHV4、
ネズミチフス菌:Vi抗原、
赤痢菌:LPS、
コレラ菌:CTB、
大腸菌ETEC:LT、LT-ST、CTB、
ペスト菌:F1、V。
【0025】
(腫瘍細胞/腫瘍(腫瘍関連抗原、TAA)由来の異種タンパク質)
CEA、
5T4、
MUC1、
MART1、
HER-2。
【0026】
(ウイルス由来の異種タンパク質は、特に好ましい。)
カリシウイルス科(Norwalk、HEV):NV 60kD;HEV ORF2、
レオウイルス科(Rota):VP7、VP4、
レトロウイルス科(HIV):Gag、Pol、Nef、Env、gp160、gp120、gp140、gp41、
フラビウイルス科(フラビウイルス属:WNV、Dengue、YF、TBE、JEV):preM-Env、NS3、NS
4、NS5、
フラビウイルス科(ペスチウイルス属BVDV、CSFV、BDV;ヘパシウイルス属HCV):E1、E2、
ERNS(ペスチ)、C、NS3、NS4、NS5、
ヘパドナウイルス科(HBV):HBS抗原、
パラミクソウイルス科(パラミクソウイルス亜科:PIV-1、PIV-2、流行性耳下腺炎、セン
ダイ、PIV-2、PIV-4、モルビリ):M、HN、N、F、
パラミクソウイルス科(ニューモウイルス亜科:RSV):F、G、SH、M、
ラブドウイルス科(狂犬病):G、
ヘルペスウイルス科(EBV、HSV2):gp350/220(EBV)、gB2、gD2(HSV)、
コロナウイルス科(SARS):CoV、N、M、S、
オルソミクソウイルス科(インフルエンザA、B):HA、NA、M1、M2、NP、
パピローマウイルス科:L2、E6、E7。
【0027】
本発明の実施態様では更に、改変されたK.ラクティス株は、前記発現カセットが、K.ラ
クティスLAC4-12プロモーター(PLAC4-12)又は該プロモーターの変種、発現するべき抗原
のORF、及びAgTEF1ターミネーターを有する、ことで特徴付けられた。前記実施態様は、P
LAC4-12プロモーター制御の下での異種遺伝子の発現は、LAC4及び/又はKlURA3及び/又
はKlMET5遺伝子座へ組み込まれた後に、ラクトースによりほとんど同程度に強力に誘導さ
れるという利点を有する。
【0028】
前記のように、ワクチン株内の抗原濃度と、標的生物内での酵母ワクチンの免疫原性効
果の間には、正の相関関係がある。例えば追加的なKlGAL4遺伝子の組み込みのため起こる
、過度に強力な過剰発現の場合のCPEを防ぐために、前記ベクターシステムを代替的に改
変して、迅速に効率良く、複数の遺伝子コピーを連続して連結し、この発現カセットを3
個の遺伝子座中の1つへ、一段階で導入することができる(実施例5及び
図7A参照)。
【0029】
従って、本発明の更に有利な成果として、改変されたK.ラクティス株は、KlLAC4遺伝子
座、若しくはKlURA3-20遺伝子座、若しくはKlMET5-1遺伝子座に、異種抗原をコードする
核酸配列の複数のコピーを含み、そのコピーは、タンデム発現カセット又はマルチ発現カ
セットを介して、挿入されている。該発現カセットは、それぞれLAC4-12プロモーター(PL
AC4-12)又は該プロモーターの変種及びAgTEF1ターミネーターに隣接している、抗原をコ
ードする領域(遺伝子)の複数のコピーを含む。この方法で行われる抗原の遺伝子コピーの
複製は、それぞれの遺伝子座の一つにより、それらの発現を著しく上昇させることが可能
となる。
【0030】
本発明の好ましい実施態様では、異種抗原IBDV-VP2の遺伝子は、タンデム発現カセット
の形で、K.ラクティス株の遺伝子座KlLAC4に存在する。該K.ラクティス株は、異種抗原IB
DV-VP2をコードする遺伝子のシングルコピーを有する株と比較して、異種抗原IBDV-VP2が
増加した量で発現される利点を有する。本発明のこの実施態様によると特に好ましいのは
、異種抗原IBDV-VP2の遺伝子をタンデム発現カセットの形で、遺伝子座KlLAC4に有する株
VAK1118(DSM32701)である。
【0031】
更により好ましいのは、異なる異種抗原をコードする核酸の1以上のコピーが、本発明
のK.ラクティス株のKlLAC4遺伝子座、及び/若しくは、KlURA3-20遺伝子座、及び/若し
くは、KlMET5-1遺伝子座に、シングル発現カセット、タンデム発現カセット又はマルチ発
現カセットを介して、挿入されている場合である。その結果、その酵母細胞内では、第一
に、異なる異種抗原を発現することが可能であり、第二に前記異なる異種抗原を異なる濃
度で発現させることが可能である。この実施態様で特に好ましくは、異種抗原インフルエ
ンザA HA(A/プエルトリコ/8/1934(H1N1))及びインフルエンザA M1(A/プエルトリコ/8/193
4(H1N1))をコードする核酸配列が、該K.ラクティス株のKlLAC4及びKlURA3-20遺伝子座に
挿入されて、発現するK.ラクティス株である。本発明のこの特に好ましい実施態様は、異
種抗原インフルエンザA HA(A/プエルトリコ/8/1934(H1N1))及びインフルエンザA M1(A/プ
エルトリコ/8/1934(H1N1))をコードする核酸配列が、K.ラクティス株のKlLAC4及びKlURA3
-20遺伝子座に挿入されている株VAK1283(DSM32697)である。
【0032】
前記の通り、KlGAL4遺伝子投与量の増加は、抗原産生を増加できることは公知である(K
rijgerら2012、及び国際公開番号第2013107436号)。KlGAL4を発現するpLI-1プラスミドを
二段階プロセスで組み込むことで、これを達成することの欠点は、上記に記載した。該欠
点は、本発明により、KlGAL4遺伝子の第2コピーを含む異種遺伝子を組み込むための、安
定した出発株を提供することにより克服された。全ての派生株が同じ遺伝子的背景を持ち
、かつ、厳密にただ1個の追加的KlGAL4遺伝子コピーが該株内に存在することは確実であ
る。これは、複数のコピーの発現の場合に観察された細胞毒性を減少させ、ワクチン株生
産のための複数の段階を1段階だけに減少させる。更に、プラスミドの可逆的な組み込み
/切り出しが省略されるため、遺伝子安定性が向上する。このような株は、例えば、実施
例1記載のように作製できる。
【0033】
従って、本発明の更に有利な実施態様として提供されるのは、K.ラクティス株は、前記
ゲノム本来のKIGAL4遺伝子に加えて、追加で該KIGAL4遺伝子の第二の異所性コピーを含む
K.ラクティス株である。該株内では、KIGAL4転写アクチベーターの発現を最大で2倍上昇
させることができ、KlLAC4遺伝子座、及び/又は、KlURA3-20遺伝子座、及び/又は、KlM
ET5-1遺伝子座へ挿入された異種遺伝子の発現を、LAC4-12プロモーター又は該プロモータ
ーの下記変種によって、特定された方法で上昇させることができる。従来の実施では、Kl
GAL4をコードするプラスミドが、細胞内へ一過的に、かつ複数の制御されていないコピー
数で導入された。その結果、異種抗原はしばしば高濃度で発現し、細胞毒性効果をもたら
した。本発明のこの実施態様のK.ラクティス株の場合、細胞毒性効果は、高度の効率性で
低減又は回避することができる。更に、同じ目的(LAC4制御発現カセットの挿入)のため
に将来開発されるであろう遺伝子座も又、この方法で制御することができる。前記KIGAL4
遺伝子の異所性コピーは、KIGAL4プロモーター及びKIGAL4ターミネーターに隣接し、該K.
ラクティス株内の遺伝子座KLLA0E13795g(Klavt3::KlGAL4-1、配列番号:1)で組み込まれる
場合に、有利なことがわかった。本発明のこの実施態様で特に好ましくは、これらの特性
を有する株VAK1111(DSM32696)である。
【0034】
更に好ましい実施態様では、本発明は、前記異種抗原IBDV VP2をコードする核酸配列が
、遺伝子座KlLAC4に存在するK.ラクティス株を提供する。本発明のこの実施態様によると
特に好ましくは、株VAK1171(DSM32699)である。前記株は、追加で、該KIGAL4遺伝子の第
二の異所性コピーを含み、そこにも異種抗原IBDV VP2をコードする核酸配列が同様に存在
する。この株は、KIGAL4遺伝子の追加的な異所性コピーなしの株と比べて異種抗原IBDV-V
P2の上昇した発現を示す。
【0035】
微生物内での異種タンパク質産生は、それが細胞変性効果(CPE)を導く場合に問題と
なる。そこで本発明は、抗原産生フェースを生物量蓄積フェースから分離する方法を提供
する。誘導可能なLAC4プロモーターのおかげで、これは、例えば流加培養発酵プロセスに
よって部分的に可能であるが、プロモーターPLAC4-12は非誘導条件下で完全に不活化(clo
se down)されない(即ち、ある程度オープンである)ために、この方法も阻害されてしまう
。非常に強力なCPEを持つ抗原の場合、その結果起きるのは、増殖率の低下と細胞ストレ
ス応答の誘発であり、抗原産生に不利な影響を及ぼす。この問題は、KlGAL4遺伝子投与量
の2倍化及び/又は抗原をコードする配列数の増加により悪化する(下記参照)。
【0036】
従って、本発明のK.ラクティス株の更に有利な発展は、非誘導条件下では異種タンパク
質をわずかに又は全く発現しない、LAC4-12プロモーターを改変したプロモーター構造を
有するK.ラクティス株、にある。LAC4-12プロモーターの改変された構造は、特に、1065
位及び1540位の間のプロモーターPLAC4-12の基本制御領域(BCR)(LR2欠損;PLAC4-12-LR2
’;配列番号:2)は欠損していることを特徴とする(同様に、実施例2参照)。既に前記の通
り、本発明のこの実施態様は、従来の実施と比べて、異種遺伝子の過剰に強い発現により
、従来、引き起こされていた細胞毒性効果は、高度に効率よく減少されて回避できる利点
を有する。この実施態様で好ましくは、前記異種抗原インフルエンザA HA(A/プエルトリ
コ/8/1934(H1N1))をコードする核酸配列が、遺伝子座KlLAC4に存在するK.ラクティス株で
ある。本発明のこの実施態様によると特に好ましくは、株VAK1243(DSM32702)である。前
記株は、LAC4-12プロモーター中にLR2欠損を含む。
【0037】
前記K.ラクティス株は又、異種タンパク質発現の調節を可能にする、前記LAC4-12プロ
モーターを改変したプロモーター構造を有し、該プロモーターのアクチベーターKlGal4(
「上流活性化配列」1、2及び4、5)のための結合部位数が変動し、1、2、3又は4個のKlGal
4結合部位が存在してもよい。このように、1の酵母細胞内で異なる濃度で(設計による品
質保証)異なる複数の異種タンパク質を発現することが可能である。短縮されたプロモー
ター変種は、中でもとりわけ、例えば高度に免疫原性のウイルス様粒子(VLPs)を形成する
ための、例えば同一株内で最適な化学量論比で複数のタンパク質を発現するための、シス
テムのモジュール化にとって重要である。好ましい本発明のこの実施態様は、前記異種抗
原IBDV VP2をコードする核酸配列が、前記K.ラクティス株の遺伝子座KlLAC4へ挿入されて
いる場合である。本発明のこの実施態様によると特に好ましくは、株VAK1131(DSM32700)
である。前記株は、LAC4-12プロモーター内に、LR2欠損及び上流活性化配列4及び5の欠損
を含む。
【0038】
本発明の目的の一部は、より培養に適するK.ラクティス株を提供することであった。本
発明のK.ラクティス株内で対立遺伝子Kllac4、Klura3-20及びKlmet5-1の遺伝子機能が回
復されることにより、この課題は解決された。得られるKラクティス株は原栄養性である
。(実施例6、
図8)。従って、ワクチン株の発酵が単純化され、生産プロセスの確立が促進
され、より費用効率が高くなる。本発明のこの実施態様によると好ましくは、前記異種抗
原のBVDV E2外部ドメイン(1型、CP7)、BVDV E2外部ドメイン(2型、ニューヨーク93)及びB
VDV Npro-NS3(1型、CP7)をコードする核酸配列が、K.ラクティス株の遺伝子座KlLAC4、Kl
URA3-20、及びKlMet5-1に挿入されているK.ラクティス株である。本発明のこの実施態様
によると特に好ましくは、株VAK1400(DSM32698)である。前記株は、原栄養性である。
【0039】
特に好ましい実施態様では、本発明は下記株から選択されたK.ラクティス株を提供する
。
VAK952(受託番号:DSM32705)、
VAK1111(受託番号:DSM32696)、
VAK1118(受託番号:DSM32701)、
VAK1131(受託番号:DSM32700)、
VAK1171(受託番号:DSM32699)、
VAK1243(受託番号:DSM32702)、
VAK1283(受託番号:DSM32697)、
VAK1395(受託番号:DSM32706)、
VAK1400(受託番号:DSM32698)。
【0040】
前記株は、ブダペスト条約に従い2017年11月24日に、又は2017年12月1日に(DSM32705、
DSM32706)、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(ドイツ微
生物・培養細胞コレクション機関、DSMZ、Inhoffenstrasse 7B、38124 Braunschweig、ド
イツ)へ、前記番号で寄託された。
【0041】
更なる態様では、本発明は、組み込み型発現ベクターを提供し、本発明のK.ラクティス
株はこのベクターのおかげで産生可能となる。
【0042】
好ましい実施態様では、本発明は、組み込み型発現ベクターKIpURA3(配列番号:3)及びK
IpMET5(配列番号:4)を提供する。これらのベクターは、(前記記載のとおりK.ラクティス
株用)LAC4-12プロモーター(PLAC4-12)又は該プロモーターの変種を含み、それは、発現さ
れるべき抗原のORF、更にAgTEF1ターミネーター配列並びに同様に、組み込み後にKlura3-
20及びKlmet5-1対立遺伝子の、標的とする機能回復を可能とする標的配列を有する。抗原
をコードする配列は、特定された制限部位において、発現カセットのプロモーター配列及
びターミネーター配列の間でクローニングされる。前記ベクターにより、異種遺伝子発現
カセットは、マーカー無しかつ抗生物質耐性を利用せずに、安定してK.ラクティスゲノム
内に組み込まれる。従って、このベクターシステムの強みは、複数の異種遺伝子が異なる
ベクター間で容易に交換可能であることと、発現カセットのプロモーター及びターミネー
ターが、他のものと交換可能であることにある。発現カセットは、PLAC4-12プロモーター
及びAgTEF1ターミネーター、並びにそれらの間の異種遺伝子からなる。異種遺伝子は、制
限部位AscI及びNotIで交換可能である。PLAC4-12プロモーターは、前記両方のベクター内
の制限部位SmaI及びAscIで交換可能であり、ターミネーターは、KIpURA3内のNotI及びBox
I(又はMluI)で、並びにKIpMET5内のNotI及びEcl136II(又はSacI)で交換可能である。別の
発現カセットはKIpURA3内の制限部位SmaI及びBoxI(又はMluI)間、並びにKIpMET5内のSmaI
及びEcl136II(又はSacI)間でクローニングされる。所定の制限酵素を使用して、発現カセ
ットは又、KIpMET5及びKIpURA3ベクターの間で交換されるか、又は追加的な発現カセット
が導入される。KIp3及びKIp3-MCSベクター(国際公開番号第20101054649号)に対する改良
点は、選択が非誘導条件(ラクトース無し)で行われ、それによりCPEを伴うタンパク質の
場合でも高い形質転換率がもたらされ、低い異種遺伝子発現でも形質転換体が多くなる可
能性を抑制する。実施例3.1及び3.2も参照。
【0043】
本発明の特に好ましい実施態様では、KIpMET5-PLAC4-12-Et、KIpMET5-PLAC4-12-LR2-Et
、KIpMET5-PLAC4-Et、KIpMET5-PLAC4-LR2から、並びにKIpURA3-PLAC4-12-Et、KIpURA3-PL
AC4-12-LR2-Et、KIpURA3-PLAC4-Et及びKIpURA3-PLAC4-LR2から(配列番号:5、6、7又は8と
組み合わされた配列番号No.3、4)選択される組み込み型発現ベクターが提供される。
【0044】
ベクターKIpURA3-PLAC4-12-Et、KIpURA3-PLAC4-12-LR2-Et、KIpURA3-PLAC4-Et及びKIpU
RA3-PLAC4-LR2は、ベクターKIpURA3-Etの変種であり、それぞれのケースで、Etx.B-HAタ
ンパク質をコードする核酸配列が挿入される。ベクターKIpURA3-PLAC4-12-Et、KIpURA3-P
LAC4-12-LR2-Et、KIpURA3-PLAC4-Et及びKIpURA3-PLAC4-LR2は、ベクターKIpURA3-Etと比
べるとプロモーターが異なる。
【0045】
ベクターKIpMET5-PLAC4-12-Et、KIpMET5-PLAC4-12-LR2-Et、KIpMET5-PLAC4-Et、KIpMET
5-PLAC4-LR2は、ベクターKIpMET5の変種であり、それぞれのケースで、Etx.B-HAタンパク
質をコードする核酸配列が挿入される。ベクターKIpMET5-PLAC4-12-Et、KIpMET5-PLAC4-1
2-LR2-Et、KIpMET5-PLAC4-Et、KIpMET5-PLAC4-LR2は、ベクターKIpMET5と比べるとプロモ
ーターが異なる。
【0046】
更なる態様では、本発明は、本発明のK.ラクティス株を作製する方法であって、下記ス
テップ:
(i)目的とする抗原をコードする核酸配列をKIpURA3ベクター又はKIpMET5ベクター内に挿
入するステップ、
(ii)K.ラクティス培養体を、改変され、かつ予め酵素的に消化されたベクター構築物で形
質転換するステップ、
(iii)ウラシル及び/又はメチオニンを含まない固形培地を利用して、形質転換したK.ラ
クティス細胞を選択するステップ、並びに
(iv)任意で原栄養性を回復するステップ、
を含む、前記方法を提供する。
【0047】
本発明の方法の一の実施態様では、複数の抗原の遺伝子配列が、異所的に同時に挿入さ
れ、かつ制御されて発現することが可能である。1の病原体の異なる変種の抗原をコード
する異なる遺伝子配列が異所的に挿入され、制御されて発現する場合が好ましい。更に又
、異なる複数の病原体の抗原をコードする異なる遺伝子配列が、異所的に挿入され、かつ
制御されて発現する場合が好ましい。
【0048】
更なる態様では、本発明は、腸管外、経腸、筋肉内、粘膜または経口投与用の、本発明
のK.ラクティス株を含む医薬組成物又は獣医薬組成物を提供し、その組成物は任意で、慣
用のビヒクル及び/又は賦形剤と組み合わせてもよい。特に、本発明は、ワクチン接種に
適した医薬組成物または獣医用医薬組成物を提供する。
【0049】
好ましくは、医薬組成物または獣医用医薬組成物は、少なくとも1の生理学的に適合可
能なビヒクル、希釈剤、アジュバント及び/又は賦形剤を含む。本発明のK.ラクティス株
は、注射用の医薬組成物として、医薬適合性ビヒクル中、例えば、生理食塩水媒体又は緩
衝液などの従来の媒体中に含まれてもよい。そのような媒体はまた、例えば、浸透圧を設
定するための医薬適合塩、緩衝液、防腐剤などの、従来の医薬物質を含むことができる。
好ましい媒体には、生理食塩水およびヒト血清が含まれる。特に好ましい媒体は、PBS緩
衝食塩水である。
【0050】
更に適切な医薬適合性のあるビヒクルは、例えば、Remington's Practice of Pharmacy
、第13版及びJ. of Pharmaceutical Science & Technology, Vol.52, No.5, Sept-Oct, p
ages 238-311により当業者に公知である。
【0051】
更に本発明の態様では、本発明の組換えK.ラクティス酵母を、例えば、防御的免疫化、
特に病原体を対象とする防御的免疫化を発生させるため等の、ワクチン接種のための使用
を提供する。
【0052】
防御的免疫化の発生に関係する方法は、例えば、下記ステップを含む:
a) 本発明の組換え型酵母を培養及び増殖するステップ、
b) 酵母を収穫し不活化するステップ、
c) 特定の免疫化スキームに従い組換え型酵母を投与するステップ、
d) 形成された抗体の力価を決定するステップ、及び/又は
e) 免疫化を検出するステップ。
【0053】
本発明の組換え型酵母の培養及び増殖は、任意の従来利用可能な方法を使用して達成す
ることができる。特に好ましくは、費用対効果の高い方法で高い細胞収量をもたらす方法
である。これらには、発酵法、特に高細胞密度発酵法が含まれる。流加培養発酵プロトコ
ルを使用して発酵を実施することは、特に有利であると判明した。
【0054】
好ましい実施態様では、防御的(予防)免疫化は、組換え型酵母が、経口で/粘膜から
、筋肉内又は皮下から投与されて達成される。
【0055】
組換え型酵母細胞は、本発明の方法では不活化された/死滅した状態で使用されるべき
である。この目的のために、酵母は培養及び異種遺伝子の発現後に乾燥され、次に不活化
される。不活化は、従来利用可能な任意の方法を使用して行える。本発明の方法で使用す
るのに特に適切なのは、熱不活化(例えば、90℃で2時間の熱不活化)又はγ線照射(例えば
、25kGy又は50kGy)である。
【0056】
本発明は、又、本発明のK.ラクティス株を、対象へ、例えば動物又はヒト、好ましくは
動物へ、該対象内で1以上の異種抗原に対する免疫応答、好ましくは防御的免疫応答を引
き起こすために充分な量で投与することを含むワクチン接種方法を提供する。
【0057】
本発明のK.ラクティス株を使用する特別な利点は、1の病原体に対する防御的免疫応答
を、1回適用/免疫化(「単回接種」)後、又は2回適用/免疫化(「プライムブースト
」)後に、単独で、引き起こすことである。本発明のK.ラクティス株を使用する更なる利
点として発見されたことは、1の病原体の異なる複数の変種に対する交差防御的免疫応答
を、1回使用/免疫化(「単回接種」)後、又は2回適用/免疫化(「プライムブースト
」)後に、引き起こせることである。本発明のK.ラクティス株が異なる複数の病原体の抗
原に対する異なる異種遺伝子を保持して発現する場合でも、防御的免疫応答を、1回適用
/免疫化(「単回接種」)又は2回適用/免疫化(「プライムブースト」)で引き起こす
ことすら可能である。
【発明の効果】
【0058】
(本発明の長所の概略)
K.ラクティスプラットフォーム内の前記改良は、数多くの利点を生じた。
a) 酵母ベースでの「サブユニットワクチン」菌株の構築において、優れた単純化(即時
使用可能なツールボックス/キット)と高い再現性が可能になった。それらは今や、特定
の短い時間内に生産することができる。
b) 酵母ワクチンは1以上の抗原を含有できる。それらは柔軟にカスタマイズでき、異な
る量で生産できる。
c) 更に、原栄養性酵母の効率的な発酵が可能になった。
d) 組換えタンパク質産生の厳密な誘導性が可能になった。後者は、CPEを引き起こすか
もしれないタンパク質において特に重要である。
e) 目的とする、異種遺伝子のゲノムの安定した組み込み、及び、前記株の関連遺伝子の
安定性は、生産プロセスが再現性良く進行する利点を提供する。これは、GMP生産のため
に特に重要である。
f) 酵母ワクチンの防御性は、異種遺伝子コピーの増加及び/又はKlGAL4濃度の上昇の結
果として達成される、組換え抗原産生の上昇により改良される。
g) 更に、投与されるワクチン用量は、異種遺伝子コピーの増加及び/又はKlGAL4濃度の
上昇の結果として達成される、組換え抗原産生の上昇により、低減できる。そのため、酵
母生産はより費用対効果が高くなり、ワクチン接種者へのワクチン適合性が改善される。
h) 多価酵母ワクチンは、同じ病原体の異なる複数の変種に対する、又は異なる複数の病
原体に対する予防のために、交差防御的又は多価防御的な方法で使用できる。不活化、並
びに適切なアジュバント及び/又は適切な液体量との混合以外は、ワクチンとして使用す
る酵母の、更なる後処理の必要は無い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
本発明は、本発明は、図面及び例示的な実施形態に基づいて、下記でより特別に説明さ
れる。
【0060】
【
図1】
図1は、新たに生成した、2個のKlGAL4コピーを有するK.ラクティスバックグラウンド株の特徴を示す。特定された組み込み部位にある第二の異所的なKlGAL4コピーの存在を確認し、酵母増殖に対する組み込みの効果を分析した。A:異所的なKlGAL4コピーの組み込み部位のダイヤグラム。組み込み部位を示し、遺伝子名称も表示する。B: 酵母株のKlAVT3遺伝子座に、追加的に組み込まれた異所的なKlGAL4遺伝子を有する(VAK1110)及び、追加的な組み込みのない(VAK367)を、プライマー
【化1】
を使用して、PCR増幅した断片のアガロースゲル。それぞれ予測される断片サイズを、ダ
イヤグラムの右側に示す。
C:グルコース(YPD)又はラクトース(YPLac)での10倍段階希釈(開始-OD1)による滴下試験
。インキュベーションはそれぞれ30℃及び37℃で行った。天然遺伝子座にKlGAL4コピーを
有する酵母株(VAK1139)、異所的な遺伝子座にKlGAL4コピーを有し、天然遺伝子座のKlGAL
4は欠損している酵母株(VAK1110)、KlGAL4コピーを有さない酵母株(ΔKlgal4;VAK964)、
又は2個のKlGAL4コピーを有する酵母株(VAK1168)の増殖を比較した。示されたのは、更な
るKlGAL4遺伝子の特定された組み込みのみが、生産力がほとんどない増殖欠陥をもたらす
ことである。前記欠陥は、37℃で誘導条件下でのみ視認できる。より明確なのは、KlGAL4
を完全に欠損した場合の増殖欠陥である。
【0061】
【
図2】
図2は、IBDV-VP2を産生する、追加的な異所的KlGAL4コピーを有するK.ラクティス株タンパク質の、ウェスタンブロット分析である。追加的なKlGAL4コピーの、LAC4-12プロモーター依存性組換えタンパク質産生への効果を、ウェスタンブロット法により分析した。使用した試験株は、IBDV-VP2発現カセットを有する酵母株であり、この酵母株を他のIBDV-VP2酵母株と比較した。異所的KlGAL4コピー、及びタンデムIBDV-VP2発現カセットの存在(+)又は不存在(-)(下記参照)を上段に示した。株VAK911内に、BstEIIを使ったプラスミドpLI-1の線状化により、異所性コピーが導入され(Krijgerら2012及び国際公開番号第2013107436号)、株VAK1130内には、異所的なKlGAL4コピーがKlAVT3遺伝子座に存在する(
図1参照)。酵母株VAK367は、異種遺伝子無しの野生型コントロールとして含まれている。酵母株は、YPD内で予備培養後に、YPLacで15時間培養した。SDS-PAGEを用いて、酵母株ごとに、タンパク質抽出物をそれぞれ20μg分析した。イムノブロット法を、抗IBDVウサギ血清(1:8000)及びヤギ由来のHRP結合抗ウサギ抗体(1:10000)を使用して行った。多量体的(agg.)及び単量体的(mon.)IBDV-VP2を、右側に矢印で示し、非特異性バンドはアスタリスクで示した。示されたのは、追加的なKlGAL4遺伝子の異所的な発現は、タンデム発現カセットの存在と同様に、異種抗原濃度の強い上昇をもたらすことである(下記も又、参照)。
【0062】
【
図3】
図3は、LAC4-12プロモーター内のLR2欠損が、非誘導の組換えタンパク質産生、及びグルコースでの酵母増殖に及ぼす効果を示す。非改変LAC4-12プロモーターも又、非誘導条件下でGOI(対象遺伝子(Gene of Interest))の基本的発現(basal expression)を示す。これは、細胞毒性的に作用する異種抗原の場合に、特に問題である。これら実験で試験したことは、LAC4-12プロモーターのBC領域内での欠損(LR2欠損)が、非誘導条件下では、組換えタンパク質産生を減少させるか完全に抑制できるかどうかである。A:LAC4-12プロモーター(P
LAC4-12)のダイヤグラム。基本制御領域(BCR)、LR2欠損及び4個のKlGal4-結合部位(上流活性化配列:U1、U2、U4、U5)及び、異種遺伝子(GOI)をコードする核酸配列も又、示されている。B:LR2欠損有り(VAK1131)及びLR2欠損無し(VAK1130)のIBDV-VP2酵母株を、非誘導条件下(YP3%EtOH)で培養した後のウェスタンブロット法。VAK1111を、異種遺伝子無しの野生型コントロールとして使用した。酵母株ごとに、タンパク質抽出物50μgを12%SDSゲル上に担持した。イムノブロット法を、抗IBDVウサギ血清(1:5000)及びヤギ由来のHRP結合抗ウサギ抗体(1:10000)を使用して実施した。担持したコントロールKlNop1は、マウス抗Nop1抗体(1:5000)及びヤギ由来のHRP結合抗マウス抗体(1:10000)を使用して検出した。C:YPD、0.5%グルコース含有YPD及びYPLacで、10倍段階希釈(開始-OD1)による滴下試験。インキュベーションは、それぞれ30℃及び37℃で行った。LAC4遺伝子座にインフルエンザA HA異種遺伝子を有する酵母株であって、LR2欠損の有るもの(VAK1243)及び無いもの(VAK952)の増殖を比較した。酵母株VAK367を、異種遺伝子無しの野生型コントロールとして使用した。示されたのは、LR2欠損が、好ましくない基本的異種タンパク質の発現を抑制したことである。更に又示されたのは、LR2欠損が、非誘導条件下と誘導条件下の両方で、細胞毒性タンパク質(インフルエンザヘマグルチニン、HA)を発現する酵母株の増殖を改善することである。これは特に37℃で明らかである。
【0063】
【
図4】
図4は、タンパク質発現カセットをK.ラクティスゲノムの異なる遺伝子座へ組み込むために使用できるKIpベクターを示す。LAC4遺伝子座(KIp3ベクターシステム)の使用は、既に記載されているが(国際公開番号第20101054649号及び国際公開番号第2013107436号)、KlURA3遺伝子座及びKlMET5遺伝子座の使用は新規である。A:ゲノム中にそれぞれ組み込み部位を有する、異なるKIpベクターのダイヤグラム。B及びC:本明細書で新たに記載されたKIpURA3(B)及びKIpMET5(C)ベクター内の発現カセット及び両隣接端。異なるDNA配列セグメント及び関連する制限部位を示す。GOI:異種遺伝子(対象遺伝子)。D:KIpベクター(A、B及びC)によって構築された、酵母株内の異種タンパク質発現のウェスタンブロット分析。ここで、異種遺伝子はEtx.B-HAである。酵母「ハウスキーピング」KlNop1タンパク質(KLLA0C04389g)を、担持コントロールとして検出した。酵母株は、YPD(+U)で予備培養後に、YPLac(+U)で4時間培養した。酵母株ごとに、タンパク質抽出物30μgを12%SDS-PAGE上に担持した。イムノブロット法を、モノクローナルマウス抗HA(1:5000)及び抗KlNop1(1:5000;サンタクルス、TX、米国)抗体及び又ヤギ由来のHRP結合抗マウス抗体(1:10000;Jackson ImmunoResearch,PA、米国)を使用して実施した。示されたのは、LAC4遺伝子座(国際公開番号第20101054649号及び国際公開番号第2013107436号)と同様に、KlURA3及びKlMET5遺伝子座の両方とも、異種遺伝子発現のために使用できることである。
【0064】
【
図5】
図5は、同じ酵母株内での、異なる組換えタンパク質の産生を示す。前記酵母株(VAK1234)を、KIpURA3及びKIp3-MCSベクターを使用して構築した。タンデムIBDV VP2発現型酵母株(下記参照)のタンパク質のウェスタンブロット分析であり、酵母株には、KIpURA3ベクターを利用して、異種遺伝子としてEtx.B-HAを有する追加的な発現カセットが導入されている(VAK1234)。使用されたコントロールは、ゲノム中に、Etx.B-HAを有する発現カセットを、LAC4に有する酵母株(VAK899)、若しくはKlURA3遺伝子座に有する酵母株(VAK1235)、又はタンデムIBDV-VP2発現カセットのみをLAC4遺伝子座に有する酵母株(VAK1171)である。酵母株は、YPDで予備培養後に、YPLacで6時間培養した。酵母株ごとに、タンパク質抽出物30μgを12%SDS-PAGE上に担持した。イムノブロット法でのタンパク質の検出を、Etx.B-HA用に、マウス抗HA抗体(1:5000;サンタクルス、TX、米国)及びヤギ由来のHRP結合抗マウス抗体(1:10000)を使用し、IBDV-VP2用に、ウサギ抗IBDV抗血清(1:5000;Granzowら(1997))及びヤギ由来のHRP結合抗ウサギ抗体(1:10000;Jackson ImmunoResearch,PA、米国)を使用して実施した。示されたのは、両方の異種タンパク質が同一の酵母細胞内で発現されたことである。驚くべきことに、一の抗原の発現レベルは、別の抗原の共発現によって制限されない。これは、一価及び二価株での発現レベルの比較から明らかである(同様に
図12参照)。
【0065】
【
図6】
図6は、異なって誘導された、KIpベクター内の発現カセット用のLAC4-12プロモーター変種を示す。KIpベクターの発現カセットが、LAC4-12プロモーターの異なる変種と共に提供された。タンパク質合成誘発の強さに対するプロモーター変種の効果を、異種遺伝子としてEtx.B-HAを有する、対応する発現カセットを含む酵母株の分析に基づいて試験した。A:プロモーター変種、異種遺伝子としてEtx.B-HAを有する関連するKIpURA3ベクター、及びそれらから構築された酵母株の概略図。BCR:転写アクチベーターKlCat8及びKlSip4、非誘導条件下での転写アクチベーター、の結合領域、U1、U2、U4、U5:転写アクチベーターKlGal4(上流活性化配列)のための結合領域。B:KIpURA3ベクターを使用して構築された、酵母株内のLAC4-12プロモーター変種(A)の特性決定のためのウェスタンブロット分析。酵母株は、YPDで予備培養後に、YPLacで4時間培養した。酵母株ごとに、タンパク質抽出物30μgを12%SDS-PAGE上に担持した。イムノブロット法を、モノクローナルマウス抗HA(1:5000)及び抗Nop1(1:5000)抗体及び又ヤギ由来のHRP結合抗マウス抗体(1:10000)を使用して実施した。示されたのは、異種遺伝子の発現率は、使用されたプロモーターの性質に依存して変化することである。
【0066】
【
図7】
図7は、タンデム発現カセットによる異種遺伝子コピー数の2倍化が、組換えタンパク質産生に及ぼす効果を示す。タンデム発現カセットによる異種遺伝子コピー数の増加が、組換えタンパク質産生(IBDV-VP2)に及ぼす効果を試験した。A:タンデム発現カセットの概略図。DNAセグメント及び関連する制限部位が示される。GOI:異種遺伝子(対象遺伝子)。B:ScURA3選択マーカーを利用したランダム組み込みのための、(A)由来のタンデム構築物が示される。C:タンデム発現カセットを有する酵母株(VAK1118)(A)内、及び一個の異種遺伝子コピーのみを含む発現カセットを有する酵母株(VAK910)内での、IBDV-VP2タンパク質産生を比較するウェスタンブロット分析。酵母株はYPDで予備培養後に、YPLacで3時間又は6時間培養した。酵母株ごとに、タンパク質抽出物60μgを12%SDS-PAGE上に担持した。イムノブロット法を、抗IBDVウサギ血清(1:10000)及びヤギ由来のHRP結合抗ウサギ抗体(1:10000)を使用して実施した。多量体的(agg.)及び単量体的(mon.)IBDV-VP2を、右側に矢印で示し、非特異性バンドはアスタリスクで示した。D:ランダムに組み込まれたタンデムIBDV-VP2発現カセットを有する酵母株(B)を、1個の発現カセットを有するKIp3-MCS構築された酵母株(VAK910)及び又それに由来し、追加的なKlGAL4-1コピー(pLI-1)を有する酵母株と比較したウェスタン分析。酵母株は、YPDで予備培養後に、YPLacで8時間培養した。イムノブロット法を、下記(b)で記載したように実施した。示されたのは、タンデム発現カセットの使用は、異種タンパク質の発現率を著しく上昇させることである。
【0067】
【
図8】
図8は、対立遺伝子Klura3-20及びKlmet5-1(A)の遺伝子機能を回復するための遺伝子断片を示す。KlURA3(A)及びKlMET5(B)のために、特定されたプライマーを使用して増幅された遺伝子座及び遺伝子断片を概略的に示す。これらの遺伝子断片を用いて相同組換えにより再構築された、対立遺伝子Klura3-20(A)及びKlmet5-1(B)の突然変異は、遺伝子下の星印で示す。サブクローニングされた断片を切り出す部位である制限部位が組み入れられる(drawn in)。このダイヤグラムは、URA3又はMET5遺伝子座で原栄養性異種遺伝子を発現する酵母株を作製する戦略を示す。
【0068】
【
図9】
図9は、表1及び表2と組み合わせて、古典的プライムブーストワクチン接種スキームにおけるニワトリのvvIBDVに対する防御的(予防)免疫化を示す。2つの実験(A及びB)において、少なくとも16羽のSPFニワトリ群に、遺伝子的に最適化したタンデムIBDV-VP2のK.ラクティス酵母株VAK1127の、凍結乾燥及び熱不活化した酵母細胞で、プライムブースト法により、皮下にワクチン接種した。最初のワクチン接種を孵化の2週間後に行い(プライム)、その二週間後に第二の接種(ブースト)を行った。ブーストの二週間後、vvIBDV株(高度に強毒性89163/7.3)によるウイルスチャレンジを行った。感染コントロールとされた1の対象群へは、PBSのみ又はアジュバントのみを投与する模擬処置を行った。実験1(A)では、野生型酵母(VAK367)も又、コントロールとして投与した。1群当たり少なくとも7羽、実験2(B)では少なくとも5羽のニワトリを、ウイルスチャレンジ無しのコントロールとした。血清を、最初の投与直前、チャレンジの直前直後、及びそれ以外の10日間隔で採取した。セロコンバージョン(抗体陽転)強度をELISA(ProFLOK IBD Plus, Synbiotics)により決定した。キット情報に従い転換した力価を示す。A:実験2を実験1(A)と同じように行った。12羽の動物のELISA力価の平均値を、標準偏差と共に示す。両実験とも、VAK1127ワクチン接種された動物の場合に抗IBDV VP2抗体の力価が強くなる成果を示している。関連する表に、ワクチン接種された動物の、vvIBDVでのチャレンジに対する防御結果をまとめる。両方のワクチン接種実験において、ウイルス感染に対する完全防御が達成可能であった。
【0069】
【
図10】
図10は、原栄養性回復のための遺伝子改変が、タンデムIBDV-VP2酵母株の、組換えタンパク質産生量及び免疫原性に及ぼす効果を示す。栄養要求性タンデムIBDV-VP2酵母株VAK1127及び、それから由来する原栄養性酵母株VAK1171を、組換えタンパク質産生及び免疫原性の効率の点から比較した。A:新たに採取した酵母材料中のIBDV-VP2含有量を確認するためのウェスタンブロット分析。酵母株はYPDで予備培養後に、YPLacで8時間培養した。酵母株ごとに、タンパク質抽出物40μgを12%SDS-PAGE上に担持した。イムノブロット法を抗IBDVウサギ抗血清(1:10000)及びヤギ由来のHRP結合抗ウサギ抗体(1:10000)を使用して実施した。凝集的(agg.)及び単量体的(mon.)IBDV-VP2を、右側に矢印で示し、非特異性バンドはアスタリスクで示した。B: 凍結乾燥され、熱不活化した酵母材料内のIBDV-VP2含有量を確認するためのウェスタンブロット分析であり、その酵母材料は、その後、BALB/cマウスでの免疫化研究で使用された(C)。酵母株はYPDで予備的な予備培養後に、YPLacで15時間培養した。酵母株ごとに、タンパク質抽出物10μgを12%SDS-PAGE上に担持し、他方で、イムノブロット法を前記(A)のように実施し、対応するバンドを示す。C: BALB/cマウスでの免疫化実験における、二種の酵母株VAK1127及びVAK1171の免疫原性試験。5頭のマウス群それぞれを3回、前記分析した(B)酵母材料0.1mg(乾燥重量)を、皮下でワクチン接種した。使用したコントロールは、抗原無しの野生型株(VAK367)である。最初の投与を、アジュバントとしてCFA(完全フロイントアジュバント)を用いて行い、更に2回、2週間隔で、アジュバントとしてIFA(不完全フロイントアジュバント)を用いて行った。3回目の投与の1週間後に、マウスを安楽死させて採血した。血清をIBDV-VP2 ELISA(IDEXX)により分析した。抗IBDV-VP2抗体力価と相関している650nmでの吸収を、標準誤差と共に示す。モノクローナル抗IBDV-VP2抗体(正、mab64)をELISAのための正のコントロールとして使用し、サンプル緩衝液(負1)又は非特異性抗体(負2)をのコントロールとして使用した。示されたのは、両方の株の異種タンパク質発現レベルは類似であり、かつ免疫原性の可能性を示したことである。
【0070】
【
図11】
図11は、表3と組み合わせて、遺伝子的に最適化したIBDV-VP2ワクチン酵母を、1回、皮下投与することによる、SPFニワトリのvvIBDVへの防御的(予防)免疫化を示す。少なくとも18羽のSPFニワトリ群に、遺伝子的に最適化したタンデムIBDV-VP2のK.ラクティス酵母株VAK1171の、熱不活化した細胞10mgを、孵化後2週間で皮下に1回、ワクチン接種した。使用したコントロールは、PBS又はVAK367を10mgワクチン接種した動物である。動物へ、孵化後2週間及び4週間の2回、ワクチン接種した。孵化6週間後に、全ての動物へvvIBDVチャレンジを行った。血清は、前記のようにELISA(ProFLOK IBD Plus, Synbiotics)により分析した。確認された抗体力価を示す。個々の点は、群ごとに分析した12羽のニワトリの個々の抗体力価を表し、棒は、標準偏差と共に平均値を表す。コントロールの場合、生き残ったニワトリの抗体力価のみが、チャレンジ後に確認された。示されたのは、酵母サブユニットワクチンVAK1171の「単回接種」ワクチン接種のみが、それ以降のvvIBDVへの曝露に対して完全な防御を達成することである。
【0071】
【
図12】
図12は、株VAK952及びVAK1283の特性決定を示す。(A)酵母株VAK952(一価HA)及びVAK1283(二価HA、M1)を、振とうフラスコ内のYPDで予備インキュベートし、次にYPL内で6時間誘導した。600nmでの光学密度を測定し、培養体の30 ODユニットを採取し、ガラスビーズを用いてペレットを破壊し、可溶性タンパク質画分(LF)及び不溶性タンパク質画分(P、ペレット)を、イムノブロット法で検査した。使用した主たる(primary)抗体は、α-HA1又はα-M1であり、使用した二番目の(secondary)抗体は、α-マウス-IR-Dye800CWである。シグナルは、赤外線画像システム(LI-COR Biosciences)によって作成した。(B、C)酵母株を、振とうフラスコ内のYPDで予備インキュベートし、次にYPL内で24時間、誘導した。所定の時点で、酵母培養体の光学密度を決定し、30 ODユニットを採取した。(B)VAK1283ペレットをガラスビーズを用いて破壊し、イムノブロット法で分析した。(C)VAK952及びVAK1283の光学密度の測定値を、時間の関数である成長カーブとして組み合わせ、少なくとも2個の独立した実験から平均化した。(D)ドットテストでは、酵母株をYPD含有栄養寒天プレート上で、30℃で48時間培養した。1 ODユニットから開始し、酵母を段階希釈し、次にYPD含有、又はYPL含有栄養寒天プレート上に滴下した。プレートを30℃で48時間培養し、次に写真を撮影した。Ponceau S:各画分、担持コントロールの全酵母タンパク質の染色。示されたのは、VAK952(一価HA)及びVAK1283(二価HA、M1)が、HAタンパク質を同等の量で発現することである。更に示されたのは、VAK1283及びVAK952は同等の増殖特性を示すが、VAK1283がわずかに優れていることである。
【0072】
【
図13】
図13は、VAK952(一価HA)及びVAK1283(二価HA、M1)による免疫化後、曝露感染前及び後の、BALB/cマウスの血清中の抗体力価を示す。両方の酵母株を、振とうフラスコ内のYPDで予備インキュベートし、次にYPL内で12時間(VAK952)又は6時間(VAK1283)誘導した。その後、培養体を採取し、凍結乾燥し、酵母材料を90℃で2時間かけて不活化した。免疫化のために、9週齢のメスのBALB/cマウスへ、2回(プライムブースト)若しくは1回(単回接種)、2mgの酵母(VAK952、VAK1283)若しくは1mgのVAK1283、又はPBS(アジュバント無し)を2回、3週間の間隔で、皮下へワクチン接種した。使用したアジュバントは、AddaVaxである。最終投与後3週間又は6週間で、動物を、5xMLD
50のインフルエンザA/PR/8/34(H1N1)ウイルスで鼻腔内感染させた。用いた感染コントロールは、ウイルス無しPBSのみを鼻腔内投与して模擬感染させた動物(模擬)である。最終投与3週間又は6週間後、かつ曝露感染中に、動物の血清を採取し、VNTにより中和抗体(nAb)を試験した。nAb力価
50:ウイルス無しコントロールと比較して、プラーク数を50%減少させる血清希釈。対応する血清希釈のlog
2として特定される。対数プロットのため、力値:log
2(2)=1は、検出可能な抗体が無い血清サンプルとされた。mAb:試験システムコントロール(α-H1(H37-66))。示されたのは、両方の免疫化スキームは、中和抗体(Ab)の著しい誘発をもたらすことである。更に又、プライマー-ブーストワクチン接種実験及び単回接種ワクチン接種実験の場合に得られた中和抗HA抗体力価は、VAK952及びVAK1283の場合とも、著しく異ならないことが明らかである。
【0073】
【
図14】
図14は、VAK952(一価HA)及びVAK1283(二価HA、M1)で免疫化後のインフルエンザA/PR/8/34(H1N1)での曝露感染を示す。最終投与後3週間又は6週間で(免疫化スキームのための
図13参照)、BALB/cマウスを5xMLD
50のインフルエンザA/PR/8/34(H1N1)ウイルスで鼻腔内感染させた。使用した感染コントロールは、ウイルス無しPBSのみを鼻腔内投与して模擬感染させた動物(模擬)である。その後、動物の、生存率(A)、重量(B)及び臨床的症状(C)を、毎日複数回、14日間にわたって検査した。臨床的な症状については、各群で平均化した0~4のスコアを決定した(0:異常なし、1:わずかに毛並みが悪い、2:毛並みが悪く、活動減少、3:毛並みが悪く、15%体重減少、4:毛並みが悪く、20%を超える体重減少)。示されたのは、VAK952でのプライムブースト免疫化法は、ウイルス曝露に対して最適な防御を提供しない一方、VAK1283は最適な防御を提供することである。両方のワクチンでの単回接種スキームは、2mgのワクチン投与で最適な防御を生じた。1mgが投与された場合でも、VAK1283が達成する防御率は、プライムブースト方法で2mgのVAK952投与のものと類似であった。
【実施例0074】
(実験的実施態様)
(実施例1:互いに結合していない複数の遺伝子座へ安定に組み込まれた二個のKlGAL4遺伝
子コピーを有する宿主株の作製)
選択マーカー無しに第二のKlGAL4遺伝子コピーを、異なる遺伝子座へ(異所的に)挿入し
た。シークエンシングにより、KlAVT3遺伝子(KLLA0E13795g)内への挿入位置を位置決めす
ることが可能である(Klavt3::KlGAL4-1、配列番号:1)(
図1)。得られた株は、VAK1111と名
付けた。染色体E(異所性コピー)及びD(ゲノム本来のコピー)上にある2個のKlGAL4コピー
のそれぞれ独立的な減数分裂的分離を、交叉実験して確認した。更に、同じ実験で、この
ゲノム内のKlGAL4-1遺伝子コピー数が正確に2個であると確立された。VAK1111を、VAK367
-D4と同様に、LAC4遺伝子座への発現カセットの標的組み込みに使用するために、一段階
処理が可能なlac4::ScURA3破壊を導入し、ラクトース増殖に対する選択下で、マーカー無
しでKIpベクター技術を使用して目的とする異種遺伝子をLAC4プロモーター及びLAC4リー
ディングフレームの間へ組み込むことができた(Krijgerら(2012))。得られた株VAK1123は
、第2の異所的なKlGAL4遺伝子コピーを有する点でのみ、VAK367-D4とは異なる。
【0075】
(実施例1.1:追加的に組み込まれたKlGAL4遺伝子を有する酵母ワクチン株の改善された生
産性)
一の例示的な実施態様では、IBDV-oVP2
T2S(Arnoldら(2012))遺伝子が、株VAK1123のLAC
4遺伝子座へ挿入された(作製された株はVAK1130)。1個のKlGAL4コピーのみを有する以外
は遺伝的背景が同質の株(VAK910)と比較して、IBDV-VP2の増加した生産を確立することが
できた。比較のために、KlGAL4遺伝子は1個のみだが2個のCDS VP2
IBDVコピーを有する株V
AK1118(下記参照)を追加的に示す(
図2)。
【0076】
(実施例2:細胞変性効果を有する抗原の発現を最適化するための、基本的活性が低下した
P
LAC4-12LR2’プロモーター)
微生物内での異種タンパク質の産生は、これが細胞変性効果(CPE)につながる場合に
問題がある。従って、直面する課題は、抗原産生フェースを生物量蓄積フェースから切り
離す方法を見つけることである。誘導可能なLAC4プロモーターのおかげで、これは流加培
養発酵プロセスによって部分的に可能だが、非誘導条件下ではプロモーターP
LAC4-12が完
全に不活化されないために、全体として妨げられている。非常に強力なCPEを有する抗原
の場合、増殖率の低下、及び細胞性ストレス応答の誘発が発生し、抗原産生へ悪影響を及
ぼす。この問題は、KlGAL4遺伝子投与量の2倍化及び/又は抗原をコードする配列数の増
加によって悪化する(下記参照)。解決策は、-1065及び-1540間のプロモーターP
LAC4-12(
図3A)の基本制御領域(BCR)(Mehlgartenら(2015))を削除することである(LR2欠損
;P
LAC4-12-LR2’;配列番号:2)。前記欠損は、出発株VAK367(1個のKlGAL4コピー)及びVA
K1111(2個のKlGAL4コピー)のゲノム本来のLAC4遺伝子座へ、lac4::ScURA3破壊と共に導入
された。得られた株VAK1109及びVAK1124は、CPEを有する抗原の発現に適している。プロ
モーターP
LAC4-12LR2’も又、組み込み型ベクターKIpURA3-Et及びKIpMET5-Etへ挿入され
た(下記参照)。
【0077】
(実施例2.1:改変されたプロモーターによる抗原の基本的(非誘導)発現の阻害)
1個のタンデムIBDV-VP2発現カセットがVAK1124へ組み込まれた(作製された酵母株:VAK
1131;用語「タンデム発現カセット」説明のために下記及び
図7参照)後、LAC4-12プロモ
ーター内のLR2欠損は、非誘導条件下でVP2タンパク質産生の強力な低下へ導くことを示す
ことができた(
図3B)。インフルエンザA抗原ヘマグルチニン(赤血球凝集素)を発現する株(
プロモーター内にLR2欠損の無いVAK952、プロモーター内にLR2欠損を有するVAK1243)によ
り、LR2欠損の結果、インフルエンザA HA抗原の細胞変性効果が抑制され、非誘導条件下
での増殖が改善されることを示すことができた(
図3C)。
【0078】
(実施例3:K.ラクティスゲノム内への、複数の発現カセットの標的組み込みのための多用
途ベクターシステム)
前記VAK367-D4(Krijgerら(2012)、国際公開番号第20101054649号)のように、酵母株VAK
367は、本明細書に記載する全てのK.ラクティス菌株の遺伝子的背景を形成する。この株
の背景は、ウラシル及びメチオニンを要求するものであり(ウラシル及びメチオニン栄養
要求性)、それは2個の遺伝子KlURA3(KLLA0E22771g)及びKlMET5(KLLA0B03938g)内の突然変
異、Klura3-20(+345位の塩基対欠失)及びKlmet5-1(G2555A及びA3682T)と称される対立遺
伝子(この対立遺伝子は、機能欠損遺伝子変種である。)があるためである。
【0079】
これらの変異性の対立遺伝子は、既にKIp3/KIp3-MCSで開発された組み込み部位LAC4(Kr
ijgerら(2012))とは別の、標的組み込みのための更なる複数の遺伝子座を使用するため、
そしてそれにより多価ワクチン株を作製するために、使用された(
図4A)。選択は、これら
変異した遺伝子の遺伝子機能を回復することにより、選択マーカーの追加的な挿入無しに
、達成できる。この目的のために、新規な組み込み型ベクターが作製された。前記ベクタ
ー内では、発現カセット(それぞれの場合に、LAC4-12プロモーター又はそれらの変種の制
御下で)は、相同組み換えによる、KlURA3遺伝子の上流組み込み及びKlMET5遺伝子の下流
組み込みを可能とする遺伝子セグメントに隣接していると同時に、それら遺伝子の野生型
配列を回復させる。
突然変異誘発による組み込み部位、及び代替的な成長物質のための栄養要求性選択によ
って、更に複数の遺伝子座を、同様に開発することができる。
【0080】
(実施例3.1:Klura3-20及び/又はKlmet5-1対立遺伝子を有するK.ラクティス株の、KlURA
3(KLLA0E22771g)及び/又はKlMET5(KLLA0B03938g)遺伝子座への発現カセット(誘導可能な
LAC4-12プロモーターを有する)の標的組み込みのためのベクターKIpURA3及びKIpMET5)
組み込み型発現ベクターKIpURA3(配列番号:3)及びKIpMET5(配列番号:4)を、Klura3-20
及びKlmet5-1対立遺伝子それぞれの機能の標的とする回復を可能とする適切な遺伝子断片
(KlMET5/KlURA3標的配列)によって、構築した。
【0081】
KIpMET5発現ベクターは、LAC4-12プロモーター(P
LAC4-12又はその変種)、発現される抗
原をコードする核酸配列、及びAgTEF1ターミネーターからなる発現カセットを含み、それ
は、導入されたScCYC1ターミネーターを有するゲノム本来のKlMET5断片の下流に隣接し、
下流KlAIM18遺伝子を有するKlAIM18プロモーターの上流に隣接する。
KIpURA3発現ベクターは、LAC4-12プロモーター(P
LAC4-12又はその変種)、発現される抗
原をコードする核酸配列、及びAgTEF1ターミネーターからなる発現カセットを含み、それ
は、関連するプロモーターを有するKLLAOE22749gの下流に隣接し、下流KlURA3断片を有す
るKlURA3プロモーターの上流に隣接する(
図4B、C)。
【0082】
いずれの場合も、抗原をコードする配列は、AscI及びNotI制限部位を介してプロモータ
ーとターミネーターの間でクローニングされる。作製されるプラスミドのEco91I又はKpnI
制限により、発現カセット全体がKIpURA3ベクターバックボーンから分離され、又、作製
されるプラスミドのHindIII又はBoxI制限により、発現カセット全体がKIpMET5ベクターバ
ックボーンから分離され、制限材料がKlura3-30及び/又はKlmet5-1対立遺伝子を有するK
.ラクティス宿主株へ形質転換される。このようにKlURA3-20又はKlMET5-1内へ組み込まれ
た異種遺伝子含有発現カセットは従って、KIp3-MCSベクターによりVAK367-D4内のLAC4へ
組み込み可能なもの(国際公開番号第20101054649号)、そのものに対応する。ウラシル原
栄養性及び/又はメチオニン原栄養性形質転換体の確認は、KIpMET5形質転換体にはプラ
イマーMAB6及びVK211を使用し、KIpURA3形質転換体にはプライマーMAB6及びVK71を使用し
て、コロニーPCRにより標準的な方法で行われる。発現カセットを、KlURA3又はKlMET5及
びそれぞれの隣接遺伝子との間の正確な標的部位へ組み込むことにより、サイズ1652bpの
KIpMET5形質転換体及び、サイズ1307bpのKIpURA3形質転換体の産物を得る。この挿入によ
って、隣接遺伝子の機能性が損なわれた兆候は確認されなかった。
【0083】
【0084】
(実施例3.2:コーディング遺伝子カセットのKlURA3又はKlMET5遺伝子座への組み込み後の
異種抗原の発現)
P
LAC4-12プロモーター制御の下で、異種遺伝子は、LAC4、KlURA3及びKlMET5遺伝子座へ
組み込まれた後に、ラクトースによりほとんど同程度に強力に誘導される。大腸菌(E.col
i)由来の、熱に不安定で無毒のエンテロトキシンサブユニットB(Etx.B)及びC末端の(HA
)
3エピトープ(Etx.B-HA)を、ベクターシステム評価のための試験タンパク質として使用
した。コード配列をベクターKIpMET5、KIpURA3及びKIp3-MCSにクローニングし、遺伝子座
KlMET5(VAK1251)、KlURA3(VAK1235)及びLAC4(VAK899)に組み込んだ(
図4D)。ウエ
スタンブロット法で示されるように、3個の株すべてのEtx.B-HAタンパク質の濃度は非常
に似ている(
図4D)。従って、ゲノム内の発現カセットの組込み部位に依存して、組換え
タンパク質産生の量に対する位置的効果を確立することはできなかった。
【0085】
(実施例3.3:同じ酵母細胞内での、2個の異種抗原の共発現)
新規なベクターシステムにより、同一酵母株内でP
LAC4-12プロモーター制御の下での異
なる異種タンパク質を産生する可能性を、KlURA3遺伝子座にEtx.B-HA発現カセット、及び
LAC4遺伝子座にタンデムとして存在する2個のVP2
IBDVコピーを有する発現カセットを有す
る酵母株の構築により示すことができた(VAK1234;
図5、タンデムカセット説明は下記及
び
図7参照)。それぞれゲノム内に発現カセットが1個だけ存在する酵母菌株(VAK1235又は
VAK1171)と比較して、VAK1234の場合のEtx.B-HA又はVP2
IBDVのタンパク質濃度の低下は
確認できなかった。
【0086】
(実施例4:類似の誘導条件下で組換えタンパク質合成を調節するためのLAC4プロモーター
変種)
抗原の免疫原性効果は、しばしば非化学量論比での複数のタンパク質の集合(assemblin
g)に基づく。これを酵母ベースワクチンで可能にするために、ラクトース又はガラクトー
スにより異なって誘導できるP
LAC4-12LR2’プロモーターの変種を作製した(
図6A)。それ
らは、アクチベーターKlGal4(U1、U2、U4、U5;Godeckeら(1991))の結合部位数と、基本
制御領域BCRの有無によって特徴づけられる。KIpURA3ベクターに挿入された
図3Aに示され
る構築物に加えて、更なる結合部位の挿入によりプロモーター強度が上昇したプロモータ
ー変種を作製することも可能であった。その結果は、このベクターシステムを拡張できる
ラクトース誘導可能な合成プロモーターであり、同じ誘導条件下で異なるタンパク質産生
又は遺伝子発現率の実現が可能である。
【0087】
(実施例4.1:様々なLAC4プロモーター変種の制御下での異種抗原の発現)
4個のLAC4-12プロモーター変種の制御下でのEtx.B-HAの発現。試験したのは、転写アク
チベーターKlGal4の結合部位の数が異なり、非誘導条件下での基本的発現の制御領域(基
本制御領域BCR;
図6A;配列番号:14)の有無が異なる4個のLAC4プロモーター変種である。
前記プロモーター変種を使用して、KIpURA3-Etベクター変種KIpURA3-PL412-Et、KIpURA3-
PL412LR2-Et、KIpURA3-PL4-Et及びKIpURA3-PL4LR2を作製し、それぞれEtx.B-HAタンパク
質を試験GOIとして挿入した。前記のとおり、代替のGOIの挿入は、制限部位AscI及びNotI
で可能である。発現カセットをKlURA3遺伝子座へ組み込み、Etx.B-HAのタンパク質濃度を
ウェスタンブロット法で定量化した(
図6B)。示されたのは、同一の誘導条件下で(ラクト
ース含有完全培地で4時間)、LAC4及びLAC12遺伝子間に完全な遺伝子間領域を含み、4個の
KlGal4-結合部位(U1、U2、U4、U5)(Godeckeら(1991))を含む最長のプロモーター変種P
LAC
4-12は、最高のタンパク質濃度をもたらすことである。LAC4の近位にある2個のU1及びU2
結合部位(-1064~-10)だけが存在する場合、BCR(-1540~-1065)の追加的な欠損は同様に
、誘導条件下でのタンパク質減少効果を有する。
【0088】
(実施例5:抗原をコードする遺伝子のコピー数上昇による抗原産生の増加)
従って、前記のベクターシステムは、迅速に効率良く複数の遺伝子コピーを連続して結
合するため、及びこの発現カセットを3個の遺伝子座の一か所へ一段階で導入するために
、改変された(
図7A)。
LAC4遺伝子座で組み込み可能なタンデム発現カセットを作製するために、3個のPCR増幅
断片を、目的とする任意のKIp3(-MCS)-GOIテンプレートにより、一段階で融合した(in-fu
sionクローニング):(1及び2) P
LAC4-LR2及びT
TEF(プライマー:VK30及びVK31、及び、VK32
及びVK33)、並びに(3)LAC4標的配列(VK34及びVK35))を含む発現カセット。例えばHpaIを
使用して制限(処理)後、タンデム発現カセットを、記載されたようにlac4::URA3遺伝子座
に組み込むことができる(
図7)。発現カセット組み込み成功後、最初の異種遺伝子コピー
は、出発株に応じてP
LAC4-12又はP
LAC4-12-LR2のいずれかによって調節され、第二の遺伝
子コピーはP
LAC4-LR2によって調節される。その代わりに、2個の発現カセット間の選択マ
ーカーを制限部位SmiI、MluI又はPmeIに挿入し、KpnIでLAC4標的配列を除去すると、KpnI
を介してLAC4標的配列を除去すると、NHEJを介して無向的にゲノム内に組み込まれるタン
デムカセットが作製される。MreI及びAvaIを使用して発現カセットを切り出した場合、適
合性のある末端がライゲートされて、それにより長く、複数の発現カセットを作製するこ
とができる。MreIとAvaIを使用して制限を繰り返すことにより、発現カセットがタンデム
(ヘッドツーテール)に配置された断片が、ライゲーションミックス内に富化する。それ
らは形質転換され、マーカー選択条件下で無向的に組み込まれる。
【0089】
【0090】
(実施例5.1:マルチコピー戦略が成功した使用)
この戦略は、抗原としてのIBDV-VP2及び、2個のIBDV-VP2をコードする配列(CDS-VP2
IBD
V)をタンデムで含有するKIp3由来の発現カセットを使用することにより確認した。KIp3ベ
クター(プラスミドKIp3-タンデム-oVP2
T2S、配列番号:21)内のタンデムIBDV-VP2発現カセ
ット(
図7A)は、KIp3-MCS-oVP2
T2S(Arnoldら、(2012))からの、VP2
IBDV(CDS-VP2
IBDV)のた
めの2個のLAC4プロモーター制御されたコード配列からなる。プロモーター配列は、最初
のコピー用のLAC4プロモーター領域-1123~-10、及び第二のコピー用の-1099~-10からな
る。両方のCDS-VP2
IBDVは、3’末端でAgTEF1ターミネーターと隣接している。プラスミド
KIp3-タンデム-oVP2
T2Sを、HpaIを使用して切断し、制限材料を株VAK367-D4内に形質転換
した。このようにして作製した酵母株VAK1118は、LAC4遺伝子座に組み込まれたタンデム
発現カセットを含む。ウェスタンブロット法で示されるように、遺伝的背景が同質で、1
個のコピーしか持たない株と比べて、前記株内ではより高いIBDV-VP2タンパク質濃度を示
す(
図7B)。タンデム発現カセットは、遺伝子的に高度に安定しており、誘導性媒体(YNB+
ラクトース)中で78世代を超えて増殖した後、PCR試験した100コロニーで、発現カセット
の遺伝子的変化を示したものは一つも無かった(データは示さない)。
【0091】
(実施例6:合成培地及び完全培地での単純発酵のためにK.ラクティス株の原栄養性を生み
出すためのツール)
行われた研究では、ウラシル栄養要求性酵母菌株は、完全培地ではウラシル原栄養菌株
よりも、より成長が貧弱であり、これは、ウラシルの添加によって部分的にだが中和され
る効果であることが明らかになった。ワクチン株の発酵を単純化するために、生産プロセ
スの確立を促進し、それらをより費用対効率の高いものにし、メチオニン及び/又はウラ
シルの不十分な取り込みによる増殖効果を回避するために、発見が求められるものは、目
的とする株構築に必要なこれら栄養要求性の中和を、迅速に再現性良く達成する方法であ
る。Klura3-20からKlURA3を再構成するために、プライマーVK67及びVK69、並びにテンプ
レートとして野生型KlURA3遺伝子を使用して、PCRによりDNA断片を作製した(
図8A)。Kl
met5-1対立遺伝子を修復するために、プライマーVK74及びVK75、並びにテンプレートとし
て野生型対立遺伝子KlMET5を用いて、PCR断片を同様に作製した(
図8B)。PCR断片を対応
する変異株に(個別又は一緒に)形質転換し、メチオニン無し及び/又はウラシル無しの
培地で選択すると、野生型対立遺伝子が高い効率で再構成される。このプロセスは、とり
わけ、株VAK1171及びVAK1400を作製するために実施された(上記参照)。
【0092】
【0093】
(実施例7:最適化され、不活化されたワクチン酵母による防御的免疫化)
実施例1~5で行われたK.ラクティスワクチンのプラットフォームの改変及び最適化は、
様々なワクチン接種研究で検証された。
【0094】
(実施例7.1:IBDV-VP2酵母株(VAK1127)の実施例を使用した、最適化したK.ラクティス
プラットフォームの免疫原性)
VAK1127株は、タンデムIBDV-VP2発現カセット(配列番号:21)、2個のKlGAL4コピー及びL
AC4プロモーター内のLR2欠損を含む。酵母菌株の免疫原性の特性決定のため、標的生物で
あるニワトリで免疫化実験を行った。チャレンジ実験では、Eterradossi及び同僚(1997
)によって良く特徴づけられた高度に強毒性の(vv)IBDV株89163/7.3(AFSSA、Ploufragan
、フランス)に対する、SPFニワトリの完全な防御が達成された(表1及び2)。この目的のた
めに、独立して行われた2個の実験では、1mgの凍結乾燥され、熱不活化された(2時間、90
℃)酵母(VAK1127)を、不完全フロイントアジュバント(IFA)と共に、2回(
図9A及びB)皮下
投与した(プライムブースト)。投与は、孵化後2週間及び4週間で行い、ウイルス曝露(チ
ャレンジ)を孵化後6週間で行った。19日後、VAK1127ワクチン接種した動物では、抗IBDV-
VP2抗体の高い力価が既に測定可能だった。コントロールでは、抗IBDV-VP2抗体の力価は
、vvIBDVチャレンジ後にのみ発生した(
図9)。両方の実験で、VAK1127ワクチン接種された
動物の、vvIBDVでのチャレンジに対する完全な防御(0%罹患率、0%死亡率)が観察された(
表1及び2)。これらの実験では、古典的プライマー-ブーストワクチン接種方法でサブユニ
ットワクチンを使用して、vvIBDVに対する防御を観察することができた。
【0095】
ワクチン酵母の免疫原性は、抗原を保有する原栄養酵母株への遺伝的復帰突然変異の影
響を受けない。これは、IBDV-VP2酵母株の栄養要求性型又は原栄養性型により、マウスの
ワクチン接種実験で実証できた(
図10C)。酵母株VAK1127(栄養要求性)を、前記のよう
に(実施例6;
図8)、VAK1171を作製するためのPCR断片を使用して2段階で原栄養性にし
た。両方の株型は、組換えタンパク質の発現レベルで著しい違いを示さない(
図10A及びB
)。マウスへ、0.1mgの熱不活化酵母をIFAと共に、2週間間隔で3回、皮下ワクチン接種し
た。栄養要求性のIBDV-VP2株(VAK1127)及び原栄養性の子孫(VAK1171)の間のセロコン
バージョンの強度に差を確立することはできなかった(
図10C)。
【0096】
(実施例7.2:「単回接種」スキームでのワクチン接種による完全防御)
「単回接種」ワクチン接種、即ち、一回のワクチン投与によるワクチン接種は、通常、
サブユニットワクチンでは免疫原性がないため効果的ではない。しかし、プライム/ブー
スト法で最適化した株VAK1127を使用して得られた抗体力価の研究データ(
図9)は、単回
接種アプローチでも保護が得られる可能性を示す。これは、原栄養性酵母菌株VAK1171を
使って単回接種でワクチン接種を行うことにより確認された(
図11;表3)。この目標を
達成するために、目的とする高い投与量で(10mg)、酵母を1回だけ投与し、その後4週間
間隔でチャレンジを行った。VAK1171では、vvIBDVに対する完全な防御が(罹患率0%、死
亡率0%)、「単回接種」を使用して実際に達成できることが明らかになった(表3)。こ
の結果は、ワクチン接種後約20日の高い防御的抗体力価の成果に起因させることができる
(
図11)。単回接種のワクチン接種スキームが、高い防御性でvvIBDVに対して防御すると
いう事実は、使用されたワクチンの強力な免疫原性の可能性を示し、最適化したワクチン
プラットフォームの素晴らしい検証を提供する。
【0097】
(実施例7.3:インフルエンザAウイルス感染に対して使用した場合の、一価酵母ワクチン
と比較した二価酵母ワクチンの防御の改善)
A型インフルエンザウイルスに対するワクチン接種を行うために、3個の異なるワクチン
株を作製した。最初に、インフルエンザA株(プエルトリコ/8/1934;PR8/34)の主要抗原
、HA(ヘマグルチニン)遺伝子を発現するVAK952(DSM32705)を作製した。VAK952では、
Krijgerら(2012)及びArnoldら(2012)が記載したように、遺伝子はゲノムのLAC4遺伝子座
に組み込まれている。二番目に、VAK1283(DSM32697)を作製した。ここでは、LAC4遺伝
子座のPR8/34からのHA遺伝子に加えて、M1遺伝子が更にURA3遺伝子座に組み込まれている
。M1遺伝子は、HAよりも明らかに保存されている、更に重要なインフルエンザA抗原をコ
ードしている。既に出版されている報告では、両方の抗原を組み合わせると、インフルエ
ンザAに対するワクチンの免疫原性を高め、かつ異なるインフルエンザウイルスに対する
交差防御性を達成できることが、示されている。この態様を二価酵母ワクチンで検証する
ために、URA3遺伝子座にM1遺伝子を同様に含み、PR8/34からのHA遺伝子がインフルエンザ
ウイルス(カリフォルニア/4/2009)のHA遺伝子で置き換わっている、株(VAK1395;DSM3270
6)を更に作製した。それぞれの株でのHAの同等の発現とM1の追加的発現が確認された。ま
た、これら株は同等の増殖を示し、VAK1283はVAK952よりもわずかに優れていることが示
された(
図12)。マウスモデルで、異なる酵母濃度のプライムブーストスキーム及び単回
接種スキームがそれぞれのケースで使用されたワクチン接種研究では、VAK952とVAK1283
がそれぞれ同等のウイルス中和抗体の力価を誘発することが示された(
図13)。しかし、
チャレンジ実験では、二価VAK1283ワクチンがプライムブーストスキーマと単回接種スキ
ーマの両方で最大の防御を可能にすることが明らかになり、これは一価VAK952ワクチンの
場合とは異なる。更に、使用した酵母材料の半分での単回接種実験で、ワクチンVAK1283
を使用すると、プライムブーストアプローチのVAK952と同様の防御的効果が達成された(
図14及び表3)。VAK1395をワクチンとして使用した実験では、インフルエンザPR8/34に対
する防御を確立することも可能だった。従って、異なるインフルエンザ変種に対する交差
防御は、二価酵母ワクチンを使用して達成された。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
(表1のための注記)
(a)孵化後2週間のニワトリへ、1mg酵母(又はPBS)及びアジュバントとしてIFAを、皮下へ
ワクチン接種した。ワクチン接種の2週間後、同様にブーストした。更に2週間後にウイル
ス曝露試験を、104 EID vvIBDV(高度に強毒性89163/7.3)を用いて眼鼻経路を介して行っ
た。不活化した株VAK1127酵母全体をワクチン酵母として使用し、PBS及びIFAのみでワク
チン接種した群を感染コントロールとして使用した。抗原を含まない野生型酵母(VAK367
)を投与した群は、酵母効果のみのコントロールとして使った。
【0102】
(b)病理組織学的嚢病変評価を、0~4のスケールを使用して行った。0:病変なし。1:濾
胞の5~25%が影響を受けた。2:濾胞の26~50%が影響を受けた。3:濾胞の51~75%が
影響を受けた。76~100%の嚢損傷(構造の喪失)。
【0103】
(c)嚢重量対体重指数(bu/bod)の平均値は、式:(嚢重量/体重)×1000を使用して計
算した。非曝露コントロール群は、少なくとも7羽のニワトリからなり、曝露群は10羽か
らなる。標準偏差も表示する。
【0104】
(d)罹患率を、群全体のニワトリ数あたりの罹患ニワトリ数として表す。罹患ニワトリの
百分率を括弧内に示す。
【0105】
(e)死亡率を、群全体のニワトリ数あたりの死亡ニワトリ数として表す。死亡ニワトリの
百分率を括弧内に示す。
【0106】
(表2のための注記)
(a)孵化後2週間のニワトリへ、1mg酵母(又はPBS)及びアジュバントとしてIFAを、皮下へ
ワクチン接種した。ワクチン接種の2週間後、同様にブーストした。更に2週間後にウイル
ス曝露試験を、104 EID vvIBDV(高度に強毒性89163/7.3)を用いて眼鼻経路を介して行っ
た。不活化した株VAK1127酵母全体をワクチン酵母として使用し、PBS及びIFAのみでワク
チン接種した群を感染コントロールとして使った。
【0107】
(b)病理組織学的嚢病変評価を、0~4のスケールを使用して行った。0:病変なし。1:濾
胞の5~25%が影響を受けた。2:濾胞の26~50%が影響を受けた。3:濾胞の51~75%が
影響を受けた。76~100%の嚢損傷(構造の喪失)。
【0108】
(c)嚢重量対体重指数(bu/bod)の平均値は、式:(嚢重量/体重)×1000を使用して計
算した。非曝露コントロール群は、少なくとも5羽のニワトリからなり、曝露群は9羽から
なる。標準偏差も表示する。
【0109】
(d)罹患率を、群全体のニワトリ数あたりの罹患ニワトリ数として表す。罹患ニワトリの
百分率を括弧内に示す。
【0110】
(e)死亡率を、群全体のニワトリ数あたりの死亡ニワトリ数として表す。死亡ニワトリの
百分率を括弧内に示す。
【0111】
(表3のための注記)
(a)孵化後2週間のニワトリへ、10mg酵母(又はPBS)及びアジュバントとしてIFAを、皮下へ
ワクチン接種した。4週間後にウイルス曝露試験を、104 EID vvIBDV(高度に強毒性89163/
7.3)を用いて、眼鼻経路を介して行った。不活化した株VAK1171酵母全体を1回酵母ワクチ
ンとして使用した。使用した感染コントロールは、第一はPBS及びMF59のみでワクチン接
種した群で、第二は野生型酵母及びMF59を最初のワクチン接種後2週間でワクチン接種し
た群であり、両者とも同量の酵母又はPBSを含有するブーストを投与した。
【0112】
(b)病理組織学的嚢病変評価を、0~4のスケールを使用して行った。0:病変なし。1:濾
胞の5~25%が影響を受けた。2:濾胞の26~50%が影響を受けた。3:濾胞の51~75%が
影響を受けた。76~100%の嚢損傷(構造の喪失)。
【0113】
(c)嚢重量対体重指数(bu/bod)の平均値は、式:(嚢重量/体重)×1000を使用して計
算した。各群は、少なくとも9羽のニワトリからなる。標準偏差も表示する。
【0114】
(d)罹患率を、群全体のニワトリ数あたりの罹患ニワトリ数として表す。罹患ニワトリの
百分率を括弧内に示す。
【0115】
(e)死亡率を、群全体のニワトリ数あたりの死亡ニワトリ数として表す。死亡ニワトリの
百分率を括弧内に示す。
【0116】
(配列)
本特許出願は、下記配列を記載の一部として含む。
【0117】
クルイベロマイセス・ラクティス(K.ラクティス)株の酵母ゲノム内へ、異種抗原をコードする核酸の標的クローニングをするための該ラクティス株であって、KlLAC4遺伝子座の代わりに又は追加して、KlURA3-20遺伝子座(KLLA0E22771g)に、及び/若しくはKlMET5-1遺伝子座(KLLA0B03938g)に、該異種抗原のために組み込まれた発現カセットを有することを特徴とする、前記K.ラクティス株。