(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016650
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】ホール素子センサおよびその調整方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/07 20060101AFI20230126BHJP
G01R 35/00 20060101ALI20230126BHJP
G01R 15/20 20060101ALI20230126BHJP
H10N 52/00 20230101ALI20230126BHJP
【FI】
G01R33/07
G01R35/00 M
G01R15/20 A
H01L43/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021139411
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】595176098
【氏名又は名称】甲神電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新地 信幸
【テーマコード(参考)】
2G017
2G025
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AD53
2G017BA07
2G017BA10
2G025AB02
5F092AB01
5F092BA00
5F092GA10
(57)【要約】
【課題】 IC技術により形成されたシリコンホール素子とホール素子駆動部と増幅アンプとデジタル制御部と不揮発メモリとを備えたホール素子センサの調整方法を提供する。
【解決手段】 ホール素子とホール素子駆動部と増幅アンプとデジタル制御部と測定部(ア)と測定部(イ)と不揮発性メモリとを備えることにより、電源電圧が起動する所定の時間内に印加される被測定磁界の特定の磁界変化によって、磁界に比例した電気信号を出力する通常動作モードと、前記出力の量の調整と調整量を不揮発性メモリに書き込むトリミング動作モードを有することで低コスト化と高品質化の効果を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホール素子とホール素子駆動部と増幅アンプとデジタル制御部と測定部(ア)と測定部(イ)と不揮発性メモリとを備え、被測定磁界の特定の磁界変化で前記ホール素子駆動部と前記増幅アンプとによって出力電圧を調整することを特徴とするホール素子センサ。
【請求項2】
前記測定部(ア)が電源電圧を測定し、前記デジタル制御部が前記測定部(ア)の測定した電源電圧の起動後に所定の電圧に確立している時間をカウントし、前記測定部(イ)が被測定磁界による出力電圧を測定することを特徴とする請求項1に記載のホール素子センサ。
【請求項3】
測定部(ア)が電源電圧を測定し、デジタル制御部が前記測定部(ア)の測定した電源電圧の起動後に所定の電圧に確立している時間内に、被測定磁界の特定の磁界変化で通常動作モードとトリミング動作モードとを判定することを特徴とする請求項1ないし請求項2のいずれかの一項に記載のホール素子センサ。
【請求項4】
ホール素子とホール素子駆動部と増幅アンプとデジタル制御部と測定部(ア)と測定部(イ)と不揮発性メモリとを備え、被測定磁界の特定の磁界変化で前記ホール素子駆動部と前記増幅アンプ部の調整量を前記不揮発性メモリに記憶することを特徴とする請求項1に記載のホール素子センサ
【請求項5】
電流線に特定の磁気変化を発生する電流を印可することで前記通常動作モードとトリミング動作モードとを判定することを特徴とする請求項1ないし請求項2のいずれかの一項に記載のホール素子センサを配置する電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はIC技術により製造されたシリコンホール素子と信号処理回路と不揮発性メモリとを備えたホール素子センサにおいて、検出する磁界に応じた前記ホール素子センサの出力電圧を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホール素子センサは磁石等で発生する磁界の強弱を検出してドアの開閉や回転角度を検出するだけでなく、電気モータの駆動電流に比例して発生する磁界を検出することで電気モータの可変速制御にも利用されており、特に電気モータの可変速制御では高精度な磁界検出が要求される。
【0003】
一般に、ホール素子センサは、ホール素子センサに備えられるシリコンホール素子のホール効果を利用して磁界を検出するセンサである。
また、ホール素子センサは、シリコンホール素子と、前記シリコンホール素子の磁界に比例した出力電圧を増幅する増幅回路と、磁界に比例した電気信号出力のゼロ点やスパン調整を行う調整回路と、ゼロ点とスパンの調整値を記憶する不揮発性メモリを備え、磁界に比例した電気信号を出力する通常動作モードと、ゼロ点とスパンの調整値等の調整情報を不揮発性メモリへ記憶するためのトリミング動作モードとを備える。
【0004】
前記トリミング動作モードは通常動作時よりも高い電圧で生成される3値の電圧による信号列を出力端子に印加することにより、物理量に比例した電気信号を出力する通常動作モードと不揮発性メモリへの調整情報を書き込むトリミング動作モードへのモード移行制御を行うものが提案されている。(例えば、特許文献1参照)
【0005】
また、ホール素子センサに備えられるリファレンス端子を、センサ回路の基準電位であるGND端子または回路の電源を印加するための電源端子に電気的に接続し、これにより発生した過電流を閾値判定することで、磁界に比例した電気信号を出力する通常動作モードと不揮発性メモリへ調整情報を書き込むトリミング動作モードとの移行制御を行うものが提案されている。(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4244886号
【特許文献2】特許第5999550号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているセンサ回路は磁界に比例した電気信号を出力する通常動作モードと不揮発性メモリへの調整情報を書き込むトリミング動作モードとの移行制御として出力端子に通常に使用する電圧よりもさらに高い電圧で生成される3値の電圧から成る信号列を印加し、その印加された信号列を分離する回路を備える必要があるため回路規模が増大する可能性がある。
【0008】
また、出力端子には、磁界量に比例した電気信号を出力する通常の動作よりも高い電圧で生成される3値の電圧から成る信号列を印加するため、出力端子は電源電圧よりも高電圧となることから回路の破損防止として保護回路の付加が必要となり回路規模が増大する可能性もある。
【0009】
また、特許文献2に記載されているセンサ回路は、磁界に比例した電気信号を出力する通常動作モードと不揮発性メモリへ調整情報を書き込むトリミング動作モードと移行制御するために専用のリファレンス端子を備えるため回路規模が増大する可能性もある。
【0010】
また、前記特許文献に記載のセンサ回路は、前記センサ回路を実装する製品においてゼロ点とスパンを微調整する際に調整情報を不揮発性メモリへ記憶するための通信回路を前記製品に設置するため低コスト化が困難である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のホール素子センサおよびその調整方法は、磁界に比例した電気信号を出力する通常動作モードと、特定の磁界変化によって不揮発性メモリへ調整情報を書き込むトリミング動作モードとを備え、前記トリミング動作モードへの移行をホール素子センサの電源起動直後に限定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のホール素子センサおよびその調整方法によると、磁界に比例した電気信号を出力する通常動作モードと、特定の磁界変化によって不揮発性メモリへ調整情報を書き込むトリミング動作モードとを備えることで、通常動作モードと不揮発性メモリへの調整情報を書き込むトリミング動作モードとの移行制御として出力端子に通常に使用する電圧よりもさらに高い電圧で生成される3値の電圧から成る信号列を印加し、その印加された信号列を分離する回路を備える必要がない。
また、通常の動作よりも高い電圧で生成される3値の電圧から成る信号列を印加し、出力端子が電源電圧よりも高電圧となることによる回路の破損防止の保護回路を付加する必要がない。
また、通常動作モードと不揮発性メモリへ調整情報を書き込むトリミング動作モードと移行制御するための専用端子を備える必要が無い。また、前記センサ回路を実装する製品においてゼロ点とスパンを微調整する際に調整情報を不揮発性メモリへ記憶するための通信回路を前記製品に設置する必要がないため低コスト化に顕著な効果を有する。
【0013】
また、前記トリミング動作モードへの移行をホール素子センサの電源起動直後に限定することで、通常の動作モードから誤ってトリミング動作モードに移行することを防止できるため高品質である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明によるホール素子センサを説明する構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すホール素子センサ1の動作図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すホール素子センサ1の設置図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明によるホール素子センサおよびその調整方法の好適な実施形態について説明する。
【0016】
本発明によると、磁界に比例した電気信号を出力する通常動作モードと、特定の磁界変化によって不揮発性メモリへ調整情報を書き込むトリミング動作モードとを備えることで、通常動作モードと不揮発性メモリへの調整情報を書き込むトリミング動作モードとの移行制御として出力端子に通常に使用する電圧よりもさらに高い電圧で生成される3値の電圧から成る信号列を印加し、その印加された信号列を分離する回路を備える必要がない。
また、通常の動作よりも高い電圧で生成される3値の電圧から成る信号列を印加し、出力端子が電源電圧よりも高電圧となることによる回路の破損防止の保護回路を付加する必要がない。
また、通常動作モードと不揮発性メモリへ調整情報を書き込むトリミング動作モードと移行制御するための専用端子を備える必要が無い。また、前記センサ回路を実装する製品においてゼロ点とスパンを微調整する際に調整情報を不揮発性メモリへ記憶するための通信回路を前記製品に設置する必要がないため低コストに実現可能である。
また、前記トリミング動作モードへの移行をホール素子センサの電源起動直後に限定することで、通常動作モードから誤ってトリミング動作モードに移行することを防止できるため高品質化が可能である。
【0017】
図1は、本発明によるホール素子センサを説明する構成図である。
図1のホール素子センサ1に配置されるシリコンホール素子は、前記シリコンホール素子に接続されるホール素子駆動部によって、電圧または電流が印加されることで被測定磁界に比例した電気信号を出力する。また、シリコンホール素子は製造上の形状アンバランスによりオフセット電圧(不平衡電圧)を有するが、後段の信号処理部に含まれる一般的なスピニングカレント処理によって前記オフセット電圧(不平衡電圧)は低減される。
また、信号処理部の後段に接続される増幅アンプによって任意の電気信号量に増幅される。
【0018】
増幅アンプの後段に接続される出力アンプは、前記電気信号量の出力能力を高めるものであって、前記増幅アンプと前記出力アンプは共通化することもできる。
また、前記出力アンプから出力される電圧は出力端子から外部に出力される。
【0019】
測定部(ア)は、電源電圧を測定して値をデジタル制御部に送る。
測定部(イ)は、前記出力アンプの出力電圧を測定して値をデジタル制御部に送る。
前記測定部(ア)及び測定部(イ)はADコンバータやコンパレータで構成されても良い。
【0020】
ホール素子センサ1に配置されるデジタル制御部は、前記測定部(ア)及び測定部(イ)と接続され、前記測定部(ア)が測定した電源電圧の起動後に所定の電圧が確立している時間をカウントする。また、前記測定部(ア)が測定した電源電圧が確立している時間が所定内であって、前記測定部(イ)が測定した前記出力アンプの出力電圧により特定の磁界変化を判定することで、磁界に比例した電気信号を出力する通常動作モードと、不揮発性メモリへ調整情報を書き込むトリミング動作モードの何れかを選択する。ここで述べた所定の電圧とは、例えば一般的な5Vのホール素子センサが安定的に動作する下限電圧の4.5Vとし、所定の時間は10msecとする。
前記トリミング動作モードでは、特定の磁界変化により、前記シリコンホール素子駆動部が前記シリコンホール素子に印加する電圧または電流の量を調整することで前記ホール素子センサ1の出力電圧を調整する。
また、前記増幅アンプの増幅率を調整することでも前記ホール素子センサ1の出力電圧を調整することができ、前記増幅アンプの増幅率の調整を前記ホール素子センサ1の出力電圧の粗調整とし、前記シリコンホール素子に印加する電圧または電流の量の調整を前記ホール素子センサ1の出力電圧を微調整することができる。
また、前記トリミング動作モードは、前記シリコンホール素子駆動部が前記シリコンホール素子の電圧または電流の量を調整した際の調整量や、前記増幅アンプの増幅率を調整した際の調整量を前記デジタル制御部と繋がる不揮発性メモリに記憶することができる。
また、前記不揮発性メモリに記憶した調整量は、前記ホール素子センサ1の電源電圧が確立する度にデジタル制御部に送られ、前記デジタル制御部は前記シリコンホール素子駆動部及び前記増幅アンプを前記不揮発性メモリに記憶した調整量を反映する。
【0021】
次に、
図2は、
図1に示すホール素子センサ1の動作図である。
ホール素子センサ1は電源電圧が確立してから動作状態はモード判定時間に移行する。前記モード判定時間は出力電圧が特定の磁界変化によるものか判定する。前記特定の磁界変化とはトリミング動作移行指令と一致する出力電圧である。
前記トリミング動作移行指令と一致する出力電圧であれば、動作状態はトリミング動作モードに移行する。前記トリミング動作モードでは前記シリコンホール素子駆動部が前記シリコンホール素子の電圧または電流の調整と、前記増幅アンプの増幅率を調整し、それぞれの調整量は前記デジタル制御部と繋がる不揮発性メモリとの通信により記憶することができる。
また、前記不揮発性メモリとの通信により記憶を終えると動作状態は通常動作モードに移行する。前記通常動作モードでは、前記調整量が反映された磁界に比例した電気信号を出力する。
また、動作状態のモード判定時間に前記トリミング動作移行指令との一致が得られなければ通常動作モードに移行する。
【0022】
次に、
図3は、
図1に示すホール素子センサ1の設置図である。
電流センサ2は、被測定電流が印加される電流線4と前記被測定電流で発生する磁界を集磁する集磁コア3と集磁した磁界を磁電変換するホール素子センサ1で構成される。
電流線4は軟銅線やバスバーが用いられる。集磁コア3はケイ素鋼板やフェライト等の磁性材料で形成され、C型形状のギャップ部に集磁した磁界を電気信号に変換する磁電変換素子を設置する。ホール素子センサ1は磁電変換素子でありIC技術により製造されたホールICを用いる。
前記通常動作モードは、前記ホール素子センサ1が前記被測定電流で発生する磁界に比例した電気信号を出力する。一般的にホール素子センサ1はIC技術による製造段階で前記比例の係数を調整するが、集磁コア3の前記C型形状のギャップ部の製造バラつき等によって前記比例の係数の微調整が必要になる。
前記トリミング動作モードへの移行は、前記ホール素子センサ1の出力電圧が前記トリミング動作移行指令と一致する出力電圧にするため前記電流線4に前記トリミング動作移行指令と一致する電流を印加する。または電流線5を調整時のみ仮配線して前記トリミング動作移行指令と一致する電流を印加しても良い。これによりIC技術による製造段階で前記比例の係数を調整する以外にも電流センサ2を構成したとき、さらに電流センサ2が別の製品に設置されたときも調整できる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によるホール素子センサおよびその調整方法は、ホール素子センサの低コスト化、高品質化に顕著な効果を有し、IC技術により小型且つ安価に製造可能であるので、電気モータの可変速制御を行うための電流センサ等を含む広範囲の利用が可能である。
【符号の説明】
【0024】
1、ホール素子センサ
2、電流センサ
3、集磁コア
4、電流線
5、電流線