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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166527
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】モータ及びステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/19 20060101AFI20231114BHJP
   H02K 15/12 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
H02K9/19 A
H02K15/12 E
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023144464
(22)【出願日】2023-09-06
(62)【分割の表示】P 2019125091の分割
【原出願日】2019-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 瞬也
(72)【発明者】
【氏名】有賀 信雄
(72)【発明者】
【氏名】小▲崎▼ 守
(72)【発明者】
【氏名】粥川 正康
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ステータの温度を低下させて、ロータの温度上昇を低減する。
【解決手段】本発明のモータ1は、ステータ5と、ステータ5に対して隙間を空けて配置されるロータ4とが筐体2内に配置されたモータであって、ステータ5は、環状のヨークと、ヨークの内周部からロータ4に向かって突出する複数のティースとを備え、隣り合うティース間には、ティースに巻回されたコイル6が配置されるスロットがそれぞれ形成され、ステータ5及びコイル6をモールドしたモールド樹脂部30を有し、モールド樹脂部30は、複数のスロットのなかの少なくとも1つのスロット内に形成された流路32を有しており、流路32には、冷却媒体が供給される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、前記ステータに対して隙間を空けて配置されるロータとが筐体内に配置されたモータであって、
前記ステータは、環状のヨークと、前記ヨークの内周部または外周部から前記ロータに向かって突出する複数のティースとを形成する複数の積層板を備え、
隣り合う前記ティース間には、前記ティースに巻回されたコイルが配置されるスロットがそれぞれ形成され、
前記ステータは、前記複数の積層板及び前記コイルをモールドしたモールド樹脂部を有し、
前記モールド樹脂部は、前記複数のスロットのなかの少なくとも1つのスロット内に形成された流路を有しており、
前記流路には、冷却媒体が供給されることを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記流路は、前記スロット内において前記コイルより前記ロータ側に配置されることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記筐体は、円筒部と、前記円筒部の両側を塞ぐ2つのカバー部材とを有し、
前記モールド樹脂部は、
前記複数のスロットの全てをそれぞれ通過する複数の流路と、
前記モールド樹脂部の両端面にそれぞれ形成され、前記複数の流路と連通する環状の溝部とを有しており、
前記モールド樹脂部の外周部は前記円筒部の内周面と接触し、且つ、前記モールド樹脂部の両端部は前記2つのカバー部材とそれぞれ対向するように配置されることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ。
【請求項4】
前記モールド樹脂部の両端面と前記2つのカバー部材との間には、前記溝部の径方向内側及び径方向外側にそれぞれ配置される2つの環状シール部材が配置されることを特徴とする請求項3に記載のモータ。
【請求項5】
前記ロータは、減圧空間において回転することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のモータ。
【請求項6】
環状のヨークと、前記ヨークの内周部または外周部からロータに向かって突出する複数のティースとを形成する複数の積層板を有するステータの製造方法であって、
前記ティースにコイルを巻回して、そのコイルが巻回された複数の積層板をモールド成形用下型の内部に配置する第1工程と、
前記モールド成形用下型の内部において、前記コイルが巻回された前記複数の積層板の内側または外側に、前記ステータの内周面または外周面を形成するための第1抜き型を配置する第2工程と、
前記モールド成形用下型の内部において、前記コイルが巻回された前記複数の積層板における隣り合う前記ティース間に形成される複数のスロットの少なくとも1つのスロット内に、冷却媒体の流路を形成するための第2抜き型を配置する第3工程と、
前記モールド成形用下型に対してモールド成形用上型を取り付けて成形型を形成し、樹脂を前記成形型内に流し込んで樹脂を硬化させる第4工程と、
前記成形型内において樹脂が硬化した後、前記複数の積層板及び前記コイルをモールドしたモールド樹脂部を前記成形型から取り出して、前記第1抜き型及び前記第2抜き型を前記モールド樹脂部から取り外す第5工程とを備えることを特徴とするステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータに巻回されたコイルを有するモータ及びステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータとしては、ロータと、ロータの周囲に配設された筒状のステータと、ステータの長手方向に巻回されたコイルとを有しており、ステータが筐体の内側に支持されたものがある。ステータのスロット内には、コイルが配置されている。
【0003】
特許文献1のモータでは、ステータの放熱性を向上させるために、ステータの積層板に穴部を形成して、その穴部を連通させることによりステータのヨーク部に冷却液流路を形成している。そのモータでは、ステータのヨーク部に形成された流路に冷却液を供給することにより、ステータを冷却している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-145859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のモータでは、冷却液流路がステータのヨーク部に形成されているため、ステータに熱伝導により温度分布が発生して、ステータにおいてコイルが巻回されたティース部の温度がヨーク部の温度より高温になる。そのため、ステータからの輻射によりロータの温度が上昇する問題がある。特に、ロータが大気圧より減圧された空間(減圧空間)において回転するモータでは、ロータが回転しても対流の発生が著しく低下するため、ロータの熱がこもりやすく、ロータの温度が高温になりやすい。
【0006】
そこで本発明は、ステータの温度を低下させて、ロータの温度上昇を低減することが可能なモータ及びステータの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0008】
すなわち、本発明に係るモータは、ステータと、前記ステータに対して隙間を空けて配置されるロータとが筐体内に配置されたモータであって、前記ステータは、環状のヨークと、前記ヨークの内周部または外周部から前記ロータに向かって突出する複数のティースとを形成する複数の積層板を備え、隣り合う前記ティース間には、前記ティースに巻回されたコイルが配置されるスロットがそれぞれ形成され、前記ステータは、前記複数の積層板及び前記コイルをモールドしたモールド樹脂部を有し、前記モールド樹脂部は、前記複数のスロットのなかの少なくとも1つのスロット内に形成された流路を有しており、前記流路には、冷却媒体が供給されることを特徴とする。
【0009】
これにより、本発明に係るモータでは、ステータにおいて複数の積層板及びコイルをモールドしたモールド樹脂部が、ステータの少なくとも1つのスロット内に形成された冷却媒体の流路を有しており、冷却媒体が供給される流路を形成するための専用の積層板を使用しないで、従来の積層板を使用して、冷却媒体が供給される流路を有するステータを形成することが可能である。また、冷却媒体が供給される流路がモールド樹脂部に形成されているため、ステータまたはロータで発生する磁束による渦電流損が増加するのを抑制して、モータ効率が低下するのを防止することが可能である。
【0010】
本発明に係るモータにおいて、前記流路は、前記スロット内において前記コイルより前記ロータ側に配置されることを特徴とする。
【0011】
これにより、本発明に係るモータでは、冷却媒体が供給される流路がスロット内においてコイルよりロータ側に配置される。そのため、流路がステータとロータとの隙間(ギャップ部)近傍に配置されており、ステータにおけるロータ側部分の温度を低下させることにより、ステータからの輻射によるロータの温度上昇を低減することが可能である。よって、ロータを支持するモータ軸の軸受温度が上昇するのを抑制することで、軸受の寿命が増加する。
【0012】
本発明に係るモータにおいて、前記筐体は、円筒部と、前記円筒部の両側を塞ぐ2つのカバー部材とを有し、前記モールド樹脂部は、前記複数のスロットの全てをそれぞれ通過する複数の流路と、前記モールド樹脂部の両端面にそれぞれ形成され、前記複数の流路と連通する環状の溝部とを有しており、前記モールド樹脂部の外周部は前記円筒部の内周面と接触し、且つ、前記モールド樹脂部の両端部は前記2つのカバー部材とそれぞれ対向するように配置されることを特徴とする。
【0013】
これにより、本発明に係るモータでは、モールド樹脂部の両端面に、複数のスロットの全てをそれぞれ通過する複数の流路と連通する環状の溝部が形成されている。そのため、冷却媒体をモールド樹脂部の溝部に供給することにより、冷却媒体が複数の流路を通過するようになる。
【0014】
本発明に係るモータにおいて、前記モールド樹脂部の両端面と前記2つのカバー部材との間には、前記溝部の径方向内側及び径方向外側にそれぞれ配置される2つの環状シール部材が配置されることを特徴とする。
【0015】
これにより、本発明に係るモータでは、モールド樹脂部の両端面と2つのカバー部材との間において、溝部の径方向内側及び径方向外側にそれぞれ配置される2つの環状シール部材が配置される。そのため、冷却媒体がモータ内に漏れるのを防止すると共に、筐体2の内部を減圧状態に維持することが可能である。
【0016】
本発明に係るモータにおいて、前記ロータは、減圧空間において回転する。
【0017】
これにより、本発明に係るモータでは、ロータが減圧空間において回転するように構成されており、減圧空間では、ロータが回転しても対流の発生が著しく低下するため、ロータの熱がこもってしまう。そのような場合でも、本発明では、ロータの温度を低下させることが可能である。
【0018】
本発明に係るステータの製造方法は、環状のヨークと、前記ヨークの内周部または外周部からロータに向かって突出する複数のティースとを形成する複数の積層板を有するステータの製造方法であって、前記ティースにコイルを巻回して、そのコイルが巻回された複数の積層板をモールド成形用下型の内部に配置する第1工程と、前記モールド成形用下型の内部において、前記コイルが巻回された前記複数の積層板の内側または外側に、前記ステータの内周面または外周面を形成するための第1抜き型を配置する第2工程と、前記モールド成形用下型の内部において、前記コイルが巻回された前記複数の積層板における隣り合う前記ティース間に形成される複数のスロットの少なくとも1つのスロット内に、冷却媒体の流路を形成するための第2抜き型を配置する第3工程と、前記モールド成形用下型に対してモールド成形用上型を取り付けて成形型を形成し、樹脂を前記成形型内に流し込んで樹脂を硬化させる第4工程と、前記成形型内において樹脂が硬化した後、前記複数の積層板及び前記コイルをモールドしたモールド樹脂部を前記成形型から取り出して、前記第1抜き型及び前記第2抜き型を前記モールド樹脂部から取り外す第5工程とを備えることを特徴とする。
【0019】
これにより、本発明に係るステータの製造方法では、ステータにおいて複数の積層板及びコイルをモールドしたモールド樹脂部が、少なくとも1つのスロット内に形成された冷却媒体の流路を有しており、冷却媒体が供給される流路を形成するための専用の積層板を使用しないで、従来の積層板を使用して、冷却媒体が供給される流路を有するステータを形成することが可能である。また、冷却媒体が供給される流路がモールド樹脂部に形成されているため、ステータとロータとを備えるモータにおいて、ステータまたはロータで発生する磁束による渦電流損が増加するのを抑制して、モータ効率が低下するのを防止することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
以上説明した本発明によれば、冷却媒体が供給される流路を形成するための専用の積層板を必要としないで、従来の積層板を使用して、冷却媒体が供給される流路を有するステータを形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係るモータの縦断面図である。
図2図1のモータの断面斜視図である。
図3図1のA-A線における水平断面図である。
図4】筐体の上面図である。
図5】モールド樹脂部の構成を説明する部分斜視図である。
図6図1の部分拡大図である。
図7】モールド樹脂部を軸方向中央部で切断したものを下方から見た斜視図である。
図8図1のステータの製造方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図1及び図2に示すように、モータ1は、筐体2を有しており、筐体2内には、回転軸であるモータ軸3の軸回りに回転するロータ(可動子)4と、ロータ4の外周を囲むように狭い隙間(エアギャップ)を空けて筐体2に固定されるステータ(固定子)5とを備えている。ステータ5は、筐体2に圧入されて固定されている。なお、ロータ4は周知のものを適用することができるため、詳細な説明は省略する。
【0024】
モータ1は、例えば、航空用電動機、ロボットなどのアクチュエータの駆動源として用いられる他、ポンプやコンプレッサの駆動源、フライホイール蓄電装置として用いてもよいし、その他の目的で用いてもよい。
【0025】
ステータ5は、図3に示すように、その軸方向に積層された複数の積層板5tを有しており、外側に位置する円環状のヨーク51と、ヨーク51の内周面からモータ軸3に向かって突出する複数のティース52とを備えている。隣り合うティース52間の隙間は、スロット53と称し、ティース52の数と同数備えている。
【0026】
隣り合うティース52間に形成されるスロット53には、ティース52に巻回されたコイル6がそれぞれ配置される。図3図6及び図7では、ティース52に巻回されたコイル6の図示が省略されている。
【0027】
ステータ5は、複数の積層板5t及びコイル6をモールドしたモールド樹脂部30を有している。すなわち、モールド樹脂部30は、ステータ5のティース52にコイル6を巻回した状態で、例えばエポキシ樹脂やポリエステル樹脂などの樹脂材料を用いてモールド成形したものである。モールド樹脂部30は、絶縁性を有しており、モールド樹脂部30とコイル6との密着性が高い。
【0028】
モールド樹脂部30は、ステータ5より上方に配置される第1モールド部30aと、複数のスロット53のそれぞれの内部に配置される複数の第2モールド部30bと、ステータ5より下方に配置される第3モールド部30cとを有している。第1モールド部30aと複数の第2モールド部30bの上端部とは接続されており、複数の第2モールド部30bの下端部と第3モールド部30cとは接続されている。
【0029】
すなわち、モールド樹脂部30において、第1モールド部30aと第3モールド部30cとは、複数の第2モールド部30bにより接続されている。第1モールド部30a、複数の第2モールド部30b及び第3モールド部30cは、ステータ5の軸方向に沿って接続されている。複数の第2モールド部30bの内周部は周方向に接続されており、ウェッジの役割を有している。
【0030】
モールド樹脂部30は、冷却媒体が供給される冷却媒体の流路32を有している。複数のスロット53内には、それぞれ、1つの第2モールド部30bが配置されており、1つの第2モールド部30bには、1つの流路32がステータ5の軸方向に沿って配置される。
【0031】
1つの流路32は、1つのスロット53を通過するように形成されており、モールド樹脂部30は、複数のスロット53の全てのスロット53内にそれぞれ形成された複数の流路32を有している。本実施形態において、冷却媒体の流路32は、第2モールド部30bの軸方向に貫通する貫通穴により形成される。
【0032】
第2モールド部30bに形成される流路32の上端部は、第1モールド部30aの上端面まで延在しており、流路32の下端部は、第3モールド部30cの下端面まで延在している。そのため、流路32は、モールド樹脂部30の上端面から下端面まで貫通している。
【0033】
流路32は、スロット53内において、径方向についてコイル6よりロータ4側に配置される。すなわち、スロット53内において、流路32は、ステータ5とロータ4との隙間(ギャップ部)より径方向外側であり、コイル6より径方向内側に配置される。
【0034】
第2モールド部30bには、1つの流路32の径方向外側に配置される2つのコイル通過部33a、33bが形成される。コイル通過部33aは、流路32の径方向外側に配置され、コイル通過部33bは、コイル通過部33aの径方向外側に配置される。すなわち、ステータ5のティース52にコイル6を巻回した状態で樹脂材料を用いてモールド成形した場合に、コイル6の周囲に第2モールド部30bが形成されることにより、コイル通過部33a、33bが形成される。
【0035】
モールド樹脂部30の上端面、すなわち第1モールド部30aの上端面には、環状の溝部61aが形成されている。モールド樹脂部30の下端面、すなわち、第3モールド部30cの下端面は、環状の溝部61bが形成されている。環状の溝部61a、61bは、モールド樹脂部30の上端面及び下端面において凹状に形成される。溝部61aの底面には、複数の流路32の上端が開口しており、溝部61bの底面には、複数の流路32の下端が開口している。そのため、複数の流路32は、環状の溝部61a、61bとそれぞれ連通する。
【0036】
筐体2は、円筒部2aと、円筒部2aの両側を塞ぐ2つのカバー部材2b、2cとを有している。円筒部2aは鉛直方向に沿って配置され、カバー部材2bは円筒部2aの上端を塞いでおり、カバー部材2cは円筒部2aの下端を塞いでいる。カバー部材2b、2cには、それぞれ、穴部12aが形成されており、穴部12a内には、モータ軸3を回転可能に軸支する軸受部12bが配置される。カバー部材2bとモータ軸3との間、及び、カバー部材2cとモータ軸3との間は、環状シール部材12cによりシールされる。
【0037】
筐体2のカバー部材2bには、冷却媒体の供給口60aが形成される。供給口60aは、カバー部材2bを上下方向に貫通するように形成され、供給口60aの下端は、モールド樹脂部30の上端面に形成された溝部61aの上方に位置し、供給口60aは、溝部61aに連通している。
【0038】
同様に、筐体2のカバー部材2cには、冷却媒体の排出口60bが形成される。排出口60bは、カバー部材2cを上下方向に貫通するように形成され、排出口60bの上端は、モールド樹脂部30の下端面に形成された溝部61bの下方に位置し、排出口60bは、溝部61bに連通している。
【0039】
モールド樹脂部30の外周面は、円筒部2aの内周面と接触し、且つ、モールド樹脂部30の両端部は2つのカバー部材2b、2cとそれぞれ対向するように配置される。すなわち、モールド樹脂部30の上端面は、カバー部材2bの下面と対向し、モールド樹脂部30の下端面は、カバー部材2cの上面と対向する。円筒部2aの下端部には、径方向内側に突出する段部2dが形成されており、段部2dの上面は、ステータ5の下面と接触する。
【0040】
モールド樹脂部30の両端面と2つのカバー部材2b、2cとの間には、4つの環状シール部材62a、63a、62b、63bが配置される。すなわち、モールド樹脂部30の上端面とカバー部材2bの下面との間には、2つの環状シール部材62a、63aが配置される。また、モールド樹脂部30の下端面とカバー部材2cの上面との間には、2つの環状シール部材62b、63bが配置される。
【0041】
モールド樹脂部30の上端面とカバー部材2bの下面との間において、環状シール部材62aは、溝部61aの径方向内側に配置され、環状シール部材63aは、溝部61aの径方向外側に配置される。モールド樹脂部30の下端面とカバー部材2cの上面との間において、環状シール部材62bは、溝部61aの径方向内側に配置され、環状シール部材63bは、溝部61aの径方向外側に配置される。
【0042】
本実施形態のモータ1では、ステータ5の内周面より内側の空間は、減圧状態に維持される。そのため、ロータ4は、減圧空間において回転する。
【0043】
図2に示すように、冷却媒体の供給口60a及び排出口60bには、接続配管64a、64bを介してポンプ65が接続される。よって、ポンプ65を駆動すると、冷却媒体が接続配管64aを介して供給口60aに供給される。供給口60aに供給された冷却媒体は、溝部61aを通過して、モールド樹脂部30の流路32に供給される。流路32を下方に向かって通過した冷却媒体は、溝部61bを通過して排出口60bに到達する。排出口60に到達した冷却媒体は、接続配管64bを介してポンプ65に戻されて循環する。
【0044】
本実施形態のモータ1に使用されるステータ5の製造方法について、図8に基づいて説明する。
【0045】
(ステップS1)
積層された複数の積層板5tにより形成されたティース52にコイル6を巻回して、そのコイル6が巻回された複数の積層板5tを、円筒状のモールド成形用下型の内部に配置する。モールド成形用下型の底部には、モータ1の筐体2の円筒部2aに形成された段部2dと同一形状の段部が形成されている。
【0046】
(ステップS2)
モールド成形用下型の内部において、コイル6が巻回された複数の積層板5tの内側に、円柱状の第1抜き型を配置する。第1抜き型は、ステータ5の内周面を形成して、ステータ5の径方向内側にロータ4が配置される空間を形成するためのものであり、第1抜き型の直径は、ロータ4の直径より僅かに大きい。
【0047】
(ステップS3)
モールド成形用下型の内部において、コイル6が巻回された複数の積層板5tにおける複数のスロット53内に、それぞれ、1つの円柱状の第2抜き型を配置する。第2抜き型は、複数のスロット53内に冷却媒体の流路32を形成するためのものである。複数の第2抜き型が、複数のスロット53の全てにそれぞれ配置される。
【0048】
(ステップS4)
モールド成形用下型に対して、モールド成形用上型を取り付けて、コイル6が巻回された複数の積層板5tを、モールド成形用上型とモールド成形用下型とで形成される成形型の内部に収容する。モールド成形用上型には、樹脂供給口が形成されており、樹脂をモールド成形用上型の樹脂供給口から成形型内に流し込む。その後、冷却あるいは加熱して、成形型内において樹脂52を硬化させる。これにより、モールド樹脂部30が形成される。
【0049】
(ステップS5)
成形型内において樹脂52が硬化すると、成形型を分割して、複数の積層板5t及びコイル6をモールドしたモールド樹脂部30を取り出す。複数の積層板5tの内側に配置された第1抜き型と、複数の積層板5tの複数のスロット53内に配置された第2抜き型をモールド樹脂部30から取り外すと、複数の積層板5t及びコイル6をモールドしたモールド樹脂部30を有するステータ5の製造が完了する。製造されたステータ5では、第1抜き型を取り外した部分に、ロータ4が配置される空間が形成されると共に、第2抜き型を取り外した部分に、複数のスロット53内の流路32が形成される。
【0050】
以上のように、本実施形態のモータ1は、ステータ5と、ステータ5に対して隙間を空けて配置されるロータ4とが筐体2内に配置されたモータであって、ステータ5は、環状のヨーク51と、ヨーク51の内周部からロータ4に向かって突出する複数のティース52とを形成する複数の積層板5tを備え、隣り合うティース52間には、ティース52に巻回されたコイル6が配置されるスロット53がそれぞれ形成され、ステータ5は、複数の積層板5t及びコイル6をモールドしたモールド樹脂部30を有し、モールド樹脂部30は、複数のスロット53のなかの少なくとも1つのスロット53内に形成された流路32を有しており、流路32には、冷却媒体が供給される。
【0051】
このように、本実施形態によれば、ステータ5において複数の積層板5t及びコイル6をモールドしたモールド樹脂部30が、全てのスロット53内にそれぞれ形成された冷却媒体の流路32を有しており、冷却媒体が供給される流路32を形成するための専用の積層板を使用しないで、従来の積層板を使用して、冷却媒体が供給される流路32を有するステータを形成することが可能である。また、冷却媒体が供給される流路32がモールド樹脂部30に形成されているため、ステータ5またはロータ4で発生する磁束による渦電流損が増加するのを抑制して、モータ効率が低下するのを防止することが可能である。
【0052】
この場合、流路32は、スロット53内においてコイル6よりロータ4側に配置される。
【0053】
このようにすれば、流路32がスロット53内においてコイル6よりロータ4側に配置される。そのため、流路32がステータ5とロータ4との隙間(ギャップ部)近傍に配置されており、ステータ5におけるロータ4側部分の温度を低下させることにより、ステータ5からの輻射によるロータ4の温度上昇を低減することが可能である。よって、ロータ4を支持するモータ軸3の軸受温度が上昇するのを抑制することで、軸受12bの寿命が増加する。
【0054】
具体的に、筐体2は、円筒部2aと、円筒部2aの両側を塞ぐ2つのカバー部材2b、2cとを有し、モールド樹脂部30は、複数のスロット53の全てをそれぞれ通過する複数の流路32と、モールド樹脂部30の両端面にそれぞれ形成され、複数の流路32と連通する環状の溝部60a、60bとを有しており、モールド樹脂部30の外周部は、円筒部2aの内周面と接触し、且つ、モールド樹脂部30の両端部は、2つのカバー部材2b、2cとそれぞれ対向するように配置される。
【0055】
これにより、モールド樹脂部30の両端面に、複数のスロット53の全てをそれぞれ通過する複数の流路32と連通する環状の溝部60a、60bが形成されている。そのため、冷却媒体をモールド樹脂部30の溝部60a、60bに供給することにより、冷却媒体が複数の流路32を通過するようになる。
【0056】
そして、このモータ1は、モールド樹脂部30の両端面と2つのカバー部材2b、2cとの間には、溝部60a、60bの径方向内側及び径方向外側にそれぞれ配置される環状シール部材62a、62b、63a、63bが配置される。
【0057】
これにより、冷却媒体がモータ1内に漏れるのを防止すると共に、筐体2の内部を減圧に維持することが可能である。
【0058】
さらに、このモータ1のロータ4は、減圧空間において回転する。
【0059】
これにより、減圧空間では、ロータ4が回転しても対流の発生が著しく低下するため、ロータ4の熱がこもってしまう。そのような場合でも、本発明では、ロータ4の温度を低下させることが可能である。
【0060】
また、このステータ5の製造方法は、環状のヨーク51と、ヨーク51の内周部からロータ4に向かって突出する複数のティース52とを形成する複数の積層板5tを有するステータ5の製造方法であって、ティース52にコイル6を巻回して、そのコイル6が巻回された複数の積層板5tをモールド成形用下型の内部に配置する第1工程と、モールド成形用下型の内部において、コイル6が巻回された複数の積層板5tの内側に、ステータ5の内周面を形成するための第1抜き型を配置する第2工程と、モールド成形用下型の内部において、コイル6が巻回された複数の積層板5tにおける隣り合うティース52間に形成される複数のスロット53の少なくとも1つのスロット53内に、冷却媒体の流路32を形成するための第2抜き型を配置する第3工程と、モールド成形用下型に対してモールド成形用上型を取り付けて成形型を形成し、樹脂を成形型内に流し込んで樹脂を硬化させる第4工程と、成形型内において樹脂が硬化した後、複数の積層板5t及びコイル6をモールドしたモールド樹脂部30を成形型から取り出して、第1抜き型及び第2抜き型をモールド樹脂部30から取り外す第5工程とを備える。
【0061】
これにより、本実施形態のステータ5の製造方法では、ステータ5において複数の積層板5t及びコイル6をモールドしたモールド樹脂部30が、全てのスロット53内にそれぞれ形成された冷却媒体の流路32を有しており、冷却媒体が供給される流路32を形成するための専用の積層板を使用しないで、従来の積層板を使用して、冷却媒体が供給される流路32を有するステータ5を形成することが可能である。また、冷却媒体が供給される流路32がモールド樹脂部30に形成されているため、ステータ5とロータ4とを備えるモータ1において、ステータ5またはロータ4で発生する磁束による渦電流損が増加するのを抑制して、モータ効率が低下するのを防止することが可能である。
【0062】
なお、具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0063】
上記実施形態において、モールド樹脂部30は、複数のスロット53の全てのスロット53内にそれぞれ形成された複数の流路32を有しているが、本発明のモータは、複数のスロット53のなかの少なくとも1つのスロット53内に形成された流路32を有するモールド樹脂部30を備えたものを含む。
【0064】
上記実施形態では、モールド樹脂部30において、スロット53内に形成された流路32は、モールド樹脂部30を貫通する貫通穴により形成されているが、スロット53内に形成された流路32は、貫通穴に限られない。例えば、1つのスロット53内に形成された流路32の数、形状、断面形状などは、任意である。
【0065】
上記実施形態において、流路32は、スロット53内においてコイル6よりロータ4側に配置されるが、スロット53内での流路32の配置は、それに限られない。
【0066】
上記実施形態において、複数の流路32は、溝部61a、61bに連通しており、複数の流路32に対して冷却媒体が溝部61a、61bを通過して供給されるが、複数の流路32に冷却媒体が溝部61a、61bを通過しないで供給されてよい。
【0067】
上記実施形態では、筐体2とモータ軸3との間にシール部材12cが配置されているが、それに限られない。筐体2とモータ軸3との間は、例えば液体パッキンや金属シールによりシールされてよい。
【0068】
上記実施形態において、ロータ4が減圧空間において回転するモータ1について説明したが、本発明のモータは、ロータが減圧空間において回転するモータに限られない。
【0069】
上記実施形態では、インナーロータ型のモータ1について説明したが、本発明は、アウターロータ型のモータに適用可能である。
【0070】
また、上記実施形態では、ラジアルギャップ型のモータ1について説明したが、本発明は、アキシャルギャップ型のモータに適用可能である。
【0071】
上記実施形態において、ステータ5は、筐体2に圧入されて固定されているが、ステータ5を筐体2に固定する方法は、それに限られない。ステータ5の積層板5tに対して軸方向に貫通した穴を形成し、筐体2においてステータ5の端面と接触する面にネジ穴を形成して、積層板5tの穴を通過させてボルトを使用して筐体2に固定してよい。
【符号の説明】
【0072】
1 モータ
2 筐体
2a 円筒部
2b、2c カバー部材
4 ロータ
5 ステータ
5t 積層板
6 コイル
30 モールド樹脂部
32 流路
51 ヨーク
52 ティース
53 スロット
60a、60b 溝部
62a、62b、63a、63b 環状シール部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-10-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のティース部を有するステータと、前記ティース部に巻かれたコイルと、前記ティース部の間に形成されたスロットとを有し、前記コイルが前記スロットに設けられたモータであって、
前記スロットに充填され、前記コイルを覆うモールド樹脂部と、
前記モールド樹脂部に形成され、前記スロット内を通過する貫通穴である流路とを有し、
前記流路の内壁は、前記モールド樹脂部を形成する樹脂材料で構成され、
前記流路の内部を冷却媒体が流れることを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記流路は、前記コイルより回転軸方向側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記流路は、前記スロットの内部空間で前記ステータの内周側で且つ前記コイルと隣接する位置に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ。
【請求項4】
前記モールド樹脂部は、前記ステータの軸方向両端に突き出したコイル端部をそれぞれ覆うモールド部を有し、
前記モールド部は、前記流路と接続され、冷却媒体が流れる円周方向に遠心する環状の溝部を有することを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のモータ。
【請求項5】
前記モールド部の前記溝部が形成された端面と対向する部材を有し、
前記端面において前記溝部の径方向内側及び径方向外側には、2つの環状シール部材がそれぞれ配置されることを特徴とする請求項4に記載のモータ。
【請求項6】
前記ステータと、前記ステータに対して隙間を空けて配置されるロータとが内部に配置される筐体を有し、
前記筐体は、前記モールド樹脂部の一端面に形成された前記溝部と連通する冷却媒体の供給口と、前記モールド樹脂部の他端面に形成された前記溝部と連通する冷却媒体の排出口が形成されることを特徴とする請求項4に記載のモータ。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
すなわち、本発明に係るモータは、複数のティース部を有するステータと、前記ティース部に巻かれたコイルと、前記ティース部の間に形成されたスロットとを有し、前記コイルが前記スロットに設けられたモータであって、前記スロットに充填され、前記コイルを覆うモールド樹脂部と、前記モールド樹脂部に形成され、前記スロット内を通過する貫通穴である流路とを有し、前記流路の内壁は、前記モールド樹脂部を形成する樹脂材料で構成され、前記流路の内部を冷却媒体が流れることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本発明に係るモータにおいて、前記流路は、前記コイルより回転軸方向側に設けられていることを特徴とする。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
本発明に係るモータにおいて、前記流路は、前記スロットの内部空間で前記ステータの内周側で且つ前記コイルと隣接する位置に設けられていることを特徴とする。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
本発明に係るモータにおいて、前記モールド樹脂部は、前記ステータの軸方向両端に突き出したコイル端部をそれぞれ覆うモールド部を有し、前記モールド部は、前記流路と接続され、冷却媒体が流れる円周方向に遠心する環状の溝部を有することを特徴とする。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
本発明に係るモータにおいて、前記モールド部の前記溝部が形成された端面と対向する部材を有し、前記端面において前記溝部の径方向内側及び径方向外側には、2つの環状シール部材がそれぞれ配置されることを特徴とする。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
本発明に係るモータにおいて、前記ステータと、前記ステータに対して隙間を空けて配置されるロータとが内部に配置される筐体を有し、前記筐体は、前記モールド樹脂部の一端面に形成された前記溝部と連通する冷却媒体の供給口と、前記モールド樹脂部の他端面に形成された前記溝部と連通する冷却媒体の排出口が形成されることを特徴とする。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】削除
【補正の内容】