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特開2023-166580NT-3遺伝子治療のための方法及び材料
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166580
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】NT-3遺伝子治療のための方法及び材料
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20231114BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231114BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20231114BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20231114BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231114BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20231114BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 5/14 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/12 ZNA
C12N7/01
A61K35/76
A61P21/00
A61P25/00
A61K31/7088
A61K48/00
A61P35/00
A61P31/18
A61P5/14
A61P1/16
A61P13/12
A61P3/02
A61P3/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023151106
(22)【出願日】2023-09-19
(62)【分割の表示】P 2020522007の分割
【原出願日】2018-10-19
(31)【優先権主張番号】62/741,335
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/574,828
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/676,687
(32)【優先日】2018-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】515289842
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ザリフェ サヘンク
(57)【要約】
【課題】ニューロトロフィン3(NT-3)ポリヌクレオチドの組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)送達を提供すること。
【解決手段】本開示は、rAAV、並びに筋力を向上させ、筋成長を刺激し、筋ジストロフィー及びシャルコー・マリー・ツースニューロパチーなどの筋肉消耗疾患を治療するためのNT-3遺伝子治療にrAAVを使用する方法を提供する。本開示は、対象における筋成長を刺激する方法を提供する。本方法は、治療的に有効な量のニューロトロフィン-3(NT-3)、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片、又はNT-3、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片をコードする核酸を、必要とする対象に投与することを含む。本開示は、NT-3の新規な効果、神経原性筋におけるタンパク質合成及び代謝リモデリングに直接影響を与えるその能力を説明する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年10月20日に出願された米国仮特許出願第62/574,828号、2018年5月25日に出願された米国仮特許出願第62/676687号、及び2018年10月4日に出願された米国仮特許出願第62/741,335号に対する優先権を主張するものであり、これらの開示内容は、全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
米国政府利益の記載
本発明は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって与えられた、認可番号NS105986及びU01-NS066914の下での政府支援を受けてなされたものである。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
配列表の参照による援用
本出願は、本開示の別個の部分として、コンピュータ可読形式の配列表(ファイル名:53122A_Seqlisting.txt;2018年10月18日に作成された17,133バイトのASCIIテキストファイル)を含み、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0004】
本開示は、ニューロトロフィン3(NT-3)ポリヌクレオチドの組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)送達に関する。本開示は、rAAV、並びに筋力を向上させ、筋成長を刺激し、シャルコー・マリー・ツースニューロパチーなどの、ニューロパチー及び筋肉消耗疾患を治療するためのNT-3遺伝子治療にrAAVを使用する方法を提供する。
【背景技術】
【0005】
最近の研究により、ニューロトロフィン3(NT-3)が、これまで知られていない又は正当に評価されていない特徴を有する多用途の分子であることが実証されている。末梢神経再生及びシュワン細胞(SC)に対するそのよく認識された効果に加えて、NT-3は、抗炎症及び免疫調節効果を有する。Yang et al.,Mel Titer,22(2):440-450(2014)。NT-3が、ヒトにおいて発生する慢性炎症性脱髄性末梢神経障害のげっ歯類モデルにおける自然発症自己免疫性末梢性多発ニューロパチーを軽減することが可能であることが最近実証された。Yalvac et al.,Gene therapy,23(1):95-102(2015)。
【0006】
シャルコー・マリー・ツース(CMT)ニューロパチーは、最も一般的な遺伝性ニューロパチーである。CMT1は、突然変異されるときに4つの遺伝子によって引き起こされる5つのタイプのCMTを含む。このグループは、CMTに罹患している人の大部分を含む。これらの遺伝子は、SC及び軸索を囲む髄鞘に関連しているが、それらは、様々な方法で相互作用し、したがって、表現型が不均一である。CMT1A型は、古典的なCMT1表現型の発生につながるPMP22遺伝子を含む染色体17p11のDNA重複の結果である。患者は、歩行補助具を必要とする重大な障害を引き起こす臨床兆候を20歳以下で発生する。これらの患者において、末梢神経再生は、慢性ニューロパチーの一環として起こる長期の軸索切断及び除神経のために不完全である。NT-3は、神経再生を補助するシュワン細胞(SC)によって分泌される栄養因子である。除神経SCが生存する能力は、SCが、軸索成長を促進する足場である、成長因子及び基底膜の両方を提供するため、神経再生にとって重要である。長期の除神経は、除神経SCの萎縮、ビュングナー帯の破壊、及びSC基底膜足場の喪失をもたらす、再生に関連したSC分子(神経栄養因子(NTF)及びそれらの受容体)の発現の低下に関連した再生能の低下につながる。
【0007】
過去の研究は、シャルコー・マリー・ツース(CMT)ニューロパチーのTremblerJ(TrJ)マウスモデルにおけるNT-3遺伝子治療が、SC数、有髄線維密度及びミエリン厚さの増加を伴い神経再生を改善するだけでなく、後肢の前部及び後部筋肉に示される、筋線維径も増加させることを示した。Sahenk et al.,Mol Ther,22(3):511-521(2014)。過去の研究は、ニューロパチーの表現型が、速筋タイプII線維から遅筋タイプI線維への切り替えを含む、骨格筋の多様な変化を生じることが分かることを示した。TrJマウスにおいて、主に速筋タイプ線維から構成される長趾伸筋(extensor digitalis longus)は、野生型(WT)と比較して著しく高いパーセンテージの遅筋線維を有することが分かっており、ヒラメ筋におけるタイプI線維のパーセンテージは、加齢に伴って劇的に増加した。Nicks et al.,J Neuropathol Exp Neurol,72(10):942-954(2013)。興味深いことに、老化と並行して、ヒト及び他の哺乳動物における遅筋線維生成の同様の変化も起こる。Larsson L,Moss R,J Physiol.,472:595-614(1993);Larsson
et al.,Am J Physiol.,272:C638-C649(1997)。
【0008】
常染色体優性疾患として遺伝されるCMT1Aは、CMTの最も一般的なタイプである。ほとんどの場合、それは、相同染色体の不等乗換えによって生成される、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)遺伝子を含む17p11.2における1.5Mb重複によって引き起こされる(1)。これは、公知の治療なしでは緩徐に進行する疾患である。症状は、ほとんどの場合、20歳以下で開始する。凹足及びハンマートウが存在する。短下肢装具などの歩行補助具が必要とされる。頻度は低いが、重篤な小児例では、車椅子又は人工呼吸器依存になり得る。典型的に、患者の90%が、16~35m/秒以下の、尺骨神経における運動神経伝導速度(NCV)を有する(2)。遺伝的欠陥が、主にシュワン細胞(SC)に関与していたとしても、電気生理学的な臨床像は、長さ依存性の感覚運動型脱髄性ニューロパチーである。この臨床像は、シュワン細胞(SC)-軸索相互作用の障害に起因する軸索変性によって著しく影響される(3)。
【0009】
現在、この病態のための治療は存在しない。アスコルビン酸補給剤が、役立つと非常にもてはやされてきたが、多くの研究は、効果がないことを示した。低用量(1~2g/日)(4~6)及び高用量療法(3~4g/日)は両方とも、有益でないことが分かった(6、7)。最初に、NT-3の臨床試験は、治療後の腓腹神経生検における有髄神経線維の数の増加を伴い、治療の24週間後の臨床的有効性を示した(8)。Trマウスにおいて、皮下NT-3治療は、軸索再生を改善し、髄鞘形成を促進した。しかしながら、NT-3の短い血中半減期は、持続的な皮下投与の大きな障害であることが分かり、この製品は中止された。
【0010】
多数の筋骨格疾患が、筋力の低下をもたらすことが示されている。これらとしては、限定はされないが、遺伝性若しくは劣性ミオパチー(筋ジストロフィーなど)、筋肉消耗疾患(後天性免疫不全症候群(AIDS)、関節リウマチ、癌、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、及び肝硬変などの基礎疾患に起因し得る悪液質など)、筋萎縮又は筋肉減衰の状態(老化の結果であり得るサルコペニアなど)、長期の不使用(麻痺、昏睡、長期の臥床、及びICU在室など)、手術(人工関節置換術など)によって誘発される弱化、薬剤性ミオパチー及び横紋筋融解症が挙げられる。これらの疾患及び病態の筋肉の病理は、免疫、炎症、及び線維化反応の組合せによって、部分的に又は全体的に仲介される。これらの反応を遮断し、及び/又は損傷組織の再生を刺激することが可能な薬剤が、これらの障害における疾患の進行を遅らせるか又は食い止めることが可能であろう。
【0011】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製欠損性パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは、145のヌクレオチド逆位末端反復配列(ITR)を含む約4.7kbの長さである。AAVの複数の血清型が存在する。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は公知である。例えば、AAV-1の完全ゲノムが、GenBank受託番号NC_002077において提供され;AAV-2の完全ゲノムが、GenBank受託番号NC_001401及びSrivastava et al.,J.Virol.,45:555-564{1983)において提供され;AAV-3の完全ゲノムが、GenBank受託番号NC_1829において提供され;AAV-4の完全ゲノムが、GenBank受託番号NC_001829において提供され;AAV-5ゲノムが、GenBank受託番号AF085716において提供され;AAV-6の完全ゲノムが、GenBank受託番号NC_00 1862において提供され;AAV-7及びAAV-8ゲノムの少なくとも一部が、それぞれGenBank受託番号AX753246及びAX753249において提供され;AAV-9ゲノムが、Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)において提供され;AAV-10ゲノムが、Mol.Ther.,13(1):67-76(2006)において提供され;AAV-11ゲノムが、Virology,330(2):375-383(2004)において提供される。ウイルスDNA複製(rep)、カプシド形成/パッケージング及び宿主細胞染色体組込みを指示するシス作用配列が、AAV ITR内に含まれる。3つのAAVプロモータ(それらの相対マップ位置のためにp5、p19、及びp40と命名される)が、rep及びcap遺伝子をコードする2つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現を駆動する。単一のAAVイントロンの差異的スプライシング(ヌクレオチド2107及び2227における)に関連する2つのrepプロモータ(p5及びp19)により、rep遺伝子からの4つのrepタンパク質(rep 78、rep 68、rep 52、及びrep 40)が生成される。Repタンパク質は、最終的にウイルスゲノムを複製するのに関与する複数の酵素特性を有する。cap遺伝子は、p40プロモータから発現され、それは、3つのカプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードする。選択的スプライシング及び非コンセンサス翻訳開始部位は、3つの関連するカプシドタンパク質の生成に関与する。単一のコンセンサスポリアデニル化部位は、AAVゲノムのマップ位置95に位置する。AAVの生活環及び遺伝学は、Muzyczka,Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97-129(1992)において概説されている。
【0012】
AAVは、例えば遺伝子治療において、外来DNAを細胞に送達するためのベクターとして魅力的な独自の特徴を有する。培養中の細胞のAAV感染は、非細胞障害性であり、ヒト及び他の動物の自然感染は、不顕性及び無症候性である。さらに、AAVは、多くの哺乳類細胞に感染し、インビボで多くの異なる組織を標的とする可能性がある。さらに、AAVは、分裂細胞及び非分裂細胞に徐々に形質導入し、転写的に活性な核エピソーム(染色体外因子)として、本質的にそれらの細胞の寿命の間、存続することができる。AAVプロウイルスゲノムは、プラスミド中のクローニングされたDNAとして感染性であり、組み換えゲノムの構築を実現可能にする。さらに、AAV複製、ゲノムカプシド形成及び組込みを指示するシグナルが、AAVゲノムのITR内に含まれるため、(複製及び構造カプシドタンパク質、rep-capをコードする)ゲノムの内部約4.3kbの一部又は全てが、外来DNAで置換され得る。rep及びcapタンパク質は、トランスで提供され得る。AAVの別の重要な特徴は、極めて安定した且つ丈夫なウイルスであることである。AAVは、アデノウイルスを不活性化するのに使用される条件(56℃~65℃で数時間)に容易に耐えるため、AAVの低温保存はそれほど重要でない。AAVは、凍結乾燥さえされ得る。最後に、AAVに感染した細胞は、重複感染に耐性でない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Yang et al.,Mel Titer,22(2):440-450(2014)
【非特許文献2】Yalvac et al.,Gene therapy,23(1):95-102(2015)
【非特許文献3】Sahenk et al.,Mol Ther,22(3):511-521(2014)
【非特許文献4】Nicks et al.,J Neuropathol Exp Neurol,72(10):942-954(2013)
【非特許文献5】Larsson L,Moss R,J Physiol.,472:595-614(1993)
【非特許文献6】Larsson et al.,Am J Physiol.,272:C638-C649(1997)
【非特許文献7】Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)
【非特許文献8】Mol.Ther.,13(1):67-76(2006)
【非特許文献9】Virology,330(2):375-383(2004)
【非特許文献10】Muzyczka,Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97-129(1992)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
CMTニューロパチー及び他の筋肉消耗疾患のための療法を開発することが必要とされている。本発明は、CMTニューロパチー及び他の筋肉消耗疾患の治療のためにNT-3を送達する遺伝子治療方法を提供する。
【0015】
本開示は、対象における筋成長を刺激する方法を提供する。本方法は、治療的に有効な量のニューロトロフィン-3(NT-3)、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片、又はNT-3、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片をコードする核酸を、必要とする対象に投与することを含む。本開示は、NT-3の新規な効果、神経原性筋におけるタンパク質合成及び代謝リモデリングに直接影響を与えるその能力を説明する。
【0016】
本開示の様々な実施形態において、本開示のNT-3、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片、又はNT-3若しくはその有効な断片をコードする核酸は、筋肉内投与される。
【0017】
本開示の方法のいずれかにおいて、NT-3若しくはその有効な断片をコードする核酸は、ウイルスベクターを用いて投与される。特定の実施形態について、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。関連する実施形態において、本開示のNT-3若しくはその有効な断片をコードする核酸は、3つ組の筋特異的クレアチンキナーゼプロモータなどの筋特異的プロモータに動作可能に連結される。様々な実施形態において、本開示のNT-3若しくはその有効な断片をコードする核酸は、配列番号1を含む。
【0018】
本開示は、5’から3’の順に:(i)第1のAAV2逆位末端反復配列(ITR);(ii)配列番号11のヌクレオチド147~860に記載される筋クレアチンキナーゼプロモータ/エンハンサー配列;(iii)ヒトNT-3ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;及び(iv)第2のAAV2 ITR配列を含む核酸であって;ヒトNT-3ポリペプチドが、配列番号2と少なくとも90%同一であるか若しくは配列番号2と100%同一であるか、又は配列番号11のヌクレオチド1077~1850と90%同一であるか若しくは配列番号11のヌクレオチド1077~1850と100%同一であるヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を有する、核酸を提供する。
【0019】
ある実施形態において、本開示の核酸は、プロモータ/エンハンサーの3’側に、配列番号11のヌクレオチド892~1024に記載されるキメライントロンをさらに含む。さらに、本開示の核酸は、ヒトNT-3ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列の3’側に、配列番号11のヌクレオチド1860~2059に記載されるSV40ポリアデニル化シグナルをさらに含み得る。
【0020】
本開示の核酸のいずれかは、1つ以上の逆位末端反復(ITR)配列を含み得る。例えば、核酸は、配列番号11のヌクレオチド7~112に記載される第1のITR、及び/又は配列番号11のヌクレオチド2121~2248に記載される第2のITRを含み得る。
【0021】
ある実施形態において、核酸は、配列番号11に記載されるヌクレオチド配列と少なくとも90%同一のscAAV1.tMCK.NTF3ゲノムを含む。
【0022】
本開示は、感染性である、本開示の核酸のいずれかを含む組み換えアデノ随伴ウイルス粒子(rAAV)も提供する。rAAV粒子は、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、又はAAVrh.74などの任意のrAAV血清型であり得る。さらに、本発明のrAAV粒子のいずれかにおいて、rAAVゲノム中のAAV DNAは、AAV-1に由来する。
【0023】
本開示は、本開示のrAAV及び薬学的に許容される担体を含む組成物も提供する。例えば、これらの組成物は、それを必要とする対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するために製剤化され、又はこれらの組成物は、それを必要とする対象における筋成長を刺激するために製剤化される。
【0024】
一実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療する方法であって、NT-3ポリペプチドをコードする核酸を、ヒト対象に投与する工程を含み;ここで、a)核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列と90%同一のヌクレオチド配列を含み、b)核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列を含み;c)核酸が、配列番号2と少なくとも90%であるか又は配列番号2と100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み、d)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、本開示の核酸のいずれかであり、e)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、rAAVが、低濃度のNT-3ポリペプチドの持続発現をもたらす用量で投与され、f)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与されるrAAVの用量が、約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kgであり、g)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与されるrAAVの用量が、約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgであり、h)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与されるrAAVの用量が、約2×1012vg/kgであり、i)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与されるrAAVの用量が、約4×1012vg/kgであり、j)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与されるrAAVの用量が、約6×1012vg/kgであり、k)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、約0.5~1mlの筋肉当たり3~6回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射であり、又はl)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、約5~14mlの総体積での複数回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射である、方法を提供する。
【0025】
別の実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激する方法であって、NT-3ポリペプチドをコードする核酸を、ヒト対象に投与する工程を含み;ここで、a)核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列と90%同一のヌクレオチド配列を含み、b)核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列を含み;c)核酸が、配列番号2と少なくとも90%であるか又は配列番号2と100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み、d)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、本開示の核酸のいずれかであり、e)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、rAAVが、低濃度のNT-3ポリペプチドの持続発現をもたらす用量で投与され、f)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与されるrAAVの用量が、約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kgであり、g)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与されるrAAVの用量が、約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgであり、h)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与されるrAAVの用量が、約2×1012vg/kgであり、i)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与されるrAAVの用量が、約4×1012vg/kgであり、j)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与されるrAAVの用量が、約6×1012vg/kgであり、k)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、約0.5~1mlの筋肉当たり3~6回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射であり、又はl)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、約5~14mlの総体積での複数回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射である、方法を提供する。
【0026】
本開示の方法のいずれかにおいて、核酸は、アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターを用いて投与される。本開示の方法のいずれかは、筋特異的クレアチンキナーゼ(MCK)プロモータなどの筋特異的プロモータに動作可能に連結される核酸を用いて行われ得る。さらに、本開示の方法のいずれかは、配列番号11に記載されるNT-3遺伝子カセットを含むscAAV1.tMCK.NTF3を用いて行われ得る。
【0027】
ある実施形態において、本開示は、scAAV1ベクター、自己相補性AAV1血清型を用いて、筋特異的プロモータ、tMCKの制御下でヒトニューロトロフィン-3遺伝子(NTF3)を使用する遺伝子治療方法を提供する。本開示は、筋肉消耗疾患又はニューロパチーと診断された対象を治療する方法であって、NT-3を発現するAAVベクターを投与することを含む方法を提供する。特に、本方法は、腓腹筋及び前脛骨筋における筋肉内(IM)注射によって構築物scAAV1.tMCK.NTF3を投与することを含む。例えば、NT-3を発現するAAVベクター、例えばscAAV1.tMCK.NTF3の筋肉内送達は、NT-3の局所産生及び循環中への分泌を開始させ、それによって、神経髄鞘形成及び線維再生を促進して、CMT疾病表現型の安定化をもたらす。より具体的には、本開示は、約2×1012vg/kgの用量又は約6×1012vg/kgの用量でscAAV1.tMCK.NTF3を投与する方法を提供する。scAAV1.tMCK.NTF3は、配列番号11に記載されるNT-3遺伝子カセットを含む。
【0028】
本開示は、筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するための代替遺伝子治療として、NT-3を発現するAAVベクターを投与する方法も提供する。NT-3は、短い半減期を有し、本開示の方法は、対象が内因性NT-3タンパク質を発現するとしても、NT-3タンパク質の持続放出のためにAAVベクターを投与することを含む。代替遺伝子治療として、AAVベクターの投与は、筋細胞による持続的な分泌によってNT-3タンパク質の持続的な送達を提供する。NT-3タンパク質のこの連続的で持続的な低い血中濃度は、毒性の最小のリスクで治療効果を提供する。遺伝子治療によるNT-3の全身的な産生はまた、精製されたNT-3ペプチドの反復注射と比較した際に、より好都合で且つコスト効率の高い治療選択肢である。
【0029】
本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療する方法であって、低濃度のNT-3タンパク質の持続発現をもたらす組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の用量をヒト対象に投与する工程を含む、方法を提供する。
【0030】
本開示は、それを必要とするヒト対象における筋成長を刺激する方法であって、低濃度のNT-3タンパク質の持続発現をもたらす組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の用量をヒト対象に投与する工程を含む、方法も提供する。
【0031】
一実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療する方法であって、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3をヒト対象に投与する工程を含み、ここで、投与経路が、筋肉内経路であり、投与されるrAAVの用量が、約1.0×1012vg/kg~約7×1012vg/kg、又は約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kg、又は約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgである、方法を提供する。
【0032】
別の実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療する方法であって、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3をヒト対象に投与する工程を含み、ここで、投与経路が、筋肉内経路であり、投与されるrAAVの用量が、約1.0×1012vg/kg、又は約1.5×1012vg/kg、又は約2×1012vg/kg、又は約3×1012vg/kg、又は約4×1012vg/kg、又は約5×1012vg/kg、又は約6×1012vg/kg、又は約7×1012vg/kg、又は約8×1012vg/kg、又は約9×1012vg/kg、又は約1×1013vg/kgである、方法を提供する。
【0033】
別の実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療する方法であって、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3をヒト対象に投与する工程を含み、ここで、投与経路が、約1×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射である、方法を提供する。例えば、rAAVは、それぞれ筋肉当たり3~6回の注射を用いて投与され、例えば、各注入量は、0.5~1mlであり、ここで、合計5mL~14mLのベクターが、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に投与される。
【0034】
例示的な実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療する方法であって、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3をヒト対象に投与する工程を含み、ここで、投与経路が、それぞれ筋肉当たり3~6回の注射(各注入量は、0.5~1mlである)を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射である、方法を提供する。合計5mL~14mLのベクターが、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に投与される。
【0035】
一実施形態において、それを必要とするヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激する方法であって、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3をヒト対象に投与する工程を含み、ここで、投与経路が、筋肉内経路であり、投与されるrAAVの用量が、約1.0×1012vg/kg~約7×1012vg/kg、又は約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kg、又は約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgである、方法を提供する。
【0036】
別の実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激する方法であって、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3をヒト対象に投与する工程を含み、ここで、投与経路が、筋肉内経路であり、投与されるrAAVの用量が、約1.0×1012vg/kg、又は約1.5×1012vg/kg、又は約2×1012vg/kg、又は約3×1012vg/kg、又は約4×1012vg/kg、又は約5×1012vg/kg、又は約6×1012vg/kg、又は約7×1012vg/kg、又は約8×1012vg/kg、又は約9×1012vg/kg、又は約1×1013vg/kgである、方法を提供する。
【0037】
例示的な実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激する方法であって、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3をヒト対象に投与する工程を含み、ここで、投与経路が、約1×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射である、方法を提供する。例えば、rAAVは、それぞれ筋肉当たり3~6回の注射を用いて投与され、例えば、各注入量は、0.5~1mlであり、ここで、合計5mL~14mLのベクターが、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に投与される。
【0038】
例示的な実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激する方法であって、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3をヒト対象に投与する工程を含み、ここで、投与経路が、それぞれ筋肉当たり3~6回の注射(各注入量は、0.5~1mlである)を用いて、低用量(患者当たり2×1012vg/kg)及び高用量(患者当たり6×1012vg/kg)で投与される約1×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射である、方法を提供する。合計5mL~14mLのベクターが、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に投与される。
【0039】
本開示の方法のいずれかにおいて、scAAV1.tMCK.NTF3の投与経路は、腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭への筋肉内両側注射である。さらに、本発明の方法のいずれかにおいて、scAAV1.tMCK.NTF3の投与は、対象の上肢又は下肢における筋力の向上をもたらし、例えば、筋力の向上は、CMT小児尺度(CMT Pediatric scale)(CMTPeds)における複合スコアの減少として測定される。さらに、本発明の方法のいずれかにおいて、scAAV1.tMCK.NTF3の投与は、2年間の期間にわたって疾患進行の低下又は停止をもたらす。疾患進行は、CMTPedSによって測定される。
【0040】
筋力はまた、筋電図検査、徒手筋力計(hand held myometry)、固定システム筋力計、徒手筋力検査、及び/又はジェブセン(Jebsen)試験などの機能/活性試験、並びに6分間歩行試験、背臥位からの立ち上がり時間の計測(timed rise from floor)、10メートル歩行/走、4段昇る時間の計測(timed climb 4 steps)及び4段降りる時間(time descent 4 steps)などの、対象が特定のタスクを実行するのにどのくらい時間がかかるかを評価する時間計測試験を用いて測定される。
【0041】
本開示の一態様において、本方法のいずれかにおいて、対象は、遺伝性ニューロパチー、例えばシャルコー・マリー・ツース(CMT)ニューロパチー、例えばCMT1A、CMT2K、CMT4A、CMTRIA、並びに常染色体劣性遺伝的変異、若しくは常染色体優性遺伝的変異又はX連鎖遺伝的変異によって引き起こされる軸索及び脱髄性ニューロパチーに罹患している。遺伝性ニューロパチーは、表1に示される遺伝的変異のいずれかによって引き起こされ得る。さらに、遺伝性ニューロパチーは、以下の遺伝的変異:Val30Met、Ile107Val、及びSer77Tyrなどのトランスサイレチン(TTR)遺伝子の突然変異によって引き起こされるトランスサイレチン型アミロイドニューロパチーであり得る。
【0042】
本開示の別の態様において、本方法のいずれかにおいて、対象は、軸索消失及び/又は神経再生の障害を伴う後天性ニューロパチーに罹患している。後天性ニューロパチーは、ニューロパチーを引き起こすことが知られている任意の障害又は疾患によって引き起こされる末梢性ニューロパチーである。例えば、対象は、糖尿病、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、甲状腺機能低下症などの甲状腺障害、低血糖症、尿毒症、腎不全、肝機能障害、肝不全、多血症、結合組織障害、癌、ライム病、セリアック病、ハンセン病、ポルフィリン症、シェーグレン症候群、ポリオウイルス感染症、末端肥大症、脂質/糖脂質代謝の障害、ウエストナイル病、アミロイド症、ミトコンドリア障害、良性単クローン性γグロブリン血症(MGUS)又はPOEMS症候群などの異常タンパク疾患によって引き起こされる末梢性ニューロパチーに罹患している。対象は、ビタミンB12欠乏症、ビタミンE欠乏症又は銅欠乏症などの、栄養/ビタミン欠乏症に罹患している。
【0043】
本開示のさらなる態様において、本明細書に記載される方法のいずれかにおいて、対象は、自己免疫性末梢性多発ニューロパチー、急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(AIDP)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、血管炎による多発性単神経炎、パラニューロパチー(paraneuropathy)、特発性神経節炎、筋萎縮性側索硬化症、多巣性運動伝導ブロックニューロパチー、又は下位運動ニューロン症候群に罹患している。
【0044】
後天性ニューロパチーは、中毒性ニューロパチーであり得る。例えば、中毒性ニューロパチーは、クロラムフェニコール、クロロキン、コルヒチン、ジスルフィラム、エタネルセプト、エタンブトール、金、ヒドロキシクロロキン、ニトロフラントイン、メトロニダゾール、スタブジン、ザルシタビン、インフリキシマブ、レフルノミド、サリドマイド又は化学療法剤(シスプラチン、シタラビン、ボルテゾミブ、ドセタキセル、レナリドミド、ミソニダゾール、オキサリプラチン、パクリタキセル、プロカルバジン、スラミン、サリドマイド、ビンブラスチン若しくはビンクリスチンなど)、又はジスルフィラムなどの抗アルコール薬、又はフェニトイン若しくはダイランチンなどの抗けいれん薬、又は心臓若しくは血圧の薬剤(スタチン、アミオダロン、ヒドララジン、プロカインアミド、ペルヘキシリンなど)、又は抗生物質(フルオロキノロン、イソニアジド、Cipro、Levaquin、Flagyl、若しくはメトロニダゾールなど)又はダプソンなどの皮膚状態治療薬などの、処方された薬剤の毒作用の結果である。中毒性ニューロパチーはまた、長期アルコール乱用又はビタミンB毒性によって引き起こされ得る。
【0045】
本開示の別の態様において、本明細書に記載される方法のいずれかにおいて、対象は、後天性ニューロパチーに罹患している癌患者である。例えば、癌患者は、栄養欠乏症、化学療法副作用、及び/又は腫瘍随伴症候群に関連したニューロパチーを発症している。
【0046】
本開示のさらに別の態様において、本方法のいずれかにおいて、対象は、後天性ニューロパチーに罹患している外科患者である。例えば、外科患者は、肥満症治療手術、複数回の整形外科手術、又は「絞扼神経」のための複数回の手術を受けた後にニューロパチーを発症している。
【0047】
本開示の別の態様において、本方法のいずれかにおいて、対象は、遺伝性ミオパチー、神経筋疾患、筋萎縮、薬物誘発性ミオパチー、サルコペニア、悪液質、タイプII筋線維萎縮、遺伝性筋ジストロフィー、加齢性筋萎縮又は後天性自己免疫性原発性筋疾患(acquired autoimmune primary muscle disorder)に罹患している。
【0048】
本開示の別の態様において、本方法のいずれかにおいて、対象は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、筋強直性筋ジストロフィー、サルコグリカノパチー、筋強直性ジストロフィー、エメリー・ドレフュス型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー、ベスレムミオパチー、ウールリッヒ型先天性筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、脊髄性筋ジストロフィー、脊椎強直性筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、眼咽頭型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー(MDC)1A、1B、1C及び1D;肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)1A、1B、1C、1D、1E、1F、1G、1H、2A、2B、2C、2D、2E、2F、2G 2H、2I、2J、2K、2L、2M、2N、2O及び2Q;筋・眼・脳病;福山・ウォーカー・ワールブルグ症候群;筋無力症候群;先天性筋無力症;封入体ミオパチー;封入体筋炎;皮膚筋炎;中心核ミオパチー;三好型ミオパチー;ミトコンドリアミオパチー;ネマリンミオパチー;野中ミオパチー;重症筋無力症;又は多発性筋炎に罹患している。
【0049】
一実施形態において、本開示は、対象における筋成長を刺激するための薬剤の製造のための、治療的に有効な量のニューロトロフィン-3(NT-3)、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片、又はNT-3、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片をコードする核酸の使用を提供する。例えば、薬剤は、筋肉内投与のために製剤化される。
【0050】
例示的な実施形態において、薬剤は、NT-3、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片をコードする核酸を含み、ここで、核酸は、ウイルスベクター中にある。関連する実施形態において、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクターである。様々な実施形態において、核酸は、3つ組の筋特異的クレアチンキナーゼプロモータなどの筋特異的プロモータに動作可能に連結される。様々な実施形態において、核酸は配列番号1を含む。
【0051】
本発明は、ヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するための薬剤の製造のための、NT-3ポリペプチドをコードする核酸の使用であって、ここで、a)核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列と90%同一のヌクレオチド配列を含み、b)核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列を含み;c)核酸が、配列番号2と少なくとも90%同一であるか又は配列番号2と100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み、d)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、本開示の核酸のいずれかであり、e)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、rAAVが、低濃度のNT-3ポリペプチドの持続発現をもたらす用量であり、f)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kgであり、g)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgであり、h)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約2×1012vg/kgであり、i)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約4×1012vg/kgであり、j)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、投与されるrAAVの用量が、約6×1012vg/kgであり、k)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、薬剤が、約0.5~1mlの筋肉当たり3~6回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化され、又はl)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、薬剤が、約5~14mlの総体積での複数回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化される、使用も提供する。
【0052】
本開示は、ヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激するための薬剤の製造のための、NT-3ポリペプチドをコードする核酸の用量の使用であって、ここで、a)核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列と90%同一のヌクレオチド配列を含み、b)核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列を含み;c)核酸が、配列番号2と少なくとも90%同一であるか又は配列番号2と100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み、d)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、本開示の核酸のいずれかであり、e)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、rAAVが、低濃度のNT-3ポリペプチドの持続発現をもたらす用量であり、f)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kgであり、g)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgであり、h)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約2×1012vg/kgであり、i)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約4×1012vg/kgであり、j)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、投与されるrAAVの用量が、約6×1012vg/kgであり、k)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、薬剤が、約0.5~1mlの筋肉当たり3~6回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化され、又はl)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、薬剤が、約5~14mlの総体積での複数回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化される、使用も提供する。
【0053】
例えば、本開示の薬剤のいずれかは、アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターを用いた投与のために製剤化される核酸を含み得る。さらに、本開示の薬剤のいずれかは、筋特異的プロモータに動作可能に連結される核酸を含み得、例えば、筋特異的プロモータは、筋特異的クレアチンキナーゼプロモータ(MCK)である。別の実施形態において、薬剤又は本開示のいずれかにおいて、scAAV1.tMCK.NTF3は、配列番号11に記載されるNT-3遺伝子カセットを含む。一実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するための薬剤の調製のための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の使用であって、薬剤が、低濃度のNT-3タンパク質の持続発現をもたらす、使用を提供する。
【0054】
別の実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋成長を刺激するための薬剤の調製のための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の使用であって、用量が、低濃度のNT-3タンパク質の持続発現をもたらす、使用を提供する。
【0055】
一実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するための薬剤の調製のための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の使用であって、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、薬剤が、約1.0×1012vg/kg~約7×1012vg/kg、又は約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kg、又は約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgである、rAAVの用量を含む、使用を提供する。
【0056】
別の実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するための薬剤の調製のための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の使用であって、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、薬剤が、約1.0×1012vg/kg、又は約1.5×1012vg/kg、又は約2×1012vg/kg、又は約3×1012vg/kg、又は約4×1012vg/kg、又は約5×1012vg/kg、又は約6×1012vg/kg、又は約7×1012vg/kg、又は約8×1012vg/kg、又は約9×1012vg/kg、又は約1×1013vg/kgである、rAAVの用量を含む、使用を提供する。
【0057】
別の実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するための薬剤の調製のための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の使用であって、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、薬剤が、約2×1013vg/mlである、rAAVの濃度を含む、使用を提供する。例えば、薬剤が、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に、それぞれ筋肉当たり3~6回の注射(例えば各注入量は、0.5~1mlである)を用いて投与され、ここで、合計5mL~14mLのベクターが、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に投与される。
【0058】
例示的な実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するための薬剤の調製のための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の使用であって、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、薬剤が、それぞれ筋肉当たり3~6回の注射(各注入量は、0.5~1mlである)を用いて投与される約1×1013vg/mlである、rAAVの用量を含む、使用を提供する。合計5mL~14mLのベクターが、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に投与される。
【0059】
一実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激するための薬剤の調製のための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の使用であって、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、薬剤が、約1.0×1012vg/kg~約7×1012vg/kg、又は約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kg、又は約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgである、rAAVの用量を含む、使用を提供する。
【0060】
別の実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激するための薬剤の調製のための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の使用であって、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、薬剤が、約1.0×1012vg/kg、又は約1.5×1012vg/kg、又は約2×1012vg/kg、又は約3×1012vg/kg、又は約4×1012vg/kg、又は約5×1012vg/kg、又は約6×1012vg/kg、又は約7×1012vg/kg、又は約8×1012vg/kg、又は約9×1012vg/kg、又は約1×1013vg/kgである、rAAVの用量を含む、使用を提供する。
【0061】
別の実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激するための薬剤の調製のための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の使用であって、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、薬剤が、低用量(患者当たり2×1012vg/kg)及び高用量(患者当たり6×1012vg/kg)で投与される約2×1013vg/mlである、rAAVの濃度を含む、使用を提供する。ある実施形態において、薬剤は、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に、それぞれ筋肉当たり3~6回の注射(例えば各注入量は、0.5~1mlである)を用いて投与される。合計5mL~14mLのベクターが、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に投与される。
【0062】
例示的な実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激するための薬剤の調製のための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の使用であって、薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、薬剤が、それぞれ筋肉当たり3~6回の注射(各注入量は、0.5~1mlである)を用いて、低用量(患者当たり2×1012vg/kg)及び高用量(患者当たり6×1012vg/kg)で投与される約2×1013vg/mlである、rAAVの濃度を含む、使用を提供する。合計5mL~14mLのベクターが、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に投与される。
【0063】
本開示の使用のいずれかにおいて、薬剤は、腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭への筋肉内両側注射のために製剤化される。さらに、本発明の使用のいずれかにおいて、薬剤は、対象の上肢又は下肢における筋力の向上をもたらし、例えば、筋力の向上は、CMT小児尺度(CMT Pediatric scale)(CMTPeds)における複合スコアの減少として測定される。さらに、本発明の使用のいずれかにおいて、この薬剤は、2年間の期間にわたって疾患進行の低下又は停止をもたらす。疾患進行は、CMTPedSによって測定される。
【0064】
本開示の一態様において、本開示の使用のいずれかにおいて、対象は、シャルコー・マリー・ツース(CMT)ニューロパチー、例えばCMT1A、CMT2K、CMT4A、CMTRIA、並びに常染色体劣性遺伝的変異、若しくは常染色体優性遺伝的変異又はX連鎖遺伝的変異によって引き起こされる軸索及び脱髄性ニューロパチーなどの遺伝性ニューロパチーに罹患している。遺伝性ニューロパチーは、表1に示される遺伝的変異のいずれかによって引き起こされ得る。さらに、遺伝性ニューロパチーは、以下の遺伝的変異:Val30Met、Ile107Val、及びSer77Tyrなどのトランスサイレチン(TTR)遺伝子の突然変異によって引き起こされるトランスサイレチン型アミロイドニューロパチーであり得る。
【0065】
本開示の別の態様において、本発明の方法のいずれかにおいて、対象は、軸索消失及び/又は神経再生の障害を伴う後天性ニューロパチーに罹患している。後天性ニューロパチーは、ニューロパチーを引き起こす任意の障害又は疾患によって引き起こされる末梢性ニューロパチーである。例えば、対象は、糖尿病、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、甲状腺機能低下症などの甲状腺障害、低血糖症、尿毒症、腎不全、肝機能障害、肝不全、多血症、結合組織障害、癌、ライム病、セリアック病、ハンセン病、ポルフィリン症、シェーグレン症候群、ポリオウイルス感染症、末端肥大症、脂質/糖脂質代謝の障害、ウエストナイル病、アミロイド症、ミトコンドリア障害、良性単クローン性γグロブリン血症(MGUS)又はPOEMS症候群などの異常タンパク疾患によって引き起こされる末梢性ニューロパチーに罹患している。対象は、ビタミンB12欠乏症、ビタミンE欠乏症又は銅欠乏症などの、栄養/ビタミン欠乏症に罹患していてもよい。
【0066】
さらに、本開示の使用のいずれかにおいて、対象は、自己免疫性末梢性多発ニューロパチー、急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(AIDP)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、血管炎による多発性単神経炎、パラニューロパチー、特発性神経節炎、筋萎縮性側索硬化症、多巣性運動伝導ブロックニューロパチー、又は下位運動ニューロン症候群に罹患している。
【0067】
後天性ニューロパチーは、中毒性ニューロパチーである。例えば、中毒性ニューロパチーは、クロラムフェニコール、クロロキン、コルヒチン、ジスルフィラム、エタネルセプト、エタンブトール、金、ヒドロキシクロロキン、ニトロフラントイン、メトロニダゾール、スタブジン、ザルシタビン、インフリキシマブ、レフルノミド、サリドマイド又は化学療法剤(シスプラチン、シタラビン、ボルテゾミブ、ドセタキセル、レナリドミド、ミソニダゾール、オキサリプラチン、パクリタキセル、プロカルバジン、スラミン、サリドマイド、ビンブラスチン若しくはビンクリスチンなど)、又はジスルフィラムなどの抗アルコール薬、又はフェニトイン若しくはダイランチンなどの抗けいれん薬、又は心臓若しくは血圧の薬剤(スタチン、アミオダロン、ヒドララジン、プロカインアミド、ペルヘキシリンなど)、又は抗生物質(フルオロキノロン、イソニアジド、Cipro、Levaquin、Flagyl、若しくはメトロニダゾールなど)、又はダプソンなどの皮膚状態治療薬などの、処方された薬剤の毒作用の結果である。中毒性ニューロパチーは、長期アルコール乱用又はビタミンB毒性によって引き起こされ得る。
【0068】
別の態様において、本開示の使用のいずれかにおいて、対象は、後天性ニューロパチーに罹患している癌患者である。例えば、癌患者は、栄養欠乏症、化学療法副作用、及び/又は腫瘍随伴症候群に関連したニューロパチーを発症している。
【0069】
さらに別の態様において、本開示の使用のいずれかにおいて、対象は、後天性ニューロパチーに罹患している外科患者である。例えば、外科患者は、肥満症治療手術、複数回の整形外科手術、又は「絞扼神経」のための複数回の手術を受けた後にニューロパチーを発症している。
【0070】
別の態様において、本開示の使用のいずれかにおいて、対象は、遺伝性ミオパチー、神経筋疾患、筋萎縮、薬物誘発性ミオパチー、サルコペニア、悪液質、タイプII筋線維萎縮、遺伝性筋ジストロフィー、加齢性筋萎縮又は後天性自己免疫性原発性筋疾患に罹患している。
【0071】
別の態様において、本開示の使用のいずれかにおいて、対象は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、筋強直性筋ジストロフィー、サルコグリカノパチー、筋強直性ジストロフィー、エメリー・ドレフュス型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー、ベスレムミオパチー、ウールリッヒ型先天性筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、脊髄性筋ジストロフィー、脊椎強直性筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、眼咽頭型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー(MDC)1A、1B、1C及び1D;肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)1A、1B、1C、1D、1E、1F、1G、1H、2A、2B、2C、2D、2E、2F、2G 2H、2I、2J、2K、2L、2M、2N、2O及び2Q;筋・眼・脳病;福山・ウォーカー・ワールブルグ症候群;筋無力症候群;先天性筋無力症;封入体ミオパチー;封入体筋炎;皮膚筋炎;中心核ミオパチー;三好型ミオパチー;ミトコンドリアミオパチー;ネマリンミオパチー;野中ミオパチー;重症筋無力症;又は多発性筋炎に罹患している。
【0072】
一実施形態において、本開示は、対象における筋成長を刺激するのに使用するための、治療的に有効な量のニューロトロフィン-3(NT-3)、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片、又はNT-3、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片をコードする核酸を含む組成物を提供する。例えば、本開示の組成物は、筋肉内投与のために製剤化される。
【0073】
例示的な実施形態において、この組成物は、NT-3、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片をコードする核酸を含む。関連する実施形態において、核酸は、アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクター中にある。様々な実施形態において、核酸は、3つ組の筋特異的クレアチンキナーゼプロモータなどの筋特異的プロモータに動作可能に連結される。様々な実施形態において、この組成物は、配列番号1のヌクレオチド配列を含む核酸を含む。
【0074】
本開示は、ヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するのに使用するための、NT-3ポリペプチドをコードする核酸を含む組成物であって、ここで、a)核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列と90%同一のヌクレオチド配列を含み、b)核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列を含み;c)核酸が、配列番号2と少なくとも90%であるか又は配列番号2と100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み、d)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、本開示の核酸のいずれかであり、e)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、rAAVが、低濃度のNT-3ポリペプチドの持続発現をもたらす用量で投与され、f)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kgであり、g)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgであり、h)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約2×1012vg/kgであり、i)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約4×1012vg/kgであり、j)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、投与されるrAAVの用量が、約6×1012vg/kgであり、k)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、約0.5~1mlの筋肉当たり3~6回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化され、又はl)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、約5~14mlの総体積での複数回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化される、組成物も提供する。
【0075】
別の実施形態において、本開示は、ヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激するのに使用するための、NT-3ポリペプチドをコードする核酸を含む組成物であって、ここで、a)核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列と90%同一のヌクレオチド配列を含み、b)核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列を含み;c)核酸が、配列番号2と少なくとも90%同一であるか又は配列番号2と100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み、d)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、本開示の核酸のいずれかであり、e)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、rAAVが、低濃度のNT-3ポリペプチドの持続発現をもたらす用量であり、f)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kgであり、g)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgであり、h)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約2×1012vg/kgであり、i)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約4×1012vg/kgであり、j)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、rAAVの用量が、約6×1012vg/kgであり、k)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、約0.5~1mlの筋肉当たり3~6回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化され、又はl)NT-3ポリペプチドをコードする核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、組成物が、約5~14mlの総体積での複数回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化される、組成物を提供する。
【0076】
例えば、本開示の組成物のいずれかは、アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターを用いた投与のために製剤化される核酸を含み得る。さらに、本開示の組成物のいずれかは、筋特異的プロモータに動作可能に連結される核酸を含み得、例えば、筋特異的プロモータは、筋特異的クレアチンキナーゼプロモータ(MCK)である。別の実施形態において、組成物又は本開示のいずれかにおいて、scAAV1.tMCK.NTF3は、配列番号11に記載されるNT-3遺伝子カセットを含む。
【0077】
一実施形態において、本開示は、低濃度のNT-3タンパク質の持続発現をもたらす、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の用量を含む組成物を提供する。
【0078】
別の実施形態において、本開示は、低濃度のNT-3タンパク質の持続発現をもたらす、それを必要とするヒト対象における筋成長を刺激するための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の使用を提供する。
【0079】
一実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の用量を含む組成物であって、組成物が、筋肉内投与のために製剤化され、投与されるrAAVの用量が、約1.0×1012vg/kg~約7×1012vg/kg、又は約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kg、又は約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgである、組成物を提供する。
【0080】
別の実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の用量を含む組成物であって、組成物が、筋肉内投与のために製剤化され、投与されるrAAVの用量が、約1.0×1012vg/kg、又は約1.5×1012vg/kg、又は約2×1012vg/kg、又は約3×1012vg/kg、又は約4×1012vg/kg、又は約5×1012vg/kg、又は約6×1012vg/kg、又は約7×1012vg/kg、又は約8×1012vg/kg、又は約9×1012vg/kg、又は約1×1013vg/kgである、組成物を提供する。
【0081】
別の実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の用量を含む組成物であって、組成物が、筋肉内投与のために製剤化され、投与されるrAAVの用量が、低用量(患者当たり2×1012vg/kg)及び高用量(患者当たり6×1012vg/kg)で投与される約2×1013vg/mlである、組成物を提供する。ある実施形態において、この組成物は、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に、それぞれ筋肉当たり3~6回の注射(各注入量は、0.5~1mlである)を用いて投与される。合計5mL~14mLのベクターが、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に投与される。
【0082】
例示的な実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の用量を含む組成物であって、組成物が、筋肉内投与のために製剤化され、投与されるrAAVの用量が、それぞれ筋肉当たり3~6回の注射(各注入量は、0.5~1mlである)を用いて、低用量(患者当たり2×1012vg/kg)及び高用量(患者当たり6×1012vg/kgで投与される約2×1013vg/mlである、組成物を提供する。合計5mL~14mLのベクターが、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に投与される。
【0083】
一実施形態において、本開示は、ヒト対象における筋力を向上させるための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の用量を含む組成物であって、組成物が、筋肉内投与のために製剤化され、投与されるrAAVの用量が、約1.0×1012vg/kg~約7×1012vg/kg、又は約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kg、又は約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgである、組成物を提供する。
【0084】
別の実施形態において、本開示は、ヒト対象における筋力を向上させるための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の用量を含む組成物であって、組成物が、筋肉内投与のために製剤化され、投与されるrAAVの用量が、約1.0×1012vg/kg、又は約1.5×1012vg/kg、又は約2×1012vg/kg、又は約3×1012vg/kg、又は約4×1012vg/kg、又は約5×1012vg/kg、又は約6×1012vg/kg、又は約7×1012vg/kg、又は約8×1012vg/kg、又は約9×1012vg/kg、又は約1×1013vg/kgである、組成物を提供する。
【0085】
別の実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激するための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の用量を含む組成物であって、組成物が、筋肉内投与のために製剤化され、投与されるrAAVの用量が、低用量(患者当たり2×1012vg/kg)及び高用量(患者当たり6×1012vg/kg)で投与される約2×1013vg/mlである、組成物を提供する。ある実施形態において、この組成物は、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に、それぞれ筋肉当たり3~6回の注射(各注入量は、0.5~1mlである)を用いて投与される。合計5mL~14mLのベクターが、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に投与される。
【0086】
例示的な実施形態において、本開示は、それを必要とするヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激するための組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3の用量を含む組成物であって、組成物が、筋肉内投与のために製剤化され、投与されるrAAVの用量が、それぞれ筋肉当たり3~6回の注射(各注入量は、0.5~1mlである)を用いて、低用量(患者当たり2×1012vg/kg)及び高用量(患者当たり6×1012vg/kgで投与される約2×1013vg/mlである、組成物を提供する。合計5mL~14mLのベクターが、各脚における腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭に投与される。
【0087】
本開示の組成物のいずれかにおいて、scAAV1.tMCK.NTF3の投与経路は、腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭への筋肉内両側注射である。さらに、本発明の組成物のいずれかにおいて、scAAV1.tMCK.NTF3の投与は、対象の上肢又は下肢における筋力の向上をもたらし、例えば、筋力の向上は、CMT小児尺度(CMT Pediatric scale)(CMTPedS)における複合スコアの減少として測定される。さらに、本開示の組成物のいずれかにおいて、この組成物の投与は、2年間の期間にわたって疾患進行の低下又は停止をもたらす。疾患進行は、CMTPedSによって測定される。CMTPedSは、機能的巧緻性試験(Functional Dexterity Test)、9ホールペグ試験(Nine-Hole Peg Test)(9HPT)、徒手筋力計を用いたハンドグリップ、足底屈、及び足の背屈強度、針刺し及び振動感覚、ブルイニンクス・オセレツキー試験-バランス評価、歩容評価、走り幅跳び、及び6分間歩行試験(6MWT)から構成される11項目の尺度である。遺伝子導入の2年後の時点でこの尺度によって測定される能力の低下の停止として定義される有効性。
【0088】
本開示の態様において、この組成物のいずれかにおいて、対象は、遺伝性ニューロパチー、例えばシャルコー・マリー・ツース(CMT)ニューロパチー、例えばCMT1A、CMT2K、CMT4A、CMTRIA、並びに常染色体劣性遺伝的変異、若しくは常染色体優性遺伝的変異又はX連鎖遺伝的変異によって引き起こされる軸索及び脱髄性ニューロパチーに罹患している。遺伝性ニューロパチーは、表1に示される遺伝的変異のいずれかによって引き起こされ得る。さらに、遺伝性ニューロパチーは、以下の遺伝的変異:Val30Met、Ile107Val、及びSer77Tyrなどのトランスサイレチン(TTR)遺伝子の突然変異によって引き起こされるトランスサイレチン型アミロイドニューロパチーであり得る。
【0089】
本開示の別の態様において、この組成物のいずれかにおいて、対象は、軸索消失及び/又は神経再生の障害を伴う後天性ニューロパチーに罹患している。後天性ニューロパチーは、ニューロパチーを引き起こす任意の障害又は疾患によって引き起こされる末梢性ニューロパチーである。例えば、対象は、糖尿病、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、甲状腺機能低下症などの甲状腺障害、低血糖症、尿毒症、腎不全、肝機能障害、肝不全、多血症、結合組織障害、癌、ライム病、セリアック病、ハンセン病、ポルフィリン症、シェーグレン症候群、ポリオウイルス感染症、末端肥大症、脂質/糖脂質代謝の障害、ウエストナイル病、アミロイド症、ミトコンドリア障害、良性単クローン性γグロブリン血症(MGUS)又はPOEMS症候群などの異常タンパク疾患によって引き起こされる末梢性ニューロパチーに罹患している。対象は、ビタミンB12欠乏症、ビタミンE欠乏症又は銅欠乏症などの、栄養/ビタミン欠乏症に罹患している。
【0090】
さらに、本開示の組成物のいずれかにおいて、対象は、自己免疫性末梢性多発ニューロパチー、急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(AIDP)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、血管炎による多発性単神経炎、パラニューロパチー、特発性神経節炎、筋萎縮性側索硬化症、多巣性運動伝導ブロックニューロパチー、又は下位運動ニューロン症候群に罹患している。
【0091】
本開示の組成物のいずれかにおいて、後天性ニューロパチーは、中毒性ニューロパチーである。例えば、中毒性ニューロパチーは、クロラムフェニコール、クロロキン、コルヒチン、ジスルフィラム、エタネルセプト、エタンブトール、金、ヒドロキシクロロキン、ニトロフラントイン、メトロニダゾール、スタブジン、ザルシタビン、インフリキシマブ、レフルノミド、サリドマイド又は化学療法剤(シスプラチン、シタラビン、ボルテゾミブ、ドセタキセル、レナリドミド、ミソニダゾール、オキサリプラチン、パクリタキセル、プロカルバジン、スラミン、サリドマイド、ビンブラスチン若しくはビンクリスチンなど)、又はジスルフィラムなどの抗アルコール薬、又はフェニトイン若しくはダイランチンなどの抗けいれん薬、又は心臓若しくは血圧の薬剤(スタチン、アミオダロン、ヒドララジン、プロカインアミド、ペルヘキシリンなど)、又は抗生物質(フルオロキノロン、イソニアジド、Cipro、Levaquin、Flagyl、若しくはメトロニダゾールなど)及びダプソンなどの皮膚状態治療薬などの、処方された薬剤の毒作用の結果である。中毒性ニューロパチーはまた、長期アルコール乱用又はビタミンB毒性によって引き起こされる。
【0092】
本開示の別の態様において、この組成物のいずれかにおいて、対象は、後天性ニューロパチーに罹患している癌患者である。例えば、癌患者は、栄養欠乏症、化学療法副作用、及び/又は腫瘍随伴症候群に関連したニューロパチーを発症している。
【0093】
本開示のさらに別の態様において、この組成物のいずれかにおいて、対象は、後天性ニューロパチーに罹患している外科患者である。例えば、外科患者は、肥満症治療手術、複数回の整形外科手術、又は「絞扼神経」のための複数回の手術を受けた後にニューロパチーを発症している。
【0094】
本開示の別の態様において、このいずれかにおいて、対象は、遺伝性ミオパチー、神経筋疾患、筋萎縮、薬物誘発性ミオパチー、サルコペニア、悪液質、タイプII筋線維萎縮、遺伝性筋ジストロフィー、加齢性筋萎縮又は後天性自己免疫性原発性筋疾患に罹患している。
【0095】
本開示の別の態様において、この組成物のいずれかにおいて、対象は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、筋強直性筋ジストロフィー、サルコグリカノパチー、筋強直性ジストロフィー、エメリー・ドレフュス型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー、ベスレムミオパチー、ウールリッヒ型先天性筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、脊髄性筋ジストロフィー、脊椎強直性筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、眼咽頭型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー(MDC)1A、1B、1C及び1D;肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)1A、1B、1C、1D、1E、1F、1G、1H、2A、2B、2C、2D、2E、2F、2G 2H、2I、2J、2K、2L、2M、2N、2O及び2Q;筋・眼・脳病;福山・ウォーカー・ワールブルグ症候群;筋無力症候群;先天性筋無力症;封入体ミオパチー;封入体筋炎;皮膚筋炎;中心核ミオパチー;三好型ミオパチー;ミトコンドリアミオパチー;ネマリンミオパチー;野中ミオパチー;重症筋無力症;又は多発性筋炎に罹患している。
【0096】
本開示の別の態様において、この組成物のいずれかにおいて、対象は、圧迫、ダブルクラッシュ又は切断によって引き起こされる神経損傷などの外傷性神経損傷に罹患している。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
5’から3’の順に:
(i)第1のAAV2逆位末端反復配列(ITR);
(ii)配列番号11のヌクレオチド147~860に記載される筋クレアチンキナーゼプロモータ/エンハンサー配列;
(iii)ヒトNT-3ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;及び
(iv)第2のAAV2 ITR配列
を含む核酸であって;
前記ヒトNT-3ポリペプチドが、配列番号2と少なくとも90%同一であるか若しくは配列番号2と100%同一であるか、又は配列番号11のヌクレオチド1077~1850と90%同一であるか若しくは配列番号11のヌクレオチド1077~1850と100%同一であるヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を有する、核酸。(項目2)
前記プロモータ/エンハンサーの3’側に、配列番号11のヌクレオチド892~1024に記載されるキメライントロンをさらに含む、項目1に記載の核酸。
(項目3)
ヒトNT-3ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列の3’側に、配列番号11のヌクレオチド1860~2059に記載されるSV40ポリアデニル化シグナルをさらに含む、項目1又は2に記載の核酸。
(項目4)
前記第1のITRが、配列番号11のヌクレオチド7~112に記載され、及び/又は
前記第2のITRが、配列番号11のヌクレオチド2121~2248に記載される、項目1~3のいずれか一項に記載の核酸。
(項目5)
前記第1のITRが、配列番号11のヌクレオチド7~112に記載され、
前記第2のITRが、配列番号11のヌクレオチド2121~2248に記載される、項目1~3のいずれか一項に記載の核酸。
(項目6)
配列番号11に記載されるヌクレオチド配列と少なくとも90%同一のscAAV1.tMCK.NTF3ゲノムを含む核酸。
(項目7)
配列番号11に記載されるscAAV1.tMCK.NTF3ゲノムを含む核酸。
(項目8)
感染性である、項目1~7のいずれか一項に記載の核酸を含む組み換えアデノ随伴ウイルス粒子(rAAV)。
(項目9)
前記rAAVが、血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、又はAAVrh.74である、項目8に記載のrAAV粒子。
(項目10)
前記rAAVゲノム中の前記AAV DNAが、AAV-1に由来する、項目8~10のいずれか一項に記載のrAAV粒子。
(項目11)
項目8~10のいずれか一項に記載のrAAV粒子及び薬学的に許容される担体を含む組成物。
(項目12)
前記組成物が、それを必要とする対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するために製剤化される、項目11に記載の組成物。
(項目13)
前記組成物が、それを必要とする対象における筋成長を刺激するために製剤化される、項目11に記載の組成物。
(項目14)
それを必要とするヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療する方法であって、NT-3ポリペプチドをコードする核酸を、前記ヒト対象に投与する工程を含み;ここで、
a)前記核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列と90%同一のヌクレオチド配列を含み、
b)前記核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列を含み;
c)前記核酸が、配列番号2と少なくとも90%であるか又は配列番号2と100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み、
d)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、項目1~7のいずれか一項に記載の核酸であり、
e)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記rAAVが、低濃度のNT-3ポリペプチドの持続発現をもたらす用量で投与され、
f)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与される前記rAAVの用量が、約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kgであり、
g)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与される前記rAAVの用量が、約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgであり、
h)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与される前記rAAVの用量が、約2×1012vg/kgであり、
i)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与される前記rAAVの用量が、約4×1012vg/kgであり、
j)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与される前記rAAVの用量が、約6×1012vg/kgであり、
k)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、約0.5~1mlの筋肉当たり3~6回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射であり、又は
l)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、約5~14mlの総体積での複数回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射である、方法。
(項目15)
それを必要とするヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激する方法であって、NT-3ポリペプチドをコードする核酸を、前記ヒト対象に投与する工程を含み;ここで、
a)前記核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列と90%同一のヌクレオチド配列を含み、
b)前記核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列を含み;
c)前記核酸が、配列番号2と少なくとも90%であるか又は配列番号2と100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み、
d)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、項目1~7のいずれか一項に記載の核酸であり、
e)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記rAAVが、低濃度のNT-3ポリペプチドの持続発現をもたらす用量で投与され、
f)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与される前記rAAVの用量が、約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kgであり、
g)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与される前記rAAVの用量が、約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgであり、
h)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与される前記rAAVの用量が、約2×1012vg/kgであり、
i)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与される前記rAAVの用量が、約4×1012vg/kgであり、
j)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、筋肉内経路であり、投与される前記rAAVの用量が、約6×1012vg/kgであり、
k)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、約0.5~1mlの筋肉当たり3~6回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射であり、又は
l)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、投与経路が、約5~14mlの総体積での複数回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射である、方法。
(項目16)
前記核酸が、ウイルスベクターを用いて投与される、項目14又は15に記載の方法。(項目17)
前記ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記核酸が、筋特異的プロモータに動作可能に連結される、項目14~17のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
前記筋特異的プロモータが、筋特異的クレアチンキナーゼプロモータである、項目14~18のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
前記scAAV1.tMCK.NTF3が、配列番号11に記載されるNT-3遺伝子カセットを含む、項目14~19のいずれか一項に記載の方法。
(項目21)
前記投与経路が、筋肉内注射である、項目14~20のいずれか一項に記載の方法。
(項目22)
前記投与経路が、腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭への筋肉内両側注射である、項目14~21のいずれか一項に記載の方法。
(項目23)
前記対象において向上される筋力が、上肢又は下肢内にある、項目15~22のいずれか一項に記載の方法。
(項目24)
前記筋力の向上が、CMT小児尺度(CMTPeds)における複合スコアの低下として、又は2年間の期間にわたる疾患進行の低下として測定される、項目15~22のいずれか一項に記載の方法。
(項目25)
ヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するのに使用するための、NT-3ポリペプチドをコードする核酸を含む組成物であって、ここで:
a)前記核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列と90%同一のヌクレオチド配列を含み、
b)前記核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列を含み;
c)前記核酸が、配列番号2と少なくとも90%であるか又は配列番号2と100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み、
d)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、項目1~7のいずれか一項に記載の核酸であり、
e)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記rAAVが、低濃度のNT-3ポリペプチドの持続発現をもたらす用量で投与され、
f)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kgであり、
g)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgであり、
h)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約2×1012vg/kgであり、
i)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約4×1012vg/kgであり、
j)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、投与される前記rAAVの用量が、約6×1012vg/kgであり、
k)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、約0.5~1mlの筋肉当たり3~6回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化され、又は
l)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、約5~14mlの総体積での複数回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化される、組成物。
(項目26)
ヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激するのに使用するための、NT-3ポリペプチドをコードする核酸を含む組成物であって、ここで、
a)前記核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列と90%同一のヌクレオチド配列を含み、
b)前記核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列を含み;
c)前記核酸が、配列番号2と少なくとも90%同一であるか又は配列番号2と100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み、
d)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、項目1~7のいずれか一項に記載の核酸であり、
e)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記rAAVが、低濃度のNT-3ポリペプチドの持続発現をもたらす用量であり、
f)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kgであり、
g)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgであり、
h)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約2×1012vg/kgであり、
i)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約4×1012vg/kgであり、
j)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約6×1012vg/kgであり、
k)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、約0.5~1mlの筋肉当たり3~6回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化され、又は
l)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、約5~14mlの総体積での複数回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化される、組成物。
(項目27)
前記核酸が、ウイルスベクターを用いた投与のために製剤化される、項目25又は26に記載の組成物。
(項目28)
前記ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、項目27に記載の組成物。
(項目29)
前記核酸が、筋特異的プロモータに動作可能に連結される、項目25~28のいずれか一項に記載の組成物。
(項目30)
前記筋特異的プロモータが、筋特異的クレアチンキナーゼプロモータである、項目25~29のいずれか一項に記載の組成物。
(項目31)
前記scAAV1.tMCK.NTF3が、配列番号11に記載されるNT-3遺伝子カセットを含む、項目25~29のいずれか一項に記載の組成物。
(項目32)
前記組成物が、筋肉内注射のために製剤化される、項目25~31のいずれか一項に記載の組成物。
(項目33)
前記組成物が、腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭への筋肉内両側注射のために製剤化される、項目25~32のいずれか一項に記載の組成物。
(項目34)
前記向上される筋力が、前記対象の上肢又は下肢内にある、項目26~33のいずれか一項に記載の組成物。
(項目35)
前記筋力の向上が、CMT小児尺度(CMTPeds)における複合スコアの低下として、又は2年間の期間にわたる疾患進行の低下として測定される、項目26~33のいずれか一項に記載の組成物。
(項目36)
ヒト対象における筋肉消耗疾患又はニューロパチーを治療するための薬剤の製造のための、NT-3ポリペプチドをコードする核酸の使用であって、ここで:
a)前記核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列と90%同一のヌクレオチド配列を含み、
b)前記核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列を含み;
c)前記核酸が、配列番号2と少なくとも90%同一であるか又は配列番号2と100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み、
d)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、項目1~7のいずれか一項に記載の核酸であり、
e)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記rAAVが、低濃度のNT-3ポリペプチドの持続発現をもたらす用量であり、
f)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kgであり、
g)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgであり、
h)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約2×1012vg/kgであり、
i)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約4×1012vg/kgであり、
j)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、投与される前記rAAVの用量が、約6×1012vg/kgであり、
k)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記薬剤が、約0.5~1mlの筋肉当たり3~6回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化され、又は
l)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記薬剤が、約5~14mlの総体積での複数回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化される、使用。
(項目37)
ヒト対象における筋力を向上させるか又は筋成長を刺激するための薬剤の製造のための、NT-3ポリペプチドをコードする核酸の用量の使用であって、ここで:
a)前記核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列と90%同一のヌクレオチド配列を含み、
b)前記核酸が、配列番号1のヌクレオチド配列を含み;
c)前記核酸が、配列番号2と少なくとも90%同一であるか又は配列番号2と100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み、
d)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、項目1~7のいずれか一項に記載の核酸であり、
e)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記rAAVが、低濃度のNT-3ポリペプチドの持続発現をもたらす用量であり、
f)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記組成物が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約1.5×1012vg/kg~約6.5×1012vg/kgであり、
g)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約2×1012vg/kg~約6×1012vg/kgであり、
h)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約2×1012vg/kgであり、
i)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、前記rAAVの用量が、約4×1012vg/kgであり、
j)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記薬剤が、筋肉内投与経路のために製剤化され、投与される前記rAAVの用量が、約6×1012vg/kgであり、
k)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記薬剤が、約0.5~1mlの筋肉当たり3~6回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化され、又は
l)前記NT-3ポリペプチドをコードする前記核酸が、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)scAAV1.tMCK.NTF3であり、前記薬剤が、約5~14mlの総体積での複数回の注射を用いて投与される約2×1013vg/mlの濃度での筋肉内注射のために製剤化される、使用。
(項目38)
前記核酸が、ウイルスベクターを用いた投与のために製剤化される、項目36又は37に記載の使用。
(項目39)
前記ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、項目36~38のいずれか一項に記載の使用。
(項目40)
前記核酸が、筋特異的プロモータに動作可能に連結される、項目36~39のいずれか一項に記載の使用。
(項目41)
前記筋特異的プロモータが、筋特異的クレアチンキナーゼプロモータである、項目36~40のいずれか一項に記載の使用。
(項目42)
前記scAAV1.tMCK.NTF3が、配列番号11に記載されるNT-3遺伝子カセットを含む、項目36~41のいずれか一項に記載の使用。
(項目43)
薬剤が、筋肉内注射のために製剤化される、項目36~42のいずれか一項に記載の使用。
(項目44)
薬剤が、腓腹筋及び前脛骨筋の内側頭及び外側頭への筋肉内両側注射のために製剤化される、項目36~43のいずれか一項に記載の使用。
(項目45)
前記対象において向上される筋力が、上肢又は下肢内にある、項目37~44のいずれか一項に記載の使用。
(項目46)
前記筋力の向上が、CMT小児尺度(CMTPeds)における複合スコアの低下として、又は2年間の期間にわたる疾患進行の低下として測定される、項目37~45のいずれか一項に記載の使用。
(項目47)
前記対象が、筋萎縮を発症するリスクがある、項目14~46のいずれか一項に記載の方法、組成物又は使用。
(項目48)
前記対象が、筋萎縮に罹患している、項目14~46のいずれか一項に記載の方法、組成物又は使用。
(項目49)
前記対象が、筋ジストロフィーに罹患している、項目14~46のいずれか一項に記載の方法、組成物又は使用。
(項目50)
前記対象が、ニューロパチーに罹患している、項目14~46のいずれか一項に記載の方法、組成物又は使用。
(項目51)
前記対象が、シャルコー・マリー・ツース(CMT)ニューロパチーに罹患している、項目14~46のいずれか一項に記載の方法、組成物又は使用。
(項目52)
前記対象が、表1に示される遺伝的変異の1つを有する、項目51に記載の方法、組成物又は使用。
(項目52)
前記対象が、トランスサイレチン型アミロイドニューロパチーに罹患している、項目14~46のいずれか一項に記載の方法、組成物又は使用。
(項目53)
前記対象が、Val30Met、Ile107Val、及びSer77Tyrの遺伝的変異の1つを有する、項目52に記載の方法、組成物又は使用。
(項目54)
前記対象が、癌、糖尿病、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、甲状腺障害、甲状腺機能低下症、低血糖症、尿毒症、腎不全、肝機能障害、肝不全、多血症、結合組織障害、ライム病、セリアック病、ハンセン病、ポルフィリン症、シェーグレン症候群、ポリオウイルス感染症、末端肥大症、脂質/糖脂質代謝の障害、ウエストナイル病、アミロイド症、ミトコンドリア障害、異常タンパク疾患、良性単クローン性γグロブリン血症(MGUS)、POEMS症候群、栄養/ビタミン欠乏症、ビタミンB12欠乏症、ビタミンE欠乏症又は銅欠乏症によって引き起こされる後天性ニューロパチーに罹患している、項目14~46のいずれか一項に記載の方法、組成物又は使用。
(項目55)
前記対象が、遺伝性ミオパチー、末梢性ニューロパチー、中毒性ニューロパチー、自己免疫性末梢性多発ニューロパチー、急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(AIDP)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、血管炎による多発性単神経炎、パラニューロパチー、特発性神経節炎、筋萎縮性側索硬化症、多巣性運動伝導ブロックニューロパチー、又は下位運動ニューロン症候群、神経筋疾患、筋萎縮、薬剤性ミオパチー、サルコペニア、悪液質、タイプII筋線維萎縮、加齢性筋萎縮又は後天性自己免疫性原発性筋疾患に罹患している、項目14~46のいずれか一項に記載の方法、組成物又は使用。
【0097】
本発明は、以下の図を参照することによって、より容易に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0098】
図1-1】TrJ筋肉におけるAAV1.NT-3誘発性線維タイプリモデリングを示すグラフ及び画像を示す。注射の16週間後の時点でのAAV1.tMCK.NT-3処理Trembler J(TrJ)(図1A)及び非処理(TrJ-PBS)腓腹筋(図1B)のSDH染色した組織切片の代表的な画像。遅筋(Slow twitch oxidative)(STO、矢印)、中間筋(fast twitch oxidative)(FTO、矢じり)及び速筋(fast twitch glycolytic)(FTG、アスタリスク)が示される(図1B)。有酸素系の線維(oxidative fiber)がaにおいて減少される。TrJ-PBS筋肉(図1B)において、増加した数の小さいSTO線維及び全ての線維タイプの角張った線維が、神経変化に適合する小さいタイプの集団に沿って存在する。a、bについてのスケールバー=30gm。NT-3遺伝子治療(図1C)によるTrJ筋肉におけるSTOからFTO/FTG線維への線維タイプの切り替え。両方の処理群におけるSTOの平均パーセント(各群においてn=3~5のマウスから得られる)は、野生型(WT)筋肉と有意に異なっておらず、これは、TrJ神経原性筋におけるNT-3による線維タイプ分布の正規化に対する変化を示す。
図1-2】TrJ筋肉におけるAAV1.NT-3誘発性線維タイプリモデリングを示すグラフ及び画像を示す。注射の16週間後の時点でのAAV1.tMCK.NT-3処理Trembler J(TrJ)(図1A)及び非処理(TrJ-PBS)腓腹筋(図1B)のSDH染色した組織切片の代表的な画像。遅筋(Slow twitch oxidative)(STO、矢印)、中間筋(fast twitch oxidative)(FTO、矢じり)及び速筋(fast twitch glycolytic)(FTG、アスタリスク)が示される(図1B)。有酸素系の線維(oxidative fiber)がaにおいて減少される。TrJ-PBS筋肉(図1B)において、増加した数の小さいSTO線維及び全ての線維タイプの角張った線維が、神経変化に適合する小さいタイプの集団に沿って存在する。a、bについてのスケールバー=30gm。NT-3遺伝子治療(図1C)によるTrJ筋肉におけるSTOからFTO/FTG線維への線維タイプの切り替え。両方の処理群におけるSTOの平均パーセント(各群においてn=3~5のマウスから得られる)は、野生型(WT)筋肉と有意に異なっておらず、これは、TrJ神経原性筋におけるNT-3による線維タイプ分布の正規化に対する変化を示す。
図2-1】mTORシグナル伝達及び代謝マーカーに対するAAV 1.NT3処理の影響を示すグラフ及び画像を示す。注射の16週間後の時点でのTrJ(図2A)及び野生型(WT)(図2B)腓腹筋におけるmTOR標的、Phospho(P)-4EBP1(Thr37/46)、及びP-S6(Ser235/236)の代表的なウエスタンブロット画像及び分析。グラフは、GAPDHに対して正規化されたタンパク質のリン酸化形態の発現レベルを示す。クマシーブルー染色された膜が、同等のゲルローディングを表す。エラーバーは±SEMであり;各群でn=5~6、P<0.05、対応のないt検定。(図2C)qPCRによる解糖系(1-1K1及びPK1)及び有酸素系調節因子(PGC1α)の相対的発現;GAPDHをハウスキーピング遺伝子として使用した。エラーバーは±SEMであり;各群でn=5~6、P<0.05、一元配置Anova、続いてテューキーの多重比較検定。
図2-2】mTORシグナル伝達及び代謝マーカーに対するAAV 1.NT3処理の影響を示すグラフ及び画像を示す。注射の16週間後の時点でのTrJ(図2A)及び野生型(WT)(図2B)腓腹筋におけるmTOR標的、Phospho(P)-4EBP1(Thr37/46)、及びP-S6(Ser235/236)の代表的なウエスタンブロット画像及び分析。グラフは、GAPDHに対して正規化されたタンパク質のリン酸化形態の発現レベルを示す。クマシーブルー染色された膜が、同等のゲルローディングを表す。エラーバーは±SEMであり;各群でn=5~6、P<0.05、対応のないt検定。(図2C)qPCRによる解糖系(1-1K1及びPK1)及び有酸素系調節因子(PGC1α)の相対的発現;GAPDHをハウスキーピング遺伝子として使用した。エラーバーは±SEMであり;各群でn=5~6、P<0.05、一元配置Anova、続いてテューキーの多重比較検定。
図3-1】筋管に対するNT-3の直接の影響を示すグラフ及び画像を示す。(図3A)30分間にわたって組み換えヒトNT-3(100ng/ml)又はPBS(対照)とともにインキュベートされた筋管におけるAkt/mTOR経路、Phospho(P)-Akt(Ser473)、P-4EBP1(Thr37/46)、及びP-S6(Ser235/236)の代表的なウエスタンブロット画像及び分析。リン酸化タンパク質バンドの密度値を、GAPDHに対して正規化し、対照群におけるパーセントとして示した。クマシーブルー染色された膜が、同等のゲルローディングを表す。筋管を、48時間にわたってNT-3(100ng/ml)とともにインキュベートし、次に、代謝マーカー(PGC1a、HK1、PK1)の相対的mRNA発現を、qPCR(図3B)によって検出し、細胞培養培地中の乳酸産生に対するグルコース消費を、ELISA(図3C)によって検出した。(図3D)48時間にわたるNT-3(100ng/ml)処理後の筋管に対する筋芽細胞中のミオゲニン及びNT-3受容体、P75NTR及びTrkCの相対的発現レベル。GAPDHを、分析におけるハウスキーピング遺伝子として使用した。示される結果は、少なくとも3つの独立した実験からの平均±SEMである(P<0.05、スチューデントの対応のあるt検定)。
図3-2】筋管に対するNT-3の直接の影響を示すグラフ及び画像を示す。(図3A)30分間にわたって組み換えヒトNT-3(100ng/ml)又はPBS(対照)とともにインキュベートされた筋管におけるAkt/mTOR経路、Phospho(P)-Akt(Ser473)、P-4EBP1(Thr37/46)、及びP-S6(Ser235/236)の代表的なウエスタンブロット画像及び分析。リン酸化タンパク質バンドの密度値を、GAPDHに対して正規化し、対照群におけるパーセントとして示した。クマシーブルー染色された膜が、同等のゲルローディングを表す。筋管を、48時間にわたってNT-3(100ng/ml)とともにインキュベートし、次に、代謝マーカー(PGC1a、HK1、PK1)の相対的mRNA発現を、qPCR(図3B)によって検出し、細胞培養培地中の乳酸産生に対するグルコース消費を、ELISA(図3C)によって検出した。(図3D)48時間にわたるNT-3(100ng/ml)処理後の筋管に対する筋芽細胞中のミオゲニン及びNT-3受容体、P75NTR及びTrkCの相対的発現レベル。GAPDHを、分析におけるハウスキーピング遺伝子として使用した。示される結果は、少なくとも3つの独立した実験からの平均±SEMである(P<0.05、スチューデントの対応のあるt検定)。
図4】処理及び非処理マウスにおけるNT-3の血中濃度を示すグラフを示す。エンドポイントにおいて、血清を各マウスから収集し、循環NT-3レベルを、ELISAによって検出した。
図5】TrJ及びWT腓腹筋におけるP75NTR及びTrkCの相対的mRNA発現を示す。GAPDHを、分析においてハウスキーピング遺伝子として使用した。示される結果は、少なくとも3つの独立した実験からの平均±SEMである(P<0.05、スチューデントのt検定)。
図6】構築物AAV.tMCK.NTF3(配列番号11)の概略図を示す。ベクターは、筋特異的tMCKプロモータ(配列番号3)、キメライントロン(配列番号5)、コンセンサスコザック配列(配列番号6)、NTF3 cDNA(配列番号1)、及びポリアデニル化シグナル(配列番号7)を含有する。
図7】制限マップ及びORF分析pAAV.tMCK.NTF3を示す。
図8】ヒト対象におけるAAV.tMCK.NTF3の筋肉内(IM)注射の位置を示す。
図9-1】AAV.tMCK.NTF3のヌクレオチド配列(配列番号11)を示す。
図9-2】AAV.tMCK.NTF3のヌクレオチド配列(配列番号11)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0099】
TrJ筋肉におけるAAV.NT-3処理に誘発される線維サイズの増加を、この増加が単に神経再生の結果であるかどうか、又はNT-3が、神経再生と無関係の筋肉タンパク質合成に直接影響を与え、それによって筋線維サイズを増加させることが可能であるかどうかを決定するために調べた。
【0100】
NT-3の新規な効果;神経原性筋におけるタンパク質合成及び代謝リモデリングに直接影響を与えるその能力が、本明細書に開示される。
【0101】
本明細書に記載される研究は、遺伝子注入の16週間後の時点でのTrJ筋肉の酸化状態に対するAAV.NT-3遺伝子治療の効果をまず評価し、筋線維サイズの増加が、WTに見られる線維タイプ比率の正規化に対する筋線維の酸化状態の変化に関連していたことを見出した。処理は、遅筋(STO)線維のパーセントの低下をもたらした一方、中間筋及び速筋(FTO及びFTG)線維集団が増加し、これは、非処理TrJ筋肉に見られるパターンの逆転を反映している。NT-3に誘発される線維サイズの増加は、FTG線維集団について最も顕著であった。次に、ラパマイシン複合体1(mTORC1)活性化の哺乳動物標的が、特に、解糖系線維の優先的な肥大成長に重点を置いて、NT-3に誘発される筋肉タンパク質合成において役割を果たしたかどうかを調べた。mTORC1は、翻訳調節因子真核生物翻訳開始因子4E結合タンパク質1(4E-BP1)及びS6キナーゼ1(S6K1)のリン酸化を介して翻訳及びリボソーム生合成を調節する。Laplante M,Sabatini D.,Cell,149(2):274-293(2012)。さらに、mTORC1は、細胞解糖の活性化に関連しており、細胞解糖の活性化は、解糖酵素又はそれらの転写調節因子の翻訳の増加に関与する。Duvel et
al.,Molecular cell,39(2):171-183(2010)。TrJ筋肉における組織化学的変化に、mTORC1活性化の証拠として4E-BP1及びS6タンパク質(S6P)のリン酸化レベルの増加が伴っていたことが分かった。並行して、ミトコンドリア生合成調節因子(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体yコアクチベータ1a、PGC1α)、及び解糖のマーカー(ヘキソキナーゼ-1、HK1及びピルビン酸キナーゼ1、PK1)の発現レベルが、TrJ筋肉において増加した。これらの変化は、AAV.NT-3処理されたWT筋肉において有意でなかった。さらに、インビトロ試験は、組み換えNT-3が、TrkC発現筋管においてAkt/mTOR経路活性化を直接誘発し得るが、筋芽細胞においては誘発しないことを示した。さらに、ミオゲニン発現レベルは、筋管において有意に高かった一方、p75NTR発現は、筋芽細胞と比較して下方制御され、これは、NT-3に誘発される筋芽細胞分化が、mTORC1活性化に関連していることを示す。
【0102】
本明細書に記載される所見は、神経及び筋肉の両方に利益を有するニューロパチーの治療のためだけでなく、さらには老化、癌悪液質又はタイプII筋線維萎縮を含む筋消耗疾患、並びにmTORC1シグナル伝達の乱れ及び欠陥のあるミトコンドリア生合成が関与し得る再生の肥大成長期の障害に関連する遺伝性又は後天性自己免疫性原発性筋疾患のための、NT-3の潜在的使用に対する多くの示唆を与える。
【0103】
本開示は、対象における筋成長を刺激する方法に関する。本方法は、治療的に有効な量のニューロトロフィン-3(NT-3)、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片、又はNT-3、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片をコードする核酸を、それを必要とする対象に投与することを含む。筋成長を刺激することを必要とする対象としては、筋ジストロフィー又は筋萎縮に罹患している対象が挙げられる。
【0104】
本発明は、筋消耗を阻害する方法であって、AAVベクターを投与して、ニューロトロフィン-3(NT-3)をコードするNTF3遺伝子を送達することを含む、方法を提供する。一実施形態において、本発明は、シャルコー・マリー・ツース病1A型(CMT1A)を治療する遺伝子治療方法を提供し、ここで、NT-3をコードするNTF3遺伝子が、筋特異的tMCKプロモータの制御下で、自己相補性アデノ随伴ウイルス(scAAV)1型を用いて対象に送達される。別の実施形態において、本発明は、それを必要とする対象、例えばCMTなどの筋肉消耗疾患と診断されたか又はそれに罹患している対象における筋力を増加させる遺伝子治療方法を提供する。
【0105】
前臨床試験は、CMT1のための天然マウスモデルであるtrembler Jマウス9(Tr)の腓腹筋への構築物AAV1.tMCK.NTF3の送達が、神経再生、髄鞘形成、有髄線維密度、座骨神経複合筋活動電位振幅並びにロータロッド試験における機能的性能及び後肢握力強度を向上させたことを実証した(実施例3を参照)。
【0106】
本明細書において使用される際、「治療(treatment)」、「治療する(treating)」などの用語は、所望の薬理的又は生理的効果を得ることを指す。この効果は、疾患又は疾患に起因する有害作用の部分的又は完全な治癒という点で治療的であり得る。本明細書において使用される際の「治療」は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の治療を包含し、疾患又は病態を抑制すること、すなわち、その発症を停止させること;及び疾患を軽減すること、すなわち、疾患の退行を生じさせることを含み得る。
【0107】
本明細書において使用される際の予防は、ニューロパチー、脱髄性多発ニューロパチー、筋肉消耗疾患又は萎縮などの病態又は疾患に罹患するリスクのある対象に利益をもたらす任意の作用を指す。
【0108】
本明細書において使用される際の「薬学的に許容される」は、化合物又は組成物が、疾患の重症度及び治療の必要性を考慮して過度の有害な副作用なしに、本明細書に記載される方法のための対象への投与に好適であることを意味する。
【0109】
「治療的に有効な」及び「薬理学的に有効な」という用語は、疾患の重症度及び発生の頻度の改善の目標を達成する薬剤の量を適格とすることが意図される。治療の有効性は、NT-3の投与に応答した対象における症状の軽減を評価することによって測定され得る。
【0110】
「有効な断片」という用語は、NT-3ポリペプチドの機能的断片をコードするポリヌクレオチド配列の一部を指す。「有効な断片」という用語は、NT-3成長因子活性を保持するNT-3ポリペプチドアミノ酸配列の一部も指す。例示的なNT-3成長因子活性としては、既に存在するニューロンの生存及び分化を補助すること、並びに新たなニューロン及びシナプスの成長及び分化を誘発及び補助することが挙げられる。さらに、NT-3活性としては、筋成長及び筋機能を刺激することが挙げられる。
【0111】
本明細書において使用される際、「診断」という用語は、対象が疾患を発症する可能性、又は対象における疾患の存在若しくは性質を決定することを包含し得る。本明細書において使用される際の診断という用語は、疾患の重症度及び起こりそうな結果又は疾患の発現又は回復の見込み(一般に予後と呼ばれる)を決定することも包含する。「診断」は、合理的な治療との関連における診断も包含することができ、ここで、診断は、治療の最初の選択、治療の変更委(例えば、用量又は投薬計画の調整)などを含め、治療の指針になる。
【0112】
本明細書において使用される際の「対象」は、任意の動物であることができ、患者とも呼ばれ得る。好ましくは、対象は脊椎動物であり、より好ましくは、対象は、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ)又はペット(例えば、イヌ、ネコ)などの哺乳動物である。ある実施形態において、対象はヒトである。
【0113】
「ポリヌクレオチド」又は「核酸分子」という用語は、少なくとも10塩基長のヌクレオチドのポリマー形態を指す。この用語は、DNA分子(例えば、eDNA又はゲノム若しくは合成DNA)及びRNA分子(例えば、mRNA若しくは合成RNA)、並びに非天然ヌクレオチド類似体、非天然ヌクレオシド間結合、若しくはその両方を含むDNA又はRNAの類似体を含む。核酸は、任意のトポロジー構造であり得る。例えば、核酸は、一本鎖、二本鎖、三本鎖、四本鎖(quadruplexed)、部分的な二本鎖、分岐、ヘアピン、環状、又はパドロック構造(padlocked conformation)であり得る。
【0114】
本明細書において使用される際の「遺伝子」という用語は、酵素又は他のポリペプチド分子(例えば、コード配列、例えば、ポリペプチドをコードする連続したオープンリーディングフレーム(ORF)を含み得る)の合成を指示するか、又はそれ自体が生物において機能的であり得るヌクレオチド配列を指す。生物中の遺伝子は、本明細書に定義されるように、オペロン中で密集することができ、ここで、オペロンは、遺伝子間DNAによって他の遺伝子及び/又はオペロンから分離される。オペロン中に含まれる個々の遺伝子は、個々の遺伝子間の遺伝子間DNAなしで重なり合うことができる。
【0115】
本明細書において使用される際、「AAV」という用語は、アデノ随伴ウイルスの標準的な略語である。アデノ随伴ウイルスは、特定の機能が共感染ヘルパーウイルスによって提供された細胞内のみで成長する一本鎖DNAパルボウイルスである。現在、特徴付けられているAAVの13の血清型がある。AAVの一般的な情報及び概説が、例えば、Carter,1989,Handbook of Parvoviruses,Vol.1,pp.169-228、及びBerns,1990,Virology,pp.1743-1764,Raven Press,(New York)に見られる。しかしながら、様々な血清型が、遺伝子レベルでさえ、構造的に且つ機能的にかなり密接に関連していることは周知であるため、これらの同じ原理が、さらなるAAV血清型に適用可能である。(例えば、Blacklowe,1988,pp.165-174 of Parvoviruses and Human Disease,J.R.Pattison,ed.;及びRose,Comprehensive Virology 3:1-61(1974)を参照)。例えば、全てのAAV血清型が、相同rep遺伝子によって仲介される非常に類似した複製特性を示すようであり;全てが、AAV2中で発現されるものなどの3つの関連するカプシドタンパク質を保有する。類似度は、ゲノムの長さに沿った血清型間の広範なクロスハイブリダイゼーション;及び「逆位末端反復配列」(ITR)に対応する末端における類似のセルフアニーリング部分の存在を明らかにするヘテロ二本鎖分析によってさらに示唆される。類似の感染性パターンは、各血清型における複製機能が、類似の調節制御下にあることも示唆する。
【0116】
「ベクター」又は「発現ベクター」という用語は、転写されることが可能なRNAをコードする核酸を含む任意のタイプの遺伝的構築物を指す。発現ベクターは、様々な制御配列、構造遺伝子(例えば、対象とする遺伝子)、及び他の機能も同様に果たす核酸配列を含有し得る。
【0117】
「ベクター」とは、通常、プラスミド又はバクテリオファージに由来するDNA分子を意味し、その中にDNAの断片が挿入又はクローニングされ得る。組み換えベクターは、1つ以上の独自の制限部位を含有し、クローン配列が再生可能であるように規定の宿主又は媒介生物において自己複製可能であり得る。ベクターは、受容細胞にトランスフェクションされると、RNAが発現されるように、遺伝子又はコード領域に動作可能に連結されるプロモータを含有する。
【0118】
本明細書において使用される際の「AAVベクター」は、AAV末端反復配列(ITR)によって隣接される対象とする1つ以上のポリヌクレオチド(又は導入遺伝子)を含むベクターを指す。このようなAAVベクターは、rep及びcap遺伝子産物をコード及び発現するベクターでトランスフェクトされた宿主細胞中に存在するとき、感染性ウイルス粒子中に複製及びパッケージングされ得る。
【0119】
「AAVビリオン」又は「AAVウイルス粒子」又は「AAVベクター粒子」は、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質及びカプシド形成されたポリヌクレオチドAAVベクターから構成されるウイルス粒子を指す。粒子が、異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳動物細胞に送達される導入遺伝子などの野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、それは、典型的に、「AAVベクター粒子」又は単に「AAVベクター」と呼ばれる。したがって、AAVベクター粒子の産生は、AAVベクターの産生を必然的に含むが、それは、このようなベクターが、AAVベクター粒子内に含まれるためである。
【0120】
本明細書において使用される際、「約」という用語は、基本値からの+/-10%の偏差を指す。
【0121】
特に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0122】
末梢性ニューロパチーの遺伝子治療
一態様において、本発明は、遺伝子治療を用いて、筋萎縮に罹患している対象を治療する方法を提供する。
【0123】
治療的核酸を送達するのに使用され得るベクターとしては、ウイルス及び非ウイルスベクターが挙げられる。使用され得る好適なベクターとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、HSV(単純ヘルペスウイルス)及びプラスミドが挙げられる。単純ヘルペスウイルスベクターの利点は、感覚ニューロンに対するそれらの天然の向性である。しかしながら、アデノウイルスに関連するウイルスベクターが、挿入突然変異及び免疫原性のそれらの低いリスク、それらの内因性ウイルス遺伝子の欠如、及び高い力価で産生されるそれらの能力のため、最も人気がある。Kantorらが、中枢神経系への遺伝子導入の様々な方法を概説している一方、Goinsらは、慢性の末梢神経系の疼痛の治療のための遺伝子治療の方法を説明している。開示内容が参照により本明細書に援用される、Kantor et al.,Adv Genet.87,125-197(2014)、及びGoins et al.,Neurobiol.Dis.48(2),255-270(2012)を参照されたい。特に、末梢神経の常在グリア細胞である、シュワン細胞への成功した遺伝子送達が、様々なウイルスベクターを用いて報告されている。Mason et al.,Curr.Gene Ther.11,75-89(2011)。ベクターがウイルスベクター内にあり、ベクターがパッケージングされている場合、ビリオンが、細胞を感染させるのに使用され得る。裸のDNAが使用される場合、特定の宿主細胞に適しているようなトランスフェクション又は形質転換手順が使用され得る。ポリマー、リポソーム、又はナノスフェアを用いる裸のDNAの製剤が、遺伝子送達に使用され得る。核酸は、ウイルス粒子、リポソーム、ナノ粒子、及びポリマーへの複合体化を含む、十分に効率的な送達レベルをもたらす任意の所望のフォーマットで投与され得る。
【0124】
その発現が末梢性ニューロパチーを軽減する遺伝子をコードする核酸(例えば、cDNA又は導入遺伝子)は、導入遺伝子発現及び核酸の下流のポリアデニル化配列を駆動する(構成的又は調節可能)プロモータなどの調節要素を有する発現カセットへとクローニングされ得る。例えば、1)身体の組織又は領域に特異的であり;2)構成的であり;及び/又は3)誘導可能/調節可能である調節要素が使用され得る。
【0125】
ある実施形態において、筋特異的調節要素が使用される。筋特異的調節要素としては、哺乳動物筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモータ、哺乳動物デスミンプロモータ、哺乳動物トロポニンI(TNNI2)プロモータ、又は哺乳動物骨格α-アクチン(ASKA)プロモータを含む筋特異的プロモータが挙げられる。本発明において有用な筋特異的エンハンサーは、哺乳動物MCKエンハンサー、哺乳動物DESエンハンサー、及び脊椎動物トロポニンI IRE(TNI IRE、以後、FIREと呼ばれる)エンハンサーからなる群から選択される。これらの筋特異的エンハンサー要素の1つ以上が、本発明の筋特異的プロモータと組み合わせて使用されて、組織特異的調節要素を提供し得る。
【0126】
遺伝子治療によって筋萎縮を治療するのに使用するための好ましいベクターはAAVである。AAVに媒介される遺伝子送達は、神経障害の前臨床及び臨床試験の両方のための有効で且つ安全な手段として浮上している。Ojala et al.,Neuroscientist.,21(1):84-98(2015)。現在、AAVは、神経障害の臨床試験に最も広く使用されているベクターであり、このベクターの使用に関連する有害作用は、臨床試験からこれまで報告されていない:アデノ随伴ウイルスは、その生活環を実現するために、アデノウイルス又は単純ヘルペスウイルスなどの他のウイルスからのヘルパー機能を必要とするパルボウイルス科の非病原性ディペンドウイルスである。野生型(WT)AAVは、カプシドによって囲まれる約5kbの逆位末端反復配列(ITR)を両端に有する一本鎖DNA(ssDNA)ゲノムによって特徴付けられる。
【0127】
インビボ遺伝子治療及びインビトロ試験及び/又は導入遺伝子の産物の産生などの用途のために、導入遺伝子を細胞に送達するのに使用するためのアデノウイルスベクターは、一般的に、初期領域1(El)遺伝子の欠失によってアデノウイルスから得られる(Berkner,K.L.,Curr.Top.Micro.Immunol.158 L39-66 1992)。El遺伝子の欠失は、このようなアデノウイルスベクター複製に欠陥を生じさせ、ベクター内に存在する、残っているウイルス遺伝子の発現を著しく低下させる。組み換えアデノウイルスベクターは、分裂細胞及び非分裂細胞の両方に対する向性、最小の病原性の可能性、ベクター株の調製のために高い力価に複製する能力、及び大きな挿入物を運ぶ能力を含む、遺伝子送達ビヒクルとして使用するためのいくつかの利点を有する。しかしながら、アデノウイルスベクター中に残っているウイルス遺伝子の存在は有害であり得ると考えられる。
【0128】
したがって、ある実施形態において、様々なアデノウイルス遺伝子配列の欠失を有するアデノウイルスベクター。特に、「ガットレス(gutless)アデノウイルス」又はミニアデノウイルスベクターとしても知られている偽アデノウイルス(pseudoadenoviral)ベクター(PAV)が、ベクターゲノムの複製及びパッケージングに必要とされる最小のシス作用性ヌクレオチド配列を含有し、且つ1つ以上の導入遺伝子を含有し得るアデノウイルスのゲノムに由来するアデノウイルスベクターである(参照により本明細書に援用される、偽アデノウイルスベクター(PAV)及びPAVを製造する方法をカバーする米国特許第5,882,877号明細書を参照)。最大で約36kbの外来核酸を収容し得るこのようなPAVは、ベクターの運搬能力が最適化される一方、ベクターに対する宿主免疫応答の可能性又は複製能を有するウイルスの生成が減少されるため、有利である。PAVベクターは、複製起点を含有する5’逆位末端反復配列(ITR)及び3’ITRヌクレオチド配列、並びにPAVゲノムのパッケージングに必要とされるシス作用性ヌクレオチド配列を含有し、適切な調節要素、例えばプロモータ、エンハンサーなどとともに1つ以上の導入遺伝子を収容し得る。
【0129】
AAV
本発明の組み換えAAVゲノムは、本発明の核酸分子及び核酸分子に隣接している1つ以上のAAV ITRを含む。rAAVゲノム中のAAV DNAは、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12及びAAV-13を含むがこれらに限定されない、組み換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型に由来し得る(例えば、Gao et al.,PNAS,99:11854-11859((2002);及びViral Vectors for Gene Therapy:Methods and Protocols,ed.Machida,Humana Press,2003を参照)。さらに、偽型AAVベクターも、本明細書に記載される方法に用いられ得る。偽型AAVベクターは、1つのAAV血清型のゲノムを、第2のAAV血清型のカプシド中に含有するもの;例えば、AAV2カプシド及びAAV1ゲノムを含有するAAVベクター、又はAAV5カプシド及びAAV2ゲノムを含有するAAVベクターである。(Auricchio et al.,(2001)Hum.Mol.Genet.,10(26):3075-81)。偽型rAAVの産生が、例えば、国際公開第01/83692号パンフレットに開示されている。他のタイプのrAAV変異体、例えば、カプシド突然変異を有するrAAVも考えられる。例えば、Marsic et al.,Molecular Therapy,22(11):1900-1909(2014)を参照されたい。上記の背景の項に示されるように、様々なAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列が、当該技術分野において公知である。骨格筋特異的発現を促進するために、AAV1、AAV6、AAV8又はAAVrh.74が使用され得る。
【0130】
本発明のDNAプラスミドは、本発明のrAAVゲノムを含む。DNAプラスミドは、感染性ウイルス粒子へのrAAVゲノムのアセンブリのために、AAVのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、E1欠失アデノウイルス又はヘルペスウイルス)による感染について許容される細胞に移送される。パッケージングされるAAVゲノム、rep及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能が細胞に提供される、rAAV粒子を生成する技術が、当該技術分野において標準的である。rAAVの産生は、以下の構成要素が、単一の細胞(本明細書において、パッケージング細胞と示される)内に存在することを必要とする:rAAVゲノム、rAAVゲノムから分離された(すなわち、rAAVゲノム中でない)AAV rep及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能。AAV rep及びcap遺伝子は、組み換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型に由来してもよく、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAVrh.74、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12及びAAV-13を含むがこれらに限定されない、rAAVゲノムITRと異なるAAV血清型に由来してもよい。偽型rAAVの産生が、例えば、全体が参照により本明細書に援用される国際公開第01/83692号パンフレットに開示されている。
【0131】
パッケージング細胞を生成する方法は、AAV粒子産生のための全ての必要な構成要素を安定的に発現する細胞株を作成することである。例えば、AAV rep及びcap遺伝子を欠いたrAAVゲノム、rAAVゲノムから分離されたAAV rep及びcap遺伝子、並びにネオマイシン耐性遺伝子などの選択可能なマーカーを含むプラスミド(又は複数のプラスミド)が、細胞のゲノムに組み込まれる。AAVゲノムは、GCテーリング(Samulski et al.,1982,Proc.Natl.Acad.S6.USA,79:2077-2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含有する合成リンカーの付加(Laughlin et al.,1983,Gene,23:65-73)又は直接の平滑末端ライゲーション(Senapathy & Carter,1984,J.Biol.Chem.,259:4661-4666)などの手順によって細菌プラスミド中に導入されてきた。次に、パッケージング細胞株を、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスに感染させる。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、rAAVの大規模な産生に好適であることである。好適な方法の他の例は、rAAVゲノム及び/又はrep及びcap遺伝子をパッケージング細胞中に導入するために、プラスミドではなくアデノウイルス又はバキュロウイルスを用いる。
【0132】
rAAV産生の一般的な原理が、例えば、Carter,1992,Current Opinions in Biotechnology,1533-539;及びMuzyczka,1992,Curr.Topics in Microbial.and Immunol.,158:97-129)において概説されている。様々な手法が、Ratschin et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072(1984);Hermonat et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6466(1984);Tratschin et al.,Mo1.Cell.Biol.5:3251(1985);McLaughlin et al.,J.Virol.,62:1963(1988);及びLebkowski et al.,1988 Mol.Cell.Biol.,7:349(1988).Samulski et al.(1989,J.Virol.,63:3822-3828);米国特許第5,173,414号明細書;国際公開第95/13365号パンフレット及び対応する米国特許第5,658,776号明細書;国際公開第95/13392号パンフレット;国際公開第96/17947号パンフレット;PCT/US98/18600号明細書;国際公開第97/09441号パンフレット(PCT/US96/14423号明細書);国際公開第97/08298号パンフレット(PCT/US96/13872号明細書);国際公開第97/21825号パンフレット(PCT/US96/20777号明細書);国際公開第97/06243号パンフレット(PCT/FR96/01064号明細書);国際公開第99/11764号パンフレット;Perrin et al.(1995)Vaccine 13:1244-1250;Paul et al.(1993)Human Gene Therapy 4:609-615;Clark et al.(1996)Gene Therapy 3:1124-1132;米国特許第5,786,211号明細書;米国特許第5,871,982号明細書;及び米国特許第6,258,595号明細書に記載されている。上記の文献は、特に、rAAV産生に関連する文献の項に重点を置いて、全体が参照により本明細書に援用される。
【0133】
したがって、本発明は、感染性rAAVを産生するパッケージング細胞を提供する。一実施形態において、パッケージング細胞は、HeLa細胞、293細胞及びPerC.6細胞(同種の293細胞株)などの安定的に形質転換された癌細胞であり得る。別の実施形態において、パッケージング細胞は、形質転換された癌細胞ではない細胞、例えば、低継代293細胞(アデノウイルスのE1で形質転換されたヒト胎児腎細胞)、MRC-5細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、WI-38細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、Vero細胞(サル腎細胞)及びFRhL-2細胞(アカゲザル胎児肺細胞)である。
【0134】
本発明の組み換えAAV(すなわち、感染性カプシド化rAAV粒子)は、rAAVゲノムを含む。例示的な実施形態において、両方のrAAVのゲノムは、AAV rep及びcap DNAを欠いており、すなわち、ゲノムのITRの間にAAV rep又はcap DNAはない。本発明の核酸分子を含むように構成され得るrAAVの例が、全体が参照により本明細書に援用される国際特許出願番号PCT/US2012/047999号明細書(国際公開第2013/016352号パンフレット)に記載されている。
【0135】
rAAVは、カラムクロマトグラフィー又は塩化セシウム勾配などの、当該技術分野において標準的な方法によって精製され得る。ヘルパーウイルスからrAAVベクターを精製するための方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、Clark et al.,Hum.Gene Ther.,10(6):1031-1039(1999);Schenpp and Clark,Methods Mol.Med.,69 427-443(2002);米国特許第6,566,118号明細書及び国際公開第98/09657号パンフレットに開示されている方法が挙げられる。
【0136】
別の実施形態において、本発明は、本発明のrAAVを含む組成物を想定している。本発明の組成物は、rAAV及び薬学的に許容される担体を含む。この組成物は、希釈剤及び助剤などの他の成分も含み得る。許容される担体、希釈剤及び助剤は、レシピエントに無害であり、好ましくは、用いられる投与量及び濃度で不活性であり、ホスフェート、シトレート、若しくは他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸などの酸化防止剤;低分子量ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、若しくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン若しくはリジンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース、若しくはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;マンニトール若しくはソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;及び/又はTween、プルロニック(登録商標)(pluronics)若しくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0137】
本発明の方法において投与されるrAAVの力価は、例えば、特定のrAAV、投与方法、治療目標、個体、及び標的とされる細胞型に応じて変動し、当該技術分野において標準的な方法によって決定され得る。rAAVの力価は、ml当たり約1×10、約1×10、約1×10、約1×10、約1×1010、約1×1011、約1×1012、約1×1013~約1×1014又はそれ以上のDNアーゼ耐性粒子(DRP)の範囲であり得る。投与量はまた、ウイルスゲノム(vg)の単位で表されてもよい。
【0138】
インビトロ又はインビトロで、rAAVで標的細胞に形質導入する方法が、本発明によって想定される。インビボ方法は、有効な用量、又は有効な複数用量の、本発明のrAAVを含む組成物を、それを必要とする動物(ヒトを含む)に投与する工程を含む。用量が障害/疾患の発症前に投与される場合、この投与は予防的である。用量が障害/疾患の発症後に投与される場合、この投与は治療的である。本発明の実施形態において、有効な用量は、治療される障害/疾患の状態に関連する少なくとも1つの症状を緩和(除去又は軽減)し、障害/疾患の状態の進行を遅らせるか若しくは予防し、障害/疾患の状態の進行を遅らせるか若しくは予防し、疾患の程度を軽減し、疾患の寛解(部分的又は完全な)をもたらし、及び/又は生存を延長する用量である。
【0139】
特に、本発明のrAAVの実際の投与は、rAAV組み換えベクターを、動物の標的組織に輸送する任意の物理的方法を使用することによって行われ得る。本発明に係る投与としては、限定はされないが、筋肉、血流への注射及び/又は肝臓への直接の注射が挙げられる。リン酸緩衝生理食塩水にrAAVを単に再懸濁させることは、筋組織発現に有用なビヒクルを提供するのに十分であることが実証されており、rAAVと同時投与され得る担体又は他の構成要素に対する公知の制限はない(ただし、DNAを分解する組成物は、rAAVを用いた通常の方法では回避されるべきである)。rAAVのカプシドタンパク質は、rAAVが筋肉などの対象とする特定の標的組織を標的とするように修飾され得る。例えば、全体が参照により本明細書に援用される国際公開第02/053703号パンフレットを参照されたい。医薬組成物は、注射用製剤として、又は経皮輸送によって筋肉に送達される局所製剤として調製され得る。筋肉内注射及び経皮輸送の両方のための多くの製剤が、以前に開発されており、本発明の実施に使用され得る。rAAVは、投与及び取り扱いを容易にするために、任意の薬学的に許容される担体とともに使用され得る。
【0140】
形質導入は、組織特異的な制御要素を含む遺伝子カセットを用いて行われ得る。例えば、本発明の一実施形態は、アクチン及びミオシン遺伝子ファミリー、例えばmyoD遺伝子ファミリーに由来するもの[Weintraub et al.,Science,251:761-766(1991)を参照]、筋細胞特異的なエンハンサー結合因子MEF-2[Cserjesi and Olson,Mol Cell Biol 11:4854-4862(1991)]、ヒト骨格アクチン遺伝子[Muscat et al.,Mol Cell Biol,7:4089-4099(1987)]、心臓アクチン遺伝子に由来する制御要素、筋クレアチンキナーゼ配列要素[Johnson et
al.,Mol Cell Biol,9:3393-3399(1989)を参照]及びマウスクレアチンキナーゼエンハンサー(mCK)要素、骨格速筋トロポニンC遺伝子、遅筋心臓トロポニンC遺伝子及び遅筋トロポニンI遺伝子に由来する制御要素:低酸素誘導性核内因子(Semenza et al.,Proc Natl Acad Sci USA,88:5680-5684(1991))、ステロイド誘導性要素及びグルココルチコイド応答要素(GRE)を含むプロモータ(Mader and White,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5603-5607(1993)を参照)、並びに他の制御要素を含むがこれらに限定されない、筋特異的な制御要素によって誘導される筋細胞及び筋組織に形質導入する方法を提供する。
【0141】
筋組織は、生命維持に不可欠な器官ではなく、到達しやすいため、インビボDNA送達のための魅力的な標的である。本発明は、形質導入された筋線維からのmiRNAの持続発現を想定している。
【0142】
「筋細胞」又は「筋組織」とは、任意の種類の筋肉(例えば、消化管、膀胱、血管又は心臓組織からの、例えば、骨格筋及び平滑筋)に由来する細胞又は細胞群を意味する。筋芽細胞、筋細胞、筋管、心筋細胞及び心筋芽細胞などのこのような筋細胞は、分化又は未分化であり得る。
【0143】
「形質導入」という用語は、受容細胞によるNT-3の発現をもたらす、本発明の複製欠損性rAAVを介した、インビボ又はインビトロのいずれかでの受容細胞へのNT-3のコード領域の投与/送達を指すために使用される。
【0144】
一実施形態において、遺伝子治療は、組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)送達を介したNT-3遺伝子治療である。本発明者らは、CMVプロモータ又は3つ組の筋特異的クレアチンキナーゼ(tMCK)プロモータのいずれかの制御下でヒトNT-3 cDNAコード配列を保有するAAV発現カセットを開発した。本発明者らは、末梢神経の運動機能、病理組織学、及び電気生理学の改善が、組み換えAAV1ベクターを用いて達成されて、シャルコー・マリー・ツース病変異型CMT1Aのモデルであるtremble(Try)マウスにおけるニューロトロフィン-3発現を増加させ得ることを以前に示した。開示内容が参照により本明細書に援用される、Sahenk et al.,Mol Ther.22(3):511-21(2014)を参照されたい。
【0145】
したがって、本発明は、有効な用量(又は本質的に同時に投与される用量若しくは間隔を置いて与えられる用量)の、NT-3をコードするrAAVを、それを必要とする患者に投与する方法を提供する。
【0146】
投与の用量及び経路
本発明は、本発明の併用療法を含む、有効な用量のrAAV及び本発明の組成物の局所投与及び全身投与を提供する。例えば、全身投与は、全身が影響を受けるような循環系への投与である。全身投与は、消化管を介した吸収などの腸内投与、及び注射、注入又は移植を介した非経口投与を含む。
【0147】
したがって、上記の方法において想定されるrAAVの投与の経路としては、限定はされないが、腹腔内(IP)、筋肉内(IM)及び血管内[例えば、動脈内四肢灌流(ILP)及び静脈内(IV)を含む]経路が挙げられる。
【0148】
本明細書に開示される方法において投与されるrAAVの用量は、例えば、特定のrAAV、投与方法、治療目標、個体、及び標的とされる細胞型に応じて変動し、当該技術分野において標準的な方法によって決定され得る。2以上の用量が、例えば、1、2、3又はそれ以上の用量が投与され得る。用量中のrAAVの力価は、ml当たり約1×10、約1×10、約1×10、約1×10、約1×1010、約1×111、約1×1012、約1.5×1012、約1×1012、約3×1012、約4×1012、約5×1012、約6×1012、約6.5×1012、約7×1012、1×1013、約1×1014、又は~約1×1015又はそれ以上のDNアーゼ耐性粒子(DRP)の範囲であり得る。投与量はまた、ウイルスゲノム(vg)の単位で表されてもよい(すなわち、それぞれ、1×10vg、1×10vg、1×10vg、1×1010vg、1×1011vg、1×1012vg、約1.5×1012vg、約1×1012vg、約3×1012vg、約4×1012vg、約5×1012vg、約6×1012vg、約6.5×1012vg、約7×1012vg、1×1013vg、1×1014vg、1×1015)。AAVを滴定するための方法が、Clark et al.,Hum.Gene Ther.,10:1031-1039(1999)に記載されている。
【0149】
投与経路が筋肉内(IM)経路である上記の方法のある実施形態において、投与されるrAAVの用量は、約1.5×1012~少なくとも約6.5×1012vg/kgである。(本明細書における全ての範囲は、その範囲内のそれぞれの個々の値、並びに各範囲の個々の上限値及び下限値を表すことが意図される)。投与経路が筋肉内(IM)である、上記の方法のある実施形態において、投与されるrAAVの用量は、2×1012vg/kgである。投与経路が筋肉内(IM)である、上記の方法のある実施形態において、投与されるrAAVの用量は、4×1012vg/kgである。投与経路が筋肉内(IM)である、上記の方法のある実施形態において、投与されるrAAVの用量は、6×1012vg/kgである。
【0150】
ヒト患者が、治療のために本明細書において想定される対象である。ヒト患者が、筋肉内(IM)送達による治療のために本明細書において想定される対象である。このような患者は、以下の患者を含む。例えば:i)CMT1Aと診断された成人対象(18歳を超える)、ii)末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)遺伝子を含む17p11.2における1.5Mb重複を示す、iii)任意の民族又は人種集団の男性及び女性、iv)足関節背屈の筋力の低下を示す(重力に逆らって完全なROMを有するべきであるが、重力に逆らって完全な背屈を維持することができないか、又は3秒間以上つま先立ちすることができない(Northstar基準))、iv)異常な神経伝導速度、v)臨床評価及び反復神経伝導検査に協力する能力、及びvi)性的に活発な対象では、試験の間、信頼性のある避妊法を実施する意思があること。好適な患者は、例えば、以下を有するものを含んではならない。i)臨床観察、又はHIV、又はA型肝炎、B型肝炎若しくはC型肝炎感染の血清学的証拠に基づいた活性なウイルス感染、ii)進行中の免疫抑制療法又は試験の開始の6か月以内の免疫抑制療法(例えば、コルチコステロイド、シクロスポリン、タクロリムス、メトトレキサート、シクロホスファミド、静脈内免疫グロブリン)、iii)持続的な白血球減少若しくは白血球増加(WBC≦3.5K/μL又は≧20.0K/μL)又は1.5K/μL未満の絶対好中球数、iv)ELISA免疫測定法によって決定される際に1:50以上のAAV1結合抗体力価、v)研究室の主宰者(PI)の意見によれば、遺伝子導入の不必要なリスクが発生することから、併発疾患又は長期の薬物療法の必要性、vi)適切な筋力試験を妨げる、足関節拘縮若しくは手術、vii)妊娠、授乳、又は妊娠を計画している、viii)ニューロパチーの他の原因、及び/又はix)過去6か月以内の四肢の手術。例示的な臨床プロトコルにおいて、CMT1A患者は、CMTにおける足関節の弱化及び不安定性を優先的に引き起こす脚の腓腹筋及び前脛骨筋(TA)の内側頭及び外側頭に分割された総量のベクターscAAV1.tMCK.NTF3を投与される。対象は、以下のうちの1つを投与される:i)2×1012vg/kg(総量)の低用量のベクター又はii)6×1012vg/kg(総量)の高用量のベクター。
【0151】
一実施形態において、ベクターは、希釈剤なしで筋肉内(IM)注射によって投与される。代替的な実施形態において、筋肉内注射用の組成物は、ゴマ油若しくはピーナッツ油などの助剤を含み、又はプロピレングリコール水溶液、並びに滅菌水溶液が用いられ得る。このような水溶液は、必要に応じて緩衝され得、液体希釈剤が、まず、生理食塩水又はグルコースと等張にされる。遊離酸(DNAが酸性リン酸基を含有する)又は薬理学的に許容される塩としてのrAAVの溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と水中で好適に混合されて調製され得る。rAAVの分散体はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール及びそれらの混合物中並びに油中で調製され得る。通常の貯蔵及び使用条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐために防腐剤を含有する。これに関連して、用いられる滅菌水性媒体は全て、当業者に周知の標準的な技術によって容易に得ることができる。
【0152】
注射用途に好適な医薬担体、希釈剤又は賦形剤としては、滅菌水溶液又は分散体、及び滅菌注射用溶液又は分散体の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。全ての場合において、形態は滅菌でなければならず、容易な注射可能性が存在する程度に流体でなければならない。それは、製造及び貯蔵の条件下で安定していなければならず、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用から保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、これらの好適な混合物、及び植物油を含む、溶媒又は分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散体の場合は必要とされる粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサーなどによってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖又は塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の長期吸収が、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの使用によってもたらされ得る。
【0153】
滅菌注射用溶液は、必要な量のrAAVを、必要に応じて、上記に列挙される様々な他の成分とともに適切な溶媒に組み込み、続いてろ過滅菌することによって調製される。一般に、分散体は、滅菌された有効成分を、塩基性分散媒及び上記に列挙されるものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製の方法は、有効成分及びその予め滅菌ろ過された溶液からの任意の追加の所望の成分の粉末を生じる、真空乾燥及び凍結乾燥技術である。
【0154】
rAAVによる形質導入は、インビトロでも行われ得る。一実施形態において、所望の標的筋細胞が、対象から取り出され、rAAVで形質導入され、対象に再導入される。或いは、それらの細胞が対象において不適切な免疫応答を生じない場合、同系又は異種の筋細胞が使用され得る。
【0155】
別の態様において、rAAVゲノムが、本明細書において提供される。投与されるrAAVのゲノムは、転写調節配列の制御下でNT-3ポリヌクレオチドを含む。rAAVゲノムは、AAV rep及びcap DNAを欠いている。rAAVゲノム中のAAV DNAは、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11及びAAVrh.74を含むがこれらに限定されない、組み換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型に由来し得る。上記の背景の項に示されるように、これらのAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は、当該技術分野において公知である。
【0156】
ある実施形態において、rAAVゲノムの転写調節配列は、アクチン及びミオシン遺伝子ファミリー、例えば、myoD遺伝子ファミリーに由来するもの[Weintraub et al.,Science,251:761-766(1991)を参照]、筋細胞特異的なエンハンサー結合因子MEF-2[Cserjesi and Olson,Mol.Cell.Biol.,11:4854-4862(1991)]、ヒト骨格アクチン遺伝子[Muscat et al.,Mol.Cell.Biol.,7:4089-4099(1987)]、心臓アクチン遺伝子に由来する制御要素、筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモータ[Johnson et al.,Mol.Cell.Biol.,9:3393-3399(1989)]及びMCKエンハンサー、MHCK7プロモータ(ミオシン重鎖からのエンハンサーを組み込むMCKプロモータの修飾形態(Salva et al.,Mol.Ther.,15:320-329(2007))、デスミンプロモータ、骨格速筋トロポニンC遺伝子、遅筋心臓トロポニンC遺伝子及び遅筋トロポニンI遺伝子に由来する制御要素:低酸素誘導性核内因子(Semenza et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:5680-5684(1991))、ステロイド誘導性要素及びグルココルチコイド応答要素(GRE)を含むプロモータ(Mader and White,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5603-5607(1993)を参照)、及び他の制御要素を含むがこれらに限定されない、筋特異的な制御要素である。ある実施形態において、転写調節要素としては、MCKプロモータが挙げられる。ある実施形態において、転写調節要素としては、MHCK7プロモータが挙げられる。
【0157】
ある実施形態において、rAAVゲノム中のNT-3ポリヌクレオチドは、配列番号1に記載されるNT-3 cDNA(配列番号11のヌクレオチド1077~1850に対応する)である。ある実施形態において、rAAVゲノム中のNT-3ポリヌクレオチドは、Genbank受託番号NM_001102654に記載されるNT-3 cDNA若しくは配列番号1に記載されるNT-3 cDNA配列であるか、又はNT-3 cDNAに対する80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する変異体ポリヌクレオチドである。ある実施形態において、変異体NT-3ポリヌクレオチドは、配列番号1のNT-3 cDNAによってコードされるポリペプチドと同じNT-3ポリペプチドをコードする。配列番号1として記載されるか又はGenbank受託番号NM_001102654として提供されるNT-3 cDNAによってコードされるNT-3ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号2に記載される。ある実施形態において、変異体NT-3ポリヌクレオチドは、配列番号1に記載されるか又はGenbank受託番号NM_001102654として提供されるNT-3 cDNAによってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号2)と比較して、少なくとも1つのアミノ酸配列変化を有する変異体NT-3ポリペプチドをコードする。アミノ酸配列変化は、例えば、置換、欠失、又は1つ以上のアミノ酸の挿入、好ましくは、保存的置換であり得る。変異体NT-3ポリペプチドは、ポリペプチドの活性が保たれる場合、アミノ酸置換、欠失又は挿入の任意の組合せを有し得る。一態様において、変異体NT-3ポリペプチドは、そのアミノ酸配列が、配列番号1として記載されるか又はGenbank受託番号NM_001102654として提供されるNT-3 cDNAによってコードされるアミノ酸配列(配列番号2)との少なくとも60、70、80、85、90、95、97、98、99又は99.5%の同一性を共有するように、いくつかのアミノ酸変化を有し得る。
【0158】
ある実施形態において、rAAVゲノムは、AAV.tMCK.NTF3ゲノムであり、そのNT-3遺伝子カセットの配列が、配列番号11に記載され、表4において注釈を付けられている(実施例3を参照)。
【0159】
さらに別の態様において、配列番号11に示されるヌクレオチド配列を含む単離された核酸が提供される。ある実施形態において、単離された核酸は、配列番号11に示されるヌクレオチド配列からなる。
【0160】
5’から3’の順に:(i)第1のAAV2逆位末端反復配列(ITR)(配列番号4);(ii)筋クレアチンキナーゼプロモータ配列(配列番号3);(iii)ヒトNT-3ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(配列番号1);及び(iv)第2のAAV2 ITR配列(配列番号8)を含む単離された核酸も提供され、ここで、ヒトNT-3ポリペプチドは、配列番号2と少なくとも90%同一であるか、配列番号2と100%同一であるか、又は配列番号11のヌクレオチド1077~1850によってコードされるアミノ酸配列を有する。
【0161】
上記の核酸を含む組み換えAAV、並びに配列番号1に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含むrAAVが想定される。
【0162】
本開示のrAAVゲノムを含むDNAプラスミドが提供される。DNAプラスミドは、本明細書において想定されるrAAVゲノムを含む。DNAプラスミドは、感染性ウイルス粒子へのrAAVゲノムのアセンブリのために、AAVのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、E1欠失アデノウイルス又はヘルペスウイルス)による感染について許容される細胞に移送される。パッケージングされるAAVゲノム、rep及びcap遺伝子、及びヘルパーウイルス機能が細胞に提供される、rAAV粒子を生成する技術が、当該技術分野において標準的である。rAAVの産生は、以下の構成要素が、単一の細胞(本明細書において、パッケージング細胞と示される)内に存在することを必要とする:rAAVゲノム、rAAVゲノムから分離された(すなわち、rAAVゲノム中でない)AAV rep及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能。AAV rep及びcap遺伝子は、組み換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型に由来してもよく、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11及びAAV rh74を含むがこれらに限定されない、rAAVゲノムITRと異なるAAV血清型に由来してもよい。偽型rAAVの産生が、例えば、国際公開第01/83692号パンフレットに開示されている。他のタイプのrAAV変異体、例えば、カプシド突然変異を有するrAAVも想定される。例えば、Marsic et al.,Molecular Therapy,22(11):1900-1909(2014)を参照されたい。
【0163】
パッケージング細胞を生成する方法は、AAV粒子産生のための全ての必要な構成要素を安定的に発現する細胞株を作成することである。例えば、AAV rep及びcap遺伝子を欠いたrAAVゲノム、rAAVゲノムから分離されたAAV rep及びcap遺伝子、並びにネオマイシン耐性遺伝子などの選択可能なマーカーを含むプラスミド(又は複数のプラスミド)が、細胞のゲノムに組み込まれる。AAVゲノムは、GCテーリング(Samulski et al.,1982、Proc.Natl.Acad.S6.USA,79:2077-2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含有する合成リンカーの付加(Laughlin et al.,1983,Gene,23:65-73)又は直接の平滑末端ライゲーション(Senapathy & Carter,1984,J.Biol.Chem.,259:4661-4666)などの手順によって細菌プラスミド中に導入されてきた。次に、パッケージング細胞株を、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスに感染させる。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、rAAVの大規模な産生に好適であることである。好適な方法の他の例は、rAAVゲノム及び/又はrep及びcap遺伝子をパッケージング細胞中に導入するために、プラスミドではなくアデノウイルス又はバキュロウイルスを用いる。自己相補性ゲノムを用いてrAAVを産生するための方法も、当該技術分野において公知である。
【0164】
rAAV産生の一般的な原理が、例えば、Carter,1992,Current Opinions in Biotechnology,1533-539;及びMuzyczka,1992,Curr.Topics in Microbial.and Immunol.,158:97-129)に概説されている。様々な手法が、Ratschin et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072(1984);Hermonat et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6466(1984);Tratschin et al.,Mo1.Cell.Biol.5:3251(1985);McLaughlin et al.,J.Virol.,62:1963(1988);及びLebkowski et al.,1988 Mol.Cell.Biol.,7:349(1988).Samulski et al.(1989,J.Virol.,63:3822-3828);米国特許第5,173,414号明細書;国際公開第95/13365号パンフレット及び対応する米国特許第5,658,776号明細書;国際公開第95/13392号パンフレット;国際公開第96/17947号パンフレット;PCT/US98/18600号明細書;国際公開第97/09441号パンフレット(PCT/US96/14423号明細書);国際公開第97/08298号パンフレット(PCT/US96/13872号明細書);国際公開第97/21825号パンフレット(PCT/US96/20777号明細書);国際公開第97/06243号パンフレット(PCT/FR96/01064号明細書);国際公開第99/11764号パンフレット;Perrin et al.(1995)Vaccine 13:1244-1250;Paul et al.(1993)Human Gene Therapy 4:609-615;Clark et al.(1996)Gene Therapy 3:1124-1132;米国特許第5,786,211号明細書;米国特許第5,871,982号明細書;及び米国特許第6,258,595号明細書に記載されている。上記の文献は、特に、rAAV産生に関連する文献の項に重点を置いて、全体が参照により本明細書に援用される。
【0165】
したがって、さらなる態様において、本開示は、感染性rAAVを産生するパッケージング細胞を提供する。一実施形態において、パッケージング細胞は、HeLa細胞、293細胞及びPerC.6細胞(同種の293細胞株)などの安定的に形質転換された癌細胞であり得る。別の実施形態において、パッケージング細胞は、形質転換された癌細胞ではない細胞、例えば、低継代293細胞(アデノウイルスのE1で形質転換されたヒト胎児腎細胞)、MRC-5細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、WI-38細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、Vero細胞(サル腎細胞)及びFRhL-2細胞(アカゲザル胎児肺細胞)である。
【0166】
rAAVは、カラムクロマトグラフィー又は塩化セシウム勾配などの、当該技術分野において標準的な方法によって精製され得る。ヘルパーウイルスからrAAVベクターを精製するための方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、Clark et al.,Hum.Gene Ther.,10(6):1031-1039(1999);Schenpp and Clark,Methods Mol.Med.,69 427-443(2002);米国特許第6,566,118号明細書及び国際公開第98/09657号パンフレットに開示されている方法が挙げられる。
【0167】
したがって、別の態様において、本開示は、NT-3ポリヌクレオチドを含むrAAVを想定している。ある実施形態において、rAAVは、AAV rh74カプシド及びNT-3ポリヌクレオチドを含む。ある実施形態において、rAAVのゲノムは、AAV rep及びcap DNAを欠いている。本方法のある実施形態において、rAAVは、rAAVrh7.4.tMCK.NTF3である。ある実施形態において、rAAVは、自己相補性ゲノムである。
【0168】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載されるrAAVを含む組成物を想定している。本開示の組成物は、薬学的に許容される担体中のrAAVを含む。この組成物は、希釈剤などの他の成分も含み得る。許容される担体及び希釈剤は、レシピエントに無害であり、好ましくは、用いられる投与量及び濃度で不活性であり、ホスフェート、シトレート、若しくは他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸などの酸化防止剤;低分子量ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、若しくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン若しくはリジンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース、若しくはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;マンニトール若しくはソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;及び/又はTween、プルロニック(登録商標)(pluronics)若しくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。ある実施形態において、rAAVは、トリス、MgCl2、NaCl及びプルロニック(登録商標)(pluronic)F68中で製剤化される。ある実施形態において、rAAVは、20mMのトリス(pH8.0)、1mMのMgCl、及び0.001%のプルロニック(登録商標)(pluronic)F68を含有する200mMのNaCl中で製剤化される。
【0169】
併用治療も本明細書において想定される。本明細書において使用される際の組合せは、同時治療又は逐次治療を含む。本開示の方法と、標準的な医療処置(例えば、コルチコステロイド及び/又は免疫抑制剤)との組合せが、新規な治療との組合せと同様に、特に想定される。様々な実施形態において、対象は、対象が本明細書において想定される方法にしたがって治療される前、その間又はその後に(又は3つの可能性のうちの2つ以上の組合せの任意の並べ替えを伴い)コルチコステロイドで治療される。例えば、組合せは、rAAVベクターの投与の前、その間及び/又はその後に、コルチコステロイド、例えばプレドニゾロンを投与することを含む。
【0170】
滅菌注射用溶液は、必要な量のrAAVを、必要に応じて、上記に列挙される様々な他の成分とともに適切な溶媒に組み込み、続いてろ過滅菌することによって調製される。一般に、分散体は、滅菌された有効成分を、塩基性分散媒及び上記に列挙されるものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製の方法は、有効成分及びその予め滅菌ろ過された溶液からの任意の追加の所望の成分の粉末を生じる、真空乾燥及び凍結乾燥技術である。
【0171】
筋成長の刺激
本発明の一態様は、対象における筋成長を刺激する方法であって、治療的に有効な量のニューロトロフィン-3(NT-3)、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片、又はNT-3、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片をコードする核酸を;それを必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0172】
ある実施形態において、本発明の方法は、筋力、筋肉量、又は筋持久性を増加させ、対象における筋疲労を軽減するのに使用され得る。
【0173】
筋肉は、3つのタイプ:骨格筋、心筋、及び平滑筋に分類され得る。骨格筋は、力を発生させ、その力を骨格に伝達することが可能な筋組織であり、呼吸、運動、及び姿勢の維持を可能にする。心筋は、心臓の筋肉である。平滑筋は、動脈壁及び腸壁の筋組織である。本発明の方法及び組成物は、主に、骨格筋に適用されるが、さらに平滑筋に良い影響を及ぼし得る。「骨格筋」及び「骨格筋」は、骨、腱、及び関節との相互作用を有する筋肉として定義される。
【0174】
ある実施形態において、本発明は、筋力の低下を引き起こす病気、疾患、障害、及び病態(本明細書において、筋骨格疾患、及び筋機能不全及び筋肉消耗疾患とも呼ばれる)の治療の方法を提供する。筋骨格疾患の主なカテゴリーは、筋ジストロフィー及び筋萎縮である。
【0175】
ある実施形態において、本発明は、筋機能不全及び筋肉消耗疾患若しくは障害(遺伝性ミオパチー、神経筋疾患、筋萎縮、薬物誘発性ミオパチーを含む)、又は筋力の低下を引き起こす病気、疾患、障害若しくは病態を含む筋骨格疾患の治療のための方法を提供する。本発明は、ニューロパチー、例えば遺伝性CMT及びCMT1A、並びに軸索及び脱髄性多発ニューロパチー、例えば慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーの治療のための方法も提供する。治療の方法は、それを必要とする患者に、治療的に有効な量のニューロトロフィン-3(NT-3)、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片、又はNT-3、プロ-NT-3、若しくはその有効な断片をコードする核酸を投与することを含む。ある実施形態において、対象は、サルコペニア、悪液質、タイプII筋線維萎縮、及び再生の肥大成長期の障害に関連する後天性自己免疫性原発性筋疾患からなる群から選択される筋疾患に罹患している。
【0176】
ある実施形態において、NT-3は、筋萎縮を治療するのに使用され得る。筋萎縮は、様々な疾患、障害、他の病態、又は事象に起因する筋組織の消耗又は減少を特徴とする病態を表すのに使用される一般的な用語である。筋萎縮は、限定はされないが、重度の熱傷からの回復、大きな人工関節置換術、神経因性疼痛、末梢性ニューロパチー、壊死性脈管炎、無重力環境(例えば、宇宙飛行士(astronaut and cosmonaut))、長期入院、変性疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症)及び臓器移植並びに脊髄損傷、長期血液透析、及び脳卒中に起因する長期の固定化の結果であり得る。
【0177】
ある実施形態において、NT-3は、廃用性筋萎縮を治療するのに使用され得る。廃用性筋萎縮は、長期間の運動不足に起因する筋組織の消耗又は減少を特徴とする病態である。廃用性筋萎縮は、限定はされないが、重度の熱傷からの回復、大きな人工関節置換術、神経因性疼痛、無重力環境(例えば、宇宙飛行士(astronaut and cosmonaut))、長期入院、拒食症、及び臓器移植並びに脊髄損傷、長期血液透析、及び脳卒中に起因する長期の固定化の結果であり得る。
【0178】
ある実施形態において、NT-3は、加齢性筋萎縮を治療するのに使用され得る。加齢性筋萎縮は、筋組織の消耗又は減少及び対象の加齢に伴う線維化組織による筋組織の置換を特徴とする病態である。
【0179】
ある実施形態において、NT-3は、サルコペニアを治療するのに使用され得る。サルコペニアは、筋組織の消耗又は減少及び対象の加齢に伴う線維化組織による筋組織の置換を特徴とする病態である。
【0180】
ある実施形態において、NT-3は、悪液質における筋消耗を治療するのに使用され得る。悪液質は、積極的に減量しようとしていない人の、慢性疾患の結果としての、体重の減少、筋萎縮、疲労、衰弱及びかなりの食欲不振である。悪液質の筋消耗の構成要素は、限定はされないが、癌、多発性硬化症、結核、後天性免疫不全症候群、ヒト免疫不全ウイルス、栄養失調、パーキンソン病、気腫、心不全、運動ニューロン病、嚢胞性線維症、認知症、サルコペニア、慢性閉塞性肺疾患、腎疾患、及び腎不全の結果であり得る。
【0181】
ある実施形態において、NT-3は、ウイルス感染(例えば、HIV、エプスタイン・バーウイルス)、細菌感染(例えば、マイコバクテリア(mycobacteria)及びリケッチア(rickettsia))、ポリオ後症候群、及び寄生虫感染(例えば、トリパノソーマ(trypanosome)及び住血吸虫(schistosome))(ここで、対象は筋萎縮を発症するリスクがある)に起因する筋消耗を治療するのに使用され得る。
【0182】
ニューロトロフィン-3
ある実施形態において、治療的に有効な量のNT-3、プロ-NT-3、又はそのNT-3類似体が、筋成長を刺激するために対象に投与される。ニューロトロフィン3(NT-3)は、ニューロトロフィンのNGF(神経成長因子)ファミリーの神経栄養因子である。NT-3は、末梢及び中枢神経系の特定のニューロンに対する活性を有するタンパク質成長因子であり;既に存在するニューロンの生存及び分化を補助し、新たなニューロン及びシナプスの成長及び分化を促進するのに役立つことが最もよく知られている。
【0183】
本開示は、Cx26の細胞外領域のアミノ酸配列の少なくとも一部に実質的に類似したブロッキングペプチドを含む。本明細書において使用される際の「一部(a portion)」という用語は、少なくとも4つのアミノ酸を含むCx26の細胞外領域内のアミノ酸配列を指す。さらなる実施形態において、一部は、少なくとも6アミノ酸長であるアミノ酸配列、少なくとも8アミノ酸長であるアミノ酸配列、又は少なくとも10アミノ酸長であるアミノ酸配列を指す。したがって、ブロッキングペプチドは、少なくとも4、6、8、又は10のアミノ酸からなる。同様に、本明細書に記載されるブロッキングペプチドは、最大サイズを有し得る。ブロッキングペプチドの最大サイズは、ペプチドの全体サイズに関連し、タンパク質形質導入ドメインなどの、ペプチドに連結される任意のさらなる配列を含む。ある実施形態において、ブロッキングペプチドは、約200アミノ酸未満の最大サイズを有する一方、他の実施形態において、ブロッキングペプチドは、約100アミノ酸未満の最大サイズを有する。他の実施形態において、ブロッキングペプチドは、75アミノ酸以下、50アミノ酸以下、40アミノ酸以下、30アミノ酸以下、又は20アミノ酸以下の最大サイズを有する。
【0184】
本明細書において使用される際、「ポリペプチド」という用語は、オリゴペプチド、ペプチド、若しくはタンパク質配列、又はこれらの断片、部分、若しくはサブユニット、及び天然若しくは合成分子を指す。「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合又は修飾ペプチド結合、すなわち、ペプチドイソスターによって互いに結合されたアミノ酸も含み、任意のタイプの修飾アミノ酸を含有し得、「ポリペプチド」という用語は、ペプチド及びポリペプチド断片、モチーフなど、グリコシル化ポリペプチド、全ての「模倣」及び「ペプチド模倣」ポリペプチド形態、並びにレトロインベルソ型(retro-inversion)ペプチド(オール-D-レトロ(all-D-retro)又はmtro-エナンチオ(mtro-enantio)ペプチドとも呼ばれる)も含む。
【0185】
「実質的に類似した」は、所与のアミノ酸(又は核酸)配列が、参照配列と、少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、さらにより好ましくは、少なくとも95%の同一性を共有することを意味する。このような配列に関連する同一性又は相同性は、最大パーセント相同性を達成するために、必要に応じて、配列を整列し、ギャップを導入した後、保存的置換を配列同一性の一部とみなさずに、公知のペプチドと同一である候補の配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージとして本明細書に定義される。N末端、C末端又は内部の伸長部、欠失、又はペプチド配列への挿入が、相同性に影響を与えると解釈されるべきではない。
【0186】
実質的に類似したペプチドは、1つ以上のアミノ酸変化だけ異なるものを含み、ここで、変化、例えば、アミノ酸残基の置換、付加又は欠失は、FAK又はNANOGに関連するそれらの能力などの、関連するペプチドの特性を無効にしない。さらに、保存的置換のみが保存領域においてなされたタンパク質を記述又はコードする配列のみが、全体に実質的に類似している。好ましくは、実質的に類似した配列はまた、ポリペプチドの独特の活性を保持する。
【0187】
保存的置換の例は、イソロイシン、ロイシン、又はメチオニンなどの非極性(疎水性)残基の、別のものとの置換を含む。同様に、本発明は、アルギニン及びリジン間、グルタミン及びアスパラギン間、及びグリシン及びセリン間の1つの極性(親水性)残基の置換を想定している。さらに、リジン、アルギニン若しくはヒスチジンなどの塩基性残基の、別のものとの置換、又はアスパラギン酸若しくはグルタミン酸などの酸性残基の、別のものとの置換も想定される。非保存的置換の例としては、イソロイシン、バリン、ロイシン、アラニン、メチオニンなどの非極性;疎水性)残基の、システイン、グルタミン、グルタミン酸、リジンなどの極性(親水性)残基との置換、及び/又は極性残基の、非極性残基との置換を含む。
【0188】
「保存的置換」という語句は、ペプチドがNT-3と結合する必要な能力を保持する限り、非誘導体化残基の代わりに化学的に誘導体化された残基の使用も含む。実質的に類似したペプチドは、さらなるアミノ酸の存在、又はNT-3と結合する必要な能力に影響を与えない1つ以上のアミノ酸の欠失も含み、例えば、実質的に類似したペプチドは、N末端又はC末端システインを含有することができ、それによって、必要に応じて、ペプチドは、担体タンパク質、例えば、アルブミンに共有結合され得る。このような結合は、血液からのペプチドの除去を減少させ、ペプチドのタンパク質分解の速度も低下させ得る。さらに、本発明の趣旨では、L-アミノ酸の代わりにD-アミノ酸を含有するペプチドも、「保存的置換」という用語に含まれる。このようなD-異性体の存在は、タンパク質分解活性及びペプチドの除去を最小限に抑えるのに役立ち得る。
【0189】
ある実施形態において、プロ-ニューロトロフィン-3タンパク質(プロ-NT-3)が、対象に投与される。ニューロトロフィン-3のプロ形態は、酵素的切断及び約15kDaのN末端プロドメインの除去によって成熟NTに変換されるNT-3の約30kDaの前駆体形態である。Tauris et al.,Eur.J Neurosci,33(4),622-631(2011)を参照されたい。
【0190】
筋萎縮の治療
本発明は、末梢の筋萎縮を有する対象を治療する方法を提供する。ピルベート化合物が、予防的及び/又は治療的処置を提供するために使用され得る。ピルベート化合物は、例えば、末梢性ニューロパチーの発症の前に、対象に予防的に投与され得る。予防のための(prophylactic)(すなわち、予防的(preventive))投与は、対象における末梢性ニューロパチーの後の発症の可能性を低下させ、又は後に発症する末梢性ニューロパチーの重症度を低下させるのに有効である。予防的処置は、末梢性ニューロパチーを発症するリスクが高い対象、例えば、末梢性ニューロパチーの家族歴を有する対象に提供され得る。ミエリンタンパク質22(PMP22)の突然変異の発現は、シャルコー・マリー・ツースニューロパチーの全ての発生の70~80%に相当し、したがって、それらの存在は、本明細書に記載されるピルベート化合物を用いた治療を受ける患者を選択するための基準として有用であり得る。
【0191】
或いは、本発明の化合物は、末梢性ニューロパチーに既に罹患した対象に治療的に投与され得る。治療的投与の一実施形態において、この化合物の投与は、末梢性ニューロパチーを取り除くのに有効であり;別の実施形態において、ピルベート化合物の投与は、末梢性ニューロパチーの重症度を低下させ、又はそれに罹患した対象の寿命を延長するのに有効である。ある実施形態において、治療の方法は、治療的に有効な量の、薬学的に許容される製剤中のピルベート化合物を、かなりの期間にわたって対象に投与することからなる。
【0192】
CMT変異体
シャルコー・マリー・ツース(CMT)遺伝性ニューロパチーは、遺伝性運動及び感覚性ニューロパチーとして知られている、慢性運動及び感覚性多発ニューロパチーによって特徴付けられる疾患群を指す。常染色体優性CMTニューロパチータイプは、脱髄性(CMT1とも呼ばれる)、軸索非脱髄性(CMT2とも呼ばれる)及び優性中間型CMT(DI-CMT)である。また、CMTと同等の他のニューロパチーは、遠位型遺伝性運動ニューロパチー9dHMN)及び遠位型脊髄性筋萎縮症(DSMA)及びデジェリン・ソッタス症候群(DSS)である。CMTニューロパチーの説明及び分類が、Bird,GeneReviews,Seattle Washington:University of Washington Seattle PIM 20301532,Updated 2018 Jun 28に提供されている。
【0193】
現在、CMT関連遺伝子に対して知られている70を超える公知の遺伝的変異がある。これらの遺伝的変異は、Magyら(Neurology 90:e870-6,2018)の分類システムを用いて以下の表1に示される。各CMT関連遺伝的変異についての遺伝形式は、常染色体優性(AD)、常染色体劣性(AR)又はX連鎖性(XL)である。各CMT関連遺伝的変異についてのニューロパチーは、軸索(Ax)、脱髄性(De)及び中間型(In)である。表1に示される「他の表記」は、優性中間型CMT(DI-CMT)、遠位型脊髄性筋ジストロフィー(DSMA)、遺伝性感覚性自律神経性ニューロパチー(HSAN)及び遠位型遺伝性運動ニューロパチー(dHMN)を含む他の分類システムにおいて使用される表記である。
【0194】
【表1-1】
【0195】
【表1-2】
【0196】
【表1-3】
【0197】
【表1-4】
【0198】
【表1-5】
【0199】
投与及び製剤化
本発明のある実施形態とともに使用されるベクター又はペプチドは、対象への投与に好適な医薬組成物に組み込まれ得る。ある特定の実施形態において、医薬組成物は、本発明のベクター及び薬学的に許容される担体を含む。本明細書において使用される際、「薬学的に許容される担体」としては、生理学的に適合する、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などが挙げられる。薬学的に許容される担体の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、並びにそれらの組合せのうちの1つ以上が挙げられる。多くの場合、組成物中の等張剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、又は塩化ナトリウムを含むことが好ましいことがある。薬学的に許容される担体は、ベクター又は医薬組成物の保存期間又は有効性を向上させる、湿潤剤又は乳化剤、防腐剤又は緩衝液などの、少量の補助物質をさらに含み得る。
【0200】
ベクター又はペプチドは、急性に(すなわち、発症の際又は筋萎縮をもたらす事象の直後に)投与され得るか、又は予防的に(例えば、予定された手術の前、又は兆候若しくは症状が現れる前)投与され得るか、又は本来なら発生し得る症状の進行を軽減若しくは改善するために筋萎縮の過程において投与され得る。投与のタイミング及び間隔は、対象の症状に応じて変化され、当業者によって決定され得るように、数時間、数日間、数週間又はそれ以上の期間にわたって、数時間から数日間の間隔で投与され得る。
【0201】
ベクター又はペプチドを含有する組成物は、一般に、静脈内投与される。静脈内投与される場合、この組成物は、担体及び/又は助剤などの他の成分と組み合わされ得る。ペプチドはまた、ペプチドの除去を最小限に抑えるように、アルブミンなどのタンパク質担体に共有結合され得る。このような成分が薬学的に許容されるものであり、それらの意図される投与に有効でなければならず、組成物の有効成分の活性を低下させてはならないことを除いて、他の成分の性質に対する制限はない。
【0202】
注射に好適な医薬品形態としては、滅菌水溶液又は分散体、及び滅菌注射用溶液又は分散体の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。全ての場合において、最終的な溶液形態は、滅菌した流体でなければならない。典型的な担体としては、例えば、水で緩衝された水溶液(すなわち、生体適合性緩衝液)、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、それらの好適な混合物など)、界面活性剤又は植物油を含有する溶媒又は分散媒が挙げられる。滅菌は、ろ過又は抗菌剤若しくは抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸若しくはチメロサールの添加を含むがこれらに限定されない、当該技術分野において承認されている任意の技術によって行われ得る。さらに、糖又は塩化ナトリウムなどの等張剤が、本発明の組成物に組み込まれ得る。
【0203】
本発明のペプチドを含有する滅菌注射用溶液の製造は、必要な量のこれらの化合物を、必要に応じて、上記に列挙される様々な成分とともに適切な溶媒に組み込み、続いて滅菌、好ましくはろ過滅菌することによって行われる。滅菌粉末を得るために、上記の溶液は、必要に応じて、真空乾燥又は凍結乾燥される。
【0204】
本発明のペプチドが経口投与される場合、有効な用量のペプチドを含有するそれらの医薬組成物はまた、吸収可能な食用担体などとして不活性希釈剤を含有し得、ハード又はソフトシェルゼラチンカプセル中であり得、錠剤へと圧縮され得、又はエリキシル剤、懸濁液、シロップなどの中であってもよい。したがって、本発明のペプチドは、治療的に有効な量の好適な薬学的に許容される担体とともに、薬学的に有効な量で、好都合且つ有効な投与のために配合される。
【0205】
本明細書において使用される際の「有効量」又は「治療的に有効な量」という表現は、筋成長を刺激するか、又は筋萎縮を軽減若しくは防止するのに十分な、薬剤の量を指す。必要とされる正確な量は、対象の種、年齢、及び全身状態、特定の治療剤、その投与方法及び/又は投与経路などに応じて、対象ごとに異なる。しかしながら、本発明の化合物及び組成物の総一日使用量が、妥当な医学的判断の範囲内で主治医によって決定可能であることが理解されるであろう。任意の特定の対象又は生物のための具体的な治療的に有効な用量レベルは、治療される障害及び障害の重症度;用いられる具体的な化合物の活性;用いられる具体的な組成物;対象の年齢、体重、全体的な健康、性別及び食習慣;用いられる具体的な組成物の投与時期、投与経路、及び排せつ速度;治療の期間;用いられる具体的な組成物と組み合わせて若しくは同時に使用される薬物;並びに医学の技術分野において周知の同様の要因を含む様々な要因に応じて決まる。
【0206】
ベクター又はペプチドは、剤形と適合する方法で、また、治療的に有効であるような量で投与され得る。全身投与量は、患者の年齢、体重及び状態並びに投与経路に応じて決まる。例えば、成人への投与のためのペプチドの好適な用量は、体重のキログラム当たり約0.001~約20.0mgの範囲である。ペプチドは、好ましくは、投与当たり少なくとも約50mgの量で、より好ましくは、投与当たり最大で約500mg~約1グラムの量で投与されるべきである。本発明のペプチド組成物は、血流から最終的に除去されるため、組成物の再投与が指示され、好ましい。
【実施例0207】
ここで、本発明の態様及び実施形態が、以下の実施例によって例示される。しかしながら、本発明の範囲内に含まれる様々な他の実施形態が存在し、これは、本明細書に示される特定の例に限定されるべきではない。
【0208】
実施例1
AAV1.NT-3遺伝子治療は、CMTマウスモデルにおけるMTOR経路及び代謝リモデリングの活性化によって筋線維径を増加させる
NT-3は、軸索再生及びそれに付随する髄鞘形成を促進する、末梢神経及びシュワン細胞に対するよく認識された効果を有する。遺伝子注入の16週間後の時点でのTrembled(TrJ)マウスからの神経原性筋の酸化状態に対するAAV.NT-3遺伝子治療の効果を評価したところ、筋線維サイズの増加が、野生型に見られる線維タイプ比率の正規化に対する筋線維の酸化状態の変化に関連していたことが分かった。NT-3に誘発される線維サイズの増加は、速筋線維集団について最も顕著であった。TrJ筋肉のこれらの変化には、mTORC1活性化の証拠としての4E-BP1及びS6タンパク質のリン酸化レベルの増加が伴っていた。並行して、ミトコンドリア生合成調節因子PGC 1α、及び解糖のマーカー(HK1及びPK1)の発現レベルが、TrJ筋肉において増加した。インビトロ試験は、組み換えNT-3が、TrkC発現筋管においてAkt/mTOR経路活性化を直接誘発し得るが、筋芽細胞においては誘発しないことを示した。これとともに、ミオゲニン発現レベルは、筋管において有意に高かった一方、p75NTR発現は、筋芽細胞と比較して下方制御され、これは、NT-3に誘発される筋芽細胞分化が、mTORC1活性化に関連していることを示す。これらの研究は、NT-3が、mTOR経路の直接の活性化によって神経原性筋における筋線維径を増加させ、線維サイズの増加が、速筋線維についてより顕著であることを初めて示した。
【0209】
方法
動物、治療プロトコル及び病理組織学:TrJマウス(B6.D2-Pmp22Tr-J/J)及びC57BL/6野生型を、Jackson Laboratory(Bar Harbor,ME)から入手した。9~12週齢のTrJマウスの左腓腹筋に、PBS(n=6)又は3×1010vgの自己相補性(sc)AAV1.tMCK.NT-3ベクター(n=6)のいずれかを注射した。別のコホートのTrJマウスに、1×1011vgの一本鎖AAV1.CMV.NT-3を注射して、比較(n=6)のために高NT-3発現レベルを誘発した。WTマウスに、PBS(n=6)又は3×1010vgのscAAV1.tMCK.NT-3ベクター(n=4)のいずれかを投与した。マウスの群を安楽死させ、それらの筋肉を、遺伝子注入の16週間後の時点で採取し、クライオスタット切断のために処理した。コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)酵素組織化学を用いて、社内で確立された標準的なプロトコルを用いて代謝線維タイプ分化を評価した。筋線維タイプ特異的な直径の測定を、厚さ12μmのSDH染色断面から得た。(動物当たり区域当たり断面当たり)正中線軸に沿って腓腹筋の3つの異なる領域(STOから主に構成される深部領域、STO及びFTO若しくはFTGの格子縞模様の外観を示す中間領域、及びFTG線維から主に構成される表面領域)をそれぞれ表す3つの画像を、Olympus BX41顕微鏡及びSPOTカメラを用いて、20倍の倍率で撮影した。処理による代謝性変化に応答した、各領域内の線維の酸化状態の変化を捉えるために、この手法を選択した。暗色(STO)、中間(FTO)及び明色FTG)線維の直径を、Zeiss Axiovision LE4ソフトウェアを用いて、筋線維を横切る最短距離を測定することによって測定し、合計におけるパーセントとして表した。平均線維径(平均±SEM)を、各コホートにおいて3つ全ての線維タイプを組み合わせることから得た。群当たり平均で1250の線維(960~1486)を測定した。
【0210】
AAV.NT-3ベクター産生及び効力:tMCK又はCMVプロモータ下でNT-3を含有する血清型1を有する自己相補性AAVウイルスベクターの設計は、以前に記載されており、これは、ネーションワイド・チルドレンズ病院(Nationwide Children’s Hospital)(Columbus)のウイルスベクターコア(Viral Vector Core)において作成された。Sahenk et al.,Mol Ther,22(3):511-521(2014)。アリコートにされたウイルスを、使用するまで-80℃に保持した。血液試料を、注射の6及び16週間後の時点で、麻酔下での眼内出血によって処理及び非処理マウスから採取し、血清を、捕捉ELISAを用いてNT-3レベルについてアッセイした。
【0211】
C2C12筋芽細胞培養及び筋管形成:C2C12筋芽細胞を、加湿されたチャンバ中で、37℃及び5%のCO2で10%のFBS(Fisher Scientific,#26-140-079 Carlsbad,CA)、及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン溶液(Gibco-Invitrogen,#15640055 Carlsbad,CA)が補充されたDMEM Medium(Gibco-Invitrogen,#10569010,Carlsbad,CA)からなる成長培地(GM)中で培養した。GMを、分化培地[5%のウマ血清(Gibco-Invitrogen,#26050088,Carlsbad,CA)及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン溶液(Invitrogen,#15640055 Carlsbad,CA)が補充されたDMEM(Gibco-Invitrogen,#11965092,Carlsbad,CA)]に交換することによって、コンフルエント培養細胞において筋管形成を誘発した。QPCR、ウエスタンブロット及びELISAを含む、筋管に関する全てのその後のアッセイは、筋管形成の誘発の3日後に開始した。筋芽細胞及び筋管の両方を、6ウェルプレートにおいて100ng/mlの濃度で組み換えヒトNT-3(Pepprotech,Rocky Hill,NJ)に曝露した。製造業者の説明にしたがって、グルコース及びラクテートアッセイキット(Eton Bioscience,San Diego,CA)を使用することによって、培養培地を、グルコース消費及びラクテート形成のために収集した。
【0212】
QPCR実験:総RNAを、エンドポイントでNT-3処理及び非処理対照マウスの腓腹筋から単離した。総RNAを、NT-3処理の前及び48時間後に筋芽細胞及び筋管から単離した。mirVana RNA単離キット(Life Technologies,#AM1560,TX,USA)を使用し、その後、製造業者の説明にしたがって、Trascriptor First Strand cDNA合成キット(Roche,# 04379012001 Roche,USA)を使用することによって、cDNAを合成した。他のqPCR実験を、iTaqTm universal SYBR(登録商標)Green supermix(Biorad,#1725122,Hercules,CA,USA)を使用することによって行った。PGC 1α(Cunningham et al.,Nature,450(7170):736-740(2007))及びGAPDH(Toscano et al.,Mol Ther,18(5):1035-1045(2010))(ハウスキーピング遺伝子)についてのプライマー配列は、文献に見られる。他のプライマー配列は、Primer Band.Wang et
al.,Nucleic acids research,40(Database issue):D1144-1149(2012)から見出される。全てのqPCR実験を、ABI 7500 Real time PCR機械を使用することによって行い、結果を、Data Assist Software(ABI)を用いて分析した。
【0213】
タンパク質抽出及びウエスタンブロット実験:凍結した腓腹筋ブロックを、20μmの厚さに切断し、小さい2mlのプラスチック管に入れ(ブロック当たり15~20の切片)、20秒間で3回にわたって自動ペレットミキサー及び使い捨ての乳棒を用いてlx Haltプロテアーゼ阻害剤(Thermo Fisher,#78429,USA)及びlxホスファターゼ阻害剤(Sigma,#P0044,USA)]とともに溶解緩衝液[RIPA溶解緩衝液(Thermo Fisher,#89900,USA)中で均質化した。インビトロシグナル形質導入アッセイでは、筋芽細胞及び筋管を、NT-3(100ng/ml)とのインキュベーションの30分後に小さい2mlの管中に採取し、上述されるのと同じように溶解させた。溶解物を4℃で10分間にわたって13,000rpmで遠心分離し、上清を注意深く収集した。タンパク質濃度を、BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher,#23252,Waltham,MA,USA)を使用することによって測定した。タンパク質試料(10~40itg)を、4~12%のBolt(登録商標)Bis-Tris Plus precast 10又は15ウェルポリアクリルアミドゲル(Thermo Fisher,#NW04120BOX)中で電気泳動し、PDVF膜(GE Healthcare,#10600021,Pittsburgh,USA)に移した。膜を、0.05%のTween-20(TBS-T,Amresco,OH,USA)を含むTBS緩衝液中で、5%のウシ血清アルブミン(BSA,Bedford,MA,USA)で、室温で2時間ブロックし、4℃で、低温の部屋で一晩、5%のBSAを含むTBS-TS緩衝液中で、適切な一次抗体とともにインキュベートした。この試験に使用される一次抗体は以下のとおりであった:抗phospho S6タンパク質Ser235/236(#4858)、抗S6タンパク質(#2217)、抗Phospho Akt Ser473(#4060)、抗Akt(#9272)、抗phospho 4E-BP1 thr37/46(#2855)、抗4E-BP1(#9644)、抗GAPDH(Santa cruz,#sc365062)。TBS-Tを含むオービタルシェーカーにおいて5回にわたって5分間洗浄した後、膜を、1時間にわたってTBS-T緩衝液中の5%の脱脂粉乳中の、二次抗体[HRP共役抗ウサギ(#HAF008)、HRP共役抗マウス(HAF007)]R&D Systems(Minneapolis,MN,USA)製]とともにインキュベートした。膜を、上記と同じようにTBS-Tで再度洗浄し、次に、1~3分間にわたってECL Primeウェスタン検出試薬(Amersham,#RPN2232 NJ,USA)とともにインキュベートした後、複数回の曝露時間を用いて、X線フィルム(Denville,#E3018,MA,USA)に曝露した。フィルムにおけるタンパク質バンドを、カメラ(Sony A600,Japan)を用いて撮影し、バンド強度を、(Quantity-One software,BioRad,v.4.6.9)を用いて定量化した。各試料中の分析されるタンパク質の相対含量を、バンド強度を同じ試料中のGAPDHの含量に対して正規化することによって決定した。膜を0.1%のCoomassie Brilliant Blue R染色(Thermo Fisher,USA)で染色し、すすぎ、撮影して、各レーンで同等のタンパク質充填を確認した。
【0214】
統計:処理群及び非処理群の間の筋線維サイズ比較のために、統計分析を、一元配置分散分析(Anova)を用いてGraph pad Prism 6ソフトウェアにおいて行った。スチューデントのt検定又は一元配置Anovaを、他の統計分析に適用可能である場合に行った。有意なレベルは、P<0.05に設定した。全ての実験において、結果を平均±SEMとして示した。
【0215】
結果
TrJ筋肉におけるAAV1.NT-3誘発性線維タイプリモデリング
以前に、TrJ筋肉において、速筋タイプ線維から遅筋タイプ線維への切り替えが、ニューロパチー表現型の一環として観察された。Nicks et al.,J Neuropathol Exp Neurol,72(10):942-954(2013)。この試験において、記載されるように筋肉の深部、中間及び表面領域から試料を採取することによって、SDH染色を用いて、TrJ及び同齢のWTの腓腹筋における代謝線維タイプ分化を評価した。遺伝子注入の16週間後の時点で、神経変化、小さい角張った線維及びタイプの集団を示した非処理(PBS)群と比較して、特にFTO及びFTGタイプの線維サイズの増加とともにSTO線維の著しい減少があった(図1A及びB)。定量的試験は、TrJ-PBS筋肉において、STO線維の単位面積当たりの数並びにパーセンテージの両方が、過去の試験と一致して、WT筋肉より有意に高いことを示した。処理群において、低(tMCK)又は高(CMV)NT-3発現のいずれかをもたらす(図4)、両方のプロモータを含む1×1011vgの用量のAAV1.NT-3は、STOからFTO/FTG線維への線維タイプの切り替えを示した。両方の処理群におけるSTOの平均密度又はパーセント(各群においてn=3~5のマウスから得られる)は、WT筋肉と有意に異なっておらず、これは、NT-3による線維タイプ分布の正規化に対する変化を示す(図1C)。さらに、AAV1.NT-3で処理されたWT筋肉は、線維タイプ分布プロファイルの有意な変化を示さなかった。
【0216】
TrJマウスにおけるNT-3処理は、筋線維サイズの増加に対する異なる効果を示した(表2)。NT-3が、tMCKプロモータの制御下で発現されたとき、有意な直径の増加が、FTG線維のみにおいて観察された。高NT-3発現がCMVプロモータで得られた、第2の処理コホートにおいて、全ての線維タイプにおいて有意な直径の増加があった。興味深いことに、この用量依存的なNT-3効果は、神経原性TrJ筋肉のみにおいて見られ;同じ時点、すなわち遺伝子注入の16週間後の時点で、NT-3遺伝子治療によるWT筋肉における線維タイプのいずれにおいても有意な直径変化は見られなかった。
【0217】
表2は、NT-3遺伝子治療後の神経原性TrJ筋肉における線維サイズの増加が、速筋線維についてより顕著であることを示す。
【0218】
【表2】
【0219】
AAV-NT-3は、TrJ筋肉におけるmTORシグナル伝達及び代謝マーカーを改善した
AAV1.NT-3処理に応答するTrJ筋肉における上記に示される組織学的所見により、mTORC1活性化がNT-3に誘発される筋線維の肥大成長において役割を果たすかどうかの調査が促された。mTORC1の活性を、その下流の基質、群からの筋肉試料における4EBP-1及びリボソームS6Pのリン酸化レベルによって評価した。AAV1.NT-3で処理されたTrJ筋肉において、リン酸化された4EBP-1及びS6Pのレベルは、TrJ-PBS対照から得られる非処理の同等物と比較して有意に増加した(図2A)。対照的に、NT-3処理が、WT筋肉における4EBP-1及びS6Pのリン酸化レベルに有意に影響を与えなかったことが分かった(図2B)。
【0220】
4E-BPを介して、mTORC1は、核にコードされたミトコンドリアタンパク質の合成を調節し、ミトコンドリア活性及び生合成を制御し、したがって、エネルギー消費及び生成を調整する[17]。したがって、ミトコンドリア生合成のマスターレギュレータ、PGC 1αが、NT-3処理TrJ筋肉において上方制御され、これは、NT-3が、神経原性筋に見られるPGC 1αの発現レベルの欠陥を阻止することが可能であることを示す(図2C)。mTORC1活性化の欠如に呼応して、PGC 1α発現レベルの変化が、NT-3処理によるWT筋肉において見られなかった(図2C)。NT-3遺伝子治療によるTrJ筋肉における線維サイズの増加は、遅筋線維より高い解糖系活性を有するFTO及びFTG線維において主に起こる[18]。これと一致して、処理されたTrJ筋肉における解糖の律速酵素、HK1及びPK1の発現が上方制御されたことも分かり、これは、解糖流量の増加を示唆している。これらの変化は、AAV.NT-3で処理されたWT筋肉において有意でなかった。
【0221】
NT-3は、C2C12筋管におけるTrkC受容体を介したAkt/mTORC1経路を活性化する
本明細書に記載されるインビボ試験は、TrJ筋肉におけるAAV1.NT-3処理に誘発される線維サイズの増加及び線維タイプリモデリングが、mTORC1活性化に関連していることを示した。しかしながら、この変化が単に神経再生の結果であるかどうか、又はNT-3が、神経再生と無関係に、筋肉タンパク質合成及び細胞代謝を直接変化させ得るかどうかという疑問が解決される必要がある。次の工程として、インビトロシステムにおけるmTOR経路に対するNT-3の直接の影響を、C2C12筋芽細胞及び筋管を組み換えNT-3に曝露することによって、神経の影響なしで調査した。結果は、NT-3が、筋管におけるAkt/mTOR経路活性化を誘発し得るが(図3A)、筋芽細胞においては誘発しないことを示した。30分間にわたる100ngの組み換えNT-3による筋管の処理は、対照群と比較して、Akt、4EBP1及びS6Pの有意に高いリン酸化をもたらした(図3A)。別の組の実験において、NT-3は、48時間のインキュベーションの後、筋管におけるミトコンドリア生合成マーカーPGC 1α及び解糖のマーカー、PK1の発現を有意に高めたことが分かった(図3B)。したがって、この時点での上清の分析は、対照と比較して、NT-3で処理された筋管における増加したグルコース消費及び乳酸産生を示した(図3C)。これらの実験を行った条件下で、HK1発現レベルに対するNT-3の効果は観察されなかった。
【0222】
筋芽細胞及び筋管培養物における分化経路への筋芽細胞の移入のマーカーである、p75NTR及びTrkC受容体、及びミオゲニンの発現を分析した。NT-3は、その好ましい受容体TrkC又は低親和性ニューロトロフィン受容体p75NTRへの結合を介して、その生物学的影響を及ぼす。Schecterson LC,Bothwell M,Neuron,9(3):449-463(1992)。p75NTRは、C2C12筋芽細胞において発現され、筋肉分化中に下方制御される。Seidl et al.,Journal of cellular physiology,176(1):10-21(1998)。神経栄養因子、NGFが、p75NTRを介して筋肉分化及び細胞成長に影響を与え、p75NTRの下方制御が、筋肉分化に不可欠であると考えられることが示された。NGFの効果と同様に、NT-3も、筋管におけるミオゲニンの発現を促進することが分かり、予測されるように、これは、筋管と比較して筋芽細胞におけるp75NTRの著しく高い発現に関連していた一方、TrkC発現レベルは、両方の群において異なっていなかった(図3D)。NT-3は、筋芽細胞又は筋管におけるこれらの受容体の発現レベルに対して異なる影響を及ぼさなかった。
【0223】
説明
NT-3が、mTORC1の活性化による正規化に対する線維サイズの増加及び線維タイプリモデリングをもたらす神経原性筋代謝に直接の影響を及ぼし得るというエビデンスが本明細書に示される。線維サイズの増加は、タイプII線維、特にFTOサブタイプについて最も顕著であった。さらに、NT-3が、神経原性筋におけるそのインビボ効果への重要な寄与因子として、筋管におけるAkt/mTOR経路活性化を誘発し得るが、筋芽細胞においては直接誘発しないことが示される。興味深いことに、同じ用量でのWT筋肉におけるNT-3遺伝子治療は、これらの特性に影響を与えなかったが、遺伝子治療パラダイムを用いた除神経WT筋肉に対するNT-3効果は、試験されなかった。タイプII筋線維サブタイプに対するNT-3の異なる効果が、神経挫滅部位へのNT-3の局所送達を用いた又は用いない神経修復の8か月後にラット腓腹筋において以前に示されており、タイプIIb線維の割合及びサイズの両方が正常に戻ったことが見出された。Sterne et al.,J Cell Biol,139(3):709-715(1997)。しかしながら、この効果は、運動標的器官における有益な結果を有するNT-3に促進される軸索再生として解釈されるとともに、NT-3の可能性が、タイプIIb筋線維表現型を決定する運動ニューロンのサブセットに特に影響を与え得る。本発明者らのインビボ試験からの所見は、神経及び筋肉の両方に対するNT-3の組合せ効果を表し得ることが主張され得る。しかしながら、本発明者らのインビトロデータは、NT-3が、Akt/mTORC1の活性化によって筋肉代謝に対して直接の影響を与えること、及びこの直接の影響が、FTG、すなわち、タイプErb線維における優先的なサイズ増加をもたらす神経原性筋において重要である可能性が高いというエビデンスを強調する。
【0224】
コンディショナルトランスジェニックマウスにおいて、Aktの構成的に活性な形態を発現することが、タイプIII)筋線維の成長のために筋肉肥大をもたらした。Izumiya et al.,Cell metabolism,7(2):159-172(2008)。これは、解糖に関与する転写産物の上方制御に関連しており、グルコース消費及び乳酸産生を増加させ(これは、より低いインスリンレベルに関連していた)、血液中のグルカゴンレベル及び高脂肪食に誘発される肥満に対する耐性を増加させた。逆に、mTOR不活性化は、解糖酵素、PK1及びHK1の減少に関連していた。Risson
et al.,J Cell Biol,187(6):859-874(2009)。本発明者らの試験において、TrJ筋肉におけるAAV.NT-3処理は、FTG線維のサイズ並びに解糖酵素PK-1及びHK-1の発現の両方を増加させた。さらに、インビトロ試験は、NT-3が、PK-1の上方制御とともに、筋管におけるグルコース取り込み及びラクテート形成を増加させたことを示した。これらの結果は、NT-3が、速筋/解糖系線維を調節することによって全身の代謝を制御するのに関与し得ることを示唆しているが、さらなる試験がその役割を詳細に特徴付けるのに必要とされる。さらに、AAV.NT-3処理は、活性化4E-BP1の高められたレベルとともに、TrJ神経原性筋に見られるPGC1αの発現レベルの欠陥を阻止することが可能であった。骨格筋において、mTORが、4E-BP1/PGC1αを介してミトコンドリア生合成及び代謝を調節することは以前に示唆された。Tsai et al.,J Clin Invest,125(8):2952-2964(2015)。NT-3はまた、筋肉における4EBP1及びPGC lαの活性化を介して、酸化的リン酸化を促進する役割を果たし得る。
【0225】
NT-3は、最初に、胎児発達中に中枢神経系(CNS)において高いレベルで見られ、成人脳において減少され、これは、NT-3が、初期の神経発達中に重要な役割を果たすことを示唆する[28、29]。NT-3は、末梢神経においても重要であり、神経筋発達の多くの段階で好影響を及ぼす。ツメガエル(Xenopus)神経-筋肉共培養において、筋肉由来のNT-3は、神経筋接合部におけるシナプス伝達の成熟を著しく促進する[30~33]。さらに、NT-3は、神経筋系の重要な要素、SCの生存率を高める[34]。NT-3は、SC中で発現されて、神経再生を促進し、自己分泌生存ループの重要な構成要素であり、成人神経におけるSC生存及び分化を確実にする[35~39]。CMT1Aマウスモデルにおける試験において、NT-3のいくつかの重要な生物学的影響、すなわち、(i)SC数の増加、(ii)有髄線維の数の増加、及び(iii)軸索神経フィラメント細胞骨格の正規化が観察された[5、40]。本明細書において特に興味深い別のNT-3効果は、ミエリン厚さの増加であり、これは、NT-3がミエリンタンパク質産生に影響を与え得るという形態的証拠として認識された。
【0226】
以前の研究は、mTORC1が、CNSにおける髄鞘形成の調節において役割を果たすというかなりの証拠を示した。構成的に活性なAktキナーゼのトランスジェニック過剰発現は、mTORシグナル伝達を介してCNSにおけるミエリン膜成長を促進するのに十分であり[41、42]、オリゴデンドロサイト前駆細胞におけるIGF-1に刺激されるタンパク質合成が、PI3KJAkt及びMER/ERK経路を必要とする[43]。ミエリンタンパク質合成を刺激する、翻訳機構を標的とするNT-3の能力が、まず、オリゴデンドロサイト初代培養において示された[44]。NT-3は、PI3K/mTOR経路を介してオリゴデンドロサイトにおける4EBP1リン酸化を上方制御することが分かった。遺伝子不活性化手法を用いて、特にSCにおけるmTOR機能を取り除くことは、それらの正常に有髄化する能力に影響を与えた[45]。実際に、突然変異体において、髄鞘は、薄いことが分かり、節間長は短く、軸索の肥大成長が低下された。これとともに、mTORの下流の標的、S6及び4E-BP1は、あまりリン酸化されなかった[45]。
【0227】
これらの過去の研究を考慮すると、筋線維径の増加に対するNT-3の効果が同じ機構を介している可能性があった(mTORC1の活性化を介した直接の効果)。TrJにおいて使用される同じ用量でのWT筋肉におけるNT-3遺伝子治療が、線維タイプのサイズ又はタイプ分布の有意な変化を誘発しなかったことに留意することが重要である。WT筋肉におけるこれらの観察は、NT-3の効果が、高度に分化した細胞又は正常に機能している細胞に向けられておらず、病理学的過程に起因し得るリモデリングされた細胞代謝に対して機能することを示唆する。1つの補強証拠は、NT-3が、WT動物における挫滅外傷後の機能回復を改変せず、対照又はNGF処理動物よりわずかに多い軸索をもたらすに過ぎないことである[46]。scAAV1.tMCK.NT-3を評価する本発明者らの毒性試験は、これらの観察と一致して、CMT1Aの処理のために臨床試験について提案される最も高い用量より10倍多い1×1013vg/kgで投与されて、C57BL/6又はTrJマウスにおける器官組織の処理に関連した毒性又は組織病理学的異常を示さない。
【0228】
筋肉発達中、p75NTRが、筋管/筋線維を形成するか又は衛星細胞へと分化することになる筋芽細胞において一時的に発現される[23]。受容体の一時的な発現パターンは、p75NTRが分化前に筋芽細胞の生存を媒介すること、及び筋形成中のこの受容体の活性が、筋肉を発達させるのに重要であることを示す[23]。NGFの効果[21]と同様に、NT-3が、筋管においてミオゲニンの発現を促進することが分かり、予測されるように、これは、筋芽細胞におけるp75NTRの著しく高い発現に関連し、これは、筋管において有意に下方制御された。TrJ及びWT筋肉試料におけるp75NTR及びTrkC発現を調べたところ、WTと比較して神経TrJ筋肉における両方の有意に高い発現レベルが見られ、これらのレベルは、NT-3に応答して低下した(図5)。興味深いが、この観察は、その細胞型がこれらの受容体を発現するか、又はそれらが、衛星細胞若しくはSCにおいて、全ての筋線維内で発現されるか若しくは筋線維の1つのサブタイプのみで発現されるかについての結論を可能にしない。ヒト筋疾患におけるNT-3及び他のニューロトロフィン及びそれらの受容体の発現についての利用可能なデータは限られる。しかしながら、筋肉生検の組織学的調査を、主要な筋肉前駆細胞の分子及び細胞分析と組み合わせたこれまでの最近の研究は、p75NTRが、インビボでほとんどの衛星細胞によって発現され、炎症及びジストロフィー筋肉における再生線維のマーカーであることを示した[47、48]。神経原性筋における本発明者らの所見は、特に興味深く、様々な疾患経過の機構についてのより包括的な研究が必要とされる。
【0229】
保存されるSer/Thrキナーゼとして、mTORが、栄養素、成長因子、エネルギー状態、及び環境ストレスからのシグナルを統合することによる細胞成長の中心的調節因子である。細胞生物学及び病理生物学における、特に、優れた代謝及び形態学的適応能力を有する筋肉における、mTORの重要な役割は、現在、大きな関心を集めている。mTORは、ラプター(raptor)と結合して、mTORC1を形成し、ラプターの筋特異的不活性化が、筋萎縮、酸化能力の低下、及びグリコーゲン貯蔵の増加をもたらし、有酸素系筋肉において最も顕著であったジストロフィー特徴をもたらすことが示された[49]。mTOR活性の低下は、一方で、遅筋及び速筋の両方においてミオパチー特徴を悪化させ、酸化的代謝の低下、ミトコンドリア制御の変化、及びグリコーゲン蓄積を含む、ラプターを欠いた筋肉において観察されるものと同様の代謝性変化を示す[26]。筋肉壊死/再生の、心臓毒性に誘発されるサイクルのパラダイムを用いた研究において、本発明者らは、最近、肢帯型筋ジストロフィー2A型のマウスモデルにおける再生の低下を示し、カルパイン-3欠損筋肉が、mTORC1シグナル伝達の乱れ及び欠陥のあるミトコンドリア生合成に関連していることを示した(検討中)。総合すれば、本明細書に記載される所見は、神経及び筋肉の両方に利益を有するニューロパチーの治療のためだけでなく、さらには老化、癌悪液質又はタイプII筋線維萎縮を含む筋消耗疾患並びに再生の肥大成長期の障害に関連する遺伝性又は後天性自己免疫性原発性筋疾患のための、NT-3の潜在的な使用についての多くの示唆を有する[50~52]。これらの障害におけるmTORシグナル伝達の乱れの役割を理解することは、NT-3が重要な役割を果たし得る新規な併用治療法の開発を可能にするはずである。
【0230】
実施例2
scAAV1.tMCK.NFT3ベクターを用いたNT-3送達
投与される組成物は、図3に示される、scAAV1.tMCK.NTF3と呼ばれる非複製的な組み換えアデノ随伴ウイルスである。ベクターは、tMCK筋特異的プロモータの制御下で、ヒトNT-3遺伝子を含有する。インビボでの生物学的効果が、C57B16マウスの腓腹筋へのベクター(1×1011vg)の筋肉内注射の後に試験され、その後、遺伝子注入の4~6週間後の時点で、ELISAによる血清における循環NT-3の定量化が行われる。
【0231】
最初に、腓腹筋に送達されたssAAV1.CMV.NTF3が、TrJ神経の機能的、電気生理学的及び組織病理学的改善を提供するのに十分な持続する且つ治療的なNT-3血中濃度をもたらしたことが実証された。次に、必要なベクター用量を生成し、scAAV1によって発現カセットをパッケージングすることによって同じレベルの発現を達成することが可能であったかどうかが調べられた。用量反応試験を、C57BL/6マウスにおいて行い、3つの用量(3×10vg、1×1010vg及び3×1010vg)のscAAV1.tMCK.NTF3及びscAAV1.CMV.NTF3の筋肉内注射後の血清NT-3 ELISAデータを比較した。1×1011vgのsc.rAAV1.CMV.NTF3ベクターの投与が、自己相補性ベクターを用いたより高い効力と一致して、同じ用量の一本鎖ベクターより有意に高いNT-3レベルをもたらした。半log低用量(3×1010vg)で、CMV及びtMCKベクターの両方が、生物学的応答をもたらした、1×1011vgの用量のss.AAV1.CMV.NTF3を投与されたマウスから得られたものと同等のNT-3血中濃度をもたらした。注射の24週間後の時点でのTrJマウスからのNT-3レベル(平均±SEM)。全ての7つの群の間でNT-3レベルの有意差が存在する(p値<0.0001)。NT-3レベルの有意差が、プロモータ及び対照の両方について、最も高い用量及び中間用量のベクターについて観察された。しかしながら、分析は、両方のベクターについて、より低い用量について有意差を見出すことができなかった。クラスカル・ウォリス検定を用いて、全ての群(PBS、CMV 3E+09/1E+10/3E+10及びtMCK 3E+09/1E+10/3E+10)の間の血清NT-3を比較する。マン・ホイットニーのU検定を用いて、各群及びPBS(対照)群の間のNT-3を比較し、ボンフェローニ補正を用いて、多重比較について調整する。全体が参照により本明細書に援用される、Sahenk et al.,Mol.Ther.22(3):511-521,2014を参照されたい。
【0232】
処理の40週間後の時点での筋肉直径の増加:NT-3遺伝子治療の効果を、PBSと比較してssAAV1.CMV.NTF3(1×1011vg)を注射された動物のサブセットにおいて、注射の40週間後の時点での筋線維サイズについてTrJマウスにおいて評価した。萎縮症の角張った線維及び群萎縮によって特徴付けられる神経性の変化が、非処理のマウスからの筋肉において明らかであった一方、線維タイプ集団及び全体的な線維サイズの増加としての神経再生のエビデンスが、治療効果として認識可能であった。左下肢の外側前部及び後部筋肉(前脛骨筋及び腓腹筋)から作成された筋線維サイズヒストグラムが、線維径の増加を示した。
【0233】
本発明者らの実験室におけるさらなる試験は、NT-3が、SC細胞におけるAkt/mTOR経路を刺激し、神経における軸索の髄鞘形成及び肥大成長の改善を生じ、NT-3は、Trk-C受容体を介した筋管に対する直接の刺激作用も有し、これは、TrJマウスの筋肉における線維径の増加におけるその役割を示すことを示した。図3Aは、NT-3が、SC及び筋管培養においてAkt(P-Akt)及びmTOR標的、4EBP-1(P-4EBP1)及びPS6K(P-S6K)のリン酸化を増加させたことを示す。これらの試験は、この臨床試験においてベクター送達のために下腿の前部及び後部筋肉を選択することを正当化するエビデンスを提供する。
【0234】
自己相補性(sc)AAV1を用いた試験及び筋特異的切断型クレアチンキナーゼ(tMCK)プロモータの使用
scAAVは、向上した安全性を生むより低い投与量及び生産規格を満たす投与量レベルを可能にする。tMCKプロモータの使用は、オフターゲット効果を回避することによって、より高い安全性を同様に提供する価値のある目的である。以下の組の実験において、CMVプロモータの制御下のscAAV1.NTF3の有効性を、半log範囲内の3つの用量(3×10vg、1×1010vg及び3×1010vg)でいずれも投与される筋特異的tMCKプロモータと比較した。TrJマウス末梢神経におけるAAV1.NTF3遺伝子導入の有効性を、遺伝子導入の24週間後に電気生理学的(表3)及び形態学的試験によって評価した。導入遺伝子発現のエビデンスを、ELISAを用いて血清NT-3レベルを測定することによって評価した。
【0235】
【表3】
【0236】
電気診断試験中の調査者には、処理群を知らされていなかった。CMAPについてAAV1.NTF3.CMV(高用量、HD)及びAAV1.NTF3.tMCK(高用量、HD)の間に統計学的差異はなく、筋特異的tMCKプロモータを使用することが好ましかった。これは、ELISA AssayにおいてNT-3レベルによってさらに裏付けられ、ここで、NT-3レベルの有意差が、プロモータ及び対照の両方について、最も高い用量及び中間用量のベクターについて観察された。
【0237】
全ての特許、特許出願、及び刊行物、並びに本明細書に引用される電子的に入手可能な資料の完全な開示内容が、参照により援用される。上記の詳細な説明及び例は、理解の明瞭さのために示されているに過ぎない。不必要な限定が、それらから理解されるべきではない。本発明は、示され、記載される正確な詳細に限定されず、当業者に明らかな変形が、特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲内に含まれる。
【0238】
実施例3
NT-3発現AAV構築物の構築
tMCK又はCMVプロモータ下でNT-3 cDNAを含有する血清型1を有する自己相補性AAVウイルスベクターの設計が、全体が参照により本明細書に援用される、Sahenk et al.,Mol Ther,22(3):511-521(2014)に以前に記載されている。アリコートにされたウイルスを、使用するまで-80℃に保持した。血液試料を、注射の6及び16週間後の時点で、麻酔下での眼内出血によって処理及び非処理マウスから採取し、血清を、捕捉ELISAを用いてNT-3レベルについてアッセイした。この構築物は、本明細書においてscAAV1.tMCK.NTF3と呼ばれる。
【0239】
tMCKプロモータ/エンハンサー配列は、筋特異的遺伝子発現を促すのに使用され、それに融合されるエンハンサー要素(enh358MCK、584-bp)が追加された筋クレアチンキナーゼプロモータから構成される。MCKエンハンサー(206-bp)のトリプルタンデム(triple tandem)を、tMCKプロモータ/エンハンサーにおいて87-bp基本プロモータにライゲートした。
【0240】
scAAV1.tMCK.NTF3薬物製品を、(i)pAAV.tMCK.NTF3-ベクタープラスミド(図7を参照)、(ii)AAV rep2及びCap1野生型遺伝子を含有するR88/C1と呼ばれるAAV1ヘルパープラスミド及び(iii)ヘルパーアデノウイルスプラスミドを用いた、ヒトHEK293 Master Cell Bank細胞の3プラスミドDNAトランスフェクションによって製造した。
【0241】
分子構造及びオープンリーディングフレームによるプラスミドの概略図が、7に示される。pAAV.tMCK.NTF3プラスミドに由来するAAVベクターゲノムは、AAV2逆位末端反復配列(ITR)によって隣接されるヒトNTF3 cDNA発現カセットを含有する自己相補性DNAゲノムである。AAV1ビリオンに封入されるのはこの配列である。tMCK発現カセットを挿入して、NTF3遺伝子配列をAAVクローニングベクターpsub201に入れることによって、プラスミドpAAV.tMCK.NTF3を構築した。ヒトNTF3遺伝子は、マウストリプルタンデムMCKプロモータから発現され、これは、以前に記載されたCK6プロモータの修飾であり、3つ組のE box配列を含有する。SV40ポリアデニル化シグナルが、効率的な転写終結に使用される。カセットは、遺伝子発現の増加のためにキメライントロンも含有し、ヒトβ-グロビン遺伝子の第1のイントロンからの5’供与部位、及び分岐点、及び免疫グロブリン遺伝子重鎖可変領域のリーダー及びボディの間のイントロンからの3’スプライス受容部位から構成される。NTF3発現カセットは、効率的なmRNA終結のためにATG開始及び200bp SV40ポリAシグナルのすぐ前にコンセンサスコザックを有する。NTF3 cDNAは、その全体が含まれる(NCBI参照配列:NM_001102654)。このベクターに含まれるウイルス配列のみが、AAV2の逆位末端反復配列であり、これは、ウイルスDNA複製及びパッケージングの両方に必要とされる。AAV ITRは、両方においてほぼ同一であるが、反対の配向である配列である。「左」(突然変異)ITRは、ゲノムのヘアピン形成を可能にするように欠失された末端分離部位(terminal resolution site)を有する。全てのDNAプラスミド要素の同一性が、プラスミド源ストックにおけるDNAプラスミドシーケンシングによって確認される。
【0242】
表4に示されるのは、配列番号11のAAVベクターDNAプラスミド内の関連する分子構造の塩基対位置である。
【0243】
【表4】
【0244】
実施例4
第I相筋肉内試験
最初の第I相筋肉内(IM)安全性試験では、持続的なNT-3導入遺伝子発現が、いくつかの理由で重要な、この第1段階における提案される転帰尺度である。毒性の真の評価は、遺伝子発現の実証に左右される。筋肉が形質導入されない場合、毒性(有害作用)の試験は、解釈するのがより難しくなる(遺伝子発現の低下に対する形質導入の欠如)。試験は、導入遺伝子発現を明確に認識し、それを内因性遺伝子発現と区別するための方法を確立する機会を提供する。
【0245】
この臨床試験は、非盲検、単回注射漸増投与試験であり、ここで、scAAV1.tMCK.NTF3が、PMP22遺伝子重複を有するCMT1A対象の両脚の腓腹筋及び前脛骨筋への筋肉内注射によって投与される。18歳以上の9人の成人CMT1A患者が、この試験の2つのコホートのうちの1つに参加する。最初の3人の対象は、コホート1において両手足の間で両側に分配される有効な最小用量(2.0×1012vg/kg)で参加する。さらなる6人の対象は、コホート2において3倍用量漸増(6.0×1012vg/kg)で参加する。遺伝子導入後のモニタリングは、2年間に及ぶ試験の残りの期間の間、7、14、30、60、90、120日、及び3か月間隔の追跡調査来院を含む。安全性は、この臨床的な遺伝子導入試験の主要エンドポイントである。停止基準は、2週間後に消散していない何らかのグレードIIの眼若しくは全身毒性又は何らかのグレードIII以上の毒性の発生として定義される、許容できない毒性の発生に基づいている。二次エンドポイントは、遺伝子導入の2年後の時点でCMT小児尺度(CMTPedS)によって測定される能力の低下の停止として定義される有効性である。CMTPedSは、機能的巧緻性試験(Functional Dexterity Test)、9ホールペグ試験(Nine-Hole Peg Test)(9HPT)、徒手筋力計を用いたハンドグリップ、足底屈、及び足の背屈強度、針刺し及び振動感覚、ブルイニンクス・オセレツキー試験-バランス評価、歩容評価、走り幅跳び、及び6分間歩行試験(6MWT)から構成される11項目の尺度である。試験結果の測定は、100メートル計測試験(100M)、腓骨及び尺骨CMAP振幅及び感覚及び運動伝導速度、針刺しに対する感受性を増加するように修正された感覚試験、タッチテスト及び振動評価、疼痛及び疲労についての視覚的アナログ尺度、クオリティ・オブ・ライフの尺度としての簡易健康調査(Short Form Health Survey)(SF-36)、及び循環NT-3レベルを含む。
【0246】
試験に参加する患者は、任意の人種、民族、又は性別の背景を含む。この疾患の基準は、定義されており、Shyら(Neurology 64:1209-1214,2001及びNeurology 70:378-383,2008)によって既に確立された指針に従うことになる。
【0247】
試験の選択基準は以下のとおりである:
・CMT1Aと診断された成人対象(18歳を超える)
・末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)遺伝子を含む17p11.2における1.5Mb重複を示さなければならない。
・任意の民族又は人種集団の男性及び女性
・足関節背屈の筋肉の低下を示さなければならない(重力に逆らって完全なROMを有するべきであるが、重力に逆らって完全な背屈を維持することができないか、又は3秒間以上つま先立ちすることができない(Northstar基準)]
・異常な神経伝導速度
・臨床評価及び反復神経伝導検査に協力する能力
・性的に活発な対象では、試験の間、信頼性のある避妊法を実施する意思があること。
【0248】
試験の除外基準は以下のとおりである:
・臨床観察、又はHIV、又はA型肝炎、B型肝炎若しくはC型肝炎感染の血清学的証拠に基づいた活性なウイルス感染
・進行中の免疫抑制療法又は試験の開始の6か月以内の免疫抑制療法(例えば、コルチコステロイド、シクロスポリン、タクロリムス、メトトレキサート、シクロホスファミド、静脈内免疫グロブリン)
・持続的な白血球減少若しくは白血球増加(WBC≦3.5K/μL又は≧20.0K/μL)又は1.5K/μL未満の絶対好中球数
・ELISA免疫測定法によって決定される際に1:50以上のAAV1結合抗体力価を有する対象
・研究室の主宰者(PI)の意見によれば、遺伝子導入の不必要なリスクが発生することから、併発疾患又は長期の薬物療法の必要性
・適切な筋力試験を妨げる、足関節拘縮若しくは手術
・妊娠、授乳、又は妊娠を計画している
・ニューロパチーの他の原因
・過去6か月以内の四肢の手術
【0249】
【表5】
【0250】
注射前のベースライン測定(-30日目~-1日目)
書面によるインフォームド・コンセントを得て、病院登録手続き(hospital registration procedure)を完了した後、以下のベースライン医療処置及び測定が行われる。
・病歴
・併用薬の摂取
・身体検査
・胸部X線
・心エコー図
・EKG
・血液学的血液実験室検査(blood labs)(CBC)
・凝固パラメータ:血小板、PT/INR、PTT
・臨床化学血液実験室検査:ビリルビン、血中尿素窒素(BUN)、GGT,
・アルカリホスファターゼ、α-フェトプロテイン(AFP)、クレアチニン、アミラーゼ、血清タンパク質電気泳動、電解質、グルコース、クレアチンキナーゼ
・尿検査
・ウイルススクリーニング(肝炎及びHIV)
・妊娠検査(妊娠可能年齢の女性のみ)
・血液免疫学:中和抗体(AAV1)及びエリスポット(ELISpot)
・(NT-3及びAAV1)
・ELISAのための血清(循環NT-3)
・有効性測定
・調査測定
・注射部位の写真
【0251】
注射前のプレドニゾロン投与
遺伝子導入の前に、各患者に、最大で60mg/日で経口プレドニゾン1mg/kg/日の投与、続いて、遺伝子導入当日に第2の投与を与える。対象に、合計4回の投与のために、遺伝子導入の24時間後及び48時間後にプレドニゾンを投与する。
【0252】
遺伝子導入のためのプロトコル
tMCKプロモータ(scAAV1.tMCK.NTF3)の制御下でヒトNTF3遺伝子を保有する自己相補性AAV1が、腓腹筋及び前脛骨筋(TA)の内側頭及び外側頭に単回両側筋肉内注射において投与される。
【0253】
遺伝子導入手順
遺伝子導入手順は、以下のとおりである:
・遺伝子導入注入手順が、滅菌条件下で行われる。
・ベクターが、患者当たり合計約10mL~28mL(3つの筋肉に分けられる、四肢当たり5~14mL)で、希釈剤なしで送達される。
・ベクターが、指定のラベル貼付された冷却器中で搬送される、二重の漏れ防止袋に密封された予めラベル貼付されたシリンジ中で処置室に送達される。
・合計5mL~14mLのベクターが、筋肉当たり合計3~6回の注射(各注入量は、0.5~1.0mlである)において腓腹筋及びTA筋肉の各頭部及び外側頭に投与される。図8A及び8Bにおける注射部位の概略図を参照されたい。
・注射は、筋膜の少なくとも0.25cm下に行い、注射は、超音波によってガイドされる筋肉の縦軸に沿って行う。
・各注射は、約1.5cm間隔を開ける。
【0254】
入院患者のモニタリング
遺伝子導入注射の後、対象は、バイタルサイン及び呼吸機能の緊密なモニタリングを続けながら、指定の入院患者用ベッドに戻る。バイタルサインを、最初の4時間にわたって約1時間ごとに、次に、退院まで4時間ごとにモニターする。安全性を、身体検査及び実験室評価によって評価する。対象に、経口プレドニゾンの第3の投与を与え(1日目)、プレドニゾンの第4及び最終投与を、翌日与える(注射の48時間後、2日目)。患者は、遺伝子導入の約48時間後に退院することになる(副作用が観察されない場合)。
【0255】
外来患者のモニタリング
退院後、患者は、遺伝子導入後2年間に及ぶ試験の残りの期間にわたって、7、14、30、60、90、120日、及び3か月間隔で追跡調査来院のために通院する。全ての通院時に得られた血液試料を、血清ELISAにおいて抗NT-3抗体を用いて実証されるように、NT-3タンパク質発現について評価する。さらに、患者は、7、9、11、13及び14回目の通院の時点で、有効性及び調査測定について試験される。血清ELISAは、循環導入遺伝子の有効性を実証する二次転帰尺度を用いた機能的遺伝子発現の直接的測定法である。
【0256】
主要エンドポイント:
安全性は、この臨床的遺伝子導入試験の主要エンドポイントである。これは、いずれか1つのグレードIII以上の予想外の処理に関連する毒性の発生として定義される許容できない毒性の発生に基づいて評価される。
【0257】
安全性測定
安全性は、身長及び体重、バイタルサイン、身体検査及びシステムレビュー、及び一連の血液実験室検査の収集により、各試験で測定される。実験室検査は、CBC、血小板、血中尿素窒素(BUN)、GGT、ビリルビン、アルカリホスファターゼ、α-フェトプロテイン、クレアチニン、アミラーゼ、血清タンパク質電気泳動、電解質、グルコース、PT/INR及びPTT、CK、尿検査を含む。免疫学は、AAV1に対する中和抗体及びNT-3に対する抗体の検出のためのELISA、AAV1及びNT-3に対するT細胞応答を検出するためのエリスポット(ELISpot)からなる。全ての有害事象が記録され、遺伝子導入との関連性について評価される。
【0258】
二次エンドポイント
臨床的な遺伝子導入試験の二次エンドポイントは、遺伝子導入の2年後の時点でCMT小児尺度(CMTPedS)によって測定される能力の低下の停止として定義される有効性である。
【0259】
上肢及び下肢筋力試験が、上肢(ハンドグリップ)及び脚(足の背屈)の遠心運動(distal movement)について徒手筋力計(hand held dynamometer)を用いて行われる。試験のための四肢を、試験のために固定し、これは、足の等尺性収縮測定の信頼性を著しく向上させる(29)。上肢機能が、9ホールペグ試験(9HPT)により測定される。下肢機能が、計測10メートル走/歩行(T10MW)試験により測定される。
【0260】
試験結果測定
試験結果は、100メートル計測試験(100M)、腓骨及び尺骨CMAP振幅及び感覚及び運動伝導速度、針刺しに対する感受性を増加するように修正された感覚試験、タッチテスト及び振動評価、疼痛及び疲労についての視覚的アナログ尺度、クオリティ・オブ・ライフの尺度としての簡易健康調査(Short Form Health Survey)(SF-36)、及び循環NT-3レベルを含む。
【0261】
電気生理学的試験は、尺骨感覚神経振幅及び尺骨神経の複合筋活動電位(CMAP)振幅(小指外転筋から記録される)並びに腓骨神経(前脛骨筋から記録される)並びに感覚及び運動伝導速度の測定を含む。前脛骨筋からの腓骨CMAP振幅が、CMT1Aを有する患者における臨床試験のための有用な転帰尺度であることが示されており(30);上肢運動症状については、尺骨CMAP振幅が、最も有益なパラメータであることが分かった(31)。足及び手の温度は、これらの試験手順中、32~34℃に保たれる。視覚的アナログ尺度が、疼痛及び疲労の尺度に使用される(32)。簡易健康調査(Short
Form Health Survey)(SF-36)が、処理の前及び後の疾患の負担をモニターし、比較するためにクオリティ・オブ・ライフの記録として使用される。
【0262】
任意選択の束状腓腹神経生検を行う患者に報奨金を与える。選出された場合、生検が、処理の開始前に(左腓腹から)、及び試験の最後に(右腓腹から)得られる。生検は、局所麻酔下で外来患者診察として行われる。組織が処理され、有髄線維再生に対するNT-3の効果を評価するために調べられる。神経全体の長さに対して処理前及び処理後の材料のレベルを適合させるために、切開の近位端(長さ2.5cm)が、アキレス腱の正確に10cm上に配置される(8)。
【0263】
統計分析
安全性は、この臨床的遺伝子導入試験の主要エンドポイントである。これは、いずれか1つのグレードIII以上の予想外の処理に関連する毒性の発生として定義される許容できない毒性の発生に基づいて評価される。安全性は、身長及び体重、バイタルサイン、身体検査及びシステムレビュー、及び一連の血液実験室検査の収集により、各試験で測定される。実験室検査は、CBC、血小板、血中尿素窒素(BUN)、GGT、ビリルビン、アルカリホスファターゼ、α-フェトプロテイン、クレアチニン、アミラーゼ、血清タンパク質電気泳動、電解質、B12、グルコース、PT/INR及びPTT、CK、尿検査を含む。免疫学は、AAV1に対する中和抗体及びNT-3に対する抗体の検出のためのELISA、AAV1及びNT-3に対するT細胞応答を検出するためのエリスポット(ELISpot)からなる。全ての有害事象が記録され、遺伝子導入との関連性について評価される。
【0264】
主な二次転帰尺度は、CMT疾患小児尺度(CMT Disease Pediatric Scale)スコア(CMTPedS)における疾患重症度の低下の欠如として定義される。CMTPedSのコンピュータ化された採点システムは、患者の成績が健康な集団と異なる標準偏差の数値に基づいて個々のスコアを決定するために、基準試料からのzスコアを使用する。CMTPedSの採点は、試験全体を通して全ての患者について20歳の一定年齢で行い、これは、2つの理由から必要である。第1の理由は、元のCMTPedS尺度が、最終的なスコアの計算の際に個々の尺度項目についての基準値に依拠するが、基準値は、2030の年齢を超える個体については存在しないことである。第2の理由は、小児と健康な同等の人とのスコアの比較が、まだ発達中の小児にとって不可欠であるが、それは、小児が誕生日を迎えたときに機能低下を課すという制限を有することである。試験に関する小児の素点が変化しなくても、採点基準は、彼らの加齢とともにより厳しくなるように設計され、これは、健康な子供に通常見られる予測される運動技能の向上を反映している。しかしながら、変性疾患の臨床試験において、実際の進行の停止により、成功した試験が継続され得る。基準制御データの年齢を、試験全体を通して一貫して保つことは、CMTPedSに組み込まれる有効な採点システムの使用を可能にする。それはまた、進行の停止が検出されるような評価の実際の変化の観察を可能にする。
【0265】
CMTPedSスコアが、2項検定を用いて2年間の期間にわたって改善されたか又は同じままでであった患者の割合は、95%信頼区間を用いて推定される。調査の目的として、CMTPedSの11項目のそれぞれにおいて低下を有さない患者の割合が、別々に、並びに100メートル計測試験(100M)、CMAP振幅、疼痛強度の視覚的アナログ尺度(VAS)、簡易健康調査(Short Form Health Survey)(SF-36)におけるスコア、及び循環NT-3レベルにおいて推定される。さらに、ピアソン又はスピアマン相関係数が、循環NT-3レベルと各転帰尺度との間の関連性を評価するために各測定時点で使用される。この試験は、予備段階にあるため、多重比較のためのp値が調整されない。しかしながら、感度分析が行われ、ボンフェローニ・ホルムステップダウン手順に基づいて、どの関連性が調整後に統計的に有意であるかを示す。
【0266】
縦軸の自然経過(longitudinal natural history)データ(31、32)に基づいて、成功した二次転帰尺度が、ハンドグリップ及び足関節背屈強度、9ホールペグ試験を完了させる時間及び10メートル歩行する/走る時間の標準化された複合スコアの低下率の停止として定義される。
【0267】
実施例5
毒物学的試験
この試験の目的は、野生型(C57BL/6)及び腓腹筋における単回筋肉内注射後のTrembler(Tr)マウスにおける、筋特異的tMCKプロモータ(scAAV1.tMCK.NTF3)の制御下でヒトニューロトロフィン因子3(NTF3)cDNAを発現する自己相補性アデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターの安全性を評価することであった。この報告の結果は、野生型及びtremblerマウスにおける単回筋肉内注射が安全であり、注射の最大で48週間後に忍容性良好であることを実証している。
【0268】
試験動物
野生型C57BL/6(陰性対照)及びTr(被験物質)マウスに、ビヒクル(0.9%の滅菌生理食塩水)又は50μlの総体積の1×1013vg/kgのscAAV1.tMCK.NTF3のいずれかを筋肉内注射した。この系統のキャリアマウスは、Jackson Laboratories(ストック番号000664)又はCharles River(ストック番号027)から入手可能である。Trマウスは、Jackson Laboratories(ストック番号002504)から入手可能である。
【0269】
Tremblerマウスは、注射の時点で8~10週齢であった。動物の入手可能性及び動物系統の公知の育種問題のため、動物のサブセットを、12週齢で処理した。
【0270】
合計で88匹(44匹の雄/44匹の雌)の動物が、試験に含まれていた。44匹の動物(22匹のC57BL/6、22匹のTrJ)を、生理食塩水対照で処理し、44匹の動物(22匹のC57BL/6、22匹のTrJ)を、scAAV1.tMCK.NTF3被験物質で処理した。これらの数のうち、各コホートからの動物の半分を、処理の24週間後に安楽死させ、残りの動物を、処理の48週間後に安楽死させた。動物を、耳標によって一意的に識別した。
【0271】
試験設計
scAAV1.tMCK.NTF3被験物質の安全性を評価するために、4~6週齢の野生型C57BL/6及び8~12週齢のTrマウスに、ビヒクル(0.9%の滅菌生理食塩水)又は左腓腹筋における単回筋肉内(IM)注射による50μlの総体積の1×1013vg/kgのscAAV1.tMCK.NTF3のいずれかを注射した。動物を、全体的な健康及び罹患率について、試験の全経過を通じて毎日観察した。死亡率のチェックを、1日2回行った。体重を2週間置きに測定した。8週間置きの過敏性についての機能試験(ホットプレート及び聴覚驚愕試験)。行動試験(ロータロッド及びワイヤーハンギング)を2週間置きに行った。
【0272】
温度感度を、注射の2週間前から開始して、続いて0日目、及び8週間置きに、げっ歯類ホットプレート試験を用いて試験した。試験を行うために、動物を、55℃の温度に維持されたプレート表面上に載せ、プレート表面を囲む高さ15cmのPlexiglas壁を用いて、移動を100cmの面積に制限した。動物を加熱表面に載せた時点でタイマーを開始し、反応潜時を、ストップウォッチによって0.1秒まで記録した。以下の活動が、熱刺激に対する応答とみなされる:後足をなめる又はさっと動かす(flick)/揺らす(flutter)、跳ねて逃げようとするのも、許容される応答である。この応答が観察された場合、マウスをすぐに取り出した。
【0273】
音響感度を、注射の2週間前、続いて0日目(ベースライン)、血清NT-3レベルのピーク時(8~12週間)及びその後は8週間置きに試験し、全ての動物を、聴覚驚愕試験(AST)を用いて聴覚過敏性について試験した。驚愕反応性を、Beigneux et al.,Behavioral Brain Res.171:295-302,2006に以前に記載されているように、単一の驚愕反応実験チャンバ(startle chamber)(SR-Lab,San Diego Instruments,San Diego,CA)を用いて測定した。
【0274】
チャンバは、換気されたチャンバの内部の台に載っている透明の非制限的Plexiglasシリンダからなっていた。チャンバの内部の高周波の拡声器が、65dBの連続的な背景雑音及び様々な音刺激の両方を発生させた。動物の全身驚愕反応によって引き起こされるPlexiglasシリンダの振動が、台に取り付けられた圧電ユニットによってアナログ信号に変換された。次に、信号がデジタル化され、コンピュータによって保存された。65の読み取り値を、刺激開始から開始して1ms間隔で取り、平均振幅(Vavg)を用いて、聴覚驚愕反応を決定した。65dBの背景雑音レベルが、5分間の順応期間にわたって示され、試験セッションを通して続いた。全てのプレパルス抑制(PPI)試験セッションは、驚愕試験(パルス単独)、プレパルス試験(プレパルス+パルス)、及び無刺激試験(無刺激)からなっていた。パルス単独試験は、40msの120dBパルスの広帯域雑音からなっていた。PPIは、プレパルス+パルス試験によって測定され、これは、20msの雑音プレパルス、100msの遅延、及び次に40msの120dBの驚愕パルスからなっていた。音響プレパルス強度は、69、73、及び81dBであった。無刺激試験は、背景雑音のみからなっていた。試験セッションは、パルス単独試験の5つの提示(presentation)を伴い、開始及び終了し;その間に、各試験タイプは、疑似乱数順序で10回提示された。試験の間は平均で15秒(12~30秒の範囲)であった。
【0275】
ロータロッド分析では、全ての対象が同程度にタスクを学習するのに、少なくとも1週間の訓練が必要とされた。加速回転プロトコルにおいて、動物をロッドに載せ、このロッドは、5rpmに加速し、次に5rpm/sec7で上昇する。動物に、1つのセッションにつき3つの試験を行い、それを平均した。
【0276】
ワイヤーハンギング分析では、動物を、柔らかいベッドの厚い層の35cm上で水平方向に維持された直径2mmのワイヤー金属ワイヤー上に四つの足によって載せた。マウスがワイヤーから落下するまでの時間の長さを記録し、各落下後、マウスに1分間の回復期間を与えた。各試験セッションは、3つの試験からなっており、それらからスコアを平均した。
【0277】
注射の22及び46週間後の時点で(安楽死の2週間前)、血液学試験(赤血球数、ヘマトクリット値、ヘモグロビン、白血球数(総数及び分画)、平均赤血球ヘモグロビン、平均赤血球ヘモグロビン濃度、平均赤血球容積、平均血小板容積、血小板数、網状赤血球数)のために眼窩後方洞(retro-orbital sinus)から血液を採取した。臨床化学を、以下のパラメータ:アラニンアミノトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、(総及び直接)ビリルビン、血中尿素窒素、クレアチニン、クレアチンキナーゼ、グルコース、総タンパク質について分析した。
【0278】
注射の24及び48週間後の時点で、血液を心穿刺によって採取し、血清を免疫試験に使用した。血清試料を、各コホート(処理又は性別にかかわらず)における全ての動物のための抗AAV1及び抗NT-3抗体価測定のために採取した。血清試料を、循環NT-3レベルのELISAアッセイにさらに使用した。
【0279】
注射の24及び48週間後の時点で、Tr動物からの以下の組織を、病理組織学分析のために採取した:生殖腺、脳、脾臓、腎臓、空腸、結腸、膵臓、心臓、肺、胃、肝臓、鼠径部リンパ節、脊髄、(右及び左)腓腹筋、及び肉眼的病変(もしある場合)。組織を、10%の中性緩衝ホルマリン中で固定し、切片化し、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した。組織学的分析を、SNBL USAによって行った。
【0280】
注射の24及び48週間後の時点で、社内での病理組織学調査用の組織を、Tr対照コホート(n=5、3匹の雄、2匹の雌)を除いて、コホート当たり6匹の動物(3匹の雄、3匹の雌)について採取した。マウスを殺処分し、リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)中4%のパラホルムアルデヒドを用いて経心的に灌流した。腰髄、後根神経節(DRG)及び全座骨神経部分(坐骨切痕から膝窩まで)を切開した。そのインサイチュ長さで座骨神経部分の近位の半分及び1つの腰部DRGを、グルタルアルデヒド固定液に移し、プラスチック包埋及び1μmの厚さの切片化のために処理した。座骨神経組織及び腰部DRGの残りの部分を、30%のスクロース中で抗凍結保護し、液体窒素中で冷却されたイソペンタン中で凍結させ、DRGニューロン及び軸索(脊髄におけるCGRP陽性の検出のための免疫組織化学のために12μmの切片に切断し、TrJマウスからの脳を、10%の中性緩衝ホルマリンに入れた。
【0281】
【表6】
【0282】
動物への投与、観察及び分析
示される動物に、左腓腹筋への単回筋肉内(IM)注射によって50μLの体積を0日目に1回投与した。正確な投与を行うために、最小で15分間にわたって、イソフルラン吸入により動物に麻酔をかけた。左腓腹筋への直接の注射によって用量を投与した。全ベクター用量を筋肉中に正確に入れるように注意を払う。投与を行った後、動物を、歩行するまで観察し、ケージに戻した。各動物の観察を、試験の全期間にわたって毎日行った。体重を2週間置きに測定した。死亡率チェックを、1日2回行った。
【0283】
適切な月齢で、マウスに、ケタミン/キシラジン混合物(200mg/kg/20mg/kg)を過量投与した。血液を、心臓穿刺によって採取した。次に、組織を採取し、分析に送った。
【0284】
各時点で各コホートについて、体重、マウス血液学及び臨床化学をプロットする。抗AAV1循環抗体、抗NT-3循環抗体、及び循環NT-3レベルのためのELISAアッセイを、全てのエンドポイントについて行った。げっ歯類ホットプレート及び聴覚驚愕装置を用いた過敏性機能試験を、全ての動物について8週間置きに行った。行動試験を、全ての動物についてロータロッド及びワイヤーハンギング試験について、2週間置きに行った。器官における形態病理組織学を、全ての動物について行った。腰髄及びDRGにおける社内での病理組織学を、5匹の動物(3匹の雄、2匹の雌)を含むTrコホートを除いて、コホート当たり6匹のマウス(3匹の雄、3匹の雌)において行った。病理組織学評価は、CGRP陽性の免疫細胞化学分布(腰部DRGニューロン及び脊髄中)並びに病理学的変化の分析のための座骨神経及びDRGニューロンのプラスチック包埋を含んでいた。
【0285】
結果
罹患率及び死亡率
全てのマウスは、注射手順を経て生存し、最初の観察期間が、苦痛の兆候なく経過した。4匹のTr動物は、水道システムの故障により死亡した。被験物質に関連する死亡はなかった。
【0286】
体重
各群における全てのマウスの体重を、試験の全経過を通じて2週間置きに測定した。全ての処理群が、試験全体を通して体重増加を一定に保った。
【0287】
C57BL/6雄動物において、被験物質を注射された動物と対照との間で有意差はなかった。雌動物において、被験物質を注射された動物と比較して、対照動物で体重がわずかに高かった。Tr雄動物において、生理食塩水処理コホートが、NT-3処理コホートよりわずかに重かった。雌Trマウスについては、体重の有意差はなかった。
【0288】
血液学及び臨床化学
22及び46週間の時点で血液学パラメータにおいて、又は24及び48週間の時点で血清化学において被験物質に関連する変化はなかった。
【0289】
ELISAアッセイ
抗AAV1抗体、抗NT-3抗体及び循環NT-3のためのELISAアッセイを、24及び48週間の解剖中に採取された血清試料を用いて行った。
【0290】
循環抗AAV1抗体を測定するために、血清試料を、ベクター投与の24及び48週間後に採取し、抗体力価を、結合酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって決定した(以下の表7を参照)。scAAV1.tMCK.NTF3で処理された動物は、AAV1カプシドに対する増加した循環抗体を有していた。抗体力価は、両方の時点で雄及び雌の両方において同様であった。陽性力価(>1:50)は、生理食塩水対照で処理された動物において検出されなかった。
【0291】
【表7】
【0292】
抗NT-3循環抗体を測定するために、血清試料を、ベクター投与の24及び48週間後に採取し、NT-3に対する抗体力価を、結合酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって決定した。全てのマウスは、ベクター投与の24及び48週間後の時点で1:50未満の抗体力価(陰性とみなされる)を有していた。表8を参照されたい。
【0293】
【表8】
【0294】
循環NT-3レベルを、標準的な結合ELISAアッセイによって、ベクター投与の24及び48週間後の時点で採取されたTrマウスの血清試料において決定した。scAAV1.tMCK.NTF3ベクターの筋肉内注射は、ベクター投与の24及び48週間後の時点でTrマウスにおいてNT-3の着実な発現及び分泌をもたらした。表9は、生理食塩水及びベクター注射群からのTrにおいて注射の24及び48週間後の時点での血清NT-3レベルの平均及び標準偏差を示す。性別は、循環NT-3レベルに影響を与えなかった。
【0295】
【表9】
【0296】
過敏性試験
温度感度試験を、ベースライン(対照生理食塩水の被験物質のいずれかによる処理の前)で、及びC57BL/6及びTrJマウスにおいて注射の48週間後になるまで8週間置きに行った。C57BL/6及びTrJコホートにおいて対照及びベクターを注射されたマウスの間に差はなかった。各コホートにおいて雄及び雌マウスの間に退避反応潜時の有意差はなかった。
【0297】
聴覚驚愕試験において行われる聴覚感度測定の結果は、ASTが、全ての強度(69、73及び81dB)においてプレパルスによって明らかに阻害され、阻害のレベルが、野生型及びTrJマウスの両方においてプレパルスの強度に依存していたことを実証した。被験物質による処理は、C57BL/6野生型マウスにおいてPPI応答を変化させなかった。%-PPIは、対照物質で処理されたTrJ動物において検出可能により低く、被験物質(NT-3)で処理されたTrJ動物において正規化に向かって改善された。NT-3で処理されたTr動物におけるこの改善は、主に雄動物において見られた。
【0298】
行動試験
ロータロッド評価では、C57BL/6コホートにおける動物は、処理にかかわらずロータロッド機能試験の差を示さなかった。TrJ NT-3で処理されたコホートにおける動物は、処理の16週間後の時点で開始する、対照TrJ動物と比較してロータロッド性能の有意な改善を示し、これはエンドポイントまで持続した。
【0299】
ワイヤーハング評価では、C57BL/6コホートにおける動物は、処理にかかわらずワイヤーハンギング機能試験の差を示さなかった。TrJ NT-3で処理されたコホートにおける動物は、処理の28週間後の時点で開始する、対照TrJ動物と比較してワイヤーハンギング能力の有意な改善を示し、これはエンドポイントまで持続した。
【0300】
病理組織学
形態病理組織学を行った。分析される器官及び組織のリストが、表10において以下に示される。
【0301】
【表10】
【0302】
安楽死の後、腰髄、後根神経節(DRG)、及び全座骨神経(坐骨切痕から膝窩まで)を取り出し、組織病理学的評価のために処理した。社内での病理組織学のために含まれる個々の動物のリストが、表11に示される。
【0303】
【表11】
【0304】
CGRP分布の免疫細胞化学分析
CGRP分布の免疫細胞化学分析のために、注射の24及び48週間後の時点での腰髄部分からの断面の調査を行った。この分析は、処理物質にかかわらず、Tr及びC57BL/6動物においてNT-3とのCGRP反応性の増加を示さなかった。
【0305】
プラスチック包埋された切片の病理学的変化を分析した。注射の24及び48週間後の時点で調べられたプラスチック包埋された左座骨神経及び左腰DRGニューロンは、C57BL/6動物において病理学的変化を示さなかった。軸索萎縮を示唆する、ミエリンのコルゲーション(corrugation)/内側折り畳み(infolding)及び外側折り畳み(outfolding)などの加齢に伴う変化が、処理の48週間後の時点でC57BL/6動物の両方の処理コホートにおいて見られた。生理食塩水で処理されたTr動物において、有髄線維の顕著な脱落及び多くの髄鞘形成不全又は裸の軸索があった。被験物質で処理されたTr動物は、小有髄線維、ミエリン厚さの視認可能な増加及び裸の軸索の減少を示す。DRG内の軸索分枝の欠如から明らかなように、TrJマウスにおいてNT-3処理の有害作用はなかった。
【0306】
概して、C57BL/6及びTr動物の両方において試験全体を通して処理に関連する不利な所見がないことは、処理が、注射の48週間後まで忍容性良好であったことを示す。
【0307】
説明
単回筋肉内注射によって送達されるscAAV1.tMCK.NTF3の安全性を評価するために、合計88匹(44匹の雄/44匹の雌)の動物を含む、毒性試験を設計した。44匹の動物(22匹のC57BL/6、22匹のTrJ)を、0.9%の滅菌生理食塩水対照で処理し、44匹の動物(22匹のC57BL/6、22匹のTrJ)を、1×1013vg/kgの濃度のscAAV1.tMCK.NTF3被験物質で処理した。これらの動物のうち、各コホートからの動物の半分を、処理の24週間後の時点で安楽死させ、残りの動物を、処理の48週間後の時点で安楽死させた。
【0308】
この報告におけるデータは、提案される臨床用量より10倍多い用量による動物の処理が、被験物質に関連する、安全性への不利な影響の発現をもたらさなかったことを実証している。試験全体を通して、動物を、全体的な健康及び罹患率について毎日観察し、死亡率チェックを1日2回行った。動物の体重を2週間置きに測定した。過敏性(温度及び音響)についての機能試験を、8週間置きに行った。行動試験を2週間置きに行った。全ての動物は、注射手順を経て生存し、最初の観察期間が、苦痛の兆候なく経過した。水道システムの故障のため、被験物質の投与に関連しない、TrJ動物の4匹の死亡があった。その他の死亡はこの試験において記録されなかった。
【0309】
解剖の後、血液学及び臨床化学を測定したところ、被験物質に関連する差は示されなかった。抗AAV1血清ELISAを行ったところ、被験物質で処理された動物における循環抗体の予測される増加が示され、これは性別特異的でなかった。抗NT-3血清ELISAを、全ての動物で行ったところ、全ての時点について陰性の抗体力価を示した。また、循環NT-3レベルが、全ての処理群について測定され、被験物質で処理された動物のみにおいて増加した。循環NT-3レベルに対する性別特異的な影響はなかった。温度過敏性試験は、C57BL/6又はTr動物における処理又は性別特異的な変化を示さなかった。聴覚感度測定は、C57BL/6動物において被験物質に関連する変化を示さなかったが、被験物質で処理されたTr動物における正規化に対する改善とともに、対照物質で処理されたTr動物における障害を実証した。この改善は、主に雄Tr動物において見られた。C57BL/6動物における運動制御のロータロッド評価は、被験物質による処理に関連する差を示さなかった。被験物質で処理されたTrJ動物は、処理の16週間後の時点で開始する、対照Tr動物と比較して有意な改善を示した。同様に、ワイヤーハンギング評価は、被験物質に関連するC57BL/6コホートにおける差を示さなかった。被験物質で処理されたTr動物は、処理の28週間後の時点で開始する、ワイヤーハンギング時間の有意な改善を示し、これはエンドポイントまで持続した。
【0310】
処理の24及び48週間後の時点で全てのコホートから採取された組織及び器官を評価した。要約すると、単核細胞の最小の浸潤が、24週間の解剖からの3/4の群1の雄及び4/5の群1の雌において、被験物質を注射された左腓腹筋において観察された。しかしながら、同様の浸潤が、残りの群1の雌(動物3942)において注射されていない腓腹筋においても観察された。この変化は、24週間の解剖からのいずれかの群2(対照)動物において生理食塩水を注射された左腓腹筋又は非注射の右腓腹筋のいずれにおいても観察されなかった。48週間の解剖動物において、単核細胞の最小の浸潤が、2/5の群1の雄及び1/6の群1の雌の被験物質を注射された左腓腹筋において再度観察された。全ての他の顕微鏡所見は、対照及び処理された動物にわたってランダムに分配されるか、種についてのバックグラウンド所見であるか、又は被験物質投与に付随するものとみなされた。
【0311】
社内での組織学を、動物(群当たり3匹の雄、3匹の雌)のサブセットの腰髄切片、後根神経節及び座骨神経において行った。腰髄部分からの断面の調査は、処理にかかわらず、動物においてNT-3によるCGRP活性の増加を示さなかった。プラスチック包埋された座骨神経及び腰部DRGニューロンの病理学評価は、C57BL/6動物において加齢に関連する差を超えた変化を示さなかった。Tr動物において、被験物質による処理は、小有髄線維の増加、ミエリン厚さの増加及び裸の軸索の減少から明らかなように、病理の改善をもたらした。DRGにおける軸索分枝の欠如は、被験物質の安全性をさらに裏付ける。
【0312】
概して、この試験において示される収集されたデータは、1×1013vg/kgの用量での単回筋肉内注射によって腓腹筋に直接注射された被験物質scAAV1.tMCK.NTF3が、上記に示される多重測定から明らかなように、雄及び雌C57BL/6野生型及びTrマウスの両方において、注射の48週間後まで忍容性良好であったことを示す。
【0313】
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【0314】
本発明が特定の実施形態について説明されてきたが、変形及び変更が当業者に想到されることが理解される。したがって、特許請求の範囲に見られるような限定のみが、本発明に対してなされるべきである。
図1-1】
図1-2】
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図2-2】
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【配列表】
2023166580000001.app
【外国語明細書】