(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166595
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】注入器
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
E04G23/02 B
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023153290
(22)【出願日】2023-09-20
(62)【分割の表示】P 2020203513の分割
【原出願日】2020-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019222312
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】595124158
【氏名又は名称】原化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】原 琢磨
(57)【要約】
【課題】圧力が高くなりすぎることを抑制できる注入器を提供する。
【解決手段】流動性補修材の供給器が接続される接続口と、補修対象と対向して取り付けられ、当該補修対象へ流動性補修材を注入する注入口と、を具備する注入機構と、前記注入機構において前記接続口と前記注入口の間から分岐しており、前記接続口を介して供給される流動性補修材が流入して内部の気体が圧縮される蓄圧機構とを備え、当該蓄圧機構が、基端が前記注入機構に設けられ、先端が開口した中空容器と、前記中空容器内においてその基端及び先端の間をがたなく摺動可能に設けられた仕切り部材と、前記中空容器の先端を気密に封止する蓋体とを備え、前記蓋体と前記仕切り部材との間に形成される加圧空間内の圧力が所定値以上となった場合に、前記仕切り部材が前記中空容器から外れるように構成された注入器。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性補修材の供給器が接続される接続口と、補修対象と対向して取り付けられ、当該補修対象へ流動性補修材を注入する注入口と、を具備する注入機構と、
前記注入機構において前記接続口と前記注入口の間から分岐しており、前記接続口を介して供給される流動性補修材が流入して内部の気体が圧縮される蓄圧機構とを備え、
当該蓄圧機構が、
基端が前記注入機構に設けられ、先端が開口した中空容器と、
前記中空容器内においてその基端及び先端の間をがたなく摺動可能に設けられた仕切り部材と、
前記中空容器の先端を気密に封止する蓋体とを備え、
前記蓋体と前記仕切り部材との間に形成される加圧空間内の圧力が所定値以上となった場合に、前記仕切り部材が前記中空容器から外れるように構成された注入器。
【請求項2】
前記仕切り部材が、加圧により圧縮され変形することで、前記中空容器に対して倒れるように構成された請求項1に記載の注入器。
【請求項3】
前記仕切り部材における前記蓋体と対向する面には、前記中空容器の中心軸上において軸方向に沿って前記基端側に凹ませて形成した逃げ凹部が形成されており、当該逃げ凹部により前記加圧空間の一部が形成されている請求項1又は2に記載の注入器。
【請求項4】
当該逃げ凹部は、前記基端側に向かって先細るテーパ状をなしている請求項3に記載の注入器。
【請求項5】
前記中空容器と前記蓋体との間に螺合構造が形成されており、
前記蓋体が、前記中空容器に対して軸方向に進退可能に取り付けられた請求項1~4のいずれか一項に記載の注入器。
【請求項6】
前記蓄圧機構が、前記仕切り部材が前記中空容器において制限位置から先端側への移動を制限する移動制限構造をさらに具備し、
前記中空容器内に前記流動性補修材を流入させ、前記仕切り部材が前記制限位置に到達した状態において、前記加圧空間内の圧力が所定値以下となるように構成されている請求項1~5のいずれか一項に記載の注入器。
【請求項7】
前記中空容器が、内部が透けて見えるように構成されたものである請求項1~6のいずれか一項に記載の注入器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコンクリート構造物や壁等に発生したクラック等の補修対象に流動性補修材を注入するための注入器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物等において内部まで進展したクラックを補修する場合、流動性補修材である液状の接着剤を所定の圧力をかけ続けながらじっくりと注入する必要がある。
【0003】
このような補修作業のために、接着剤の供給器であるグリスガン等が基端側に接続され、先端側の注入口がクラック等の補修対象に対して取り付けられる概略筒状の注入機構と、前記注入機構から分岐し、流動性補修材の流入により内部の空気が圧縮されて加圧される蓄圧容器と、を備えた注入器が用いられる。
【0004】
ところで、本願発明者が現場における注入器の使用態様について実際に調査したところ、以下のような問題があることを見出した。
【0005】
具体的にはグリスガンから注入機構に供給される高圧の接着剤は、最初は注入機構から分岐している蓄圧機構に流入するのではなく、その勢いで注入機構の注入口からクラックへと高圧のまま流入してしまう。このため、蓄圧機構による本来の低圧注入を十分に実現できていない。
【0006】
また、例えばクラックが壁の反対側で貫通していたり、壁であったとしても板のように構造的に弱いものであったりすると、クラック内に際限無く接着剤が流入してしまうことがある。このように蓄圧機構を経由せずにクラック内に流入する接着剤の量が多くなってしまうと、各クラックの補修にどれくらいの量の接着剤が使用されたかを正確に把握することができなくなってしまう。そうすると、補修工事の信頼性が損なわれてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、グリスガン等の供給器から供給される流動性補修材が蓄圧機構を経由せずに直接注入口から供給されないようにでき、理想とされる低圧注入を実現できるとともに、流動性補修材の使用量が把握できる注入器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明に係る注入器は、流動性補修材の供給器が接続される接続口と、補修対象と対向して取り付けられ、当該補修対象へ流動性補修材を注入する注入口と、を具備する注入機構と、前記注入機構において前記接続口と前記注入口の間から分岐しており、前記接続口を介して供給される流動性補修材が流入して内部の気体が圧縮される蓄圧機構と、前記接続口に前記供給器が接続されている状態では、前記供給器と前記蓄圧機構との間のみを連通させ、前記接続口から前記供給器が取り外されている状態では、前記蓄圧機構と前記注入口との間を連通させる流路切替構造を備えたことを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、前記流路切替構造によって前記接続口に前記供給器が接続されている状態では当該供給器から供給される流動性補修材は前記蓄圧機構に必ず貯められる。
【0011】
したがって、例えばグリスガン等の供給器から高圧で供給された流動性補修材が前記注入口から補修対象に対して直接流入してしまうことがない。また、前記蓄圧機構を介して流動性補修材は前記注入口から補修対象へ注入されるので、当該蓄圧機構によって補修作業において理想的な注入圧力を実現できる。さらに、前記蓄圧機構における流動性補修材の増減量を確認すれば補修対象に対して注入された流動性補修材の量を正確に把握できる。
【0012】
前記注入器に対して前記供給器を取り付ける、又は、取り外すことで前記注入器内における流動性補修材の流れる方向を限定するには、前記流路切替構造が、前記供給器の先端部が嵌合される連結孔と、前記蓄圧機構と連通する連通孔とを具備する第1流路と、前記連結孔から前記供給器が取り外されている状態において、前記蓄圧機構から押し出されて前記連結孔を通過する流動性補修材が前記注入機構の前記注入口側へと流れる第2流路と、を備えたものであればよい。
【0013】
前記流路切替構造を複数のパーツによって構成して、例えば樹脂成形により上述したような複雑な流路構造を簡素な構成から実現できるようにするには、前記注入機構が、側面に前記蓄圧機構と連通する前記連通孔が形成された筒体と、前記筒体内に挿入され、前記第1流路と前記第2流路を形成する流路形成体と、前記筒体の基端側に設けられ、前記供給器が接続される前記接続口を形成する逆止弁と、を備えたものであればよい。
【0014】
前記第1流路と前記第2流路の具体的な構成例としては、前記流路形成体が、先端側が閉塞した概略筒状をなすものであり、前記流路形成体の基端側に開口する前記連結孔と、前記流路形成体の側面に開口し、前記筒体の前記連通孔に接続される側面開口と、を具備する内部空洞と、当該流路形成体の外側面に軸方向に延びるように形成されたスロットと、を備え、前記内部空洞が、前記第1流路を形成し、前記スロットが、前記筒体の内側面との間に前記第2流路を形成するものが挙げられる。
【0015】
前記筒体に対する前記流路形成体の取り付け向きが一方向にのみ限定されるようにして、組み立て性を良くするには、前記流路形成体と前記筒体との間に形成され、前記流路形成体の前記側面開口が前記筒体の前記連結孔に一致するように前記筒体内における前記流路形成体の周方向の向きを規制する係合部をさらに備えたものであればよい。
【0016】
前記流路形成体が、前記筒体内において所定位置に必ず配置されるようにして、簡単な組立作業のみで前記第1流路及び前記第2流路を形成できるようにするには前記係合部が、前記筒体内における前記流路形成体の軸方向の位置を前記外側開口と前記連通孔とが一致するように位置決めするものであればよい。
【0017】
前記蓄圧機構から前記第2流路を通って前記注入口に供給される流動性補修材の圧力を低圧にして、推奨されている補修工事の要件を満たせるようにするには、前記蓄圧機構が、基端が前記注入機構に設けられ、先端が開口した中空容器と、前記中空容器内においてその基端及び先端の間をがたなく摺動可能に設けられた仕切り部材と、前記中空容器の先端を気密に封止する蓋体と、前記仕切り部材が前記中空容器において制限位置から先端側への移動を制限する移動制限構造と、を具備し、前記仕切り部材が前記制限位置に配置された状態において、前記蓋体と前記仕切り部材との間に形成される加圧空間が所定容量以上を有しており、前記仕切り部材が前記中空容器の基端側へと押圧される圧力が所定値以下となるように構成されているものであればよい。
【0018】
例えば前記中空容器が前記注入機構から突出する長さを短くしつつ、前記加圧空間の容積を所定容量以上にしやすくするには、前記仕切り部材又は前記蓋体の少なくとも一方に、前記加圧空間の少なくとも一部を形成する逃げ凹部が形成されていればよい。
【0019】
前記中空容器内に前記仕切り部材を挿入しやすくしつつ、前記移動制限構造を前記中空容器内に簡単に形成できるようにするには、前記移動制限構造が、前記蓋体において前記中空容器内に挿入される先端部であり、当該蓋体の先端部に前記仕切り部材が当接して前記制限位置に配置されるものであればよい。
【0020】
前記蓄圧機構から補修対象へ注入される流動性補修材の圧力を補修工事等に求められる理想的な低圧状態にするには、前記仕切り部材が前記中空容器の基端側へと押圧される圧力が0.4MPa以下となるように構成されていればよい。
【0021】
前記蓄圧容器を介して補修対象に注入される流動性補修材の量を正確に把握できるようにするには、前記中空容器が、当該注入容器内に流入した流動性補修材の量を示す目盛りが付与されたものであればよい。
【0022】
前記制限位置を変更可能にして、前記蓄圧容器を介して補修対象に注入される流動性補修材の量を調節できるようにするには、前記中空容器と前記蓋体との間に螺合構造が形成されており、前記蓋体が、前記中空容器に対して進退可能に取り付けられたものであればよい。
【0023】
前記蓄圧機構の構造を簡素化し、製造コストを低減できるようにするには、前記蓋体が、前記中空容器の先端側に嵌合させて固定されたものであればよい。
【0024】
前記注入器において前記流路切替構造を形成するための組み立て等の工数を減らし、製造性をさらによくするには、前記流路切替構造が、樹脂成形により前記蓄圧機構の少なくとも一部と一体に形成されたものであればよい。
【0025】
前記注入機構が、側面に前記蓄圧機構と連通する前記連通孔が形成された筒体を具備し、前記筒体の先端部に取り付けられる座金と、前記座金と前記筒体の先端部との間に形成されたねじ構造と、前記座金と前記筒体の先端部との間に形成され、前記筒体に対して座金が螺合された状態において前記座金が前記筒体から離脱する方向への移動を規制する緩み止め構造と、をさらに備えたものであれば、予め注入器を組み立てた状態で出荷しても、搬送中に衝撃等が加わったとしても前記座金と前記筒体との間の螺合状態を変化しにくくでき、補修材の注入時に圧力がかかって前記座金が前記筒体から外れてしまうのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0026】
このように本発明に係る注入器によれば、前記流路切替構造によってグリスガン等の供給器から高圧で供給された流動性補修材が前記注入口から補修対象に対して直接流入するのをなくすことができる。また、前記蓄圧機構を介して流動性補修材は前記注入口から補修対象へ注入されるので、当該蓄圧機構によって補修作業において理想的な注入圧力を実現できる。さらに、前記蓄圧機構における流動性補修材の増減量を確認して、補修対象ごとの流動性補修材の使用量を正確に把握できるので、補修作業の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る注入器を示す模式的斜視図。
【
図2】第1実施形態における注入器の模式的分解図。
【
図3】第1実施形態におけるグリスガンのノズル部分が接続口に挿入された状態を示す模式図。
【
図4】第1実施形態におけるグリスガンのノズル部分が接続口から外された状態を示す模式図。
【
図5】第1実施形態における流路形成体の周辺の流路構造を示す模式図。
【
図6】第1実施形態における流路形成体の外観を示す模式的斜視図。
【
図7】第1実施形態における注入器による接着剤の注入過程を示す模式図。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る注入器を示す模式的分解図。
【
図9】第2実施形態における注入器による接着剤の注入過程を示す模式図。
【
図10】仕切り部材の硬度が低い場合の仕切り部材の動作例を示す模式図。
【
図11】本発明の第3実施形態に係る注入器の注入機構を蓄圧機構が含まれる面において切断した模式的断面図。
【
図12】第3実施形態に係る注入器の注入機構を蓄圧機構が含まれない面で切断した模式的断面図。
【
図13】第4実施形態に係る注入器を示す模式的斜視図。
【
図14】第4実施形態に係る注入器の模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の第1実施形態に注入器100について各図を参照しながら説明する。
【0029】
第1実施形態の注入器100は、土木工事等においてコンクリート構造物C等に生じた補修対象であるクラックAOに流動性補修材として接着剤Lを注入する補修作業に用いられるものである。より具体的には
図1の斜視図に示すように、注入器100はコンクリート構造物CにおいてクラックAOが外表面に開口している部分に固定されて、接着剤Lの供給源であるグリスガンGGにセットされた接着剤のカートリッジの仲介をする。また、この注入器100を構成する部品は金属を使用せずに樹脂により形成されており、使用後は分別等を行うことなくそのまま全体を廃棄できるようにしてある。
【0030】
この注入器100は、補修対象のあるコンクリート構造物C等に対して垂直に取り付けられる部分であり、グリスガンGGが取り付け又は取り外しされる注入機構INと、注入機構INに対して直交するように分岐させて設けてあり、グリスガンGGから供給される接着剤Lのほぼ全量が内部へ流入して内部の気体Gが圧縮されるように構成してある蓄圧機構TNとからなるものである。
【0031】
図1の斜視図に示すように注入機構INは、この注入器100において細円筒状の部分であり、基端に接着剤Lの供給器であるグリスガンGGのノズルNZが接続される接続口CPが形成してあり、先端にクラックAOと対向して取り付けられ、当該クラックAOへ接着剤Lを注入する注入口IPが形成してある。
【0032】
より具体的には、
図2の各分解図に示すように注入機構INは、注入口IPが形成されており、クラックAOのあるコンクリート構造物Cに取り付けられる座金1と、先端が座金1に取り付けられ、側面に中空容器4が接続された筒体2と、筒体2の基端側に挿入されており、接続口CPを形成する逆止弁3とから構成してある。
【0033】
座金1は、中央部に注入口IPが開口する薄円板部11と、その注入口IPを囲い薄円板部11の上面に対して垂直に突出した円筒部12とからなる。薄板円板部11の下面外周部は、クラックAOの開口している周囲の壁面に固定材Fにより粘着されて固定される。この固定材Fは圧縮又は引っ張り方向には強い粘性を示すが、せん断方向には弱い粘性を示すためクラックAO内に接着剤Lを注入した後で注入器100を取り外す際には、壁の表面に沿った方向に移動させることで容易に取り外すことができる。円筒部12は中空であって、内部に筒体2と螺合するめねじが切ってある。
【0034】
筒体2は、
図2(b)、
図3、
図4に示すように円筒部12よりも細い中空円筒状のものであり、基端側には逆止弁3において平円板リング状に形成された鍔部31が配置される台座部23が形成してある。そして、この筒体2の内部では逆止弁3が収容される。さらに台座部23の上側からは逆止弁3の上側に形成される鍔部をはさみ込むようにカバーCVが取り付けられる。このカバーCV及び筒体2は同種の硬質樹脂で形成されており、逆止弁3を構成する軟質樹脂とは異なる材料で形成されている。また、カバーCVは台座部23に対して超音波溶着により固定されている。カバーCVと台座部23は同じ樹脂材料で形成されているので、異種間の樹脂材料で超音波溶着させた場合と比較して強固に固定することができる。したがって、接着剤Lの注入時において注入機構INの内圧が上昇してもカバーCVが逆止弁3を強く押さえているため、逆止弁3が外側へ膨張してしまうのを防ぐことができる。
【0035】
また、筒体2の先端の外側周面に円筒部12と螺合するおねじ21が切ってある。さらに、筒体2は
図2(b)、
図3、
図4、
図5の断面図に示すようにその側面中央部であり、逆止弁3が収容された状態でその先端近傍に蓄圧機構TN内と連通する連通孔22が形成してある。
図2(b)に示すように連通孔22の上端部分は筒体2に挿入されている逆止弁3の先端部分よりも下側に位置するよう形成されている。言い換えると、筒体2に逆止弁3が挿入された状態において逆止弁3の先端側の外周部分は筒体2の内壁面と対向している。
【0036】
この筒体2の内部は基端側から先端側に進むにつれて先細るように構成してあり、筒体2内で接着剤が硬化した場合には先端側から取り出せないように構成してある。また、台座部23に対してはカバーCVが超音波溶着されているので基端側からも硬化した接着剤は取り出すことはできない。仮に逆止弁3を無理に筒体2から取り外した場合には当該逆止弁3は固定されずその機能が発揮されないため筒体2からクラックAO内に対して接着剤に圧力をかけて注入することができなくなる。したがって、筒体2内において余った接着剤が硬化するほど放置されていた場合には注入器100を再利用することはできず、古い接着剤と新しい接着剤が混ざった状態でクラックAO内に注入されて低品質の補修工事が実施されることを未然に防ぐことができる。
【0037】
さらに本実施形態の注入器100は、
図3乃至
図6に示すように筒体2の中央部に挿入される概略筒状の流路形成体9によって、グリスガンGGの取り付け又は取り外しにより注入器100内の接着剤Lの流れることができる方向を切り替える流路切替構造SWが形成されている。
【0038】
この流路切替構造SWは、
図3及び
図5(a)に示すように接続口CPにグリスガンGGが接続されている状態では、グリスガンGGと蓄圧機構TNとの間のみを連通させて、接着剤LがグリスガンGGから蓄圧機構TNの中空容器4内へのみ流入させる。すなわち、この状態ではグリスガンGGから注入口IPに到達する流路は閉塞された状態になる。
【0039】
流路切替構造SWを形成する各部について詳述する。
【0040】
流路形成体9は、
図3乃至
図5に示すように筒体2において連通孔22が側面に開口している中央部に挿入され、逆止弁3の先端部の直下に配置されるものである。各図に示すように流路形成体9はその先端側が閉塞し、基端側が開口した概略中空筒状をなすものである。すなわち、各断面図に示すように流路形成体9は、軸方向に延びる中空部分に対して直交するように延びる横穴が形成された内部空洞91を具備し、内部空洞91の横穴が流路形成体9に対して側面開口93を形成する。この側面開口93は筒体2の連通孔22と連通する。
【0041】
図3及び
図5(a)に示すように流路形成体9の基端側に開口する連結孔92はグリスガンGGのノズルNZの先端部と嵌合する。ノズルNZはグリスガンGGに対して着脱可能に構成されており、この流路形成体9の連結孔92と対になるようにその先端部の外径寸法が設定されている。言い換えるとノズルNZは流路形成体9に対して対となるように専用に設計されたものであり、ノズルNZを装着することでいずれの種類のグリスガンであっても本実施形態の注入器100を使用できるようになる。
【0042】
流路形成体9の連結孔92から筒体2の連通孔22に至るまでの流路が第1流路L1である。グリスガンGGが接続口CPに接続されている状態ではノズルの先端部は流路形成体9の連結孔92とほぼ隙間なく嵌合しているので、グリスガンGGから接着剤Lが射出された場合、流路形成体9の内部底面に接着剤Lは当たり、その後横穴から連通孔22を介して蓄圧機構TN内に接着剤Lが流入する。グリスガンGGが接続孔CPに接続されている状態では、連結孔92がノズルNZにより蓋がされている状態となるので、注入機構IN内ではグリスガンGGから注入口IPに至る流路が閉塞された状態になる。したがって、第1流路L1内を通って蓄圧機構TNにのみ接着剤Lを全量流入させることができる。
【0043】
図4及び
図5(b)に示すようにグリスガンGGが接続口CPから取り外されて、流路形成体9の連結孔92からノズルNZの先端部が外れた状態となると、流路形成体9の外側面に形成されたスロット94により、蓄圧機構TNから押し出されて流路形成体9の連結孔92を通過する接着剤Lが注入機構INの注入口IP側へと流れる第2流路L2が形成される。
【0044】
図6(a)及び
図6(b)に示すように流路形成体9の外側面には軸方向に延びる2つのスロット94が設けられており、筒体2の内側周面との間に隙間が形成されている。蓄圧機構TNから押し出された接着剤Lは流路形成体9の連結孔92から外部へ流出した後、閉塞した状態の逆止弁3に当たり、その後流路形成体9の外側面にあるスロット94を通って、筒体2の先端側へと流れていく。なお、流路形成体9の外側面においてスロット94が形成されていない部分の少なくとも一部は筒体2の内周面とほぼ嵌合するように同じ直径の円筒の一部を形成している。
【0045】
このようにグリスガンGGが注入器100に取り付けられている状態では接着剤Lは第1流路L1にのみ流れる事が可能であり、接着剤Lが蓄圧機構TNを経由せずに注入口IPから補修対象に注入されることはない。また、グリスガンGGを接続口CPから取り外した状態では流路形成体9の外側面にあるスロット94により形成される第2流路L2を通って接着剤Lを補修対象に注入可能となる。
【0046】
さらに流路形成体9の先端側の外側面と、筒体2において連通孔22の下側の内側面との間には、筒体内における流路形成体9の周方向の向きを規制する係合部LKが形成されている。具体的には、
図6(c)に示すように流路形成体9に直角の角を有する凹部95が形成されており、筒体の内側周面には凹部95と対応する直角の角部24が形成されている。より具体的には流路形成体9は先端側の外側面の一部が直角状に切り欠くことで凹部95が形成されている。凹部95は
図6に示すように第1水平面951と、第1水平面951に対して軸方向に延びるように設けられた第1立設面952とからなる。一方、筒体2において連通孔22の下側は
図3(b)の横断面図に示すように内周面の一部が曲面ではなく、直角状に内側へ突出させることで角部24が形成されている。この角部24は第2水平面241と、第2水平面241に対して筒体2の軸方向に延びる面である第2立設面242とからなる。流路形成体9は、第1水平面951と第2水平面241とが一致した状態までしか筒体2内に挿入できないように構成されている。すなわち、係合部LKはこれらの対向する一対の平面により筒体2内における流路形成体9の挿入位置を連通孔22と内部空洞91が連通する位置に位置決めする。また、第1立設面952と第2立設面242との間は所定距離離間させてある。この離間距離は、筒体2内において流路形成体9が周方向に回転しても第1立接面952と第2立設面242とが干渉し、側面開口93と連通孔22との連通している状態が保たれる範囲に設定されている。このように流路形成体9は筒体2内において凹部95と角部の向きが一致しているほぼ状態でしか最後まで押し込めないように構成されている。
【0047】
次に蓄圧機構TNについて説明する。
【0048】
蓄圧機構TNは、
図1及び
図2に示すように注入器100において太円筒部分に相当するものであり、基端が注入機構INに取り付けられ、先端が開口した円筒状の中空容器4と、中空容器4内においてその基端及び先端の間をがたなく摺動可能に設けられた仕切り部材5と、中空容器4の先端部を気密に封止する蓋体6とを具備するものである。すなわち、この蓄圧機構TNは中空容器4と蓋体6の2つの分割されたパーツで構成してある。また、中空容器4は、筒体2と組み合わされた状態で、1つのパーツとして一体成型してある。さらに、中空容器4は、筒体2に対して直交するように設けてあり、クラックAOから見て筒体2の基端と中空容器4の反クラック側の側面が略同じ高さにあるようにしてある。
【0049】
また、本実施形態では中空容器4の先端側外側周面と蓋体6との間には雄ねじ71と雌ねじ72からなる螺合構造7が形成してあり、蓋体6は中空容器に対して軸方向に進退可能に構成してある。このため、蓋体6を回転させることで蓋体6の中空容器4内における突出量を変更し、中空容器4内における仕切り部材5と蓋体6との間の気体の圧力を加圧又は減圧できる。
【0050】
中空容器4は概略中空円筒形状をなす透明樹脂によりその内部が透けて見えるように構成したシリンダである。
図1及び
図2に示すようにこの中空容器4の外側周面には基端側から先端側へと目盛が付してあり、注入機構INから当該中空容器4内に流入した接着剤Lの量が目視で分かるようにしてある。また、この中空容器4の先端側には蓋体6が取り付けられる雄ねじ71が形成してある。
【0051】
仕切り部材5は、中空容器4の内側周面と気密に篏合するものであり、当該中空容器4の内径と略同じ直径を有した概略扁平中実円筒状のピストンである。この仕切り部材5は注入開始時に中空容器4の基端に略密着した状態となるように取り付けてあり、注入機構INに接続されたグリスガンGGにより接着剤Lの注入が開始されて、中空容器4内にも接着剤Lが入ってくると中空容器4の先端側へと移動していくようにしてある。この際、中空容器4内は仕切り部材5により仕切られているので、中空容器4内の先端側には気体Gのみが存在し、中空容器4内の基端側にのみ接着剤Lがある状態になる。つまり、中空容器4内に封入されていた気体Gは仕切り部材5があるために注入機構IN側にある接着剤L内へは漏れ出ない。
【0052】
また、この仕切り部材5の厚みについては、連通孔22から接着剤Lが中空容器4内に流入して押された際に当該仕切り部材5が倒れず、その平板部分が中空容器4の半径方向断面と平行となった姿勢のままで摺動するように設定してある。
【0053】
蓋体6は、中空容器4の内部において先端から基端側へ一部を突出させた状態で取り付けられるとともに、その突出量が任意に変更できるように構成してある。また、この蓋体6により中空容器4内の先端側、すなわち中空容器4内において仕切り部材5と蓋体6との間は気密に封止されるようにしてある。
【0054】
より具体的には、
図2(b)及び
図7の断面図に示すように蓋体6は、中空容器内へ挿入される中栓体61と、中栓体61と外側端に接続され、中空容器の外側周面を覆うように設けられる外筒62と、を具備する二重管構造を有するものである。
【0055】
中栓体61は、概略中空円筒状でその外径が中空容器4の内径とほぼ同じもしくは若干大きく形成してある。中栓体61の外側周面には半径方向外側に突出する複数の凸条63が形成してある。例えば凸条63は中空容器4に形成されている雄ねじ71のねじ山間の距離とほぼ同じ間隔で設けてある。ここで、樹脂成型により中空容器4の雄ねじ71を形成すると収縮により引けが生じ中空容器の内側周面において雄ねじ71の裏側に当たる部分が半径方向外側へ若干凹む部分が存在する。凸条63はこのような凹みがあっても中栓体61が中空容器4の内側周面に対して当接するので、気密性を保つことができる。また、第1実施形態の中栓体61は概略円筒状をなすが、その内側端部は開口しており、ほぼ中央部に内外を気密に仕切るように内蓋611が設けられている。
【0056】
外筒62は蓋体6が中空容器4に対して取り付けられた状態において中空容器4の先端側外側周面を覆うものであり、その内側周面には雌ねじ72が形成してある。外筒62は中栓体61とほぼ同じ軸方向長さを有しており、同心軸状に配置してある。また外筒62の外側周面には軸方向に延びるリブが複数等間隔で形成してあり、ユーザが手で掴んで滑らないように把持部が形成してある。
【0057】
螺合構造7は、中空容器4の外側周面に形成された雄ねじ71と蓋体6の外筒62の内側周面に形成された雌ねじ72とから構成してあり、ねじ山の幅がねじ溝の幅よりも小さく形成してある。言い換えると、本実施形態では雄ねじ71と雌ねじ72のねじ山は一方の側面のみが当接した状態で係合するようにしてある。また、このようにねじ溝の幅を大きく形成してあるので、接着剤Lが蓄圧機構TNに流入し、内部の空気Gが加圧された状態でも蓋体6が中空容器4の先端側へと移動しにくくするために、雄ねじ71とは別にリング状の歯止め部材73が形成されている。
【0058】
さらに、第1実施形態では接着剤Lが中空容器4内に流入した際に蓋体6の先端側は、仕切り部材5の移動できる範囲を限定する移動制限構造8としての機能を発揮するように構成されている。
【0059】
具体的には
図7(a)に示すように第1実施形態では、仕切り部材5の外周部に対して蓋体6の中栓体61の先端部が当接して、仕切り部材5が中空容器4の先端側へそれ以上移動させない。すなわち、中空容器4内における中栓体61の先端部の位置が、仕切り部材5が中空容器の先端側への移動を制限される制限位置となる。
【0060】
仕切り部材5が中栓体61の先端部に当接し、制限位置に配置された状態において仕切り部材5と蓋体6との間には所定容量以上の容積からなり、中空容器4の先端側内にあるガスGが加圧される加圧空間PSが形成される。第1実施形態では、仕切り部材5及び中栓体61の双方に形成された逃げ凹部81により加圧空間PSが形成される。この加圧空間PSの容積は、仕切り部材5が中空容器4の基端から先端側にある制限位置に到達した場合におけるガスGの圧力が0.4MPa以下となるように所定容量が設定されている。このため、ガスGが最大圧縮されても仕切り部材5から接着剤Lに対する圧力は0.4MPa以下となり、低圧での注入が実現される。
【0061】
次に第1実施形態の注入器100全体の効果について説明する。
【0062】
第1実施形態の注入器100は、流路切替構造SWによってグリスガンGGの取り付け、取り外しにより注入口IP側へ通じる第2流路L2を閉塞、開放を切り替えることができる。したがって、グリスガンGGが取り付けられており、注入器100内に接着剤Lを供給している間は第2流路L2を閉塞して蓄圧機構TN内にのみ接着剤Lが第1流路L1を介して供給されるようにして、グリスガンGGから注入口IPには接着剤Lが直接流入することがない。また、グリスガンGGを注入器100から取り外すだけで、第2流路L2を開放し蓄圧機構TN内から注入口IPへと接着剤Lを流し、クラックAO内へ接着剤Lを注入できる。この際、蓄圧機構TN内から接着剤Lは第1流路L1を逆流するが、グリスガンGGが取り外されている状態では逆止弁3が閉塞しているので、接続口CPからは接着剤Lは外部に漏れ出ることはない。
【0063】
また、蓄圧機構TN内を経由してすべての接着剤Lが注入されるので、補修作業に使用された接着剤Lの全量は蓄圧機構TNの目盛り等を利用して正確に把握できる。具体的には、蓋体6の外筒62と中栓体61の先端は揃えてあるので、外筒62の先端位置で仕切り部材5が最終的には移動が制限されて止まる事がわかる。したがって、外筒62の先端位置を見て中空容器4の目盛りに位置合わせすることで、所望の量の接着剤Lを蓄圧機構TN内に貯めることができる。このため、補修に使用される接着剤Lの量を管理しやすくなる。したがって、各クラックAOに対して注入されている接着剤Lの量を個別に管理でき、より信頼性の高い補修作業を実現できる。なお、中空容器4に内容量を示す数値の目盛り以外に最大容量位置を示すMAXや最小容量位置を示すMIN等の言語表記を付与してもよい。そして、MAX又はMINの位置に外筒62の先端位置をあわせて中空容器4内に最大容量あるいは最小容量の接着剤Lが流入するようにしてもよい。
【0064】
さらに、動制限構造8によって仕切り部材5は中空容器4内において制限位置よりも先端側には移動できないので、接着剤Lが予め決められた量以上は中空容器4内に流入することがない。また、予め決められた量しか中空容器4内に流入しないので、中空容器4内に最大量の接着剤Lが流入した状態では仕切り部材5と蓋体6との間に形成される加圧空間PSの大きさも常に一定にできる。
【0065】
加えて、加圧空間PSの容積は、仕切り部材5が移動制限構造8により制限位置に配置された状態において、仕切り部材5と蓋体6との間にあるガスGが所定容量以上となるように構成されている。したがって加圧空間PS内にあるガスGを例えば0.4MPa以下の圧力となるようにでき、常に理想的な低圧注入状態を実現できる。
【0066】
蓋体6が螺合構造7により中空容器4の軸方向に対して進退可能に設けられているので、
図7(b)に示すように接着剤Lの注入がある程度進み、蓄圧機構TNによる加圧力が落ちた状態でも
図7(c)に示すように蓋体6を動かし、中空容器4内の気体の圧縮状態を適宜変更してクラックAO内に接着剤Lを注入するのに適した圧力を保つことが工具等を用いずに簡単にできる。
【0067】
また、螺合構造7があるので中空容器4内の気体が圧縮されて抵抗力が大きくなってもユーザはそれほど大きな力を加えなくても蓋体6を中空容器4内へと押し込んでいくことができ、加圧に必要となるユーザの力を従来よりも小さくできる。なお、本実施形態の逆止弁3はその先端部と筒体2の内周面との隙間との間に入り込む接着剤Lの圧力によりスリットが強く閉じられるので、蓋体6により加圧して接着剤Lが高圧状態となっても逆止弁3から逆流して外部に漏れ出すことを防げる。
【0068】
蓋体6は二重管構造を有しており、ユーザにより把持される外筒62と中栓体61の軸方向の位置をほぼ同じにすることができるので、蓄圧機構TNの軸方向長さを小さく形成することができ、全体の外形寸法を小さく構成することができる。このため、クラックが近接して複数ある場合でも注入器100を干渉させずに設けやすい。また、加圧や解圧するために蓄圧機構TNの先端側に別の工具や器具を取り付ける必要がないので、注入器100が近接して設けられている場合でも加圧や解圧の作業を行いやすい。
【0069】
次に本発明の第2実施形態に係る注入器100について
図8及び
図9を参照しながら説明する。なお、第1実施形態において説明した部材と対応する部材には同じ符号を付すこととする。
【0070】
第2実施形態の注入器100は、蓋体6が中空容器4に対して固定されるものであり、第1実施形態と比較して構造を簡略化したものである。言い換えると蓋体6は中空容器4に対して進退可能ではないため、蓄圧機構TN内の気体の圧縮量については常に固定された値に設定することができる。
【0071】
具体的には第2実施形態では、蓋体6は中空容器4内に挿入されている部分が中空円筒状であり、その外側の端面のみが閉止された構造を有している。すなわち、蓋体6において外側端面以外の部分において逃げ凹部81が形成されている。また、
図9(a)に示すように中空容器4内に接着剤Lが最大量供給された状態において、仕切り部材5は、移動制限構造8である蓋体6の内側端面と当接し、それ以上中空容器4の先端側に移動できないように構成されている。この状態において仕切り部材5と蓋体6との間に形成される加圧空間PSの容積が所定容量以上に設定されており、接着剤Lの低圧注入が実現される。
【0072】
このようなものであれば、例えば補修対象に対して予め決められた量の接着剤Lを予め定められた圧力で注入できるとともに、製造コストを第1実施形態と比較して低減することができる。
【0073】
次に第1実施形態又は第2実施形態の注入器100における仕切り部材5の変形例について説明する。例えば補修対象内に小石等が詰まっており、接着剤Lの注入が行いにくい場合等には、作業者は蓋体6を移動させ、加圧空間PS内の圧力を高めることで接着剤Lの勢いで小石等を飛ばして注入しやすくすることが考えられる。このような場合に、例えば加圧しすぎて目標とする低圧注入を実現できなくなってしまうのを防ぐには、
図10に示すように加圧空間PS内の圧力が所定値以上となった場合に仕切り部材5が中空容器4から外れるように構成されていればよい。具体的には
図10に示すように仕切り部材5が加圧により圧縮されて変形し、所定値以上の圧力に加圧された場合には、中空容器4に対して倒れるように構成されている。
【0074】
このようなものであれば、作業者は中空容器4内の仕切り部材5が倒れているのを視認することで、低圧注入ができなくなるほど無理な加圧を行っていることに気づくことができる。圧力が高くなりすぎることに気づいた作業者は、直ちに注入作業を中断して補修作業の品質が劣化するのを防ぐことができる。このような高加圧時において仕切り部材5の倒れが発生するようにするには、例えば仕切り部材5と中空容器4との間の摩擦の大きさや、仕切り部材5の形状や寸法、仕切り部材5の材質等で調節することで実現できる。例えば仕切り部材5を形成する部材の原料の硬度がショアA50度とすることで、低圧注入(0.4MPa以下)が実現できない高圧状態となった場合に仕切り部材5が倒れるようにできる。
【0075】
次に本発明の第3実施形態に係る注入器100について
図11及び
図12を参照しながら説明する。なお、第1実施形態において説明した部材に対応する部材には同じ符号を付すこととする。
【0076】
第1実施形態では流路切替構造SWは、注入機構INの筒体2内に別体の流路形成体9を挿入することで構成されていたが、
図11及び
図12に示すように第3実施形態では流路切替構造SWは筒体2内において樹脂成形により一体に形成されている。具体的には筒体2の中間部分は、筒体2の逆止弁3側と注入機構TN側とを連通する第1流路L1と、筒体2の逆止弁3側と筒体2の注入穴IP側との間を連通する第2流路L2とを除いて、ほぼ中実に樹脂成形されている。なお、第2流路L2については軸方向延びる概略薄肉半円筒形状の1つの流路であってもよいし、複数の直線状の流路として分割して形成してもよい。
【0077】
このようなものであっても、第1実施形態と同様に注入機構INにグリスガンGG等の先端部が第1流路L1内に差し込まれた状態では、グリスガンGGから第2流路L2へと接着剤Lが流れないようにできる。したがって、グリスガンGGから注入される接着剤Lはすべて蓄圧機構TN内へと流入させることができる。また、グリスガンGGが注入機構INから取り外されて蓄圧機構TNによる注入が開始されると、接着剤Lは蓄圧機構TNから第2流路L2を経由して注入口IPから吐出される。このようにすべての接着剤Lは蓄圧機構TNを経由して補修対象に注入できるので、その注入量は中空容器4の目盛り等により正確に管理できる。
【0078】
さらに第3実施形態では、注入器100の組立時に筒体2内に対して流路形成体9を差し込む必要がないので、組み立て工数を減らすことができ、製造性を第1実施形態の注入器100よりも良くすることができる。
【0079】
次に本発明の第4実施形態に係る注入器100について
図13及び
図14を参照しながら説明する。なお、第1実施形態において説明した部材に対応する部材には同じ符号を付すこととする。
【0080】
第4実施形態の注入器100は、座金1と筒体2の先端部との間には、互いに螺合し合うねじ構造SCと、筒体2に対して座金1が完全に螺合された状態において座金1が筒体2から離脱する方向への移動を規制し、ねじ構造SCの緩みを防ぐ緩み止め構造LPとが形成されている。
【0081】
緩み止め構造LPは、座金1の円筒部12の先端側であり、めねじの上部に形成された一対の係合穴LP1と、筒体2の先端部において外側に突出するように設けられた一対の係合爪LP2と、からなる。本実施形態では一対の係合穴LP1は、円周方向に対して180度ごとに設けられており、一対の係合爪LP2も同様の間隔で設けられている。そして、筒体2に対して座金1を完全に螺合させた状態で対向する一対の係合穴LP1に対して一対の係合爪LP2がそれぞれ嵌るように構成されている。なお、円筒部2には一対の係合穴LP1とは別に肉抜きのための穴が4つ係合穴LP1とほぼ同形状で円周方向に並べて形成されている。
【0082】
図14に示すように係合爪LP2の先端部は縦断面形状が概略L字状をなし、係合穴LP1の上側縁部の角と対応した形状となっている。係合穴LP1内に係合爪LP2が嵌っている状態では、座金1が筒体2に対して回転したとしても係合爪LP2の先端部が係合穴LP1の上側縁部の角と当接することによって座金1が筒体2の先端側へ移動するのを妨げる。より具体的には係合爪LP2のL字状部分が係合穴LP1の上側縁部によって筒体2の先端側へ押されると、係合爪LP2が外側へ開く方向にわずかに傾くことになる。そうすると係合爪LP2のL字状部分において立ち壁となっている部分が係合穴LP1の上側縁部に対して接触することになる。この結果、これ以上先端側へ係合爪LP2が傾かないようにロックされ、座金1も筒体2から外れる方向には移動できなくなる。
【0083】
さらにこの実施形態では、係合爪LP2の円周方向の幅寸法と、係合穴LP1の円周方向の幅寸法はほぼ同じに設定されているので、係合穴LP1に対して係合爪LP2が挿入されている状態では、係合爪LP2の側面は係合穴LP1の円周方向の縁と当接することになる。このため、座金1を筒体2に対して回転させようとしても係合爪LP2がその動きを妨げるので、ねじ構造SCを緩ませる回転はそもそも発生しにくい。
【0084】
したがって、筒体2に対して座金1が一度取り付けられると、緩み止め構造LPによってねじ構造SCの螺合状態が緩むのを防ぐことができる。
【0085】
このように第4実施形態の注入器100であれば、予め筒体2に対して座金1を螺合させた状態で出荷しても、搬送中等に座金1が他の部材に接触するなどして回転して、筒体2に対する座金1の螺合状態が緩んでしまうのを防ぐことができる。この結果、現場での組立工数を減らすために予め筒体2に対して座金1を取り付けたとしても、初期状態を保ち続けることができる。したがって、現場において筒体2に対して座金1を螺合させなくても、接着剤Lの注入時に圧力がかかっても座金1から筒体2が外れてしまい、接着剤Lが漏れ出すといった補修作業の失敗が生じるのを防ぐことができる。
【0086】
また、座金1と筒体2とを外した状態でも出荷できるので、注入器100の状態は現場の状況や作業の進め方にも合わせることができる。
【0087】
なお、緩み止め構造LPについては第4実施形態において説明した態様に限られない。例えば筒体2に係合穴LP1が形成され、座金1に係合爪LP2が設けられても良い。また、係合爪LP2の数についても一対に限られるものではなく、さらに多数の係合爪LP2が設けられていても良い。例えば、係合穴LP1以外に設けられている肉抜き用の穴を係合穴LP1として利用できるように係合爪LP2をさらに増やしても良い。
【0088】
本発明のその他の実施形態について説明する。
【0089】
流路切替構造SWは、注入機構INの筒体2に対して流路形成体9を挿入して形成されるものに限れられない。例えば、筒体2自体の構造で注入器であるグリスガンGGの取り付けの有無で流路が切り替えられるようにしてもよい。言い換えると、筒体2と流路形成体9とを別々の部材として構成するのではなく、一体成型により1つの部材として構成してもよい。あるいは、流路切替構造SWを有した筒体2を複数のパーツに分割して形成し、後で接合する等して前記実施形態と同様の機能が実現されるようにしてもよい。
【0090】
係合部LKは、各平面が合致することによって筒体2内における流路形成体9の軸方向の位置が位置決めされるものに限られない。例えば筒体2が注入口IP側へ進むにつれて先細り、流路形成体9が所定位置よりも注入口IP側へと進めないように構成されていてもよい。また、流路形成体9と外側面の形状と筒体2の内周面の形状が合致するように流路形成体9が筒体2内の所定位置に位置決めされるように構成してもよい。
【0091】
移動制限構造8については各実施形態において説明したものに限られない。例えば、中空容器4内に仕切り部材5を挿入した後に、別途リング状の留め具を挿入し、接着剤や溶着等で中空容器の内周面に固定し、留め具よりも先端側に仕切り部材が移動できないようにしてもよい。あるいは、蓋体6から仕切り部材5側へと突出するつっかえ棒を設けておき、移動制限構造8としてもよい。
【0092】
移動制限構造8により規定される制限位置に仕切り部材5が到達した状態において加圧空間PS内の圧力が所定値以下であればよい。加圧空間PSが十分な容積を有しているのであれば、仕切り部材5又は蓋体6のいずれにも逃げ凹部81を設けなくてもよい。あるいは、仕切り部材5又は蓋体6のいずれか一方にのみ逃げ凹部81を設けてもよい。
【0093】
螺合構造7については中空容器4と蓋体6との間に設けられていればよく、中空容器4の内側周面に雌ねじ72が形成され、蓋体6の中栓体61の外側周面に雄ねじ71を形成するようにしてもよい。また、中栓体61による気密性をより向上させるために中栓体61の先端にパッキンを設けてもよい。
【0094】
蓋体6については、かならずしも二重管構造を有するものでなくてもよく、例えば中栓体の外側端からさらに外側に突出するようにユーザにより蓋体6を回転させるために把持される把持部を形成しても構わない。
【0095】
蓄圧機構TNは、注入機構INに対して直交して設けられたものでなく、斜めに取り付けられるものであってもよい。要するに、注入機構INから分岐して蓄圧機構TNが設けられるものであればよい。また、蓄圧機構TNを構成する中空容器4の形状は円筒管形状のみに限られるものではない。例えば、中空容器4を基端側が先端側よりも細い二段円筒形状にしてもよい。このようなものにすれば、注入機構INに対して中空容器4が突出している長さ寸法を短くして注入器100自体をコンパクトに構成することができる。しかも、蓋体6が取り付けられる際に中空容器4内に押し込む気体の体積も大きくできるので、実施形態と同等又はそれ以上に中空容器4内の気体を予圧しておくこともできる。
【0096】
実施形態では補修対象はクラックAOであったが、その他の補修対象に本発明を用いても構わない。また、流動性補修材の一例として接着剤Lを挙げたが、例えば、コーキング材等のその他のものにも本発明の流動性補修材注入器は用いることができる。また、流動性補修材の供給源はグリスガンに限られるものではなく、コーキングガンや例えばシリンジ等により人力で補修対象内に流動性補修材を注入するようにしてもよい。
【0097】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な変形や実施形態の組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0098】
100・・・注入器(流動性補修材注入器)
IN ・・・注入機構
TN ・・・蓄圧機構
1 ・・・座金
11 ・・・薄円板部
12 ・・・円筒部
2 ・・・筒体
21 ・・・おねじ
22 ・・・連通孔
23 ・・・台座部
24 ・・・角部
3 ・・・逆止弁
CV ・・・カバー
4 ・・・中空容器
5 ・・・仕切り部材
6 ・・・蓋体
61 ・・・中栓体
611・・・内蓋
62 ・・・外筒
63 ・・・凸条
7 ・・・螺合構造
71 ・・・雄ねじ
72 ・・・雌ねじ
8 ・・・移動制限構造
81 ・・・逃げ凹部
9 ・・・流路形成体
91 ・・・内部空洞
92 ・・・連結孔
93 ・・・側面開口
94 ・・・スロット
95 ・・・凹部
SW ・・・流路切替構造
LK ・・・係合部