(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166633
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】インフルエンザウイルス抑制用の融合タンパク質およびこれを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/44 20060101AFI20231115BHJP
C07K 14/11 20060101ALI20231115BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231115BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231115BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231115BHJP
C12N 15/81 20060101ALI20231115BHJP
C12N 15/82 20060101ALI20231115BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20231115BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20231115BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231115BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231115BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20231115BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20231115BHJP
A61K 39/145 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C12N15/44
C07K14/11 ZNA
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N15/81 Z
C12N15/82 Z
A01H1/00 A
C12P21/02 C
C12N5/10
C12N1/19
A61P31/16
A61K38/16
A61K39/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166188
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517448490
【氏名又は名称】株式会社グリーンバイオメッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】関川 賢二
(72)【発明者】
【氏名】高岩 文雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 統
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 寛
(72)【発明者】
【氏名】小原 一朗
【テーマコード(参考)】
2B030
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030CA14
2B030CB03
4B064AG26
4B064AG31
4B064BJ12
4B064CA06
4B064CA11
4B064CA19
4B064CC24
4B065AA72X
4B065AA88X
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA45
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA02
4C084BA22
4C084BA41
4C084NA14
4C084ZB331
4C084ZB332
4C085AA03
4C085BA55
4C085CC32
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA01
4H045DA75
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】優れた特徴を有する頭部欠損HA-M1融合タンパク質の提供。
【解決手段】インフルエンザウイルスに由来するHAタンパク質とM1タンパク質との融合タンパク質において、特定の領域のアミノ酸残基が欠損してなる部分欠損HA-M1融合タンパク質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザウイルスに由来するHAタンパク質とM1タンパク質との融合タンパク質において、特定の領域のアミノ酸残基が欠損してなる部分欠損HA-M1融合タンパク質であって、
前記HAタンパク質が、配列番号1中の第18~566アミノ酸残基で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、または該アミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、インフルエンザウイルス由来のHAタンパク質として機能するタンパク質であり、
前記M1タンパク質が、配列番号5中の第1~252アミノ酸残基で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、または該アミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、インフルエンザウイルス由来のM1タンパク質として機能するタンパク質であり、
配列番号1中の第59~335アミノ酸残基および第529~554アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が少なくとも欠損しており、かつ、
配列番号1中の第18~50アミノ酸残基、第340~528アミノ酸残基および配列番号5中の第1~252アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が少なくとも保持されている、部分欠損HA-M1融合タンパク質。
【請求項2】
配列番号1中の第59~335アミノ酸残基、第51~335アミノ酸残基、第59~339アミノ酸残基、または第51~339アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が欠損している、請求項1に記載の部分欠損HA-M1融合タンパク質。
【請求項3】
配列番号1中の第555~566アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が欠損している、請求項1または2に記載の部分欠損HA-M1融合タンパク質。
【請求項4】
前記HAタンパク質と前記M1タンパク質とを、N末端からC末端に向けてこの順で含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の部分欠損HA-M1融合タンパク質。
【請求項5】
欠損した領域および/または部分欠損HAタンパク質とM1タンパク質の融合部位にリンカーが挿入されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の部分欠損HA-M1融合タンパク質。
【請求項6】
前記リンカーが、GSGリンカー、GSGSGリンカー、GSGSGSGSリンカー、GSAGSAリンカー、またはGGGGSGGGGSGGGGSリンカーである、請求項5に記載の部分欠損HA-M1融合タンパク質。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の部分欠損HA-M1融合タンパク質をコードする、核酸分子。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸分子を含んでなる、発現ベクター。
【請求項9】
請求項7に記載の核酸分子または請求項8に記載の発現ベクターを含んでなる、形質転換体。
【請求項10】
前記形質転換体がイネまたは酵母である、請求項9に記載の形質転換体。
【請求項11】
請求項9または10に記載の形質転換体を培養または育成することを含んでなる、部分欠損HA-M1融合タンパク質を製造する方法。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか一項に記載の部分欠損HA-M1融合タンパク質を含んでなる、医薬組成物。
【請求項13】
インフルエンザウイルスの感染症を予防または治療するための、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
インフルエンザウイルスに対するワクチンとして用いるための、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記インフルエンザウイルスがインフルエンザウイルスA型である、請求項13または14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
技術分野
本発明は、インフルエンザウイルス抑制用の融合タンパク質、およびこれを含む医薬組成物に関する。
【0002】
背景技術
抗原変異を繰り返すウイルスや血清型サブタイプが複数存在するウイルスに対する種々のワクチンの開発が行われてきた。例えば、インフルエンザウイルスの場合、インフルエンザウイルス粒子の外皮膜に存在するHA抗原が、季節性インフルエンザウイルスA型HAスプリットワクチンとして上市されている。インフルエンザウイルスHA遺伝子は、A亜型間で遺伝的交換が起こり、また塩基配列の突然変異により抗原変異が生じるが、HAタンパク質3次元構造の頭部に変異が集中して生じる。HAの頭部が主要な中和抗体エピトープのため、上市されているHAスプリットワクチンおよびウイルス不活化ワクチンは新しい変異株に対し効果がほとんどない。一方、ステム領域は変異が少ないが免疫原性が低いためA亜型のワクチン抗原としての利用は行われていなかった。大阪大学微生物病研究所の奥野らは1993年に初めてインフルエンザウイルスA1型株とA2型株に交差して中和できる抗ステム抗体が誘導されることを報告した(非特許文献1)。また、同グループは1996年HA遺伝子の頭部領域を欠損させたHAで免疫した動物で1型および2型を中和できる抗ステム抗体が誘導されることを報告した(非特許文献2)。以来、世界でステム抗原による万能ワクチンの開発が進められている(非特許文献3~6)。一方、単量体(モノマー)抗原タンパク質は免疫原性が低いため、HAスプリットワクチンは効果が低いことが弱点となっている。免疫原性と抗原構造との関係をM.F.Bachmannらは解析し、高度に組織化(多量体化、オリゴマー化)された抗原は免疫原性が高く、メモリーB細胞の誘導も行えることから、ワクチン抗原は組織化されることが重要であることを報告した(非特許文献7~9)。HAとフェリチンの融合タンパク質は、フェリチンのオリゴマー化活性により多量体を形成することによりHAの免疫原性が強化されることが報告された(非特許文献10および11)。インフルエンザウイルスHAスプリットワクチンおよび不活化ワクチンによる宿主免疫応答は、主としてHA抗原に対する抗体の誘導によりウイルスを中和する液性免疫であるが、一方、感染細胞を破壊しウイルス感染拡大を押さえるもう一つの免疫応答は細胞性免疫である。現在市販されているインフルエンザウイルスワクチンには細胞性免疫誘導能がほとんど無い。感染細胞の主要組織適合抗原クラス1分子に結合し細胞障害性T細胞(CTL)のT細胞受容体で認識されるインフルエンザウイルス抗原(CTLエピトープ)が、マトリックス(M1)タンパク質及びヌクレオキャプシド(NP)タンパク質にあることが報告されている(非特許文献12~14)。マトリックス(M1)タンパク質とヌクレオキャプシド(NP)タンパク質は、A亜型間でアミノ酸配列が保存されているので、A亜型間で交差細胞性免疫が成立する。M1タンパク質は重合体(オリゴマー)形成能を有し、また、NPと結合する(非特許文献15および16)。インフルエンザウイルスA型ワクチンの開発状況は、非特許文献17および18を参照のこと。
【0003】
このような状況下において、頭部欠損HA-M1融合タンパク質が、2種のインフルエンザウイルスに対して、抗体価、CTLおよび生存率を改善することが報告されている(特許文献1)。しかし、抗体価、CTLおよび生存率などのワクチンとしての特性において、さらには生産効率などにおいて、未だ改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y. Okuno et al., J. Virol., Vol. 67, pp. 2552-2558, 1993
【非特許文献2】H. Sagawa et al., J. Gen. Virol., Vol. 77, pp. 1483-1487, 1996
【非特許文献3】J. Steel et al., mBio, Vol. 1, pp. 1-9, 2010
【非特許文献4】F. Krammer et al., J. Virol., Vol. 87, pp. 6542-6550, 2013
【非特許文献5】V. V. A. Mallajosyula et al., PNAS, pp. E2514-E2523, 2014
【非特許文献6】A. H. Ellebedy et al., PNAS, Vol. 111, pp. 13133-13138, 2014
【非特許文献7】M. F. Bachmann et al., Science, Vol. 262, pp. 1448-1451, 1993
【非特許文献8】M. F. Bachmann et al., Eur. J. Immunol., Vol. 25, pp. 3445-3451, 1995
【非特許文献9】M. F. Bachmann and R. M. Zinkernagel, Ann. Rev. Immunol., Vol. 15, pp. 235-270, 1997
【非特許文献10】M. Kanekiyo et al., Nature, Vol. 499, pp. 102-108, 2013
【非特許文献11】H. M. Yassine et al., Nature Medicine, online publication, doi: 10. 1038/nm. 3927, 2015
【非特許文献12】A. C. Hayward et al., American J. Respiratory and Critical Care Medicine, Vol. 191, pp. 1422-1431, 2015
【非特許文献13】G. F. Rimmelzwaan et al., Vaccine, Vol. 27, pp. 6363-6365, 2009
【非特許文献14】C. E. van de Sandt et al., J. Virol., Vol. 90, pp. 1009-1022, 2016
【非特許文献15】S. L. Noton et al., J. Gen. Virol., Vol. 88, pp. 2280-2290, 2007
【非特許文献16】K. Zhang et al., PLOS ONE, Vol. 7, e37786, pp. 1-12, 2012
【非特許文献17】S-S Wong and R. J. Webby, Clinical Microbiology Reviews, Vol. 26, pp. 476-492, 2013
【非特許文献18】A. Y. Egorov, MIR J., Vol. 5, pp. 32-41, 2016
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、インフルエンザウイルスのHAおよびM1に基づいて設計された頭部欠損HA-M1融合タンパク質において、さらに特定部位のアミノ酸配列を欠損させることにより、優れた特徴を有するタンパク質を得た。本発明はこの知見に基づくものである。
【0007】
従って、本発明は、優れた特徴を有する頭部欠損HA-M1融合タンパク質、およびこれを含む医薬組成物を提供する。
【0008】
本発明は、以下の発明を包含する。
(1)インフルエンザウイルスに由来するHAタンパク質とM1タンパク質との融合タンパク質において、特定の領域のアミノ酸残基が欠損してなる部分欠損HA-M1融合タンパク質であって、
前記HAタンパク質が、配列番号1中の第18~566アミノ酸残基で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、または該アミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、インフルエンザウイルス由来のHAタンパク質として機能するタンパク質であり、
前記M1タンパク質が、配列番号5中の第1~252アミノ酸残基で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、または該アミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、インフルエンザウイルス由来のM1タンパク質として機能するタンパク質であり、
配列番号1中の第59~335アミノ酸残基および第529~554アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が少なくとも欠損しており、かつ、
配列番号1中の第18~50アミノ酸残基、第340~528アミノ酸残基および配列番号5中の第1~252アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が少なくとも保持されている、部分欠損HA-M1融合タンパク質。
(2)配列番号1中の第59~335アミノ酸残基、第51~335アミノ酸残基、第59~339アミノ酸残基、または第51~339アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が欠損している、前記(1)に記載の部分欠損HA-M1融合タンパク質。
(3)配列番号1中の第555~566アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が欠損している、前記(1)または(2)に記載の部分欠損HA-M1融合タンパク質。
(4)前記HAタンパク質と前記M1タンパク質とを、N末端からC末端に向けてこの順で含んでなる、前記(1)~(3)のいずれかに記載の部分欠損HA-M1融合タンパク質。
(5)欠損した領域および/または部分欠損HAタンパク質とM1タンパク質の融合部位にリンカーが挿入されている、前記(1)~(4)のいずれかに記載の部分欠損HA-M1融合タンパク質。
(6)前記リンカーが、GSGリンカー、GSGSGリンカー、GSGSGSGSリンカー、GSAGSAリンカー、またはGGGGSGGGGSGGGGSリンカーである、前記(5)に記載の部分欠損HA-M1融合タンパク質。
(7)前記(1)~(6)のいずれかに記載の部分欠損HA-M1融合タンパク質をコードする、核酸分子。
(8)前記(7)に記載の核酸分子を含んでなる、発現ベクター。
(9)前記(7)に記載の核酸分子または前記(8)に記載の発現ベクターを含んでなる、形質転換体。
(10)前記形質転換体がイネまたは酵母である、前記(9)に記載の形質転換体。
(11)前記(9)または(10)に記載の形質転換体を培養または育成することを含んでなる、部分欠損HA-M1融合タンパク質を製造する方法。
(12)前記(1)~(6)のいずれかに記載の部分欠損HA-M1融合タンパク質を含んでなる、医薬組成物。
(13)インフルエンザウイルスの感染症を予防または治療するための、前記(12)に記載の医薬組成物。
(14)インフルエンザウイルスに対するワクチンとして用いるための、前記(12)に記載の医薬組成物。
(15)前記インフルエンザウイルスがインフルエンザウイルスA型である、前記(13)または(14)に記載の医薬組成物。
【0009】
本発明によれば、優れた特徴を有する頭部欠損HA-M1融合タンパク質が提供される。本発明の融合タンパク質により、インフルエンザウイルスの感染症を予防または治療することができる。特に、本発明の融合タンパク質は、形質転換されたイネや酵母において製造できる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、頭部欠損HA-M1融合タンパク質のイネでの発現ベクターの構造を示す図である。
【
図2】
図2は、頭部欠損HA-M1融合タンパク質遺伝子を発現するイネカルスおよび培養液のタンパク質の電気泳動を行った結果を示す写真である。
【
図3】
図3は、改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質の概略を示す図である。
【
図4】
図4は、改良型頭部欠損HA-M1タンパク質を発現するイネカルスのウエスタンブロティングを行った結果を示す写真である。
【
図5】
図5は、再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質イネ発現ベクターの概略を示す図である。
【
図6】
図6は、再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質の種子での発現を示す写真である。
【
図7】
図7は、再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Dの、イネのカルスでの発現用ベクター構築の概略を示す図である。
【
図8】
図8は、ベクター甲による形質転換体の独立した6系統と、ベクター乙による形質転換体の独立した5系統の、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
【
図9】
図9は、ベクター乙による形質転換体の独立した5系統と、ベクター丙による形質転換体の独立した4系統、ベクター丁による形質転換体の独立した5系統の、ウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
【
図10】
図10は、頭部欠損HA-M1融合タンパク質および改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bの酵母発現用プラスミドの構造を示す図である。
【
図11】
図11は、頭部欠損HA-M1融合タンパク質および改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bの出芽酵母による発現を示す写真である。
【
図12】
図12は、各種頭部欠損融合タンパク質を酵母で発現させるためのベクターの概略を示す図である。
【
図13】
図13は、酵母による各種頭部欠損融合タンパク質の発現を示す写真である。
【
図14】
図14は、実施例7におけるインフルエンザウイルス感染マウスによる薬効試験の概要を示す図である。
【
図15-1】
図15-1は、改良型融合タンパク質を用いたインフルエンザウイルス感染マウスにおける薬効試験の結果を示す図である。
【
図15-2】
図15-2は、改良型融合タンパク質を用いたインフルエンザウイルス感染マウスにおける薬効試験の結果を示す図である。
【
図16】
図16は、実施例8におけるインフルエンザウイルス感染マウスによる薬効試験の概要を示す図である。
【
図17-1】
図17-1は、改良型融合タンパク質および再改良型融合タンパク質を用いたインフルエンザウイルス感染マウスにおける薬効試験の結果を示す図である。
【
図17-2】
図17-2は、改良型融合タンパク質および再改良型融合タンパク質を用いたインフルエンザウイルス感染マウスにおける薬効試験の結果を示す図である。
【発明の具体的説明】
【0011】
1.融合タンパク質
本発明の融合タンパク質は、インフルエンザウイルスに由来するHAタンパク質とM1タンパク質との融合タンパク質において、特定の領域のアミノ酸残基が欠損してなる部分欠損HA-M1融合タンパク質である。
【0012】
本発明において、インフルエンザウイルスとしては、A型、B型、C型等が挙げられ、これらのいずれであってもよいが、好ましくはA型インフルエンザウイルスである。
【0013】
前記HAタンパク質は、配列番号1中の第18~566アミノ酸残基で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、または該アミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、インフルエンザウイルス由来のHAタンパク質として機能するタンパク質である。配列番号1中の第18~566アミノ酸残基で表されるアミノ酸配列以外のアミノ酸配列は、元のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基を、同一または類似の性質を有するアミノ酸残基への置換(保存的置換)により変異させたものとすることができる。
【0014】
前記M1タンパク質は、配列番号5中の第1~252アミノ酸残基で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、または該アミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、インフルエンザウイルス由来のM1タンパク質として機能するタンパク質である。配列番号5中の第1~252アミノ酸残基で表されるアミノ酸配列以外のアミノ酸配列は、元のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基を、同一または類似の性質を有するアミノ酸残基への置換(保存的置換)により変異させたものとすることができる。
【0015】
アミノ酸配列どうしの配列同一性は、BLAST等の公知の配列比較用プログラムを用いて算出することができる。これらのプログラムでは、目的に応じてパラメーターを変更することもできるが、デフォルトのパラメーターのまま使用してもよい。
【0016】
本発明の融合タンパク質では、配列番号1中の第59~335アミノ酸残基および第529~554アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が少なくとも欠損している。本発明において、「に相当する領域のアミノ酸残基」との用語は、特定のアミノ酸配列中において指定された領域のアミノ酸残基そのものだけでなく、他のアミノ酸配列中における同じ位置の領域のアミノ酸残基をも意味するために用いられる。つまり、本発明におけるHAタンパク質およびM1タンパク質は、特定のアミノ酸配列(それぞれ配列番号1中の第18~566アミノ酸残基および配列番号5中の第1~252アミノ酸残基)を有するタンパク質だけでなく、これらと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をも包含している。よって、本発明において元のアミノ酸配列とは異なる、特定の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質が用いられる場合には、元のアミノ酸配列において指定された領域と同等の位置の領域のアミノ酸残基が欠損(または保持)されることになる。
【0017】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明の融合タンパク質では、配列番号1中の第59~335アミノ酸残基、第51~335アミノ酸残基、第59~339アミノ酸残基、または第51~339アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が欠損している。
【0018】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明の融合タンパク質では、上述の欠損に加えて、配列番号1中の第555~566アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が欠損している。
【0019】
一方で、本発明の融合タンパク質では、配列番号1中の第18~50アミノ酸残基、第340~528アミノ酸残基および配列番号5中の第1~252アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が少なくとも保持されている。
【0020】
本発明の一つの実施態様によれば、本発明の融合タンパク質において、配列番号1中の第51~339アミノ酸残基および第529~554アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が欠損し、かつ、その他のアミノ酸残基が保持されている。この融合タンパク質のアミノ酸配列の例を配列番号61(欠損した第51~339アミノ酸残基に代えて、GSGSGリンカーが挿入されている)に示し、これをコードするヌクレオチド配列を配列番号12に示す。
【0021】
本発明の他の実施態様によれば、本発明の融合タンパク質において、配列番号1中の第51~335アミノ酸残基および第529~554アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が欠損し、かつ、その他のアミノ酸残基が保持されている。この融合タンパク質のアミノ酸配列の例を配列番号62(欠損した第51~335アミノ酸残基に代えて、GSGリンカーが挿入されている)に示し、これをコードするヌクレオチド配列を配列番号14に示す。
【0022】
本発明の他の実施態様によれば、本発明の融合タンパク質において、配列番号1中の第59~339アミノ酸残基および第529~554アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が欠損し、かつ、その他のアミノ酸残基が保持されている。この融合タンパク質のアミノ酸配列の例を配列番号63(欠損した第59~339アミノ酸残基に代えて、GSGSGリンカーが挿入されている)に示し、これをコードするヌクレオチド配列を配列番号15に示す。
【0023】
本発明の他の実施態様によれば、本発明の融合タンパク質において、配列番号1中の第59~335アミノ酸残基および第529~554アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が欠損し、かつ、その他のアミノ酸残基が保持されている。この融合タンパク質のアミノ酸配列の例を配列番号64(欠損した第59~335アミノ酸残基に代えて、GSGリンカーが挿入されている)に示し、これをコードするヌクレオチド配列を配列番号26に示す。
【0024】
本発明の他の実施態様によれば、本発明の融合タンパク質において、配列番号1中の第51~335アミノ酸残基、第529~554アミノ酸残基および第555~566アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が欠損し、かつ、その他のアミノ酸残基が保持されている。この融合タンパク質のアミノ酸配列の例を配列番号65(欠損した第51~335アミノ酸残基に代えてGSGリンカーが挿入され、欠損した第555~566アミノ酸残基に代えてGSAGSAリンカーが挿入されている)に示し、これをコードするヌクレオチド配列を配列番号25に示す。
【0025】
本発明の他の実施態様によれば、本発明の融合タンパク質において、配列番号1中の第59~335アミノ酸残基、第529~554アミノ酸残基および第555~566アミノ酸残基に相当する領域のアミノ酸残基が欠損し、かつ、その他のアミノ酸残基が保持されている。この融合タンパク質のアミノ酸配列の例を配列番号66(欠損した第59~335アミノ酸残基に代えてGSGリンカーが挿入され、欠損した第555~566アミノ酸残基に代えてGSAGSAリンカーが挿入されている)に示し、これをコードするヌクレオチド配列を配列番号27に示す。
【0026】
本発明の融合タンパク質において、前記HAタンパク質と前記M1タンパク質とは、N末端からC末端に向けてこの順で含まれてもよく、逆の順で含まれてもよいが、好ましくはこの順で含まれている。
【0027】
本発明の融合タンパク質において、アミノ酸残基が欠損した領域にリンカーを挿入してもよい。また、本発明の融合タンパク質において、部分欠損HAタンパク質とM1タンパク質の融合部位にリンカーを挿入してもよい。リンカー(リンカーペプチド)の長さは、本発明の融合タンパク質がインフルエンザウイルスに対する抑制効果を有する限り特に限定されないが、通常、1~100アミノ酸、好ましくは1~50アミノ酸、より好ましくは1~25アミノ酸、さらに好ましくは1~15アミノ酸に設定するのが好ましい。リンカーペプチドの例としては、グリシンやセリン等がペプチド結合して構成された、二次構造を有さないフレキシブルなペプチドが、複数個タンデムに連結されたリンカーペプチドが挙げられ、さらに具体的には、(GGGGS)n(例えばGGGGSGGGGSGGGGSリンカーなど)、GSGリンカー、GSGSGリンカー、GSGSGSGSリンカー、GSAGSAリンカー等を挙げることができる。
【0028】
本発明の融合タンパク質は、そのN末端および/またはC末端に、付加配列を有していてもよい。付加配列の長さは、本発明の融合タンパク質がインフルエンザウイルスに対する抑制効果を有する限り特に限定されないが、通常、1~100アミノ酸、好ましくは1~50アミノ酸、より好ましくは1~25アミノ酸、さらに好ましくは1~15アミノ酸である。
【0029】
本発明の一つの実施態様において、前記付加配列は、本発明の融合タンパク質の精製や検出を容易にするためのタグ配列であり得る。タグ配列の種類としては、特に限定されないが、例えば、FLAG(Hopp, T. P. et al., BioTechnology (1988) 6, 1204-1210)、6~10個のHis(ヒスチジン)残基からなる6×His~10×His、ヒトc-mycの断片、α-tubulinの断片、B-tag、Protein Cの断片、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)Sタグ、T7タグ、Strepタグ、Nusタグ、Trxタグ、GFPタグ等が挙げられる。また、付加配列としては、本発明の融合タンパク質を発現させる宿主において作動可能なシグナル配列、例えば、分泌シグナル、小胞体係留シグナル(例えばKDEL配列)なども好適に用いることができる。
【0030】
本発明の融合タンパク質は、周知の組換えタンパク質産生方法を用いることにより製造することができる。例えば、本発明の融合タンパク質をコードする核酸分子(好ましくはDNA)を作製し、これを適切なベクターに組み込むことにより発現ベクターを作製し、該核酸分子または該発現ベクターを宿主に組み込むことにより形質転換体を作製し、この形質転換体を培養または育成することにより、本発明の融合タンパク質を製造することができる。これらの核酸分子、発現ベクターおよび形質転換体もまた、それぞれ本発明の態様をなす。
【0031】
形質転換体の作製に用いられる宿主は、タンパク質の組換え生産に利用可能ないずれの宿主であってもよいが、例えば、大腸菌などの細菌、酵母などの真菌、植物細胞もしくは植物、動物細胞もしくは動物などが挙げられる。本発明の好ましい実施態様によれば、前記宿主は、酵母(例えばSaccharomyces cerevisiae)または植物(例えばイネ)とされる。形質転換体は、発現ベクターを宿主細胞に導入することにより作製してもよいし、相同組換えにより宿主細胞のゲノム中に核酸分子を組み込むことにより作製してもよい。
【0032】
発現ベクターは、使用する宿主に応じて、その宿主において適切に機能するように選択することができる。また、本発明の融合タンパク質をコードする核酸分子は、使用する宿主において使用頻度の高いコドンを多く含むように構成することもできる。さらに、使用する宿主に応じて、その宿主において適切に機能するプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の発現調節配列を、コード配列の前後に配置してもよい。
【0033】
2.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、本発明の融合タンパク質を含む。このような医薬組成物は、本発明の融合タンパク質を、常套手段に従って製剤化することにより得ることができる。
【0034】
本発明の医薬組成物は、医薬上許容される担体をさらに含んでいてもよい。医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム-グリコール-スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑沢剤、クエン酸、メントール、グリチルリチン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0035】
本発明の医薬組成物は、本発明の融合タンパク質の免疫反応誘導効果を増強するため、アジュバントをさらに含有してもよい。アジュバントとしては、水酸化アルミニウム、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、百日咳菌アジュバント、ポリ(I:C)、CpG-DNA等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明の医薬組成物は、経口又は非経口投与(好ましくは非経口投与)に適する剤形として提供される。
【0037】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、経鼻投与剤(点鼻液、点鼻スプレー等)、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含してもよい。このような注射剤や経鼻投与剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、本発明の融合タンパク質を通常注射剤に用いられる無菌の水性溶媒に溶解又は懸濁することによって調製できる。注射用の水性溶媒としては、例えば、蒸留水;生理的食塩水;リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液等の緩衝液等が使用できる。このような水性溶媒のpHは5~10が挙げられ、好ましくは6~8である。調製された注射液や経鼻投与液は、適当なアンプルやバイアルに充填されたり、あらかじめ注射器や点鼻用医薬品注入器に充填されたプレフィルド型とすることが好ましい。
【0038】
また、本発明の融合タンパク質の溶液又は懸濁液を、医薬上許容可能な担体とともに又は単独で真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等の処理に付すことにより、本発明の融合タンパク質の粉末製剤を調製することもできる。本発明の融合タンパク質を粉末状態で保存し、使用時に該粉末を注射用や経鼻投与用の水性溶媒で分散することにより、使用に供することができる。
【0039】
医薬組成物中の本発明の融合タンパク質の含有量は、通常、医薬組成物全体の約0.1~100質量%、好ましくは約1~99質量%、さらに好ましくは約10~90質量%程度である。
【0040】
3.医薬用途
本発明の融合タンパク質は、インフルエンザウイルス感染症の予防または治療に用いることができる。つまり、本発明の融合タンパク質または本発明の医薬組成物を動物(動物全般を含むが、とくにヒト等の霊長類、マウス等のげっ歯類等の哺乳動物)に投与することにより、該動物において、インフルエンザウイルス感染症を予防又は治療することができる。本発明の融合タンパク質は、ウイルスのサブタイプ間で保存されたB細胞エピトープを含有する抗原又はその断片と、該ウイルスのサブタイプ間で保存されたT細胞エピトープを含有する抗原又はその断片を含むことにより、変異体ウイルスや広範なサブタイプに対して有効な交差反応性を有する液性免疫反応(抗体(好適には、中和抗体)産生)及び細胞性免疫反応(CTL増殖)を誘導すると考えられるので、様々なサブタイプのウイルスに交差して有効なワクチンとして、該ウイルスの感染症を予防又は治療することができる。
【0041】
例えば、本発明の融合タンパク質または本発明の医薬組成物を、インフルエンザウイルス感染症の患者や、インフルエンザウイルスに感染する可能性がある動物(特に、ヒト等の霊長類、マウス等のげっ歯類等哺乳動物)に投与することにより、投与を受けた対象において、インフルエンザウイルスに対する液性免疫反応および細胞性免疫を誘導し、すなわち、該哺乳動物の防御免疫反応を誘導することにより、インフルエンザウイルス感染症を予防又は治療することができる。また、本発明の融合タンパク質または本発明の医薬組成物を、インフルエンザウイルスに感染する可能性がある動物(特に、ヒト等の霊長類、マウス等のげっ歯類等の哺乳動物)に投与することにより、投与を受けた対象において、インフルエンザウイルスに対する液性免疫反応および細胞性免疫を誘導し、すなわち、該哺乳動物の防御免疫反応を誘導することにより、インフルエンザウイルスに感染するリスクを低減させることができる。
【0042】
本発明の好ましい実施態様によれば、目的とするインフルエンザウイルスはA型インフルエンザウイルスとされる。本発明の融合タンパク質または本発明の医薬組成物は、季節性インフルエンザウイルスおよび予想される高病原性パンデミックインフルエンザウイルスを含む広範囲のA亜型インフルエンザウイルスに交差して有効性を示すことができる。
【0043】
本発明の他の態様によれば、療法に用いるための、インフルエンザウイルスの感染症を予防または治療するための、あるいはインフルエンザウイルスに対するワクチンとして用いるための、本発明の融合タンパク質が提供される。
【0044】
本発明の他の態様によれば、本発明の融合タンパク質を被験体(ヒトを含む)に投与することを含んでなる、該被験体におけるインフルエンザウイルスの感染症を予防または治療する方法、あるいは該被験体においてインフルエンザウイルスに対する防御免疫反応を誘導する方法が提供される。
【0045】
本発明の他の態様によれば、インフルエンザウイルスの感染症を予防または治療するための薬剤の製造における、あるいはインフルエンザウイルスに対するワクチンとして用いるための薬剤の製造における、本発明の融合タンパク質の使用が提供される。
【0046】
4.配列表に含まれる配列の説明
配列番号1:ミシガン株HAアミノ酸配列
配列番号2:ヘッドレスHA
配列番号3:ヘッドレスHAリンカー付
配列番号4:分泌シグナル
配列番号5:ミシガン株M1
配列番号6:HISタグ
配列番号7:イネ発現用HA-M1、リンカーなし。10番目のA~1731番目のAにORF。
配列番号8:イネ発現用HA-M1、リンカーあり。10番目のA~1776番目のAにORF。
配列番号9:イネα-アミラーゼ3Dプロモーター
配列番号10:イネα-アミラーゼ3Dターミネーター
配列番号11:GSGSGSGSリンカー
配列番号12:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質A、HA51-339。10番目のA~1578番目のAにORF。
配列番号13:GSGリンカー
配列番号14:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質B、HA51-335。10番目のA~1584番目のAにORF。
配列番号15:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質C、HA59-339。10番目のA~1602番目のAにORF。
配列番号16:A/SWINE/IL/00685/2005(H1N1) M1
配列番号17:小麦無細胞系用 HA-M1 リンカー付。1番目のG~1,692番目のAにORF。
配列番号18:小麦無細胞系用 改良型頭部欠損HA-M1。1番目のG~1,515番目のAにORF。
配列番号19:頭部欠損HA-M1融合タンパク質
配列番号20:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質
配列番号21:TDH3プロモーター
配列番号22:KDELシグナル
配列番号23:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質B+KDEL。10番目のA~1599番目のAにORF。
配列番号24:GSAGSAリンカー
配列番号25:再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質B+KDEL。10番目のA~1,581番目のAにORF。
配列番号26:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質D+KDEL。10番目のA~1623番目のAにORF。
配列番号27:再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質D+KDEL。1番目のA~1605番目のAにORF。
配列番号28:Glb-1プロモーター
配列番号29:Glb-1 ターミネーター
配列番号30:イネUbi1 プロモーター
配列番号31:NOSターミネーター
配列番号32:RAP 3rd intron
配列番号33:GluABC
配列番号34:GluABCの相補鎖
配列番号35:Pro13K16K
配列番号36:Pro13K16Kの相補鎖
配列番号37:TKIWVER3_1
配列番号38:TKIWVER3_2
配列番号39:TKIWVER3_3
配列番号40:TKIWVER3_4
配列番号41:再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質
配列番号42:FLAGタグ
配列番号43:MFA1分泌シグナル
配列番号44:GSAGSAリンカー
配列番号45:pYHAM1-15の発現遺伝子。10番目のA~1,848番目のAにORF。
配列番号46:pYHAM1-16の発現遺伝子。10番目のA~1,812番目のAにORF。
配列番号47:pYHAM1-1の発現遺伝子。10番目のA~1,671番目のAにORF。
配列番号48:pYHAM1-2の発現遺伝子。10番目のA~1,635番目のAにORF。
配列番号49:GGGGSリンカー
配列番号50:Glb-1の分泌シグナル
配列番号51:トウモロコシのユビキチンプロモーター
配列番号52:3xFLAG
配列番号53:ベクター甲に搭載の再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質。10番目のA~1677番目のAにORF。
配列番号54:ベクター乙に搭載の再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質。10番目のA~1665番目のAにORF。
配列番号55:再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質のHA335-M1のコード領域。1番目のAからORF。
配列番号56:再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質のHA335-M1のコード領域。コドン改変バージョン。1番目のAからORF。
配列番号57:ベクター丙に搭載の再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質。10番目のA~1665番目のAにORF。
配列番号58:ベクター丁に搭載の再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質。10番目のA~1590番目のAにORF。
配列番号59:頭部欠損HA-M1融合タンパク質(配列番号7を翻訳したアミノ酸配列から、N末端のイネのα-アミラーゼ3Dの分泌シグナル、C末端の6xHisタグを除去)
配列番号60:リンカー付頭部欠損HA-M1融合タンパク質(配列番号8を翻訳したアミノ酸配列から、N末端のイネのα-アミラーゼ3Dの分泌シグナル、C末端の6xHisタグを除去)
配列番号61:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質A(配列番号12を翻訳したアミノ酸配列から、N末端のイネのα-アミラーゼ3Dの分泌シグナル、C末端の6xHisタグを除去)
配列番号62:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質B(配列番号14を翻訳したアミノ酸配列から、N末端のイネのα-アミラーゼ3Dの分泌シグナル、C末端の6xHisタグを除去)
配列番号63:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質C(配列番号15を翻訳したアミノ酸配列から、N末端のイネのα-アミラーゼ3Dの分泌シグナル、C末端の6xHisタグを除去)
配列番号64:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質D(配列番号26を翻訳したアミノ酸配列から、N末端のイネのGlb-1の分泌シグナル、C末端の6xHisタグおよびKDELシグナルを除去)
配列番号65:再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質B(配列番号25を翻訳したアミノ酸配列から、N末端のイネのGlb-1の分泌シグナル、C末端の6xHisタグおよびKDELシグナルを除去)
配列番号66:再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質D(配列番号27を翻訳したアミノ酸配列から、N末端のイネのGlb-1の分泌シグナル、C末端の6xHisタグおよびKDELシグナルを除去)
配列番号67:GSGSGリンカー
【実施例0047】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0048】
実施例1:頭部欠損HA-M1融合タンパク質のイネでの発現
1.頭部欠損HA-M1融合タンパク質のイネ発現用プラスミドの構築
ア)頭部欠損HA-M1融合タンパク質及びリンカー付き頭部欠損HA-M1融合タンパク質の設計(配列番号1中の第76~308番残基および第529~554番残基が欠損)
(i)頭部欠損HA-M1融合タンパク質及びリンカー付き頭部欠損HA-M1融合タンパク質
インフルエンザウイルス(A/Michigan/45/2015(H1N1))のヘマグルチニン(HA)のアミノ酸配列(登録番号:APC60198.1)(配列番号1)から、分泌シグナルに相当する、1番目のメチオニンから17番目のアラニンまでの17アミノ酸よりなる配列、および、膜貫通領域に相当する、529番目のグルタミンから554番目のメチオニンまでの26アミノ酸よりなる配列を欠損させ、さらに頭部の76番目のグリシンから308番目のプロリンまでの233アミノ酸よりなる配列を欠損させた、頭部欠損HAを得た(配列番号2)。
【0049】
また、頭部欠損HAの、欠損させた76番目のグリシンから308番目のプロリンまでの233アミノ酸よりなる配列を、配列番号49に示すGSリンカーに置換したリンカー付頭部欠損HA(配列番号3)をデザインした。
【0050】
頭部欠損HAまたはリンカー付頭部欠損HAのC末端に、インフルエンザウイルス(A/Michigan/45/2015(H1N1))のマトリックスタンパク質(登録番号:APC60201.1)(配列番号5)を配置したアミノ酸配列をデザインし、これを頭部欠損HA-M1融合タンパク質(配列番号59)またはリンカー付頭部欠損HA-M1融合タンパク質(配列番号60)とした。
【0051】
(ii)分泌シグナル等の考慮
さらに、National Center for Biotechnology Informationのデータベースより取得したイネのα-アミラーゼ3Dのアミノ酸配列を入手し(登録番号:AAA33895.1)、G. von Heijneの方法(Nuc. Acids Res., 14: 4683-4690, 1986)にて分泌シグナルの予測を行ない、1番目のメチオニンから25番目のアラニンに至る25アミノ酸よりなる配列を、イネのα-アミラーゼ3Dの分泌シグナルとした(配列番号4)。ただし、元のアミノ酸配列の二番目のリシンは、イネでより一般的な二番目のアミノ酸残基であるグリシンに置換した。このイネのα-アミラーゼ3Dの分泌シグナル、頭部欠損HA-M1融合タンパク質またはリンカー付頭部欠損HA-M1融合タンパク質、6×Hisタグ(配列番号6)を、N末端からC末端に向けてこの順で並べたアミノ酸配列をデザインし、これを分泌シグナル・6×Hisタグ付頭部欠損HA-M1融合タンパク質または分泌シグナル・6×Hisタグ付リンカー付頭部欠損融合タンパク質とした。
【0052】
イ)プラスミドの構築
GenScript社に委託し、同社プログラム"OptimumGene"にて、分泌シグナル・6×Hisタグ付頭部欠損HA-M1融合タンパク質および分泌シグナル・6×Hisタグ付リンカー付頭部欠損融合タンパク質をコードする、コドン使用頻度をイネに最適化したヌクレオチドをデザインし、その遺伝子を全合成した(配列番号7、8)。イネのα-アミラーゼ3D遺伝子プロモーターおよびイネのα-アミラーゼ3D遺伝子に由来する5'-UTRの合計約2kbのヌクレオチド配列(配列番号9)、イネの約0.5kbのα-アミラーゼ3D遺伝子ターミネーター(配列番号10)について、DNA塩基配列をThe National Center for Biotechnology Informationのデータベースより取得した。
図1に示すように、イネの約2kbのα-アミラーゼ3D遺伝子プロモーターおよびイネのα-アミラーゼ3D遺伝子に由来する5'-UTR、イネのα-アミラーゼ3Dの分泌シグナルをコードするヌクレオチド、頭部欠損HA-M1融合タンパク質遺伝子、イネの約0.5kbのα-アミラーゼ3D遺伝子ターミネーターの各パーツを、5'側からこの順で連結できるように、各パーツの増幅のための配列が25 mer、連結のためのオーバーラップの配列が15 merとなるようにプライマーを設計し、KOD FX Neo(東洋紡)を用い、その添付プロトコールに従って各パーツの増幅を行なった。これらすべてのパーツを、illustra GFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit(GE ヘルスケア)で精製した後、すべてのパーツと、SmaI(タカラバイオ)で消化したpUC18とが、等モル比となるように混合し、In-Fusion(R) HD Cloning Kit(Clontech)を用い、その添付プロトコールに従って連結し大腸菌形質転換体を得た。得られた形質転換体より、目的の頭部欠損HA-M1融合タンパク質発現カセット(配列番号7、9及び10の塩基配列である塩基又は配列番号8、9及び10である塩基)が挿入されたプラスミドを持つクローンを、シーケンシングにより選抜した。
【0053】
得られたプラスミドより、目的の頭部欠損HA-M1融合タンパク質発現カセットを、Ex-Taq(タカラバイオ)を用いたPCRにより増幅し、pKS221MCS(Wakasaら、2006、Plant Biotechnol. J. 4: 499-510)へのサブクローニングを行なった。イネ形質転換用ベクターp35SHPTAg7-GW(Wakasaら、2006、Plant Biotechnol. J. 4: 499-510)への、頭部欠損HA-M1融合タンパク質発現カセットの移し替えは、Gateway
TMクローニング技術を用いて実施した。すなわち、pKS221MCSにサブクローニングされた頭部欠損HA-M1融合タンパク質発現カセットを挟んで存在するattL1およびattL2の配列と、p35SHPTAg7-GWに存在するattR1およびattR2の配列の間でそれぞれ、Gateway(R)LR クロナーゼ
TMII 酵素ミックス(インビトロジェン)により、その添付プロトコールに従って組換えを起こさせ、頭部欠損HA-M1融合タンパク質発現カセットを、イネ形質転換用ベクターp35SHPTAg7-GWに移し替えた。製成したプラスミドが、目的の形および配列となっていることを、シーケンシングによって確認した。このようにして、イネで頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させるためのプラスミドを構築した(
図1)。
【0054】
2.イネ形質転換体作製と頭部欠損HA-M1融合タンパク質の生産能評価
ア)イネ形質転換体を用いた生産
完成したプラスミドにより、アグロバクテリウム法にてイネ(品種:キタアケ(Kitaake)。種子胚由来カルス)の形質転換を実施し各プラスミドにつき20-25個体の独立したハイグロマイシンB(50 μg/mL)に耐性の形質転換体カルスを得た。イネ形質転換体カルスは、2回のハイグロマイシンBによる選抜後、3%のスクロースを含む、または含まない、N6D液体培地に置床し、28℃、暗黒下で、3日間の振とう培養(80 rpm)を行なった。所定時間の培養後、細胞(カルス)と培地を分離した。
【0055】
イ)タンパク質の分析
培地の3倍量のアセトンを入れ、-20℃で1時間の処理後、13500rpmで10分間遠心し、沈殿物から尿素-SDS バッファー(50 mM Tris-HCl pH 6.8, 8 M Urea, 4 % SDS, 5 % 2-mercaptoethanol, 20 % Glycerol)でタンパク質を抽出した。細胞内のタンパク質の分析に関しては、カルスを液体窒素で凍結し、マルチビーズショッカー(登録商標。安井器械)で粉砕後、尿素-SDS バッファーでタンパク質を抽出した。
【0056】
抽出したタンパク質は、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングに供試した。検出は、抗His抗体によって行なった。頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させたイネ形質転換体カルスの、独立した4系統のSDS-PAGEの結果を
図2に示す。
図2において、各レーンの内容は次の通りである。レーン1:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号1を、スクロースを含まない培地で培養した培養液。レーン2:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号2を、スクロースを含まない培地で培養した培養液。レーン3:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号3を、スクロースを含まない培地で培養した培養液。レーン4:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号4を、スクロースを含まない培地で培養した培養液。レーン5:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号1を、スクロースを含む培地で培養した培養液。レーン6:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号2を、スクロースを含む培地で培養した培養液。レーン7:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号3を、スクロースを含む培地で培養した培養液。レーン8:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号4を、スクロースを含む培地で培養した培養液。レーン9:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号1を、スクロースを含まない培地で培養した細胞塊抽出物。レーン10:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号2を、スクロースを含まない培地で培養した細胞塊抽出物。レーン11:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号3を、スクロースを含まない培地で培養した細胞塊抽出物。レーン12:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号4を、スクロースを含まない培地で培養した細胞塊抽出物。レーン13:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号1を、スクロースを含む培地で培養した細胞塊抽出物。レーン14:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号2を、スクロースを含む培地で培養した細胞塊抽出物。レーン15:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号3を、スクロースを含む培地で培養した細胞塊抽出物。レーン16:頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させた形質転換体系統番号4を、スクロースを含む培地で培養した細胞塊抽出物。
【0057】
イネ形質転換体のカルスを上記条件(暗黒下で3日間、振とう培養)で培養すると、スクロースを含まない培地では、α-アミラーゼが培地中に分泌されるのが観察された。しかしながら、ウエスタンブロッティングの結果、目的の頭部欠損HA-M1融合タンパク質およびリンカー付頭部欠損融合タンパク質は、培地中にも細胞抽出物にも、検出されなかった(データは示していない)。
【0058】
実施例2:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質のイネによる生産
1.改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質のイネ発現用プラスミドの構築
上述のように、頭部欠損HA-M1融合タンパク質がイネで発現しなかったので、改良を行なった。その概略を、
図3に示す。
【0059】
ア)改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質のデザイン
(i)改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質A(配列番号1中の第51~339番残基および第529~554番残基が欠損)
配列番号7に示された頭部欠損HA-M1融合タンパク質遺伝子を元に、184番目のグアニンから186番目のグアニンまでのコドンにコードされたグルタミン酸から、349番目のシトシンから351番目のアデニンまでのコドンにコードされたプロリンまでの56アミノ酸よりなる配列を欠損させた改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Aに、配列番号67にコードされたリンカーにコードされたアミノ酸配列を挿入したタンパク質(リンカー付き改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質A)をコードするヌクレオチド(配列番号12)をデザインした。分泌シグナル・6xHisタグを除去したリンカー付改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Aのアミノ酸配列は、配列番号61となる。
【0060】
(ii)改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質B(配列番号1中の第51~335番残基および第529~554番残基が欠損)
配列番号7に示された頭部欠損HA-M1融合タンパク質遺伝子を元に、184番目のグアニンから186番目のグアニンまでのコドンにコードされたグルタミン酸から、337番目のシトシンから339番目のグアニンまでのコドンにコードされたロイシンまでの52アミノ酸よりなる配列を欠損させた改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bに、配列番号13にコードされたリンカーを挿入したタンパク質(リンカー付き改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質B)をコードするヌクレオチド(配列番号14)をデザインした。分泌シグナル・6xHisタグを除去したリンカー付改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bのアミノ酸配列は、配列番号62となる。
【0061】
(iii)改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質C(配列番号1中の第59~339番残基および第529~554番残基が欠損)
配列番号7に示された頭部欠損HA-M1融合タンパク質遺伝子を元に、208番目のチミンから210番目のシトシンまでのコドンにコードされたシステインから、349番目のシトシンから351番目のアデニンまでのコドンにコードされたプロリンまでの48アミノ酸よりなる配列を欠損させた改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Cに、配列番号67にコードされたリンカーを挿入したタンパク質(リンカー付き改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Cをコードするヌクレオチド(配列番号15)を、デザインした。分泌シグナル・6xHisタグを除去したリンカー付改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Cのアミノ酸配列は、配列番号63となる。
【0062】
(iv)改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質D(配列番号1中の第59~335番残基および第529~554番残基が欠損)
配列番号7に示された頭部欠損HA-M1融合タンパク質遺伝子を元に、208番目のチミンから210番目のシトシンまでのコドンにコードされたシステインから、337番目のシトシンから339番目のグアニンまでのコドンにコードされたロイシンまでの44アミノ酸よりなる配列を欠損させた改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Dに、配列番号13にコードされたリンカーを挿入したタンパク質(リンカー付き改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質D)をコードするヌクレオチドを、デザインした。分泌シグナル・6xHisタグを除去したリンカー付改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Dのアミノ酸配列は、配列番号64となる。
【0063】
イ)プラスミドの構築
リンカー付き改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質A、B、C3種の遺伝子を含むプラスミドを増幅した。
【0064】
すなわち、頭部欠損HA-M1融合タンパク質のイネでの発現用プラスミド(実施例1に記載)を元に、このプラスミド中の頭部欠損HA-M1融合タンパク質をコードする領域の、欠損を拡大したい領域の外側に向けて、両側とも35 merの配列に、ひとつは5’側にリンカー配列をコードするヌクレオチドを付与したプライマー、もうひとつは5’側にもう片方のプライマーの5’側より15 merの配列と相補関係にある配列を付与したプライマーを設計した。このプライマーを使用し、頭部欠損HA-M1融合タンパク質のイネでの発現用プラスミドを鋳型に、KOD-FX Neo(東洋紡)を用いて、その添付プロトコールに従って、PCRを実施した。PCR産物を、0.3% アガロースゲルにて電気泳動し、増幅されたバンドを臭化エチジウムで染色後、目的のバンドをUV照射下で切り出した。これを、illustra GFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit(GE ヘルスケア)で精製した後、In-Fusion(R) HD Cloning Kit(Clontech)を用い、その添付プロトコールに従って環状化した。
【0065】
連結によって製成したプラスミドが、目的の形および配列となっていることを、シーケンシングによって確認した。このようにして、イネで3種の改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させるためのプラスミドが構築された。
【0066】
2.イネ形質転換体作製と改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質の生産能評価
ア)イネ形質転換体による生産
完成した3種のプラスミドにより、アグロバクテリウム法にてイネ(品種:キタアケ(Kitaake)。種子胚由来カルス)の形質転換を実施し各プラスミドにつき20-25個体の独立したハイグロマイシンB 50 μg/mL)に耐性のイネ形質転換体カルスを得た。イネ形質転換体カルスは、2回のハイグロマイシンBによる選抜後、3%のスクロースを含む、または含まない、N6D液体培地に置床し、28℃、暗黒下で、3日間の振とう培養(80 rpm)を行なった。所定時間の培養後、細胞(カルス)と培地を分離した。
【0067】
イ)タンパク質の分析
培地に分泌されたタンパク質の分析に関しては、培地容積の3倍量のアセトンを入れて混合し、-20℃で1時間の放置後、13500rpmで10分間遠心し、沈殿物から尿素-SDS バッファーでタンパク質を抽出した。細胞内のタンパク質の分析に関しては、カルスを液体窒素で凍結し、マルチビーズショッカー(登録商標。安井器械)で粉砕後、尿素-SDS バッファーでタンパク質を抽出した。
【0068】
抽出したタンパク質は、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングに供試した。検出は、抗His抗体によって行なった。改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Aおよび改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bを発現させたイネ形質転換体カルスの、それぞれ独立した10系統のSDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングの結果を
図4に示す。
図4において、各レーンの内容は次の通りである。レーン1:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Aを発現させた形質転換体系統番号1の細胞塊抽出物。レーン2:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Aを発現させた形質転換体系統番号2の細胞塊抽出物。レーン3:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Aを発現させた形質転換体系統番号3の細胞塊抽出物。レーン4:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Aを発現させた形質転換体系統番号4の細胞塊抽出物。レーン5:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Aを発現させた形質転換体系統番号5の細胞塊抽出物。レーン6:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Aを発現させた形質転換体系統番号6の細胞塊抽出物。レーン7:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Aを発現させた形質転換体系統番号7の細胞塊抽出物。レーン8:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Aを発現させた形質転換体系統番号8の細胞塊抽出物。レーン9:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Aを発現させた形質転換体系統番号9の細胞塊抽出物。レーン10:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Aを発現させた形質転換体系統番号10の細胞塊抽出物。レーン11:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bを発現させた形質転換体系統番号1の細胞塊抽出物。レーン12:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bを発現させた形質転換体系統番号2の細胞塊抽出物。レーン13:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bを発現させた形質転換体系統番号3の細胞塊抽出物。レーン14:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bを発現させた形質転換体系統番号4の細胞塊抽出物。レーン15:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bを発現させた形質転換体系統番号5の細胞塊抽出物。レーン16:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bを発現させた形質転換体系統番号6の細胞塊抽出物。レーン17:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bを発現させた形質転換体系統番号7の細胞塊抽出物。レーン18:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bを発現させた形質転換体系統番号8の細胞塊抽出物。レーン19:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bを発現させた形質転換体系統番号9の細胞塊抽出物。レーン20:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bを発現させた形質転換体系統番号10の細胞塊抽出物。
【0069】
どちらの頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させたイネ形質転換体カルスも、SDS-PAGEでははっきりとしたバンドを確認できなかったが、ウエスタンブロッティングでは、想定分子量の位置に目的タンパク質のバンドを確認できた。このことより、HAの頭部欠損領域を拡大することにより、イネでの頭部欠損HA-M1融合タンパク質の発現量が増加することが確認できた。
【0070】
実施例3:再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質のイネによる生産
1.再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質のイネ発現用プラスミドの構築
ア) 再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質の設計
頭部欠損HA-M1融合タンパク質のイネでの発現量を増やすために、以下のように、さらなる改良を実施した。
【0071】
(i)再改良型頭部欠損融合タンパク質B+KDEL(配列番号1中の第51~335番残基および第529~554番残基に加え、第555~566番残基が欠損)
National Center for Biotechnology Informationのデータベースより、イネのGlobulin-1遺伝子(Glb-1)の、分泌シグナルをコードするヌクレオチド配列を取得した(配列番号50)。配列番号14に示されたヌクレオチド配列にコードされた改良型頭部欠損融合タンパク質Bについて、イネα-アミラーゼ3Dの分泌シグナルをコードする、10番目のアデニンから84番目のチミンまでの75ヌクレオチド配列を、Glb-1の分泌シグナルをコードするヌクレオチド配列と置換し、さらにC末端の6xHisタグをコードする配列の下流に、小胞体係留シグナルであるKDEL配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号22)を連結した、改良型頭部欠損融合タンパク質B+KDELをコードするヌクレオチド配列をデザインした(配列番号23)。また改良型頭部欠損融合タンパク質B+KDELについて、HAのC末端に存在する、12アミノ酸配列からなるサイトプラズミックテールをコードする、配列番号23の775番目のチミンから810番目のチミンまでの36塩基配列を除去し、そこにフレキシブルな構造を取るGSAGSAのリンカーをコードするヌクレオチド配列(配列番号24)を挿入した、再改良型頭部欠損融合タンパク質B+KDELをコードするヌクレオチド配列をデザインした(配列番号25)。なお、分泌シグナル、6xHisタグおよびKDELを連結しない再改良型頭部欠損融合タンパク質Bの配列は配列番号65とした。
【0072】
(ii)再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質D+KDEL(配列番号1中の第59~335番残基および第529~554番残基に加え、第555~566番残基が欠損)
また、配列番号7に示された頭部欠損HA-M1融合タンパク質遺伝子を元に、イネα-アミラーゼ3Dの分泌シグナルをコードする、10番目のアデニンから84番目のチミンまでの75ヌクレオチド配列を、Glb-1の分泌シグナルをコードするヌクレオチド配列と置換し、また208番目のチミンから210番目のグアニンまでのコドンにコードされたシステインから、337番目のシトシンから339番目のグアニンまでのコドンにコードされたロイシンまでの44アミノ酸よりなる配列を欠損させ、配列番号13にコードされたリンカーにコードされたアミノ酸配列を挿入し(改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質D)、さらにC末端の6xHisタグをコードする配列の下流に、小胞体係留シグナルであるKDEL配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号22)を連結した、改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質D+KDELをコードするヌクレオチド(配列番号26)をデザインした。改良型頭部欠損融合タンパク質Dについて、HAのC末端に存在する、12アミノ酸配列からなるサイトプラズミックテールをコードする、配列番号26の799番目のチミンから834番目のチミンまでの36塩基配列を除去し、そこにフレキシブルな構造を取るGSAGSAのリンカーをコードするヌクレオチド配列(配列番号24)を挿入した、再改良型頭部欠損融合タンパク質D+KDELをコードするヌクレオチド配列をデザインした(配列番号27)。なお、分泌シグナル、6xHisタグおよびKDELを連結しない再改良型頭部欠損融合タンパク質Dの配列は配列番号66とした。
【0073】
イ)プラスミドの構築
イネでの発現用ベクター構築の概略を、
図5に示す。National Center for Biotechnology Informationのデータベースより、イネのGlobulin-1遺伝子(Glb-1)のプロモーター(配列番号28)およびターミネーター(配列番号29)のヌクレオチド配列を取得した。そして、
図5に示す構造の、二種のRNA干渉を引き起こさせるための構築物であるグルテリン発現抑制カセット及びプロラミン発現抑制カセットをデザインした。具体的には、まず、イネの貯蔵タンパク質であるグルテリンA、B、Cの発現を抑制するために、イネのUbi1遺伝子の約2 kbのプロモーター(配列番号30)と、pRI 101-AN(タカラバイオ)に由来するNOSのターミネーター(配列番号31)の間に、rice aspartic proteaseの3rd intron(RAP 3rd intron、配列番号32)を挟んで、グルテリンA、B、C遺伝子の一部の配列(配列番号33)およびその配列と相補な関係にある配列(配列番号34)を配置した構築物をデザインし、グルテリン発現抑制カセットと命名した。同様に、イネの貯蔵タンパク質である13 KDおよび16 KDのプロラミンの発現を抑制するために、イネのUbi1遺伝子の約2 kbのプロモーター(配列番号28)と、pRI 101-AN(タカラバイオ)に由来するNOSのターミネーター(配列番号29)の間に、rice aspartic proteaseの3rd intron(RAP 3rd intron、配列番号32)を挟んで、13 KDおよび16 KDのプロラミン遺伝子の一部の配列(配列番号35)およびその配列と相補な関係にある配列(配列番号36)を配置した構築物をデザインし、プロラミン発現抑制カセットと命名した。これら二種の発現抑制カセットを、Ex-Taq(タカラバイオ)を用いたPCRで合成し、エントリーベクターであるpKS4-MCSおよびpKS221MCS(いずれも、Wakasaら、2006、Plant Biotechnol. J. 4: 499-510に詳細を記載)にサブクローニングした。一方で、改良型もしくは再改良型頭部欠損融合タンパク質BもしくはDの発現カセットをEx-Taq(タカラバイオ)を用いたPCRで合成し、エントリーベクターpK
S2-3MCS(Wakasaら、2006、Plant Biotechnol. J. 4: 499-510に詳細を記載)にサブクローニングした。そして、上記三種のカセットを、得られた三種のエントリーベクターより、Gateway
TMクローニング技術を用いてイネ形質転換用ベクターp35SHPTAg7-43GW(Wakasaら、2006、Plant Biotechnol. J. 4: 499-510)へ移し替えた。具体的には、pKS4-MCSにサブクローニングされたグルテリン発現抑制カセットを挟んで存在するattL4配列およびattR1配列、pKS221MCSにサブクローニングされたプロラミン発現抑制カセットを挟んで存在するattL1配列およびattL2配列、pKS2-3MCSにサブクローニングされた改良型もしくは再改良型頭部欠損融合タンパク質BもしくはDの発現カセットを挟んで存在するattR2配列およびattL3配列、イネ形質転換用ベクターp35SHPTAg7-43GWに存在するattR4配列およびattR3配列について、attL1とattR1、attL2とattR2、attL3とattR3、attL4とattR4の各配列の間で、Gateway(R)LR クロナーゼ
TMII 酵素ミックス(インビトロジェン)により、その添付プロトコールに従って組換えを起こさせ、三種のカセットを、イネ形質転換用ベクターp35SHPTAg7-43GWにまとめて移し替えた。その結果、
図5に示すとおり、Glbpro:HA52-335(-linker)、Glbpro:HA52-335(+linker)、Glbpro:HA59-335(-linker)、Glbpro:HA59-335(+linker)の、4種類のプラスミドが構築された。
【0074】
2.イネ形質転換体作成とタンパク生産能の評価
完成したプラスミドにより、アグロバクテリウム法にてイネ(品種:キタアケ(Kitaake))の形質転換を実施し各プラスミドにつき20-25個体の独立したハイグロマイシンB(50 μg/mL)に耐性の形質転換体カルスを得た。イネ形質転換体カルスから、定法に従って植物体を再分化させ、閉鎖系温室にて短日条件下で栽培を行ない、種子を採種した。得られた種子からタンパク質を抽出し、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングに供試した。すなわち、種子をマルチビーズショッカー(登録商標。安井器械)で粉砕後、1粒あたり 400μLの尿素-SDS バッファー(50 mM Tris-HCl pH 6.8, 8 M Urea, 4 % SDS, 5 % 2-mercaptoethanol, 20 % Glycerol)を加え、1時間、ボルテックスにて撹拌し、14,000rpmで10分遠心後、上清 (3-6 μL)をSDS-PAGEに供試した。SDS-PAGEには12%のポリアクリルアミドゲルを用いた。ウエスタンブロッティングの検出は、抗His抗体によって行なった。
【0075】
結果を
図6に示す。
図6において、各レーンの内容は、左から順に次の通りである。
図5のGlbpro:HA52-335-M1(-linker)の形質転換体の系統#02, #03, #06, #12, #18。
図5のGlbpro:HA59-335-M1(-linker)の形質転換体の系統#02, #04, #16, #21, #23。
図5のGlbpro:HA52-335-M1(+linker)の形質転換体の系統#03, #08, #14, #19, #25。
図5のGlbpro:HA59-335-M1(+linker)の形質転換体の系統#01, #04, #05, #18。
【0076】
HAの頭部欠損領域の違いは、頭部欠損融合タンパク質の発現量に大きな違いをもたらさなかった。一方で、HAのC末端に存在する12アミノ酸配列からなるサイトプラズミックテールの除去および/またはフレキシブルな構造を取るGSAGSAのリンカーの挿入は、頭部欠損融合タンパク質の発現量を増加させる効果が示された。
【0077】
3.再改良型HA-M1融合タンパク質の様々なイネカルス発現ベクター
ア)様々なイネカルス発現用ベクターの構築
イネのカルスでの発現用ベクター構築の概略を、
図7に示す。
【0078】
(i)ベクター甲
ベクター構築のためのDNA断片はKOD-One(東洋紡)により増幅し、断片の連結はIn-Fusionクローニングキット(タカラバイオ)を用いて実施した。National Center for Biotechnology Informationのデータベースより、トウモロコシのUbiuitin遺伝子(Ubi)のプロモーター(配列番号51)、3xFLAGタグをコードするヌクレオチド配列(配列番号52)を取得した。配列番号27に記載のヌクレオチド配列にコードされる再改良型HA-M1融合タンパク質Dの遺伝子発現用ベクターより、Glb-1プロモーターをUbiプロモーターに置換し、Glb-1の分泌シグナルをコードするヌクレオチド配列と、HAのN末端をコードするヌクレオチド配列の間に、配列番号52の3xFLAGをコードするヌクレオチド配列をin frameで挿入し、配列番号53に記載の遺伝子コード領域を持つベクター甲を構築した。
【0079】
(ii)ベクター乙
ベクター甲から、KDELをコードするヌクレオチド配列を除去し、配列番号54に記載の遺伝子コード領域を持つベクター乙を構築した。
【0080】
(iii)ベクター丙
ベクター乙を元に、配列番号54において、292番目のアデニンから1644番目のグアニンまでのヌクレオチド配列(配列番号55)にコードされるアミノ酸配列について、GenScript社に委託し、同社プログラム "OptimumGene"にて、コドン使用頻度はイネに最適化したままで、配列番号55とは異なるコドンからなるヌクレオチド配列(配列番号56)をデザインし、合成した。
【0081】
(iv)ベクター丁
ベクター乙の、配列番号55の領域を、配列番号56で置換し、配列番号57に記載の遺伝子コード領域を持つベクター丙を構築した。ベクター丙を元に、Glb-1の分泌シグナルをコードする領域を、開始コドンのみを残して削除し、配列番号58に記載の遺伝子コード領域を持つベクター丁を構築した。
【0082】
イ)形質転換体カルスの作成
完成したプラスミドにより、アグロバクテリウム法にてイネ(品種:キタアケ(Kitaake)
)の形質転換を実施し各プラスミドにつき20-25個体の独立したハイグロマイシンB(50 μg/mL)に耐性の形質転換体カルスを得た。イネ形質転換体カルスは、2回のハイグロマイシンBによる選抜後、3%のスクロースを含むN6液体培地に置床し、28℃、暗黒下で2週間の振とう培養を行ない、所定時間の培養後、細胞(カルス)を回収した。回収したカルスは、液体窒素で凍結後、マルチビーズショッカー(登録商標。安井器械)で粉砕し、尿素-SDSバッファーでタンパク質を抽出した。抽出したタンパク質は、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングに供試した。検出は抗FLAG抗体によって行なった。
【0083】
ウ)タンパク質の分析
ベクター甲による形質転換体の独立した6系統と、ベクター乙による形質転換体の独立した5系統の、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングの結果を、
図8に示す。
図8において、各レーンの内容は次の通りである。レーン 1~6:ベクター甲を発現したイネのカルスのHA-M1融合タンパク質の発現(各レーンはそれぞれ独立したクローン)。レーン 7~11:ベクター乙を発現したイネのカルスのHA-M1融合タンパク質の発現(各レーンはそれぞれ独立したクローン)。系統によるばらつきはあるものの、KDELの付与されていない再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Dを発現するベクター乙による形質転換体の発現量は、KDELの付与されたベクター甲による形質転換体よりも高い傾向にあり、KDELの付与は、頭部欠損HA-M1融合タンパク質の発現を抑制する傾向があることが示された。
【0084】
ベクター乙による形質転換体の独立した5系統と、ベクター丙による形質転換体の独立した4系統、ベクター丁による形質転換体の独立した5系統の、ウエスタンブロッティングの結果を、
図9に示す。
図9において、各レーンの内容は次の通りである。レーン 1~5:ベクター乙を発現したイネのカルスのHA-M1融合タンパク質の発現(各レーンはそれぞれ独立したクローン)。レーン 6~10:ベクター丙を発現したイネのカルスのHA-M1融合タンパク質の発現(各レーンはそれぞれ独立したクローン)。レーン 11~14:ベクター丁を発現したイネのカルスのHA-M1融合タンパク質の発現(各レーンはそれぞれ独立したクローン)。系統によるばらつきはあるものの、コドンを変えた再改良型頭部欠損融合タンパク質Dを発現するベクター丙による形質転換体の発現量は、ベクター乙による形質転換体の発現量と比較して顕著な差が認められず、コドン使用頻度を変えずに頭部欠損HA-M1融合タンパク質を発現させる遺伝子のコドンの変更は、発現量に大きな効果をもたらさないことが示された。一方で、頭部にGlb-1の分泌シグナルを持たない再改良型頭部欠損融合タンパク質Dを発現するベクター丁による形質転換体の発現量は、Glb-1の分泌シグナルを持つベクター丙による形質転換体よりも低い傾向にあり、Glb-1の分泌シグナルの付与は、頭部欠損HA-M1融合タンパク質の発現を促進する効果があることが示された。
【0085】
実施例4:動物試験用抗原タンパク質の合成
1 頭部欠損 HA-M1融合タンパク質及び改良型頭部欠損 HA-M1融合タンパク質である、抗原タンパク質合成用プラスミドの構築
ア)頭部欠損 HA-M1融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むプラスミド
配列番号8のヌクレオチド配列にコードされた頭部欠損HA-M1融合タンパク質について、イネのα-アミラーゼ3Dの分泌シグナル25アミノ酸をコードする領域を除き、またM1のアミノ酸配列を(A/swine/IL/00685/2005(H1N1))株のM1タンパク質のアミノ酸配列(登録番号:ACM17279.1、配列番号16)に変更したものを、コドンをHA、M1それぞれ元のウイルスのコドンに戻し、すなわち、HAについては登録番号MK622940.1の配列、M1については登録番号FJ638301.1の配列のコドンに戻したヌクレオチド配列をデザインした(配列番号17)。
【0086】
このヌクレオチド配列の、5'末端にEcoRV配列と開始コドン(ATG)を、3'末端の終始コドン(TGA)の後ろにNotI配列を付加した配列を人工遺伝子合成し、小麦無細胞タンパク合成系用プラスミドであるpEU-E01-MCS(セルフリーサイエンス)のEcoRVとNotIの間に挿入し、pKBac1199と命名した。挿入された配列に変異がないことをシーケンシングにより確認した。
【0087】
イ)改良型頭部欠損 HA-M1融合タパク質をコードするヌクレオチド配列を含むプラスミド
改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質を小麦無細胞タンパク合成系で合成するために、pKBac1199を元に以下の改変を行なった。配列番号17に記載のヌクレオチド配列について、100番目のグアニンから300番目のグアニンまでのヌクレオチド配列を削除し、そこに配列番号11に記載の配列を挿入し、配列番号18のヌクレオチド配列をデザインした。すなわち、pBac1199を鋳型として、KOD FX Neo(東洋紡)を用いたPCRにより、新版 植物のPCR実験プロトコール(島本功・佐々木卓治監修、秀潤社、1997、p95-p100)記載の合成遺伝子の作成方法により、配列番号18のヌクレオチド配列の、5'末端にEcoRV配列と開始コドン(ATG)を、3'末端の終始コドン(TGA)の後ろにNotI配列を付加した断片を作製し、小麦無細胞タンパク合成系用プラスミドであるpEU-E01-MCS(セルフリーサイエンス)のEcoRVとNotIの間に挿入し、pKBac1201と命名した。挿入された配列に変異がないことをシーケンシングにより確認した。得られたプラスミドは、大腸菌DH5α(東洋紡社)にクローニングし、QIAGEN Plasmid Maxi Kit(キアゲン社)を用いて大量調製した。
【0088】
2.抗原タンパク質の合成
1 mg/mLの濃度に調製したプラスミドを鋳型に、頭部欠損HA-M1タンパク質および改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bの合成をした。合成の概要は以下のとおり。プラスミド上のSP6プロモーターを利用して37℃で6時間の転写反応を行ない、mRNAを合成した。合成したmRNAを用い、反応スケール6 mLの重層法で翻訳反応(15℃、20時間)を行なった。コムギ胚芽抽出液は、頭部欠損HA-M1タンパク質に関してはWEPRO7240H(セルフリーサイエンス)を、改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質に関してはWEPRO7240(セルフリーサイエンス)を、それぞれ使用した。合成されたタンパク質(総画分)を遠心(21,600xG、4℃、10分間)し、沈殿画分を、コムギ無細胞タンパク質合成系用翻訳バッファー(セルフリーサイエンス社)にて2回洗浄後、コムギ無細胞タンパク質合成系用翻訳バッファーに、約1 mg/mLとなるように懸濁した。頭部欠損HA-M1融合タンパク質の配列は配列番号19、改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質の配列は配列番号20とした。
【0089】
3.再改良型頭部欠損 HA-M1融合タンパク質である、抗原タンパク質合成用プラスミドの構築
ア)再改良型頭部欠損 HA-M1融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むプラスミド
再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質を小麦無細胞タンパク合成系で合成するためのベクター作製を、以下のように実施した。
【0090】
改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を持つpKBac1201を元に、欠損させたいHAのC末端の12アミノ酸配列をコードする領域から外側に向けた2本のプライマーを用いてPCRを行ない、この領域を欠損させた、開環化されたベクターの断片を作製した。一方で、この欠損させた領域を、GSAGSAからなるアミノ酸配列をコードするヌクレオチドで連結するために、このアミノ酸配列をコードし、かつ両端に、開環化されたベクター配列の二つの末端と15 merの相同配列を持つ、お互いに相補鎖の関係となる2本のオリゴヌクレオチドを合成し、アニールさせた断片を作製した。これら2本の作製された断片を、In-Fusionクローニングキットを用いて連結し、プラスミドを完成させた。
【0091】
具体的には、4つのオリゴヌクレオチド、TKIWver3_1(配列番号37)、TKIWver3_2(配列番号38)、TKIWver3_3(配列番号39)、TKIWver3_4(配列番号40)を合成した。プラスミドpKBac1201を鋳型とし、TKIWver3_1とTKIWver3_2をプライマーセットとして、KOD One(東洋紡)を用いて、その添付プロトコールに従ってPCRを実施し、増幅された断片をアガロースゲル電気泳動後のゲルより、illustra GFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit(GE ヘルスケア)で精製・回収した。また、TKIWver3_3およびTKIWver3_4(それぞれ、0.1 nmol/μLの濃度の水溶液として調製されている)を40 μLずつ混合し、鍋に張った水の上で1分間、煮沸した後に、そのまま鍋の水が室温に戻るまで放置し、アニーリングを促した。得られた断片を定法に従ってエタノール沈殿により濃縮した。このようにして得た二種類の断片を、In-Fusionクローニングキットを用いて環状化し、大腸菌DH5α(東洋紡)の形質転換を行なった。このようにして作製されたプラスミドが、目的のとおりの構築がなされていることは、シーケンシングにより確認し、pKBac1211と命名した。得られたプラスミドは、大腸菌DH5α(東洋紡)にクローニングし、QIAGEN Plasmid Maxi Kit(キアゲン)を用いて調製した。
【0092】
4.抗原タンパク質の合成
1 mg/mLの濃度に調製したプラスミドpKBac1211を鋳型に、再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質を合成した。合成の概要は以下のとおり。プラスミド上のSP6プロモーターを利用して37℃で6時間の転写反応を行ない、mRNAを合成した。合成したmRNAを用い、反応スケール6 mLの重層法で翻訳反応(15℃、20時間)を行なった。コムギ胚芽抽出液はWEPRO7240を使用した。合成されたタンパク質(総画分)を遠心(21,600xG、4℃、10分間)し、沈殿画分を、コムギ無細胞タンパク質合成系用翻訳バッファー(セルフリーサイエンス社)にて2回洗浄後、コムギ無細胞タンパク質合成系用翻訳バッファーに、約1 mg/mLとなるように懸濁した。このように調製したタンパク質を、抗原タンパク質C(再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質、配列番号41)とした。
【0093】
実施例5:頭部欠損HA-M1融合タンパク質および改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bの酵母での発現
頭部欠損HA-M1融合タンパク質および改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質B(上記イネの実施例において作成したB)について、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeによる発現を試みた。
【0094】
1.酵母発現用プラスミドの構築
酵母で発現させるためのプロモーターに関しては、Saccharomyces Genome Database(https://www.yeastgenome.org/)より、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの0.7 kbのTDH3遺伝子プロモーターのヌクレオチド配列を取得した(配列番号21)。この配列の5'側にSpeIサイト、3'側にEcoRVを付加するプライマーを作製し、BY4741(フナコシ)の染色体DNAを鋳型として、KOD FX Neoにより、その添付プロトコールに従ってPCRを行なった。その後、SpeIとEcoRVで消化し、illustra GFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit(GE ヘルスケア)で精製し、TDH3プロモーター断片とした。また小麦無細胞タンパク合成系用ベクター、pKBac1199およびpKbac1201より、それぞれ頭部欠損HA-M1融合タンパク質および改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bをコードするヌクレオチド配列を含む断片について、EcoRV-NotI断片として、アガロースゲル電気泳動後のゲルより、illustra GFX PCR DNA and Gel Band Purification Kitで精製・回収した。また、骨格となるベクター、pYES2(インビトロジェン)についてSpeI(New England Biolabs)とNotI(New England Biolabs)で消化後、1% アガロースゲルで電気泳動を行ない、臭化エチジウムで染色後、ベクターのバンドをUV照射下で切り出した。
【0095】
図10に示すように、酵母用プラスミドpYES2のSpeI部位とNotI部位の間に、5'側からTDH3プロモーター、頭部欠損HA-M1融合タンパク質もしくは改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bをコードするヌクレオチドを、この順番で、Ligation High ver.2(東洋紡)を用いて連結した。連結によって製成したプラスミドが、目的の形および配列となっていることを、シーケンシングによって確認した。
【0096】
このようにして、頭部欠損HA-M1融合タンパク質および改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bを酵母で発現させるためのプラスミドを構築し、それぞれpKBac1207およびpKBac1208と命名した。これらのプラスミドは、多コピーで、酵母の核外で自律複製するタイプのものであり、選択マーカーとして宿主のウラシル要求性を相補するURA3遺伝子を持っている。
【0097】
2.酵母形質転換体作製と頭部欠損HA-M1融合タンパク質および改良型頭部欠損 HA-M1融合タンパク質Bの生産能評価
ア)酵母形質転換体による生産
酵母を用いた実験は、他に記載がない限り、Current Protocol in Molecular Biology(John Wiley & Sons)に記載の方法を用いた。完成したプラスミドpKBac1207およびpKBac1208を、リチウム法にて出芽酵母Saccharomyces cerevisiae(菌株:BY4741、BY4742、フナコシ)に導入した。得られた形質転換体を、10 mLのSD培地(ウラシルを含まない)を入れた100 mLの三角フラスコにて、25℃、120 rpmで一晩、振とう培養を行なった。
【0098】
イ)タンパク質の分析
培養後、遠心分離にて酵母を回収し、0.1 mLの抽出バッファー(50 mM Tris-HCl pH 6.8, 8 M Urea, 4 % SDS, 50 mM DTT, 20 % Glycerol)の存在下でガラスビーズ(直径:425-600 μm、シグマ)と一緒に激しく撹拌することにより、細胞を破砕した。細胞抽出液を遠心分離により回収し、アトー社のシステムを用いてSDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングに供試した。検出は抗His抗体によって行なった。
【0099】
結果を
図11に示す。
図11において、各レーンの内容は次の通りである。1: 分子量マーカー。2,3: オリジナル型/BY4741。4,5: 改良型B/BY4741。6: BY4741(ネガティブコントロール)。7,8: オリジナル型/BY4742。9,10: 改良型/BY4742。11: BY4742(ネガティブコントロール)。オリジナル型:頭部欠損HA-M1融合タンパク質。改良型:改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質B。
【0100】
宿主にBY4741、BY4742のいずれを用いた場合にも、改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質Bの発現量は、頭部欠損HA-M1融合タンパク質の発現量よりも多かった。このことから、イネを宿主とした場合のみならず酵母を宿主とした場合でも、HAの頭部欠損領域を拡大することにより、頭部欠損HA-M1融合タンパク質の発現量が増加することが確認できた。
【0101】
植物界被子植物門イネ目イネ科のイネと、菌界子嚢菌門サッカロミケス目サッカロミケス科の出芽酵母で、HAの頭部欠損領域の拡大が、頭部欠損HA-M1融合タンパク質の発現量増加に効果があったことから、植物界および菌界で共通して、HAの頭部欠損領域の拡大が、頭部欠損HA-M1融合タンパク質の発現量増加に効果があることが示された。
【0102】
実施例6:酵母による再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質の発現
1.融合タンパク質の設計
頭部欠損HA-M1融合タンパク質のHA部分の改変が、酵母における発現量に与える影響を調べるため、
図12に概略を示すように、新たな発現ベクターのシリーズを構築した。すなわち、頭部欠損HA-M1融合タンパク質の発現に用いたベクターを元に、酵母での選択マーカー遺伝子をURA3からPGK1プロモーターとPGK1ターミネーターに挟まれたG418耐性遺伝子からなる、G418耐性カセットと置換した。また、HAの頭部は、頭部欠損HA-M1融合タンパク質と同じ領域を欠損させたものと、改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質と同じ領域を欠損させたものの2種類、HAのC末端は、再改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質と同じC末端の12アミノ酸配列をコードする領域を欠損させたものと欠損させていないものの2種類を組合せ、合計4種類の遺伝子合成を行なった。またこれらの遺伝子には、各融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列の5'側に、FLAGタグコードするヌクレオチド配列(配列番号42)をタンデムに3コピー連結させたヌクレオチド配列と、さらにその5'側に、MFA1遺伝子の分泌シグナルをコードするヌクレオチド配列(配列番号43)と、さらにその5'側に、HindIII配列を付加した。また、HAとM1の間には、GSAGSAからなるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号44)を挿入した。このようにして、4種類の融合タンパク質のデザインを行なった(配列番号45~48)。
【0103】
2.ベクターの構築
pKBac1207の選択マーカーであるURA3遺伝子を、Yamanoらの論文(J. Biotechnol., 32: 173-178, 1994)に記載のプラスミドpZNEOを鋳型としてPCRで取得したG418耐性カセットと、In-Fusionクローニングにより置換し、pKBac1207NEOを得た。MFA1遺伝子の分泌シグナルをコードするDNA断片は、BY4741(フナコシ)の染色体DNAを鋳型としてPCRにより取得した。FLAGタグをコードするヌクレオチド配列をタンデムに3コピー連結させたDNA断片は、人工合成によって取得した。融合タンパク質をコードするDNA断片は、pKBac1199、pKBac1201、pKBac1211を鋳型としたPCRを組み合わせて、KOD One(東洋紡)により断片を増幅し、最終的にはすべての断片をIn-Fusionクローニングによって、pKBac1207NEOのTDH3プロモーターとCYC1ターミネーターの間に
図12の形に連結させ、pYHAM1-1、pYHAM1-2、pYHAM1-15、pYHAM1-16の4つのプラスミドを得た。発現させる融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列が正しいことはシーケンシングによって確認した。
【0104】
3.酵母形質転換体作製と各種融合タンパク質の生産能評価
酵母を用いた実験は、他に記載がない限り、Current Protocol in Molecular Biology(John Wiley & Sons)に記載の方法を用いた。完成したプラスミドpYHAM1-1、pYHAM1-2、pYHAM1-15、pYHAM1-16を、リチウム法にて出芽酵母Saccharomyces cerevisiae(菌株:Wyeast3724、Wyeast社)に導入した。得られた形質転換体を、10 mLのYPD培地(200 μg/LのG418を含む)を入れた100 mLの三角フラスコにて、30℃、150 rpmで一晩、振とう培養を行なった。
【0105】
培養後、遠心分離にて酵母を回収し、0.1 mLの抽出バッファー(50 mM Tris-HCl pH 6.8, 8 M Urea, 4 % SDS, 50 mM DTT, 20 % Glycerol)の存在下でガラスビーズ(直径:425-600 μm、シグマ)と一緒に激しく撹拌することにより、細胞を破砕した。細胞抽出液を遠心分離により回収し、アトー社のシステムを用いてSDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングに供試した。検出は抗His抗体によって行なった。
【0106】
結果を
図13に示す。
図13において、各レーンの内容は次の通りである。1: pYHAM1-15, 2: pYHAM1-16, 3: pYHAM1-1, 4: pYHAM1-2。pYHAM1-15、pYHAM1-16を導入した株とpYHAM1-1、pYHAM1-2を導入した株の比較から、HAの頭部欠損領域を拡大することにより、頭部欠損HA-M1融合タンパク質の発現量が増加することが確認できた。一方、pYHAM1-1を導入した株とpYHAM1-2を導入した株の比較から、HAのC末端の12アミノ酸配列を欠損させることにより、すなわち改良型頭部欠損融合タンパク質から再改良型頭部欠損融合タンパク質に改良することにより、頭部欠損HA-M1融合タンパク質の発現量がさらに増加することが示された。植物界被子植物門イネ目イネ科のイネと、菌界子嚢菌門サッカロミケス目サッカロミケス科の出芽酵母で、HAのC末端の12アミノ酸配列を欠損が、頭部欠損HA-M1融合タンパク質の発現量増加に効果があったことから、植物界および菌界で共通して、HAのC末端の12アミノ酸配列の欠損が、頭部欠損HA-M1融合タンパク質の発現量増加に効果があることが示された。
【0107】
実施例7:インフルエンザ感染マウスによる薬効試験(改良型。皮下・経鼻)
1.試験の概要
被験物質のインフルエンザウイルスに対する抑制効果を確認する目的で、マウスに、抗原タンパク質(被験物質)を予め投与(皮下投与又は経鼻投与)し、インフルエンザウイルスに対する反応を検討した。概要を
図14に示す。試験群は12群(表1)とした。
【0108】
【0109】
2.試験方法
ア)被験物質
実施例6により調製した改良型頭部欠損HA-M1融合タンパク質を抗原タンパク質とした。
改良型; HA51-335融合タンパク質B(配列番号1中の第51~335残基および第529~554残基が欠損)
【0110】
イ)動物
動物は、マウスBALB/c、メス、4週令(試験開始時)(日本チャールス・リバーより購入し馴化して使用)を用いた。
【0111】
動物は5頭/ケージで、室温24±3℃、湿度50±20%、換気10-25回/時間、照明12時間の環境下で飼育した。飼料はMF(オリエンタル酵母工業)を自由摂取させることによって給餌した。馴化終了時(試験開始時)の体重を基に群分けした。動物は1群10頭とした。
【0112】
ウ)インフルエンザウイルス
インフルエンザウイルスはH1N1(株名:A/PR/8/34、ATCC. No.:VR-1469、BSL:2、ウイルス力価:1.6×108 TCID50/mL)及びH3N2(株名:A/Port Chalmers/1/73、ATCC. No.:VR-810、BSL:2、ウイルス力価:1.3×107 TCID50/mL)の2亜型を用い、両ウイルスとも既報(中野ら,2015年,第62回日本試験動物学会)に従いマウス高感受性に変異させ、凍結保存したウイルス液を解凍し、PBS(Life Technologies Corporation)を用いて6 × 104 TCID50/mL(3 × 103 TCID50/50 μL)に調製したもの(以下、ウイルス接種液ともいう)を用いた。
【0113】
エ)抗原タンパク質を含む投与液の調製と投与方法
抗原タンパク質は皮下、経鼻それぞれで投与した。投与方法は以下のとおりである。
【0114】
(i)皮下投与
タンパク質改良型溶液(タンパク質濃度250μg/mL)に同体積のアジュバント(InjectTM Alum (Thermo scientific))を加え混合し、これを高用量群投与液とした(タンパク質濃度125μg/mL)。この高用量群投与液をアジュバントで10倍希釈した溶液を低用量群投与液とした(タンパク質濃度12.5μg/mL)。また、ベヒクル投与液は、タンパク質を含まないベヒクル液(前記タンパク質溶液用のベヒクル液にタンパク質を溶解させないもの)とアジュバントを1/1(体積)混合して調製した。
【0115】
上記投与液は、マウス1頭1回あたり0.2mL、7日の間隔をあけて2回、計0.4mLを皮下投与した(高用量群のマウスには1回あたり25μg/head、計50μg/headのタンパク質を、低用量群のマウスには1回あたり2.5μg/head、計5μg/headのタンパク質を投与した)。
【0116】
(ii)経鼻投与
生理食塩水にて250μg/mLに調製したタンパク質改良型懸濁液を高用量群投与液とし、生理食塩水にてさらに10倍希釈したものを低用量群投与液とした。また、生理食塩水をベヒクル投与液とした。
【0117】
上記投与液は、マウス1頭あたり50μLを、7日の間隔をあけて2回、計100μLを経鼻投与した(高用量群のマウスには1回あたり12.5μg/head、計25μg/headのタンパク質を、低用量群のマウスには1回あたり1.25μg/head、計2.5μg/headのタンパク質を投与した)。
【0118】
オ)インフルエンザウイルスの接種
インフルエンザウイルス接種は、2回目の抗原タンパク質投与後7日目(day 0)に、イソフルラン麻酔下で、ウイルス接種液を50μL経鼻接種した。
【0119】
カ)評価
マウスの状態把握のため、ウイルス接種の14日前(Day-14)、7日前(Day-7)、ウイルス接種日(Day0)、ウイルス接種日から3日後(Day3)、7日後(Day7)、10日後(Day10)、14日後(Day14)に体重測定を行った。またウイルス接種日の14日前からウイルス接種日14日後までの期間、マウスの生死、一般状態(活動性の低下及び被毛の粗剛)についても評価した。試験データとして得られた試験群ごとの計量データは平均値±標準偏差で記載した。
【0120】
【0121】
ア)H1N1接種に対する、抗原タンパク質皮下投与の効果
改良型 25 μg/body投与群(1群)および2.5 μg/body投与群(2群)、ならびにベヒクル投与群(3群)のday14時点の生存率(平均生存日数)はそれぞれ100%(14.0日)、90%(13.2日)および50%(11.0日)であり、改良型投与群はベヒクル群に比して生存率と平均生存日数の改善が認められた。生存率の改善については、3群に対し1群で有意差が認められた。
【0122】
一般状態において、1群および2群(改良型投与群)では被毛の粗剛が認められ、その他一部の個体で活動性の低下が散見されたが、その後回復し、観察終了時においては、ほとんどの個体で異常は認められなかった。一方、3群(ベヒクル群)ではほとんどすべての個体において被毛の粗剛および活動性の低下が認められ、観察終了時まで継続した。すなわち、改良型投与群は少なくとも被毛の粗剛化が少ない又は回復が早く、活動性低下が少ない又は回復が早いことが認められた。
【0123】
また、接種後10日目に3群(ベヒクル群)の体重減少がピーク(14.5 ± 0.9 g)であり、この時点における1群および2群の体重は、それぞれ17.4 ± 2.3 gおよび20.4 ± 1.2 gであった。体重減少の抑制は、3群(ベヒクル群)に比して、1群では接種後3、7および14日目、2群では接種後3~14日目において有意差が認められた。すなわち、ベヒクル群に比して、改良型投与群では体重減少の抑制が認められた。
【0124】
イ)H1N1接種に対する、抗原タンパク質経鼻投与の効果
改良型 12.5 μg/head投与群(4群)および1.25 μg/head投与群(5群)、ならびにベヒクル液投与群(6群)の14日時点の群生存率(平均生存日数)はそれぞれ100%(14.0日)、100%(14.0日)および70%(13.0日)であった。改良型投与群はベヒクル群に比して生存率と平均生存日数の改善が認められた。
【0125】
また、接種後10日目に6群(ベヒクル群)の体重減少がピーク(14.9 ± 1.2 g)であり、この時点における4群および5群ではそれぞれ20.4 ± 1.3 gおよび21.1 ± 1.4 gであった。体重減少の抑制は、6群(ベヒクル群)に比して、4群、5群では接種後3~14日目において有意差が認められた。すなわち、ベヒクル群に比して、改良型投与群では体重減少の抑制が認められた。
【0126】
ウ)H3N2接種に対する抗原タンパク質皮下投与の効果
改良型25 μg/head投与群(7群)および2.5 μg/head投与群(8群)、ならびにベヒクル液投与群(9群)の14日時点の生存率(平均生存日数)はそれぞれ90%(13.7日)、100%(14.0日)および100%(14.0日)であった。
【0127】
7群および8群において多くの個体で被毛の粗剛が認められたが、死亡個体を除いてその後回復し、7群では接種後11日目、8群では9日目から回復した。9群では全例において被毛の粗剛が認められ、観察終了日(接種14日目)にほとんどの個体で回復した。すなわち、改良型投与群は少なくとも被毛の粗剛化が少ない又は回復が早いことが認められた。
【0128】
接種後7日目に9群(ベヒクル群)の体重減少がピーク(17.2 ± 1.0 g)であり、この時点における7群および8群ではそれぞれ17.9 ± 1.3 gおよび18.9 ± 1.3 gであった。体重減少の抑制は、9群(ベヒクル群)に比して、8群(改良型2.5μg/head群)では接種後7および10日目において有意差が認められた。すなわち、ベヒクル群に比して、改良型投与群では体重減少の抑制が認められた。
【0129】
エ)H3N2接種に対する、抗原タンパク質経鼻投与の効果
改良型 12.5 μg/head投与群(10群)および1.25 μg/head投与群(11群)、ならびにベヒクル液投与群(12群)の14日時点の生存率(平均生存日数)はそれぞれ90%(13.7日)、100%(14.0日)および70%(13.0日)であり、改良型投与群はベヒクル群に比して生存率と平均生存日数の改善が認められた。
【0130】
10群および11群の半数程度の個体において被毛の粗剛が認められたが、死亡個体を除きほとんどの個体は9~11日目に回復した。12群(ベヒクル群)では全例で被毛の粗剛が認められ、接種後13日目にほとんどの個体が回復した。すなわち、改良型投与群は少なくとも被毛の粗剛化が少ない又は回復が早いことが認められた。
【0131】
また、接種後10日目に12群(ベヒクル群)の体重減少がピーク(17.0 ± 2.7 g)であり、この時点における10群および11群ではそれぞれ19.2 ± 2.4 gおよび20.6 ± 1.2 gであった。体重減少の抑制は、12群(ベヒクル群)に比して、11群(改良型1.25μg/head投与群)では接種後10および14日目に有意差が認められた。すなわち、改良型投与群はベヒクル群に比して体重減少の抑制が認められた。
【0132】
オ)結論
インフルエンザウイルスH1N1を接種した個体において、生存率、一般状態および体重推移の結果から改良型はH1N1のインフルエンザに対し、薬効を有することが示された。
【0133】
H3N2を接種した個体においては、改良型投与群とベヒクル投与群の間における生存率の差が有意でなかった。しかし、一般状態や体重推移で改善傾向を認め、とくに体重減少の抑制においては有意差が認められたため、H3N2のインフルエンザウイルスに対する有効性が示されたと言える。
【0134】
さらに、上述のように、改良型抗原タンパク質を投与したマウスは、該抗原タンパク質を投与されていないベヒクル群と比較して、インフルエンザウイルス(H1N1型及びH3N2型)に対する抵抗性を獲得していることから、抗原タンパク質改良型はA型インフルエンザウイルス亜種間で交差免疫を付与し得るワクチンとして有用であることが示された。
【0135】
実施例8:インフルエンザウイルス感染マウスによる薬効試験(改良・再改良。経鼻)
1.試験の概要
被験物質のインフルエンザウイルスに対する抑制効果を確認する目的で、マウスに、抗原タンパク質(被験物質)を予め経鼻投与し、インフルエンザウイルスに対する反応を検討した。概要を
図16に示す。試験群は14群(表2)とした。
【0136】
【0137】
2.試験方法
ア)被験物質
実施例4により調製した下記頭部欠損HA-M1融合タンパク質3種を抗原タンパク質とした。
オリジナル型; オリジナル融合タンパク質(配列番号1中の第76~308残基および第529~554残基が欠損)
改良型; HA51-335融合タンパク質B(配列番号1中の第51~335残基および第529~554残基が欠損)
再改良型; HA51-335, 555-566融合タンパク質B(配列番号1中の第51~335残基、第529~554残基および第555~566残基が欠損)
【0138】
イ)動物
動物は、マウスBALB/c、メス、6週令(試験開始時)(日本チャールス・リバーより購入し馴化して使用)を用いた。
【0139】
動物は5頭/ケージで、室温24±3℃、湿度50±20%、換気10-25回/時間、照明12時間の環境下で飼育した。飼料はMF(オリエンタル酵母工業)を自由摂取させることによって給餌した。馴化終了時(試験開始時)の体重を基に群分けした。動物は1群10頭とした。
【0140】
ウ)インフルエンザウイルス
インフルエンザウイルスはH1N1(株名:A/PR/8/34、ATCC. No.:VR-1469、BSL:2、ウイルス力価:1.6×108 TCID50/mL)及びH3N2(株名:A/Port Chalmers/1/73、ATCC. No.:VR-810、BSL:2、ウイルス力価:1.3×107 TCID50/mL)の2亜型を用い、両ウイルスとも既報(中野ら,2015年,第62回日本試験動物学会総会)にしたがいマウス高感受性に変異させ、凍結保存したウイルス液を解凍し、PBS(Life Technologies Corporation)を用いて2 × 105 TCID50/mL(1 × 104 TCID50/50 μL)に調製したもの(以下、ウイルス接種液ともいう)を用いた。
【0141】
エ)抗原タンパク質を含む投与液の調製と投与方法
抗原タンパク質の投与方法は以下のとおりである。すなわち、生理食塩水にて250μg/mLに調製したオリジナル型懸濁液、改良型懸濁液又は再改良型懸濁液を高用量群投与液とし、生理食塩水にてさらに10倍希釈したものを低用量群投与液とした。また、生理食塩水をベヒクル投与液とした。
【0142】
上記投与液は、マウス1頭あたり50μLを、7日の間隔をあけて2回、計100μLを経鼻投与した(高用量群のマウスには1回あたり12.5μg/head、計25μg/headのタンパク質を、低用量群のマウスには1回あたり1.25μg/head、計2.5μg/headのタンパク質を投与した)。
【0143】
オ)インフルエンザウイルスの接種
インフルエンザウイルス接種は、2回目の抗原タンパク質投与後7日目(day 0)に、イソフルラン麻酔下で、ウイルス接種液を50μL経鼻接種した。
【0144】
カ)評価
マウスの状態把握のため、ウイルス接種の14日前(Day-14)、7日前(Day-7)、ウイルス接種日(Day0)、ウイルス接種日から3日後(Day3)、7日後(Day7)、10日後(Day10)、14日後(Day14)に体重測定を行った。またウイルス接種日の14日前からウイルス接種日14日後までの期間、マウスの生死、一般状態(活動性の低下及び被毛の粗剛)についても評価した。試験データとして得られた試験群ごとの計量データは平均値±標準偏差で記載した。
【0145】
【0146】
ア)H1N1に対する抗原タンパク質経鼻投与の効果
1群(オリジナル型懸濁液 12.5 μg/ head)、2群(オリジナル型懸濁液 1.25 μg/ head)、3群(改良型懸濁液 12.5 μg/ head)、4群(改良型懸濁液 1.25 μg/50 μL)、5群(再改良型懸濁液 12.5 μg/ head)、6群(再改良型懸濁液 1.25 μg/ head)および7群(生理食塩水 50 μL)の平均生存日数(ウイルス接種14日目の生存率)はそれぞれ13.0日(70%)、10.3日(20%)、12.8日(80%)、10.9日(40%)、12.0日(60%)、11.0日(30%)および9.0日(0%)であった。すなわち、オリジナル型(1群、2群)、改良型(3群、4群)、再改良型(5群、6群)のいずれの群も、ベヒクル(生食)群に比して平均生存日数と接種14日目の生存率に改善が認められた。生存率の改善について、1群、3群、4群、5群および6群は7群と比較して有意なものであった。
【0147】
イ)H3N2 に対する抗原タンパク質経鼻投与の効果
8群(オリジナル型懸濁液 12.5 μg/ head)、9群(オリジナル型懸濁液 1.25 μg/ head)、10群(改良型懸濁液 12.5 μg/ head)、11群(改良型懸濁液 1.25 μg/ head)、12群(再改良型懸濁液 12.5 μg/ head)、13群(再改良型懸濁液 1.25 μg/ head)および14群(生理食塩水50 μL)の平均生存日数(ウイルス接種14日目の生存率)はそれぞれ13.0日(80%)、13.5日(80%)、12.9日(70%)、12.4日(50%)、13.6日(90%)、12.7日(60%)および11.8日(50%)であった。すなわち、オリジナル型(8群、9群)、改良型(10群、11群)、再改良型(12群、13群)のいずれの群も、ベヒクル(生食)群に比して平均生存日数と接種14日目の生存率の両方または一方に改善が認められた。生存率の改善について、12群は14群と比較して有意なものであった。
【0148】
また、8群(Day 10およびDay 14)および12群(Day 10)は14群と比較して有意に体重減少を抑制した。
【0149】
ウ)結論
上述のように、本発明の抗原タンパク質を経鼻投与したマウスは該抗原タンパク質を投与されていない群と比較して、インフルエンザウイルス(H1N1型及びH3N2型)に対する抵抗性を獲得しており、従って、本発明の抗原タンパク質はA型インフルエンザウイルス亜種間で交差免疫を付与し得るワクチンとして有用であることが示された。