(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166658
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体、その製造方法、光学窓材、それを用いた赤外線センサ、および、フィルタ
(51)【国際特許分類】
C04B 35/443 20060101AFI20231115BHJP
C04B 35/111 20060101ALI20231115BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20231115BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C04B35/443
C04B35/111
G02B5/22
G01J1/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077295
(22)【出願日】2022-05-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】森田 孝治
(72)【発明者】
【氏名】劉 麗紅
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達
【テーマコード(参考)】
2G065
2H148
【Fターム(参考)】
2G065AB02
2G065AB04
2G065BA37
2G065BB26
2H148CA01
2H148CA05
2H148CA09
2H148CA11
2H148CA17
(57)【要約】
【課題】 高い可視透過特性を有する配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体、その製造方法、光学窓材、それを用いた赤外線センサ、および、フィルタを提供すること。
【解決手段】 本発明の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体は、多結晶スピネルセラミックスと、その上に位置し、それと接合したアルミナセラミックスとを備え、多結晶スピネルセラミックスの気孔率および粒径は、0.3%未満および215nm以上380nm以下の範囲であり、アルミナセラミックスの気孔率および粒径は、0.07%以下および320nm以上680nm以下の範囲であり、EBSD法によりアルミナセラミックスの表面を測定した場合、0°以上90°以下の範囲にピークを有し、ピークの位置の±20°の範囲内に結晶粒の50%以上が存在する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶スピネルセラミックスと、
前記多結晶スピネルセラミックス上に位置し、前記多結晶スピネルセラミックスと接合したアルミナセラミックスと
を備え、
前記多結晶スピネルセラミックスの気孔率は、0.3%未満であり、
前記多結晶スピネルセラミックスの結晶粒の粒径は、215nm以上380nm以下の範囲であり、
前記アルミナセラミックスの気孔率は、0.07%以下であり、
前記アルミナセラミックスの結晶粒の粒径は、320nm以上680nm以下の範囲であり、
電子線後方散乱回折(EBSD)法により前記アルミナセラミックスの方位関係を測定した場合、前記アルミナセラミックスの結晶粒の方位分布は、前記アルミナセラミックスの結晶粒の特定の結晶方位が前記多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対し0°以上90°以下の範囲に配向することによるピークを有し、前記ピークの位置の±20°の範囲内に前記特定の結晶方位に配向した前記アルミナセラミックスの結晶粒が50%以上が存在する、配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体。
【請求項2】
前記多結晶スピネルセラミックスの気孔率は、0.05%以上0.2%以下の範囲である、請求項1に記載の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体。
【請求項3】
前記多結晶スピネルセラミックスの気孔率は、0.1%以上0.2%以下の範囲である、請求項2に記載の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体。
【請求項4】
前記アルミナセラミックスの気孔率は、0.04%以上0.07%以下の範囲である、請求項1~3のいずれかに記載の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体。
【請求項5】
前記多結晶スピネルセラミックスの結晶粒の粒径は、230nm以上365nm以下の範囲である、請求項1~4のいずれかに記載の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体。
【請求項6】
前記アルミナセラミックスの結晶粒の粒径は、340nm以上660nm以下の範囲である、請求項1~5のいずれかに記載の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体。
【請求項7】
前記アルミナセラミックスの厚さが900μmの場合に、前記多結晶スピネルセラミックスの波長500nmを有する光の直線透過率は、13%以上である、請求項1~6のいずれかに記載の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体。
【請求項8】
前記アルミナセラミックスの厚さが900μmの場合に、前記多結晶スピネルセラミックスの波長5μmを有する光の全透過率は、65%以上である、請求項1~7のいずれかに記載の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体。
【請求項9】
前記アルミナセラミックスの結晶粒の方位分布は、前記多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対し0°または90°にピークを有する、請求項1~8のいずれかに記載の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体。
【請求項10】
前記アルミナセラミックスの表面のX線回折パターンにおける(006)面と(110)面とのピーク強度比I006/I110は、0.5以上0.7以下の範囲である、請求項9に記載の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体。
【請求項11】
さらなるアルミナセラミックスを備え、
前記さらなるアルミナセラミックスは、前記アルミナセラミックスと対向する側に前記多結晶スピネルセラミックスと接合しており、
前記さらなるアルミナセラミックスの気孔率は、0.07%以下であり、
前記さらなるアルミナセラミックスの結晶粒の粒径は、320nm以上680nm以下の範囲であり、
電子線後方散乱回折(EBSD)法により前記さらなるアルミナセラミックスの方位関係を測定した場合、前記さらなるアルミナセラミックスの結晶粒の方位分布は、前記さらなるアルミナセラミックスの結晶粒の特定の結晶方位が前記多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対し0°以上90°以下の範囲に配向することによるピークを有し、前記ピークの位置の±20°の範囲内に前記特定の結晶方位に配向した前記さらなるアルミナセラミックスの結晶粒が50%以上が存在する、請求項1~10のいずれかに記載の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体。
【請求項12】
多結晶スピネル原料粉末を圧粉し、多結晶スピネル成形体を形成することと、
アルミナ原料粉末を分散媒に分散させてアルミナ原料スラリーを調製することと、
磁場を印加しながら、前記アルミナ原料スラリーを成形し、アルミナ成形体を形成することと、
前記多結晶スピネル成形体と前記アルミナ成形体とを積層し、積層体を形成することと、
前記積層体を1175℃より高く1500℃以下の温度範囲で焼結することと
を包含する、請求項1~11のいずれかに記載の配向性アルミナ積層型の多結晶スピネルセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項13】
前記アルミナ成形体を形成することは、スリップキャストまたは電気泳動堆積法を用いる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記積層体は、一対のアルミナ成形体で挟持された多結晶スピネル成形体である、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記多結晶スピネル成形体および前記アルミナ成形体の密度は、40%以上70%以下の範囲である、請求項12~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記焼結することは、前記積層体を1220℃以上1300℃以下の温度範囲で焼結する、請求項12~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
請求項1~11のいずれかに記載の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体を備える光学窓材。
【請求項18】
請求項17に記載の光学窓材を備えた赤外線センサ。
【請求項19】
請求項1~11のいずれかに記載の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体からなるフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体、その製造方法、光学窓材、それを用いた赤外線センサ、および、フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ(Al2O3)、アルミン酸マグネシウム(スピネル、MgAl2O4)、アルミニウム酸窒化物(AlON:Al23O27N5)、イットリア(Y2O3)などの赤外(IR)透明セラミックスは、可視から中赤外の波長域で優れた透過性と高い化学的安定性をもつことから注目されている。この中でも、スピネルは、可視から中赤外の広帯域の透過性に優れており、可視光イメージセンサや赤外線センサ用の光学窓材やフィルタへの適用が期待されている。
【0003】
最近、スピネル上に薄いアルミナ層を積層させることにより、透過特性と高硬度とを併せ持つスピネル/アルミナ積層透明コンポジットセラミックスが開発された(例えば、非特許文献1を参照)。しかしながら、非特許文献1のスピネル/アルミナ積層透明コンポジットセラミックスにおいて、アルミナ層の厚さは、300nm程度と薄く、可視光領域における透過特性が低下するため厚くできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】L.Liuら,Scripta Materialia,205,2021,114205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上より、本発明の課題は、高い可視透過特性を有する配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体、その製造方法、光学窓材、それを用いた赤外線センサ、および、フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体は、多結晶スピネルセラミックスと、前記多結晶スピネルセラミックス上に位置し、前記多結晶スピネルセラミックスと接合したアルミナセラミックスとを備え、前記多結晶スピネルセラミックスの気孔率は、0.3%未満であり、前記多結晶スピネルセラミックスの結晶粒の粒径は、215nm以上380nm以下の範囲であり、前記アルミナセラミックスの気孔率は、0.07%以下であり、前記アルミナセラミックスの結晶粒の粒径は、320nm以上680nm以下の範囲であり、電子線後方散乱回折(EBSD)法により前記アルミナセラミックスの方位関係を測定した場合、前記アルミナセラミックスの結晶粒の方位分布は、前記アルミナセラミックスの結晶粒の特定の結晶方位が前記多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対し0°以上90°以下の範囲に配向することによるピークを有し、前記ピークの位置の±20°の範囲内に前記特定の結晶方位に配向した前記アルミナセラミックスの結晶粒が50%以上が存在し、これにより上記課題を解決する。
前記多結晶スピネルセラミックスの気孔率は、0.05%以上0.2%以下の範囲であってもよい。
前記多結晶スピネルセラミックスの気孔率は、0.1%以上0.2%以下の範囲であってもよい。
前記アルミナセラミックスの気孔率は、0.04%以上0.07%以下の範囲であってもよい。
前記多結晶スピネルセラミックスの結晶粒の粒径は、230nm以上365nm以下の範囲であってもよい。
前記アルミナセラミックスの結晶粒の粒径は、340nm以上660nm以下の範囲であってもよい。
前記アルミナセラミックスの厚さが900μmの場合に、前記多結晶スピネルセラミックスの波長500nmを有する光の直線透過率は、13%以上であってもよい。
前記アルミナセラミックスの厚さが900μmの場合に、前記多結晶スピネルセラミックスの波長5μmを有する光の全透過率は、65%以上であってもよい。
前記アルミナセラミックスの結晶粒の方位分布は、前記多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対し0°または90°にピークを有してもよい。
前記アルミナセラミックスの表面のX線回折パターンにおける(006)面と(110)面とのピーク強度比I006/I110は、0.5以上0.7以下の範囲であってもよい。
さらなるアルミナセラミックスを備え、前記さらなるアルミナセラミックスは、前記アルミナセラミックスと対向する側に前記多結晶スピネルセラミックスと接合しており、前記さらなるアルミナセラミックスの気孔率は、0.07%以下であり、前記さらなるアルミナセラミックスの結晶粒の粒径は、320nm以上680nm以下の範囲であり、電子線後方散乱回折(EBSD)法により前記さらなるアルミナセラミックスの方位関係を測定した場合、前記さらなるアルミナセラミックスの結晶粒の方位分布は、前記さらなるアルミナセラミックスの結晶粒の特定の結晶方位が前記多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対し0°以上90°以下の範囲に配向することによるピークを有し、前記ピークの位置の±20°の範囲内に前記特定の結晶方位に配向した前記さらなるアルミナセラミックスの結晶粒が50%以上が存在してもよい。
本発明による上記配向性アルミナ積層型の多結晶スピネルセラミックス焼結体の製造方法は、多結晶スピネル原料粉末を圧粉し、多結晶スピネル成形体を形成することと、アルミナ原料粉末を分散媒に分散させてアルミナ原料スラリーを調製することと、磁場を印加しながら、前記アルミナ原料スラリーを成形し、アルミナ成形体を形成することと、前記多結晶スピネル成形体と前記アルミナ成形体とを積層し、積層体を形成することと、前記積層体を1175℃より高く1500℃以下の温度範囲で焼結することとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記アルミナ成形体を形成することは、スリップキャストまたは電気泳動堆積法を用いてもよい。
前記積層体は、一対のアルミナ成形体で挟持された多結晶スピネル成形体であってもよい。
前記多結晶スピネル成形体および前記アルミナ成形体の密度は、40%以上70%以下の範囲であってもよい。
前記焼結することは、前記積層体を1220℃以上1300℃以下の温度範囲で焼結してもよい。
本発明による光学窓材は、上記配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体からなり、これにより上記課題を解決する。
本発明による赤外線センサは、上記光学窓材を備え、これにより上記課題を解決する。
本発明によるフィルタは、上記配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体からなり、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体は、所定の気孔率および粒径を有する多結晶スピネルセラミックスと、その上に位置し、それと接合した、所定の気孔率および粒径を有するアルミナセラミックスとを備える。多結晶スピネルを備えるため、可視から中赤外までの広帯域の透過性に優れる。また、アルミナセラミックスと接合することにより、本発明のアルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体は、機械特性に優れ、機械的強度も同時に向上し得る。
【0008】
特に、本発明の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体は、電子線後方散乱回折(EBSD)法でアルミナセラミックスの方位関係を測定した場合、アルミナセラミックスの結晶粒の方位分布は、アルミナセラミックスの結晶粒の特定の結晶方位がスピネルセラミックスとの接合面に対し0°以上90°以下の範囲に配向することによるピークを有し、ピークの位置の±20°の範囲内に特定の結晶方位に配向したアルミナセラミックスの結晶粒が50%以上が存在するように制御されている。このように、アルミナセラミックスが所定の配向性を有しているので、高い機械的強度を維持しつつ、可視透過性を向上させることができる。このような配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体は、赤外線センサなどの光学窓材、赤外レーザー通信や探知用途などのフィルタに利用され得る。
【0009】
本発明の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体の製造方法は、圧粉成形した多結晶スピネル成形体と、磁場中で成形したアルミナ成形体との積層体とを、1175℃より高く1500℃以下の温度範囲で焼結することを包含する。製造時の磁場の方向を単に制御するだけで上述の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体を示す模式図
【
図2】本発明の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体におけるアルミナの例示的な結晶粒の方位分布を示す模式図
【
図3】本発明の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体の製造工程を示すフローチャート
【
図4】本発明のアルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体を用いた赤外線センサを示す模式図
【
図5】例2の試料の製造工程の一部を示すプロシージャ
【
図6】例2および例8の試料の断面のSEM像を示す図
【
図9】例2、例8および例14の試料のEBSDマッピングを示す図
【
図11】例2、例8および例13の試料のXRDパターンを示す図
【
図12】種々の試料の可視光直線透過率スペクトルを示す図
【
図13】種々の試料の赤外透過率スペクトルを示す図
【
図14】種々の試料の赤外透過率スペクトルを示す図
【
図15】透過率とX線回折の強度比との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0012】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体およびその製造方法について説明する。
なお、本願明細書において、可視から赤外域とは、500nm以上5μm以下の範囲を意図しており、厚さ900μmを有するアルミナセラミックスを有する焼結体の厚さ方向に対して、波長500nmにおける直線透過率(Tin(500nm))が10%以上であることを可視透過性に優れるといい、波長5μmにおける全透過率(Ttotal(5μm))が60%以上であることを赤外透過性に優れるという。また、「波長500nmにおける直線透過率の境界を10%」としたのは、対象物を目視で確認するために必要な最低限の特性の観点からであり、「波長5μmにおける全透過率の境界を60%」としたのは、大気環境の影響を受け減衰することを考慮した場合、各種検出に必要な最低限の特性の観点からである。
【0013】
また、高い硬度(Hv)とは、ビッカース硬度試験において、2Nの荷重を15秒間加えた際の圧痕の対角線長さ(a)を用い、次式Hv=0.1891(2/a2)から求めた、硬度が23GPa以上であることをいう。
【0014】
図1は、本発明の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体を示す模式図である。
【0015】
本発明の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体100(以降では簡単のため本発明の焼結体100と称する)は、多結晶スピネルセラミックス110と、その上に位置し、多結晶スピネルセラミックス110と接合したアルミナセラミックス120とを備える。
【0016】
多結晶スピネルセラミックス110とアルミナセラミックス120とは、接合されており、一体化しており、好ましくは、接合界面には第二相を有しない。このため、本発明の焼結体100は全体として機械的強度に優れる。なお、接合界面においてアルミナあるいは多結晶スピネルの組成の変化があってもよい。第二相を有しないことはSEM像から、組成の変化はエネルギー分散型X線分光器(EDS)によるプロファイルから分かる。
【0017】
さらに、本発明の焼結体100では、多結晶スピネルセラミックス110の気孔率は、0.3%未満に制御されている。これにより極めて緻密な焼結体であり、優れた可視透過性を有している。なお、下限は特に制限はなく、気孔率が0%であってよいが、0.3%未満が許容される。
【0018】
多結晶スピネルセラミックス110の気孔率は、好ましくは、0.05%以上0.2%以下の範囲を満たす。これにより、緻密な焼結体となり、さらに可視・赤外透過性に優れる。
【0019】
多結晶スピネルセラミックス110の気孔率は、さらに好ましくは、0.1%以上0.2%以下の範囲を満たす。これにより、緻密な焼結体となり、さらに可視・赤外透過性および機械的強度に優れる。
【0020】
さらに、本発明の焼結体100では、アルミナセラミックス120の気孔率は、0.07%以下に制御されている。これにより、これにより極めて緻密な焼結体であり、機械的強度を維持できる。なお、下限は特に制限はなく、気孔率が0%であってよいが、0.07%以下が許容される。
【0021】
アルミナセラミックス120の気孔率は、好ましくは、0.04%以上0.07%以下の範囲を満たす。これにより、緻密な焼結体となり、機械的強度に優れる。
【0022】
アルミナセラミックス120の気孔率は、さらに好ましくは、0.045%以上0.065%以下の範囲を満たす。これにより、緻密な焼結体となり、可視・赤外透過性および機械的強度にさらに優れる。
【0023】
なお、多結晶スピネルセラミックス110、アルミナセラミックス120の気孔率は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて得られる組織写真から、単位面積当たりに占める気孔面積の比から算出した。
【0024】
本発明の焼結体100において、多結晶スピネルセラミックス110の粒径は、215nm以上380nm以下の範囲を満たす。これにより、多結晶スピネルセラミックス110は、可視透過性に優れる。多結晶スピネルセラミックス110の粒径は、好ましくは、230nm以上365nm以下の範囲を満たす。これにより、多結晶スピネルセラミックス110は、可視・赤外透過性を維持しつつ、機械的強度に優れる。多結晶スピネルセラミックス110の粒径は、より好ましくは、230nm以上260nm以下の範囲を満たす。
【0025】
本発明の焼結体100において、アルミナセラミックス120の粒径は、320nm以上680nm以下の範囲を満たす。これにより、アルミナセラミックス120は、機械的強度にさらに優れる。アルミナセラミックス120の粒径は、好ましくは、340nm以上660nm以下の範囲を満たす。これにより、アルミナセラミックス120は、機械的強度にさらに優れる。アルミナセラミックス120の粒径は、より好ましくは、340nm以上400nm以下の範囲を満たす。これにより、アルミナセラミックス120は、透過性を維持しつつ、機械的強度にさらに優れる。
【0026】
なお、本願明細書において、焼結体中の粒径は、電子顕微像(例えば、走査電子顕微鏡SEM像)を用い、単位面積当たりの粒子数から算出した。詳細には、鏡面研磨した焼結体表面のSEM像より結晶粒の見かけの平均粒子径を測定し、これに計量形態学に基づき求められる1.225の係数を乗じた値を粒径として算出した。なお、平均粒子径は、100個以上の結晶粒より求めた平均値とした。
【0027】
本発明の焼結体100において、アルミナセラミックス120の結晶粒130の特定の結晶方位が、多結晶スピネルセラミックス110との接合面に対して配向している。
図1に模式的に示すように、アルミナセラミックス120の結晶粒は、六方晶系の結晶構造(詳細には、R-3c空間群(International Tables for Crystallographyの167番)に属する)を有する単結晶である。このような結晶粒の特定の結晶方位が配向した(ここでは、c軸方向に配向)配向性アルミナセラミックスが、多結晶スピネルセラミックス110に接合することにより、高い機械的強度を維持しつつ、可視透過性を向上させることができる。特定の結晶方位は、c軸方向以外にa軸方向であってもよい。
【0028】
図1に示すように、c軸方向に配向した配向性アルミナセラミックス120Aのc面が、多結晶スピネルセラミックス110の接合面に対して略平行となるように接合してもよいし、配向性アルミナセラミックス120Bのc面が、多結晶スピネルセラミックスの接合面に対して略垂直となるように接合してもよい。
図1では、簡単のため、配向性アルミナセラミックス120A、120Bのいずれもがc軸配向しているものとして示すが、結晶方位はこれに限らない。
【0029】
図2は、本発明の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体におけるアルミナの例示的な結晶粒の方位分布を示す模式図である。
【0030】
詳細に説明する。上述した配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体100が、電子線後方散乱回折(EBSD)法によりアルミナセラミックス120の方位関係を測定した場合、アルミナセラミックスの結晶粒の方位分布がピークを有せばよい。このようなピークは、アルミナセラミックス120の結晶粒130の特定の結晶方位が、多結晶スピネルセラミックス110との接合面に対し0°以上90°以下の範囲に配向することにより生じる。
【0031】
例えば、
図2の実線で示すように、0°でピークを有する場合には、c軸方向に配向した配向性アルミナセラミックス120A(
図1)のc面が、多結晶スピネルセラミックス110の接合面に対して略平行となるように接合していると判定できる。あるいは、
図2の点線で示すように、90°でピークを有する場合には、c軸配向した配向性アルミナセラミックス120Bのc面が、多結晶スピネルセラミックスの接合面に対して略垂直となるように接合していると判定できる。なお、アルミナセラミックスがランダムな(配向していない)場合には、一点鎖線で示すようにピークを示さない。なお、本願明細書では、ピーク位置の±20%の範囲内に結晶粒の50%以上が存在すれば、結晶粒が接合面に対して配向しているとする。
図2では0°と90°との場合のみを示すが、後述する製造方法において、磁場の印加の方向を制御することにより、0°以上90°以下の任意の角度に配向させることができる。
【0032】
本願発明者らは、このように多結晶スピネルセラミックス110に対して配向した配向性アルミナセラミックス120を接合させた積層体とすることにより、高い可視透過性を維持しつつ、さらに機械的強度を向上させることを発見した。スピネルは立方晶であるため、結晶方位によらず熱膨張係数(例えば、7.45×10-6K-1@673K、M.Posaracら,Sci.Sinter.,41(2009),pp75-81)は変わらない。一方、アルミナは六方晶であるため、結晶方位によって熱膨張係数が異なっており、c軸の熱膨張系係数がa軸のそれに比べて大きいことが知られている(例えば、a軸;7.04×10-6K-1@673K、c軸;7.68×10-6K-1@673K、G.Grabowskiら,Archives of Civil and Mechanical Engineering 18(2008)188-197)。
【0033】
このため、機械的強度を向上させるためには、残留応力の発生を極力抑えるため、接合するセラミックス同士の熱膨張係数を等しくすることが常套手段である。このような観点からすると、アルミナセラミックスにおいても、結晶粒のa軸とc軸とがランダムに配列した多結晶とし、その熱膨張係数をa軸とc軸との平均とする方が好ましいといえる。しかしながら、実際には、スピネルとの熱膨張係数の差の大きさに関わらず、配向したアルミナセラミックスを接合させることが、機械的強度の向上に有利であることが分かった。また、驚くべきことに、その配向も、スピネルとの接合面に対して、アルミナのc軸が、平行でも垂直でもよく、これまでの常識が通用しないことが分かった。
【0034】
アルミナセラミックス120のピーク位置が0°または90°の場合、より好ましくは、アルミナセラミックス120の表面のX線回折パターンにおける(006)面と(110)面とのピーク強度比I
006/I
110は、0.5以上0.7以下の範囲を満たす。これにより、配向性に優れた焼結体100となり、高い可視光透過性および高い機械的強度を有し得る。なお、EBSD法によりアルミナセラミックス120の配向および方位関係を知ることができるが、上述のピーク強度比を参照すれば、X線回折によってc軸方向に配向した配向性アルミナセラミックス120A(
図1)のc面が、多結晶スピネルセラミックス110の接合面に対して略平行となるように接合していると判定できる。
【0035】
本発明の焼結体100は、気孔率、ならびに、結晶粒の粒径および配向性を制御することにより、好ましくは、アルミナセラミックス120の厚さが900μmにおいて、波長500nmを有する光に対して13%以上の直線透過率を有することができる。さらに好ましくは、本発明の焼結体100は、20%以上の直線透過率を有することができる。当然ながら、上限は100%であってよい。
【0036】
また、本発明の焼結体100は、気孔率、ならびに、結晶粒の粒径および配向性を制御することにより、好ましくは、アルミナセラミックス120の厚さが900μmにおいて、波長5μmを有する光に対して65%以上の全透過率を有することができる。さらに好ましくは、本発明の焼結体100は、70%以上の全透過率を有することができる。当然ながら、上限は100%であってよい。
【0037】
本発明の焼結体100は、多結晶スピネルセラミックス110を介してアルミナセラミックス120と対向する側にさらなるアルミナセラミックス(図示せず)を有してもよい。これにより、さらなる機械的強度の向上が期待できる。この場合も、さらなるアルミナセラミックスが、上述のアルミナセラミックス120と同様の気孔率、ならびに、結晶粒の粒径および配向性を有することが好ましい。
【0038】
本発明の焼結体100は、上述したように可視光から赤外域において透過性を有し、かつ、機械的強度にも優れているため、赤外線センサなどの光学窓材や、赤外レーザー通信、探知用途などのフィルタに利用される。
【0039】
次に、
図1で説明した本発明の焼結体100の例示的な製造方法について説明する。
図3は、本発明の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体の製造工程を示すフローチャートである。
【0040】
ステップS310:多結晶スピネル原料粉末を圧粉し、多結晶スピネル成形体を形成する。
ステップS320:アルミナ原料粉末を分散媒に分散させてアルミナ原料スラリーを調製する。
ステップS330:磁場を印加しながら、アルミナ原料スラリーを成形し、アルミナ成形体を形成する。
ステップS340:多結晶スピネル成形体とアルミナ成形体とを積層し、積層体を形成する。
ステップS350:積層体を1175℃より高く1500℃以下の温度範囲で焼結する。
以上のように、圧粉成形した多結晶スピネル成形体と、磁場中で成形したアルミナ成形体との積層体とを所定の温度範囲で焼結することによって上述の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体100が得られる。各工程について詳細に説明する。
【0041】
ステップS310において、上述の結晶構造を有する限り、多結晶スピネル原料粉末には特に制限はなく、市販品を用いることができる。多結晶スピネル原料粉末の粒径(一次粒子径)は、好ましくは、0.03μm以上0.35μm以下の範囲である。このような粉末を用いれば、ステップS350において焼結が促進し、緻密な焼結体が得られやすい。一次粒子径は、電子顕微鏡写真から一次粒子の大きさを直接計測する方法で測定される。圧粉には、金型プレス、冷間等方圧加圧法(CIP)等を採用できる。なお、ステップS310は、後述するステップS340に先立って実施されればよく、必ずしも最初に実施する必要はなく、ステップS320の後、あるいは、ステップS330の後であってもよい。
【0042】
ステップS310において、多結晶スピネル成形体の密度(相対密度)は、好ましくは、40%以上70%以下の範囲、より好ましくは、50%以上70%以下の範囲を満たす。これにより、後述のステップS350の焼結によって、96%以上の焼結密度を有する焼結体が得られる。多結晶スピネル成形体の密度は、アルキメデス法によって測定される。
【0043】
ステップS320において、アルミナ原料粉末には特に制限はなく、市販品を用いることができる。アルミナ原料粉末の結晶粒は、単結晶から構成されており、
図1を参照して説明した結晶粒130である。
【0044】
ステップS320において、アルミナ原料スラリー中のアルミナ原料粉末の含有量は、好ましくは、10質量%以上30質量%以下の範囲である。この範囲であれば、アルミナ原料粉末が良好に分散し得る。アルミナ原料粉末の含有量は、より好ましくは、15質量%以上25質量%以下の範囲である。
【0045】
アルミナ原料粉末の粒径は、好ましくは、0.08μm以上0.15μm以下の範囲である。この範囲であれば、アルミナ原料粉末は分散媒に良好に分散し得、後述のステップS330において配向しやすい。アルミナ原料粉末の粒径は、より好ましくは、0.08nm以上0.12nm以下の範囲である。
【0046】
ステップS320において、分散媒は、原料粉末が分散する限り特に制限はないが、粘性が低く、アルミナと反応性がないものが選ばれる。分散媒は、水であっても、有機溶媒であってもよい。有機溶媒は、例示的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンおよびオクタンからなる群から選択される脂肪族炭化水素、または、メタノール、エタノールおよびプロパノールからなる群から選択されるアルコールである。これらの分散媒は、アルミナ原料粉末の分散を促進し得る。中でも、エタノール等のアルコールが好ましい。
【0047】
ステップS320において、ポリカチオン性ポリマーまたはポリアニオン性ポリマーをさらに添加してよい。これにより、アルミナ原料粉末の粒子がポリマーで被覆され、粒子同士が静電反発により良好に分散される。その結果、ステップS330において、磁場の印加により、粒子の回転が促進され、上述の配向した焼結体が得られ得る。
【0048】
ポリカチオン性ポリマーには、例えば、リアルキルアミン(PAM)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリリシン(PL)、ポリペプチド、キトサン、多糖、または、それらのコポリマーなどがある。ポリアニオン性ポリマーには、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリスチレンスルホネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニルスルフェート、ポリホスフェート、カラギーナン、ゲランガム、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルアガロース、カルボキシルメチルデキストラン、カルボキシルメチルキチン、カルボキシルメチルキトサン、カルボキシルメチル基で修飾されたポリマー、アルギネートなどがある。
【0049】
ポリカチオン性ポリマーまたはポリアニオン性ポリマーの添加量は、例示的には、0質量%より多く5質量%以下の範囲であってよく、好ましくは、0質量%より多く1質量%以下の範囲であり、より好ましくは、0質量%より多く0.5質量%以下の範囲である。
【0050】
ステップS320において、アルミナ原料スラリーに酸またはアルカリを添加してもよい。これにより、粒子がさらに良好に分散する。
【0051】
ステップS330では、磁場中でアルミナ原料スラリーが成形され、アルミナ成形体が得られるが、印加される磁場は、好ましくは、8T(テスラ)以上14T以下の範囲である。この範囲であれば粒子の回転を促進し得る。印加される磁場は、より好ましくは、10T以上14T以下の範囲である。この範囲であれば、粒子は回転し、c軸配向がさらに促進される。
【0052】
ステップS330において、アルミナ原料粉末の粒子は、その粒子のc軸が磁場の方向と略平行となるように、配向する。このような特性を利用して、磁場の印加方向を重力の方向と平行な方向(鉛直方向)、重力に対して垂直な方向等任意の方向を選択することによって、成形の方向や形状に限定されることなく、磁場の印加方向に対応した配向方向とすることができ、上述の配向関係を満たした焼結体が得られる。
【0053】
ステップS330において、形成(固化形成)には種々の手法が適宜採用されてよい。固化成形の手法には、スリップキャスト、プレッシャーフィルトレーション、テープキャスト、電気泳動堆積法などがある。中でも、良好にc軸配向したアルミナ成形体が得られるとともに、形状に制限がない観点からスリップキャストまたは電気泳動堆積法が好ましい。スリップキャストを採用すれば、複雑な形状に対しても、任意の方向に磁場を印加できるので、任意の方向にc軸配向した焼結体を得ることができる。
【0054】
ステップS330において、アルミナ成形体の密度(相対密度)は、好ましくは、40%以上70%以下の範囲、より好ましくは、50%以上70%以下の範囲を満たす。これにより、続くステップS350の焼結によって、96%以上の焼結密度を有する焼結体が得られる。アルミナ成形体の密度は、アルキメデス法によって測定される。
【0055】
ステップS330に続いて、アルミナ成形体を加圧してもよい。加圧には、例えば、冷間等方圧加圧法(CIP)を用いてよい。これにより、続くステップS350の焼結により、高密度な焼結体が得られ得る。
【0056】
ステップS340において、ステップS310で形成した多結晶スピネル成形体と、ステップS330で形成したアルミナ成形体とを積層し、加圧してもよい。この場合も、加圧には、例えば、冷間等方圧加圧法(CIP)を用いてよい。これにより良好な接合界面が得られ、ステップS350の焼結により、高密度な焼結体が得られ得る。ステップS340において、多結晶スピネル成形体を一対のアルミナ成形体で挟持するようにして積層体を形成してもよい。
【0057】
ステップS350において、積層体の焼結は、1175℃より高く1500℃以下の温度範囲であれば、高密度な焼結体が得られるが、好ましくは、1220℃以上1300℃以下の温度範囲で行われる。この範囲であれば、結晶粒の粒成長を抑制した状態で、高密度な焼結体が得られる。焼結は、より好ましくは、1225℃以上1275℃以下の温度範囲で行われる。この範囲であれば、結晶粒の粒成長をさらに抑制した状態で、より高密度な焼結体が得られる。
【0058】
ステップS350において、焼結の手法は特に制限はなく、放電プラズマ焼結(SPS)、常圧焼結、ホットプレス(HP)焼結、および、熱間静水圧加圧(HIP)焼結を適宜採用できる。焼結時間は、焼結手法によって異なるが、例えば、放電プラズマ焼結(SPS)を用いた場合には、5分以上30分以下であってよい。
【0059】
ステップS350において、HP焼結やHIP焼結を採用できるように、成形体を加圧ながら焼結してもよい。これにより、より高密度な焼結体が得られ得る。
以上のようにして本発明の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体が得られる。
【0060】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明のアルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体を光学窓材に用いた赤外線センサについて説明する。
図4は、本発明のアルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体を用いた赤外線センサを示す模式図である。
【0061】
本発明の赤外線センサ400は、パッケージ410と、赤外線を検知する赤外線受光部420と、それを覆うように位置する光学窓材430とを備える。
【0062】
赤外線センサ400は、パッケージ410中に受光部420と光学窓材430を設置し、光学窓材430を透過した赤外線を受光部420で電気信号に変換する技術、および変換した情報を利用して使用する光学機器である。光学窓材430は、実施の形態1で説明した配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体100からなる。光学窓材430は、集光レンズや受光部の保護材としての機能を有し、本発明の焼結体100は、板状、球面、非球面あるいはフレネル形状に加工されている。上述したように、本発明の焼結体100は、機械的強度に優れるため、加工によっても破損することはない。また、本発明の焼結体100は、機械特性と赤外線の透過性に優れるため、過酷環境で使用する高感度な赤外線センサを提供できる。
【0063】
図4では特定の赤外線センサを示したが、本発明の赤外線センサはこれに限らず、光学窓材430として実施の形態1で説明した焼結体100を採用した任意の赤外線センサであってよい。
【0064】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0065】
[例1~例14]
例1~例14では、種々のアルミナ積層型多結晶スピネル焼結体を製造した。例2の製造手順について詳述する。
図5は、例2の試料の製造工程の一部を示すプロシージャである。
【0066】
多結晶スピネル原料粉末(TSP-15、大明化学工業株式会社製、一次粒子径:0.3μm)を圧粉し、多結晶スピネル成形体を形成した(
図3のステップS310)。内径10mmの焼結型(SL-400、株式会社シンターランド製)に多結晶スピネル原料粉末700mgを充填し、一軸加圧することにより、多結晶スピネル成形体を得た。このとき多結晶スピネル成形体の密度(相対密度)は55%以上60%以下の範囲であった。
【0067】
アルミナ原料粉末510(TM-DAR、大明化学工業株式会社製、一次粒子径:0.1μm)を分散媒として水(超純水)520に分散させて、超音波処理によってアルミナ原料スラリーを調製した(
図3のステップS320)。アルミナ原料スラリー中のアルミナ原料粉末の含有量は、20質量%であった。
【0068】
次いで、アルミナ原料スラリーに磁場を印加しながら、成形し、アルミナ成形体を形成した(
図3のステップS330)。メンブレンフィルタ530(気孔率200nm)で覆われた多孔質アルミナプレート540上に配置された円柱状ポリエチレンモールド550(φ=12mm、高さ=40mm)からなるスリップキャストセットアップに、アルミナ原料スラリーを流し込んだ。水の蒸発を防ぐため、ポリエチレンモールド550をプラスチックフィルム560で蓋をした。
【0069】
スリップキャストセットアップを12Tの超伝導マグネット内に配置し、重力の方向(鉛直方向に同じ)に対して平行な方向(
図5中のBで示す矢印)に12Tの磁場を印加した。このとき、水は、メンブレンフィルタ530および多孔質アルミナプレート540の細孔を通して、ゆっくりと流れ出た(
図5中のSCで示す矢印)。このようにして、アルミナ成形体570を得た。次いで、アルミナ成形体570を、CIPにより、394MPa、10分間、加圧した。このときの成形体の密度(相対密度)は、55%以上60%以下の範囲であった。
【0070】
多結晶スピネル成形体とアルミナ成形体とを積層し、積層体を形成した(
図3のステップS340)。
【0071】
積層体を焼結した(
図3のステップS350)。焼結は、積層体を焼結型(φ=10mm)に置き、昇温速度5℃/分で1225℃まで昇温し、10分間、SPS装置(LABOX、株式会社シンターランド製)を用い、一軸圧力300MPaを印加しながら実施した。なお、焼結温度は、カーボンフェルトに開けた穴から光学式パイロメータを用いて測定した焼結型の表面温度であった。このようにして得られた焼結体は研磨され、例2の試料とした。例1、例3~例6についても表1に示す製造条件を参照し、例2と同様の手順によって焼結体を製造した。例7~例12については、表1に示す製造条件を参照し、重力(鉛直方向)に対して垂直な方向(
図5中のBで示す矢印に対して垂直な方向)に12Tの磁場を印加した以外は、例2と同様の手順によって焼結体を製造した。
【0072】
例13および例14では、非特許文献1と同様の手順によってアルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体を製造した。詳細には、内径10mmの高圧焼結型(SL-400、株式会社シンターランド製)に多結晶スピネル原料粉末700mg、次いで、アルミナ原料粉末200mg(例13)または400mg(例14)を充填し、SPS装置(LABOX、株式会社シンターランド製)を用い、一軸圧力300MPaを印加し、表1に示す焼結条件で積層体を焼結した。
【0073】
【0074】
例1~例14の試料の微細構造を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、SU-8000、株式会社日立ハイテク製)で観察し、アルミナセラミックスおよび多結晶スピネルセラミックスの厚さ、粒径、気孔率を測定した。粒径および気孔率は上述したとおりに算出した。また、SEMによる後方散乱電子回折(EBSD)マッピングを行った。これらの結果を
図6~
図10および表2に示す。
【0075】
例1~例14の試料についてX線回折パターンを測定した。X線回折は、RINT-2500回折計(株式会社リガク製)により、Cu Kα線を用い、管電圧40kV、管電流300mAであった。結果を
図11、
図15および表3に示す。また、X線回折法から得られる格子面間隔の変化からsin
2ψ法を用いてアルミナセラミックスの残留応力を算出した。結果を表4に示す。
【0076】
例1~例14の試料の波長0.25μm~1.6μmの範囲の直線透過率(T
in)を、紫外・可視・赤外分光光度計(SolidSpec-3700DUV、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。例1~例14の試料の波長2.5μm~7μmの範囲の全透過率(T
total)を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR-6200、日本分光社製)を用いて測定した。これらの結果を
図12~
図14、
図15および表3に示す。
【0077】
例1~例14の試料の硬度(Hv)を、ビッカース硬度計(MVK-E、株式会社明石製作所製)を用いて調べた。硬度は上述した条件および式から算出した。結果を表3に示す。
以上の結果をまとめて説明する。
【0078】
図6は、例2および例8の試料の断面のSEM像を示す図である。
図7は、例2の試料のSEM像を示す図である。
図8は、例8の試料のSEM像を示す図である。
【0079】
図6によれば、例2および例8の試料の断面は、アルミナセラミックスと多結晶スピネルセラミックスとの二層構造を示し、その界面にクラックはなく、互いの層が接合されていることが分かった。アルミナセラミックスの厚さは約900μmであり、多結晶スピネルセラミックスの厚さは約2400μmであった。図示しないが、例3、例5、例9および例11も同様の様態であった。
【0080】
磁場の印加方向から、
図6に模式的に示すように、例1~例6の試料は、多結晶スピネルセラミックスの接合面に対して、アルミナ結晶粒のc軸が垂直方向に、a軸が平行方向に配向しており、例7~例12の試料は、多結晶スピネルセラミックスの接合面に対して、アルミナ結晶粒のc軸が平行方向に配向していると想定できる。
【0081】
SEM像から接合界面における組成の変化をエネルギー分散型X線分光器(EDS)より調べたところ、接合界面において、第二相や不純物相の存在は認めらず、互いの相が直接接合していた。また、接合界面において、EDS線分析のプロファイルが界面を境に、アルミナとスピネル相内で徐々に変化しいることから、アルミナ、スピネルのわずかながらの組成ずれが生じている場合があるが、結晶相が変化するほどではなかった。
【0082】
図7および
図8によれば、例2および例8の試料は、アルミナセラミックスおよび多結晶スピネルセラミックスのいずれも、緻密な微細構造を示し、残留気孔はほとんど見られなかった。図示しないが、例3、例5、例9および例11も同様の様態であった。
【0083】
【0084】
表2に示すように、焼結温度が1175℃以下となると、多結晶スピネルセラミックスの粒成長は抑制されているが、多結晶スピネルセラミックスの気孔率が大きくなることが分かった。また、SPS焼結を用いた際には、焼結温度の上限は1300℃であれば気孔率の小さな焼結体が得られることが分かった。
【0085】
図9は、例2、例8および例14の試料のEBSDマッピングを示す図である。
図10は、
図9より求めた結晶粒の方位分布を示す図である。
【0086】
図9ではグレースケールで示すが、同じ明度で示す結晶粒は、(0001)面から同じの面角度を有することを示す。例2の試料は、全体に(0001)面を有するアルミナ結晶粒が多く存在しており、アルミナセラミックスの結晶粒は、多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対して略垂直にc軸配向していることが分かった。一方、例8の試料は、(0001)面から90度の面角度となる結晶面を有するアルミナ結晶粒が多く存在し、例14の試料の結晶粒はランダムであった。
【0087】
図10は、
図9の各試料の結晶粒について、多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対して垂直方向を0°としたときのアルミナ結晶粒の(0001)面の0°からの傾きθ(°)を測定し、プロットしたものである。垂直方向に磁場を印加して製造した例2の試料に着目すると、0°にピークを有し、多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対して垂直方向にアルミナセラミックスの結晶粒がc軸配向していることが分かった。また、ピークの位置の±20°の範囲内にアルミナセラミックスの結晶粒が50%以上存在していた。図示しないが、例1、例3~例6の試料も同様の結晶粒の方位分布を示した。
【0088】
水平方向に磁場を印加して製造した例8の試料に着目すると、90°にピークを有し、多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対して平行方向にアルミナセラミックスの結晶粒がc軸配向していることが分かった。また、ピークの位置の±20°の範囲内にアルミナセラミックスの結晶粒が50%以上存在していた。図示しないが、例7、例9~例12の試料も同様の結晶粒の方位分布を示した。
【0089】
一方、磁場を印加することなく製造した例14の試料は、アルミナセラミックスの結晶粒はピークを有しなかった。このことは、アルミナセラミックスの結晶粒はランダムであり、配向していないことを示す。図示しないが、例13の試料も同様の結晶粒の方位分布を示した。
【0090】
これらから、
図3の製造方法によって得られた焼結体は、多結晶スピネルセラミックスと、それと接合したアルミナセラミックスとを備え、EBSD法によりアルミナセラミックスの方位関係を測定した場合、アルミナセラミックスの結晶粒の方位分布は、アルミナセラミックスの結晶粒の特定の結晶方位が多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対し0°以上90°以下の範囲に配向することによるピークを有し、ピークの位置の±20°の範囲内に特定の結晶方位に配向したアルミナセラミックスの結晶粒が50%以上が存在することが示された。
【0091】
なお、実験では、磁場の印加方向は、重力の方向と同一方向、それと垂直な方向の2種類しか実施しなかったが、例えば、重力の方向から45°傾けた方向に磁場を印加した場合には、
図10において45°にピークを有する結晶粒の方位分布が得られる。当業者であれば、磁場の印加方向を制御するだけで、アルミナセラミックスの結晶粒の配向が制御された焼結体が得られることを理解する。
【0092】
図11は、例2、例8および例13の試料のXRDパターンを示す図である。
【0093】
図11には、各試料のアルミナセラミックスのXRDパターンが示される。磁場を印加することなく製造された例13の試料は、上述したように、配向しておらず、ランダムであった。例13の試料のXRDパターンおよびピーク強度比は、ICDD(00-005-0712)に一致することを確認した。一方、例2および例8の試料のXRDパターンのピーク強度比は、ICDDのそれに一致しなかった。このことは、磁場を印加することによって製造された例2および例8の試料が配向しているためである。
【0094】
さらに、XRDパターンの(006)および(110)のピーク強度に着目し、ピーク強度比I006/I110を調べたところ、例2の試料のピーク強度比I006/I110は0.547、例13の試料のそれは0.078であった。上述したように、例2の試料は、多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対して垂直方向にアルミナセラミックスの結晶粒がc軸配向した焼結体であることから、ピーク強度比I006/I110が0.25以上であれば多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対して垂直方向にアルミナセラミックスの結晶粒がc軸配向していると簡易的に判断できる。
【0095】
図12は、種々の試料の可視光直線透過率スペクトルを示す図である。
図13は、種々の試料の赤外透過率スペクトルを示す図である。
図14は、種々の試料の赤外透過率スペクトルを示す図である。
【0096】
図12には例2、例8、例13および例14の試料の可視光に対する透過特性が示される。
図12に示すように、アルミナセラミックスの厚さが900μmである例2、例8および例14の試料の波長500nmにおける直線透過率(T
in(500nm))は、それぞれ、28.2%、20.1%および1.2%であり、アルミナセラミックスの結晶粒が配向した例2および例8の試料は、例14の試料に対して、可視光における優れた透過特性を有することが分かった。
【0097】
なお、アルミナセラミックスの厚さが300μmである例13の試料の波長500nmにおける直線透過率(Tin(500nm))は、42.5%と大きかったが、これは、アルミナセラミックスの可視光領域における透過率がアルミナセラミックスの厚さに依存しており、厚いほど透過率が低下するためである。このことから、例2、例8の焼結体のアルミナセラミックスの厚さが300μmとなれば、例13の試料の透過率を優に超え、可視透過特性に優れた焼結体となることが分かる。
【0098】
また、表3によれば、例2と同様に、多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対して垂直方向にアルミナセラミックスの結晶粒がc軸配向した焼結体である例3および例5の試料は、10%を超える波長500nmにおける直線透過率を有しており、優れた可視透過特性を有することが分かった。一方、例2と同様に、多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対して垂直方向にアルミナセラミックスの結晶粒がc軸配向した焼結体である例1、例4、例6の試料の波長500nmにおける直線透過率は、10%を下回っていた。
【0099】
また、例8と同様に、多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対して平行方向にアルミナセラミックスの結晶粒がc軸配向した焼結体である例9および例11の試料は、10%を超える波長500nmにおける直線透過率を有しており、優れた可視透過特性を有することが分かった。一方、例8と同様に、多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対して平行方向にアルミナセラミックスの結晶粒がc軸配向した焼結体である例7、例10、例12の試料の波長500nmにおける直線透過率は、10%を下回っていた。
【0100】
図13、
図14および表3によれば、例2、例3、例5、例8、例9および例11の試料は、いずれも、60%を超える波長5μmにおける全透過率(T
total(5μm))を有していた。そのほかの一部の試料の波長5μmにおける全透過率は、60%を下回ったが、比較的優れた赤外透過性を有することを確認した。
【0101】
アルミナセラミックスの結晶粒の特定の結晶方位(例えば、c軸)が多結晶スピネルセラミックスとの接合面に対し0°以上90°以下の範囲に配向したとしても、必ずしも可視透過性に優れ、かつ、赤外透過性に優れる焼結体とはならない。これは、表2に示すように、焼結条件によって、多結晶スピネルセラミックスあるいはアルミナセラミックスの気孔率や結晶粒の粒径が大きすぎるためと考える。
【0102】
このことからも、実用化を考慮すれば、多結晶スピネルセラミックスの気孔率は、0.3%未満であり、多結晶スピネルセラミックスの結晶粒の粒径は、215nm以上380nm以下の範囲であり、アルミナセラミックスの気孔率は、0.07%以下であり、アルミナセラミックスの結晶粒の粒径は、320nm以上680nm以下の範囲を満たす必要があるといえる。
【0103】
図15は、透過率とX線回折の強度比との関係を示す図である。
【0104】
図15は、表2および表3の結果に基づいて、波長500nmおよび波長5μmにおける透過率をピーク強度比I
006/I
110でプロットしたものである。この結果、上述の気孔率および結晶粒径を満たす多結晶スピネルセラミックスと、それと接合した、上述の気孔率および結晶粒径を満たすアルミナセラミックスとの焼結体において、アルミナセラミックスの表面のX線回折パターンにおける(006)面と(110)面とのピーク強度比I
006/I
110は、0.5以上0.7以下の範囲を満たすことが好ましいことが示された。
【0105】
【0106】
表3によれば、例1~例12と例13および例14とを比較すると、アルミナセラミックスと多結晶スピネルセラミックスとが接合した焼結体において、アルミナセラミックスの結晶粒が所定の配向をしても、機械的強度の低下は見られず、高い機械的強度が維持されることが分かった。
【0107】
表4にsin2ψ法による多結晶スピネルセラミックスの上に位置し、それと接合したアルミナセラミックスの残留応力およびその状態について調べた結果を示す。測定方向がa軸とは、アルミナセラミックスの結晶粒のa軸方向に測定したことを意味し、測定方向がc軸とは、アルミナセラミックスの結晶粒のc軸方向に測定したことを意味し、測定方向がランダムとは、アルミナセラミックスの結晶粒がランダムであり、特定の結晶方向に測定していないことを意味する。
【0108】
この結果、例2および例8の試料を用いて、アルミナセラミックスのa軸方向の熱膨張係数を調べたところ、正に大きな残留応力を有し、アルミナセラミックスは引張状態にあることが分かった。このことから、アルミナセラミックスのa軸方向の熱膨張係数は、多結晶スピネルセラミックスのそれよりも大きくなっているといえる。
【0109】
一方、アルミナセラミックスのc軸方向の熱膨張係数を調べたところ、多結晶スピネルセラミックスに対して負に大きな残留応力を有し、アルミナセラミックスは圧縮状態にあることが分かった。このことから、アルミナセラミックスのc軸方向の熱膨張係数は、多結晶スピネルセラミックスのそれよりも小さくなっているといえる。
【0110】
また、例14の試料を用いて、ランダムなアルミナセラミックスの熱膨張係数を調べたところ、多結晶スピネルセラミックスに対して負の残留応力を有し、アルミナセラミックスは圧縮状態にあることが分かった。このとき残留応力の絶対値の大きさは、c軸方向に測定した際のそれよりも小さかった。このことから、アルミナセラミックスのランダムの熱膨張係数は、多結晶スピネルセラミックスのそれよりも小さいが、c軸方向のそれよりも大きいといえる。
【0111】
まとめると、アルミナセラミックスおよびスピネルの熱膨張係数は、
c軸アルミナ<ランダムアルミナ<スピネル<a軸アルミナ
の順番であることが分かった。この順番は、上述したように文献値とは異なっており、アルミナセラミックスを配向させて積層したためと考えられる。また、このような熱膨張係数の不一致にもかかわらず、アルミナセラミックスを配向させることにより、機械的強度が維持されたことは予想しない驚くべき結果であるといえる。
【0112】
本発明の配向性アルミナ積層型多結晶スピネルセラミックス焼結体は、可視から中赤外までの広帯域において優れた透過性のみならず高い硬度を有するので、耐スクラッチ性や耐熱・耐食・耐久性などが要求される赤外線センサ等の光学窓材の他、時計窓材、光源窓材、高温あるいはプラズマ環境下で使用する製造装置などの窓材、赤外レーザー通信や探知用途などのフィルタ等の工業用途への応用が可能となる。