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特開2023-166662非磁性部材、チタン合金およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166662
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】非磁性部材、チタン合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20231115BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20231115BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20231115BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20231115BHJP
   B22F 10/28 20210101ALN20231115BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALN20231115BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
C22C1/04 E
C22F1/00 604
C22F1/00 621
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 630Z
C22F1/00 660B
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 692A
C22F1/00 694B
C22F1/00 628
B22F10/28
B33Y80/00
C22F1/00 694A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077304
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大石 敬一郎
(72)【発明者】
【氏名】高宮 博之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 潤也
(72)【発明者】
【氏名】林 秀高
(72)【発明者】
【氏名】上田 真玄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智博
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA06
4K018AB02
4K018BA03
4K018BA08
4K018BB04
4K018BB10
4K018BC12
4K018CA02
4K018CA11
4K018DA22
4K018DA28
4K018DA32
4K018EA41
(57)【要約】
【課題】電気的特性(比抵抗)と機械的特性(ヤング率、強度等)を高次元で両立できるチタン合金を提供する。
【解決手段】本発明のチタン合金は、全体を100質量%(単に「%」という。)として、Al:5~9.5%、Fe:1~4%、Mo:1~5%、Mn:0.3~4%、C :0.01~0.15%、Ti:残部からなり、さらに、O:0.1~0.6%含んでもよい。このチタン合金の金属組織は、(α+β)相からなる結晶粒と、その結晶粒を包囲する網目状のα相からなる粒界となり得る。その結晶粒は針状晶となり、粒界にはAlやCが濃化した状態となる。結晶粒の平均粒径は、例えば、50~200μmとなり、粒界の平均厚みは、例えば、1~20μmとなる。本発明のチタン合金は、例えば、高比抵抗と高強度等が求められる非磁性部材に適する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体に対する質量割合(単に「%」という。)で、下記に示す成分組成を有するチタン合金。
Al:5~9.5%
Fe:1~4%
Mo:1~5
Mn:0.3~4%
C :0.01~0.15%
Ti:残部
【請求項2】
さらに、全体に対する質量割合で、O:0.1~0.6%含む請求項1に記載のチタン合金。
【請求項3】
結晶粒と結晶粒を包囲する網目状の粒界とを有する金属組織からなり、
該結晶粒は、(α+β)相からなり、
該粒界は、α相からなる請求項1または2に記載のチタン合金。
【請求項4】
前記結晶粒は、針状晶である請求項3に記載のチタン合金。
【請求項5】
前記結晶粒は、平均粒径が50~200μmである請求項3に記載のチタン合金。
【請求項6】
前記粒界で、前記結晶粒よりもAlとCが濃化している請求項3に記載のチタン合金。
【請求項7】
前記粒界は、平均厚みが1~20μmである請求項3に記載のチタン合金。
【請求項8】
請求項1に記載のチタン合金からなり、交番磁界中で用いられる非磁性部材。
【請求項9】
前記チタン合金は、比抵抗:2μΩm以上である請求項8に記載の非磁性部材。
【請求項10】
前記チタン合金は、0.2%耐力:1200MPa以上およびヤング率:115GPa以上である請求項8または9に記載の非磁性部材。
【請求項11】
焼結体または溶製体からなるチタン基材を加熱して再結晶化させる組織制御工程を備え、
請求項3に記載のチタン合金を得る製造方法。
【請求項12】
前記組織制御工程は、950~1350℃で加工歪みを加える熱間加工工程と、該熱間加工工程後に0.1~13℃/秒で冷却する冷却工程とを備える請求項11に記載のチタン合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン合金等に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量で強度等に優れるチタン合金(チタン基複合材を含む。)は、航空、宇宙、自動車等の様々な分野で利用される。このため、要求仕様(特性)や用途等に応じて種々のチタン合金が提案されており、例えば、下記の文献に関連する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-320618
【特許文献2】WO2014/27677
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S. Abkowitz et al U.S. patent 4.731.115
【非特許文献2】古田忠彦, et al., “反応焼結法で作製した高強度TiC(1-X)粒子強化型Ti基複合材料の高比抵抗化と高剛性化に及ぼすCとAl元素の影響”, 日本金属学会誌, 第83巻, 第3号(2019), pp.97-106.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、Ti-Al-Fe-Mo-Mn-Si-C合金(特許文献1の表1中のNo.13、16)を提案している。このチタン合金は、Siを必須元素として0.04%含み、Cを不純物として0.007%または0.003%含んでいる。
【0006】
特許文献2は、Ti-Al-Fe-Si-O合金(特許文献2の表1)を提案している。このチタン合金の金属組織は、微細な針状α相からなる。なお、特許文献1および特許文献2のチタン合金はいずれも、プラズマ溶解して得られた溶製材からなる。
【0007】
非特許文献1は、チタン合金(母材)中にTiC(強化粒子)を分散させたTi基複合材を提案している。このようなTi基複合材は、高強度かつ高剛性である。
【0008】
非特許文献2は、チタン合金(母材)中にTiC1-c(0<c<1)を分散させたTi基複合材を提案している。このTi基複合材は、高強度・高剛性のみならず、高比抵抗でもある。なお、非特許文献1および非特許文献2のTi基複合材はいずれも、粉末成形体を焼成して得られた焼結材からなる。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来と異なる新たなチタン合金等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、所定の組成系のチタン合金が、機械的特性(強度、剛性等)のみならず電気的特性(比抵抗等)にも優れ得ることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0011】
《チタン合金》
(1)本発明は、全体に対する質量割合(単に「%」という。)で、下記に示す成分組成を有するチタン合金である。
Al:5~9.5%、Fe:1~4%、Mo:1~5%、Mn:0.3~4%、
C :0.01~0.15%、Ti:残部
【0012】
(2)本発明のチタン合金は、例えば、高強度、高剛性または高比抵抗を発現し得る。この理由は、現状、次のように考えられる。本発明のチタン合金は、(α+β)相からなる結晶粒と、各結晶粒を包囲するα相からなる網目状の粒界を形成し得る。結晶粒は、例えば、針状晶となり、チタン合金の高強度化や高剛性化に寄与し得る。粒界は、例えば、AlやCの濃化により電子の散乱を助長して、チタン合金の高比抵抗化に寄与し得る。本発明のチタン合金は、そのような金属組織の形成により、優れた機械的特性や電気的特性を発現するようになると考えられる。
【0013】
《非磁性部材》
本発明は、例えば、上述したチタン合金からなる非磁性部材(電磁用部材)としても把握される。本発明の非磁性部材によれば、例えば、高周波数(例えば高回転数)域の交番磁界中で使用されたときに発生する渦電流損を低減できる。また、高速運動(回転、往復動等)により大きな力(遠心力、慣性力等)が作用するときでも、非磁性部材の破損や変形等の抑止、薄肉化、軽量化、小型化等が図られる。
【0014】
「非磁性」(透磁率)は、電磁機器の磁気回路を短絡させない程度であればよい。本発明の非磁性部材は、その全体がチタン合金でなくてもよいし、その全体が必ずしも非磁性でなくてもよい。要するに本発明の非磁性部材は、少なくとも一部の部位が、非磁性なチタン合金からなればよい。
【0015】
《製造方法》
本発明は、上述したチタン合金や非磁性部材の製造方法としても把握できる。チタン合金は、焼結材でも溶製材でもよいが、所望の高特性を得るために組織制御がなされるとよい。そこで本発明は、例えば、焼結体または溶製体からなるチタン基材を加熱して再結晶化させる組織制御工程を備えるチタン合金(非磁性部材)の製造方法であるとよい。なお、組織制御工程は、例えば、非磁性部材等の成形や熱処理を兼ねてもよい。
【0016】
《その他》
特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また本明細書でいう「x~yμΩm」はxμΩm~yμΩmを意味する。他の単位系(MPa、GPa等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】各試料のチタン合金の組織写真(SEM像)である。
図2A】試料1のチタン合金をEPMA分析した元素マッピング像である。
図2B】その拡大像である。
図3】試料C4のチタン合金をEPMA分析した元素マッピング像である。
図4A】試料1のチタン合金の粒界付近を、EPMAで線分析して得た元素分布を示すグラフである。
図4B】試料C4のチタン合金の粒界付近を、EPMAで線分析して得た元素分布を示すグラフである。
図5】試料1のチタン合金の加工材をEDX分析して得た元素分布を示すグラフである。
図6】比抵抗の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、チタン合金や非磁性部材のみならず、その製造方法等にも該当する。また方法的な構成要素でも物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0019】
《チタン合金》
(1)組成
チタン合金は、少なくともAl、Fe、Mo、MnおよびCを含み、さらにはOを含んでもよい。チタン合金の組成の詳細は次の通りである。
【0020】
Al、C、Oはα相安定化元素であり、過少では比抵抗が不十分となり、過多では伸びが小さくなる。またAlとCは、結晶粒以外に、粒界α相(α相からなる粒界)で多く固溶する。粒界α相におけるAlとCの濃化が、チタン合金の比抵抗の向上に大きく寄与していると考えられる。
【0021】
Alは、例えば、5~9.5%、5.5~9%さらには6~8.5%含まれる。Cは、例えば、0.01~0.15%、0.02~0.12%さらには0.04~0.1%含まれる。Oは、例えば、0.1~0.5%、0.15~0.45%さらには0.2%~0.4%含まれる。なお、本実施例でいう成分組成(%)は、特に断らない限り、チタン合金全体に対する質量割合(質量%)である。
【0022】
Fe、Mo、Mnはβ相安定化元素であり、過少では強度が不十分となり、過多では伸びが小さくなる。このようなβ相安定化元素(特にMo)は、結晶粒(β相)と粒界(α相)との界面(β/α界面)付近で濃化して、上述した粒界α相の形成や成長に寄与すると考えられる。
【0023】
Moは、例えば、1~5% 1.5~4.5%さらには2~4%含まれる。Feは、例えば、1~4%、1.5~3.5%さらには2~3%含まれる。Mnは、例えば、0.3~4%、1.5~3.5%さらには2~3%含まれる。
【0024】
チタン合金は、上述した元素以外に、技術的・経済的に除去が困難または不可避な元素(不純物元素)、またはその特性を向上させる改質元素を、例えば、1%以下、0.5%以下さらには0.3%以下含んでもよい。このような元素として、例えば、N、S等の他、中性的元素(全率固溶型元素)であるSn、Zr等がある。
【0025】
(2)組織
チタン合金の金属組織は、組成、製造過程、熱処理等により変化し得る。金属組織は、例えば、結晶粒と結晶粒を包囲する網目状の粒界とを有し、結晶粒が(α+β)相からなり、粒界がα相からなる。このような金属組織のチタン合金は、電気的特性や機械的特性に優れる。より具体的にいうと、次の通りである。
【0026】
結晶粒は、例えば、細いα相やβ相からなる針状晶となる。結晶粒のサイズ(形状を問わず「粒径」という。)は、例えば、平均粒径で50~200μmさらには75~150μmである。また、本発明のチタン合金では、厚い層状の粒界が網目状に形成され得る。その粒界の平均厚みは、例えば、1~20μmさらには5~15μmである。なお、結晶粒の平均粒径や粒界の平均厚みは、例えば、金属組織を顕微鏡(SEM等)で観察して得られた画像(視野:300μm×400μm)を、解析ソフト:ImageJ(オープンソースプログラム)で分析(計算)して求まる。
【0027】
(3)特性
チタン合金は、優れた電気的特性や機械的特性を発揮し得る。電気的特性として、例えば、2~5μΩm、2.1μΩm~4μΩmさらには2.2μΩm~3μΩmという高比抵抗を発揮し得る。比抵抗値は、例えば、直流四端子法により測定される(図6参照)。
【0028】
機械的特性として、例えば、引張強度(破断強度)で1200~1700MPa、1250~1650MPaさらには1350~1550MPa、0.2%耐力で1150~1600MPa、1200~1500MPaさらには1250~1450MPaという高強度を発揮し得る。またヤング率で、例えば、115~135GPaさらには120~130GPaという高剛性も発揮し得る。さらに伸びで、例えば、0.3~5%、0.7~4%という高延性も発揮し得る。
【0029】
《製造方法》
チタン合金は、例えば、焼結法、溶製法、(粉末)積層造形法(いわゆる3Dプリンター)等により製造され得る。粉末成形体を加熱して焼結体を得る焼結法によれば、ニアネットシェイプ化により後加工を削減して、歩留まりよく部材を製造できる。
【0030】
チタン合金は、冷間状態または熱間状態で塑性加工(鍛造、プレス等)されてもよいし、熱処理が施されてもよい。例えば、焼結体または溶製体からなるチタン基材(原材)に、熱間加工を施した後、所定速度で冷却すると、上述したような金属組織が得られる(組織制御工程)。具体的にいうと、950~1350℃さらには1200~1300℃で加工歪みを加える熱間加工工程と、熱間加工工程後に0.1~13℃/秒さらには1~10℃/秒で冷却する冷却工程とを行うとよい。これにより、動的再結晶が生じて上述した特異な金属組織が形成されると考えられる。
【0031】
《非磁性部材/電動装置》
本発明のチタン合金によれば、例えば、高比抵抗、高強度、高剛性、低透磁率等を満たす非磁性部材が得られる。非磁性部材の具体的な用途を問わないが、例えば、電動機(電磁機器、電動装置)に組み込まれる永久磁石(界磁源)の保護部材(保護管、保護ケース)等に用いられる(例えば特開2020-43746号公報参照)。なお、電動機の一例として、高回転を要求される遠心式の圧縮機がある。圧縮機は、例えば、エンジンの過給器や燃料電池のエアコンプレッサに用いられる。
【実施例0032】
焼結材に熱間加工を施して種々の試料(チタン合金)を製作し、それらの電気的特性(比抵抗)と機械的特性(ヤング率、引張強度、0.2%耐力、伸び)を評価した。このような具体例を挙げつつ、以下に本発明をさらに詳しく説明する。
【0033】
《試料の製作》
(1)原料粉末
Ti粉末には、市販の水素化脱水素粉末(トーホーテック株式会社製)を篩い(#350)で分級したものを用いた(粒径160μm以下)。
【0034】
合金元素源となる合金粉末には、以下の粉末の一種または複数種を用いた。
(a) Ti-36%Al粉末(大同特殊鋼株式会社製/粒径160μm以下)
(b) Fe-60%Mo粉末(太陽鉱工株式会社製/粒径45μm以下)
(c) Fe-78%Mn-1.74C粉末(福田金属株式会社製/粒径45μm以下)
(d) Al-40%V粉末(キンセイマテック株式会社製/平均粒径:9μm)
(e) Mo粉末(日本新金属株式会社製/平均粒径:9μm)
(f)TiC粉末 (日本新金属株式会社製/平均粒径:3μm)
【0035】
本実施例で示す組成は、特に断らない限り、各原料粉末または混合粉末の全体に対する質量割合(質量%)であり、単に「%」で示す。粉末の平均粒径は、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(MT3300EX/日機装株式会社製)で求めた。なお、酸素は、粉末の粒子表面における吸着物または処理雰囲気が供給源となる。
【0036】
(2)混合工程
表1に示す組成となるように、秤量して配合した原料粉末を、V型混合器で1時間混合した。こうして各試料毎に混合粉末を用意した。なお、試料C1、C2は、TiCを除く母材全体の組成(質量%)と、全体(母材との合計)に対するTiCの体積割合とを表1に示した。
【0037】
(3)成形工程
試料1~4は、混合粉末を金型成形して、丸棒状の成形体(φ16mm×150mm程度)とした。このとき、成形圧力は4t/cm(392MPa)とした。
【0038】
試料C1~C4は、混合粉末を塩化ビニールチューブ(PVC)に入れてCIP成形して、丸棒状の成形体(φ16mm×150mm程度)とした。このときも、成形圧力は4t/cm(392MPa)とした。
【0039】
(4)焼結工程
各成形体を真空中(1×10-5torr)で加熱(1300℃)して焼結させた。焼結温度に至るまでの昇温速度:約5℃/min、焼結時間経過後の冷却速度:10℃/sとした。1300℃の保持時間(焼結時間)は、試料1~4:4時間、試料C1~C4:16時間とした。
【0040】
(5)加工工程
各焼結体を大気雰囲気中で熱間加工(鍛造)した。加熱温度:1200℃、加工率:56%とした。加工率は、断面減少率(Aw/Ao)で算出した。Awは加工後の断面積、Aoは加工前の断面積である。
【0041】
熱間加工後の焼結体(加工品)は、大気中で、冷却速度:5℃/sで降温させた。その後、熱処理等は一切行わなかった。こうして得られた各試料(チタン合金)を用いて、以降の測定および観察を行った。
【0042】
《測定》
(1)電気的特性(比抵抗)
比抵抗は、システムソースメーター (KEITHLEY社製) を用いて、図6に示すように、直流四端子法により求めた。具体的にいうと、先ず、各試料から製作した角柱体(3mm(t)×4mm(w)×20mm)に、次のようにして電極を形成した。角柱体の中央部分(電圧電極間(L):10mm)をマスキングテープでマスクする。マスクした両端部分とさらにその両外側部分との4箇所(図6参照)に、端子線(銀線:φ0.20mm)を巻き付ける。各端子線を巻き付けた部分と角柱体の両端面とに、銀ペースト(藤倉化成株式会社製 ドータイト D-550)をそれぞれ塗布する。塗布後の角柱体を、大気中で100℃×12時間加熱して乾燥させる。こうして、電流電極と電圧電極を備えた試験片を用意した。
【0043】
試験片について室温域で直流四端子法により測定された電圧値(V)および電流値(I)と、その断面形状(S=t×w)とにより、各試料に係る比抵抗(電気抵抗率)を算出した(図6の式(1)参照)。こうして得られた各試料の比抵抗(測定値)を表1に併せて示した。
【0044】
(2)機械的特性(ヤング率、引張強度、伸び)
各試料から製作した丸棒引張試験片(平行部径:φ2.4mm、ゲージ長さ:14mm)を用いて、オートグラフ(株式会社島津製作所製 AUTOGRAPH AG-1 50kN)により引張試験を行った。
【0045】
引張試験は、室温大気中で、ひずみ速度:5×10-4/sとして行った。ロードセルとビデオ伸び計から得られた荷重-ストローク線図に基づいて応力-ひずみ関係を求め、機械的特性を特定した(JIS Z 2241:2011 参照)。その結果を表1に併せて示した。なお、引張強度は、破断時の荷重と試験片の初期形状とに基づいて算出した。伸びは、破断時における試験片のひずみである。
【0046】
《観察》
(1)各試料の引張試験前の金属組織をSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。試料1、試料C1および試料C4に係る観察像(SEM像)を図1にまとめて示した。
【0047】
(2)金属組織をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)で元素分析した。試料1に係る観察像(EPMA像)を図2A図2B(両図を併せて「図2」という。)に、試料C4に係るEPMA像を図3に示した。
【0048】
(3)金属組織の粒界近傍を跨ぐように、EPMAで線状に分析した。試料1、試料C4に係る分析結果を、それぞれ図4A図4B(両図を併せて「図4」という。)に示した。
【0049】
(4)試料1のチタン合金を後方せん孔押出加工した試験片を用いて、粒界近傍をEDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)で分析した。こうして得られた各元素の拡散分布状態を図5に示した。
【0050】
(5)なお、金属組織のX線回折解析(XRD/Cu-Kα)から、結晶粒は主に(α+β)相からなり、粒界は主にα相からなることを確認した。
【0051】
《評価》
(1)特性
表1から明らかなように、所定の組成からなるチタン合金は、高比抵抗であると共に、高剛性、高強度、高延性であった。具体的にいうと、比抵抗:2.3μΩm以上、ヤング率:115GPa以上、引張強度:1400MPa以上、0.2%耐力:1300MPa以上、伸び:1%以上であった。一方、試料C1~C4のチタン合金は、それら特性を高次元で同時に満していなかった。
【0052】
(2)組織
図1から明らかなように、所定の組成からなるチタン合金(例えば試料1)は、結晶粒内に針状の(α+β)相と、幅広なα相からなる網目状の粒界とからなる金属組織を有していた。このような金属組織は、他の試料C1や試料C4には観られない特異なものであった。
【0053】
図2から明らかなように、試料1の金属組織では、数μm程度の幅の粒界α相において、α相安定化元素であるAlとCが略均一的に濃化していた。さらに詳細に観ると、結晶粒のβ相と粒界α相との界面に、Mo、Mn、Feが略均一的に濃化していた。これは図4Aからもわかる。さらに、図5からもわかるように、そのような金属組織や元素分布は、押出加工後にも再現されることが確認された。
【0054】
一方、図2図3図4の比較から明らかなように、試料1のような粒界近傍における元素分布は、試料C4等には観られなかった。なお、試料1の観察像を既述した方法で解析したところ、結晶粒の平均粒径は120μm、粒界α相の平均厚さは10μmであった。
【0055】
《考察》
(1)比抵抗
本発明のチタン合金が高比抵抗を発現する理由は次のように考えられる。α相にAlおよびCが固溶してなる網目状の粒界は、格子の不均一変形が助長されて電子の散乱が起き易くなっていると考えられる。そのような高比抵抗相からなる粒界により、結晶粒が被覆された状態となっていることが、高比抵抗の発現要因と推察される。
【0056】
(2)異相界面における粒界での濃化現象
熱間加工で形成された旧β粒界は、α相の優先的な核生成サイトとなる。β相から、α相とβ相の二相((α+β)相)へ変態する拡散律速型相変態の場合、β相とα相の界面(「β/α界面」という。)に存在する元素の分配(分布)や拡散挙動が、β相から粒界α相への成長挙動を律則する。
【0057】
β相中の拡散速度が小さいMo、Mn等のβ相安定化元素(特にMo)は、β/α界面付近における排出速度も遅くなり、β/α界面付近で濃化し易くなる。この結果、旧β粒界付近で、粒界α相の優先成長が促進されたと考えられる。
【0058】
また、侵入型溶質元素であるCは、結晶粒内よりも粒界内で固溶することにより、自由エネルギーが低下して安定となるため、粒界で濃化したと考えられる。
【0059】
【表1】
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6