(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166674
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】電源装置、レーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/097 20060101AFI20231115BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20231115BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20231115BHJP
【FI】
H01S3/097 A
H01S3/00 G
H02M7/48 M
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077328
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 洸一
【テーマコード(参考)】
5F071
5F172
5H770
【Fターム(参考)】
5F071AA05
5F071CC01
5F071CC03
5F071GG02
5F071GG03
5F071GG05
5F071GG08
5F071HH02
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5F172ZA03
5H770AA07
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5H770EA01
5H770HA03W
5H770HA03Z
5H770JA11W
5H770LA01Z
(57)【要約】
【課題】ハードウェアのみでも効果的に過電圧を抑制できる電源装置等を提供する。
【解決手段】一対の放電電極を含むレーザ共振器200を駆動する電源装置250は、一対の放電電極の容量を含む共振回路に高周波電圧V
RFを印加する高周波電源と、高周波電源と共振回路の間に設けられ、高周波電圧V
RFを所定範囲内に制限するクランプ回路600と、を備える。高周波電源は、充電回路によって充電される充電コンデンサ411と、当該充電コンデンサ411の直流電圧を交流電圧に変換するインバータ412と、当該交流電圧を昇圧して高周波電圧V
RFを生成する昇圧トランス413と、を備え、クランプ回路600は、昇圧トランス413と並列に設けられるトランス620と、当該トランス620の高周波電源400側に接続されて充電コンデンサ411を充電可能な整流回路630と、を備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の放電電極を含むレーザ共振器を駆動する電源装置であって、
前記一対の放電電極の容量を含む共振回路に高周波電圧を印加する高周波電源と、
前記高周波電源と前記共振回路の間に設けられ、前記高周波電圧における前記共振回路の共振周波数帯外の振動を抑制する振動抑制回路と、
を備える電源装置。
【請求項2】
前記高周波電源は、供給される直流電圧を交流電圧に変換するインバータと、当該交流電圧を昇圧して前記高周波電圧を生成する昇圧トランスと、を備え、
前記振動抑制回路は、前記昇圧トランスの2次側と前記共振回路の間に接続される、
請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記振動抑制回路は、前記共振周波数帯内に共振周波数を持つ共振部と、当該共振部を流れる電流を減衰させるダンピング抵抗と、を備えるダンピング回路である、請求項1に記載の電源装置。
【請求項4】
前記振動抑制回路は、前記高周波電圧を所定範囲内に制限するクランプ回路である、請求項1に記載の電源装置。
【請求項5】
前記高周波電源は、充電回路によって充電される充電コンデンサと、当該充電コンデンサの直流電圧を交流電圧に変換するインバータと、当該交流電圧を昇圧して前記高周波電圧を生成する昇圧トランスと、を備え、
前記クランプ回路は、前記昇圧トランスと並列に設けられるトランスと、当該トランスの前記高周波電源側に接続されて前記充電コンデンサを充電可能な整流回路と、を備える、
請求項4に記載の電源装置。
【請求項6】
前記クランプ回路は、前記整流回路と前記充電コンデンサの間に、当該充電コンデンサと並列に設けられるコンデンサを備える、請求項5に記載の電源装置。
【請求項7】
前記高周波電源は、前記高周波電圧を検出する高周波電圧検出部と、当該高周波電圧に基づいて前記インバータに対する制御信号を生成する制御信号生成部と、を備える請求項5に記載の電源装置。
【請求項8】
一対の放電電極を含むレーザ共振器と、
前記一対の放電電極の容量を含む共振回路に高周波電圧を印加する高周波電源と、
前記高周波電源と前記共振回路の間に設けられ、前記高周波電圧における前記共振回路の共振周波数帯外の振動を抑制する振動抑制回路と、
を備えるレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用の加工ツールとして、レーザ加工装置が広く普及している。レーザ加工装置には、CO
2レーザなどの高出力のガスレーザが使用される。
図1は、レーザ加工装置またはレーザ装置100Rの機能ブロック図である。レーザ装置100Rは、レーザ共振器200および電源装置250Rを備える。レーザ共振器200は、一対の放電電極202、204と、全反射鏡206と、部分反射鏡208を備える。
【0003】
一対の放電電極202、204は、CO2などのレーザ媒質ガスが充填されたガスチャンバ内に設けられる。一対の放電電極202、204の間には、静電容量Cが存在する。この静電容量CとインダクタL(インダクタ素子あるいは寄生インダクタ)は、共振周波数FRESを有する共振回路210を形成する。
【0004】
レーザ共振器200を駆動する電源装置250Rは、高周波電圧VRFを共振回路210に印加する。高周波電圧VRFの周波数FRF(以下では同期周波数ともいう)は、共振回路210の共振周波数FRESの近傍に設定される。高周波電圧VRFが印加されることで、一対の放電電極202、204の間に放電電流が流れる。この放電電流がレーザ媒質ガスを励起し、レーザ発振または誘導放出のための反転分布を形成する。反転分布からの誘導放出光は、全反射鏡206と部分反射鏡208が形成する光共振器内を往復し、励起状態のレーザ媒質ガスを通過することで増幅される。増幅された誘導放出光の一部が部分反射鏡208から出力(レーザ光)として取り出される。
【0005】
電源装置250Rは、安定化された直流電圧VDCを生成する直流電源300と、直流電圧VDCを高周波電圧VRFに変換して共振回路210に印加する高周波電源400を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
放電電極202、204の接続不良等による開放状態や、レーザ未発光時等の軽負荷状態では、放電電極202、204間の静電容量Cが極端に小さくなるため、共振回路210の共振周波数(以下では異常共振周波数FRES′ともいう)が非常に高くなる。この結果、高周波電源400の同期周波数FRFと共振回路210の異常共振周波数FRES′に大きな乖離が発生し(FRF<FRES′)、高周波電源400に含まれる昇圧トランスの2次側に過大な高周波電圧VRFが発生する。なお、本明細書において単に「共振周波数」という場合は、特に断らない限り正常時の共振周波数FRESを指すものとする。また、正常時の共振周波数FRESを異常共振周波数FRES′と特に区別する場合は、正常共振周波数(FRES)と表現することがある。
【0008】
特許文献1は、共振回路に印加される過大な高周波電圧を抑制するために、共振回路の両端間の過電圧を一時的に抑制するガスアレスタやバリスタ等の過電圧抑制素子を開示している。過電圧抑制素子が過電圧に耐えられる時間は限られており、その間に異常を検出した保護回路が、ソフトウェア制御によって共振回路への高周波電圧の印加を停止させる。しかし、異常発生時に過電圧が直接的に加わる過電圧抑制素子の寿命が短いという問題に加え、ソフトウェア制御を伴う保護回路の動作が遅いという問題がある。
【0009】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、ハードウェアのみでも効果的に過電圧を抑制できる電源装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の電源装置は、一対の放電電極を含むレーザ共振器を駆動する電源装置であって、一対の放電電極の容量を含む共振回路に高周波電圧を印加する高周波電源と、高周波電源と共振回路の間に設けられ、高周波電圧における共振回路の共振周波数帯外の振動を抑制する振動抑制回路と、を備える。
【0011】
この態様によれば、高周波電源と共振回路の間に設けられる振動抑制回路によって、正常共振周波数帯外の振動を抑制できる。開放状態や軽負荷状態において発生する過大な高周波電圧は、正常時の共振周波数(FRES)より高い異常共振周波数(FRES′)の高周波振動に起因する。本発明では、正常共振周波数帯外の異常共振周波数の高周波振動を非一時的または定常的に抑制可能な振動抑制回路をハードウェアのみで構成することによって、ソフトウェア制御を伴う特許文献1より高速に過電圧を抑制できる。振動抑制回路としては、正常共振周波数帯外の周波数の電流を選択的に減衰させるダンピング回路や、少なくとも正常共振周波数帯外の周波数の高周波電圧を所定範囲内に制限するクランプ回路が例示される。
【0012】
本発明の別の態様は、レーザ装置である。この装置は、一対の放電電極を含むレーザ共振器と、一対の放電電極の容量を含む共振回路に高周波電圧を印加する高周波電源と、高周波電源と共振回路の間に設けられ、高周波電圧における共振回路の共振周波数帯外の振動を抑制する振動抑制回路と、を備える。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本発明に包含される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ハードウェアのみでも効果的に過電圧を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】第1実施形態に係るレーザ装置の機能ブロック図である。
【
図3】
図2の電源装置の主な回路構成の一例を示す。
【
図4】振動抑制回路が設けられない電源装置において、レーザ共振器を負荷開放状態に切り替えた場合の高周波電圧の参考例を示す。
【
図5】第1実施形態に係る電源装置において、レーザ共振器を負荷開放状態に切り替えた場合の高周波電圧の例を示す。
【
図6】第2実施形態に係るレーザ装置の機能ブロック図である。
【
図7】
図6の電源装置の主な回路構成の一例を示す。
【
図8】第2実施形態に係る電源装置において、レーザ共振器を負荷開放状態に切り替えた場合の高周波電圧の例を示す。
【
図9】第3実施形態に係るレーザ装置の機能ブロック図である。
【
図10】
図9の電源装置の主な回路構成の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下では実施形態ともいう)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0017】
図2は、本発明の第1実施形態に係るレーザ装置100の機能ブロック図である。レーザ装置100は、商用電源10と、直流電源300と、高周波電源400と、ダンピング回路500と、共振インダクタLと、レーザ共振器200を備える。本発明の第1実施形態に係る電源装置250は、直流電源300、高周波電源400、ダンピング回路500の全部または一部によって構成される。電源装置250の機能ブロックのうちソフトウェア制御を伴うものは、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現される。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。
【0018】
直流電源300は、AC-DC変換部310と、DC-DC変換部320と、DCリンク電圧検出部330と、高周波電圧指令演算部340と、デューティ決定部350と、PWM信号生成部360を備える。AC-DC変換部310は、商用電源10から供給される三相交流等の交流電圧を直流電圧に変換する。DC-DC変換部320は、AC-DC変換部310によって変換された直流電圧を、レーザ装置100のレーザ発振動作に好適な直流電圧に変換する。DC-DC変換部320は、PWM信号生成部360によって生成されるPWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)信号によってスイッチング制御されるトランジスタ等のスイッチング素子を備える。以下では、DC-DC変換部320によって変換された直流電圧を、直流電圧VDCやDCリンク電圧VDCともいう。DCリンク電圧検出部330は、DC-DC変換部320によって生成されたDCリンク電圧VDCを検出してデューティ決定部350にフィードバックする。
【0019】
高周波電圧指令演算部340は、レーザ共振器200の動作および/または状態を示す情報のフィードバックに基づいて、高周波電源400が生成すべき高周波電圧VRFおよび/または直流電源300が生成すべきDCリンク電圧VDCについての指令を演算する。レーザ共振器200から高周波電圧指令演算部340にフィードバックされる情報としては、レーザ共振器200が発振するレーザ光の強度や、一対の放電電極202、204および/または共振インダクタLを流れる電流が例示される。デューティ決定部350は、DCリンク電圧検出部330によって検出されたDCリンク電圧VDCと、高周波電圧指令演算部340によって演算された高周波電圧指令に基づいて、PWM信号生成部360が生成すべきPWM信号(パルス波)のデューティ比を決定する。PWM信号生成部360は、デューティ決定部350によって決定されたデューティ比のPWM信号を生成してDC-DC変換部320のスイッチング素子に印加する。
【0020】
高周波電源400は、DC-RF変換部410と高周波信号生成部420を備える。DC-RF変換部410は、直流電源300によって生成されたDCリンク電圧V
DCを、同期周波数F
RFの高周波電圧V
RFに変換する。後述する
図3に示されるように、DC-RF変換部410は、DCリンク電圧V
DCを交流電圧V
ACに変換するインバータ412と、当該交流電圧V
ACを昇圧して高周波電圧V
RFを生成する昇圧トランス413を備える。高周波信号生成部420は、インバータ412のトランジスタ群をスイッチング制御するための高周波信号を生成する。この高周波信号の周波数であるスイッチング周波数F
SWは、高周波電圧V
RFの同期周波数F
RFと実質的に等しい。また、同期周波数F
RFは共振回路210の正常共振周波数F
RESの近傍に設定されるため、スイッチング周波数F
SWも正常共振周波数F
RESの近傍に設定される。本実施形態は高周波数で動作する電源装置250に好適であり、スイッチング周波数F
SW、同期周波数F
RF、正常共振周波数F
RESは例えば100 kHz以上であるのが好ましい。また、レーザ装置100がレーザ加工装置である場合の高周波電源400の出力(高周波電圧V
RF)は1 kW以上であるのが好ましい。
【0021】
本発明の振動抑制回路の一例であるダンピング回路500は、高周波電源400と共振回路210(共振インダクタL)の間に設けられ、高周波電源400によって生成された高周波電圧VRFにおける共振回路210の共振周波数帯外の振動を抑制する。ここで「共振周波数帯」とは、高周波電圧VRFのうち共振回路210の正常な共振動作に寄与する周波数帯を意味し、典型的には共振回路210の正常共振周波数FRESを中心とする微小な周波数帯である。共振周波数帯は、同期周波数FRFおよび/またはスイッチング周波数FSWを中心とする微小な周波数帯と言い換えてもよい。
【0022】
レーザ共振器200の構成は
図1と同様である。但し、
図1におけるインダクタLは、
図2では共振インダクタLとしてレーザ共振器200外に示されている。
【0023】
図3は、
図2の電源装置250の主な回路構成の一例を示す。商用電源10から三相交流が供給されるAC-DC変換部310は、六つのダイオードからなる三相全波整流回路311(三相ブリッジ整流回路)と、平滑コンデンサ312を備える。三相全波整流回路311は、入力された三相交流を整流して脈流に変換し、平滑コンデンサ312は、当該脈流を平滑化して直流電圧に変換する。
【0024】
DC-DC変換部320は、高電位ラインと低電位ラインの間に接続されるトランジスタ321と、トランジスタ321の前段の高電位ライン上に設けられるインダクタ322と、トランジスタ321の後段の高電位ライン上に設けられるダイオード323を備える。不図示のPWM信号生成部360からのPWM信号が制御端子に印加されたトランジスタ321のスイッチング動作によって、DC-DC変換部320はAC-DC変換部310によって変換された直流電圧を、レーザ共振器200のレーザ発振動作に好適な直流電圧VDCまたはDCリンク電圧VDCに変換する。
【0025】
高周波電源400におけるDC-RF変換部410は、充電コンデンサ411と、インバータ412と、昇圧トランス413を備える。バンクコンデンサとも呼ばれる充電コンデンサ411は、DC-DC変換部320の後段において、高電位ラインと低電位ラインの間に接続される。このため、充電コンデンサ411は、充電回路として機能するDC-DC変換部320が生成したDCリンク電圧VDCによって充電される。電極間にDCリンク電圧VDCが現れる充電コンデンサ411は、DCリンク電圧検出部330としても機能しうる。
【0026】
インバータ412は、充電コンデンサ411の電極間の直流電圧V
DCを交流電圧V
ACに変換して、昇圧トランス413の1次コイル413Aに印加する。インバータ412は、
図3における上から下に1次コイル413Aに電流を流すことが可能な一対のトランジスタ412A/412Dと、
図3における下から上に1次コイル413Aに電流を流すことが可能な一対のトランジスタ412B/412Cを備える。高電位側のトランジスタ412Aと低電位側のトランジスタ412Bは、高電位ラインと低電位ラインの間に直列に接続されており、その接続点が昇圧トランス413の1次コイル413Aの一端(
図3における上端)に接続されている。同様に、高電位側のトランジスタ412Cと低電位側のトランジスタ412Dは、高電位ラインと低電位ラインの間に直列に接続されており、その接続点が昇圧トランス413の1次コイル413Aの他端(
図3における下端)に接続されている。
【0027】
不図示の高周波信号生成部420は、これらの二組のトランジスタ対(412A/412Dおよび412B/412C)に対して、互いに相補的な高周波信号を印加することで、昇圧トランス413の1次コイル413Aに交流電圧V
ACを発生させる。具体的には、一方のトランジスタ対412A/412Dの制御端子に印加される高周波信号「420」が「ON」の時は、他方のトランジスタ対412B/412Cの制御端子に印加される高周波信号「420′」が「OFF」になっており、
図3における上から下に1次コイル413Aに電流が流れる。また、他方のトランジスタ対412B/412Cの制御端子に印加される高周波信号「420′」が「ON」の時は、一方のトランジスタ対412A/412Dの制御端子に印加される高周波信号「420」が「OFF」になっており、
図3における下から上に1次コイル413Aに電流が流れる。このように、二組のトランジスタ対の制御端子に印加される相補的な高周波信号「420」および「420′」は、互いにタイミングがずれているが実質的に等しいスイッチング周波数F
SWを有する。
【0028】
昇圧トランス413は、インバータ412によって生成された交流電圧VACを昇圧して高周波電圧VRFを生成する。具体的には、1次コイル413Aの交流電圧VACが昇圧された高周波電圧VRFが2次コイル413Bに現れる。
【0029】
振動抑制回路としてのダンピング回路500は、昇圧トランス413の2次側と共振インダクタLの間に2次コイル413Bと並列に接続され、当該2次コイル413Bに現れる高周波電圧VRFにおける共振周波数帯外の振動を抑制する。ダンピング回路500は、共振周波数帯内に共振周波数を持つ共振部510と、当該共振部510を流れる電流を減衰させるダンピング抵抗520を備える。
【0030】
共振部510は、並列に接続されたインダクタ511とコンデンサ512を備えるLC共振回路である。共振部510の共振周波数は、インバータ412のスイッチング周波数FSW(あるいは、これと等価な高周波電圧VRFの同期周波数FRF、共振回路210の正常共振周波数FRES)と略等しく設定される。共振回路210が正常共振周波数FRESで正常に動作している場合は、それと等価な共振周波数を有する共振部510の作用によって、正常共振周波数FRESを中心とする共振周波数帯内の高周波電圧VRFがダンピング回路500のダンピング抵抗520をほとんど流れない。
【0031】
一方、放電電極202、204の接続不良等による開放状態や、レーザ共振器200が未発光時等の軽負荷状態では、放電電極202、204間の静電容量Cが極端に小さくなることで、正常共振周波数F
RESより格段に高い異常共振周波数F
RES′の異常振動が高周波電圧V
RFに現れる。
図4は、ダンピング回路500が設けられない電源装置250において、レーザ共振器200を負荷開放状態に切り替えた場合の高周波電圧V
RFの参考例を示す。負荷開放状態への切替えは、本図の中央の「Load Released」のタイミングで行われた。
【0032】
負荷開放状態に切り替えられる前の正常動作時の高周波電圧V
RFは正常共振周波数F
RES(
図4の例では約2 MHz)の正常な振動を示している。一方、負荷開放状態に切り替えられた後の異常動作時の高周波電圧V
RFには異常共振周波数F
RES′の異常振動が現れる。この異常振動は、正常動作時の高周波電圧V
RFに比べて振幅が大きいだけでなく周波数も高い(F
RES′>F
RES)。このような高周波数の過電圧の影響は昇圧トランス413の1次側にも及び、例えば高周波電源400のインバータ412を構成するトランジスタに高周波数の過電圧または過電流が加わる。このため、トランジスタの誤動作やサージによる破壊のリスクがある。また、このような急激な負荷変動に伴う高周波数の異常振動は、LCフィルタ(例えば、
図3におけるインダクタ322および平滑コンデンサ312)を含むために時定数が比較的大きい直流電源300におけるフィードバック制御では十分に抑制できない。
【0033】
これに対して、ダンピング回路500を設けた本実施形態に係る電源装置250によれば、
図5に示されるように負荷開放状態に切り替えられた後の異常振動を効果的に抑制できる。これは、共振周波数帯外の異常共振周波数F
RES′の異常振動は、ダンピング回路500の共振部510を通過し、ダンピング抵抗520を流れてジュール熱として消費されるためである。このように、実質的に共振周波数帯外の高周波電圧V
RFのみをダンピング抵抗520に流すという周波数選択性を付与する共振部510を備えるダンピング回路500によって、開放状態や軽負荷状態で発生する高周波数の異常振動のみを迅速に抑制できる。本実施形態では、正常共振周波数帯外の異常共振周波数F
RES′の高周波振動を非一時的または定常的に抑制可能なダンピング回路500をハードウェアまたは受動素子のみで構成することによって、直流電源300におけるソフトウェア制御またはフィードバック制御より高速に過電圧を抑制できる。
【0034】
なお、レーザ共振器200が正常に動作している場合であっても、高周波電圧VRFに含まれる正常共振周波数FRESの高調波成分は、ダンピング回路500の共振部510を通過してダンピング抵抗520を流れ続ける。そのため、ダンピング抵抗520の温度上昇が懸念される。温度上昇を抑えるためにダンピング抵抗520を大型化することも考えられるが、電源装置250全体の大型化を招く可能性もある。以下で説明する本発明の第2実施形態および/または第3実施形態に係るレーザ装置100および/または電源装置250によれば、このような問題も解決できる。
【0035】
図6は、本発明の第2実施形態に係るレーザ装置100の機能ブロック図である。前述の実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図6におけるレーザ装置100は、
図2におけるレーザ装置100のダンピング回路500の代わりにクランプ回路600を備える。また、
図2の直流電源300におけるソフトウェア制御またはフィードバック制御の機能の一部が、
図6では高周波電源400に移されている。具体的には、
図2における直流電源300の高周波電圧指令演算部340と同様の機能が、高周波電圧検出部430、高周波電圧演算部440、高周波電圧指令演算部450、制御パラメータ決定部460等として高周波電源400に移されている。
図6における直流電源300は、
図2における高周波電圧指令演算部340の代わりに、DCリンク電圧指令部370を備える。
【0036】
DCリンク電圧指令部370は、DC-DC変換部320が生成すべきDCリンク電圧VDCについての指令を生成する。典型的には、DCリンク電圧指令部370が生成するDCリンク電圧指令は一定である。デューティ決定部350は、DCリンク電圧検出部330によって検出されたDCリンク電圧VDCと、DCリンク電圧指令部370によって生成された一定のDCリンク電圧指令の偏差を小さくするために、PWM信号生成部360が生成すべきPWM信号(パルス波)のデューティ比を決定する。PWM信号生成部360は、デューティ決定部350によって決定されたデューティ比のPWM信号を生成してDC-DC変換部320のスイッチング素子(トランジスタ321)に印加する。このように、本実施形態の直流電源300では、DC-DC変換部320が生成するDCリンク電圧VDCを一定に保つための簡易的な制御が行われる。
【0037】
高周波電源400は、
図2におけるDC-RF変換部410および高周波信号生成部420に加えて、高周波電圧検出部430と、高周波電圧演算部440と、高周波電圧指令演算部450と、制御パラメータ決定部460を備える。
【0038】
高周波電圧検出部430は、DC-RF変換部410によって生成された高周波電圧VRFを検出して制御パラメータ決定部460にフィードバックする。具体的には、高周波電圧検出部430は、昇圧トランス413の1次側(1次コイル413A)の交流電圧VACおよび/または2次側(2次コイル413B)の高周波電圧VRFを検出する。高周波電圧演算部440は、高周波電圧検出部430によって検出された交流電圧VACおよび/または高周波電圧VRFに基づいて、DC-RF変換部410が生成した高周波電圧VRFを演算して制御パラメータ決定部460にフィードバックする。
【0039】
高周波電圧指令演算部450は、レーザ共振器200の動作および/または状態を示す情報のフィードバックに基づいて、高周波電源400が生成すべき高周波電圧VRFについての指令を演算する。レーザ共振器200から高周波電圧指令演算部450にフィードバックされる情報としては、レーザ共振器200が発振するレーザ光の強度や、一対の放電電極202、204および/または共振インダクタLを流れる電流が例示される。
【0040】
制御パラメータ決定部460は、高周波電圧検出部430および/または高周波電圧演算部440から提供された高周波電圧VRFと、高周波電圧指令演算部450によって演算された高周波電圧指令に基づいて、高周波信号生成部420が生成すべき高周波信号の制御パラメータを決定する。この制御パラメータとしては、パルス波である高周波信号のデューティ比および/または位相が例示される。制御パラメータ決定部460が高周波信号のデューティ比を決定または調整する場合、高周波信号生成部420はDC-RF変換部410のインバータ412に対してPWM制御を実行する。制御パラメータ決定部460が高周波信号の位相を決定または調整する場合、高周波信号生成部420はDC-RF変換部410のインバータ412に対して位相シフト制御を実行する。高周波電圧検出部430によって検出された高周波電圧VRFに基づいてインバータ412に対する制御信号を生成する制御信号生成部として機能する高周波信号生成部420は、制御パラメータ決定部460によって決定されたデューティ比および/または位相の高周波信号(パルス波)を生成してDC-RF変換部410のインバータ412の各トランジスタに印加する。
【0041】
本発明の振動抑制回路の一例であるクランプ回路600は、高周波電源400(DC-RF変換部410)と共振回路210(共振インダクタL)の間に設けられ、高周波電源400によって生成された高周波電圧VRFにおける共振回路210の共振周波数帯外の振動を抑制する。具体的な構成や作用については後述するが、クランプ回路600は高周波電源400によって生成された高周波電圧VRFを所定範囲内に制限する(クランプする)。
【0042】
図7は、
図6の電源装置250の主な回路構成の一例を示す。振動抑制回路としてのクランプ回路600は、昇圧トランス413の2次側と共振インダクタLの間に2次コイル413Bと並列に接続されると共に、トランス620等を介して昇圧トランス413の1次側の充電コンデンサ411に接続される。2次コイル413Bに現れる高周波電圧V
RFにおける共振周波数帯外の振動を抑制するクランプ回路600は、共振周波数帯内に共振周波数を持つ共振部610と、昇圧トランス413と並列に設けられるトランス620と、当該トランス620の高周波電源400側(昇圧トランス413の1次側)に接続されて充電コンデンサ411を充電可能な整流回路630と、当該整流回路630と充電コンデンサ411の間に当該充電コンデンサ411と並列に設けられるコンデンサ640を備える。
【0043】
共振部610は、並列に接続されたインダクタ611とコンデンサ612を備えるLC共振回路である。この共振部610は、
図3における共振部510と同様に、実質的に共振周波数帯外の高周波電圧V
RFのみをクランプ回路600に流すという周波数選択性を付与する。この周波数選択性によって、共振回路210が正常共振周波数F
RESで正常に動作している場合は、それと等価な共振周波数を有する共振部610の作用によって、正常共振周波数F
RESを中心とする共振周波数帯内の高周波電圧V
RFがクランプ回路600をほとんど流れない。一方、放電電極202、204の接続不良等による開放状態や、レーザ共振器200が未発光時等の軽負荷状態で高周波電圧V
RFに現れる異常共振周波数F
RES′の異常振動は、トランス620、整流回路630、コンデンサ640、充電コンデンサ411等を通じて迅速に抑制される。なお、後述するように、トランス620、整流回路630、コンデンサ640、充電コンデンサ411等は、周波数帯によらず高周波電圧V
RFを所定範囲内に制限できるため、周波数選択性を付与する共振部610が設けられなくても急激な負荷変動に伴う過電圧を効果的に抑制できる。
【0044】
トランス620は、共振部610を通じて共振周波数帯外の高周波電圧VRFが供給される昇圧トランス413の2次側の第1コイル621と、当該第1コイル621の高周波電圧VRFが変圧された電圧が現れる昇圧トランス413の1次側の第2コイル622を備える。トランス620の変圧比は、第1コイル621と第2コイル622の巻数比Nに比例する。第2コイル622から変圧された高周波電圧VRFが供給される整流回路630は、四つのダイオードからなる二相全波整流回路(二相ブリッジ整流回路)である。整流回路630によって整流された電流は、並列に接続されたコンデンサ640および充電コンデンサ411を充電する。前述のように、充電コンデンサ411の電極間の電圧であるDCリンク電圧VDCは、DCリンク電圧指令部370からのDCリンク電圧指令に基づいて一定に制御されるため、クランプ回路600からの帰還電流によって充電コンデンサ411が瞬間的に過充電されたとしても、電極間電圧は迅速に一定のDCリンク電圧VDCに収束する。
【0045】
以上のような構成のクランプ回路600は、いわゆる回生型の電圧クランプ回路である。クランプ回路600が回生動作(トランス620の第1コイル621から第2コイル622に電圧および/または電流を帰還させる動作)を行う条件は、昇圧トランス413の2次コイル413Bに現れる高周波電圧VRF、帰還先の充電コンデンサ411のDCリンク電圧VDC、トランス620の巻数比Nによって「VRF>N×VDC」と表される。すなわち、昇圧トランス413の2次側に現れる高周波電圧VRFの振幅が「N×VDC」より大きくなると、クランプ回路600が回生動作を行って高周波電圧VRFの振幅を「N×VDC」以下に制限する(クランプする)。
【0046】
図8は、クランプ回路600が設けられた電源装置250において、レーザ共振器200を負荷開放状態に切り替えた場合の高周波電圧V
RFの例を示す。負荷開放状態に切り替えられた後に異常共振周波数F
RES′による細かい異常振動が見られるものの、その振幅はクランプ回路600によって効果的に抑制されていることが分かる。このように異常振動の振幅が高速に抑制されるのは、時定数が大きいLCフィルタ(例えば、
図7におけるインダクタ322および平滑コンデンサ312)を含む直流電源300ではなく、主要な遅れ要素が実質的にトランス620の漏れインダクタンスのみである1次遅れ系のクランプ回路600および高周波電源400を通じてフィードバック制御が行われるためである。本実施形態では、フィードバック制御先の充電コンデンサ411のDCリンク電圧V
DCが一定に保たれることから、以上のような構成および作用のクランプ回路600の挿入が可能になった。
【0047】
ここで、
図7のように、クランプ回路600の整流回路630の前段(高周波電源400側)にコンデンサ640を設けたコンデンサインプット方式とすることで、制御の遅れの原因となる時定数を最小化または最適化できる。但し、制御の遅れが許容できる限りにおいて、整流回路630はチョークインプット方式等の他の方式で構成されてもよい。また、制御の遅れを低減するために、高速動作が可能なSiCやGaN等のワイドバンドギャップ半導体によって、クランプ回路600および/または振動抑制回路の少なくとも一部の半導体素子を形成するのが好ましい。但し、制御の遅れが許容できる限りにおいて、Si等の汎用的な半導体材料によって、クランプ回路600および/または振動抑制回路の全部または一部の半導体素子を形成してもよい。
【0048】
本実施形態では、ダンピング抵抗520に正常共振周波数F
RESの高調波成分等が流れ続ける
図3の第1実施形態と異なり、周波数によらず「V
RF>N×V
DC」(過電圧の発生)という動作条件を満たさない限りクランプ回路600には実質的に電流が流れない。このため、第1実施形態におけるダンピング抵抗520の温度上昇と同様の問題が本実施形態では発生しない。また、本実施形態では第1実施形態と同様に、正常共振周波数帯外の異常共振周波数F
RES′の高周波振動を非一時的または定常的に抑制可能なクランプ回路600をハードウェアまたは受動素子のみで構成することによって高速に過電圧を抑制できる。
【0049】
図9は、本発明の第3実施形態に係るレーザ装置100の機能ブロック図である。前述の実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図9におけるレーザ装置100は、
図6におけるレーザ装置100と直流電源300の構成が異なる。具体的には、
図10の主回路構成例に示されるようにAC-DC変換部310が、
図7における三相全波整流回路311の代わりに、六つのトランジスタからなる三相PFC(Power Factor Correction)回路313によって構成される。三相PFC回路313によって十分な大きさの直流電圧を生成できるため、
図6および
図7のようなDC-DC変換部320(トランジスタ321等)が不要となり、三相PFC回路313の後段には平滑コンデンサ312とインダクタ322からなるLCフィルタ380が配置される。
【0050】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本発明の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0051】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0052】
100 レーザ装置、200 レーザ共振器、202 放電電極、204 放電電極、210 共振回路、250 電源装置、300 直流電源、400 高周波電源、410 DC-RF変換部、411 充電コンデンサ、412 インバータ、413 昇圧トランス、420 高周波信号生成部、430 高周波電圧検出部、500 ダンピング回路、510 共振部、520 ダンピング抵抗、600 クランプ回路、610 共振部、620 トランス、630 整流回路、640 コンデンサ。