(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166685
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】制動力制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 7/14 20060101AFI20231115BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20231115BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20231115BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20231115BHJP
【FI】
B60L7/14
B60L15/20 Y
B60L3/00 J
B60L58/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077349
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 寛貴
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BC12
5H125CA15
5H125CB02
5H125DD11
5H125DD16
5H125EE16
5H125EE27
5H125EE42
(57)【要約】
【課題】走行用のモータの逆駆動トルクを制動に利用する自動車において、運転者が体感するオーバーシュート感を緩和する技術を提供する。
【解決手段】本明細書が開示する制動力制御装置は、アクセルペダルオフが検知されたときに所定の制動トルクが発生するように走行用のモータを制御する。制動力制御装置は、制動トルクが予め定められたトルク変化勾配で予め定められた上限制動トルク値まで変化するようにモータを制御している間に所定の条件が成立した場合、上限制動トルク値を下げるとともにトルク変化勾配を下げる。上限制動トルクだけでなく、トルク変化勾配も下げることで、アクセルオフ時に運転者が体感するオーバーシュート感が緩和される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセルペダルオフが検知されたときに所定の制動トルクが発生するように走行用のモータを制御する制動力制御装置であり、
前記制動トルクが予め定められたトルク変化勾配で予め定められた上限制動トルク値まで変化するように前記モータを制御している間に所定の条件が成立した場合、前記上限制動トルク値を下げるとともに前記トルク変化勾配を下げる、制動力制御装置。
【請求項2】
前記所定の条件は、(1)タイヤスリップが検知された場合、(2)前記制動トルクで生成される回生電力を蓄えるバッテリの残電力量が所定の残電力量閾値を超えた場合、(3)前記モータを制御するインバータの異常が検知された場合、の少なくとも1つを含んでいる、請求項1に記載の制動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、走行用のモータを用いた制動力を制御する制動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤスリップが生じたときに走行用のモータの出力トルクを調整する技術が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気自動車では、アクセルオフ時に、モータの逆駆動トルクを利用して制動力を得る場合がある。タイヤスリップが生じると、大きな制動トルクを出せないため、上限制動トルクを下げることが考えられる。一方、運転者は、通常時(タイヤスリップが発生していないとき)のアクセルオフ時の減速を経験しているうちに、通常時のアクセルオフ時の減速感が身についてしまっている。運転者は、アクセルペダルオフした後、いつもの減速感が得られるものと期待をするが、タイヤスリップに限らず何等かの要因で上限制動トルクが下がった場合、期待した上限制動トルクが実現しないため、車速の減速変化がオーバーシュートするように感じる。本明細書は、走行用のモータの逆駆動トルクを制動に利用する自動車において、運転者が体感するオーバーシュート感を緩和する技術を提供する。なお、以下では、モータの逆駆動トルクを制動トルクと称する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書は、アクセルペダルオフが検知されたときに所定の制動トルクが発生するように走行用のモータを制御する制動力制御装置を開示する。制動力制御装置は、制動トルクが予め定められたトルク変化勾配で予め定められた上限制動トルク値まで変化するようにモータを制御している間に所定の条件が成立した場合、上限制動トルク値を下げるとともにトルク変化勾配を下げる。本明細書が開示する制動力制御装置は、モータの逆駆動トルクを利用して自動車を減速させているときに何らかの要因で上限制動トルクを下げざるを得ない場合、トルク変化勾配も下げる。それゆ、減速加速度の変化が緩やかになり、運転者が期待した上限制動トルクが出力できない場合に運転者が感じるオーバーシュート感を緩和できる。なお、「トルク変化勾配を下げる」とは、トルク変化勾配の傾きをなだらかにすることを意味する。
【0006】
上記した所定条件は、(1)タイヤスリップが検知された場合、(2)制動トルクで生成される回生電力を蓄えるバッテリの残容量が所定の残容量閾値を超えた場合、(3)モータを制御するインバータの異常が検知された場合、の少なくとも1つを含んでいる。上記(1)-(3)のいずれの場合も、当初に設定された上限制動トルクを出力できなくなる。そのような場合にトルク変化勾配も下げることで、運転者が感じるオーバーシュート感を緩和できる。
【0007】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例の制動力制御装置の作用効果を説明するタイムチャート図である。
【
図2】実施例の制動力制御装置を備えた自動車のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、
図1を参照して、減速時に運転者が体感する減速感と、実施例の制動力制御装置の効果について説明する。
図1のタイムチャート(1)は、車両のモータが発生する制動トルクのタイムチャートを示している。タイムチャート(2)は、車両の加速度(減速加速度)のタイムチャートを示している。タイムチャート(3)は、運転者の体感減速感を示している。車両の加減速挙動と運転者が受ける体感刺激との関係については、特開2020-118057号公報に詳しいのでそちらを参照されたい。
【0010】
制動力制御装置は、アクセルペダルがオフされると(時刻T1)、制動を開始する。制動力制御装置は、予め決められた通常トルク変化勾配dTnで制動トルクが変化するように、モータを制御する。通常であれば、制動力制御装置は、通常上限制動トルク値Tn_maxに達するまで、制動トルクを一定の変化率(通常トルク変化勾配dTn)で増加させる。タイムチャート(1)のグラフG11が、通常時の制動トルクのタイムチャートを示している。
【0011】
制動トルクの増加に応じて車両加速度も負値で増大していく(点線のグラフG21)。なお、タイムチャート(2)のグラフは、加速を正値で表し、減速を負値で表している。制動トルクと車両加速度の間には比例関係があるので、タイムチャート(1)のグラフとタイムチャート(2)のグラフは、絶対値のグラフ形状が相似の関係となる。
【0012】
運転者は、過去のアクセルオフ時の減速感を覚えている。車両の加速度が負値で大きくなっていくにつれて、運転者が体感する減速感も増大する。タイムチャート(3)のグラフG31が、通常トルク変化勾配dTnで通常上限制動トルク値Tn_maxまで制動トルクが増大するときの減速感を表している。
【0013】
仮に、時刻T2でタイヤスリップが発生したとする。タイヤスリップが発生すると、通常上限制動トルク値Tn_maxまで制動トルクを高めることができなくなるので、制動制御装置は、上限制動トルク値を、通常上限制動トルク値Tn_maxからスリップ時上限制動トルク値Ts_maxまで下げる。タイムチャート(1)のグラフG12(破線のグラフ)が、上限制動トルク値を下げたときの制動トルクのタイムチャートを示している。従来の制動力制御装置であれば、通常トルク変化勾配dTnを維持したまま、制動トルクがスリップ時上限制動トルク値に達するまで制動トルクを増加させる。上限制動トルク値が通常上限制動トルク値Tn_maxからスリップ時上限制動トルク値Ts_maxまで下がることに応じて、車両加速度の絶対値も小さくなる(破線のグラフG22)。
【0014】
トルク変化勾配が通常時の変化勾配(通常トルク変化勾配dTn)に維持されていることで、運転者の減速感は、いつもの減速感の期待もあって、タイヤスリップが発生していない通常の場合と同様に増大していく(破線のグラフG32)。タイヤスリップが発生していない場合、制動トルクは時刻T3で通常上限制動トルク値Tn_maxまで増大すると予想されるので、運転者は時刻T3までは、制動トルクがいつもの通り通常上限制動トルク値Tn_maxまで増大するものという期待があり、体感減速感もいつものとおりに増大していく(破線のグラフG32のポイントPa)。
【0015】
しかし、上限制動トルクがスリップ時上限制動トルク値Ts_maxに減じられているので、運転者は期待した減速感が得られず、グラフG32のポイントPbが示すように、減速感のオーバーシュートを感じる。このオーバーシュート感は、いわゆる「制動トルクが抜ける」感覚を運転者に与える。この感覚は運転者には違和感となる。
【0016】
そこで、実施例の制動力制御装置は、制動トルクが予め定められた通常トルク変化勾配dTnで予め定められた通常上限制動トルク値Tn_maxまで変化するようにモータを制御している間にタイヤスリップが発生した場合、上限制動トルク値を通常上限制動トルク値Tn_maxからスリップ時上限制動トルク値Ts_maxに下げるとともに、トルク変化勾配を通常トルク変化勾配dTnからスリップ時トルク変化勾配dTsへ下げる。時刻T2にてタイヤスリップが発生したので、時刻T2以降、トルク変化勾配がスリップ時トルク変化勾配dTsになる(実線のグラフG13)。トルク変化勾配がdTnからdTsに変化したことに応じて、時刻T3以降、車両加速度の勾配もなだらかになる(実線のグラフG23)。
【0017】
時刻T2以降、車両加速度の絶対値が小さくなるので、時刻T2以降、運転者はいつもと異なる車両減速感を感じることになる。運転者は、車両加速度の変化勾配が緩やかになったことを時刻T2から感じ続けることになる。その結果、実線のグラフG33が示すように、運転者の感じる減速感は、オーバーシュートを生じることなく、緩やかに変化する。
【0018】
タイヤスリップ発生を検知したときから制動トルクの変化勾配をそれまでよりも緩やかにすることで、運転者が体感するオーバーシュート感が緩和される。
【0019】
実施例の制動力制御装置を説明する。
図1に実施例の制動力制御装置20を搭載した電気自動車10のブロック図を示す。電気自動車10は、走行用の電気モータ(モータ13)で走行する。モータ13の出力軸は、デファレンシャルギア14を介して駆動輪15a、15bに連結されている。なお、
図1の点線矢印線は、信号線を表している。
【0020】
電気自動車10は、バッテリ11とインバータ12を備えている。インバータ12は、バッテリ11の出力電力(直流)をモータ13の駆動に適した交流電力に変換し、モータ13へ供給する。アクセルオフが検知された場合、制動力制御装置20は、モータ13が所定の逆駆動トルク(制動トルク)を出力されるようにインバータ12(モータ13)を制御する。制動力制御装置20は、車両の制動力だけでなく、駆動力も制御する。すなわち、制動力制御装置20は、アクセルペダルの開度と車速から、モータ13の目標出力トルクを決定し、目標出力トルクが実現するように、モータ13(インバータ12)を制御する。インバータ12の交流出力端には電流センサ17が備えらえている。モータ13の出力トルク/制動トルクは、インバータ12とモータ13の間を流れる電流から推定することができる。制動力制御装置20は、インバータ12とモータ13の間に流れる三相交流の電流値をフィードバックし、モータ13の出力トルク(制動トルク)が目標トルクに追従するようにインバータ12を制御する。
【0021】
なお、制動力制御装置20が直接に制御する対象はインバータ12であるが、インバータ12を制御することで結果的にモータ13の挙動が制御されるので、以降は「制動力制御装置20はモータ13を制御する」という表現を用いる。
【0022】
4個の車輪15a-15dのそれぞれにスリップセンサ21a-21dが備えられている。スリップセンサ21a-21dは制動力制御装置20に接続されており、制動力制御装置20は、スリップセンサ21a-21dの計測値に基づいていずれかのタイヤでスリップが発生したことを検知することができる。
【0023】
制動力制御装置20には、アクセルペダルセンサ18とブレーキペダルセンサ19が接続されている。制動力制御装置20は、アクセルペダルセンサ18によってアクセルペダルの開度を得る。制動力制御装置20は、ブレーキペダルセンサ19によってブレーキペダルの開度を得る。また、電気自動車10は、バッテリ11の電圧を計測する電圧センサ16を備えており、制動力制御装置20は、電圧センサ16によってバッテリ11の電圧を得る。バッテリ11の電圧と残電力量の間には既知の関係がある。制動力制御装置20は、バッテリ11の電圧からバッテリ11の残電力量を推定する。
【0024】
制動力制御装置20は、アクセルペダルのオフ(開度0%)を検知すると、モータ13が所定の制動トルクを発生するようにインバータ12を制御する。先に述べたように(
図1)、制動力制御装置20は、制動トルクが予め定められたトルク変化勾配dTnで予め定められた上限トルク値(通常上限制動トルク値Tn_max)まで変化するようにモータ13を制御する。制動力制御装置20は、そのような制御を実行している間にタイヤスリップを検知すると、上限制動トルク値を通常上限制動トルク値Tn_maxからスリップ時上限制動トルク値Ts_maxへ下げるとともに、トルク変化勾配をdTnからdTsへ下げる。ここで、「トルク変化勾配を下げる」とは、厳密には、「トルク変化勾配の絶対値を下げる」ということである。このことは、別言すれば、トルク変化勾配をなだらかにする、ということである。
【0025】
また、制動トルクは車両の減速加速度に比例する。それゆえ、制動トルクの変化勾配を下げることは、車両の減速加速度の変化勾配を下げることと等価である。減速加速度の変化勾配は、ジャーク(加加速度)と呼ばれる。
【0026】
制動力制御装置20が実行する制動トルク制御のフローチャートを
図3に示す。
図3を参照しつつ、制動トルク制御の流れを具体的に説明する。
図3の処理は、アクセルペダルのオフが検知されると開始される。
図3の処理を実行している間にアクセルペダルが踏まれたことが検知された場合には、制動力制御装置20は、
図3の処理が途中であっても強制的に終了し、車両を加速させる処理を開始する。あるいは、ブレーキペダルが踏まれたことが検知された場合、制動力制御装置20は、
図3の処理を強制終了し、ブレーキペダルの踏み込み量に応じた制動力制御を実行する。また、車速がゼロになった場合、制動力制御装置20は
図3の処理を終了する。
【0027】
アクセルペダルのオフが検知されると、制動力制御装置20は、フラグにゼロをセットする(ステップS12)。フラグとは、
図3の処理のプログラム中で定義された変数であり、タイヤスリップが発生したことを記憶するための変数である。フラグにゼロが保持されていることは、アクセルペダルオフが検知されてからタイヤスリップが発生していないことを表す。
【0028】
アクセルペダルオフが続いている間、制動力制御装置20は、ステップS13からS19までを繰り返し実行する。ステップS13からS19の処理を繰り返している間、タイヤスリップが発生すると、制動力制御装置20は、フラグに1をセットする(ステップS13:YES、S14)。フラグに1が保持されていることは、タイヤスリップが発生したことを表す。先に述べたように、制動力制御装置20は、スリップセンサ21a-21dの計測値によって、タイヤスリップの発生を検知する。
【0029】
フラグにゼロが保持されている場合(ステップS15:YES)、すなわち、タイヤスリップが発生していない場合、制動力制御装置20は、通常トルク変化勾配dTnを用いて制動トルクを算出する(ステップS16)。制動トルクは、[通常トルク変化勾配dTn]×[アクセルオフ時刻からの経過時間]の式で得られる。
【0030】
続いて制動力制御装置20は、算出した制動トルクを通常上限制動トルク値Tn_maxと比較する(ステップS17)。算出した制動トルクが通常上限制動トルク値Tn_maxを超えていれば、制動力制御装置20は、通常上限制動トルク値Tn_maxを制動トルクに設定する(ステップS17:YES、S18)。そして、制動トルクが実現するように、モータ13を制御する(ステップS19)。ステップS17にて制動トルクが通常上限制動トルク値Tn_maxより小さければ、制動力制御装置20は、ステップS16にて算出された制動トルクが実現するようにモータ13を制御する(ステップS17:NO、S19)。
【0031】
一方、フラグに1が保持されている場合(ステップS15:NO)、すなわち、タイヤスリップが発生した場合、制動力制御装置20は、スリップ時トルク変化勾配dTsを用いて制動トルクを算出する(ステップS26)。このとき、制動トルクは、[スリップ時トルク変化勾配dTs]×[アクセルオフ時刻からの経過時間]の式で得られる。
【0032】
続いて制動力制御装置20は、算出した制動トルクをスリップ時上限制動トルク値Ts_maxと比較する(ステップS27)。算出した制動トルクがスリップ時上限制動トルク値Ts_maxを超えている場合、制動力制御装置20は、スリップ時上限制動トルク値Ts_maxを制動トルクに設定する(ステップS27:YES、S28)。そして、制動トルクが実現するように、モータ13を制御する(ステップS19)。ステップS27にて制動トルクがスリップ時上限制動トルク値Ts_maxより小さければ、制動力制御装置20は、ステップS26にて算出された制動トルクが実現するようにモータ13を制御する(ステップS27:NO、S19)。
【0033】
上記の処理により、
図1のグラフG13、G23、G33が実現される。なお、
図3の処理によると、一度タイヤスリップの発生が検知されると、それ以降にタイヤスリップが解消した場合でも、制動力制御装置20は、スリップ時トルク変化勾配dTsを用いて制動トルクを算出する。スリップ時トルク変化勾配dTsを用いて制動トルクを算出しているときにトルク変化勾配を再び通常トルク変化勾配dTnに戻すと、運転者の意図に関わりなく制動力が増すことになり、運転者に違和感を与える。一度タイヤスリップが検知された後には、制動トルク算出用のトルク変化勾配を通常トルク変化勾配に戻さないことで、上記のような違和感を運転者に与えない。
【0034】
実施例の制動力制御装置20は、制動トルクが予め定められたトルク変化勾配(通常トルク変化勾配dTn)で予め定められた上限制動トルク値(通常上限制動トルク値Tn_max)まで変化するようにモータ13を制御している間にタイヤスリップを検知した場合、上限制動トルク値をTn_maxからTs_maxへ下げるとともに、トルク変化勾配を通常トルク変化勾配dTnからスリップ時トルク変化勾配dTsへ下げる。制動力制御装置20は、タイヤスリップ発生というイベントに代えて、別のイベント発生によって、上限制動トルク値とトルク変化勾配を下げるようにしてもよい。別のイベントとは、制動トルクで生成される回生電力を蓄えるバッテリ11の残電力量が所定の残電力量閾値を超えた場合、あるいは、モータ13を制御するインバータ12の異常が検知された場合、などである。
【0035】
すなわち、制動力制御装置20は、以下の3つの条件の少なくとも1つが成立した場合に上限制動トルク値とトルク変化勾配を下げるようにプログラムされていればよい。その条件とは、(1)タイヤスリップが検知された場合、(2)制動トルクで生成される回生電力を蓄えるバッテリの残電力量が所定の残電力量閾値を超えた場合、(3)モータ13を制御するインバータ12の異常が検知された場合、である。先に述べたように、バッテリ11の残電力量は、電圧センサ16の計測値から推定される。
【0036】
実施例の技術に関する留意点を述べる。制動力制御装置20は、タイヤスリップ量の大きさに応じて、スリップ時上限制動トルク値Ts_maxとスリップ時トルク変化勾配dTsを定めてもよい。ただし、スリップ時上限制動トルク値Ts_maxは、常に通常上限制動トルク値Tn_maxよりも小さくなるように定められる。また、スリップ時トルク変化勾配dTsは、常に、通常トルク変化勾配dTnよりも小さくなるように定められる。
【0037】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0038】
10:電気自動車 11:バッテリ 12:インバータ 13:モータ 14:デファレンシャルギア 15a-15d:車輪 16:電圧センサ 17:電流センサ 18:アクセルペダルセンサ 19:ブレーキペダルセンサ 20:制動力制御装置 21a-21d:スリップセンサ