(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166691
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】解析装置および解析方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20231115BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20231115BHJP
G06F 119/14 20200101ALN20231115BHJP
【FI】
G06F30/23
G06F30/10 100
G06F119:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077361
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山村 悟史
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】有限要素解析における計算コストを低減する。
【解決手段】解析装置は、第1ベース部21と特定形状部(カスプ部31)とを含む第1モデル(モデルM1)を用いた有限要素解析の解析結果に基づいて、第1モデルの剛性行列である第1剛性行列を特定する特定部と、第1剛性行列から第1ベース部21の剛性行列である第2剛性行列を差し引いて、特定形状部の剛性行列である第3剛性行列を導出する導出部と、第3剛性行列が剛性行列として設定されたシェル要素を第2ベース部に貼り付けた第2モデルを生成する生成部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ベース部と特定形状部とを含む第1モデルを用いた有限要素解析の解析結果に基づいて、前記第1モデルの剛性行列である第1剛性行列を特定する特定部と、
前記第1剛性行列から前記第1ベース部の剛性行列である第2剛性行列を差し引いて、前記特定形状部の剛性行列である第3剛性行列を導出する導出部と、
前記第3剛性行列が剛性行列として設定されたシェル要素を第2ベース部に貼り付けた第2モデルを生成する生成部と、
を備える、
解析装置。
【請求項2】
前記特定部は、前記第1モデルから前記特定形状部を除いた第3モデルを用いた有限要素解析の解析結果に基づいて、前記第2剛性行列を特定する、
請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記第1ベース部は、被加工物の基本形状を有し、
前記特定形状部は、前記第1ベース部よりも複雑な形状を有する、
請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記特定形状部は、前記被加工物に形成された加工痕の形状を有する、
請求項3に記載の解析装置。
【請求項5】
前記剛性行列は、面内応力と面内歪みとの関係を規定する行列を含む、
請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項6】
前記剛性行列は、モーメントと曲率およびねじれ率との関係を規定する行列を含む、
請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項7】
前記剛性行列は、面外せん断応力と面外せん断歪みとの関係を規定する行列を含む、
請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項8】
第1ベース部と特定形状部とを含む第1モデルを用いた有限要素解析の解析結果に基づいて、前記第1モデルの剛性行列である第1剛性行列を特定するステップと、
前記第1剛性行列から前記第1ベース部の剛性行列である第2剛性行列を差し引いて、前記特定形状部の剛性行列である第3剛性行列を導出するステップと、
前記第3剛性行列が剛性行列として設定されたシェル要素を第2ベース部に貼り付けた第2モデルを生成するステップと、
を含む、
解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、解析装置および解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製品開発において、部品に生じる応力や変形挙動を予測する需要がある。部品に生じる応力や変形挙動を予測する方法として、例えば、特許文献1に開示されているように、有限要素法を利用した解析である有限要素解析が利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有限要素解析では、モデルを複数のメッシュ(つまり、複数の要素)に分割する必要がある。モデルの形状が複雑になると、メッシュ数が膨大になり、計算コストが増加する。ゆえに、有限要素解析における計算コストを低減することが望まれている。
【0005】
本開示の目的は、有限要素解析における計算コストを低減することが可能な解析装置および解析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の解析装置は、第1ベース部と特定形状部とを含む第1モデルを用いた有限要素解析の解析結果に基づいて、第1モデルの剛性行列である第1剛性行列を特定する特定部と、第1剛性行列から第1ベース部の剛性行列である第2剛性行列を差し引いて、特定形状部の剛性行列である第3剛性行列を導出する導出部と、第3剛性行列が剛性行列として設定されたシェル要素を第2ベース部に貼り付けた第2モデルを生成する生成部と、を備える。
【0007】
特定部は、第1モデルから特定形状部を除いた第3モデルを用いた有限要素解析の解析結果に基づいて、第2剛性行列を特定してもよい。
【0008】
第1ベース部は、被加工物の基本形状を有し、特定形状部は、第1ベース部よりも複雑な形状を有してもよい。
【0009】
特定形状部は、被加工物に形成された加工痕の形状を有してもよい。
【0010】
剛性行列は、面内応力と面内歪みとの関係を規定する行列を含んでもよい。
【0011】
剛性行列は、モーメントと曲率との関係を規定する行列を含んでもよい。
【0012】
剛性行列は、面外せん断応力と面外せん断歪みとの関係を規定する行列を含んでもよい。
【0013】
上記課題を解決するために、本開示の解析方法は、第1ベース部と特定形状部とを含む第1モデルを用いた有限要素解析の解析結果に基づいて、第1モデルの剛性行列である第1剛性行列を特定するステップと、第1剛性行列から第1ベース部の剛性行列である第2剛性行列を差し引いて、特定形状部の剛性行列である第3剛性行列を導出するステップと、第3剛性行列が剛性行列として設定されたシェル要素を第2ベース部に貼り付けた第2モデルを生成するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、有限要素解析における計算コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る解析装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施形態に係る解析装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本開示の実施形態に係る解析装置が行う処理において用いられるモデルであって、第1ベース部とカスプ部とを含むモデルを示す模式図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施形態に係る解析装置が行う処理において用いられるモデルであって、
図3のモデルからカスプ部を除いたモデルを示す模式図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施形態に係る解析装置が行う処理において用いられるモデルであって、第3剛性行列が剛性行列として設定されたシェル要素を第2ベース部に貼り付けたモデルを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る解析装置1の機能構成の一例を示すブロック図である。解析装置1は、部品に生じる応力や変形挙動を予測するために、有限要素解析を実行する。解析装置1は、例えば、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、および、ワークエリアとしてのRAM等を含む。
図1に示すように、解析装置1は、例えば、生成部11と、解析部12と、特定部13と、導出部14とを含む。なお、以下で説明する解析装置1の機能は、1つの装置によって実現されてもよく、複数の装置に分担されてもよい。
【0018】
生成部11は、有限要素解析の対象となる部品の形状を再現したモデルを生成する。例えば、生成部11は、解析装置1に対して行われるユーザによる操作に応じてモデルを生成する。有限要素解析で用いられるモデルは、複数のメッシュ(つまり、複数の要素)に分割されている。モデルにおけるメッシュの生成も、生成部11によって行われる。
【0019】
解析部12は、生成部11によって生成されたモデルを用いて、有限要素解析を実行する。解析部12が行う有限要素解析では、モデルの各要素に対して力学に関する支配方程式がそれぞれ設定され、設定された全ての支配方程式を満足する解が求められる。具体的には、解析部12が行う有限要素解析では、各要素に対して設定される支配方程式として、変形と応力との関係を規定する方程式が用いられる。
【0020】
例えば、各要素に対して設定される支配方程式として、下記の式(1)が用いられる。式(1)は、面内応力と面内歪みとの関係、ならびに、モーメントと曲率およびねじれ率との関係を規定する方程式である。以下では、計算対象の面内において、第1方向と第2方向とが互いに直交するものとして説明する。また、第1方向および第2方向に直交する方向を第3方向として説明する。なお、後述する
図3から
図5では、X方向およびY方向がそれぞれ第1方向および第2方向に相当し、Z方向が第3方向に相当する。
【0021】
【0022】
式(1)中のN11、N22、N12は、面内応力である。N11は、第1方向の垂直応力である。N22は、第2方向の垂直応力である。N12は、第1方向および第2方向に平行な面におけるせん断応力である。式(1)中のM11、M22、M12は、モーメントである。M11は、第1方向の軸まわりの曲げモーメントである。M22は、第2方向の軸まわりの曲げモーメントである。M12は、ねじりモーメントである。
【0023】
式(1)中のε11、ε22、ε12は、面内歪みである。ε11は、第1方向の垂直歪みである。ε22は、第2方向の垂直歪みである。ε12は、第1方向および第2方向に平行な面におけるせん断歪みである。式(1)中のκ11、κ22、κ12は、曲率およびねじれ率である。κ11は、第1方向の曲率である。κ22は、第2方向の曲率である。κ12は、ねじれ率である。
【0024】
式(1)中のKは、面内応力と面内歪みとの関係、ならびに、モーメントと曲率およびねじれ率との関係を規定する剛性行列である。剛性行列Kは、下記の式(2)によって表される。
【0025】
【0026】
式(2)中のAは、面内剛性行列である。式(2)中のBは、カップリング剛性行列である。式(2)中のDは、曲げ剛性行列である。面内剛性行列Aによって、式(1)中のN11、N22、N12とε11、ε22、ε12との関係が規定される。つまり、面内応力と面内歪みとの関係が規定される。曲げ剛性行列Dによって、式(1)中のM11、M22、M12とκ11、κ22、κ12との関係が規定される。つまり、モーメントと曲率およびねじれ率との関係が規定される。
【0027】
例えば、各要素に対して設定される支配方程式として、上記の式(1)に加え、下記の式(3)も用いられる。式(3)は、面外せん断応力と面外せん断歪みとの関係を規定する方程式である。
【0028】
【0029】
式(3)中のS13、S23は、面外せん断応力である。S13は、第1方向および第3方向に平行な面におけるせん断応力である。S23は、第2方向および第3方向に平行な面におけるせん断応力である。式(3)中のγ13、γ23は、面外せん断歪みである。γ13は、第1方向および第3方向に平行な面におけるせん断歪みである。γ23は、第2方向および第3方向に平行な面におけるせん断歪みである。式(3)中のEは、面外せん断応力と面外せん断歪みとの関係を規定する剛性行列である。剛性行列Eによって、式(3)中のS13、S23とγ13、γ23との関係が規定される。つまり、面外せん断応力と面外せん断歪みとの関係が規定される。
【0030】
以下では、解析部12によって実行される有限要素解析において、支配方程式として、式(1)および式(3)が用いられる例を説明する。ただし、後述するように、支配方程式として用いられる式は、この例に限定されない。
【0031】
特定部13は、有限要素解析の解析結果に基づいて、当該有限要素解析に用いられるモデルの剛性行列を特定する。導出部14は、特定部13により得られた情報を用いて、後述する特定形状部(例えば、後述する
図3のカスプ部31)の剛性行列を導出する。解析装置1では、主に特定部13および導出部14による処理によって、有限要素解析における計算コストを低減することが実現される。
【0032】
図2は、本実施形態に係る解析装置1が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図2に示す処理フローは、例えば、ユーザによる所定の操作が解析装置1に対して行われた時に実行される。
【0033】
以下では、解析装置1が行う処理において、
図3に示すモデルM1、
図4に示すモデルM2、および、
図5に示すモデルM3が用いられる例を説明する。ただし、解析装置1が行う処理において用いられるモデルは、解析対象となる部品の形状に応じて適宜設定されるので、この例に限定されない。なお、後述するように、
図3に示すモデルM1は、第1モデルの一例に相当する。
図4に示すモデルM2は、第3モデルの一例に相当する。
図5に示すモデルM3は、第2モデルの一例に相当する。
【0034】
図2に示す処理フローが開始すると、ステップS101において、生成部11は、
図3に示すモデルM1を作成する。モデルM1は、解析対象となる部品の一部を再現したモデルである。
図3に示すように、モデルM1は、第1ベース部21とカスプ部31とを含む。
【0035】
カスプ部31は、解析対象となる部品の表面に形成される特定形状を有する特定形状部の一例に相当する。特定形状は、平坦な単純な形状と比較して複雑な形状である。例えば、特定形状は、少なくとも凹部または凸部を有する形状である。カスプ部31は、被加工物に形成された加工痕の形状を有する。
図3の例では、カスプ部31は、X方向に延在する凹部がY方向に複数並んだ部分である。第1ベース部21は、解析対象となる部品のうち特定形状部が形成される部分から特定形状部を除いた部分である。つまり、第1ベース部21は、平坦な単純な形状を有する。具体的には、第1ベース部21は、被加工物の基本形状を有する。特定形状部は、第1ベース部21よりも複雑な形状を有する。
図3の例では、第1ベース部21は、平板形状を有する。
図3では、モデルM1における第1ベース部21とカスプ部31との境界が一点鎖線によって示されている。
【0036】
図3に示すように、モデルM1は、全体として見ると、X方向およびY方向に延在し、Z方向に厚みを有する略平板形状に形成されている。第1ベース部21およびカスプ部31も、それぞれX方向およびY方向に延在し、Z方向に厚みを有する。第1ベース部21およびカスプ部31は、Z方向に互いに隣り合っている。なお、X方向、Y方向およびZ方向は、互いに直交する。モデルM1は、複数の要素に分割されている。具体的には、
図3に示すように、モデルM1は、X方向、Y方向およびZ方向の各方向に分割されている。
【0037】
図2中のステップS101の次に、ステップS102において、解析部12は、モデルM1を用いた有限要素解析を実行する。具体的には、解析部12は、モデルM1の各要素に対して式(1)および式(3)をそれぞれ設定し、設定された全ての支配方程式を満足する解を求める。各要素に設定される剛性行列Kおよび剛性行列Eは、予め決定されている。なお、モデルM1中の要素間において、剛性行列Kが異なっていてもよく、剛性行列Eが異なっていてもよい。
【0038】
ステップS102の次に、ステップS103において、特定部13は、モデルM1の剛性行列である第1剛性行列を特定する。具体的には、特定部13は、モデルM1を用いた有限要素解析の解析結果に基づいて、第1剛性行列を特定する。第1剛性行列は、モデルM1全体を1つの要素と仮定した場合におけるモデルM1全体の剛性行列Kおよび剛性行列Eである。
【0039】
ステップS103の次に、ステップS104において、生成部11は、
図4に示すモデルM2を作成する。
図4に示すように、モデルM2は、
図3のモデルM1からカスプ部31を除いたモデルである。つまり、モデルM2は、平坦な単純な形状を有する第1ベース部21のみを再現したモデルである。
図4に示すように、モデルM2は、X方向、Y方向およびZ方向の各方向に分割されている。
図4の例では、モデルM2における第1ベース部21のメッシュの切り方が、
図3のモデルM1における第1ベース部21のメッシュの切り方と異なっている。ただし、モデルM2における第1ベース部21のメッシュの切り方と、モデルM1における第1ベース部21のメッシュの切り方とは一致していてもよい。
【0040】
図2中のステップS104の次に、ステップS105において、解析部12は、モデルM2を用いた有限要素解析を実行する。具体的には、解析部12は、モデルM2の各要素に対して式(1)および式(3)をそれぞれ設定し、設定された全ての支配方程式を満足する解を求める。各要素に設定される剛性行列Kおよび剛性行列Eは、予め決定されている。なお、モデルM2中の要素間において、剛性行列Kが異なっていてもよく、剛性行列Eが異なっていてもよい。
【0041】
ステップS105の次に、ステップS106において、特定部13は、モデルM2の剛性行列である第2剛性行列を特定する。モデルM2は第1ベース部21のみを再現したモデルであるので、第2剛性行列は第1ベース部21の剛性行列である。具体的には、特定部13は、モデルM2を用いた有限要素解析の解析結果に基づいて、第2剛性行列を特定する。第2剛性行列は、第1ベース部21全体を1つの要素と仮定した場合における第1ベース部21全体の剛性行列Kおよび剛性行列Eである。
【0042】
ステップS106の次に、ステップS107において、導出部14は、カスプ部31の剛性行列である第3剛性行列を導出する。具体的には、導出部14は、ステップS103で特定された第1剛性行列からステップS106で特定された第2剛性行列を差し引いて、第3剛性行列を導出する。第3剛性行列は、カスプ部31全体を1つの要素と仮定した場合におけるカスプ部31全体の剛性行列Kおよび剛性行列Eである。
【0043】
例えば、導出部14は、ステップS103で第1剛性行列として特定されたモデルM1の剛性行列Kから、ステップS106で第2剛性行列として特定された第1ベース部21の剛性行列Kを差し引いて得られる剛性行列を、第3剛性行列のうちのカスプ部31の剛性行列Kとして導出する。例えば、導出部14は、ステップS103で第1剛性行列として特定されたモデルM1の剛性行列Eから、ステップS106で第2剛性行列として特定された第1ベース部21の剛性行列Eを差し引いて得られる剛性行列を、第3剛性行列のうちのカスプ部31の剛性行列Eとして導出する。
【0044】
ステップS107の次に、ステップS108において、生成部11は、
図5に示すモデルM3を作成する。モデルM3は、解析対象の部品のうちモデルM1によって再現されている部分とは異なる部分を再現したモデルである。解析対象の部品のうちモデルM3により再現される部分の表面には、実際には、モデルM1により再現される部分と同様に、カスプ部31が形成されている。
【0045】
図5に示すように、モデルM3では、第2ベース部22の表面にシェル要素41が貼り付けられている。シェル要素41は、有限要素解析で用いられる要素の一種であり、平面形状の要素である。シェル要素41は、面に対して作成される。シェル要素41は、計算上は板厚分の剛性を有するものの、板厚方向には分割されない。具体的には、第2ベース部22の表面の全域を埋め尽くすように複数のシェル要素41が第2ベース部22の表面に貼り付けられている。なお、
図5では、理解を容易にするために、第2ベース部22とシェル要素41とが分離された状態が示されている。第2ベース部22は、モデルM1の第1ベース部21と同様に、平坦な単純な形状を有する。
図5の例では、第2ベース部22は、平板形状を有する。なお、モデルM1により再現される部分とモデルM3により再現される部分とは異なる部分であるので、第2ベース部22の形状および寸法は、基本的には、第1ベース部21の形状および寸法と異なる。
【0046】
シェル要素41は、ステップS107で導出された第3剛性行列が剛性行列として設定されたシェル要素である。つまり、シェル要素41は、カスプ部31の形状を再現したソリッド要素の替わりに用いられる要素である。このようなシェル要素41が、第2ベース部22の表面の全域を埋め尽くすように、第2ベース部22の表面に複数貼り付けられている。つまり、モデルM3は、第3剛性行列が剛性行列として設定されたシェル要素41を第2ベース部22に貼り付けたモデルである。
【0047】
図2中のステップS108の次に、ステップS109において、解析部12は、モデルM3を用いた有限要素解析を実行し、
図2に示す処理フローは終了する。具体的には、解析部12は、モデルM3の各要素に対して式(1)および式(3)をそれぞれ設定し、設定された全ての支配方程式を満足する解を求める。モデルM3における第2ベース部22の各要素に設定される剛性行列Kおよび剛性行列Eは、予め決定されている。モデルM3における各シェル要素41には、ステップS107で第3剛性行列として導出された剛性行列Kおよび剛性行列Eが設定される。
【0048】
以上説明したように、解析装置1では、特定部13は、第1ベース部21と特定形状部(上記の例では、カスプ部31)とを含む第1モデル(上記の例では、モデルM1)を用いた有限要素解析の解析結果に基づいて、第1モデルの剛性行列である第1剛性行列を特定する。導出部14は、第1剛性行列から第1ベース部21の剛性行列である第2剛性行列を差し引いて、特定形状部の剛性行列である第3剛性行列を導出する。生成部11は、第3剛性行列が剛性行列として設定されたシェル要素41を第2ベース部22に貼り付けた第2モデル(上記の例では、モデルM3)を生成する。それにより、解析対象の部品のうち特定形状部が表面に形成されている部分を有限要素解析する際に、特定形状部の形状を再現したモデルを用いることなく、有限要素解析を行うことができる。特定形状部の形状を再現したモデル(例えば、上記のモデルM1)では、モデルの形状の複雑化に伴いメッシュ数が膨大になる。一方、解析装置1では、シェル要素41を用いることによって、特定形状部の形状を再現したモデルを用いることなく、有限要素解析を行うことができるので、モデルの形状の複雑化に伴うメッシュ数の増加を抑制できる。ゆえに、有限要素解析における計算コストを低減することができる。
【0049】
なお、
図2に示す処理フローによって生成されたシェル要素41は、
図2に示す処理フローの終了後、解析対象の部品のうちカスプ部31が表面に形成されている他の部分を有限要素解析する際に都度利用される。具体的には、解析対象の部品のうちカスプ部31が表面に形成されている他の部分の有限要素解析では、生成部11は、上述した処理によって生成済みのシェル要素41を当該他の部分と対応するベース部に貼り付けたモデルを生成する。そして、解析部12は、得られたモデルを用いて有限要素解析を実行する。それにより、計算コストを低減しつつ、解析対象の部品のうちカスプ部31が表面に形成されている複数の部分の有限要素解析をそれぞれ順に行うことができる。
【0050】
特に、特定部13は、第1モデル(上記の例では、モデルM1)から特定形状部(上記の例では、カスプ部31)を除いた第3モデル(上記の例では、モデルM2)を用いた有限要素解析の解析結果に基づいて、第2剛性行列を特定する。それにより、第1ベース部21全体を1つの要素と仮定した場合における第1ベース部21全体の剛性行列を第2剛性行列として適切に特定することができる。ただし、特定部13は、有限要素解析の解析結果に基づかずに、第2剛性行列を特定してもよい。例えば、第2剛性行列が既知である場合、特定部13は、有限要素解析を行うことなく、第2剛性行列を特定できる。第2剛性行列の算出対象は単純な板形状であるので、弾性体の力学である材料力学に基づく人による計算によって第2剛性行列が求められてもよい。例えば、特定部13は、有限要素解析以外の計算によって、第2剛性行列を特定してもよい。これらの場合、ステップS104およびステップS105が省略され得る。
【0051】
特に、第1ベース部21は、被加工物の基本形状を有し、特定形状部(上記の例では、カスプ部31)は、第1ベース部21よりも複雑な形状を有する。それにより、被加工物を解析対象とする有限要素解析における計算コストを低減することができる。ただし、解析対象は、被加工物に限定されない。
【0052】
特に、特定形状部は、被加工物に形成された加工痕の形状を有するカスプ部31である。それにより、解析対象の部品のうちカスプ部31が表面に形成されている部分を有限要素解析する際に、モデルの形状の複雑化に伴うメッシュ数の増加を抑制できる。ゆえに、カスプ部31が表面に形成されている部品の有限要素解析における計算コストを低減することができる。ただし、特定形状部は、カスプ部31に限定されず、種々の形状を有していてもよい。
【0053】
特に、剛性行列は、面内応力と面内歪みとの関係を規定する行列(上記の例では、式(1)中の剛性行列K)を含む。それにより、部品に生じる面内応力や面内歪みを予測するための有限要素解析における計算コストを低減することができる。
【0054】
特に、剛性行列は、モーメントと曲率およびねじれ率との関係を規定する行列(上記の例では、式(1)中の剛性行列K)を含む。それにより、部品に生じるモーメントや曲率およびねじれ率を予測するための有限要素解析における計算コストを低減することができる。
【0055】
特に、剛性行列は、面外せん断応力と面外せん断歪みとの関係を規定する行列(上記の例では、式(3)中の剛性行列E)を含む。それにより、部品に生じる面外せん断応力や面外せん断歪みを予測するための有限要素解析における計算コストを低減することができる。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0057】
上記では、解析部12によって実行される有限要素解析において、支配方程式として、式(1)および式(3)が用いられる例を説明した。ただし、支配方程式として用いられる式は、上記の例に限定されない。例えば、支配方程式として、式(3)が用いられずに式(1)のみが用いられてもよい。例えば、支配方程式として、式(1)に替えて、面内応力N11、N22、N12と面内歪みε11、ε22、ε12との関係のみを規定する方程式が用いられてもよい。
【0058】
本開示は、例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 解析装置
11 生成部
13 特定部
14 導出部
21 第1ベース部
22 第2ベース部
31 カスプ部(特定形状部)
41 シェル要素
M1 モデル(第1モデル)
M2 モデル(第3モデル)
M3 モデル(第2モデル)