(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166694
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】種子被覆方法および被覆種子
(51)【国際特許分類】
A01C 1/06 20060101AFI20231115BHJP
【FI】
A01C1/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077384
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】佐志 一道
(72)【発明者】
【氏名】宇波 繁
(72)【発明者】
【氏名】芦塚 康佑
【テーマコード(参考)】
2B051
【Fターム(参考)】
2B051AA01
2B051AB01
2B051BB01
2B051BB14
(57)【要約】
【課題】乾燥時の種子温度上昇を抑制することができる種子被覆方法、該種子被覆方法によって種子被覆剤によって被覆された被覆種子を提供する。
【解決手段】本発明に係る種子被覆方法は、鉄系粉体を含む種子被覆剤を種子に付着させ、流動させながら酸素濃度15~30%の気体を供給して鉄系粉体を酸化させて前記種子の表面に被覆層を形成する種子被覆方法であって、前記種子被覆剤を付着させる工程及び/又は被覆層を形成する工程においてポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を供給することを特徴とするものである。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系粉体を含む種子被覆剤を種子に付着させ、流動させながら酸素濃度が15~30%の気体を供給して鉄系粉体を酸化させて前記種子の表面に被覆層を形成する種子被覆方法であって、前記種子被覆剤を付着させる工程及び/又は被覆層を形成する工程においてポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を供給することを特徴とする種子被覆方法。
【請求項2】
鉄系粉体及びポリビニルアルコール系樹脂の粉体を含む種子被覆剤を、散水しながら種子に付着させ、流動させながら酸素濃度が15~30%の気体を供給して前記鉄系粉体を酸化させて前記種子の表面に被覆層を形成することを特徴とする種子被覆方法。
【請求項3】
種子被覆剤が酸化促進剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の種子被覆方法。
【請求項4】
請求項1又は2のいずれか一項に記載の種子被覆方法により種子表面に被覆層が形成されていることを特徴とする被覆種子。
【請求項5】
請求項3に記載の種子被覆方法により種子表面に被覆層が形成されていることを特徴とする被覆種子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系粉体を含む種子被覆剤によって種子を被覆する種子被覆方法、及び種子被覆剤によって被覆された被覆種子に関する。
【背景技術】
【0002】
農業従事者の高齢化、農産物流通のグローバル化に伴い、農作業の省力化や農産物生産コストの低減が解決すべき課題となっている。これらの課題を解決するために、例えば、水稲栽培においては、育苗と移植の手間を省くことを目的として、種子を圃場に直接播く直播法が普及しつつある。その中でも、種子の比重を高めるために、鉄粉を被覆した種子を用いる手法は、水田における種子の浮遊や流出を防止し、かつ鳥害を防止するというメリットがあることで注目されている。
【0003】
種子に鉄粉を被覆する方法としては、例えば特許文献1には、コーティング稲種子を薄く広げ、加湿空気を送風しながら前記鉄粉の酸化反応を25℃の室温で12時間継続した後、40℃で乾燥させる方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、鉄粉被覆層が形成された稲種子にシリカゲルを使用して被覆種子同士の凝集を抑制することで単粒化した鉄粉被覆稲種子を製造する方法が開示されている。特許文献2においては、相対湿度80%以上、10~30℃の加湿空気を種子に通風させることで、鉄粉の酸化反応を進行させている。
【0005】
さらに、特許文献3には、pH3.0以上、6.5以下の散布液を散布し、31℃以上、45℃以下の雰囲気温度で鉄系粉体を酸化させて種子を被覆する方法が開示されている。特許文献3においては、発熱防止のため、バットなどに種子を薄く拡げたうえで酸化反応を促進させており、約2時間程度で酸化処理が完了できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-192458号公報
【特許文献2】特開2014-221009号公報
【特許文献3】特開2019-213465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1においては、酸化時間に12~24時間程度を必要としており、酸化が不適切な場合には崩壊率が大きくなるといった問題がある。
【0008】
また、特許文献2においては、鉄粉を酸化させるために散布する散水量は適量とするものとされているが、鉄粉を酸化させるためにはおよそ8時間程度の長時間を必要とし、短時間では酸化が十分に進行せずに被膜が剥落するという問題がある。
【0009】
特許文献3においては、種子の死滅防止のため散布液のpHと雰囲気温度を厳格に管理する必要があり、2時間程度と比較的短時間で発錆が進行するものの、急激な酸化反応のため種子同士の凝集結着が起こりやすく、播種が困難になる。すなわち短時間化と引き換えに単粒化に課題がある。
また単粒化が良好な場合でも、被覆層が厚いと乾燥時に種子温度が上昇する現象が見られる。これに対し種子温度抑制には種子積層厚みを薄くして放熱することが有効であるが、広い作業スペースを必要とする点で課題があった。
【0010】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、乾燥時の種子温度上昇を抑制することができる種子被覆方法、該種子被覆方法によって種子被覆剤によって被覆された被覆種子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、上記の問題を解決するために、鋭意研究した結果、以下の知見を得た。
種子被覆剤によって被覆された種子(以下、単に「被覆種子」という)の乾燥時においける種子温度上昇の抑制について種々の被覆方法を実施して調査した。その結果、被覆時及び/または被覆に引き続いて流動している種子に、水と酸素濃度15~30%の気体を供給する酸化反応時にポリビニルアルコール系樹脂水溶液を散布することにより、温度上昇が効果的に抑制されることがわかった。また、種子から出る粉塵も効果的に低減されることも分かった。
【0012】
本発明は上記知見に基づくものであり、その構成は以下の通りである。
(1)本発明に係る種子被覆方法は、鉄系粉体を含む種子被覆剤を種子に付着させ、流動させながら酸素濃度15~30%の気体を供給して鉄系粉体を酸化させて前記種子の表面に被覆層を形成する種子被覆方法であって、前記種子被覆剤を付着させる工程及び/又は被覆層を形成する工程においてポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を供給することを特徴とするものである。
【0013】
(2)また、本発明に係る種子被覆方法は、鉄系粉体及びポリビニルアルコール系樹脂の粉体を含む種子被覆剤を、散水しながら種子に付着させ、流動させながら酸素濃度15~30%の気体を供給して前記鉄系粉体を酸化させて前記種子の表面に被覆層を形成することを特徴とするものである。
【0014】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、種子被覆剤が酸化促進剤を含むことを特徴とするものである。
【0015】
(4)また、本発明に係る被覆種子は、上記(1)又は(2)に記載の種子被覆方法により種子表面に被覆層が形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
(5)また、本発明に係る被覆種子は、上記(3)に記載の種子被覆方法により種子表面に被覆層が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、鉄系粉体を含む種子被覆剤を用いて種子を流動させながら酸素濃度15~30%の気体を供給する種子被覆方法において、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を供給することにより、乾燥時の種子温度上昇を抑制でき、ひいては乾燥作業場所の面積縮小、発熱による種子の発芽率低下を回避できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態に係る種子被覆方法は、鉄系粉体を含む種子被覆剤を種子の表面に被覆するものである。そこで、本発明において種子被覆剤を被覆する対象となる種子と、種子被覆剤について説明する。以下、質量%は%と記述する。
【0019】
<種子>
本発明で対象とする種子としては、イネ(稲)が好ましく適用される。稲の品種としては特に定めなく、ジャポニカ米、インディカ米、ジャバニカ米のいずれでも適用できる。稲は高温多湿地域の水田で栽培されることが多いため、本発明の効果が発揮できる。
【0020】
<種子被覆剤>
本実施の形態で用いる種子被覆剤は、鉄系粉体を含むものであり、鉄系粉体には鉄粉、酸化鉄粉及び鉄粉と酸化鉄粉の混合物を使用できる。
また、種子被覆剤は、結合剤(酸化促進剤)、酸化促進剤、分離剤、水、ポリビニルアルコール系樹脂及び/またはその水溶液、第三成分をさらに含むことができる。
【0021】
≪鉄粉≫
鉄粉としては、純鉄、合金鉄の粉体が適用できる。
鉄粉の製造方法としては、ミルスケールや鉄鉱石を還元して製造する還元法や、溶鋼に水またはガスを高速噴射して製造するアトマイズ法などが例示される。
【0022】
≪酸化鉄粉≫
酸化鉄粉としては、酸化鉄、部分的な酸化鉄の粉体が適用できる。酸化鉄としてはマグネタイト(Fe3O4)、ヘマタイト(Fe2O3)、ウスタイト(FeO)、アモルファスであるものが挙げられる。それぞれの比率は、本発明の範囲内であれば特に限定はされない。もっとも、経済性の観点からミルスケールが好ましく適用できる。
【0023】
鉄系粉体の使用量は特に規定しないが、種子(乾籾)に対して5%以上、800%以下が好ましく、更に、10%以上、500%以下がより好ましい。
また、鉄系粉体の粒子径は特に規定しないが、150μm以下の鉄系粉体が全鉄系粉体質量に対して80%以上であることが均一被覆のために好ましい。なお、鉄系粉体の粒度分布は、JIS Z2510-2004に定められた方法を用いてふるい分けすることによって評価できる。
鉄系粉体には、上記鉄粉、酸化鉄粉及び鉄粉と酸化鉄粉の混合物に、他の金属粉を混合したものも適用できる。もっとも、錆発生の観点からは、鉄系粉体中の金属鉄成分が20%以上であることが好ましく、更に、40%以上とすることがより好ましい。
【0024】
≪結合剤≫
結合剤は本発明においては酸化促進剤であり、硫酸塩及び/又は塩化物から構成される。硫酸塩とは、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム及びこれらの水和物である。また、塩化物とは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びこれらの水和物である。特に焼石膏(硫酸カルシウム・1/2水和物)、石膏(硫酸カルシウム・2水和物)が好ましい。焼石膏と石膏は混合物や混在した物でも構わない。各結合剤について無水物を使用することもできる。
結合剤の鉄系粉体に対する質量比率は特に定めないが、錆の進行を容易にするため、0.1以上~33%以下のものが好ましい。
【0025】
結合剤の平均粒径は特に定めないが、1~150μmが好ましい。結合剤の平均粒径が1μm未満では、被覆作業時に発生する凝集粒子が多くなり作業性が著しく低下するからである。一方、結合剤の平均粒径が150μmを超えると、鉄系粉体への付着力が低下し被覆層の強度が低下する傾向にある。
【0026】
≪酸化促進剤≫
酸化促進剤として、上記結合剤の他にカルボン酸を使用することが好ましい。カルボン酸の形態としては、1分子中に2つ以上のカルボキシ基を有するものであれば特に限定されず、カルボン酸及び/又はその塩、及びこれらの無水物、水和物、異性体を使用することができる。また、2種類以上のカルボン酸を複合して使用することもできる。
カルボン酸としてはクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、エチレンジアミン四酢酸などが挙げられる。
【0027】
カルボン酸塩としてはクエン酸三ナトリウム、クエン酸水素ニナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸水素ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸の一~四ナトリウム塩などが挙げられる。
【0028】
カルボン酸金属塩として、クエン酸鉄、クエン酸カルシウム、クエン酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウムなどが挙げられる。もっとも、鉄以外の金属塩も適用でき、本発明の範囲内である。また、これらカルボン酸、カルボン酸塩、カルボン酸金属塩は無水物、水和物も含まれる。
1分子中に2つ以上のカルボキシ基を有するカルボン酸を含有又は添加した場合に、被覆層が平滑化するため好ましい。この理由として、酸として鉄粉を溶解する作用と、そのキレート効果によって二価鉄を多量に発生、安定化させて種子表面全体に進展させ、その後三価鉄に変わり定着させる作用があることが考えられる。上記のような反応が起きていることは、本実施の形態の種子被覆剤を使用した場合に、被覆種子が緑~黒の色調を帯びたのち、赤から褐色の色調に変化することからも推定できる。
【0029】
また、種子被覆剤における上記有機酸の量は、鉄系粉末に対し、0.01質量%以上、6質量%以下とする。これは、0.01質量%未満であると本発明の効果が小さくなり、6質量%を超えると、キレート効果によりかえって錆が進みにくくなり、鉄以外の成分が多くなるため被覆層が脆弱になるからである。
なお、カルボン酸の量としては水和水、カチオン成分を除き、カルボキシ基(COOH)の形態として換算する。
酸化促進剤としての結合剤、カルボン酸は併用することが好ましいが、どちらか一方でも鉄系粉体の酸化が進みやすくなり本発明の範囲内である。
【0030】
≪ポリビニルアルコール系樹脂≫
本実施の形態に係る種子被覆剤に用いるポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール及び/または、その共重合体、これらの混合物が好ましく適用される。
ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度については、特に制限はないが、好ましい範囲は、50~100mol%である。けん化度が低い方が、水に溶けやすく溶解のための作業が簡略化できる。なお、ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度は、JIS K6726-1994に準じて測定することができる。
【0031】
一方、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度については、特に制限はないが、2000以下が好ましく、更に好ましくは950以下、更に好ましくは800以下が適用される。重合度が低い方が低粘度のため作業性が向上する。水溶液濃度を低くして低粘度にすることも有効な手段である。なお、ポリビニルアルコールの重合度は、JIS K6726-1994に準じて測定することができる。
【0032】
共重合体の場合、疎水性基としてエチレン、プロピレン、ブチレンなどが好ましく、特に、エチレンが好ましく適用できる。これら疎水性基の含有量は、0.1~15重量%であることが好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂を疎水性基との共重合体としたときの形態がブロック、ランダムいずれであっても、本発明に係る共重合体に適用することができる。
【0033】
本発明に係る種子被覆剤を被覆した被覆種子中のポリビニルアルコール系樹脂及びその共重合体の分析については、被覆層を機械的に剥離、削るなどしたものを、約95℃の熱水中に1時間ほど浸漬し、樹脂を抽出して行うことができる。操作上問題なければ、被覆種子からの抽出も可能である。
ポリビニルアルコール系樹脂の鉄系粉体に対する質量比率は、0.01質量%以上20質量%以下が好ましい。0.01質量%未満では種子温度上昇の抑制効果が低くなり、20質量%を超えると供給する作業時間が長くなる。
【0034】
ポリビニルアルコール系樹脂及びその共重合体は、水に溶解させて用いることが好ましい。けん化度の高いものは加熱溶解すれば良い。溶解させる前のポリビニルアルコール系樹脂の原料形状は限定されない。濃度は水溶液が安定であれば特に規定されないが、好ましくは0.01~10質量%、更に好ましくは0.1~5質量%が作業性の観点から好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を供給するタイミングは特に制限されない。被覆の初期から終了まで該水溶液を供給する方法の他、被覆前半に該水溶液(濃度問わず)を供給して被覆後半は水を供給する方法、被覆前半は水を供給し被覆後半は該水溶液(濃度問わず)を供給する方法もとることができ、本発明の範囲内である。また、該水溶液の濃度を一定とせず、適宜変化させながら供給することも同様の効果が得られるため本発明の範囲内である。
【0035】
ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を供給することにより種子温度上昇を抑制できる理由を次のように考える。鉄系粉体は発錆により被膜形成するが、その過程で発熱する。ポリビニルアルコール系樹脂は水溶性であるがゆえ発錆を維持するが、ガスバリヤー性が高い性質を持つため発錆における酸化を緩やかにする。また、水酸基を多く有するため、錆との複合化が可能で良質な被膜を形成可能と考えられる。このため、錆との複合被膜を形成しながら種子温度上昇を抑制することができたと考えられる。酸化促進剤の添加、混合温度を高める、酸素濃度を高めるといった方法で酸化を促進させる場合においても、本発明では種子温度を効果的に抑制可能と考えられる。
ポリビニルアルコール系樹脂はバインダーとしての効果もあるため、粉塵低減効果も向上すると考えられる。
【0036】
なお、上記の説明では、ポリビニルアルコール系樹脂を予め水溶液として供給するものであったが、本発明においては、ポリビニルアルコール系樹脂を予め水溶液とせず、種子被覆剤に含有させる方法であってもよい。
すなわち、種子被覆剤に細粒化したポリビニルアルコール系樹脂を混合し、かかる種子被覆剤によって種子を被覆する。そして、被覆中に散水することで、種子表面にあるポリビニルアルコール系樹脂をコーティング中にその場で水溶液とする方法である。この場合、鉄系粉体とポリビニルアルコール系樹脂は密度差が大きいのでポリビニルアルコール系樹脂を細粒にするなどの方法で被覆剤中の分散性を高め、けん化度の低いものを使用して溶解性を高めるなどの方法で効果を高めることができる。
【0037】
さらに、本発明に係る種子被覆剤は、以下に説明する他の仕上げ剤や第三成分を含むものであってもよい。
≪仕上げ剤≫
仕上げ剤は、最外層として種子に被覆するものであり、種子被覆剤を酸化する際に種子同士の融着を防止するものである。もっとも、本実施の形態の種子被覆方法は種子同士の融着を抑制する効果を奏するので、仕上げ剤の使用は必須ではない。
酸化処理における種子同士の融着を更に防止するため仕上げ剤を使用する場合には、焼石膏、シリカゲルなどが好ましく適用することができる。
【0038】
≪第三成分≫
本発明の効果を損なわない程度の第三成分を含有することができる。第三成分は、不可避不純物や、何らかの効果を目的として意図的に加えた添加物を含むものであり、いずれの場合にも第三成分を含有する量は、種子被覆剤に対して30重量%程度までとするのが好ましい。
【0039】
≪被覆量≫
種子被覆剤の種子に対する被覆量は特に定めないが、乾燥種子100質量部に対し、5~800質量部とすることができる。十分な種子比重を得るためには適宜調整すればよく、被覆量として10~500質量部程度が好ましく適用される。
【0040】
<種子被覆方法>
次に、本実施の形態に係る種子被覆方法について具体的に説明する。
本実施の形態に係る種子被覆方法は、鉄系粉体を含む種子被覆剤を用いて種子の表面を被覆する方法であって、流動している種子に前記種子被覆剤、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液、気体を供給することで前記鉄系粉体を酸化させて前記種子の表面に被覆層を形成する工程を備えたものである。なお、種子被覆剤を付着させる工程、被覆層を形成する工程において水を適宜加えるようにしてもよい。
【0041】
種子被覆剤を種子の表面に付着(以下、「コーティング」ともいう)させる工程において、その具体的な方法に制限はない。例えば、「鉄コーティング湛水直播マニュアル2010(独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター 編)」に示されているように、手作業でのコーティングをはじめ、従来から公知の混合機を用いる方法等、いずれを使用してもよい。
【0042】
混合機としては、例えば、撹拌翼型ミキサー(たとえばヘンシェルミキサー、コンクリートミキサー等)や容器回転型ミキサー(たとえばV型ミキサー、ダブルコーンミキサー、傾斜回転型パン型混合機、回転クワ型混合機等)が使用できる。また、コンクリートミキサーの撹拌翼を取り外したものが、好ましく適用できる。
これらの混合機を用いて種子被覆剤を付着させる際には、鉄系粉体と種子、及び必要に応じ結合剤、分離剤、添加剤を上記の混合機中に投入して、水及び/または水を主体とした処理液をスプレーしながら混合機を回転させるようにすればよい。
【0043】
被覆層を形成する工程においては、種子被覆剤が付着した種子が流動している状態で、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液と酸素濃度15~30%の気体を供給して鉄系粉体を酸化させ、種子の表面に被覆層(被膜)を形成する。なお、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液に加えて水を供給するようにしてもよい。
以下、被覆層を形成する工程を具体的に説明する。
【0044】
<流動>
流動には転動、揺動、振動などが挙げられるが、本質的には種子が静止してないことが必要である。
種子を流動させる方法としては、種子被覆剤を種子の表面に付着させる工程に使用した造粒機または混合機を用いると作業を簡略化できるので好ましいが、別の混合機を用いてもよい。また、混合機で種子の表面に種子被覆剤を付着させた後、振動機に移して種子を揺り動かしながら被覆層を形成する工程を行ってもよい。酸化処理の際に種子を流動させることで、種子同士が衝突、分離して種子が凝集するのを防ぎ、単粒化した種子を得ることができる。
【0045】
<ポリビニルアルコール系樹脂水溶液>
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を供給する方法は、種子に直接加える方法、空気に含ませる方法のどちらでも構わない。例えば、スプレー、霧吹き、カップなどで種子や混合機の内部に加える方法、蒸気、ミスト、水滴を含んだ加湿空気として供給する方法が挙げられる。被覆される種子が酸化処理中は湿潤状態であることが好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂水溶液に加えて水を供給する場合も同様である。
【0046】
水とポリビニルアルコール系樹脂水溶液の総量としては本発明の効果が得られれば特に定めないが、鉄系粉体に対して10~1000%が好ましく、更には20~500%、更に好ましくは50~200%である。10%未満では発錆が不十分となり被覆層が剥離する原因となる。1000%を超えると乾燥に時間を要し、作業時間が長くなる問題がある。
【0047】
また、一度に多量の水やポリビニルアルコール系樹脂水溶液を供給すると種子同士が凝集してしまうので、種子が単粒で流動できる程度に抑え、かつ、種子が濡れた状態を維持しながら複数回に分けて供給することが好ましい。
散布水のpHは、本発明の効果が得られれば特に定めないが、強酸性、強アルカリ性は種子が損傷する恐れがあるので避けた方が良い。
【0048】
<供給される気体>
供給される気体の酸素濃度は15~30%であることが好ましい。15%未満では酸化が抑制されることと、酸欠の危険性があり作業上問題となり得る。30%を超えると更なる酸化促進が起こり得るが酸素追加コストや過加熱で発熱コントロールが難しくなるなど課題が多い。より好ましくは酸素濃度18~25%である。酸素以外には主に窒素が含まれるが、H2、He、Ne、Ar、Kr、Xeなどのガスを含むものでも本特許の範囲である。水分も当然ながら含まれ、露点は-50~80℃が好ましく、更に好ましくは露点-40~50℃が適用できる。気体として大気中の空気をそのまま使用する場合、および大気中の空気を蒸気などで加湿する場合が、気体の入手上、作業上、好ましい形態である。ミキサーなどの混合装置内に蒸気を別途導入する方法も同様の効果が得られるため本発明の範囲である。
上記酸素濃度15~30%の気体を供給する方法として、送風機、ファン、各種ドライヤー、熱風機などを使用することができる。
供給する上記気体の温度は、本発明の効果が得られれば特に定めないが、-20~200℃が好ましく適用でき、更に好ましくは0~150℃、更に好ましくは46~100℃である。本発明では気体と同時に水も供給するので、高温の気体を供給する場合にも、蒸発熱により種子温度が上昇せず、種子温度を供給する気体の温度より低く保つことができる。
【0049】
もっとも、鉄系粉体の酸化を促進する観点からは雰囲気温度が高い方が好ましく、雰囲気温度は46℃以上となるように気体を供給することが好ましい。
ここで、雰囲気温度とは、種子近傍で種子に向かって供給される気体の温度であり、種子からおよそ1~15cm離れた場所の気体の温度をいう。
ただ、発芽性維持のため種子の温度を50℃以下、更に好ましくは40℃以下にするのがよい。また、種子が凍結せず錆の発生が進行するように種子の温度を0℃以上、更に好ましくは10℃以上にするのがよい。
【0050】
供給する気体の風速は、本発明の効果が得られれば特に定めないが、0.1~15m/秒が好ましく、更には0.5m/秒~10m/秒が好ましく適用できる。0.1m/秒未満では酸化反応及び冷却が進まず、本発明の効果が得られない。15m/秒を超えると種子並びに種子被覆剤が飛散してしまう。本発明の効果が得られれば風速の強弱があっても良いが、1~30秒程度の平均値で考えればよい。
風速は種子近傍において熱線式風速計を用いて測定できる。パン型造粒機、ポットミキサーなどの場合、静止した状態で種子が滞留する位置近傍にて測定できる。測定はダミーとして種子がある状態で行うのが好ましいが、種子なしでも位置関係が同等であれば構わない。また、熱風機のエアダクトの吹き出し口で測定する方法で代用することも可能である。V型ミキサーのような閉空間の装置の場合は供給するエアダクトなどを一時的に外し、エアダクトの吹き出し口で測定すれば良い。
【0051】
ところで、鉄系粉体に水と気体を供給して酸化処理を行うと、酸化反応によって鉄系粉体が発熱し種子温度が上昇する。例えば、種子が積層されて静止した状態で水と気体を供給して酸化処理を行うと、種子温度が上昇しすぎて発芽性が低下する恐れがある。
【0052】
そのため従来では、バット、トレーなどに約1cm以下の厚みになるように種子を薄く拡げて、種子の熱を十分散逸できる状態で散水して酸化処理を行っていた。あるいは被覆種子をメッシュ袋に詰め、散水し、加湿空気を循環させながら冷却させる必要があった。
また、高温の空気を供給すると酸化が促進されるが、その場合も上記と同様に種子温度上昇による発芽性低下、種子同士が凝集する懸念がある。
【0053】
この点、本実施の形態では、流動している種子にポリビニルアルコール系樹脂水溶液と気体を供給して酸化処理を行っているので、接触温度計を用いた測定でも種子温度は最大で50℃程度であり、種子温度の上昇を低く抑えることができた。
さらに、前述したように、高温の気体を供給する場合にも、気体と同時にポリビニルアルコール系樹脂水溶液も供給するので、蒸発熱により種子温度が上昇せず、種子温度を供給する気体の温度より低く保つことができる。したがって、本実施の形態における発芽性への悪影響は極めて少ない。
【0054】
本実施の形態では、造粒機または混合機を用いて水及びポリビニルアルコール系樹脂水溶液を適宜散布して種子被覆剤を種子の表面に付着させ、該工程で用いた造粒機または混合機を引き続き使用して種子被覆剤が付着した種子を流動させ、流動している種子に水及びポリビニルアルコール系樹脂水溶液と気体を供給した。
なお、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の供給は、種子被覆剤を種子の表面に付着させる工程、その後の種子を流動させる工程のいずれか一方でもよく、両方でもよい。
水の供給については、必要に応じて適宜行うようにすればよい。
【0055】
水及びポリビニルアルコール系樹脂水溶液と気体の供給後は、混合機内でそのまま気体の供給を続け、種子がある程度乾燥した後に取り出した。その後、トレーなどに移して拡げ、種子保管のため余分な水分を除去、乾燥した。この際、少量の未付着の粉が出ることがあるが、軽く篩って除去すれば良く、除去粉は次の被覆に用いることができる。
【0056】
本実施の形態によれば、種子同士が凝集することなく、単粒化した種子を得ることができた。また、被膜層の強度及び種子の発芽性も良好であった。被膜層を形成する工程に要する時間も1時間未満であり、酸化処理に要する時間を短縮できた。さらに種子乾燥時の種子温度上昇も効果的に抑制でき、乾燥作業面積を縮小することにより作業性が向上できた。
【0057】
上記は、種子被覆剤を種子の表面に付着させる工程の後、鉄系粉体を酸化させる(被覆層を形成する)工程を実施する例であるが、本発明はこの限りではなく、種子被覆剤を種子の表面に付着させる工程と、鉄系粉体を酸化させる工程を同時に行ってもよい。
例えば、種子被覆剤と種子を投入した混合機を回転させる際に、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液(水を加えてもよい)と共に気体を供給することで、種子被覆剤を種子の表面に付着させる工程と鉄系粉体を酸化させる工程を同時に行うことができる。
上記の場合も本発明の効果を得られるので、本発明の範囲内であるが、種子被覆剤を種子の表面に付着させる工程の後、鉄系粉体を酸化させる(被覆層を形成する)工程を実施するのがより好ましい。
【0058】
なお、上記の種子被覆方法においては、ポリビニルアルコール系樹脂を水溶液として供給する方法について説明したが、前述したように、種子被覆剤にポリビニルアルコール系樹脂を粉体にして混入させてもよく、この場合の種子被覆方法は、以下のように行う。
鉄系粉体及びポリビニルアルコール系樹脂の粉体を含む種子被覆剤を、散水しながら種子に付着させ、流動させながら気体を供給して鉄系粉体を酸化させて前記種子の表面に被覆層を形成する。
【実施例0059】
本発明の効果を確認するために実験を行ったので、以下これについて説明する。
実験では、本発明に係る種子被覆方法を用いて稲種子に種子被覆剤を被覆し、その被覆種子の評価試験を行った。
発明例及び比較例における種子被覆剤を種子の表面に付着させる工程は、前述した「鉄コーティング湛水直播マニュアル2010」に記載された方法に準じて行った。具体的には以下の通りである。
【0060】
はじめに種子(乾籾)と種子被覆剤を準備した。
次に、傾斜回転型のパン型造粒機等を用いて、適量の水及び/またはポリビニルアルコール系樹脂水溶液を噴霧しながら種子(乾籾)400gに対して種子被覆剤を数回に分けて付着させた。
【0061】
発明例における鉄系粉体を酸化させる(被覆層を形成する)工程では、上述した工程で用いた装置を引き続き使用し、流動している種子に対して熱風機で空気を供給しながらスプレーで水及びポリビニルアルコール系樹脂水溶液を供給した。水は特に断りがなければ水道水を使用した。供給した気体は大気中の空気(酸素濃度21%、露点10℃)を使用し、その温度は熱風機の吹き出しノズル近傍での供給気体の温度であるが、種子から5cmの位置で計測した。
種子被覆剤が被覆された種子はトレー中の厚み3cmの枠内に装填(種子積層厚みが3cm)して乾燥後、目開き2mmの篩いで軽く篩って播種に供した。
【0062】
本実施例では、種子被覆剤の原料である鉄粉、酸化鉄粉、結合剤、カルボン酸、仕上げ剤、水またはポリビニルアルコール系樹脂水溶液それぞれの種類および使用量を変更して実験を行った。
表1に、実験に用いた種子被覆剤に含まれる各原料の種類および使用量、表2~表6に、種子被覆剤に用いた各原料の種類(表2:鉄粉、表3:酸化鉄粉、表4:結合剤及び仕上げ剤、表5:カルボン酸、表6:ポリビニルアルコール系樹脂)を示す。
なお、表1における発明例12は、ポリビニルアルコール系樹脂を水溶液として加えるのではなく、種子被覆剤に細粒化して含有させた例である。発明例13、14は供給する気体の酸素濃度を変更した例である。発明例15、16はポリビニルアルコール系樹脂水溶液の添加方法を変更した例である。発明例17は供給する気体の露点を変更した例である。
【0063】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0064】
表1に示す発明例及び比較例のそれぞれの条件で種子被覆剤を被覆した被覆種子に対し、下記に示すように種子乾燥時の種子温度を計測した。
【0065】
<種子温度(MAX)>
種子400gに対し表1の比率でコーティング、酸化処理を行った。次に厚み3cmの断熱材上のトレー内に3cm厚みの樹脂枠を形成し、その枠内に処理後の種子を入れ、積層厚みが3cmになるようにして約半日放置した。この時、種子の下層中央部でトレー表面に温度センサーを備え、ロガーで10分ごとに温度変化を記録し、最高到達温度を読み取った。
【0066】
評価:
◎;50℃以下
〇;50℃超え65℃以下
△;65℃超え80℃以下
×;80℃超え
【0067】
<粉塵>
上記温度測定後、種子を目開き2mmの篩いを使い、30秒間振とうし、重量減少割合を測定した。
重量減少割合が、1%以下を◎、1%超え3%以下を○、3%超え5%以下を△、5%超えを×、と判定した。
【0068】
表1に示すように、本発明にかかる種子被覆方法を用いた発明例1~発明例17は、種子温度上昇が抑制された。その結果、発芽率の低下も軽微、または、ほとんど低下しなかった。また、粉塵も抑制された。
以上、本発明にかかる種子被覆方法によれば、従来よりも酸化時間を大幅に短縮することができ、十分な被覆層強度を有して単粒化した被覆種子を作成できるうえ、粉塵が抑制され、乾燥時の種子温度上昇が抑制でき、発芽率を大きく低下させることがないことが実証された。