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特開2023-166702レーザ光による無機材料の切断方法及び無機材料の切断装置
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  • 特開-レーザ光による無機材料の切断方法及び無機材料の切断装置 図1
  • 特開-レーザ光による無機材料の切断方法及び無機材料の切断装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166702
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】レーザ光による無機材料の切断方法及び無機材料の切断装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/38 20140101AFI20231115BHJP
   B23K 26/142 20140101ALI20231115BHJP
   B28D 1/22 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
B23K26/38 Z
B23K26/142
B28D1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077397
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】391033115
【氏名又は名称】株式会社カナモト
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】000139757
【氏名又は名称】株式会社伊東商会
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】吉田 道信
(72)【発明者】
【氏名】牧野 香織
(72)【発明者】
【氏名】久保 成弘
【テーマコード(参考)】
3C069
4E168
【Fターム(参考)】
3C069AA01
3C069BA08
3C069BB01
3C069CA01
3C069CA07
3C069EA01
4E168AD07
4E168AD12
4E168CB03
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA28
4E168FB03
4E168FB05
4E168FC04
4E168JA11
(57)【要約】
【課題】小型の装置であっても厚いコンクリート構造物等を、ドロスの発生を可及的に抑制しつつ良好に切断し得るレーザ光による無機材料の切断方法を提供する。
【解決手段】レーザ光1で任意の位置に貫通孔を形成した後、レーザ光1の照射を一旦停止し、その後レーザ光1の光軸の位置を、所定の切断線Lに沿うようレーザ光1の照射方向に交叉する方向に移動させ、その移動位置でレーザ光1の照射により新たな貫通孔を形成するとともに、同様の貫通孔の形成工程を繰り返すことにより切断線Lに沿うミシン目状に伸びる多数の貫通孔をコンクリート構造物2に形成して該コンクリート構造物2を切断する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ装置が出射するレーザ光を切断対象である無機材料に照射して該無機材料を切断するレーザ光による無機材料の切断方法であって、
前記レーザ光で切断線上の一点位置に貫通孔を形成した後、前記レーザ光の照射を一旦停止し、その後前記レーザ光の光軸の位置を、所定の切断線に沿うよう前記レーザ光の照射方向に交叉する方向に移動させ、その移動位置で前記レーザ光の照射により新たな貫通孔を形成するとともに、同様の貫通孔の形成工程を繰り返すことにより開口部が前記切断線に沿うミシン目状に伸びる多数の貫通孔を前記無機材料に形成して該無機材料を切断することを特徴とするレーザ光による無機材料の切断方法。
【請求項2】
請求項1に記載するレーザ光による無機材料の切断方法において、
前記レーザ光の前記切断線に沿う移動の際の移動距離は、前記レーザ光のビーム径以下であることを特徴とするレーザ光による無機材料の切断方法。
【請求項3】
請求項2に記載するレーザ光による無機材料の切断方法において、
照射するレーザ光の周囲に酸素または窒素ガスを含むアシストガスを供給して前記貫通孔の形成を行うことを特徴とするレーザ光による無機材料の切断方法。
【請求項4】
請求項2に記載するレーザ光による無機材料の切断方法において、
前記無機材料のレーザ光を照射する部位に向けてレーザ光の周囲から空気を吹き付けることを特徴とするレーザ光による無機材料の切断方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のレーザ光による無機材料の切断方法において使用され、
可搬式で、かつ切断対象となる無機材料に対して、レーザ光のビーム径以下の移動距離で、水平方向若しくは鉛直方向に断続的にレーザ光照射位置を移動可能に構成したことを特徴とする無機材料の切断装置。
【請求項6】
請求項5に記載する切断装置がファイバーレーザ装置であることを特徴とする無機材料の切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ光による無機材料の切断装置及び無機材料の切断装置に関し、特にコンクリートをはじめセメントボード、レンガ、石材等の無機材料の構造物の切断に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
騒音、粉塵、振動がないコンクリート構造物の解体工事を行うためには、レーザ光を用いるのが有効である。従来よりレーザ光を照射してのコンクリートの切断には挑戦しているが、スラブ厚が厚くなると高出力のレーザ光が要求される。高出力のレーザ光を得るためには、従来は炭酸ガスレーザ装置を使用するしか方法はなかった。ちなみに、9kWの炭酸ガスレーザ装置を用いた場合には、厚さが300mmのコンクリートブロックの切断に成功している。
【0003】
しかしながら、炭酸ガスレーザ装置等、大型の装置を使用する場合は現場での作業は困難である。すなわち、現場作業となるコンクリート構造物の解体等においては、レーザ装置が可搬式であることが求められる。さもなければ切断対象となるコンクリートブロック等をレーザ装置が据え付けられた場所に搬入して切断作業を行う必要がある。
【0004】
一方、可搬式のレーザ装置としてファイバーレーザ装置が提案されており、近年その高出力化が進んできている。ちなみに、9kWのファイバーレーザ装置を使用することで200mmの厚さのスラブの切断が可能であることが確認されている。
【0005】
また、高出力のレーザ光を照射してのコンクリートの切断においては、コンクリートに対する熱影響が大きく、ドロス(ガラス化したコンクリート片)が多く形成され、レーザ光の大きな熱ロスの原因となってしまう。一方、低出力レーザ光の照射によるコンクリート構造物の切断も試みられているが、この場合もドロスの発生を抑制しつつ切断するには多くの時間を要してしまうという問題があった。
【0006】
なお、特許文献1は、切断工程においてレーザ装置を用いることで振動、騒音を抑制しつつ構造物の解体を行うことができる解体方法を開示する公知文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-025630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑み、小型の装置であっても厚いコンクリート構造物等を、ドロスの発生を可及的に抑制しつつ良好に切断し得るレーザ光による無機材料の切断方法及び切断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、
レーザ装置が出射するレーザ光を切断対象である無機材料に照射して該無機材料を切断するレーザ光による無機材料の切断方法であって、
前記レーザ光で切断線上の一点位置に貫通孔を形成した後、前記レーザ光の照射を一旦停止し、その後前記レーザ光の光軸の位置を、所定の切断線に沿うよう前記レーザ光の照射方向に交叉する方向に移動させ、その移動位置で前記レーザ光の照射により新たな貫通孔を形成するとともに、同様の貫通孔の形成工程を繰り返すことにより開口部が前記切断線に沿うミシン目状に伸びる多数の貫通孔を前記無機材料に形成して該無機材料を切断することを特徴とする。
【0010】
第2の態様は、
第1の態様に記載するレーザ光による無機材料の切断方法において、
前記レーザ光の前記切断線に沿う移動の際の移動距離は、前記レーザ光のビーム径以下であることを特徴とする。
【0011】
第3の態様は、
第2の態様に記載するレーザ光による無機材料の切断方法において、
照射するレーザ光の周囲に酸素または窒素ガスを含むアシストガスを供給して前記貫通孔の形成を行うことを特徴とする。
【0012】
第4の態様は、
第2の態様に記載するレーザ光による無機材料の切断方法において、
前記無機材料のレーザ光を照射する部位に向けてレーザ光の周囲から空気を吹き付けることを特徴とする。
【0013】
第5の態様は、
第1の態様乃至第4の態様のいずれかに記載のレーザ光による無機材料の切断方法において使用される無機材料の切断装置であって、
可搬式で、かつ切断対象となる無機材料に対して、レーザ光のビーム径以下の移動距離で、水平方向若しくは鉛直方向に断続的にレーザ光照射位置を移動可能に構成したことを特徴とする。
【0014】
第6の態様は、
第5の態様に記載する切断装置がファイバーレーザ装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、レーザ光の照射による無機材料への貫通孔の形成、レーザ光の照射の停止、レーザ光の照射方向に交叉する方向に伸びる所定の切断線に沿うレーザ光の照射方向の移動、の各工程を順次繰り返しながら切断線に沿ってミシン目状に伸びる多数の貫通孔を形成しているので、切断線方向で隣接する貫通孔間の無機材料を容易に破壊することができる。この結果、無機材料を切断線に沿って2つのブロックに分割・切断することができる。
【0016】
ここで、レーザ装置は、間欠動作により貫通孔を形成し得る程度のレーザ光を照射することができれば良いので、例えばファイバーレーザ等の小出力で可搬性も有する小型のレーザ装置でコンクリート構造物等、所望の無機材料を容易に切断し得る。また、このときのレーザ光は小出力で照射、停止を間欠的に繰り返して、しかも照射位置を変えつつ照射されるので、ドロスの発生も可及的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係るレーザ光による無機材料の切断方法を上方から見た状態で概念的に示す模式図である。
図2図1を正面から見た状態で概念的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発20実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明の実施の形態に係るレーザ光による無機材料の切断方法を上方から見た状態で概念的に示す模式図、図2図1を正面から見た状態で概念的に示す模式図である。両図に示すように、本形態に係る切断方法は、1)可搬式のファイバーレーザ装置を用い、このファイバーレーザ装置が出射するレーザ光1を、切断対象であるコンクリートブロック2の切断線L上の一点に照射して貫通孔3を形成する工程、2)一つの貫通孔3を形成した後、レーザ光1の照射を一旦停止する工程、3)その後レーザ光1の光軸の位置を切断線Lに沿って所定距離移動させる工程、の3つの工程を有しており、これら3つの工程を順次繰り返すことにより、図2(a)~図2(d)に示すように、時間の経過とともにレーザ光1を移動しつつ複数の貫通孔3を形成する。かくして、各開口部3Aが切断線Lに沿うミシン目状に並ぶ多数の貫通孔3をコンクリートブロック2に形成する。
【0020】
ここで、切断線Lはレーザ光1の照射方向に交叉する方向となっている。すなわち、コンクリートブロック2の上面が水平面(XY平面)である場合は、レーザ光1の光軸方向をZ軸方向とするときのZ軸に直交するX軸またはY軸の方向である。ただ、切断線Lはコンクリートブロック2の上面が、水平面でなく傾斜面に形成されていても良いので、この場合は、X軸またはY軸に対し所定の角度を持つ方向ということになる。いずれにしても、レーザ光1の照射方向に交叉する方向であれば構わない。また、切断線Lは直線のみならず曲線であっても構わない。要は、開口部3Aがミシン目状に並ぶような切断線Lが形成されれば良い。
【0021】
レーザ光1の切断線Lに沿う移動距離は、レーザ光1のビーム径Φと同じか、若干小さい程度が好適である。前記移動距離が大きければ大きい程、形成する貫通孔3の数は少なくなり、その分加工時間は短縮されるが、貫通孔3の数が少ない程、切断・分割に要する力は大きくなる。ただ、切断線Lに沿って隣接する貫通孔3の間隔がある程度大きくても、貫通孔3の空間が存在することで、コンクリートブロック2の切断線Lに沿う強度は、容易に分割可能な強度にまで落とすことができる。そこで、貫通孔3の間隔、すなわちレーザ光の移動距離は、切断対象であるコンクリートブロック2の材質、許容される加工時間等を考慮して適切に決めれば良い。
【0022】
貫通孔3を形成するためのレーザ光1の径は可及的に小さく、到達深さはより深くなるのが望ましく、そのために、ファイバーレーザを使用することは有用である。さらに、ファイバーレーザの場合は小型で可搬式のものも簡単に提供できる。
【0023】
上述の如き貫通孔3の形成工程では、ドロスの発生を可及的に少なくするのが望ましい。このためには、QCW(疑似連続波)やQswitchのレーザ装置を使用すれば良い。特に、パルスレーザ光を使用することが効率的であるが,CWレーザ光を用いて周波数やデューティを変えることでも同様の効率化を図ることができる。
【0024】
貫通孔3の孔明けを効率的に実施するためにはレーザ光1の照射軸と同軸上に酸素や窒素などのアシストガスを供給して0.5MPa以上の圧力で加工を行うのが望ましい。また、孔明け時にレーザ光1の周囲からエアーを噴射する等によってもドロスの発生を効果的に抑制することができる。
アシストガスやエアーの供給は、例えば、レーザ光に対し、0度から90度の範囲において、適宜仕様に応じ、選択した角度で供給すると良い。
いずれにしても、コンクリートブロック2の100mm以上の厚みの切断では1kW以上のパワーが望ましいが、QCWなどのパルスレーザ光を用いることで、効率よくコンクリートブロック2の厚みに適した出力を設定することができる。
【0025】
ここで、100mm厚のコンクリートブロックに対して行った切断・加工の具体例に関して説明しておく。本例の場合、平均出力が1kW、16Hzのパルスレーザ装置を用い、デューティが50%でレーザ光1を照射し、一個当たり20秒で直径Φが2.5mmの貫通孔3を明け、一旦レーザ光1の照射を停止し、その後レーザ光1の径の分、すなわち2.5mm切断線Lに沿って移動させる。その後、同様の孔明け加工および光軸の移動を繰り返した。この結果、100mm厚のコンクリートブロック2を切断線Lに沿って良好に2分割することができた。
【0026】
本発明の切断方法を実現するためには、貫通孔の開口部が切断線に沿って多数ミシン目状に並ぶように加工することが必須である。かかる貫通孔を形成するに際し、貫通孔の深さが深くなれば深くなるほど、換言すれば切断対象物の厚さが、厚くなれば厚くなるほど、孔明け加工に伴うドロスの発生が問題となる。ドロスにより孔が途中で塞がれていしまったのでは、良好な貫通孔を形成することができないからである。ドロスの発生は、レーザ光の照射時間、パワー、波長、デューティ等に関するパラメータに基づくレーザ光の照射エネルギに依存する。そこで、各切断対象物に対し前記パラメータを適宜組み合わせることで最適な加工条件(切断条件)を求める。ここで、貫通孔の径や深さは、レーザ装置のレンズの種類や出力により規定される。
【0027】
本実施形態で使用される切断装置としては、図示省略するが、例えば、遠隔操作によって移動可能(自走可能)に制御されている可搬式で、かつ自走式の切断装置が想定される。
また、レーザ光1の切断線Lに沿う移動距離が、ビーム径以下の移動距離となるように制御する制御部を備えているものを想定している。
切断装置は、水平方向若しくは鉛直方向に照射位置を断続的に移動させてレーザ光を照射するが、装置自体が断続的に水平方向に移動してレーザ光照射位置を断続的に水平方向に移動させるか、装置自体は移動することなく、照射部を水平方向若しくは鉛直方向に移動させてレーザ光照射位置を断続的に水平方向に移動させるか、のいずれかを選択することが可能である。
すなわち、前記制御部は、装置自体の水平方向への所定距離の移動、あるいは照射部の水平方向への所定距離の移動を制御する。
このように、切断装置の遠隔操作を想定しているのは、レーザ光による障害を防止し、作業者の安全性を向上させるためである。また、切断装置の自走式を想定しているのは、切断対象となる構造物の切断領域が広範囲に及ぶ場合、装置をその都度移動させる手間を省くことができ、作業性及び安全性を向上させることができるからである。
【0028】
上記実施の形態では、遠隔操作にて自走可能な装置を一例として説明したが、これに限定解釈されるものではなく、現場にて作業者が直接操作する形態であっても本発明の範囲内であることは言うまでもない。
上記実施の形態では、レーザ装置として容易に小型化を図り、搬送可能とすることができるファイバーレーザ装置を例に採り説明したが、これに限るものではない。また、YAGレーザ装置や炭酸ガスレーザ装置であっても同様に適用できる場合がある。すなわち、レーザ装置が可搬式の装置でなくても、切断対象であるコンクリート構造物等をレーザ装置が設置された場所まで搬送し得る場合には、大型の炭酸ガスレーザ装置およびYAGレーザ装置を使用することも可能となり、所定の切断作業を実現し得る。要は、レーザ装置の間欠駆動および間欠移動によりコンクリートブロック等の切断対象に貫通孔を多数形成し得ることができれば良い。また、切断対象としてはコンクリートブロックに限るものではなく、一般に無機材料の切断に適用して有用なものとなる。この場合の無機材料としては、他にセメントボード、レンガ、石材等が考えられる。
【符号の説明】
【0029】
1 レーザ光
2 コンクリートブロック
3 貫通孔
3A 開口部
図1
図2