(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166718
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】マイクロレンズアレイおよび固体撮像素子
(51)【国際特許分類】
G02B 3/00 20060101AFI20231115BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20231115BHJP
H01L 31/0232 20140101ALI20231115BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20231115BHJP
G02B 1/113 20150101ALN20231115BHJP
【FI】
G02B3/00 A
G02B3/00 Z
G02B5/18
H01L31/02 D
H01L27/146 D
G02B1/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077426
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 峻悟
【テーマコード(参考)】
2H249
2K009
4M118
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
2H249AA02
2H249AA12
2H249AA16
2H249AA55
2H249AA64
2K009AA02
2K009CC09
2K009DD02
4M118AA10
4M118AB01
4M118AB03
4M118BA14
4M118CA01
4M118GC08
4M118GD04
4M118GD07
4M118GD20
5F149AB03
5F149BA02
5F149BB03
5F149EA04
5F149HA04
5F149HA05
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5F149XB05
5F849AB03
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5F849HA20
5F849LA02
5F849LA09
5F849XB05
(57)【要約】
【課題】低屈折率層を備えて界面反射を抑えつつ、低屈折率層上に他の層を好適に形成できるマイクロレンズアレイを提供する。
【解決手段】複数のマイクロレンズ31が整列配置されたマイクロレンズアレイ30は、中空のフィラーと媒質とを含んでマイクロレンズ上に形成され、マイクロレンズよりも小さい屈折率を有する低屈折率層60を備える。低屈折率層において、二値化平面視像における白画素の比率は76パーセント以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のマイクロレンズが整列配置されたマイクロレンズアレイであって、
中空のフィラーと媒質とを含んで前記マイクロレンズ上に形成され、前記マイクロレンズよりも小さい屈折率を有する低屈折率層を備え、
前記低屈折率層において、二値化平面視像における白画素の比率が76パーセント以下である、
マイクロレンズアレイ。
【請求項2】
前記白画素の比率が67パーセント以上である、
請求項1に記載のマイクロレンズアレイ。
【請求項3】
前記低屈折率層上に形成された機能層をさらに備える、
請求項1に記載のマイクロレンズアレイ。
【請求項4】
前記フィラーがシリカからなる、
請求項1に記載のマイクロレンズアレイ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のマイクロレンズアレイを備える、固体撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロレンズアレイに関する。このマイクロレンズアレイを用いた固体撮像素子についても言及する。
【背景技術】
【0002】
持ち運び可能で薄型の携帯電話にも組み込み可能な、固体撮像素子を用いた距離画像センサが知られている。
例えば、特許文献1には、複数の光電変換部と、光電変換部の上に設けられたマイクロレンズアレイを備えた光電変換基板が記載されている。マイクロレンズアレイは、入射した光を各光電変換部に集光する機能を有する。
【0003】
マイクロレンズには、集光率を高めるために、比較的屈折率の大きい材質が用いられる。しかし、屈折率が高いと、空気との界面で反射が生じるため、入射光にロスが生じる。これを緩和するために、マイクロレンズの材料よりも屈折率の低い材料で形成された反射防止層をマイクロレンズ上に設けることが知られている。
特許文献2には、低屈折率材料として、フッ素含有シロキサン樹脂に、内部に空洞を有するシリカ微粒子を添加したものが記載されている。中空のシリカは、空気とほぼ同一の屈折率を有するため、含有量を変化させることにより形成される反射防止層の屈折率を比較的容易に調節できる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-195051号公報
【特許文献2】特許第5668276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、固体撮像素子の用途の拡大や構造の複雑化に伴い、上述した反射防止層の上に他の層を形成するケースが出てきている。例えば、固体撮像素子を用いた3Dセンサでは、反射防止層上に回折格子パターンが形成されることがある。
【0006】
一般的な回折格子パターンは、感光性樹脂層を露光、現像し、パターニングすることにより形成される。詳細は後述するが、発明者は、中空シリカフィラーを含む反射防止層の上にこのようなパターンを形成する際にクラックやシミ発生等の不具合が生じることがあることを見出した。発明者はこの原因を解明し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、低屈折率層を備えて界面反射を抑えつつ、低屈折率層上に他の層を好適に形成できるマイクロレンズアレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、複数のマイクロレンズが整列配置されたマイクロレンズアレイである。
このマイクロレンズアレイは、中空のフィラーと媒質とを含んでマイクロレンズ上に形成され、マイクロレンズよりも小さい屈折率を有する低屈折率層を備える。
低屈折率層において、二値化平面視像における白画素の比率は76パーセント以下である。
【0009】
本発明の第二の態様は、第一の態様に係るマイクロレンズアレイを備えた固体撮像素子である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低屈折率層を備えて界面反射を抑えつつ、低屈折率層上に他の層を好適に形成できるマイクロレンズアレイを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る固体撮像素子の模式断面図である。
【
図2】同固体撮像素子の製造時の一過程を示す図である。
【
図3】同固体撮像素子の製造時の一過程を示す図である。
【
図4】同固体撮像素子の製造時の一過程を示す図である。
【
図6】低屈折率層の走査電子顕微鏡(SEM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、
図1から
図8を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る固体撮像素子の模式断面図である。固体撮像素子10は、基板20と、CMOSイメージセンサ24と、カラーフィルタ28と、マイクロレンズアレイ30とを備え、全体として距離画像センサとして機能する。
【0013】
基板20は、例えばシリコン(Si)基板である。基板20の材料は、例えばSiであるが、CMOSイメージセンサ24等の画素や受光素子を備えてこれらを電気的に機能させることが可能な材料であれば特に限定されない。以下、基板20の厚み方向をZ方向とし、基板20の内部からZ方向で表面20aに向かう方向を「前」とする。また、表面20aに平行且つZ方向に直交する一方向をX方向とし、表面20aに平行で、且つX方向及びZ方向に直交する方向をY方向とする。
【0014】
固体撮像素子10は、複数のCMOSイメージセンサ24を備える。複数のCMOSイメージセンサ24は、X方向及びY方向の各々に沿って配列されている。このように複数のCMOSイメージセンサ24が設けられることによって、基板20の表面20aに沿った方向に固体撮像素子10の画素アレイが構成されている。固体撮像素子10に設けられるCMOSイメージセンサ24の数は、固体撮像素子10の用途等に応じて適宜設定され、
図1等には少なくとも一部が例示されている。
【0015】
各々のCMOSイメージセンサ24は、Z方向で基板20の表面20a側に埋設されている。CMOSイメージセンサ24の受光面25は、基板20から露出し、表面20aと略面一である。なお、
図1等では、CMOSイメージセンサ24の詳細構造の図示は省略されているが、公知のCMOSイメージセンサと同様である。
【0016】
カラーフィルタ28は、各々のCMOSイメージセンサ24の受光面25の上(即ち、Z方向前方)に設けられている。カラーフィルタ28は光の3原色である赤(R)・緑(G)・青(B)の何れかの色の波長帯の光を透過させる機能を有する。カラーフィルタ28が透過する色は、複数のCMOSイメージセンサ24の配置等に応じて、複数のCMOSイメージセンサ24毎に適宜決められている。
【0017】
マイクロレンズアレイ30は、カラーフィルタ28上に形成されており、カラーフィルタに対応して整列配置された複数のマイクロレンズ31と、マイクロレンズ31上に形成された低屈折率層60と、低屈折率層60上に形成された回折格子(機能層)70とを有する。
【0018】
マイクロレンズ31は、各々のCMOSイメージセンサ24上のカラーフィルタ28の表面28aに設けられている。マイクロレンズ31は、底面31bとレンズ面31aとを有する所謂平凸レンズである。マイクロレンズ31の材料は、少なくとも空気や低屈折率層60の屈折率よりも高い屈折率を有する。特に、低屈折率層60との屈折率差を得てマイクロレンズの集光作用を高めるため、マイクロレンズ31の材料は、例えば1.6程度の屈折率を有する高屈折率材料であることが好ましい。レンズ面31aの曲率や形状は、マイクロレンズ31の材料の可視波長における屈折率等に応じて適宜設計されている。また、マイクロレンズ31は、Z方向前方からZ方向とは逆向きに入射する光を下(即ち、Z方向後方)のカラーフィルタ28を通してCMOSイメージセンサ24に集束させるように形成及び配置されている。
【0019】
低屈折率層60は、マイクロレンズ31よりもZ方向前方に回折格子70を設けるための表面60aを形成し、カラーフィルタ28及びマイクロレンズ31同士の間で露出している基板20の表面20aとの間を物理的に埋めている。低屈折率層60の最大厚み(即ち、表面60aと表面20aとの間のZ方向の大きさ)は、マイクロレンズ31にZ方向前方から入射する光に求められる光路長等に応じて適宜決められる。
【0020】
低屈折率層60の「低い」とは、少なくともマイクロレンズ31の屈折率よりも低い屈折率を有することを意味する。低屈折率層60の屈折率が空気の屈折率に近くなるほど、低屈折率層60とマイクロレンズ31の屈折率差を大きくすることができる。その結果、Z方向前方からZ方向とは逆向きに回折格子70に入射する光の屈折を抑え、回折格子70に入射する光の進路を所定の方向に向けることができる。このことによって、光がマイクロレンズ31によってCMOSイメージセンサ24に良好に集束し、固体撮像素子10において所望の光学特性が得られる。低屈折率層60の屈折率は、次に説明する低屈折率材料の種類や低屈折率層60における低屈折率材料の含有量を考慮して適宜調整される。
【0021】
低屈折率層60は、中空のフィラーおよび媒質を含有する。中空フィラーおよび媒質は、可視波長で透明性を有し、例えば可視波長の光に対して90%以上の全光透過率を有する。中空フィラーは、低屈折率層60の屈折率を低くすることに寄与する。媒質は、中空フィラーの粒子間に介在し、中空フィラー同士を結合させ、低屈折率層60を安定させる。
【0022】
中空フィラーの好適な材質として、二酸化珪素(シリカ、SiO2)を例示できる。シリカからなる中空フィラーは安価であり、可視波長に対する高い透明度及び物理的な安定性を有する。中空フィラーが低屈折率層中に位置することによって、低屈折率層60の内部に空気領域が散在する結果、低屈折率層60の屈折率が低下し、中空フィラーの含有率が上昇するにつれてその屈折率が空気の値に近づいていく。
【0023】
回折格子70は、低屈折率層60の表面60aに、X方向及びY方向に所定の間隔をあけて周期的に設けられている。Z方向前方からZ方向とは逆向きに回折格子70に入射する光は、回折格子70によって表面60a近傍(すなわち回折面)で回折され、Z方向に沿う法線に対して光の波長と回折格子70のピッチ70dで決まる回折角で回折し、波長毎に異なる方向に進行する。回折格子70のX方向及びY方向の各々での大きさ70g及びピッチ70dは、回折格子70によって前述のように回折される光のうち、RGBの各色の光が対応するカラーフィルタ28とX方向及びY方向で重なるマイクロレンズ31及びCMOSイメージセンサ24に照射されるように、適宜設計されている。
【0024】
回折格子70は、可視波長で透明性を有し、例えば可視波長の光に対して90%以上の全光透過率を有する。回折格子70の材料は、前述のように可視波長の光に対して透明性を有し、入射する光を波長毎に所望の方向に回折させることができる材料であれば特に限定されない。次に説明するように、回折格子70をパターニング及びフォトリソグラフィ法を用いて形成する場合は、回折格子70の材料には、さらにパターニング可能な材料が適しており、例えばアクリル樹脂を含む樹脂材料が挙げられる。
【0025】
次いで、マイクロレンズアレイ30の製造方法の一例について説明する。
まず、二次元アレイ状に配列された複数のマイクロレンズ31を形成する(ステップA)。マイクロレンズ31を形成する方法としては、例えば少なくともカラーフィルタ28の表面28a上にマイクロレンズ31となる高屈折率材料を層状に塗布し、その上にフォトレジスト層を設け、フォトリソグラフィ工程後の熱溶融によるレンズパターンを下層の高屈折率材料の層にエッチング転写する方法が挙げられる。
ステップAにおいては、整列配置された複数のマイクロレンズを有するレンズシートを購入する等により複数のマイクロレンズを準備してもよい。
【0026】
次に、
図2に示すように、カラーフィルタ28及びマイクロレンズ31とこれらの間で露出している基板20の表面20aを覆うように、中空フィラーおよび媒質を含有する低屈折率材料が分散された塗工液を塗布し(ステップB)、熱を加えて硬化させることにより、溶媒を除去する(ステップC)。これにより、概ね低屈折率材料のみで構成される低屈折率層60が形成される。
【0027】
次に、
図3に示すように、低屈折率層60の表面60aに回折格子70の材料72を所定の厚みで塗布する。材料72は、前述のように回折格子70に求められる光学的特性を実現可能であり、且つ感光性を有するパターニング可能な材料であって、例えばアクリル樹脂等の樹脂材料である。
【0028】
続いて、低屈折率層60の表面60aにコーティングされた材料72の上(すなわちZ方向前方)に、
図4に示すように、フォトマスク80を材料72と隙間をあけて配置する。フォトマスク80には、回折格子70と同様のパターンが形成されており、例えば
図3に示すようにX方向及びY方向で回折格子70が形成される部分のみクロム(Cr)等の遮光材料82が設けられている。フォトマスク80において遮光材料82以外の部分は、例えば石英(SiO
2)等で形成され、フォトリソグラフィ工程におけるパターン転写時の光(例えば紫外光等)をZ方向で透過させる。
【0029】
続いて、
図4に示すセッティングにおいて、フォトマスク80を用いた材料のパターニングを行う。すなわち、フォトマスク80のZ方向前方からZ方向とは逆向きに材料72を感光させ、フォトマスク80のパターンを材料72に転写する。この工程によって、Z方向で遮光材料82と重なる部分以外の材料72は感光している。フォトマスク80を材料72から外し、適当な薬液等を用いて感光した部分の材料72を除去することによって、
図1に示すように低屈折率層60の表面60aに回折格子70が形成される。上述の各工程を行うことで、
図1に示すマイクロレンズアレイ30を備えた固体撮像素子10が製造される。
【0030】
発明者は、上述のように、マイクロレンズ31上に低屈折率層60を形成し、その上にさらに回折格子70を形成するプロセスにおいて、材料72の層や、完成した回折格子70にクラックが発生する不具合に遭遇した。クラックが多数発生することにより、低屈折率層60上に形成した層が剥離する現象も認められた。また、低屈折率層60の平面視において多数のシミが発生し、外観を損なうとともに、センサとしての性能に影響する事情も認められた。
【0031】
発明者が種々検討したところ、クラックの原因は、材料72の材質等ではなく低屈折率層60にある可能性が高いと考えられた。発明者がこれを踏まえて低屈折率材料の組成を様々に変更して検討したところ、低屈折率層中におけるフィラーの配置態様が上記不具合の大きな要因となっていることを突き止めた。
【0032】
低屈折率層におけるフィラーの量を増やしていく際、その量には上限が存在する。上限状態においては、フィラー同士が接触しており、ほぼ相対移動できない状態となっている。フィラーの基本形状は略球状であるため、上記上限状態において、フィラーは
図5に示す面心立方格子構造に近い配置となっていると考えられる。
【0033】
低屈折率層材料を溶媒に分散して塗工液を調製する際、中空フィラーの内部に溶媒が浸透する。これは、中空フィラーの殻を構成するシリカが、比較的多孔質であることによる。
低屈折率層材料に占める中空フィラーの量が多くなると、形成された低屈折率層の表面において、媒質に覆われずに一部を露出させる中空フィラーの数が多くなる。塗工液が乾燥して低屈折率層となる過程において、中空フィラーの内部に浸透している溶媒は、気化して表面に露出した中空フィラーから出ていく。溶媒は、露出した中空フィラーだけでなく、露出した中空フィラーと接触して層内に位置する中空フィラーからも、多孔質の殻を伝って出ていくと推測される。
【0034】
上記の気化は、低屈折率層の上に他の層が形成されない場合においては特に問題ない。しかし、低屈折率層の上に他の層が形成される場合は、その層を形成するための塗工液等が低屈折率層の上に塗布される。このとき、他の層の塗工液に含まれる溶媒が、露出した中空フィラーの内部に進入する。
その後、他の層を完成させるために熱が加えられたりすると、中空フィラーの内部に進入した溶媒も気化するが、低屈折率層の上は他の層で覆われているため、気化した溶媒の逃げ場がほとんどない。その結果、外に出ていこうとする気化溶媒の量が一定以上になると、クラックを発生させて上の層を破ったり、剥離させたりすると考えられる。さらに、フィラー内に残留した溶媒の一部は、シミを生じさせる一因となる。
【0035】
上記現象においては、フィラー同士が接触していることが重要であるため、低屈折率層内におけるフィラーの配置態様が上述の面心立方格子構造とならない程度にフィラーの含有量を設定することでクラックやシミを低減することが期待できる。
しかし、面心立方格子構造は、構成するすべての球体が同一寸法の真球(例えば
図5に示す例では半径aの真球)であることを前提としているところ、実際のフィラーは、球状ではあるものの真球である確率は低く、さらに寸法のバラつきもある。
したがって、低屈折率層の屈折率をできるだけ低くしつつ、フィラーの配置態様が上述の面心立方格子構造様となることを避けることができる最適なフィラー含有量を見出すことは、実際にはかなり困難である。
【0036】
発明者はさらに検討を進めた結果、低屈折率層の平面視像を用いた評価により、低屈折率層内のフィラーがクラックやシミの発生しやすい面心立方格子構造に近い配置となっているか否かを簡便に判定できることを見出した。以下に、その手順を説明する。
【0037】
まず、
図6に示すような、低屈折率層60の平面視画像を走査電子顕微鏡(SEM)により取得する。取得された平面視像においては、フィラー61の存在する部位が明るく、フィラーの61の存在しない部位が暗くなる傾向が認められる。
【0038】
次に、この平面視画像を二値化処理して、
図7に示すような低屈折率層60の二値化平面視像を取得する。二値化アルゴリズムとしては、公知の各種アルゴリズムを利用でき、例えば大津の二値化(判別分析法)を好適に用いることができる。
【0039】
図7に示す二値化平面視像では、フィラーの存在する部位と存在しない部位とが概ね仕分けされているが、それぞれの部位に微小なノイズが存在する。すなわち、フィラーの存在する部位には黒色の微小なノイズNz1が、フィラーの存在しない部位には白色の微小なノイズNz2が、それぞれ存在する。
【0040】
これらのノイズは、それぞれの部位の面積を精度高く検出する際の妨げになるため、フィルタを用いて除去する。フィルタとしては、例えば3×3のメディアンフィルタを好適に使用できる。
図8に、3×3のメディアンフィルタでノイズを除去した二値化平面視像を示す。
【0041】
ノイズ除去後の低屈折率層の二値化平面視像における白画素の割合は、低屈折率層に含まれるフィラーの量および配置態様を示す良好な指標となることが、発明者の検討により明らかになった。
平均粒径60nmのシリカフィラーを用い、含有量を様々に変化させた低屈折率層のサンプルを複数作製した。各サンプルについて、SEMによる平面視像を取得し、大津の二値化および3×3のメディアンフィルタを用いてノイズが除去された二値化平面視像を取得した。SEM像の取得後、低屈折率層上に回折格子の材料を塗布し、シミの発生の有無を目視により確認した。結果を表1に示す。
【0042】
【0043】
表1に示すように、ノイズが除去された低屈折率層の二値化平面視像における白画素比率が76%以下であると、シミの発生が認められず、白画素比率がシミやクラック発生防止の好適な指標となることが示された。表1のシミが発生しなかったサンプルにおける低屈折率層の屈折率は1.27以上であり、白画素比率を67%以上とすることで、充分に低い屈折率とシミやクラックの発生防止とを両立できることが示された。マイクロレンズとの十分な屈折率差を得る観点からは、低屈折率層の屈折率は1.35以下であることが好ましい。
【0044】
なお、表1において、サンプル1から10は、白画素比率の数値順に並んでいるが、フィラーの含有量の順には並んでおらず、白画素比率が低屈折率層におけるフィラーの含有量とは独立した指標であることが示された。
【0045】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。以下にいくつか変更を例示するが、これらはすべてではなく、それ以外の変更も可能である。これらの変更が2以上適宜組み合わされてもよい。
【0046】
・上述の実施形態では、基板上に直接カラーフィルタが形成されたオンチップタイプの固体撮像素子を示したが、本発明に係る技術思想の適用範囲はこれには限られず、マイクロレンズ上に中空フィラーを含む低屈折率層が形成され、その上にさらの他の層が形成されるマイクロレンズアレイに広く適用できる。したがって、例えば有機EL(OLED)上に配置されるレンズシート等にも適用できる。
有機ELはガラスなどのカバー層で覆われることがある。この場合、マイクロレンズを有機ELに形成すると、レンズの凹凸によりカバー層との間に剥離が生じる可能性がある。そのため、マイクロレンズとカバー層間に低屈折率層を設けることが好ましい。この場合は、有機EL、カラーフィルタ、本発明のマイクロレンズアレイ(マイクロレンズおよび低屈折率層)、ガラスなどのカバー層が順に積層された層構成となる。この場合であっても本発明を採用することによりシミやクラックの発生を抑制することができる。
【0047】
・低屈折率層の上に形成される機能層も、上述した回折格子には限られず、防眩層、防汚層など、溶媒を含む塗工液を用いて形成されるあらゆる層の場合に本発明に係る技術思想を適用できる。塗工液を用いて形成するものではないが、上述したカバー層も、機能層の一態様である。
【0048】
・中空フィラーの材質も、シリカには限定されず、樹脂フィラー等も使用できるが、本発明に係る技術思想は、中空フィラーの殻が多孔質であるシリカフィラー等の場合に特に有効である。
【符号の説明】
【0049】
10 固体撮像素子
30 マイクロレンズアレイ
31 マイクロレンズ
60 低屈折率層
70 回折格子(機能層)