IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DICグラフィックス株式会社の特許一覧

特開2023-166728電子線硬化型艶消しコーティング剤、及び電子線硬化型艶消しコーティング膜の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166728
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】電子線硬化型艶消しコーティング剤、及び電子線硬化型艶消しコーティング膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/02 20060101AFI20231115BHJP
【FI】
C09D4/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077454
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】近藤 瑶子
(72)【発明者】
【氏名】福島 利雄
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038FA111
4J038NA01
4J038PA17
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、エキシマUVを用いずとも電子線照射にて所望する艶消し効果と、耐傷性、耐汚染性といった化粧シートならではの物性を兼備する電子線硬化型艶消しコーティング剤、及び電子線硬化型艶消しコーティング膜の製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の解決手段は、重量平均分子量2000以上の化合物(A)と、2官能(メタ)アクリルモノマー(B)とを含有し、(1)及び(2)を満たすことを特徴とすることを電子線硬化型艶消しコーティング剤。
(1)前記2官能(メタ)アクリルモノマー(B)の数平均分子量が150~400である。
(2)前記化合物(A)と前記2官能(メタ)アクリルモノマー(B)との質量比率が、(A):(B)=1:9~9:1の範囲である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量2000以上の化合物(A)と、2官能(メタ)アクリルモノマー(B)とを含有し、(1)及び(2)を満たすことを特徴とすることを電子線硬化型艶消しコーティング剤。
(1)前記2官能(メタ)アクリルモノマー(B)の数平均分子量が150~400である。
(2)前記化合物(A)と前記2官能(メタ)アクリルモノマー(B)との質量比率が、(A):(B)=1:9~9:1の範囲である。
【請求項2】
前記2官能(メタ)アクリルモノマー(B)が、エチレンオキサイド変性1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9ーノナンジオールジアクリレート、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、及びトリプロピレングリコールジアクリレートから成る群から選ばれる少なくとも1つの2官能(メタ)アクリルモノマーである請求項1に記載の電子線硬化型艶消しコーティング剤。
【請求項3】
更に、3官能以上の(メタ)アクリルモノマーを含有する請求項1に記載の電子線硬化型艶消しコーティング剤。
【請求項4】
基材上に、電子線硬化型艶消しコーティング剤のコーティング膜を形成する工程(I)と、
前記コーティング膜上に、電子線照射する工程(II)とを、
この順に有する艶消しコーティング膜の製造方法であって、
前記電子線硬化型艶消しコーティング剤が、請求項1~3のいずれかに記載の電子線硬化型艶消しコーティング剤であり、
前記電子線照射する工程(II)における電子線照射の線量が100kGy以下であることを特徴とする艶消しコーティング膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子エネルギー線硬化型組成物を使用した艶消しコーティング剤、及び電子線硬化型艶消しコーティング膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の内装や建具の表面化粧、車両内装等には化粧シートが多く用いられており、化粧シートの表層には保護や美装を目的とした各種塗装が施されている。塗装を施すためのコーティング剤には、主に低光沢化し意匠性を高める目的で、シリカ等の艶消し剤が配合されることが一般的である一方で、艶消し剤の使用は塗工適性へ影響する場合や、耐汚染性等の各種物性の低下の原因となる場合があるため、近年では、艶消し剤不使用で低光沢化する手法としてエキシマUVが注目されている。
例えば、短波長(172nm)のエキシマ光を照射するエキシマUVにより、粒子の添加を行う事なく艶消し効果による低光沢性を有する化粧シートが知られている(例えば特許文献1参照)。
しかし、化粧シートにおいては低光沢化といった外観だけでなく、耐傷性、耐汚染性といった物性も非常に重要であり、所望する艶消し効果と、耐傷性、耐汚染性といった化粧シートならではの物性を兼備するに依然として十分でないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-24102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、エキシマUVを用いずとも電子線照射にて所望する艶消し効果と、耐傷性、耐汚染性といった化粧シートならではの物性を兼備する電子線硬化型艶消しコーティング剤、及び電子線硬化型艶消しコーティング膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、特定の処方による電子線硬化型艶消しコーティング剤、及び電子線硬化型艶消しコーティング膜の製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明者らは、重量平均分子量2000以上の化合物(A)、及び数平均分子量が150~400である2官能(メタ)アクリルモノマー(B)を特定比率で併用する電子線硬化型艶消しコーティング剤が、前記課題を解決することを見出した。
【0007】
即ち、本発明は、重量平均分子量2000以上の化合物(A)と、2官能(メタ)アクリルモノマー(B)とを含有し、(1)及び(2)を満たすことを特徴とすることを電子線硬化型艶消しコーティング剤を提供する。
(1)前記2官能(メタ)アクリルモノマー(B)の数平均分子量が150~400である。
(2)前記化合物(A)と前記2官能(メタ)アクリルモノマー(B)との質量比率が、(A):(B)=1:9~9:1の範囲である。
【0008】
また本発明は、前記2官能(メタ)アクリルモノマー(B)が、エチレンオキサイド変性1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9ーノナンジオールジアクリレート、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、及びトリプロピレングリコールジアクリレートから成る群から選ばれる少なくとも1つの2官能(メタ)アクリルモノマーである電子線硬化型艶消しコーティング剤を提供する。
【0009】
また本発明は、更に3官能以上の(メタ)アクリルモノマーを含有する請求項1に記載の電子線硬化型艶消しコーティング剤を提供する。
【0010】
また本発明は、基材上に、電子線硬化型艶消しコーティング剤のコーティング膜を形成する工程(I)と、前記コーティング膜上に、電子線照射する工程(II)とを、この順に有する艶消しコーティング膜の製造方法であって、前記電子線硬化型艶消しコーティング剤が、前記電子線硬化型艶消しコーティング剤であり、前記電子線照射する工程(II)における電子線照射の線量が100kGy以下であることを特徴とする電子線硬化型艶消しコーティング膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電子線硬化型艶消しコーティング剤により、エキシマUVを用いずとも電子線照射にて充分な艶消し効果と、耐傷性、耐汚染性といった化粧シートならではの物性を兼備することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の電子線硬化型艶消しコーティング剤は、重量平均分子量2000以上の化合物(A)と、2官能(メタ)アクリルモノマー(B)とを含有し、(1)及び(2)を満たすことを特徴とする。
(1)前記2官能(メタ)アクリルモノマー(B)の数平均分子量が150~400である。
(2)前記化合物(A)と前記2官能(メタ)アクリルモノマー(B)との質量比率が、(A):(B)=1:9~9:1の範囲である。
【0013】
尚、本発明において、「(メタ)アクリルモノマー」とは、アクリルモノマーまたはメタアクリルモノマーの一方または両方を指す。
【0014】
本発明の電子線硬化型艶消しコーティング剤で使用する化合物(A)としては、重量平均分子量が2000以上であれば特に限定されず、公知の化合物を使用することができる。中でも、必須成分である2官能(メタ)アクリルモノマー(B)との相溶性や配合安定性の観点から、アクリルモノマーを原料とする(メタ)アクリルポリマーや(メタ)アクリルオリゴマー等の化合物であることが好ましい。
重量平均分子量が2000以上であることで、電子線照射にて充分な艶消し効果と、耐傷性、耐汚染性といった化粧シートならではの物性を兼備することができる。
【0015】
本発明において、重量平均分子量、及び数平均分子量は以下の方法によって測定した値とする。
測定装置 ; 東ソー株式会社製 HLC-8220
カラム ; 東ソー株式会社製ガードカラムHXL-H
+東ソー株式会社製 TSKgel G5000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G4000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G3000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G2000HXL
検出器 ; RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製 SC-8010
測定条件: カラム温度 40℃
溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準 ;ポリスチレン
試料 ;樹脂固形分換算で0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
【0016】
前記化合物(A)としては、例えば(メタ)アクリルポリマーを挙げる事ができる。前記(メタ)アクリルポリマーを構成する(メタ)アクリルモノマーとしては、特に限定されることは無く、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソミスチリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、プロピルヘプチル(メタ)アクリレート、イソウンデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、イソトリデシル(メタ)アクリレート、イソペンタデシル(メタ)アクリレート、イソヘキサデシル(メタ)アクリレート、イソヘプタデシル(メタ)アクリレートなどのアルキル基含有アクリルモノマーが挙げられ、単独で用いても良いし、組み合わせて使用することも可能である。
前記(メタ)アクリルポリマーは、前記(メタ)アクリルモノマーを単独または組み合わせて、公知の方法で重合または共重合させて得ることができる。
【0017】
また前記(メタ)アクリルポリマーとしては、本発明の効果を損なわない範囲内において官能基を有していてもよい。官能基としては、水酸基、酸性基、(メタ)アクリロイル基等の官能基が挙げられる。
水酸基を含有する(メタ)アクリルポリマーは、前記(メタ)アクリルモノマーと、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-クロロプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリルモノマー等を、公知の方法で共重合させて得られる。
また、酸性基を含有する(メタ)アクリルポリマーは、前記(メタ)アクリルモノマーと、(メタ)アクリル酸、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、(メタ)アクリル酸ダイマー、無水マレイン酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、ムコン酸、シトラコン酸等の酸性基含有モノマー等を公知の方法で共重合させて得られる。
【0018】
また、(メタ)アクリロイル基等の官能基を有する(メタ)アクリルポリマーを使用することもできる。例えば、重量平均分子量が2000以上である(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレート、(ポリ)アクリル(メタ)アクリレート、(ポリ)エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオレフィン(メタ)アクリレート、ポリスチレン(メタ)アクリレート、マクロモノマー等を使用することができる。
【0019】
本発明の電子線硬化型艶消しコーティング剤で使用する2官能(メタ)アクリルモノマー(B)としては、数平均分子量が150~400である事が好ましい。なお本発明における2官能(メタ)アクリルモノマー(B)の「2官能」とは、(メタ)アクリロイル基を2つ有することを表す。
2官能(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート(分子量198.2)、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート(分子量226.27)、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(分子量314)、1,9ーノナンジオールジアクリレート(分子量268)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート(分子量240.3)、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート(分子量268.3)、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート(分子量160.2)、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート(分子量304.3)、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート(分子量198.2)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(分子量242.2)、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(分子量286.3)、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(分子量242.2)、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート(分子量312)、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート(分子量261.2)、ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
中でも、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9ーノナンジオールジアクリレートl、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレートがより好ましい。
【0020】
本発明の電子線硬化型艶消しコーティング剤では、更に3官能以上の(メタ)アクリルモノマーを使用してもよい。なおここで「3官能以上」とは(メタ)アクリロイル基が3つ以上有することを表す。
【0021】
3官能以上の(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、グリセリン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレンポリオールのポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
中でも、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレートがより好ましい。
尚、3官能以上の(メタ)アクリレートの添加量は、コーティング剤全量の30質量%以下である事が好ましい。
【0022】
また更に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物 (DPHAと略する場合がある)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTAと略する場合がある)、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドを付加して得たトリオールのトリ(メタ)アクリレートであるトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート等を使用してもよい。前記トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加体トリ(メタ)アクリレートとしては、代表的なものとしてトリメチロールプロパンエチレンオキサイド(以後エチレンオキサイドを「EO」と称する場合がある)変性(n≒3)トリアクリレートが挙げられる。
【0023】
前記化合物(A)と前記2官能(メタ)アクリルモノマー(B)との質量比率は、(A):(B)=1:9~9:1の範囲であることを必須とする。
この範囲であれば、電子線照射にて充分な艶消し効果と、耐傷性、耐汚染性といった化粧シートならではの物性を兼備することができる。
【0024】
(光重合開始剤)
本発明の電子線硬化型艶消しコーティング剤は、必要に応じて光重合開始剤を使用してもよい。この際に使用する光重合開始剤としては、公知のものを使用すればよい。
【0025】
中でもラジカル重合タイプの光重合開始剤が好ましく、活性エネルギー線硬化性化合物溶解時に溶解液の着色が無く、経時による黄変の少ないα-ヒドロキシアルキルケトン系光重合開始剤が挙げられる。α-ヒドロキシアルキルケトン系光重合開始剤としては例えば、1-フェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-i-プロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。更にフェニルグリオキソレート系光重合開始剤も好ましい。フェニルグリオキソレート系光重合開始剤としては例えばメチルベンゾイルフォルマート等を挙げることができる。中でも、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが好ましい。
【0026】
また、その他のラジカル重合タイプの光重合開始剤としては紫外線の中でも長波長領域に吸収波長を有するモノアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を適宜、組合わせて使用してもよい。モノアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤としては活性エネルギー線硬化性化合物への溶解時に着色するビスアシルフォスフィンオキサイド類は除き、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジクロロベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-フェニルフォスフィン酸メチルエステル、2-メチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、ピバロイルフェニルフォスフィン酸イソプロピルエステル等のモノアシルフォスフィンオキサイド類等が挙げられ、特に、これらの中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイドは、385nmや395nmに発光波長を有するUV-LEDの発光波長領域に合致するUV吸収波長を有することで、好適な硬化性が得られ、且つ、硬化皮膜の黄変が少ない点でより好ましい。
【0027】
前記した光重合開始剤はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記光重合開始剤の総計の添加量は、コーティング剤全量に対し0質量%~30質量%の範囲であることが好ましい。より好ましくはコーティング剤全量に対し1質量%~25質量%の範囲である。
【0028】
(有機溶剤)
また本発明の電子線硬化型艶消しコーティング剤は、必要に応じ希釈剤として有機溶剤を添加することもできる。
有機溶剤としては、使用する(メタ)アクリロイル基を有する化合物を溶解する溶剤であればいずれも使用できる。例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル等のエステル類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル等、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類等が挙げられ、これらを混合して用いてもよい。
ただし環境対応を目的として、大気中への有機溶剤の蒸散量の徹底的な低減、即ち揮発性有機化合物(VOC)の削減をする場合は、上記の有機溶剤を含まない方がより好ましい。
【0029】
本発明の電子線硬化型艶消しコーティング剤は、塗工性の観点から、後述の本発明の電子線硬化型艶消しコーティング膜の製造方法において塗工可能な粘度に調整しておくことが好ましい。粘度としては30~3000mPa・sに調整するのが好ましい。特に高分子量で粘度の高いポリマーを併用する場合は、必要に応じ有機溶剤で希釈または加熱することで該粘度に調整することができる。
【0030】
(添加剤)
その他本発明の電子線硬化型艶消しコーティング剤は、艶消し剤、重合禁止剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、ワックス、乾燥剤、増粘剤、垂れ止め剤、可塑剤、分散剤、沈降防止剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を含有することが可能である。
【0031】
(基材)
本発明で使用する基材は、艶消し意匠を所望される基材であれば特に限定なく使用できる。例えば建材用の化粧シートであれば、化粧シートに使用する汎用の基材シートを基材として使用することができる。
基材シートとしては特に限定はなく、一般的な化粧シートに汎用の熱可塑性樹脂により形成されたシート(フィルム)や紙を使用する。
熱可塑性樹脂により形成されたシート(フィルム)としては、例えば、ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、アイオノマー、アクリル酸エステル系重合体、メタアクリル酸エステル系重合体等が挙げられる。前記基材シートは、これら樹脂を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることにより形成されていてもよい。
【0032】
前記基材シートは着色されていてもよく、また必要に応じて、充填剤、艶消し剤、発泡剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤等の各種の添加剤が含まれていてもよい。また基材シートの厚みは、最終製品の用途、使用方法等により適宜設定できるが、一般には20~300μmが好ましい。
【0033】
基材シートの片面又は両面には、必要に応じて、コロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理、電離放射線処理、重クロム酸処理等の表面処理を施してもよい。例えば、コロナ放電処理を行う場合には、基材シート表面の表面張力が30dyne以上、好ましくは40dyne以上となるようにすればよい。表面処理は、各処理の常法に従って行えばよい。
【0034】
また化粧シート向け紙基材の種類としては、例えば、薄葉紙、普通紙、強化紙、樹脂含浸紙等の紙質シート、チタン紙、等が挙げられる。
【0035】
また化粧板に汎用される木質化粧板等を基材としてもよい。木質化粧板の木質基材としては、従来から化粧板や家具、建築部材等の木質基材として使用されている合板、パーティクルボード、ハードボード、MDF等の公知のものが挙げられる。またこれらの公知基材はどのような製法で得られたものであるかは問わない。
更に、基材として使用できる不燃材としては、石膏ボード、石膏板、珪酸カルシウム板等を素材とした開孔ボード建材等、陶器、磁器、せっ器、土器、硝子、琺瑯などのセラミックス板、鉄板、亜鉛メッキ鋼板、ポリ塩化ビニルゾル塗布鋼板、アルミニウム板、銅板などの金属板を挙げることができる。
【0036】
(電子線硬化型艶消しコーティング剤の製造)
本発明で使用する電子線硬化型艶消しコーティング剤は、重量平均分子量2000以上の化合物、多官能(メタ)アクリルモノマー、光重合開始剤、その他各種添加剤などを混合練肉・分散することにより製造することができる。
一般に使用される分散機である、例えば、ローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルなどを用い、粉砕メディアのサイズ、粉砕メディアの充填率、分散処理時間などを適宜調節する事ができる。
コーティング剤中に気泡や予期せずに粗大粒子などが含まれる場合は、塗工物品質を低下させるため、濾過などにより取り除くことが好ましい。濾過器は従来公知のものを使用することができる。
【0037】
(コーティング膜の形成方法)
本発明で使用する電子線硬化型艶消しコーティング剤は、公知の塗布・印刷方式でコーティング膜を形成することができる。具体的な例としては、コーティング方法としては、たとえばロールコーター、グラビアコーター、グラビアオフセットコーター、フレキソコーター、エアドクターコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、トランスファロールコーター、キスコーター、カーテンコーター、キャストコーター、スプレイコーター、ダイコーター、オフセット印刷機、スクリーン印刷機等を適宜採用することができる。
【0038】
(コーティング膜を形成する工程(I))
前記形成方法で形成したコーティング膜は、使用するコーティング剤が有機溶剤を含有する場合は溶剤を乾燥炉等で乾燥させた後、電子線で硬化させて硬化させたコーティング膜を得る。
【0039】
(電子線照射する工程(II))
前記工程(I)の後、電子線照射する工程(II)については、電子線照射装置を使用する。加速電圧は200kV以下が好ましい。照射量は100kGy以下が好ましく、5~50kGyの範囲がより好ましい。
低照射にする事でより所望する艶消し効果を得る事ができる。
【0040】
このようにして得たコーティング膜の膜厚は、0.5~100μmの範囲であることが好ましく10~50μmの範囲が最も好ましい。この膜厚の範囲であることで、本発明の効果を最大限に発揮できる。
【0041】
また、本発明の製造方法は、前述の化粧シート等建築材料用途のみならず、家具、楽器、事務用品、スポーツ用品、玩具等の表面塗装用途に幅広く展開され得る。
【実施例0042】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。尚、以下実施例中にある部、質量部とは、質量%を表す。
【0043】
なお、本実施例において、重量平均分子量(Mw)、及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミッションクロマトグラフ(GPC)を用い、下記の条件により測定した値である。
【0044】
測定装置 ; 東ソー株式会社製 HLC-8220
カラム ; 東ソー株式会社製ガードカラムHXL-H
+東ソー株式会社製 TSKgel G5000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G4000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G3000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G2000HXL
検出器 ; RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製 SC-8010
測定条件: カラム温度 40℃
溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準 ;ポリスチレン
試料 ;樹脂固形分換算で0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
【0045】
(実施例1 電子線硬化型艶消しコーティング剤)
化合物(A)として重量平均分子量55,000、水酸基を有する化合物(A-1)20質量部、2官能(メタ)アクリルモノマー(B)としてエチレンオキサイド変性1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(M202 Miwon社製)80質量部、BASF社製1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン「Omnirad184」10質量部、酢酸エチル34.8質量部を混合、撹拌機で十分に攪拌し総計144.8質量部である電子線硬化性艶消しコーティング剤(1)作製した。
【0046】
(実施例2~13,及び比較例1~5)
表1~3に記載の配合に従って、実施例2~13及び比較例1~5の電子線硬化型艶消しコーティング剤を充分混合・分散し、電子線硬化型艶消しコーティング剤を得た。
【0047】
(電子線硬化型艶消しコーティング剤のコーティング膜を形成する工程)
ポリエステルフィルム(A4100、厚さ50μm、東洋紡株式会社製)に、前記実施例・比較例で得た電子線硬化型艶消しコーティング剤を、バーコーター(#10)を使用して塗工し塗工層を形成した。
【0048】
(電子線照射する工程(II)
前記工程(I)後の塗工層に、電子線線照射する工程(II)において、カーテン型電子線照射装置(岩崎電気株式会社製「エレクトロカーテンEC250/15/180L」)を用いて加速電圧80kV、照射量15kGyで電子線を照射し艶消しコーティング膜を得た。
【0049】
作製した前記電子線硬化型艶消しコーティング剤について、各々光沢度、耐傷性、及び耐汚染性について評価した。
【0050】
(評価項目1:光沢値)
得られたコーティング膜を、JIS Z8741に準じた鏡面光沢値測定をすべく、グロスメーター(コニカミノルタ社製「MULTI GLOSS 268A」)を用いて光沢値(グロス値)を測定し、光沢値40を境に合否判定した。光沢値の測定条件は入射角60°反射角60°とした。
(評価基準)
○:40未満
×:40以上
【0051】
(評価項目2:低光沢化面積)
得られたコーティング膜について、光沢値40未満に低光沢化した面積を目視確認し、面積80%を境に合否判定した。光沢値の測定条件は評価項目1に準ずる。
(評価基準)
〇:80%以上
×:80%未満
【0052】
(評価項目3:耐傷性)
得られたコーティング膜の表面に、スチールウール(日本スチールウール株式会社製 「BON STAR No.0000」)を250g/cmの荷重をかけて10往復させ、コーティング膜への傷の入り方を3段階の基準を設け評価した。耐傷性の評価基準は次の通りである。
(評価基準)
○: 傷は見られない。
△: 軽微な艶変化と傷付きが見られるが実用上問題ない。
×: 艶変化と、顕著な傷付きが見られる。
【0053】
〔評価項目4:耐汚染性〕
JAS特殊合板 汚染A試験に準拠して、汚染物を化粧板表面に塗布し、4時間後にアルコールを含むウェスで表面を拭き取った後の汚染物の残存具合を目視にて観察した。なお汚染物としては、市販の事務用黒マジックを用いた。
(評価基準)
○:汚染物の残存が全くない。
△:汚染物の残存はあるが軽微で実用上問題無い。
×:汚染物の残存が著しい。
【0054】
各電子線硬化型艶消しコーティング剤、及び作製した艶消しコーティング膜の評価結果を表1~3に示す。
尚、表中の数値は、全て質量部、又は質量%であり、酢酸エチル以外は固形分を示す。 また空欄は未配合であることを示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表中の略語は、下記原料を用いた事を示す。
・化合物(A)-1 官能基は水酸基である。
・化合物(A)-2 官能基はアクリロイル基である。
・化合物(A)-3 官能基はアクリロイル基である。
・化合物(A)-4 官能基はアクリロイル基である。
・EOHDDA:エチレンオキサイド変性1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、Miramer M202(Miwon社製)
・HDDA:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、Miramer M200(Miwon社製)
・1,9-ND-A:ライトアクリレート1,9-ND―A、 1,9ーノナンジオールジアクリレート、(共栄社化学株式会社製)
・HPN:ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、Miramer M210(Miwon社製)
・TPGDA:トリプロピレングリコールジアクリレート、Miramer220(Miwon社製)
・EOTMPTA:エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、Miramer M3130(Miwon社製)
・DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、Miramer M600(Miwon社製)
・その他のアクリレート化合物(Y):3官能 重量平均分子量600
・Omnirad 184:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IGM Resins B.V.社製)
【0059】
この結果、本発明の電子線硬化型艶消しコーティング剤は、充分な艶消し効果と、耐傷性、耐汚染性を兼備することは明らかである。