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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166741
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】可視化試験装置及び可視化試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/04 20190101AFI20231115BHJP
【FI】
G01M13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077475
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】布川 公博
(72)【発明者】
【氏名】遠山 護
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 範和
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AC01
2G024BA19
2G024CA21
2G024CA22
2G024DA22
2G024FA17
(57)【要約】
【課題】蛍光特性を有する潤滑油を用いる機械の挙動を明確に観察する。
【解決手段】機械又は機械要素の挙動を観察する可視化試験装置100であって、カメラ10を備え、機械又は機械要素に用いられている潤滑剤の発光の波長領域と異なる波長領域において発光する蛍光物資を用いて、機械又は機械要素の測定対象物102、又は、カメラ10と測定対象物102との延長上に蛍光物質を付して観察を行う。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械又は機械要素の挙動を観察する可視化試験装置であって、
撮像手段を備え、
前記機械又は前記機械要素に用いられている潤滑剤の発光の波長領域と異なる波長領域において発光する蛍光物資を用いて、前記機械又は前記機械要素の測定対象物、又は、前記撮像手段と前記測定対象物との延長上に前記蛍光物質を付して観察を行うことを特徴とする可視化試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の可視化試験装置であって、
前記蛍光物質の蛍光を励起する波長領域の光を照射する光源を備えることを特徴とする可視化試験装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の可視化試験装置であって、
前記蛍光物質の発光の波長領域の少なくとも一部の光を透過し、前記潤滑剤の発光の波長領域の少なくとも一部の光を減衰させる光学フィルタを備え、
前記機械又は前記機械要素と、前記撮像手段と、の間に前記光学フィルタが配置されていることを特徴とする可視化試験装置。
【請求項4】
請求項1に記載の可視化試験装置であって、
前記蛍光物質は、前記潤滑剤の発光の波長領域から30nm以上離れた波長領域の光を発光することを特徴とする可視化試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光特性を有する潤滑油を用いる機械の挙動を観察するための可視化試験装置及び可視化試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基油、増ちょう剤及び蛍光物質を含む蛍光グリース組成物を転がり軸受に注入し、蛍光グリース組成物に含まれる蛍光物質の発光を観察することでグリース潤滑の挙動を把握する技術が開示されている(特許文献1)。
【0003】
また、蛍光物質を含む油膜に短波長レーザを照射したときに誘起される蛍光強度から油膜厚さを求めるレーザ誘起蛍光法が開示されている(非特許文献1)。レーザ誘起蛍光法は、動的追従性に優れ、レーザビームの径に相当する高い空間分解能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-348589号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「レーザ誘起蛍光法(LIF法)によるピストンの油膜挙動の解析」、豊田中央研究所R&Dレビュー、Vol.28、No.4(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来技術は、油やグリースに蛍光物質を混ぜて、光源から励起光を照射することによって蛍光物質を含む油やグリースにおける蛍光の発光強度から油膜の挙動や油膜の厚さを測定する。しかしながら、上記従来技術は、あくまで蛍光物質を含んだ油やグリースの挙動や厚さを測定するものであって、油やグリースを用いた機械(又は機械部品)の挙動を測定対象とするものではない。
【0007】
また、従来技術で用いられている蛍光物質はクマリン6やピレリンであり、これらの最大発光波長はそれぞれ498nm及び480nmであって、油やグリースの発光波長に近いことから油やグリースと蛍光物質とを区別して測定することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、機械又は機械要素の挙動を観察する可視化試験装置であって、撮像手段を備え、前記機械又は前記機械要素に用いられている潤滑剤の発光の波長領域と異なる波長領域において発光する蛍光物資を用いて、前記機械又は前記機械要素の測定対象物、又は、前記撮像手段と前記測定対象物との延長上に前記蛍光物質を付して観察を行うことを特徴とする可視化試験装置である。
【0009】
ここで、前記蛍光物質の蛍光を励起する波長領域の光を照射する光源を備えることが好適である。
【0010】
また、前記蛍光物質の発光の波長領域の少なくとも一部の光を透過し、前記潤滑剤の発光の波長領域の少なくとも一部の光を減衰させる光学フィルタを備え、前記機械又は前記機械要素と、前記撮像手段と、の間に前記光学フィルタが配置されていることが好適である。
【0011】
また、前記蛍光物質は、前記潤滑剤の発光の波長領域から30nm以上離れた波長領域の光を発光することが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、蛍光特性を有する潤滑油を用いる機械の挙動を明確に観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】CMOSカメラの分光特性の例を示す図である。
図2】グリースの発光を撮像した可視光の全波長領域の画像を示す図である。
図3】グリースの発光を撮像した緑(G)の波長領域の画像を示す図である。
図4】グリースの発光を撮像した赤(R)の波長領域の画像を示す図である。
図5】グリースの緑(G)及び赤(R)の波長領域の発光強度を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における可視化試験装置の構成を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における測定対象物の構成を示す図である。
図8】本発明の実施の形態における測定対象物への蛍光物質の塗布状態を示す図である。
図9】比較例に対する可視光の全波長領域(白色光)の撮像画像を示す図である。
図10】比較例に対する緑(G)の波長領域の撮像画像を示す図である。
図11】実施例に対する可視光の全波長領域(白色光)の撮像画像を示す図である。
図12】実施例に対する緑(G)及び赤(R)の波長領域の撮像画像を示す図である。
図13】実施例に対する赤(R)の波長領域の撮像画像を示す図である。
図14】本発明の実施の形態における測定対象物への蛍光物質の塗布状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<グリースの蛍光特性測定>
本発明の実施の形態における可視化試験装置及び可視化試験方法の事前検討として、金属平板にグリースを塗布し、グリースの発光特性の測定を行った。測定には、3CMOSカラーカメラ(JAI製、AP-3200T-USB、レンズ:オプトアート製、MP-05F-65)を用いて蛍光灯による光照射下において行った。3CMOSカラーカメラは、赤(R)、緑(G)、青(B)の分光特性の異なるイメージセンサを有する。図1は、3CMOSカラーカメラの赤(R)、緑(G)、青(B)の波長領域における分光特性を示す。なお、本実施の形態では、赤(R)の波長領域はおおよそ580nm以上680nm以下であり、緑(G)の波長領域は500nm以上570nm以下であり、青(B)の波長領域は400nm以上490nm以下とする。
【0015】
図2はグリースの可視光の全波長領域の画像を示し、図3はグリースの緑(G)の波長領域の画像を示し、図4はグリースの赤(R)の波長領域の画像を示す。図5は、図2のラインA-Aに沿った緑(G)の波長領域の発光強度及び赤(G)の波長領域の発光強度を示す。グリースは蛍光特性を示し、赤(G)の波長領域に比べて緑(G)の波長領域にて蛍光の発光強度は4倍程度高かった。
【0016】
<可視化試験装置及び可視化試験方法>
本発明の実施の形態における可視化試験装置100は、図6の模式図に示すように、カメラ10、光源12及び光学フィルタ14を含んで構成される。可視化試験装置100は、可動部分を有する機械又は機械要素である測定対象物102の挙動を測定する可視化試験のために用いられる。本実施の形態では、測定対象物102をボールを含む機械要素とした例で説明するが、あくまで一例であり他の機械又は機械要素であっても同様に適用することができる。
【0017】
カメラ10は、可視化試験で用いる蛍光物質の発光波長に感度を有する撮像部を備える。光源12は、測定対象物102に塗布される蛍光物質を励起して、蛍光を発光させるための光を照射するための手段である。蛍光物質として、例えば、GSIクレオス製、Mr.カラーC171蛍光レッドを用いた場合、光源12は、赤(R)の波長領域である580nm以上680nm以下の範囲より短い波長の光を照射できることが好適である。
【0018】
光学フィルタ14は、測定対象物102に塗布される蛍光物質の発光の波長領域の少なくとも一部の光を透過し、グリースの発光の波長領域の少なくとも一部の光を減衰させる光学特性を有するフィルタである。蛍光物質として、例えば、GSIクレオス製、Mr.カラーC171蛍光レッドを用いた場合、光学フィルタ14は、赤(R)の波長領域である580nm以上680nm以下の光を透過することが好適である。また、潤滑剤として一般的なグリースを用いた場合、光学フィルタ14は、緑(G)の波長領域は500nm以上570nm以下の光を減衰させることが好適である。光学フィルタ14は、可視化試験装置100を使用する状態において、測定対象物102とカメラ10との間に配置される。
【0019】
なお、光学フィルタ14は、必要に応じて設ければよい。例えば、カメラ10が備える撮像素子が、蛍光物質からの蛍光の発光とグリースからの蛍光の発光とを区別して撮像できる特性を有する場合、光学フィルタ14を設けずに、撮像された画像において蛍光物質からの蛍光とグリースからの蛍光とを分離すればよい。また、カメラ10によって撮像された画像に対してソフトウェアによってフィルタリングを行い、蛍光物質からの蛍光の波長領域とグリースからの蛍光の波長領域とを分離してもよい。
【0020】
測定対象物102は、測定台上に配置される。測定台は、測定対象物102を機械的に支持できる強度を備えることが好適である。また、測定台は、必要に応じて、測定時に測定対象物102の可動部分を動かすためのモータ等の駆動手段を備えるようにしてもよい。
【0021】
図7は、測定対象物102の部分拡大図を示す。図8は、図7のラインA-Aに沿った断面図を示す。本実施の形態では、測定対象物102であるボールを含む機械要素において隣り合うボール24の隙間を測定する例について示す。
【0022】
測定対象物102であるボールを含む機械要素は、シャフト20、外周輪22及びボール24から構成される。ボール24は、シャフト20と外周輪22との間に配置される。本実施の形態では、蛍光物質からの発光を撮像するために外周輪22は透明な部材、例えば石英等で構成される。
【0023】
本実施の形態における可視化試験方法では、測定対象物102の測定対象箇所に用いる蛍光物質を用いて当該蛍光物質の発光を測定することによって測定対象物102の構成や挙動を可視化する。
【0024】
本発明では、グリースは、油(潤滑剤、冷却剤等)を含むものとする。グリースは、例えば、AZ製ウレアグリース(品番781)が挙げられる。
【0025】
蛍光物質は、グリースの発光の波長特性とは異なる発光特性を有する物質とする。蛍光物質は、グリースの発光の波長領域とは異なる波長領域で発光する物質とする。一般的なグリースは緑(G)の波長領域で発光するので、蛍光物質は赤(G)の波長領域で発光する特性を有する物質とすることが好適である。蛍光物質は、例えば、GSIクレオス製、Mr.カラーC171蛍光レッドとすることができる。
【0026】
ボール24の隙間を測定する場合、図8に示すように、カメラ10と測定対象物102と延長上にあるシャフト20の溝の底部に蛍光物質Xを塗布してカメラ10による撮像を行う。塗布された蛍光物質Xからの蛍光がボール24によって遮断されることによって、隣り合うボール24の間からのみ蛍光物質Xからの蛍光が撮像される。
【0027】
<比較例>
蛍光物質として、カメラ10と測定対象物102と延長上にあるシャフト20の溝の底部に一般的に用いられているクマリン6を塗布してカメラ10にて撮像を行った。クマリン6の蛍光の波長領域は475nm~550nmである。
【0028】
<実施例>
蛍光物質として、カメラ10と測定対象物102と延長上にあるシャフト20の溝の底部に一般的に用いられているGSIクレオス製、Mr.カラーC171蛍光レッドを塗布してカメラ10にて撮像を行った。
【0029】
図9は、比較例における可視光の全波長領域(白色光)の画像を示し、図10は緑(G)の波長領域の画像を示す。図9及び図10において、測定対象物102のボール24の推定形状を破線で示す。
【0030】
図9に示すように、可視光の全波長領域(白色光)の画像ではグリース及びクマリン6からの発光が画像全体に拡がって撮像されており、画像のみからボール24の位置及び形状を推定することは困難であった。また、図10に示すように、緑(G)の波長領域の画像においても、グリース及びクマリン6からの発光が画像全体に拡がって撮像されており、クマリン6が塗布されたシャフト20の溝の底部を特定することはできず、画像のみからボール24の位置及び形状を推定することは困難であった。
【0031】
図11は、実施例における可視光の全波長領域の画像を示し、図12は赤(R)及び緑(G)の波長領域の画像を示し、図13は赤(R)の波長領域の画像を示す。図11及び図12において、測定対象物102のボール24の推定形状を破線で示す。
【0032】
図11に示すように、可視光の全波長領域(白色光)の画像ではグリース及びGSIクレオス製、Mr.カラーC171蛍光レッドからの発光が画像全体に拡がって撮像されており、画像のみからボール24の位置及び形状を推定することは困難であった。
【0033】
一方、図12に示すように、赤(R)及び緑(G)の波長領域の画像では、グリースの蛍光は緑(G)の波長領域に撮像されたのに対して、図13に併せて示すように、GSIクレオス製、Mr.カラーC171蛍光レッドの蛍光は赤(R)の波長領域に撮像された。すなわち、シャフト20の溝の底部に塗布された蛍光物質のうち測定対象物102のボール24によって遮蔽されていない領域が赤(R)の波長領域の画像において他の領域と区別できる程度に明確に撮像された。これによって、赤(R)の波長領域の画像に蛍光が撮像されていない領域をボール24によって遮蔽された領域と特定することができ、ボール24の位置及び形状を明確に区別して観察することが可能となった。
【0034】
なお、図14に示すように、測定対象物102において測定対象となるボール24に蛍光物質を塗布して観察を行ってもよい。蛍光物質は、上記実施例と同様に、例えばGSIクレオス製、Mr.カラーC171蛍光レッドを用いればよい。これによって、測定対象であるボール24自体からの蛍光を他の部分に塗布されたグリースの蛍光と区別して観察することができる。
【0035】
以上のように、本実施の形態によれば、機械又は機械要素に用いられているグリース等の潤滑剤の発光の波長領域と異なる波長領域において発光する蛍光物資を用いて、機械又は機械要素の測定対象物、又は、撮像手段と測定対象物と延長上に蛍光物質を付して観察を行うことによって、蛍光特性を有する潤滑油を用いる機械の挙動を明確に観察することができる。
【0036】
[本願発明の構成]
構成1:
機械又は機械要素の挙動を観察する可視化試験装置であって、
撮像手段を備え、
前記機械又は前記機械要素に用いられている潤滑剤の発光の波長領域と異なる波長領域において発光する蛍光物資を用いて、前記機械又は前記機械要素の測定対象物、又は、前記撮像手段と前記測定対象物と延長上に前記蛍光物質を付して観察を行うことを特徴とする可視化試験装置。
構成2:
構成1に記載の可視化試験装置であって、
前記蛍光物質の蛍光を励起する波長領域の光を照射する光源を備えることを特徴とする可視化試験装置。
構成3:
構成1又は2に記載の可視化試験装置であって、
前記蛍光物質の発光の波長領域の少なくとも一部の光を透過し、前記潤滑剤の発光の波長領域の少なくとも一部の光を減衰させる光学フィルタを備え、
前記機械又は前記機械要素と、前記撮像手段と、の間に前記光学フィルタが配置されていることを特徴とする可視化試験装置。
構成4:
構成1~4のいずれか1つに記載の可視化試験装置であって、
前記蛍光物質は、前記潤滑剤の発光の波長領域から30nm以上離れた波長領域の光を発光することを特徴とする可視化試験装置。
【符号の説明】
【0037】
10 カメラ、12 光源、14 光学フィルタ、16 測定台、20 シャフト、22 外周輪、24 ボール、100 可視化試験装置、102 測定対象物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14