(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166742
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】ロウ材ペースト
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20231115BHJP
B23K 35/30 20060101ALN20231115BHJP
C22C 9/06 20060101ALN20231115BHJP
C22C 19/03 20060101ALN20231115BHJP
C22C 30/02 20060101ALN20231115BHJP
【FI】
B23K35/363 E
B23K35/363 D
B23K35/30 310C
B23K35/30 310D
C22C9/06
C22C19/03 G
C22C30/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077479
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】立花 芳恵
(72)【発明者】
【氏名】川中子 宏
(72)【発明者】
【氏名】赤川 隆
(72)【発明者】
【氏名】増田 聡
(72)【発明者】
【氏名】杉山 昌揮
(72)【発明者】
【氏名】数本 庸介
(72)【発明者】
【氏名】杉本 久弥
(72)【発明者】
【氏名】初山 広明
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い作業性を実現できるペースト状のロウ材を提供する。
【解決手段】一例として、ロウ材ペーストは、80質量%以上95質量%以下のロウ材及び5質量%以上20質量%以下のバインダーを含有する。前記バインダーは、水酸基を二つ以上含み炭素数5~7で構成される固形溶剤と、液体溶剤を含む。別の例として、ロウ材ペーストは、80質量%以上95質量%以下のロウ材及び5質量%以上20質量%以下のバインダーを含有する。前記バインダーは、水酸基を二つ以上含み炭素数8~10で構成される固形溶剤と、液体溶剤を含む。(1)バインダーがチキソ材を含有しない場合には、液体溶剤がバインダー全体に対して68質量%以上で含有され、(2)バインダーがチキソ材を含有する場合には、チキソ材がバインダー全体に対して11質量%以下で含有される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
80質量%以上95質量%以下のロウ材及び5質量%以上20質量%以下のバインダーを含有し、
前記バインダーは、水酸基を二つ以上含み炭素数5~7で構成される固形溶剤と、液体溶剤を含むロウ材ペースト。
【請求項2】
80質量%以上95質量%以下のロウ材及び5質量%以上20質量%以下のバインダーを含有し、
前記バインダーは、水酸基を二つ以上含み炭素数8~10で構成される固形溶剤と、液体溶剤を含み、
(1)バインダーがチキソ材を含有しない場合には、液体溶剤がバインダー全体に対して68質量%以上で含有され、
(2)バインダーがチキソ材を含有する場合には、チキソ材がバインダー全体に対して11質量%以下で含有される
ロウ材ペースト。
【請求項3】
ロウ材は金属を含み、
金属に含まれる酸素濃度は1000ppm以下であり、
前記ロウ材はホウ酸及びホウ砂を含有しない、請求項1又は2に記載のロウ材ペースト。
【請求項4】
25℃~450℃まで昇温速度10℃/minという条件で測定した場合の250℃でのTG残量が0質量%以上1質量%以下となる、請求項1又は2に記載のロウ材ペースト。
【請求項5】
バインダーの固形溶剤として、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン及びネオペンチルグリコールのいずれか1つ以上を含有する、請求項1又は2に記載のロウ材ペースト。
【請求項6】
バインダーの液体溶剤として、テルピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール、ブチルカルビトール、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、フェニルグリコール、へキシレングリコール、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、イソオクタデカノールのいずれか1つ以上を含有する、請求項1又は2に記載のロウ材ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施の形態は、ロウ材ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、部材、特に金属製の部材を接合するためにロウ材が用いられている。例えば特許文献1では、管部材が、その端部が継手部材の開口部に挿入された状態で、ニッケルロウ、銀ロウ等を用いたロウ付けにより継手本体に接合される態様が開示されている。この特許文献1では、継手本体の端面において、開口部と管部材の外周面との境界部分に沿ってロウ付けを行い、溶融して液状となったロウ材が、毛細管現象により、開口部の内周面と管部材の外周面との間の僅かな隙間に入り込み、入り込んだロウ材が温度低下して硬化することで管部材の端部と継手本体とがロウ付けにより接合されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロウ材による接合は、ペレット状のロウ材を用いて接合することが一般的である。このようなペレット状のロウ材では作業性が高くないことから、利用の場面は限られていた。なお、ペレット状のロウ材を用いる場合には、ペレット状のロウ材を載置するための凹部を設けることも必要になる。
【0005】
本発明では、このような状況を改善するために、高い作業性を実現できるペースト状のロウ材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[概念1]
本発明の第一態様によるロウ材ペーストは、
80質量%以上95質量%以下のロウ材及び5質量%以上20質量%以下のバインダーを含有し、
前記バインダーは、水酸基を二つ以上含み炭素数5~7で構成される固形溶剤と、液体溶剤を含んでもよい。
【0007】
[概念2]
本発明の第二態様によるロウ材ペーストは、
80質量%以上95質量%以下のロウ材及び5質量%以上20質量%以下のバインダーを含有し、
前記バインダーは、水酸基を二つ以上含み炭素数8~10で構成される固形溶剤と、液体溶剤を含み、
(1)バインダーがチキソ材を含有しない場合には、液体溶剤がバインダー全体に対して68質量%以上で含有され、
(2)バインダーがチキソ材を含有する場合には、チキソ材がバインダー全体に対して11質量%以下で含有されてもよい。
【0008】
[概念3]
本発明の第一態様及び第二態様によるロウ材ペーストにおいて、
ロウ材は金属を含み、
金属に含まれる酸素濃度は1000ppm以下であり、
前記ロウ材はホウ酸及びホウ砂を含有しなくてもよい。
【0009】
[概念4]
概念1乃至3のいずれか1つによるロウ材ペーストにおいて、
25℃~450℃まで昇温速度10℃/minという条件で測定した場合の250℃でのTG残量が0質量%以上1質量%以下となってもよい。
【0010】
[概念5]
概念1乃至4のいずれか1つによるロウ材ペーストにおいて、
バインダーの固形溶剤として、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン及びネオペンチルグリコールのいずれか1つ以上を含有してもよい。
【0011】
[概念6]
概念1乃至5のいずれか1つによるロウ材ペーストにおいて、
バインダーの液体溶剤として、テルピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール、ブチルカルビトール、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、フェニルグリコール、へキシレングリコール、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、イソオクタデカノールのいずれか1つ以上を含有してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、十分な接合を実現でき、かつ高い作業性を有するペースト状のロウ材を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施の形態によるロウ材ペーストを用いて金属部品同士を接合する態様を示した側方図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本実施の形態の好適な実施の形態について詳細に説明する。本実施の形態での「又は」は「及び」を含む概念であり、A又はBは、A、B、並びにA及びBの両方のいずれかを示している。
【0015】
本実施の形態のペースト状のロウ材ペーストは、ロウ材及びバインダーを含んでもよい。ロウ材は、金属を含んでもよい。バインダーは、固形溶剤及び液体溶剤を含有してもよく、さらにチキソ材を含有してもよい。本実施の形態のロウ材はフラックスとしてのホウ酸及びホウ砂を含まない態様を採用してもよい。ロウ材に含まれる金属粉末等の金属は1000ppm以下の低酸素しか含有しない態様を採用してもよい。ホウ酸及びホウ砂は還元剤として作用することになるが、金属粉末等の金属が1000ppm以下の低酸素しか含有しない場合には、ホウ酸及びホウ砂は特に必要ない。この観点からすると、金属粉末等の金属が800ppm以下の酸素しか含有しない態様であることが好ましく、600ppm以下の酸素しか含有しない態様であることがさらに好ましい。なお、ホウ酸及びホウ砂については利用に規制がかかる可能性があることから、ホウ酸及びホウ砂を含有させない態様を採用することは、この意味でも有益なものである。またホウ酸及びホウ砂を用いない場合には、ホウ酸及びホウ砂と相性のいい固形溶剤を選択する必要もなくなり、その結果として液体溶剤の選択の幅も広がることになる点でも有益である。
【0016】
本実施の形態ではロウ材ペーストを提供できる。このようなロウ材ペーストを用いることで、接合部に直接塗布し濡れを確保でき、接合品質の安定を得ることができる。また、成形する部品を小型・簡易化し、1個部品あたりの加工精度及び収率を向上させることができる。さらに、ロウ材ペーストの粘着力によって、より小さな部品をレンガのように積み上げて接合することもより容易なものであり、量産段階でも様々に応用することができるようにもなる。一例として、本実施の形態のロウ材ペースト50は、
図1に示すような金属部品10,20を別の金属部品30に接合する際に用いられる。例えば、ろう材ペーストは金属部品10,20の表面に塗り広げられて、金属部品10,20を別の金属部品30に接合する際に用いられる。このような接合は、450℃以上の温度で行われ、典型的には900~1000℃で金属部品同士の接合が行われることになる。一例として、ロウ材ペースト50はオートマティックトランスミッションの構成部品同士の接合に用いられてもよい。
【0017】
ロウ材ペースト中、ロウ材は80質量%以上95質量%以下で含有され、バインダーは5質量%以上20質量%以下で含有されてもよい。後述するとおりバインダーは接合時には蒸発して無くなることからロウ材とバインダーの比率は特段限定されるものではないが、バインダーの含有量が多いと、粘度が低くなり作業性が下がってしまうことから、バインダーの上限値は20質量%とすることが好ましく、15質量%とすることがより好ましく、10質量%とすることがさらにより好ましい。また、バインダーの含有量が少ないと粘度が高くなり、やはり作業性が下がってしまうことから、バインダーの下限値は5質量%とすることが好ましく、7質量%とすることがより好ましく、8質量%とすることがさらにより好ましい。
【0018】
バインダーの固形溶剤としては、水酸基を二つ以上含み、炭素数5~10で構成され25℃で固体となるものを用いてもよい。炭素数5~7で構成される固形溶剤としては、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール等を用いてもよい。炭素数8~10で構成される固形溶剤としては、例えば2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等を用いてもよい。
【0019】
バインダーの液体溶剤としては、沸点が250以下からなる低沸点の液体溶剤を用いてもよい。バインダーの液体溶剤としては、一例として、テルピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール、ブチルカルビトール、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、フェニルグリコール、へキシレングリコール、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、イソオクタデカノール等を用いてもよい。本実施の形態の液体溶剤とは25℃において液体の状態である溶剤を意味し、固形溶剤とは25℃において固体の状態である溶剤を意味している。
【0020】
イソボルニルシクロヘキサノールの沸点は302℃であって高いものとなっているが、以下で示す液体溶剤の沸点は低いものとなっている。
α―テルピネオールの沸点は217℃である。
ブチルカルビトールの沸点は198℃である。
トリプロピレングリコールモノブチルエーテルの沸点は230℃である。
フェニルグリコールの沸点は220℃である。
ヘキシレングリコールの沸点は190℃である。
テトラエチレングリコールジメチルエーテルの沸点は240℃である。
イソオクタデカノールの沸点は302℃である。
【0021】
ロウ材の金属は金属粉末として投入され、その他の部材と混合されることで、ペースト状になってもよい。このようにペースト状になっていることから、ロウ材ペーストにおいては金属粉末を粉末としては肉眼で認識することができない。金属は合金粉末、金属粉末、又は合金粉末と金属粉末の混合物であってもよい。ロウ材に含まれる金属は特に限定されることなく、あらゆる種類の金属を利用することができる。なお、接合する金属部品の材質に応じてロウ材に含まれる金属を適宜変更してもよい。一例としては、Cu系の合金粉末とFe系の金属粉末が用いられてもよく、より具体的には、CuNiMnSiB合金粉末とFe粉末を用いてもよい。CuNiMnSiB合金粉末としては、Cuが38.0~41.0質量%、Niが40.0~43.0質量%、Mnが14.0~16.0質量%、Siが1.6~2.0質量%、Bが1.3~1.7質量%及び1.0質量%以下のその他の成分が含まれてもよい。典型的には、合金粉末は接合の主成分となり、金属粉末は濡れ性を確保するために添加されている。Fe板金を用いる場合には、Fe粉末は当該Fe板金への濡れ性を確保できる。
【0022】
一例として、ロウ材成分として、合金粉末及び金属粉末を含んでいる。ロウ材成分全体(100質量%)に対して、80~90質量%の合金粉末及び10~20質量%の金属粉末のフラックスを含んでもよい。
【0023】
バインダーはチキソ材を含有してもよい。チキソ材として、アミド成分を用いてもよく、一例として、ステアリン酸アミド、トルアミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルチミン酸アミド等を用いてもよい。
【0024】
一例として、バインダー成分として、固形溶剤である2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン及びネオペンチルグリコールのいずれか1つ以上と、液体溶剤であるテルピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール、ブチルカルビトール、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、フェニルグリコール、へキシレングリコール、テトラエチレングリコールジメチルエーテル及びイソオクタデカノールのいずれか1つ以上が含まれてもよい。
【0025】
第一態様として、ロウ材ペーストは、80質量%以上95質量%以下のロウ材及び5質量%以上20質量%以下のバインダーを含有し、水酸基を二つ以上含み炭素数5~7で構成される固形溶剤と、液体溶剤を含む。なお、ロウ材ペーストは、これら以外の成分を含んでもよい。
【0026】
また第二態様として、ロウ材ペーストは、80質量%以上95質量%以下のロウ材及び5質量%以上20質量%以下のバインダーを含有し、バインダーは、水酸基を二つ以上含み炭素数8~10で構成される固形溶剤と、液体溶剤を含み、(1)バインダーがチキソ材を含有しない場合には、液体溶剤がバインダー全体に対して68質量%以上で含有され、
(2)バインダーがチキソ材を含有する場合には、チキソ材がバインダー全体に対して11質量%以下で含有される。なお、ロウ材ペーストは、これら以外の成分を含んでもよい。
【0027】
第一態様及び第二態様の各々において、ロウ材はホウ酸及びホウ砂を含有しない態様としてもよい。
【0028】
バインダー成分中、固形溶剤は10~90質量%で含まれ、液体溶剤は10~90質量%で含まれてもよい。一例として、バインダーにおいて、トリメチロールプロパン及びネオペンチルグリコールのいずれか1つ以上を含む固形溶剤が10~90質量%で含まれ、テルピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール、ブチルカルビトール、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、フェニルグリコール、へキシレングリコール、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、イソオクタデカノールのいずれか1つ以上を含む液体溶剤が10~90質量%で含まれてもよい。また別の例として、バインダーにおいて、テルピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール、ブチルカルビトール、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、フェニルグリコール、へキシレングリコール、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、イソオクタデカノールのいずれか1つ以上を含む液体溶剤が含まれ、固形溶剤として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールが10~90質量%で含まれ、(1)バインダーがチキソ材を含有しない場合には、バインダー全体に対して液体溶剤が68質量%以上で含有され、(2)バインダーがチキソ材を含有する場合には、チキソ材がバインダー全体に対して11質量%以下で含有されるようにしてもよい。
【0029】
なお、テルピネオールが単独の液体溶剤として用いられる場合であって、固形溶剤として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールが用いられ、かつバインダーがチキソ材を含有しないときには、上限値としては、バインダー全体に対してテルピネオールは64質量%以下で含まれることが好ましく、60質量%以下で含まれることがより好ましい。またこの場合において、下限値としては、バインダー全体に対してテルピネオールは35質量%以上で含まれることが好ましく、40質量%以上で含まれることがより好ましく、50質量%以上で含まれることがさらにより好ましい。このような条件においてテルピネオールの含有量が多くなると、ペースト分離が発生し、ペースト保管性能が悪化するためである。他方、テルピネオールの含有量が少なくなると、バインダー性状が悪化するためである。また、固形溶剤として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールを用いず、別の固形溶剤を用いる場合には、液体溶剤の汎用性が高まる。またこの場合には、液体溶剤の含有量の制限も緩やかなものとなり、液体溶剤の下限値を5質量%とし、より好ましくは10質量%としてもよく、液体溶剤の含有量の上限値を75質量%とし、より好ましくは70質量%としてもよい。
【0030】
固形溶剤として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールを用いる場合には、ペーストとしての最適な柔らかさと最適なタッキング(0.6以上のタッキング)を実現するために、バインダー成分中(100質量%中)、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールの下限値は25質量%となっていることが好ましく、30質量%となっていることがより好ましい。また、バインダー成分中、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールの上限値は65質量%となっていることが好ましく、50質量%となっていることがより好ましく、40質量%となっていることがさらにより好ましい。
【0031】
固形溶剤として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールを用いる場合であって液体溶剤としてテルピネオール、イソオクタデカノール及びイソボルニルシクロヘキサノールのいずれか1つ以上を用いるときには、ペーストとしての最適な柔らかさと最適なタッキング(0.6以上のタッキング)を実現するために、バインダー成分中(100質量%中)、テルピネオール、イソオクタデカノール及びイソボルニルシクロヘキサノールの合計値(テルピネオール、イソオクタデカノール及びイソボルニルシクロヘキサノールのいずれかが含まれず0となっている場合を含む)の下限値は、45質量%となっていることが好ましく、50質量%となっていることがより好ましい。また、バインダー成分中、テルピネオール、イソオクタデカノール及びイソボルニルシクロヘキサノールの合計値の上限値は、75質量%となっていることが好ましく、70質量%となっていることがより好ましい。
【0032】
金属部品同士の接合時におけるバインダーの残渣をより確実に抑える観点からはバインダー成分全体に対して10質量%以下で含まれることが好ましく、6質量%以下で含まれることがより好ましく、2質量%以下で含まれることがさらにより好ましい。
【実施例0033】
合金粉末としてCuNiMnSiB合金粉末を用い、粒度分布が22μm~44μmとなり、D50が33μmである粉末を用いた。なお、CuNiMnSiB合金粉末は、Cuが38.0~41.0質量%、Niが40.0~43.0質量%、Mnが14.0~16.0質量%、Siが1.6~2.0質量%、Bが1.3~1.7質量%及び1.0質量%以下となっていた。
金属粉末としてFe粉末を用い、粒度分布が75μm以下となり、D50が33μmである粉末を用いた。
ロウ材100質量%のうち、85質量%のCuNiMnSiB合金粉末と、15質量%のFe粉末とを含有するようにした。またCuNiMnSiB合金粉末及びFe粉末において、酸素濃度は1000ppm以下となっていた。このように金属粉末における酸素濃度が低いことから、ロウ材にホウ酸及びホウ砂を含むフラックスを含有させていない。
【0034】
175℃TG残量%は、株式会社日立ハイテクサイエンス製、熱重量示唆熱分析TG-DTAを用い、25℃~450℃まで昇温速度10℃/minという条件で測定した。TG残量%は接合強度に影響するものである。表に示す%とは175℃TG残量における値である。175℃TG残量%において1質量%未満の場合には「〇」とし、1質量%以上の場合には「×」とした。
ペースト化はJISによる粘度と目視によって確認した。粘度が50~160Pa・sであり、目視によって分離を確認できない場合には「〇」とし、粘度が50~160Pa・sの範囲外であるか、目視によって分離を確認できた場合には「×」とした。
強度は株式会社鷺宮製作所製のDFH210(静的ねじり試験機)を用いて測定した。強度が弱い場合には接合材としての機能を果たさないことになる。7900Nm以上の場合には「〇」とし、7900Nm未満の場合には「×」とした。なお、本実施例では175℃での値を用いているが、175℃よりも高い値で判断してもよく、220℃での残量が1質量%未満とするものを選定してもよいし、250℃での残量が1質量%未満とするものを選定してもよい。但し、効果としては、250℃TG残量%において1質量%未満となることが好ましく、220℃TG残量%において1質量%未満となることがより好ましく、175℃TG残量%において1質量%未満となることがさらにより好ましい。
【0035】
表1の実施例1~8の各々からなるバインダー成分を準備した。
次に、91質量%のロウ材成分を9質量%のバインダー成分に混合した後で、175℃TG残量%、ペースト化及び強度に関する測定を行った。なお、ロウ材成分(100質量%)は、前述したとおり、85質量%のCuNiMnSiB合金粉末及び15質量%のFe粉末を混合したものからなっており、後述する実施例9乃至17及び比較例1乃至6でも同様である。
【0036】
【0037】
表1で示したとおり、実施例1~8のいずれにおいても、TG、ペースト化及び強度の各々において優れた結果となった。なお、175℃TG残量%で「〇」となる場合には、当然に250℃TG残量%も1質量%以下となる。このことは以下でも同様である。
【0038】
表2の実施例9~17の各々からなるバインダー成分を準備した。
表2で示したとおり、実施例9~17のいずれにおいても、TG、ペースト化及び強度の各々において優れた結果となった。
【表2】
【0039】
表3の比較例1~6の各々からなるバインダー成分を準備した。
TG、ペースト化及び強度の各々の評価は実施例と同様にして行った。固形溶剤を用いていない比較例1では、TG及び強度の各々において好ましい結果を得ることができなかった。
固形溶剤として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールを用いており、チキソ材を含有しておらず、液体溶剤がバインダー全体に対して65質量%以下でしか含有されていない比較例2乃至4では強度において好ましい結果を得ることができなかった。また、液体溶剤としてα-テルピネオールを用いた比較例2及び3ではペースト化においても好ましい結果を得ることができなかった。また液体溶剤としてイソオクタデカノールを用いた比較例4ではTGにおいても好ましい結果を得ることができなかった。
固形溶剤として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールを用いており、チキソ材の含有量が15質量%以上となっている比較例5及び6ではTG及び強度の各々において好ましい結果を得ることができなかった。
【表3】
【0040】
また、30質量%の2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールに対する析出性を確認したところ、α-テルピネオールでは2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールの析出性が極めて優れていることを確認でき、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールを用いる場合にはα-テルピネオールを採用することが有益であることも確認できた。