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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166784
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/00 20060101AFI20231115BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231115BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231115BHJP
   C08C 19/00 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C08L15/00
C08K3/04
C08K3/36
C08C19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077564
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智行
(72)【発明者】
【氏名】岡松 隆裕
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002AC111
4J002DA036
4J002DJ016
4J002FD010
4J002FD016
4J002GN01
4J100HC42
4J100HG31
4J100HG32
4J100JA29
(57)【要約】
【課題】充填剤分散性に優れるゴム組成物を提供する。
【解決手段】変性ジエン系ゴムを10質量%以上含むゴム成分と、シリカ及びカーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1種の充填剤と、を含有するゴム組成物であって、上記変性ジエン系ゴムが、窒素含有化合物とB-H結合を有するホウ素化合物との錯体であって、基底関数として6-31G(d)を用いたMP2法により計算されたHOMOエネルギー準位が-10.8~-9.4eVである錯体で変性されたジエン系ゴムであって、上記ジエン系ゴムのジエンに由来する繰り返し単位に対する上記錯体の割合が0.01~1.0モル%である、ゴム組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ジエン系ゴムを10質量%以上含むゴム成分と、シリカ及びカーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1種の充填剤と、を含有するゴム組成物であって、
前記変性ジエン系ゴムが、窒素含有化合物とB-H結合を有するホウ素化合物との錯体であって、基底関数として6-31G(d)を用いたMP2法により計算されたHOMOエネルギー準位が-10.8~-9.4eVである錯体で変性されたジエン系ゴムであって、前記ジエン系ゴムのジエンに由来する繰り返し単位に対する前記錯体の割合が0.01~1.0モル%である、ゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴムが、天然ゴム又はイソプレンゴムである、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記窒素含有化合物が、窒素含有脂肪族化合物を含む、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記充填剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、10~150質量部である、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両走行時の低燃費性の面から、タイヤの発熱性(ヒステリシスロス)を低減することが求められている。これに対し、タイヤのトレッド部を構成するゴム成分に、シリカを配合して、タイヤの発熱性を低減する方法が知られている。また、タイヤのトレッド部を構成するゴム成分に、カーボンブラックを配合して、タイヤの強靭性や耐摩耗性を向上する方法も知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-28902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、シリカやカーボンブラックの充填剤(以下、まとめて「充填剤」とも言う)はゴム成分との親和性が低く、また、充填剤同士の凝集性が高いため、ゴム成分に単に充填剤を配合しても充填剤が分散せず、発熱性を低減する効果が十分に得られない、強靭性や耐摩耗性を向上する効果が十分に得られないという問題がある。本発明者らが特許文献1に記載のゴム組成物について検討したところ、充填剤の分散性(充填剤分散性)はさらなる改善が望ましいことが明らかになった。
【0005】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、充填剤分散性に優れるゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、窒素含有化合物とB-H結合を有するホウ素化合物との錯体であって、HOMOエネルギー準位が特定の範囲の錯体によって特定の割合で変性されたジエン系ゴムを用いることで、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) 変性ジエン系ゴムを10質量%以上含むゴム成分と、シリカ及びカーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1種の充填剤と、を含有するゴム組成物であって、
上記変性ジエン系ゴムが、窒素含有化合物とB-H結合を有するホウ素化合物との錯体であって、基底関数として6-31G(d)を用いたMP2法により計算されたHOMOエネルギー準位が-10.8~-9.4eVである錯体で変性されたジエン系ゴムであって、上記ジエン系ゴムのジエンに由来する繰り返し単位に対する上記錯体の割合が0.01~1.0モル%である、ゴム組成物。
(2) 上記ジエン系ゴムが、天然ゴム又はイソプレンゴムである、上記(1)に記載のゴム組成物。
(3) 上記窒素含有化合物が、窒素含有脂肪族化合物を含む、上記(1)又は(2)に記載のゴム組成物。
(4) 上記充填剤の含有量が、上記ゴム成分100質量部に対して、10~150質量部である、上記(1)~(3)のいずれかに記載のゴム組成物。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、充填剤分散性に優れるゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明のゴム組成物について説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、各成分は、1種を単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について含有量とは、特段の断りが無い限り、合計の含有量を指す。
また、充填剤分散性に優れ、また、加工性、低発熱性、耐摩耗性、強靭性、機械物性(例えば、破断強度、破断伸び)に優れ、タイヤにしたときにWET性能、低燃費性能に優れることを「本発明の効果等が優れる」とも言う。
【0010】
本発明のゴム組成物は、
変性ジエン系ゴムを10質量%以上含むゴム成分と、シリカ及びカーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1種の充填剤と、を含有するゴム組成物であって、
上記変性ジエン系ゴムが、窒素含有化合物とB-H結合を有するホウ素化合物との錯体であって、基底関数として6-31G(d)を用いたMP2法により計算されたHOMOエネルギー準位が-10.8~-9.4eVである錯体で変性されたジエン系ゴムであって、上記ジエン系ゴムのジエンに由来する繰り返し単位に対する上記錯体の割合が0.01~1.0モル%である、ゴム組成物(以下、「本発明の組成物」とも言う)である。
【0011】
上述のとおり、本発明の組成物は、「窒素含有化合物とB-H結合を有するホウ素化合物との錯体であって、基底関数として6-31G(d)を用いたMP2法により計算されたHOMOエネルギー準位が-10.8~-9.4eVである錯体」(以下、「特定錯体」とも言う)で変性されたジエン系ゴムであって、上記ジエン系ゴムのジエンに由来する繰り返し単位に対する上記錯体の割合が0.01~1.0モル%である変性ジエン系ゴム(以下、「特定変性ジエン系ゴム」とも言う)を含有する。本発明の組成物においては、上記特定変性ジエン系ゴムの窒素含有化合物の部分が充填剤と強く相互作用することによって、充填剤分散性が著しく向上するものと考えられる。
【0012】
以下、本発明の組成物に含有される各成分について説明する。
【0013】
[1]ゴム成分
本発明の組成物に含有されるゴム成分は、特定変性ジエン系ゴムを10質量%以上含む。上記ゴム成分は、特定変性ジエン系ゴム以外のゴム成分を含んでいてもよい。
【0014】
[特定変性ジエン系ゴム]
特定変性ジエン系ゴムは、「窒素含有化合物とB-H結合を有するホウ素化合物との錯体であって、基底関数として6-31G(d)を用いたMP2法により計算されたHOMOエネルギー準位が-10.8~-9.4eVである錯体」(特定錯体)で変性されたジエン系ゴムであって、上記ジエン系ゴムのジエンに由来する繰り返し単位に対する上記錯体の割合が0.01~1.0モル%である変性ジエン系ゴムである。
【0015】
特定変性ジエン系ゴムは、ジエン系ゴムの二重結合に特定錯体のB-H結合が付加反応によって結合した構造を有する。
【0016】
〔ジエン系ゴム〕
変性前のジエン系ゴムとしては特に制限されず、その具体例としては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br-IIR、Cl-IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。上記芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレン共重合体ゴムなどが挙げられる。
上記ジエン系ゴムは、本発明の効果等がより優れる理由から、天然ゴム又はイソプレンゴムであることが好ましく、天然ゴムであることがより好ましい。
【0017】
〔特定錯体〕
特定錯体は、窒素含有化合物とB-H結合を有するホウ素化合物との錯体であって、基底関数として6-31G(d)を用いたMP2法により計算されたHOMOエネルギー準位が-10.8~-9.4eVである錯体である。
【0018】
<窒素含有化合物>
特定錯体を構成する窒素含有化合物は、窒素原子を有する化合物であれば特に制限されず、その具体例としては、窒素原子を有する脂肪族化合物(窒素含有脂肪族化合物)、窒素原子を有する芳香族化合物(窒素含有芳香族化合物)等が挙げられる。
【0019】
(窒素含有脂肪族化合物)
上記窒素含有脂肪族化合物の脂肪族化合物は、脂肪族炭化水素であれば特に制限されない。
上記脂肪族炭化水素は、飽和脂肪族炭化水素であっても、不飽和脂肪族炭化水素であっても構わないが、本発明の効果等がより優れる理由から、飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。
上記脂肪族炭化水素は、直鎖状であっても、分岐状であっても、環状であっても構わない。
【0020】
上記窒素含有脂肪族化合物は、本発明の効果等がより優れる理由から、NRで表らされる化合物であることが好ましい。ここで、Rは、水素原子、又は、アルキル基(直鎖状、分岐状、環状)を表し、3つのRのうち少なくとも1つはアルキル基である。
上記アルキル基の炭素数は、本発明の効果等がより優れる理由から、2~10であることが好ましい。
充填剤(特にシリカ)との相互作用を高めるため、上記アルキル基は長すぎない方が好ましく、具体的には、上記アルキル基の炭素数は8以下であることが好ましい。
【0021】
(窒素含有芳香族化合物)
上記窒素含有芳香族化合物において、窒素原子は、芳香族化合物の芳香環に含まれているのでも、芳香族化合物の芳香環の置換基に含まれているのでもよいが、本発明の効果等がより優れる理由から、芳香族化合物の芳香環に含まれているのが好ましい。
【0022】
<ホウ素化合物>
特定錯体を構成するホウ素化合物は、少なくとも1つのB-H結合を有する化合物であれば特に制限されない。
上記ホウ素化合物の具体例としては、ボラン(BH)、アルキルボラン、ジアルキルボラン、アリールボラン、ジアリールボラン、アルキルアリールボラン等が挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、ボランが好ましい。
【0023】
<HOMOエネルギー準位>
特定錯体のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)エネルギー準位は、-10.8~-9.4eVである。
上記HOMOエネルギー準位は、本発明の効果等がより優れる理由から、-10.7~-10.0eVであることが好ましい。
【0024】
なお、上記HOMOエネルギー準位は、基底関数として6-31G(d)を用いたMP2(Second-order Moller-Plesset perturbation)法により計算された値である。
【0025】
<具体例>
特定錯体の具体例としては、トリエチルアミンボラン、ジシクロヘキシルアミンボラン等が挙げられる。
【0026】
〔割合A〕
特定変性ジエン系ゴムにおいて、ジエン系ゴム(変性前のジエン系ゴム)のジエンに由来する繰り返し単位に対する、変性に用いられた特定錯体の割合(以下、「割合A」とも言う)は、0.01~1.0モル%である。
上記割合Aは、本発明の効果等がより優れる理由から、0.02~0.5モル%であることが好ましく、0.04~0.3モル%であることがより好ましく、0.07~0.2モル%であることがさらに好ましい。
【0027】
〔製造方法〕
特定変性ジエン系ゴムは、ジエン系ゴム(変性前のジエン系ゴム)を上述した特定錯体で変性することで製造することができる。具体的には、例えば、ジエン系ゴムと特定錯体とを高温条件下(例えば、70℃以上)で混合する方法等が挙げられる。
特定錯体の混合量は、本発明の効果等がより優れる理由から、ジエン系ゴム(変性前のジエン系ゴム)のジエンに由来する繰り返し単位に対して、0.01~1.0モル%であることが好ましく、0.02~0.5モル%であることがより好ましく、0.04~0.3モル%であることがさらに好ましく、0.07~0.2モル%であることが特に好ましい。
特定錯体の混合量は、本発明の効果等がより優れる理由から、ジエン系ゴム(変性前のジエン系ゴム)100質量部に対して、0.01~5質量部であることが好ましく、0.05~3質量部であることがより好ましく、0.12~1質量部であることがさらに好ましい。
【0028】
〔含有量〕
上述のとおり、本発明の組成物において、ゴム成分中の特定変性ジエン系ゴムの含有量は10質量%以上である。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。ゴム成分中の特定変性ジエン系ゴムの含有量の上限は特に制限されず、100質量%である。
【0029】
本発明の組成物において、特定変性ジエン系ゴムの含有量は、本発明の効果等がより優れる理由から、変性に用いられた特定錯体として、後述する充填剤の含有量に対して、0.01~1質量%であることが好ましく、0.1~0.5質量%であることがより好ましい。
【0030】
[その他のゴム成分]
上述のとおり、ゴム成分は特定変性ジエン系ゴム以外のゴム成分(その他のゴム成分)を含んでいてもよい。そのようなゴム成分の具体例は、上述した特定変性ジエン系ゴムの変性前のジエン系ゴムと同じである。
【0031】
[分子量]
【0032】
〔重量平均分子量〕
ゴム成分(特定変性ジエン系ゴム、その他のゴム成分)の重量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、200,000~10,000,000であることが好ましく、400,000~2,000,000であることがより好ましい。
【0033】
〔数平均分子量〕
ゴム成分(特定変性ジエン系ゴム、その他のゴム成分)の重量平均分子量(Mn)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、100,000~5,000,000であることが好ましく、200,000~1,000,000であることがより好ましい。
【0034】
〔測定方法〕
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、以下の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により得られる標準ポリスチレン換算値とする。
・溶媒:テトラヒドロフラン
・検出器:RI検出器
【0035】
[2]充填剤
本発明の組成物は、シリカ及びカーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1種の充填剤を含有する。
【0036】
[シリカ]
本発明の組成物は、本発明の効果等がより優れる理由から、充填剤としてシリカを含有するのが好ましい。
上記シリカは特に制限されず、従来公知の任意のシリカを用いることができる。
上記シリカとしては、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、珪藻土などが挙げられる。上記シリカは、1種のシリカを単独で用いても、2種以上のシリカを併用してもよい。
【0037】
上記シリカのセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)吸着比表面積(以下、「CTAB吸着比表面積」を単に「CTAB」とも言う)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、100~300m/gであることが好ましく、150~200m/gであることがより好ましい。
ここで、CTAB吸着比表面積は、シリカ表面へのCTAB吸着量をJIS K6217-3:2001「第3部:比表面積の求め方-CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
【0038】
本発明の組成物において、シリカの含有量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したゴム成分(特に上述した特定変性ジエン系ゴム)100質量部に対して、10~150質量部であることが好ましく、20~100質量部であることがより好ましい。
【0039】
[カーボンブラック]
本発明の組成物は、本発明の効果等がより優れる理由から、充填剤としてカーボンブラックを含有するのが好ましい。
上記カーボンブラックは、1種のカーボンブラックを単独で用いても、2種以上のカーボンブラックを併用してもよい。
上記カーボンブラックは特に限定されず、例えば、SAF-HS、SAF、ISAF-HS、ISAF、ISAF-LS、IISAF-HS、HAF-HS、HAF、HAF-LS、FEF、GPF、SRF等の各種グレードのものを使用することができる。
【0040】
本発明の組成物において、カーボンブラックの含有量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したゴム成分(特に上述した特定変性ジエン系ゴム)100質量部に対して、10~150質量部であることが好ましく、20~100質量部であることがより好ましい。
【0041】
[含有量]
本発明の組成物において、上記充填剤の含有量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したゴム成分(特に上述した特定変性ジエン系ゴム)100質量部に対して、10~150質量部であることが好ましく、20~100質量部であることがより好ましい。
なお、本発明の組成物がシリカ及びカーボンブラックの両方を含有する場合、充填剤の含有量は合計の含有量を意味する。
【0042】
[3]シランカップリング剤
本発明の組成物は、本発明の効果等がより優れる理由から、シランカップリング剤を含有するのが好ましい。特に、充填剤としてシリカを含有する場合、本発明の効果等がより優れる理由から、本発明の組成物はシランカップリング剤を含有するのが好ましい。
【0043】
シランカップリング剤は、加水分解性基および有機官能基を有するシラン化合物であれば特に制限されない。
上記加水分解性基は特に制限されないが、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、アルコキシ基であることが好ましい。加水分解性基がアルコキシ基である場合、アルコキシ基の炭素数は、本発明の効果等がより優れる理由から、1~16であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
【0044】
上記有機官能基は特に制限されないが、有機化合物と化学結合を形成し得る基であることが好ましく、例えば、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基、スルフィド基、メルカプト基、ブロックメルカプト基(保護メルカプト基)(例えば、オクタノイルチオ基)などが挙げられ、なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、スルフィド基(特に、ジスルフィド基、テトラスルフィド基)、メルカプト基、ブロックメルカプト基が好ましい。
シランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
上記シランカップリング剤は、本発明の効果等がより優れる理由から、硫黄含有シランカップリング剤であることが好ましい。
【0046】
上記シランカップリング剤の具体例としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル-メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル-メタクリレート-モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
[含有量]
本発明の組成物において、シランカップリング剤の含有量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したゴム成分100質量部に対して、1~20質量部であることが好ましく、2~10質量部であることがより好ましい。
【0048】
また、本発明の組成物において、シランカップリング剤の含有量は、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したシリカの含有量に対して1~20質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。
【0049】
[4]その他の成分
本発明の組成物は、必要に応じて、上述した成分以外の成分(その他成分)を含有することができる。
そのような成分としては、例えば、カーボンブラック及びシリカ以外の充填剤、テルペン樹脂(好ましくは、芳香族変性テルペン樹脂)、熱膨張性マイクロカプセル、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加工助剤、プロセスオイル、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤、加硫活性剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤などが挙げられる。
【0050】
[5]ゴム組成物の調製方法
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。本発明の組成物が硫黄又は加硫促進剤を含有する場合は、硫黄及び加硫促進剤以外の成分を先に高温(好ましくは100~155℃)で混合し、冷却してから、硫黄又は加硫促進剤を混合するのが好ましい。
また、本発明の組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0051】
[6]用途
本発明の組成物はゴム材料として好適に用いられる。例えば、タイヤ(特に、空気入りタイヤ)、コンベアベルト、ホース、防振材、ゴムロール、鉄道車両の外幌等に好適に用いられる。なかでも、タイヤ(特にトレッド)に好適に用いられる。
【実施例0052】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
〔変性ジエン系ゴムの合成〕
以下のとおり変性ジエン系ゴムを合成した。
【0054】
<特定変性ジエン系ゴム1>
天然ゴム100質量部とトリエチルアミンボラン(下記構造)0.1質量部とを90℃に設定したブラベンダー社製ミキサーで5分間混合した。その結果、トリエチルアミンボランで変性された天然ゴムが得られた。得られたゴムを特定変性ジエン系ゴム1とも言う。特定変性ジエン系ゴム1について割合Aは0.06モル%である。
【0055】
【化1】
【0056】
ここで、上記トリエチルアミンボランは、窒素含有化合物であるトリエチルアミンとB-H結合を有するホウ素化合物であるボラン(BH)との錯体であって、HOMOエネルギー準位が-10.7eVである錯体であるため、上述した特定錯体に該当する。
そのため、トリエチルアミンボランで変性された天然ゴムであって、割合Aが0.06モル%である、特定変性ジエン系ゴム1は、上述した特定変性ジエン系ゴムに該当する。
【0057】
<特定変性ジエン系ゴム2>
トリエチルアミンボラン0.1質量部をジシクロヘキシルアミンボラン(下記構造)0.1質量部に変更した点以外は上述した特定変性ジエン系ゴム1と同様の手順を行った。その結果、ジシクロヘキシルアミンボランで変性された天然ゴムが得られた。得られたゴムを特定変性ジエン系ゴム2とも言う。特定変性ジエン系ゴム2について割合Aは0.03モル%である。
【0058】
【化2】
【0059】
ここで、上記ジシクロヘキシルアミンボランは、窒素含有化合物であるジシクロヘキシルアミンとB-H結合を有するホウ素化合物であるボラン(BH)との錯体であって、HOMOエネルギー準位が-10.4eVである錯体であるため、上述した特定錯体に該当する。
そのため、ジシクロヘキシルアミンボランで変性された天然ゴムであって、割合Aが0.03モル%である、特定変性ジエン系ゴム2は、上述した特定変性ジエン系ゴムに該当する。
【0060】
<特定変性ジエン系ゴム3>
トリエチルアミンボランの量を0.1質量部から0.15質量部に変更した点以外は上述した特定変性ジエン系ゴム1と同様の手順を行った。その結果、トリエチルアミンボランで変性された天然ゴムが得られた。得られたゴムを特定変性ジエン系ゴム3とも言う。特定変性ジエン系ゴム3について割合Aは0.09モル%である。
【0061】
ここで、上記トリエチルアミンボランは上述のとおり上述した特定錯体に該当する。
そのため、トリエチルアミンボランで変性された天然ゴムであって、割合Aが0.09モル%である、特定変性ジエン系ゴム3は、上述した特定変性ジエン系ゴムに該当する。
【0062】
<比較変性ジエン系ゴム1>
トリエチルアミンボラン0.1質量部をジメチルアミンボラン(下記構造)0.1質量部に変更した点以外は上述した特定変性ジエン系ゴム1と同様の手順を行った。しかしながら、天然ゴムはジメチルアミンボランによって変性されず、天然ゴムとトリエチルアミンボランとの混合物となった。得られた混合物を比較変性ジエン系ゴム1とも言う。
【0063】
【化3】
【0064】
ここで、上記ジメチルアミンボランは、窒素含有化合物であるジメチルアミンとB-H結合を有するホウ素化合物であるボラン(BH)との錯体であるが、HOMOエネルギー準位が-11.0eVである錯体であるため、上述した特定錯体に該当しない。
【0065】
<比較変性ジエン系ゴム2>
トリエチルアミンボラン0.1質量部をジエチルアニリンボラン(下記構造)0.1質量部に変更した点以外は上述した特定変性ジエン系ゴム1と同様の手順を行った。しかしながら、天然ゴムはジエチルアニリンボランによって変性されず、天然ゴムとジエチルアニリンボランとの混合物となった。得られた混合物を比較変性ジエン系ゴム2とも言う。
【0066】
【化4】
【0067】
ここで、上記ジエチルアニリンボランは、窒素含有化合物であるジエチルアニリンとB-H結合を有するホウ素化合物であるボラン(BH)との錯体であるが、HOMOエネルギー準位が-9.1eVである錯体であるため、上述した特定錯体に該当しない。
【0068】
〔HOMOエネルギー準位〕
なお、上記HOMOエネルギー準位は、Gaussian16,version1.1を用いて、基底関数として6-31G(d)を用いたMP2法により計算された値である。基本的な化合物の構造最適化は、以下の通りに実施した。
(1)構造式から想定される各原子を3次元座標に配置する。
(2)Semi-Emprical Method(半経験的手法)PM6法もしくは基底関数STO-3Gを用いたHF法にて構造最適化(粗く最適化し)
(3)上記(2)の結果を初期構造として、上記の通りMP2法で算出
【0069】
〔ゴム組成物の調製〕
下記表1の各成分を同表に示す組成(質量部)で混合した。
具体的には、まず、硫黄及び加硫促進剤以外の成分を1.8Lの密閉型混合機で130℃の条件下で5分間混合し、マスターバッチを放出した。その後、上記マスターバッチに硫黄及び加硫促進剤を加えてオープンロールを用い90℃の条件下で2分間混合して、各ゴム組成物を調製した。
【0070】
〔評価〕
得られた各ゴム組成物(未加硫)について以下の評価を行った。
【0071】
<バウンドラバー量>
得られた各ゴム組成物(未加硫)0.3gを裁断し、トルエン溶剤に48時間浸漬し、乾燥して、浸漬前後の質量を比較して、下記式からバウンドラバー量を算出した。
結果を表1に示す。結果は、基準例を100とする指数で表した。バウンドラバー量が多い程、充填剤と相互作用しているゴム成分が多いことを意味する。
バウンドラバー量=[(トルエン浸漬、乾燥後のサンプル質量)-(充填剤の質量)]/(ゴム成分質量)
【0072】
<ペイン効果>
得られた各ゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、160℃で15分間プレス加硫して、加硫ゴムシートを作製した。
得られた加硫ゴムシートについて、歪せん断応力測定機(RPA2000、α-テクノロジー社製)により、歪0.28%の歪せん断弾性率G′と歪30.0%の歪せん断弾性率G′とを測定し、その差G′0.28(MPa)-G′30.0(MPa)をペイン効果として算出した。
結果を表1に示す。結果は、基準例を100とする指数で表した。指数が小さいほど充填剤分散性に優れることを意味する。実用上、90以下であることが好ましい。
【0073】
<破断伸び>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6251に準拠して、破断伸びを測定した。
結果を表1に示す。結果は、基準例を100とする指数で表した。
【0074】
【表1】
【0075】
表1中の各成分の詳細は以下のとおりである。
・NR:天然ゴム
・特定変性ジエン系ゴム1~3及び比較変性ジエン系ゴム1~2:上述した特定変性ジエン系ゴム1~3及び比較変性ジエン系ゴム1~2
・シリカ:Zeosil 1165MP(Rhodia社製)CTAB吸着比表面積152m/g
・シランカップリング剤:シランカップリング剤
・酸化亜鉛:亜鉛華3種(正同化学工業社製)
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸YR(日本油脂社製)
・老化防止剤6PPD:N-フェニル-N′-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(6PPD)
・硫黄:油処理硫黄(軽井沢精錬所社製)
・加硫促進剤CZ:N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(ノクセラーCZ-G、大内新興化学工業社製)
・加硫促進剤DPG:1,3-ジフェニルグアニジン(ノクセラーDPG、大内新興化学工業社製)
【0076】
表1から分かるように、特定変性ジエン系ゴムを含有する実施例1~3は、優れた充填剤分散性を示した。なかでも、割合Aが0.05モル%以上である実施例2~3は、より優れた充填剤分散性を示した。そのなかでも、割合Aが0.07モル%以上である実施例3は、さらに優れた充填剤分散性を示した。
【0077】
一方、特定変性ジエン系ゴムを含有しない基準例及び比較例1~2は、充填剤分散性が不十分であった。