(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166806
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】エピスルフィド構造の定量方法
(51)【国際特許分類】
G01N 24/08 20060101AFI20231115BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20231115BHJP
G01N 33/44 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
G01N24/08 510P
G01N24/00 530K
G01N33/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077598
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】523088718
【氏名又は名称】石井 佳誉
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北浦 健大
(72)【発明者】
【氏名】大内 宗城
(72)【発明者】
【氏名】石井 佳誉
(57)【要約】
【課題】加硫ゴム成分中のエピスルフィド構造の生成量を定量する方法を提供すること。
【解決手段】加硫後のゴム組成物においてイソプレン系ゴムを含むゴム成分中のエピスルフィド構造の生成量を定量する方法であって、前記ゴム成分を含むゴム組成物の固体
13C-NMRを測定し、得られた固体
13C-NMRスペクトルにおける前記ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、前記エピスルフィド構造を構成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積の比から、前記ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対する前記エピスルフィド構造のモル比率を算出する工程を含む、定量方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫後のゴム組成物においてイソプレン系ゴムを含むゴム成分中のエピスルフィド構造の生成量を定量する方法であって、
前記ゴム成分を含むゴム組成物の固体13C-NMRを測定し、得られた固体13C-NMRスペクトルにおける前記ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、前記エピスルフィド構造を構成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積の比から、前記ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対する前記エピスルフィド構造のモル比率を算出する工程を含む、定量方法。
【請求項2】
前記エピスルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した三級炭素原子に由来する炭素ピークが50.8~51.7ppmで観測される、請求項1記載の定量方法。
【請求項3】
前記ゴム成分が天然ゴムを含む、請求項1または2記載の定量方法。
【請求項4】
前記ゴム組成物中の前記ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量が50質量部以下である、請求項1または2記載の定量方法。
【請求項5】
固体13C-NMRの測定モードがDD/MASである、請求項1または2記載の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴム成分中のエピスルフィド構造の生成量を定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄等の加硫剤を含有する未加硫ゴム組成物を加熱加圧(加硫)することにより、ゴム分子同士が硫黄原子を介して架橋されるが、ブタジエンゴムにおいては、それとともに、ゴム分子を構成する1,4-ブタジエン結合が硫黄原子を取り込んで閉環し、環状スルフィド構造3を形成する副反応が起こることが報告されている(例えば、非特許文献1)。かかる環状スルフィド構造3は、より環員数の小さいエピスルフィドを経て生成する機構が非特許文献1で提案されている。
【化1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Macromolecules 1999, 32, 22, 7521-7529
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加硫後のイソプレン系ゴムを含むゴム成分中において、エピスルフィド構造を実際に検出した報告例はこれまでになく、その生成量を定量する方法も知られていない。
【0005】
ゴム分子同士の架橋に寄与しないエピスルフィド構造の生成は、加硫の効率性の面で好ましくない副反応といえる。また、エピスルフィドは反応性の高い分子構造であるため、
加硫後のゴム成分中にエピスルフィド構造が残存している場合、ゴム製品の経時的な劣化が懸念される。
【0006】
本発明は、加硫ゴム成分中のエピスルフィド構造の生成量を定量する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、加硫後のゴム組成物においてイソプレン系ゴムを含むゴム成分中のエピスルフィド構造の生成量を定量する方法であって、前記ゴム成分を含むゴム組成物の固体13C-NMRを測定し、得られた固体13C-NMRスペクトルにおける前記ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、前記エピスルフィド構造を構成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積の比から、前記ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対する前記エピスルフィド構造のモル比率を算出する工程を含む、定量方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、イソプレン系ゴムを含むゴム成分中のエピスルフィド構造の生成量を定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】固体
13C-NMRにより実施例1の加硫ゴム組成物を測定して得られたNMRスペクトルを示す図である。
【
図2】固体
13C-NMRにより実施例1の加硫ゴム組成物を測定して得られたNMRスペクトルを示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る定量方法は、加硫後のゴム組成物においてイソプレン系ゴムを含むゴム成分中のエピスルフィド構造の生成量を定量する方法であって、前記ゴム成分を含むゴム組成物の固体13C-NMRを測定し、得られた固体13C-NMRスペクトルにおける前記ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、前記エピスルフィド構造を構成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積の比から、前記ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対する前記エピスルフィド構造のモル比率を算出する工程を含む定量方法である。
【0011】
本発明の定量方法について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本発明を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。
【0012】
<加硫ゴム組成物>
本発明において使用できるゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)等のイソプレン系ゴムが挙げられる。また、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムや、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等の非ジエン系ゴムを含有していてもよい。これらのゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ゴム成分中のイソプレン系ゴム(好ましくはNR)の含有量は、特に制限されないが、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%が特に好ましく、100質量%でもよい。
【0013】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0014】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0015】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0016】
加硫促進剤としては、特に限定されないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系の各加硫促進剤が挙げられ、スルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、およびグアニジン系加硫促進剤が好ましい。これらの加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8.0質量部以下が好ましく、7.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下がさらに好ましく、5.0質量部以下が特に好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0018】
本発明に係るゴム組成物には、前記成分以外にも、従来ゴム工業で一般に使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等の補強用充填剤、シランカップリング剤、樹脂成分、液状ポリマー、オイル、ワックス、加工助剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を適宜含有することができる。
【0019】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、ゴム工業において一般的なものを適宜利用することができ、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等が挙げられる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は特に限定されず、配合の目的に応じて、例えば、1~150質量部、5~120質量部、10~100質量部とすることができる。カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は、固体13C-NMRのシグナルが広幅化しエピスルフィド構造の定量化が困難になることを防止する観点から、50質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましい。
【0021】
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、ゴム工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は特に限定されず、配合の目的に応じて、例えば、1~150質量部、5~120質量部、10~100質量部とすることができる。
【0023】
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができる。そのようなシランカップリング剤としては、例えば、スルフィド系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤、チオエステル系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、グリシドキシ系シランカップリング剤等が挙げられる。
【0024】
シランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0025】
本発明の固体13C-NMR測定に付する加硫ゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りし、その後加硫することにより製造できる。
【0026】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。
【0027】
混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。
【0028】
前記の混練り工程により得られた未加硫ゴム組成物を、加硫することにより、加硫ゴム組成物を得ることができる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、後述するゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対するエピスルフィド構造のモル比率(mol%)やゴム成分の重量に対するエピスルフィド構造のモル数(mol/g)が所定の範囲となるように、適宜設定することができる。例えば、加硫温度は120~200℃、120~180℃、120~160℃、130~160℃の範囲とすることができる。加硫時間は0.5~30分、0.5~15分、0.5~10分、0.5~7分、0.5~5分、1~5分の範囲とすることができる。
【0029】
<定量工程>
本発明において使用可能なNMRは、固体高分解能13C-NMRであれば特に限定されないが、より優れた分解能が得られ、より正確に定量できるという理由から、NMRの13C共鳴周波数は、75MHz以上が好ましく、100MHz以上がより好ましく、126MHz以上がさらに好ましい。
【0030】
固体13C-NMRの測定条件は、例えば、以下のように設定できる。
(測定条件)
装置 Bruker社製Avance400
使用プローブ Bruker社製7mm MAS BB WB WVTプローブ
13C共鳴周波数 100.6MHz
MAS回転速度 5kHz(±1Hz)
測定モード DD/MAS
待ち時間 6秒
積算回数 40960回
観測温度 58℃
試料量 ジルコニアローターの1/4容量
外部基準物質 アダマンタン(化学シフト値は29.5ppm)
【0031】
MAS回転速度は、化学シフト異方性の除去と双極子相互作用の除去という理由から、13C共鳴周波数100.6MHzの場合、5kHz以上が好ましい。待ち時間は、定量性を保証するという理由から、6~30秒が好ましい。また、積算回数は、エピスルフィド構造を構成する炭素原子に由来するピークをより正確に定量できるようにするため、5000回以上が好ましく、10000回以上がより好ましく、20000回以上がさらに好ましく、40000回以上が特に好ましい。
【0032】
ゴム分子を構成する1,4-イソプレン結合が硫黄原子を取り込んで閉環したエピスルフィド構造は、下記式(2)のような化学構造を有していると推定される。なお、本発明に係るエピスルフィド構造は、下記式(2)において、xが1の場合のみならず、xが2以上である環状ポリスルフィドも包含するものとする。
【化2】
(式中、xは1以上の整数を表す)
【0033】
本発明における「1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子」は、上記式(2)のa1およびa2で示される炭素原子を指す。このうち「ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうちメチル基と結合した四級炭素原子」は、上記式(2)のa1で示される炭素原子を指し、「ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうち三級炭素原子、は、上記式(2)のa2で示される炭素原子を指す。
【0034】
本発明における「エピスルフィド構造を構成する炭素原子」は、上記式(2)のb1およびb2で示される炭素原子を指す。このうち「エピスルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子およびメチル基と結合した四級炭素原子」は、上記式(2)のb1で示される炭素原子を指し、「エピスルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した三級炭素原子」は、上記式(2)のb2で示される炭素原子を指す。
【0035】
ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうち三級炭素原子(上記式(2)のa2で示される炭素原子)に由来する炭素ピークは、123.5~128.0ppmで観測される。
【0036】
ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうちメチル基と結合した四級炭素原子(上記式(2)のa1で示される炭素原子)に由来する炭素ピークは、133.0~137.5ppmで観測される。
【0037】
エピスルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した三級炭素原子(上記式(2)のb2で示される炭素原子)に由来する炭素ピークは、50.8~51.7ppmで観測される。
【0038】
エピスルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子およびメチル基と結合した四級炭素原子(上記式(2)のb1で示される炭素原子)に由来する炭素ピークは、50.0~50.8ppmで観測される。
【0039】
得られた固体13C-NMRスペクトルから、ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対するエピスルフィド構造のモル比率(mol%)を、例えば、下記式(3)により求めることができる。
(ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対するエピスルフィド構造のモル比率(mol%))=
{(エピスルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した三級炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積)+(エピスルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子およびメチル基と結合した四級炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積)}/{(ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうち三級炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積)+(ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうちメチル基と結合した四級炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積)}×100 ・・・(3)
【0040】
なお、1,4-イソプレン結合単位には、シス-1,4結合とトランス-1,4結合が存在するが(上記式(1)は、便宜上、シス-1,4結合で表示)、本発明ではその両方を含むものとする。したがって、ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積は、シス-1,4結合の当該炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、トランス-1,4結合の当該炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積を合算するものとする。エピスルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積は、シス-1,4結合より生じたエピスルフィド構造の当該炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、トランス-1,4結合より生じたエピスルフィド構造の当該炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積を合算するものとする。
【0041】
ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうち三級炭素原子(上記式(2)のa2で示される炭素原子)に由来する炭素ピークのピーク面積と、ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうちメチル基と結合した四級炭素原子(上記式(2)のa1で示される炭素原子)に由来する炭素ピークのピーク面積は、理論上同じである。また、エピスルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した三級炭素原子(上記式(2)のb2で示される炭素原子)に由来する炭素ピークのピーク面積と、エピスルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子およびメチル基と結合した四級炭素原子(上記式(2)のb1で示される炭素原子)に由来する炭素ピークのピーク面積も、理論上同じである。このことから、ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対するエピスルフィド構造のモル比率(mol%)を、例えば、下記式(4)により求めてもよい。
(ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対するエピスルフィド構造のモル比率(mol%))=
{(エピスルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した三級炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積)×2}/{(ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうちメチル基と結合した四級炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積)×2}×100 ・・・(4)
【0042】
なお、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等の1,4-ブタジエン骨格を有するゴム成分を加硫した場合、ゴム成分の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークは、123~134ppmで観測される。該炭素ピークは、上記式(2)のa1で示される炭素原子に由来する炭素ピークとは重ならない。このことから、1,4-イソプレン骨格を有するゴム成分と1,4-ブタジエン骨格を有するゴム成分とを併用した場合、ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位および全1,4-ブタジエン結合単位の総量に対するエピスルフィド構造のモル比率(mol%)を算出することも可能である。
【0043】
また、算出されたゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対するエピスルフィド構造のモル比率より、ゴム成分の重量に対するエピスルフィド構造のモル数(mol/g)を、下記式(5)により求めることができる。なお、1,4-イソプレン結合単位のモル質量は68.12g/molである。
(ゴム成分の重量に対するエピスルフィド構造のモル数(mol/g))=
{(ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対するエピスルフィド構造のモル比率(mol%))/100}
×{(ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位の重量比(質量%))/100}
×{1/(1,4-イソプレン結合単位のモル質量(g/mol)} ・・・(5)
【0044】
本発明では、上述の方法により、加硫ゴム組成物中のエピスルフィド構造の生成量を定量することができ、これにより、エピスルフィド構造の生成量を抑制できる、配合、練り、加硫条件の最適化に必要な情報を得ることができる。
【0045】
ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対するエピスルフィド構造のモル比率は、経時化学反応に伴う性能変化抑制の観点から、1.0mol%以下が好ましく、0.7mol%以下がより好ましく、0.5mol%以下がさらに好ましく、0.3mol%以下が特に好ましい。該モル比率は、ゴム成分、充填剤、加硫促進剤、酸化亜鉛等の促進助剤、加硫温度、加硫時間等により適宜調節することができる。
【0046】
ゴム成分の重量に対するエピスルフィド構造のモル数は、15×10-3mol/g以下が好ましく、10×10-3mol/g以下がより好ましく、7.5×10-3mol/g以下がさらに好ましい。
【実施例0047】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
以下、実施例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄(5%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS))
【0049】
<加硫ゴム組成物の調製>
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150~160℃になるまで1~10分間混練りし、混練物を得た。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を、160℃で8分間加硫して加硫ゴム組成物を得た。
【0050】
<エピスルフィド構造の定量>
得られた加硫ゴム組成物について、下記の条件で固体13C-NMRを測定し、固体13C-NMRスペクトルを得た。得られた固体13C-NMRスペクトルから、ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうちメチル基が結合した4級炭素に由来する炭素ピークのピーク面積と、エピスルフィド構造を構成する炭素原子に由来するピークのピーク面積との比に基づいて、上記式(5)により、ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対する前記エピスルフィド構造のモル比率を(mol%)算出した。
(ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対するエピスルフィド構造のモル比率(mol%))=
{(エピスルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した三級炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積)×2}/{(ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうちメチル基と結合した四級炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積)×2}×100 ・・・(4)
【0051】
(固体13C-NMR測定条件)
装置 Bruker社製Avance400
使用プローブ Bruker社製7mm MAS BB WB WVTプローブ
共鳴周波数 100.6MHz
MAS回転速度 5kHz(±1Hz)
測定モード DD/MAS
待ち時間 6秒
積算回数 40960回
観測温度 58℃
試料量 ジルコニアローターの1/4容量
外部基準物質 アダマンタン(化学シフト値は29.5ppm)
【0052】
【0053】
本発明では、上述の方法により、加硫ゴム組成物中のエピスルフィド構造の生成量を定量することができ、これにより、ゴム組成物の配合、練り、加硫条件等の最適化に必要な情報を得ることができる。また、加硫ゴム成分中のエピスルフィド構造の生成量を一定値以下にすることで、伸びやすさ、破壊耐性などの物性に優れたタイヤ等の加硫ゴム製品を製造することができる。
【0054】
<実施形態>
本発明の実施形態の例を以下に示す。
【0055】
〔1〕加硫後のゴム組成物においてイソプレン系ゴムを含むゴム成分中のエピスルフィド構造の生成量を定量する方法であって、前記ゴム成分を含むゴム組成物の固体13C-NMRを測定し、得られた固体13C-NMRスペクトルにおける前記ゴム成分の1,4-イソプレン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、前記エピスルフィド構造を構成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積の比から、前記ゴム成分中の全1,4-イソプレン結合単位に対する前記エピスルフィド構造のモル比率を算出する工程を含む、定量方法。
〔2〕前記エピスルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した三級炭素原子に由来する炭素ピークが50.8~51.7ppmで観測される、上記〔1〕記載の定量方法。
〔3〕前記ゴム成分が天然ゴムを含む、上記〔1〕または〔2〕記載の定量方法。
〔4〕前記ゴム組成物中の前記ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量が50質量部以下である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の定量方法。
〔5〕固体13C-NMRの測定モードがDD/MASである、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の定量方法。